23
5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。 【解説】 磯焼けは多くの要因が複雑に絡み合うため、確実な解決方法を見つけにくいこともある。 このような不確実な問題においては、順応的管理手法が有効である。磯焼け対策における 順応的管理手法とは、磯焼けの現状とその阻害要因を把握した上で対策からモニタリング までを包括した計画をもって、磯焼け対策とモニタリングを実施し、対策の評価を踏まえ て柔軟に計画の見直しや対策手法の修正を行いながら、結果が良好であれば、段階的に目 標に向かって進めるマネジメント手法である(図 5-1)。 図 5-1 磯焼け対策における順応的管理手法 - 48 -

5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

5.磯焼け対策の手順

5.1 順応的管理で進める磯焼け対策

磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【解説】

磯焼けは多くの要因が複雑に絡み合うため、確実な解決方法を見つけにくいこともある。

このような不確実な問題においては、順応的管理手法が有効である。磯焼け対策における

順応的管理手法とは、磯焼けの現状とその阻害要因を把握した上で対策からモニタリング

までを包括した計画をもって、磯焼け対策とモニタリングを実施し、対策の評価を踏まえ

て柔軟に計画の見直しや対策手法の修正を行いながら、結果が良好であれば、段階的に目

標に向かって進めるマネジメント手法である(図 5-1)。

図 5-1 磯焼け対策における順応的管理手法

- 48 -

Page 2: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

5.2 磯焼け対策の体制づくり

磯焼け対策は、漁業者が主体となり、専門家(研究者)、行政、地域住民、NPO 等の協

力を得ながら実施する。

【解説】

磯焼け対策は漁業者が主体となって、本ガイドライン等を活用し、専門家(研究者)や

行政担当者のサポートを得ながら計画的に実施する。また、磯焼けは地域の環境問題でも

あることから、地域住民や NPO等の参画も受け入れ、地域全体で取り組む体制づくりが望

ましい(図 5-2、表 5-1)。

図 5-2 磯焼け対策の実施体制

表 5-1 各機関の役割分担

漁業者 地域住民・NPO等

・計画立案

・現状把握のための調査、モニタリング

・ワークショップの運営・報告

・磯焼け対策の実施、モニタリング

・計画立案の協力

・現状把握のための調査、モニタリングの協力

・対策の協力

・ワークショップへの参加

専門家(研究者) 行 政

・藻場や磯焼けに関する情報提供

・計画立案のためのアドバイス

・調査に関するアドバイス

・対策手法に関するサポート

・ワークショップへの参加

・藻場や磯焼けに関する情報提供

・財政支援

・計画立案のためのアドバイス

・ワークショップ運営のサポート

・リーダー育成の支援

漁業者

専門家

行 政地域

住民

NPO等

磯焼け対策ガイドライン等

- 49 -

Page 3: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

5.3 磯焼け対策のフロー

磯焼け対策は、図 5-3 に示す磯焼け対策フローにしたがって対策を実施する。

【解説】

磯焼け対策は、先に示した順応的管理の考え方(図 5-1)により、図 5-3に示す磯焼け

対策フローにしたがって実施する。特に「D.対策手法の検討」と「E.対策の実施」で

は、様々な対策手法や対策技術を紹介してあるので、対象海域の実情に応じて適切な手法

を選んで実施する。

A.磯焼けの感知

日頃から藻場の状況を観察し、海底景観の変化(例えば、岩肌の露出や食害)、アワ

ビ、サザエ等の漁獲量の急な増減や小型化などに注意することで、磯焼けを感知する。

B.現状把握(阻害要因の特定)

磯焼けが感知された場合は、対象海域における藻場形成の阻害要因を特定する調査を

実施する。ただし、なかなか阻害要因が特定できない場合には、実験的な調査を行うこ

とも必要である。

C.計画づくり

計画づくりでは、取り組み方針、毎年の活動内容について、関係者同士が話し合い計

画を立案する。計画立案にあたっては、藻場の回復目標、実施体制、作業の安全性、活

動スケジュール、必要経費、利害関係者との調整などを検討しておく。

D.対策手法の検討

計画に従って最も効果のある対策手法を検討する。ただし、阻害要因が複数の場合に

は、複数の対策を効果的に組み合わせて行う必要があるので、組み合わせ方をよく検討

しておく必要がある。

E.対策の実施

海での作業は危険を伴うことから、気象・海象に留意し、作業の安全性を確保して、

対策手法を確実に実施する。

F.モニタリング

定期的に対策場所、および周辺海域のモニタリングを行い対策の効果を把握する。

G.対策の評価

モニタリングの結果について、関係者同士で話し合い、目標が達成できているか判定

する。効果がみられる場合には、継続して対策を実施し、対策に問題等があれば、現状

を把握し直し、再度計画を見直す。

目標が達成された場合には、対策を一旦終了し、再び磯焼けが発生しないように日頃

から藻場の状況を観察し(A.磯焼けの感知)、藻場の維持に努める。

- 50 -

Page 4: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

図5-3 磯焼け対策フロー

- 51 -

Page 5: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

A.磯焼けの感知

日頃から藻場やそれを取り巻く環境変化に注意し、磯焼けを早めに感知する。

【解説】

海藻の生活史(2.3参照)で示したように、海藻はおおむね冬から初夏にかけて繁茂して

藻場を形成するが、夏を過ぎると先枯れや流失によって海藻の現存量は減少し、海域によ

ってはまったく藻場が消えるところもある(コラム A-1)。このような季節消長による一時

的な藻場の衰退を磯焼けと混同してはならない。また、藻場は、台風による海底の擾乱や

降雨による河川からの大量の淡水流入などのイベントによっても衰退することがある。良

好な環境であれば、これらのイベントの影響が軽減されると 1~2年で藻場は回復する。こ

のような軽微な藻場の衰退も、磯焼けと区別すべきである。ただし、毎年ダムの排砂が行

われるようなところでは、磯焼けとなることもある。

磯焼けが発生しても、初期の段階で感知し、対策を的確に実施すれば、藻場は容易に回

復することが期待される。このためには、日頃から藻場やそれを取り巻く環境の変化に気

が付くように、モニタリングが行われていなければならない(F.参照)。磯焼けを感知する

には、海底景観の観察,磯根資源の漁獲物(漁獲量,サイズ,身入りなど)の変化が良い

指標となる。

1)海底景観からの磯焼けの感知

海底景観による磯焼けの感知は、健全な藻場があった頃の海底の景観と現在の海底の景

観を、同一の場所で比較して行う。海底の景観は、海底写真を利用すると便利である。日

頃から定期的に藻場の状況を観察し、海底景観の写真を整理しておき、藻場やそれを取り

巻く環境の変化から磯焼けを感知する努力が必要である。

健全なアラメ群落

(2001年 10月)

消失したアラメ群落

(2003年 10月)

※原因はキタムラサキウニによる食害

図 A-1 アラメ群落の衰退(岩手県大船渡市末崎町地先)

- 52 -

Page 6: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

健全なカジメ群落

(2001年 11月)

葉部が消失し茎だけのカジメ群落

(2005年 1月)

※原因は植食性魚類による食害

図 A-2 カジメ群落の消失(静岡県南伊豆町地先)

海藻は概ね冬から初夏にかけて繁茂することから、季節的な海藻の消長と磯焼けを区別

するため、原則としてこの繁茂期に実施することが望ましい。図 A-1 と図 A-2 は、アラメ

群落、カジメ群落の磯焼けを感知した事例である。

2)漁獲物から見た磯焼けの感知

磯焼けが発生すると、アワビ、サザエ、ウニ等の磯根動物の発見が容易になるため、漁

獲量は一時的に増加する場合がある。しかし、その後は餌料不足の影響で次第に身入りが

悪化し(図 A-3)、過剰な漁獲の影響も現れて、磯焼け発生から 1~2年ほどして資源状態は、

急速に悪化する。このため、漁獲量が急増した場合は注意を要するほか、身入りの悪い個

体の増加や漁獲量の急な低下が確認される場合は、磯焼けが既に進行していることが懸念

される。

図 A-3 餌料不足により痩せたアワビ(西海区水産研究所)

左が餌を与え続けたメガイアワビ、右が一年間絶食させたメガイアワビ

- 53 -

Page 7: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【コラム A-1】藻場の季節的消長

海藻は樹木と同様に季節的な消長を繰り返す。ガラモ場では、春にはホンダワラ類が繁茂し立

体的な海中林となるが、夏には主枝が流失し、秋には、種によっては付着器の部分だけになる。

このように、藻場の景観は、季節によって全く異なることがあるので、秋の景観を見ただけで磯

焼けと判断することはできない。

- 54 -

Page 8: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【コラム A-2】海底景観の変化による磯焼けの感知事例

藻場の海底景観を定期的に撮影することにより、磯焼けを感知した事例である。2004 年

9 月頃まで、カジメの側葉は残っていたが、12 月には茎のみとなっていた。その後の調査

から、植食性魚類の食害による磯焼けであることがわかった。

2004年9月

夏の先枯れのみならず、側葉が短く、生長点を残したハタキのような形状。摂食圧の高まりを認識して、植食性魚類を除去しなければならない。

この状態は要注意!

カジメの葉部は同じ高さに食痕が見られる

2004年12月

生長点の失われたカジメが多く、残っている個体でもブダイの噛み跡が見られる。ノコギリモクも減少している。保護すれば、一部は助かる。 生長帯の食痕

2005年4月

生長点の残ったカジメはまったくなく、残った茎も短く囓りとられている。ノコギリモクも消失した。12月以前に胞子を出しているので、幼体は見られるが、早期の回復は不可能

根元まで食べられた茎

2004年4月

磯焼けの感知南伊豆町下流地区における

藻場の衰退事例

カジメとノコギリモクの混生群落カジメの側葉は発達し、ノコギリモクも良好な状態である。

- 55 -

Page 9: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【コラム A-3】漁獲量の減少による磯焼けの感知事例

静岡県の榛南(はいなん)地区では、かつてカジメやサガラメが優占する藻場が広範囲

に分布していた。しかし、1990 年以降、磯焼けが深刻化し、図 1 に示すように、1991 年に

サガラメの漁獲量が急激に減少した。1 年後の 1992 年には、海藻を餌料とするアワビが減

少し始め、その後もこの傾向は継続している(図 1)。

なお、地元の漁業者の話によると、アワビの漁獲量が減少する前にアワビが小型化した

とのことである。

図 1 榛南海域におけるアワビとサガラメの漁獲量の推移

小澤(2012):サガラメ藻場回復の新たな手法について,碧水,140,1-3.

- 56 -

Page 10: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

B.現状把握

B1.現状把握調査とそれに基づく要因の特定

磯焼けが感知された場合、現状を詳細に把握する調査を実施し、阻害要因を特定する。

阻害要因が特定できた場合は「C.計画づくり」へ進み、特定が困難な場合は、要因を特

定するための現地実験等を行う。

【解説】

1)現状把握

磯焼けの現状を具体的に把握す

るため、次のような調査を実施す

る。

汀線からメジャー付きロープを

沖に向けて張って測線とする。こ

のロープに沿って一定の間隔(水

深)で、枠(1m×1m)等を使っ

て、出現する海藻の被度、植食動

物(ウニや巻貝)の個体数、底質

の性状、水深、汀線からの距離な

どを記録する(図 B-1、ベルトト

ランセクト法)。調査は、1測線

だけでなく複数の測線(図 B-2)

で行えば、海域の面的な状況を把

握することができる。記録には、

耐水紙に調査項目を印刷した観察

野帳(コラム B-1)を利用し、海

底の状況は写真やビデオで撮影し

て保存しておくことが望ましい。

なお、調査ラインは、目印の浮

きを設置したりステンレス製チエ

ーンを敷設したりしておき、モニ

タリング(F.参照)でも同じラインで調査できるようにするとよい。

2)阻害要因の特定

調査結果は、水深の基準を潮位表基準面とし、図 B-3のように取りまとめる。図から以

下のような検討を行い、要因を特定する。

ウニは水深 4~14m(水深 8~10mで高密度)、海藻のほとんどは水深 0~5mの範囲

に分布することがわかる。海藻は、ウニのいる範囲には生えておらず、ウニのいない

範囲に分布していることから、阻害要因がウニの食害である可能性が高い。

図 B-1 磯焼け海域の潜水調査

図 B-2 測線の設定例

- 57 -

Page 11: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

水深 14mm以深では、ウニがいないのに海藻が認められない。これは底質が砂であるか

らである。

巻貝は水深 0~13mの範囲に分布するが、その分布範囲に海藻が生育しているため、

巻貝による食害の影響は大きくないと予想される。

海藻に採食痕があった場合は、食痕から植食性魚類の種を特定できる(コラム B-4)。

海藻の葉面に浮泥が堆積し、枯死が認められる場合は、浮泥が阻害要因になっている

可能性が高い。

図 B-3 ベルトトランセクト法の調査結果の例

要因が特定できた場合は計画づくり(C.参照)に進み、そうでない場合は、要因を特定

するための簡易な現地実験と調査(B2.参照)を実施する。

参考までに、藻場形成の阻害要因が明らかな事例をコラム B-3 で紹介する。

ヒロメクロメシダモクホンダワライソモクアカモクノコギリモクウニその他巻貝

;海藻が数株以下

2468101214

1618

0 50 100

岩盤転石

大礫巨礫

小礫砂

凡 例

mm

潮位基準面からの水深

基点0mからの水平距離(m) 潮位表基準面からの水深

- 58 -

Page 12: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【コラム B-1】★観察野帳の例

大分県名護屋湾では、藻場などの分布について、漁業者自身の SCUBA 潜水による現地調査が実

施されている。毎年、調査前に、専門家から被度の見方(評価の目合わせも含む)などの講習を

受け、その後、31区画にわけた湾全域の調査を、3名1組となり 3日程度で行う。その際に、使

用しているのが下記の野帳であり、上は海藻用、下はウニ用である。ベルトトランセクト調査を

実施する際は、このような野帳に記録すると、データの取り残しが少なくなる。なお、野帳の項

目は、地域の生物相や測定方法に応じて適宜変更する必要がある。

(海藻用)

(ウニ用)

- 59 -

Page 13: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【コラム B-2】★広範囲にわたる磯焼け域の分布調査の事例

宮城県では広範囲の海岸線を対象に、ウニの食

害で磯焼けになっている海域を調査した。方法は、

船から箱メガネを使用して海底を覗き、ウニの個

体数と海藻の被度および水深を測定するものであ

る。水深の実測値から、図 1 のように観察面積を

比例で求めた。水深 0~2m、2~4mの 2 水深帯で

海岸線に沿って調査し、全延長 80㎞の範囲で海底

の状況を観察した。

図 2 をみると、気仙沼地先、南三陸町の入り江

地形の海岸では海藻の被度が小さく、ウニの個体

数が多いことがわかる。また、図には示されてい

ないが、0~2mの水深帯では海藻の被度が大きか

った。潜水士も不要で、広範囲に磯焼けの実態を把握するのに簡易な良い方法である。このよう

な方法で地先の海を定期的に調査すれば異変に早く気づくことができる。

図 2 宮城県沿岸の水深 2~4mの海藻の被度(左図)とウニ密度(右図)

(緊急磯焼け対策モデル事業 宮城県発表資料から作成)

図 1 水深と観察面積の関係

- 60 -

Page 14: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【コラム B-3】★藻場形成の阻害要因が明らかな事例

キタムラサキウニが高密度(10個/㎡以上)

(北海道)

ガンガゼが高密度(10 個体/㎡以上)

(静岡県)

カジメの葉状部と生長帯が植食性魚類によっ

て食べられた状況(静岡県)

アラメの葉状部と生長帯が植食性魚類によ

って食べられた状況(千葉県)

泥が堆積して衰退した礫域の藻場(富山県) 浮泥が堆積した藻場(大阪府)

- 61 -

Page 15: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【コラム B-4】植食性魚類による海藻の採食痕

海藻の採食痕から、植食性魚類の種類を特定することができる。

図 1 クロメに残されたアイゴ(全長 33 ㎝)の採食痕(スケールは各図共通 1 ㎝)

A:葉状部縁辺の連続した弧状の痕跡、B:葉状部縁辺の尖頭の弧、

C,D:中央葉と茎に見られた筋状の痕跡、矢印:主な採食痕

図 2 クロメに残されたブダイ(全長 42 ㎝)の採食痕(スケールは各図共通 1 ㎝)

A:側葉と中央葉を採食されたクロメ、B:深く湾入した楕円弧、

C,D:葉・茎状部表面の筋状の痕跡、E:葉状部表面の歯型、

F,G:中央葉の直線的な痕跡、H:葉状部縁辺の不規則な凹凸

(桐山ら 2001 を一部修正)

桐山ら(2001):藻食性魚類数種によるクロメの摂食と摂食痕,水産増殖,49,431-438.

H

矢印:主な採食痕

- 62 -

Page 16: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【コラム B-5】栄養塩の変化が原因で現れる海藻の変化

海水中の窒素(硝酸態窒素またはアンモニア態窒素)が不足すると紅藻の黄化が認めら

れる。紅藻は光合成補助色素フィコエリスリンを含むために紅色となっている。この分子

には窒素原子が含まれるため、補助色素(クロロフィル分子が吸収できない波長の光を吸

収する)としてだけでなく,窒素の貯蔵庫として機能する。しかし、海水中の窒素が不足

すると、フィコエリスリンが減少して紅色が失われ、残された色素(クロロフィルやカロ

チノイド)の色が表れて黄色や緑色になる。紅藻の黄化はテングサ漁場で古くから知られ

ていたが、近年、養殖ノリ漁場の「色落ち」として深刻化している。藻場では、テングサ

のほか、ツノマタ、スギノリ、トサカノリ、タンバノリ、アカバ、エゴノリなど多くの紅

藻で黄化が認められ、貧栄養となりやすい暖流域で黄化しやすい。また、過去と比べて、

近年、黄化藻体が増えていることを示唆する文献解析例もある。千葉県房総半島や静岡県

伊豆半島では、紅色の体色の変化と海水中の硝酸態窒素の濃度に相関関係がある。実際、

黄化した藻体を栄養添加海水で培養すると体色が紅色に戻る。実際には、成長の盛んな枝

の先端から黄化し、基部に紅色が残ることも多い。紅色の体色は栄養塩(窒素)の指標と

なり、栄養塩添加(施肥)の質的効果の指標にもなりうる。

アカバ(北海道寿都町) スギノリ(山形県鶴岡市)

図 1 紅藻の黄化の例

図 2 静岡県内浦湾の硝酸態窒素濃度と紅藻の体色の関係(Kobayashi et al.,2014)

Kobayashi et al.(2014):Can thallus color of red algae be used as an environmental

indicator in shallow waters?, J Appl Phycol, 26, 1123-1131.

- 63 -

Page 17: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

B2.要因を特定するための簡易な現地実験と調査

要因が特定できない場合には、簡易な現地実験、あるいは磯焼け域と近隣藻場を比較す

る現地調査を行い、要因を特定する。

【解説】

1)簡易な現地実験による方法

現状把握で要因が明確にできなかった場合は、図 B-4に示すような操作実験を磯焼け域

において実施する。

図 B-4の実験は、左から、①対策なし、②母藻の移植、③植食動物の侵入防止カゴの設

置、④は②+③の複合対策であり、実験開始時(上段)と観察結果(下段)を示している。

図 B-4の観察結果(下段)を見ると、②の母藻は消失、③と④では海藻の幼芽が認められ、

また、④の母藻は消失することなく生存していることがわかる。これらのことから、次の

ことが予想される。実験開始時に移植した母藻④は終了時にも生存していることから、こ

の海域における水質は海藻の生育に問題ないことがわかる。また、実験開始時に移植した

母藻②は実験終了時に消失したことから、植食動物による食害が予想される。③と④に海

藻の幼芽が見られることから、当海域には海藻のタネが供給され生育しうると考えられる。

以上のことから、この磯焼け域では、栄養塩供給を含めた水質改善や海藻のタネまきをす

る必要はなく、植食動物の食害対策が必要であることがわかる。

図 B-4 藻場形成の阻害要因の確認

なお、図 B-4で示した試験区①~④は、水深、波当たり、潮流、底質等の物理環境に大

きな違いが出ないように、近接させて行う必要がある。また、実験は、植食動物の出現期、

あるいは摂食活動が活発な時期に行う。移植用の海藻は、実験期間中に生育する種を選定

し、実験場所の近くで残存する藻場から採集することが望ましい。

実験開始

観察結果

母藻移植対策無し 防御カゴ設置 母藻移植+防御カゴ設置

幼芽無し 母藻消失+幼芽無し

幼芽有り 母藻生存+幼芽有り

植食動物が入れない 植食動物が入れない① ② ③ ④

- 64 -

Page 18: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

実験にあたっての留意事項を以下に示す。

観察の間隔を長くすると、移植した海藻が、いつ、何が原因で消失したか、わからな

くなってしまうので、少なくとも毎月1回程度、実施することが望ましい(最初はも

う少し頻度が高い方がよい)。特に、ウニが海藻を多く食べる春から秋、アイゴやブ

ダイが海藻を多く食べる初夏から初冬にかけては、頻度を高めて観察する。

小型のウニや巻貝が多い場合は、カゴや網の目合を小さくする必要がある。しかし、

カゴや網は付着生物で目詰まりしやすいので、中に入れた海藻が光不足とならないよ

うに、定期的に清掃する必要がある。

植食性魚類による食害が懸念され、ウニの影響が少ないと判断される場合は、カゴの

目合は 5 ㎝程度と大きくてもよい。ただし、カゴは天井部を持つ 5面が望ましく、特

に、魚類の食害が予想される場合は天井部が不可欠である。カゴ内の植食動物は、実

験開始時にすべて除去し、観察の際に侵入した植食動物を発見した場合は除去する。

図 B-4 の観察結果に応じて想定される要因は以下の通りである。

②と④の母藻が消失した場合:栄養塩や濁度など水質が要因と予想される。

②の母藻は消失するが、④の母藻は生育する場合:水質は問題なく、植食動物

の食害が要因と予想される。

③と④に幼芽が見られない場合:海藻のタネ不足や底質の悪化(浮泥の堆積)

が要因と予想される。

2)磯焼け域と近隣藻場の比較現地調査による方法

図 B-5のように、磯焼け域と近隣(もしくは域内に部分的に残存している)藻場の 2地

点を比較し、要因を特定する。比較現地調査は、両地区において「ウニ密度」、「植生被

度」、「透明度」、「底質」、「懸濁物質」、「水温」、「流動」,「栄養塩」などの時

系列データを取得し、何のデータに、いつから、相違が生じるかを明らかにできれば、そ

れが要因と考えられる。ただし、両地区の結果が同等であれば、植食性魚類、あるいはサ

ザエや小型巻貝、アメフラシなど、ウニ以外の植食動物による食害が疑われる。

環境データを取得する比較現地調査は、観測機器や採水分析が必要となり専門的な技術

を必要とすることから、最寄りの試験研究機関と協力して進めることが望ましい。

図 B-5 比較現地調査による方法(近隣藻場(左)、磯焼け域(右))

- 65 -

Page 19: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

表 B-1は、植食動物による食害以外の原因で藻場が衰退する事例について、一覧に取り纏

めたものである。藻場衰退を生じさせる環境、この環境に至らしめる原因や影響、この環境

の指標となりうる海藻や植生の状況、この環境を把握するために必要な調査手法・機器を示

している。

表 B-1 植食動物の食害以外の原因で藻場が衰退する場合の調査方法

環境 原因・影響 指標となりうる 海藻・植生状況

調査手法・装置

簡易調査 機器・分析

光不足

・沿岸改変(静穏化に

伴う河川水の局所的

滞留)や生活・産業排

水による懸濁物質の

増加。

・海藻の生長に影響。

・芽生えの時期、ある

いは海藻の呼吸が盛

んな夏季は深刻。

・植食動物が多くない

のに深所から藻場が

衰退する。

・静穏域や深所では

懸濁物質が浮泥とな

って海底に堆積。

・浅所の流動・攪拌域

(時期)では堆積しな

いが、海水中の濁りと

して影響。

○透明度板

・直径30㎝の白色円

形板を沈めて観測。

○写真撮影

・海上や陸側の定点

でデジタルカメラを用

いて撮影。出水時だ

けでなく平時の定期

観測も必要。

○水中照度計

○水中光量子計

○濁度計

・メモリー式小型機が

使い易い。

高水温

・暖流接岸・優勢や気

象変動による。

・冬季の高水温は芽

生えに影響し海藻群

落の成否にも影響。

・夏季の高水温は生

長や成熟、群落の存

否に影響。

・他の環境要因と関連

するので、単独の影

響かどうかは要注意。

・コンブ・アラメ・カジメ

類は高水温の影響を

受けやすく、減少、先

枯れ、あるいは種組

成の変化(ワカメが増

える等)が進む。

・ホンダワラ類やテン

グサ類には、それほ

ど大きな影響はない。

○現場採水(棒状温

度計・簡易水温計に

よる測定)

・近くの海面養殖場や

定置網、栽培漁業セ

ンター(取水)で連続

測定されている場合

はこれらのデータを活

用する。

○水温計

・メモリー式小型機が

使い易い。

栄養塩

不足(又

は過多)

・暖流接岸・優勢、河

川水の減少や沖合へ

の拡散阻止、排水規

制などで貧栄養。

・高水温時には海水

の成層化により不足し

やすい。

・沿岸改変(静穏化に

伴う河川水の局所的

滞留)や生活・産業排

水により富栄養化が

進行。

・海水流動の強弱が

栄養塩吸収に関係。

○栄養塩不足

・テングサ類は直立体

減少(匍匐糸は残る)

や黄化が起る。黄化

は他の紅藻でも認め

られる。

・コンブ類は先枯れが

進み、子嚢斑形成が

遅れたり子嚢斑面積

が小さくなったりする。

○栄養塩過多

・付着生物(珪藻、小

型海藻、小動物)が増

加。

・多数の小突起が生じ

る海藻は突起が発達

する。

○現地測定(市販の

パックテストや簡易機

器で測定)

・富栄養(高濃度)の

大まかな測定しかでき

ない。

○専門機関で分析

・蓋付き瓶(ペットボト

ル等)を用いて海底

付近で採水。

・サンプルは、吸引濾

過した後に、冷暗所で

保存。

- 66 -

Page 20: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

表 B-1 植食動物の食害以外の原因で藻場が衰退する場合の調査方法(続き)

環境 原因・影響 指標となりうる 海藻・植生状況

調査手法・装置

簡易調査 機器・分析

静穏化

・沿岸構造物(防波堤

や埋め立てなど沖出

し構造物)に挟まれた

海岸や離岸堤設置域

で顕著。

・台風や冬の時化など

が起こらない季節に、

長期間、海面が鏡面

状になるような内湾域

で要注意。

・海藻表面に浮泥や

砂が堆積して汚れて

海藻の活力が低下。

・付着生物(珪藻、小

型海藻、小動物)が増

える。

※海底や海藻表面に

堆積した砂に珪藻が

繁茂するとべたつき、

振っても落ちにくい。

・海藻が全体的に縮

れることがある。

・礫域の場合は、礫の

反転・移動が減り、礫

間に跨って生える無

節サンゴモが出現。

○石膏球

・1~2週間、海底に設

置し石膏の減少量か

ら期間平均流速を算

出。

・水温により石膏の溶

出速さが変わるので

留意。

○写真撮影

・デジタルカメラやビ

デオに専用ハウジン

グを装着して撮影。近

年は市民ダイバーも

多く、ダイビングスポッ

トや有名な岩の定期

的な撮影を依頼し、保

管しておくとよい。

○電磁流速計

・メモリー式小型機が

使い易い。

浮泥

堆積

火山灰の

堆積もこ

の項を参

・海岸・流域の人工化

(垂直護岸や河床の

三面張り)。

・特にダムの排砂によ

る影響は深刻。

・河口の直近(大きな

粒子が沈降)よりも、

数㎞離れた地点で粒

径の細かい泥(ウォッ

シュロード)の影響が

強く現れる。

・海が荒れれば解消

するが、静穏な季節(

日本海側では夏、太

平洋側では冬)に、長

期間海底に堆積する

と影響が大きい。

・藻場が深所から衰

退。

・海藻の上に浮泥や

砂が堆積。コンブ類

は堆積部位の腐敗に

より穴があく。

・海底の浮泥を顕微

鏡で観察すると、浮泥

に付着した海藻の発

芽体から、岩面に着

底できない様子が窺

える。

○簡易式セディメント

トラップ

・海底に口径の大き

いポリ瓶(縦横比4:1

程度)を設置。1~数

ヶ月放置し、堆積物を

捕集。堆積量や粒径

を比較。

・粒土組成は目の細

かい「ふるい」から順

に堆積物を通して選

別し、重量比で算出。

○写真撮影

・海底や海藻上の浮

泥の堆積状況を撮影

(色、特に堆積物の硫

化水素発生を示す黒

色化が重要)。

採集物の分析

・蓋付き瓶や牛乳パッ

クを用いて海底付近

を採泥し、専門機関

等に分析を依頼。粒

径、酸化還元電位、

硫化物、強熱減量な

どを調べる。

・サンプルは引き渡し

時まで密閉し、冷凍

保存。できれば、採集

当時の匂いや手触り

を記録しておく。

- 67 -

Page 21: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【コラム B-6】インターバルカメラによる魚のモニタリング

植食性魚類のモニタリングでは、水中ビデオを用いた連続撮影や間欠撮影が行われてきたが、

長時間の撮影が難しく、撮影機材等が高価であった。最近、安価なインターバルカメラが販売さ

れるようになっているので、これを利用した植食性魚類のモニタリング方法について紹介する。

インターバルカメラ(キングジム社製レコロなど)を専用防水ケース(特注)に格納する。海

底に固定したボルトにナット止めして設置する。カメラの前方の海底に樹脂ネットなどを固定

し、ホンダワラ類やアラメ・カジメ類などの餌海藻を結束バンドで取り付け(図 1)、魚を誘引

して撮影を行う(中嶋ら、2013)。魚の通り道と思われる場所に沿って、防水ケースの下部に錘

を付けて沈設して撮影すれば、魚の行動パターンを解明できる(梶原ら、2015)。機種により異

なるが、レコロ IR5 の場合、最大 9999枚の撮影が可能なので、撮影間隔 10 秒で約 27時間、30

秒で約 83時間の連続撮影ができる。撮影された映像(avi)を動画変換&編集ソフト(iWi Free

Video Converter など)を用いてコマに分解し、魚の種類、出現時刻、尾数、大きさ、行動(摂

餌、接近、および遊泳など)、摂餌海藻などを記録する。餌海藻付近に物差し(1m)を写し込

んでおくと画像内のスケールとなり、魚の全長も推定可能である(中嶋ら、2014)。なお、調査

場所の海藻植生の状態により、特定の餌海藻に対する行動は変わりうるので、注意を要する。例

えば、ある時まで食べていても、周囲の海藻の生育によって食べなくなることもある。

図 1 海底に固定したインターバルカメラによる撮影の様子と撮影されたブダイ

梶原ら(2015):藻場や磯焼け域の把握に関わる新たな装置や技術~廉価版サイドスキャンソナ

ー,ラジコンヘリ,間欠撮影カメラの利用~,水産工学,51,221-226.

中嶋ら(2013):植食性魚類ブダイの除去と効果判定について,平成 25 年度日本水産工学会学術

講演論文集,107-110.

中嶋ら(2014):植食性魚類ブダイの除去効果の持続期間について,平成 26 年度日本水産工学会

学術講演論文集,21-24.

ノコギリモク

を咥えている

インターバル

カメラ

餌海藻

- 68 -

Page 22: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【コラム B-7】★藻場の形成阻害要因を特定するための実験例

新潟県の真野湾ではガラモ場が分布しているが、離岸 810mから徐々に減少し、870m以

遠ではホンダワラ類が分布しなくなる。いわゆる「沖焼け」状態である。昔は、さらに沖

まで藻場が分布していたと記録されている。この原因を把握するため、囲い網の中と囲い

網のない場所にホンダワラ類を移植し、囲い網の中のウニや巻貝をすべて排除する実験を

実施した。その結果、防護区内のホンダワラ類は残存したが、無防護区では海藻が消失し

たことから、ウニや巻貝による食害の影響が大きいと判断された。

防護区 無防護区 想定される原因

海藻生育 海藻生育 → ウニや巻貝による食害はない

海藻生育 海藻消失 → ウニや巻貝による食害の影響

海藻消失 海藻消失 → ウニや巻貝以外の原因

次に、幼胚の供給の有無を調べる簡易な実験を実施した。植食性魚類やウニ、巻貝の食

害の影響を排除するためにカゴを設置し、新しい基盤を中に入れ、母藻を投入した区(投

入区)と母藻を投入しない区(無投入区)を設定した。その結果、投入区にはホンダワラ

類が繁茂したが、無投入区では繁茂しなかった。このことから、海藻のタネ不足が磯焼け

の継続要因の一つである可能性が示された。

投入区 無投入区 想定される原因

海藻生育 海藻生育 → 海藻のタネ不足ではない

海藻生育 海藻消失 → 海藻のタネ不足

海藻消失 海藻消失 → 海藻のタネ不足以外の原因

実験に用いたカゴ 投入区 無投入区

石川ら(2010):ガラモ場沖側の衰退要因を探る 藻場を見守り育てる知恵と技術(藤田ら

編),成山堂書店,188-194.

防護区 無防護区

設置直後 設置直後

9 ヶ月後 9 ヶ月後

- 69 -

Page 23: 5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼 …...5.磯焼け対策の手順 5.1 順応的管理で進める磯焼け対策 磯焼け対策は、順応的管理手法で進める。

【コラム B-8】★ダウンスキャン機能を搭載した魚探を用いた藻場分布調査

遊漁用の安価な音響測器が高性能になり、ダウンスキャン機能を有した GPS 魚探で藻場の分布

調査が行えるようになった。同じ海域を異なる時期に観測した潜水写真およびダウンスキャン画

像を下に示す。 2012年 10月は藻長 20 ㎝ほどのマクサが被度 50-80%で点在し、2014 年 3月は

マクサとともに藻長 1-1.5mのホンダワラ類が被度約 60%で繁茂していた。3月のダウンスキャ

ン画像では、岩や石を示す海底面の強い反射の上に、10 月には見られなかった「連立する反射

物」が明確に確認できる。クロメも同様に認識できることを確認している。測定周波数は 455KHz

である。

音波を放射し物体からの反射を観測する音響測器は、海水が濁っていても観測が可能である

が、船が立ち入れない浅海域では調査できない。また、データ解析に手間を要することが問題点

として挙げられる。今後、藻場の被度や藻長を自動で検出するソフトウェアの開発が必要である。

梶原ら(2015):藻場や磯焼け域の把握に関わる新たな装置や技術~廉価版サイドスキャンソナ

ー,ラジコンヘリ,間欠撮影カメラの利用~,水産工学,51,221-226.

- 70 -