10
生産現場の競争力強化等の推進 4 AI 1 、IoT 2 、ロボット技術等の先端技術を活用し、超省力・高品質生産を可能にする新 たな農業「スマート農業」の実現に向けて、様々な研究開発等が進められています。以下 では、農業分野における AI、IoT、ロボット技術等の開発・導入等について記述します。 (1)スマート農業の推進 (人工知能未来農業創造プロジェクトにおいて、11 課題の研究開発が進行中) 農業分野におけるAI技術は、平成28(2016)年度に開始した農林水産省の人工知能 未来農業創造プロジェクトにより研究開発が進められており、平成29(2017)年度には、 国立研究開発法人、大学、地方公共団体、民間企業等で構成するコンソーシアムで、収穫 作業を大幅に省力化できる果菜類収穫ロボットの開発等 11 課題の研究開発が実施されて います(図表 2-4-1)。 図表 2-4-1 平成 29(2017)年度に実施している人工知能未来農業創造プロジェクトの課題 課題の概要 開発目標の時期 コンソーシアムの代表機関 1 牛の疾病を早期発見し、死廃事故を防止 する技術を開発 2020 年度までに、体表温センサーシステ ムを市販化 農研機構 * (動物衛生研究部門) 2 新規参入者による放牧牛の繁殖管理を容 易にし、低コストな繁殖経営を可能とす る技術を開発 2020 年度までに、遠隔監視システムを市 販化 農研機構 (畜産研究部門) 3 乳牛の体調変化を早期に検出し、乳牛の 健康管理の向上を可能とする技術を開発 2023 年度までに、搾乳牛 1 頭当たりの収 益を 1 割以上向上させる技術を開発 農研機構 (北海道農業研究センター) 4 空撮画像に基づく牧草の適期収穫や収穫 作業等の自動化を可能とする技術を開発 2020 年度までに、ロボットトラクターを 市販化 農研機構 (北海道農業研究センター) 5 収穫作業を大幅に省力化できる果菜類収 穫ロボットを開発 平成 31(2019)年度までに、軌道走行 収穫ロボットを市販化 パナソニック株式会社 6 露地野菜の収穫・集荷等を大幅に省力化 できるロボット作業体系を開発 2020 年度までに、収穫ロボット等のプロ トタイプを完成(同年より順次市販化) 学校法人 立命館大学 7 収穫作業の省力化を実現する果実の収穫 ロボットとロボット作業にマッチする樹 形を開発 2025 年度までに収穫ロボット等を市販化 農研機構 (果樹茶業研究部門) 8 病害虫診断と対策の早期化を可能とする 技術の開発 2021 年度までに 7 千種以上のデータベー スを整備 農研機構 (中央農業研究センター) 9 土壌病害の発生を未然に防ぎ被害を最小 化する技術の開発 2021 年度までに 5 種類以上の土壌病害対 策を講ずる技術を開発 農研機構 (中央農業研究センター) 10 AI を活用した栽培・労務管理の最適化技 術の開発 2021 年度までに雇用労働時間を 1 割以上 削減可能なシステムを開発 国立大学法人 愛媛大学 11 栽培労務管理の最適化を加速するオープ ンフォームの整備 2021 年度までに労働時間の短縮を可能と する技術を 3 種以上開発 農研機構 (野菜花き研究部門) 資料:農林水産省作成 注:1)1 から 7 までは平成 28(2016)年度予算、8 から 11 までは平成 29(2017)年度予算により研究開発を実施 2)*国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 1、2 用語の解説 3(2)を参照 170 第4節 生産現場の競争力強化等の推進

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生産現場の競争力強化等の推進第4節AI1、IoT2、ロボット技術等の先端技術を活用し、超省力・高品質生産を可能にする新

たな農業「スマート農業」の実現に向けて、様々な研究開発等が進められています。以下では、農業分野におけるAI、IoT、ロボット技術等の開発・導入等について記述します。

(1)スマート農業の推進

(人工知能未来農業創造プロジェクトにおいて、11課題の研究開発が進行中)農業分野におけるAI技術は、平成28(2016)年度に開始した農林水産省の人工知能未来農業創造プロジェクトにより研究開発が進められており、平成29(2017)年度には、国立研究開発法人、大学、地方公共団体、民間企業等で構成するコンソーシアムで、収穫作業を大幅に省力化できる果菜類収穫ロボットの開発等11課題の研究開発が実施されています(図表2-4-1)。

図表2-4-1 平成29(2017)年度に実施している人工知能未来農業創造プロジェクトの課題

課題の概要 開発目標の時期 コンソーシアムの代表機関

1 牛の疾病を早期発見し、死廃事故を防止する技術を開発

2020年度までに、体表温センサーシステムを市販化

農研機構*(動物衛生研究部門)

2新規参入者による放牧牛の繁殖管理を容易にし、低コストな繁殖経営を可能とする技術を開発

2020年度までに、遠隔監視システムを市販化

農研機構(畜産研究部門)

3 乳牛の体調変化を早期に検出し、乳牛の健康管理の向上を可能とする技術を開発

2023年度までに、搾乳牛1頭当たりの収益を1割以上向上させる技術を開発

農研機構(北海道農業研究センター)

4 空撮画像に基づく牧草の適期収穫や収穫作業等の自動化を可能とする技術を開発

2020年度までに、ロボットトラクターを市販化

農研機構(北海道農業研究センター)

5 収穫作業を大幅に省力化できる果菜類収穫ロボットを開発

平成31(2019)年度までに、軌道走行収穫ロボットを市販化 パナソニック株式会社

6 露地野菜の収穫・集荷等を大幅に省力化できるロボット作業体系を開発

2020年度までに、収穫ロボット等のプロトタイプを完成(同年より順次市販化) 学校法人 立命館大学

7収穫作業の省力化を実現する果実の収穫ロボットとロボット作業にマッチする樹形を開発

2025年度までに収穫ロボット等を市販化 農研機構(果樹茶業研究部門)

8 病害虫診断と対策の早期化を可能とする技術の開発

2021年度までに7千種以上のデータベースを整備

農研機構(中央農業研究センター)

9 土壌病害の発生を未然に防ぎ被害を最小化する技術の開発

2021年度までに5種類以上の土壌病害対策を講ずる技術を開発

農研機構(中央農業研究センター)

10 AIを活用した栽培・労務管理の最適化技術の開発

2021年度までに雇用労働時間を1割以上削減可能なシステムを開発 国立大学法人 愛媛大学

11 栽培労務管理の最適化を加速するオープンフォームの整備

2021年度までに労働時間の短縮を可能とする技術を3種以上開発

農研機構(野菜花き研究部門)

資料:農林水産省作成注:1)1から7までは平成28(2016)年度予算、8から11 までは平成29(2017)年度予算により研究開発を実施

2)*国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構

1、2 用語の解説 3(2)を参照

170

第4節 生産現場の競争力強化等の推進

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また、IoT技術については、平成29(2017)年度に、国家プロジェクト1の中で研究開発が進められてきた、水田の水管理を遠隔・自動制御化するシステムが開発されました(図表2-4-2)。AI、IoT技術は、ロボット、ドローン、カメラ、センサー等と融合することで、高度で精

せい緻ちな農業生産や農作業の軽労化を実

現し、これまでの農業の姿を大きく変えていくことができます。また、その研究開発が進む中、将来の生産現場での活用に向けて、農業者に技術をつなぎ、広く普及させることができる人材を育成していくことが必要となっています。

(2021年度までの市販化に向け、50万円以下の無人草刈りロボットの開発がスタート)ロボット技術は、機械にセンサー、動作プログラム等を搭載することで農作業を自動化したり、機械が人間の動作等に反応し作動することで労働負荷を軽減したりするものです。作業者が着用することで、重労働等を軽減するアシストスーツは、既に複数のメーカーから製品の販売やレンタルが行われています。更なる農作業の軽労化に向けて、農作業へのロボット技術の導入に向けた研究開発が進められています。無人草刈りロボットは、2021年度までに50万円以下での市販化を目指し研究開発が進められています。GPS2等の位置情報を活用した農業機械の自動走行は、トラクターについては平成30

(2018)年までに有人監視下でのほ場内の自動走行システムの市販化、2020年までに遠隔監視下での無人システムの実現を目指し、田植機については平成31(2019)年度以降の実用化を目指し、それぞれ研究開発が進められています。このほか、AI技術の研究開発の中で、果菜類、露地野菜、果実等を収穫するロボットの開発が進められています。農業機械の自動走行については、安全性の確保が重要であることから、農林水産省では、研究開発と併行して生産現場における安全性の検証やこれに基づく安全性確保策のルールづくり等の環境整備を進めています。

(フォーラムを通じて、スマート農業の情報を発信)スマート農業の実現に向けて様々な研究開発等が進められる一方で、農業現場からは、どのように機材を使ったらよいのかわからない、という声も寄せられています。

1 内閣府が推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)(用語の解説 3(1)を参照)」2 用語の解説 3(2)を参照

無人作業中の自動運転田植機による 田植の様子

資料:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構

図表2-4-2 IoT技術による水田の水管理の仕組み

制御ソフト・データ蓄積・バルブ操作・最適水管理

観測データ・水位・水温・給排水状況

サーバー

給水バルブ 給水バルブ基地局

クラウド蓄積 確認アクセス

自動制御

制御信号 制御信号

データ

遠隔制御操作

資料:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構資料を基に農林水産省で作成

171

第2章

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このため、農林水産省では、平成28(2016)年度から、スマート農業の活用状況や普及に向けた課題等を議論する「スマート農業推進フォーラム」を開催しています。平成29(2017)年度のフォーラムでは、実際にIoT等を活用している農業者や先進的な取組を行っている地方公共団体による講演のほか、アシストスーツの実機体験等が行われ、農業者、都道府県の普及指導員、農業協同組合の営農指導員等約300人が来場しました。来場者からは、全国の先進的な取組事例を聴くことができ大変有意義だった、今回のようなセミナーなどを継続的に開催してほしい、といった感想がありました。

(ドローンの農薬の空中散布について、ガイドラインを改訂し、自動操縦による飛行に対応)ドローンについては、航空法の許可を要する航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれのある空域、人口集中地区の上空を除き、一定の規制の下で飛行が認められています。様々な分野でドローンの活用に向けた技術開発や実証実験が進められる中、農業分野では農作業の効率化を図るため、農薬の空中散布にドローンを活用する実証実験が行われており、一部で市販化も行われています。ドローンによる空中散布を実施するに当たっては、農薬飛散、いわゆるドリフトの防止対策を含め、ドローンを適切に使用することが重要です。人、家畜、農作物、周辺環境等に対する安全性を確保するため、農林水産省では、空中散布の実施体制の整備等を定めたガイドライン 1を策定しています。同ガイドラインには、風の強いときには散布を中止する、散布高度を2m以下にするなどの散布方法や、適切な機種の確認等が記載されています。また、ドローンの自動操縦技術の開発が進められる中、農林水産省は平成30(2018)年3月にガイドラインを改訂し、空中散布を安全かつ適正に実施できる飛行経路の設定や緊急時にマニュアル操作への切替えが可能な機種の確認といった自動操縦により飛行するドローンの安全対策を記載しました。農林水産省では、生産現場での安全性の確保を徹底するため、ガイドラインの周知を図るとともに、オペレーターの育成等を推進しています。

1 空中散布等における無人航空機利用技術指導指針(平成 27年 12月 3日付け 27消安第 4545 号消費・安全局長通知)

フォーラムで講演する有限会社西にし

谷や

内うち

農場代表の西

にし谷

や内うち

智とし

治はる

さん

172

第4節 生産現場の競争力強化等の推進

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佐賀県佐さ賀が市しの株式会社オプティムでは、「楽しく、かっ

こよく、稼げる農業」の実現を目指し、ドローンとAIの開発等に取り組んでいます。同社では、ハスモンヨトウ*1の幼虫の食害を受けた大豆の葉の画像2千枚以上をAIに学習させ、これとIoTでつながれたドローンを大豆畑で自動飛行させることで、同幼虫の食害を受けた株に農薬を散布する実証実験を行っています。平成29(2017)年度には、同幼虫による被害のまん延を防ぎつつ、農薬の使用量が通常栽培の10分の1以下に削減された高付加価値大豆の生産に成功しました。同社では全国の農業者とともに新たな実証実験を行う「スマート農業アライアンス」を平成29(2017)年12月に立ち上げ、米や野菜等での減農薬栽培、スマートグラス*2を活用した技術伝承等に取組を拡大するとしています。同社代表の菅

すが谷や俊しゅん二じさんは、同アライアンス等を通じて、スマート農業

の全国展開を図りたい、と語ります。*1 害虫の一種。幼虫は主に夜間に活動し、野菜、果物、花きなど幅広い作物に被害をもたらす。*2 眼鏡型携帯情報端末

長崎県

佐賀県福岡県福岡県

佐賀市

大豆畑上空を飛行するドローン

ドローンとAI技術を活用した、大豆のコスト削減と高付加価値化 (佐賀県)事 例

東京都渋しぶ谷や区くの株式会社ナイルワークスは、「空からの精

密農業」に向けて稲作に特化したドローンの開発に取り組んでいます。同社が開発中のドローンは12種類のセンサーを活用し水平位置精度2cm以内、高度精度5cm以内で自動飛行が実現されており、稲の上空30cmから50cmを時速20kmで飛行することで稲1株単位の生育状況や穂数・籾

もみ数の情報把握が

可能となっています。30aの水田に植えられた稲5万株の情報を把握する時間は約10分間とのことです。農薬や肥料を搭載することで必要な部分への散布もでき、同社の代表を務める柳

やなぎ下した洋ひろしさんは、ドローンで把握した情報

に基づく農薬や肥料の適期適量の散布で、その使用量を3分の1以下に減らすことを目標としていて、過剰施肥による食味低下も防止できる、と語っています。平成29(2017)年度には稲作農家の協力を得て実証実験が行われており、平成30(2018)年度内には台数限定でのドローンの販売が予定されています。

神奈川県

東京都

静岡県

山梨県

埼玉県埼玉県

渋谷区

ドローンによる稲の 生育自動診断図

ドローンを活用した、稲作のコスト削減と品質向上(東京都)事 例

(平成31年4月の本格稼働を目指し、農業データ連携基盤の構築を推進)これまでの我が国の農業は、農業者の経験や勘に基づいて行われてきましたが、担い手の減少や高齢化によってこれらの世代間継承が難しくなる中、経験や勘をデータ化し活用していくことが生産性の向上や経営の改善を図る上で重要となっています。しかしながら、現状では農業の生産や経営に役立つ農地、気象、研究成果等の様々な農業関連データ

173

第2章

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は、それぞれがバラバラに存在し、ICT等で活用できないものも多いことに加え、様々な農業ICTサービスやデータに相互間連携がないため、農業者にとって使い勝手が良いものではありませんでした。このような課題を解決するため、データの連携・共有・提供機能を持ち、農業におけるSociety5.01の実現に資する、農業データ連携基盤 2の構築を進めています(図表2-4-3)。平成29(2017)年8月には、様々な分野から農業データ連携基盤を活用した取組への参画を促進するため、農業データ連携基盤協議会(WAGRI3)が設立され、同年12月には農業データ連携基盤のプロトタイプが構築されました。今後、平成31(2019)年4月の本格稼働に向けて、公的機関が保有する、農地の位置・面積情報、メッシュ単位での気温や降水量等の気象情報等を同基盤内に整備し、将来的には、農業者、農業機械メーカー、ICTベンダー4等が持つデータをビッグデータ 5として整備することで、最適な営農計画の立案支援やデータの統合・分析による高度な生産管理等に活かしていくこととしています。データの整備に併せ、データ提供者への利益還元の仕組みや、データの利用に関するルールの検討が進められる予定となっています。

図表2-4-3 農業データ連携基盤の構造

資料:農林水産省作成

農業データ連携基盤

Publicデータ -気象や土地、地図情報に関する様々なデータを提供(有償提供を含む)-

Privateデータ(Closedデータ)

農業従事者および農業に関するデータ

MasterデータPublicやPrivateデータのマスター系を定義したデータを提供

認証方式Open ID Connectを利用

気象API

農地API

地図API

土壌API

生育予測API

統計API

民間企業 民間団体 民間企業 民間企業 農研機構 官公庁

農機メーカー A 農機メーカー B ICTベンダー C ICTベンダー D

農 業 者 等

センサAPI

民間企業

(農業研究見える化システム「アグリサーチャー」が開設)平成28(2016)年11月に策定された農業競争力強化プログラムに基づき、農業者等が研究成果に直接アクセスできる環境を整備するため、農林水産省では、平成29(2017)年4月に農業研究見える化システム「アグリサーチャー」を開設しました(図表2-4-4)。スマートフォン等から研究成果等を容易に検索することができるアグリサーチャーには、平成29(2017)年度末時点で、約3万件の研究成果と約4千人の研究者情報

1 政府の科学技術政策の指針となる「第 5期科学技術基本計画」で用いられている超スマート社会を意味する用語2 内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」で開発を進めている3 農業データプラットフォームが、様々なデータやサービスを連環させる「輪」となり、様々なコミュニティの更なる調和を促す「和」となることで、農業分野にイノベーションを引き起こすことへの期待から生まれた造語(WA+AGRI)

4 農業分野におけるAI、IoT、ロボット技術に関する機材を製造又は販売している企業5 用語の解説 3(1)を参照

図表2-4-4 農業研究見える化システム「アグリサーチャー」

資料:農林水産省作成

○トップ画面から最短3ステップで研究成果や実用化情報などを検索!○約3万件の研究成果と、約4千人の研究者情報を掲載!○現場の問題解決や新しいチャレンジを支援!

フリーワード検索も可能!

分類した8分野から検索開始

省力化・効率化…

測定・分析技術

畜産動物 病虫害・雑草…生産技術

地域加工・保存技術

作物

174

第4節 生産現場の競争力強化等の推進

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が収録され、農業者等からのアクセス数は月平均7千件以上となっています。

(「知」の集積と活用の場において、産学官連携による共同研究の支援を実施)農林水産省では、農林水産・食品分野に様々な分野の技術等を導入してイノベーションを創出する、新たな産学官連携研究の仕組みである「知」の集積と活用の場の取組を推進しています。「知」の集積と活用の場では、工学や医学等の農業分野以外を含めた民間企業、大学、研究機関等の多様な関係者が集まる産学官連携協議会が設置され、多分野間の共同研究に向けた会員同士のマッチングが進められています。さらに、「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業により、平成29(2017)年度には農業関係で新規5課題を含む計12課題の共同研究に対し支援が行われました(図表2-4-5)。

図表2-4-5 平成29(2017)年度に支援が行われた「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業の農業関係研究課題

研究計画名 研究期間 コンソーシアムの代表機関

1 過冷却促進技術による農産物の革新的保存・ 流通技術の開発 平成29(2017)~2020年度 学校法人 関西大学

2 低価格農薬を実現する革新的生産プロセスの開発 平成29(2017)~2020年度 日産化学工業株式会社

3 高付加価値野菜品種ごとに適した栽培条件を 作出できるAI-ロボット温室の開発 平成29(2017)~2020年度 国立大学法人 筑波大学

4 脳機能改善作用を有する機能性食品開発 平成29(2017)~2020年度 国立研究開発法人農業・ 食品産業技術総合研究機構

5 農産物のグローバルコールドチェーン網を 実現させる高鮮度保持システムの研究開発 平成29(2017)~31(2019)年度 日通商事株式会社

6 高付加価値日本食の開発とそのグローバル展開 平成28(2016)~2020年度 国立大学法人 東北大学

7 アミノ酸の代謝制御性シグナルを利用した 高品質食肉の研究開発とそのグローバル展開 平成28(2016)~2020年度 国立大学法人 東京大学

8 機能性野菜を用いた腸内フローラ解析による 生体恒常性維持効果の実証研究 平成28(2016)~2020年度 京都府公立大学法人 京都府

立医科大学

9農林水産・食品産業の情報化と生産システムの 革新を推進するアジアモンスーンモデル植物工場システムの開発

平成28(2016)~2020年度 三菱ケミカル株式会社

10糖鎖ナノバイオテクノロジーを基盤とした 家畜家

か禽きん

ウイルスの迅速高感度検査法の確立・ 普及とワクチン製造技術開発

平成28(2016)~31(2019)年度 国立大学法人 鹿児島大学

11 農業水利施設ストックマネジメントの高度化 に関する技術開発 平成28(2016)~31(2019)年度 国際航業株式会社

12 高度インテリジェントロボットハンドによる 自動箱詰めの実現 平成28(2016)~31(2019)年度 シブヤ精機株式会社

資料:農林水産省作成

(ゲノム編集技術や遺伝子組換え技術を、国民に対し分かりやすく説明)農林水産省では、平成28(2016)年度から、ゲノム編集技術や遺伝子組換え技術による研究成果や技術特性等を研究者から国民に分かりやすく伝えるアウトリーチ活動 1を実施しています。平成29(2017)年度においては、全国で80回のサイエンスカフェ2等を実施しました。今後も最新の科学的知見や研究成果等について国民に対する丁寧な説明を行っていくこととしています。

1 研究者と国民の双方向コミュニケーション活動2 カフェのような雰囲気の中で、研究者と国民が科学技術について語り合う場

175

第2章

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ゲノム編集技術が、今、世界的に注目を集めています。放射線等を使うこれまでの突然変異育種技術等では、改変したい遺伝子(標的遺伝子)の変異を、低い確率でしか起こすことができませんでした。これに対しゲノム編集技術は、標的遺伝子を狙って切断することによって、高い確率で標的遺伝子を改変することが可能です。なかでも、平成25(2013)年に発表されたCク リ ス パ ーRISPR/C

キャスナインas9は、標的遺伝子への案内役を果たすガ

イドRNAを作り替えるだけで、様々な標的遺伝子を改変することができ、ゲノム編集技術を大きく進化させました。我が国では、CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を活用し、G

ギ ャ バABAを高蓄積したトマト、超多収の水

稲等が実験段階で既に開発されています。また、標的遺伝子を切断せずに改変する手法等、新たな国産ゲノム編集技術の開発も行われています。現在、ゲノム編集技術を活用して生み出された農作物等の取扱いについての検討が世界で進みつつあります。近年、世界各国の取組により、多くの農作物や家畜等のゲノムが解読されています。ゲノム解読により、人間に利益をもたらす標的遺伝子の塩基配列が明らかになったことに加え、ゲノム編集技術が進化したことによって、農作物等の品種改良が大きく進展しつつあります。

ゲノム編集技術を大きく進化させたCク リ ス パ ーRISPR/C

キャスナインas9

CRISPR/Cas9による標的遺伝子の切断イメージ

資料:農林水産省作成

コラム

(自動車メーカーとの連携により、農業者の労働時間が短縮)農業分野にイノベーションをもたらし、農業者の所得向上を図るためには、産業界と連携し、その先端技術や知見を農業分野に取り入れていくことが重要であり、現在、メーカーや大学と農業者の連携による実証研究等が進められています。農業用IT管理ツールと自動車メーカーの生産管理手法を活用したサービスを組み合わせた農業者の現地実証では、労働時間の短縮等の効果が見られました。今後、産業界との連携による技術の開発や実用化が更に進み、広く農業現場に普及されることにより、農作業の軽労化、生産コストの削減、収量の増加が図られ、農業者の所得向上につながることが期待されます。

(2)農業生産資材価格の動向と引下げに向けた動き

(近年、上昇傾向が続いた農業生産資材価格指数は、平成28年に僅かに低下)近年の農業生産資材価格指数は全体的に上昇基調で推移してきましたが、平成28

(2016)年は、飼料等の価格が低下したことから前年に比べ1.5ポイントの低下となりました(図表2-4-6)。肥料と飼料の価格は、輸入原材料となる鉱石、穀物の国際相場や為替変動の影響を受けやすく、変動幅が大きくなる傾向があります。

176

第4節 生産現場の競争力強化等の推進

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図表2-4-6 農業生産資材価格指数の推移(平成27(2015)年を100とする指数)

28(2016)

28(2016)

平成18年(2006)

平成18年(2006)

23(2011)

23(2011)

105

0

100

95

90

85

80

75

70

100

95

90

85

80

75

70

105

98.5

0

農業生産資材総合農薬

100.2(農機具)100.0(農薬)

93.1(飼料)

98.2(肥料)農機具肥料

飼料

資料:農林水産省「農業物価統計」

主要な農業生産資材である農機具、農薬、肥料・飼料の農業経営費に占める割合は、水田作経営で43.2%、施設野菜作経営で25.1%、肥育牛経営で32.0%を占めており、農業所得の向上に向けては、これら資材価格の引下げが不可欠となっています(図表2-4-7)。

図表2-4-7 農業経営費に占める農機具、農薬、肥料・飼料の割合(平成28(2016)年)

水田作経営 施設野菜作経営 肥育牛経営

100

その他

農機具

農薬肥料・飼料

20

60

40

80

0

56.8

25.5

7.610.1

74.9

11.35.58.3

68.0

28.6

2.21.2

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

(農業資材比較webサイト「AGMIRU」の開設のほか、各農業資材で取組が進展)平成28(2016)年11月に策定された農業競争力強化プログラムや、平成29(2017)年8月に施行された農業競争力強化支援法に基づき、良質で低価格な資材の供給に向けた取組が進展しています。

177

第2章

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同法では、農業者が各種資材を購入するに当たって、価格やサービス等を比較して選択できる環境の整備を進めるとされたことから、平成29(2017)年6月に、農業資材比較webサイト「A

ア グ ミ ルGMIRU」が開設

されました。AGMIRUは、資材を求める農業者と有利な条件を提示した販売業者をマッチングさせるサービスで、平成30(2018)年3月15日時点の同webサイトへの登録者数は4,324人となっています(図表2-4-8)。AGMIRUについては、利便性の向上に向け、利用者の声を踏まえた改善が進められています。農薬については、平成29(2017)年4月に、果樹類の農薬登録において、従来の個別作物ごとの登録に加え、作物群での登録が可能となる仕組みが導入されました。これにより、農薬メーカーが行う薬効・薬害試験等の例数軽減が図られ登録に要するコストの削減につながるほか、作物群に含まれるマイナー作物に使用可能な農薬の確保も可能となります(図表2-4-9)。また、効果が高く安全な農薬の供給に向けて、登録された農薬を定期的に最新の科学的根拠に照らし再評価する仕組みの導入や、農薬の安全性に関する審査の充実を図るため、「農薬取締法の一部を改正する法律案」を国会に提出しました。

図表2-4-9 果樹類での農薬登録における作物群の導入

平成29(2017)年4月以降平成29(2017)年3月以前

(マルメロ)(かりん)(びわ)(なし)(りんご)

作物群での登録又は個別作物

ごとの登録

(マルメロ)(かりん)(びわ)(なし)(りんご)

個別作物ごとの登録

全ての作物で試験が必要 群内の一部作物で試験が必要

仁果作物群

資料:農林水産省作成

肥料については、多銘柄・少量生産が製造コストの増加につながっていることから、その要因の一つとなっている都道府県の施肥基準の見直しを推進しており、平成30(2018)年1月末時点で、41の県において稲を中心に施肥基準数の削減が検討されています。引き続き、幅広い作物で施肥基準数の削減を促し、肥料の銘柄集約につなげていくこととしています。飼料については、国際競争に対応できる生産性の確保を目指し、農業競争力強化支援法の事業再編スキームにより業界再編・設備投資等を推進しており、平成29(2017)年10月には同法に基づく初の計画認定が行われ、民間事業者における工場等の再編に向けた動きが見られるようになりました。

図表2-4-8 農業資材比較webサイト「AGMIRU」の仕組み

質問のやりとりで依頼条件を確定

販売者に直接代金振込/商品受取

生産者に直接振込依頼/商品発送

受注通知を確認

質問への回答提案について質問

提案内容を確認販売提案登録

質問への回答 依頼について質問

依頼を確認

販売者B販売者A

交渉期限

農業者

資材購入依頼登録1 2

10

11

12

購入業者決定

質問のやりとりで提案条件を確定

資料:農林水産省作成

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第4節 生産現場の競争力強化等の推進

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(3)農作業安全対策の推進

(農業者に応じた効果的な取組を進める「農作業安全リスクカルテ」が完成)農作業死亡事故は、近年、年間350件程度で推移しており、平成28(2016)年は前年に比べ26件減少の312件となりました。同年の就業者10万人当たりの死亡事故件数を見ると、全産業は1.4件、建設業は6.0件であるのに対し、農業は16.2件と高い水準にあります(図表2-4-10)。農作業死亡事故が発生すると、農業経営の継続が困難になるだけでなく、地域の農業の維持・発展に影響が生じる場合もあります。このため、農作業安全対策の一層の強化が重要となっています。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 1は、平成29(2017)年6月に、過去の事故事例を基に、農作業事故は人的要因のほか、機械・施設、作業環境、作業方法といった要因が複雑に関係していることを明らかにし、地域によって異なる事故の傾向や要因等を踏まえた改善の必要性を提案する報告書をまとめました。また、一般社団法人全国農業改良普及支援協会等は、平成29(2017)年3月に、過去の事故情報に関するリスク分析結果を基に、農業者向け啓発資材として「農作業安全リスクカルテ」を作成しました。同カルテは、普及指導員等を通じて現場で普及・活用されており、農作業事故の未然防止に対する意識が高まり、事故発生件数の減少につながることが期待されます。また、労働安全はGAP2の取組事項の1つに位置付けられており、今後のGAPの実践

や認証取得の進展が、農作業事故の未然防止につながることが期待されます。さらに、トラクターを使用しているなど一定の要件を満たす農業者は、万が一の事故に備え、療養費や死亡時の遺族補償等の給付が受けられる労災保険に特別加入できます。しかしながら、同保険に加入した農業者は、平成27(2015)年度末時点で12万8,297人と特別加入対象農業者の6.8%にとどまっています。農林水産省は、厚生労働省や関係団体と連携の下、パンフレットやメールマガジン等を活用し、農業者に対する制度の周知を行っています。

図表2-4-10 10万人当たりの死亡事故発生件数

平成19年(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

27(2015)

28(2016)

件/10万人

12.7 12.514.1

15.314.1 13.9 14.6

15.4 16.1 16.2

8.4 8.07.2 7.3 6.8 7.3 6.9 7.5

6.5 6.0

2.1 2.0 1.7 1.9 1.6 1.7 1.6 1.7 1.5 1.4

農業

全産業

建設業

資料:厚生労働省「死亡災害報告」、総務省「労働力調査」、農林水産省「農作業死亡事故調査」、「農林業センサス」、「農業構造動態調査」を基に農林水産省で作成

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

1 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の機関である農業技術革新工学研究センター2 用語の解説 3(2)を参照

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第2章