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花の縁 02-04-09
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8)カンゾウとキスゲ=甘草(萱草)と黄菅 一般にカンゾウというと二つの種がある。一つはマメ科の『甘草』、これは漢方
では最も多く利用される薬草の一つで、80 種もの処方があるといわれている。主に
疼痛、潰瘍、痙攣を治す作用があり、腹痛や咽喉痛、咳、胃潰瘍などにも用いられる。
カンゾウの中にはグルクロン酸という物質が含まれており、肝臓で有毒物質を包み
込み、解毒作用として働くものである。またビール、煙草、醤油の甘味料としても
用いられるものの、この種は日本には分布せずその大半を中国から輸入している。
ここで取り上げるカンゾウはユリ科のワスレグサ(萱草)属のことで、イギリスでは
『day lily』と呼んでおり、『Hemerocalis』属として種々のものがある。この仲間
はヒマラヤから東アジアに特産する植物群で、ルネッサンスの頃にヨーロッパに入り、
19 世紀になってからは日本や中国の品種も導入されて改良が進められた。野性の
ものとしてはノカンゾウ、ハマカンゾウ、ヤブカンゾウ、ニッコウキスゲ、ユウスゲ
などがあり、どれも美しい花を咲かせてくれるが、一日花であることが惜しまれる。
カンゾウの花は赤みを帯びており、平地に産するものがほとんどである。この中で
八重咲のヤブカンゾウ、一重咲きのノカンゾウは暖地性の品種で橙色の花を咲かせる。
常緑性のカンゾウには三浦半島以西の太平洋岸に自生するハマカンゾウ、近畿以南
から台湾に産するアキノワスレグサ、栽培品種のトウカンゾウなどがある。
ヘメロカリスの中でも特に花が美しいニッコウキスゲは、ゼンテイカとも呼ばれ、
近畿地方の北部から中部山岳地帯以北に分布する。北海道などでは低地の海岸地帯
でも普通に見られ、やや湿り気の多いところに群落することが多い。また中部地方
以西の海岸や、内陸地方の草原に見られるキスゲは別名ユウスゲともいわれ、北海道
の海岸などに分布するエゾキスゲとともに、夕方頃から咲き出して、翌日の午後には
萎れてしまう。ニッコウキスゲとともに黄色の美しい花を咲かせる。
ヘメロカリス属はすべて多年草で、葉は細長く根元から 2 列に互生し、葉間から
花茎は高く伸び、百合に似た6弁花を総状につける。花は昼咲き夜咲き、ともに一日
で萎んでしまう。『day lily』と呼ばれるのも、 また『Hemerocalis』といわれるのも
このためで、『hemera』は一日という意味。『callos』は美しいという意味である。
花色は前述のごとく黄色から赤橙色のものまで見られ、最近では園芸品種として赤に
近いものまで改良されている。一般に陽当たりの良い草原や川原の縁などによく
見られるが、海岸付近の草原や雑木林などでも見ることができる。『万葉集』には
萱草として 4 首が取り上げられ、大伴旅人は次のように詠っている。
萱草(ワスレグサ)吾が紐に付く香具山の ふりにし里を忘れむがため
当時は萱草を紐につけていると、色々なことを忘れられると考えられていたらしい。
カンゾウの類は蕾や花を乾燥させたものは食用となり、根にはアルカロイド05-02-00)
の一種コルヒチンを含み、住血吸虫や結核に効果があるといわれている。
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カンゾウ属の学名は、『Glycyrrhiza 』で、地中海地方、小アジア、ロシア南部、中央アジア、
中国北部、北アメリカなどに自生するマメ科の多年草である(東京都小平市薬用植物園)。
日本では江戸時代に山梨県の塩山周辺で栽培され、このあたりには『甘草屋敷』と称して、
甘草の取引で財を成すものも現れた。またかつては『小石川植物園』でも栽培されていたが、
輸入品の方が安価なところから、次第に中国や旧ソ連、アフガニスタンなどから輸入される
ようになった。しかし輸入品は絶滅が心配される上に、甘味成分である『グリチルチン』
の濃度が不安定なところから、最近では国内での栽培が見直されるようになった。特に九州
大学が佐賀県の玄海町で、安定供給を目指して 2008 年より栽培を行っている。また鹿島
建設と千葉大学は共同で甘草の促成栽培にチャレンジ、自然界では4年ほどかかるものを1年半
程度で育てることに成功している。一方、2011 年に発生した東日本大震災の津波により、
大きな被害を受けた宮城県岩沼市では、塩分を含んで通常の農業が困難になった土地で、
甘草の栽培に乗り出した農家もあるという。甘草は厳しい自然環境の方がむしろ生育がいい
ようで、津波の被災地域での新たな作物として、経済栽培が期待されている。
さて大正時代から昭和にかけて中国大陸へ渡り、馬賊の親分になって満州の荒野を駆け巡って
いた小日向白朗氏(1900.01.30.~1982.01.05)の『馬賊戦記』(朽木寒三著番町書房刊)によれば、
当時、満州の荒野には、甘草が多く自生していて、これを抜根した後が大きく窪み、馬が脚を
取られるのが怖くて、細心の注意を払って行軍を続けたことがしばしば記されている。推測
するところ、地味のやせた満州の荒野では、甘草はかなりの大株になって、あちこちに自生して
いたものと思われる。(小日向白朗氏に関しては、03-03-06 ニレ、07-03-13 ケシの項を参照)。
またⅣ.案山子の交友録には、小日向氏に関するさらに詳しい記述がありますので、合わせて
ご覧ください。
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よく似ているレブンソウ。学名は『Oxytropis megalantha』で、礼文島のみに生息するマメ科の
多年草で、オヤマノエンドウなど高山性のマメ科植物の1種である(東京都小平市薬用植物園)。
これはマンシュウキスゲの花で、花弁の先端がよじれる(東京都小石川植物園)。
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カンゾウかキスゲの仲間と思われるが品種名は不詳(さいたま市緑区)。
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これも同じところで撮影したものである。キスゲによく似た花形であったが、外国産の
ものか、種間雑種なのかも知れない(さいたま市緑区)。
花が美しいトウカンゾウは家庭で栽培されることも多い 。最近では紅色の濃い紅花カンゾウ
なども開発されて、園芸種として販売されている(東京都小平市薬用植物園)。
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ユリ科の植物には美しい花を咲かせるものが多いが、カンゾウやキスゲもその一つである。
『ノカンゾウ』、カンゾウの中では最もありふれた種で、水田の縁や小川の法面などに多く
自生する。しかしこの仲間はどれも一日花で夕方には花を閉じてしまう(さいたま市見沼区)。
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ハマカンゾウは弁端が波状し、花弁の中央に黄色の筋が入る(神奈川県横須賀市)。
ヤブカンゾウは 3 倍体のため種子はできない。したがって現在あるものはかつて栽培され
ていたか、根茎の一部が捨てられてそこで生き延びてきたものである(さいたま市見沼区)。
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ヤブカンゾウは利尿剤として、民間で利用されて来た歴史がある(さいたま市見沼区)。
キスゲはユウスゲとも言う。長野県軽井沢町の R18 号旧道沿いの『市村記念館』前には、
キスゲの植え込みが延々と続き、7 月から 8 月下旬まで咲き続ける(長野県軽井沢町)。
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小石川植物園で栽培されているキスゲ、前頁の写真とは花弁の先端がやや異なるように見える。
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花が終わるとこんな果実が実る、中には黒い種子が10数粒入っている(長野県軽井沢町)。
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ニッコウキスゲはユウスゲによく似ている。ユウスゲは午後日が傾く頃に咲き出して翌日の
朝しおれてくるのに対し、ニッコウキスゲはちょうど逆になる(栃木県霧降高原)。
ニッコウキスゲは湿気の多い陽当たりに好んで生え、群棲することも多い(栃木県霧降高原)。
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このためニッコウキスゲの群落は、霧ケ峰や美ヶ原などの陽当りの好い湿原地帯である(霧降高原)。
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園芸品種には、上写真のヒメキスゲがあって、あまり大きくならずに栽培しやすい。 目次に戻る