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翻プラズマ・表面相互作用特集 小特集 多様なPSI現象 2.プラズマ・表面相互作用素過程 2.2低エネルギーイオン衝突における非金属表面からの荷電粒子放出 保坂一元1),俵 博之 (核融合科学研究所) Fundamental Processes Related to PSI Charged Particle Emissions from Non-Meta皿c Surfaces unde HOSAKA Kazumoto and TAWARA Hiroyuki ハ履乞o解1乃zs漉厩6プ∂7E%sづon So勿%6召,To玩509-5292,1砂伽 (Receive(111January l999) Abstract We discuss、charged particle emissions induced by low energy ion impac has been shown tkat the secondary electron emission yields(γ一)observed 2-3times larger than those for metallic targets.As special phenomell Coulomb explosion phenomena,the incldent ion flux dependence ofγ一an pendence ofブare described.Furthermore,it is found that the secondary metallic targets are larger than those from metallic targets。It is als responsible for ion emissions from non-meta皿c surfaces induced by lo different from those for metal targets. Keywords= non-metallic surface,oxidized metal,lon impact,secondary electron em 2.2.1 はじめに 実験装置,特に超高真空および表面処理の技術の発展 に伴い,金属表面と運動エネルギーを持ったイオンとの 相互作用に関する精密な研究が,ここ20年程の問に盛ん に行われようになった.その結果,清浄な金属表面から の粒子放出の機構等は比較的よく理解されるようにな り,これらの知見は様々な分野で応用され,成功を収め ている.一方,非金属標的を用いた研究は,半導体の表 面加工など,実用的な分野において精力的に研究が行わ れ,発展しているものの,基礎的研究は金属標的に比べ て困難という理由もあり,十分に研究されているとは言 い難く,まだ研究途上の領域が多い.しかしながら,非 金属表面とイオンの相互作用に関する研究は,基本的な 表面物理現象の理解のみならず,多くの応用分野にとっ ても非常に興味深い分野である.たとえば,粒子検出器 や走査顕微鏡においては,二次電子放出は最も重要な機 構の一つである.さらに,超大規模集積回路(VLSI)の エッチング技術においても,表面に蓄積される電荷の間 題は,加工精度に重大な影響を与えることが知られてい る.さらに,核融合炉におけるプラズマ壁相互作用を理 解する上でも,電子,イオン,原子の放出機構の解明は 重要な課題である. co77θs1)oπdrわzgαz6オho7勾2一多フ¢α乞ゐんosα為ごz@アzカも.ごzε4∫》 1)日本学術振興会特別研究員 334

2.プラズマ・表面相互作用素過程jasosx.ils.uec.ac.jp/JSPF/JSPF_TEXT/jspf1999/jspf1999_04/...翻プラズマ・表面相互作用特集 小特集 多様なPSI現象 2.プラズマ・表面相互作用素過程

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翻プラズマ・表面相互作用特集

  小特集

◎  多様なPSI現象

       2.プラズマ・表面相互作用素過程

2.2低エネルギーイオン衝突における非金属表面からの荷電粒子放出

保坂一元1),俵  博之   (核融合科学研究所)

           Fundamental Processes Related to PSI

Charged Particle Emissions from Non-Meta皿c Surfaces under Low Energy Ion Impact

  HOSAKA Kazumoto and TAWARA Hiroyuki

ハ履乞o解1乃zs漉厩6プ∂7E%sづon So勿%6召,To玩509-5292,1砂伽

      (Receive(111January l999)

Abstract We discuss、charged particle emissions induced by low energy ion impact on non-metallic surfaces.It

has been shown tkat the secondary electron emission yields(γ一)observed in non-metallic targets are

2-3times larger than those for metallic targets.As special phenomella in non-metallic targets,the

Coulomb explosion phenomena,the incldent ion flux dependence ofγ一and the target temperature de-

pendence ofブare described.Furthermore,it is found that the secondary ion emission yields from non-

metallic targets are larger than those from metallic targets。It is also shown that the key mechanisms

responsible for ion emissions from non-meta皿c surfaces induced by low energy ion impact are very

different from those for metal targets.

Keywords=non-metallic surface,oxidized metal,lon impact,secondary electron emission,secondary ion emission

2.2.1 はじめに

 実験装置,特に超高真空および表面処理の技術の発展

に伴い,金属表面と運動エネルギーを持ったイオンとの

相互作用に関する精密な研究が,ここ20年程の問に盛ん

に行われようになった.その結果,清浄な金属表面から

の粒子放出の機構等は比較的よく理解されるようにな

り,これらの知見は様々な分野で応用され,成功を収め

ている.一方,非金属標的を用いた研究は,半導体の表

面加工など,実用的な分野において精力的に研究が行わ

れ,発展しているものの,基礎的研究は金属標的に比べ

て困難という理由もあり,十分に研究されているとは言

い難く,まだ研究途上の領域が多い.しかしながら,非

金属表面とイオンの相互作用に関する研究は,基本的な

表面物理現象の理解のみならず,多くの応用分野にとっ

ても非常に興味深い分野である.たとえば,粒子検出器

や走査顕微鏡においては,二次電子放出は最も重要な機

構の一つである.さらに,超大規模集積回路(VLSI)の

エッチング技術においても,表面に蓄積される電荷の間

題は,加工精度に重大な影響を与えることが知られてい

る.さらに,核融合炉におけるプラズマ壁相互作用を理

解する上でも,電子,イオン,原子の放出機構の解明は

重要な課題である.

co77θs1)oπdrわzgαz6オho7勾2一多フ¢α乞ゐんosα為ごz@アzカも.ごzε4∫》

1)日本学術振興会特別研究員

334

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小特集 2.2低エネルギーイオン衝突における非金属表面からの荷電粒子放出 保坂,俵

 一言に非金属材といっても,その内訳は様々である.

電気的抵抗の立場から考えると,半導体,絶縁物である

が,その中には,酸化物,アルカリハライド,凝縮気体

等,物理的性質が異なる多くの物質が含まれている.先

に述べたように,このような多種多様な材料に対して,

系統的に十分な研究が行われているとはいえない.ここ

では,酸化物,アルカリハライド表面からの荷電粒子放

出の研究で得られている最近の成果を金属表面の場合と

比較し,我々の研究結果と併せて紹介したい.また,表

面処理・加工を行わない金属の表面は,通常,酸化膜に

被われている場合が多く,金属の酸化被膜表面からの二

次粒子放出は清浄な金属表面と大きく異なる.実際に

データを用いる際には,これらの差異が重要になるため,

酸化被膜金属表面についても言及する.

2.2.2 二次電子放出

 イオンが固体に入射すると,電子放出という現象がお

こることはよく知られており,スパッタリングと並んで

最も重要な二次粒子放出現象のひとつである.二次電子

放出には様々なメカニズムがあるが,本稿では,全二次

電子放出が,入射イオンのポテンシャルエネルギーが寄

与する部分と入射イオンの運動エネルギーが寄与する部

分の和で記述できる低エネルギー領域について考える.

ここで,前者をポテンシャルエミッション(拒),後者を

カイネティックエミッション(γK一)と呼ぶ.すなわち,

全二次電子放出率(入射粒子あたりの放出電子個数)は,

ヅ=γp一+γK一と表すことができる.

 γガは,入射イオンのポテンシャルエネルギーが標的

の仕事関数の2倍よりも大きい場合に,Auger過程に

よって放出される.Hagstrum[1]によって初めて理論

的な研究がなされた後,Kishinevsky[2]は,金属標的

に対する拒を次の式で表した.

  0.2拒二耳(α8EPr2φL (1)

ここで,届は標的のフェルミエネルギー,φは仕事関数,

EPEは入射イオンのポテンシャルエネルギー(電離エネ

ルギーの和)を表す.さらに,Baragiola[3]は,(1)式

と金属標的一低価数イオン衝突において測定されたデー

タをもとに,

γP一=O.032(0。78EPE-2φ), (2)

を提唱した.これらの式は比較的低価数のイオンの場合,

実験値とよく一致するが,多価イオンにおいては必ずし

も一致しない.

 γK一に関しては,いくつかの理論的研究があり,その

多くは通常,以下の3段階を経て放出されるというモデ

ルに基づいている:

1)入射イオンの運動エネルギーの付与によって,固体

 中の電子が束縛状態から解放され,自由電子が生成さ

 れる.

2)これらの電子が固体中を移動拡散する.

3)表面近傍に移動してきた電子が表面でのポテンシャ

 ルバリア(ここでは,固体中の電子を真空へ取り出す

 ための最低エネルギーを意味する.金属標的の場合は

 仕事関数に等しい)を超えて,固体中から真空中に出

 ていく.

1)の段階では,励起,電離等の多くの現象が考えられ,

二次電子放出率と電子的阻止能の入射イオンエネルギー

依存性は同じ傾向を示すという実験事実からもわかるよ

うに,入射イオンによって付与されたエネルギーS,(電

子的阻止能)のうち,入射イオンのエネルギーに依存し

ない,一定の割合のエネルギーが,二次電子放出率に関

与するものと考えられる.すなわち,

拠一=左Se, (3)

である.ここで,比例係数辺」こは,自由電子生成に必

要な平均エネルギーや,電子が固体中を移動拡散する際

の平均自由行程,さらには,表面から真空中に放出され

る際のポテンシャルバリアを越える確率が含まれる.し

たがって,二次電子放出が起こるための入射イオンの運

動エネルギーにしきい値が存在する.金属表面における

雑ξにおいて,特に軽イオン入射の場合,この比例係数

コ_は標的および入射イオンの種類にほとんど依存せず,

~onl nm/eV程度であることが知られている[4].

 一般に,非金属表面からのγK一は,自由電子を多く持

っている金属からのものより大きく,金属標的の場合と

同じようにγK一が電子的阻止能に比例することが最近わ

かってきた.しかし,その比例係数は,酸化物標的の場

合は金属にくらべ2~4倍程度大きい(Tablel).この

違いは,主に2つの原因が関与していると考えられる.

その一つは,二次電子の平均自由行程である.絶縁物で

は,伝導帯内の電子密度が金属に比べ圧倒的に低いため

固体内の電子間相互作用が少なく,生成された低エネル

ギー自由電子のエネルギー損失は少ないと予想される

(Fig.1)[8].さらに,バンドギャップ内にカラーセンター

等のトラップ密度が低いイントリンシックな絶縁体で

は,電子一ホール問の再結合確率が低く,平均自由行程

335

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プラズマ・核融合学会誌 第75巻第4号  1999年4月

Tabie l Coefficients/L(nm/eV)for various non-metaliic

    targets(see eq,(3)).Data with asterisks are from

    our搬vestigations.Others are taken from Refs.[5],

    [61and[7].

BeO Tio2 A1203    SrCeO3  YBa2Cu307

    (5%Yb)2

H+

Li+

Na+

Ar+

K+

Rb+

Sr+

Cs+

Ba+

0.019★

0.030

0.032

0.029

0.040

0.049

    0.0270.024    0.023,0.038

    0.050

    0.034    0.0410.034       0.027

0.037    0.034,0.049

0。047       0.038

0.025★

0。019★

0.027★

0。024*

ど.

Ave.   0.033 0.035 0.036 0.022 0.026

.2

Insulator(:LiF) Metal(Au)

Con“uction B鋤d(empty)

月o

vacuum監

Conduction Band

謡』03 (un-occupiedstate

憾⇔』

             1             さ勲蜘£働鋤麟

』㊤臼

(o¢聯蝸鋤鋤

O

Vi裂ヨ£窺ce B肥磁

vacuum監evel

.1

0

0

HeH

oxidized

llド

5

10

15

9ε論毎目

Fig.1 Surface density-of-states of insulator(LiF)and metai(Au).

が長い.事実,Ashley等の研究[9]によると,低エネル

ギー領域(<100eV)でS102内の電子の平均自由行程

はSiのそれより,2~10倍以上も大きいことが示され

ている.また,Al203とAlに関しても同様の結果が得

られている[10,11].すなわち,電子の平均自由行程の

増大によって,より多くの電子が表面へ到達していると

考えられる.二つめの理由として,ポテンシャルバリア

の減少が考えられる.一般に,絶縁体では金属と比べ伝

導体のエネルギー準位が真空準位に近く真空中への電子

放出が容易である.つまり,金属に比べ絶縁体の場合,

表面からよりバルクの領域で発生した電子でも,再結合

率や電子間相互作用によるエネルギー緩和率が低く,真

1 2346810 2030406080    [〔keVl

Fig.2 ion induced electron emission yieldsγ from Incon-

   el625with cIean and oxidized surfaces under va-

   rious singly cbarged ion impact[121、

空準位に近い伝導帯のエネルギーを保つため電子放出率

が高いといえる.

 このような二次電子放出率の違いは,酸化した金属表

面においても観測されている.Fig.2に,Alonso等に

よって測定された,清浄および酸化インコネル表面から

の二次電子放出率を示す[12].この図から,酸化表面か

らの電子放出は清浄な表面からのものに比べて大きいこ

とがわかる.酸化膜に被われているAlを標的に用いた

実験では,入射イオンであるAr+(30keV)の全入射量

の増加とともに,二次電子放出率も減少し一定値に近づ

くことがBaragiola等によって報告されている[13].こ

れは,入射イオンによって,表面がスパッタリングされ,

Al表面が清浄になった結果と解釈できる.また,Beを

用いた実験においても,表面の0吸着の濃度の減少に

ともなって,二次電子放出率が1/5~1/4程度に減少する

ことがわかった[14](Fig.3).さらに,Hasselkamp等に

よる,Ar+(500keV)衝突によるBe表面からの二次電

子のエネルギースペクトルの測定から,最大強度になる

電子エネルギーが,清浄表面では高エネルギー側にずれ

ることが示された[15](Fig.4).これは,表面における

ポテンシャルバリアが,清浄なBe表面ほど増加するた

めに,低エネルギーの電子が表面から真空中に抜けるこ

とができないとして説明される.

 非金属標的からのγ一の一つの特徴は,低エネルギー

入射イオンによるγK一の入射エネルギー依存性が,金属

と異なることである.一般に,入射イオンの速度∂が標

的固体原子中の電子の平均速度よりも小さい時には,電

336

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小特集 2.2低エネルギーイオン衝突における非金属表面からの荷電粒子放出 保坂,俵

子的阻止能はイオン速度に比例する.すなわち,S。㏄∂

であることがよく知られている.したがって,この領域

では,γκ㏄∂である.また,入射イオンの入射速度が

~107cm/sec以下では,金属標的や気体標的では5e㏄

∂4となることが知られており[16,17],その結果,γズ

も低エネルギーになるに従い,急激に減少する.最近,

金属標的におけるγK『は,低エネルギー領域(<~3keV)

で予想どおり入射イオンの速度の約4乗に比例するのに

対して,SrCeO3(5%Yb)とH+の衝突におけるγK一は,

10

》  1

0.1

㊤ ⑱

0

●㊦『』

0.Ol 0.1

0/Be1 10

Fig.3 プfrom Be surfaces as a function of O/Be ratio at

   2.5keV H+impact.●and圏are taken from two

   different samples[141.

3⊂

Oで

C二

σ

ご雲2

δQ.

cO』ボリΦ一1Φ

Z

O

Ar+_Be(0)二500keV

1

1

v

1(stQrt) ・Y=177H        :Yニ21.3

皿     ,Y=9.6

N     :Yニ5.8’▽(88de Qn‘’)二Y=47

  一5  0     10     2Q        VOLTAGE/voltFig.4 Variation of the electron spectrum from a Be target

   covered by a thin oxide film during tわe course of

   sputter-cleaningby500keVAr+ionsl151.γindi-

   catesγusedinthispaper.

入射イオンの速度∂に比例することが観測された[18].

この違いの理由として,まず考えられるのが,非金属標

的における電子的阻止能S。の入射イオン速度依存性で

ある.Eder等の実験によると,LiF,Al203,SiO2等の

絶縁物におけるH+の電子的阻止能は低エネルギー領域

においても入射速度に比例し,バンドギャップによる影

響は見られない[19].彼らは,LiFの結晶にHが入射

する際に,F一とH間に準分子軌道が形成されることに

よって,実効的にバンドギャップが小さくなることを簡

単なモデル計算を用いて示した.つまり,低エネルギー

領域においては,準分子軌道形成に起因するバンドギャ

ップの減少が電子的阻止能を増大していると考えられ

る.この準分子軌道形成によるバンドギャップの実効的

減少は,入射粒子と標的の組み合わせに強く依存するも

のであるが,Eder等も指摘しているように,Sio2,

Al203等のHと0の低エネルギー衝突においても同様

の現象が起こっていることが十分に考えられる.

 入射エネルギーがさらに低くなるとポテンシャルエミ

ッション拒の寄与が支配的になる.γp一は,本来,数

eV以下の極低エネルギーの場合を除き,入射イオンの

運動エネルギーとは無関係である.大きなポテンシャル

エネルギーを持つ高電離イオンと金属標的との衝突にお

けるポテンシャルエミッション拒に関する研究は,最

近重点的に行われ,Th70+イオンによる拒は200にも達

することがわかった[20].しかし,非金属標的に関して

はほとんど研究されていない.Vana等は,N9+(gニ1,

5,6)を用いて,AuとLiFからのポテンシャルエミッシ

ョンγ〆を観測し,入射エネルギーおよび入射イオンの

価数依存性が,金属に比べ著しく異なることを報告して

いる[21].

 そのほかにも,非金属標的からの二次電子放出率に関

して,金属標的では見られない特異な現象がいくつか報

告されている.ここでは,最近報告された,興味深い現

象を2つ紹介したい.

 1)我々はSrCeO3(5%Yb)という室温においては絶

縁体に近い抵抗をもつ酸化物試料を用いた二次電子放出

率の測定から,γ一が入射イオンの強度に強く依存し,

ある強度以上で0になるという非常に興昧深い現象を初

めて観測した[22].H+(2.5keV)を入射した際の二次電

子放出率の入射電流依存性をFig.5に示す.この図に

おいて,正γ部分は,二次正イオン放出率,負γ部分

は二次電子放出率を示している.入射イオンの強度が小

さい領域においては,二次電子放出率は一定の値を示す

が,入射イオンの強度を上げていくと急激に小さくなり,

337

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プラズマ・核融合学会誌 第75巻第4号  1999年4月

ある入射イオンの強度において,二次電子放出率は0に

なる.さらに入射イオン強度を上げたとき,正イオンの

放出が観測されるように見える.これは,入射イオン強

度に関係なく常に一定値をもった正イオン放出率が,低

入射イオン強度の領域では電子放出率に隠れて見えなか

ったものの,電子放出率が0になったことで,観測され

るようになったと解釈できる.入射イオンの正電荷の蓄

積によって作られたクーロン障壁によって,標的表面で

生成された二次電子が真空中に放出されなくなると考え

ると,γ一が入射イオンの強度に依存することも説明で

きる.

 2)一般に清浄な金属標的の場合,二次電子放出率は,

非常な高温を除いて,標的温度に依存しないと考えられ

ているが,Rothard等は,高温超伝導物質である

YBa2Cu307からの二次電子放出率の温度依存性が70-

300Kの範囲で存在することを報告している[23](Fig.

6).Ar+(800keV)に比べて,H+(1.6MeV)入射では,

その温度依存性が顕著に表れている.相転移を起こす温

度より高温の領域では温度の上昇とともに二次電子放出

率は増加するが,低温の領域でも温度の低下とともに再

び上昇する傾向を示している.現在このような現象を説

明するモデルはなく,今後,さらに精度の良い系統的実

験を行うと同時に,新たなモデルの提唱が待たれる.

2.2.3 イオン放出

 イオン入射に起因するイオン放出には,入射イオンが

電荷を持って散乱される場合と,スパッタリングされた

標的構成原子が電荷をもって放出される場合の2種類が

ある.そして,これらのイオンは正イオンと負イオンの

両方を含む.基本的には,散乱粒子,スパッタリング粒

 10

 1

0.1

0.01

子のどちらの場合においても,粒子が固体表面から真空

中に出ていく過程において,なんらかの機構を通して電

子を損失あるいは捕獲し,イオンになると考えられる.

 この機構に関しては,これまでに様々なモデルが考え

られてきた.例えば,粒子が表面から放出される際に,

表面と粒子の電子準位間を電子が共鳴的に遷移し,イオ

ンが生成されるとする電子遷移モデル,高励起状態にあ

る放出粒子の自動電離,あるいはオージェ脱励起による

電離,励起状態にある放出分子の解離によるイオン形成

等,脱励起過程を含むモデル,標的粒子間の化学結合が

切断される時にイオンを形成すると考える化学結合分離

モデル等である.しかしながら,これらの機構はいずれ

も非常に複雑で,衝突系の組み合わせにも大きく依存す

るために,依然として十分な理解は得られていない.

 また,イオン衝突による固体からの二次イオン放出に

関する研究は,SIMS(SecondarylonMassSpec-trometry)の分野で多くの研究があるものの,二次イオ

ン放出率γ+の絶対値を定量的に測定した研究は少な

い.しかし,一般に,低エネルギーイオンと清浄金属表

面の衝突においては,散乱粒子,スパッタリング粒子と

もにイオンとしての放出率は非常に小さいものの

[24,25],非金属標的においてはイオンの放出率が非常

に大きいことがわかっている.この項では,非金属標的

特有のイオン放出について,最近の研究を紹介・議論する.

(1) 二次負イオン放出

 アルカリ金属などの表面において散乱された粒子が比

較的大きな確率をもって負イオンとして放出されること

き一〇,01

-0.1

一1

-10

岬OO

O O⑩)(舜D

OO

1♂31σ121σ111σ101σ9 1σ8 1σ7

           Ii (A)

Fig.510nイluxdependenceofγinducedby2,5keVH+   impactonSrCeO3(5%Yb)122]、

20

oヨ里

>10え昆2じ巴

uヨ≦

91

麟裡耳耀H+({.6MeV)

TAR〔五ET:YB〔ユ2⊂u307

         100   200   300       TAR∈ET TEl》1PERATURE,丁(K)

Fig.6 Secondary electron emission yieldsγ as a function

   of the target temperatロreアfor a thick YBa2Cu307

   (high-temperature superconductor) sampie bom-   barded wit抵Ar+(800keV)and H+(1.6MeV)。The

   solid睦nes and dashed iine were obtained by a   Ieast-squares fit[23】.

338

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小特集 2.2低エネルギーイオン衝突における非金属表面からの荷電粒子放出 保坂,俵

はよく知られており,この現象は負イオン源等において

応用されている.これは,仕事関数の小さいアルカリ金

属表面では,金属固体内の伝導電子が散乱粒子の電子親

和準位に容易に遷移できるためと思われる.しかしなが

ら,近年,非金属表面から散乱される粒子も非常にたか

い確率で負イオンとして放出されることが観測されてい

る[26-28].Winter等は,清浄なKII(100)表面に1~2

度ですれすれ入射したF+イオンのうち98%以上がF一

として散乱されることを観測した[29].また,LiF(loo)

表面を用いた実験でも入射F+イオンの80%以上がF一

として散乱されていることを示している(Fig.7).

 KI,LiFといったバンドギャップの大きな絶縁体にお

いて,この現象はどのように解釈できるのであろうか.

まず,絶縁体標的の場合,金属標的のように鏡像現象が

起こらない.したがって,表面と入射粒子の距離が小さ

くなるに従って,金属標的でみられるような鏡像効果に

よって電子親和力が小さくなっていくことはなく,表面

との距離が十分に小さくなったところで電子親和準位は

価電子帯に近づき共鳴的な電子遷移が可能となると考え

られる.さらに,衝突後の過程においては,絶縁物の持

つ大きなバンドギャップが大きく関与していると考えら

れる.つまり,衝突後,粒子が表面から離れていく過程

において,負イオンの電子親和力の準位と絶縁物表面の

ハド)ω⊆

O⇒oo』}⊆

匪QO

80

60

40

20

も!

難〆

董’

 ヨ 李

 ’

 軍

ノ益ノロ’

o F一しiF

    ● F-Kl王杢

王杢

王王

  杢

珪 至王王

.0   0.1   0.2   0.5   0.4   0.5

      vebcity(G,U.)

Fig.7 Negative ion fraCtions as a function of prolectile

   vebcity for fluorine atoms or positive lons scattered

   fromしiF(100)surface(open circles)and Kl(100)sur-

   face(fu睡circles).The glancing angIe of incidence ls

   about1。and the targets are kep蓄on a temperature

   ofabout300℃(LIF)and210-250℃(Kl)inorder   to avoid a macroscopic charging up of the target

   The solld and dashed-dotted Iines represen重a de-

   scrip斬on of the data by a model[291。

電子準位間において,バンドギャップが大きいために,

共鳴的に遷移できるチャンネルはなく,電子脱離は非常

に起こりにくいことが予想される.

 これらの現象は,入射粒子と固体表面の電子準位・バ

ンド構造に強く依存するので,衝突系の組み合わせを適

当に選択する必要があるが,新たな負イオン源等の分野

にも応用が可能であろう.

(2) 二次正イオン放出

 Beminghovenは,清浄な金属表面からの二次正金属

イオン放出率は,10-4~10㎜3程度であるのに対して,酸

素によって被われた金属表面からの二次正金属イオン放

出率は,2~3桁も増大することを実験によって示した

(Table2)[30].金属表面に酸素原子が吸着したために,

二次正金属イオン放出率が飛躍的に増加するという現象

はどのように理解されるであろうか.

 一般に酸化物等の化合物では,なんらかの作用で化学

結合が切断された結果,これらの解離種はその電気陰性

度に対応して電荷を持つことが期待される.Mam等は

N-Si(IOO),0-Si(100),0-Ge(m)の窒素あるいは酸素

が吸着した表面においては,Si+,Ge+イオンの放出率

が清浄なSi(100),Ge(lll)表面と比較して,少なくと

も2桁も増大することを報告している[31].例えば,

o-si(loo)の実験では,清浄なsi(loo)表面に酸素を吸

着させ,その表面をXPS(X-ray Photoemission Spec-

trometry)で観察することによって表面の0とSiの結

合を調べて,o-si(100)表面では大別してsio。とsio2

の2種類の構造を持つことがわかった.ここで注目され

るのは,Si+イオンの放出率は,SiO、およびSiO2のい

ずれの表面濃度にも比例して増加するが,Sio2からの

Si+イオン放出率は,SiO、のものと比較して数倍大きい.

これは,SiO2におけるのsroの化学結合状態がSi+イ

オン形成に大きくかかわっていることを示す.また,

o一イオン放出はSi+イオンより1桁も小さいが,この結

果からSiO2としてスパッタリングされた分子が解離し

Si+イオンが生成されるという確率は十分小さいといえ

る.このように,化合物においては化学結合が二次イオ

ン放出に大きくかかわっており,この化学結合分離モデ

ルは実験結果とよく一致していることがわかる、

2.2.4 クーロン爆発

 先に二次粒子放出の電流密度依存性について述べた

が,この項では,電流密度の極限として,多価イオン入

射を取り上げる.近年,多価イオン源の性能向上に伴い,

U92+といった超多価イオンもビームとして引き出すこ

339

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プラズマ・核融合学会誌 第75巻第4号  1999年4月

Table2 Secondary positive ion emission yields from cIean

   and oxygen-covered surfaces under 3 keV Ar+

   bombardment[30].

ザ 竺

Metal£。rclean f。r。xygen.竺(un’c王ean)

                質(clean)    SUrfaCe    COVere(l SUrfaCe

A1

Ba

Cr

Cu

Fe

Ge

Mg

Mn

Mo

Nb

Ni

Si

Sr

Ta

Ti

V

W

0.007

0.0002

0.0012

0.0003

0.0015

0.0044

0.01

0.0006

0.00065

0.0006

0.0006

0.0084

0.0002

0.00007

0.0013

0.001

0.00009

0.7

0.03

1.2

0。007

0.35

0.02

0.9

0.3

0.4

0.05

0.045

0.58

0.16

0.02

0.4

0.3

0.035

1.0×102

1.5×102

1.0×103

2.3×10

2.3×102

4.5

9.0×10

5.0×102

6.2×102

8.3×10

7.5×10

6.9×10

8.0×102

2.9×102

3.1×102

3.0×102

3.9×102

とができるようになり,多価イオンと固体表面の相互作

用の研究分野においても,数多くの興味深い研究が行わ

れている.その一つが,絶縁体表面のクーロン爆発現象

である.

 一般に,多価イオンが金属固体表面に入射すると,そ

の膨大なポテンシャルエネルギーによって,固体から

次々と電子が入射イオンの高励起状態に捕捉される.そ

して,これらの電子はAuger過程,あるいはpeeling

off過程を通して真空中に放出され,その結果,二次電

子放出率は入射イオンの価数の数十倍にも及ぶことが知

られている[20].

 では,自由電子を持たず,バンドギャップの大きい絶

縁物に多価イオンが入射した場合はどのような現象が起

こるであろうか.当然,一つの入射イオンに対しても,

表面上で局所的な電荷の蓄積が起こると予想される.さ

らに,非常に大きなポテンシャルエネルギーを持つ超多

価イオンを入射させた場合は,価電子帯の電子さえも捕

欄, “

   ら   コぐ   ト   リ 250㎜’氏、   、

響 、、          ’‘

   騰あ

騰騨ノト’250㎜

                    50十Fig.8 Atomic force microscope image of two Xe  ion

   impact sites on mica Damage is seen as conical

   hillocks that are typicaliy20nm in diameter and l

   nm high l321(Note a exaggerated vertical scale).

獲してしまうと考えられ,その結果,結晶格子破壊が起

こるであろう.

 Parks等は,Xe9+(25≦g≦50,100keV)イオンを雲母

の表面に入射した際,一つの多価イオン衝突によって表

面上に高さ~l nm程度の山が形成されることを,AFM

(Atomic Force Microscope)を用いて観測し(Fig.8),こ

れらの山の体積が入射イオンのポテンシャルエネルギー

にほぼ比例して増加することを示した[32].また,

Neidhart等による,LiFにAr9+(g≦9)を入射させた

時の全スパッタリング率の測定では,これらが入射イオ

ンのポテンシャルエネルギーに比例して増大することが

観測された[33].さらに,Schneider等は,Xe9+(g謹

25,44),Th9+(g=44,55,70)等のイオンをSlO2に入射し

て放出される二次イオンをTOF法で測定して,二次イ

オンの放出量も入射イオンの電荷の増加とともに増大す

ることを示しており,これらの二次正イオン放出率は一

価イオンの場合と比較して~1,000倍も大きい[34].こ

れらの現象はいずれも,絶縁体表面でのクーロン爆発に

起因するものと考えられ,粒子放出という立場から観た

場合,従来の物理的スパッタリングと異なる,新しい(電

子)スパッタリングともいえるであろう.

2.2.5終わりに

 表面を取り扱う実験では,表面に吸着している不純物

等,表面状態を正確に特定した上で観測を行うことが重

要であることはもちろん,特に非金属標的の場合,少量

340

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小特集 2.2低エネルギーイオン衝突における非金属表面からの荷電粒子放出 保坂,俵

のイオンの入射等によっても物性の変化を起こすものも

少なくないため,表面状態の再現に十分な注意が必要と

なる.また絶縁体においては,電荷の蓄積の問題が時と

して実験的研究を困難にしている.このような理由もあ

って,冒頭で述べたように,非金属表面とイオンの相互

作用に関する分野は十分に研究されているとはいえず,

系統的な理解が得られているとはいえない.

 しかしながら,今まで見てきたように,非金属標的を

用いた研究では金属標的では見られなかった非常に興味

深い現象がいく・うも報告されており,今後さらに詳しく

研究され,広い分野に応用されていくと予想される.す

なわち,非金属標的とイオンの相互作用に関する研究は,

多くの可能性を秘めた分野であり,金属・非金属を含め

た固体表面とイオンの相互作用をより深く理解するため

に不可欠である.

 最後に,我々の研究に対して,有益な議論と多くの助

言をくださった,名古屋大学工学研究科の松波紀明博士

に感謝いたします.

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341

Page 9: 2.プラズマ・表面相互作用素過程jasosx.ils.uec.ac.jp/JSPF/JSPF_TEXT/jspf1999/jspf1999_04/...翻プラズマ・表面相互作用特集 小特集 多様なPSI現象 2.プラズマ・表面相互作用素過程

■プラズマ・表面相互作用特集

  小特集

欄『  多様なPSI現象

2.プラズマ・表面相互作用素過程  2.3 スパッタリングと二次電子放出

大宅   薫(徳島大学工学部)

    Fundamental Processes Related to PSI

Physical Sputte血g and Secondary Electron Emission

              OHYA Kaoru

勘6%1砂oゾE%g初667吻g,Th6U漉∂ε7s乞妙o∫To肋sh初2召,To々zJsh吻zα770,85061の碗

           (Receive(118December l998)

Abstract This paper describes the similarities and(iifferences between physical sputtering and secon(iary elec-

tron emission from solids under ion bombardment.Emphasis is placed on the energy and angular dis-

tributions of emitted particles and particle emission statistics,as well as on total particle yield.The sput-

tering yield and secon(1ary electron yiel(i are strongly relate(1to the nuclear stoPPing Power and elec-

tronic stopping power of the soilds for incident ions,respectively,whereas the energy distributlons of

sputtere(1atoms and secondary electrons are less in且uenced by these ions.Due to“collision cascade”

and“electron cascade”before these atoms and electrons escape from the surface,both tke energy(lis-

tributions are slmilar to each other.However,the angular distribution of sputtered atoms shows under-

an(i over-cosine distribution for low-energy and high-energy ions,respectlvely,whereas the angular(iis-

tribution of secon(lary electrons is close to the cosine(listribution,which results from the isotropic

momentum distribution of secondary electrons inside the solids.For both,the statistical distribution for

emission probabihties deviates from the Poission distribution in most cases.

KeyWQrds=physical sputtering yiel(1,secon(iary electron yield,energy(iistribution,angular(1istribution,

emiSSiOn StatiStiCS

2.3.1 はじめに

 イオンが固体表面に入射すると,固体内でのいろいろ

な衝突過程を通じて,その運動エネルギーを失っていく.

このエネルギー損失過程には,入射イオンと固体原子の

両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突

と,励起や電離のように,いずれかの電子状態が変化す

る非弾性衝突の2種類の寄与が考えられる.また,入射

イオンが固体内を単位長さ進むときに失うエネルギーを

その固体の阻止能といい,固体とイオンとの相互作用を

議論する上で,最も基本的な量である.阻止能のうち,

弾性衝突によるものを核的阻止能,非弾性衝突によるも

のを電子的阻止能と呼ぶ.Fig.1に示すように,一般に,

核的阻止能が優勢になるのは,イオンの速さが束縛電子

の平均速度よりもずっと小さいときであり,高速度領域

ではイオンは電子的阻止能によってそのエネルギーを失

い,大部分のイオンは固体内で熱化される.一方,低・

αz‘!ho湾6一刀漉1’oh岬@66.!o々z‘sh珈α一%.ooか

342