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1 「要約書」についての吉川秀樹による分析メモ (2013.11 サラ・バート弁護士用) (翻訳:河村雅美/沖縄・生物多様性市民ネットワーク Comparative Notes on “Futenma Replacement Facility Construction Project: Final Environmental Impact Statement Abstract”(Draft) 「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の 補正後の環境影響評価書要約書」についての比較メモ(草案) 吉川秀樹 ジュゴン保護キャンペーンセンター 沖縄・生物多様性市民ネットワーク Email: [email protected] Ⅰ「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の補正後の環境影響評価書要約 書」とは? 「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の補正後の環境影響評価書要約 書」(以下、「要約書」)は防衛省と沖縄防衛局が作成した 698 ページの英語の文書である。 「要約書」の日本語版も入手可能である 1 「要約書」は普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の補正後の環境影響評 価書(補正評価書)から選択された章と抜粋の翻訳を合わせたものである。補正評価書は、 2012 年沖縄防衛局によって作成され、沖縄県に提出された。タイトルでは「要約書」とい う言葉になっているが、「要約書」に書かれ提供されたものの中には、補正評価書の要約や 概要は存在していない。 「補正評価書」は、13 章と「資料編」で構成されているが、「要約書」は 10 章の構成であ る。「補正評価書」の「6 調査結果の概要並びに予測及び評価の結果」、「第 7 環境保 全措置」、「第 9 事後調査」と「資料編」は「要約書」には訳されていない。 沖縄防衛局の森根氏によれば、「要約書」は 2013 2 26 日に米国国防総省に提供された とのことである。文書のコピーは、情報公開法で入手可能であるが、沖縄の NGO は国会議 員のルートによりデジタル・コピーを入手した。 この時点では、「要約書」の提供後、補正評価書、あるいは当事業に係わる環境影響評価に 関する新たな文書が、防衛省から米国国防総省に提供されているかは不明である 2

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「要約書」についての吉川秀樹による分析メモ (2013.11 サラ・バート弁護士用)

(翻訳:河村雅美/沖縄・生物多様性市民ネットワーク )

Comparative Notes on “Futenma Replacement Facility Construction Project:

Final Environmental Impact Statement Abstract”(Draft)

「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の

補正後の環境影響評価書要約書」についての比較メモ(草案)

吉川秀樹

ジュゴン保護キャンペーンセンター

沖縄・生物多様性市民ネットワーク

Email: [email protected]

Ⅰ「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の補正後の環境影響評価書要約

書」とは?

「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の補正後の環境影響評価書要約

書」(以下、「要約書」)は防衛省と沖縄防衛局が作成した 698 ページの英語の文書である。

「要約書」の日本語版も入手可能である1。

「要約書」は普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の補正後の環境影響評

価書(補正評価書)から選択された章と抜粋の翻訳を合わせたものである。補正評価書は、

2012 年沖縄防衛局によって作成され、沖縄県に提出された。タイトルでは「要約書」とい

う言葉になっているが、「要約書」に書かれ提供されたものの中には、補正評価書の要約や

概要は存在していない。

「補正評価書」は、13 章と「資料編」で構成されているが、「要約書」は 10 章の構成であ

る。「補正評価書」の「6章 調査結果の概要並びに予測及び評価の結果」、「第 7 章 環境保

全措置」、「第 9章 事後調査」と「資料編」は「要約書」には訳されていない。

沖縄防衛局の森根氏によれば、「要約書」は 2013年 2月 26日に米国国防総省に提供された

とのことである。文書のコピーは、情報公開法で入手可能であるが、沖縄の NGOは国会議

員のルートによりデジタル・コピーを入手した。

この時点では、「要約書」の提供後、補正評価書、あるいは当事業に係わる環境影響評価に

関する新たな文書が、防衛省から米国国防総省に提供されているかは不明である2。

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II「要約書」の内容や性格はどのようなものか?「要約書」は以下のように記述できる。

a. 「意見と事業者の回答」部分の比重が重く、環境アセスの結果の記述が薄い

「要約書」の 698ページ中、432ページ(全文書の 62%)は、住民等意見と知事意見、それ

に対する沖縄防衛局の見解に費やされている。「要約書」の 4章「方法書と補正評価書に対

する住民等意見の概要及び事業者の見解」は補正評価書の 4章に対応している。「要約書」

の 9 章「環境影響評価書(補正前)に対する知事意見及び事業者の見解」は補正評価書の

12 章に当たる3。補正評価書の 4章、12章は「事業者の見解」に関連する図、グラフ、表が

含まれているが、「要約書」の対応する章には含まれていない。

この章における主張の概要は、沖縄防衛局は、市民や知事から挙げられた意見(質問やコ

メント)に対して可能な限り回答しているので、沖縄防衛局は環境影響評価法と沖縄県の

環境影響評価条例で設けられている責任を果たしている、ということである。

沖縄防衛局の回答の科学的・技術的な詳細は、「要約書」で示されていないことを指摘する

ことは重要である。「要約書」のこれらの章における防衛局の回答で、必要な科学的・技術

的情報をどこで見つけられるかを示すページ番号の参照がつけられていることもある。し

かし、これらのページ番号は補正評価書(大部分は 6章)のものである。換言すると、「要

約書」単体では、沖縄防衛局の見解の正当性を検証することはできないのである。

また、「要約書」も補正評価書も、評価書への知事意見で最も重要な部分であると多くの人々

が考えていることに言及していないことを強調することは重要である。評価書に対する知

事意見の最初の部分で、沖縄県知事仲井真弘多は「当該事業は、環境の保全上重大な問題

があると考える」また、「当該評価書で示された環境保全措置等では、事業実施区域周辺域

の生活環境及び自然環境の保全を図ることは不可能と考える」と述べている4。

一方、環境アセスの結果の情報提供には、「要約書」の 40 ページ(5.7%)しか割かれてい

ない。「要約書」の 6章「総合評価」は、「調査結果」「予測結果」「評価結果」「環境保全措

置」と「事後調査及び環境監視」のサマリーが示されている。「要約書」の 6 章は補正評価

書の 9章に対応している。

6 章(あるいは補正評価書の 9章)の主張の概要は、事業(基地建設と運用)は環境および

社会生活の多くの面に影響を与えない、あるいは、影響がある場合も提案されている「環

境保全措置」によって、影響は最小限に抑えられる、というものである。

「要約書」の 6 章の情報(および「補正評価書の 9 章」は、文章でしか示されていないこ

とを指摘することは重要である。図、表、写真などはない。環境アセスの結果の詳細は補

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正評価書の 6、7、8章にのみある。

b. 事業展開の政治/歴史や事業の詳細の比重が多く、ジュゴンの文化的/歴史的重要性を含む

「対象事業が実施されるべき区域及びその周辺」の記述が薄い

「要約書」の 168ページ(24%)はこの事業がどのような経緯で存在したのかという政治的

歴史的な情報、および事業の詳細(基地の建設と運用)に割かれている。「要約書」の第 2 章

「対象事業の目的及び内容」は補正評価書の 2章に当たる。

「要約書」の 11 ページ(1.6%) は 3 章の「対象事業が実施されるべき区域及びその周囲

の概況」の環境と社会的状況の情報を提供している。「要約書」の 3章が補正評価書の 3章

に対応しているが、「要約書」の 3 章は補正評価書の 3 章の抜粋によって構成されている。

補正評価書の 3章は 206ページの長さがある。

「要約書」の 3 章で提供されている情報(補正評価書の 3 章)は環境アセスに先だって行

われた文献調査をとおして収集されたものである5。

また、2章で提示された事業(建設と運用)の詳細を記述する多くの数値を除いて、3章に

あるジュゴンに関連する 2 つの図を含む 7 つの図が、環境の状況に関連する「要約書」文

書全体での、唯一の図(あるいは文章以外の表記)である。

c. 準備書、評価書、補正評価書間の相違に関しての記述が薄い

「要約書」の計 20 ページ(3%)は、準備書、評価書、補正評価書間の相違の”概要を述べ

る”ことに費やされている。この相違は、知事や住民等の意見を補正評価書へくみ入れた結

果として提示されている。「要約書」の 8章「評価書作成に当たっての準備書記載事項とそ

の相違の概要」は、補正評価書の 11 章に当たる。「要約書」の 10章「評価書補正に当たっ

ての評価書記載事項との相違の概要」は補正評価書の 13章に当たる。

これらは「概要」であるため、相違についての記述は(あまりにも)一般的なものにとど

まっている。さらに、個々の記述には、より詳細な情報がどこにあるかを示すページの参

照があるが、これらのページ番号は、補正評価書(大部分は 6章)のものであり、「要約書」

のものではない。言い換えれば、要約書単体では、[準備書から評価書、評価書から補正評

価書間で]なされた変更は理解できないものとなっている。

Ⅲ 懸念

上述したように、この時点では、「要約書」提供以後に、防衛省から国防総省に補正評価書

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あるいは環境アセスに関する新しい文書が提供されたか否かは知り得ない。

しかし、「要約書」がそれ自体、その価値は確かにあるにしても、補正評価書の科学的正当

性を評価するのに十分なものであるとみなすべきではないことは明らかである。「要約書」

は、調査、予測、保全(緩和)措置、および評価結果といった、補正評価書の重要な要素

に関しての詳細を欠いている。

より具体的にその点を指摘するために、「要約書」9 章「環境影響評価書(補正前)に対す

る知事意見及び事業者の見解」からジュゴンに関する以下の抜粋の例を引くこととする

(9-2-57)。

知事意見では以下のとおり:

調査の結果から、沖縄周辺域に生息するジュゴンの個体数は少ないことが明らか

なので、わずかな影響でも個体群の維持に大きな影響を及ぼすおそれがあること

を考慮して評価する必要がある。

沖縄防衛局の回答は以下のとおり:

「個体群の維持に及ぼす影響については、PVA[個体群存続可能性分析]による予

測の結果も含め、施設等の存在及び供用に伴う影響についての予測結果を踏まえ

て再検討した結果を記載しました。(p.6-16-274 参照)」

問題は、「要約書」において PVA の詳細に関する議論がないことである。例えば、どの媒介

変数が用いられ、選択肢としては何が考えられたのか、ゆえにこの分析は妥当であるか否

かということを知り得ることができない。この「要約書」で知り得るのは、PVA の幾ばく

かの調査がジュゴンのために実施された、ということのみである。

補正評価書そのものが科学的正当性を欠いている、と専門家や NGO から指摘されているこ

とを考えても、補正評価書や環境アセスの正当性の検証が、「要約書」のみをもって行われ

るべきではない。

1日本語版は「 普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の補正後の環境影響評

価書(要約書)」で、文書は以下で入手可。

http://www.mod.go.jp/rdb/okinawa/07oshirase/chotatsu/hyoukayouyakuhosei/hyoukayouyak

uhosei.html

2少なくとも、以下の英語の環境アセスの文書は裁判所に提出された。

a.“English Translation of ‘Environmental Impact Assessment Scoping Document for

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Construction of Futenma Replacement Facility -Executive Summary,” August 2007, Naha Defense

Facilities Administration Bureau (51pages).

b. “English Translation of Selected Extracts from the ‘Environmental Impact Assessment Scoping

Document for Construction of Futenma Replacement Facility’” August 2007, Naha Defense

Facilities Administration Bureau (119 pages)

c.“English Translation of Selected Extracts from the ‘Additions and Revisions to the Environmental

Impact Assessment Scoping Document for Construction of the Futenma Replacement Facility’”

February 2008, Okinawa Defense Bureau (101 pages).

d.“English Translation of Selected Extracts from the ‘Additions and Revisions to the Environmental

Impact Assessment Scoping Document for Construction of the Futenma Replacement Facility’”

March 2008, Okinawa Defense Bureau.

また、2009年 4月 20日、国防総省は裁判所に準備書が公告縦覧されたことを報告している

が、その時点では「英訳版は入手できない」とのことであった。

3 日本の環境影響評価法と沖縄県環境影響評価条例によれば、住民等は方法書、準備書に

意見を提出することができ、知事は、方法書、準備書、評価書(補正評価書を含む)に意

見を述べることができる。

4 沖縄防衛局環境影響評価評価書への知事意見は以下のサイトを参照。

http://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/seisaku/hyoka/tetsuzuki/documents/iken-68.pdf

5 「名護市辺野古沿岸域及びその周囲(名護市及び宜野座村に係る区域)の地域特性」は 3

章の p3-1の図 3-1に示されている。