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2.1 モル沸点上昇定数Kb の値が既知である溶媒A をwA [g]用いて、モル質量(分子
量)MBが未知の物質BをwB [g]溶解し、実際の沸点上昇△T[K]を測定した。求
める溶質のモル質量(分子量)MBは次のように計算できる。下記の設問に答え
よ。
(e-1-1) BbmKT =∆
A
BbB Tw
wKM
∆=
1000
(e-1-2)
溶媒ごとにKb の値が決定されている。一例を下表に示す。
溶媒 標準沸点 Tb[℃] Kb [Kmol-1kg]
水 100 0.521
アンモニア -33.35 0.34
二硫化炭素 46.3 2.37
アセトン 56.2 1.69
エタノール 78.3 1.07
ベンゼン 80.15 2.54
ジエチルエーテル 34.5 1.83
四塩化炭素 76.5 5.07
クロロホルム 61.12 3.8
1,4 ジオキサン 100.3 3.27
1) 水 1000gに尿素 1モル(約 60.1g)を溶解した溶液の大気圧下での沸点を求め
よ。
2) 水 1000gに尿素 6.01gを溶解した溶液の大気圧下での沸点を求めよ。ただし、
尿素のモル質量(分子量)は 60.1とする。
1
2
3) 水 1000gにポリエチレングリコール 6.00gを溶解した溶液の大気圧下での沸
点を求めよ。ただし、ポリエチレングリコールの重量平均分子量を 6000 とす
る。
4) 二硫化炭素 1000gに硫黄 1モル(約 32.07g)を溶解した溶液の大気圧下での沸
点を求めよ。
5) 二硫化炭素 1000gに硫黄 3.207gを溶解した溶液の大気圧下での沸点を求めよ。
ただし、硫黄のモル質量(原子量)は 32.07とする。
6) 水 200gに尿素 15gを溶解した水溶液の大気圧下での沸点上昇△T[K]は 0.65 K
であった。尿素の分子量を求めよ。
7) 二硫化炭素 500gに硫黄 15gを溶解した水溶液の大気圧下での沸点上昇△T[K]
は 2.22 K であった。硫黄の分子量を求めよ。
8) 尿素をモル分率で 0.01 含むの尿素水溶液の大気圧下での沸点を求めよ。ただ
し、水のモル質量(分子量)は 18とする。
ヒント;重量モル濃度(molality)mでなく、モル分率(mole fraction)xBで与
えられた場合、沸点上昇では、濃度を重量モル濃度に換算しなければならない。
[解]
溶媒と溶質のモル数をそれぞれnA、nBとして考えると、溶質のモル分率xBと重
量モル濃度(molarlity)mBとの関係は、次のように導かれる。まず、1000gの溶媒を
考え、溶媒Aのモル質量(分子量)MAで溶媒の質量 1000gを割ると溶媒のモル数nAが
求まる。
A
A Mn 1000
=
(e-1-3)
全モル数ntは、
3
nt =nA + mB (e-1-4)
となる。
この場合のモル分率は、下記の式で表せる。 溶質 mBモル
BA
B
t
BB mn
mnm
x+
==
(e-1-4) 溶媒 1000g
溶質のmolality mBとモル分率xBとの関係は、 溶媒のモル数nA
BA
BB
mM
mx+
=1000
(e-1-5) A
A Mn 1000
=
BA
BAB mM
mMx
+=
1000 (e-1-6)
全モル数nt =nA + mB
molality mBについて整理すると、
BBBA
mxmM
=+ )1000(
(e-1-7)
B
BA
B x
xMm−
=1
1000
(e-1-8)
A
B
AB
B
AB x
xMx
xM
m 10001
1000=
−=
(e-1-9)
9) 尿素を重量分率wBで 0.01 含むの尿素水溶液の大気圧下での沸点を求めよ。た
だし、水および尿素のモル質量(分子量)はそれぞれ 18、60.1とする。
ヒント;重量モル濃度(molality)mでなく、重量分率(weight fraction)wBで
与えられた場合、沸点上昇では、濃度を重量モル濃度に換算しなければならな
い。
[解] 溶媒と溶質のモル数をそれぞれnA、nBとして考えると、溶質の重量分率wBと
重量モル濃度(molarlity)mBとの関係は、次のように導かれる。まず、1000gの溶媒
を考える。この時、溶質Bのモル数がmBモルで、モル質量(分子量)MBをかけると
1000g溶媒に溶解した溶質の質量wB が求まる。よって、
(e-1-10)
1000=Aw
wB = mB・MB
(e-1-11)
この場合の重量分率は、下記の式で表せる。
BA
BB ww
ww
+=
(e-1-12)
溶質の質量
wB = mB・MB
BB
BBB Mm
Mmw
+=
1000 (e-1-13)
溶媒の質量 wA=1000g
溶質のmolality mBについて整理すると、
(e-1-14) BBBBB MmwMm 1)1000( =+
)1(
1000
BBB wM
m−
=
(e-1-15)
AB
B wMm 1000
=
(e-1-16)
10)1 mol/dm3の尿素水溶液の大気圧下での沸点を求めよ。ただし、この溶液の密
度ρ[g/cm3]は、0.98とする。尿素と水のそれぞれのモル質量(分子量)は 60.1、
4
18とする。
ヒント;重量モル濃度(molality)mでなく、容量モル濃度(molarity)CBで与
えられた場合、濃度を重量モル濃度に換算しなければならない。
[解] 溶媒と溶質のモル数をそれぞれnA、nBとして考えると、溶質のモル分率xBと
容量モル濃度(molarity)CBとの関係は、次のように導かれる。まず、溶液の密度ρ
[g/cm3]の単位が[g/cm3]であるので、体積Vが1dm3すなわち 1000 cm3の溶液を考えて、
その溶液の全質量wt[g]を考える。
ρρ 1000==Vwt (e-1-17)
5
この溶液には、CB [mole]の溶質が含まれていた
のだから、その溶質の質量wB[g]と溶媒の質量
wA[g]は、次のように与えられる。 溶質
BBB MCw = (e-1-18) 溶媒 BBB MCw =
BBBtA MCwww −=−= ρ1000 (e-1-19)
BB
BB MC
Cm−×
=ρ1000
1000 (e-1-20) 溶媒、溶質の混合した後の体積 V
全質量 wt=Vρ
また、溶質のモル分率xBと容量モル濃度 =wA + wB
(molarity)CBとの関係は、次のように導かれる。
BA
BB
B
BA
BB
CM
MCC
CnC
x+
−=
+=
ρ1000 (e-1-21)
)(1000 BAB
ABB MMC
MCx−+
=ρ
(e-1-22)
CB が十分小さければ、次のように近似できる。
ρ1000AB
BMCx = (e-1-23)
11)10%の尿素水溶液の大気圧下での沸点を求めよ。ただし、尿素と水のそれぞれ
のモル質量(分子量)は 60.1、18とする。
ヒント;%は、質量%であるので、w%溶液の場合、溶質w[g]に対して、溶
媒は 100―w [g]、溶質のモル分率xBとの関係を次のように考える。
溶媒と溶質のモル数nA、nBは、それぞれの質量を分子量で割れば計算できるの
で、
A
A Mwn −
=100
, B
B Mwn = (e-1-24)
BA
B
BA
BB
Mw
Mw
Mw
nnnx
+−
=+
= 100 (e-1-25)
また、溶質のmolality mBとモル分率xBとの関係は、
BA
BB
mM
mx+
=1000
(e-1-26)
BBBA
mxmM
=+ )1000(
(e-1-27)
B
BA
B x
xMm−
=1
1000
(e-1-28)
A
B
AB
B
AB x
xMx
xM
m 10001
1000=
−=
(e-1-29)
また、
6
BA
B
BA
B
BA
BB
mM
m
Mw
Mw
Mw
nnnx
+=
+−
=+
= 1000100 (e-1-30)
BA
BAB mM
mMx
+=
1000 (e-1-31)
12)1000ppmの尿素水溶液の大気圧下での沸点を求めよ。ただし、尿素と水のそれ
ぞれのモル質量(分子量)は 60.1、18とする。
ヒント;ppm(part per million)は%と同様に、溶液全体の質量に対する溶質の質
量を表しており、%が 100倍であるのに対して、ppmは 1000,000倍を表す。
7
2.2 熱力学第 1 法則などの物理化学的基礎式を用いて、モル沸点上昇定数Kbが下記の式(e-2-1)
で表されることを証明し、その値が溶媒に固有な定数であることを示せ。(ヒント;補助資
料第2部P.34~P.36が参考になります。)
1000
2Ab
bM
HRTK∆
=
(e-2-1)
さらに、モル沸点上昇定数Kb の値が既知である溶媒を用いて、モル質量(分子量)
MBが未知の物質をw[g]溶解し、実際の沸点上昇温度△T[K]を測定した。溶質のモル
質量(分子量)MBが次のように計算できることを示せ。
T
wKM bB ∆=
(e-2-2)
ヒント;重量モル濃度または質量モル濃度(molality)m、沸点上昇温度△T[K]、モル
沸点上昇定数Kbには、次の関係がある。
B
B Mwm =
(e-2-3)
(e-2-4) BbmKT =∆
[解] 熱力学第 1法則は、次式で与えられる。すなわち、系の熱量変化 dQは、内部エネルギー変化
dU、系の圧力 Pおよび体積変化 dVを用いて次式で与えられる。
dQ=dU+PdV (A-1-1) (e-2-5) 熱力学第二法則より、温度 Tにおける dQとエントロピー変化 dSは次式で与えられる。
dQ=TdS (A-1-2) (e-2-6) 式(A-1-1)、(A-1-2)より、
dQ=TdS= dU+PdV (A-1-3) (e-2-7) このとき、エンタルピーHは次式で定義される。
H=U+PV (A-1-4) (e-2-8) 式(A-1-4)を全微分すると、
dH=dU+PdV+VdP (A-1-5) (e-2-9)
8
式(A-1-5)に式(A-1-3)を代入すると、
dH=TdS+VdP (A-1-6) (e-2-10) ここでギブス(Gibbs)の自由エネルギーGは、H、T、Sを用いて次式で定義される。
G=H-TS (A-1-7) (e-2-11) 式(A-1-7)を全微分すると、
dG =dH-TdS-SdT (A-1-8) (e-2-12) 式(A-1-6)、(A-1-8)より、
dG = VdP - SdT (A-1-9) (e-2-13) 純物質(一成分系)の系について,気液両相が平衡状態で共存している状態を考える。ある圧力
pおよび温度Tで平衡(equilibrium)状態であるためには気相と液相の全成分の化学ポテンシャルがそれぞれ等しくなっていなければならない。純物質系では、化学ポテンシャルは 1molあたりのギブス(Gibbs)の自由エネルギーGmに等しいので、気相、液相、それぞれのギブスの自由エ
ネルギーGmV とGmL は等しく、GmV = GmLとなる。ここで、下付きのmは 1モル当たりの量を表す.次に圧力がdp,温度がdT変化して、再び気液両相が平衡になったとすれば、GmV + dGmV = GmL + dGmLとなり、次式となる。 dGmV = dGmL (e-2-14) また、式(1)を気液両相の 1molに対して適用すると、次の関係が得られる。 dGmV = VmV dp-SmV dT (e-2-15) dGmL = VmL dp-SmL dT (e-2-16 ) ここで、平衡の条件として、式(6.13)を適用すれば、上式より次式が導かれる。
Lm
Vm
Lm
Vm
VVSS
dTdp
−−
= (e-2-17)
ここで、気相と液相のエントロピーの差SmV - SmLは、蒸発に伴うモルエントロピー変化ΔSv,m
であり、モル蒸発潜熱ΔHv,mを用いてΔHv,m/Tと表せるので次式を得る。
9
TH
SSS m,VLm
Vmm,V
ΔΔ =−= (e-2-18)
式(6.16)および式(6.17)より次式を得る.
)( Lm
Vm
m,V
VVTH
dTdp
−=
Δ (e-2-19)
式(6.18)は、クラウジウスークラペイロン式と呼ばれている。圧力が高くなく,気相の体積が液相の体積より十分大きい(大気圧下では、気相の体積は液相の 1,000倍程度ある。)と見なせるとVmV≫VmLであり、理想気体とみなせるとすれば、理想気体の状態方程式(pVm=RT)により次式が得られる。
RTp
VVV V == Vm
Lmm
11−
(e-2-20)
式(6.19)を用いて式(6.18)を整理すると、次式が得られる。
2m,V
RTH
pdTdp Δ
= (e-2-21)
変数分離で整理すると、
dTRTH
dpp 2
m,V1 Δ= (e-2-22)
狭い温度範囲では、ΔHv,mが一定とみなされるとすれば、ΔHv,mを定数として式(e-2-22)を積分する。積分範囲を温度T1~T2, 圧力p1~p2の範囲で積分すると次式が導出される。
dTRTH
dpp
T
T
p
p 2m,V1
2
1
2
1 Δ∫∫ = (e-2-23)
[ ] dTTR
Hp
T
T
p
p
1
2
1
2
1ln m,V⎥⎦⎤
⎢⎣⎡−=
Δ (e-2-24)
)11(lnln21
m,V21 TTR
Hpp −−=−
Δ (e-2-25)
10
)11()ln(21
m,V
2
1
TTRH
pp
−−=Δ
(e-2-26)
これが温度と蒸気圧の一般的な関係である。 狭い温度範囲では、ΔHv,mが一定とみなされるとすれば、ΔHv,mを定数とし、積分定数をAと
して式(e-2-22)を積分することで、次式が導出される。
TBAp −=°ln (e-2-27)
ここで,Aは定数であり,B = ΔHv,m/Rである. 一般に、標準沸点(蒸気圧が 760mmHgとなる温度)Tbにおける蒸気圧を、ここでは、poと
して、任意の温度Tにおける蒸気圧をpとする。T1=Tb,, T2=T, p1=p1o、p2=pとなり、
)11(lnTTR
Hpp
bo −
∆−=
(e-2-28)
2)(bb
b
TT
RH
TTTT
RH ∆∆
−=−∆
−=
(e-2-29)
希薄溶液については温度上昇も十分小さいので、T1=Tb,, T=Tb, 沸点上昇温度であるT―
Tb=ΔTとおく。
2)(lnbb
bo T
TRH
TTTT
RH
pp ∆∆
−=−∆
−=
(e-2-30)
ob
pp
HRTT ln
2
∆−=∆
(e-2-31)
下付き文字 A、Bをそれぞれ溶媒、溶質とし、液相モル分率をx, 全圧を pとすると、2成分系気液平衡の基礎式は,次のようになる。
(e-2-32) °= iiii pxpy γ
oBBB
oAAA pxpxp γγ += (e-2-33)
理想溶液とみなし、ラウール則が成り立つとすると,
11
1== BA γγ (e-2-34)
(e-2-35) °= iii pxpy
(e-2-36) oBB
oAA pxpxp +=
xA = 1―xBであり、希薄溶液であるとすると、xB<< 1
(e-2-37)
oAA pxp =
(e-2-38)
oAB pxp )1( −=
は、溶媒である Aの蒸気圧であるから、上式の に相当する。 o
Ap op
また、2成分系希薄溶液の全圧もその温度の蒸気圧に近いと考えると 全圧も蒸気圧と等しいとみなせる。よって、
Bo xpp
−=1 (e-2-39)
ゆえに、沸点上昇を溶質のモル分率であらわすと、
o
b
pp
HRTT ln
2
∆−=∆
(e-2-40)
)1ln(
2
Bb x
HRTT −∆
−=∆
(e-2-41)
)1ln( Bx−について、テイラー級数で近似すると(補助資料第 2部 P.17参照)、
+++=−−32
)1ln(32BB
BBxxxx
・・・ (e-2-42)
1<<Bxので高次の項を無視すると、
(e-2-43)
BB xx −=− )1ln(
)1ln(
2
Bb x
HRTT −∆
−=∆
(e-2-44)
B
b xH
RTT∆
=∆2
(e-2-45)
1000g(1 kg)の溶媒に溶けた溶質のモル数すなわち、モラリティ(molality;mB)と溶質
のモル分率xの関係について考える。溶媒および溶質の分子量をそれぞれMA,MBとすると、溶
媒 1000gのモル数nAは、
12
AA M
n 1000=
(e-2-46)
1000gの溶媒Aに溶けている溶質Bのモル数がmBであるから、この溶液の全モル数ntは
B
ABAt m
Mmnn +=+=
1000
(e-2-47)
溶質 B のモル分率は、
t
BB n
mx =
(e-2-48)
BA
BB
mM
mx+
=1000
(e-2-49)
ABAA
AB
MmMM
Mm
+=
1000 (e-2-50)
1000<<AB Mmであるから、
B
AB mMx
1000=
(e-2-51)
この関係を沸点上昇の式に代入すると、
Bb x
HRTT∆
=∆2
(e-2-52)
BAb mM
HRTT
1000
2
∆=∆
(e-2-53)
沸点上昇(elevation of boiling point)△T は、溶媒 1000gに溶解した溶質のモル数
すなわち重量モル濃度または質量モル濃度(molality)m と次の関係で表現できる。
(e-2-54) BbmKT =∆
ここで、Kbは溶媒に固有な定数であり、モル沸点上昇定数という。上式と比較すると、
1000
2Ab
bM
HRTK∆
=
(e-2-55)
ここで、下付文字bは沸点(boiling point)を表し、溶質を表すことに用いた Bと異なることに注意する。
モル沸点上昇定数Kb の値が既知である溶媒 1000gを用いて、モル質量(分子量)MBが
未知の物質をwB [g]溶解し、実際の沸点上昇△T[K]を測定した。求める溶質のモル
13
質量(分子量)MBは次のように計算できる。モル質量とその質量との関係は
B
BB M
wm =
(e-2-56)
(e-2-57) BbmKT =∆
B
Bb M
wK=
(e-2-58)
よって、
T
wKM BbB ∆
=
(e-2-59)
モル沸点上昇定数Kb の値が既知である溶媒wA [g]を用いて、モル質量(分子量)
MBが未知の物質をwB [g]溶解し、実際の沸点上昇△T[K]を測定した。求める溶質の
モル質量(分子量)MBは次のように計算できる。モル質量とその質量との関係は
AB
BB wM
wm
1000=
(e-2-60)
(e-2-61) BbmKT =∆
AB
Bb wM
wK
1000=
(e-2-62)
よって、
A
BbB Tw
wKM
∆=
1000
(e-2-63)
14
15
ラウジウス-クラペイロン(Clausius‐Clapeyron)式である.
TBAp −=°ln (3.1)
ここで,A,Bは定数であり,狭い温度範囲において成り立つ.図3-4の蒸気圧の対数値を1
/Tに対して表すと,狭い温度範囲で図 3-6のように直線関係がみられる.工学的には,式
(3.1)よりも実測値を精度よく表現する次のアントワン(Antoine)式が広く用いられている.
)(ln
CTBAp+
−=° (3.2)
ここで,A,B,Cはアントワン定数と呼ばれる物質固有の値である.主な物質の値を付表 5
に示す.ただし,使用する温度範囲,温度と圧力の単位によりその値が異なるので,使用
する場合には注意を要する.
例題 6.1 図 6-2のような耐圧 4.0 atm(4.00×1.01325×102kPa)のガラス容器がある。この中にエタノールを封入した。今、この中の液体を何度まで加熱すると、ガラス容器が破損する可能
性があるか。ただし、この温度範囲におけるエタノールのアントワン定数は、A=16.66404、B=3667.705、C=-46.966、po[kPa]、T[K]であるとする。
ガラス容器耐圧:4atm
密閉
エタノール
加熱 図 6-2 エタノールを封入したガラス容器
[解] エタノールのアントワン定数より、式(6.2)を用いて蒸気圧が 4.0atm となる温度 T を求める。
16
[ ])(
lnCT
BAkPap+
−=°
966.46)101.013250.4ln(66404.16
705.3667ln 2 +
××−=−
°−= C
pABT
T = 39104 K = 117.9 ℃ Clausius‐Clapeyron式の導出 熱力学第 1法則は、次式で与えられる。すなわち、系の熱量変化 dQは、内部エネルギー変化
dU、系の圧力 Pおよび体積変化 dVを用いて次式で与えられる。 dQ=dU+PdV (6.3) 熱力学第二法則より、温度 Tにおける dQとエントロピー変化 dSは次式で与えられる。 dQ=TdS (6.4) (6.3)、(6.4)式より、 dU=TdS-PdV (6.5) このとき、エンタルピーHは次式で定義される。 H=U+PV (6.6) (6.6)式を全微分すると、 dH=dU+PdV+VdP (6.7) (6.7)式に(6.5)式を代入すると、 dH=TdS+VdP (6.8) ここでギブス(Gibbs)の自由エネルギーGは、H、T、Sを用いて次式で定義される。 G=H-TS (6.9) (6.9)式を全微分すると、 dG =dH-TdS-SdT (6.10) (6.8)、(6.10)式より、 dG = VdP -SdT (6.11)
17
dG = VdP - SdT (6.12) 純物質(一成分系)の系について,気液両相が平衡状態で共存している状態を考える。ある圧力
pおよび温度Tで平衡(equilibrium)状態であるためには気相と液相の全成分の化学ポテンシャルがそれぞれ等しくなっていなければならない。純物質系では、化学ポテンシャルは 1molあたりのギブス(Gibbs)の自由エネルギーGmに等しいので、気相、液相、それぞれのギブスの自由エ
ネルギーGmV とGmL は等しく、GmV = GmLとなる。ここで、下付きのmは 1モル当たりの量を表す.次に圧力がdp,温度がdT変化して、再び気液両相が平衡になったとすれば、GmV + dGmV = GmL + dGmLとなり、次式となる。 dGmV = dGmL (6.13) また、式(1)を気液両相の 1molに対して適用すると、次の関係が得られる。 dGmV = VmV dp-SmV dT (6.14) dGmL = VmL dp-SmL dT (6.15) ここで、平衡の条件として、式(6.13)を適用すれば、上式より次式が導かれる。
Lm
Vm
Lm
Vm
VVSS
dTdp
−−
= (6.16)
ここで、気相と液相のエントロピーの差SmV - SmLは、蒸発に伴うモルエントロピー変化ΔSv,m
であり、モル蒸発潜熱ΔHv,mを用いてΔHv,m/Tと表せるので次式を得る。
TH
SSS m,VLm
Vmm,V
ΔΔ =−= (6.17)
式(6.16)および式(6.17)より次式を得る.
)( Lm
Vm
m,V
VVTH
dTdp
−=
Δ (6.18)
式(6.18)は、クラウジウスークラペイロン式と呼ばれている。圧力が高くなく,気相の体積が液相の体積より十分大きい(大気圧下では、気相の体積は液相の 1,000倍程度ある。)と見なせるとVmV≫VmLであり、理想気体とみなせるとすれば、理想気体の状態方程式(pVm=RT)により次式が得られる。
18
RTp
VVV V == Lm
Lmm
11−
(6.19)
式(6.19)を用いて式(6.18)を整理すると、次式が得られる。
2m,V
RTH
pdTdp Δ
= (6.20)
狭い温度範囲では、ΔHv,mが一定とみなされるとすれば、ΔHv,mを定数として式(6.20)を積分することで、次式が導出される。
TBAp −=°ln (6.21)
ここで,Aは積分定数であり,B = ΔHv,m/Rである. 6.3 パラメータの決定方法 (6.2)式に示すアントワン式のパラメータ A, B, Cは各物質に対して固有の値であり、各物質の蒸気圧と温度の関係を良好に表現するように実験値から決定される。4 章で示した Langmuir式のような 2つの未知の変数をもつモデルについては、最小二乗法により決定できることを示した。しかし、3 つのパラメータを有するアントワン式には、最小二乗法の適用は困難である。このように化学工学では、モデル式中に含まれる変数を最適化の手法を用いることで、決定するこ
とが多い。最適化の手法については、マルカート法、修正シンプレックス法、直接探索法など多
くの手法がある。 ここでは、最小二乗法によるパラメータの決定方法を以下に示す。 [問題] 水、トルエン、エタノール、1-プロパノールの温度 T [℃]と蒸気圧 P [mmHg]のデータは以下のように与えられている。Clausius-Clapeyron から導かれる次式を用いて、各物質の A および Bを最小二乗法により決定せよ。また、決定した Aおよび Bを用いて各物質の 50℃における蒸気圧を計算せよ。 蒸気圧式 lnP=A‐B/T
19
水 トルエン エタノール 1-プロパノール
20 17.1893 21.6588 43.6367 14.4081
30 31.3785 36.3915 77.8755 28.0876
40 54.7542 58.7469 133.1703 51.7038
50
60 148.3944 138.1271 348.6829 151.5839
70 232.2947 202.6172 537.8146 244.0960
80 353.1642 289.7050 806.7594 379.5788
T [℃]P [mmHg]
解) 温度T [℃]と蒸気圧P [mmHg]のデータをlnP [mmHg]と 1/T [K-1]のデータに変換する。
水 トルエン エタノール 1-プロパノール
0.003411 2.8448 3.0760 3.7766 2.6683
0.003299 3.4467 3.5950 4.3559 3.3359
0.003193 4.0036 4.0740 4.8925 3.9462
0.003095
0.003002 5.0008 4.9291 5.8552 5.0220
0.002914 5.4490 5.3123 6.2886 5.4986
0.002832 5.8680 5.6699 6.6942 5.9401
1/T[K-1]lnP[mmHg]
このデータをグラフにプロットすれば次のようなグラフが得られる。それぞれの物質について最
小二乗法を用いて関係式を求めると次のようになる。
20
2
4
6
0.0028 0.003 0.0032 0.0034
1/T [K-1]
lnP [mmHg]
水
トルエン
エタノール
1-プロパノール線形 (エタノール)
水 y=-5214.6x+20.645 トルエン y=-4473.9x+18.35 エタノール y=-5032.8x+20.955 1-プロパノール y=-5641.2x+21.937 したがって定数 A,Bはそれぞれ次のようになる。
水 トルエン エタノール 1-プロパノール
定数A 20.645 18.35 20.955 21.937
定数B -5214.6 -4473.9 -5032.8 -5641.2 これらの値を使用し、それぞれの物質について 50℃における蒸気圧を計算すると下の表のようになる。
水 トルエン エタノール 1-プロパノール
50 90.760 90.500 217.198 88.243
T[℃]P[mmHg]
Gibbs-Helmholtzの式
STG
p ∆−=∂∆∂ )(
2
)/(
T
HT
TG
p
∆−=⎥
⎦
⎤⎢⎣
⎡
∂
∆∂
希薄溶液に関して,溶液の束一的性質(collegative properties)
特定の諸性質が、希薄溶液において、溶質の粒子の数にのみ依存する
例)蒸気圧降下、沸点上昇、凝固点降下、浸透圧など
21
蒸気圧
クラウジウスークラペイロン式 気相と液相のそれぞれのモル体積をVmV - VmL、モル蒸発潜熱をΔHv,mとして,
)( Lm
Vm
m,V
VVTH
dTdp
−=
Δ
2m,Vln
RTH
dTpd Δ=
TBAp −=°ln
溶解度(Henryの法則)
BBB xkp =
凝固
)
)(
m,fus
Sm
Lm
HVVT
dpdT
Δ
−=
2m,Vln
RTH
dTxd Δ=
∫∫
∆=−
2
1
21
1lnT
T
x
A dTTR
Hxd
- )11(ln12 TTR
HxA −∆
−=
1212
21 )(TTT
RH
TTTT
RH ∆∆
=−∆
−=
BAA xxx =−=− 1ln
凝固点降下に関して、
22
BxH
RTT∆
=∆2
BBf Mm
HRTmKT
∆==∆
1000
2
浸透圧Π
RTnV B=Π
(CRTCB=Π B=nB/V )
)(B
B
MwRT=Π
化学平衡
KRTG ln−=∆
Gibbs-Helmholtzの式へ代入して整理すると、
van’t Hoff の式
2
lnRT
HT
K Δ=
∂∂
6.1 物質分離装置と混合物の組成 環境装置や化学プラントで実際に使用されている装置を見て,その大きさに驚かれる方も多い
と思う.化学プラントに多く使用されている蒸留塔と実験室などでよく見かける蒸留装置を比較
しみよう.液体混合物を蒸気にして分離することでは,この両者の役目は同じだが,対象となる
物質の量とその装置の大きさは全く異なる.実際の装置(実用装置または実機)では,組成を制
御する精度も極めて高いものが要求される場合が多い.この巨大な装置を精度良く稼働させるた
めに,混合物の組成や分離装置とその中で利用されている相分離現象について説明しよう. まず,相分離を利用する物質分離の装置の概念図を使って考えてみよう.温度を一定に保つこ
とのできる恒温槽*6.2内に圧力計をつけた容器を設置し,ある組成に調整された 2種類の液体の化学物質(例えばエタノールと水;2 成分系)を入れる.容器内から空気などの不純物となるガスを十分取り除き,恒温槽の温度を一定に保ってしばらく静置しておく.2 成分系の液体の一部が蒸発し,気相を 2成分系の分子で満たす.ただし,気相組成は,液相の組成と異なる場合が多い.組成(混合物の成分濃度)は,種々の方法で表現される(コラム 12 参照)が,本章では主にモル分率(mole fraction)で表現する.本書では,i成分の液相組成,気相組成をそれぞれx i,y iと
表す.成分の種類は下添字で表すが,一般に沸点の低い物質から順に小さい番号をつける.この
例ではx1,x2はそれぞれ液相のエタノールと水のモル分率を表す.モル分率で表現すると,各相
でのその和は,1となるので,次式となる.
23
24
Σxi=1,Σyi=1 (6.1) この例の場合,液相から全ての水が気相に移動し,純粋なエタノールだけの液相となった場合,
その液相モル分率xiはと 1なる. 容器内の気相の温度も液相の温度と同じになり,容器上部に取り付けた圧力計の値も一定とな
り,組成も見かけ上一定になる.前章で述べたように,この時,各成分に関して,両相における
化学ポテンシャルが等しくなる.また,フガシティについても同様である.この気相と液相が平
衡状態にある.つまり気液平衡(vapor-liquid equilibrium)と呼ばれている状態である.今回,気液平衡を例にとったが,固液平衡,液液平衡などの相変化により幾つかの平衡状態が存在する.
これらを総称して相平衡と呼んでいる.
6.2 気液平衡 1.気液平衡の基礎式の導出 混合物系において、液相および気相の
25
温度 T、圧力 Pが等しいとき気液平衡が 成立するための条件は、次式で与えられ る。
Li
Vi ff = (1)
P
ここで、f iは各成分iのフガシティーであ り、上付き添字 V、Lはそれぞれ気相およ び液相を表す。i成分の気相側のフガシテ ィーは、フガシティー係数φiを用いて、 次のように表せる。
iiV
i Pyf φ=
ここでPは全圧であり、y iは気相における成分iのモル
1i =φ
と考えられるので、i成分の気相側のフガシティーは
iV
i Pyf =
となる。液相のi成分のモル分率をx i、活量係数をγ
ーは、次式で与えられる。
iiiL
i Pxf γ=
ここで、p i°はi成分の蒸気圧である。平衡条件は、
°= iiii PxPy γ
となり、気相および液相のモル分率y i、x iの関数とし
いま、2成分系を考える。平衡条件は、(6)式より、成
T
液相 f i = x i γ P i
気相 f i =φi P y i
分率である。低圧系
、
iとすると、液相にお
(1)式に(4)、(5)を代入
て表せる。 分 1、2について
では、
けるi
して
T:温度[K] P:圧力[Pa] x:液相のモル分率[-]y:気相のモル分率[-]
(2)
(3)
(4)
成分のフガシティ
(5)
(6)
°= 1111 PxPy γ (7)
°= 2222 PxPy γ (8)
一方、y iがモル分率であるから、
121 =+ yy (9)
(7)、(8)式を(9)式に代入し、整理すると、
°+°= 222111 PxPxP γγ (10)
この式を用いると、液相組成から混合物の全圧を計算することができる。 またこの場合、気相組成y iは次式で与えられる。
PPxy °
= iiiiγ
(11)
もし、混合する 2液が理想混合する(Raoult則が成り立つ)なら、
11 =γ (12)
12 =γ (13)
であるから、(10)式は、
°+°= 2211 PxPxP (14)
となる。
例題 電卓を用いた組成からの活量係数の計算
1)活量係数の計算方法 メタノール(1)-水(2)系の気液平衡組成は、実験の結果、以下のように与えられる。活量係数γ
26
1、γ2を計算せよ。 実験データ 圧力 P=500mmHg 温度t=59.7℃ 液相のメタノール組成x1=0.614 気相のメタノール組成y1=0.845 活量係数γ1、γ2は次式より計算できる。また、メタノールおよび水の蒸気圧p10、p20は、表 1に示すAntoine定数より計算できる。
011
11 px
Py=γ , 0
22
22 px
Py=γ (12)
表 1 メタノールおよび水の Antoine定数
――――――――――――――――――――――――――――――
物質名 A B C ―――――――――――――――――――――――――――――― メタノール(1) 8.08097 1582.271 239.726水(2) 8.07131 1730.630 233.426 ――――――――――――――――――――――――――――――
][]mmHg[log10
℃tCBAp
+−=
解) Antoine式より、メタノールおよび水の蒸気圧p10、p20は以下のように計算できる。
p10=10(A1-B1/(C1+t))=10(8.08097-1582.271/(239.726+59.7))
=626.07mmHg
p20=10(A2-B2/(C2+t))=10(8.07131-1730.630/(233.426+59.7))
=146.98mmHg p10、p20より活量係数γ1、γ2は、以下のように計算できる。ただし、2 成分系の場合、x2=1-x1、
y2=1-y1)
1.0991626.070.614
500845.0011
11 ==γ
××
=pxPy
1.3660146.980.386
5000.155022
22 ===γ
××
pxPy
問2 Excelを用いた組成からの活量係数の計算方法
27
同様の手法を用いて以下の表 2を完成せよ。
表 2 500mmHgにおけるメタノール(1)-水(2)系の気液平衡組成における活量係数の決定 文献値
x1[-] y1[-] t[℃] p10[mmHg] p2
0[mmHg] γ1[-] γ2[-] lnγ1[-] lnγ2[-]
0.025 0.163 85
0.055 0.31 80.2
0.114 0.484 75.4
0.212 0.622 70
0.325 0.696 66.5
0.463 0.782 63.1
0.523 0.804 62
0.614 0.845 59.7
0.709 0.887 58.7
0.772 0.913 57.7
0.88 0.958 56
28
名前ボックス 数式バーには、入力された数式が表示される。
セルポインタ
[例題 6.1] ベンゼン(1)-トルエン(2)系の混合系が 101.3kPa で気液平衡状態にあるとして,次の各問に答えよ.ただし,この混合系は理想溶液として扱ってよいものとする.なお,各純成分の
蒸気圧はアントワン(Antoine)式により与えられる. (1) アントワン式からベンゼンおよびトルエンの 101.3kPaにおける標準沸点を求めよ. (2) この混合系が 101.3kPaで気液平衡状態にあり,平衡温度が 358.15Kを示した.このときの液相組成および気相組成を求めよ. (3) 同様の圧力条件で温度 378.15Kの時の液相組成および気相組成を求めよ. (4) (2)および(3)の計算結果から純物質の沸点および 2組の気液平衡関係を,温度対組成線図に描
け. アントワン式
[ ] [ ]KTCBAkPap
i
iii +−=°log
アントワン定数6,13)
A B C ベンゼン(1) 6.0306 1211.03 -52.35 トルエン(2) 6.0795 1344.81 -53.65 [解] (1) アントワン式より,平衡温度は次式で与えられる.
iii
i CpA
BT −−
= °log
したがって,ベンゼンの標準沸点およびトルエンの標準沸点はそれぞれ次のようになる.
K2.353benzene =T , K8.383toluene =T
(2) 358.15Kにおける各成分の蒸気圧はアントワン式より次のように求められる.
kPa6.1171 =°p , kPa0.462 =
°p
ラウールの法則より全圧 は次のようになる. totalp
°° −+=+= 211121total )1( pxpxppp
題意より次式のように導ける.
)1(0.466.1173.101 11 xx −+=
よって,液相組成は 77.01 =x となる.
一方,気相組成はドルトンの法則より次式のようになる.
89.03.101
6.11777.0
total
11
total
11 =
×===
°
ppx
ppy
よって気相組成は 89.01 =y
(3) (2)と同様に各成分の蒸気圧は , となる.ラウールの法則より
液相組成は となる.また,気相組成はドルトンの法則より
kPa8.2051 =°p kPa1.862 =
°p
13.01 =x 26.01 =y となる.
(4) (1)で求めた純物質の標準沸点および(2)ならびに(3)で求めた気液平衡値を使って温度対組成
29
線図を描くと図 6-6のようになる. [例題 6.2] メタノール(1)-水(2)系の 2成分系気液平衡組成( xi,yi )より,液相における各成分の活量係数γ1,γ2を計算せよ.ただし,全圧p = 500 mmHg,温度T = 71.5 ℃,気相組成x1 = 0.2019,液相組成y1 = 0.6028とする. また,計算するにあたってのアントワン(Antoine)式およびアントワン定数,気液平衡の基礎
式(2成分系の場合)は下記のように与えられる.
アントワン式 ][
]mmHg[log10℃TC
BAp
i
iii +−=° (1)
表 1 メタノール(1)および水(2)のアントワン定数6,13)
メタノール 水 A1 = 8.08097 A2 = 8.07131 B1 = 1582.271 B2 = 1730.63 C1 = 239.726 C2 = 233.426
[解]メタノール(成分 1)および水(成分 2)の各蒸気圧p1°,p2°は,温度のみの関数で,式(1)のアントワン式を用いて求められる.メタノール(成分 1)のT = 71.5 ℃における蒸気圧p1°を求
める.表 1よりアントワン定数はA1 = 8.08097,B1 = 1582.271,C1 = 239.726であるので,蒸気圧p1°は次のようになる.
mmHg06.9931010 5.71725.239271.158208097.8
11
11
===° +−+
−TC
BA
p
となる.同様に水(成分 2)の蒸気圧も,p2°=248.73mmHgとなる. 次に,式(6.9)を用いて活量係数γ1,γ2を求める.メタノール(成分 1)の場合の活量係数γ1を
求めると以下のようになる.
1.5030.2019993.06
5006028.0
11
11 =
××
==゜・
・γ
pxpy
同様に水(成分 2)の活量係数γ2についても,x1+x2=1 およびy1+y2=1 の関係式より,γ2=1.0
となる. 6.2.3 溶液モデル 活量係数を液相組成の関数として表した式を活量係数モデルといい,古くから知られているマ
ーギュレス(Margules)式12),ファン・ラー(van Laar)式20)や 1960年代以降に提案された局所モル分率にもとづくウィルソン(Wilson)式21),NRTL式16),UNIQUAC式1)などがある.特に局所
モル分率にもとづく式は 2成分系気液平衡から決定したパラメータを用いて 3成分系以上の多成分系気液平衡を精度よく計算できるので有効である.代表的な 2成分系の活量係数モデルについ
30
て以下に示す. 〇 マーギュレス式
31
]
]
[ 1122112221 )(2ln xAAAx −+=γ (6.16a)
[ 2211221212 )(2ln xAAAx −+=γ (6.16b)
A12およびA21は気液平衡データから決定されるパラメータである. ○ ウィルソン式
( ) ⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛+Λ
Λ−
Λ+Λ
+Λ+−=2121
21
2121
12221211 lnln
xxxxxxxγ (6.17a)
( ) ⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛+Λ
Λ−
Λ+Λ
−Λ+−=2121
21
2121
12112122 lnln
xxxxxxxγ (6.17b)
( )⎥⎦⎤
⎢⎣⎡ λ−λ−=Λ
RTVV 1112
L1
L2
12 exp ( )
⎥⎦⎤
⎢⎣⎡ λ−λ−=Λ
RTVV 2212
L2
L1
21 exp (6.18)
V1L,V2
Lは成分 1および 2の液モル容積,( )1112 λλ − および ( )2212 λλ − は気液平衡データから決
定されるパラメータである.ウィルソン式の導出方法をコラム 13に示す. [問題 6.3] 研究者Aは,2成分系の過剰Gibbs自由エネルギーGEを液相組成の算術平均であると考
え,次式を提案した.
21E bxaxG += (1)
ここでaおよびbは定数である.活量係数γ1およびγ2を求めよ.また,このモデルの問題点を
指摘せよ.ただし,過剰Gibbs自由エネルギーと活量係数γiの関係は,熱力学的に次式で与えら
れる2,17).
∑ ∂∂
−∂∂
+j
ji
i xGx
xGGRT
EEEln =γ (2)
[解] 式(1)をx1およびx2で偏微分すると次のようになる.
ax
bxaxx
G=
∂+∂
=∂∂
1
21
1
E )( (3)
bx
bxaxxG
=∂+∂
=∂∂
2
21
2
E )( (4)
よって,式(3)および(4)を式(2)に代入すると次のようになる.
a
bxaxabxaxxGx
xGx
xGGRT
=
+−++=∂∂
+∂∂
−∂∂
+=
γ )()()(ln 21212
E
21
E
11
EE
1 (5)
同様にγ2についても次のようになる.
bRT =2lnγ (6)
以上の結果より,γ1およびγ2は一定値となったが,実在溶液では図 6-7に示すように液相組成に応じて活量係数は大きく変化する.
問題 7.4 (補助資料第 2部 P.22)
25.3 mol%のベンゼンと 74..7 mol%のトルエンを含む溶液は 100℃、1atmで沸騰
する。蒸気を凝縮させて得た液体は、94.8℃で沸騰する。この溶液の組成を計算せよ。
また、100℃、94.8℃におけるトルエンの蒸気圧を求めよ。さらに、100℃における
トルエンの分圧を求めよ。純トルエンの蒸気圧は、100℃で 1,357 Torr, 94.8 ℃で
1,108 Torrである。溶液と蒸気は理想的挙動をとると仮定せよ。( 注;Torr = mmHg )
[解] 求めるべき溶液の組成(ベンゼンのモル分率xA)は、第 1段の蒸留塔の気
相組成(ベンゼンの気相モル分率yA)に等しいので、この問題では、ベンゼンの気相
32
モル分率yAを計算すればよい。
まず、mol%で与えられた濃度をモル分率に変換する。
ベンゼン 25.3 mol% xA = 0.253
トルエン 74..7 mol% xB = 0.747
系が平衡となるための条件は,温度T=一定,圧力p=一定であり,各成分iの化学ポテンシ
ャルμi またはフガシティfiが気相(I=V)、液相(II=L)で等しいことである.
ⅡⅠii µµ = (T,p 一定) (A-4-1)
ⅡⅠii ff = (T,p 一定) (A-4-2)
VViii pyf ϕ= (A-4-3)
ここでpは全圧であり,yiは気相における成分iのモル分率である.低圧系では,ϕ iV=1 と考え
られるので,i成分の気相のフガシティーは,次式となる.
ii pyf =V (A-4-4)
液相中の成分iのフガシティー は,活量係数(activity coefficient)γLif iを用いて次式で表され.
°= iiii pxf γL (A-4-5)
ここで,xiは液相における成分iのモル分率,pi゜は成分のiの蒸気圧である.したがって成分iについての気液平衡式は次式で与えられる.
°= iiii pxpy γ (A-4-6)
2成分系気液平衡の基礎式は,(A 成分を 1, B成分を 2とも記述すると)
oo pxpxp 222111 γγ += (A-4-7)
理想溶液とみなし、ラウール則が成り立つとすると,
33
121 == γγ (A-4-8)
(A-4-9) oo pxpxp 2211 +=
oBB
oAA pxpxp +=
この問題では、(A-4-6)式より、気相モル分率は次のように求められる。
p
pxy iii
i
°
=γ
(1)
理想溶液とみなすと、
ppx
y iii
°
= (2)
A成分(ベンゼン)については、
ppx
y AAA
°
= (3)
第1段の蒸留塔では、温度は 100℃であるので、ベンゼンのこの温度での蒸気圧は、
1357=oAp Torrである。全圧は、760 Torr, ベンゼンのモル分率は、0.253であるので、上式に代
入すると、
760
1357253.0 ×=Ay (4)
452.0=Ay
(5) 548.0452.011 =−=−= AB yy
よって、凝縮させた溶液の組成は、ベンゼン 45.2mol%、トルエン 54.8mol%である。
また、それぞれの分圧(pA, pB)を考えると、
, (6) AAA pxp = BBB pxp =
(7) BA ppp +=
(8) AB ppp −=
34
(9) oAAB pxpp −=
3.3437601357253.0760 −=×−= = 416.7 Torr
よって、100℃におけるトルエンの分圧は、416.7 Torrである。
成分 B(トルエン)の蒸気圧については、(A-4-9)式より
(10) oBB
oAA pxpxp +=
B
oAA
B xpxpp −
= (11)
100℃においては、
747.0
1357253.0760 ×−=Bp
= 557.8 Torr
94.8 ℃においては、
548.0
1108548.0760 ×−=Bp
= 473.0 Torr
100℃、94.8℃におけるトルエンの蒸気圧は、それぞれ 557.8Torr, 473.0Torrである。
水蒸気蒸留の問題
問題 7.5 ある未知の化合物は水に混ざらない。これを 98.0℃、p=737Torrで水蒸気
35
蒸留する。98.0℃での水の蒸気圧は 707Torrで、留出液には、75重量%の水が含まれ
ていた。未知の物質の分子量を計算せよ。
簡易型の水蒸気蒸留の
装置を右に示す。
この装置では、左のフラ
スコを加熱することで、水
蒸気を発生させ、上部に
設置した試料(水に溶けな
い低分子量の物質)に水
蒸気をあてることで、水
蒸気蒸留を行う。
[解]
水蒸気蒸留においては
水と混ざらないので、次のような関係がある。(補助資料第2部 P.8参照)
(1) oBB
oAA pxpxp +=
(A-2-15) BA ppp +=
ppx
y iii
°
= (2)
p
pppx
y AAAA ==
°
(3)
36
p
pppx
y BBBB ==
°
(4)
B
A
B
A
pp
yy
=
(A-2-16)
また、モル数nAと重量w、分子量Mの間には、次の関係がある。
A
AA M
wn =
(5)
B
B
A
A
B
A
B
A
Mw
Mw
nn
yy
==
(A-2-17)
AB
BA
B
B
A
A
B
A
B
A
MwMw
Mw
Mw
pp
yy
=== (6)
AB
A
A
BB M
pp
ww
M =
(A-2-18)
題意より、
p= 737 Torr , pA=707 Torr
(1) BA ppp +=
(2) AB ppp −=
30707737 =−=Bp Torr
留出液 100gについて考えると、wA= 75 , wA= 25 , 水の分子量を 18.0とすると、
A
B
A
A
BB M
pp
ww
M =
0.18
302570775
×××
=
= 141
よって、未知化合物の分子量は、 141 である。
37
溶液モデルを利用することで、過剰自由エネルギーGEから活量係数γを計算し、
組成を計算する手法を理解する。
活量 a , 活量係数γ
ai=γi xi (A-3-9)
(A-3-10) ioiiii aRT ln=−=∆ µµµ
∑ ∂∂
−∂∂
+=j j
Em
ji
EmE
mi xG
xx
GGRT γln (A-3-11)
2成分系について考えると、
)(lnj
Em
jj
Em
ji
EmE
mi xG
xxG
xx
GGRT
∂∂
+∂∂
−∂∂
+=γ (1)
)(lnB
Em
BA
Em
AA
EmE
mA xG
xxG
xxG
GRT∂∂
+∂∂
−∂∂
+=γ (2)
)(lnB
Em
BA
Em
AB
EmE
mB xG
xxG
xxG
GRT∂∂
+∂∂
−∂∂
+=γ (3)
38