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平成 22 年度 自閉症教育 羽村プラン 平成 23 年 1 月 26 日(水) 東京都立羽村特別支援学校 小学部・中学部

平成22年度 自閉症教育 羽村プラン · るよりは、広くそのような傾向のある状態のことを「広汎性発達障害」と総称する。自 閉症を中心とした一連の症候群を表す、「自閉症スペクトラム」という用語もほぼ「広汎

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平成 22 年度

自閉症教育

羽村プラン

平成 23 年 1 月 26 日(水)

東京都立羽村特別支援学校 小学部・中学部

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ごあいさつ

東京都教育委員会は、平成 16 年 11 月に「東京都特別支援教育推進計画」を策定しま

した。その中に、知的障害養護学校(特別支援学校)の約 30%の児童・生徒が自閉的傾

向を有しており、障害のある児童・生徒一人一人の障害の状態、特性や程度等に基づき、

個のニーズに応じた専門的な指導を一層充実させることが必要であると示されています。

新たな試みとして「社会性の学習」が創設されました。自閉症の児童・生徒に弱いとさ

れる対人関係の広がりやソーシャルスキルの向上を目指した新たな指導形態です。目に

見えるものは具体的で分かりやすいけれど、心で人が何を思い、考えているのかを知る

ことは難しい、自閉症の方たちにとって最も弱いとされている特性の一つです。相手の

思い、見えない意図に気づくことは私たちにとってもなかなか難しいことです。しかし、

人と人がかかわりあって生きていく社会にあって、人と交流する力を育て、上手に折り

合いをつけながら共に生活していくスキルを身につけられるようにしていくことは将来

の社会自立・参加を果たす上でも大切なことです。

本校の児童・生徒の実態をみますと、小学部は 70%程度の児童が自閉症の診断を受け

ており、中学部では 52%とやや減少するものの過半数を超える生徒が自閉症です。本校

の研修、実践、研究は、こうした実態もふまえ「社会性の学習」をはじめとする自閉症

の障害特性に配慮した指導についての理解と実践が大変重要だとの認識にたって始まり

ました。全ての教員が自閉症の障害特性に配慮し、適切に指導できる力量をもたなけれ

ばなりません。全学級で取り組まなければ児童・生徒に混乱を与えるだけで指導効果は

期待できません。

そこで、平成 21 年度から小学部、中学部全学級に自閉症学級を設置し、全職員で月一

度の研修会をもって研修を深めてきました。本資料は、これまでの研修と実践の記録集

です。この「羽村プラン」をもとに全教員が支援の方法や配慮について共通理解をもち、

組織的に取り組み、実践力を向上させて参りたいと思います。とはいえ、学級編成の基

準をどこに置くか、「社会性の学習」実施にあたっての集団編成、各グループの指導内容・

方法の検討、年間指導計画や個別指導計画に配慮事項をどう反映させていくか、課題は

山積みでした。それでも、真摯に、自閉症の子どもたちを深く理解し、子どもたちが自

らの力で主体的に生きる力を養うため、指導はどうあるべきかを追求し、悩んで迷って、

何度も行き詰まりそうになりながら何とか完成させたものです。まだまだではございま

すが、皆様に、本校の教員が一体となって挑戦しあきらめないでまとめた本記録集を手

にとってお読みいただければ幸いに存じます。

最後になりましたが、ご指導を賜りました たすく株式会社 齊藤宇開先生、精神科

医 岡田奈緒子先生、筑波大学附属大塚特別支援学校 中村晋先生、教育庁指導部 市

川裕二統括指導主事、島添聡指導主事に心から御礼申し上げます。ありがとうございま

した。

平成 23 年 1 月 26 日

東京都立羽村特別支援学校長 山口真佐子

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~ 目 次 ~

あいさつ ~ 学校長より

はじめに

Ⅰ.文献研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1.自閉症教育の歴史 ~ 発見から今日まで ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

2.自閉症の原因・状態像・対応方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

1)診断 DSM-Ⅳ

2)自閉症に随伴する症状

3)自閉症に特有の認知特性や随伴する症状への対応について

① 医療的対応

② 教育的対応

4)青年期・成人期の対応(就労支援や社会参加のための支援)

Ⅱ.調査研究(平成 22 年度羽村特別支援学校児童・生徒の実態) ・・・・・・・・・ 21

1.本校における自閉症児童・生徒の実態 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

1)児童・生徒数および学級数

2)各教科等指導場面にみる特性

2.児童・生徒の実態の把握 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

1)3つの客観的指標を用いた実態把握

2)NC-プログラムにみる実態

3)初期社会性発達アセスメントにみる実態

4)J☆sKep にみる実態

Ⅲ.実践研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

研究の経過

1.学級編成の考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

2.本校の教育課程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35

1)週時程

2)自立活動「人間関係の形成」

3.年間指導計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37

4.個別指導計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

5.「社会性の学習」の指導内容・方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

6.指導上の配慮事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40

引用・参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55

添付資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57

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はじめに

本校では、平成 20 年度から自閉症の教育についての研修・研究会を実施してきた。今年

度、自閉症の児童・生徒に対する指導を学校組織としてより充実したものにしていくこと

を目指し、「羽村プラン」を作成することとなった。

「羽村プラン」の作成にあたっては、東京都教育委員会をはじめ、研究会の講師として

ご来校くださった、齊藤宇開氏(たすく株式会社代表)、長崎勤氏(筑波大学教授)、中村

晋氏(筑波大学附属大塚特別支援学校小学部主事)、東敦子氏(のぞみ発達クリニック所長)、

岡田奈緒子氏(精神科医、山野美容芸術短期大学准教授)のご指導ご助言を多く参考にさ

せていただいた。心より感謝申し上げる。

講師の先生方から学んだことを日ごろの実践にさらに役立て、自閉症の児童・生徒に対

する指導のより一層の充実を図っていく所存である。

Ⅰ.文献研究

1.自閉症教育の歴史 ~発見から今日まで

自閉症は 1943 年、アメリカの児童精神科医レオ・カナーによって初めて報告された。

カナーの報告以前から自閉症の子どもたちは存在したが、このとき初めて他の疾患から

区別された。特徴は、言語の遅れがあり社会的な交流を好まないが、ある領域において

能力のある子どもであると考えられた。翌年、自閉症に似ているものの、言語発達の良

い特徴を示す子どもについて、オーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーも報告し

た。この症候群は現在、アスペルガー症候群(アスペルガー障害)として知られている

が、当時はあまり注目を受けなかった。日本では 1952 年にカナーの症例をもとに鷲見が

「幼児自閉症」の症例を報告した。

当時、自閉症は母子関係の問題、愛情不足が原因で子どもが心を閉ざした状態である

と考えられていた。しかし 1960 年代~1970 年代にかけての研究によって、自閉症の原

因は生後の養育環境によるものといったそれまでの考え方は否定された。現在では、先

天的な脳の障害による発達障害であるという考えが主流となっている。自閉症と考えら

れる人々は、人種、民族、社会的な背景にかかわらず、広く存在している。

現在、自閉症は「発達障害」の中の「広汎性発達障害」に分類される(表 1)。自閉症

には一人一人異なる症状や程度、特性、合併障害の有無等があり、細かく診断名をつけ

るよりは、広くそのような傾向のある状態のことを「広汎性発達障害」と総称する。自

閉症を中心とした一連の症候群を表す、「自閉症スペクトラム」という用語もほぼ「広汎

性発達障害」と同様の意味として用いられている。

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表 1.「発達障害」(DSM-Ⅳより)

発達障害

精神発達遅滞

広汎性発達障害

・自閉性障害(自閉症)

・アスペルガー障害(症候群)

・レット障害

・小児期崩壊性障害

・その他の広汎性発達障害(ICD-10 では非定型自閉症)

学習障害(LD)

・読字障害

・算数障害

・書字障害

・特定不能の学習障害

運動能力障害 ・発達性協調運動障害

コミュニケーション

障害

・表出性言語障害

・受容-表出性混合障害

注意欠陥・破壊的行動

障害

・注意欠陥/多動性障害(ADHD)

・特定不能の障害

・行為障害

・反抗挑戦性障害

(榊原洋一(2008)図解 よくわかる自閉症.株式会社ナツメ社)

2.自閉症の原因・状態像・対応方法

1)診断 DSM-Ⅳ

自閉症は、血液検査や画像診断等でわかるものではなく、症状の特徴によって診断さ

れる。国際的にも用いられ、現在日本で広く使われている診断基準は、アメリカ精神医

学学会による「精神疾患の分類と診断の手引き第 4 版(DSM-Ⅳ)」と、世界保健機構

による「国際疾患分類第 10 版(ICD-10)」である。これらの診断基準は、1980 年代

より発展してきている。

では、どのような特徴のある子どもが自閉症と診断されるのか。ここでは「DSM-

Ⅳ」の診断基準を紹介する(表 2)。

DSM-Ⅳでは 12 の診断基準が、(1)社会的相互作用の質的な障害、(2)コミュニ

ケーションの質的な障害、(3)限定された活動や興味の3つの特徴に分けられている。

ICD-10 でも同様の特徴が含まれており、これは、「障害の三つ組」と呼ばれ、自閉症

の特徴を示している。

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表 2.自閉症の診断基準

A.(1)、(2)、(3)から合計 6 つ(またはそれ以上)、うち少なくとも(1)から 2 つ、(2)と(3)か

ら 1 つずつの項目を含む。

(1)対人的相互作用における質的な障害で以下の少なくとも 2 つによって明らかになる。

a)目と目で見つめあう、顔の表情、体の姿勢、身振りなど、対人的相互作用を調節する多彩な非言

語性行動の使用の著明な障害。

b)発達の水準に相応した仲間関係をつくることの失敗。

c)楽しみ、興味、成し遂げたものを他人と共有すること(例:興味のあるものをみせる、もって来

る、指さす)を自発的に求めることの欠如。

d)対人的、または情緒的相互性の欠如。

(2)以下のうち少なくとも 1 つによって示されるコミュニケーションの質的な障害。

a)話し言葉の遅れまたは完全な欠如(身振りや物まねのような代わりのコミュニケーションの仕方

により補おうという努力を伴わない)。

b)十分会話のある者では、他人と会話を開始し継続する能力の著明な障害。

c)常同的で反復的な言葉の使用または独特な言語。

d)発達水準に相応した、変化に富んだ自発的なごっこ遊びや社会性を持った物まね遊びの欠如。

(3)行動、興味、および活動が限定され、反復的で常同的な様式(以下の 1 つ以上により明らか)。

a)強度または対象において異常なほど、常同的で限定された型の、1 つまたはいくつかの興味だけ

に熱中すること。

b)特定の、機能的でない習慣や様式にかたくなにこだわるのが明らかである。

c)常同的で反復的な衒奇的運動(例:手や指をぱたぱたさせたりねじ曲げる、または複雑な全身の

動き)。

d)物体の一部に持続的に熱中する。

B.3 歳以前に始まる、以下の領域の少なくとも 1 つにおける機能の遅れまたは異常。

(1)対人的相互作用

(2)対人的コミュニケーションに用いられる言語

(3)象徴的または想像的遊び

C.この障害はレット障害または小児期崩壊性障害ではうまく説明されない。

(高橋三郎他 監訳(2003)DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の分類と診断の手引.医学書院)

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2)自閉症に随伴する症状

<自閉症の主な合併障害>

○知的障害

知的障害とは IQ70 未満であることを指し、「最重度(IQ20 未満)」「重度(IQ20~

34)」「中等度(IQ35~49)」「軽度(IQ50~69)」に分けられる。自閉症に知的障害

を伴う子どもは約 5~8 割いると考えられ、障害の程度は様々である。知的障害の程

度は、子どもの発達にも大きく影響するものであり、自閉症の「障害の三つ組」(P.5)

とともに自閉症の傾向を判断する基準となる。

○てんかん

広汎性発達障害の子どもには脳波異常がある場合が多く、その一部の子どもにてん

かん発作が起きることがある。突然意識をなくし、けいれんや脱力によって倒れ込む

症状が多く見られる。数秒から数分で収まる場合がほとんどだが、5 分以上続いたり

チアノーゼ(体内に酸素が取り込めなくなり、顔色等が青くなる状態)が見られたり

する場合は注意が必要である。無理に押さえつけたり口にハンカチをつめたりする必

要はなく、発作時はベルト等をゆるめて静かに様子を見るようにする。発作がおさま

ったらしばらく安静にさせる。保護者や主治医とよく情報を共有し、発作時の対応を

把握しておくこと、また座薬等は学校に常備できれば安心である。

○染色体異常

染色体異常と広汎性発達障害は合併することがある。ダウン症候群の中の「融通の

きかない頑固タイプ」の子どもは未診断の自閉症合併児とも考えられ、約 10%存在し

ている。

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<「障害の三つ組」から見る特性>

次に、DSM-Ⅳで示されている自閉症の「障害の三つ組」を参考に、自閉症の子ど

もの持つ特性を見る。

○社会的相互作用の質的な障害(社会性の発達の障害)

自閉症の子どもは決して愛着がなかったり、人が嫌いだったりするわけではない。

しかし、親を始めとする周囲の人への働きかけが極端に少ない傾向がある。赤ちゃん

のころには、泣いて親を困らせることがなかったり、一人で静かに遊び続けたりする

ことから、手のかからない子と思われることも多くある。幼児~学童期になるとマイ

ペースな様子が目立ってきて、ルールのある集団での遊びに参加しにくかったり迷子

になっても平気でいたり、相手の表情やその場の雰囲気を読むことが苦手だったりと

いった様子が見られるようになる。親との二項関係の成立を基盤として、少しずつ広

い世界へと対人関係を発達させていくことで、この特性は成長と共に変化していく。

社会性の発達の障害は、さらに4つのタイプに分けられる。

孤立タイプ:荒っぽい遊びには大喜びし、目を見てやってほしいと要求すること

もあるが、基本的に周囲に関心を示すことが少なく人からかかわられ

ることも好まない。自分の世界に入っていることが多くある。

受動タイプ:問題行動が最も少なくおだやかに見え、周囲の人に言われたことに

素直に従う。しかし、誰かに言われるまで何もできないといったよう

に、自分から行動すること(自立性を持つこと)が困難になってしま

う傾向がある。

積極・奇異タイプ:周囲の大人に対して自分の関心の強い事柄を一方的に話しか

ける。しばしば相手の手や肩等を強く握ったり顔を近づけたりと不適

切なかかわりをする場合があり、思い通りにならないと攻撃的になる

こともある。このタイプの子どもは、実は社会的なやりとりの方法を

理解できていない状況にあることを理解した上でかかわる必要があ

る。

形式ばった大仰なタイプ:青年期後期~成人期に見られるようになる。どのよう

な場面、どのような相手に対しても、必要以上にていねいな言葉を用

いる。

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○コミュニケーションの質的な障害

言葉を話さない、あるいは言葉の発達が遅れる。1 歳をすぎた頃に、言葉の遅れを

きっかけに広汎性発達障害を疑い始める例が多く見られる。大人の手を取って、ほし

い物へ差し出す「クレーン現象」が見られることがある。また、相手の発した言葉を

そのまま繰り返す「オウム返し(エコラリア)」や、CM のキャッチフレーズや歌等を

関係のない場面で発する「遅延のエコラリア」もある。「いってきます」と言う場面

で「いってらっしゃい」、「お名前は?」と聞かれて自分のことを「○○くん/さんで

す」等と、不適切な言葉の使い方をする子どもが多くいるが、これは普段からその場

面において繰り返し使われている言葉がそのまま身についた結果と言える。

○限定された活動や興味(興味の偏りや変わった行動)

遊びの場面では、石やつみきを一列に並べたり、タイヤ等がくるくる回る様子を見

続けたり、キラキラするものに惹かれたりするなど、特定の刺激や細かい部分に注目

しすぎる行動(シングルフォーカス)が見られる。「常同行動」と呼ばれる、目の前

で手や紙をひらひらさせる、つま先で歩く、横目、手に水を受け続ける等の自己刺激

行動も見られることがある。これらの常同行動は頭突きや手噛み等の自傷行為へ発展

する場合もある。ストレス等の欲求不満の表れである場合が多いが、時には何もする

ことがなくて時間を持て余している時に現れる場合もある。

さらに、同一性にこだわり、日常の中で様々な「儀式」を行うことがある。バスに

は必ず右足から乗る、廊下のカレンダーの傾きを必ず直す等の行動で、納得いくまで

ひたすらやり直したり、途中で止められてパニックになったりすることもしばしばあ

る。

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<その他の特性>

感覚について 聴覚については、ある特定の音を苦手とし、耳をふさいだり自分で大声を出してそ

の音をかき消そうとしたりする行動が見られる。子ども一人一人によって、苦手な音

は異なるため、注意深く観察し苦痛とならないよう支援が必要である。

視覚についても、ある特定の映像や光を苦手とする場合がある。動きのあるものは

良く見るが、動きが止まると興味を失うといった様子が見られることもある。

触覚にも過敏がある場合があり、人から不意に触られることが苦手、特定の素材が

苦手ということがある。逆に、フワフワとした素材などを好み、触ったりなでたりし

てその感触を味わう子どももいる。一方で、虫歯やケガ等の痛みを全く気にせず、痛

覚の鈍感さを示す場合がある。

味覚に過敏がある場合、食べ物の触覚、新しい物を口にする変化への不安等の理由

も重なって、強い偏食が現れることがある。逆に飲み物を吐くまで飲み続けてしまう

ような場合もある。

身体について 高くて危険な場所でもバランスを崩さずに歩行できたり、逆に、動作が未熟だった

りする。腕、手、指を伸ばしたまま、あるいは曲げたままにして奇妙な姿勢でいるこ

とがある。指先が器用な場合もあれば、無器用さが目立つ場合もある。

模倣(まね)を始めるのは遅い、あるいは全くしないことがある。「エコプラクシア

(反響動作)」といって、無目的に人の動作をまねることはある。

情報の処理 2 つのことを同時に提示されると、処理することが難しい。

不安と特定の

ものへの恐怖

水洗トイレの水流、猫、特定の色や形等、思いがけないものを怖がることがある。

過去に原因となる出来事があるはずだが、何がきっかけで怖がるようになったのか特

定できない場合もある。恐怖の原因となることが起きたときに、コミュニケーション

の不得意さから適切に周囲の者に不快であることを伝えられず、恐怖が繰り返し続く

ため、気付いたときには強いこだわりにも見える恐怖となっている場合が多い。

注意力と動機 興味があることへは積極的だが、自分の興味のない事柄や活動に対してはかかわる

動機がないので、関心を示さない。

特殊なスキル 特定の分野で、特別な能力を発揮する。カレンダーの日付と曜日を正確に記憶する

等の例がある。主に記憶の能力で見られる驚異的な力を「サヴァン症候群」と呼ぶ。

パニック かんしゃくを超え、混乱、興奮、怒りを収拾できない状態を「パニック」と言う。

自分の要求が通らない、展開が予想と違う、様々な変化(物の配置の変化、時間割の

変更、道路工事等)の場面等で起こる。

あいまいなこ

とが苦手

「自由に」とか、「好きなことを」することが苦手である。何をしたら良いのかわか

らない状態では、不安になりやすい。また、「少し」「早く」「ちゃんと」といった言葉

は、それがどのような状態なのかイメージしにくいため、理解が難しくなる。「少し」

は「○○個」、「早く」は「時計の○○まで」、「ちゃんと」は「全ての箱に物を入れる

まで」「10 数えるまで」等と、具体的な数字や目に見えるかたちに置き換えてわかりや

すく伝えることが大切である。

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3)自閉症に特有の認知特性や随伴する症状への対応について

①医療的対応

私たちは、医療的な対応として主に服薬についての以下の内容を、精神科医の岡田奈緒

子氏より、夏季研修会において学んだ。

現在、自閉症には有効な治療方法はない。しかし、薬を上手に用いることで、自閉症に

伴って現れる合併症や問題行動(こだわり、他害、不眠等)を効果的にコントロールする

ことができる。薬は、子どもに合ったものを正しく継続して服用することで、日常生活を

円滑に営むための大きな手助けとなる。薬を服用する場合は必ず医師の説明をきちんと受

け、薬の特徴、副作用、飲み方等について理解をすることが必要である。

以下に、良く使用される薬の一覧を示す(表 3)。

主となる障害の他に、二次的に精神症状を合併することもある。気になる症状が見られ

たら、すぐに医療機関で相談することも大切である。

表 3.使用頻度の多い薬 一覧

薬の種類 薬のはたらき 薬の名前 使用される症状

睡眠導入薬

不眠状態を緩和 マイスリー、レンドルミ

ン、アモバン、リスミー

寝つきが悪い

夜中に何度も目が覚める

抗てんかん薬

てんかん発作のコントロ

ール・抑制

気分の安定

デパケン R、テグレトー

ル、エクセグラン、リボ

トリール、アレビアチ

ン、マイスタン等

てんかん

抗不安薬

緊張や不安の緩和

気持ちの鎮静

セルシン、デパス、ソラ

ナックス、メイラック

ス、レキソタン、ワイパ

ックス等

チック、性器いじり、遺

尿症等の習癖異常 等

パニック

自傷

他害

多動

興奮が高い 等

抗精神病薬

気持ちの鎮静

興奮や衝動の緩和

多動や幻覚、妄想等の抑制

リスパダール、セロクエ

ル、ジプレキサ、ルーラ

ン、セレネース等

抗うつ薬(SSRI)

うつ症状の改善

強迫観念や強迫行動等の

症状の緩和

デプロメール、パキシ

ル、ジェイゾロフト等 こだわりが強い

確認行為が多い 等

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②教育的対応

ここでは、学習指導要領、東京都発行の自閉症教育に関するリーフレット、文献などを

参考に、自閉症の児童・生徒に対する基本的な教育的対応について概観する。

<学習指導要領に見る自閉症教育>

学習指導要領で定められる知的障害のある児童・生徒に対する教育課程は表 4 のように

編成されている。

表 4.知的障害 教育課程

小学部生活、国語、算数、音楽、図画工作及び体育の各教科、道徳、

特別活動並びに自立活動

中学部

国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育及び職業・家庭の各教科、

道徳、総合的な学習の時間、特別活動並びに自立活動(必要がある場合には

外国語を加えることができる)

(文部科学省(2009)特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(幼稚部・小学部・中学部).教育出版株式会社)

障害児教育においては、国の定める教育課程の一定の規準に従いながら、「児童生徒の障

害の状態及び発達の段階や特性等並びに地域や学校の実態」に応じるために、創意工夫を

加えた教育活動が求められている。

平成 21 年に新しく公示された特別支援学校学習指導要領では、「障害の重度・重複化や

多様化」、学習障害や注意欠陥多動性障害等を含む発達障害の児童・生徒を考慮した指導に

ついて新たに提示された。「自閉症の教育課程」においては、「自立活動」の中に新しく創

設された内容を踏まえて、指導を充実させていく必要がある。詳しい内容は表 5 の通りで

ある。さらに、「自立活動の指導は(中略)、学校の教育活動全体を通じて適切に行う」とさ

れており、学校での教育活動全体を通して、個々の児童・生徒の実体に応じて指導する必

要がある。

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表 5.自閉症の教育課程として新たに創設された内容

「内容」および「指導計画の作成と内容の取り扱い」より

(小・中学部学習指導要領 第 7 章 自立活動)指導のポイント

「人間関係の形成」(1) 他者とのかかわりの基礎に関すること。

(2) 他者の意図や感情の理解に関すること。

(3) 自己の理解と行動の調整に関すること。

(4) 集団への参加の基礎に関すること。

自分や他者理解を深めて対人関係

を円滑にし、集団参加の基盤を培

っていく。

「環境の把握」(2) 感覚や認知の特性への対応に関すること。 感覚の過敏さ等への対応や、認知

の偏り等に対応する指導を行う。

「指導計画の作成と内容の取り扱い」

(3) ア 児童又は生徒が興味をもって主体的に取り組み、成就

感を味わうとともに自己を肯定的にとらえることが

できるような指導内容を取り上げること。

自閉症児や学習障害児等の指導に

おいては、児童・生徒の自己肯定

感を高めることが重要である。

(東京都教育庁指導部義務教育特別支援教育指導課(2009)特別支援学校新学習指導要領に関する資料(新旧の対比))

<東京都教育委員会の基本的な考え方>

東京都教育委員会の調査によると、近年、知的障害特別支援学校に在籍する児童・生徒

の約 40%が自閉症、広汎性発達障害、あるいは自閉的傾向があると診断されていることが

わかり、自閉症の障害特性を踏まえた指導法の開発が重要視されてきた。平成 16 年に策定

された「東京都特別支援教育推進計画」の中で、自閉症の児童の教育課程の研究・開発に

取り組む方向性が示された。

表 6 の通り、第一次実施計画(平成 16 年度から 19 年度)では、自閉症児童・生徒の教

育課程の研究・開発が行われ、「知的障害」「自閉症」の 2 つの教育課程が編成された。さ

らに、自閉症教育課程ではその障害特性に応じた指導として「社会性の学習」が創設され

た。これに基づいて専門的な指導内容・方法などが研究・開発された。第二次実施計画(平

成 20 年度から 22 年度まで)では、新たに設置された自閉症学級において、学習環境にお

ける配慮事項(構造化)や指導体制について検証が行われた。平成 22 年度までに小・中学

部のある知的障害特別支援学校全校で自閉症学級が編成され、自閉症の教育課程が実施さ

れた。

平成 22 年 11 月に「東京都特別支援教育推進計画第三次実施計画」が示され、自閉症教

育における学習環境(校内環境)の整備のあり方について、今後、さらに研究・開発が進

められる予定である(表 7)。

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表 6.東京都特別支援教育推進計画 第二次実施計画

項目第一次

実施計画第二次実施計画 長期計画

16~19 年度 20 年度 21 年度 22 年度 23~25 年度

自閉症の教育課

程の編成と実施 自閉症の

教育課程の

開発・研究

(10 校)

知的障害特別支援学校

小・中学部設置校全校

で実施

自閉症の児童・生

徒で編成した学

級における指導

の検証

試行 拡大

表 7.東京都特別支援教育推進計画 第三次実施計画

自閉症教育の成果を活かした学習環境の整備・充実

項目一次・二次計画 第三次実施計画

16~22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26~28 年度

自閉症教育の

成果を活かし

た学習環境の

整備・充実

リーフレット等

作成・配付

ガイドライン

の検討

ガイドライン

の作成実施

さらに、今後はこれまでの研究成果を踏まえ、中学部における「社会性の学習」の研究・

開発と指導書の作成、高等部における環境整備を中心とした自閉症教育の研究・開発が進

められる予定である。また、これに並行して「自閉症の児童・生徒で編成した学級におけ

る指導の検証」を進め、発達検査講習会などを実施して教員の専門性の向上を図っていく

ことが示された(表 8)。

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表 8.東京都特別支援教育推進計画 第三次実施計画

自閉症の児童・生徒への指導内容・方法の充実

項目一次・二次計画 第三次実施計画

16~22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26~28 年度

自閉症の

児童・生徒への

指導内容・方法

の充実

*16~19 年度

まで試行

*22年度より、

都立知的障害

特別支援学校

(小・中学部設

置校)全校で、

自閉症の教育

課程を実施

教育課程の開

発と中学部指

導書の作成

成果普及

高等部検討委

員会の設置と

指定校による

研究・開発

成果普及

発達検査講習

会の実施

○教育課程

東京都教育委員会は、平成 22 年度より、小学部・中学部のあるすべての知的障害特別支

援学校で自閉症の教育課程の実施を開始した。これによって、知的障害特別支援学校では

表 9 のように「知的障害」「重度・重複」「自閉症」の三つの教育課程を編成できるように

なった。

表 9.知的障害特別支援学校における教育課程の編成

○学部 △学年

普通学級

・知的障害の教育課程

・自閉症の教育課程

重度・重複学級 ・重度・重複学級の教育課程

自閉症の教育課程では、「各教科等を合わせた指導」の中に「社会性の学習」を位置づけ、

自閉症の障害特性に応じた指導を実施することとした。「社会性の学習」では、「一人一人

の自閉症のある児童・生徒が、対人関係や社会生活にかかわる行動について対応できるよ

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うに必要な知識、技能及び習慣を養い、適切な支援を受けながら行動できる力を培う」こ

とを目標として示した。

また、「認知の学習」(情報処理の特性に応じて、弁別や言語の獲得、情報処理に対応し

た認知の向上を目指す指導内容や方法)、「般化の学習」(場面が変わっても持っている力を

発揮・応用できるようにする指導内容や方法)の指導も領域・教科の指導内容・方法とし

て位置づけた。同時に、自閉症の教育課程を実施するにあたっては、学校生活等における

教育活動全般を通して、自閉症の障害特性に配慮した指導を行う大切さも明記した。

各学校において自閉症教育の改善・充実を図っていくために、平成 19 年度に「自閉症の

障害特性に応じた教育のガイドライン」が示された(表 10)。本校では、このガイドライ

ンを念頭に置き、文献から学んだことや本校の児童・生徒の実態についての調査を生かし、

自閉症教育の評価・改善・充実を図ってきた。

表 10.自閉症の障害特性に応じた教育のガイドライン

学校としての取り組み

①児童・生徒の実態を把握する。(医療的診断、障害の程度など)

②自閉症の教育課程の編成を検討する。(実施学部、学年)

③自閉症を伴う児童・生徒で構成する学級の設置について検討する。

④自閉症への教育的配慮を整理し確認する。

⑤環境の整備(教室の構造化、校内表示など、わかりやすい環境)を図る。

⑥教員の専門性向上のための研修(自閉症の理解と指導・支援)を計画する。

⑦専門機関、医療機関などとの連携を図る。

⑧自閉症教育の改善・充実について教員の共通理解を図る。

学部、学年としての取り組み

①自閉症の実態把握を進める(アセスメント、コミュニケーションの方法と支援、行動障害

の対応、得意な分野の把握)。

②年間指導計画を作成する。

○「社会性の学習」の指導計画 ○「認知の学習」「般化の学習」の内容や形態について

の検討 ○自立活動における全教育活動での配慮事項の確認 ○各教科等における関連

性、指導上の配慮事項

③週時程の工夫(モジュールでの時間設定の工夫や各教科等との関連性の工夫等)

④行事計画の工夫(自閉症の障害特性に応じた内容や配慮事項などの検討)

⑤個別の教育支援計画における配慮事項(療育機関、支援センターとの連携)

⑥個別指導計画における配慮事項(短期目標におけるコミュニケーション、行動障害、感覚

の過敏性、社会性の障害などへの対応・配慮を明記)

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学級としての取り組み

①学級における自閉症の実態把握(学習、発達、認知、コミュニケーションのレベルを確認)

②自閉症を伴う児童・生徒の学級での指導を工夫する。

③「社会性の学習」に関する指導内容を工夫する。

④「認知の学習」「般化の学習」を実践的に取り入れる。

⑤教室の構造化、スケジュールの提示を工夫する。

⑥行動障害の分析と対応を検討し、工夫する。

⑦交流及び共同学習などを検討する。

⑧家庭や地域との連携と指導の般化の工夫をする。

⑨個別の教育支援計画、個別指導計画の作成と配慮事項の確認をする。

⑩主治医や医療機関、発達障害者支援センターなどとの連携を図る。

教員一人一人の取り組み

①障害特性と一人一人の状態に着目し実態を把握する。(コミュニケーションの方法、感覚

過敏、認知の特性、般化の特性など)

②「認知の学習」「般化の学習」での学習課題や目標の検討

③「社会性の学習」の指導(対人関係、ソーシャルスキルの学習内容)

④自立活動に関する指導(コミュニケーションなど、全教育活動で配慮)

⑤家庭生活、地域生活、職業生活、余暇活動にかかわり般化の視点での指導

⑥各教科等の指導との関連性(学習の般化、応用の視点での指導)

⑦指導上、必ず配慮する内容

○視覚的手がかりの活用 ○シングルフォーカスや刺激の過剰選択性への配慮 ○感覚

過敏への配慮(偏食、音など) ○こだわりなどへの分析と変容手続き ○見通しをもち

やすくする工夫 ○応用、般化の手だて ○コミュニケーション手段の開発 ○予定変更

への配慮 ○教師との 1 対 1 の信頼関係の構築

(東京都教育委員会(2006)自閉症の障害特性に応じた教育のガイドライン)

○社会性の学習

自閉症の障害特性の一つである「社会性や対人関係の障害」に起因して起こる行動によ

って、周囲からは問題行動とうつり、本人にとっては社会生活が不便・不快なものになっ

てしまう。本校の実態調査の結果からも、持てる能力が周囲に理解されにくいことがわか

った(結果はⅡ.調査研究に記述)。

「社会性の学習」のねらいは、社会性の障害そのものの改善・克服ではない。障害ゆえ

に生じる、周囲との関係で生じる困難さを軽減し、社会参加の幅を広げていくことにある。

そのため、自閉症の障害特性を踏まえながら、学習上・生活上の様々な困難の状況を解消・

改善できるような能力やスキルを身につけさせ、高めていくことを目指すものである。「社

会性の学習」は自閉症の児童・生徒にとって最も苦手な領域の指導形態であることに留意

し、他者の存在への気付きや、人を介した行動を形成し、他者との関わりを「行動モデル」

として学ぶようにすることがポイントである。

社会性にかかわる障害は、4 つのタイプに分けられると考えられる(表 11)。

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表 11.自閉症の社会性にかかわる障害 4つのタイプ

① 周りの人が存在しないかのように振舞い、呼ばれても振り向かない。話しかけられても答

えず、時たま人をいちべつするだけでこちらを見ぬ振りをするか見過ごしたりする。

② 人との接触を受け入れ、他人を避けることはしないが、自分から人と関わろうとすること

が少ない。

③ 周りの人へ自分から積極的に関わろうとするが、一方的になってしまうことが多い。

④ 周りに合わせて行動しようとするが、相手の気持ちを考えたり、時間や周囲の状況に応じ

て行動したりすることが困難である。

「社会性の学習」は「対人関係に関する内容」と「ソーシャルスキルに関する内容」の

二つの内容を基本としている(表 13)。以下に示す指導目標(表 12)を念頭に置き、児童・

生徒の発達段階に応じた指導を展開する。

指導の形態は、児童・生徒の実態や活動内容に応じて、一対一の指導、一斉指導、チー

ム・ティーチングなど、工夫するようにする。

表 12.「社会性の学習」指導目標

一人一人の児童・生徒が、社会性の障害を有することを前提に、対人関係や社会生活に

かかわる行動について対応できるように必要な知識、技能及び習慣を養い、支援を受けな

がら行動できる力を培う。

表 13.「社会性の学習」指導内容

対人に関する内容 ソーシャルスキルに関する内容

・人への対応の仕方の理解と具体的な行動、その

援助方法

・状況への対応の仕方の理解と具体的行動、その

援助方法

・役割のある行動、その援助方法

・社会的マナーに関する行動、その援助方法

・ルールの理解と具体的行動、その援助方法

① 身近な人の存在の意識と人を介した行動

② 人の名前・顔・表情等の弁別

③ あいさつ、許可、禁止、依頼等の言葉の理解、

対応、表現

④ 人からの期待の理解

⑤ 周りの人に合わせた行動

① 状況に応じた適切な行動

② 因果関係の理解

③ 順番やルールの要素の理解と行動

④ 役割行動への評価の理解

⑤ 地域や職場など学校以外の場所でのその場に

あった適切な行動

⑥ 状況に合わせた自分の行動の管理・調整

(セルフ・マネージメント)

(東京都教育委員会(2006)自閉症の障害特性に応じた教育のガイドライン)

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○学級編制

「自閉症の教育課程」は、自閉症の障害特性に応じた指導を行うため、また、学習集団

や担任との関係に見通しを持って学習を行えるように、学級単位で実施することが重要で

ある。学級経営にあたっては、自閉症の障害特性や一人一人の実態に応じた指導が必要で

ある。

○学級経営のポイント

児童・生徒が日々の生活を混乱なく心理的に安定した状態で送れるようにするためには、

学習環境を整えることが大切である。場所や時間、活動内容などを、児童・生徒一人一人

の課題や実態に応じて、視覚的にわかりやすくする指導の工夫を「構造化」と呼ぶ。構造

化は、児童・生徒に見通しを持たせ、主体的な活動を促すために必要である。

構造化には、「物理的な構造化」「時間の構造化」「活動の構造化」の三つのポイントが考

えられる(表 14)。基本的な環境を整えた後は、児童・生徒の実態に応じて修正するなど、

柔軟な対応を行っていくことが必要である。

中学部における学習環境の整備においては、表 14 の基本的なポイントを踏まえたうえ

で、さらに表 15 の視点が重要になる。

表 14.「構造化」の三つのポイント

物理的な構造化 ① 活動場所を設定し、どこで何をするかわかりやすくする。

② 取り組む課題に注目できるように、つい立の設置、掲示物の整理などで視覚

的な情報を整理する。

スケジュール、物の置き場所などを絵や写真を使って視覚的に提示する。

③ 個別学習スペースを設け、活動の基点にする。

④ 日常生活の活動がしやすいように、教室内を配置する。

時間の構造化

(学習内容を視覚

的に示していく)

① 何をするのか理解して活動するため、1 日、1 週間、1 ヶ月の視覚的な予定を

提示する。

② 活動に見通しを持って参加できるよう、視覚的なスケジュールカードなどを

使用する。

活動の構造化 ① 活動や作業の順番や手順をわかりやすくするため、作業の終わりまでを見通

せるワークシステムや手順書を作成する。

② 視覚的支援でコミュニケーションを図ることができるよう、教材・教具を工

夫する。

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表 15.中学部での「構造化」のポイント

① 小学部での実践に基づいて、構造化をゆるやかなものにしていく。

② 自立して活動できるような配慮を継続して行う。

③ 更衣室で着替えるなど、生活年齢を尊重する。

④ 学習活動がしやすいように教室内を配置する。

⑤ 高等部や、その後の社会生活へ移行する視点を持って、将来の進路先の環境も考える。

○教員がかかわる際の配慮事項

児童・生徒には愛情を持ってかかわり、信頼関係を育んだ上での指導を大切にする必要

がある。しかし、他傷等やってはいけないことは、たとえ障害があっても許される行動で

はなく、きちんとした指導で改善されていくものである。社会の中で他の人とかかわって

幸せな生活を送っていくために、人間としての善悪を身につけられるよう、心をひきしめ

て指導に当たることが大切である。

働きかけはわか

りやすくシンプ

ルに

言葉を精選し、一つできたら次の指示を出すなど、児童・生徒が今やるべきことを

一つずつ確実に伝えられるように言葉かけをする。

視覚の優位性を

活かす

言葉を聞くより、目で見た情報のほうが理解しやすい(視覚優位)ため、写真や絵

カードなどを活用し、興味をひきつけたり理解を促したりして学習を進めると良い。

具体的な指示を

する

あいまいなことばが苦手なため、「少し」は「○○個」、「早く」は「時計の○○ま

で」、「ちゃんと」は「全ての箱に物を入れるまで」「10 数えるまで」等と、具体的な

数字や目に見えるかたちに置き換えてわかりやすく伝えることが大切である。否定的

な言葉に反応する児童・生徒には、「○○しないでください」ではなく、「△△してく

ださい」と言い換える工夫も大切である。

「ほめる」こと

の大切さと注意

課題や活動が終了し、できたことを「ほめる」ことは大切である。子どもの行動に

対して評価を返すこと、喜びや達成感を共有することでさらに取り組みへの意欲を促

進させることができる。大人になったときに社会的に受け入れられる適切なかかわり

ができるように、小学部低学年の段階から少しずつ身体に触れるような評価をなくし

ていくことを念頭に置いて指導する必要がある。「まる○」「よくできました」などの

言葉や、握手などで軽く触れる程度の評価でも十分に喜びや達成感を感じられる習慣

をつけることが大切である。

音などの刺激へ

の過敏性

音などに過敏に反応する場合がある。日常生活で使う BGM の音量、高音、ヘリコ

プターの運転音、徒競走のピストルの音など、一人一人苦手な音は異なるため、細心

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の注意が必要である。我慢を強いるのではなく、苦手な音の刺激を少なくする、イヤ

ーマフや耳栓を使うなどの配慮を行うことが大切である。

音の他にも、洋服の汚れがとても気になるなどの場合には替えの服を用意しておく

など、配慮が必要である。

こだわりに対す

る対応

児童・生徒は一日中こだわっているのではなく、こだわっていない時間のほうが多

い。なぜ起こっているのか、児童・生徒の思いに立って考えることが必要である。人

によって様々なこだわりが見られ、なくなったと思ったら別のこだわりが生じること

もある。こだわりを上手に活用した課題や活動の設定、意識をこだわりの対象から別

の物へ向けられるように促す等、一人一人に合った支援が必要である。日常生活の営

みを困難にしてしまうようなこだわりに対しては、そのこだわりをゆるやかにしてい

くことで、生活を送りやすくしていくことも大切である。チームティーチング等で複

数の教員が一人の子どもにかかわる際には、同じ対応ができるように事前に打ち合わ

せをしておくことが大切である。

自傷・他傷への

対応

自傷や他傷はコミュニケーションの一つと考えられている。上手に言葉で伝えられ

ないために、不快なことが起きたとき、注目してほしいとき、何もすることがないと

き等に起きることがある。起こったときには黙って手を押さえるなど、安全確保を行

い、気分転換を図るようにする。起きた原因を探り、取り除きながら、自傷や他傷に

かわる適切な表現方法を身につけていけると良い。

子ども自身から

発信できるコミ

ュニケーション

の手段を確立す

特に発語がなかったり障害が重度だったりする子どもの言語に代わるコミュニケ

ーション手段として、写真カードなどを用いる工夫をする。その際、VOCA(ボタン

を押すと録音した音が出る機器)を用いて自分から離れた所にいる人に呼びかけられ

るようにしたり、PECS のように伝えたいカードを細長いバーに貼り付けてそれを相

手に渡すようにしたりすることで、相手と適切な距離を持ちながらコミュニケーショ

ンが取れるような工夫を考える必要がある。また、PECS の手法では物の属性をカー

ドで伝えることが可能となる。子どもが欲しいのは「常温の」水ではなくて「冷たい」

水だったり、「ジュース」ではなくて「りんご」ジュースだったりする。その属性も

含めて相手に要求を伝え、自分の欲しいものを手に入れる喜びこそ、子どもからの自

発的なコミュニケーションの力を伸ばしていく。

教材教具の工夫 視覚的な教材を工夫して理解を促したり、作業をしやすくするための道具を開発し

たりして、子どもが自分の力でできるようにする。さらに、それらの教材を認知の課

題として使用するだけではなく、教材・課題を通して、コミュニケーションや模倣な

どのやりとりを行うことで社会性の力を育むことが可能である。

文字の指導 自閉症の人は、単語を一文字ずつの集まりでできた言葉ではなく、一つの記号とし

て捉えている場合がある。そのような実態の子どもに対しては、「①ひらがな」「②カ

タカナ」「③漢字」の順に習得していくのではなく、「ひらがな」や「漢字」等の区別

なく、最初から社会で使用されている文字を学習することが可能な場合がある。例え

ば、名前は「漢字」で表記するのが正式であり、「ひらがな」で個人の名前を表すの

は年齢の低い小学部の間くらいである。自閉症児にとって、「ひらがな」の名前と「漢

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字」の名前は全く別個の記号であり、大きくなってから改めて「漢字」の名前を覚え

直さなければならなくなる。それならば、個人名は最初から「漢字」で覚えるなど、

公共で使用されている文字を正式な表記で学習することで、覚え直しの手間を省き、

生活に必要な情報を身につけていくことができる。

個別対応と集団

参加

自閉症の子どもは、個別にプログラムされた課題や活動には比較的良く取り組むこ

とができる。しかし学校卒業後の生活を考えると、集団生活に参加する力を身につけ

ていることが大切である。個別に対応した指導から始め、少しずつ大きな集団の活動

に参加していけるように、将来を見通して指導を展開する必要がある。

友だちとのかか

わり

相性の良い友だち、あまりうまくいかない友だちなどが存在する。突発的な奇声の

ある子どもと聴覚過敏のある子どもを一緒にしない等、学級やグループ編成では配慮

が必要である。

家庭との連携 自閉症の子どものより良い理解のためには、保護者と学校とが情報を共有している

ことが最も大切である。また、家庭と学校とで一貫した同じ指導を展開することで、

子どもの混乱を防ぎ、効果的に成長を促すことができる。

医療機関との連

医療機関等と情報を交換して連携を図ることで、より専門的な立場からの意見を指

導に生かすことができる。また、保護者も知らない学校での子どもの様子等を専門家

に明確に伝えることで、より良い支援方法を探す手がかりとなる。

4)青年期・成人期の対応(就労支援や社会参加のための支援)

一般に、就労し働き続けるためには、自分がどういう仕事ができるか、どのような仕事

が向いているか考える必要がある。次に求人情報を見つけて面接などに行く。就職が決ま

り働き始めたらその仕事に慣れ、様々な生活の変化に適応しながら働き続けることになる。

障害のある人がこれら全てを自分一人の力で行っていくのは難しいと考えられ、就労や卒

業後の生活には一人一人に応じた継続的な支援が必要である。

自閉症の障害特性を考えると、就労にあたって大きな力となる特性があることがわかる。

決まった内容の仕事を教わった手順の通りに正確に続けられる力のある自閉症の方に、そ

の特性を生かせる仕事がみつかれば、安定して勤めることができる例も多い。しかし同時

に、こだわりや対人関係の困難さなどの特性を踏まえて、職場での人間関係などの調整、

理解やフォローが必要なことはいうまでもない。無理なく通勤できるための立地条件も考

えなければならない。

例えば、本校の卒業生 A さんは、高等部 1 年生と、2 年生の前半に行われる現場実習で

違う職種の経験をした。本人の適正として、体を使い、単調だが繰り返しの仕事が向いて

いる、という判断はあったが、初めから職種を絞らずに、あえて様々な経験を積み、本人

に向いている仕事を見つけていくことを重視した。その結果をうけ、2 年生後半から 3 年

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生で行う現場実習では、封入や書類の仕分け、パソコン入力の仕事に絞って実習を行った。

丁寧で正確な仕事ができ、作業態度もきちんとしていて、高い評価をうけることができた。

対人関係において、周りの人と歓談することは苦手な様子が見られたが、障害の特性(個

性)によるものであることを職場の方に理解していただけた。しかし、時間の急な変更等

に本人が対応しきれないという一面も見られた。そこで、卒業後は、地域の作業所に通い

ながら、就労支援センターと連携して、焦らずに企業就労の道を探っていくこととした。

本人の時間に対するこだわりをゆるやかにしていく取り組みを行うとともに、適正にあっ

た職場を探したところ、卒業後 2 年を経て、検査機器を洗浄する仕事につくことができた。

就労後も就労支援センターを中心に、学校とも連絡を取り合いながら、定着支援を行って

いる。

このように、自閉症の方は、仕事への取り組みは評価されるものの、職場での人間関係

や急な変更への対応の困難さから、持っている力を発揮できず、うまく就労につながらな

いケースが見られる。事前の面談や実習中、さらには就労後も巡回を行い、職場での調整

を行っていく必要がある。就労については、本人の努力はもちろん、周囲の者の支援がと

ても重要なのである。

働くことは生活の中の大部分の時間を占めるが、生活を楽しみ充足感をもって生きるに

は余暇生活の支援も必要である。本人が心から楽しめること、熱中できることを家族等、

周囲の者も大切にしていきたい。

自閉症の障害特性を生かし、学校教育の中で就労につながる能力を高め養っていくこと

で社会参加や自立が可能になるケースが多い。このために高等部において教育課程・指導

内容と指導方法を工夫することが重要である。

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Ⅱ.調査研究(平成 22 年度羽村特別支援学校児童・生徒の実態)

1.本校における自閉症児童・生徒の実態

1)児童・生徒数および学級数

本校小・中学部に今年度在籍している自閉症の児童・生徒数についてまとめたものが

表1である。現在本校には、小学部に 83 名、中学部に 79 名の児童・生徒が在籍してお

り、そのうち、自閉症と診断されている児童・生徒は、それぞれ小学部 57 名(約 69%)、

中学部 41 名(約 52%)、小・中学部合計で 60%である。今年度の各学年の自閉症学級数

は、小学部では 5 学年で 1 学級ずつ(1学年は2学級)、中学部では全学年 2 学級ずつと

なっている。表 2 は、各学部の自閉症の児童・生徒の在籍学級についてまとめたもので

ある。学年の自閉症学級数が少ない小学部では、自閉症学級以外にも多くの自閉症の児

童が在籍している。

表 1.本校の自閉症児童・生徒数及び、自閉症学級数

(平成 22 年 9 月 1 日現在)

表 2.在籍学級別の自閉症児童・生徒数(名)

学部 学年 児童・生徒数自閉症児童・

生徒数学級数 自閉症学級数

小学部 1年 13 9 3 1

2年 9 7 2 1

3年 11 6 3 1

4年 18 8 4 1

5年 16 14 4 1

6年 16 13 4 2

小計 83 57 20 7

中学部 1年 21 12 4 2

2年 25 13 5 2

3年 33 16 6 2

小計 79 41 15 6

合計 162 98 35 13

重度重複学級 普通学級 自閉症学級

小学部 83 57 8 18 31

中学部 79 41 1 5 35

計 162 98 9 23 66

児童・生徒数自閉症児童・

生徒数

自閉症児童・生徒在籍学級内訳学部

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2)各教科等指導場面にみる特性

各教科等の指導場面における自閉症児童・生徒の行動上の特徴を、在籍している全学

級から収集し、各事例について KJ 法的手法を用いて整理し、その特性について理解を

深めた。

<1.目的>

本校に在籍する自閉症児童・生徒の学習上・生活上の特性を把握し、指導の手立てを

考える。

<2.方法>

各学級・教科担任が、各教科等の指導場面における自閉症児童・生徒の実態を自由記

述で付箋に記入した。教科領域別に集約した児童・生徒の実態を、KJ法的手法で分類

した。

<3.結果>

本校の自閉症児童・生徒の各教科等指導場面にみる特性

教科等

指導場面項目 具体例 必要な配慮事項(例)

日常生活

の指導

○特定の物事へのこだ

わりがみられる

・いつもと異なることがあると不

安定になる。特定の場所・物へ

固執する。

・物の配置など覚えると、片付

けなどに自主的に取り組む。

○自分の世界に入って

しまう

・突然歌いだすことがある。 ・カードの提示などを通して状

況の理解を促していく。

○自己統制が難しい ・思い通りにならないと不安定に

なる。

・口頭よりもカードの指示が有

効な児童・生徒もいる。

○聴覚過敏 ・ぼうし・マスク・他者との接触

などが苦手。

・特性に配慮しながら、少しず

つ慣れていけるように場面を

限定するなどして取り組む。

○色、味覚、触感などで

極度の偏食がある

・食材を一つずつ食べる。

・見た目で食べられないことがあ

る。

・苦手さを理解した上で、量や

提示を調整して改善されるよ

う取り組む。

○多動・注意の転動 ・整列することが苦手。

・気になるものがあると気が散

る。

・足型シールを活用する。

・不必要な物を教室に置かない。

生活単元

学習

○変化が苦手 ・初めての活動に不安を示す。

・歩行でルートが異なると不安定

になる。

・予定を伝えることで受け入れ

られることもある。

・手順カードや繰り返しの活動

で見通しをもてる。

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図工・美術 ○感覚・触覚過敏 ・ベトベトの感触が嫌い。

○こだわりがみられる ・貼り絵を並べて貼る。

・決まった絵を繰り返し描く。

・特性に配慮して題材を工夫す

る。

○手指の操作性の問題 ・雑になってしまう。(手先の活動

が得意な児童・生徒もいる)

・活動によっては、補助具を活

用する。

○作業工程の伝え方の

工夫

・自発的な取り組みが困難。 ・手順表があると自分で進める

ことができる。

体育 ○模倣が苦手・得意 ・ダンス・体操が苦手。(得意な児

童・生徒もいる)

・物を介した動きの模倣などか

ら取り組む。

○聴覚過敏・平衡感覚 ・同じ速度の遊具を好む。

○ボディーイメージの

弱さ

・屈伸がうまくできない。 ・鏡を見ながら身体を動かすな

どする。

○距離・位置の保持困難 ・ふらふらして歩き回る。 ・ケンステップ・足型の活用で

活動場所がわかる。

音楽 ○模倣が苦手・得意 ・ダンスが困難。

模倣の得手不得手。

・歌をすぐに覚える。

・物を介した動きの模倣などか

ら取り組む。

○音楽に合わせるのが

困難

・音に合わせて演奏・歌唱が困難。

○聴覚過敏 ・大きな音を嫌がる。

・耳をふさぐ。

・イヤーマフの活用や、環境・

集団等を工夫する。

○待つことが苦手 ・待ち時間ができると自己刺激行

動がみられることもある。

・待ち時間を少なくする。

国語・算数

/数学

○変化に弱い ・新しい課題に取り組むのが苦手。

・パターンで課題を覚えてしまう。

(例:「あ」を見て、あひると言う。)

(例:引き算の問題が変わると解

けない。)

・作業的な活動は得意。

・手順表が有効。

○注視が苦手 ・集中して見続けることは困難。 ・興味のある課題を用い、少し

ずつ集中する時間が長くなる

ようにする。

○待つことが苦手 ・集団学習場面で待てない。 ・視覚的に提示する。

○情報の精選が必要 ・情報が多すぎると選択できない。 ・環境(カーテンでの目隠し等)

に配慮する。

○こだわりがみられる ・課題を自分流に並べる。 ・課題の提示方法を変える。

○コミュニケーション

の支援が必要

・挙手はしないが、目の前で「や

る人」と聞くと応じる。

社会性

の学習

○視覚的な支援が有効 ・終わりがわからないと不安定に

なる。

・「○○までシールを貼ったら終

わり」という視覚支援で落ち

着いて取り組む。

○ルールの理解が困難 ・ルール理解に時間がかかる。

作業 ○明確な提示が有効 ・やることが不明確だと落ち着か

ない。

・「報告する」「○個つくる」な

ど約束を決める。

○集中力・持続力 ・一定の作業スピード・手順が

明確だと一定時間集中して取

り組める。

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分類の結果から、本校の自閉症児童・生徒の特性として、以下の傾向がわかった。

① 各教科等の指導場面にみられる特性として挙がってきた事例の内容について、小

学部と中学部での生活年齢による違いは見られなかった。

② 多くの教科領域等において、自閉症特有にみられる「こだわり」「感覚過敏」「待

つこと・あいまいなことが苦手」「変化に弱い」などが挙げられた。

③ 「手先の器用さ」「模倣の得手不得手」など、自閉症児の中でも個人によって実

態が大きく異なる例が挙げられた。

④ 長所として、「視覚からの情報処理が優位」「手順表による指示が有効」など、指

導の手立てを考える際、有効と思われる項目が多く挙げられた。

<4.考察>

調査研究の結果、本校の自閉症児童・生徒の指導事例から、Ⅰ章で述べた自閉症の障

害特性が項目として多く挙がってきた。文献から得られた内容と合わせて、以下のよう

な点に指導上配慮すべきであるという知見を得た。事例研究では、卒業後、就労に向け

て学校でどのような指導が必要であるかを考えることができた。指導計画(年間・個別)

の作成においては、これらの視点を生かしていく。

(1) 個々の発達段階と自閉症の特性をふまえた指導が必要である。

本校自閉症児童・生徒の指導事例より、「模倣の得手不得手」や「手先の器用さ」

など、個々の児童・生徒によって実態の異なる特性が多く挙げられている。一人

一人の得手不得手や、情報処理の仕方など、自閉症の特性を十分に把握し、個々

の発達段階をふまえた指導が不可欠である。

また、こだわりについては、文献でも述べられていたように一人一人現れ方が

異なっている。本校の指導事例からは、机や物の配置、特定の物・場所への固執

などが挙げられた。机の並び方が気になる子どもには、新しい並べ方を視覚的に

提示したり、並べ方を固定しないことでこだわりを軽減させたりするなどの支援

も考えられる。

(2) 学年の進行にかかわらず、自閉症の障害特性に応じた指導が必要である。

小学部と中学部とでは、教科等の指導場面における特性にほとんど差異が見ら

れなかった(例、こだわり、感覚の過敏性など)。このことから、自閉症の児童・

生徒の学習上・生活上の特性は、学年進行によって変化しないものがあると考え

られる。

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(3) 教室環境、スケジュールなど環境設定(構造化)に配慮する必要がある。

文献研究からも「注意力」や「感覚」についての自閉症の特性が挙げられてい

たように、本校の自閉症の児童・生徒の指導事例にも、「気になるものがあると気

が散る」「情報が多すぎると選択できない」「集中して見続けることが困難」など

が挙げられた。また、「感覚の過敏性」や「変化に弱い」ことも指導事例に多く挙

げられたことから、自閉症の児童・生徒へ指導上の配慮として、教室環境の整備

や、行事等を精選し予定の変化を少なくするなどの、時間や物理的な構造化が必

要であることがわかった。

(4) 手順表など、視覚的な支援を多く取り入れる必要がある。

文献からも自閉症の児童・生徒は「あいまいなことが苦手」であると挙げられ

ているように、本校の指導事例にも「待ち時間が苦手」「終わりがわからないと不

安定になる」「自発的な取り組みが苦手」などが挙げられた。

一方では、「手順表があると自分で進められる」「足型があると待てる」など、

視覚的な手がかりがあることで見通しをもって主体的に取り組むことができる

事例も多く挙げられた。文献の中でも多く挙げられていたように、指導の中では、

自閉症の児童・生徒の得意な部分として、視覚的な情報処理の優位性を活かした

支援を取り入れることが必須である。

(5) 認知の特性に応じた指導の工夫

文献より、自閉症の児童・生徒は、視覚的な情報処理が優位であることが示さ

れている。上述のように、本校の児童・生徒の指導事例からもそのような特性が

挙げられた。

目で見て理解することを得意とする一方、学習場面の指導事例として、「“あ”

をみると、“あひる”と言う」など、視覚的な情報をパターンで学習してしまう

傾向も挙げられた。自閉症の児童・生徒は、文字の学習において、一文字ずつの

学習よりも、単語をまとまりとして認識しやすい特性がある。認知の特性を長所

として活かしながら指導にあたる場合と、十分に配慮しながら指導にあたる場合、

どちらにおいても、学習内容に応じて指導を工夫していくことが大切である。

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2.児童・生徒の実態の把握

1)3つの客観的指標を用いた実態把握

文献研究に挙げられていたように、自閉症の主な合併症状は知的障害であり、本校の

自閉症児童・生徒は、知的障害を併せ有している。知的障害の程度は、子どもの発達へ

の影響が大きく、自閉症の傾向を知る上で手がかりとなる。したがって、自閉症の児童・

生徒の教育的ニーズを把握する際には、発達段階を把握する必要がある。

さらに、「社会性の発達の障害」と言われる特性について、一人一人がどの段階にあり、

どのような支援を必要としているのか等、社会性を中心とする自閉症の児童・生徒の教

育的ニーズを把握する必要がある。

本校では「認知・言語促進プログラム」「初期社会性発達アセスメント」「J☆sKep」の

3 つの客観的指標を用いて、自閉症児童・生徒の実態把握に努めている。

2)NC-プログラムにみる実態

本校では平成 21 年度より、児童・生徒の発達段階を把握するために、のぞみ発達クリ

ニックの津田望氏、東敦子氏により監修された「認知・言語促進プログラム(以下、NC-

プログラム)」を活用している。NC-プログラムの発達評価を活用により、児童・生徒の

客観的な実態把握および、国語・算数、数学の系統的な指導を目指している。

本校でこのプログラムを活用しているのは、標準化された発達検査にのらない児童・

生徒について、指導者である教員が比較的容易に発達評価を行うことができるからであ

る。同時に、指導プログラムがあることから、発達評価に基づいて系統的に指導内容を

考えることができるからである。

NC-プログラムについて

NC-プログラムは発達に障害をもつ子どものためのプログラムであり、子どもの発達課題を、「視覚

操作」「言語理解・表出」「聴覚記銘・視覚記銘」「読字・書字」「数」「微細運動・粗大運動」の領域に

細分化している。各領域はそれぞれ 0.6 歳から 6.0 歳までの 6 段階にわけられ、各発達段階における課

題が系統的に示されている。

NC-プログラムから、記録用紙の「発達記録チャート」をみて、児童の得意な領域や不得手な領域

を読み取る。この発達記録チャートの領域別の内差を眺め、発達タイプは次の4タイプに分類される。

タイプ 実態

H タイプ 上限領域と下限領域の差が比較的少なく、各領域の通過上限項目

が概ね高年齢域の位置にある。

L タイプ 上限領域と下限領域の差が比較的少なく、各領域の通過上限項目

が概ね低年齢域の位置にある。

M タイプ 上限領域と下限領域のジグザグが比較的少なく、各領域の通過上

限項目がほぼ中央域にある。

Z タイプ 上限領域と下限領域のジグザグが比較的大きく、子どもの発達の

個人内差が大きい。

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本校の自閉症児童・生徒の NC-プログラム発達評価による結果を、在籍学級別に分類

したものが表 3、タイプ別に分類したものが図 1・2 である。

表 3.本校小・中学部児童・生徒の在籍学級別発達タイプ(名)

図 1.小学部自閉症児童 NC 発達評価タイプ 図 2.中学部自閉症生徒 NC 発達評価タイプ

本校の自閉症児童・生徒の NC-プログラムによる発達タイプをみてみると、小・中学

部ともに最も少ないのは L タイプ(10%)であった。また、表 3 をみると、L タイプの

児童・生徒は、自閉症学級以外の学級に在籍しているケースが多いことがわかる。小学

部で最も多いのは Z タイプ(59%)であった。

中学部では、Z タイプ(34%)と H タイプ(36%)が多かった。図 1、2 にもみられ

るように、H タイプの割合が中学部で多くなることから、中学部から本校に入学してく

る自閉症の生徒には H タイプが多いといえる。

学部 学級 Lタイプ Mタイプ Zタイプ Hタイプ

中学部 重度重複学級 1 0 0 0

普通学級 2 0 0 3

自閉症学級 1 8 14 12

小計 4 8 14 15

学部 学級 Lタイプ Mタイプ Zタイプ Hタイプ

小学部 重度重複学級 3 0 5 0

普通学級 3 1 12 2

自閉症学級 0 7 17 7

小計 6 8 34 9

Mタイプ

20%

Zタイプ

34%

Hタイプ

36%

Lタイプ

10%

Zタイプ

59%

Mタイプ

14%

Lタイプ

10%Hタイプ

17%

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小・中学部ともに Z タイプが多かったことから、例えば、操作的な課題や文字の読み

書きはできても言語の理解や表出が困難であるなど、認知の発達がアンバランスな自閉

症児童・生徒が多いといえる。また、中学部では H タイプも多かったことから、認知面

ではバランスのとれた発達がみられるものの、それ以外の場面で課題のみられる生徒が

多いことも考えられる。この結果からも、発達段階の評価に加え、社会性を中心とする

自閉症の児童・生徒の教育的ニーズの観点から自閉症の児童・生徒の実態を把握する必

要性が確認された。

3)初期社会性発達アセスメントにみる実態

本校では、自閉症児童・生徒の実態把握に向けて、筑波大学の長崎勤教授らによる「初

期社会性発達アセスメント(以下、AES)」を実施・活用している。

AES について

「社会性の発達の障害」は、自閉症の子どものもつ特性の一つである。AES は、自閉症の子ども

が課題とする社会性の初期の発達段階を、「模倣・役割理解」「共同注意」「情動共有」「コミュニケー

ション」の 4 つの領域によってアセスメントし、レベルⅠ、Ⅱ、Ⅲの 3 つの段階に分けて評価してい

る。各レベルの名称と概要、および、3 つのレベルの内容を領域別に示したものが表 4、5 である。

表 4.AES における初期社会性発達段階の概要

レベルⅠ

「行動と情動の共有」

・通常 6-8 ヶ月の発育段階で現れる。

・行動や情動などの身体的な活動の共有や、物の操作の模倣ができる。

・アイコンタクトやアイコンタクトの伴った情動の共有。

レベルⅡ

「目標と知覚の共有」

・通常 9-12 ヶ月の発育段階で達成される。

・大人が何か行動すると、その意図と目標を理解して自分も同じ行動をとる。

・大人に働きかけられて共同注意が成立する、その際に情動を共有する。

レベルⅢ

「意図と注意の共有」

・通常 1-2 歳の発育段階で現れる、能動的(自発的)な働きかけ。

・三項関係への能動的な参加ができる。 ・簡単なルールのある遊びができる。

・役割を交代して「働きかける側の役割」をすることができる。

表 5.AES における初期社会性の 3つのレベルと 4つの領域

領域 レベルⅠ「行動と情動の共有」 レベルⅡ「目標と知覚の共有」 レベルⅢ「意図と注意の共有」

模倣・

役割理解

・物 1 つを用いた大人の動作

を模倣できる。

・物 2 つを用いた大人の動作を模

倣できる。物を使わない大人の

動作を模倣できる。

・大人の役割が模倣できる。

共同注意 ・アイコンタクトが既に可能。 ・大人からの働きかけに応じて成

立する受動的な共同注意が可

能。

・興味をもった玩具を大人に

見せるなどの、子どもから

大人に向けた能動的な共同

注意が可能。

情動共有 ・アイコンタクトにともなっ

て情動が共有される。

・共同注意や大人との物を介した

遊びの際に情動が共有される。

・大人を笑わせようとするな

ど、子どもからの能動的な

情動共有が可能になる。

コミュニ

ケーショ

<要求伝達>リーチングなど

での要求をする。

<相互伝達>大人の体を触る

などの能動的な働きかけを

する。

<要求伝達>指さし、サイン、発

声、視線などの伝達手段を組み

合わせた要求が可能になる。

<相互伝達>ボールのやりとりな

どの遊びをする。

<要求伝達>物を持ってきて

行為の要求をするようにな

る。

<相互伝達>簡単なルールの

ある遊びが可能になる。

(長崎氏らによる「自閉症児のための社会性発達支援プログラム」を参考に作成)

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本校の自閉症児童・生徒の AES の発達支援レベル(現在の課題となるレベル)の内訳

を表 6 に、レベル別の割合を図 3、4 に示す。

表 6.本校自閉症児童・生徒の AES 発達支援レベル(名)

図 3.小学部自閉症児童 AES 発達支援レベル 図 4.中学部自閉症生徒 AES 発達支援レベル

中学部になると、一番高いレベルであるレベルⅢを課題とする生徒や、全てのレベル

の達成率が 8 割以上で概ね初期社会性発達アセスメントのレベルを達成すると考えられ

る生徒が増えている。しかし、小学部、中学部ともに、レベルⅠを課題とする児童・生

徒からレベルⅢを課題とする児童・生徒までと、幅広い実態があり、各学年内や各学級

内でも自閉症児童・生徒の社会性の発達段階に幅広さがあると考えられる。このことか

ら、一人一人の発達支援レベルに即した指導を行う必要がある。

発達支援レベル:現在課題とするレベル 小学部 中学部

レベルⅠ「行動と情動の共有」 16 7

レベルⅡ「目標と知覚の共有」 15 11

レベルⅢ「意図と注意の共有」 22 19

達成(レベルⅠ~Ⅲすべて80%以上達成) 4 4

小計 57 41

レベルⅠ28%

達成7%

レベルⅢ37%

レベルⅡ26%

レベルⅠ17%

達成10%

レベルⅢ46%

レベルⅡ27%

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4)J☆sKep にみる実態

AES のほかに、自閉症の特徴的な実態の程度を把握するアセスメンとして、本校では、

齊藤宇開氏を代表とする「たすく株式会社」の J☆sKep を活用している。

J☆sKep についてJ☆sKep では、自閉症の子どもの教育を行うにあたって課題学習や自閉症の特性に応じたグループ

学習など授業の「ねらい(目的)」となるものとして以下のような 7 つのキーポイントを提案している。これらのキーポイントから自閉症の特徴的な実態の程度を把握することができる。また、学んだことをステップアップさせてその他の場面で般化できるように「機能的な」目標を立てて指導にあたっていくものである。

以下は、本校の自閉症児童の事例である。7 つのキーポイントを参考に課題を設定し

たり、平均点を参考に「社会性の学習」の集団を編成したりして、指導に活用している。

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Ⅲ.実践研究

研究の経過

本校では、平成 20 年度に小学部に 1 クラスの自閉症学級を試行的に設置し、21 年度に

は小学部・中学部の全学年に自閉症学級を設置して、自閉症学級の考え方や「社会性の学

習」の進め方など、研究を進めてきた。

平成 22 年度には、東京都の自閉症教育推進事業研究指定校となり、「たすく株式会社」

の齊藤宇開氏の助言を受けながら、校内研修・研究会を実施して学びを深めてきた。

これらの研究と並行して、今年度は月 1 回自閉症担当者会を実施し、自閉症学級の年間

指導計画や個別指導計画の整理も進め、自閉症の実態に応じた授業内容の検討を行ってい

る。

本校の自閉症教育 研究の経緯

平成 20 年度 ○小学部第 1 学年の 1 学級にて「自閉症教育課程」を実施

○全校研究会分科会(自閉症教育課程)

・テーマ「自閉症の児童・生徒に適した教育課程とは?」

・助言者:たすく株式会社 代表 齊藤宇開氏

都立王子第二特別支援学校 主幹教諭 中村典男氏

○自閉症教育課程改善委員会

・講演会「初期社会性のアセスメントと指導」

・講師: 筑波大学 教授 長崎勤氏

・自閉症教育課程改善プラン(校長)をもとに 21 年度の自閉症教育課程及び学

級編制の考え方について検討

○学校公開・講演会(平成 20年 11 月 4日)

平成 21 年度 ○小・中学部全学年に自閉症学級を置き、自閉症の教育課程を実施

○小・中学部自閉症学級児童・生徒に「初期社会性発達アセスメント」及び「NC-

プログラム」による実態把握を行い、それに基づいて授業を実施

○小中学部研究会(3 回)

・テーマ「社会性の学習の授業改善~客観的な実態把握に基づく指導の実践~」

・助言者: 筑波大学 教授 長崎勤氏

筑波大学附属大塚特別支援学校 教諭 中村晋氏

○自閉症担当者会

・毎月 1 回程度、自閉症学級の担任で、自閉症の指導や社会性の学習についての

情報の伝達、交換、授業内容の検討、アセスメントの実施、年間指導計画の様

式等の協議

○公開授業研究会(平成 22 年 2 月 10 日)

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・テーマ「キャリア教育の視点からとらえた小中高の実践」

・助言者:筑波大学附属大塚特別支援学校 教諭 中村晋氏

平成 22 年度 ○研究テーマ

全校テーマ「新学習指導要領に対応した教育内容の改善・充実」

学部テーマ「障害特性に応じた指導の充実-自閉症教育「羽村プラン」の作成を

通して-」

○自閉症担当者会の実施

・毎月 1回、小・中学部の全教員を対象に自閉症担当者会を実施。自閉症担当者

会では、以下の文献、調査、実践について研究を進め、情報を共有し、理解を

深めた。

○文献研究

・歴史、医療、教育、手記、マンガ等、幅広い出版物を読み、自閉症担当者会に

て共有。

○調査研究

・全自閉症児を対象に、「NC-プログラム」「初期社会性発達アセスメント(AES)」

「J☆sKep」を用いた、児童・生徒の実態把握。その結果の集計に基づき、本

校の自閉症児童・生徒の実態の傾向を分析。

○実践研究

・文献研究、調査研究の結果を踏まえて、本校の自閉症に特化した教育課程のあ

り方、改善の方向性を検討。教育課程、年間指導計画、個別指導計画、「社会

性の学習」の単元計画と指導案を検討。

・「社会性の学習」を実施している全学習グループにて研究授業を実施。

○校内研修・研究会

・「自閉症教育推進事業研究指定校 授業見学」

(6 月 23 日、9月 28 日、10 月 15 日)

たすく株式会社 代表 齊藤宇開氏

・「障害特性に応じた指導の充実」(7 月 16 日)

本校 校長 山口真佐子氏

本校 主任教諭 木村栄子氏

・「精神科の薬の関する基礎知識」(8 月 6 日保健給食講演会)

山野美容芸術短期大学准教授・精神科医 岡田奈緒子氏

・「社会性の学習」授業研究会(11月 17 日)

筑波大学附属大塚特別支援学校 小学部主事 中村晋氏

・「社会性の学習」について(12月 24 日)

本校 校長 山口真佐子氏

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都立羽村特別支援学校 自閉症教育の全体計画

・学習指導要領

・教育課程編成

【法的根拠】

・学習指導要領

・教育課程編成基

準・資料

・東京都教育委員会

リーフレット

【学校の教育目標・基本方針】

・丈夫なからだと豊かな心を育てる。

・自分で考え、行動する力を育てる。

・社会で自立していく力を育てるとともに、働く

力を育てる。

【児童・生徒の実態】

・自閉症の割合 小学部 69%

中学部 52%

・軽度の児童・生徒も増加して

いる。

【保護者の願い】

・社会自立に向けた指導の充実

に期待している。

【自閉症教育の目標】

・できる限り少ない支援で自発的に取り組める力をつける。

・社会的自立を目指し、コミュニケーションや対人関係等、必要な力を身に付け、伸ばす。

目指す児童・生徒像

【小学部】

・自分のことは自分でしようと努

力する子ども。

・友達や先生と楽しく過ごせる子

ども。

各教科等における指導のねらい

各教科・領域 社会性の学習

【教職員の研修】

・自閉症担当者会の実施

(毎月)

・「社会性の学習」研究授業の

実施 (全自閉症学級)

・校内研修会の実施(年7回)

【教育環境】

・発達評価による実態把握

・スケジュール、手順表の作成

・構造化の実施

(教室、板書、指示、時間)

など

【家庭・地域との連携】

・個別面談による支援の共通理解

・共通理解に基づいた個別指導計画の

作成

・地域の公共施設の利用を通した学習

の展開 など

【小学部】

・学校生活に必

要な基礎的な

力を養う。

(集団行動な

ど)

・できる限り一

人でできるこ

とを増やす。

【中学部】

・高等部を視野

に入れ、集団

参加や継続し

て取り組める

力を養う。

・小学校で培っ

た 力 を 基 礎

に、主体的に

取り組める活

動を増やす。

【高等部】

・就労を目指

し、必要な力

を養う。

・社会生活で生

かせる適切な

行動や、あい

さつの仕方を

身に付ける。

・自分で考えて

主体的に活動

に取り組む。

【小学部】

・身近な人の存在が分かり、やりとりする

力を身に付ける。

・簡単なゲームなどを通して順番やルール

を理解する。

【中学部】

・地域や職場など学校以外の場所でのその

場にあった適切な行動や、あいさつの仕

方を身に付ける。

・状況に合わせた自分の行動の調整の仕方

を身に付ける。(セルフマネージメント)

など

【高等部】

・安全な生活を正しく理解し社会的

ルールを守って生活できる子ど

も。

・好ましいコミュニケーション手段

を身に付け、よりよい人間関係を

築く子ども。

【中学部】

・自分で考え行動する力を身に付

ける子ども。

・経験を通して、人との適切な関

わりを学び、生活の中で実践で

きる子ども。

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1.学級編制の考え方

本校では、「認知・言語促進プログラム(NC-プログラム)」による発達段階、「初期社会

性発達アセスメント(AES)」による初期社会性の発達段階、「J☆sKep」による自閉症児

のトータルな評価の結果を総合し、一人一人の学習習熟度や社会性の発達段階を把握する。

さらに、行動観察によって行動のペースや情報処理の仕方など、診断名からだけでは測る

ことのできない行動特徴を把握する。この両者を考え合わせ、自閉症の児童・生徒を重度

重複学級・普通学級・自閉症学級に編制している。その他にも、安全確保の観点、行動上

の問題の有無、保護者の希望などを収集し、学年内で検討の上、加味して決定している。

したがって、本校の自閉症児童・生徒は、自閉症学級だけでなく、普通学級や重度重複

学級に在籍しているケースもある。編制の際には、まず社会性の発達支援レベルが同じ段

階になる様に編制し、次に、例えば、集団行動が円滑になるように日常生活での行動ペー

スの観点から調整したり、周囲からの刺激を少なくすることで情緒の安定を図る必要があ

る児童・生徒は少人数の学級にしたりするなどの工夫を行っている。つまり、個別指導計

画における最優先課題は、学級編制の際の重要な指標となるのである。

何よりも、一人一人が落ち着いて学習に取り組める環境ができるように配慮しながら、

児童・生徒に、今、一番何を育てたいかの重点目標に応じて柔軟に工夫、対応している。

なお、「社会性の学習」の学習集団は、自閉症学級を基本としながらも、自閉症学級外に在

籍する自閉症の児童・生徒も指導を受けられるよう、学年の実態に応じて柔軟に編制して

いる。

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2.本校の教育課程

1)週時程

本校、小学部の週時程は、児童が見通しをもちやすくするため、毎日の活動の流れを一

定にしている。例えば、小学部では毎朝同じ時間に体育(からだづくり)の授業を設定す

るなど、同じ教科が週時程の中で横に帯状(モジュール)になるようにしている。

行事は精選して、練習のための不規則な時間を少なくするとともに、日程を変化させな

いように配慮している。そうすることにより、児童の情緒の安定を図り、落ち着いて学習

に取り組むことができるようにする。「社会性の学習」は、自閉症学級の教育課程において、

週 2 時間設定している。その他の学級では、同一時間帯に「生活単元学習」を実施してい

る。

(例)都立羽村特別支援学校 小学部第 2 学年 自閉症学級 週時程

月 火 水 木 金

日常生活の指導

体育 生活単元学習

国語・算数 生活単元学習

社会性の学習

(生活単元学習)

体育

図工音楽

図工

体育生活単元学習

日常生活の指導

昼食

日常生活の指導

日常生活の指導 生活単元学習社会性の学習

(生活単元学習)日常生活の指導 日常生活の指導

下校生活単元学習 日常生活の指導

下校 下校

日常生活の指導下校

下校

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中学部の週時程も、保健体育を帯状(モジュール)で確保している。思春期にあたる中

学生ができる限り多くの時間運動できるように毎朝 25 分間設定している。また、給食前の

20 分間は「国語・数学」が帯状で設定され、毎日同じ流れで取り組んでいる。

小学部同様に、中学部も行事を精選して、練習のための不規則な時間を少なくするとと

もに、日程を変化させないように配慮し、生徒が毎日の生活に見通しを持ち、落ち着いて

過ごすことができるようにしている。

「社会性の学習」は、自閉症学級の教育課程において、週 2 時間設定している。その他

の学級では、同一時間帯に「生活単元学習」を実施している。

(例)都立羽村特別支援学校 中学部第 3 学年 自閉症学級 週時程

月 火 水 木 金

日常生活の指導

保健体育

国語・数学 保健体育 作業 生活単元学習 美術

社会性の学習

(生活単元学習)音楽 作業 生活単元学習 美術

国語・数学

昼食

日常生活の指導

音楽 国語・数学 作業 国語・数学 国語・数学

保健体育 学級活動 日常生活の指導社会性の学習

(生活単元学習)

総合的な学習の

時間

日常生活の指導 日常生活の指導 下校 日常生活の指導 日常生活の指導

下校 下校 下校 下校

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2)自立活動「人間関係の形成」

自立活動の指導は各教科・特別活動をはじめとする教育活動全体を通じて行う。学校で

の教育活動全体を通して、自立活動の観点から個々の児童・生徒の実態に応じて必要な指

導を行うのである。

特に自閉症の児童・生徒においては、自立活動の 6 つの区分のうち「人間関係の形成」

がとりわけ重要である。従って、「社会性の学習」を含む全ての教育活動において、「他者

との関係」を基本に据えて、一人一人の指導目標、指導内容、指導方法を組み立てるよう

にする。本校では、個別学習や集団学習の中で、他の人を意識し相手にあわせて行動する

ことや、行動や感情を共有すること、他の人の意図や目的をくみとって自己の行動を調節

すること等、目標を一人一人の実態に応じて織り込みながら、教科の学習課題の達成を図

るようにしている。

個別指導計画の各教科の目標等の上段に、学習活動全般にかかる目標として、自立活動

の欄を設けた。ここには、「人間関係の形成」という観点から、年間を通して意識的に取り

組むべき目標を記述することにした。

3.年間指導計画

自閉症学級の設置に伴い、自閉症の障害特性に配慮した教育課程を編成することになっ

た。そのため本校では、添付資料 1、2、3 のように、学級編制別の年間指導計画を作成し

た。

自閉症学級での教育の特徴は「社会性の学習」(社会性の障害を有することを前提に、対

人関係や社会生活にかかわる行動について対応できるように必要な知識、技能及び習慣を

養い、支援を受けながら行動できる力を培うために行う学習)の授業の実施にあるが、そ

れ以外の教科についても、自閉症の障害特性に配慮した指導が必要である。

児童・生徒の学習場面では、一般に、児童・生徒が他の人とのかかわり(対人関係)の

中で、モデルを見て真似る、一定の行動を共にするといった過程を通して学習する方法が

多く用いられている。しかし、自閉症の児童・生徒は社会性の発達に障害があり、他の人

とのかかわりに困難があるため、モデルを真似る、行動を共にする、ルールのある集団や

大きな集団での授業に参加する、などの学習が難しい。

そこで、自閉症の児童・生徒には、音声言語の理解が弱いことから手順カードなどの視

覚情報を活用して学習の課題と取り組み方を提示し、自ら行動できるように促す状況作り

が大切である。同時に、学習環境を整理して聴覚の過敏さや光彩の及ぼす影響など感覚へ

の配慮をすること、シングルフォーカスと言われる同時に複数の情報を処理できない特性

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に対して学習内容を精選すること、同一性へのこだわりに対して特に低年齢では変化を最

小限に抑えるために時程や行程を整理することなどで、よりわかりやすく学習のしやすい

環境を整える必要がある。また、これらの学習の中には、対人関係に関する学習を含め、

自閉症の児童・生徒の社会性の伸長を図っていく内容を意図的に計画していく。

年間指導計画は、以上の特徴をふまえ、作成する必要があると考えた。

*参考:年間指導計画作成例(添付資料 1、2、3)。

4.個別指導計画

本校では一人一人異なる目標・指導の手立てを計画し、個の実態に応じての個別指導計

画を作成している。

自閉症の児童・生徒の個別指導計画を作成するにあたり、以下の点に留意している。

(1)「自立活動」の目標の中には「対人に関する内容」の目標を入れる。

(2)「国語・算数/数学」「社会性の学習」など教科の目標には、発達評価の結果を

反映させる。

(3)配慮事項には、手順表などの視覚支援ツールの活用や、障害の特性への配慮(感

覚過敏に対しての配慮、活動場所と教材置き場の区別や集団の大きさなどの物

理的な環境設定に対しての配慮など)に関する内容を盛りこむ。

自閉症の児童生徒の個別指導計画にはこのような点を盛り込みながら、児童・生徒一人

一人の実態に応じた計画を作成する。

*参考 個別指導計画作成例(添付資料 4)

5.「社会性の学習」の指導内容・方法

本校では「社会性の学習」を教育課程上に位置づけるにあたって、東京都教育委員会の

方針をもとに研修を重ねた。その結果、次のように考え、学校全体で共通理解を図った。

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(1)AES や J☆sKep などの評価をもとに個別の目標を明確にして、指導内容や活

動を設定する。

(2)指導内容は、発達レベルに応じて具体的なやりとりを通して児童・生徒と教員

の一対一の人間関係(二項関係)を確立し、徐々に集団の中で児童・生徒同士

のかかわりに発展させ、主体的に活動する力の育成を目指す。

(3)指導形態には、個別・小集団・集団があり、児童・生徒の実態や指導内容に応

じて設定する。

(4)「社会性の学習」の指導内容は以下の a、b に分けて構成する。

a「対人関係に関すること」

自分にとって身近な人を意識し視線を合わせるなど、人とのやりとりの

基礎を身につけ、他の人と行動・感情を共有すること、他の人の行動の意

図や目的を理解し共に行動できる力を段階的に育てる内容へと移行して

いく。例えば、手あそびや簡単なゲームを通して友だちや教員とのやりと

りを経験したり、友だちと一緒に協力したりして一つの活動をするなどの

学習があげられる。

b「ソーシャルスキルに関すること」

日常の挨拶やお手伝い、公共の機関や交通機関を利用することなど、日

常生活・社会生活の中で求められる個々の課題に関する理解とスキルを一

つ一つ身につけていくものである。「ありがとう」「どうぞ」など場面に応

じた言葉の使い方の練習をやりとりの中で行ったり、バスや電車の乗り方

やマナーを学んだりするなど、一人一人の実態に応じて設定し、授業を組

み立てていく。主に小学部高学年以降の課題となる。

「対人関係に関すること」は段階的に課題の質を高めて学習を進めるものであるが、「ソ

ーシャルスキルに関すること」は個々のスキルを一つずつ身につけるという点でその性格

に相違がある。この二つの内容をバランスよく組み合わせ、児童・生徒の実態に配慮した

単元計画を作成している。

*参考 「社会性の学習」対人関係に関する内容 小学部 活動例(添付資料 5)

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6. 指導上の配慮事項

自閉症の特性の一つに、コップなどを決まった通りに一列に並べるなどの常同行動や、

教室のドアは夏でも閉めるなどの同一性へのこだわり、手に水を受け続けるなどの自己刺

激行動など、「限定された活動や興味」がある(DSM-Ⅳ「障害の三つ組」より)。児童・

生徒が持つ力を最大限に引き出し、自信を持って主体的に行動する力を養うためには、自

閉症の特性に対応した学習環境の設定が重要である。

週時程は横の帯(モジュール)で一定にする、教室内の掲示物や板書の仕方など整理整

頓された分かりやすい環境作りを行う、光彩の及ぼす影響をみながら座席を廊下側にする

など、個々の状態に応じて工夫が求められる。「障害の三つ組」で示されている「社会性の

発達の障害」や「コミュニケーションの質的な障害」については、客観的な指標も用いて

個々の実態やニーズを的確に把握し、育てたい力を明確にして取り組む。視覚か聴覚か情

報の取り入れ方などに着目し、個々にあった手段を用いることが重要である。

ここでは、第Ⅰ章の文献研究および第Ⅱ章の調査研究を受けて、以下の 5 つの観点から、

本校で実践している事例を紹介する。

①わかりやすく落ち着ける教室環境の工夫

②わかりやすいスケジュールの提示

③わかりやすい学習内容の工夫

④コミュニケーションを図る教材・教具の工夫

⑤教材・教具の工夫(自閉症児に適する自立課題)

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①わかりやすく落ち着ける教室環境の工夫

校庭側窓 カーテン付き

教材棚 机 机

ロッカー

黒板

ロッカー

教員用棚

机 机 出入り口

着替えなどの支度や

個別学習をするスペース

着替えなどの支度や

個別学習をするスペース

朝の会、集団学習を

行うスペース

・この場所ではこの活動をするなど、活動する場所

と内容を対応させると、どこで何をするのかわか

りやすい。

・狭いスペースでも、空間を区切ったり情報を精選

したりして、動線をシンプルでわかりやすくする

と児童・生徒が自分で行動できる。

教室全体図例

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・必要なものに集中できるように、

掲示物を精選する。

・教室の黒板とその周辺の掲示は特

に精選することで、教員の指示な

どの必要な情報に注目できる。

・机で着替えをしたら、後ろのロッ

カーに荷物をしまうなど、動線や

環境をシンプルにすると、動きが

わかりやすい。

・床にテープを貼ることで、児

童・生徒が自主的に机や椅子

を移動できる。

・テープの色を変えることで、

自分の物、場所を意識できる。

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・教材庫や棚の扉に「開けては

いけない」マークを示すこと

で自分で判断して行動でき

るようになる。

・何をどこに置くのか、絵・

写真と文字で示したり、

置き場を区切ってわかり

やすくしたりすること

で、自分で物を置くこと

ができる。

・色をつけると注目しやす

く、色ごとに場所を区別

することもできる。

・文字の認識が難しい子ども

には、マークを決めるこ

とで、自分の物や自分の

場所などを意識できる。

・活動に必要のないものは布等で目

隠しをするなどして、使う必要の

ない時には目に入らないようにす

る。

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・聴覚過敏のある児童・生徒への刺

激を和らげるため、机や椅子の足

に「テニスボール」をつけて移動

や着席時の騒音を軽減する。

・置き場を一定にすることで、自分から取り組

める。

・置き場を区切ることで取り出しやすくなるな

ど、教員の支援なしに自分でできることが増

える。

・棚やロッカーなどに写真カード

を貼り、どこに何があるかわか

るようにする。児童は自分で取

り出したり、片付けたりするこ

とができる。

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②わかりやすいスケジュールの提示

・一ヶ月、一日、一時間など、児童・生徒の実態に応じて必

要なスケジュールを提示すると、見通しを持って生活を送

れる。

・シンボル・写真・絵カード・漢字、時計など、児童・生徒

の実態に応じて提示する内容、情報の量、カードの大きさ

を工夫し、理解しやすくする。

月予定

週時程

・「今日」に囲みをつけて予定

に注目しやすくしたり、一日

の最後にはその日に線を引

くなどして印をつけて、終わ

りをわかりやすくしたりす

る。

・一週間の見通しを持ちなが

ら、「昨日」「今日」「明日」

などの学習も兼ねることが

できる。

・「今日」に囲みをつけたり、

終わった日付にシールや

線などで印をつけたりす

ると「現在」がわかりやす

い。

・検診や避難訓練などの特別

に設定された予定など、児

童・生徒の実態に応じて必

要な予定を示す。

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1 日の予定1 時間の予定

(授業内容)

1 つの活動の予定

・活動が終わったらカードをはがしておわ

りの箱に入れるようにすると、次の活動

がわかりやすく、見通しを持ちやすい。

・見通しを持って最後まで集中し

て取り組めるように、国語・算

数の中の個別学習など、一つの

活動の中で行う予定を示す。

・個別学習に手順表を活用するこ

とで、自分で課題を進めること

ができる。

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個別の予定

・登校から朝の会までに行うこと、

休み時間に行うことなど、児

童・生徒一人一人の個別の予定

を示す。

・時計やタイムタイマー、砂時計などを

使って、終わりまでの時間を視覚的に

示し、いつまで活動が続くのか、あと

どのくらいで活動が終わるのかわか

りやすくすると、活動へ集中できたり

スムーズに活動を終わらせたりでき

る。

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③わかりやすい学習内容の工夫

・課題の進め方を手順表で視覚的、具体的

に提示することで、児童・生徒が主体的

に活動に取り組める。

・補助具を活用することで、課題の理解を

さらに促し、教員の言葉かけや支援がな

くても自分で取り組むことができる。

例)粘土の大きさや色の違いを意識して

制作に取り組めるようなケース。

・最初から最後まで全ての手順を一度に

提示すると混乱する児童・生徒には、1

つ 1 つの手順を確認しながら自分で進

めることができるよう、1 枚のカードに

1 つの手順が示された「めくり式」の手

順表を活用する。

・一人一人に個別の棚を準備し、学

習課題などを入れ、1・2・3 の順

番に沿って学習を進める。

・3 までやったらおしまいなど、その

日の課題に見通しをもてる。

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④コミュニケーションを図る教材・教具の工夫

・言葉でのやりとりが難しい児童・生徒が、

カードの中からやりたいことを選択して

大人に渡すことで、要求を伝えられる手

段となる。

・児童・生徒の興味のあるもの、好きなも

のの写真カードを用意する。

・「○○先生、黄色い、靴、ください」など

写真カードを組み合わせることにより、

写真カードや絵カードを使ってコミュニ

ケーションをとることができる。

・児童・生徒が日常生活で良く用い

るコミュニケーションカードは、

すぐ使えるように机などの身近

な場所に用意しておく。

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・声の大きさを視覚的に示すとわか

りやすくなり、児童・生徒が声の

大きさを調整することができる。

・上の写真は、段階を4段階にして、

声の大きさを数字で表している。

「今は1の声にします」など、数

字を伝えて調整を促していく。

静かに (0)

小さい声 (1)

普通の声 (2)

大きい声 (3)

うるさい声 (4)

・VOCA(Voice Output communication

Aid)音声を出力できるコミュニケー

ションのための補助機器は、音声での

コミュニケーションが難しい児童・生

徒の言葉に代わる手段となる。(上の

写真はビックマック)

・人を呼びたいときなどに、相手に触れ

ずに自分に気付いてもらえたり、「で

きました」「手伝ってください」など

活動を報告したりするときに役立つ。

・VOCA が手に入らない場合には、その

前段階として、スイッチと似た形状の

マークを作成し、そこを指し示すよう

にすることで練習を行うことができ

る。

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⑤教材・教具の工夫

・足型をつけることで立ち位置がわかり、順番

に並んで待つことができる。

・この他にも足型を使って教室の出入り口で挨

拶をする場所を示したり、一定の場所で着替

えられるように立ち位置を示したりしている

教室もある。

・このような時にはこうする、とい

ったルールやマナーなどを絵で示

すと、自分で判断して行動できる

ようになる。

・立ち位置が分からない時にフープ

(ケンステップ)を置くことでそ

の場所に立つという目印ができ

る。

・ケンステップは持ち運びができる

ので、臨機応変に対応できる。

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・調理活動の例。

・リンゴを切る位置を絵で示すこと

で、どのくらいの大きさで、どの

位置で、どの角度で、などがわか

りやすい。

・衣服をたたむ場合の例。

・たたむ位置を線で目に見えるように示す

と、どこでたためば良いかが分かり、一人

できれいにたたむことができる。

・給食の献立のメニューと一緒に食

器の写真も示すと、主食、汁物、

主菜、デザートなどがどの食器に

盛り付けられるかを確認して準備

をすることができる。

・包丁の置き場を示すことで、言葉で伝

えなくても、危険な場所に置いたりせず

に活動することができる。

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自閉症児に適する自立課題

・左から右、上から下の順序性を持

って取り組み、指先を使ってスナ

ップボタンを留める。

・指示書にしたがって、薬に見立て

たビーズをケースに仕分けする。

・指示書を理解し作業すること、出

来上がりを自分で確認すること、

指先でビーズをつまむことなどを

育む。

・ルールにしたがって、同じ色のカ

ードを順番通りにケースに分類す

る。

自閉症児の自立課題には、始めと終わりが明確

で、見通しを持ちやすい作業課題が適している。

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・手順表に沿って、左から順にボ

ールペンの組立て、分解を行う。

・一つ一つの置き場を明確にする

ことで、児童・生徒が自分で進

めることができる。

・必要な数を数えるための教具。

・1から順に枠に物を一つずつ置い

ていき、全て埋まったら袋に入れ

てまとめたり、教員にできたこと

を報告したりする。

・数が数えられなくても、1対1対

応ができる児童・生徒であれば、

作業を行うことができる。

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(引用・参考文献)

第Ⅰ章

C トレヴァーセン・K エイケン・D パプーディ・J ロバーツ 共著、中野茂・伊藤良子・近藤清美 監訳(1998)自閉

症の子どもたち 間主観性の発達心理学からのアプローチ.ミネルヴァ書房

榊原洋一(2008)図解 よくわかる自閉症.株式会社ナツメ社

篠田達明 監修、若子理恵・土橋圭子 編集(2005)自閉症スペクトラムの医療・療育・教育.株式会社金芳堂

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ガイド第 6 刷.東京書籍株式会社

高橋三郎他 監訳(2003)DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の分類と診断の手引.医学書院

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ブック第 11 刷.東京書籍株式会社

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東京都教育庁指導部義務教育特別支援教育指導課(平成 18 年 3 月)自閉症の児童・生徒のための教育課程の編成につい

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東京都教育庁指導部義務教育特別支援教育指導課(平成 18 年 8 月)自閉症の障害特性に応じた指導の充実

東京都教育庁指導部義務教育特別支援教育指導課(平成 19 年 3 月)自閉症の障害特性に応じた教育のガイドライン 自

閉症の教育課程の編成と「社会性の学習」

東京都教育庁指導部義務教育特別支援教育指導課(平成 20 年 3 月)自閉症の教育課程の充実

東京都教育庁指導部義務教育特別支援教育指導課(平成 21 年 3 月)自閉症の児童・生徒で編成した学級における指導の

充実~学習環境の充実~

東京都教育庁指導部義務教育特別支援教育指導課(平成 22 年 2 月)東京都立特別支援学校の自閉症学級のための学習環

境の構造化について

東京都特別支援教育推進計画第三次実施計画-すべての学校における特別支援教育の推進を目指して-(平成 22 年 11

月)

第Ⅱ章

津田望・東敦子 監修(2008)認知・言語促進プログラム.第 9 版.コレール社

長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井宏太郎 編著(2009)自閉症児のための社会性発達支援プログラム-意図と情動の共

有による共同注意-.日本文化化学社

たすく株式会社 編著(2009)たすくのメソッドと機能的な目標『自閉症スペクトラム』モデル.たすく株式会社

齊藤宇開・内田俊行(2007)自閉症教育のキーポイントとなる指導内容-7 つのキーポイントの抽出の経緯と内容を中心

に-.国立特殊教育総合研究所研究紀要.第 34 巻

Page 59: 平成22年度 自閉症教育 羽村プラン · るよりは、広くそのような傾向のある状態のことを「広汎性発達障害」と総称する。自 閉症を中心とした一連の症候群を表す、「自閉症スペクトラム」という用語もほぼ「広汎

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その他

東田直樹(2010)自閉症の僕が飛び跳ねる理由~会話のできない中学生がつづるうちなる心~.エスコアール藤村出(不

明)改訂版やさしい自閉症のススメ.有限会社 SHOW DREAM

佐藤暁(2007)自閉症児の困り感に寄り添う支援.株式会社学習研究社

佐藤暁(2006)見て分かる困り感に寄り添う支援の実際.株式会社学習研究社

佐藤暁(2004)発達障害のある子の困り感に寄り添う支援.株式会社学習研究社

佐々木正美(1993)自閉症療育ハンドブックーTEACCH プログラムに学ぶー.学研マーケティング

白石正久(2007)自閉症の世界を広げる発達的理解~乳幼児から青年・成人期までの生活と教育~.かもがわ出版

テンプル・グランディン 著、中尾ゆかり 訳(2010)「自閉症感覚」かくれた能力を引き出す方法.NHK 出版

戸部けいこ(2001-2010)光とともに~自閉症児を抱えて~全 15 巻.秋田書店

内山登起夫(2007)アスペルガー症候群を知っていますか?.東京都自閉症協会

茂木俊彦 他(1998)障害を知る本①「自閉症の子どもたち」.大月書店

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添付資料

資料1

【平成 23 年度 小学部 ○学年(低学年)年間指導計画作成例「社会性の学習」】 ・・ 58

資料2

【平成 23 年度 小学部 ○学年(高学年)年間指導計画作成例「社会性の学習」】 ・・ 60

資料3

【平成 23 年度 中学部 年間指導計画作成例「作業学習(環境 ECO・農園芸班)」】 ・ 62

資料4

【平成 23 年度 中学部 個別指導計画作成例】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65

資料5

【「社会性の学習」対人関係に関する内容 小学部 活動例】 ・・・・・・・・・・・・ 66

資料6

【小学部「社会性の学習」学習指導案】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67

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編集を終えて

今年度、本校は東京都自閉症教育推進研究指定を受け、小学部・中学

部の全教職員で自閉症教育のさらなる推進のために研究に取り組むこ

ととなりました。本校では、平成 20 年度から自閉症学級を設置し、自

閉症の教育についての研修・研究会を実施しながら、試行錯誤して実践

を行ってきました。

そこで今年度は、これまでの実践を振り返りながら、改めて「自閉症

とは?」という特性の理解から自閉症児童・生徒に対する指導方法や、

自閉症学級の環境の整え方などを確認しました。それによって、自閉症

についての理解をさらに深め、整理することができました。また、暗闇

を歩くような不安な気持ちを抱えながらも必死で授業を組み立て実践

してきた「社会性の学習」については、今年度、様々な講師の先生方の

お話や、校内研究会での勉強を通じて、進むべき方向が見えてきたとい

う手ごたえも感じています。

そして、これまでの実践の積み重ねと研修・研究の成果を「羽村プラ

ン」としてまとめることができました。初めて自閉症学級を担当する教

員でも、「羽村プラン」を開いて見れば一年間の指導ができることを目

指して作成したものであり、ぜひ参考にしていただけたらと思います。

自閉症教育については、まだまだ「羽村プラン」にまとめきれず、今

後の課題となる点も多くあり、今後さらに研究を重ね、より理解を深め

ていきたいと考えています。

多くのご指導をくださった、齊藤宇開氏(たすく株式会社代表)、長

崎勤氏(筑波大学教授)、中村晋氏(筑波大学附属大塚特別支援学校小

学部主事)、東敦子氏(のぞみ発達クリニック所長)、岡田奈緒子氏(精

神科医、山野美容芸術短期大学准教授)に心より感謝申し上げます。

講師の先生方、そして児童・生徒から学んだことを日ごろの実践にさ

らに役立て、自閉症児に対する指導のより一層の充実を図っていく所存

でおります。

平成 23 年 1 月 26 日

研修研究部