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Kuwamura Manual - BLver.2 / Feb. 2018 65 6章 構造解析 6.1 半剛接モデル 構造解析モデルに仕口回転ばねを組込む等により,仕口の回転を考慮した構造解析を行 う。長期荷重及び短期荷重に対する弾性構造解析では, 4 章の仕口の等価剛性を用いる。終 局地震水平力に対する弾塑性構造解析では,本章 6.3 節の非線形接線剛性またはそれを簡略 化した荷重変形曲線を用いる。 (解説) ノンダイアフラム形式の柱梁接合部をもつ構造物は仕口が回転し半剛接となることを考慮した構造解析 を行わなければならない。そのときのモデルは, 6.1.1 に例示するように,梁端に位置する仕口に回転ば ねが組込まれる。 弾性構造解析では,仕口の回転ばねは初期剛性ではなく,割線剛性に換算した等価剛性を用いる。等価 剛性は 4 章で規定している。 弾塑性構造解析では,仕口の非線形荷重変形関係を反映させる必要がある。増分解析(平 19 国交告 592 号(最終改正 27 国交告 184 号))を行う際には,本章 6.3 節の非線形接線剛性を用いることが望ましい が,保有水平耐力の過大評価につながらない範囲で,バイリニア型やトリリニア型のような折れ線で近似 してもよい。 ノンダイアフラム形式の円形鋼管柱では,通常,仕口に対してパネルが相対的に剛強であるので,パネ ルをモデルに組込まないで構造解析する選択肢もありうるが,できるだけ,パネルのせん断変形を考慮し た構造モデルとすることが望ましい。このときのパネルの剛性は,弾性解析では仕口と同様に,等価剛性 を用い,弾塑性増分解析では非線形接線剛性またはその折れ線近似を用いる。 6.2 柱-梁-パネル-仕口系 ラーメン構造においては,柱,梁,パネル,仕口を適切にモデル化して構造解析を行う。 6.1.1 ノンダイアフラム形式の円形鋼管柱‐H形梁接合部の挙動とその半剛接モデル(再掲) 1)構造骨組 H形梁 円形鋼管柱 パネル 仕口 仕口 3)仕口回転 4)仕口回転+パネルせん断変形 鉛直荷重時 水平荷重時 回転ばね パネル 5)半剛接モデル 2)ノンダイアフラム接合部 回転ばね

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6章 構造解析

6.1 半剛接モデル

構造解析モデルに仕口回転ばねを組込む等により,仕口の回転を考慮した構造解析を行

う。長期荷重及び短期荷重に対する弾性構造解析では,4 章の仕口の等価剛性を用いる。終

局地震水平力に対する弾塑性構造解析では,本章 6.3 節の非線形接線剛性またはそれを簡略

化した荷重変形曲線を用いる。

(解説)

ノンダイアフラム形式の柱梁接合部をもつ構造物は仕口が回転し半剛接となることを考慮した構造解析

を行わなければならない。そのときのモデルは,図 6.1.1 に例示するように,梁端に位置する仕口に回転ば

ねが組込まれる。

弾性構造解析では,仕口の回転ばねは初期剛性ではなく,割線剛性に換算した等価剛性を用いる。等価

剛性は 4 章で規定している。

弾塑性構造解析では,仕口の非線形荷重変形関係を反映させる必要がある。増分解析(平 19 国交告 592

号(最終改正 平 27 国交告 184 号))を行う際には,本章 6.3 節の非線形接線剛性を用いることが望ましい

が,保有水平耐力の過大評価につながらない範囲で,バイリニア型やトリリニア型のような折れ線で近似

してもよい。

ノンダイアフラム形式の円形鋼管柱では,通常,仕口に対してパネルが相対的に剛強であるので,パネ

ルをモデルに組込まないで構造解析する選択肢もありうるが,できるだけ,パネルのせん断変形を考慮し

た構造モデルとすることが望ましい。このときのパネルの剛性は,弾性解析では仕口と同様に,等価剛性

を用い,弾塑性増分解析では非線形接線剛性またはその折れ線近似を用いる。

6.2 柱-梁-パネル-仕口系

ラーメン構造においては,柱,梁,パネル,仕口を適切にモデル化して構造解析を行う。

図 6.1.1 ノンダイアフラム形式の円形鋼管柱‐H形梁接合部の挙動とその半剛接モデル(再掲)

(1)構造骨組

H形梁

円形鋼管柱

パネル

仕口仕口

(3)仕口回転 (4)仕口回転+パネルせん断変形

鉛直荷重時 水平荷重時

回転ばね

パネル梁

(5)半剛接モデル(2)ノンダイアフラム接合部

回転ばね

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(解説)

通常の構造解析では,柱と梁を線材に置換したモデルを用いており,パネルが剛強とみなせない場合は

パネルをモデルに組み込むことがある。ノンダイアフラム形式では,さらに,仕口の回転を考慮する必要

がある。

柱,梁,パネル,仕口で構成される無限均等ラーメンの一部を取りだした部分架構を図 6.2.1 に示す。柱

と梁は線材に置換されているが,パネルは面要素,仕口は回転ばね要素となっている。この部分架構を用

いて,構造解析を説明する。仕口鋼管の余長部は柱鋼管の長さに比べて十分短いので,余長部の増厚を無

視して弾性解析を行う。

弾性解析,弾塑性解析のいずれにも次のことを仮定する:(1) 幾何非線形を無視する。(2) 柱と梁は曲げ

変形とせん断変形を考慮し,軸変形を無視する。(3) 柱とパネル,及び梁と仕口の接合角度は変形後も垂直

を保つ。(4) パネルは平行四辺形に変形し,パネルを囲む 4 側面は平面を保持する。(5) 仕口は平面を保持

する。この仮定に基づく骨組解析は,弾塑性域にわたって実験結果及び有限要素解析結果と適合すること

が確認されている t14,t19。

この十字形架構の解析における未知数は,柱端におけるパネルの水平面の回転角 ,梁端におけるパネ

ルの鉛直面の回転角 ,パネルの剛体回転角 と水平変位 ,及び梁端仕口の回転角 の 5 個である。パ

ネルのせん断変形角 は である。

先ず,弾性解析では,5 個の未知数に対して次の 5 つの方程式が立てられるので,与えられた水平外力 に

対して変形状態を決定することができる。柱の下端から上端までの層間変位 は であるので,層

間変形角は となる( は層の高さ)。

(6.2.1)

(6.2.2)

(6.2.3)

図 6.2.1 柱,梁,パネル,及び仕口を変形要素とする十字形部分架構

CHS-column

d

D

t

J

h H

Bf

tw

tf

Q

Q

h

R

LC

st

sc

sc cos

st sin

st cos

sc

sc sinR

uC

vB

d BLBL

LC

sc cossc sin

v

h

uG

G

h

v

st

v

hG

=P

v + h

= -h H tf

= -d D t

joint joint

panel H-beam

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(6.2.4)

(6.2.5)

ここで, はパネルモーメント, は仕口モーメント, はパネルの等価せん断剛性, は仕口の等

価回転剛性, は梁支点の鉛直変位, は柱下端の水平変位, と はパネルの横幅と高さ, は柱端に作

用する水平力, は梁の支点反力, と は梁と柱の断面 2 次モーメント, と は梁と柱のせん断抵

抗面積, と は梁と柱の支点‐仕口間距離, はヤング係数, はせん断弾性係数である。なお,与えら

れた水平外力 に対して, , , は従属であり, , ,

である。なお,仕口とパネルの性能が厚さ中心線を基準とした寸法( , )で表される関係で,

寸法に僅かなずれが生じるが,例えば,上の は正確には, となるが,

このずれは無視する。

次に弾塑性解析では,上の式をすべて次のように増分形式で書きなおせばよい。このとき,仕口とパネ

ルの剛性には接線剛性 , を用いることになる。梁と柱が弾塑性状態に至る場合については,既に解

析手法が確立されているので,ここでは,簡単のため梁と柱は弾性に留まるとしている。

(6.2.6)

(6.2.7)

(6.2.8)

(6.2.9)

(6.2.10)

従属関係にあるものについても, , ,

のように増分形式で表される。変位制御で を尐しずつ与えて解いていけば,荷重と変形のすべてを追跡

することができる。最終的に,架構の荷重変形関係,例えば,水平力 と層間変形 の関

係を描くことができる。

(計算例 1:地震水平力による層間変形角)

図 6.2.2 に示す部分架構が地震水平力を受けるときの層間変形角を弾性解析により求めた結果が表 6.2.1

に整理してある。層間変形は仕口,パネル,柱,梁の 4 要素の変形がもたらすものであるが,それぞれの

寄与が分かるように 6 ケースの結果を示してある。仕口のみの変形による層間変形角は 1/588(ケース 1),

パネルのみでは 1/2090(ケース 2),柱と梁のみでは 1/355(ケース 3)である。このことから,仕口の局

部変形が生む層間変形が柱と梁部材によるものよりやや小さいがほぼ同レベルであること,及びパネルの

寄与は小さいことが分かる。ケース 5 は仕口が剛とみなせる通しダイアフラム形式の場合であり,層間変

形角は 1/303 となっている。ケース 6 が本マニュアルが対象としているノンダイアフラム形式の場合であ

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り,仕口が局部変形を起こすため,層間変形角が 1/200 となる。

表中のケース 6 について計算過程を示すと,次のようになる。

先ず,仕口の剛性を計算すると,

次に,パネルの剛性を計算すると,

図 6.2.2 十字形部分架構の計算例

Q

-600×19 (STKN400B)

-600×32 (STKN400B)

d = 568

135

135

= 652hw

-600×19 (STKN400B)

135

H-700×300×13×24 (SN400B)

9,000

BL = 4,200

= 360 kN

N = 1,800 kN

R = 136 kN

I = 146,000 cm4

Z = 4,880 cm3

Z = 5,640 cm3

I = 197,000 cm4

A = 84.8 cm2w

A = 173.4 cm2w

C

表 6.2.1 十字形部分架構の層間変形角の計算結果

ID番号 仕口 パネル 柱,梁

1 弾性 剛 剛 5.78 1/588

2 剛 弾性 剛 1.63 1/2,090

3 剛 剛 弾性 9.59 1/355 柱梁接合部を剛域と仮定

4 弾性 剛 弾性 15.4 1/221

5 剛 弾性 弾性 11.2 1/303 通しダイアフラム形式

6 弾性 弾性 弾性 17.0 1/200 ノンダイアフラム形式

備考ケース 2 u G

(mm)層間変形角

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柱鋼管の断面性能は,

H形梁の断面性能は,

パネルモーメントと仕口モーメントは,

材料のヤング係数,せん断弾性係数を通常通り , として順次計算

すると,

, , , ,

結局,層間変形角は となる。

ちなみに,短期許容曲げ耐力を計算すると(柱の圧縮軸力 1,800kN を考慮して),

仕口(軸力比 0.134): , パネル(軸力比 0.134):

梁 : , 柱(軸力比 0.221) :

作用モーメントは,

仕口: , パネル:

梁 : , 柱 :

短期許容曲げ耐力に対する作用モーメントの比は,

仕口: , パネル:

梁 : , 柱 :

(計算例 2:鉛直荷重による梁のたわみ)

図6.2.3に示す無限均等ラーメンの鉛直荷重による梁ABの曲げモーメント分布とたわみを計算した結果

が表 6.2.2 に整理してある。参考に,通しダイアフラム形式(仕口が剛)とした場合についても記入してあ

る。この場合,パネルのせん断変形は生じない。この例は,工場・倉庫を想定して梁のスパンがかなり大

きく,また固定・積載荷重も大きく設定してある。

梁の有効長さ:

固定・積載荷重: , ,

この例では,梁の有効長さに対する梁せいの比が 800/13,550=1/16.9 であり,1/15 を超えていないので,

平 12 建告 1459 号(最終改正 平 19 国交告 621 号)により,建築物の使用上の障害が起こらないことを確

かめる必要がある。その方法は同告示により,たわみの最大値を梁の有効長さで除した値が 1/250 以下で

あることを確かめることとなる。この例では,小梁が密に多数本配置されているので,梁上の固定・積載

荷重を等分布として計算する。

表を見ると,ノンダイアフラムでは仕口が半剛接となるので,通しダイアフラム形式よりも梁端モーメ

ント が減尐し,梁中央モーメント が増大しているが,この例では梁端と梁中央のモーメントがほ

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ぼ等しくなっている。梁の最大たわみ(中央たわみ) は,当然,通しダイアフラム形式よりも大きくな

るが,たわみ制限 1/250 以下を満たしている。同表には,梁の長期許容曲げ耐力 ,仕口の長期許容曲

げ耐力 が記入してある。ノンダイアフラム形式,通しダイアフラム形式いずれにおいても,梁と仕口に

生じる曲げモーメントは長期許容曲げ耐力以下である。

等分布荷重 が作用する半剛接支点をもつ梁は,図 6.2.4 を参照して,次のように解析する。ここでは,

梁のせん断変形を無視する。先ず,両端ピン支持の場合の梁端の回転角 ,中央たわみ ,中央モーメン

ト は,梁の断面 2 次モーメントを とすると,

次に,両端ピン支持の梁端にそれぞれ仕口モーメント が作用したときの,梁端の回転角 ,中央たわ

み は,

梁端に生じる回転角 とモーメント には,仕口の回転剛性 によって, の関係

図 6.2.3 鉛直荷重による梁の曲げモーメントとたわみの計算例

A B

14,000 -450×32 (STKN400B)

d = 418

120

120

= 748hw

-450×19 (STKN400B)

120

H-800×300×14×26 (SN400B) Z = 7,160 cm3

I = 286,000 cm4

H-800×300×14×26 (SN400B)

= 13,550le

表 6.2.2 梁の曲げモーメントとたわみの計算結果

梁端モーメント

梁中央モーメント

梁中央たわみ

梁の長期許容曲げ耐力

仕口の長期許容曲げ耐力

M end , M J

(kN・m)

M cnt

(kN・m)

cnt

(mm)

M aB

(kN・m)

M aJ

(kN・m)M end / M aB M cnt / M aB M J / M aJ cnt / l e

ノンダイアフラム 694 683 17.7 1,120 766 0.62 0.61 0.91 1/760

通しダイアフラム 918 459 9.0 1,120 - 0.82 0.41 - 1/1,510

接合部形式

判定

図 6.2.4 梁端における半剛接支持条件を考慮した変形計算

w

le

1 1le

2 2

JMJM

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があるので,結局,次式が導かれる。

仕口の回転剛性及び曲げモーメント分布は,次のように計算される。この例では,直交梁上の固定・積

載荷重は小さいので,直交梁の影響を無視する。

, , , ,

, , ,

, ,

仕口の長期許容曲げ耐力は,次のように計算される。

, , , , ,

, , , ,

, ,

なお,この例での梁の断面 2 次モーメントは ,弾性断面係数は である。

6.3 仕口とパネルの荷重変形曲線

漸増載荷による弾塑性構造解析を行う場合の仕口とパネルの荷重変形曲線の接線剛性

を次式で設定するか,またはこれを適切に簡略化して用いる。

: (6.3.1)

, : (6.3.2)

仕口については, を仕口モーメント, を 3 章の降伏曲げ耐力, を 3 章の最大曲げ

耐力, を 4 章の初期剛性とする。パネルについては, をパネルモーメント, を 5 章

の降伏モーメント, を 5 章の塑性モーメントの式で を に置き換えたもの, を 5 章

の初期剛性とする。係数 の値は 0.5 とする。

(解説)

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接線剛性を与える(6.3.1)式と(6.3.2)式は仕口とパネルに共通なため,下添字 J, P を外してある。仕口と

パネルそれぞれについて書き下すと次のようになる。仕口の接線剛性は ,パネルは

で定義される(立体の は微分記号)。ここで, と は仕口のモーメントと回転角, と は

パネルのモーメントとせん断変形角である。

仕口について:

:

:

パネルについて:

:

:

仕口とパネルの荷重変形曲線は図 6.3.1(1), (2)に示すように非線形となり,接線剛性は荷重の増加ととも

に徐々に低下していく。この接線剛性式は,既往の実験と数値解析のデータを分析し,降伏耐力までを放

物線,降伏耐力後を双曲線で当てはめたものである t17。この式は,仕口とパネルいずれも降伏耐力を初期

剛性 の 1/3 の接線剛性で規定していること,最大耐力点では接線剛性が 0 となることを満たしてい

る。

双曲線式の は鋼管の材質に依存し,径厚比やフランジ幅などの影響も受けるが,降伏比が 90%程度に

なる冷間成形鋼管では ,降伏比が 70%程度のかなり低降伏比の熱処理鋼管では となる。これ

は低降伏比のものほど変形能力が大きいことを表している。本マニュアルでは,仕口鋼管に熱処理鋼管を

用いることを規定しているので,通常の降伏比 80%程度を想定して, とした。その妥当性は,実験

データ及び数値解析との比較により確認されている t14, t19。

上式において,仕口の は 4 章の初期回転剛性, と は 3 章の降伏曲げ耐力と最大曲げ耐力を用

図 6.3.1 仕口とパネルの荷重変形曲線

Y

Mu

M

joint failure

O

My

U

/3

J

J

J KoJKoJ

(1) 仕口のモーメントと回転角の関係

Kt J

= 0Kt J

J

Y

Mu

M

panel failure

O

My

U

/3

P

P

P KoPKoP

Kt P

= 0Kt P

P

(2) パネルのモーメントとせん断変形角の関係

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いる。パネルの は 5 章の初期せん断剛性, は 5 章の降伏モーメントとする。パネルの最大モーメン

ト は学会指針には規定されていないが,パネルが最大耐力に達するとき,パネルのせん断応力度が概

ね に至るという解析結果 t18に基づいている。つまり,(5.2.2)式の を , を に置き換えて算

定するので,次式となる。

ここで, はパネルの軸力比である。

高さが 60m を超える建築物(法令上の超高層建築物)では,動的な地震入力に対する弾塑性応答解析が

必要である(法第 20 条第 1 号,令第 81 条第 1 項第 4 号,平 12 建告 1461 号(最終改正 平 25 国交告 772

号))。地震応答解析における構造モデルは精粗様々であるが,もっとも精緻なモデルとして個々の構成要

素にその弾塑性履歴曲線を組込むことがある。一般に,塑性変形の累積に伴って,弾性剛性や降伏耐力が

低下する傾向を示す。ノンダイアフラム円形鋼管柱の仕口の履歴特性に関する実験によると,塑性変形の

振幅が比較的小さい場合には,累積塑性率(正負両側の塑性変形の累積量の和を初期塑性耐力時の弾性変

形で除したもの)が 10 程度までであれば,弾性剛性や降伏耐力は初期値をほぼ維持することが確認されて

いる t8。また,パネルの履歴曲線も非常に安定した紡錘形となることが知られている。したがって,累積

塑性率が小さい範囲に納まる場合には,上記の非線形曲線をサイクル毎に適用することができる。ただし,

塑性変形の振幅が非常に大きくなると(塑性率振幅が 5 を超えるような場合には),弾性剛性,降伏耐力,

最大耐力が,累積塑性率とともに低下する傾向が顕著となるので t5,それを考慮して応答解析を行う必要

がある。

6.4 保有耐力接合等

柱梁接合部の梁端溶接継目,仕口鋼管と柱鋼管の継手,柱鋼管と柱鋼管の継手,及び柱

鋼管とベースプレートの溶接継目は保有耐力接合とする。

(解説)

本マニュアルは,耐震設計(いわゆる二次設計)におけるルート 1,ルート 2,ルート 3 のいずれにも対

応できるように作成されている。なお,ルート 1 は,2007 年の改正でルート 1-1 とルート 1-2 に分か

れている。

ルート 1-1 を除き,いずれのルートにおいても,構造の耐震性能を確保するために次のことが規定され

ている(平 19 国交告 593 号(最終改正 平 27 国交告 186 号)第一のロ,昭 55 建告 1791 号(最終改正 平

27 国交告 185 号)第二の七,平 19 国交告 594 号第四)。

(a) 柱梁接合部仕口の保有耐力接合

(b) 柱継手,梁継手の保有耐力接合

(c) 梁の保有耐力横補剛

(d) 柱脚部の脆性的破断防止

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先ず,(a)については,現行の告示が鉄骨ラーメンの柱梁接合仕口を剛接合と想定していることに注意す

る必要がある。ノンダイアフラム形式の円形鋼管柱では,柱梁接合部仕口が半剛接となり,仕口周辺の鋼

管壁が局部変形を起こす。したがって,仕口は変形要素としての鋼管壁と剛要素としての梁端溶接継目に

分けて考え,後者の梁端溶接継目を保有耐力接合とすることとなる。梁端溶接継目を保有耐力接合とする

には,梁端溶接継目が破断に至るまでの最大曲げ耐力 が梁の全塑性モーメント に対して,

としておけばよい。係数 の値は,2015 年版建築物の構造関係技術基準解説書 a01によると,

400ニュートン級炭素鋼に対して1.3,490ニュートン級炭素鋼に対して1.2が参考値として示されている。

また,破断耐力 の計算方法も同解説書に示されている。

仕口の鋼管壁に生じる局部変形は,梁の曲げ変形と同様に,骨組の地震エネルギー吸収に寄与し,柱崩

壊形(層崩壊形,部分崩壊形とも呼ばれる)を防止する役割を担う。もし,梁の塑性ヒンジを優先させ,

仕口鋼管壁の塑性変形を期待しない設計を行う場合には,仕口鋼管壁の最大曲げ耐力 が梁の全塑性モー

メントより大きくしておけば( ),上記(a)の規定を文言上満たし,梁降伏による崩壊形となる。

しかし,仕口鋼管壁の面外曲げによる塑性変形能力は梁と同等以上であるので,あえてそのようにする必

要はないであろう。

次に,(b)の柱継手の保有耐力接合は,仕口鋼管と柱鋼管を開先を設けた全周完全溶込み溶接とすること

によって満たすことができる。柱鋼管どうしを継ぐ場合も同様である。

次に,(c)の梁の保有耐力横補剛については,梁端が半剛接になることが厳密には関係する。通しダイア

フラム形式のような剛接合の梁端は横曲げとねじりのいずれに対しても固定とみなすことができるが,ノ

ンダイアフラム形式ではねじりに対しては固定としても横曲げに対しては半固定となる。しかし,設計上

は,通常行われているように,仕口が横座屈に対してピンと考えて横座屈長さをとれば安全側である。保

有耐力横補剛については上記解説書 a01に計算方法が示されている。

最後の(d)については,柱鋼管とベースプレートを開先を設けた全周完全溶込み溶接とし,アンカーボル

トや基礎コンクリートについては,上記解説書 a01等の方法に準じればよい。

6.5 崩壊形と耐力比

全体崩壊形を意図して耐震設計を行う場合は,最下階と屋上階を除き,各階の床位置に

おいて次の二つの条件のうちいずれかを満たすものとする。

(6.5.1)

(6.5.2)

ここで, :柱鋼管の全塑性モーメント(軸力を考慮), :H形梁の全塑性モーメ

ント, :仕口の塑性モーメント, :パネルの塑性モーメント(軸力を考慮), :各

階の床位置における全節点の総和, :節点における耐力 の最小値, :

余長を考慮して を柱端フェイスモーメントに換算したもの, :張間方向と桁行方向

の梁の全塑性モーメントをベクトル合成した大きさ, :張間方向と桁行方向の仕口の

塑性モーメントをベクトル合成した大きさ。

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Kuwamura Manual - BLver.2 / Feb. 2018

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(解説)

本マニュアルは終局耐震設計における崩壊形を規定していない。すなわち,全体崩壊形,部分崩壊形,

局部崩壊形のいずれであっても,保有水平耐力を必要保有水平耐力以上とすることによって安全性を確保

するという規定(令 82 条の 3,平 19 国交告 594 号第四)に則っている。このとき,架構全体の Ds は,

通常通り,柱と梁の種別から決めるものとする。それは,ノンダイアフラム接合仕口が非常に靱性に富む

挙動をすることが実験的に確認されているからで,仕口で架構の Ds は決まらないと考えてよい。

しかしながら,骨組全体の塑性変形能力の観点から全体崩壊形が望ましいことがよく知られているので,

全体崩壊形を目標にして耐震設計を行うことがある。全体崩壊形となることを予め見極めることは難しく,

増分解析等によって構造解析してみなければ判明しない。そこで,構造計画の段階で用いる簡便な判定式

が本文(6.5.1)式と(6.5.2)式である。(6.5.1)式は告示式を流用したもので,(6.5.2)式は尐し精度を高めたもの

である。

(6.5.1)式は,冷間成形角形鋼管をダイアフラム形式の柱に用いたラーメン骨組が全体崩壊形になるため

のルート 3 の要求事項(平 19 国交告 594 号第四の三ロ)として規定された を

ノンダイアフラム形式の円形鋼管柱に流用したものである。柱梁耐力比と柱パネル耐力比を規定したこの

不等式は,冷間成形角形鋼管柱に塑性ヒンジが生じて層崩壊することを防止するための要求事項であるが,

円形鋼管では要求事項ではなく,全体崩壊形の判別式に過ぎない。

(6.5.1)式は,骨組の張間方向,桁行方向それぞれに対して個別に適用され,各階の床位置の柱端,梁端,

パネルの塑性モーメントの総和を用いたものである。梁の全塑性モーメント に掛かる係数 1.5 は,斜め

45°方向に地震水平力が作用するとき同断面を仮定した直交梁の寄与により梁の耐力が 倍(1.4 倍)にな

ること,及びひずみ硬化によって梁の耐力が全塑性耐力より 10%程度上昇することを見込んだものである

(これ以外にも,フェイスモーメントとパネル中心モーメントの差,材料強度のばらつきなどの要因も含

んだ概数である)。仕口の塑性モーメント に掛かる係数 1.5 も,梁と同様である。パネルの塑性モーメ

ント に掛かる係数は,角形鋼管では 45°方向の耐力が

0°方向より 30%程度上昇することを勘案して 1.3 として

いるが,円形鋼管では方向によらず一定であるので,ひず

み硬化等の影響を考慮して 1.1 としてある。柱の全塑性モ

ーメントは,仕口鋼管ではなく柱鋼管の全塑性モーメント

である。これは,仕口鋼管の余長が柱の長さよりもかなり

短いので,増厚された仕口鋼管に塑性ヒンジが生じること

はなく,柱鋼管に塑性ヒンジが生じるからである。

一方,(6.5.2)式は,精度を上げるために二つの工夫を施

したものである。一つは増厚仕口鋼管の余長を考慮して柱

の耐力を柱端フェイスモーメントに換算し,もう一つは梁

と仕口の耐力を単純に 倍とはせず,当該方向の梁に対

して直交梁の断面が異なる場合を考慮して二方向の塑性

図 6.5.1 柱のフェイスモーメント換算耐力

h*/2

MpC

*MpC

lm

h*/2

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耐力をベクトル合成するものである。

柱端フェイスモーメントに換算した柱の耐力 は図 6.5.1 を参照すると,次式で表される。

ベクトル合成による梁と仕口の耐力は,それぞれ次式で表

される。ここで,二方向の耐力を図 6.5.2 に示すように,下

添字 で区別している。この場合の係数 1.1 は, 倍がベ

クトル合成によって折り込まれるので除外し,ひずみ効果や

梁端フェイスとパネル中心の距離等を考慮したものとなる。

円形鋼管の軸力を考慮した全塑性モーメント は,周知

の通り,次式で表される。

ここで,

学会指針 b03では,これを簡略化した次式が示されているが,いずれを使ってもよい。

のとき,

のとき,

図 6.5.2 二方向耐力のベクトル合成

MpBx1 MpBx2

MpBy2

MpBy1

+MpBx MpBx1 MpBx2=

+MpBy MpBy1 MpBy2=

MpBx

MpBy

*MpB