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花の縁 030507 1 1 7)ツキミソウとマツヨイグサ=月見草と待宵草 ツキミソウはアカバナ科の二年草で高さ 3060cm。夏、葉腋に花径 34cm 黄白色の 4 弁の花を総状につける。花は夕刻に開き翌朝には萎れてしまい、萎むと 紅色を帯びてくる。メキシコ原産で日本に渡来したのは嘉永年間(18481854 ) のことで、学名は『Oenothera tetraptera』、属名は oinos=酒と ther=野獣との 合成語である。根には葡萄酒に似た香りがあり、これを野獣が好んだことによるもの という。また種小辞は「四翼の」という意味で、これは 4 弁花に由来する。世界に はアメリカ大陸を中心に約 200 種が分布する。和名の起こりは花弁が白く、夕方開 花するので、これを月に見立てたものである。別称としてツキヨグサ、ジョロバナ、 ユウゲショウなどとも呼ばれるが、ジョロバナは女郎花、ユウゲショウは夕化粧と いう意味である。この近縁種にはなかなか美しい花が多く、昼咲き月見草、待宵草、 大待宵草などがよく知られている。ヒルザキツキミソウは北アメリカが原産の多年草で、 高さ 3050cm、夜から昼にかけて開花する。つぼみは下を向いて垂れ下がるが花 は上向きに開き、白花のほかに淡紅色の花を咲かせる品種もあり、これは関東地方では 半野生化し、畑の縁や空き地などに群生しているのをよく見かける。 待てど暮らせど来ぬ人を/宵待草のやるせなさ/今宵は月も出ぬそうな という歌があったが、これは大正ロマンの旗頭であった竹久夢二の作詩によるもので 当時は大ヒットした。またこの詩の石碑は千葉県山武郡九十九里町の片貝魚港に隣接 する公園内にひっそりと立っている。しかしこの詩でいう宵待草とは、植物学的には マツヨイグサもしくはオオマツヨイグサのことであろう。しかしそれをあえて宵待草 のやるせなさといったのである。ちなみに前者は南アメリカのチリが原産で、高さ 50cm1m に達し、 5 月頃から 8 月頃にかけて鮮やかな黄色の花を咲かせる。日本 には嘉永 5 (1852 ) 頃に渡来したといわれている。また後者は北アメリカが原産で、 高さは大人の背丈ほどになり、 7 月から 9 月にかけて大形の黄色い花を夕方に開く。 こちらの方は明治初年ごろの渡来で、両方とも完全に野生化し、あちこちの川原や 荒れ地の陽溜まりに雑草化している。花は 78cm にもなりかなり大きい。別称 もまた多く、ヨイマチグサ、オイランバナ、ヒノクレソウ、キツネ、オヘンドバナ などと呼ぶ地方もある。オイランバナは『花魁花』と記し、この花の美しさゆえの 呼称であろう。太宰治はその著『富嶽百景』の中で「富士には月見草がよく似合ふ」 と言っているが、これも月見草ではなくマツヨウグサの方である。この 3 種類は とかく混同されやすく、待宵草も月見草の名で売られていることもある。月見草の 名は品種名であると同時にこの属の総称でもあることから、混乱が見られたのだろう。 いずれも種子でよく殖えるが、ツキミソウは根茎でも殖えるので繁殖は容易である。 むしろ殖えすぎることを心配すべきかも知れない。しかも雑草の中でも負けずに花を 咲かせるので、空地に植えておくと花の季節はなかなか見応えがある。

7)ツキミソウとマツヨイグサ=月見草と待宵草kakashi.sakura.ne.jp/100hana2014pdf/030507tukimi-matuyoi.pdf花の縁03-05-07 1 1 7)ツキミソウとマツヨイグサ=月見草と待宵草

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7)ツキミソウとマツヨイグサ=月見草と待宵草 ツキミソウはアカバナ科の二年草で高さ 30~60cm。夏、葉腋に花径 3~4cm の

黄白色の 4 弁の花を総状につける。花は夕刻に開き翌朝には萎れてしまい、萎むと

紅色を帯びてくる。メキシコ原産で日本に渡来したのは嘉永年間(1848~1854 年)

のことで、学名は『Oenothera tetraptera』、属名は oinos=酒と ther=野獣との

合成語である。根には葡萄酒に似た香りがあり、これを野獣が好んだことによるもの

という。また種小辞は「四翼の」という意味で、これは 4 弁花に由来する。世界に

はアメリカ大陸を中心に約 200 種が分布する。和名の起こりは花弁が白く、夕方開

花するので、これを月に見立てたものである。別称としてツキヨグサ、ジョロバナ、

ユウゲショウなどとも呼ばれるが、ジョロバナは女郎花、ユウゲショウは夕化粧と

いう意味である。この近縁種にはなかなか美しい花が多く、昼咲き月見草、待宵草、

大待宵草などがよく知られている。ヒルザキツキミソウは北アメリカが原産の多年草で、

高さ 30~50cm、夜から昼にかけて開花する。つぼみは下を向いて垂れ下がるが花

は上向きに開き、白花のほかに淡紅色の花を咲かせる品種もあり、これは関東地方では

半野生化し、畑の縁や空き地などに群生しているのをよく見かける。

待てど暮らせど来ぬ人を/宵待草のやるせなさ/今宵は月も出ぬそうな

という歌があったが、これは大正ロマンの旗頭であった竹久夢二の作詩によるもので

当時は大ヒットした。またこの詩の石碑は千葉県山武郡九十九里町の片貝魚港に隣接

する公園内にひっそりと立っている。しかしこの詩でいう宵待草とは、植物学的には

マツヨイグサもしくはオオマツヨイグサのことであろう。しかしそれをあえて宵待草

のやるせなさといったのである。ちなみに前者は南アメリカのチリが原産で、高さ

は50cm~1m に達し、5月頃から8月頃にかけて鮮やかな黄色の花を咲かせる。日本

には嘉永5年(1852年)頃に渡来したといわれている。また後者は北アメリカが原産で、

高さは大人の背丈ほどになり、7月から9月にかけて大形の黄色い花を夕方に開く。

こちらの方は明治初年ごろの渡来で、両方とも完全に野生化し、あちこちの川原や

荒れ地の陽溜まりに雑草化している。花は 7~8cm にもなりかなり大きい。別称

もまた多く、ヨイマチグサ、オイランバナ、ヒノクレソウ、キツネ、オヘンドバナ

などと呼ぶ地方もある。オイランバナは『花魁花』と記し、この花の美しさゆえの

呼称であろう。太宰治はその著『富嶽百景』の中で「富士には月見草がよく似合ふ」

と言っているが、これも月見草ではなくマツヨウグサの方である。この 3 種類は

とかく混同されやすく、待宵草も月見草の名で売られていることもある。月見草の

名は品種名であると同時にこの属の総称でもあることから、混乱が見られたのだろう。

いずれも種子でよく殖えるが、ツキミソウは根茎でも殖えるので繁殖は容易である。

むしろ殖えすぎることを心配すべきかも知れない。しかも雑草の中でも負けずに花を

咲かせるので、空地に植えておくと花の季節はなかなか見応えがある。

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咲いたばかりのツキミソウは白色をしており、夕刻に咲き翌朝には色がうっすらと赤みを

差してくる。一日花であることが惜しまれる(さいたま市浦和区)。

東京付近では 5 月下旬頃より咲き始める(さいたま市浦和区)。

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ツキミソウは一日花である。夕刻に咲いて翌朝のツキミソウは、うっすらと紅がさして淡紅色

になる。ところが撮影は大変で、翌朝 8 時ごろに行ってみると、もうすっかり萎んでいた。

その翌朝 6 時ごろに行ってみると、今度は前夜とまったく変わってなかった。その夜は

気温が低く寒いほどだったためらしい。そこで翌日 5 時に行ってみると、この日は前夜から

高気温だったためか、もうすっかり萎んでいた。やむなくさらに翌朝5時に行って、やっと撮影

できた次第である。自宅から数分のところだったのがせめてもの幸いだった(さいたま市浦和区)。

このツキミソウを育てていたのは小学校からの同級生のお宅だった。玄関前のレンガの上

で鉢に入れて育てられていた。お願いして一晩借りておけばすんだのだが、毎朝通うこと

とした。この時期の早起きはなんともいえなく清々しかったからである(さいたま市浦和区)。

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マツヨイグサ(長野県軽井沢町)。学名は『Oenothera stricta』で、種小辞は線条のあると

いう意味で、花被片の内側に写真のような線が入る。

マツヨイグサを近くで見るとこんな花で、確かに明瞭な線が入っている(長野県軽井沢町)。

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海岸や川原の荒地で育つオオマツヨイグサ。学名は『Oenothera erythrosepala』で、花の

色はクリームイエロー、マツヨイグサよりも白っぽい感じである(さいたま市浦和区)。

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写真のように茎は赤みが差し、葉には葉柄がない。花は大きく花径は5cm前後で、花弁1枚の

大きさも横広で、幅は5cmほどもある(さいたま市浦和区)。

オオマツヨイグサの花は、黄色と言っても白実を帯びており、バターイエローに近い。ところが

デジカメではこの色がなかなか出ないのと、オートフォーカスでは何故か黄色にピントが合わない。

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結局、2 日間 5 時起きして撮影し、さらにフォトショップで修整して、この写真が出来た。

開花し始めたメマツヨイグサ(長野県蓼科高原)。学名は『Oenothera biennis』である。

ほかの近縁種と同様に一日花である。

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メマツヨイグサでも、この花のように花弁間に隙間のある種を荒地マツヨイグサという。

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コマツヨイグサは学名『Oenothera laciniata』で、道や畑の縁などどこにでも見られるが、夜

咲いて朝には萎んでしまうため見る機会が少ない。また花は花径3~4㎝ほどで小さい。

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園芸種の「ヒメマツヨイグサ」。25cm ほどの草丈で花が咲く(埼玉県深谷市)。

園芸種のマツヨイグサ、多花性だが花弁にシワが多い(栽培品)。マツヨイグサの園芸種はこの

他にも数多く、出自のはっきりしないものがほとんどで、どれも一日花である。

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片貝漁港脇に立つ『宵待草』の歌碑(千葉県九十九里町)。

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北アメリカ原産のヒルザキツキミソウ。学名は『Oenothera speciosa』で 、種小辞は美しい

という意味である。畑や荒地などで群生しているのをよく見かける(埼玉市北本市)。

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ヒルザキツキミソウは休耕地や河川敷などで、野生化して群落をなすことが多い。しかし

最近では幾分減る傾向にあるようで、あまり見られなくなってしまった(埼玉県深谷市)。

学名どおりの美しい花だが寒さにはあまり強くないようで、高原地帯などでは見られない。

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同じく帰化植物の夕化粧(02-04-20参照)。花はヒルザキツキミソウより小さい。目次に戻る