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平成 30 年度 スマート林業構築普及展開事業(国有林における ICT 活用)報告書 49 4.3. 需給マッチング聞取り調査(海外技術の適⽤事例) 前述の造材データの活用可能性について、造材データをリアルタイムに取得し与信情報 として共有すれば、素材生産事業者と木材需要者の 2 者間で相互の信頼関係が得られ、適 切な需給マッチングが実現できる可能性がある。海外では 2 者間の情報共有手段として活 用されている技術があり、また、これらの技術を国内へ導入する取組が実施されている。 ここでは、海外技術の事例調査として StanForD2010 に関する概要を示し、その国内適 応事例として日立建機日本株式会社及びコマツの聞取り結果を示す。加えて、海外におい てコマツが実施している、上記技術を適用した実践的な取組を示す。 4.3.1. StanForD 2010 の概要 StanForD 2010(Standard for Forest machine Data and communication 2010)とは、 4.10 に示すとおり、生産を管理する者と現場の林業機械(主にハーベスタとフォワーダ) との間でやり取りする情報の記述形式を定めた統一的なデータ様式(4.8 参照)である。 この様式を用いたソフトウェアを活用し林業機械稼動に伴うデータを集積すると、生産 管理や精度管理等、各種分析に活用することが可能となる。主なソフトウェアとインター フェイス(操作画面、機械操作者用と管理者用がある)を表 4.9 に示す。日本において、積 極的な StanForD 2010 に準拠したハーベスタ普及を展開しているのは、日立建機日本株式 会社とコマツの 2 社である。 4.8 StanForD 2010 におけるメッセージファイルの拡張子 4.9 StanForD 2010 に準拠したソフトウェアインターフェイス 管理者用 機械操作用 コマツ マキシフリート マキシ エキスプローラ コマツフォレストとの組み合わせ テクニオン - iLogger/xLogger ワラタ、ケスラー並びにケトーとの組合せ John Deere Forest Sight ※1 Timber manager ※2 Timber Matic インターフェイス名称 ソフトウェア メーカー ※1はクラウド対応、※2はスタンドアローン対応 主なハーベスタヘッド

4.3. 需給マッチング聞取り調査(海外技術の適⽤事 …...平成30年度 スマート林業構築普及展開事業(国有林におけるICT活用)報告書 49 4.3

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平成 30 年度 スマート林業構築普及展開事業(国有林における ICT 活用)報告書

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4.3. 需給マッチング聞取り調査(海外技術の適⽤事例)

前述の造材データの活用可能性について、造材データをリアルタイムに取得し与信情報

として共有すれば、素材生産事業者と木材需要者の 2 者間で相互の信頼関係が得られ、適

切な需給マッチングが実現できる可能性がある。海外では 2 者間の情報共有手段として活

用されている技術があり、また、これらの技術を国内へ導入する取組が実施されている。

ここでは、海外技術の事例調査として StanForD2010 に関する概要を示し、その国内適

応事例として日立建機日本株式会社及びコマツの聞取り結果を示す。加えて、海外におい

てコマツが実施している、上記技術を適用した実践的な取組を示す。

4.3.1. StanForD 2010 の概要 StanForD 2010(Standard for Forest machine Data and communication 2010)とは、

図 4.10 に示すとおり、生産を管理する者と現場の林業機械(主にハーベスタとフォワーダ)

との間でやり取りする情報の記述形式を定めた統一的なデータ様式(表 4.8 参照)である。

この様式を用いたソフトウェアを活用し林業機械稼動に伴うデータを集積すると、生産

管理や精度管理等、各種分析に活用することが可能となる。主なソフトウェアとインター

フェイス(操作画面、機械操作者用と管理者用がある)を表 4.9 に示す。日本において、積

極的な StanForD 2010 に準拠したハーベスタ普及を展開しているのは、日立建機日本株式

会社とコマツの 2 社である。

表 4.8 StanForD 2010 におけるメッセージファイルの拡張子

表 4.9 StanForD 2010 に準拠したソフトウェアインターフェイス

管理者用 機械操作用

コマツ マキシフリート マキシエキスプローラ

コマツフォレストとの組み合わせ

テクニオン - iLogger/xLogger ワラタ、ケスラー並びにケトーとの組合せ

John Deere Forest Sight※1

Timber manager※2

Timber Matic

インターフェイス名称ソフトウェアメーカー

※1はクラウド対応、※2はスタンドアローン対応

主なハーベスタヘッド

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図 4.10 StanForD 2010 の概要17

4.3.2. ⽇⽴建機⽇本株式会社の取組 日立建機日本株式会社は、岡山県の有限会社杉産業、フィンランドのハーベスタヘッド

メーカーであるワラタ社、株式会社日建(山梨県)の 4 社共同プロジェクトとして、バリュ

ーバッキング(Value Optimized Bucking)機能18に関する現場実証を実施している。以下、

平成 31 年 2 月に開催された有限会社杉産業による発表19をもとに説明する。

バリューバッキングは『価値 適採材』と訳され、StanForD 2010 の機能の一部を活用

したシステムである20。図 4.11に示すとおり、立木採材時に元玉の元口直径(L1)をもとに、

17 StanForD 2010 高度木材生産機械開発共同事業機関代表機関:(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 訳 18 1978 年に林業機械メーカーの Valmet 社(現コマツフォレスト)が開発。林業分野の ICT 導入の第 1 歩と考えられている。 19 平成 30 年度林業機械化推進シンポジウム『ICT で切り開く新たな林業』 主催:林野庁、一般社団法人フォレスト・サーベイ 20作業指示ファイル(拡張子:pin、oin、spi)と造材報告ファイル(拡張子:hpr)のやり取りにより、需給調整機能を発揮させる取組のひ

とつであり、当該機能は後述する図 4.16 に示すとおり、コマツのマキシエキスプローラにも装着されている。

フォワーダ

ハーベスタ

フォワーダ

⽣産管理

品質管理 (精度管理) ハーベスタ

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立木の細りによる末口直径をコンピュータが予測し、自動的に価格や需要に対し 適とな

る採材長をオペレータに提案する。つまり、様々な条件や要望に合わせ、オペレータの採

材判断を支援するシステムである。

具体的なバリューバッキング機能について図 4.12 に示す21。事例として元口 22cm のヒ

ノキの幹を、柱材活用を目的に 3m と 4m の採材を検討する。

バリューバッキング機能を使用しない場合、単価の高い長さで多くの材積が配分される

よう、元玉付近で 4m 採材する提案がなされる可能性が高い。一方、バリューバッキング

機能を使用すると、幹の細り予測により、4番玉で末口直径を 14cm 確保できると予測し

て採材提案し、結果として 3 番玉以降で 4m 採材した場合の方が幹 1 本当たりの価格を高

く採材できることがある。

図 4.11 バリューバッキング機能~細り予測と採材プラン~

図 4.12 バリューバッキング機能の事例

採材時の精度管理もStanForD 2010の機能を活用し簡易な操作で実現している(図 4.10

及び図 4.13 参照)。精度管理に関する実演状況22を写真 4.5 に示す。 初に、精度確認対

象とする丸太を造材した直後、造材データを USB 経由でデジタル輪尺に取込む。次に、丸

太の細りを計測する要領で木口からの距離と直径を複数個所計測する。すると、デジタル

輪尺の画面に造材データの丸太材積(HAEVEST:0.142m3)と、デジタル輪尺の丸太材積

(CALIPER:0.146m3)が明示され、その偏差(DEVIATION:-2.6%)が即時表示される。

21 この図は有限会社杉産業の許可を得て編集したものである。 22平成 30 年度林業機械化展(東京あきる野市開催)の日立建機日本株式会社のブースにおいて実演。

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バリューバッキング機能は、造材時の末口直径を予測し、採材長を提案することにより

高付加価値を生む機能であるため、丸太の直径や長さに対し多様な需要がある林業地にお

いて効果的な機能である。またハーベスタのオペレータは、操作時の手順が省略できるた

め労力の負担軽減に繋がる(図 4.14 参照)。

図 4.13 材積キャリブレーション機能

写真 4.5 StanForD 2010 の機能を活用したハーベスタの精度管理

こりゃキツイ

図 4.14 バリューバッキング機能によるオペレータの負担軽減

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4.3.3. コマツの国内での取組 コマツは、StanForD 2010 を活用し作業指示ファイル(拡張子:pin、oin、spi)と造材報

告ファイル(拡張子:hpr)のやり取りにより、需給調整機能を発揮させる取組を進めている

(図 4.15 及び図 4.16 参照)。

ハーベスタのコンピュータソフトウェアに、製品注文者の依頼(伐採位置や伐採作業の詳

細内容等の作業指示)を入力すると、ハーベスタのオペレータはソフトウェアの支援を受け

ながら、需要にあわせた材の規格や数量を効率的に生産できる。その生産情報(造材データ)

は、造材報告として事務所の管理者との間で共有され、リアルタイムの需要変化に対応し

た作業指示をハーベスタのオペレータへ再指示することが可能となる。

図 4.15 マキシエキスプローラの構成と機械操作者用画面(コマツ提供)

図 4.16 マキシエキスプローラの概要(コマツ提供)

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4.3.4. コマツの海外での取組 コマツの海外事例では、ハーベスタの造材データを起点とした様々な機械データが、ク

ラウド上で保管され閲覧可能であり、効率的な森林施業を実現している。一例として、コ

マツフォレストがスウェーデンで運用しているシステム(マキシフリート)を下記に示す。

図 4.17 は事務所のコンピュータに表示される管理者用画面である。事業地の位置情報

とともに、稼動している機械の現状と稼動履歴並びに KPI(Key Performance Indicators:

重要業績評価指標)が示される。位置図を縮小すると、複数事業地における機械稼動状況を

確認することができる。

図 4.18 は、図 4.17 の位置図を事業地全体規模に拡大したものである。事業地にはハー

ベスタ 3 台とフォワーダが 4 台配置され、それぞれが事業地を縦横無尽に移動し、6 地点

に丸太が椪積されている。位置図の下面には、事業地における生産情報に関する横棒グラ

フがある。予定生産量に対し、ハーベスタの造材生産量とフォワーダの運搬量が示され、

作業進捗を確認することができる。事業地の一部を拡大し(図 4.18 参照)、椪積マークをク

リックすると、フォワーダによって集材され、椪積された材の材種と需要先が示される。

その情報はトラック業者に報告され、効率的に需要者へ運材することが可能である。

図 4.18 について、ハーベスタの作業位置周辺を拡大すると、図 4.19 に示すとおり、ハ

ーベスタの動線(青線)が示されている。また、造材した丸太材積の林内存置密度が『赤色→

黄色→緑色』のグラデーションマップで表示されている。一方、フォワーダの動線は黄線

で表示され、フォワーダは、グラデーションマップで丸太の林内存置状況を把握し、効率

的に丸太を集材している状況を確認できる。

このソフトウェアを使い、生産情報、椪積情報及び機械の稼動状況を把握することで、

リアルタイムの生産性の改善や、需給調整の基礎資料となる可能性が高い。また、機械の

動線解析によって、効率的な施業計画や路網計画の検討に資する情報が得られる可能性が

高い。

図 4.17 マキシフリート画面(コマツ提供)

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図 4.18 マキシフリート画面(コマツ提供)

図 4.19 マキシフリート画面(コマツ提供)

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4.4. 需給マッチング聞取り調査(国内の林業地域事例)

4.4.1. 調査⽅法 国有林の材を取扱う製材所、合板工場、チップ工場等を訪問し、主に素材の仕分と検知

のタイミングについて、重点的に聞取り調査を実施した。

聞取りは、北関東(栃木県、福島県、群馬県)、長野県(東信地域及び北信地域)、岡山県中

央部(新見市、真庭市及び津山市)、鳥取県西部(日南町)、愛媛県(久万高原町)、大分県(日田

市及び佐伯市)で行った。

北関東地域と長野県東信地域は本業務の実証地及びその流通先であることから、また、

前述した StanForD 2010 や IoT ハーベスタを活用した実証を実施していることから、岡

山県新見市及び大分県日田市を選定した。さらに、様々な材種(ABCD 材等)を受入れるこ

とで、素材生産者の仕分の省力化に取り組んでいる群馬県渋川市、鳥取県西部、愛媛県久

万高原町、大分県佐伯市を選定した。

材の流通には、素材生産業者が伐採した後、原木市売市場や木材販売業者を経由して製

材工場や合板工場などへ流通していく市売の場合と、素材生産業者等が伐採現場から工場

へ直送する場合等がある。

近年、国有林では森林管理局長と木材需要者が協定を結び、計画的に国有林材の販売を

行う安定供給システムを採用することが多い。北関東地域がその一例である。システム販

売用の材は、山土場において木材需要者別、林種別に椪積して検知された後に協定先の製

材所や合板工場にトラックで直送され、市売りとしての材の販売を委託する材については、

山土場で仕分けられた後に市場で検知される。

ここで改めて整理すると、山元や市場で行う仕分には、木材需要者別に必要な量と材種

を整理して区分する役割がある。また、検知には、生産した材の品質・数量確認と、場所に

よっては材の販売価格を決定づける役割がある。

聞取り調査を行った北関東地域では、システム販売協定直送の場合は、山土場の検知結

果を活用して精算することが多く、直送以外の場合は、市場等の自動選別機の材積で精算

することが多かった。また、C 材はトラックスケール等で納品重量を計測し、重量換算係

数で材積に換算して精算することが多かった。北関東地域における仕分けと検知のタイミ

ングに関するイメージ図を図 4.20 に示す。

図 4.20 仕分と検知(☆印)のタイミング(北関東地域の例)

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4.4.2. 調査結果 聞取り調査の結果を、表 4.10 と表 4.11 に示す。

木材流通における市場の役割は①価格形成機能、②仕分・選別機能、③集荷・集積機能、

④在庫管理機能、⑤与信機能、⑥情報集約機能等に整理されると考えられる。

システム販売協定により、大量の材を大規模木材需要者である製材所や合板工場へ直送

する事例が多い中、聞取り調査を実施した岡山県真庭市や愛媛県久万高原町では、市売り

販売による取引が多かった。これは、両地域が高品質なヒノキ産地であるため、市場原理

で付加価値付けが可能な林業地帯であることに起因していると考えられ、市場の①価格形

成機能とともに、②~⑥の機能(仕分・選別機能、集荷・集積機能、在庫管理機能、与信機能、

情報集約機能等)が有効に活用されていると考えられる。

北関東地域は、前述した図 4.20 に示した仕分けとタイミングで材が流通している。良質

なスギ産地である立地条件を活かして、大規模な製材業者が複数立地するため、大量の材

をシステム販売協定により直送することが多く、①~④の機能の必要性が低くなったため、

市場を介しない木材流通構造へ変化しつつあると考えられる。そのような中、栃木県森林

組合連合会の大田原共販所では、地域の中~小規模木材需要者による丸太の幅広い要求事

項に対し、椪の規模や質を細かく設定することで需給マッチングを満たしている。

伐期を迎えた林分が多く、大量の素材が出材される林業地では、従来の山土場では材の

仮置場所が確保できない等の理由により、材の集積と在庫管理機能をもつ中間土場が形成

され、効率的な木材流通を発揮する場が形成される傾向がある(図 4.21 参照)。

図 4.21 中間土場の形成

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長野県の東信木材センターは、中間土場としての役割に加え、自動選別機による②仕分・

選別機能を備えて素材を流通している(図 4.22 参照)。当該センターでは、強度を必要とす

る合板の表板と裏板の資材として、強度の高いカラマツ産地の特性を活かし、本州全域の

合板工場と取引している。カラマツを運搬したトラックの帰荷も独自に手配し、得られた

利益を素材買取価格に反映している。また、末口 14cm 未満の小径木を 1cm 単位で仕分を

行い、土木用丸太資材の需要に応えることによって、商品販売力を強化している。加えて、

カラマツの樹皮は、農業の土壌改良資材やマルチング資材として販売している。

一方、東信木材センターと同様の流通機能を担いながら、群馬県産のスギやヒノキを取

扱っているのが群馬県渋川県産材センターである(図 4.22 参照)。当該センターは、自動選

別機の検知・仕分機能を活用することにより、ABC 材の全量を受入れるとともに、素材か

ら製品への 1 次加工まで取扱っている。ABC 材の全量受入れは、素材生産者が山土場等で

仕分する必要がなく、規格化した造材寸法で効率的、かつ安全に作業を実施できるため、

並材を主として生産する現場の素材生産者にとって望ましいと考えられる。

日南町森林組合では、自動選別機や土場を整備して ABC 材の全量受入れとともに、立

地する木材団地(日野川の森林木材団地)の木材需要者に材料を供給している(図 4.22参照)。

A 材は製材工場等に出荷、B 材は隣接する LVL 工場、C 材はチップ工場へ出荷し、受入れ

た材の活用歩留まりを高める取組が実施されている。D 材についても建材メーカーやコン

サルタントと共同で土壌改良剤や植生工基材(DW ファイバー)を開発し、付加価値化を目

指している。

佐伯広域森林組合は、ABC 材の全量受入れに加え、地域森林の循環利用を底支えするた

め D 材も受入れ、山林所有者の再造林にかかる資金支援を実施している(図 4.22 参照)。

曲がり挽き可能な製材施設を平成 20 年に整備し、曲がり材の有効活用も実現している。

図 4.22 中間土場の進化型としての全量受入れ施設をもつ林業地域

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4.4.3. 素材⽣産者と⽊材需要者の要望 今回の聞取り調査をもとに素材生産者と木材需要者の要望を以下に整理する。

○素材生産者の要望

効率的かつ安全に素材を生産したい。そのために、山土場の仕分で付加価値化するより

も、需要者に一括して複数の材種(ABCD 材等)を受入れて欲しい。また、安定的に高値で

素材を販売したい。そのために、市場価格の高騰下落に左右されず、長期的な価格見通し

をもとに生産したい。

○木材需要者の要望

目的とする規格の材を安定的に必要量を適時調達したい。そのため多くの供給ルートを

確保し、安定した価格で取引をしたい。素材を製品にして販売するにあたり、製品の需要

にあわせ、素材調達したいため、素材調達までの予定納期が知りたい。

国内の聞取り調査地では、上記の要望や役割を達成するための情報共有は、基本的に電

話や FAX 等で行われていたが、ICT 技術等による情報共有を導入することによって、地域

を活性化できる可能性がある。

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60

表 4

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(その

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平成 30 年度 スマート林業構築普及展開事業(国有林における ICT 活用)報告書

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表 4

.11

国内

事例

(その

2)

地域

素材

⽣産

流通

等需

要者

特性

【⿃

取⻄

部】

⽇南

町⽇

南町

森林

組合

(株)⽶

⼦⽊

材市

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陰丸

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)⽇

南町

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富な

スギ

資源

を活

⽤し

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。町

内に

森林

組合

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場、

チッ

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によ

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形成

され

てい

る。

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林組

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され

、A材

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され

る。

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る。

また

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町久

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域森

林組

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市場

久万

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久万

広域

森林

組合

久万

市場

久万

広域

森林

組合

⽗野

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業所

⽗野

川事

業所

は、

スギ

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⽊を

消費

して

いる

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成11

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いる

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ある

【⼤

分】

⽇⽥

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伯市

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林産

佐伯

広域

森林

組合

⽇⽥

市内

中⼩

製材

所佐

伯広

域森

林組

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業所

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グリ

、佐

伯は

オビ

スギ

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地。

⽇⽥

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性の

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、地

域で

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市広

域森

林組

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林組

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⽊を

確保

して

いる

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4.5. 造材データを活⽤した効率的な作業⽅法の構想

4.5.1. 実証結果をもとにした造材データの活⽤⽅法 実証では、図 4.23 に示すとおり、造材データを起点とする確度の高い生産情報を蓄積

することで、生産効率と在庫管理をリアルタイムに把握できることが明らかとなった。素

材生産者にとっては、得られた造材データを作業改善に利用でき、また、木材需要者へ提

供すれば、早い段階で予定出材量や予定納期といった供給予定情報がわかるので、木材需

要者にとって有益となる可能性がある。

図 4.23 実証結果をもとにした造材データの活用方法(図 4.9 再掲)

4.5.2. 造材データの活⽤に向けた改善 実証段階の課題解決の取組として、既に行われているものをいくつか紹介する。

造材時の位置データ取得 造材位置データの取得は、聞取り調査における海外事例や、長野県の北信州森林組合の

取組のとおり、GPS 機器を活用することにより既に実現している。造材位置が記録されて

いれば、どこにどのぐらいの密度で丸太が存置しているか把握できるため、林内在庫管理

に役立つだけでなく、フォワーダ集材等を効率的に行うことができる。

丸太計測の精度管理 海外では、精度管理の方法はルール化され、日々のキャリブレーションに適用されると

ともに、監査法人等の与信機関に送信され、その信頼性を確保する取組が整備されている。

前述した表 4.7 に示した現場における精度確保の取組とともに、日本においても与信機関

の整備が実現すれば、造材データを検知データとして活用できる可能性がある。

スウェーデンやフィンランドでは、直径と長さの精度管理がなされている。また、ニュ

ージーランドでは精度管理により造材時のデータと手計測による材積差は 4%以内とされ

ている。

ラベリング及びグレーディング 宮崎県は違法伐採の対策として、QR コードのラベリングによる生産履歴情報を一元的

に管理する実証試験に取り組んでいる。また、新潟県の林業会社では、図 4.24 に示す木口

(素材⽣産者) (⽊材需要者)適切に⽊材供給ができたか

検知→仕分(東信⽊材センター)

造材 収穫情報

⽬的︓リアルタイムで⽣産性改善とともに供給予定情報を提供

第3位

整数⽌

造材⽇時 材積

⽣産効率情報 納期予定情報

荒仕分AB→4m、C→2m

収穫情報

材積予定情報

在庫管理情報

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に打ち込むタイプの IC コードを開発し23、丸太のトレーサビリティを実現する技術が開発

されている。なお、グレーディングについては、ハーベスタヘッドで曲がりや強度を計測

する技術開発が進められている(図 4.24 左参照)24。

図 4.24 次世代ハーベスタの開発(左)と IC タグの事例(オオタグ)

4.5.3. 将来的な造材データ これらの技術により期待される、造材データの活用構想を図 4.25 に示す。

従来、月単位で検知していた材積情報が、造材データによってリアルタイムの『供給予

定情報』となり、将来的には信頼性を強化し、供給者側による検知・仕分情報となって、付

加価値の高い素材生産に貢献すると想定される。

その恩恵は林業全体の信頼性の強化(トレーサビリティ等)や、生産効率情報によって作業

の安全化、効率化に繋がることが期待される。

図 4.25 将来的な造材データの活用方向性

23 大田材木店 OHTAG カタログより 24 高度木材生産機械開発共同事業機関主催『日本林業のスマート化に向けた IoT ハーベスタ現地検討会』資料

(素材⽣産者) (⽊材需要者)適切に⽊材供給ができたか

造材 需要者(需要者側検知→仕分)

リアルタイムの供給予定情報→将来的に『供給者側検知・仕分情報』へ

第3位

整数⽌

造材⽇時 材積

⽣産効率情報納期予定情報

収穫情報

材積予定情報

位置情報 グレーディングラベリング

在庫管理情報トラック配送計画の安全化・効率化等

需要者別所有者別

ICタグQRコード

材種(ABC)強度

仕分情報

需要情報

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4.5.4. 効率的な作業構想 造材データを活用した効率的な作業構想を、東信森林管理署における立地条件や販売方

法等をベースに検討した。

現在行われている素材生産請負事業の実施にあたっては、各現場に素材生産者の現場代

理人が配置され、現場代理人からの報告により森林管理署等は生産の進捗状況を確認して

いる。報告された生産数量及びそれらを販売した金額等をもとに、今後の需要・価格等を考

慮し、必要であれば生産事業者に対し、適宜採材等の指示をしている。

前述した造材データの活用することで(図 4.25 参照)、海外事例の生産管理のように、作

業を実施したエリアとともに、各作業ポイントの造材量及び納品量が示され、生産予定数

量に対するリアルタイムの進捗が可能となる。これにより、遅滞している工区があれば、

素材生産者の現場代理人等が、機械や人員の配置を即座に見直し、作業の改善を図ること

が可能となる。(図 4.27 上図参照)

また、各ハーベスタの造材データにより、作業の進捗だけではなく、日別、月別並びに

契約期間における生産予定材積把握も可能となる。(図 4.27 下図参照)ハーベスタの造材

データを基に、フォワーダの運材の計画を立てることが可能となり、土場の空き状況を管

理し、必要に応じ適期にトラックを配送できる。

フォワーダやハーベスタの動きは GPS のトラッキングデータ(図 4.27 下図桃色線)とし

て保存され、その動線解析(図 4.28 参照)によって、翌日以降の集材方法や、次の現場の作

業路網の設計改善に活用できる。

素材生産者は、造材データをもとに日々の素材生産量の管理と作業員の業務管理や安全

管理ができ、効率的かつ採算性の高い経営を行うことができる(図 4.29 参照)。さらに、木

材需要者への納品状況を素材生産者とリアルタイムに情報共有することによって、相互信

頼性の高い林業地域を形成できると考えられる。

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図 4.26 情報イメージ

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図 4.27 将来的な現場管理構想

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図 4.28 フォワーダの動線解析イメージ

図 4.29 今後の日報管理の方向性(図 3.14 再掲)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 50 100 150 200 250 300

F

H

積込 積込 積込 積込 積込積卸 積卸 積卸 積卸 積卸

速度

→時間

積卸

積込

減速の原因→改善

低速の原因→改善

積込時間→改善

積卸時間→改善

次現場の路線計画改善フォワーダ性能の改善(積載量等)

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4.6. 需給マッチングの必要性

『スマート林業』を目指すためには、木材需要者の要望に見合った商品を安定的に供給

できるシステムの確立が重要である。

国産材、特に並材については、外材との競合に晒されており、国際競争力を保持しつつ、

森林所有者へ利益を還元するためには、川上から川下に至るまでの素材生産、木材流通、

木材加工、木材利用に至るまでの様々な工程において、コストダウンを図る必要がある(図

4.30 参照)。また、各工程におけるコストダウンのほか、各工程間の無駄を省き、川上から

川下までの全体的なコストダウンを図ることも重要である。

図 4.30 トータルコストダウンを図るための工程別のコストダウン

国産材におけるこれら工程間の無駄を省くためには、特に各工程の生産過不足防止・適正

在庫維持が必要であり、このためには供給側と需要側の調整、いわゆる「需給マッチング」

を効率的に行うことが必要である。

国産材の流通における需給マッチングは、未だ電話や FAX、メール等の旧来型、個別型

の情報共有手段で行われることが多く、情報共有の効率化・応用性という面で改善の余地が

ある。また、需給マッチングのための高度な ICT を利活用する取組が複数の地域で検討・

開始されているが、未だ構想段階または実証段階にとどまっていることが多い。

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4.7. ジャストインタイムの安定供給システム構想

素材の需給マッチングは、マッチングの時期とマッチングを行うための事項によって、

3 つの段階に区分される(図 4.31 参照)。

1 つ目は、森林管理の計画段階において、素材加工事業者が作成する仕入計画・生産計画

を前提とした、森林資源情報・GIS 等の活用による、伐採箇所(伐区)の選定を行うもの(半年

から 1 年単位で実施される中期的マッチング)。

2 つ目は、月別または週別の伐採計画段階において、素材加工事業者が作成する同期間

での仕入計画・生産計画との調整を行うもの(四半期から半年単位で実施される短期的マッ

チング)。

3 つ目は、日単位で素材生産者が作成する樹材種別の生産情報・在庫情報と素材加工事業

者の需要情報を、狭義の木材 SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)システムを用いてマ

ッチングし、価値 適採材や在庫 適化を図るもの(リアルタイムに実施するマッチング)。

これら 3 つのマッチングは、川上側が川下側の多様な需要に応えるため及び素材を無駄

なくカスケード利用するために、複数の伐区と複数の需要先(工場)を束ねて、木材の SCM

を構築することが重要である。

図 4.31 需給マッチングの区分