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序章 危機に立ち向かうヨーロッパの生協に学ぶ 芳賀唯史 5

1.はじめに

2.日本生協連「2020年ビジョン策定検討委員会」の欧州視察

3.日本の生協が学ぶべきこと

4.未来を語ること

第1章 イギリスの生協事業の回復 天野晴元 15

1.事業力を回復したイギリスの生協の小売事業

2.CGの事業規模の拡大:生協合併と企業買収の現状

3.生協のブランドの統一性確保とイメージ向上

4.生協全国仕入機構(CRTG)について

第2章 イタリアの生協の新たな構造改革 大津荘一 35

1.2003年~2009年の政治経済の変遷

2.生協の事業構造改革

3.21世紀への新たな挑戦を定めた第1回代議員総会

4.未曾有の経済危機に対応した第2回代議員総会

5.イタリアの生協の事業成果

6.組合員の参加と相互扶助

7.生協の商品政策

8.生協の社会的責任の発揮

9.イタリア生協の2010年計画

10.おわりに

目次

3

目  次

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第3章 ミグロ生協の事業革新による挑戦

アイザック・ヤウ・アスィードウ 93

1.はじめに

2.事業環境の変化

3.ミグロの歴史と理念

4.ミグロの組織構造とガバナンス

5.ミグロの事業戦略

6.ミグロの商品戦略

7.持続可能性への取り組み

8.ミグロの2008年度事業業績

9.おわりに

第4章 スウェーデン生協連の事業経営改革の取り組み 藤井晴夫 123

1.はじめに

2.KFと上位生協の合併

3.北欧3ヵ国の事業連帯:COOPノルデンの設立

4.COOPノルデン設立後のKFの業績推移

5.COOPノルデンの解散・再編

6.KFの新たな事業経営改革

7.KFのビジョン,付加価値戦略,組織として大切にする価値

8.おわりに

資料編 ――――――――――――――――――――――――― 137

1.欧州3生協の主要経営指標と財務の分析

――イギリス・スイス・スウェーデン 139

2.CG 2009年度年次報告書 151

3.イタリア生協の価値憲章(2009年改正版) 173

4.ミグロ生協連 2009年度年次報告書 193

5.KF 2009年年次報告書 221

6.スコットランド,フィンランド,スウェーデン,スイスの協同組合セクターの比

較分析 249

4

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序章

危機に立ち向かうヨーロッパの生協に学ぶ

芳賀唯史日本生活協同組合連合会 専務理事

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1.はじめに

産業革命により資本主義経済が本格化した19世紀半ば,イギリス・

マンチェスター郊外の小さな町ロッヂデールで創立された公正開拓者

組合が近代的な生協運動の始まりであったことは言うまでもありませ

ん。ロッヂデール公正開拓者組合の実践の中から,世界の協同組合が

遵守すべき「運営原則」が導き出されます。この「運営原則」に基づ

き設立され活動を開始した生協は,ヨーロッパにとどまらず世界中で

大きく発展していきます。日本を始め世界中の生協は,この間一貫し

て先進ヨーロッパの生協の経験に注目し,学び続けてきました。ヨー

ロッパの生協は,成功・発展の歴史だけを刻んできたのではありませ

んでした。いくつかの国での重大な衰退や,さらに組織崩壊の経験も,

私たちに多くのことを教えてくれました。ICA創立100年を記念して

1995年にイギリス・マンチェスターで開かれた総会では,特に資本

主義的企業との激しい戦いを勝ち抜いていく「武器」として「協同組

合のアイデンティティに関するICA声明」(定義・価値・原則)を決

議しました。

2010年,世界は大きな転換期の只中にあります。資本主義社会に

対抗して生まれた社会主義(共産主義)の国々が20世紀終盤には相次

いで崩壊し,その後あまねく世界を覆いつくすかと思われた資本主義

経済も現在,深刻な危機状態にあります。そうした中で,協同組合が

果たす役割への期待が,世界的にかつてなく高まっていると言って間

違いではないでしょう。国連が2012年を「国際協同組合年」とする

ことを決議したのもその象徴的なできごとです。日本生協連も,2010

年に総会決定した第11次全国生協中期計画を「経済・くらし・経営」

の3つの危機への対処をめざす計画として位置づけ,あわせて「危機

を克服して未来への展望を開く」ために「2020年ビジョン」を策定

することを決議しました。こうした中で,今,改めてヨーロッパの生

序章

7

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協の経験を学び直すことが極めて大切だと考えています。

2.日本生協連「2020年ビジョン策定検討委員会」の欧州視察

2009年11月15日から1週間,「2020年ビジョン策定検討委員会」

の欧州生協視察団の一員として,イギリス,イタリアの生協を訪問し

ました。検討委員会の視察団は,イタリアの後にスウェーデンを訪問。

私は,スイス・ジュネーブで開かれているICA総会に参加しました。

そこで見たこと,感じたことをレポートします。

【衰退から反転攻勢に転じているイギリスの生協】

イギリス最大の単位生協であるCG(コーポラティブ・グループ)

は,国内第2位の規模だったユナイテッド生協を2007年に統合し,

2008年度で供給高104億ポンド(約1兆7千億円),店舗数4,500の

世界最大の単位生協となりました。事業の中心を占める食品部門が08

年度に前年比23%増(2生協統合影響除くと7%増),09年度も引き

続き供給高増加の見通し,と競争相手を上回る伸張を維持しています。

さらに09年初頭に中堅SMチェーンのサマーフィールド社を買収して

グロサリー(食品・日用雑貨)市場でのシェアを2%以上向上させ8

~9%としました。上位4社(テスコ30%,アズダ[ウォルマート]

17%,セインズベリー16%,モリソンズ11%)との開きは大きいので

すが国内第5位の地位を確保しています。

1990年代の衰退状況(一時20%あったシェアが2%台に転落)を

克服できた要因は以下の4点にまとめられると思います。

①店舗戦略の大胆な転換:郊外型大規模店から撤退し,住宅地内のス

ーパーマーケットと100坪以下の小型店に経営資源を集中したこと

です。

②生協間事業統合の推進:共同仕入れ機構であるCRTG(生協全国仕

入機構)へ商品仕入れと商品開発機能を集中させ,一方でCGが国

内生協事業の90%を占めるようになるまで単位生協合併を推進した

8

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ことです。

③ブランドの統一と店舗イメージの一新:The Co-operativeへ店舗

名称を統一し,ファザードも改装・統一,職員の制服や商品パッケ

ージも一新しました。

④倫理的企業としての事業戦略強化:09年度のキャンペーンテーマは

「気候変動」「国際協力」「若者」。世界最大の再生可能エネルギー購

入者であり風力発電事業も開始,フェアトレード商品の拡大(08年

度は44%増),子ども達への大規模な食育計画(2万人が直営農場を

訪問),動物福祉の考え方にかなう食肉・卵の供給などで協同組合

としてのアイデンティティを強力に打ち出しています。

【国内第1位のシェアを堅持し,さらに成長を続けるイタリアの生協】

イタリアの生協全体で,グロサリー(食品・日用雑貨)のチェーン

ストア業界市場で18%シェアという圧倒的強さを維持しています。第

2位オーシャン,第3位コナード,第4位カルフールのシェアがそれぞ

れ10%前後のシェア率なので,断トツの1位です。2009年から3年以

内に66店舗(うちハイパーマーケット24店舗)を新設,年間売上高

2兆円超へと成長戦略を描いています。08年度,競争に勝つためにコ

ープ商品価格を20%引き下げ,コープイタリア(イタリアの全国生協

事業連合会)は200億円の赤字決算をしましたが,その赤字は一時的

なもので,コープ商品の供給高は増加スピードを増し,09年度には黒

字に復活する見通しです。近年,コープイタリアとしての意思決定ス

ピードをあげるため9つの拠点生協を3つに統合する議論が開始され

ました。

イタリアの生協が成長を続けている要因は以下の3点にまとめられ

ると思います。

①競争相手に先駆けてハイパーマーケットを出店し続け,圧倒的1番

の地位を確保したこと。

②生協間の合併を進行させ,事業の統合を推進したこと。単位生協は

序章

9

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9つの拠点生協へ。コープイタリアでの全国統一仕入れは食品で

90%,非食品で80%。残りは3つある地域事業連合で機能分担して

います。

③組合員の参加,民主的運営を徹底したこと。第2位の規模の単位生

協コープアドリアティカでは,14の地区で組合員集会を年何回も開

催して,決算報告やテーマ別での討議を組織しています。コープイ

タリアのPB商品は2,500品目。開発に際しては,必ず大規模な組

合員テストを実施。その結果,支持されない商品は発売しません。

テストにかける商品の中で87%は支持が基準に達せず開発をやりな

おすとのことです。だから「発売しても売れないコープ商品は一つ

もない!」とコープイタリアの商品担当役員が自信を持って言い切

っていた姿が印象的でした。

なお,スウェーデンの生協は,国境を越えた事業連帯組織形成に挑

戦しましたが,目標通りの成果をあげることができず,競争相手に国

内シェアで大きく差を広げられ,事業連帯の路線を大きく変更しまし

た。そのいわば「失敗」の理由と変更した路線の詳細については,調

査し切れませんでした。

3.日本の生協が学ぶべきこと

【店舗戦略の明確化】

2.で紹介したようにイギリスの生協は「小型店」(約2,900店),イ

タリアの生協は「ハイパーマーケット」(約100店)と「スーパーマ

ーケット」(約600店)というそれぞれの国の市場で競争力のある店

舗業態を中心に,それをチェーンストアとして(ひとつの経営意思で)

運営するという明確な店舗戦略を持っています。

日本の生協も全国であわせると1,000以上の店舗を運営しています。

しかし1,000のうち300を超える店舗は大規模改装もなしに店舗年齢

が20年を超えており,移り変わりの激しい市場で競争力を無くしてい

10

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ると想像できますし,チェーンストアとして(11店舗以上の店をひと

つの経営意思で)運営されている店は,ごく一部にすぎないのが現状

です。先日,亡くなられたペガサスクラブの主宰者だった渥美俊一氏

は「チェーンストアは200店を突破すると特別のご利益(特にMDと

コスト削減)が出せる」と言い続けておられましたが,残念ながら,

日本の生協は,こうした姿を具体的に計画化できる状態にありません。

「競争力のある店舗業態」の確立と「チェーンストアとしての運営」

(店数増加)志向。この2つが,まずヨーロッパの生協に学ぶべき第1

のポイントだと思います。

【事業の統合推進】

イギリスでもイタリアでも事業の統合を先行させながら,それを追

いかけるように組織の統合(生協同士の合併)も推進しています。日

本では,県内での生協合併は進みましたが,長い間「県域を越えた組

織の統合」が地域生協では法律上許されなかったがゆえに,全国各地

でリージョナル事業連合を結成して,事業の統合だけを進めてきまし

た。しかし,この事業統合はまだまだ未成熟です。「経営意思」がい

くつにも分散している中での事業統合であるがゆえの困難さを抱えて

いますし,そもそも,県内の生協合併が進む中で一つひとつが大きな

規模になっている単位生協の組合員の意思を,生協らしく民主的に「事

業連合」にまで貫徹させるためには複線的で手間と時間のかかる運営

が必要とされるという問題点を組織の構造上抱えこむことになります。

こうした状況の中で,県域を越えた生協間合併などにより,事業の統

合を組織の統合に発展させたいという議論が始まるのは,当然だと考

えます。

しかし,一方,組織統合をどんどん大規模に行うことがすべてを解

決するわけではないことを,北欧の生協の経験は教えてくれます。国

境を越えて設立した株式会社による店舗事業運営はうまくいかず,そ

の間にスウェーデンの生協は競争相手との差を大きく広げられてしま

序章

11

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いました。

事業連合による事業統合の成熟化,さらに県域を越えた生協間合併

なども選択肢にしながら,それぞれの地域における連帯の到達点,ガ

バナンスやマネジメントの能力などを適切に見極めることを前提に,

大胆なリージョナル単位での事業統合をはかること。さらに,日本生

協連の業務品質の抜本的な強化を進め,リージョナル単位での事業統

合と全国レベルでの事業連帯(事業統合)もさらに高次化すること。

これがヨーロッパの生協に学ぶ第2のポイントだと思います。

【協同組合の理念・価値を事業・商品に貫徹させること】

倫理的企業としての事業戦略を強化するイギリスの生協,重要な意

思決定への組合員参加を貫き,商品開発への組合員参加も徹底してい

るイタリアの生協。ロッヂデール公正開拓者組合以来の伝統が育んで

きた協同組合の理念・価値を大切にしていることがわかります。ます

ます激しくなる資本主義的企業との競争に勝ち抜くための核心は,こ

こにあると私は信じています。

私が参加したICA総会でも,世界的な経済危機に直面し,資本主義

体制が行き詰まりを見せている現在「協同組合こそが,この時代に対

応する能力を持っている」という意見が相次いで表明されていました。

ICA総会に参加したカナダの代表は「危機に直面したときの協同組

合は,株式会社と回復力が異なります。その理由は,協同組合は組合

員がつくりあげた資産を慎重に運用することで永続するものだからで

す。実際に,設立3年後の事業者の生存率は,株式会社が48%,協同

組合が75%。設立5年後になると,株式会社が35%,協同組合が

65%。設立10年後になると,株式会社が20%,協同組合が44%と

なります。そのことからも協同組合が永続的に持続できる事業形態で

あると思います」と協同組合の危機からの回復力の高さを確信を持っ

て話していました。

さらに,ICA総会に招かれた著名な学者であるジェレミー・リフキ

12

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ン氏は,世界は経済・気候変動・エネルギーの3つの危機に直面して

おり,人類の経済のあり方を変更しなけばならないと主張し「21世紀

に求められているのは,脱炭素社会を構築する第3次産業革命です。

その基本的な考え方は,エネルギーを地域社会に取り戻すこと。すな

わちコミュニティー単位で考える分散型エネルギーの創出と供給です。

そして,そのコミュニティーを実現させるためには,地球の危機のた

めに取り組むという共感と共鳴が重要です。生協はまさに,協同組合

の理念への共感と共鳴に基づいて集まった人々の組織であるから,こ

の第3次産業革命を担うにふさわしい組織であります」と講演されて

いました。

「人間的要素にもとづく多様化の時代における市場競争は量より質の

競争となる。機械・機器によっては完全に代替されえないという意味

で,不可欠とされる人間の認知資産を活用し,環境親和的な技術や社

会貢献に積極的な企業が,製品市場や資本・労働市場によってますま

す評価される傾向にあることが,国際規模で学術的に明らかにされつ

つある。また,さらにそうなることが経済危機克服の鍵ともなるであ

ろう」(青木昌彦スタンフォード大学名誉教授),「短期の利益を目標

にする企業より,会社の存続意義や社会貢献の理念を重んずる企業の

方が,長期的に成長する傾向がある。企業は社会への『共通の善』を

生み出すように変わるべきだ」(野中郁次郎一橋大学名誉教授)と,経

済学者や経営学者は述べています。協同組合が,その持っている優れ

た理念と価値を事業・商品に貫徹させ,組合員や社会からの視認性を

高めていくことができれば,まさに危機の時代を自らの成長の時代に

していくことができると思います。これがヨーロッパの生協から学ぶ

3つめのポイントだと思います。

4.未来を語ること

現在,日本生協連は2020年ビジョンの討議・検討をすすめていま

す。ビジョン検討にあたって,大事にしていきたいことを私は以下の

序章

13

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ようにお話ししてきました。

「生協が現状から脱却して前進へと転換する鍵となるのは,全国の

生協の役職員や組合員が一緒になって,次の10年の『生協のあるべき

姿』について真剣に考える機会を,どれだけ頻繁に設けることができ

るかにかかっている。またその際には,それぞれの仕事分野や世代ご

とに討論会を行って『夢を語れる場をつくる』という試みも積極的に

行っていきたい。結局のところ,組織が発展するかどうかは,自分た

ちの人生をかけて,その組織発展のために真剣に取り組める人が何人

いるかにかかっている。一人ひとりが,自ら主体的に参加し,意見を

交わし,自分のものとして生協のビジョンを持つ――そのような人を

いかにたくさん作れるか,それが生協の未来を決める」(「生協運営資

料」2010年3月)。

本書は,こうしたビジョン論議に,ヨーロッパの経験を生かしてい

くために,この時期に発刊することにしました。是非,本書を読み,

ヨーロッパの生協から何を学ぶか,読者のお一人おひとりにお考えい

ただきたいと思います。私が学ばなければと感じたことと違うご意見

も当然,出てくると思います。そんなご意見を積極的に交換し合う場

をつくることも,日本生協連や生協総合研究所の重要な役割なのだと

思います。

ヨーロッパの生協の経験は,経済・社会構造や商品流通の構造,文

化・風土も大きく異なる日本にそのまま持ち込むことはできません。

この間,日本の生協は,何度も欧州に視察団を出し,その経験を学び,

生かしてきました。しかし,必ずしも欧州生協の経験や挑戦の状況を

タイムリーに掌握して系統的にまとめ生かしてきたとは言えないのが

現状です。今回の本書の出版を,そうした仕組みを構築するきっかけ

にしたいと思っていることを述べて本稿を終えることにします。

14

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第1章

イギリスの生協事業の回復

天野晴元日本生活協同組合連合会 国際部長 

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1.事業力を回復したイギリスの生協の小売事業

イギリスの生協の小売事業は1950年代半ばまで,食品の20%,小

売市場の12%の市場占有率を誇る1大流通グループとして強い影響力

をもっていたが,その後,時代にふさわしい改革が十分に行われるこ

となく年月を重ね,徐々に生協事業の勢いは失われた(図1・表1)。

すなわち,生協は1990年代まで凋落の一途をたどり,1997年には,

投資会社によるCWS(生協事業連合会:Co-operative Wholesale

Society)とCRS(協同組合小売サービス:Co-operative Retail

Services)非食品部門の買収が企図されるまでに組織力が弱体化した

(CWS乗っ取り騒動)。生協が衰退にいたった理由として,コーペラテ

ィブ・グループが挙げる事項は,巨大チェーンストアとの競合,単位

生協ごとにバイイング機能を保有し続けたことによるセントラル・バ

イイング機能整備の遅れ,物流システム整備・効率化の遅れ,確立さ

れたブランドの欠如,ブランドの重要性に対する意識の希薄さ,投資

第1章 イギリスの生協事業の回復

17

図1 イギリスの企業形態別小売シェアの推移(%)

小売商

100%

80%

60%

40%

20%

0%

チェーン

生 協

1950

65

23

12

1957

12

25

63

1966

58

33

9

1971

7

37

55

1980

7

47

46

1990

4

57

39

注)チェーンストアは10以上の店舗をもつ小売店で,イギリスではマルチプル・ストアと呼ばれる。

出典:Co-operation in the United Kingdom 1945-1993, Journal of Co-operativeStudies No.79, 1994

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戦略の欠如などである。

生協のライバルであったテスコやセインズベリーが,セントラル・

バイイング機能と,明確なブランド・ポジションを作り上げる一方で,

生協は,いろいろな組織がバラバラであり,生協トータルのブランド・

アイデンティティが不明確であったことから,消費者からの支持やサ

プライヤーの信頼が得られなかったということである(1)。

この生協乗っ取り騒動後の1990年代末から,CWSとCRSは生協の

再生と生き残りを図るために,長年の課題であった両組織の合併を真

剣に検討し,2000年4月に合併は実現した。その後,存続組織となっ

たCWSは,同年10月には名称をコーペラティブ・グループ(The

Co-operative Group,以下CGと称する)に変更し,改革のスピード

をあげた。CGは英国内の生協の統合を進め,2007年には,大手の単

位生協として残っていたユナイテッド生協との合併により,世界最大

の単位生協となった。2009年初頭には英国の中堅チェーンストアの

サマーフィールドを買収し,イギリスの食品マーケットで8%以上の

市場占有率に達する国内第5位の流通グループとなり,現在にいたる

(図2)。

18

表1 第2次世界大戦後のイギリスの生協の推移

生協数

組合員数*

職員数*

事業高**

純剰余**

割戻額**

出資金**

1948年

1,030

10,612

503

47

245

1962年

801

13,140

272

1,054

61

44

254

1970年

357

12,056

172

1,143

34

20

156

1980年

206

10,009

115

3,871

34

32

163

1990年

79

8,193

85

6,808

104

26

169

2000年

47

9,724

***65

9,745

187

***10

258

2007年

22

8,100

na

12,653

471

na

na

*千人単位**百万ポンド単位***1999年度出典:Co-operative Union, Co-operative Statistics 等から著者作成

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CGのL.ウォードル会長は2010年年頭のメッセージで,現在のCG

の状況について「われわれは小売業のメインストリームに復帰した。

眠れる巨人だった時代は過去のものとなった」と表現している(2)。

このようにイギリスの生協は,2000年代に入り危機からの復活を

果たした。その復活の道筋を具体的に明示するうえで大きな役割を果

たしたのが「生協のあり方検討会報告書」(Co-operative Commission

Report)の勧告である。この報告書は2000年に当時の労働党政権の

協力を得て設置された「生協のあり方検討会」(Co-operative

Commission)が2001年に公表したものだが,そこにはイギリスの

生協の存在意義と生き残りに必要な方策が勧告として示されていた(3)。

勧告は7章からなるが,その内容は,組合員やコミュニティへの割

戻し率や共同仕入組織(CRTG)のガバナンス改革の仕方,生協ブラ

ンドの全国統一化,生協職員自身が生協の組合員となり組織内民主主

義に参加すべきことなど,きわめて具体的な生協改革の処方箋を提示

している。この処方箋にもとづく生協改革がイギリスの生協を現在の

復活に導いたのであり,その改革の取り組みは現在も進行中である。

なお,イギリスにはCGのほかにも20あまりの単位生協が存在する

が,CGがイギリスの生協事業の約9割,生協小売事業の約7割を占

第1章 イギリスの生協事業の回復

19

図2 イギリス生協のマーケットシェアの推移

25

20

15

10

5

0

食品 総合

1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2008

出典:Co-operation in the United Kingdom 1945-1993, Journal of Co-operativeStudies No.79, 1994ほか

Page 20: 2.CGの事業規模の拡大:生協合併と企業買収の現状coop-book.jp/book/pdf/europe_coop_sample.pdf · 1.2003年~2009年の政治経済の変遷 2.生協の事業構造改革

め,同国の生協の中心である。その他の生協はいずれも小規模であり,

それらの小規模生協は後述する商品共同調達組織CRTGを通じて,CG

と商品の共同調達を行うほか,共通の営業・ブランド戦略を採用して

いる(表2)。

2.CGの事業規模の拡大:生協合併と企業買収の現状

(1)ユナイテッド生協との合併

CGは2000年にCRSと合併した後も全国レベルでの生協合併を進

め,生協の事業基盤強化を図ってきた。直近では2007年7月に独立

の大規模生協として残っていたユナイテッド生協との合併統合が完了

し,イギリスの生協の事業統合は大きく進展した。ユナイテッド生協

との合併の結果,2008年には小売部門の総売上高がCG史上初めて

100億ポンドを超えて104億ポンドに達し,CGは世界最大規模の単

20

表2 イギリスの上位生協

1

2

3

4

5

6

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8

9

10

生協名 組合員* 事業高** 純剰余** 純剰余率

Co-operative Group(全国)***

Midlands(中部)

Midcounties(中部)

East of England(東部)

Scottish Midland(北部)

Anglia(東部)

Lincolnshire(中部)

Southern(南部)

Plymouth & South West(南部)

Channel Islands(南部)

4,633

915

471

517

237

450

149

78

159

102

9,115,100

853,724

711,833

441,187

389,717

349,767

216,700

198,101

160,672

137,126

345,234

15,242

8,584

12,491

4,143

-636

20,236

9,719

3,129

9,156

5.1%

1.9%

1.3%

3.1%

1.2%

-0.2%

10.1%

5.3%

2.1%

6.7%

*単位:千人,**単位:百万ポンド,***CGの2008年度事業高は10,435百万ポンド(4)

出典:Co-operative UK(2008)Co-operative Review 2008