6
1 薬学教育におけるelearningの現状 -ヒューマニズム教育への活用を中心として- 石川さと子 慶應義塾大学薬学部 1 新しいICT導入による授業効果の向上 第2回 シンポジウム 2009/3/14 6年制薬学教育 平成18年度より開始 人間性を涵養する教育を全学年を通して行う 医療薬学教育を充実する 薬学教育モデル・コアカリキュラム 日本薬学会が中心となって作成された 日本薬学会が中心となって作成された 薬学部の教育内容の7割は、コアカリキュラムに従う A 全学年を通して: ヒューマニズムについて学ぶ 一般目標: 生命に係わる職業人となることを自覚し、それにふさわしい行動・ 態度をとることができるようになるために、人との共感的態度身につけ、信頼関係を醸成し、さらに生涯にわたってそれらを向上 させる習慣を身につける。 (1)生と死 (2)医療の担い手としてのこころ構え (3)信頼関係の確立を目指して 2 段階的なヒューマニズム教育カリキュラム 「生命の大切さを知るために1年 春学期 ITとプレゼンテーションスキルを統合して学ぶ/グループワークに慣れる 課題について情報を収集し、グループで議論する。その成果をIT技術を用いて 発表する。 1年 秋学期 患者の立場で考える コミュニケーションスキルを学んだ上で「患者の気持ちに配慮する」および「生と死」に 関する課題についてグループで討論し、その成果を発表する。 秋学期 2年 春学期 患者と医療人の立場で考える 生命倫理に関する基本的な知識を講義で学び、与えられた課題についてグループ討 議し、成果を発表する。 3年 春学期 医療人の立場で考える-患者から学ぶ 患者の立場、薬を開発する立場、臨床現場で薬を使用する立場、それぞれの話を聞 き、関連課題についてグループ討議し、発表する。 3 グループワーク 付箋紙とホワイトボードも利用 4 情報収集のため各グループ1台のPCを利用 発表風景 Tutor(教員) ヒューマニズム教育の特徴 専門科目と異なり、ヒューマニティ教育では、さまざまな 場面で個人の考え方が異なり、その多様性を理解しな ければならない。 教育の範囲が無限 個人のヒューマニティを醸成するためには、テーマに沿 って考え、自分なりの見解、発見、解釈にたどり着くこと が重要。 プロセスを重視する学習が必要 5 薬学領域における ヒューマニズム教育の問題点 薬剤師教育では、患者への態度教育と、物質である薬 に関する教育が混在し、学生は、低学年で学んだヒュー マニズムを忘れてしまう。 ヒューマニズム教育の時間が、学年を進むごとに少なく なり 56年次の実務実習を行う際に 低学年で学んだ なり56年次の実務実習を行う際に低学年で学んだ 内容を忘れてしまう可能性がある。 医療現場での体験実習プログラムを全員が履修するこ とが難しい。 学びのふり返り、情報共有が必要 6 e-learningの活用

6年制薬学教育 薬学教育におけるe learningの現状 -ヒューマニ … · ポートフォリオ ヒューマニズム教育内容のデジタル化と蓄積 グループ発表や特別講演の内容をスライド、映像

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

1

薬学教育におけるe‒learningの現状-ヒューマニズム教育への活用を中心として-

石川さと子

慶應義塾大学薬学部

1新しいICT導入による授業効果の向上 第2回 シンポジウム2009/3/14

6年制薬学教育

• 平成18年度より開始– 人間性を涵養する教育を全学年を通して行う

– 医療薬学教育を充実する

• 薬学教育モデル・コアカリキュラム– 日本薬学会が中心となって作成された日本薬学会が中心となって作成された

– 薬学部の教育内容の7割は、コアカリキュラムに従う

A 全学年を通して: ヒューマニズムについて学ぶ

一般目標: 生命に係わる職業人となることを自覚し、それにふさわしい行動・態度をとることができるようになるために、人との共感的態度を

身につけ、信頼関係を醸成し、さらに生涯にわたってそれらを向上させる習慣を身につける。

(1)生と死(2)医療の担い手としてのこころ構え(3)信頼関係の確立を目指して 2

段階的なヒューマニズム教育カリキュラム「生命の大切さを知るためにⅠ~Ⅲ」

1年

春学期

• ITとプレゼンテーションスキルを統合して学ぶ/グループワークに慣れる課題について情報を収集し、グループで議論する。その成果をIT技術を用いて発表する。

1年

秋学期

• 患者の立場で考えるコミュニケーションスキルを学んだ上で「患者の気持ちに配慮する」および「生と死」に関する課題についてグループで討論し、その成果を発表する。

秋学期

2年

春学期

• 患者と医療人の立場で考える生命倫理に関する基本的な知識を講義で学び、与えられた課題についてグループ討議し、成果を発表する。

3年

春学期

• 医療人の立場で考える-患者から学ぶ患者の立場、薬を開発する立場、臨床現場で薬を使用する立場、それぞれの話を聞き、関連課題についてグループ討議し、発表する。

3

グループワーク 付箋紙とホワイトボードも利用

4情報収集のため各グループ1台のPCを利用 発表風景

Tutor(教員)

ヒューマニズム教育の特徴

• 専門科目と異なり、ヒューマニティ教育では、さまざまな場面で個人の考え方が異なり、その多様性を理解しなければならない。

⇒ 教育の範囲が無限

• 個人のヒューマニティを醸成するためには、テーマに沿って考え、自分なりの見解、発見、解釈にたどり着くことが重要。

⇒ プロセスを重視する学習が必要

5

薬学領域におけるヒューマニズム教育の問題点

• 薬剤師教育では、患者への態度教育と、物質である薬に関する教育が混在し、学生は、低学年で学んだヒューマニズムを忘れてしまう。

• ヒューマニズム教育の時間が、学年を進むごとに少なくなり 5~6年次の実務実習を行う際に 低学年で学んだなり、5~6年次の実務実習を行う際に、低学年で学んだ内容を忘れてしまう可能性がある。

• 医療現場での体験実習プログラムを全員が履修することが難しい。

⇒ 学びのふり返り、情報共有が必要

6e-learningの活用

2

ヒューマニズム教育におけるLMSの活用

時間的、空間的な制約を取り除いて、学生同士、学生-教員間のコミュニケーション促進

ヒューマニズムに関する意見交換の活性化

学生のグループワークの成果に対して教員がコメント

講義時間不足の補完

過去のレポート等や掲示板の内容、自分の目標のふり返り

7

掲示板

ポートフォリオ

ヒューマニズム教育内容のデジタル化と蓄積

グループ発表や特別講演の内容をスライド、映像とともに記録し、過去に遡って閲覧

次年度開講した際に、均一な情報を学生、教員、学外支援者間で共有することが可能

体験実習に参加した学生によるふり返りが可能

参加できなかった学生も確認し、患者の気持ちを理解できる

体験学習への参加を学生に促すきっかけとなる

8e-learningコンテンツ

医療人GP 学習支援ITネットワークシステム

1. コミュニケーション促進・学習支援システム: .Campus• 掲示板、ファイル共有、ポートフォリオ

2. 講義内容のデジタル化: MediaSiteLive• 特別講義、グループ発表などを収録済、学内公開予定

3. 体験学習支援 e-ラーニングシステム: ATTAIN3• 体験学習プログラムの実施内容をデジタル化

.Campus MediaSite Live ATTAIN3

グループワーク支援 ○ ○

コミュニケーション支援 ○ ○

学びのふり返り(ポートフォリオ機能)

○ ○ ○

体験学習の支援 ○ ○

9

体験学習プログラムの実施内容をデジタル化

平成18~20年度文部科学省社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成促進プログラム「薬学生の実践型教養教育推進システムの構築」

1. コミュニケーション促進・学習支援システム

• LMS: .Campus(ドットキャンパス)– キャンパス外からもアクセスが可能

• 教員からの指示事項提示– 講義資料の提示、アンケート、課題提出など– 提出された課題に教員がコメント可能

• 掲示板• 掲示板– 科目ごとに設置: 教員と学生間のコミュニケーションに利用– グループワーク単位での掲示板も可能: 講義時間で不足する

意見交換が促進。教員も参加可能。– アドバイザー教員が担当学生と利用する掲示板も設置

• グループ間のファイル共有– グループワークの成果をアップロード: 各自が確認可能

• ポートフォリオ機能– 学生がたてた目標、進捗状況をアドバイザー教員が確認可能

10

.Campusへのログイン画面

11

掲示板機能

• 講義科目ごとに、話題を設定して意見を交換することが可能。

• グループ単位での話題設定が可能。

• 学生だけではなく• 学生だけではなく、教員の参加も可能。

12

3

ポートフォリオ機能の概略

• 各科目での学習内容を記録し、オンラインで卒業時まで参照可能とする。

• 蓄積可能データは、パワーポイント、ワード等のファイル、ITシステム上の掲示板記載内容、個人の記録。

• 紙媒体で提出したレポートは、スキャナで取り込み、容易紙媒体で提出したレポ トは、スキャナで取り込み、容易に登録可能。

• 学生自身でも、カテゴリを作成し、関連するあらゆる電子ファイルを整理、保存可能。

• しおり、検索機能を充実させて、ふり返りを容易とする。

• 卒業時、DVD等のメディアに保存し、配布する。

• アクセス統計の確認が可能。

13

ポートフォリオによるふり返り

14

学生自身が、「6年間、本年度、科目」

などのカテゴリ別に、目標を追加し、逐次方略、評価を記載する。

アドバイザー教員が、その内容に対するコメントを記載可能。

学生が関連ファイルを自由にアーカイブ可能

15

教員によるふり返りの頻度の確認

教員との連絡掲示板設置

ポートフォリオにより期待される効果

• 学習者の関心に合わせた学習が可能となり、「長時間にわたり」、「全体をとらえた」、「プロセスを重視した」学習が可能となる。

• 自分自身で成長の過程を確認することは、学びに自信を持つことにつながり 学習意欲が高まるを持つことにつながり、学習意欲が高まる。

• 進級してからも、過去の学習内容、自分自身がたてた目標を見直して、ヒューマニズムの原点をふり返るきっかけができる。

• 卒業時に関連したファイルをメディアで配布することで、一生涯、この内容を活用でき、将来にわたって学習当時のモチベーションを維持し、医療に貢献できる。

16

実務

実習医療倫理

薬害生命倫理

ヒューマニズム科目

講義科目実習科目

ポートフォリオを利用してふり返る

患者の気持ちを理解し、より良い医療へ貢献する

(病院・薬局)

基礎系

専門科目

臨床系

専門科目

一般

教養科目

コミュニケーション プレゼンテーション情報収集(情報科学)

健康とは

患者・家族の気持ち

生と死

17

.Campusの利用実績

平成19年度

3000

4000ログイン総数

平均利用者/日

平成20年度

60

80

100

0

1000

2000

4月 6月 8月 10月 12月 2月

18

0

20

40

60

4月 6月 8月 10月 12月 2月

4

2. 講義データのデジタル化

• MediaSite Live– ポータブルタイプ

– 講義等を行う場所へ移動して設置可能

• 講義、グループ発表の際のスライド、ビデオ映像、音声を記録し デジタル化する音声を記録し、デジタル化する。

– HTMLファイルとして公開

– 個人情報に配慮し、容易に画像の差し替えが可能

– 特別講演など、毎年内容が変化するものも、遡って閲覧でき、各学年で均一な教育が可能

– 学生が他グループ、自分のグループの発表を、後からふり返ることが可能

19

MediaSiteLiveによる記録のイメージ

20

これまでに記録・蓄積した講義、発表等

• 生命の大切さを知るためにⅠ(平成19,20年度分)

• プレゼンテーション (グループ発表)

• ヒューマニズム-患者の手記、生と死 (グループ発表)

• ヒューマニズム特別講義

• 生命の大切さを知るためにⅡ(平成19年度分)

• 医療系学生合同交流セミナー• 第1回(平成18年度) (グループ発表、フィードバック講義)

• 第2回(平成19年度) (フィードバック講義)

• 第3回(平成20年度) (グループ発表、フィードバック講義)

• ファシリテーター養成ワークショップ• 平成19年度開催分 (フィードバック講義)

21

述べ記録時間: 約30時間順次、ATTAIN 3上で公開予定

3. 体験学習支援 e-ラーニングシステム

• ATTAIN 3– 学習管理システム(LMS)を利用して教材を公開

– 現時点では芝共立キャンパス内からのアクセスのみ(日吉からアクセスできるようにしたい)

映像を含めた教材を容易に作成可能– 映像を含めた教材を容易に作成可能

• 体験学習プログラムの内容を教材としてコンテンツ化

– 体験学習プログラム実施前の不安を取り除く

– 高学年になってから、過去の体験内容を再確認する:当時のモチベーションをふり返る

– 体験学習に行かれなかった学生が、擬似体験する

22

e-ラーニング教材「薬学生のための体験学習プログラム」

0 はじめに

1 体験学習プログラムとは

2 教材の位置づけ(学生へのメッセージ)

3 教材の構成

4 掲示板(.Campusへのリンク)

1医療チームの一員となるために

1 プログラムの目的1 プログラム概略

2 参加者・教員からのメッセージ

2 体験学習の内容

1 第1回合同交流セミナー

2 第2回合同交流セミナー

3 第3回合同交流セミナー

4 これまでに参加した学生

4リハビリテーションを理解するために

1 プログラムの目的 1 プログラム概略

2 参加者・教員からのメッセージ

2 実習内容 1 実習の概要

2 ベッドから車椅子へのトランスファーの練習

3 患者とのコミュニケーション

4 ストレッチャーによる搬送

5 薬局、薬剤師の役割

6 その他 食事の介護など

7 報告会4 これまでに参加した学生

5 フィードバックレクチャー

3 学んだこと

2

患者の気持ち、家族の気持ちを理解するために

1 プログラムの目的プログラム概略と教員からのメッセージ

2 体験学習の内容 いちょう学級への参加

3 実習先情報

4 学んだこと

3栄養の大切さを知るために

1 プログラムの目的プログラム概略と教員からのメッセージ

2 体験学習の内容

1 薬局における栄養指導について(薬局見学)

2 調理から栄養を考える(調理実習)

3 栄養教育概論(講義)

3 実習先情報 1 実習施設紹介

4 学んだこと

3 実習先情報 1 実習施設紹介

2 院長の言葉

4 実習準備 1 リハビリテーションとは何か

2 実習を行う前の心構え

5 実習先スタッフの声

6 学んだこと

5介護福祉を理解するために

1 プログラムの目的プログラム概略と教員からのメッセージ

2 体験学習の内容老健施設(さくら川)でのボランティア活動

3 実習準備

1 高齢者介護と医療

2 実習を行う前の実技講習

3 実習を行う前の心構え

4 学んだこと

23

教材コンテンツのメニュー

テンプレートを利用することにより、次年度以降も容易にコンテンツを追加していくことが可能。

24

体験実習先に協力を依頼し、コンテンツ作成中

5

コンテンツの一例

25

教員によるコンテンツ拡充のサポート

• 次年度以降も、教員が容易にコンテンツを追加できるように、テンプレートを作成

• テンプレートのパターン

①JPGのみ ②JPGかSWFとテキスト

③JPGとFLV(動画)とテキスト ④FLVとテキスト

26

JPGかSWF JPGかSWF テキスト

テキスト

JPGかSWF

FLV FLV

テキストFLV

タイトル部分

ヒューマニズム教育におけるe-learningの活用

• LMSを積極的に活用し、ITの教員が常にサポートするこ

とで、続けて開講されるヒューマニズム教育での利用が促進された

– 学習成果の記録と公開

掲示板利用によるコミュニケーション促進– 掲示板利用によるコミュニケーション促進

– 資料の提示、課題提出

• 体験学習プログラムのコンテンツ化により、実際に行かれない学生も疑似体験できる

• 個人の記録、講義の記録、e-learningコンテンツを常に

ふり返ることにより、学習に対するモチベーション維持が期待される

27

e-learningを活用したヒューマニズム教育の課題

• システム自体の、より積極的な活用

– 専門系講義による利用推進

• ポートフォリオ活用による、学生のモチベーション維持

– 自分のポートフォリオを定期的に確認するようなコンテンツを準備し サイト参照を促進するツを準備し、サイト参照を促進する

• 例:自分の過去のレポートを参考とし、レポートを作成する課題-1年次に考えたテーマについて、再考を促す など

• システム活用によるヒューマニティ教育の継続

– 全学的取組の継続の維持

– 多くの教員の積極的な関与

• アドバイザー教員として、システムで学生のふり返り状況を確認、内容に大してコメントし、消極的な学生に対してのケアを早めに行う 28

薬学部内のポータルサイト

29

国家試験e-ラーニングシステム

30

6

31 32

33

項目 平成18年度 平成19年度 平成20年度

1) ヒューマニティ教育カリキュラム

1年「生命の大切さを知るためにⅠ」(必4)

2年前期「生命倫理」(必1)

3年「患者から学ぶ」(必1)

2) 体験学習プログラム

医療系学生交流合同セミナー(自由)

1年「早期体験学習」 (必修1単位)

慶應義塾大学薬学部(旧 共立薬科大学)

医療人GP 取組の概要

2・3年「体験学習プログラム」(自由)

3) 学習支援ITネットワークシステム

システム(ハードウェア・ソフトウェア)整備

各種ライブラリーの構築、データ蓄積

4) 評価委員会 委員会設置 本取組の評価 本取組の取りまとめ

5) FD活動 ワークショップ、学外体験施設の医療従事者との交流会

6) 取組成果の公表 報告書作成と配布、学会発表、教科書出版

シンポジウム開催、HP公開

平成18~20年度文部科学省社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成促進プログラム「薬学生の実践型教養教育推進システムの構築」 34