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経済産業省 御中 平成29年度 新興国等における省エネルギー対策・ 再生可能エネルギー導入促進等に 資する事業 (インドネシアの省エネルギー・再生可能エネ ルギー推進策検討事業) 報告書 20182一般財団法人 日本エネルギー経済研究所

平成29年度 新興国等における省エネルギー対策・ …2016 年2 月現在で必要 なエネルギー管理士数827 名であり、その充足率が27%(経済産業省

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経済産業省 御中

平成29年度 新興国等における省エネルギー対策・

再生可能エネルギー導入促進等に 資する事業

(インドネシアの省エネルギー・再生可能エネ

ルギー推進策検討事業)

報告書

2018年2月 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所

I

はじめに

東南アジアにおける最大のエネルギー消費国であると同時に、我が国にとって石油・石炭・

天然ガスなどのエネルギー資源の重要な輸入元であるインドネシアでは、堅調な経済発展

による国内のエネルギー需要の増加が著しい。エネルギー需要の増加に伴い、例えば、電力

分野においては、急激な電力需要の増加による深刻な電力供給確保という課題に直面して

いる。

このような中、安定したエネルギー供給と持続可能なエネルギー需給バランスの構築

を実現するため、政策レベルのエネルギー計画である国家エネルギー政策(KEN)、

そして、これを実現する事業レベルの計画である国家電力総合計画(RUKN)や個別

事業レベルの計画である電力供給事業計画(RUPTL)が策定され、化石燃料を主要

燃料とした電力供給だけではなく、省エネルギーと再生可能エネルギーの導入促進に向

けた計画目標及び各種政策も纏められている。

省エネルギーにおいては、2009 年に省エネルギー制度が制定され、当該制度対象事業者の

エネルギー管理とエネルギー消費の報告の義務化、エネルギー管理士制度の導入などが規

定された。現在は、省エネルギーの推進に向け、最低エネルギー効率基準制度(MEPS)、

エネルギーサービス事業(ESCO)推進のための各種制度の導入などが進められている。し

かし、各制度は発展段階にあり、省エネルギー目標の達成には、多くの課題がある。また、

再生可能エネルギー政策では、2009 年には、中小規模の再生可能エネルギーを対象とした

固定価格買取制度(FIT)を導入し、再生可能エネルギーの促進を図っている。しかしなが

ら、FIT 原資の課題などから、再生可能エネルギーの導入は加速されていない。

このような政策や制度、そして各課題に直面するインドネシアの課題解決と省エネルギ

ー・再生可能エネルギーの一層の促進に向け、本事業では、インドネシアにおける省エネル

ギー及び再生可能エネルギー導入目標の達成に向けた具体的な制度提案や運営体制の構築

支援を行った。具体的には、省エネルギーに関して政策のみならずビジネスの観点からエネ

ルギー効率を改善することを目指したビジネスモデルを検討するとともに、政策評価に向

けた手法の共有を行った。再生可能エネルギーに関しては、オフグリッド地域での再生可能

エネルギー事業立ち上げに向けた現地研修ならびに日本のビジネスモデルを紹介した。

本報告での調査分析ならびに分析から得られる示唆がインドネシアでの省エネルギー・再

生可能エネルギーの推進に向けた政策形成ならびにインドネシアでの省エネルギー及び再

生可能エネルギーの技術展開に向け貢献できれば幸いである。

平成 30 年 2 月

(一財)日本エネルギー経済研究所

II

報告書要旨

第 1 章 エネルギー需給とエネルギー政策の概要

インドネシアは、自国の資源で石油を賄えた時代とは異なり、国際的な原油価格の乱高下

が国家財政を悪化させているため、石油代替エネルギーと省エネルギーの推進が重要課題

であるとの認識が浸透しつつある。他方、石油製品に対する補助金改革は、インドネシアで

は最も大きな政治的課題となっており、歴代政権は慎重な対応を強いられてきた 。インド

ネシアでは 2011 年および 2012 年の補正予算において、燃料価格の引き上げ案(約 30~40%

程度)が盛り込まれたものの、燃料値上げに対する国民のデモや暴動に配慮する形で実行は

見送られてきた。

このような状況を打破するために、2014 年 1 月の下院本会議において、2050 年までのエ

ネルギー政策の大枠を定めた「国家エネルギー政策(KEN: Kebijakan Energi Nasional)」に関

する大統領規定案を承認し、化石燃料への依存を低減させるとともに再生可能エネルギー

の普及促進ならびに省エネルギーの推進を目指している。 KEN で設定された目標を実現化

させるための具体的な措置を盛り込んだ国家エネルギー計画(RUEN)の策定も行っている。

KEN では、2025 年までにインドネシアにおける各エネルギーの割合は、石油を 49%から

22%以下へ低減させる目標を設定している。天然ガスを 20%から 22%、石炭を 24%から 32%、

再生可能エネルギーを 6%から 23%へそれぞれ増加させるとしている。また、原子力は最後

の選択と位置付けている。化石燃料の直接使用から電力への転換を促進し、発電設備容量は

現在の 44GW から 2025 年には 115GW に増加させるとしている。

また、次のような国家エネルギー政策目標を掲げた。

① エネルギー弾性値(エネルギー消費の伸び/経済成長率):経済成長目標に合うよう、

2025 年に弾性値を 1 以下とする。

② エネルギー原単位(GDP 当たりののエネルギー使用量):2025 年までに年 1%で改善

させる。

③ 電化率:2015 年に 85%、2020 年には 100%に近づける。

④ 家庭用ガスの使用率:2015 年に 85%とする。

⑤ 一次エネルギーに占める新・再生可能エネルギーの割合:2025 年までに 23%、2050

年までに 31%に引き上げる。

第 2 章 省エネルギー目標達成に向けた現状と課題

インドネシアの省エネルギー政策は、エネルギー政策を包括的に定める「国家エネルギー

政策」と整合的に形成されている。すなわちインドネシアのエネルギーミックスを中心とし

たエネルギー政策の根幹をなす「国家エネルギー政策」の 2025 年および 2050 年の目標を

III

実現する手段として、整合的な形で省エネルギーマスタープランである “RIKEN”が定めら

れている。国家省エネルギーマスタープラン(RIKEN(2014))では、2025 年までにエネルギ

ー原単位を毎年 1%改善することと、同年までにエネルギーの GDP 弾性値を 1 以下とする

目標を設定しており、これらの目標を達成するために、部門別に様々な政策を実施している。

同じく、国家省エネルギーマスタープラン(RIKEN(2014))によれば、基本計画策定時から

2025 年までの各部門における省エネポテンシャルは、それぞれ、産業部門(17%)、業務部

門(15%)、運輸部門(20%)、家庭部門(15%)としている。

こうした目標を達成するために産業部門では、エネルギー管理制度を導入しており、年間

のエネルギー消費が 6,000 toe を超える事業者に対して、エネルギー管理者の任命や省エネ

ルギープログラムの策定、定期的な省エネルギー診断(エネルギー監査)の実施と省エネル

ギー診断の結果に基づく提案の実施、そして省エネルギーの実施状況の定期報告義務を設

定している。省エネ法の執行状況は、エネルギー集約産業の 265 事業者のうち、101 事業者

がエネルギー使用状況を報告し、提出率は 38%と低い。2016 年 8 月現在で、エネルギー管

理士認証者は 306 名、エネルギー診断士認証者は 196 名となった。2016 年 2 月現在で必要

なエネルギー管理士数 827 名であり、その充足率が 27%(経済産業省 (2016a))だったもの

から 37%に向上中であるが、引き続き認証者数の拡大・育成が課題となっている。

運輸部門に関しては、インドネシア政府は HV(ハイブリッド自動車)・EV(電気自動車)

を含む低炭素排出(LCEV)自動車プログラムの実施を計画している。LCEV プログラムは、

政府が LCGC プログラムに続くものとして位置付けている。

インドネシアの産業相は 2017 年 11 月、EV の普及に向けたメーカーに対する優遇策を

年内に決定する方針を明らかにした。同省は 2025 年までに国内の自動車台数の 25%に相

当する 40 万台を、EV または HV 車、バイオ燃料車などの低炭素車両(LCEV)にする目

標を掲げている。 そのために、EV 向け電池、部品、制御ユニットの研究開発センターの

設置や、部品や材料の現地調達率などに対して遊具措置を適用する方針である。一方、イ

ンドネシアの鉱業エネルギー省(MEMR)は 2040 年までに化石燃料自動車の販売中止を

目指して、ドラフトの大統領として準備していると報道されている 。

家庭部門では、機器のエネルギー効率基準においては、蛍光灯電球およびエアコンの最低

エネルギー性能基準(MEPS:Minimum Energy Performance Standards)が導入されているが、

その他の機器のエネルギー効率基準は任意基準となっている。MEPS は今後、冷蔵庫、扇風

機、電子安定器、電気モーター、LED 電球、洗濯機、井戸のくみ上げに使うポンプ、アイロ

ン、テレビに拡大してゆく予定である。住宅に関しては、住宅の断熱性能、空調、照明、建

物のエネルギー監査に関する任意基準を策定しているが、基準の義務化には至っていない。

家庭の電気料金において ASEAN 諸国と比較して、インドネシアの電気料金は平均で、最も

低い水準にあるが、2016-2017 年にかけて、家庭向けの電気料金の改定を実施、段階的に引

き上げられている。制度形成ならびに料金改定の実施により将来的に家庭部門で省エネ意

識の醸成が期待される。

IV

業務部門の省エネルギー政策は、(1) 大規模業務ビルのエネルギー管理制度ならびに(2)建

築物の省エネルギー基準から構成される。

大規模業務ビルのエネルギー管理制度は、2009 年に制定された省エネルギーに関する法

律 No.70 によるもので、同法では年間エネルギー消費が 6,000 toe 以上の建築物ならびに産

業部門の事業者はエネルギー管理士を指名、省エネルギープログラムの実施ならびにエネ

ルギー監査の実施、そして省エネルギー計画と手段を政府に対して報告する義務が課され

る。他方、インドネシアの業務ビルは 98%が 3 万㎡以下である。エネルギー管理制度の対象

事業者を拡大するためにも、現行の年間エネルギー消費 6,000toe から 700toe 程度に引き下

げる必要がある。

建築物のエネルギー効率改善に向けて、建築物の国家省エネルギー基準(SNI)が策定さ

れている。他方、同基準の遵守は義務化されておらず、建築に際しての事業者に対するレフ

ァレンスとして活用されている。現在のところ、外皮性能、室温、湿度、照明システムなら

びにエネルギー監査の手法に関する基準が策定されている。

こうした施策が実施されているものの、インドネシアの業務部門における床面積あたり

のエネルギー消費は日本の平均的な水準と比較して、10-20%程度改善余地がある。これに

は、電力等価格が国際的にみても低いことから、エネルギー管理プログラム実施に対するイ

ンセンティブが不足、省エネルギーに対する認識が不足しているのと共に、ベンチマークデ

ータベース等、正しいデータが提供されていないことも課題である。加えて、建築物のエネ

ルギー管理士やオーナーが省エネルギー対策手段に関する知識が足りない事、そして省エ

ネルギー投資に対する融資メカニズムがないなど、様々な課題が指摘できる。

第 3 章 インドネシアの省エネビジネス導入に関する経済性評価

CHP

インドネシアにおける産業部門の最終消費エネルギーに占める有効熱エネルギー需要が

4 割近くであるため、CHP 技術を導入してエネルギー削減のポテンシャルが大きい。実際発

電ロス等を含んで一次ベースの削減ポテンシャルを計算すると、2015 年に有効熱需要の 1

割を CHP でまかなうと、エネルギー消費量は 4.2%減と 2.2Mtoe の削減となる。2030 年に試

算すると 5.0Mtoe の削減となる。

アメリカ、欧州、中国、タイ、そして日本等世界の多くの国では CHP の導入促進政策を

打ち出しているが、インドネシアでは導入が進まない。それはインドネシア電力法(2009 年

改定)に定められた 1 地域 1 電力供給事業者というライセンスの規定と国営電力公社 PLN

が電力系統への接続料金を高くしたというパラレルオペレーションコストの規定が存在し

ているためである。そのため、現在のインドネシアの法律規定下で CHP 技術を導入するた

めに、日本のビジネスコンソーシアムと PLN が共同 CHP 事業者を創設するビジネスモデル

の採用が問題解決の方法の 1 つと考えられる。

V

ディマンド・サイド・マネージメント

インドネシアでのディマンド・サイド・マネージメントの効果は発電設備の投資回避に大

きく貢献できるポテンシャルを有している。分析によって得られた結果では、2030 年のピ

ーク時間帯の設備容量は DSM プログラムの実施による高効率技術の導入で BAU から最大

で 20GW 減の 40GW とすることができる。20GW の節減は、天然ガス火力発電プラントを

1 基 600 MW と想定した場合、33 基の回避となり、発電設備の投資回避額としては 4 億ド

ルに相当する。蓄熱等によりピークシフトとして、2GW の節減効果が期待できる。

ディマンド・サイド・マネージメントのポテンシャルを実現するにあたっては、カリフォ

ルニアで実施されているような包括的な制度形成が必要であり、消費者からの資金負担を

原資とするリベートや低利融資等の経済インセンティブを付与し、推進する必要がある。そ

こでの電力会社の役割は、消費者に対するインセンティブにかかわる情報提供等、単なるエ

ネルギー供給事業者としての役割のみならず、サービスプロバイダーとして役割を転換さ

せることが重要となってくる。

国家電力計画である RUKN 及び電力事業計画である RUPTL ではディマンド・サイド・マ

ネージメントに係る記載がなされていない。これらの計画において、立案段階から分析手法

の共有をするなど、需要側での効率改善の経済性を電力事業社ならびに政府が認識するよ

うな支援を継続する事が重要である。

省エネリース

インドネシアでは、省エネ機器のリースは普及しておらず、その活用は未だ限定的である。

省エネ促進の課題及び障壁として、「長期借入の制約」、「銀行側にとってのインセンティブ

の欠如」、「リース会社に対するインセンティブの欠如」の 3 点を指摘できる。インドネシア

では、省エネ機器への投資は投資回収期間が 1~2 年未満のものに限られ、省エネ機器の導

入は、初期投資が高く、返済期間が長くなるため、普及のハードルとなっている。

インドネシアにおける家庭部門および業務部門に対して高効率エアコンの最大限導入を

目標とし、前述した課題や障害を解決するために、新たな省エネ基金(EE Fund)の設立、

基金からの補助金からのリース料割引、ESCO 等専門家からのアドバイス、高効率設備(高

効率エアコンなど)リース等による省エネ機器リース導入のビジネススキームを検討した

結果、省エネ機器リースによる 2030 年の高効率エアコン導入による省エネ量は、家庭部門

で 646ktoe、業務部門で 367ktoe となった。

コールドチェーンにおける高効率冷蔵設備の導入

インドネシアにおいて成長著しいコールドチェーンを対象とした省エネルギーおよび再生

可能エネルギー技術の導入に関して実施した分析によると、インドネシア全体では、高効率

冷凍冷蔵機器を導入することにより、2030 年に BAU 比で約 20%のエネルギー需要の節減

ポテンシャルを有している。ただし、エネルギー需要の節減は段階(指数関数)的に増加す

VI

るため、早期からの省エネルギーへの取組みが必要であることが明らかである。

また、オフグリッド地域においては、先行研究から省エネルギー・再生可能エネルギー技

術を用いたコールドチェーンを整備することにより、一般的な便益である省エネルギーに

よるエネルギー支出節約や CO2 排出量の削減に加え、農作物の廃棄ロスの減少とそれに伴

う所得向上や、新たな雇用を創出するなど、多くの副次的な便益を有する。

他方で、オフグリッド地域では資本の制約が厳しいことや資金調達に関する情報ならび

に知見が不足していることから、初期費用の資金調達がコールドチェーン普及の障害とな

っているため、初期段階では、政府や国際機関などによる金融的なサポートが必要である。

利用者がサービスを利用した分だけ対価を支払う仕組みである“Pay as you go”と政府等に

よる資金援助を併用するスキームがインドネシアのコールドチェーン普及のビジネスモデ

ルとして考えられる。

第 4 章 電力部門の省エネルギーポテンシャルと推進課題

インドネシアとして、発電容量の増強に向けた目標が提示されているところ、供給余剰に

関する懸念もあり、特に IPP 契約を締結する PLN の財政負担が大きく懸念される。インド

ネシアにおいて、消費者に対する配慮から、追加電源の費用を電力料金に転嫁することは容

易でない。

他方、需要側での高効率技術導入は、費用対効果が高く、インドネシアの発・送・配電に

かかわる設備投資の節減にも貢献しうる。こうした回避設備投資は、オフグリッド地域への

再エネ導入や電化等、インドネシア社会経済に貢献しうる形での活用が可能である。現状の

RUPTL や RUKN の策定手法は、州ごとの電力需要を集約したものとなっており、省エネル

ギーの推進といった他のエネルギー政策との整合性が担保されていない点は改善すべきで

ある。

インドネシア政府ならびに電力事業者として、需要側での高効率技術導入にかかわるポ

テンシャルを把握し、代替シナリオとして形成するなど、将来の電力需要を満たすために複

数の道筋が存在することを認識した上で、電力供給計画を策定することが重要である。

第 5 章 再生可能エネルギー導入促進にむけた事業

2016 年時点で、インドネシアの電化率は約 91.16%に達しており、政府は 2019 年までに

電化率を 97%に引き上げる目標を立てている。インドネシアでは、地方電化の実施主体は

国営電力会社 PLN であるが、同時に中央政府ならびに地方自治体でも PLN の送配電綱が整

備されていない地域で再エネ利用中心の電化プロジェクトを実施している。また、on-grid の

再エネ発電を促進するために、2017 年には再エネ電力買取に関する新たな規制が施行され

た。新規則では、再エネ電力の買取価格が各地域の平均発電コスト(ベンチマーク価格)を

超えてはならないとしている。離島地域では燃料コストが高価であるディーゼル発電が主

要電源であるため、平均発電コストが高く、再エネ発電買取の上限価格も高水準である。

VII

このような状況において、地方の電力供給に地域の再エネ資源を活用することで、経済面

および環境面のメリットが期待できる。さらに、地方の再エネ発電事業や再エネ発電による

電力供給事業に地元企業やコミュニティが参入することで、地域経済の活性化にも貢献で

きる可能性がある。地方関係者の再エネ電力供給事業への幅広い参入を促進するためには、

再エ事業全体像の把握・理解が必要であり、多様な分野におけるノウハウの取得が求められ

る。従って、地方の再エネ事業に影響を与える技術面、経済面、政策面の要因と関連するノ

ウハウをインドネシア側関係者に移転するための研修が重要であると考える。

本事業では、地方電力事業者(地方自治体の企業局、協同組合等)の再エネ電力事業に係

る研修カリキュラム構築と研修運営体制の提案を行ったうえ、インドネシア現地研修(2017

年 11 月実施)を 1 回、日本招聘(2018 年 2 月実施)を 1 回の計 2 回実施した。インドネシ

ア現地研修は、本事業で提案した研修体制と研修カリキュラムに基づき、再エネ電力プロジ

ェクトの財務分析等基礎的ノウハウの移転とインドネシアにおける地方の再エネ電力事業

の経験と課題の共有を中心とし、インドネシアエネルギー鉱物資源省傘下の人材育成セン

ターと共同で実施した。日本招聘では、日本で展開されている地域再エネ電力事業での経験

をインドネシア側の関係者と共有するとともに、インドネシアにおける地域再エネ電力事

業の拡大のための対策を議論した。

第 6 章 インドネシアにおける省エネルギー・再生可能エネルギー導入普及に向けた政策

提言

省エネルギービジネスの促進

インドネシアでの政策面での省エネルギー推進としては、エネルギー多消費産業を対象

としたエネルギー管理制度、ならびにエアコン、照明を対象とした MEPS の導入が挙げら

れる。さらなる政策形成が検討されているものの、ビジネスとして事業者の主体的な行動に

より省エネルギー推進を行うことで産業、家庭、業務等、幅広い部門に対して高効率技術の

普及を加速化させることが重要であると考えられる。

以下では省エネルギービジネスの推進として検討した①CHP、②ディマンド・サイド・マ

ネージメント、③省エネリース、④コールドチェーンにおける高効率冷蔵設備の導入ならび

に⑤電力における需要部門での省エネルギー効果の検討について、インドネシアでの推進

を念頭に政策提言をまとめる。

① CHP

インドネシアにおいて CHP の普及を促進するには熱需要の多い産業セクターを対象に可

能できるが、ほとんどの企業が資金力や能力等の面で CHP の建設と運用ができないため、

専門的ノーハウを有する事業者による推進が欠かせない。

しかしながら、こうした事業者であっても、(1)1 事業者 1 供給エリアといった制度並び

VIII

に、系統連携費用に関する(2)Parallel Operation Cost の支払いが規制として存在するため

に、現状では PLN と何らかの協業を避けて通れないと思われる。そのため、日本のビジネ

スコンソーシアムと PLN が共同 CHP 事業者を創設するビジネスモデルが必要である。

このビジネスモデルは(1)1 事業者 1 供給エリアといった制度並びに、系統連携費用に

関する(2)Parallel Operation Cost の支払い課題を解消できる。こうしたビジネスモデルを推

進し、インドネシアにおいて本格的に CHP の導入を図るには、インドネシア政府として以

下の努力を行う必要があるのではと考えられる。

1. 現在のライセンス規定を緩和して、ライセンスの発行条件を制定して、資格に満たして

いる事業者にはライセンスを発行すること。

2. 高額なパラレルオペレーションコストの請求を CHP 事業として成り立つ水準まで引き

下げること。

3. 提案したビジネスモデルに積極的に参加できるようインドネシア政府が PLN 社に促す

こと。

4. インドネシアの国家エネルギー関連政策および計画に CHP への支援を明確にすること。

② ディマンド・サイド・マネージメント

インドネシアでのディマンド・サイド・マネージメントの効果は発電設備の投資回避に大

きく貢献できるポテンシャルを有している。他方、分析されたポテンシャルを実現するにあ

たっては、カリフォルニアで実施されているような包括的な制度形成が必要であり、消費者

からの資金負担を原資とするリベートや低利融資等の経済インセンティブを付与し、推進

する必要がある。インドネシアの場合は、国家電力計画である RUKN 及び電力事業計画で

ある RUPTL ではディマンド・サイド・マネージメントに係る記載がなされていない。これ

らの計画において、立案段階から分析手法の共有をするなど、需要側での効率改善の経済性

を電力事業社ならびに政府が認識するような支援を継続する事が重要である。

③ 省エネリース

インドネシアでは、省エネ機器への投資は投資回収期間が 1-2 年未満のものに限られる。

省エネ機器の導入は、初期投資が高く、返済期間が長くなるため、普及のハードルとなって

いる。こうした省エネ機器導入に関する課題を解決する手段として、リース料の一部を補助

する仕組みを形成、新たな省エネ基金(EE Fund)を設立することは、省エネ機器の普及を

促進する可能性がある。この基金の資産管理は、運用機関によって実施されることが望まし

い。また対象となる技術は、高効率エアコンなどの高効率設備として、省エネ基金からの補

助金によって、リース料の割引を受けることができる。リース会社から ESCO 等の省エネ

専門家からのアドバイスを受けることが期待できる。

④ コールドチェーンにおける高効率冷蔵設備の導入

IX

インドネシアで将来的に拡大が見込まれるコールドチェーン市場において、特にオフグ

リッド地域では資本の制約が厳しいことや資金調達に関する情報ならびに知見が不足して

いることから、初期費用の資金調達がコールドチェーン普及の障害となっているため、初期

段階では、政府や国際機関などによる金融的なサポートが必要である。こうした地域でコー

ルドチェーンを普及させるためのスキームとして、”Pay as you go”を活用したビジネスモデ

ルが提案できる。”Pay as you go”とは、利用者がサービスを利用した分だけ対価を支払う仕

組みである。初期段階では、政府や国際機関等が補助金ないしは低利融資などの形で“Pay

as you go”サービス提供会社へ資金の援助を行うことにより、事業リスクを軽減する施策も

必要になると考えられる。

⑤ 電力部門での省エネ分析統合

需要側での高効率技術導入は、費用対効果が高く、インドネシアの発・送・配電にかかわ

る設備投資の節減にも貢献しうる。こうした回避設備投資は、オフグリッド地域への再エネ

導入や電化等、インドネシア社会経済に貢献しうる形での活用が可能である。インドネシア

政府ならびに電力事業者として、需要側での高効率技術導入にかかわるポテンシャルを把

握し、代替シナリオとして形成するなど、将来の電力需要を満たすために複数の道筋が存在

することを認識した上で、電力供給計画を策定することが重要である。

地方再エネ電力ビジネスの促進

2017 年 11 月に実施したインドネシア現地研修、ならびに 2018 年 2 月に開催した日本招

聘において、見出された地方再エネ電力ビジネス促進に向けたインドネシア側の課題・要望

を以下のように整理する:

・地方政府関係者および人材育成センター講師は、再エネプロジェクトの財務分析に関す

るフォローアップ研修を要望している。

・地方政府関係者の見解に基づくと、地方再エネビジネス促進策と地域発展計画を統合的

に進めるべき。

・地方政府関係者は、PLN の系統が地方まで延長される際の当該地域における既存の再エ

ネ電化マイクログリッドシステムの存続を懸念している。

・全参加者は、日本の地域再エネビジネスモデルに非常に強い関心を持っている。

・中央政府から地方政府に割り当てられる地方電化用特別予算の効果的活用、再エネ設備

導入後のメンテナンス等運営管理の構築が課題である。

・地方再エネ電化が地域経済発展にも貢献するような仕組みづくりが必要である。

・現在の系統連系要件(グリッドコード)に対して、太陽光発電や風力発電など出力変動型

再エネも対象とするような改定が必要。

これらの課題や要望に基づき、以下 3 点の政策提言を行う。

X

① 地方政府に対する再エネ電化プロジェクト実施のための総合能力開発

② 既存再エネマイクログリッドの PLN 送配電綱への接続に対する支援

③ 低人口密度地域における携帯電話を活用したPay-As-You-Goソーラープログラムの構

これらを実施することで、地方の再エネ開発および地方政府関係者主導の再エネビジ

ネスの促進を目指すことが重要と考えられる。

XI

目次

第 1 章 エネルギー需給とエネルギー政策の概要 ......................................................................... 1 1.1. エネルギー需給動向............................................................................................................... 1 1.2. エネルギー政策の概要........................................................................................................... 3 1.3. エネルギー原単位の推移 ....................................................................................................... 4 1.4. エネルギー弾性値の推移 ....................................................................................................... 5 [参考文献] ........................................................................................................................................ 6

第 2 章 省エネルギー目標達成に向けた現状と課題 ..................................................................... 7 2.1. 産業部門 .................................................................................................................................. 7 [参考文献] ...................................................................................................................................... 25 2.2. 運輸部門 ................................................................................................................................ 27 2.3. 家庭部門 ................................................................................................................................ 32 2.4. 業務部門 ................................................................................................................................ 38 [参考文献] ...................................................................................................................................... 46

第 3 章 インドネシアの省エネビジネス導入に関する経済性評価 ........................................... 48 3.1. インドネシアにおける CHP 導入によるポテンシャル調査 ........................................... 48

3.1.1. CHP とは .......................................................................................................................... 48 3.1.2. インドネシアにおける熱需要の推計 .......................................................................... 49 3.1.3. インドネシアにおける有用熱エネルギーの推定結果 .............................................. 52 3.1.4. コージェネ導入の効果分析 .......................................................................................... 57 3.1.5. 世界主要国における CHP 推進の政策と実績 ............................................................ 59 3.1.6. インドネシアにおける CHP 推進に係る主な課題 .................................................... 62 3.1.7. インドネシアにおける CHP 導入促進のためのビジネスモデルの提案と政策提案

.................................................................................................................................................... 64 3.2. インドネシアにおけるディマンドサイドマネージメントの分析 ................................. 65

3.2.1. ディマンドサイドマネージメント(Demand Side Management: DSM) ................ 65 3.2.2. Loading Order と省エネルギー ...................................................................................... 67 3.2.3. 省エネプログラム .......................................................................................................... 69 3.2.4. 省エネプログラムの成果 .............................................................................................. 70 3.2.5. インドネシアにおける省エネルギービジネスのポテンシャル分析 ...................... 75 3.2.6. インドネシアへの示唆 .................................................................................................. 77

[参考文献] ...................................................................................................................................... 78 3.3. 省エネルギー機器リースに関する分析 ............................................................................. 79

XII

3.3.1. 省エネ機器リースとは .................................................................................................. 79 3.3.2. 日本・インド等の事例 .................................................................................................. 80 3.3.3. インドネシアでの省エネ機器リース導入に関する制度的課題と将来導入ポテン

シャル、経済性評価................................................................................................................. 85 3.3.4. インドネシアでの省エネ機器リースの事業化に向けた示唆 .................................. 89

[参考文献] ...................................................................................................................................... 89 3.4. コールドチェーンへの省エネルギー・再生可能エネルギー導入促進 ......................... 91

3.4.1. コールドチェーンへの省エネルギー・再生可能エネルギー導入の重要性 .......... 91 3.4.2. インドネシアにおけるコールドチェーンの市場規模および省エネポテンシャル

の評価 ........................................................................................................................................ 93 3.4.3. 海外のオフグリッド地域におけるコールドチェーン普及事例 ............................ 100 3.4.4. 分析結果より得られる示唆およびオフグリッド地域におけるコールドチェーン

普及への提言 .......................................................................................................................... 102 [参考文献] .................................................................................................................................... 106

第 4 章 電力部門の省エネルギーポテンシャルと推進課題 ..................................................... 109 4.1. はじめに .............................................................................................................................. 109 4.2. 電力関連政策 ...................................................................................................................... 109 4.3. RUPTL/RUKN の発電電力量比較...................................................................................... 109 4.4. 35000 MW プログラム ........................................................................................................ 110 4.5. 電力価格動向及び PLN の財務状況 ................................................................................. 111 4.6. PLN の財務状況 ................................................................................................................... 114 4.7. 分析手法 .............................................................................................................................. 115 4.8. 2030 年見通し(BAU ケース) ......................................................................................... 116 4.9. 2030 年省電力見通し........................................................................................................... 118 4.10. 経済性評価 ........................................................................................................................ 119 4.11. インプリケーション ......................................................................................................... 121

第 5 章 再生可能エネルギー導入促進にむけた事業 ................................................................. 122 5.1. 背景 ...................................................................................................................................... 122

5.1.1. インドネシアにおける再生可能エネルギーの導入現状と目標 ............................ 122 5.1.2. インドネシアにおける電力事業の特徴と地方電化 ................................................ 122 5.1.3. インドネシアにおける on-grid の再エネ促進政策の動向 ...................................... 125 5.1.4. インドネシアにおける off-grid の再エネ促進政策の動向 ...................................... 128

5.2. 地域再エネ電力事業研修の提案 ....................................................................................... 129 5.2.1. 本事業における地域再エネ電力事業研修のあり方 ................................................ 130

XIII

5.3. 地域再エネ電力事業研修 ................................................................................................... 135 5.3.1. インドネシア現地研修実施概要 ................................................................................ 135 5.3.2. 日本招聘実施概要 ........................................................................................................ 139

第 6 章 インドネシアにおける省エネルギー・再生可能エネルギー導入普及に向けた政策提

言 ...................................................................................................................................................... 148 6.1. 省エネルギー ...................................................................................................................... 148 6.2. 再生可能エネルギー........................................................................................................... 151 [参考文献] .................................................................................................................................... 154

XIV

略語表

略語 正式名称

(インドネシア語・英語)

日本語名称

および訳

ADB Asian Development Bank アジア開発銀行

ALT Alternative Case 代替ケース(省エネルギー対策実施

ケース)

BAPPEAS National Development Planning Agency 国家開発計画庁

BaU Business as Usual Case 従前のエネルギー改善趨勢が維持さ

れる現状維持ケース

BPPT Agency for Assessment and Application of

研究技術庁

CEMBUREAU European Cement Association 欧州セメント協会

DEN Dewan Energi Nasional 国家エネルギー委員会

DJK Direktorat Jenderal Ketenagalistrikan 電力総局

EBTKE Direktorat Jenderal Energi Baru Terbarukan dan

Konservasi Energi

新・再生可. 能エネルギー及び省エ

ネルギー総局

ECCJ Energy Conservation Center, Japan 省エネルギーセンター

FAO Food and Agriculture Organization of the United

Nations 国連食糧農業機関

FIT Feed-in Tariff 固定価格買取制度

GHG Greenhouse Gas 温室効果ガス

IEA International Energy Agency 国際エネルギー機関

IEEJ Institute of Energy Economics, Japan 日本エネルギー経済研究所

IGA Investment Grade Audit 投資対象診断(省エネ)

JETRO Japan External Trade Organization 日本貿易振興機構

JICA Japan International Cooperation Agency 国際協力機構

KEN Kebijakan Energi Nasional 国家エネルギー計画

LBNL Lawrence Berkeley National Laboratory ローレンス・バークレー国立研究所

LCGC Low Cost Green Car 環境への負担が少ない自動車

注 1:本文中ではインドネシアの機関や計画名についてはインドネシア語の略称を用いる。ただし、省庁に

ついては英語の略称を使用する。

注 2:正式名称がインドネシア語の場合は斜体で表している。

XV

略語表

略語 正式名称

(インドネシア語・英語)

日本語名称

および訳

MEMR Ministry of Energy and Mineral Resources エネルギー鉱物資源省

MEPS Minimum Energy Performance Standards 最低エネルギー消費効率基準

MoEF Ministry of Environment and Forestry 環境森林省

MoF Ministry of Finance 財務省

MoI Ministry of Industry 工業省

MoNE Ministry of National Education 国家教育省

MoPW Ministry of Public Works 公共事業省

MoT (a) Ministry of Transport 運輸省

MoT (b) Ministry of Trade 通商省

NAMA Nationally Appropriate Mitigation Actions 途上国における適切な緩和行動

NDC Nationally Determined Contribution 各国の決定された貢献(旧約束草案)

NEDO New Energy and Industrial Technology Development

新エネルギー・産業技術総合開発機

PLN PT. PLN (Persero), Perusahaan Listrik Negara 国営電力会社

RIKEN Rencana Induk Konservasi Energi Nasional 国家省エネルギーマスタープラン

RUED Rencana Umum Energi Daerah 地方エネルギー総合計画

RUEN Rencana Umum Energi Nasional 国家エネルギー総合計画

RUKN Rencana Umum Ketenagalistrikan Nasional 国家電力総合計画

RUPTL Rencana Usaha Penyediaan Tenaga Listrik 電力供給事業計画

UNFCCC United Nations Framework Convention on Climate

国連気候変動枠組条約

WB World Bank 世界銀行

WSA World Steel Association 世界鉄鋼協会

注 1:本文中ではインドネシアの機関や計画名についてはインドネシア語の略称を用いる。ただし、省庁に

ついては英語の略称を使用する。

注 2:正式名称がインドネシア語の場合は斜体で表している。

XVI

1

第1章 エネルギー需給とエネルギー政策の概要

1.1. エネルギー需給動向

図 1-1 は、インドネシアの一次エネルギー総供給の推移である。インドネシアはアジアの

中でも有数の産油国であり、豊富な自国の資源のもと、一次エネルギー供給量は約 35Mtoe

(1971 年)から 225.4Mtoe(2015 年)と約 6 倍も増加している 1。2015 年の一次エネルギー

供給量の内訳は、石油が 32%と最も大きく、次いでバイオマス・廃棄物が(25%)、石炭(18%)、

天然ガス(17%)となっている。化石燃料間の代替においては、原油生産の縮小および天然

ガスの増産に伴い、石油から石炭とガスへの転換が積極的に図られている。さらに非商業用

から商業用への再生エネルギーへの代替は今後の課題である。

出典: International Energy Agency (2017) “World Energy Statistics and Balances 2017”より作成

図 1-1 インドネシアの一次エネルギー総供給の推移

図 1-2 は部門別の最終エネルギー消費の推移である。インドネシアの最終エネルギー消費

量は約 163Mtoe(2015 年)であり、内訳は家庭部門が 38%、次いで運輸部門が 27%、産業

部門が 26%、業務部門とその他で 3%であり、農村等で使われる非商業用バイオマスを含む

家庭部門のエネルギー消費の割合が最大である。

12004 年には純輸入国に転換している。

0

50

100

150

200

250

71 80 90 00 10 15

バイオマス・廃棄物

太陽光・風力・その他

地熱

水力

天然ガス

石油

石炭

2

出典: International Energy Agency (2017) “World Energy Statistics and Balances 2017”より作成

図 1-2 インドネシアの部門別最終エネルギー消費の推移 注:家庭部門のエネルギー消費のほぼ 78%(2014 年)は農村で使われる非商業用バイオマスである点には

注意が必要である。

インドネシアは 2009 年の金融危機の影響が相対的に小さく、GDP 成長率は 2009 年に

4.6%とゆるやかな増加に転じたものの、2010 年には 6.2%増に回復し、金融危機前の水準を

上回った。他方、足元での成長率は平均 5.1%程度で推移している(2013-2015 年)。

出典:World Bank (2016) “World Development Indicators”

図 1-3 経済成長率の推移

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

71 80 90 00 10 15

非エネルギー

その他

漁業

農業

業務

家庭

運輸

産業

Mtoe

3

1.2. エネルギー政策の概要

インドネシアは、自国の資源で石油を賄えた時代とは異なり、国際的な原油価格の乱高下

が、国家財政を悪化させているため、石油代替エネルギーと省エネルギーの推進が重要課題

であるとの認識が浸透しつつある。他方、石油製品に対する補助金改革は、インドネシアで

は最も大きな政治的課題となっており、歴代政権は慎重な対応を強いられてきた 。インド

ネシアでは 2011 年および 2012 年の補正予算において、燃料価格の引き上げ案(約 30~40%

程度)が盛り込まれたものの、燃料値上げに対する国民のデモや暴動に配慮する形で実行は

見送られてきた。

このような状況を打破するために、2014 年 1 月の下院本会議において、2050 年までのエ

ネルギー政策の大枠を定めた「国家エネルギー政策(KEN)」に関する大統領規定案を承認

し、化石燃料への依存を低減させるとともに再生可能エネルギーの普及促進ならびに省エ

ネルギーの推進を目指している。 KEN で設定された目標を実現化させるための具体的な措

置を盛り込んだ国家エネルギー計画(RUEN)の策定を予定している。

2025 年までにインドネシアにおける各エネルギーの割合は、石油を 49%から 22%以下へ

低減させる目標を設定している。天然ガスを 20%から 22%、石炭を 24%から 32%、再生可

能エネルギーを 6%から 23%へそれぞれ増加させるとしている。また、原子力は最後の選択

と位置付けている。化石燃料の直接使用から電力への転換の促進。発電設備容量は現在の

44GW から 2025 年には 115GW に増加させる。

また、次のような国家エネルギー政策目標を掲げた。

① エネルギー弾性値(エネルギー消費の伸び/経済成長率):経済成長目標に合うよう、

2025 年に弾性値を 1 以下とする。

② エネルギー原単位(GDP 当たりののエネルギー使用量):2025 年までに年 1%で改善

させる。

③ 電化率:2015 年に 85%、2020 年には 100%に近づける。

④ 家庭用ガスの使用率:2015 年に 85%とする。

⑤ 一次エネルギーに占める新・再生可能エネルギーの割合:2025 年までに 23%、2050

年までに 31%に引き上げる。

原子力発電所に対する姿勢:原子力発電は最終的な選択肢と位置づけ、導入の可能性を残

した。長期的には原発の導入が必要という従来からの政府認識を踏襲した形となっている。

資源の輸出に関しては、国内で産出する石炭や天然ガスは、国内の需要の増加を見込み段

階的に輸出を減少させ、最終的に完全に停止する方針である。これは、将来的なエネルギー

資源生産の低迷を見据え、現在の資源輸出する一方で、加工製品を輸入する経済構造には限

界があるため、国内での製造業を振興した上で、国内需要の増加を見込むことが長期的な経

済政策の方針として掲げられている。

4

インドネシアの国家エネルギー計画における 2025 年までのエネルギー需要見通しを図

1-4 に示す。図が示すとおり、インドネシアの一次エネルギーは、2013 年から 2025 年まで

年率 10.3%で増加、2013 年の水準から 2025 年には 3.2 倍の 602 Mtoe にまで達するとしてい

る。これに対して、目標水準は、省エネルギーの貢献が大きく、需要増ペースが BaU と比

較してペースが低い同年率 6.6%で推移、2025 年には 2013 年の 2.2 倍の水準である 400 Mtoe

に達するとしている。

出典:National Energy Commission(2014)「国家エネルギー政策」より作成

図 1-4 国家エネルギー政策における 2025 年までのエネルギー需要見通し

1.3. エネルギー原単位の推移

インドネシア政府の省エネルギー目標として、毎年 1%のエネルギー原単位を改善すると

の目標を国家省エネルギーマスタープランに掲げている。ここでは、その進捗を把握し課題

を抽出するために、2007 年以降のエネルギー原単位の改善率がどのように推移してきたか

を分析する。

図が表わす通り、2007 年以降の非商業用バイオマスを含まないインドネシアデータでは

エネルギー原単位の改善率は一次エネルギーのGDP原単位ならびに最終エネルギーのGDP

原単位は年平均でそれぞれ 2.8%の改善(一次エネルギー/GDP)、2.6%の改善(最終エネル

ギー/GDP)になっている。

原単位 1%改善の目標の評価として、非商業エネルギーを含むのか、含まないのか、一次

エネルギー原単位か、最終エネルギー原単位か、あるいは分母の GDP は何年の物価水準を

ベースとするのかといった定義が明確化されておらず、今後適切な評価ならびに政策手段

2013 2015 2020

23%NRE25%天然ガス

22%石油

30%石炭

省エネ(33.6%)

186 Mtoe

602 Mtoe

400 Mtoe

石炭

石油

天然ガスNRE 10%

18%

41%31%

3%

21%

42%

35%

2025

エネルギー源

の多様化

5

の実施に向けた対応が必要になる。

政策手段別では、指定管理工場の企業数が全産業の 2 割弱となっているため、指定管理工

場制度の強化次第で目標の大幅超過達成も可能であろう。また化石燃料と電力への補助金

削減の加速が必要である。このほか、火力発電の効率化は一次エネルギー原単位の改善に大

きく寄与し得る。そして、MEPS 対象製品とラベリングの拡充と強化、省庁間横断的に税や

補助金による省エネ助成制度の構築が必要であると指摘できる。

出典: Ministry of Energy and Mineral Resources (2017) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2017”より作成

図 1-5 一次エネルギー原単位および最終エネルギー原単位の推移

1.4. エネルギー弾性値の推移

出典: Ministry of Energy and Mineral Resources (2017) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2017”より作成

図 1-6 エネルギー弾性値の推移

-20%

-15%

-10%

-5%

0%

5%

10%

2008 2009 2010 2015

最終エネルギー原単位 一次エネルギー原単位

(2.5)

(2.0)

(1.5)

(1.0)

(0.5)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

一次エネルギー

最終エネルギー

電力

6

インドネシアでは、エネルギー弾性値を 2025 年までに 1 以下とする目標を設定している。

すなわち、インドネシアでは、エネルギー効率の改善により、エネルギー消費の伸びが GDP

の伸びを下回る緩やかなペースで推移させることを目標として設定している。

ここでは、目標実現に向けた進捗を把握する目的で、2000 年以降のデータを活用し、エ

ネルギーの GDP 弾性値を一次エネルギー供給、最終エネルギー消費、そして電力消費に関

して分析し示唆を得る。なお、ここでは非商業用のバイオマスを除くエネルギー消費につい

て推移をみている。

図が示す通り、インドネシアのエネルギーの GDP 弾性値は、年によって水準が異なるこ

とが分かる。他方、2000 年から 2015 年の平均では、一次エネルギー供給および最終エネル

ギー消費の GDP 弾性値が 0.76、0.63 と既に 1 を下回る水準になっている。対照的に電力消

費の GDP 弾性値は、2000 年から 2015 年の平均で 1.2 となっており、GDP の伸びを上回る

急速なスピードで増加していることが分かる。

バイオマスを除く一次エネルギー供給ならびに最終エネルギー消費の GDP 弾性値が 1 を

下回る水準となっているのは、必ずしも効率改善によるものではなく、石炭から電力やガス

への燃料代替、産業活動状況等に大きく影響される。特にインドネシアの産業部門のエネル

ギー消費が 2014 年に大きく落ち込んでいるが、これは、世界的な資源価格の低迷による鉱

業の生産活動の低迷によるものと指摘できる。

こうした点を踏まえ、必ずしもエネルギーの GDP 弾性値がエネルギー効率改善に関する

適切な指標とは限らないため、より詳細なデータの収集による部門別、業種別のエネルギー

消費動向を把握した上でエネルギー効率改善動向に関する評価指標を構築する必要がある

だろう。

[参考文献]

• International Energy Agency (2017) “World Energy Statistics and Balances 2017”

• Ministry of Energy and Mineral Resources, Republic of Indonesia (2017) “Handbook of Energy

& Economic Statistics”

• World Bank (2017) “World Development Indicators”

• 国際協力機構 (2014) 「平成 25 年度 国際即戦力育成インターンシップ事業 インド

ネシアの電力事情 報告書」

7

第2章 省エネルギー目標達成に向けた現状と課題 2.1. 産業部門

1. エネルギー消費の推移

産業部門のエネルギー消費は、IEA (2017)によれば、1990 年から 2015 年までの間に年率

3.3%で増加し、2014 年には 1990 年と比べ約 2.3 倍に増加した。産業部門の最終エネルギー

消費量は、約 42Mtoe(2015 年)であり、燃料種別内訳は天然ガス 31%、石炭 23%、石油

17%、再生可能エネルギー・廃棄物等 16%、電力 13%となっている(図 2-1)。

出典: International Energy Agency (2017) “World Energy Statistics and Balances 2017”より作成

図 2-1 産業部門の燃料別エネルギー消費の推移

産業部門の業種別のエネルギー消費量は、2015 年の業種種別内訳は他製造業 55%、電力

13%となっており、業種が特定できている割合は 32%に留まっている(図 2-2)。業種が把

握できているエネルギー消費量は、約 13Mtoe(2015 年)であり、この中での内訳はガラス・

陶磁器・セメントなど非金属鉱物工業 28%、化学・石油化学工業 22%、非鉄金属工業 15%、

紙パ・印刷業 15%、繊維・皮革工業 5%、金属鉱業・砕石業 5%、鉄鋼業 5%、食料品・タバコ

工業 3%、などとなっている(図 2-3)。

2015 年における産業部門の業種別燃料別エネルギー消費をみると、電力および天然ガス

の約 8 割が、他の製造業に計上されている。この両者を合計すると約 16Mtoe となり、産業

部門のエネルギー消費 42Mtoe の 37%に相当する(表 2-1)。

石炭

石油

天然ガス再生可能エネル

ギー・廃棄物等

電力

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

71 75 80 85 90 95 00 05 10 15

(Mtoe)

8

出典: International Energy Agency (2017) “World Energy Statistics and Balances 2017”より作成

図 2-2 産業部門の業種別エネルギー消費の推移

出典: International Energy Agency (2017) “World Energy Statistics and Balances 2017”より作成

図 2-3 産業部門の業種別エネルギー消費の推移(他製造業、電力を除く)

鉄鋼業

化学・石油化学工

ガラス・陶磁器・セメ

ントなど非金属鉱

物工業

他製造業

電力(産業合計)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

71 75 80 85 90 95 00 05 10 15

(Mtoe)

鉄鋼業

化学・石油化学工

非鉄金属工業

ガラス・陶磁器・セメ

ントなど非金属鉱

物工業

金属製品・一般・電

気機械工業

金属鉱業・砕石業

食料品・タバコ工業

紙パ・印刷工業

建設業

繊維・皮革工業

0

2

4

6

8

10

12

14

16

71 75 80 85 90 95 00 05 10 15

(Mtoe)

9

表 2-1 産業部門の業種別燃料別エネルギー消費(2015 年)

出典: International Energy Agency (2017) “World Energy Statistics and Balances 2017”より作成

産業分野のエネルギー消費状況は、公表されている機関の間でデータが不整合・未整備で

あるために正確に把握することは困難な状況となっている。工業省(MoI(2012))によれば、

産業部門のエネルギー消費の 60~70%はエネルギー多消費産業の主要 7 業種(化学肥料、

紙パ、繊維、セメント、鉄鋼、窯業、食品(パームオイル精製))が占めているとされてい

る。この主要 7 業種のエネルギー消費量の伸びは BaU ケースで 2012 年から 2025 年で 2.1

倍(90.1TWh→188.4TWh)の見通しで、これに対する省エネ量は、22.1TWh (BaU 比 11.7%)

となっている(図 2-4)。また、2012 年時点でエネルギー消費量が多い産業は紙パ、繊維と

なっている。しかし、図 2-4 に見られるように IEA(2017)ではその他産業部門に電力及び

天然ガスの消費量の大部分が計上されている等、必ずしも主要 7 業種の正確なエネルギー

消費量は把握されていない模様である。

2015 (単位: Mtoe)

石炭 石油 天然ガス再生可能エネル

ギー・廃棄物等電力 熱 合計

鉄鋼業 0.25 0.29 0.09 0.00 - 0.00 0.62

化学・石油化学

工業0.00 0.37 2.54 0.00 - 0.00 2.92

非鉄金属工業 2.03 0.00 0.00 0.00 - 0.00 2.03

ガラス・陶磁器・

セメントなど非金

属鉱物工業

3.22 0.52 0.00 0.00 - 0.00 3.74

金属製品・一般・

電気機械工業0.00 0.04 0.00 0.00 - 0.00 0.04

金属鉱業・砕石

業0.00 0.63 0.00 0.00 - 0.00 0.63

食料品・タバコ工

業0.00 0.38 0.00 0.00 - 0.00 0.38

紙パ・印刷工業 1.93 0.00 0.00 0.00 - 0.00 1.93

建設業 0.00 0.22 0.00 0.00 - 0.00 0.22

繊維・皮革工業 0.00 0.71 0.00 0.00 - 0.00 0.71

他製造業 2.17 4.05 10.04 6.55 - 0.00 22.82

電力

(産業合計)- - - - 5.51 - 5.51

合計 9.60 7.21 12.68 6.55 5.51 0.00 41.55

10

出典:Ministry of Industry (2012) “Industrial Energy Efficiency Initiatives & Standards”

図 2-4 エネルギー多消費産業の業種別エネルギー需要予測(BaU ケース)

2. 経済活動の推移

インドネシアの 2015 年の名目 GDP は 8,619 億ドルで、そのうち製造業 21%、農林水産業

13%、鉱業 7%を占めている。また、近年の経済成長率(実質)は、5~6%程度で推移してい

る 2。

2016 年の粗鋼生産量は、世界鉄鋼協会(WSA: World Steel Association)によれば 4,746 千ト

ン(図 2-5)である。2016 年の紙・板紙生産量は、国連食糧機関(FAO: Food and Agriculture

Ogranization)が 10,470 千トンと推定している(図 2-6)。2014 年のセメント生産量は、欧州

セメント協会(CEMBUREAU: The European Cement Association)によれば、58,000 千トンであ

る。

2 インドネシア基礎データ, 外務省ホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/indonesia/data.html

0

20

40

60

80

100

2012 2015 2020 2025

TWh

鉄鋼

繊維

化学肥料

紙パ

パームオイル精製

セメント

窯業

5% 5% 6% 6%

23% 24% 25% 27%5% 5% 6% 6%

59% 57% 51% 46%

0% 0% 0% 0%7% 7% 10% 12%1% 1% 2% 2%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2012 2015 2020 2025

窯業

セメント

パームオイル精製

紙パ

化学肥料

繊維

鉄鋼

11

出典:World Steel Asociation “Steel Statistical Yearbook”

図 2-5 インドネシアの粗鋼生産量の推移

出典:Food and Agriculture Organization of the United Nations “FAOSTAT”

図 2-6 インドネシアの紙・板紙生産量の推移

出典:European Cement Association “World Statistical Review”

図 2-7 インドネシアのセメント生産量の推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

67 70 75 80 85 90 95 00 05 10 15

(kt)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

67 70 75 80 85 90 95 00 05 10 15

(kt)

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

67 70 75 80 85 90 95 00 05 10 15

(kt)

12

3. 省エネルギー目標

国家省エネルギーマスタープラン(RIKEN(2005))によれば、基本計画策定時から 2025 年

までの各部門における省エネポテンシャルは、それぞれ、産業部門(17%)、業務部門(15%)、

運輸部門(20%)、家庭部門(20%)としている。産業部門における省エネ目標は、2025 年

に BaU 比 17%削減としているが、技術別の目標が不明である。

工業省(MoI(2012))に基づけば、経済加速ケースのエネルギー多消費産業の主要 7 業種

の 2025 年における省エネ率は 12.4%と算出されている。BaU ケースにも同様な業種別省エ

ネ率を想定した場合は、2025 年における省エネ率は 11.7%と算出されている。しかしなが

ら、RIKEN(2005)の産業分門の 17%目標を満たしていない状況である。

4. 省エネルギー政策とその課題

• 産業部門の省エネ関連法令

産業部門の省エネ関連法令は、エネルギー法、省エネルギー政令、新国家エネルギー政策、

エネルギー管理に関する規則、国営電力会社(PLN)の電力料金に関する規則、エネルギー管

理士・エネルギー診断士の国家能力基準に関する規則が主たる法制度となっている。

表 2-2 産業部門の省エネ関連法令

関連法令 内容

エネルギー法 2007 年 30 号 エネルギー部門を統括管理するための法律。国家

エネルギー委員会(DEN)の設置、国家エネルギー政

策の策定のほか省エネルギー政策を規定。

省エネルギー政令 2009 年 70 号 エネルギー法に基づいて制定。省エネルギーマス

タープランの策定、エネルギー管理制度、省エネ基

準・ラベルを規定。

新国家エネルギー政策(政令)2014 年 79 号 2025 年におけるエネルギー弾性値を 1 以下。2025

年までにエネルギー原単位を 1%で減少。

エネルギー管理に関する MEMR 省令 2012 年 14

省エネルギー政令の第 13 条(5)項、第 19 条(3)項、

第 21 条(2)項、および第 27 条のエネルギー管理制

度の実施細則

国営電力会社(PLN)の電力料金に関する MEMR省

令 2014 年 19 号

国営会社(PLN)の電力料金の設定に関する省令

産業部門のエネルギー管理士の能力基準に関する

MEMR 省令 2010 年 13 号

エネルギー管理士およびエネルギー診断士の国家

能力基準

産業部門のエネルギー管理士の国家職業技能適性

基準に関する MOM&T 省令 2011 年 321 号

13

エネルギー診断士の国家職業技能適性基準に関す

る MOM&T 省令 2012 年 614 号

出典:エネルギー鉱物資源省 WEB サイト(法規集 3)など各種資料より作成

• エネルギー管理制度

省エネルギー政令でエネルギー管理者の任命などのエネルギー管理制度が定められてお

り、実施細則はエネルギー管理に関する規則で定められている。また、エネルギー管理士お

よびエネルギー診断士の国家能力基準が定められている。

(1). エネルギー多消費事業者(6,000toe 以上)

年間 6,000toe 以上のエネルギーを使用するエネルギー多消費事業者は、以下のエネルギ

ー管理を通じた省エネルギーを実施することが求められている。

• エネルギー管理者の任命

• 省エネルギープログラムの策定

• 定期的な省エネルギー診断(エネルギー監査)の実施

• 省エネルギー診断の結果に基づく提案の実施

• 省エネルギーの実施状況の定期報告

(2). エネルギー管理士、エネルギー診断士

任命されるエネルギー管理者は、エネルギー管理士認証が義務付けられている。省エネル

ギー診断は、内部のエネルギー診断士または認定機関が実施し、この省エネルギー診断を実

施するエネルギー診断士もエネルギー診断士認証が義務付けられている。

(3). 省エネルギー実施の成功基準

省エネルギー実施の成功基準は、一定期間にエネルギー原単位(SEC: Specific Energy

Consumption)、またはエネルギー消費弾性値が減少することである。エネルギー管理に関す

る規則では、一定期間の間に連続して 3 年間、エネルギー原単位の年 2%以上の改善と定め

られている。

(4). インセンティブ、ディスインセンティブ

定期報告の評価結果が省エネルギー実施の成功基準を満たしている時、以下のインセン

ティブを申請することができる。

• 省エネ設備の税制優遇

• 省エネ設備の地方税の減免または免除

• 輸入省エネ設備の関税免除

• 省エネ投資の低利融資

• 政府による財政支援されたパートナーシップによる省エネルギー診断

また、エネルギー管理を通じた省エネルギーを実施していない場合、以下のディスインセ

ンティブが科される。

3 http://jdih.esdm.go.id/?page=home

14

• 書面による警告

• マスメディアでの公表

• 罰金

• エネルギー供給の削減

5. 省エネ施策の実施状況と課題

• 省エネ施策の実施状況と課題の概要

省エネ法の執行状況は、エネルギー集約産業の 265 事業者のうち、101 事業者がエネル

ギー使用状況を報告し、提出率は 38%と低い。法の執行強化が課題となっている。

2016 年 8 月現在で、エネルギー管理士認証者は 306 名、エネルギー診断士認証者は 196

名となった。2016 年 2 月現在で必要なエネルギー管理士数 827 名であり、その充足率が 27%

(経済産業省 (2016a))だったものから 37%に向上中であるが、引き続き認証者数の拡大・

育成が課題となっている。2011~2014 年に、517 事業者(発電、化学工業、紙パ、食品・飲

料、繊維、鉄鋼、農産業)の省エネ診断が実施された。低コストの省エネ対策の提案は、ほ

ぼ実施済みとなっている。2014~2015 年に、10 事業者(繊維、化学工業、鉄鋼)の省エネ

設備導入などの省エネ投資を目的とした投資対象省エネ診断(IGA:Investment Grade Audit)4が実施された。中高コストの省エネ投資に対する財政支援、これら投資対象省エネ対策

(IGA)に対する専門知識の不足が課題である。外部機関からも同様指摘がなされており、

これらに加えて、エネルギー管理システムの未構築、省エネ対策の具体化能力が低いことな

どが指摘されている。

表 2-3 2015 年時点での MEMR の省エネ施策の実施状況と課題の概要(産業部門)

省エネ施策 現 状 課 題

政府予算による省エネ

診断の実施

• 2011 年~2014 年の間に 517 件(火力発

電所、化学、紙パ、食品飲料、繊維、鉄

鋼、農産業)に対して省エネ診断を実施

• コスト負担が無い、または低コストの省

エネ対策の提案は、ほぼ実施済み

• 中高コストの省エネ対策提案の実

施のための財政支援の不足

• 自覚の不足

• 認証エネルギー診断士の人数の不

政府予算による投資対

象省エネ診断(IGA)の

実施

2014 年~2015 年にかけて 10 件の投資対象省

エネ診断(IGA)の実施(繊維、化学、鉄鋼)

投資対象省エネ診断(IGA)を実施する国

内専門家の不足

エネルギーマネジメン

トシステム(ISO50001)

の実施:UNIDO サポー

• 2012 年~2017 年目標:繊維、紙パ、食

品飲料、化学

• エネルギーマネジメントシステムおよ

• 工場経営層のエネルギーマネジメ

ントシステムに関する自覚および

情報の不足

4 投資対象省エネ診断(IGA)とは、省エネ投資を要する省エネプロジェクトベースの詳細診断のことで、

計測診断や経済性分析が実施される。

15

ト事業 びシステム最適化の認証国内専門家 25

• 国内専門家による ISO50001 実施予定の

11 企業

• ISO50001 適合済み 5 企業

• 技術スタッフおよびオペレーター

の力量の不足

エネルギー管理士・診断

士の認証

(2016 年 8 月現在)

認証エネルギー管理士 306 名

認証エネルギー診断士 196 名

• 法執行の不足

• エネルギー管理士受験者の力量不

エネルギー管理の指定

(>6,000toe)

エネルギー集約企業 265 社のうち 101 社がエ

ネルギー使用状況の報告済み

• 法執行の不足

出典:Farida Zed (2015) “Indonesia Energy Efficiency and Conservation Status, Gaps, and Opportunities”及び経済

産業省 (2016b) 「平成 27 年度国際エネルギー使用合理化等対策事業(省エネルギー人材育成事業)」

表 2-4 外部機関からの指摘事項

指摘事項

1.省エネ政策及び法制度上の課題

1-1.エネルギー管理制度の整備が不十分

・エネルギー管理士およびエネルギー診断士の不足

・エネルギー管理者の実施すべき職務の指針や基準が未設定

1-2.省エネ推進の支援制度が未設定

・省エネ投資を促進するための補助金などの支援制度が未設定

・金融支援の対象となる有効な省エネ技術や設備の指針が未整備

2.民間における省エネ推進の課題

2-1.多くの企業でエネルギー管理システムが未構築

・経営者の省エネや環境保全に対する理解が不足

・エネルギー管理システムを構築するための具体的なガイドラインが未整備

・エネルギー管理システムを構築するための知識を有する人材の不足

・プロセスや設備の省エネ指針およびデータベース等の管理ツールが未整備

・多くの企業でエネルギー管理従事者の教育カリキュラムが未整備のため自社内の教育訓練が未実施

・結果として、エネルギー管理担当者の具体的な改善策を策定する能力のバラツキが大

2-2.省エネ対策のプロジェクト化が困難(有効な省エネ対策提案の低実施率)

・金利が高いなどの制約があるため投資回収 2 年超の設備投資が困難

・BAT やベストプラクティスの情報が非共有

・省エネ案件を具体化するプロジェクト形成能力の不足

2-3.ESCO 等の外部の省エネ支援団体の不足

16

・ESCO 等支援団体の技術能力の不足

・顧客や金融機関が ESCO に関して低理解

出典:経済産業省 (2016a) 「平成 27 年度国際エネルギー使用合理化等対策事業(省エネルギー人材育成事

業)」

• エネルギー使用状況報告

省エネ法の執行状況は、エネルギー集約産業の 265 社のうち 101 社がエネルギー使用状

況を報告し、提出率は 38%と低く、法の執行強化が課題となっている。2014 年から利便性

の向上のためにエネルギー使用状況報告はオンラインで提出することができるようになっ

たため、2014 年の報告数は増加している(下図参照)。

一方で、エネルギー多消費事業者の数は、800 事業所に上るとの調査結果もあり 5、相当

数の事業所が把握されていない可能性がある。

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Statistik EBTKE 2015”

図 2-8 エネルギー使用状況の報告数

5 国際協力機構 (2009)によれば、6,000toe 以上の産業部門の事業者数は、710 事業所であった。

ECCJ(2016)では、必要エネルギー管理士数は 827 名である。

0

10

20

30

40

50

60

70

2011 2012 2013 2014

213

21

61

02

2

0

報告

産業部門 業務部門

17

出典:オンラインエネルギー管理報告 Web サイト 6

図 2-9 オンラインエネルギー使用状況報告

• エネルギー管理士、エネルギー診断士、国内専門家

年間 6,000toe 以上のエネルギーを使用する大口事業者は、エネルギー管理者の任命およ

び省エネルギー診断(エネルギー監査)の定期的な実施が義務付けられている。任命される

エネルギー管理者は、エネルギー管理士認証が義務付けられている。省エネルギー診断は、

内部のエネルギー診断士または認定機関が実施し、この省エネルギー診断を実施するエネ

ルギー診断士もエネルギー診断士認証が義務付けられている。

2016 年 8 月現在で、エネルギー管理士認証者は 306 名、エネルギー診断士認証者は 196

名となった。2016 年 2 月現在で必要なエネルギー管理士数 827 名であり、その充足率が 27%

(経済産業省 (2016a))だったものから 37%に向上中であるが、引き続き認証者数の拡大・

育成が課題となっている。

国内専門家は、2015 年 1 月 30 日現在で 49 名が登録されている。このうち、圧縮空気シ

ステム最適化の専門家が 18 名、蒸気システム最適化の専門家が 17 名、ポンプシステム最

適化の専門家が 5名、エネルギーマネジメントシステム(ISO50001)の専門家が 22名である。

6 http://aplikasi.ebtke.esdm.go.id/pome/

18

表 2-5 エネルギー管理士認証の取得状況

出典:オンラインエネルギー管理報告 Web サイトのエネルギー管理士リストおよび、Ministry of

Energy and Mineral Resources (2016) “Statistik EBTKE 2015”

表 2-6 エネルギー診断士認証の取得状況

出典:オンラインエネルギー管理報告 Web サイトのエネルギー診断士リスト

• 省エネルギー診断

2003 年~2014 年の間に、産業部門および商業ビル部門に対して官民パートナージップ省

エネプログラムに基づく政府出資の省エネ診断が 1,274 件実施された(下表参照)。2011~

2014 年の産業部門 517 件(発電、化学工業、紙パ、食品・飲料、繊維、鉄鋼、農産業)の省

2012 2013 2014 2015* 2016*

産業部門 42 29 52 59 112 294

エネルギー供給 0 6 26 5 55 92

化学・石油化学 3 7 7 21 22 60

セメント 23 0 0 0 6 29

繊維・織物 2 0 0 9 3 14

鉄鋼、鉱業 4 0 2 5 7 18

農業、食品・飲料 6 5 6 6 6 29

紙・パルプ 0 2 3 2 11 18

加工 2 9 4 2 0 17

その他 2 0 4 9 2 17

商業ビル部門 8 0 0 2 2 12

モール 2 0 0 0 0 2

大学 6 0 0 0 2 8

集合住宅 0 0 0 2 0 2

合計 50 29 52 61 112 306

*2015年は2015年10月現在、2016年は2016年8月現在の数値を使用。

セクター

/サブセクター認証年

合計

2013 2014 2015 2016

内部 29 19 54 40 142

外部 1 0 1 0 2

内部 1 1 0 0 2

外部 21 10 14 4 49

商業ビル部門 内部 0 0 0 1 1

52 30 69 45 196

合計セクター 診断員種類認証年

合計

産業部門

産業部門

/商業ビル部門

19

エネ診断の実施結果は、低コストの省エネ対策の提案は、ほぼ実施済みとなっている。2014

~2015 年には、10 事業者(繊維、化学工業、鉄鋼)の投資対象省エネ診断(IGA)が実施され

た。

表 2-7 官民パートナージップ省エネプログラムに基づく政府出資の省エネ診断

注:2005 年および 2008 年は未実施

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Statistik EBTKE 2015”

• 金融環境

インドネシア中央銀行は、2016 年には 6 回の利下げを実施したが、2016 年 11 月以降は通

貨ルピアの下落を懸念して据え置いていた 7。この利下げの目的は、銀行融資の伸び悩みお

よび国内景気の刺激を狙ったものであった 8。2017 年は 8 月および 9 月に 2 回、2016 年以

降 8 回の利下げを実施した。2018 年 1 月 18 日現在、インドネシア中央銀行は、政策金利を

7 日物リバースレポ金利で 4.25%、預⾦ファシリティ⾦利で 3.50%、貸出ファシリティ⾦利で

5.00%に堅持している 9。しかし、インドネシアの実質金利は、この利下げにもかかわらず

高止ったままとなっている。インドネシアの最大手銀行である国営マンディリ銀行の 2017

年 12月 31日現在のプライムローン(信用度の高い借り手への短期融資)の金利は年 9.95%、

リテール(消費者向け小口金融)は 9.95%、マイクロローン(少額融資)は 17.75%となって

いる 10。

このように融資金利が 9.95%を超えるなど資金調達コストが膨大となることが阻害要因

となって、省エネ投資は積極的に行われていない。これにより投資回収年数 1 年程度の技術

への投資が主体となっている。

7 日本経済新聞(2017.3.16), インドネシア中銀、政策金利据え置き 5カ月連続 https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM16H6Y_W7A310C1FF2000/ 8 http://www.bi.go.id/en/ruang-media/siaran-pers/Pages/sp_188416.aspx 9 http://www.bi.go.id/en/ruang-media/siaran-pers/Pages/sp_200618.aspx 10 http://www.bankmandiri.co.id/eriview-pdf/SAHN5732910_SBDK%20per%2030%20Desember%202017%20English.pdf

2003 2004 2006 2007 2009 2010 2011 2012 2013 2014

10億ルピー - - 2.4 25 4 20 22 18.5 14.7 28

- (PT. PLN) (PT. PLN) (国家予算) (国家予算) (国家予算) (国家予算) (国家予算) (国家予算) (国家予算) (国家予算)

産業部門 5 3 21 138 16 105 125 104 108 180

商業ビル部門 6 6 11 62 24 55 70 55 60 120

GWh 78.4 14.8 40.7 519 34 725 837 1,532 556 51510億ルピー 50.8 6.9 40.4 289 23.8 450 512 624 449 391

ktCO2 70.6 13.32 36.6 467.1 30 645 646 1,380 500 463GWh 34.4 14.1 30.1 307 15 175 128 46 184

10億ルピー 22.2 8.2 19.9 168.8 10.7 100 82 - 184ktCO2 40 12.7 27.1 276.3 13.6 157 94 41.4 163

獲得省エネ量

省エネポテンシャル

参加者

資金

20

出典:国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」

図 2-10 業種別省エネ投資の現状

• 今後の予定

対象事業所の拡大のために、エネルギー使用量のしきい値の引き下げ(産業部門:4,000toe、

業務部門:2,000toe)が計画されている。事業所のエネルギー管理状況のランク付けも計画

される。エネルギー管理士等の資格者の充足数を満たすために、新たな認証機関や新たなト

レーニングスキームに基づくトレーニングセンターが設立される予定となっている。これ

らによって、2020 年までに、エネルギー管理士有資格者の総数を直近の 306 名から 900 名

に増加させる目標を掲げている。

69%

20%

0%

0%

25%

36%

27%

60%

67%

50%

59%

4%

20%

33%

100%

25%

5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ビル

製造業

食品

セメント

鉄鋼

繊維

1億ルピア以下 1-10億ルピア10億ルピア以上

21

表 2-8 エネルギー管理制度の目標

現状 2017 2018 2019 2020 合計

エネルギー管理士 306 150 150 150 144 900

エネルギー診断士 196 100 100 100 104 600

資格認証機関 1 1 1 1 1 5

関連法規改正 - ○ - - -

トレーニングセンタ

- ○ - - -

出典:Kusuma (2016) “Improvement of the existing energy manager training & certification system with roadmap plan of energy management system”

6. 他省庁における省エネ関連施策

• 工業省

インドネシアの産業政策においても、「環境、省エネ技術の強化」が位置付けられている。

新工業法 2014 年 3 号では、産業部門のエネルギーに関して、効率的、環境融和的で持続可

能なプロセスおよび使用、および企業等に対してエネルギー管理の実施を要求している。ま

た、産業のグリーン化を推奨しており、意識の向上の取組として、インドネシアグリーン産

業表彰(Green Industry Award)を実施しており、2014 年には 112 社の応募があり 101 社が

表彰されている。

省エネ政策の整備は、エネルギー鉱物資源省が実施しているが、産業部門の省エネ対策は

工業省が策定している。工業省の省エネ量(BaU ケース)は 11.7%である一方、RIKEN の

省エネ目標は 17%。両省の政策整合化が必要である。

出典:経済産業省 (2015) 「平成 26 年度アジア産業基盤強化等事業 インドネシアの現地中小企業の実態調

査」

図 2-11 工業省の産業政策

22

図 2-12 エネルギー鉱物資源省と工業省の省エネ関連政策の関係

• 環境省

環境省は、環境政策の策定・環境基準の設定・省庁間の調整などを担当している。各部門

の具体的な政策・規則の策定は各省庁に権限があり、エネルギー部門はエネルギー鉱物資源

省が、産業部門は工業省が管轄している。エネルギー部門にはエネルギー需要管理(省エネ)

が含まれているため、産業部門の政策・規則は、エネルギー鉱物資源省と工業省の管轄がオ

ーバーラップしている(下表参照)。

表 2-9 国家温室効果ガス削減行動計画(RAN-GRK)における実施機関

出典:大統領令 2011 年 61 号より作成

7. 課題のまとめ

インドネシアの産業部門では、エネルギー管理制度の法整備、政府による省エネ診断の実

施などが着実に推進されてきているものの、規制対象事業者のカバー率が低い、エネルギー

管理者の不足などの課題があり、改善に向けた取組が実施されてきているところである。政

府の省エネルギー推進体制は、エネルギー鉱物資源省が省エネルギー全般の監督官庁であ

るが、産業部門は工業省が管轄しており、関係省庁間の連携が重要になる。官民パートナー

ジップ省エネプログラムに基づく政府出資の省エネ診断が実施されており、省エネポテン

新工業法2014年3号エネルギー法2007年30号

エネルギー鉱

物資源省(MEMR)

工業省

(MOI)

国家省エネルギー

マスタープラン(RIKEN)

省エネルギー規則

2009年70号(省エネ義務)

政策整合化

国家工業開発マス

タープラン(RIPIN)Green

Industry

産業部門の省エネ対策省エネ政策制度の整備

農業 公共事業省、農業省

森林・泥炭地 森林省、公共事業省、 農業省

エ ネ ル ギ ー・運輸エネルギー鉱物資源省、運輸省、

財務省、DKIジャカルタ州政府

産業 工業省

廃棄物 公共事業省、環境省

実施機関セクター

23

シャルが把握されているものの、この提言に基づく省エネ対策の実施は低コストなものに

とどまっている。高コストの省エネ対策の実施率は低い状況であり、政府による財政支援が

必要となっている。また、設備投資適格な省エネ対策案件を抽出するための投資対象省エネ

診断(IGA)を実施できる専門家の不足も課題となっている。

8. 課題を解決する技術の提案

インドネシアの産業部門エネルギー原単位は、過去の省エネ診断の報告結果や JICA(2009)

の調査事業によると、各国と比較して大きく、省エネポテンシャルは 20%~30%あると推定

されている。また、国連主導の技術ニーズ評価である Technology Needs Assessment (TNA)が

2010 年に実施され、インドネシア国内の省エネ技術ニーズが把握された。セメントで 17 技

術(第 1 優先技術:7、第 2 優先技術:7、第 3 優先技術:5)、鉄鋼で 23 技術(第 1 優先技

術:8、第 2 優先技術:8、第 3 優先技術:7)、紙パで 16 技術(第 1 優先技術:10、第 2 優

先技術:6)が特定されている。

表 2-10 産業部門エネルギー原単位の各国比較

産業部門 国 エネルギー原単位

鉄鋼 インドネシア

インド

日本

650 kWh/Ton

600 kWh/Ton

350 kWh/Ton

セメント インドネシア

日本

800 kcal/kg clinker

773 kcal/kg clinker

窯業 インドネシア

ベトナム

16.6 GJ/Ton

12.9 GJ/Ton

ガラス インドネシア

韓国

12 MJ/ton

10 MJ/ton

繊維 インドネシア

インド

Spinning : 9,59 GJ/Ton

Weaving : 33 GJ/Ton

Spinning : 3,2 GJ/Ton

Weaving : 31 GJ/Ton

出典: Indarti (2011) “Energy Efficiency Indicators in Indonesia”11

11 2003 年~2010 年に実施された省エネ診断および国際協力機構 (2009)の調査事業

24

表 2-11 産業部門の省エネ技術のニーズ(TNA)

出典:Republic of Indonesia (2010) “Indonesia's Technology Needs Assessment on Climate Change Mitigation -

Updated Version -“

No. First Priority Second Priority Third Priority

1 Use of limestone with low CaCO3. Alternative fuels Kiln burner modification

2Reducing clinker-to-cement ratio bysubstituting clinker with materials such as flyash, etc.

Energy management and process controlsystem

Conversion to grate cooler

3 Mineral components in Cement (MIC)Waste heat recovery of cement kiln exhaustgas for raw meal pre-heater

Install meter in every section and “reroute”power cable

4Preventative maintenance (insulation,compressed air system, maintenance)

High-efficiency classifiers Optimization of hydraulic roller crusher

5 Install variable speed drive Optimization of compressed air systems Install vibrating screen cement pre-grinder

6 Kiln shell heat loss reduction Refractories

7 Minimize ingress of false air High-efficiency motor drives

No. First Priority Second Priority Third Priority

1 Slabs/ billets hot charging Preventative maintenanceVariable speed drive: flue gas control, pumps,fans

2 Thin slab mills technology (hot rolling) Energy monitoring and management systemDe-dusting system optimization(steelmaking)

3 Optimization in laddle pre-heating Zero reformer Energy-efficient drives (rolling mill)

4Oxygen lancing at electric arc furnace(steelmaking)

Waste heat recovery Heat recovery on the annealing line

5 Scrap pre-heater (steelmaking) Process control in hot strip mill Reduced steam use (pickling line)

6 Power demand control Recuperative burners Automated monitoring and targeting system

7 Fuel substitution Insulation of furnacesControlling oxygen levels and VSDs oncombustion air fans

8 Adopt continuous casting Energy Control Center

No. First Priority Second Priority

1Changing paper press surface from grooveto drill/ groove type

Waste heat recovery

2Refiner improvement: Refiner bladereplacement

Optimization of regular equipment

3 Using shoe press machine Blow-down steam recovery

4 Use chemicals in pulp refinery system Steam trap maintenance

5 Steam traps treatment Increase use of recycled paper

6 Condensate heat recoveryEnergy management and process controlsystem

7 Continuous digesters

8 Continuous digester modifications

9 Boiler maintenance

10 Leak repair

Cement

Iron & Steel

Pulp & Paper

25

[参考文献]

• Edi Hilman and Mustafa Said(2009)”Energy Efficiency Standard and Labeling Policy in

Indonesia”

• European Cement Association “World Statistical Review”

• Farida Zed (2015) “Indonesia Energy Efficiency and Conservation Status, Gaps, and

Opportunities”

http://www.energyefficiencycentre.org/-

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• 経済産業省 (2016b) 「平成 27 年度国際エネルギー使用合理化等対策事業(省エネルギ

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• 国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」(委託先:電源開発

株式会社)

• 日本電機工業会 (2016) “Summary of the Result of Mutual Evaluation Test and Training”

• 日本貿易振興機構ホームページ「投資コスト比較」

27

2.2. 運輸部門

1. エネルギー消費の推移

運輸部門のエネルギー消費は 2000 年に 20.5Mtoe であり、2005 年まで 20Mtoe 台前半で推

移していたが、2007 年から増加速度が GDP と同程度に加速しはじめた。2014 年に 2000 年

比 2.5 倍弱の 49.1Mtoe に増加したが、以降 2015 年に 48.4Mtoe に減少、2016 年にはさらに

47.9Mtoe に減少した(2016 年は暫定値)。2 年連続した減少は、2013 年からはじめた

LCGC(Low Cost Green Car)への減税措置で燃費のよい自動車が多く導入したことが一因とし

て考えられる。

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016, 2017) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2016”, “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2017”

図 2-13 運輸部門のエネルギー消費量の推移

2. 運輸部門のエネルギー消費のシェア

運輸部門の最終部門を占め割合は過去 17 年間ほぼ右肩上がりでシェアを伸ばしてきた。

2015 年と 2016 年にそれぞれ 29%と 31%であり、2 年間だけで 2 ポイント増加した。一方、

産業のシェアが 2 ポイント減少した。

20.5 21.8 22.3 23.026.2 26.2 25.0 26.3

29.033.1

37.640.8

45.347.5 49.1 48.4 47.9

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

エネ

ルギ

ー消

費(M

toe)

運輸 産業 家庭

業務 その他 非エネ利用

28

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016, 2017) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2016”, “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2017”

図 2-14 運輸部門のエネルギー消費のシェアの推移

3. 道路部門のエネルギー消費量

インドネシアが公表したガソリンや軽油等のエネルギー消費量のデータ(上記 Handbook

2016、2017)に基づいて推計すると、道路部門のエネルギー消費量は 2000~2016 年までの

平均として運輸部門の 92.6%を占めており、また 2016 年 95.1%を占めている。

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016, 2017) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2016”, “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2017”

図 2-15 道路部門のエネルギー消費量の推移

18 18 19 19 20 21 19 20 21 23 24 25 26 27 30 29 31

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

産業 家庭 業務 運輸 その他 非エネ利用

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

エネ

ルギ

ー消

費量

(M

toe)

運輸部門

道路部門

29

4. 省エネルギー目標と政策の動向

1)省エネ目標

国家エネルギー省エネプログラム(National Energy Conservation Programme:RIKEN)(2011

年)では運輸部門の省エネ目標として 2025 年 BaU 比で 20%の省エネとしている。同プログ

ラムにおける運輸部門の省エネプログラムとして、公共交通機関の開発と交通システムの

改善の 2 つのプログラムを実施することが計画されている。

一方、インドネシア運輸省(Ministry of Transport)は国家輸送システムの企画、運用管理

における省エネ原則の実施、道路車両品質のテスト、燃焼完全性(エネルギー効率)を含め

た排気ガスのテスト、効率的な国家輸送システムと高効率自動車製造等の業務を管轄する

中央行政機関となっている。運輸省は 2013 年に第 201(2013)省令を公布し、温室ガス削

減のために「回避(avoid)、 代替(shift)、改善(improve)」の方針を運輸部門に適用するこ

とを明確した上で、いくつかの政策を示した。例えば「自動車フリー週末」、「石油からガス

への燃料代替」、「公共交通開発(TOD)」、「非動力車使用の奨励」などの実施行動が作成さ

れている。

2)これまでの政策

1991 年に発令された省エネに関する大統領令No.43/1991 では、全てのエネルギー使用者

(工業、電力、輸送、産業、公共事業、貿易、不動産、ホテル、商業ビル、一般家庭)に対

してエネルギー効率改善の実施を義務付ける。2007 年 8 月に公布された「エネルギー法」

でも「省エネは政府、地方政府、事業者、国民の責務である」と規定している。

2012 年 6 月には追加的に、省エネ関連のエネルギー鉱物相規定「公用車と鉱業・農園用

の車に対する補助金付き石油燃料の販売制限に関する 2012 年第 12 号規定」の規定の交付

を行った。本規定では、公用車に対する補助金付き石油燃料の販売制限、ならびに鉱業・農

園用の車に対する補助金付き石油燃料の販売制限を決定した。この他に、首都ジャカルタで

高級車を対象とした補助金付き石油燃料の販売制限の実施が検討されていた。

2015 年はガソリンとディーゼルに対する補助金が撤廃された。

3)LCGC(Low Cost Green Car)への減税措置

2013 年 5 月、インドネシア政府は低価格かつ低燃費の LCGC 車(Low Cost Green Car)

に対し、優遇策の導入を開始した。以下の条件を満たすことで、LCGC 適合車として奢侈販

売税 10%減免が認められる。

① 燃費効率:20km /ℓ 以上走行可能

② 排気量:ガソリン車 1,200cc 以下、ディーゼル車 1,500cc 以下

③ 機動性:4.6m 未満の最小回転半径

④ 現地調達率:部品の現地調達率は 80%以上

⑤ その他:エアバックなど安全装置抜きの場合、9,500 万ルピア以下に抑える

30

LCGC が実施した結果、 環境に比較的に優しい自動車は消費者が優先的に選択されるよ

うになった一方、自動車メーカーも競って規格に合った自動車を多く生産するようになっ

た。実際 LCGC 車の販売が好調であった。インドネシア自動車協会によれば、LCGC の販売

台数は 2013 年に 5.1 万台から 2016 年に 23.5 台に増加した 12。ただし、インドネシア運輸

相は 2017 年 8 月 24 日自動車メーカー各社に対し LCGC の販売を規制するよう提案する意

向を明らかにした。その背景にはジャカルタ首都圏の渋滞が LCGC の急速増加の原因で深

刻さを増していると指摘されている。同国の国家開発企画庁(バペナス)の試算によると、

2017 年のジャカルタと近隣の西ジャワ州ブカシ、ボゴール、デポック、バンテン州タンゲ

ランの交通渋滞による経済損失額は、年間 100 兆ルピア(約 8400 億円)に達する見通しだ。

その損失額のうち、67 兆 500 億ルピアをジャカルタが占めるという 13。

4)電気自動車

インドネシア政府は現在 HV(ハイブリッド自動車)・EV(電気自動車)を含む低炭素排

出(LCEV)自動車プログラムの実施を計画している。2017 年 3 月 2 日付の国家エネルギー

基本計画に関する大統領令(2017 年第 22 号)では同 HV・EV の開発方針を盛り込み、2025

年には四輪で 2200 台、二輪で 210 万台を生産する目標を初めて掲げた 14。

インドネシアの産業相は 2017 年 11 月、EV の普及に向けたメーカーに対する優遇策を年

内に決定する方針を明らかにした。同省は 2025 年までに国内の自動車台数の 25%に相当す

る 40 万台を、EV または HV 車、バイオ燃料車などの低炭素車両(LCEV)にする目標を掲

げている。 そのために、EV 向け電池、部品、制御ユニットの研究開発センターの設置や、

部品や材料の現地調達率などに対して遊具措置を適用する方針である。報道によれば産業

省はすでに電気自動車の大量生産を見据え、「EV 用バッテリー開発チーム」を発足させた

という。開発チームは海事調整省の管轄下に置かれ、産業省やエネルギー・鉱物資源省、技

術評価応用庁(BPPT)などの政府機関のほか、民間の自動車メーカーや大学関係者などが

参加している。

12インドネシア自動車協会,https://www.ecologyexpress.jp/content/asia/CHI-2017082801051.html 13 エコロジーエクスプレス、https://www.sankeibiz.jp/macro/news/171226/mcb1712260500004-n1.htm 14 https://www.ecologyexpress.jp/content/asia/CHI-2017081101053.html

31

表 2-12 インドネシアにおける低炭素車両(LCEV)の目標

2020 年 2025 年 2030 年 2035 年

生産 150 200 300 400

・LCEV の比率(%)

・LCGC の比率(%)

10 20 25 30

25 20 20 20

国内販売 125 169 210 250

輸出 25 31 90 150

出典:インドネシア産業省、エコロジーエクスプレス 15

LCEV プログラムは、政府が LCGC プログラムに続くものとして位置付けている。

一方、インドネシアの鉱業エネルギー省(MEMR)は 2040 年までに化石燃料自動車の販

売中止を目指して、ドラフトの大統領として準備していると報道されている 16。また、同計

画はすでに自動車関連のステークホルダーとの間で合意が得られたという 17。

5. 課題を解決する技術の提案

インドネシアでは LCGC の普及促進の裏腹にジャカルタ地域で渋滞の深刻さを招いたの

は皮肉な結果と言わざる得ない。こうした結果から改めて包括的な政策が必要なことが確

認された。

2014 年インドネシアの自動車保有台数の内訳として、乗用車 1,260 万台、バス 240 万

台、トラック 624 万台、バイク 9,298 万台、合計 1 億 1,421 万台となった。昨年度の調査

では、2030 年におけるインドネシアの自動車の普及台数として、乗用車 3,533 万台、トラ

ック・バス 1,421 万台、バイク 1 億 8,412 万台で、合計 2 億 3,366 万台、2014 年の 2 倍と

なると試算される。こうしたモータリゼーションの勢いは所得増加に伴うもので、今後も

続いていくと見られる。従って、LCGC 車の販売抑制でも一時的な効果しかなく、問題の

解決にはつながらない。

昨年度の調査報告でも指摘したように、「既存の自動車に関しては、車検制度の導入に

より大量にある年式の自動車の廃止が期待されている。また、自動車単体の省エネルギー

政策のほか、公共交通機関の整備、道路状況の改善、道路交通信号の合理化も重要な省エ

ネルギー政策となっている」。

15 https://www.ecologyexpress.jp/content/asia/CHI-2017101001001.html

16 http://energy-indonesia.com/01esdm/ESDM(20170825)%20(002).pdf 17 https://www.nna.jp/news/show/1595452

32

2.3. 家庭部門

1. エネルギー消費の推移

家庭部門のバイオマスを含むエネルギー消費は、1990 年から 2015 年までの間に年率 1.6%

で増加し、2015 年には 1990 年と比べ 1.5 倍に増加した。最終エネルギー消費に占める家庭

部門のエネルギー消費は、経済成長や産業開発に伴い、1990 年の 52%から 2015 年の 38%ま

でに減少したものの、依然として最大のエネルギー消費部門である。家庭部門の燃料別のエ

ネルギー消費を見ると、所得水準の向上に伴い、非商業バイオマスから転換し、電力・石油・

ガス等への商業エネルギーの需要が拡大しつつある。2015 年家庭部門エネルギー消費に占

める電力消費は、1990 年の 2%から 2015 年の 12%までに増加した。

出典:International Energy Agency (2017) “World Energy Statistics and Balances 2017”より作成

図 2-16 家庭部門のエネルギー消費の推移

2. 省エネルギー目標

国家省エネルギーマスタープラン(RIKEN、2005)によれば、家庭部門における省エネ目

標は、2025 年に BaU 比 15%削減としているが、技術別の目標が不明である。

3. 省エネルギー政策とその課題

インドネシアでは、家電製品の省エネラベリング制度が策定され、2011 年 10 月より蛍

光灯電球に対する省エネラベルが開始された。エネルギー効率基準はワット当たりの照度

を 4 段階(同量のエネルギーで最も明るいものを 4 星)に分けている。冷蔵庫、エアコ

ン、テレビ等にも順次導入する予定である。図 2-17 にインドネシアの省エネラベリングを

33

示す。

出典:Edi Hilman and Mustafa Said(2009)”Energy Efficiency Standard and Labeling Policy in Indonesia”

図 2-17 インドネシアの省エネラベリング

機器のエネルギー効率基準においては、蛍光灯電球およびエアコンの最低エネルギー性

能基準(MEPS:Minimum Energy Performance Standards)が導入されているが、その他の機

器のエネルギー効率基準は任意基準となっている。MEPS は今後、冷蔵庫、扇風機、電子安

定器、電気モーター、LED 電球、洗濯機、井戸のくみ上げに使うポンプ、アイロン、テレビ

に拡大してゆく予定である。住宅に関しては、住宅の断熱性能、空調、照明、建物のエネル

ギー監査に関する任意基準を策定しているが、基準の義務化には至っていない。

インドネシアの家庭部門における省エネ施策は、ASEAN 諸国と比較してラベリング制度

やMEPSの普及は圧倒的に低い状況にある。2016年にエアコンのMEPSが導入された以外、

エネルギー効率基準は自主取り組みであるため、効率改善に対する強制力が働かない。

MEPS 対象機器は、ASEAN 諸国の中で最も少ない(表 2-13)。

表 2-13 ASEAN 諸国における MEPS 対象機器

国 MEPS 対象機器

インドネシア 2 機器:蛍光灯電球、エアコン

フィリピン 8 機器:蛍光灯安定器、小型蛍光ランプ、冷凍庫、冷凍冷蔵庫、

冷蔵庫、モーター、室外機付エアコン、窓型エアコン

タイ 6 機器:蛍光灯、CFL、3 相モーター、エアコン、LPG ガススト

ーブ、冷蔵庫

マレーシア 5 機器:冷蔵庫、エアコン、テレビ、家庭用ファン、照明(蛍光

灯、CFL、LED と白熱灯)

出典:各資料より作成

ラベリングは 2014 年に照明ランプが義務化された後、エアコンの省エネ規制導入ととも

にラベリングについても義務化されているがその他は自主ベースとなっている。また、図

34

2-18 の製品試験場の人材と設備を見ると、ASEAN 諸国と比較して、インドネシアのエアコ

ン試験場の能力は、人材、設備、マネジメント、維持、手法において圧倒的に立ち遅れてお

り、キャパビルと共に MEPS、ラベリングの義務化を推進する必要がある。

出典:日本電機工業会 (2016) “Summary of the Result of Mutual Evaluation Test and Training”

図 2-18 ASEAN 諸国の製品試験場の能力比較

そのほか、省エネ機器の普及促進に欠かせない優遇措置や補助金などの助成も実施され

ておらず、一般消費者は初期費用が高い高効率型機器の長期的な経済メリットに対する認

識が足りない。これが高効率型機器の普及が進まない一因である。

表 2-14 ASEAN 諸国での省エネ経済助成制度の比較

国 経済助成制度

インドネシア なし。

フィリピン (1) 省エネ事業に対し、税制面での優遇措置を実施

(2) 固定資産税の還付(ケソン市)

(3) 省エネルギー設備・機器の投資資金ローン支援

タイ (1) ENCON Fund

(2) 省エネルギー標準設備基準 30%援助プログラム

(3) 省エネ税優遇制度

(4) 省エネ型電気機器の普及促進の為の DSM プログラム

(5) 省エネ循環基金

マレーシア (1) 省エネ機器の免税措置

0%

50%

100%Engineer

Method

MaintenanceManagement

Facility/System

タイ PJ2013 / 92%

PJ2014 / 94%

PJ2015 / 96%

0%

50%

100%Engineer

Method

MaintenanceManagement

Facility/System

インドネシア PJ2013 / 52%

PJ2014 / 55%

PJ2015 / 57%

0%

50%

100%Engineer

Method

MaintenanceManagement

Facility/System

マレーシア PJ2013 / 86%

PJ2014 / 91%

PJ2015 / 93%

0%

50%

100%Engineer

Method

MaintenanceManagement

Facility/Syste

m

フィリピン PJ2013 / 67%

PJ2014 / 77%

PJ2015 / 83%

エンジニア

設備

管理 維持

手法

35

(2) 環境に優しい建物を対象とした免税措置

(3) 省エネ家電割り戻し制度

出典:各資料より作成

住宅の断熱性の基準においては、ASEAN 諸国全般的に、住宅の断熱性の等省エネルギー

化に向けた基準は、下表に示した通り義務化されていない。インドネシアにおいても建築基

準法に省エネルギー基準が適用されておらず、高断熱化等の強制力が働かない。

表 2-15 ASEAN 諸国の住宅の断熱性能基準

国 住宅の断熱性能

インドネシア 断熱性能、空調、照明、建物のエネルギー監査に関する任意基

準を設定。

フィリピン 建築物の省エネルギー推進に関するガイドラインを設定。

タイ 業務部門のビルディングコードは 2009 年に発効しているが、

住宅向けの省エネ基準は策定されていない。

マレーシア 住宅を含む建築物の省エネルギーガイドラインを策定して、

いるが基準の義務化には至っていない。

出典:各資料より作成

また、家庭の電気料金において、ASEAN 諸国と比較して、インドネシアの電気料金は平

均で、最も低い水準にあり、家庭部門の省エネ意識の醸成に向けた課題として指摘できる。

インドネシアにおける 6,000 万世帯のうち、20%に対して電力供給がなされていないところ、

補助金支給対象となる世帯の契約アンペア 2A, 4A の世帯がそれぞれ全体の 35%、30%を占

めている(図 2-19)。これらの契約世帯への補助金支給の撤廃が省エネルギー意識の醸成に

向け重要である。

表 2-16 ASEAN 諸国の電気料金比較

国 家庭向け電気料金比較

インドネシア 1,352(ルピア/kWh)or 11 円/kWh

フィリピン 4.49(ペソ/kWh)or 9 円/kWh

タイ 3.25-4.42(バーツ/kWh)or 11-15 円/kWh

マレーシア 0.22-057(リンギット/kWh)or 6-15 円/kWh

出典:日本貿易振興機構ホームページ「投資コスト比較」

36

インドネシアでは、2016 年にエネルギー鉱物資源省の規制として低所得者層への電力料

金の補助金規制(Ministerial EMR Regulation No.28 Year 2016)が改定されている。すなわち、

900 VA の家庭部門の消費者を所得水準に応じて二つのカテゴリに分類、電力料金が設定さ

れている。

すなわち、900 VA の契約量で、所得水準が高い世帯にたいしては政府補助金は支給され

ず、下記の通り段階的に料金水準が引き上げられる。一方、900 VA の契約料で所得水準が

低い世帯は、継続的に政府補助がついた電力料金を支払うことになる。

表 2-17 価格の 900VA 世帯の段階的補助金削減に向けた料金

時期 料金

2016 年 12 月まで

0-30 kWh: Rp 275/kWh

30-60 kWh: Rp 445/kWh

>60 kWh: Rp 495/kWh

Pre-paid: Rp 605/kWh

2017 年 1 月~2017 年 2

月 28 日まで

0-30 kWh: Rp 365/kWh

30-60 kWh: Rp 582/kWh

>60 kWh: Rp 692/kWh

Pre-paid: Rp 791/kWh

2017 年 3 月~2017 年 4

月 30 日まで

0-30 kWh: Rp 470/kWh

30-60 kWh: Rp 761/kWh

>60 kWh: Rp 1,014/kWh

Pre-paid: Rp 1,034/kWh

2017 年 5 月 1 日~

0-30 kWh: Rp 1,352/kWh

30-60 kWh: Rp 1,352/kWh

>60 kWh: Rp 1,352/kWh

Pre-paid: Rp 1,352/kWh

出典:Directorate General of Electricity, Ministry of Energy and Mineral Resources(2018)

“#EquitableEnergy -in Electricity-”, Presented at the Indonesia-Japan Renewable Energy Workshop on

Promoting Local Renewable Electricity Business

低アンペア契約(2A/4A)の世帯は、全体の 65%を占めており、電力供給容量の制限があ

る中で、低ワット、低コスト家電製品の方が好まれている。家電の同時運転は不可能であり、

エネルギー消費の高いエアコンの普及率は、まだ 15%しかない。また、エアコン販売量に占

めるインバータ機の割合は 3%程度、ASEAN 諸国の中で最も低く、省エネ性能も低い契約

電力の制限でうまく発揮できない。

37

出典:現地ヒアリング調査資料より作成

図 2-19 インドネシアにおける 6,000 万世帯の電力契約アンペアの現状

4. 課題を解決する対策ならびに技術の提案

家庭部門の省エネルギー推進における最も根本的な課題は、電化率が低いことや低アン

ペア契約の世帯が大勢にいる点にある。これは、家電全般、高効率家電製品の普及の阻害要

因の一つであると言える。その対策として、地方電化率の向上や 2A/4A 契約を撤廃し、6A

契約への移行促進が必要である。実際、2016 年の料金改定が実施されたとおり、所得水準

に応じて低アンペア世帯への補助金が削減されている。これに代替する形で、従来 2A/4A 契

約世帯に支給された補助金を電力インフラの形成や地域特有の再エネ資源の開発に資する

目的で活用すると共に、省エネ技術・機器への投資へ還流させる必要もある。

電力・エネルギー価格が相対的に安価であるため、消費者の省エネルギー意識を喚起する

ためには、電力料金の適正化、省エネルギー意識向上に向けた啓発活動や情報提供にさらに

注力する必要がある。定期的なエネルギー消費実態調査や省エネ意識調査に基づくモニタ

リングまたは政策評価に資する情報収集も考えられる。

普及が進むテレビや冷蔵庫などの家電製品の省エネルギー推進に当たって、MEPS の導入

やラベリング制度の対象製品の拡大は不可欠である。また、基準に適合した製品が市場に流

通するために、試験場での適格な検査が必要されており、それに伴い、製品試験場での人材

育成や設備の充実化も求められる。

高効率家電機器の普及促進に当たって、優遇措置、補助金等の助成、日本のエコポイント

制度のような措置を創設し、高アンペア契約への移行推進と共に実施されることも考えら

れる。住宅の断熱性能基準の導入による住宅の省エネルギー性能の向上も長期的には必要

である。

技術面での対策としては、照明の LED 化、ならびに 2016 年に MEPS が導入されたエア

コンの更なる基準向上、そして今後 MEPS 導入が予定されている冷蔵庫、テレビ、洗濯機、

炊飯器の高効率化が望まれる。

電力供給なし20%

450W (2A)35%

900W (4A)30%

1300W (6A)10%

>2200W (10A)5%

38

2.4. 業務部門

1. エネルギー消費の推移

業務部門のエネルギー消費は、インドネシアの最終エネルギー消費に占める割合が 3.1%

と最も小さいものの、近年急速に消費量が拡大しており、インドネシアにおける将来的な省

エネルギー推進を考える上で重要な部門である。実際、1990 年から 2015 年の間に業務部門

のエネルギー消費は年率 7.9%で増加しており、同期間の最終エネルギー消費が年率 2.9%で

増加したのと対比をなす。エネルギー源別では、電力消費が 1990 年から 2015 年の間に年

率 10.0%で急速に拡大しており、業務部門に占める割合も 1990 年の 50.1%から 2014 年には

80.5%へと増加した。これとは対照的に、ディーゼルや重油等の石油製品を活用したオンサ

イトの発電用途で利用される石油製品の消費量は 1990 年には業務部門のエネルギー消費の

うち、40.1%を占めていたのが、国内の電化が進展したことを受けて、年率 2.9%増で推移、

2015 年にはその割合は 12.1%へと縮小している。

出典:International Energy Agency (2017) “World Energy Statistics and Balances 2017”, World Bank (2017) “World Development Indicators”より作成

図 2-20 業務部門のエネルギー消費の推移

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

0

1

2

3

4

5

6

71 75 80 85 90 95 00 05 10 15

石油

再生可能エネル

ギー・廃棄物等

電力

天然ガス

石油

再生可能エネル

ギー・廃棄物等

電力

天然ガス

サービス産業GDP(2010年価格, 10億ドル)

最終エネルギー消費(Mtoe)

39

出典:国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」より作成

図 2-21 診断対象となった業務用ビルの用途別電力消費

出典:Lee Siew Eang (2015) “A Review of Building Energy Efficiency Development in Indonesia”より作成

図 2-22 業務建築物の業種別床面積あたりエネルギー原単位の比較

業種別床面積あたりのエネルギー消費では、インドネシアの水準は、日本と比較して、

10~20%程度多くエネルギーを消費している。日本の水準と床面積あたりエネルギー消費に

乖離がある理由として、インドネシアにおける導入される技術の効率水準が高くはないこ

と、建築物のエネルギー効率基準遵守にかかわる課題や年間を通した冷房需要の必要性が

指摘できる。

65%57% 57% 55%

47%

15%16% 22% 27%

25%

3% 14% 5% 4% 22%17% 13% 16% 14%

6%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

空調 照明 エレベーター その他

kWh/m2

40

出典:Lee Siew Eang (2015) “A Review of Building Energy Efficiency Development in Indonesia”より作成

図 2-23 業務用チラーのエネルギー効率比較

導入技術の効率水準として、業務用チラーの効率をインドネシアとシンガポールに関し

て比較した例を図 2-23 に示す。図が示す通り、インドネシアの業務用チラーのエネルギー

効率は、シンガポールの最良水準と比較して 27%多くエネルギーを消費している。シンガ

ポールの平均的なチラーの効率水準と比較しても 13%多くエネルギーを消費している。

2. 省エネルギー目標

国家省エネルギーマスタープラン(RIKEN、2005)によれば、基本計画策定時から 2025

年までの各部門における省エネポテンシャルは、それぞれ、産業(17%)、業務(15%)

運輸(20%)、家庭(15%)としている。同マスタープランにおける業務部門における省エネ

目標は、2025 年に BaU 比 15%節減としている。他方、前提となる技術別の目標は明らかに

されていない。

3. 省エネルギー政策とその課題

業務部門の省エネルギー政策は、(1) 大規模業務ビルのエネルギー管理制度ならびに(2)建

築物の省エネルギー基準から構成される。

(1) 大規模業務ビルのエネルギー管理制度は、2009 年に制定された省エネルギーに関する

法律 No.70 によるもので、同法では年間エネルギー消費が石油換算で 6,000 トン以上の建築

物ならびに産業部門の事業者は、エネルギー管理プログラムを実施することが規定されて

いる。具体的には、同法の 12 条において対象事業者はエネルギー管理士を指名、省エネル

ギープログラムの実施ならびにエネルギー監査の実施、そして省エネルギー計画と手段を

政府に対して報告する義務が課される。

0.75

0.550.65

00.10.20.30.40.50.60.70.8

インドネシア シンガポール

(最良水準)

シンガポール

(平均水準)

kW/Rton

27%

41

表 2-18 業務部門の省エネルギーに関連する法律

業務部門の省エネルギーに関連する

法律

内容

エネルギーに関する法律 Law No. 30/2007

国家エネルギー委員会の形成と国家エネルギー

計画の策定に関する法律

省 エ ネ ル ギ ー に 関 す る 法 律

No.70/2009 Article 12 年間エネルギー消費 6,000 toe 以上の事業者に対

するエネルギー管理規制

節電に関するエネルギー鉱物資源

省規制 No.13/2012 全ての政府建物、公共施設、街灯、看板照明は、

前の 6 ヶ月間の電力消費の平均から 20%節減す

る規制

エネルギー管理に関するエネルギ

ー鉱物資源省規制 No.14/2012 年間エネルギー消費 6,000 toe 以上の事業者に対

するエネルギー管理規制

エネルギー管理士の適格性に関す

るエネルギー鉱物資源省規制

No.13/2010 及び No.14/2010

エネルギー管理士ならびにエネルギー監査士の

適格性を定めた規制

出典:各種資料より作成

42

出典:国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」

図 2-24 業務建築物における延べ床面積と年間エネルギー消費の関係

出典:国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」

図 2-25 業務ビルの床面積別全体に占める割合

業務部門におけるエネルギー管理制度の課題として対象事業者の数が圧倒的に小さいこ

とが指摘できる。年間エネルギー消費が石油換算トンあたり 6,000 トン程度の業務ビルの床

面積は 40 万 m2 以上の建物に相当する。他方、インドネシアの業務ビルは 98%が 3 万㎡以

下である(図 2-24 および図 2-25)。エネルギー管理制度の対象事業者を拡大するためにも、

現行の年間エネルギー消費 6,000 石油換算トンから 700 石油換算トン程度に引き下げる必

要がある。

国内のエネルギー管理士・診断士の数が不足していることも課題として挙げられる。国内

におけるエネルギー管理士ならびに監査士の有資格者数は、2016 年の時点でそれぞれ 278

名、163 名である。エネルギー管理士については、産業部門の同人数が 266 名である一方で、

業務部門のエネルギー管理士はわずかに 12 名にとどまり、エネルギー管理にかかわる人材

数が圧倒的に不足していることが分かる。

01000200030004000500060007000

年間エネルギー消費(toe)

5万㎡

以上,

0%

3万~5

万㎡,

2%

3万㎡

以下,

98%

43

表 2-19 エネルギー管理士・監査士の有資格者数(単位:人)

エネルギー管理士 エネルギー監査士

2012 50 0

2013 29 36

2014 52 38

2015 96 75

2016 51 14

合計 278 163 出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “ASEAN-Japan Energy Efficiency Partnership - Indonesia” より作成

業務部門の省エネ投資の現状として、JICA(2009)が行った調査では、投資額の規模割合

でみても、1 億ルピア以下の省エネ投資が全体の 69%を占めており、1 年以下の投資回収年

数の省エネ投資がほぼ 70%を占めている。国内の融資金利が 12%を超えるなど、資金調達

コストが大きい中で、省エネルギー投資に対するインセンティブが低いことが課題として

指摘できる。

出典:国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」

図 2-26 業務部門の省エネ投資の現状

(2)建築物のエネルギー効率改善に向けて、建築物の国家省エネルギー基準(SNI)が策

定されている。他方、同基準の遵守は義務化されておらず、建築に際しての事業者に対する

レファレンスとして活用されている。現在のところ、外皮性能、室温、湿度、照明システム

ならびにエネルギー監査の手法に関する基準が策定されている。

69%

27%

4%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

業務ビル

10億ルピ

ア以上

1-10億ル

ピア

1億ルピア

以下 70%

27%

3%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

業務ビル

2年以上

1-2年

1年以下

44

表 2-20 建築物の省エネルギー基準

建築物の省エネルギー基準 SNI

建築物の外皮性能(OTTV & RTTV < 35 W/m2) SNI 03-6389-2011

建築物におけるエアコン利用にかかわる省エネルギー

(室温:24-27 度、湿度:60%±5%)

SNI 03-6390-2011

建築物の照明システムにかかわる省エネルギー(事務

所、家庭、産業、病院、ショッピングセンター)

SNI 03-6197-2011

建築物のエネルギー監査に関する手法 SNI 03-6196-2011

注:OTTV (Overall Thermal Transfer Value), RTTV (Roof Thermal Transfer Value)の略

出典:Andriah Feby Misna (2014) “Energy Efficiency of Buildings in Indonesia”より作成

建築許可ならびに運用、管理、解体に関しては、「建築物の法律 No.28/2002」に規定され

ており、オーナーまたは建築事業者が地方自治体に申請し、地方自治体の担当部局が適宜指

示、監督、規制を行う。

ジャカルタ首都特別州(DKI Jakarta)では、グリーンビルに関する知事令(Governor

Regulation No.38/2012)が公布され、建築物の省エネルギーと環境に関する規制が義務化さ

れた。グリーンビルは計画、建設、利用、維持、解体まで環境と資源の効率利用に配慮する

ものであり、ジャカルタ首都特別州では、新築ならびに既築改修に際して同法令の規定に従

う必要がある。なお、同法令の対象となるのは、以下の通りである。

• 集合住宅、事務所、複合施設で床面積が 50,000 ㎡以上の建築物

• ホテル、公共文化施設、医療・健康関連施設で床面積が 20,000 ㎡以上の建築物

• 社会文化施設、教育サービス施設で床面積が 10,000 ㎡以上の建築物

同法令での規制内容は、①省エネルギーの推進、②水資源の効率的利用、③室内環境の

改善、④土地・廃棄物利用、⑤建築に際しての環境への配慮である。

インドネシアでは建築物の省エネルギー基準が整備されており、ジャカルタ首都州では

グリーンビルディング基準の遵守が義務化されているものの、こうした基準の遵守を徹底

するメカニズムが導入されておらず、先の図 2-24 でもみたように、床面積あたりのエネル

ギー消費として、日本の平均的な水準と比較すると 10~20%程度改善余地があると指摘で

きる。

45

ジャカルタ市に続いて、バンドン市においてもグリーンビルディングコードが策定され

ている 18。2017 年 1 月に発効した同規制では、グリーンビルディングコードの遵守されて

いない建築物は建築許可が下りないといった厳格なもので、省エネ、CO2 排出削減ならび

に水資源の節減に寄与することを目的として策定されている。バンドン市では、環境負荷低

減を目指していることが背景にある。

具体的には、国際基準に照らし合わせ 5,000 ㎡以上の業務建築物では、グリーンビルディ

ングコンセプトまたは One Star として格付けられる水準の環境性能を達成しなければなら

ない。5,000 ㎡以下の業務建築物ならびに住宅は Two Star, Three Star の格付け対象とされて

おり、グリーンビルディングの対象とはならなない。

他方、Two Star, Three Star の格付けとなる建物でより環境へ配慮した場合は、土地取得税

や建築税の軽減措置が提供される。

また、業務部門の省エネルギー推進に対する課題として以下が指摘できる。

• 電力等価格が国際的にみても低いことから、エネルギー管理プログラム実施に対す

るインセンティブの不足

• 省エネルギーに対する認識が不足しているのと共に、ベンチマークデータベース等、

正しいデータの不足

• 建築物のエネルギー管理士やオーナーが省エネルギー対策手段に関する知識の不足

• 省エネルギー投資に対する融資メカニズムの不足

4. 課題を解決する対策ならびに技術の提案

インドネシアにおける業務部門の省エネルギー推進課題に対応するためにも、政策・規

制ならびに遵守メカニズムの構築、ならびに低利融資等のファイナンスメカニズムの構築

が必要である。具体的には、現行のエネルギー管理制度における業務部門のカバー率は全

体の 1%(35 事業者)と限定的であり、対象範囲を述べ床面積 5 万㎡、年間エネルギー消

費量 700toe に下げるなど、対象を拡大する必要がある。また、資金調達コストが膨大とな

ることを阻害要因として、省エネ投資は積極的に行われていないため、利子補給等の低利

融資に向けた政府支援が必要である。

課題を解決するための技術としては、業務部門における用途別の電力消費調査結果が示

す通り、インドネシアにおいては空調の占める割合が事務所の場合 47%、ホテルでは 65%

と圧倒的に大きいことから、高効率チラーならびにパッケージエアコンのインバータ化、

そして建築物の省エネルギー基準の遵守による断熱性能の改善が鍵である。断熱性能の向

上に資する Low-E ガラスや複層ガラスの導入は、空調需要の低減に向けて極めて重要であ

る。加えて、換気の熱ロス改善も空調需要が大きいインドネシアでは有効な省エネルギー

18 Asia Green Buildings (2016). Indonesia: Bandung Released Green Building Regulation. http://www.asiagreenbuildings.com/14841/indonesia-bandung-released-green-building-regulation/

46

手段である。同様に、照明の LED 化や IT を活用した照明制御機器の導入も業務部門の効

率改善に資する。

ジャカルタ市やバンドン市では、エネルギー効率の改善ならびに CO2 排出削減、水資源

の節減に向けた取り組みの普及を目途とし、により、大規模建築物を対象としグリーンビ

ルディングコード規制が策定されている。こうした都市での業務建築物における取り組み

が長期的には、空調、照明、断熱、換気といった高効率技術の普及ならびに再生可能エネ

ルギーを活用したオンサイトでの電力供給等、技術の普及に向け期待される。またインド

ネシアでの国としての規制を形成する波及効果をもたらすものとしてジャカルタ市やバン

ドン市での取り組みにかかわるデータの蓄積、成果の検証を行うことが重要である。

[参考文献]

• Asia Green Buildings (2016). “Indonesia: Bandung Released Green Building Regulation”

• Directorate General of Electricity, Ministry of Energy and Mineral Resources ( 2018 )

“#EquitableEnergy -in Electricity-”, Presented at the Indonesia-Japan Renewable Energy

Workshop on Promoting Local Renewable Electricity Business

• Edi Hilman and Mustafa Said(2009)”Energy Efficiency Standard and Labeling Policy in

Indonesia”

• European Cement Association “World Statistical Review”

• Farida Zed (2015) “Indonesia Energy Efficiency and Conservation Status, Gaps, and

Opportunities”

http://www.energyefficiencycentre.org/-

/media/Sites/energyefficiencycentre/Workshop%20Presentations/Global%20EE%20Workshop,

%20Nov%202015/Day%204/Indonesia.ashx?la=da

• Food and Agriculture Organization of the United Nations “FAOSTAT”

http://www.fao.org/faostat/en/#data

• Indarti (2011) “Energy Efficiency Indicators in Indonesia”

• International Energy Agency (2017) “World Energy Statistics and Balances 2017”

• Kusuma (2016) “Improvement of the existing energy manager training & certification system

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• Lee Siew Eang (2015) “A Review of Building Energy Efficiency Development in Indonesia”

• Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Statistik EBTKE 2015”

http://ebtke.esdm.go.id/post/2016/02/02/1105/statistik.ebtke.2015

• Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “ASEAN-Japan Energy Efficiency Partnership

- Indonesia”

• Ministry of Industry (2012) “Needs for Energy Planning for the Industry Sector towards the

Acceleration of Industrialization”

47

• Ministry of Industry (2015) “Industrial Energy Efficiency Initiatives & Standards”

http://www.switch-

asia.eu/fileadmin/user_upload/Events/Jakarta_EE_event15/Theme_2_presentations/Industrial_e

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• National Center of National Action Plan for Greenhouse Gas reduction (Sekretariat RAN-GRK)

http://www.sekretariat-rangrk.org/english/

• Republic of Indonesia (2010) “Indonesia's Technology Needs Assessment on Climate Change

Mitigation– Updated Version –“

• Statistics Indonesia (BPS) (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2016”

• World Steel Association “Steel Statistical Yearbook”

https://www.worldsteel.org/steel-by-topic/statistics/steel-statistical-yearbook-.html

• オンラインエネルギー管理報告 Web サイト

http://aplikasi.ebtke.esdm.go.id/pome/

• 経済産業省 (2015) 「平成 26 年度アジア産業基盤強化等事業 インドネシアの現地中小

企業の実態調査」 (委託先:日本経済研究所)

http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/001103.pdf

• 経済産業省 (2016a) 「平成 27 年度エネルギー使用合理化委託促進基盤整備委託費(新

興アジア諸国における自動車の需要動向等調査事業)調査報告書」 (委託先:三菱 UFJ

三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング証券株式会社株式会社)

• 経済産業省 (2016b) 「平成 27 年度国際エネルギー使用合理化等対策事業(省エネルギ

ー人材育成事業)」 (委託先:省エネルギーセンター)

• 国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」(委託先:電源開発

株式会社)

• 日本電機工業会 (2016) “Summary of the Result of Mutual Evaluation Test and Training”

• 日本貿易振興機構ホームページ「投資コスト比較」

48

第3章 インドネシアの省エネビジネス導入に関する経済性評価

インドネシアでの政策面での省エネルギー推進としては、エネルギー多消費産業を対象

としたエネルギー管理制度、ならびにエアコン、照明を対象とした MEPS の導入が挙げら

れる。さらなる政策形成が検討されているものの、ビジネスとして事業者の主体的な行動に

より省エネルギー推進を行うことで産業、家庭、業務等、幅広い部門に対して高効率技術の

普及を加速化させることが重要であると考えられる。

本章では、インドネシアにおける省エネルギービジネス導入について、検討する。具体的

には、①CHP、②ディマンド・サイド・マネージメント、③省エネリース、④コールドチェ

ーンにおける高効率冷蔵設備の導入について検討する。各ビジネスモデルの検討にあたっ

て、諸外国での動向を把握するとともに、インドネシアにおける省エネルギーポテンシャル

を分析、政策提言を導出する。

3.1. インドネシアにおける CHP 導入によるポテンシャル調査

3.1.1. CHP とは

CHP は Combined Heat and Power の略称で、熱と電力を同時に供給するシステムである。

通常の発電システムと比べると、発電に伴ってエンジンから発生している排熱を再利用し

て熱を同時に供給し、エンジンに投入した燃料を最大限に利用するのが特徴となっている。

通常の火力発電所の熱効率が約 40%程度だが、CHP の場合 80%以上となる。そのため、CHP

のエネルギーの利用効率が通常の発電システムの 2 倍以上高い。日本では CHP をコージェ

ネレーション(Cogeneration)と呼んでいるが、今回のインドネシア調査事業では現地の日

本事業者が CHP という名称を用いっているため、インドネシア側に混乱を避けるため CHP

と呼ぶことに統一した。

図 3-1 CHP システムの原理

CHP の導入効果としてはエネルギー消費の節約や、CO2 排出量の削減、そして大気汚染

物質(NOx・SOx 等)の削減が期待される。さらに、CHP`が分散型電源として、エネルギー

セキュリティの向上にも貢献できる。情報通信技術(ICT)等を活用すれば、電力需要のピ

ークカットの効果や再エネ導入の促進効果も実現できる。

CHP から発生した排熱を再利用するには、暖房需要(Space heating)や温水需要(Warm

燃料

電気

49

water)、厨房需要(Cooking)のほか、産業用の熱需要(Industrial heat)として加熱需要等の

利用形態がある。一方、CHP からの排熱を再生器の加熱にすれば、吸収式冷凍機(または吸

収式冷温水機)として冷房需要(Space cooling)の冷熱需要を供給する形態もある。

CHP は欧米のほか、中国等の新興国にも積極的に導入している。例えばドイツの発電容

量の内、CHP が 1/4 を占めている(2013 年値 19)。中国では同数値が 3 割以上となっている

(2014 年値 20)。これらの国では寒冷の地域が存在して冬の時期に安定した熱供給の需要が

存在しているため、CHP の導入の経済性が明らかであるため、導入量を伸ばしてきた。こ

れに対して、インドネシアは熱帯性気候に属しているため、冬の安定した民生用熱供給需要

がすくないため、CHP の概念が浸透していない。

しかし、CHP の導入対象を産業部門に絞って調査すると、インドネシアでも熱需要が大

きく存在し CHP の導入ポテンシャルは大きいことが分かる。

3.1.2. インドネシアにおける熱需要の推計

CHP の利用を最大限に実現するには、熱需要を把握する必要があるが、現実は把握され

ていない。一般的に需要家が直接購入しているのが熱ではなく、熱需要に変換するための電

力や燃料である。加えて、導入したエネルギーが多様で複雑な形態で利用されるため、熱需

要の把握に一層困難さを増した。例えば、家庭の電力導入が暖房のほか、照明、温水、乾燥、

動力など様々の形態で使われ、購入した電力のうちどれぐらいが熱需要として利用されて

いるかは容易に把握できるものではない。産業の場合も同様である。

本事業では、有用エネルギーという概念を導入し、最終エネルギー需要との区別を説明し

た上でインドネシアの熱需要を推計する。

まず、最終消費エネルギーとは、エネルギーバランス表上における最終部門が消費してい

る様々のエネルギーのことであり、これらのエネルギーには電力や熱のほか、石油、石炭、

ガス等のエネルギーも含まれる。一方、有用エネルギーとは、最終的にエネルギーサービス

として利用したエネルギーである。言い換えれば、エネルギー転換のために消費されている

エネルギーは有用エネルギーではなく、転換の過程にロスしたエネルギーも有用エネルギ

ーではない。また、有用エネルギーの形態は電力か熱という 2 種類のみとなっている。有用

エネルギーは最終エネルギーとの関係を下式に表す

最終消費エネルギー=有効熱エネルギー+有効電力エネルギー+各種転換ロス (1)

19 http://www.cogeneurope.eu/what-is-cogeneration_19.html 20 中国能源研資料

50

出典:IEA Energy balance table 2017 edition, Heat and cooling demand and market perspective, EU Commission, 2012 等による加工

図 3-2 有効熱エネルギーが最終消費エネルギーに占める割合

ここでは、有用熱エネルギーが最終消費エネルギーに占める割合を見て分かるように、同

割合は産業ごとにばらつきがあるものの、同じ産業の場合国・地域が異なっても同程度の水

準にあり、国・地域の気候状況を受けながらも決定的な影響として受けてはいない。これは

同じ産業の場合、生産技術及び生産プロセスの原理が共通しているため、異なる地域でも熱

と電力という 2 つの有用エネルギーの構成比率に大きな差がないためと思われる。欧州の

調査で明らかになったように、熱エネルギーが最終消費エネルギーに占める割合として、鉄

鋼業では 64%、窯業 60%、化学 41%、紙・パルプ 38%、食品・タバコ 34%、繊維 32%、非

鉄 29%となっている(2009 年 27 カ国平均)となっている。ただし、同割合は生産技術と生

産プロセスの特性のほか、熱転換の効率の影響を大きく受けると考えられる。例えば、イン

ドネシアでは、エネルギー転換効率が低いため、その分ロスが大きくなり、有用熱エネルギ

ーの割合が小さくなると考えられる。このため、有用熱エネルギーの推定には最終消費エネ

ルギーに上記の割合を乗じて計算することを避けるべきである。本調査では、インドネシア

の有用熱エネルギーを推計するには、エネルギー転換効率の影響を取り除いた、産業固有の

特性だけを反映できる指標として有用電力エネルギー対有用熱エネルギーの比率を利用す

る。

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

ベルギー

フランス

ドイツ

イタリア

スペイン

スウェーデン

イギリス

ベルギー

フランス

ドイツ

イタリア

スペイン

スウェーデン

イギリス

ベルギー

フランス

ドイツ

イタリア

スペイン

スウェーデン

イギリス

ベルギー

フランス

ドイツ

イタリア

スペイン

スウェーデン

イギリス

ベルギー

フランス

ドイツ

イタリア

スペイン

スウェーデン

イギリス

ベルギー

フランス

ドイツ

イタリア

スペイン

スウェーデン

イギリス

ベルギー

フランス

ドイツ

イタリア

スペイン

スウェーデン

イギリス

鉄鋼 非金属 化学 紙・パルプ 食品・タバコ 非鉄金属繊維・革

64%

40%

34%29%

59%

38%32%

51

出典:Heat and cooling demand and market perspective, EU Commission, 2012 により加工

図 3-3 有効電力エネルギー対有効熱エネルギーの比率

式(1)を符号で表すと

A + A * h2e + L = D0 (2)

(有効熱) (有効電力(B)) (転換ロス計) (最終消費)

ただし、A は産業別の有用熱エネルギー、h2e は産業別の有用電力エネルギー対有用熱エ

ネルギーの比率(EU commission 報告書により)、D0 は産業別の最終エネルギー消費(エネ

ルギーバランス表により)、L はロスをそれぞれ表す。

転換ロス計(L)の定義式はさらに下式に表せる。

(A-H0)/heat_eff*(1-heat_eff) + (A * h2e –U0)/auto_eff*(1-auto_eff) = L (3)

(熱転換ロス) (自家発電転換ロス) (転換ロス計)

ただし、H0 は最終消費としての産業別熱購入量(インドネシアのエネルギーバランス表

上ではゼロとなっている)、heat_eff は熱転換効率、auto_eff は自家発電の効率(エネルギー

バランス表により計算可能)、U0 は最終消費としての産業別電力購入量(エネルギーバラン

ス表により)をそれぞれ表している。これらのパラメータは熱転換効率(heat_eff)以外すべ

て容易に入手または計算できる。

式 3)を 2)に代入すると、下式が得られる。

A+A*h2e+(A-H0)/heat_eff*(1-heat_eff)+ (A*h2e–U0)/auto_eff*(1- auto_eff)=D0 (4)

従って、有用熱エネルギー(A)は下記の式により計算できる。

D0 +H0*(1-heat_eff)/heat_eff +U0*(1- auto_eff) /auto_eff

A= ------------------------------------------------------------------------------------------------

1+h2e+(1-heat_eff)/heat_eff+h2e*(1-auto_eff)/auto_eff

0.31 0.26

0.740.90 0.89

1.08

1.96

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

鉄鋼 非金属 化学 紙・パルプ 食品・タバコ 繊維・革 非鉄金属

52

インドネシアの熱転換効率(heat_eff)を推計するには、ボイラーを熱転換の代表設備と

して、日本のボイラー効率と発電効率の関係から試算する。一般的には、発電用のボイラー

効率と産業プロセス用熱転換用のボイラーはともに一国の設備製造の技術レベルに依存す

るため、両者は強い相関にあると考えられる。

環境省・温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度によれば、日本のボイラー効率はおよ

そ 84.0%(各種ボイラーの効率の単純平均)であることがわかる。対して発電効率は 44.0%

程度である。従って、インドネシアの発電効率(2015 年)は 36.7%であるため、ボイラー効

率は 36.7%*84.0%/44.0%=70.0%程度と推定できる。同然なことにこの推計方法で得られた数

値に対して実態調査等を通じて精度を上げる課題が残る。

3.1.3. インドネシアにおける有用熱エネルギーの推定結果

推定結果を下表に示すように、2015 年にインドネシアにおける産業部門の最終エネルギ

ー消費(41.5Mtoe)の内訳として、有用熱エネルギー需要は 14.9Mtoe(36%)、有用電力の需要

は 10.9Mtoe(26%)、転換ロスは 15.8Mtoe(38%)となっている。すなわち、結論としてインド

ネシアにおいても産業用熱需要が非常に多いことがわかる。とりわけ、数量としては、窯業、

化学、紙パルプ、非鉄、鉄鋼の順となっている。比率として窯業、鉄鋼、化学、食品、紙パ

ルプ、繊維の順となっている。

53

表 3-1 産業別有効熱エネルギー需要(2015 年)

出典:IEEJ 推定

出典:IEEJ 推定

図 3-4 産業別有用熱エネルギー需要(2015 年)

ktoe 最終消費 有効熱 有効電力 転換ロス鉄鋼 1,946 971 306 670非金属 11,757 6,120 1,621 4,016化学 9,165 3,210 2,385 3,571紙・パルプ 6,076 1,936 1,737 2,402食品・タバコ 1,210 388 344 478繊維・革 2,220 642 695 884非鉄金属 6,367 1,337 2,626 2,404その他 2,805 284 1,168 1,353産業計 41,547 14,888 10,880 15,779

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

鉄鋼

化学

非金

鉱業

食品

・タ

バコ

紙・パ

ルプ

建築

繊維

・革

kto

e

変換ロス

有効熱エネルギー

有効電力エネルギー

54

出典:IEEJ 推定

図 3-5 産業別有効熱エネルギー需要が最終消費に占める割合(2015 年)

一方、時系列の推移を見ると、近年、インドネシアの産業用最終エネルギー消費は経済成

長とともに増加している。最も注意すべきなのは、この間有用熱エネルギー消費が終始高い

シェアで推移している。また、有用熱または電力への転換ロス計も高いシェアを占めている。

さらに、エネルギーバランス表上に反映されている電力消費量は推計されている有用電力

エネルギー量に占めるシェアが半分程度であり、すなわち、インドネシアでは統計上に反映

されていない大量の自家発が存在していることを伺わせる。また、これはインドネシアの低

い電力品質に対応するため企業が取った対策の現れとも考えられる。

出典:IEEJ 推定

図 3-6 産業部門におけるロス率等の推移

50% 52%

35%32% 32%

29%

21%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

鉄鋼 非金属 化学 紙・パルプ 食品・タ

バコ非鉄金繊維・革

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

50,000

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

最終

消費

に占

める

有用

エネ

ルギ

ー(k

toe)

変換ロス

有効熱エネルギー

有効電力エネルギー

発電事業者

自家発電

55

出典:IEEJ 推定

図 3-7 産業部門におけるエネルギー効率の推移

他方、国際比較を行うために、日本、中国、EU28 を対象に上記の手法と同様に有用熱エ

ネルギーを推計した。その結果、インドネシアにおけるロス率は過去 10 年間 4 ポイント減

であったのに対して、中国は 16 ポイント減であった。日本と EU28 カ国は数ポイント減で、

低い水準に位置しながらも減少傾向を続けている。

35%36%

42%

38%

23% 26%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

有用

エネ

ルギ

ーの

比率

(%)

有効電力エネルギー

有効熱エネルギー

変換ロス

35%36%

42%

38%

23% 26%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

有効

エネ

ルギ

ーの

比率

(%)

有効電力エネルギー

有効熱エネルギー

変換ロス

インドネシア

49%51%

15%13%

36%

36%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

有効

エネ

ルギ

ーの

比率

(%)

有効電力エネル

ギー

有効熱エネルギー

変換ロ

日本

56

出典:IEEJ 推定

図 3-8 ロス率等の国際比較

出典:IEEJ 推定

図 3-9 一次エネルギーベースの効率の比較

40%

46%

34%

22%

26%32%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

有効

エネ

ルギ

ーの

比率

(%)

有効エネルギー

有効熱エネルギー

変換ロス

中国

45% 45%

19%18%

35%37%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

有効

エネ

ルギ

ーの

比率

(%)

有効電力エネルギー

有効熱エネルギー

変換ロス

EU28

35% 37%

48% 50%

67% 70%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

エネ

ルギ

ー利

用効

率(%

)

発電効率

ボイラー効率

産業平均効率

インドネシア

44%46%

60%63%

83%87%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

エネ

ルギ

ー利

用効

率(%

)

発電効率

ボイラー効率

産業平均効率

日本

32%

39%

46%

54%

62%

74%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

エネ

ルギ

ー利

用効

率(%

)

発電効率

ボイラー効率

産業平均効率

中国

40% 41%

59% 60%

77% 79%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

エネ

ルギ

ー利

用効

率(%

)

発電効率

ボイラー効率

産業平均効率

EU28

57

一方、産業のエネルギー消費の効率を一次エネルギーベース 21で見た場合、すなわち、産

業が二次のエネルギーとして購入した電力や熱を一次エネルギーに換算して見た場合、イ

ンドネシアにおける一次エネルギーベースの効率は過去 10 年間 2 ポイント増加であったの

に対して、中国は 8 ポイント増であった。日本と EU28 カ国は 1 ポイント増であったが、高

い水準に位置しながらも増加傾向を続けている。

上記の分析からわかるように、インドネシアにおける産業のエネルギー消費効率は国際

的に相対的に低く、過去 10 年間大きく改善していないことが分かる。

3.1.4. コージェネ導入の効果分析

インドネシアにおける有用熱エネルギー需要が最終消費エネルギーに占める割合が 4 割

近くあることが前述の通りであるが、本事業ではこの有用熱需要の 1 割を CHP でまかなう

場合省エネルギー効果を試算したい。まず、現状では CHP の導入割合がほぼゼロと仮定し

た場合の産業部門のエネルギー利用のフローチャートを下図に示す。同図を見て変わるよ

うに、産業用の有用エネルギー需要をまかなうために、2015 年に 51.7Mtoe のエネルギーを

消費した。それを 100 とし場合、電力事業者の発電ロスが 18.4(一部統計上に反映されてい

る自家発電のロス 4.6 を含む)、送電ロスが 1.2 となっているほか、企業が各種エネルギー

源を購入して統計に反映されていない発電と熱転換のロスがそれぞれ 18.2 と 12.3 となって

おり、合計としてロスの比率が 50.1%となっている。

出典:IEEJ 推定

図 3-10 コージェネ導入効果の分析(導入前のエネルギーフロー)(2015 年)

21 産業が消費しているエネルギーを一次ベースに換算して効率を試算する方法。そのイメージはエネル

ギーフローチャートを参照されたい。

58

出典:IEEJ 推定

図 3-11 コージェネ導入効果の分析(導入後のエネルギーフロー)(2015)

次に、有効熱エネルギー需要の 1 割を CHP で代替すると、それは従来の熱転換を 2.9 だ

け減らし、従来の自家発電でロスした排熱を 2.9 だけ再利用して済むことなので、加えて

熱変換のロスの減少分 1.3 を同時に計上すると、合計 4.2 の最終エネルギー消費の減少と

なる。すなわち、従来のエネルギー消費量より 4.2%と 2.2Mtoe の削減となる。また、合計

ロスが 45.9 となり、ロスの比率が 47.9%に減少する。

出典:IEEJ 推定

図 3-12 コージェネ導入効果の分析(導入後の各種効果)(2030)

5

0

1

2

3

4

5

6

2030

エネ

ルギ

ー(M

toe)

最終消費の削減

11

0

2

4

6

8

10

12

2030

CO

2 (M

toe)

CO2排出の削減1,80

4

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2,000

2030

経済

的コ

スト(M

USD)

経済的コストの削減

59

同様な計算手法を 2030 年に適用すると、10%の熱需要を CHP で代替すると、省エネ効果

は 5Mtoe(または産業全体の 8%)の削減、CO2 削減効果は 11Mt-CO2(または 2014 年排出

量の 2%)の削減、経済効果は 18 億米ドルに上ると推計される。

3.1.5. 世界主要国における CHP 推進の政策と実績

1. EU の推進政策

EU では CHP の導入を積極的に促進している。EU は「エネルギー効率指令(Energy

Efficiency Directive)」として EU のメンバー国に 2015 年 12 月までに CHP 導入のポテンシ

ャルを全面的に実施するようと定めている。また、熱の投入計が 20MW を超える熱または

電気設備、または熱の投入計が 20MW を超える廃熱を発生する産業設備に対して、建設ま

たは改修を計画しているときに、CHP導入のコスト便益分析を実施することも要求した 22。

出典:The European association for promoting CHP

図 3-13 EU における CHP 導入状況(2013 年)

EU の CHP 促進協会(The European association for promoting CHP)によれば、EU の CHP

導入状況は図に示す通りで、導入容量としては、ドイツ、オランダ、イタリア、イギリス、

フィンランドの順となっている。発電量ベースでは、加盟国ではばらつきがあるが、2013 年

に電力の 11.7%を占めている。

2. アメリカの推進政策

アメリカは1978年に「公益事業規制政策法」(Public Utilities Regulatory Policies Act、PURPA)

を可決し、電力会社に、CHP のような「資格を有する施設」からの電力を購入することを義

務化した。これにより産業用の CHP ユーザーに余剰電力を売却できるようになった。また、

PURPA の制定直後、連邦議会は CHP 投資促進のための連邦税額控除を新たに制定した 23。

22 https://ec.europa.eu/energy/en/topics/energy-efficiency/cogeneration-heat-and-power 23 https://www.c2es.org/technology/factsheet/CogenerationCHP

60

アメリカの導入実績として容量ベースでは 2008 年に全国の 9%を占めた。一方、さらに

Oak Ridge National Laboratory の最近の研究では、2030 年までに同シェアを 20%に増やすと、

米国の温室効果ガス排出量は BAU に比べて 6 億トンの CO2 削減できると試算した。

3. 中国の推進政策

中国では CHP を「熱電連産」と呼び、従来から CHP を導入してきた。2016 年 3 月に発

展改革委員会と中国能源局が共同で「熱電連産に関する管理方法」24を公表し CHP をさら

に後押しした。同方法の公布の背景には大気汚染の深刻化で化石燃料の消費の削減のニー

ズが高まったことや熱供給が不足していることなどが挙げられる。同方法では北部大中都

市での CHP 普及率が 60%を目指すなど、プラントの計画と建設、プラントの種類や規模の

設計、環境保護基準の設定、支援政策と措置、そして監督と管理のスキーム等に関して詳細

な規定を定めた。同「方法」では CHP の促進にあたって、以下の原則を定めた。

1)環境保護を優先とし、エネルギー効率の向上と電源構成の改善を目指し、熱需要を満

たす前提で CHP 規模を設計する。

2)背圧式石炭 CHP を導入する場合、国の石炭発電の制約を受けず優先的に売電できる。

また、計画通りに熱の供給ができる。

3)熱供給の需要を満たしつつ、背圧式 CHP を優先的に採用する。

4)30 万 kW 以上の石炭 CHP を導入する場合、さらなる厳しい基準や政府の電源構成計

画を満たす必要がある。

5)効率の低い石炭ボイラーや石炭発電を代替しつつ、CHP を導入する。

出典:中国研究機関の協力により IEEJ 作成

図 3-14 中国地域別 CHP 導入シェア(発電容量ベース、2014 年値)

2014 年に中国の CHP 導入シェアは 3 割を超えており、とりわけ南部の福建省でも 2 割を

超えているのが注目される。

24 「熱電連産に関する管理方法」:http://www.nea.gov.cn/2016-04/18/c_135289351.htm

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

全国

平均

北京

天津

湖北

山西

内蒙

遼寧

吉林

黒竜

江省

上海

江蘇

浙江

安徽

福建

江西

山東

河南

河北

湖南

広東

広西

海南

重慶

四川

貴州

雲南

チベ

ット

山西

甘粛

青海

寧夏

新疆

61

4. 日本の推進政策

日本では 1980 年代から導入が開始されてきた。その時電力需要が増加する中で、省エネ・

省コストの設備として、高効率ボイラ等の設備更新や石油代替エネルギーに合わせて導入

が拡大した。2013 年度末時点では、CHP の普及量が約 1,000 万 kW、発電量は約 500 億 kWh

に相当となった 25。

近年の動きとして、2014 年に閣議決定された「エネルギー基本計画」では電力や熱のさ

らなる効率的な利用などの観点から、CHP は「家庭用を含めたコージェネレーションの導

入促進を図るため、導入支援策の推進とともに、燃料電池を含むコージェネレーションによ

り発電される電気の取引の円滑化等の具体化に向けて検討」26として政府の導入方針を明確

にした。また、コジェネの導入促進に向けた行政の機能を抜本的に強化するため、2012 年 8

月 1 日に、資源エネルギー庁・電力・ガス事業部政策課にコジェネ推進室(通称)を設置し、

2014 年 7 月に資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部政策課に移管した。

制度面のほか、予算面でも日本では各種補助金事業で積極的に支援を行っている。例えば、

2013 年度予算として 249.7 億円を計上して「分散型電源導入促進事業費補助金」として、天

然ガスコジェネレーションや自家発電設備等の分散型電源の設置を促進し、省エネルギー

や電力需給の安定化等を図るため、省エネルギー効果が高く、電気と熱を高効率に利用する

天然ガスコージェネレーションを導入する事業者に対する補助を実施した。

5. タイの政策

タイでは 1992 年の SPP 支援策、そして 1994 年の IPP 支援策として CHP の導入を促進し

てきた。これらの支援策は IPP/SPP 発電事業者として発電した電力をタイ発電公社の EGAT

に販売できるには、再生可能発電か CHP 発電である必要があると規定した 27。タイ・エネ

ルギー省(MOE)の担保により 20 年から 25 年間の電力購入合意(Power Pruchasement

Agreement)が EGAT と IPP/SPP の間で締結されるのが大きな支援内容となった。タイの電

源開発計画(PDP2015)28によれば、2015~2036 年の期間中に 4.1GW の CHP が新規建設す

る計画であるのに対して、2015~2025 年期間中にすでに PPA 締結済みの SPP プロジェクト

が 4.1GW に達している。ちなみに、2036 年の発電設備容量として 70.3GW を計画する必要

があるとしている。

25 経産省資料、

http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/006/pdf/006_10.pdf 26 経産省発表資料、http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/267507_52640728_misc.pdf 27 世銀資料、http://siteresources.worldbank.org/EXTRENENERGYTK/Resources/5138246-

1238175210723/Thailand0Small0Power0Producer0Program0.pdf 28 タイ EPPO 資料、http://www2.eppo.go.th/power/PDP2015/PDP2015_Eng.pdf

62

出典:IEEJ 作成

図 3-15 タイにおける IPP/SPP の促進のスキーム

3.1.6. インドネシアにおける CHP 推進に係る主な課題

インドネシアは過去 20 年(1990~2015 年)では年平均 GDP 成長率が 4.7%に達している。

高い経済成長を背景に、電力需要は経済成長率の倍近くの 8.2%で増加してきた。IEEJ の分

析によると、今後にもインドネシアの経済成長がこれまでと同程度に維持し、2030 年と 2050

年まで電力需要見通しがそれぞれ 2015 年の 2.2 倍と 4.4 倍に増加すると予測されている。

出典:アジア/世界エネルギーアウトルック(IEEJ、2017)

図 3-16 インドネシアにおける電源構成の予測

一方、インドネシア政府は地域電化率の向上のため、2019 年までに 35GW の発電設備に

新規建設する計画を 2015 年に大統領の強いリーダーシップの下打ち出している。しかしな

がら 2017 年 10 月 24 日付けの地元報道によると、その半分以下の約 15GW の発電能力しか

0

200

400

600

800

1,000

1,200

2015 2030 2050 2050

レファレンス 技術

進展

他再生可能

水力

原子力

天然ガス

石油

石炭

TWh

0

50

100

150

200

250

2015 2030 2050 2050

レファレンス 技術

進展

他再生可能

水力

原子力

天然ガス

石油

石炭

GW

63

新規建設が出来ない見通しを示した 29。また、国家エネルギー委員会(DEN)も、同計画は早

くても 2021 年に完成、プロジェクトの計画期限より 2 年遅れるとの見通しを示した 30。そ

のため、PLN は IPP の利用促進や資金調達の強化等多くの対策を打ち出し、同計画の実現

に取り込んでいる。

しかし、2017 年 11 月に PLN へのヒアリングを実施すると、PLN が大統領の 35GW の新

規設備の目標を目指しているが、経済成長が予想した伸びがなかったため、電力需要はそれ

ほど伸びず、PLN は電力設備容量のマージンが高まり、とりわけ Jawa エリアでは 32%に上

昇したとの状況になったという。すなわち、インドネシアの電源開発は時間と空間の 2 つの

柱で考える必要がある。従って、当面の経済状況では、少なくとも PLN にとって、電力需

要の伸びがダウンした Jawa エリアでは新規に CHP を容認するインセンティブが見当たら

ないと思われる。

他方、制度面では、インドネシアにおいて工場敷地内で CHP の新規建設が PLN の許可が

必要としないが、CHP の余剰電力を PLN に売電し、事業の収益性を高めるために、PLN へ

の電力系統に接続するには、PLN の許可が必要になる。また、工場で自家発電設備として

CHP を建設する場合は PLN の許可の必要がないが、ESCO のように第 3 者の事業者が CHP

設備を建設・所有して工場に対して売電を行う行為はインドネシア電力法(2009 年改定)

に定められた 1 地域 1 電力供給事業者の規定に抵触するため、既存の電力供給事業者から

ライセンスを取得する必要がある。そのため、ビジネスモデルとしてインドネシアにおいて

CHP 事業を展開するには、このライセンスの課題を克服する必要がある。

また、従来から PLN が電力系統への接続料金をパラレルオペレーションコスト(POC)

として請求していたが、2017 年鉱業エネルギー省規制第 1 号の「REGULATION OF THE

MINISTER OF ENERGY AND MINERAL RESOURCES OF THE REPUBLIC OF INDONESIA

NUMBER:01 YEAR 2017 CONCERNING PARALLEL OPERATION OF POWER PLANTS WITH

ELECTRICITY NETWORK OF PT PERUSAHAAN LISTRIK NEGARA (PERSERO))」31により

法的に請求できるようになった。同規制の第 6 条第 3 項では POC は容量に応じて請求し、

具体的にはネット容量(MW) x 40 (時間) x 電力料金との方程式で請求することと定められ

た。さらに第 7 条第 2 項と第 3 項では PLN は鉱業エネルギー省の承認を得て計算式に以上

に POC を請求できると定められた。例えば 7.8MW の CHP を導入した場合、年間 39 億 IDR

(約 3,240 万円)の請求額となり、それはほぼ CHP 導入で節約できる利益に相当という 32。

そのため、ビジネスモデルとしてインドネシアにおいて CHP 事業を展開するには、さらに

このパラレルオペレーションコストの課題を克服する必要もある。

29 http://coal.jogmec.go.jp/info/docs/171102_15.html 30 http://coal.jogmec.go.jp/info/docs/170202_06.html 31 http://www.apbi-icma.org/wp-content/uploads/2017/03/PERMEN-ESDM-NO.01-2017-English-Version1.pdf 32 本事業の現地日本の事業者による試算

64

3.1.7. インドネシアにおける CHP 導入促進のためのビジネスモデルの提案と政策提案

インドネシアにおいて CHP の普及を促進するには、前述通りに熱需要の多い産業セクタ

ーを対象に可能できるが、ほとんどの企業が資金力や能力等の面で CHP の建設と運用がで

きないため、専門的ノーハウを有する事業者による推進が欠かせない。

しかしながら、こうした事業者であっても、上記の課題が存在するため、現状では PLN

と何らかの協業を避けて通れないと思われる。そのため、日本のビジネスコンソーシアムと

PLN が共同 CHP 事業者を創設するビジネスモデルが提案できる。このビジネスの中核は

CHP 事業で工場のエネルギー消費の削減で得られた収益を PLN と分け合うことで、制度面

のビジネス環境の改善を図っていくことを目指す。

このビジネスモデルは上記の 2 つの課題を解消できるほか、事業関係者がそれぞれ便益

を得られる。

まず、インドネシア政府としては、電源不足の解決や、CO2 排出量の削減、そして CHP の

運用等で雇用創出などの便益が得られる。PLN としては、エネルギー供給ジョイントベン

チャーから利益、電源の追加、電力販売の増加と電源建設計画の達成に貢献し、エネルギー

効率の高い電源の増加などの便益が得られる。インドネシアにおける企業としては、エネル

ギーコストの削減、電力不安定による生産ロスの回避、CO2 排出量の削減、そして事業の更

なる拡大などの便益が得られる。

一方、こうしたビジネスモデルを推進し、インドネシアにおいて本格的に CHP の導入を

図るには、インドネシア政府として以下の努力を行う必要があるのではと考えられる。

1)現在のライセンス規定を緩和して、ライセンスの発行条件を制定して、資格に満たし

ている事業者にはライセンスを発行すること。

2)高額なパラレルオペレーションコストの請求を CHP 事業として成り立つ水準まで引

き下げること。

3)提案したビジネスモデルに積極的に参加できるようインドネシア政府が PLN 社に促す

こと。

4)インドネシアの国家エネルギー関連政策および計画に CHP への支援を明確にするこ

と。

65

3.2. インドネシアにおけるディマンドサイドマネージメントの分析

3.2.1. ディマンドサイドマネージメント(Demand Side Management: DSM)

1. DSM とは

ディマンドサイドマネージメント(Demand Side Management: DSM)とは、電力会社等の

供給事業者が行うプログラムにより、家庭・業務・産業部門など需要家側での省エネルギー

やピークシフトおよびピークカットといった負荷調整により電力需給の最適化を行うもの

である。

DSM の実施にあたっては、消費者への情報提供や高効率技術の導入に向けたリベートの

提供、低利融資、さらには ESCO 事業やエネルギー監査、エネルギーマネージメント技術の

導入による運用面のエネルギー需要管理がある。他方、電力供給事業者が提供する時間帯別

料金制度や蓄エネルギー、負荷状況に応じて消費者にインセンティブを付与し、需要抑制や

需要造成をするディマンドレスポンスが含まれる。

出所:木船(1993) “日本における DSM の経済性評価”『名古屋学院大学論集 社会科学篇』から作成

図 3-17 Demand Side Management のメニュー

インドネシアでの将来的な機器普及拡大や所得水準の向上に伴う電力需要の拡大を見据

え、需要側での省エネルギーと負荷管理は、供給設備への過剰投資を抑制するとともに、発

電への燃料消費を節減できることからインドネシア経済全体への便益が期待できる。

ここでは、DSM 実施にあたって先進的取り組みを行う米国・カリフォルニア州での取り

組みならびにマレーシアやタイなどASEAN諸国での動向を把握し、インドネシアでのDSM

実施のあり方を検討、政策提言項目を検討する。

66

2. 米国の事例

カリフォルニアは 米国の中で省エネルギーに関して最も先進的な取組を他の州に先駆

けて行ってきており、政策の実施は 1973 年の石油危機の後、カリフォルニアエネルギー委

員会(California Energy Commission: CEC)を形成したことに始まる。1977 年には、米州初とな

る機器のエネルギー効率基準を導入、そして 1978 年には住宅・建築物の省エネ基準が施行

した。また、電力やガス事業者等の公益事業者に対して、需要家の省エネ目標を実現させる

義務を負わせるディマンドサイド・マネージメント(Demand Side Management: DSM)を米国

で初めて導入したのもカリフォルニアであった。

こうした政策の実施が功を奏し、カリフォルニアの一人当たり電力消費は 1974 年以降、

ほぼ 7,000 kWh 程度にとどまっている。これとは対照的に米国の平均では一人当たり電力

消費は 1974 年以降、8,000 kWh から 12,000kWh へと 50%増加している。省エネ便益に関す

るカリフォルニア公益事業委員会 (California Public Utilities Commission: CPUC)が 2008 年に

行った試算では、機器の省エネルギー基準と建築物の省エネルギー基準は、1978 年以来 560

億ドルの電力及びガス料金を節約したことになり、15 の大規模発電所の建設を回避したと

推計されている。また、2008 年当時施行されている省エネ基準は、2013 年までに 230 億ド

ルの追加的便益が得られると試算される 33。

図 3.23 の省エネ基準・プログラムのなかりせばシナリオが示す通り、省エネ政策の実施

が無かった場合でもカリフォルニアの一人当たり電力消費量が米国の平均よりも低い水準

に留まる点は注意しなければならない。具体的には、カリフォルニアでは IT 等の知識集約

型産業が主要産業であることと、温暖な気候、そして相対的に電力料金が他の州よりも高く

設定されていることが要因として指摘できる。

33 California Public Utilities Commission. 2008. California Long-term Energy Efficiency Strategic Plan. www.CaliforniaEnergyEfficiency.com

67

出所:カリフォルニアエネルギー委員会

図 3-18 一人当たり電力消費の米国とカリフォルニアの比較

3.2.2. Loading Order と省エネルギー

カリフォルニアでは米国の他州に先駆けて、1973 年の第一次石油危機以降、ディマンド・

サイド・マネージメント(DSM)が実施されてきた。それ以前、カリフォルニアでは他州と同

様に発送配電の大型化、高度化によって電力供給の経済性を確保してきたが、第一次石油危

機によるエネルギー価格の高騰と、立地確保の問題ならびに環境規制の強化を受け、電力料

金が大幅に上昇することとなった 34。こうした電力価格への影響を緩和するための手段と

して DSM が導入されることになったのである。

DSM とは、具体的に発電事業者等の公益事業者が、発電設備などの供給部門へ投資をす

る代わりに、需要家に対して省エネルギーを推進するために支払いをするというものであ

る。全ての省エネルギー技術が公益事業者から需要家への支払い対象となるのではなく、発

電設備への投資を行うよりもコスト効果的なオプションを選択することが基本とされてい

る。

1973 年以降カリフォルニアで実施されてきた DSM は、2008 年の“Loading Order”にひと

つの要素として含まれることとなる。 “Loading Order”では、公益事業者が供給計画を立て

る際、省エネルギーを第一の資源と位置付け、その次にディマンドレスポンス、再生可能エ

ネルギー、分散型電源、そして天然ガス火力発電の順番でインフラ整備を計画することをカ

リフォルニア公益事業委員会が公益事業者(Investor Owned Utilities)に対して規制している。

つまり、省エネルギーを推進する際に、公益事業者は DSM を含む様々なプログラムを実施

することになるのである。

34 山谷修作. 1993. 米国電力事業におけるディマンドサイド・マネジメント. 経済論集. 18-2. P107-126.

カリフォルニアの実績

カリフォルニアの省エネ基準・プログラム

なかりせばシナリオ

米国

kWh/人

68

なお、カリフォルニアの“Loading Order”の実施は以下の図 3-19 が示す通り、数年のサイ

クルで行われる。

出所:カリフォルニア公益事業委員会

図 3-19 Loading Order の実施過程

図 3-20 に示される通り、Loading Order の実施は、①政策ガイダンス、②省エネポートフ

ォリオの申請、③省エネポートフォリオの実施の 3 つの段階を経て行われる。具体的には、

第一段階として需要家の電力需要とこれまでの省エネ達成度合いを示すデータに基づき、

Pacific Gas & Electric, Southern California Edison, San Diego Gas & Electric の公益事業者

(Investor Owned Utilities)がどの程度、供給エリア内で省エネを行えるかについての分析を

カリフォルニア公益事業委員会が行う。また、コスト効果的な省エネオプションをリスト化、

公益事業者に提示する。また、公益事業者の株主に対するインセンティブも検討する。

第二段階は、カリフォルニア公益事業委員会が提示した目標と省エネポートフォリオに

基づき、公益事業者が其々、省エネ目標設定をすると共に、いかにして省エネ目標を達成す

るかオプションを提示する。その際、対策として取られる省エネオプションは、カリフォル

ニア公益事業委員会が提示したものに基づき、なおかつコスト効果的なもののみならず、技

術的に普及が進んでおらず、コスト面も高いものをも網羅し、全体としてコスト効果的な省

エネ対策となるようポートフォリオを形成することが要請されている。これは、技術レベル

の高い省エネ技術に対して、適切な投資が促進されるようカリフォルニア公益事業委員会

が配慮しているためである。また、公益事業者が申請した目標に対する省エネポートフォリ

① 政策ガイダン

・ 省エネポテンシャルの推計

・ コスト効果的な省エネオプションのポートフォリオ提示

・ 株主へのインセンティブ検討

・ 20%第三者参加

・ California Energy Efficiency Strategic Plan(省エネ戦略計画)

に基づいた 現実的なガイダンス

②公益事業者に

よる省エネポート

フォリオの申請

・ 省エネポテンシャルの推計に基づく目標設定

・ コスト効果的な省エネオプションのポートフォリオ提示

・ 省エネ戦略計画との整合性

③省エネポートフ

ォリオの実施

・ 公益事業者の省エネポートフォリオ実施をカリフォルニア公益事

業委員会が監督

69

オに関しては、カリフォルニア公益事業委員会が策定する省エネ戦略計画 35と整合性が取

られているかとの観点からカリフォルニア公益事業委員会が審査し、内容に不備があると

判断された場合は再検討の要請が下る場合がある。

第三段階は、公益事業者による省エネポートフォリオの実施をカリフォルニア公益事業

委員会が監督するものであり、各公益事業者が行う活動による省エネ量を測定、評価、そし

て認証するという過程で対応する。

このような省エネ実施サイクルは 3 年に渡り、一つの省エネサイクルが終わった後、1 年

間の移行期間を経て、次の省エネ実施サイクルがはじまる。

なお、省エネ実施の原資は電力・ガス事業者の収益から 1.5%徴収したものに依存してお

り、これにより、省エネ目標を達成した公益事業者には株主に対する報酬を還元するが、一

方、目標を達成しなかった場合は、罰金の支払い義務が生じる。

3.2.3. 省エネプログラム

1980 年代、1990 年代の初期段階のディマンドサイド・マネージメント実施期において、

エネルギー効率の高い製品の購買に対するインセンティブの付与が一般的な省エネプログ

ラムの実施形態であった。それ以降、プログラムの内容は需要家を対象とするのみではなく、

建築物・住宅の改修や、省エネ教育、マーケティングなど様々な内容を包括的に網羅するよ

うになった(表 3.4)。

白熱灯の蛍光灯への変更に代表されるコスト効果的な省エネオプションが既に適用され

ており、さらに一層省エネルギーを推進するためには追加的な省エネ余地を開拓すること

が重要となっており、そのため建築物・住宅の改修や建築基準法の省エネに関する規定の十

種率向上など、様々なプログラムが実施されているのである。

部門別では、「住宅」と「住宅以外」との区分になっており、住宅向けの省エネルギープロ

グラム実施が主体であることを窺わせる。ただし、プログラムの内容は多様化しており、最

先端技術の導入など長期的な効果をもたらす分野に関する作業も推進されている。

35 California Public Utilities Commission. 2011. Energy Efficiency Strategic Plan. http://www.cpuc.ca.gov/NR/rdonlyres/A54B59C2-D571-440D-9477-3363726F573A/0/CAEnergyEfficiencyStrategicPlan_Jan2011.pdf:2020 年を見据えたカリフォルニアの省エネ

長期戦略を記したもので、民生、産業、農業など部門別の戦略と省エネ教育、マーケティング、研究など

12 項目から構成される。

70

表 3-2 カリフォルニアの省エネプログラム事例

省エネプログラム プログラムの例

家庭部門:住宅の改修 機器更新へのリベート HVAC(エアコン、暖房、換気)へのリベートとメンテナンス 住宅のエネルギー診断と情報提供 省エネ機器の直接設置 住宅全体の包括的な省エネ改修 Upstream Program: 製造業者にインセンティブを付与、高効率機器の購買を促進する

家庭部門:新築住宅 一世帯、複数世帯、プレハブ住宅を対象 グリーン建築物の実践

業務・産業部門:住宅以

外の改修

リベート及びその他インセンティブ エネルギー診断 省エネ機器の直接設置 Benchmarking: 特定基準に対する乖離分を節約するような省エネ促進 On-bill financing: 初期投資をエネルギー供給事業者が負担、融資額を電気料金に上乗せし回収 Upstream Program: 製造業者にインセンティブを付与、高効率機器の購買を促進する

業務・産業部門:住宅以

外の新築

デザインの支援 オーナーとデザイナーへのチームとしてのインセンティブ付与 グリーンビルの実践

最先端技術 最先端の省エネ技術の適用と普及拡大

建築基準法と省エネ基準 建築基準法の適合率と省エネ基準の提案と啓発活動 建築基準法遵守の支援

地方政府と教育パートナ

ーシップ

省エネ改修 ベンチマーキング 融資

工務店・大工等の教育、

トレーニング

トレーニング ニーズの評価

マーケティング、教育、

消費者への接触

州・地方政府・多言語のマーケティングと地方の教育 統合プログラムの普及促進 学校教育プログラム

Competitive Solicitations 最先端技術とプログラム 到達が困難な市場および特別プログラム

パイロットプログラム コスト効果的な省エネルギー手段の実施を義務付け(AB2021) 省エネルギー目標の設定

出所:LBNL. 2012. Building Energy-Efficiency Best Practice Policies and Policy Package.

3.2.4. 省エネプログラムの成果

前述の通り、各公益事業者は省エネ目標の達成に向け高効率機器の導入以外にも様々なプ

ログラムを実施している。他方、カリフォルニア内で最大の供給量を有する Pacific Gas &

Electric 及び Southern California Edison の 2010 年から 2012 年の省エネ(電力)量実績を見る

と、現状では照明や高効率機器の導入による省エネが大きな割合を占めていることが分か

る(図 3-20)。

71

出所:カリフォルニア公益事業委員会, “California Energy Efficiency Statistics”

図 3-20 エネプログラム別省エネ量

(電力、Pacific Gas & Electric, Southern California Edison)

カリフォルニア公益事業委員会が規定する通り、省エネ目標の達成に向けて、省エネプロ

グラムの実施はコスト効果的なプログラムを実施することが要請されている。しかしなが

ら、カリフォルニアのエネルギー戦略計画に盛り込まれている通り、長期的な市場の変革と

いった目的の達成も要請している。したがって、現状ではコスト効果的でない最先端の技術

も、省エネ量としては全体への貢献は小さいものの導入は進められている。

カリフォルニア公益事業委員会の推計では、2011 年の省エネプログラムの費用対効果比

率は、2.02 であったと推計されている 36。すなわち、1 ドルの省エネ投資に対する便益は、

ほぼその倍であったということを意味する。

また同期間の建築基準法が規定する省エネ基準の遵守に関するプログラム予算は、全予

算の$3,000 万ドルに対して 1%と小さかったものの、省エネ量としては、電力全体の 22%を

占めたと報告されており、注目に値する 37。カリフォルニア公益事業委員会では、特に建築

物・住宅の省エネ基準遵守を強化することで長期的にさらに一層省エネを推進させたい意

向を有している。

3. マレーシアの事例

・ マレーシアの省エネルギー政策

マレーシアの省エネルギー政策は、1991 年に国家エネルギー効率プログラム(National

Energy Efficiency Program)が策定され、エネルギー利用効率の向上に資するシステム、設備

36 California Public Utilities Commission. 2012. 2010-2011 Energy Efficiency Evaluation Report. 37 California Public Utilities Commission. 2012. 2010-2011 Energy Efficiency Evaluation Report.

615.5

360.8

204.7

160.0 104.6 82.0 67.6 66.8 64.3 63.3 62.9

933.4

0.0

500.0

1000.0

1500.0

2000.0

2500.0

3000.0

省エネ量 (GWh)

その他

産業部門のインセンティブ

農業部門のインセンティブ(機器

台数別)デザイン改善による省エネ

農業部門のインセンティブ(省エ

ネ量別)East Bay Energy Watch

石油生産での省エネ

業務部門の機器

高効率照明

業務部門のインセンティブ(省エ

ネ量別)業務部門のインセンティブ(機器

台数別)家庭部門の照明インセンティブ

GWhPacific Gas & Electric

567.2

562.1

377.1

304.9

235.7 137.7 112.7 109.3 104.7 92.4

593.0

0.0

500.0

1000.0

1500.0

2000.0

2500.0

3000.0

3500.0

省エネ量 (GWh)

その他

産業部門の技術別インセ

ンティブ

機器のリサイクル

デザインの変更による省

エネ

産業部門の省エネプログ

ラム

省エネ量別インセンティブ

照明調整

業務部門の機器直接設置

機器別インセンティブ

家庭部門の照明インセン

ティブ

高効率照明

GWh Southern California Edison

72

や建物の開発促進が図られてきた。2014 年には、国家省エネルギーマスタープラン(National

Energy Efficiency Master Plan:NEEMP)が策定されている。NEEMP は、資源国として、国

内の持続可能な資源開発と資源輸入の低減、環境負荷の低減、電力需要の管理、エネルギー

需要増の管理、エネルギー消費の対 GDP 原単位を 1 以下にすること、価格メカニズムの公

正化を目途として策定されている。

NEEMP は、18 の作業プログラム(Work Program)を介してレファレンスシナリオ(BAU)

に比べて 2020 年までに 10%の電力消費削減 38を目指している。

2014 年 1 月 23 日、NEEMP のドラフトが公表され 39、30 日の意見公募が実施されている。

省エネの推進に向けて、5 つの戦略的アクションを策定し、向こう 10 年間で、産業、ビル

と機器(equipment)の 3 セクターを対象に、17 の省エネプログラムの実施を掲げている。

5 つの戦略的アクションは、①プロジェクトチームの設置、②省エネに対する財政的支援、

③政府主導イニシアチブ、④人材育成、⑤研究開発とイノベーションである。17 の省エネ

プログラムは、①家電製品のラベリングと評価、②最低エネルギー効率基準、③建物と産業

部門のエネルギー診断と管理、④特定製品の割戻と支援プログラム、⑤省エネ建物の設計と

言った 5 つのカテゴリーに分類されている。これらの省エネプログラムの実施により、10

年間累積で、50.6TWh のエネルギー消費や 37.9 百万トンの CO2 削減が見込まれている。

・ 行動変容を活用した省エネルギー推進に向けた実証事業

マレーシアでは、家庭部門を対象とした省エネルギー行動変容を促す目的で、電力会社の

Tenaga Nasional Bhd(TNB)がエネルギー、グリーン技術、水資源省(Ministry of Energy, Green

Technology and Water)ならびにオラクル社と共同で実証事業を実施している。本実証事業で

は、家庭の消費者に対してオラクル社が開発したデータ分析プログラムを活用して作成さ

れる「Home Energy Report: HER」を世帯に送付するものである。

HER は行動科学を活用し、オラクル社が開発したもので、以下の図に示すとおり、近隣

の世帯構成が類似する世帯とのエネルギー消費比較(①、②)や過去 6 ヶ月間の類似する世

帯の電気料金支払い金額の比較を提示する(③)。

なお、同実証事業は 2015-2016 年より第一フェーズが実施されており、200,000 世帯への

HER 配布が行われている。結果として、13,979 MWh の節電量が達成された。これは、9,900

CO2-ton に上る。マレーシアの世帯あたりの電力消費が 3,012 kWh40と推計ところ、これに

200,000 世帯を乗じた電力消費が 400,240 MWh と推計される。これとの比較では、HER で

達成された節電量割合は、3.5%に上る 41。なお、同実証事業は相対的に所得水準の高い世帯

38 「National priorities for energy efficiency and conservation」、Fourth meeting of Southeast Asia Network of Climate Change Focal Points、Jakarta、5 May 2011 にてのプレゼン資料。 39 http://www.kettha.gov.my/en/content/deraf-pelan-tindakan-kecekapan-tenaga-negara-neeap 40 Institute for Local Self-Reliance. https: ilsr.org 41 なお、同実証事業は相対的に所得水準の高い世帯をターゲットとして実証事業が行われたことから、世

帯あたりの電力消費量はマレーシアの平均水準よりも高く、結果として達成された節電量割合は 3.5%以

下となる可能性を有している。

73

をターゲットとして実証事業が行われたことから、世帯あたりの電力消費量はマレーシア

の平均水準よりも高く、結果として達成された節電量割合は 3.5%以下となる。

2017 年から実施されている同プログラムの第二フェーズでは、450,000 の世帯に対して、

HER の郵送版または E-mail 版を送信する。また第二フェーズの実証事業では、世帯におい

てもっとも電力消費が大きい機器を抽出する分析をも実施しており、これにより、省エネ推

進に向けたより具体的な対応策が提案されることになる。

74

出典:Tenaga Nasional Bhd

図 3-21 Home Energy Report の例(1)

出典:Tenaga Nasional Bhd

図 3-22 Home Energy Report の例(2)

① 前 月 の電 力 消 費の 類 似 世帯との比較

② 前 月 の電 力 消 費の 類 似 世帯との割合比較

③類似世帯の過去 6ヶ月の電力消費量の推移(グラフ)と料金支払い額の比較

75

出典:住環境計画研究所(2016)「エネルギー使用状況等の情報提供による家庭

の省エネルギー行動変容促進効果に関する調査」経済産業省委託事業

図 3-23 地域別 Home Energy Report の省エネルギー効果比較

なお、日本でも Home Energy Report の配布による省エネルギー効果に関する実証事業が

実施されている。これをその他の地域との比較では、実証事業実施期間に相違があるものの、

プログラム開始から 6 ヶ月程度の期間を経て、安定的に 1.5%-2.5%程度の省エネルギー効果

(同プログラムを実施しない世帯との電力消費の比較)が得られることが分かる。

他方、地域・国によって省エネ効果が安定的な 1.5%-2.5%程度の割合に向上するまでの経過

期間に差異があるところは注目に値する。たとえば、アジア地域と日本でのプログラム実施

による省エネルギー効果が 1.5%レベルに達するまでの経過期間が対照的である。香港等を

含むアジア地域では、世帯が効果的な行動を実施するまでに、1 年程度の時間を要するのと

比較して、日本(北陸電力管内)で実施されたプログラムでは、3 ヶ月程度で平均の省エネ

ルギー効果が 1.2%に向上している。すなわち、省エネルギーに対する世帯の意識やそれを

取り巻くエネルギー使用状況や電力料金支払い額、付随して実施される省エネルギーイン

センティブプログラムなどの要因が考慮される必要がある。

3.2.5. インドネシアにおける省エネルギービジネスのポテンシャル分析

インドネシアでは、ディマンド・サイド・マネージメントは実施されていない。ピークと

オフピークにおける異なる時間帯別の電力料金メニューは準備されているものの、実施さ

れていないのが現状である。電力供給計画における重要な目標は 20%の予備率を含む十分

な供給力の確保と低コストでの電力供給であり、経済性の高い需要側での電力節減に関す

るポテンシャルの分析も実施されていない。

76

ここでは、DSM 実施による節電効果ならびに投資節減効果を分析する目的で、インドネ

シアにおける 2030 年のジャワバリ地域における負荷率を積み上げ手法を活用して推計する。

• 分析手法

本分析の手法は以下のとおりである。IEEJ がデータベースを構築している家庭部門にお

いては技術の積み上げを行い分析を実施した。その他の部門の負荷分析いついては、LBNL

(2016)を参照した。

1. 技術別の普及率(世帯当たり保有台数、床面積あたり普及率等)に関して、電化率や

所得水準、都市化率等から推計。

2. 技術の一般的な効率水準に普及率(世帯当たり保有台数等)を乗じ、時間帯別稼働率

(在宅率等)を乗じ時間別の電力消費量を推計。

3. 1-2 の作業を分析対象とする技術について行い、世帯数・床面積等を乗じ、ジャワ・バ

リ地域における時間帯別・用途別・部門別電力負荷を推計。

4. ジャワ・バリ地域における 2030 年までの技術別普及率を推計、効率水準が現在と一定

とした倍の時間帯別・用途別・部門別電力負荷を推計。

5. 4 の技術別普及率を想定として活用、高効率技術が普及した場合のピークカット効果

として電力負荷を推計。

6. 4 と 5 の差分が回避できる発電部門への設備投資として試算。

7. 蓄熱等を利用した場合のピークシフト効果も試算し、発電部門への回避設備投資額を

試算。

分析において得られた前提となるインドネシアの機器普及率にかかわる見通しは図 3-24

のとおりである。

出典:(一財)日本エネルギー経済研究所

図 3-24 家庭部門の世帯あたり技術普及率見通し

77

• 分析結果

上記の前提ならびにインドネシアの電力事業社である PLN の提供データを活用したとこ

ろ、2016 年のジャワバリ地域におけるピーク電力負荷は、25GW と推計される。2030 年で

は、経済成長・所得水準の向上に応じて、技術の普及拡大が進展することにより同地域のピ

ーク設備容量は 2030 年に 60GW に達する見通しである。

他方、2030年のピーク設備容量はDSMプログラムの実施による高効率技術の導入でBAU

から最大で 20GW 減の 40GW とすることができる。20GW の節減は、天然ガス火力発電プ

ラントを 1 基 600 MW と想定した場合、33 基の回避となり、発電設備の投資回避額として

は 4 億ドルに相当する。なお、蓄熱等によりピークシフトとして、2GW の節減効果が期待

できる。

出典:(一財)日本エネルギー経済研究所

図 3-25 インドネシア・ジャワ/バリ地域における DSM による省エネ技術導入の負荷低減効

果試算

3.2.6. インドネシアへの示唆

定量分析結果が示す通り、インドネシアでのディマンド・サイド・マネージメントの効果

は発電設備の投資回避に大きく貢献できるポテンシャルを有している。他方、分析されたポ

テンシャルを実現するにあたっては、カリフォルニアで実施されているような包括的な制

度形成が必要であり、消費者からの資金負担を原資とするリベートや低利融資等の経済イ

ンセンティブを付与し、推進する必要がある。そこでの電力会社の役割は、消費者に対する

インセンティブにかかわる情報提供等、単なるエネルギー供給事業者としての役割のみな

らず、サービスプロバイダーとして役割を転換させることが重要となってくる。

78

カリフォルニアの場合は、第一次石油危機後、省エネルギーを「First Fuel: 第一の燃料」と

して位置づけ、制度形成を行うとともに、電力事業者と政府が議論を重ねながらこうしたデ

ィマンド・サイド・マネージメントにかかわる仕組みを形成してきた背景がる。資源国であ

るインドネシアにおいて、こうした取組みを定着させる事は容易ではないものの、マレーシ

アでの取組みのように、消費者に対する省エネ情報の提供を電力事業社であるテナガナシ

ョナルが実施する Home Energy Report の配布から手始めに実施するといったことも検討に

値するだろう。

インドネシアの場合は、国家電力計画である RUKN 及び電力事業計画である RUPTL では

ディマンド・サイド・マネージメントに係る記載がなされていない。これらの計画において、

立案段階から分析手法の共有をするなど、需要側での効率改善の経済性を電力事業社なら

びに政府が認識するような支援を継続する事が重要である。

[参考文献]

• California Public Utilities Commission (2008) “California Long-term Energy Efficiency

Strategic Plan”

• California Public Utilities Commission (2011) “Energy Efficiency Strategic Plan”.

• California Public Utilities Commission (2012) “2010-2011 Energy Efficiency Evaluation

Report”.

• Institute for Local Self-Reliance. https: ilsr.org

• LBNL(2016)“Paying Attention to the Peak: Indonesia”

• KETTHA(2011) “National priorities for energy efficiency and conservation”, Fourth meeting of

Southeast Asia Network of Climate Change Focal Points、Jakarta、5 May 2011

• 木船 久雄 (1993)「日本における DSM の経済性評価」,『名古屋学院大学論集 社会

科学篇』30(1), pp. 81-99

• 住環境計画研究所(2016)「エネルギー使用状況等の情報提供による家庭の省エネル

ギー行動変容促進効果に関する調査」経済産業省委託事業

• 山谷修作(1993)「米国電力事業におけるディマンド・サイド・マネジメント」. 経済

論集. 18-2. P107-126.

79

3.3. 省エネルギー機器リースに関する分析

3.3.1. 省エネ機器リースとは

• 省エネルギー設備導入とリースメリット

省エネルギー設備導入促進の観点からリースのメリットには、「コスト把握容易」、「初期

費用不要」、および「陳腐化対応」の 3 点を掲げることができる 42。

コスト把握容易

リース料は、均等かつ定額に支払われるため、リース物件の使用コストの把握が容

易である。省エネルギー設備の効果を検証する場合、設備リース料(設備投資コスト)

とエネルギー使用料金から算定された削減量を対比することにより、容易に省エネ

ルギー設備導入の費用対効果を把握することが可能となる。

初期費用不要

リースで設備を導入する場合は、多額の初期費用が不要となる。複数の省エネルギ

ー関連設備を短期間に更新する場合、あるいは、高額な省エネルギー設備を導入を検

討する場合に、リースを活用することによって、ユーザーは省エネルギー設備投資の

初期投資費用に係る多額の現金支出が不要となる。

陳腐化対策

リースで設備を導入した場合には、設備の耐用年数より短い期間で費用化するこ

とができる。これにより、省エネルギー設備が旧式となることによってエネルギー効

率の陳腐化する設備を早期に費用化することができる。さらには、リース期間を計画

的に設定することにより、設備更新を計画的に実施することができる。

• リースの種類

リースは、基本的に、中途解約不能 43でフルペイアウト 44のリースの「ファイナンス・リ

ース」およびファイナンス・リース以外のリースの「オペレーティング・リース」に分類さ

れる。リース会社がリース物件の保守、管理、修繕などを行うリースを「メインテナンス・

リース」と呼ばれ、煩雑な管理を伴う自動車のリースに多くみられる。会計基準上は、この

メインテナンス・リースも、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースのいずれか

に分類される。

42 リース事業協会が 2005 年に実施した「リース動向調査」によれば、ユーザーから見たリースのメリッ

トは、事務省力化(72.4%)、コスト把握容易(61.8%)、初期費用不要(61.5%)、陳腐化対応(53.7%)、

環境関連法規対応(40.9%)などとなっている。リース総合研究所, 「リースを活用した省エネルギー設

備の普及促進」, リース研究第 5 号(2010) 43 解約不能:リース期間の中途で契約を解除できない。 44 フルペイアウト:ユーザー(賃借人)は、リース期間中に、リース会社(賃貸人)がリース契約に要し

た資金(設備等の取得価額、資金コスト、固定資産税、保険料など)のほぼ全額をリース料として支払

う。リース会計基準では、リース料とリース期間の基準が具体的に定められ、解約不能で、次の 1、2 の

いずれかに該当するリースをファイナンス・リースとしている。 1.リース料総額の現在価値がリース物件購入金額の 90%以上。 2.解約不能リース期間がリース物件の経済的耐用年数の 75%以上。

80

3.3.2. 日本・インド等の事例

• 日本の事例

エネルギー環境適合製品の開発・製造事業者に対する資金調達の円滑化や、同製品の需要

開拓のための支援措置を講じることを目的とした、エネルギー環境適合製品の開発及び製

造を行う事業の促進に関する法律(以下「低炭素投資促進法」)が 2010 年に成立し、この法

律に基づき経済産業省は低炭素設備リース信用保険を創設した。また、環境省は、さらなら

低炭素機器の普及を目的として、2011 年からエコリース促進事業を開始した。この低炭素

設備リース信用保険およびエコリース促進事業は併用することが可能となっている。

(1) 低炭素設備リース信用保険

事業概要:(一社)低炭素投資促進機構は、低炭素投資促進法第 18 条にいう需要開拓支

援法人に指定され、補助金により造成された基金を活用し、同法第 20 条にいうリース

保険契約の引受け及びエネルギー環境適合製品に関する情報の提供を行っている。基

金の構成はリース保険契約の引受業務を行うために必要となる「危機時準備金+事務

費」であり、危機時準備金は、リース保険契約に基づく将来の債務を確実に履行し、制

度破綻を回避するため、経済危機等による巨額の保険金支払いが発生した場合(保険収

支を賄うために、需要開拓支援法人が受領する既経過保険料を上回る発生保険金が生

じた場合等)に備え計上した金額であり、事務費は、制度立ち上げや制度運営にかかる

業務管理費となっている。

目的:低炭素投資促進法第 2 条第 6 項に規定するリース保険契約の引受業務等に必要

な基金を造成し、これを活用して経費を補助することにより、当該業務の円滑かつ着実

な実行を図ることで、中小企業等におけるエネルギー環境適合製品の導入を促進する

ことを目的とする。

出典:低炭素投資促進機構(2017)および基金シートなどから作成

図 3-26 低炭素設備リース信用保険(制度の仕組み)

リース会社

低炭素投資促進機構省エネ設備導入促進基金

リース先

低炭素設備の指定

保険契約

低炭素リース契約リース料支払

国(経済産業省)エネルギー対策特別会計エネルギー需給勘定から(2010年度:80億円)

補助金

保険料支払事故報告

低炭素投資促進法エネ環境適合製品

81

(2) エコリース促進事業

背景・目的:低炭素機器の普及を進めるにあたり、多額の初期投資(頭金)が必要となる

点を解決する必要がある。頭金を要しないリースという金融手法を活用し、低炭素機器

の導入を加速し、生産増に伴う製品価格の低下、内需の拡大を通じて経済成長を促進す

る。

期待される効果:2020 年までに、中小企業へのリースによる低炭素機器導入率が 10%

になることを目指す。加えて、2020 年までに、低炭素機器を取り扱うリース事業者の

割合が全リース事業者の 30%である 90 社となることを目指す。

出典:ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会(2017)および行政事業レビューシートなどから作成

図 3-27 エコリース促進事業(制度の仕組み)

• 海外の事例

(1) インドの省エネファイナンス支援制度

インドでは 2001 年に省エネルギー法が施行され、2009 年のエネルギー効率の向上

に関する国家ミッション(NMEEE)が策定された。NMEEE では、省エネ分野におけ

る革新的なビジネスモデルの導入を通じて省エネ市場を強化することを目的として、

インド省エネルギー達成認証制度(Perform Achieve and Trade: PAT)、エネルギー効率向上

のための市場変化(Market Transformation for Energy Efficiency: MTEE)、エネルギー効率

のファイナンスプラットホーム(Energy Efficiency Financing Platform: EEFP)、エネルギー

効率のよい経済発展のためのフレームワーク(FEEED: Framework for Energy Efficient

Economic Development: FEEED)の 4 つのイニシアチブが実施されている。

EEFP イニシアチブは、政府のプログラムなどを通じて、資金と人材の面から ESCO

市場の育成の促進を目的としており、このイニシアチブの下に、省エネプロジェクトの

融資リスクを減らすために、省エネに対する部分リスク保証基金(Partial Risk Guarantee

Fund for Energy Efficiency: PRGFEE)が創設されている。

指定リース事業者

ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会

リース先

適合チェックシート

補助金

低炭素機器リース契約リース料の低減(2~5%, 10%)リース料支払

国(環境省)エネルギー対策特別会計エネルギー需給勘定から(2018年度予算:19億円)

補助金

報告

エコリース実施要領(低炭素機器)

82

出典:BEE(2016)45

図 3-28 PRGFEE のスキーム

(2) 中南米ファンド

中南米諸国における省エネルギーおよび再生可能エネルギーへの投資機会の促進を

目的として、2014 年に米国の MGM Innova Capital 社(以下、「MGM」)が主導し、MGM

Sustainable Energy Fund(MSEF)が設立された。日本からは JICA が 10 百万米ドルを出資

しており、これは MGM に次ぐ規模である。その他、コロンビア、ドイツ、スペイン等

からなる合計 6,300 万米ドルのファンドである。

MGM ではエンジニアを抱えており、省エネルギー事業については MGM 自身が機

器のコストや性能を精査し選定を行う 46。したがって、本ファンドの活用を指向する場

合には、MGM のエンジニア部隊に対する本技術の理解促進が不可欠となる。一方、事

業主となる導入サイドからすると、リース形式であるため初期投資の障壁がクリアさ

れるというメリットがある。

表 3-3 中南米ファンド(MSEF)の概要

省エネルギー事業 ファンドが対象国に法人(Specific Purpose Company: SPC)を設

立、商業施設・ホテル・工場等を顧客として、省エネルギーソリュー

ションを提案しつつ、省エネルギー設備や発電設備をリースする。エ

ネルギーコスト削減分の一定割合を顧客からリース代として受け取

る。

再生可能エネルギー

事業

太陽光発電、地熱発電等の小規模(5~15MW)再生可能エネルギ

ー事業。発電会社(SPC)を設立、発電設備の建設を行い、電力公社

45 BEE(2016), Operations Manual for Partial Risk Guarantee Fund for Energy Efficiency(PRGFEE) 46 MGM Innova Capital 社 CEO マルコ・モンロイ氏へのヒアリングによる。〔経済産業省(2015)〕

83

等を顧客として売電による収益を得る

対象国 ・ 重点国:コロンビア、メキシコ、コスタリカ、ドミニカ共和国、

パナマ

・ その他:ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグ

ア、ベリーズ、キューバ、ジャマイカ、ドミニカ国、グレナダ、

セントルシア、バルバドス、セントビンセントおよびグレナディ

ーン諸島、アンティグア・バーブーダ、セントクリストファー・

ネイビス、ハイチ、トリニーダード・ドバゴ、ベネズエラ、ガイ

アナ、スリナム 出典:経済産業省(2015)より作成

出典:経済産業省(2015), JICA(2016)などより作成

図 3-29 中南米ファンドのスキーム

(3) タイの ESCO リボルビングファンド

タイ政府は、1992 年から開始された省エネ促進のためのファンド(ENCON ファンド)

の利用が、煩雑で官僚的な手続などが原因により進まなかったことから、これを見直して同

ファンドの下に 3 つのパイロットプロジェクト(省エネリボルビングファンド、ESCO フ

ァンド、直接補助)を設置した 47。

そのうちの 1 つである省エネリボルビングファンド(以下、リボルビングファンド)は、

タイ代替エネルギー開発効率局( Department of Alternative Energy Development and

Efficiency:DEDE)が管轄する、省エネ事業を対象とした低利のソフトローンである。その仕

組みの設計には、現地の商業銀行およびタイ産業金融公社が参画した。省エネ・再生可能エ

ネルギー事業に対する金融機関の理解の強化、同事業への低利融資、同事業への商業融資の

47 Case Study: The Energy Efficiency Revolving Fund(Frankfurt School-UNEP Collaborating Centre for Climate & Sustainable Energy Finance 、2012 年)

SPC

MSFE

リース先

サプライヤー

省エネルギー機器または事業エネルギー費用の80~90%のリース料支払

MGM Innova Capital

主導(ファンドマネージャー)

JICAなど

出資

費用支払投資

製品納入・設置

84

促進を目的とし、原資の 95%は、潤沢な石油税を元手に作られた ENCON ファンドから

DEDE を通してリボルビングファンドへ入金され、事業者から返済された資金は新たなロー

ンに振り向けられた。以下に、同ファンドの構造を示す。

出典;DEDE より作成

図 3-30 ENCON ファンドの概要

出典:E for E, DEDE より作成

図 3-31 ESCO リボルビィングファンドと省エネ機器リースの概要

ENCON Fund Established by Energy Conservation

Promotion Act B.E.2535 To provide funding for energy

conservation promotion to help realize Energy Efficiency Plan (EEP2015)

Funded by levy from petroleum products at 0.25 Baht (1 Cent) per liter

Earning of around 25M USD per month, with current balance (as of October 2017) of 1,250M USD

ULG: Un-Leaded Gasoline

Equipment Leasing

ESCO Revolving Fund will provide long –term leasing service for entrepreneurs in purchasing equipment for energy efficiency or renewable energy, and allow the entrepreneurs to make constant repayment with low interest.Leasing Criteria A maximum of 100% of equipment cost

but limited to 20 million baht per project.

Repayment duration : no longer than 5 years.

Interest rate : 3.5% per annum (Flat Rate).

E for E does not charge the project evaluation cost.

Grace period: no longer than 6 months.

Fund Manager Energy Conservation Foundation of Thailand

(EFCT) Energy for Environment Foundation (E for E)

Co-Investing & Investment Promotion Scheme

ESCO Venture Capital Equity Investment Equipment Leasing Green House Gas Technical Assistant Credit Guarantee Facility

85

3.3.3. インドネシアでの省エネ機器リース導入に関する制度的課題と将来導入ポテンシ

ャル、経済性評価

• 省エネ機器リース導入に関する制度的課題

JICA(2015)によれば、インドネシアでは、省エネ機器のリースは普及していない。過去

には重機のリースなどが行われていたが、1997 年のアジア金融危機を契機に、リース会

社は消費市場へとシフトしてしまった。現在、発電機器を含む重機リースは徐々に同国マ

ーケットに戻りつつあるが、その活用は未だ限定的である。省エネ促進の課題及び障壁と

して、以下の 3 点を指摘している。

長期借入の制約

企業によれば、省エネ投資のための借入への障害としては、金融機関の融資が長期

で供与されないこと、金利が高いこと及び銀行から求められる担保要件が多いこと

が挙げられる。

銀行側にとってのインセンティブの欠如

政府からのインセンティブ付与がなければ、銀行にとっては負担が増加するだけ

で通常の貸付業務に加えて省エネ向けのファイナンスを推進する活動にはつながら

ない。

リース会社に対するインセンティブの欠如

JICA(2015)の 調査団は、現地のリース会社またはリース業協会と省エネ機器のリ

ース事業に関して非公式ではあるがインタビューを実施している。その結果は、省エ

ネ機器リースに対する政府からのインセンティブ付与は、特に無いことが判明した。

利子補給等のインセンティブに対しては、補助率が高ければリース会社にとって有

意義のあるインセンティブとなるかもしれないが、債務不履行となった場合の省エ

ネ機器の回収方法の検討や中古市場へのアクセス等、消費者向けリース事業しか行

ってこなかったリース会社が容易に省エネ機器リースに事業を拡大することは困難

であり、まずは環境整備が必要との回答であった。

• 省エネ機器リース導入に関する将来導入ポテンシャル、経済性評価

(1) 省エネ機器リース導入に関する将来導入ポテンシャル

インドネシアにおける家庭部門および業務部門に対して高効率エアコンの最大限導

入を目標として、省エネ機器リース導入のビジネススキームを検討した。このビジネス

スキームの特徴は、以下のとおり:

リース料金の一部を補助および省エネ基金(EE Fund)の設立

EE Fund の原資は、エネルギー費(試算では、電力料金)への賦課金

省エネ機器リース導入のビジネススキーム全般を評価する機関の設置

確実な、高効率エアコンを導入するためのポジティブリストや ESCO など専門家

からのアドバイス

86

図 3-32 省エネ機器リース導入のビジネススキームの概要

IEEJ(2016)において、インドネシアの 2030 年における家庭部門への高効率エアコン導

入の省エネポテンシャルは 1,329ktoe、業務部門への高効率エアコン導入の省エネポテン

シャルは 387ktoe と試算されている。2015 年におけるインドネシアの電力販売量は、家

庭部門 88,682GWh、業務部門 36,773GWh、産業部門 64,079GWh で総計 202,846GWh で

あった 48。電力単価の平均を 1,200 ルピア/kWh、賦課金として 1%徴収すると仮定すれ

ば、約 2 兆 4 千億ルピアの原資を確保することが可能である。以下の試算の前提条件に

基づいた試算結果は、この省エネ機器リースによる 2030 年の高効率エアコン導入によ

る省エネ量は、家庭部門で 646ktoe、業務部門で 367ktoe となった。この値は、IEEJ(2016)

の省エネポテンシャル試算結果に対して、家庭部門で約 50%および業務部門で約 95%導

入することが可能なことが判明した。

<試算の前提条件 49>

2015 年の電力販売量:家庭部門 88,682GWh、業務部門 36,773GWh、産業部門

64,079GWh、総計 202,846GWh

電力単価(平均):1,200 ルピア/kWh

賦課金:1%(1,200 ルピア/kWh×1%=12 ルピア/kWh)

リース費用:機器価格の 15%

補助金:リース費用の 2/3(機器価格の 10%)

補助金の分配率:家庭部門へ 70%、業務部門へ 30%

試算の期間:2018 年~2030 年

家庭部門:インバータエアコン(INV AC)

機器価格:5 百万ルピア/台(容量 0.7kW)、省エネ率:30%、運転時間:7 時間/日

×300 日/年×稼働率 50%、使用年数:10 年

48 MEMR(2016), Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2016 49 機器容量、省エネ率等は、JICA(2015)を参照した。

Leasing Company

Operating Agent

End Users

ESCO

Subsidy

High Efficient Equipment + Avoided Leasing PaymentLeasing Fee

Technical Advise

EE FundFund Source: Levies on Electricity and/or Oil Prices Subsidy

Creation of EligibleEquipment List with Ministerial Approval

87

業務部門:ビルマルチエアコン(VRV)

機器価格:8 千万ルピア/台(容量:12kW)、省エネ率:25%、運転時間:10 時間

/日×300 日/年×稼働率 40%、使用年数:15 年

<試算結果>

基金収入:202,846GWh×1,200 ルピア/kWh×1%=2,434,152 百万ルピア

家庭部門(INV AC):

補助金額:1,703,076 百万ルピア/年

導入台数:約 3.4 百万台/年

2030 年における省エネ量:646 ktoe

業務部門(VRV):

補助金額:730,246 百万ルピア/年

導入台数:約 91,000 台/年

2030 年における省エネ量:367 ktoe

出典:IEEJ(2016)より作成

図 3-33 家庭部門および業務部門の省エネ型エアコン導入ポテンシャル(2030)

(2) 省エネ機器リース導入に関する経済性評価

算定期間 2018~2030 年の年平均の費用便益は、以下のようになった。

インバータエアコン(家庭部門)導入の費用便益

導入台数:3,407,812 台/年

便益(Benefit):省エネ金額+補助金=5,895,777 百万ルピア+1,114,093 百万ルピア=

7,009,870 百万ルピア

費用(Cost):高効率機器導入の差額+リース費用=3,473,347 百万ルピア

Household Sector (2030) Commercial Sector (2030)

88

純便益(Net Benefit):7,009,870 百万ルピア-3,473,347 百万ルピア=3,536,523 百万ル

ピア

ビルマルチエアコン(業務部門)導入の費用便益

導入台数:91,280 台/年

便益(Benefit):省エネ金額+補助金=2,760,307 百万ルピア+340,781 百万ルピア=

3,101,088 百万ルピア

費用(Cost):高効率機器導入の差額+リース費用=2,215,061 百万ルピア

純便益(Net Benefit):3,101,088 百万ルピア-2,215,061 百万ルピア=886,027 百万ルピ

図 3-34 インバータエアコン(家庭部門)導入の費用便益

5,895,777

1,114,092

(2,686,929)

(1,671,139)

2,651,802

(6,000,000)

(4,000,000)

(2,000,000)

0

2,000,000

4,000,000

6,000,000

8,000,000

Cost-Benefit Net Benefit

INV AC

Energy Savings Avoided Leasing Fee Price Difference Leasing Fee Net Benefit

89

図 3-35 ビルマルチエアコン(業務部門)導入の費用便益

3.3.4. インドネシアでの省エネ機器リースの事業化に向けた示唆

インドネシアでは、省エネ機器への投資は投資回収期間が 1~2 年未満のものに限られる。

省エネ機器の導入は、初期投資が高く、返済期間が長くなるため、普及のハードルとなって

いる。

こうした省エネ機器導入に関する課題を解決する手段として、リース料の一部を補助す

る仕組みを形成、新たな省エネ基金(EE Fund)を設立することは、省エネ機器の普及を促

進する可能性がある。この基金の資産管理は、運用機関によって実施されることが望ましい。

また対象となる技術は、高効率エアコンなどの高効率設備として、省エネ基金からの補助金

によって、リース料の割引を受けることができる。リース会社から ESCO 等の省エネ専門

家からのアドバイスを受けることが期待できる。

[参考文献]

• DEDE(2017), Unlocking Energy Efficiency Potential: Thailand’s Policies Perspective, SIEW

2017

• ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会(2017), エコリース促進事業補助金制度のご

案内

• E for E, ESCO Revolving Fund のウェブサイト(アクセス日:2017.12.7)

http://www.efe.or.th/escofund.php?task=8

• IEEJ(2016), 平成 28 年度国際エネルギー使用合理化等対策事業(インドネシアにおける

省エネルギー・再生可能エネルギー政策分析調査)報告書, 経済産業省

• JICA(2015), インドネシア国グリーン経済政策能力強化プロジェクトグリーン都市開

発にかかる調査ファイナルリポート

2,760,307

340,779

(1,703,893)

(511,168)

886,025

(3,000,000)

(2,000,000)

(1,000,000)

0

1,000,000

2,000,000

3,000,000

4,000,000

Cost-Benefit Net Benefit

VRV

Energy Savings Avoided Leasing Fee Price Difference Leasing Fee Net Benefit

90

• JICA(2016), 北米・中南米地域中南米省エネ・再生可能エネルギー事業に係る案件実施

支援調査(SAPI)ファイナルレポート

• 低炭素投資促進機構(2017), 低炭素設備リース信用保険制度概要

• 経済産業省(2015), 平成 26 年度エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事

業(再生可能エネルギー及び省エネルギー等技術・システムの事業可能性調査)」報告

書(メキシコ・ブラジルにおける食品飲料工場の総合的エネルギー効率化システム導入

に係る事業可能性調査)

91

3.4. コールドチェーンへの省エネルギー・再生可能エネルギー導入促進

本項では、インドネシアの省エネビジネス導入の対象として、コールドチェーン 50への省

エネルギー・再生可能エネルギー導入促進を扱い、関連する分析を行う。

3.4.1. コールドチェーンへの省エネルギー・再生可能エネルギー導入の重要性

インドネシアでは、コールドチェーンにおいて冷凍冷蔵システムを活用し、温度管理が必

要な製品需要が年々高まっている。図 3-36 は ASEAN 諸国の乳製品、アイスクリーム、冷

凍加工食品、冷蔵加工食品の消費額を示している。図 3-36 が示すようにインドネシアのコ

ールドチェーンにおいて輸送される製品の消費額は、2010 年には 1,529 百万 US$であった

が、2015 年には 2,983 百万 US$へと拡大、5 年間でコールドチェーンの市場規模は約 1.5 倍

の水準に達している。

出典:Euromonitor およびみずほフィナンシャルグループ (2017) より日本エネルギー経済研究所作成

図 3-36 ASEAN 諸国のコールドチェーン市場規模

このような、コールドチェーン市場の拡大は、経済発展や所得向上に伴い、今後も引き続

き拡大すると見込まれる。実際に、日本からもインドネシアのコールドチェーンへ投資する

50 コールドチェーンとは、温度管理が必要な製品を生産者から消費者まで届けるサプライチェーンのこと

を指す。詳細は「コールドチェーンの概要および分析対象」を参照。

3,899 4,947

1,154

2,6802,349

3,2881,529

2,983

8,931

13,898

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

2010 2015

その他ASEAN ベトナム タイ インドネシア

単位:百万US$

92

企業も現れている 51。

コールドチェーンへの設備投資が急速に進んでいる一方で、制度形成が進展していない

ことによる課題も存在する。例えば、インドネシアでは、業務用の冷凍・冷蔵機器のエネル

ギー効率規制が存在しないため、現時点では、どのようなエネルギー効率の冷凍・冷蔵機器

を導入するかの判断は事業者に委ねられている。加えて、インドネシアでは、業務用の冷凍

冷蔵機器を含む多くの機器は一般的な耐用年数を越え、修理することにより、同じ機器を 15

年から 20 年以上使用している 52。現在、インドネシアのコールドチェーン市場は未成熟で

あるが、効率基準を早急に決定しなければ、エネルギー効率の低い機器が長期的に残存する

可能性がある。エネルギー効率の低い機器が太宗を占めた場合、事業費に占めるエネルギー

コストの比率が上昇し、事業の採算性に影響する。

そのため、今後、インドネシアのコールドチェーン市場が、順調に成長するために、同業

界の省エネルギーを促進することは重要であると考えられる。

コールドチェーンの省エネルギーおよび再生可能エネルギーの導入促進が求められてい

るのは、所得水準が高く、コールドチェーン製品需要が大きい都市部や、加工・輸送拠点が

立地する郊外の工業団地に限定されるものではない。

現在、インドネシアの世帯当たりの電化率(2015 年)53は 88.3%に留まっている。全世帯

の約 12%は依然として、電力へのアクセスが不可能な状況にある。このような、無電化地域

(オフグリッド地域)の多くは離島ないしは山間部であると考えられる。一般的に、オフグ

リッド地域の主要産業は、農業や漁業といった第一次産業が中心であるが、電力へアクセス

できないため、農産物や魚などの収穫物を冷凍・冷蔵保存できず、収穫物の多く(約 40%)

54を廃棄している。

今後、インドネシアの冷凍・冷蔵食品の需要増加が見込まれる中で、冷凍食品の原料とな

り得るオフグリッド地域の収穫物を廃棄せずに保存することは、インドネシア全体のコー

ルドチェーン市場の成長を支えるために重要である。

さらに、オフグリッド地域へコールドチェーンを整備し、収穫物の廃棄を減少させること

は、冷凍食品の原料確保という便益以外にも、都市と地方の経済格差縮小の一助として地域

経済の振興に向けた期待がもたれる。オフグリッド地域では冷凍・冷蔵機器が使用できない

ため、収穫物の余剰分は全て廃棄されることになるが、コールドチェーンを整備し、余剰分

を保存することにより、収穫物の市場価格が高い時期に販売することが可能となり、第一次

産業従事者の所得向上に寄与することになる。その上、コールドチェーンの整備に伴い、機

器の運営管理に携わる人員が必要となるため、地域の雇用の創出にも貢献するであろう。 51 三菱倉庫 プレスリリース http://www.mitsubishi-logistics.co.jp/news/2017/171013.html 52 インドネシア政府および現地企業へのヒアリングより。 53 Directorate General of Electricity, Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) 54 FAO “SAVE FOOD: Global Initiative on Food Loss and Waste Reduction”によれば、途上国では収穫から製品

加工等の処理工程までの間に約 40%の食物が廃棄されているとしている。

93

このように、オフグリッド地域へコールドチェーンを整備することによって、多くの便益

が得られると考えられる。

したがって、本項ではコールドチェーンの分析を行うにあたって、インドネシア全体とオ

フグリッド地域を対象とする。まず、インドネシア全体のコールドチェーンにおける将来の

市場規模および省エネルギーポテンシャルを推計し、コールドチェーン市場の醸成段階よ

り、高効率機器を導入することの重要性を明らかにする。その上で、オフグリッド地域へコ

ールドチェーンの普及を促進するための示唆を得るために、海外事例から得られた知見を

基に、インドネシアにおいて適用可能なビジネスモデルについて検討する。

3.4.2. インドネシアにおけるコールドチェーンの市場規模および省エネポテンシャルの

評価

ここでは、コールドチェーンの概要を整理し、分析対象を特定した上で、コールドチェー

ンの将来における市場規模および省エネポテンシャルを分析する。

• コールドチェーンの概要および分析対象

コールドチェーンとは、温度管理が必要な生鮮・冷凍食品や医薬品などの製品を生産者か

ら消費者まで届けるサプライチェーンのことを指す。このサプライチェーンは、図 3-37 が

示すように、①生産者、②輸送、③保存、④輸送、⑤消費者の 5 段階に区分される。

出典:Zubin Poonawalla (2012) より日本エネルギー経済研究所作成

図 3-37 コールドチェーンのイメージ

IEA や日本のエネルギー関連統計の部門分類からコールドチェーンを見ると、多くの部門

に跨っていることがわかる。例えば、生産者のエネルギー消費は産業部門に計上され、輸送

は運輸部門へ、保冷は業務部門に含まれ、消費者に至っては業務部門と産業部門に計上され

る。そのため、コールドチェーン全体のエネルギー消費量を把握することは困難である。加

えて、それぞれの部門内においても、コールドチェーン由来のエネルギー消費量のみを特定

することは難しい。したがって、本項の分析では、国内外に関連業界団体が存在し、比較的

データの入手が容易であると考えられる③保冷:冷凍冷蔵倉庫に焦点を当て、省エネルギー

ポテンシャルを推計する。

生産者• 生産者(農業)• 製造者(工業)

輸送• 保冷車• 保冷コンテナ

保冷• 冷凍冷蔵倉庫

輸送• 保冷車• 保冷コンテナ

消費者• 一般消費者• 小売・工場

94

• 冷凍冷蔵倉庫業の規模および普及状況

本項では、省エネルギーポテンシャルの分析対象とする冷凍冷蔵倉庫業の規模および普

及状況を提示する。図 3-39 では 2014 年における主要国の冷凍冷蔵倉庫容量(百万 m3)と千

人あたりの冷凍冷蔵倉庫容量(m3/千人)を示している。図 3-38 が示すように、2014 年時点

におけるインドネシアの冷凍冷蔵倉庫の容量は 12 百万 m3 であり、米国(1155 百万 m3)や日

本(33 百万 m3)のみならず、新興国であるインド(131 百万 m3)や中国(76 百万 m3)と比較して

も、インドネシアの冷凍冷蔵倉庫業の規模が小さいことがわかる。また、冷凍冷蔵倉庫の普

及状況を確認するために、人口千人当たりの冷凍冷蔵倉庫容量に着目すると、インドネシア

は 48m3/千人であり、米国(357m3/千人)や日本(257m3/千人)、インド(104 m3/千人)、中国(55m3/

千人)と比較して小さい。インドネシアの冷凍冷蔵倉庫業は、主要国と比較して規模的には

発展段階にあり、普及状況から潜在的な成長ポテンシャルを有していることがわかる。

出典:Global Cold Chain Alliance, U.S. Department of Commerce (2016) および AGRO Merchants Group HP

より日本エネルギー経済研究所作成

図 3-38 主要国の冷凍冷蔵倉庫の容量

• 冷凍冷蔵倉庫業のエネルギー消費実態および分析対象機器の特定

インドネシアの冷凍冷蔵倉庫業の省エネルギーポテンシャルを試算する際に用いる省エ

5 5 12 16 33

76

115 131

39

212

48 77

257

55

357

104

0

50

100

150

200

250

300

350

400

冷凍冷蔵倉庫容量 人口千人あたりの冷凍冷蔵倉庫容量

単位:百万m3, m3/千人

95

ネルギー機器を特定するために、冷凍冷蔵倉庫業のエネルギー消費実態を以下に提示する。

図 3-40 は冷凍冷蔵倉庫業における用途別エネルギー消費割合である。図 3-39 より、冷凍

冷蔵倉庫業のエネルギー消費の多くは冷凍冷蔵機器によるものであり、その割合は 76.4%に

達する。冷凍冷蔵に次いで照明(7.4%)その他(5.8%)、空調・換気(5.2%)、動力(5.2%)と続く。

冷凍冷蔵機器によるエネルギー消費の割合が最も大きいことから、本項の冷凍冷蔵倉庫業

の省エネルギーポテンシャル分析では、冷凍冷蔵機器を対象とする。

出典:東京都環境局 (2016)より日本エネルギー経済研究所作成

図 3-39 冷凍冷蔵倉庫業における用途別エネルギー消費割合

• コールドチェーンの省エネルギーポテンシャルの分析手法

2030 年の省エネルギーポテンシャルを試算するための分析にあたって、コールドチェー

ンの省エネルギーポテンシャルは冷凍冷蔵倉庫の容量と正の相関を有し、同容量はコール

ドチェーンの市場規模(売上高)に比例すると想定する。具体的には、以下のような前提に

基づき分析を行う。

(1) コールドチェーンの市場規模の試算

2030 年までのコールドチェーンの市場規模を試算するために、図 3-36 の ASEAN 諸国に

おけるコールドチェーンの市場規模 55と GDP を用いて、回帰係数を国別に推計する。その

後、推計により得られた回帰係数と、日本エネルギー経済研究所 (2017) 『IEEJ アウトルッ

ク 2018』で想定する GDP を乗じ、国別の 2030 年までのコールドチェーンの市場規模を試

55 なお、2020 年までのコールドチェーンの市場規模はみずほフィナンシャルグループ (2017)の記載値を

線形補完した。

空調・換気, 5.2%

照明, 7.4%

冷凍冷蔵, 76.4%

動力, 5.2%

その他, 5.8%

96

算する。

𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑡𝑡 = 𝛼𝛼 + 𝛽𝛽 𝐺𝐺𝐺𝐺𝐺𝐺𝑡𝑡 (式 1) Salest = t 年次のコールドチェーンの市場規模, , α= 定数項, β = 回帰係数, GDPt = t 年次の GDP

(2) 冷凍冷蔵倉庫の容量の試算

2030 年までの冷凍冷蔵倉庫の容量は、(式 1)により得られた各年のコールドチェーンの市

場規模に、単位あたりの市場規模を維持するために必要な冷凍冷蔵倉庫容量(市場規模あた

りの冷凍冷蔵倉庫容量)を乗じて求める。なお、冷凍冷蔵倉庫の容量は図 3-39 の値を用いる

56。

𝐶𝐶𝑆𝑆𝑡𝑡 = 𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑡𝑡 ∙ 𝐶𝐶𝑆𝑆 𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝐼𝑆𝑆𝐼𝐼 (式 2) CSt = t 年次の冷凍冷蔵倉庫容量, Salest = t 年次のコールドチェーンの市場規模, CS Index= コールドチェーンの市場

規模あたりの冷凍冷蔵倉庫容量

(3) 冷凍冷蔵倉庫業のエネルギー消費量の試算(BAU ケース)

2030 年までの冷凍冷蔵倉庫業のエネルギー消費量(BAU ケース)は、一般的な効率水準お

冷凍冷蔵機器が導入される場合のエネルギー消費量であり、(式 2)により得られた各年の冷

凍冷蔵倉庫の容量に、BAU ケースにおけるエネルギー消費原単位(冷凍冷蔵倉庫容量あた

りのエネルギー消費量)を乗じて求める。なお、本分析のエネルギー消費量は全て冷凍冷蔵

用途のみに限定しており、照明や動力等によるエネルギー消費量は含まれない。

ただし、インドネシアの冷凍冷蔵倉庫業におけるエネルギー消費量のデータは存在しな

いため、BAU ケースにおけるエネルギー消費原単位は日本と同等であると想定した。なお、

日本の冷凍冷蔵倉庫業におけるエネルギー消費原単位は、日本経済団体連合会 (2017)57およ

び日本冷蔵倉庫協会 (2015)より試算した。

𝐸𝐸𝐼𝐼𝑆𝑆𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸 𝐶𝐶𝐶𝐶𝐼𝐼𝑆𝑆𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐼𝐼 (𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵)𝑡𝑡 = 𝐶𝐶𝑆𝑆𝑡𝑡 ∙ 𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵 (式 3) Energy Consumption (BAU)t = t 年次の冷凍冷蔵倉庫業におけるエネルギー消費量(BAU ケース), CSt = t 年次の冷凍

冷蔵倉庫容量, EffBAU = BAU ケースにおけるエネルギー消費原単位

(4) 冷凍冷蔵倉庫業のエネルギー消費量の試算(ALT ケース)

2030 年までの冷凍冷蔵倉庫業のエネルギー消費量(ALT ケース)は、高効率な冷凍冷蔵機

器が導入される場合のエネルギー消費量であり、(式 2)により得られた各年の冷凍冷蔵倉庫

56 ただし、単位あたりの市場規模を維持するために必要な冷凍冷蔵倉庫容量は、冷凍冷蔵倉庫容量のデー

タ制約により、2014 年時点より変化がないと仮定している。 57 冷凍冷蔵庫業のエネルギー消費は全て電力によるものだと仮定し、CO2 排出量を電力排出係数で割戻

し、エネルギー消費量を試算した。

97

の容量に、ALT ケースにおけるエネルギー消費原単位(冷凍冷蔵倉庫容量あたりのエネル

ギー消費量)を乗じて求める。ただし、高効率な冷凍冷蔵機器が導入されるのは、BAU ケ

ースとは異なり、2018 年からと想定し、2017 年以前に導入された冷凍冷蔵倉庫容量には、

BAU ケースのエネルギー消費原単位を乗じる。したがって、ALT ケースにおけるエネルギ

ー消費量の試算開始年は 2018 年からとする。

𝐸𝐸𝐼𝐼𝑆𝑆𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸 𝐶𝐶𝐶𝐶𝐼𝐼𝑆𝑆𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐼𝐼 (𝐵𝐵𝐴𝐴𝐴𝐴)𝑡𝑡 = 𝐶𝐶𝑆𝑆2017 ∙ 𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵 + (𝐶𝐶𝑆𝑆𝑡𝑡 − 𝐶𝐶𝑆𝑆2017) ∙𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐵𝐵𝐴𝐴𝐴𝐴 (式 4)

Energy Consumption (ALT)t = t 年次の冷凍冷蔵倉庫業におけるエネルギー消費量(ALT ケース), CSt = t 年次の冷凍

冷蔵倉庫容量, EffBAU = BAU ケースにおけるエネルギー消費原単位, EffALT = ALT ケースにおけるエネルギー消費原単

(5) ALT ケースにおけるエネルギー消費原単位の想定

ALT ケースにおいて導入される冷凍冷蔵機器は、JCM プロジェクト等でインドネシアに

おいて導入実績がある前川製作所のインバーター付自然冷媒冷凍・冷蔵機を想定している。

BAU ケースにおいて日本で主流の HFC 冷媒の冷凍・冷蔵機器が導入され、ALT ケースでは

推計開始年より前川製作所のインバーター付自然冷媒冷凍・冷蔵機が 100%導入されると仮

定している。なお、前川製作所のインバーター付自然冷媒冷凍・冷蔵機導入時のエネルギー

効率の改善率は、JCM (2015 a, 2015b)やヒアリング結果に基づいて、BAU ケース比でエネル

ギー消費原単位が 30%改善すると想定している。

(6) 省エネルギーポテンシャル

冷凍冷蔵倉庫業の省エネルギーポテンシャルは、BAU ケースと ALT ケースのエネルギー

消費量の差分とした。

𝐸𝐸𝐼𝐼𝑆𝑆𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸 𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝐶𝐶𝐼𝐼𝐸𝐸𝑆𝑆𝑡𝑡 = 𝐸𝐸𝐼𝐼𝑆𝑆𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸 𝐶𝐶𝐶𝐶𝐼𝐼𝑆𝑆𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐼𝐼 (𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵𝐵)𝑡𝑡 −𝐸𝐸𝐼𝐼𝑆𝑆𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸𝐸 𝐶𝐶𝐶𝐶𝐼𝐼𝑆𝑆𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐶𝐼𝐼 (𝐵𝐵𝐴𝐴𝐴𝐴)𝑡𝑡 (式 5)

Energy Savingst = t 年次の冷凍冷蔵倉庫業における省エネルギーポテンシャル, Energy Consumption (BAU)t = t 年次の

冷凍冷蔵倉庫業におけるエネルギー消費量(BAU ケース), Energy Consumption (ALT)t = t 年次の冷凍冷蔵倉庫業におけ

るエネルギー消費量(ALT ケース),

98

• インドネシアにおけるコールドチェーンの市場規模および省エネルギーポテンシャルの試

算結果

出典:みずほフィナンシャルグループ (2017)および日本エネルギー経済研究所

図 3-40 2030 年の ASEAN 諸国におけるコールドチェーンの市場規模

2030 年までの ASEAN 諸国のコールドチェーンの市場規模の試算結果を図 3-40 に示す。

ASEAN 諸国の乳製品、アイスクリーム、冷凍加工食品、冷蔵加工食品における消費額は、

2010 年$89 億から、2020 年に約$211 億の規模となり、2030 年には$403 億に達すると見込ま

れる。このうち、インドネシアにおけるコールドチェーンの市場規模は、2010 年は$15 億

(ASEAN 総計の 17%)に過ぎなかったが、2020 年に$52 億(同 25%)へ成長し、そして、2030

年には$114 億(同 28%)に達すると予測され、市場規模とともに ASEAN 諸国におけるシェア

も段階的に増加する。

3,899 4,947 6,539 8,340 10,0921,1542,680

4,493

7,098

10,181

2,349

3,288

4,820

6,470

8,627

1,529

2,983

5,256

8,028

11,439

8,931

13,898

21,108

29,936

40,339

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

2010 2015 2020 2025 2030

その他ASEAN諸国 ベトナム タイ インドネシア

百万US$

15億$

114億$

2010年時点インドネシア市場

2030年時点インドネシア市場

99

出典:日本エネルギー経済研究所 注:分析対象は冷凍冷蔵倉庫業の用途別エネルギー消費のうち冷凍冷蔵用途のみである 58。

図 3-41 2030 年のインドネシアにおけるコールドチェーンの省エネルギーポテンシャル

2030 年までのインドネシアにおけるコールドチェーンの省エネルギーポテンシャルの試

算結果を

図 3-41 に示す。BAU ケースにおける冷凍冷蔵倉庫業のエネルギー需要は、2020 年に 86ktoe

と見込まれ、2030 年に 187ktoe (2020 年比 118%増)へ達すると予測される。他方で、高効率

な冷凍冷蔵機器が導入される ALT ケースにおける冷凍冷蔵倉庫業のエネルギー需要は、

2020 年に 79ktoe と予想され、2030 年に 150ktoe (同 89%増)へ達すると予測される。したが

って、BAU ケースと ALT ケースのエネルギー需要の差分であるインドネシアのコールドチ

ェーンにおける省エネルギーポテンシャルは、2020 年に BAU ケース比▲7ktoe (BAU ケー

ス比 8%減)と試算され、2030 年に同▲37ktoe (同 20%減)に達する。省エネルギーポテンシャ

58 本項の分析対象は冷凍冷蔵倉庫業の用途別エネルギー消費のうち冷凍冷蔵用途のみに限定しており、照

明や動力等のエネルギー消費量は含まれない(詳細は「•冷凍冷蔵倉庫業のエネルギー消費実態および分

析対象機器の特定」を参照)。また、コールドチェーンの全工程のうち保冷のみを分析対象としているた

め、コールドチェーンの潜在的なエネルギー消費量および省エネルギーポテンシャルは、本項の分析で得

られた結果より大きいことに留意する必要がある。

86

131

187

79

111

150

2020 2025 2030

BAU ALT

ktoe

20%savings

15%savings

8%savin

gs

100

ルが段階的に増加する本分析の結果より、省エネルギーへの取組みを早期に実施すべきで

あることがわかる。

3.4.3. 海外のオフグリッド地域におけるコールドチェーン普及事例

ここでは、インドネシアのオフグリッド地域に対してコールドチェーンの普及促進に寄

与する知見を得るために、コールドチェーンを整備するために再生可能エネルギー・省エネ

ルギー機器を導入している海外の先行事例を収集し、表 3-4 および図 3-42 のように整理し

た。

表 3-4 オフグリッド地域へのコールドチェーン整備事例

国名 プロジェク

ト名

資金および

ビジネスモデル

省エネ・環境以外の波及

効果

電力

アクセス

インド

Cold chain

market in

rural area

• 国際支援 (Shell

Foundation)

• Pay as you go モデ

ルの導入を計画

• 農作物の仲買業者と

の価格交渉力の向上

(農作物の保管期間

が増えるため)

オフグリッド

地域

ナイジェリア

Cold storage

for fruit and

vegetables

• 初期段階:国際支

援(giz 等)

• 現在:Pay as you

go モデル

• 農作物の廃棄ロスの

減少とそれに伴う所

得向上

オフグリッド

地域

セネガル

Ice-

production for

fish cooling

• 国際支援(giz)

• 初期投資および運

用費用を売上げで

回収することを計

画中。

• 新規雇用の創出 オフグリッド

地域

ケニア

Solar powered

cold storage

for fish

• 国際支援(giz)

• 農作物の廃棄ロスの

減少とそれに伴う所

得向上

オフグリッド

地域

出典:Coldhubs.com, giz (2016) and Shell Foundation より日本エネルギー経済研究所作成

101

出典:Ministry of New & Renewable Energy, Government of India (2016), PCM Products Ltd.より日本エネル

ギー経済研究所作成

図 3-42 オフグリッド地域へ導入されるコールドチェーン関連技術のイメージ

表 3-4 は、オフグリッド地域へコールドチェーンを整備した先行事例をまとめたものであ

る。これらの事例により、資金およびビジネスモデル分野では、プロジェクトの初期段階に

おいては、政府や国際機関などの支援が必要であることが示唆される。他方で、一部のプロ

ジェクトでは、自律したビジネスモデルの確立に向け、利用者がサービスを利用した分だけ

対価を支払う”Pay as you go”モデルの導入ないしは計画がされている。コールドチェーン整

備による便益に着目すると、高効率機器を導入することによるエネルギー効率向上に伴う

エネルギー支出の減少や、CO2 排出量および環境汚染物質削減に伴う環境改善といった省

エネルギープロジェクトによる一般的な便益に加え、農作物の廃棄ロスの減少とそれに伴

う所得向上や、農作物の保管期間が増えるため、仲買業者との価格交渉力の向上、新規雇用

の創出など多くの便益が存在していることが明らかになった。

また、図 3-42 に示すようにオフグリッド地域へ導入されるコールドチェーン技術に目を

転じると、高効率な冷凍冷蔵機器に加え、太陽光発電と蓄電池を併設するシステムが、多く

のプロジェクトにおいて導入されている。

したがって、先行事例より得られるインプリケーションとして、①プロジェクトの実施初

期では支援が必要であること、ただし、②一部のプロジェクトでは利用料の徴収などにより

自律的なビジネスモデルの確立が示唆されること、③オフグリッド地域へのコールドチェ

ーン整備は多くの便益を有すること、④省エネルギー技術のみならず再生可能エネルギー

技術についても導入が必要であることである。

太陽光発電冷凍冷蔵庫 蓄電池

102

3.4.4. 分析結果より得られる示唆およびオフグリッド地域におけるコールドチェーン普

及への提言

本項では、インドネシアにおいて成長著しいコールドチェーンを対象とした省エネルギ

ーおよび再生可能エネルギー技術の導入に関する分析を実施した。その結果、省エネルギ

ー・再生可能エネルギー技術をインドネシアのコールドチェーンに導入することは、インド

ネシア全体のみならず、オフグリッド地域においても、多くの便益をもたらす可能性がある。

インドネシア全体では、高効率冷凍冷蔵機器を導入することにより、2030 年に BAU 比で

約 20%のエネルギー需要の節減ポテンシャルを有している。ただし、エネルギー需要の節

減は段階(指数関数)的に増加するため、早期からの省エネルギーへの取組みが必要である。

また、オフグリッド地域においては、先行研究から省エネルギー・再生可能エネルギー技

術を用いたコールドチェーンを整備することにより、一般的な便益である省エネルギーに

よるエネルギー支出節約や CO2 排出量の削減に加え、農作物の廃棄ロスの減少とそれに伴

う所得向上や、新たな雇用を創出するなど、多くの副次的な便益を有することが明らかにな

った。

出典:Coldhubs.com, MAYEKAWA MFG. CO., LTD, Mitsubishi Logistics Corporation and UN.より日本エネ

ルギー経済研究所作成

図 3-43 コールドチェーンへの省エネ・再エネ促進による便益

他方で、オフグリッド地域では資本の制約が厳しいことや資金調達に関する情報ならび

に知見が不足していることから、初期費用の資金調達がコールドチェーン普及の障害とな

っているため、初期段階では、政府や国際機関などによる金融的なサポートが必要であるこ

とが示された。

しかし、将来的にはこのような地域においても、所得向上に伴い、国際的な援助や政府に

よる支援によらない自律したビジネスモデルへ段階的に移行すべきであろう。

そこで、ここではオフグリッド地域へコールドチェーンを普及させるためのスキームと

して、”Pay as you go”を活用したビジネスモデルを提言する。

”Pay as you go”とは、利用者がサービスを利用した分だけ対価を支払う仕組みである。例

オフグリッド地域

オングリッド地域

省エネ・再エネの促進 多様な便益

省エネルギー

CO2排出量の削減

上記以外のコベネフィット

103

えば、”Pay as you go”のスキームを利用することによって、アフリカやインドを中心にオフ

グリッド地域への太陽光発電の導入が急速に普及している。図 3-44 の全世界の“Pay as you

go”を利用した太陽光発電の累積導入数が示すように、“Pay as you go”により、オフグリッ

ド地域へ導入された太陽光発電は、2014 年から 2017 年の間に 150 万台に達した。

出典:Bloomberg Technology and Bloomberg NEW ENERGY FINANCE (2018)より日本エネルギー経済研

究所作成

図 3-44 “Pay as you go”を利用したオフグリッド地域への太陽光発電導入数(累計)

本項では、この“Pay as you go”スキームを、インドネシアのコールドチェーンへ応用した

スキームを提言する。図 3-45 はオフグリッド地域へのコールドチェーン普及のためのビジ

ネスモデルのフローイメージである。“Pay as you go”サービス提供会社は、オフグリッド地

域へ冷凍冷蔵機器を導入する。利用者は、冷凍冷蔵機器を利用する度に“Pay as you go”サー

ビス提供会社へ利用料を支払う。“Pay as you go”スキームを活用することにより、利用者は

コールドチェーン導入の障害になっていた初期費用を負担せずに冷凍冷蔵機器を利用でき

る。しかし、先行事例で示唆されたように、コールドチェーン普及の初期段階では事業の採

算性が不透明なため、“Pay as you go”サービス提供会社がこのような事業に参入しない可

能性もある。その際は、政府や国際機関等が補助金ないしは低利融資などの形で“Pay as you

go”サービス提供会社へ資金の援助を行うことにより、事業リスクを軽減する施策も必要に

なると考えられる。

300,000

600,000

1,100,000

1,500,000

0

200,000

400,000

600,000

800,000

1,000,000

1,200,000

1,400,000

1,600,000

2014 2015 2016 2017(10月時点)

pay as you go による太陽光発電導入数(累計)

104

出典:ADB, Bloomberg NEW ENERGY FINANCE (2016), Coldhubs.com and giz (2016)より日本エネルギ

ー経済研究所作成

図 3-45 オフグリッド地域へのコールドチェーン普及のためのビジネスモデル

コールドチェーンのうち保冷に焦点を当てた提言に加え、現地に進出している日系企業

からのヒアリングに基づき、インドネシアのコールドチェーン全体に対する課題ついて記

載する。

インドネシアにおけるコールドチェーンの最も大きな課題としては、交通インフラが未

成熟であることが挙げられる。例えば、冷凍冷蔵倉庫が立地している東部の工業団地と消費

地であるジャカルタ市街へと通じる主要な幹線道路が一つのみであるため、慢性的に事業

者は交通渋滞に直面する。その上、ジャカルタ市街においても、不要な迂回路が多いため、

再度、交通渋滞に巻き込まれるという状況下にある。このような交通インフラが整備されて

いないことによる交通渋滞の多発は、輸送時間の予測を困難にし、事業者に多くの負担を強

いている。したがって、インドネシアのコールドチェーン市場を発展させるためには、更な

Pay as you go サービス提供会社

資金援助(融資等) 返済

“Pay as you go”モデル冷凍冷蔵機器の導入 利用料の支払い

基金(政府 or 民間 or 国際支援)

冷凍冷蔵機器

オフグリッド地域(農村や漁村を想定)

使用者

収穫物の保管

105

るインフラの整備が望まれる 59。

交通インフラ以外の課題としては、インドネシア政府の制度変更による政治(規制)リス

クが高いことが挙げられる。例えば、冷蔵倉庫業や倉庫業に対する外資資本規制に関して、

インドネシア政府は度重なる方針転換を行っている。2010 年から 2013 年までは冷凍倉庫業

および倉庫行は外国資本規制の対象外であったが、2014 年に両倉庫業ともに外資出資比率

を 33%とする上限が設けられた。その後、2016 年に冷凍倉庫業への外資出資比率の上限撤

廃や倉庫業への外資出資比率上限の引き上げ(33%から 67%へ)といった規制緩和が実施され

た。インドネシア政府は 10 年に満たない期間で、外資資本規制について緩和と強化を繰り

返しており、政策方針が一貫していないことが伺える。加えて、2017 年にはすべての外資

フォワーダー事業者 60の最低払込資本金を 100 万$に引き上げる運輸大臣令が発行され、1

年以内に払込を求めるなど性急な制度変更が行われた。このような、インドネシア政府の一

貫性に欠ける政策方針の転換や性急な規制変更は、民間事業者にとってはインドネシア内

で事業を実施する際のリスクと捉えられ、投資を抑制する可能性がある。したがって、民間

事業者によるコールドチェーンへの投資を活性化させるために、インドネシア政府は性急

な制度変更を避けるべきであろう。

59 インドネシア政府としても、東部工業団地・ジャカルタ間の渋滞について認識しており、高速道路や鉄

道を整備する計画が存在する。 60 フォワーダー事業者とは、荷主から荷物を預かるが、自社では輸送手段を持たず他の輸送事業者を利用

し、運送を引き受ける事業者を指す。

106

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strikan%20T.A.%202016.pdf

• Euromonitor

http://www.euromonitor.com/

• FAO “SAVE FOOD: Global Initiative on Food Loss and Waste Reduction”

http://www.fao.org/save-food/resources/keyfindings/en/

• giz (2016) "Promoting Food Security and Safety via Cold Chains"

https://www.giz.de/expertise/downloads/giz2017-en-food-security-cold-chains.pdf

• Global Cold Chain Alliance

http://www.gcca.org/

• JCM (2015a) “Project of Introducing High Efficiency Refrigerator to a Food Industry Cold

Storage in Indonesia, JCM Project Design Document Form”

https://www.jcm.go.jp/id-jp/projects/2/pdd_file

• JCM (2015b) “Project of Introducing High Efficiency Refrigerator to a Frozen Food Processing

Plant in Indonesia, JCM Project Design Document Form”

https://www.jcm.go.jp/id-jp/projects/3/pdd_file

• KPMG Indonesia (2015) “Investing in Indonesia - 2015”

https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/pdf/2016/07/id-ksa-investing-in-indonesia-2015.pdf

• MAYEKAWA MFG. CO., LTD (画像引用:冷凍冷蔵機器)

107

http://www.mayekawa.co.jp/ja/

• Ministry of New & Renewable Energy, Government of India (2016) "Akshay Urja Volume - 9,

Issue - 4" (画像引用:冷凍冷蔵庫)

http://mnre.gov.in/file-manager/akshay-urja/january-february-2016/EN/Akshay-Urja-Feb16-

Eng.pdf

• Mitsubishi Logistics Corporation (画像引用:冷凍冷蔵倉庫)

http://www.mitsubishi-logistics.co.jp/

• PCM Products Ltd. "Contained Energy Solar Powered Cold Storage Systems" (画像引用:蓄電

池)

http://www.pcmproducts.net/files/Solar%20Powered%20Cold%20Storage%20System.pdf

• Shell Foundation "Three insights into the cold chain market in rural India"

http://www.shellfoundation.org/Our-News/Features-Archive/Rural-India-s-cold-chain-market

• UN Sustainable Development Goals (SDGs) logo

http://www.un.org/sustainabledevelopment/news/communications-material/

• U.S. Department of Commerce (2016) “2016 ITA Cold Chain Top Markets Report”

https://www.trade.gov/topmarkets/pdf/Cold_Chain_Top_Markets_Report.pdf

• Zubin Poonawalla (2012) “Cold chain logistics sector analysis”

https://www.slideshare.net/Poonawalla/cold-chain-logistics-sector-analysis

• 海事新聞 (2017) 「国交省/2 カ国と物流政策対話。インドネシア・フィリピン、低温

物流で WS も」 (2017 年 12 月 18 日)

• 東京都環境局 (2016) 「倉庫 冷凍冷蔵倉庫の省エネルギー対策」

https://www.tokyo-co2down.jp/cmsup/pdf/warehouse.pdf

• 日本経済団体連合会 (2017) 「低炭素社会実行計画 2016 年度フォローアップ結果 参

考資料 各部門の業種別動向」

http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/120_sokatsu.pdf#page=34

• 日本エネルギー経済研究所 (2017) 「IEEJ アウトルック 2018」

• 日本冷蔵倉庫協会 (2015) 「都道府県別 所管容積・製氷・凍結一覧(2015 年 12 月

31 日現在)」

http://www.jarw.or.jp/wp/wp-

content/uploads/2014/12/todouhukensyomauyouseki20151231.pdf

• みずほフィナンシャルグループ (2017) 「MIZUHO Research & Analysis no.12 特集 成

長市場 ASEAN をいかに攻略するか—多様性と変化がもたらす事業機会を探る—」

https://www.mizuho-fg.co.jp/company/activity/onethinktank/vol012/index.html

• 三菱 UFJ 銀行 (2016) 「AREA Report 433 インドネシア:外資出資規制緩和」

http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20160527a.pdf

108

109

第4章 電力部門の省エネルギーポテンシャルと推進課題

4.1. はじめに

インドネシアでは、国家電力計画と事業者による電力計画の二つがあり、これに基づいた

発・送・配電のインフラ投資が実施される。他方、2019 年には、35GW の新規発電容量を敷

設する計画を有しているものの、足元での電力需要が拡大していないことから、供給余剰が

発生、本目標の一助となる IPP 契約の支払いが国営電力会社である PLN の財務状況に対す

る影響が懸念されている。

本章では、インドネシアの電力部門における供給計画にかかわる課題を抽出すると共に、

省エネルギーポテンシャルを推計し、インドネシアへの経済便益を展望する。また、分析結

果を活用し、政策提言項目を抽出する。

4.2. 電力関連政策

電力の開発計画としては、インドネシアでは国家電力総合計画(RUKN)と電力供給計画

(RUPTL)の 2 つがある。RUKN は、インドネシア全体の電力供給計画を策定するもので

ある一方、RUPTL は電力供給事業者である PLN の事業計画である。離島など、PLN の供給

エリア外も内包したのが RUKN であり、RUPTL よりも網羅する範囲が大きい。いずれの計

画も毎年更新することになっているものの、実態としてはRUPTLのみ毎年更新されている。

計画の策定期間としては、最新のもので RUKN が 2015-2034 年、RUPTL が 2026 年まで

となっている。

4.3. RUPTL/RUKN の発電電力量比較

以下は、RUPTL, RUKN ならびに IEEJ の発電量見通しに関する比較を提示するものであ

る(図 4-1)。RUPTL は 2015 年ならびに 2016 年に策定されたもの、RUKN は 2016 年に策

定されたものを提示している。IEEJ 見通しは、2017 年に策定している。

図が示すとおり、各発電見通しは大きく異なる水準で推移することが分かる。特に注目す

べきは、インドネシアの国家全体における発電量見通しである RUKN と同じくインドネシ

ア国内の発電量見通しである IEEJ の結果が大きく異なる点である。2030 年時点での発電電

力量見通しは前者が 819 TWh であり、後者が 570 TWh と 43.5%の乖離を有している。

これらの見通しにおいて、異なる経済成長を前提としている。RUKN での経済成長は、

2030 年までに年率 7.3%増を前提としているのに対し、IEEJ 見通しでは同年率 5.2%増を前

提としている。対 GDP の電力弾性値の比較では、両者ともに 1.0 程度である点にも着目す

る必要がある。なお、RUKN では、州ごとの需要見通しを踏まえた発電電力量をまとめてい

る。

110

出典:PLN(2016)“RUPTL”、Ministry of Energy and Mineral Resources (2015) “RUKN”ならびに(一

財)日本エネルギー経済研究所(2017)「IEEJ エネルギーアウトルック」から作成

図 4-1 発電電力量見通しの比較

なお、電力事業者である PLN にとっての発電システム計画の二つの目標は、①電化を進

めることと、②ジャワバリ地域では、25-30%の予備率を維持し、それ以外では 35-40%の予

備率を確保するというものである。また、これらの目標を達成するにあたって、電力価格は

低く抑えることを前提としている。

RUPLT において、PLN は年率 8.3%の販売増加を想定しており、2026 年までに追加で 77.9

GW の新規発電容量拡大を計画している。一方で、2017 年の 1 月から 11 月における販売電

力量の拡大は、年率で 3.6%の増加となっており、2016 年の販売電力量の伸び率が 6.5%であ

ったのと対照的である。

現在の RUPTL に策定された発電容量を確保した場合、需要の伸びが低迷している中で、

PLN の試算では、Java-Bali システムの予備率は 2019 年に 55%に達し、2026 年には 41%と

なる見通しであり、現状の予備率が 27%から大きく増加、すなわち、運用されない ”idle”状

態の IPP 事業者に対して、PLN は 162 億ドルの支払いが生じることが指摘されている。

4.4. 35000 MW プログラム

35000 MW プログラムはインドネシア政府のプロジェクトで、35000MW の発電プラント

の追加容量に関する契約を 2019 年までに達成することを目標とするものである。インドネ

シアでは中期開発計画(Medium Term National Development Plan: RPJMN)に則って、年率 6-

7%の経済成長にともない、年間 7GW の追加容量が必要と推計されている。なお、35,000

111

MW の発電容量新設にあたっては、1.127 兆ルピアの投資が必要であり、PLN のみでの事業

実施は難しいため、IPP の参加が不可欠となる。

出典:Bob Saril (2018), “Renewable Energy”, Presented at the Indonesia-Japan Renewable Energy Workshop on

Promoting Local Renewable Electricity Business 注:CFPP (Coal-fired Power Plant 石炭火力発電), HEPP (Hydro Electricity Power Plant 水力発電), GeoPP (Geothermal Power Plant:地熱発電), CCPP(Clean Coal Power Plant クリーンコール発電), GT/GEPP, Other RE (その他再生可能エネルギー)

図 4-2 35,000 MW 目標

本計画の策定当初は、2019 年時点での運転開始はファイナンスや Power Purchase

Agreement の締結に通常半年から 1 年の時間を要することや、設備の発注ならびにサイトの

確保、政府承認プロセス等にも時間を要することから難しく、目標達成としては半分程度と

の見方も存在する 61。

4.5. 電力価格動向及び PLN の財務状況

出典:PWG (2016), “Power in Indonesia”

図 4-3 はインドネシアの国営電力会社である PLN の平均発電単価と料金、ならびに政府補

助金の推移を示すものである。図が示す通り、2011 年から 2013 年にかけて、平均発電単価

と電力料金の間には、政府補助金の提供により、40%を超える乖離があった。すなわち、同

期間において発電単価が平均で kWh あたり 1,374 ルピア(約 11 円)であったところ、料金

61 Power in Indonesia: Investment and Taxation Guide.

112

は平均で 753 ルピア(約 6 円)と相対的に低い水準に抑えられていた。

2013 年には、1 月に国会で電力料金の値上げに関する法案が可決されており、三ヶ月ごと

に 3-4%の値上げが実施された。2015 年には PLN に対する政府補助も前年の 99.3 兆ルピア

から 56.6 兆ルピアと、43%の削減が実施されている。これ以外にも、固定料金支払い制度や

印紙税の廃止、Pulsa メーターが導入されている。天然ガスや石炭ならびに石油等、国際価

格への連動により、2015 年ならびに 2016 年では発電単価が kWh あたり 1,300-1,265 ルピア

程度へと低減している一方で、補助金支給の削減により、販売電力の平均単価が同 1023 ル

ピア- 991 ルピアへと推移、両者の乖離が 21%程度へと縮小している。

出典:PWG (2016), “Power in Indonesia”

図 4-3 平均発電単価と料金ならびに補助金の推移

インドネシアの電力料金は、消費電力量ならびに家庭、業務・産業、そして政府の三つの

部門別に決められている。

• 450-900 VA と契約電力量が小さい低所得層に対しては補助金が支給され、使用量に応

じて、kWh あたりの料金が規定されている。

• その他の家庭部門は R1(1,300 から 2,000 VA), R2(3,300 から 5,500 VA)そして R3

(6,600 VA 以上)の三つのカテゴリが設定されており、これらの電力料金は kWh あた

り 1,364.86 ルピアである。

• 業務・産業部門で 450VA から 5,500 VA の料金は、kWh あたり 1,100 に固定されてい

る。

113

• 業務・産業部門で 6,600VA から 200,000 VA の料金は、kWh あたり 1,364.86 に固定され

ている。

表 4-1 インドネシアの電力料金

出典:Phil Wilson (2016), “PLN Electricity Tariff 2016”

B3、I3、I4 ならびに P2 の契約量に対して、KVArh あたりの価格が提示されている。これ

は、インドネシア語で「Baya kelebihan pemakalan daya reaktif」、すなわち過剰な電力利用に

対する罰金の支払いが設けられている。具体的には、契約容量の 85%活用した場合には、罰

金の支払いが必要となる。

Tariff Power connected VA Cost per kWh Notes

R1 450 VA 0-30 kWh - Rp 169 Sliding scale30-60 kWh - Rp 360 No minimum bill> 60 kWh - Rp 405

R1 900 VA 0-30 kWh - Rp 169 Sliding scale30-60 kWh - Rp 360 No minimum bill> 60 kWh - Rp 405

R1 1,300 VA to 2,200 VA Rp 1,364.86 Minimum bill appliesR2 3,500 VA to 5,500 VA Rp 1,364.86 Minimum bill appliesR3 6,600 VA and above Rp 1,364.86 Minimum bill applies

B1 450 VA to 5,500 VA Rp 1,100 Minimum bill applies

B2 6,600 VA to 200 kVA Rp 1,364.86 Minimum bill applies

B3 Above 200 kVA Kx Rp 975.49, kVarh Rp 1,049.85Penalty for excessivepeak loading

I3 Above 200 kVA K x Rp 975.49, kVarh Rp 1,049.85Penalty for excessivepeak loading

I4 30,000 kVA and above Rp 939.85, kVarh Rp 939.85

P1 6.600 va - 200 kVA Rp 1,364.86

P2 Rp 975.49, kVarh Rp 1,049.85Penalty for excessivepeak loading

P3 Rp 1,364.86L Rp 1,542.63

Residential

Business and Industrial Tariffs

Government Tariffs

114

Peak and Off Peak Pricing

なお、B3、I3、I4 と P2 の契約に対しては、ピーク時間帯とオフピーク時間帯に異なる電力

料金が設定されている。ただし、現状では本システムは活用されていない。

Street Lighting Charge

電力料金に対して、5%の街灯料金が追加されている。

4.6. PLN の財務状況

PLN の財務状況として、電力売り上げは増加しているものの、政府補助金がなければ収支

として損失を計上していることになる。特に、離島でのディーゼル等、高額な燃料費の負担

や低い電力料金が課題として指摘されている。

表 4-2 PLN の財務状況(単位:百万ルピア)

2015 2016

収益

電力売上 209,844,541 214,139,834

系統連携費用 6,141,335 7,052,136

その他 1,361,114 1,629,986

収益計 217,346,990 222,821,956

費用

燃料 138,408,315 109,492,383

電力購入 4,420,859 59,729,390

リース 8,065,522 6,545,114

メンテナンス 21,861,310 21,226,736

人件費 20,321,137 22,659,965

減価償却 25,406,856 27,512,150

その他 7,090,077 7,284,064

費用計 225,574,076 254,449,802

営業収支 ▲8,227,086 ▲31,627, 486

出典:PLN (2017), “Consolidated Financial Statement”

115

表 4-3 インドネシアの電力料金

出典:Phil Wilson (2016), “PLN Electricity Tariff 2016”

4.7. 分析手法

ここでは日本エネルギー経済研究所が作成したインドネシアのエネルギー需給見通しか

ら、電力に関する見通しを展望する。なかでも、BAU ケースとして、これまでの政策が継

続して実行される場合の電力需要と、高効率技術が導入される省エネルギーケースを比較

し、需要部門での需要部門での省電力ポテンシャルを推計、発電に与える影響を分析する。

本分析にあたっては、エネルギー需給分析を行う(1)IEEJ モデルに(2)技術積み上げのサブ

モデルを統合している。

(1) IEEJ モデルは、詳細なエネルギーバランス表に基づき、経済活動指標、価格指標、

省エネルギー指標から各最終部門におけるエネルギー需要を推計する。次に発電

部門等のエネルギー転換を経て、一次エネルギー供給量を推計する。エネルギー源

別の消費量をもとに、CO2 排出量を計算する。

(2) 技術積み上げのサブモデルでは、技術・機器の販売とストックを推計、新規販売技

術・機器のエネルギー効率を想定、それらの残存率を推計することで、ストックレ

Powerconnected VA

Minimum UseCharged

Cost of minimumkWh

Plus LightingCharge

Minimum Bill

450 VA

900 VA

1,300 VA 52 kWh Rp 70,973 Rp 3,459 Rp 74,528

2,200 VA 88 kWh Rp 120,108 Rp 6,005 Rp 126,113

3,300 VA 140 kWh Rp 191,080 Rp 9,554 Rp 200,634

4,400 VA 176 kWh Rp 240,215 Rp 12,011 Rp 252,226

5,500 VA 220 kWh Rp 300,269 Rp 15,013 Rp 315,283

6,600 VA 264 kWh Rp 360,312 Rp 18,016 Rp 378,328

7,700 VA 308 kWh Rp 420,377 Rp 21,019 Rp 441,396

10,600 VA 424 kWh Rp 578,701 Rp 28,934 Rp 607,618

13,200 VA 528 kWh Rp 720,646 Rp 36,032 Rp 756,678

16,500 VA 660 kWh Rp 900,808 Rp 45,040 Rp 945,848

23,000 VA 920 kWh Rp 1,255,671 Rp 62,784 Rp 1,318,455

33,000 VA 1,320 kWh Rp 1,801,615 Rp 90,081 Rp 1,891,695

116

ベルでの技術・機器のエネルギー効率が把握できる。稼働時間等の活動量を乗じる

ことによりエネルギー需要量を計算する。異なるストック効率の差分を省エネルギ

ーポテンシャルとして推計する。

4.8. 2030 年見通し(BAU ケース)

インドネシアではエネルギー安全保障の確保ならびに気候変動対策として省エネルギー

政策を策定、真摯な取り組みがなされている。他方、経済成長に伴い電力需要は急速に拡大

する見通しである。以下図が示す通り、インドネシアの電力需要は 2015 年から 2030 年の

間に年率 5.7%増で推移する見通しである。部門別では業務部門での電力需要が産業構造の

サービス化を踏まえ、年率6.4%増と急速なスピードで増加、これに産業部門の年率 5.9%増、

家庭部門の年率 5.1%増と続く。部門別の電力需要割合としては、2030 年において、家庭部

門の割合が最大で 37%、これに産業部門(36%)、業務部門(28%)が続く。

出典:(一財)日本エネルギー経済研究所

図 4-4 電力需要見通し

年率 5.7%増の需要に見合うインドネシアの発電電力量は、2015 年の 247 TWh から 2030

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030

家庭 業務 産業

5.7%/年

実績 見通し

117

年の 570TWh へと倍以上の水準に達する。電源構成としては、石炭の割合が最大で、54%の

割合を占め、これに天然ガスの 29%が続く。地熱の割合は、7%と新・再生可能エネルギー

の中では最も大きく、水力の割合は 4%、その他新・再生可能エネルギーが全体に占める割

合は、0.2%に留まる。

出典:(一財)日本エネルギー経済研究所

図 4-5 エネルギー源別発電電力量見通し

出典:(一財)日本エネルギー経済研究所

図 4-6 左:電力部門に必要な投資額(累積 2010 年 10 億米ドル, 2015-2030))

右:エネルギー部門に必要な投資額(累積 2010 年 10 億米ドル, 2015-2030))

発電,

155

送電,

192

配電,

64

石油, 41

石炭, 92

天然ガス,

144

電力,

411

118

急速に拡大する電力需要を満たすためにインドネシアでは発電部門に対して 2030 年まで

に累積で 4110 億ドルの投資が必要と試算される。これは、2030 年のインドネシアの GDP

の 14% に及ぶ。

また、右図では、インドネシアのエネルギー需要及び輸出拡大に対応するために必要な

2030 年までの投資額を推計したもので、石油、石炭、天然ガスの上流投資から下流のイン

フラ投資までの額と電力の発送配電に必要な 2030 年までの投資額の割合を比較したもので

ある。図が示す通り、急速な電力需要の増加に対応するために必要な発・送・配電に対する

投資は全体の 60%と最大の割合を占める。

4.9. 2030 年省電力見通し

産業、業務、家庭部門にかかわる省電力のポテンシャルを技術別に行い、2030 年までの

見通しを策定した。図が示す通り、2030 年のインドネシアにおける省電力ポテンシャルは

3.8Mtoe (リファレンス比 9%)に及ぶ。図が示す通り、家庭部門での省電力ポテンシャルが

2.1Mtoe と最も大きく、これに業務部門の 1.1Mtoe、産業部門の 0.7Mtoe と続く。

出典:(一財)日本エネルギー経済研究所

図 4-7 需要部門の省電力見通し

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

45.0

2000 2015 2030 2030

産業 業務 家庭

Mtoe

9%節減

BAU 省エネ

119

出典:(一財)日本エネルギー経済研究所

図 4-8 発電部門のケース比較

需要部門での節電効果は発電電力量の節減に貢献する。上記図は BAU ケースにおける発

電電力量の見通しと省エネケースと電源構成の低炭素化を考慮したケースを比較するもの

である(省エネ+再エネケース)。図が示す通り、省エネ+再エネケースでは BAU ケースと

比較して 2030 年の発電電力量は 7.8%節減し、526 TWh となる。電源構成としては、インド

ネシアの低炭素化ポテンシャルを考慮し、BAU ケースでは 54%に上った石炭の割合が 49%

に低減、天然ガスの割合が 29%から 26%に低減する。他方、地熱の割合は、BAU で 7%であ

ったものが 12.5%へと増加する。

4.10. 経済性評価

ここでは、需要側での高効率技術の導入にかかわる追加費用を考慮した上で、2015 年か

ら 2030 年のインドネシアにおける発送配電にかかわる費用と便益を検討する。

図 4-9 が示す通り、BAU ケースでは 2015 年から 2030 年の累積として、発送配電にたい

して、4,110 億ドルの投資を必要とする。電源構成を BAU の構成に固定した省エネケース

では、需要部門における高効率技術の導入に対して約 320 億ドルの追加投資を必要とする

ものの、省電力の効果はネットで 700 億ドルにも及ぶ。また、電源構成として低炭素化ポテ

ンシャルを考慮した省エネ+再エネケースでは、BAU に対する節減効果は 240 億ドルとな

る。

120

出典:(一財)日本エネルギー経済研究所

図 4-9 2030 年までの投資額に関するケース比較

出典:(一財)日本エネルギー経済研究所

図 4-10 2030 年までの費用便益分析

121

図 4-10 は需要部門での高効率技術導入に関する費用と、これらの投資により回避できる

発・送・配電及び燃料調達に関する回避可能な費用を便益として比較するものである。すな

わち、2030 年までの累積で、費用に対する便益は 1,070 億ドルと、追加費用の 3 倍の水準に

上る。

4.11. インプリケーション

インドネシアとして、発電容量の増強に向けた目標が提示されているところ、供給余剰に

関する懸念もあり、特に IPP 契約を締結する PLN の財政負担が大きく懸念される。インド

ネシアにおいて、消費者に対する配慮から、追加電源の費用を電力料金に転嫁することは容

易でない。

他方、現状の RUPTL や RUKN の策定手法は、州ごとの電力需要を集約したものとなって

おり、省エネルギーの推進といった他のエネルギー政策との整合性が担保されていない点

は改善すべきである。

経済成長見通しを下方修正し、新たな RUPTL や RUKN を策定すると政府・電力事業者が

方針を示しているものの、需要側での効率改善に関するポテンシャルを代替シナリオとし

て提示するといった試みは現状ではなされていない。

上記研究結果が提示するように、需要側での高効率技術導入は、費用対効果が高く、イン

ドネシアの発・送・配電にかかわる設備投資の節減にも貢献しうる。こうした回避設備投資

は、オフグリッド地域への再エネ導入や電化等、インドネシア社会経済に貢献しうる形での

活用が可能である。

すなわち、インドネシア政府ならびに電力事業者として、需要側での高効率技術導入にか

かわるポテンシャルを把握し、代替シナリオとして形成するなど、将来の電力需要を満たす

ために複数の道筋が存在することを認識した上で、電力供給計画を策定することが重要で

ある。

122

第5章 再生可能エネルギー導入促進にむけた事業

5.1. 背景

5.1.1. インドネシアにおける再生可能エネルギーの導入現状と目標

エネルギー鉱物資源省(MEMR)よると、インドネシアにおける再生可能エネルギー(以

下:再エネ)資源量は 443GW と推計されている。それに対して、2015 年時点で再エネ発電

の導入量は 8.8GW にとどまり、内大半は水力発電(5.33GW)、バイオマス発電(1.78GW)、

および地熱発電(1.64GW)である。

2014 年に議会で承認された国家エネルギー政策(National Energy Policy)は、2025 年まで

に一次エネルギーに占める新・再生可能エネルギーの割合を 25%に引き上げる目標を立て

ている。新・再生可能エネルギーのうち再エネ発電は合計で 45GW の導入を目指している

62。

表 5-1 インドネシアにおける再エネの資源量と導入目標・実績

資源量 目標(2025 年) 実績(2015 年)

地熱 29.5GW 7.2GW 1.64GW

水力 75GW

小水力:19.3GW

21GW 5.33GW

バイオエネルギー 32.6GW 5.5GW 1.78GW

太陽光 207.8GW 6.4GW 0.085GWp

風力 60.6GW 1.8GW 0.0011GW

その他 海洋エネルギー:17.9GW 3.1GW -

再エネの合計 443GW 45GW

出典: エネルギー鉱物資源省再エネ局発表資料

5.1.2. インドネシアにおける電力事業の特徴と地方電化

• 電力事業

インドネシアは、発電から小売まで国営電力会社 PLN 社によって独占されていたが、1992

年から、発電分野へ IPP 事業者の参入が認められることとなった。2009 年の新電力法(Law

No.30/2009)は、電力の小売に PLN 以外の事業者も参入できるような法的基盤を整えた。

PLN による送配電網建設の見込みがない僻地では、地元の村落組合による電力供給形態が

存在している。一方で、それ以外の地域では、ほとんどの場合、電力供給については PLN に

62 エネルギー鉱物資源省再エネ局発表資料(2017 年 11 月ジャカルタ研修)

123

優先権利が与えられている。PLN 以外の事業者が電力供給事業を行う場合、対象となる区

域の特別ビジネスエリア(special business area)としての認定が必要となる。エネルギー鉱

物資源省傘下の電力総局が特別ビジネスエリアの認定を行う。

出典:日本エネルギー経済研究所より作成

図 5-1 インドネシアにおける電力市場のプレーヤー

なお、2017 年時点で、インドネシアにおける発電設備のうち、23%が IPP 事業者所有であ

るが、インドネシア政府は PLN の事業を地方電化の推進や送配電システムの運営などを優

先させる方針があり、発電分野への IPP 事業者の参入を促進している。

また、PLN 以外の事業者が電力供給を実施している特別ビジネスエリアの認定数も増加

している。2017 年 11 月時点で、計 28 箇所 63の特別ビジネスエリアが認定されており、さ

らに、14 箇所が認定される予定である。

• 地方電化

2016 年時点で、インドネシアの電化率は約 91.16%に達している。地域別に見ると、電化

率が低い地域はパプア州(47.78%)や東ヌサ・トゥンガラ州(58.93%)である。そのほか、

西ヌサ・トゥンガラ州(77.22%)や、北カリマンタン州(77.37%)、中央カリマンタン州(77.32%)

の電化率も 80%以下である。なお、東ジャワ州と中央ジャワ州は電化率が 90%前後である

ものの、人口密集地域であるため、未電化世帯の数は多い。インドネシア政府は 2019 年ま

でに電化率を 97%に引き上げる目標を立てている。

63 電力総局ヒアリング

発電

PLN

IPP発電事業者等

送電

PLN

配電(電力小売)

PLN

他事業者(一部の地域に限定)

124

出典:2017 年 11 月ジャカルタ研修における再エネ発表資料

図 5-2 インドネシアにおける地域別の電化率(2016 年)

インドネシアでは、地方電化の実施主体は国営電力会社 PLN 社である。地方電化を実施

するための資金は電気料金収入、政府からの補助金(Public Service Obligation: PSO)、なら

びに中央政府の地方電化プログラム用予算である。PLN のほか、エネルギー鉱物資源省や

地方自治体もマイクログリッドやオフグリッドによる地方電化を実施している。地方自治

体は、地方電化のために中央政府の特別予算を申請することもできる。

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources and Asian Development Bank (2015) “Achieving Universal

Electricity Access in Indonesia”及びヒアリング調査により作成

図 5-3 地方電化用政府予算の流れ

125

• マイクログリッド(50MW 以下)電化プログラム(MEMR Regulation 38/2016)

地方電化への民間投資を促進するために、MEMR Regulation 38/2016 が 2016 年 12 月に策

定された。本規則は、PLN 以外の事業者の、完全に電化されていない村落に対する電力供給

(発電と送配電)事業への参入促進を目的としている。前述の通り、PLN 以外の事業者によ

る地方電化事業への参入に対する法的基盤が整備されたものの、PLN 以外の事業者は定め

られた特別ビジネスエリアにしか電力供給事業を行うことができない。従って、本規則は、

未電化地域が存在している州長がエネルギー鉱物資源省と協議し、当該地域を特別ビジネ

スエリアにしたうえで、同地域への電力供給を PLN 以外の事業者に委託するようなプロセ

スを規定している。なお、事業規模は 1 箇所で 50MW 以下を条件としている。

本規則では、電力供給の経済性を担保しつつ、再エネ発電技術の活用を推奨している。電

気料金は、州長またはエネルギー鉱物資源省大臣の認可の下、当該地域の収入水準に応じて

設定される。電気料金水準が電力供給単価を下回る場合は、必要となる補助金の金額 64を計

算し、国会に申請する。

MEMR Regulation 38/2016 は PLN 以外の事業者が電力供給事業に参入可能な地域を拡大

したことで注目されている。しかしながら、地方電化における電力供給事業は多額な投資が

必要であるうえ、未電化地域の経済・生活水準に応じて安価な電気料金を設定しなければな

らない。また、政府による補助金があるものの、補助金総額は毎年国会での審査が必要とな

る。これらの実情を踏まえると、地方電化事業が安定的であるとは言えない。なお、2017 年

末時点で、同規則のもとで予定されている地方電化事業はまだない。

5.1.3. インドネシアにおける on-grid の再エネ促進政策の動向

インドネシアにおける発電電力の買取は PLN による独占であり、これは再エネ発電電力

においても同様である。すなわち、PLN は再エネ発電の唯一のオフテーカーである。インド

ネシアでは、再エネ発電の固定価格買取制度(FIT)が導入されていたものの、再エネ電力

の買取価格が PLN の平均発電コストより割高である上、PLN によるの追加費用の回収メカ

ニズムが確立されておらず、FIT 制度が機能していなかった。

このような課題および世界的な再エネ発電コストの急速な低下トレンドを踏まえ、イン

ドネシア政府は 2017 年に再エネ電力の買取に関する新たな規則(MEMR Regulation No.

12/2017、MEMR Regulation No.43/2017、MEMR Regulation No.50/2017)を相次いで打ち出し

た。

新規則では、再エネの買取価格が各地域の平均発電コスト(ベンチマーク価格)を超えて

はならないとしている。具体的には、ベンチマーク価格が全国平均水準(7.39 セント/kWh)

64 具体的には、一定の収益マージンを確保達するために必要となる電気料金収入と実際の電気料金収入の

差額。

126

を上回る地域では、当該地域の発電コストの 100%または 85%を、再エネ発電買取価格の上

限とする。発電コストが全国平均水準を下回る地域では、再エネ発電買取価格は再エネ事業

者と PLN の交渉で決定される。

表 5-2 再エネ発電買取価格に関する新たな規則の概要

再エネ発電技術 再エネ買取価格(当該地域の平

均発電コスト≤全国平均水準)

再エネ買取価格(当該地域の平均

発電コスト>全国平均水準)

太陽光発電、風力発電、バイ

オマス発電、バイオガス発

電、海洋エネルギー発電

PLN と交渉 当該地域における平均発電コス

トの 85%を買取の上限価格にす

都市ごみ発電、地熱発電、水

力発電

PLN と交渉 当該地域における平均発電コス

トの 100%を買取の上限価格にす

出典: エネルギー鉱物資源省再エネ局発表資料

インドネシアにおける各地域の平均発電コスト(2016 年)を図 5-4 に示す。インドネシア

の電力消費量の 8 割はジャワ島、バリ島、マドゥラ島で構成されたジャワ-バリグリッドに

集中している。この地域では石炭火力の割合が多く、ディーゼルなど火力発電用の燃料調達

コストも他地域より安価であり、平均発電コストが全国平均水準を下回る。他方、東部では、

電力供給の大半は燃料調達コストの高いディーゼル発電であり、平均発電コストが高い。し

たがって、東部では再エネ発電買取価格が高くなる。なお、東部における電力系統は小規模

であり、太陽光発電など変動電源を導入する場合の系統安定化対策が課題となる。

127

(注)NTB:西ヌサ・トゥンガラ;NTT:東ヌサ・トゥンガラ

出典:2017 年 11 月ジャカルタ研修における再エネ発表資料をもとに作成

図 5-4 インドネシアにおける地域別平均発電コスト

新たな規則が施行されてから、2017 年 11 月時点で、59 件(計 567MW)の再エネ売電契

約(PPA)が結ばれており、さらに 9 件(計 641MW)の契約が予定されている。なお、水

力発電と小水力発電が大半を占める。

表 5-3 新たな再エネ買取規則の下での再エネ PPA の締結状況(2017 年 11 月時点)

契約状況

(2017 年 11 月時点)

技術 件数 合計容量(MW)

PPA 契約済み 水力・小水力 7 476

バイオマス・バイオ

ガス

4 46

太陽光 1 45

合計 12 567

PPA 契約予定 水力・小水力 8 555

地熱 1 86

合計 9 641

出典: エネルギー鉱物資源省電力総局資料

6.51 6.51 6.51 6.52 6.54 6.627.39 7.77 7.86 8.07 8.1

9.04 9.2810.1410.2 10.39

12.4312.7413.5413.67

14.33

17.3217.52

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

セント/

kWh

128

5.1.4. インドネシアにおける off-grid の再エネ促進政策の動向

• Program Indonesia Terang (PIT)(Bright Indonesia)

PIT(Program Indonesia Terang)は 2019 年までに電化率 97%という政府目標に貢献するた

めに、2019 年までに 10,300 村落の電化を目指す地方電化プログラムである。PIT プログラ

ムの初期段階では東インドネシアのパプア州、西パプア州、マルク州、北マルク州、東ヌサ・

トゥンガラ州、西ヌサ・トゥンガラ州を対象としている。PIT は小水力発電や太陽光発電な

ど地域の再エネ資源の利用促進も目指している。同プログラムのもとで、1,500MW ほどの

再エネ発電が導入される見込みがある 65。

前述のとおり、インドネシアでは電力供給事業は、PLN に優先権が与えられているため、

PIT は PLN の系統と離れている地域での off-grid 電力供給プロジェクトが中心となってい

る。

PIT に必要な投資資金を賄うために、中央政府予算、地方自治体予算、国内外からの融資

など様々な資金が活用できるような資金調達スキームの構築が検討されているものの、現

段階では主に中央政府予算で進められている。

• LTSHE(Energy Efficiency Solar Lamp or Efficient Solar Powered Lamp)プログラム

LTSHEは大統領令 Presidential Regulation No. 47/2017に基づく地方電化プログラムである。

2017 年から 2019 年に亘り、無電化地域に PLN の送配電網が導入されるまでの暫定的な電

化措置として、ソーラーホームシステム Energy Efficiency Solar Lamp(LTSHE)を無償で提

供する。LTSHE は、太陽電池、リチウム電池、高効率 LED(4 つ)、制御装置、USB 充電ケ

ーブル等で構成され、6 時間以上の連続照明が可能である。

65 http://ebtke.esdm.go.id/post/2016/11/09/1427/pemerintah.lanjutkan.komitmen.indonesia.terang

129

出典:2017 年 11 月ジャカルタ研修における再エネ発表資料をもとに作成

図 5-5 LTSHE システムの構成

5.2. 地域再エネ電力事業研修の提案

発電施設を需要家と連系するシステムは大規模送配電グリッド、マイクログリッド、オフ

グリッドに分けられる。一般的に、需要家の集中度が高いほど単位電力供給量(kWh)当た

りのコストが安くなることから、大規模送配電グリッドによる電力供給が最も経済的であ

る。しかしながら、人口密度が低くなると、基幹送配電網への接続より分散型のマイクログ

リッドやオフグリッドによる電力供給が経済的になる可能性もある。近年は太陽電池、蓄電

池、ICT 技術の性能向上とコスト低減によって、このような技術を活用したマイクログリッ

ドやオフグリッドによる電化システムの経済性向上が期待される。

インドネシアの離島や遠隔地域における電源構成の大部分はディーゼル発電である。離

島へのアクセス・島内の道路整備状況が悪く、ディーゼルの調達費用が割り高となり、電力

供給コストも高くなる。他方、再エネ発電は地元の資源を活用するため、ライフサイクルで

見るとディーゼル発電より発電コストが安くなると期待される。図 5-6 に示す平均電力供給

コストが最も高い 5 地域(東ヌサ・ドゥンガラ、マルク、バンカ・ブリトゥン、西ヌサ・ト

ゥンガラ、パプア)では、電源構成の 8 割以上はディーゼル発電である。このような地域で

は、ディーゼル発電を再エネ発電に代替することでが、電力供給コストの削減が期待される。

太陽電池

LED照明

スイッチ

USB充電ケーブル

ケーブル(5m)

制御ハブ

130

出典:エネルギー鉱物資源省電力総局、電力統計 2015 をもとに作成

図 5-6 電力供給価格上位 5 地域の電源構成(2015 年)

このような状況において、地方の電力供給に地域の再エネ資源を活用することで、経済面

および環境面のメリットが期待できる。さらに、地方の再エネ発電、再エネ発電による電力

供給事業に地元企業やコミュニティが参入することで、地域経済の活性化にも貢献できる

可能性がある。インドネシア政府は地方関係者に対して再エネ発電の研修を多数実施して

いるものの、その大半は発電設備の運転維持に関する技術研修にとどまる。地方の関係者に

幅広く再エネ電力供給事業に参入させるためには、再エ事業全体像の把握・理解が必要であ

り、様々な分野におけるノウハウの取得が求められる。従って、地域の再エネ事業に影響を

与える技術面、経済面、政策面の要因と関連するノウハウをインドネシア側関係者に移転す

るための研修が重要であると考える。

以下では、地方電力事業者(地方自治体の企業局、協同組合等)の再エネ電力事業に係る

研修カリキュラム構築と研修運営体制の提案を行う。

5.2.1. 本事業における地域再エネ電力事業研修のあり方

本事業における研修は、再エネ電力事業の技術面、経済面、政策面に関するノウハウをイ

ンドネシア関係者に移転するとともに、インドネシアと日本、それぞれの環境で進められて

いる地域再エネ事業を対比しながら、インドネシア側関係者の再エネ電力事業に対する理

解を深めることを目的としている。また、インドネシア側は独自で研修を運営できるような

研修カリキュラムと研修体制を提案し、本事業実施終了後でも研修の継続を図る。

本事業においては、研修はインドネシア現地研修を 1 回、日本招聘研修を 1 回の計 2 回

実施する。インドネシア現地研修は、本事業で提案した研修体制と研修カリキュラムで、基

礎ノウハウの移転とインドネシアにおける地方の再エネ電力事業の経験と課題の共有を中

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

Papua NTB Babel Maluku NTT

GW

h

石炭 ガス 石油スチーム ディーゼル 水力 地熱 その他再エネ

131

心としている。日本招聘研修では、日本で展開されている地域再エネ電力事業の経験をイン

ドネシア側の関係者と共有するとともに、インドネシアにおける地域再エネ電力事業の拡

大のための対策を議論する。

(1) 研修カリキュラムを構築するための調査

研修のカリキュラムを構築するため、インドネシア側関係者の関心分野のアンケート調

査 66、ならびに日本国内関係企業に対するヒアリング調査を実施した。アンケート調査の結

果によると、インドネシア側の関係者は小水力発電に対する関心度が最も高いが、その他に

太陽光発電やバイオマス発電、需要側の省エネ技術などにも関心を持っていることが分か

る(図 5-7)。

関心テーマに関するアンケート調査結果を見ると、インドネシア側関係者は再エネ電力

事業の立ち上げと運営、ならびに中央政府の役割に対する関心が高い(図 5-8)。

図 5-7 インドネシア側関係者の関心技術

66 本アンケート調査に対して 7 件の回答を回収した。関心技術と関心テーマに対してそれぞれ複数選択可

0 1 2 3 4 5 6

太陽光発電

小水力

バイオマス

地熱

需要側の省エネ

電力需給バランシング

選択者数

132

図 5-8 インドネシア側関係者の関心テーマ

日本国内ヒアリング調査企業の概要を表 5-4 に整理する。日本では、再エネ発電の固定価

格買取制度(FIT)を活用し、再エネ発電事業を展開している例、電力システム改革に伴い、

自治体と連携し地元の再エネ発電施設から電力を購入し地元消費者に電力販売を行う事業

モデル(新電力)の例がある。

0 1 2 3 4 5

再エネ市民ファンドの資金募集と運営

地域住民の関与

有効な地方自治体の支援策

有効な中央政府の支援策

地方企業家の役割

再エネ電力組合の立ち上げと運営

電力小売り事業の成功要因

選択者数

133

表 5-4 日本国内ヒアリング調査企業の概要

ヒアリング先 役割 主な事業特徴等 事業形態 資金調達

運営管理のノウハウ

A 社 ・事業主体

地元融資により事業主体を立ち上げ、環境省ファンドや地銀融資によって、小規模再エネプロジェクトを中心に事業展開している。

再エネ発電のみ

・地銀融資中心 ・市民ファンド ・環境省補助金等

自社

B 社

・プラント建設運営 ・事業コンサル

地熱発電事業立ち上げの支援を行っている。

再エネ発電のみ

B 社より資金調達 B 社

C 社 ・事業主体

地域市民団体のイニシアティブのもと、地域住民による再エネ導入に向けた資金を原資としファンドを形成し、事業を実施している。

再エネ発電のみ (電力の小売り事業を検討している)

・市民ファンド中心 ・不足分は地銀より融資

自社

D 社 ・事業主体

日本初の自治体 PPS(新電力)によって再エネの地産地消を実現、事業ノウハウを他の自治体に提供し、自治体間の連携を図っている。

再エネ発電+電力小売り

・自治体(55%) ・地元企業(40%) ・筑邦銀行(5%)

自社

F 社

・事業コンサル ・事業出資 ・事業運営

電力システム改革に伴って電力小売事業への参入が容易になったことで、自治体と連携し PPS 事業を展開し、地域活性化の有り方を検討している。

再エネ発電+電力小売り

・F 社 ・自治体 ・地元企業

F 社に委託

G 社 ・技術コンサルティング

太陽光発電に関する技術コンサルティングを行っている。

- - -

H 社 ・事業出資 ・事業運営

電力システム改革に伴って電力小売事業への参入が容易になったことで、自治体と連携し新電力事業を展開している。

電力小売り事業

・H 社 ・地元企業 ・地銀

H 社に委託

(2) 研修体制の提案

有望再エネ、再エネ資源量、基幹送電線の整備状況などは地域によって大きく異なる。再

エネ電力事業を地方で進めていくためには、地域によってその対策は多様であると考えら

れる。しかしながら、地方政府関係者等の自立的な事業展開を促すためには、系統接続に係

134

る技術的知見や財務分析の習得に並んで、まずは地方関係者の間で各地方の現状や課題の

認識・共有化が必要であると考えられる。各地方が抱える課題を持ち寄り議論することで自

立化を促す効果も期待できることから、エネルギー鉱物資源省傘下の人材育成センター

(Human Resource Development Center for Electricity, New Energy, Renewable and Energy

Conservation, PPSDM KEBTKE)は適切な場であると言える。

人材育成センターは地方関係者を対象に、様々な再エネ分野の研修を実施しており、同セ

ンターが地方政府関係者を束ねることで、効率的な研修の運営も期待できる。また、同セン

ターには講師が在籍し、講師養成するための研修(Training of Trainers, ToT)も実施してい

る。再エネビジネスの立ち上げに必要となるノウハウを同センターの講師に移転すること

は、インドネシア側より自立的な研修運営にも繋がる。

(3) 研修カリキュラム

現地研修では、講義、演習、事例紹介を通じて、再エネ電力事業の全体像ならびに事業展

開に必要となる基礎的ノウハウを参加者に理解させることを目的としている。特に、人材育

成センターとの協議に基づくと、キャッシュフローに基づく財務分析が最も望まれる研修

内容であることがわかった。

電力市場構造と再エネ買取政策における再エネ電力事業モデルの関連性、インドネシア

における関連政策への理解を深めるとともに、財務分析を行い、事例紹介による経験共有も

重要項目として、以下に示す研究カリキュラムを構築した。

表 5-5 カリキュラム内容構成と時間配分 カリキュラム内容構成 時間配分

再エネビジネス概観 1 コマ 様々な電力市場構造と再エネ買取政策における再エネ電力事業モデルの紹介

1 コマ

再エネ技術の紹介 1 コマ インドネシアにおける関連政策の紹介

地方電化政策を含めた電力政策の紹介 1 コマ 地方の再エネ利用促進を含めた再エネ補助政策の紹介 1 コマ

グリーン金融政策の紹介 1 コマ 再エネプロジェクトのキャッシュフロー分析

キャッシュフロー分析と発電コストの推計手法の紹介 1 コマ エクセルを使ったキャッシュフロー分析の演習 3 コマ

プロジェクトの収益性分析 1 コマ 事例紹介

日本における地産地消再エネ事業の事例紹介 1 コマ インドネシアにおける地方再エネ開発の取組みと課題等につ

いての経験共有(地方地域 1) 1 コマ

インドネシアにおける地方再エネ開発の取組みと課題等についての経験共有(地方地域 2)

1 コマ

注:1 コマは 45 分

135

5.3. 地域再エネ電力事業研修

5.3.1. インドネシア現地研修実施概要

(1) 現地研修実施概要

今回のインドネシア現地研修においては、上述のように、エネルギー鉱物資源省傘下の人

材育成センターからの協力を得た。以下に実施概要を示す。

日時:2017 年 11 月 27 日~28 日

場所:人材育成センターの研修施設

参加者:地方政府、エネルギー鉱物資源省の関係者

インドネシア現地研修の対象者(表 5-6)は地方政府の再エネ電力事業開発に係わる実務

者を中心とした。また、人材育成センターとの協議に基づくと、インドネシア側の自立的な

研修運営が求められることから、人材育成センターに属する講師も研修に参加させること

で、今後彼ら自身が研修を実施できるような仕組みとした(表 5-6)。

表 5-6 現地研修への参加者概要

組織 人数

地方政府 10 名

West Nusa Tenggara 2 名

Bitung 2 名

West Java 2 名

East Nusa Tenggara 4 名

エネルギー鉱物資源省(MEMR) 6 名

トレーニングセンター 4 名

電力総局 1 名

再エネ省エネ総局 1 名

講師:

インドネシアにおける関連政策を紹介する講師はエネルギー鉱物資源省および財務省の

政策担当者とした。また、インドネシアにおける地方再エネ開発に関する経験の共有におい

ては、研修に参加する地方関係者の事例紹介を活用した。

研修プログラム概要:

表 5-5 に示す研修カリキュラムの内容に基づき、インドネシア側の講師と調整した結果、

表 5-7 に示すプログラムで現地研修を実施した。

136

表 5-7 現地研修のプログラム概要

日程 内容 講師

11 月 27 日

午前

・ 再エネビジネス概観

・ 様々な電力市場構造と再生可能エネルギー政策・

電力政策

・ 再エネ技術の紹介(技術特徴、経済性の特徴、な

らびに導入普及状況等)

(一財)日本エネル

ギー経済研究所

11 月 27 日

午後

・ インドネシアにおける電力政策の紹介(地方電化

政策や、中央政府・地方政府の役割分担等)

・ 日本における地産地消再エネ事業の事例紹介

・ インドネシアにおけるグリーン金融政策の紹介

・ キャッシュフロー分析と発電コストの推計手法の

紹介

エネルギー鉱物資

源省電力総局、(一

財)日本エネルギー

経済研究所、財務省

11 月 28 日

午前

・ エクセルを使ったキャッシュフロー分析の演習

(前半)

・ インドネシアにおける再エネの導入現状と促進政

(一財)日本エネル

ギー経済研究所、エ

ネルギー鉱物資源

省再エネ省エネ総

11 月 28 日

午後

・ エクセルを使ったキャッシュフロー分析の演習

(後半)

・ インドネシアの地方再エネ開発の取組みと課題等

についての経験共有(2 地域)

・ プロジェクトの収益性分析

(一財)日本エネル

ギー経済研究所、地

方政府参加者(West

Nusa Tenggara、West

Java)

主な議論等

現地研修では、日本の再エネ入札制度、RPS 制度の仕組み、地域再エネ開発を支援する市

民ファンド(例:おひさまエネルギーファンド)の募集方法、ならびにインドネシアにおけ

る地熱開発における中央政府と地方自治体の役割、ジャワ-バリ地域における発電容量の

供給過剰、独立した地方電力供給プロジェクトの持続可能性などについて活発な議論が行

われた。

研修生は財務分析モデルに対し高い関心を持っていた。人材育成センターは、今後、再エ

ネの財務分析の研修の際に財務分析モデルを活用できるよう、理論的背景や計算方法につ

いて、さらに詳細に研修を受ける機会を希望していた。

137

図 5-9 インドネシア現地研修集合写真

図 5-10 エネルギー鉱物資源省再エネ省エネ局代表による講義

138

図 5-11 日本側専門家による講義

(2) 講義・質疑内容の概要

【11 月 27 日午前】

日本側の専門家から、再エネ事業のビジネスモデルの考え方、様々な電力市場の構造お

よび再エネ促進政策においての具体的な再エネビジネスモデルのあり方など理論的な説明

をしたうえ、日本の電力市場の構造、再エネ政策の概要、ならびにそれらを踏まえた再エネ

導入の現状などを紹介した。また、午前中には、再エネ技術の概要とアジア太平洋地域にお

ける再エネ普及の現状などを日本側の専門家から紹介した。

午前中の講義内容に対し、日本における RPS 政策、再エネ入札政策の仕組みや、電力シ

ステム改革に伴う急増している小売電力事業者のビジネスモデルなどに関する質問を受け

た。

【11 月 27 日午後】

エネルギー鉱物資源省・電力総局の専門家より、インドネシアにおける電力市場の構造、

地方電化における中央政府と地方政府の役割、地方電化の取組み等の説明がなされた。ま

た、財務省の専門家より、インドネシアにおける再エネ開発支援のための税優遇政策や、グ

リーン融資政策等が紹介された。日本側の専門家からは日本における地産地消再エネビジ

ネスの事例紹介とキャッシュフロー分析の基本について講義した。

午後の講義内容に対して、地熱開発における中央政府と地方政府の役割の分担や、電源

開発の計画、電力消費を促進する措置などをめぐって議論が展開された。また、グリーン融

資や日本における市民ファンドの募金仕組み等に対して質問を受けた。

139

【11 月 28 日午前】

エネルギー鉱物資源省・再エネ省エネ総局の専門家よりインドネシアにおける再エネの

導入現状、再エネ導入支援の取組み、再エネ導入拡大に係わる課題等についての説明がな

された。また、同日午後セッション前半にわたり、キャッシュフロー分析手法に基づくエク

セルを使った発電コスト計算演習を実施した。

インドネシア再エネの紹介に対しては、地熱開発の安全性に対する住民の懸念や、PKS

(Palm Kernel Shell)を使ったバイオマス発電の導入事例、新たな再エネ買取措置に対する

事業者の反応、再エネ発電のコスト削減などについて質問があった。

演習では、発電コスト計算における現在価値の概念や、インドネシアにおける太陽光発

電の設備費、ディーゼルの調達コスト、固定資産税の計算等について議論した。また、参加

者の理解度合いを把握するために小テストを実施し、大半の参加者は発電コストの計算手

法を理解したことが分かった。

【11 月 28 日午後】

西ヌサ・トゥンガラ州の代表による同州地方政府主導の再エネ電化プロジェクトの取り

組みおよび課題や政策提言等、また、西ジャワ州の代表による同州における地熱発電の経

験を踏まえた地元再エネ企業の育成、再エネ開発による地域経済発展への貢献等について、

他地域の参加者と経験共有した。最後に日本側の専門家より、インドネシアにおける地熱

発電プロジェクトの実例を使って、再エネプロジェクトの融資やプロジェクトの収益フロ

ーと予測などを分析するモデルが紹介された。

地方再エネ開発の事例紹介に対して、地元技術者の育成制度や、中央政府の地方再エネ

開発を支援する特別予算、既存のマイクログリッドの PLN 系統への接続、地熱発電プロジ

ェクトの融資などが議論の話題となった。プロジェクトのキャッシュフロー分析モデルに

対して、参加者は高い関心を示し、フォローアップの研修の実施を要望している。

5.3.2. 日本招聘実施概要

(1) 招聘実施概要

日本招聘の実施概要を示す。

日時:2018 年 2 月 13 日~15 日

場所:日本エネルギー経済研究所 会議室、おひさま進歩エネルギー株式会社視察等

参加者:エネルギー鉱物資源省、PLN、地方政府関係者

140

表 5-8 日本招聘への参加者概要

組織 氏名

エネルギー鉱物資源省(MEMR)電力総局 局長 Dr. Hendra Iswahyudi

エネルギー鉱物資源省(MEMR)電力総局

Head of Planning and Reporting Division in

Secretariat of Directorate General of

Electricity, Chrisnawan Anditya

PLN Wilayah Sulawesi Selatan, Barat, Tenggara,

PT PLN (Persero)

General Manager, Bob Saril

Energy and Mineral Resources Services of West Java

Province

Head of Electrical Division , Ai Saadiyah

Dwidaningsih

Kalimantan Tengah's Department of Energy and

Mineral Resources

Maradona

講師等:

日本における再エネ政策や電力市場の動向に関しては弊所から、再エネを活用した市民

電力に関しては NTT ファシリティーズと会津電力株式会社からプレゼンテーションを行っ

た。また、再エネ活用の市民電力として、おひさま進歩エネルギー株式会社への視察・見学

を行った。

研修プログラム概要:

表 5-9 に示すプログラムで招聘研修を実施した。

表 5-9 日本招聘プログラム概要

日程 内容 講師等

2 月 13 日午

(ア) 日本における再生可能エネルギー政策と電力

市場の紹介

(イ) 地域エネルギー事業の実例紹介と今後の展望

(ウ) 再エネ電力地産地消事業における地方の企業

家の役割

(一財)日本エネル

ギー経済研究所

NTT ファシリティ

ーズ

会津電力株式会社

2 月 14 日午

(エ) 屋根貸し太陽光発電 駄科コミュニティ

ー防災センター

2 月 14 日午

(オ) 再エネ市民電力のビジネスモデル おひさま進歩エネ

ルギー株式会社

2 月 15 日午

(カ) 公開セッション

・インドネシアにおける電力市場、地方電化、再エネ

導入支援の取組み状況と今後の展開

エネルギー鉱物資

源省(MEMR)電力

総局

141

・PLN の再エネ導入・地方電化に対する取組みと将来

計画

PLN

2 月 15 日午

(キ) 地方電力供給における再エネの利用拡大に向

けた議論

全参加者

主な議論等

日本招聘では、我が国およびインドネシアにおける再エネ導入制度、電力市場、地域再エ

ネ開発について活発な議論が行われた。参加者は、インドネシアにおける再エネ・地方電化

の課題として、地方政府自身が中央政府から割り当てられる地方電化用特別予算の有効活

用ができていない、運営管理を踏まえた持続可能な再エネプロジェクトの実施を自ら企画・

実行できるようにするための能力が不足している、などの課題を挙げた。

我が国における、地方再エネ電力ビジネス事例においては、地方自治体の支援、持続可

能な運営管理システム、地域住民の参画など、インドネシアの再エネ・地方電化における

課題を解決できる要素が備わっているとの認識が参加者にあった。

一方で、成熟した経済・電力システムを具備している我が国と、これから電化を進める

インドネシアの地方では、前提がそもそも大きく異なるとの指摘があった。特に、再エ

ネ・電化事業を実施するために地方政府に求められる企画・運営能力の不足、経済・生活

の低水準が指摘された。

したがって、インドネシアの地方において、再エネによる電化を進めるためには、まず

は、再エネ・電化プロジェクトの提案・フィージビリティースタディーを地方政府が実施

できる能力を開発することが必要であるとの意見があった。また、経済・生活水準がいま

だ低い地域における電化は、再エネ等エネルギー資源の観点のみならず、再エネ・電化に

よって生まれる新たな経済活動がもたらす便益(地域産業振興や雇用創出など)をも視野

に入れた再エネ・電化計画の立案が必要であるとの意見が多かった。

142

図 5-12 日本招聘研修集合写真

図 5-13 日本側専門家による講義

143

図 5-14 日本側専門家による講義

図 5-15 飯田市駄蓼地区コミュニティー防災センター見学

144

図 5-16 飯田市駄蓼地区コミュニティー防災センター見学

図 5-17 飯田市内メガソーラー見学

145

図 5-18 おひさま進歩エネルギー視察

図 5-19 公開セミナー

146

図 5-20 公開セミナー

(2) 講義・質疑内容の概要

【2 月 13 日午前】

日本側の専門家から、我が国における再エネ導入政策および電力市場、地域エネルギー

事業、再エネ電力地産地消、に関する講演を行った。

再エネ導入と系統安定化に関して、再エネ導入拡大による火力発電の出力抑制による発

電機会損失、将来的な系統増強など系統安定化対策に係る費用の負担主体、電力会社によ

る系統接続可能量算定における公平性などに関する質問を受けた。

地域エネルギー事業については、新電力の場合の顧客獲得方策、従来の電力会社と比べ

て安価な電力供給が可能な仕組み、また、再エネ電力地産地消については、出資者や地方金

融機関等への説得方法に関する質問があった。

【2 月 14 日午前・午後】

屋根に太陽光発電を設置している駄科地区防災センターおよび地域再エネビジネスを展

開しているおひさま進歩エネルギー株式会社へ訪問した。公共施設の“屋根貸し”による太

陽光発電設置に対する地域住民の同意獲得における苦労、地域再エネビジネススキーム、

関連地方自治体からの協力に関する関心が高く、質問があった。

【2 月 15 日午前】

エネルギー鉱物資源省・電力総局および PLN より、インドネシアにおける電力市場・シ

147

ステムの構造、地方電化の現状・課題・今後の展開等に関する講演が行われた。

日本側聴講者からは、電力システムにおける供給予備力の状況、再エネの買取価格の規

制に関する質問があった。インドネシア側からは、地域によっては再エネ資源に恵まれて

いるものの電力需要が小さいことから需給ミスマッチが生じることから、今後の経済発展

を踏まえた電力需要の創出の重要性が強調された。

【2 月 15 日午後】

○再エネ・電力設備の運営管理体制

中央政府から資金を得て遠隔地を電化しても、地方にメンテナンスのノウハウがなく、数

年で設備が故障して使えなくなってしまうケースがある。設備のメンテナンスに関するノ

ウハウを地方においてどのように高めるかが課題である。中央政府が整備した予算は建設

のための予算であり、メンテナンスに使うことはできない。設備建設後の関与ができないよ

うな規定がある。また、その予算を得るための手続きが煩雑である。したがって、中央政府

から地方政府への資金活用に関するルールの簡易化や見直しが必要かもしれない。

○電化・再エネプロジェクト全般に関する能力不足

地方電化に対して PLN がより積極的に支援すべきとの意見もあるが、それができない理

由としてまず資金不足が挙げられる。次に、地元の電化を支援する義務は中央政府にも地方

政府にもあるものの、地方政府に、プロジェクトの企画、設備調達、電気料金の設定、など

再エネ地方電化プロジェクト全般の提案・運営に係る能力が無いことが大きな課題である。

このような現状では、中央政府が予算を整備して再エネ地方電化プロジェクトを募集して

も応募する地方政府が非常に少ない。プロジェクトの提案・運営全般に係る能力開発が非常

に重要である。海外投資家からのオファーがあっても、地方政府ではフィージビリティスタ

ディや適正技術の調査等の能力がなく、それらを活用できていない。

○地域経済開発も視野に入れた再エネ・電化ビジネスの展開

参加者は、日本の地域市民電力のビジネスモデルの成功要因の一つに、地方自治体の役割

もあると感じた。地方自治体による電力買取に関する契約や中央政府との資金の分担など

に、非常に重要なヒントがある。ただし、電化率が 100%の日本と電化されていない地域が

まだ多いインドネシアは状況が大きく異なる。未電化地域でまだ電力需要が非常に限定的

な状況において、再エネ導入のために生じる追加的費用に対する支払いを地域住民に請求

するのことは難しい。

このような状況において、事業への資金提供のみならず、再エネ利用・電化促進に対する

地域住民の教育や能力開発も行うことで、彼ら自信が利益を得られるようなビジネスモデ

ル作りに対して支援することも大事である。例えば、農林水産業においては、再エネ事業促

進と農業の活性化を結びつけるような事業を検討することも重要と考えられる。

148

第6章 インドネシアにおける省エネルギー・再生可能エネルギー導入普及に向

けた政策提言

6.1. 省エネルギー

インドネシアでの政策面での省エネルギー推進としては、エネルギー多消費産業を対象

としたエネルギー管理制度、ならびにエアコン、照明を対象とした MEPS の導入が挙げら

れる。さらなる政策形成が検討されているものの、ビジネスとして事業者の主体的な行動に

より省エネルギー推進を行うことで産業、家庭、業務等、幅広い部門に対して高効率技術の

普及を加速化させることが重要であると考えられる。

以下では省エネルギービジネスの推進として検討した①CHP、②ディマンド・サイド・マ

ネージメント、③省エネリース、④コールドチェーンにおける高効率冷蔵設備の導入ならび

に⑤電力における需要部門での省エネルギー効果の検討について、インドネシアでの推進

を念頭に政策提言をまとめる。

CHP

インドネシアにおいて CHP の普及を促進するには熱需要の多い産業セクターを対象に可

能できるが、ほとんどの企業が資金力や能力等の面で CHP の建設と運用ができないため、

専門的ノーハウを有する事業者による推進が欠かせない。

しかしながら、こうした事業者であっても、(1)一事業者一供給エリアといった制度並

びに、系統連携費用に関する(2)Parallel Operation Cost の支払いが規制として存在するた

めに、現状では PLN と何らかの協業を避けて通れないと思われる。そのため、日本のビジ

ネスコンソーシアムと PLN が共同 CHP 事業者を創設するビジネスモデルが必要である。こ

のビジネスの中核は CHP 事業で工場のエネルギー消費の削減で得られた収益を PLN と分

け合うことで、制度面のビジネス環境の改善を図っていく狙いである。

このビジネスモデルは(1)一事業者一供給エリアといった制度並びに、系統連携費用に

関する(2)Parallel Operation Cost の支払い課題を解消できる。こうしたビジネスモデルを

推進し、インドネシアにおいて本格的に CHP の導入を図るには、インドネシア政府として

以下の努力を行う必要があるのではと考えられる。

5. 現在のライセンス規定を緩和して、ライセンスの発行条件を制定して、資格に満たして

いる事業者にはライセンスを発行すること。

6. 高額なパラレルオペレーションコストの請求を CHP 事業として成り立つ水準まで引き

下げること。

7. 提案したビジネスモデルに積極的に参加できるようインドネシア政府が PLN 社に促す

こと。

8. インドネシアの国家エネルギー関連政策および計画に CHP への支援を明確にすること。

149

ディマンド・サイド・マネージメント

インドネシアでのディマンド・サイド・マネージメントの効果は発電設備の投資回避に大

きく貢献できるポテンシャルを有している。他方、分析されたポテンシャルを実現するにあ

たっては、カリフォルニアで実施されているような包括的な制度形成が必要であり、消費者

からの資金負担を原資とするリベートや低利融資等の経済インセンティブを付与し、推進

する必要がある。そこでの電力会社の役割は、消費者に対するインセンティブにかかわる情

報提供等、単なるエネルギー供給事業者としての役割のみならず、サービスプロバイダーと

して役割を転換させることが重要となってくる。

カリフォルニアの場合は、第一次石油危機後、省エネルギーを「First Fuel: 第一の燃料」と

して位置づけ、制度形成を行うとともに、電力事業者と政府が議論を重ねながらこうしたデ

ィマンド・サイド。マネージメントにかかわる仕組みを形成してきた背景がる。資源国であ

るインドネシアにおいて、こうした取組みを定着させる事は容易ではないものの、マレーシ

アでの取組みのように、消費者に対する省エネ情報の提供を電力事業社であるテナガナシ

ョナルが実施する Home Energy Report の配布から手始めに実施するといったことも検討に

値するだろう。

インドネシアの場合は、国家電力計画である RUKN 及び電力事業計画である RUPTL では

ディマンド・サイド・マネージメントに係る記載がなされていない。これらの計画において、

立案段階から分析手法の共有をするなど、需要側での効率改善の経済性を電力事業社なら

びに政府が認識するような支援を継続する事が重要である。

省エネリース

インドネシアでは、省エネ機器への投資は投資回収期間が 1~2 年未満のものに限られる。

省エネ機器の導入は、初期投資が高く、返済期間が長くなるため、普及のハードルとなって

いる。

こうした省エネ機器導入に関する課題を解決する手段として、リース料の一部を補助す

る仕組みを形成、新たな省エネ基金(EE Fund)を設立することは、省エネ機器の普及を促

進する可能性がある。この基金の資産管理は、運用機関によって実施されることが望ましい。

また対象となる技術は、高効率エアコンなどの高効率設備として、省エネ基金からの補助金

によって、リース料の割引を受けることができる。リース会社から ESCO 等の省エネ専門

家からのアドバイスを受けることが期待できる。

コールドチェーン

インドネシア全体では、高効率冷凍冷蔵機器を導入することにより、2030 年に BAU 比で

約 20%のエネルギー需要の節減ポテンシャルを有している。ただし、エネルギー需要の節

減は段階(指数関数)的に増加するため、早期からの省エネルギーへの取組みが必要である。

150

また、オフグリッド地域においては、先行研究から省エネルギー・再生可能エネルギー技

術を用いたコールドチェーンを整備することにより、一般的な便益である省エネルギーに

よるエネルギー支出節約や CO2 排出量の削減に加え、農作物の廃棄ロスの減少とそれに伴

う所得向上や、新たな雇用を創出するなど、多くの副次的な便益を有することが明らかにな

った。

他方で、オフグリッド地域では資本の制約が厳しいことや資金調達に関する情報ならび

に知見が不足していることから、初期費用の資金調達がコールドチェーン普及の障害とな

っているため、初期段階では、政府や国際機関などによる金融的なサポートが必要である。

しかし、将来的にはこのような地域においても、所得向上に伴い、国際的な援助や政府に

よる支援によらない自律したビジネスモデルへ段階的に移行すべきであろう。

オフグリッド地域へコールドチェーンを普及させるためのスキームとして、”Pay as you go”

を活用したビジネスモデルを提言する。”Pay as you go”とは、利用者がサービスを利用した

分だけ対価を支払う仕組みである。例えば、”Pay as you go”のスキームを利用することによ

って、アフリカやインドを中心にオフグリッド地域への太陽光発電の導入が急速に普及し

ている。“Pay as you go”サービス提供会社は、オフグリッド地域へ冷凍冷蔵機器を導入する。

利用者は、冷凍冷蔵機器を利用する度に“Pay as you go”サービス提供会社へ利用料を支払

う。“Pay as you go”スキームを活用することにより、利用者はコールドチェーン導入の障害

になっていた初期費用を負担せずに冷凍冷蔵機器を利用できる。しかし、先行事例で示唆さ

れたように、コールドチェーン普及の初期段階では事業の採算性が不透明なため、“Pay as

you go”サービス提供会社がこのような事業に参入しない可能性もある。その際は、政府や

国際機関等が補助金ないしは低利融資などの形で“Pay as you go”サービス提供会社へ資金

の援助を行うことにより、事業リスクを軽減する施策も必要になると考えられる。

電力部門での省エネ分析統合

インドネシアとして、発電容量の増強に向けた目標が提示されているところ、供給余剰に

関する懸念もあり、特に IPP 契約を締結する PLN の財政負担が大きく懸念される。インド

ネシアにおいて、消費者に対する配慮から、追加電源の費用を電力料金に転嫁することは容

易でない。

他方、現状の RUPTL や RUKN の策定手法は、州ごとの電力需要を集約したものとなって

おり、省エネルギーの推進といった他のエネルギー政策との整合性が担保されていない点

は改善すべきである。

経済成長見通しを下方修正し、新たな RUPTL や RUKN を策定すると政府・電力事業者が

方針を示しているものの、需要側での効率改善に関するポテンシャルを代替シナリオとし

て提示するといった試みは現状ではなされていない。

研究結果が提示するように、需要側での高効率技術導入は、費用対効果が高く、インドネ

151

シアの発・送・配電にかかわる設備投資の節減にも貢献しうる。こうした回避設備投資は、

オフグリッド地域への再エネ導入や電化等、インドネシア社会経済に貢献しうる形での活

用が可能である。

すなわち、インドネシア政府ならびに電力事業者として、需要側での高効率技術導入にか

かわるポテンシャルを把握し、代替シナリオとして形成するなど、将来の電力需要を満たす

ために複数の道筋が存在することを認識した上で、電力供給計画を策定することが重要で

ある。

6.2. 再生可能エネルギー

インドネシア現地研修および日本招聘から見出された、地方再エネビジネス促進に向け

たインドネシア側の課題・要望を下記のように整理する:

課題・要望:

・地方政府関係者および人材育成センター講師は、再エネプロジェクトの財務分析に関す

るフォローアップ研修を要望している。

・地方政府関係者の見解に基づくと、地方再エネビジネス促進策と地域発展計画を統合的

に進めるべき。

・地方政府関係者は、PLN の系統が地方まで延長される際の当該地域における既存の再エ

ネ電化マイクログリッドシステムの存続を懸念している。

・全参加者は、日本の地域再エネビジネスモデルに非常に強い関心を持っている。

・中央政府から地方政府に割り当てられる地方電化用特別予算の効果的活用、再エネ設備

導入後のメンテナンス等運営管理の構築が課題である。

・地方再エネ電化が地域経済発展にも貢献するような仕組みづくりが必要である。

・現在の系統連系要件(グリッドコード)に対して、太陽光発電や風力発電など出力変動型

再エネも対象とするような改定が必要。

これらの課題や要望に基づき、地方の再エネ開発および地方政府関係者主導の再エネビ

ジネスを促進させるために、以下 3 点の政策提言を行う。

提言 1:地方政府に対する再エネ電化プロジェクト実施のための総合能力開発

本事業の調査結果に基づくと、インドネシアにおける再エネ地方電化促進に対する大き

な障壁の一つとして、地方政府の能力不足が挙げられる。地方政府には中央政府から地方電

化用特別予算が割り当てられているものの、この予算を有効活用するノウハウを持ち合わ

せていないことが最大の障壁である。

このノウハウには、再エネの技術的特徴・課題に関する知識、プロジェクトの経済性評価

を行うための財務分析に関する知識がベースとして含まれるとともに、どのような電力シ

152

ステム(地方電化の多くの場合はマイクログリッド)を構築するべきか、どのようなビジネ

スモデルが適切かなどの計画立案能力、また、システム・ビジネスモデル設計後に必要とな

る機器・設備調達のための入札仕様の作成や事業開始後の運営管理体制の構築に係る能力

も含まれる。

今回のインドネシア現地研修では、再エネの技術的特徴・課題や財務分析に関する研修を

行ったが、特に財務分析の必要性に対する要望が強かった。したがって、引き続き、財務分

析に関する能力開発は必須と考えられる。一方で、上述のように、計画立案から、機器・設

備調達、建設、メンテナンス、運営管理にいたるまでのプロジェクト全般における能力開発

も併せて必要となる。

しかしながら、このような地方政府関係者の能力開発には特定の教材があるわけではな

く、また短期的な座学で習得できるものでもない。まずは、我が国の地域再エネ電力ビジネ

ス等先行事例でのノウハウや課題を継続的に共有していくことが、ベースとして必要と考

えられる。

次に重要な点は、実際にプロジェクトを実施すことである。つまり、実地訓練(learning

by doing)である。プロジェクトの計画立案から運営管理まで地方政府関係者が一気通貫で

経験することが最も効果的な能力開発となる。この実地訓練には、プロジェクト全般を指導

する専門家の長期派遣が必要となる。専門家指導の下、実際にプロジェクトを実施すること

で、地域職員の能力の底上げが期待される。

なお、再エネ地方電化プロジェクトの実施においては、ハード面のみならずソフト面にも

視野に入れることが望ましい。地域経済振興も視野に入れている我が国の地域再エネ電力

ビジネスモデルが参考となる。したがって、地方政府関係者の能力開発のために、我が国の

地域再エネ電力ビジネスモデルに基づいた再エネ地方電化による経済振興パイロットプロ

グラムを実施することを提言する。再エネ地方電化のみならず、再エネ地方電化によっても

たらされる、生活水準向上、地域産業振興、雇用創出などの経済波及効果も含めたプログラ

ムの実施が、能力開発にとって非常に効果的であると考える。

提言 2:既存再エネマイクログリッドの PLN 送配電綱への接続に対する支援

PLN による送配電綱の建設には時間と多額な投資を要するため、短期的に PLN 送配電綱

の普及見込みがない地域では、中央政府関連省庁と地方自治体の主導で、小水力などをベー

スとした再エネマイクログリッドによる電化システムを構築し、マイクログリッドの運営

を地元のコミュニティに譲渡している。当該地域に PLN 送配電綱が拡張される際に、既存

のマイクログリッドが電力供給事業者として PLN 送配電綱に接続(いわゆる parallel

operation connection)できるなら、地元コミュニティの電力供給ビジネスが維持されるとと

もに、PLN のバックアップによってより安定的な電力供給も実現できる。しかしながら、

PLN 送配電綱との parallel operation connection を実現するためには、マイクログリッド事業

153

者は、PLN との接続要件を満たさなければならない。また、MEMR Regulation No. 1/2017 に

よって、電力調達費用に加えて PLN への parallel operation connection 費の支払いも要求され

る。現状では、PLN 送配電綱への parallel operation connection は地方のマイクログリッド事

業者にとっては技術的にも経済的にも対応が困難であり、地方関係者は、マイクログリッド

の撤去を余儀なくされることを懸念している。

地方の再エネ電力供給ビジネスを促進する観点から、既存の再エネマイクログリッドは

PLN 送配電綱への parallel operation connection が重要であり、それを実現するためには、中

央政府と PLN の支援が必要である。中央政府の支援策としては接続条件を満たすための技

術支援とともに、parallel operation connection 費の減免措置も考えられる。また、PLN は、系

統の安定運用を大前提としつつも、再エネマイクログッドの接続要件を、地方のグリッド運

営事業者でも理解・対応できるように、簡略化することが望まれる。

また、現在の PLN の系統連系要件(グリッドコード)には、太陽光発電や風力発電など

が対象となっていない。系統連系要件は、系統事故等に伴う電圧や周波数の変化に対して、

電力系統の安全・安定的な運用を維持(電力品質の確保)するために、発電機等(主に分散

型電源)に求められる運転継続領域や制御方法に関する規定である。国によって異なるが一

般的には、例えば、系統事故によって生じる低電圧時にも発電機を停止させず運転を継続さ

せる FRT(Fault ride-through)機能を分散型電源にも装備させたり、事故等によって系統と

系統側の電源が切り離された状態において、連系している他の発電設備等の運転のみで発

電を継続できる単独運転(Islanding Operation)の可能な範囲を示したりしている。出力変動

型再エネの導入の拡大につれて電力品質の確保が困難になるため、より詳細な系統連系要

件の整備が必要となる。したがって、インドネシアの系統連系要件改正に向けた技術的支援

や能力開発も必要となる。

提言 3:低人口密度地域における携帯電話を活用した Pay-As-You-Go ソーラー

人口密度の低い地域では、Off-grid の電化手段が送配電綱建設より経済的に優れる可能性

がある。太陽光発電と蓄電池のコスト低減および性能の向上によって、地方電化へのソーラ

ーホームシステム(SHS)の活用が注目されている。アフリカでは近年、携帯電話による決

済手段の普及に伴い、Pay-As-You-Go(PAYG)ソーラーという電化手段の利用が拡大してい

る。PAYG のビジネスモデルは、無電化世帯に対して頭金ゼロで SHS を導入し、契約期間

内 67で毎月一定の契約料金を携帯電話経由で SHS 販売業者に支払い、契約期間終了後 SHS

システムの所有権は消費者に譲渡される仕組みである。

PAYG のようなビジネスモデルが可能になった背景には、携帯電話を通じた電子決済サー

ビス(モバイルマネー)プラットフォームの構築がある。途上国では銀行口座を開設してい

67 1 年間、または 2~3 年間

154

ない、または開設しても利用していない人口が多く、これらの消費者の支払手段は現金とな

る。モバイルマネーはこのような消費者に対して新たな支払いチャンネルを提供すること

ができる。

したがって、携帯電話を活用した PAYG ソーラーは、インドネシアの人口密度の低い地域

における電化手段としても期待できる。

インドネシアでは、未電化世帯に対して、無償で簡易 SHS を設置する場合が多いが、携

帯電話を使った PAYG ビジネスモデルの活用は、政府の補助金負担削減に繋がる。また、

SHS のコスト削減と機能向上によって、電力需要が増加してもシステムのスケールアップ

により対応可能である。アフリカで普及している SHS は太陽光発電、蓄電池、高効率ラン

プ、携帯充電機で構成され、その他、ラジオ、直流テレビ、直流冷蔵庫などもオプションと

して追加できる。SHS は貧困対策や経済活性化としての効果もある。

インドネシアでは 15 才以上の人口のうち金融機関の口座を保有している人の割合は 36%

弱にとどまる(2014 年世界銀行の統計)。一方で、携帯電話の普及率は 100%を超えており

(世界銀行によると 2016 年の携帯電話普及率は 149%)68、遠隔地域でも携帯電話は普及し

ている。PAYG ソーラーシステムの導入をきっかけに、携帯電話の決済機能による、買物、

送金、社会保険の受取りなどにまで拡大することも期待される。このような新たな手段で低

所得層に金融サービスを提供することで、貧困対策にも貢献することができる。

[参考文献]

• 島本 和明(2014)「インドネシアの電力事情」(経済産業省 平成 25 年度国際即戦力

育成インターンシップ事業)

• エネルギー鉱物資源省 再エネ・省エネ総局 2017 年 11 月ジャカルタ現地研修講義資

料 (図引用:インドネシアにおける地域別の電化率)

• Asian Development Bank (2015) “Achieving Universal Electricity Access in Indonesia”

• エネルギー鉱物資源省 再エネ・省エネ総局 2017 年 11 月ジャカルタ現地研修講義資

料 (画像引用:LTSHE システム)

• エネルギー鉱物資源省 電力総局 (2015) “Statistik Ketenagalistrikan 2015”

• World Bank Databank World Development Indicators

http://databank.worldbank.org/data/databases.aspx

• エネルギー鉱物資源省-JICA 「Working Together to Provide Electricity for All Renewable

Energy for Village Electrification in Indonesia」(委託先:TUSK)

68 The World Bank Databank, World Development Indicators

155