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技術論文 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 1 電子文書の操作負荷を軽減させる ドッキング・ウィンドウ環境 A Docking Window System to Increase the Ease of Digital Document Handling コンピューターディスプレイ上で作業する際、ウィ ンドウの数が多くなると、必要なウィンドウを探しに くくなる。また、ウィンドウ間でのデータのやり取り や、異なる文書の情報を比較するためにウィンドウの 切り替えが頻繁に発生し、作業効率が悪化する。この ような状況を改善するための環境としてDocking Window Framework(DWF)を提案する。この枠 組みでは、パズルのピースをはめ込むようなドッキン グと呼ぶユーザーインターフェイスを介して複数の ウィンドウを結合し、タスクごとにワークスペースを 構築できる。そして、複数のタスクを切り替えながら 作業を行うマルチタスキングが支援される。提案手法 の有用性を確認するため、ウィンドウを指定した配置 に並べる課題、タスク切り替えを含んだ課題を用いて 評価実験を行った。いずれの課題でも、試作システム の利用により従来システムよりも作業時間が短縮さ れ、提案手法の優位性が確認された。 Abstract When multiple windows are open on a computer screen, the user tends to have difficulty selecting necessary documents, and frequently needs to switch windows, resulting in low work efficiency. To resolve this problem, this report presents the Docking Window Framework (DWF), in which the user can construct a workspace for each task by connecting multiple windows via a user interface called docking, thereby allowing the user to connect windows just like connecting jigsaw puzzle pieces. Using this feature, the proposed DWF can support multitasking, a process that entails switching between tasks. To confirm the effectiveness of DWF, we conducted two experiments using DWF and a traditional window system. The first experiment consisted of window arrangement tasks, and the second experiment consisted of window switching tasks. The results showed that the participants needed less time to complete the tasks in both experiments when using DWF, thus suggesting the effectiveness of DWF. 執筆者 柴田 博仁(Hirohito Shibata大村 賢悟(Kengo Omura研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィス Communication Design Office, Research & Technology Group

A Docking Window System to Increase the Ease of …...A Docking Window System to Increase the Ease of Digital Document Handling 要 旨 コンピューターディスプレイ上で作業する際、ウィ

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技術論文

富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 1

電子文書の操作負荷を軽減させる ドッキング・ウィンドウ環境 A Docking Window System to Increase the Ease of Digital Document Handling 要 旨

コンピューターディスプレイ上で作業する際、ウィ

ンドウの数が多くなると、必要なウィンドウを探しに

くくなる。また、ウィンドウ間でのデータのやり取り

や、異なる文書の情報を比較するためにウィンドウの

切り替えが頻繁に発生し、作業効率が悪化する。この

ような状況を改善するための環境としてDocking

Window Framework(DWF)を提案する。この枠

組みでは、パズルのピースをはめ込むようなドッキン

グと呼ぶユーザーインターフェイスを介して複数の

ウィンドウを結合し、タスクごとにワークスペースを

構築できる。そして、複数のタスクを切り替えながら

作業を行うマルチタスキングが支援される。提案手法

の有用性を確認するため、ウィンドウを指定した配置

に並べる課題、タスク切り替えを含んだ課題を用いて

評価実験を行った。いずれの課題でも、試作システム

の利用により従来システムよりも作業時間が短縮さ

れ、提案手法の優位性が確認された。

Abstract

When multiple windows are open on a computerscreen, the user tends to have difficulty selectingnecessary documents, and frequently needs to switchwindows, resulting in low work efficiency. To resolvethis problem, this report presents the Docking WindowFramework (DWF), in which the user can construct aworkspace for each task by connecting multiplewindows via a user interface called docking, therebyallowing the user to connect windows just likeconnecting jigsaw puzzle pieces. Using this feature,the proposed DWF can support multitasking, aprocess that entails switching between tasks. Toconfirm the effectiveness of DWF, we conducted twoexperiments using DWF and a traditional windowsystem. The first experiment consisted of windowarrangement tasks, and the second experimentconsisted of window switching tasks. The resultsshowed that the participants needed less time tocomplete the tasks in both experiments when usingDWF, thus suggesting the effectiveness of DWF.

執筆者 柴田 博仁(Hirohito Shibata) 大村 賢悟(Kengo Omura) 研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィス

(Communication Design Office, Research & TechnologyGroup)

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技術論文

電子文書の操作負荷を軽減させるドッキング・ウィンドウ環境

2 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013

1. まえがき

世界初のパーソナルコンピューター(PC)

Altoがゼロックスのパロアルト研究所で開発さ

れたのは1973年のことである。Altoはビット

マップディスプレイやマウスを標準装備し、デ

スクトップ、メニュー、アイコンなどのGUIベー

スのウィンドウ環境を備えた当時としては極め

て先進的なものであった1)。それから40年近く

が経過するが、技術の進化とともにウィンドウ

の視覚的デザインは変わっても、その基本的な

振る舞いはほとんど変わることがなかった。タ

イトルバーをドラッグして移動し、ウィンドウ

枠をドラッグしてサイズを変更する。重なり

合った下のウィンドウはクリックにより前面化

する。PCの普及に伴い、現在、ほとんどの人が

この操作に慣れ親しんでいる。しかし、現状の

ウィンドウ環境は本当に理想的なものであり、

改善の余地はないのだろうか。

一般に、PC上で作業を行う場合、1つの文書

または1つのアプリケーションで作業が遂行さ

れるわけではない。むしろ、1つの作業を行う

のに、複数のアプリケーション、複数の文書を

利用することが多い。論文を書く場合を例にと

ると、ワードプロセッサーの他に、自分がこれ

までに書いた論文、他人の論文、図を作成する

ためのドローツール、辞書などが必要である。

プログラミングの際には、ソースコードを編集

するエディター、コンパイルやデバッグを行う

開発環境、マニュアル、さらには必要に応じて

すぐに検索できるようにWebブラウザーを立

ち上げておくといった具合である。

さらに、通常我々は、論文を書いたり、調べ

物をしたり、ニュースやメールをチェックした

りというさまざまな種類の作業を並列的に行い、

複数の作業を切り替えながら業務を行っている。

また、会議や打合せの予定、同僚からの突然の

割り込みなどの外的要因により、作業が意図せ

ずに中断されることも多い。このような現象は

「マルチタスキング」と呼ばれ、オフィス業務

で頻繁に発生することが観察されている2)-6)。

すなわち、1つの作業を行うには複数の文書

が必要であり、さらに我々は複数の作業を同時

にかかえて、これらを切り替えながら業務を

行っている。こうしてデスクトップ上には多く

のウィンドウが開かれることになり、ユーザー

は必要なウィンドウを探しにくくなる*1。さら

に、ウィンドウに重なりが生じ、複数のウィン

ドウの情報を閲覧するため、ユーザーはウィン

ドウを頻繁に切り替える必要が生じる*2。また、

複数のウィンドウを並べるには、ウィンドウの

移動やサイズ変更を何度も行う必要がある。

このようなウィンドウ操作に費やすコストは

決して軽視できるものではない。我々は知的財

産管理業務に携わるワーカーの実業務でのウィ

ンドウ操作ログを収集・分析した。結果として、

ワーカーがPCで作業を行っている時間の実に

7.4~9.1%*3がウィンドウの前面化、移動、サ

イズ変更などのウィンドウ操作に費やされてい

た8)。これらのウィンドウ操作はPCを用いて

ユーザーが行いたい本来の業務(文書を書いた

り、情報を探したりなど)とは全く関係のない

点を考慮すると、ウィンドウ操作のコストはで

きるだけ小さく抑えることが望ましい。

さらに、我々は、文書を紙で読む場合とコン

ピューターディスプレイで読む場合の読みのパ

フォーマンス(読みのスピードやエラー検出率

など)を比較する実験を行っている9), 10)。結果

として、複数の文書を用いた相互参照読みや異

なるページを行き来する読み*4では、PCで文書

を読む際のパフォーマンスは、紙で読む場合に

比べて劣っていた。そして、文書を並べたり、

表示文書や表示ページを切り替えたりという文

書操作の操作性が読みのパフォーマンスに影響

を与えることがわかっている。

ウィンドウ環境は、国籍や業種を問わず、ほ

とんどのPCユーザーによって利用されている。

したがって、そこでの操作性の向上が世の中全

体に与える価値は大きい。特に、オフィス業務

*1 Hutchingsら7)がオフィスワーカー39名を対象にウィ

ンドウ操作ログを分析した結果では、PCで作業を行って

いる時間の8割近くの時間においてユーザーは8つ以上

のウィンドウを同時に開いていた。

*2 先のHutchingsらの分析7)では、1つのウィンドウがアク

ティブになっている時間は、平均でわずか20.9秒にすぎ

ない。ユーザーは頻繁に複数のウィンドウ間で注意を移

動していることがわかる。

*3 ディスプレイの広さと数によって異なる。

*4 この種の読みは実際の業務シーンで頻繁に観察されるこ

とが知られている11)。

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技術論文

電子文書の操作負荷を軽減させるドッキング・ウィンドウ環境

富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 3

では複数の文書を同時に閲覧することが多いた

め11)、ウィンドウ環境の改善がもたらす効果は

顕著だと考える。電子文書の操作負荷を軽減さ

せるため、我々は複数のウィンドウを結合し、

あたかも1つのウィンドウのように扱えるウィ

ン ド ウ 環 境Docking Window Framework

(DWF)を提案してきた12), 13)。本稿では、こ

の枠組みを具現化する試作システムと評価実験

の結果を紹介する。

2. アプローチ

2.1 マルチタスキングの支援

PC上でのマルチタスキングを支援する方法

として、複数のウィンドウをグループ化(これ

を「ワークスペース」という)して、同時に切

り替えられるようにする提案が数多く行われて

いる14) - 21) 。初期の代表的な研究として、

Rooms14)では、部屋メタファーを使ってワーク

スペースを管理する。個々の部屋がワークス

ペースに対応し、部屋を移動することでタスク

の切り替えが可能である。他の研究もRooms

と同様にタスク切り替えを支援するが、視覚化

の方式にそれぞれ独自の工夫が施されている。

しかしながら、従来のシステムはいずれも、

ワークスペース構築後のタスク切り替えの支援

に焦点を当てており、ワークスペースの構築そ

のものを支援することはなかった。従来のシス

テムでは、タスク遂行に先立ちワークスペース

を構築する必要があり、そのためにどのような

ワークスペースを作成し、そこにどのウィンド

ウをどう配置するのかを指定する必要があった。

しかし、このような形式化の作業は、しばしば

ユーザーの思考の妨げることになる22)。

さらに、作業中に別の文書が必要になったり、

これまで利用してきた文書が不要になったりな

ど、ワークスペースは作業中に組み替えられる

ことが多い。言い換えるなら、ワークスペース

の構築は作業前のみに発生する一時的な手続き

ではなく、作業中に繰り返して発生する動的な

手続きである。したがって、ワークスペース構

築時のユーザーインターフェイス(UI)の改善

は運用上大きな効果をもたらすと考えられる。

こうした背景から、本稿ではワークスペース

の構築を支援することを狙いとする。その際、

どのウィンドウをグループ化してワークスペー

スを構築するのかの宣言を不要にすることが望

ましい。ワークスペース内でのウィンドウ配置

についてはユーザーに指定してもらわざるを得

ないため、ウィンドウを配置する手続きをもと

にワークスペースを構築できれば都合がよい。

配置とグルーピングを同時に行う簡単かつ直

感的なUIとして、本稿ではジグソーパズルの

ピースをはめ込むようにウィンドウをつなぎ合

わせる「ドッキング」と呼ぶインタラクション

技法を提案する。結合した後、複数のウィンド

ウは同時に前面化、移動できるようになり、ワー

クスペースのように振る舞う。これにより、ウィ

ンドウのグループ関係や階層構造を指定せずに、

ウィンドウを並べるだけでウィンドウが自動的

にグループ化され、マルチタスキングが支援さ

れる環境を提供する。

ウィンドウを隣同士に配置するUIとしてス

ナッピング手法が知られている*5。この手法で

は、ウィンドウを近づけると互いに引き合い、

接するようにウィンドウの位置が自動的に調整

される。しかし、隣接したウィンドウを同時に

前面化や移動できないため、ワークスペースと

して扱うことはできない。我々はウィンドウの

隣接関係を規定するだけでなく、ウィンドウの

結合関係を視覚化し、これをワークスペース構

築のUIとして活用する。

また、ワークスペースは状態を保存して、後

で再現できることが望ましい。ワークスペース

を構築するには、ユーザーはアプリケーション

を起動し、ウィンドウを配置し、ウィンドウご

とに必要な文書を開く必要がある。PCを起動す

るたびに、この作業を行うのは負荷が高い。本

稿の枠組みでは、アプリケーション、ウィンド

ウの位置とサイズ、開いている文書などの構成

を保存し、必要に応じて再現できるようにする。

2.2 ウィンドウ操作負荷の軽減

前節では、複数のタスクに対するタスク切り

替えの支援のアプローチを示した。ここでは、

単一のタスクを行う際のウィンドウ操作負荷を

*5 スナッピングを具現化したシステム例として、

MagnetWindow、Virtual Desktop for Win32がある。

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技術論文

電子文書の操作負荷を軽減させるドッキング・ウィンドウ環境

4 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013

軽減するためのアプローチを示す。先に述べた

ように、ウィンドウ操作のコストは決して小さ

くない。これは、作業空間を広くするだけで解

決する問題ではない。一般にディスプレイが広

くなれば、ユーザーはウィンドウをより多く、

より大きく表示し7), 8), 23)、ウィンドウ間の重な

りが増えるようになる。そして、かえってウィン

ドウ操作負荷が増大することになりかねない*6。

ウィンドウの操作性を向上させるため、ウィ

ンドウの切り替え24)-26)、配置の調整27)、ウィ

ンドウ間でのデータのやり取り28), 29)を容易に

するなどの手法やシステムが提案されている。

しかし、これらはいずれもウィンドウが重なり

合い、ウィンドウの一部が見えなくなることで

生じる問題に対する解決策である。ウィンドウ

が重なり合わないのであれば、これらの解決策

はいずれも不要である。さらに、ウィンドウの

重なりが作業効率を低下させることを示す実験

もある。Blyら30)が複数の文書から必要な情報を

抽出する実験を行ったところ、ユーザーはウィ

ンドウが重なり合うオーバーラップ・ウィンド

ウ環境よりもウィンドウが重なり合わないタイ

ル・ウィンドウ環境で作業するほうが、速く作

業を行うことができた。

こうした点をふまえ、本稿では、ワークスペー

ス内のウィンドウをタイル状に配置しウィンド

ウが重なり合わないようにするアプローチを採

用する。現在、多くのOSはオーバーラップ・ウィ

ンドウ環境を採用しているが、この手法はディ

スプレイが高価であった時代に狭いスクリーン

領域を有効に活用する手法として考案されたも

のである。近年、ディスプレイはより安価に、

より大型になっている。狭いディスプレイ領域

を効率的に利用する従来のアプローチに対して、

広い作業スペースを効果的に活用し、業務を効

率化する試みが必要と考える。

*6 実際、我々は、ディスプレイを17インチから24インチ

に置き換えたが、置き換えの前後でウィンドウ操作に費

やされた時間に変化は見られなかった8)。これは、ウィ

ンドウ間の重なりが増え、ウィンドウの切り替えや移動

が逆に増えたためである。

3. システム

前節のアプローチにもとづきウィンドウ環境

Docking Window Framework(DWF)を試

作した。DWFはMicrosoft® .NET Framework

2.0上で動作し、C #で実装されている。以下

の特徴について、DWFの機能を説明する。

ワークスペース構築のためのUI

複数のウィンドウに対する一括操作

タイルレイアウトの利用

ワークスペースの保存と再現

3.1 ワークスペース構築のUI

図1にウィンドウのドッキングの前後の振る

舞いを示す。ウィンドウを他のウィンドウの近

くにドラッグするとウィンドウの両端にギザギ

ザの「のりしろ」が表示される(図1上)。これ

は、両者のウィンドウがドッキング可能であり、

ドッキングするとギザギザの面同士が結合する

ことを示している。この状態でウィンドウをド

ロップすると、ウィンドウのドッキングが行わ

れる。ドッキング後、2つのウィンドウが全体

として長方形になるよう、ドロップされたウィ

ンドウは他方のウィンドウの高さ(縦方向の

ドッキングの場合には幅)にサイズ変更される

(図1下)。ウィンドウの状態変化がユーザーに

把握できるよう、ウィンドウの位置とサイズの

変更の過程はアニメーション表示される。

図1 ドッキング前後でのウィンドウの振る舞い (右のウィンドウが左のウィンドウにドッキングされた) Before and after the docking operation (The right window was docked to the left window)

ドッキングの様子を示した

動画をご覧いただけます。

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技術論文

電子文書の操作負荷を軽減させるドッキング・ウィンドウ環境

富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 5

ドッキングされた複数のウィンドウは、同時

に前面化や移動が可能であり、1つのウィンド

ウのように振る舞う*7(個々のウィンドウと区

別するため、これを「ドッキングウィンドウ」

と呼ぶ)。ドッキング後、上部に新たなバー(「統

括バー」と呼ぶ)が表示される。このバーでは、

全てのウィンドウを閉じたり、全体を 小化/

大化したりというドッキングウィンドウ全体

を管理する機能が提供される。

ウィンドウは数に限りなく結合でき、ドッキ

ングウィンドウ同士の結合も可能である。図2

は4つのウィンドウの配置例を示している。図2

左のような配置を作るには、ウィンドウ1の下

にウィンドウ2、そのまた下にウィンドウ3、さ

らにその右にウィンドウ4をドッキングする。

また、図2右のような配置を作るには、ウィン

ドウ1の下にウィンドウ2、ウィンドウ3の下に

ウィンドウ4をドッキングして2つのドッキン

グウィンドウを作る。そのうえで、これら2つ

を左右に結合することになる。

結合したウィンドウは、統括バーの「ドッキ

ング解除」コマンドにより全体を再び分離でき

る。単一のウィンドウのみを分離することも可

能であり、この際、残されたウィンドウ全体が

長方形を維持するよう、他のウィンドウが自動

的にサイズ変更される。たとえば、図2右の状

態でウィンドウ1が取り外されると、ウィンド

ウ2がウィンドウ1の領域を覆い隠すように拡

大する。単一のウィンドウをクローズした場合

の振る舞いもこれと同様である。

ドッキングを行うと、これまでタスクバー上

で2つに分かれていたアイコンが1つにまとめ

て表示される。これにより、タスクバー上でア

*7 2つのウィンドウをドッキングさせずに近くに配置する

には、Shiftキーを押しながらウィンドウをドラッグする。

このとき、近くに別のウィンドウがあっても「のりしろ」

を表示せず、他のウィンドウとドッキングすることもない。

イコンが氾濫するのを防ぐことができる。この

際、アイコン名はドッキングされたウィンドウ

のタイトルを連接して自動生成されるが、独自

に変更することも可能である。

複数のウィンドウからなるドッキングウィン

ドウは、視覚的に単一のウィンドウのように見

える。そして、そこに含まれるウィンドウは同

時に前面化や移動が可能であり、全体として1

つのウィンドウのように振る舞う。こうして、

ドッキングウィンドウはワークスペースとして

扱うことができ、これによりタスクの視覚化と

切り替えが支援される。

前節で紹介した従来のシステムはいずれも、

タスク遂行に先立ち、どのようなワークスペー

スを生成し、そこにどのウィンドウを配置する

かを何らかの手段により指定する必要があった。

本提案では、ウィンドウをドッキングさせるこ

とにより、複数のウィンドウが1つのウィンド

ウのように振舞うようになり、それをワークス

ペースとして扱える枠組みを提供している。し

たがって、ウィンドウ間の関係を指定すること

なしに、ウィンドウを並べる行為をもとにワー

クスペースの構築が可能である。

3.2 複数ウィンドウに対する一括操作

紙文書を整理する際、我々は複数の文書をま

とめて同時に移動できる。電子文書を取り扱う

場合においても、ワークスペース内の複数の

ウィンドウを同時に移動したり、前面化できれ

ば便利である。操作回数が減るだけなく、複数

のウィンドウが1つの作業空間であることを

ユーザーに意識させる効果もある。DWFでは、

結合された複数のウィンドウに対して、以下に

示す一括操作が可能である。

前面化 ワークスペース内の個々のウィンドウ

または統括バーをクリック、あるいはタス

クバーでアイコンをクリックすると、ワー

クスペース内の全てのウィンドウが同時に

前面化される。これにより、1クリックで

ワークスペースの切り替えが可能になり、

複数のタスクを切り替えながらの作業が容

易になる。

移動 統括バー、あるいは個々のウィンドウの

タイトルバーをドラッグすると、ワークス

図2 ドッキングウィンドウでのウィンドウ配置の例 Examples of window layout in workspaces

1

2

3

4 1

2

3

4

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技術論文

電子文書の操作負荷を軽減させるドッキング・ウィンドウ環境

6 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013

ペース内の全てのウィンドウが同時に移

動される。これにより、ワークスペースの

移動や整理が容易になる。

サイズ変更 ワークスペースを1つのウィンド

ウのように見せるため、さらには表示領域

を有効利用するため、DWFではワークス

ペースの形が常に長方形を維持する。そこ

で、ワークスペース内のウィンドウをサイ

ズ変更すると、それに応じて他のウィンド

ウのサイズも変化する。図3はウィンドウB

を拡大することで、ウィンドウAのサイズ

も変化することを示している。

極小化/極大化 ワークスペース内の全ての

ウィンドウの内容が見える状態にありなが

ら、それでも指定したウィンドウをできる

だけ小さく、あるいはできるだけ大きく表

示する機能として「極小化/極大化」と呼ぶ

機能を提供する。これは、ウィンドウ内容

が全く見えないアイコンにしたり、特定の

ウィンドウを全画面表示にして他を覆い隠

す従来の 小化/ 大化とは異なる。狭い

ディスプレイ領域を有効利用するための

小化/ 大化に対して、極小化/極大化は広

い作業スペースを効果的に利用するための

ものである。図4に示すように、ワークス

ペース内のウィンドウに対して極小化/極

大化を行うと、それに応じて他のウィンド

ウも位置調整を行う。ウィンドウ配置の変

化の過程はアニメーション表示される。

オープン/クローズ ワークスペースをオープ

ンすることにより、ワークスペース内の複

数のウィンドウが同時に開かれ、ウィンド

ウの配置や表示文書を再現できる。また、

ワークスペースをクローズすることにより、

その中の全てのウィンドウを同時に閉じる

ことができる。これにより作業空間の立ち

上げと終了が容易になる。

異なるアプリケーションのウィンドウに対し

て統一的なインタラクションを提供するため、

本提案ではコマンドボタンの並んだバーをポッ

プアップ表示するアプローチをとる*8。マウス

カーソルがウィンドウのタイトルバー上にある

とき、ウィンドウの右上に図5の示すような「フ

ローティングバー」をポップアップする。フロー

ティングバー上のボタンはその下のウィンドウ

に対するコマンドであり、現在提供しているコ

マンドは左から「ドッキング解除」「極小化」「極

大化」「クローズ」の4つである。

3.3 タイルレイアウトの利用

DWFでは、ワークスペース内のウィンドウの

並びに関して、ウィンドウ間に重なりが生じな

いタイルレイアウト方式を利用する。ウィンド

ウが重なり合うことがないよう、ウィンドウの

サイズを変更すると、それに伴って他のウィン

ドウの位置やサイズも自動的に変化する。レイ

アウトの調整方法は、Elastic Windows15)で採

用されているものと基本的に同じである。一部、

振る舞いが異なる点もあるが、詳細な説明につ

いては他稿を参照されたい9)。

*8 これは、Task Gallery17)で採用されているアプローチを

援用したものである。

A

B

A’

B’

図3 ウィンドウのサイズ変更の伝搬 Resizing windows

図4 極大化の前後の振る舞い Before and after the enlarging operation

図5 フローティングバー Floating bar

Before After

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技術論文

電子文書の操作負荷を軽減させるドッキング・ウィンドウ環境

富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 7

3.4. ワークスペースの保存と再現

DWFでは、ワークスペースの状態(ワークス

ペースのタイトル、アイコン、個々のウィンド

ウの種類、位置、サイズ、開いている文書)を

ファイルに保存し、後で再現できる。これによ

り、PCを立ち上げるたびにワークスペースを

初から構成し直す手間を省くことができる。実

現方法は後で説明する。

4. 評価

DWFの利用により以下の効果が期待できる。

A. ドッキングのUIを用いてウィンドウの配置、

ワークスペースの構築が容易になる

B. 利用するワークスペースを変更することでタ

スク切り替えが容易になる

C. ウィンドウをタイル配置にすることで、ウィ

ンドウ間の重なりがなくなり、ワークスペー

ス内でのタスク遂行が効率的になる

効果Aの確認のため、ウィンドウを配置する

課題を用いて実験を行う(実験1)。効果Bと効

果Cの確認のため、複数のタスクを切り替えな

がら作業する課題で実験を行う(実験2)。

4.1 実験1:ウィンドウ配置

DWFでワークスペースを構築するには、ユー

ザーはウィンドウを結合した後に、全体のウィ

ンドウ配置を調整する必要がある。実験での第

1の仮説として、DWFでは従来のウィンドウ環

境よりも速くウィンドウを配置できると予想す

る。これは、DWFがワークスペースを構築する

簡易なUIを備え、構築後に複数のウィンドウを

一括操作できるためである。またこのことから、

第2の仮説として、ウィンドウ数が多くなると

DWFの効果がより顕著になると予想する。

(1) 実験方法

デザインと参加者 実験デザインは、作業環

境(従来システム、DWF)、ウィンドウ数(2、

4、6)を要因とする2要因の参加者内要因計画

である。全ての参加者が6種類の実験条件ごと

に2回ずつ課題を行った。作業環境とウィンド

ウ数の参加者内での試行順の影響が全体で相殺

されるようカウンターバランスをとった。

実験参加者は男女同数の12名である。年齢は

21~38歳(平均28.0)であり、全員がPC利

用歴3年以上、視力は0.7以上だった。

装置 PCはDell製Dimension C512、ディ

スプレイはNanao製23インチTFTディスプレ

イ(FlexScan EV2303)、OSはWindows®

XPを利用した。作業環境の従来システムとして

は、Windows® XPが備える標準のウィンドウ

環境*9を利用した。

手続き 課題は指定した配置にウィンドウを

並べることである。 初、図6左に示すように

ウィンドウを重ねて配置し、図6右に示すよう

な目標配置にウィンドウを並べさせた。デスク

トップ上にピンク色で4×4の格子を描画し、参

加者には格子に合わせてウィンドウを速く、か

つ正確に並べることを求めた。

(2) 結果と考察

図7に条件ごとの作業時間を示す。作業時間

に関して、作業環境、ウィンドウ数を要因とす

る2要因分散分析を行った。いずれの要因にお

いても主効果が認められた [F(1, 11)=26.3,

p<.001; F(2, 22)=144.5, p<.001]。2要因の

交互作用も有意であったため [F(2, 22)=3.4,

*9 Windowsクラシックスタイルで「ドラッグ中にウィンド

ウの内容を表示する」の設定。

0

10

20

30

40

50

60

2 4 6

Tas

k com

ple

tion t

ime (

sec)

The number of windows

Traditional system

DWF

Initial layout Target layout

図6 ウィンドウの初期配置と目標配置の例

Initial layout and target layout in thewindow arrangement task

図7 ウィンドウ配置での作業時間の比較 Task completion time in window arrangement tasks

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電子文書の操作負荷を軽減させるドッキング・ウィンドウ環境

8 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013

p<.05]、ウィンドウ数ごとに作業条件の単純主

効果を検討した。単純主効果はいずれも有意で

あった [ウィンドウ数2、4、6の各々について、

F(1, 11)=17.2, p<.01; F(1, 11)=21.4,

p<.001; F(1,11)=12.4, p<.01]。提案システム

は従来システムに比べて、ウィンドウ数2の場

合には22.9%、ウィンドウ数4の場合には

23.4%、ウィンドウ数6の場合は20.9%、ウィ

ンドウ配置を速く終えることができた。

次にウィンドウ配置の正確さを比較した。

ウィンドウ間の距離を2つのウィンドウの対応

する4つの頂点のユークリッド距離の和として

定義した。そして、ウィンドウ配置の正確さを

実際に配置されたウィンドウと目標配置のウィ

ンドウの距離の和として定義した。この値が小

さいほど、実際の配置が目標配置に近いことを

示す。作業環境、ウィンドウ数を要因とする2

要因分散分析を行ったところ、ウィンドウ数に

ついて主効果が認められたが [F(2, 22)=59.8,

p<.001]、作業環境については有意差が認めら

れなかった [p>.1]。

結果として、従来システムに比べて、DWFで

は参加者は20.9~23.4%高速にウィンドウ配

置を行うことができた。配置の正確さは作業環

境で違いがなかったことから、DWFでは正確さ

を落とすことなく速くウィンドウ配置を行える

ことがわかる。

ここで注意すべきこととして、DWFでは、参

加者はウィンドウを配置しただけでなく、ウィ

ンドウを結合してワークスペースを構築してい

る。すなわち、DWFではワークスペースを構築

してからウィンドウの配置を整えるが、それで

も従来システムよりも20%以上、作業時間が短

くなっている。DWFではウィンドウを並べる操

作がそのままワークスペース構築のUIになって

いるため、DWFでは、ワークスペースを構築す

るために余分なコストは発生しない。また、

DWFではドッキング後に複数のウィンドウを

同時に移動したり、サイズ変更できるため、ウィ

ンドウ操作の回数が軽減されることが期待でき

る。さらには、ドッキング後は常にタイル配置

が維持されるので、ウィンドウを互いに接する

ように並べ直す手間が生じない。こうしたこと

が、DWFでの高速なウィンドウ配置を可能にし

ていると考えられる。

なお、ウィンドウ数が多くなると、従来シス

テムに対するDWFの効果が顕著になるという

本実験の第2の仮説は検証されなかった。実験

では、ウィンドウが多い状況で、DWFで意図せ

ずに誤ったウィンドウにドッキングしてしまう

事例がみられた。このような問題に対処するた

め、ドッキング前の状態に戻す機能を提供する

などの対応が必要と考える。

後に、システムの振る舞いのわかりやすさ

について述べる。インタビューでは「 初は(慣

れるのに)どうかと思ったが、実際に使ってみ

るとすぐに慣れた」という報告がなされた。む

しろ、「おもしろさを感じた」という意見が多数

見られ、「ウィンドウをくっつけるのが快感だっ

た」という意見もあった。ウィンドウをドッキ

ングするDWFの枠組みが、わかりやすく、簡単

に学習でき、場合によっては楽しさをもたらす

ことがわかる。

4.2 実験2:タスク切り替え

第2の実験では、DWFの利用により複数のタ

スクを切り替えながらの作業が実際に効率的に

なるかを確認する。複数のウィンドウを含んだ

タスクの遂行では、ウィンドウの初期配置が作

業効率に影響を与えることが予想される。そこ

で、従来システムの利用に際して2種類の初期

配置(ウィンドウが重なりあうカスケード配置

と重なりあわないタイル配置)を検討する。ま

た、複数文書を参照しながらの読みでの紙の優

位性が指摘されているため11), 31)、DWFの比較

対象として紙文書も比較対象とする。

(1) 実験方法

デザインと参加者 実験デザインは以下の4

種類の作業環境を要因とする1要因参加者内要

因計画である。

紙で作業(Paper条件)

DWFを用いて作業(DWF条件)

従来システムで作業し、 初はタイル配置

(Tile条件、例として図8右)

従来システムで作業し、 初はカスケード配

置(Cascade条件、例として図8左)

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技術論文

電子文書の操作負荷を軽減させるドッキング・ウィンドウ環境

富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 9

全ての参加者が条件ごとに2回ずつ課題を

行った。各条件の試行順の影響が全体で相殺さ

れるようカウンターバランスをとった。

実験参加者は男女同数の18名である。年齢は

21~39歳(平均29.5)であり、全員がPC利

用歴3年以上、視力は0.7以上だった。

装置 実験で用いたPC、ディスプレイ、ウィ

ンドウ環境は実験1と同じである。

材料 実験課題は、条件にマッチするもの商

品をカウントする2つの独立なタスクを切り替

えながら作業することである。文書は、デジタ

ルカメラ、プリンターなどの商品情報をもとに

独自に作成した。1つのタスクで利用する文書

は4つであり、いずれも1ページの文書である。

4つのうち3つは商品リスト(商品属性は商品名、

メーカー、重さ、値段など)であり、残り1つ

は質問文のリストである。商品数は1文書に16

個であり、タスク内の3文書で48個になる。タ

スク内での質問文は全部で6個である。質問文

は「消費電力が20W未満のディスプレイは何個

か?」という具合に、いずれも商品のカウント

を求めるものである。

手続き 実験では、商品をカウントする2つ

のタスクを切り替えながら作業してもらった。

図9に示すように、参加者は 初のタスクの前

半3問に答えてから、もう一方のタスクの前半3

問に答える。次いで、再び、 初のタスクの後

半3問に答えてから、もう一方のタスクの後半3

問に答える。タスク切り替えは全部で3回生じ

ることになる。参加者には、以上の作業をでき

るだけ速くかつ正確に行うことを求めた。

Paper条件では、A5用紙に横長にモノクロで

プリントした紙を利用した。それ以外の電子条

件ではAdobe® Reader® 9を利用して文書を

表示した。文字サイズがPaper条件と同じにな

るよう、事前に表示文書の縮尺を調整した。

全ての条件で、回答用の紙文書を別途配布し、

回答を回答用紙に記入することを求めた。これ

は、Paper条件とその他の電子環境で書き込み

の仕方を統一し、書き込み方法の違いが作業の

パフォーマンスに影響するのを防ぐためである。

電子環境では、回答を記入する際にマウスから

ペンへの持ち替えが必要になるため、Paper条

件では回答時のみペンを持つことを求めた。

Paper条件では、 初、タスクごとに紙文書

を4つずつパイル状に重ねた。DWF条件では、

図9左のように4つのウィンドウからなるワー

クスペースを2つ作成して利用した。Tile条件は

DWF条件と同じウィンドウ配置だが、4つの

ウィンドウは結合されておらず、全て独立で

あった。Cascade条件では、図9右のように

ウィンドウを4つずつ重ねて配置した。課題開

始後、電子環境ではウィンドウの位置やサイズ

を自由に変更することを許した。

(2) 結果と考察

作業環境ごとの作業時間の比較を図10に示

す。作業時間に関して1要因分散分析を行った

ところ、作業環境の主効果が有意であった

[F(3, 51)=20.35, p<.001]。LSD法の下位検

定の結果、Paper条件はDWF条件よりも有意に

作業時間が短く [p<.01]、DWF条件はTile条件

よりも有意に作業時間が短く [p<.01]、Tile条

件はCascade条件よりも作業時間が短い傾向

がみられた [p<.1]。DWFはタイル配置のウィ

ンドウシステムに比べて14.0%作業時間が短

く、カスケード配置のウィンドウシステムに比

べて22.0%作業時間が短い。また、紙はDWF

図9 タスク切り替え課題での作業の順番 Order of performing task-switching tasks

Tile layout Cascade layout

Task 1

Question list

Product list

Product list

Product list

Question list

Product list

Product list

Product list

Question list

Product list

Product list

Product list

Question list

Product list

Product list

Product list

Task 2

First half of the task 1

Last half of the task 1

First half of the task 2

Last half of the task2

図8 タスク切り替え課題での初期のウィンドウ配置 Initial window layout in window switching tasks

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技術論文

電子文書の操作負荷を軽減させるドッキング・ウィンドウ環境

10 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013

0

100

200

300

400

500

600

Paper DWF Tile Cascade

Tas

k com

plet

ion t

ime

(sec)

よりも14.9%高速であった。回答の正解率は、

Cascade条件が も高く(79.9%)、Tile条件

が も低かった(71.5%)が、条件間で有意差

はなかった [p>.1]。

実験結果から以下の3点がいえる。第1に、

DWFは従来システムよりも効率的に作業を行

うことができた。DWFでは1クリックで簡単に

タスク切り替えが可能である。また、タスクご

とにウィンドウが結合しているため、間違えて

違う文書を前面化することもなかった。極大化/

極小化の機能も好んで利用され、「常に全体が見

えるので、現在、どの作業を行っているのか、

次にどの文書を閲覧すべきか迷うことがなかっ

た」という報告もなされた。こうしたことが、

DWFでの作業の効率性に寄与していると考え

る。これに対して、Tile条件ではタスク遂行中

に別のタスクの文書を間違えて表示し、違う種

類の商品をカウントする事例が見られた。さら

に、Cascade条件では複数のウィンドウを同時

に閲覧できるようにウィンドウを移動したりサ

イズ変更するシーンが頻繁に観察された。

第2に、同じ従来システムでも、ウィンドウ

の 初 期 配 置 に よ っ て 作 業 時 間 が 異 な り 、

Cascade条件よりもTile条件のほうが効率的

であった。Cascade条件では複数の文書を同時

に閲覧できず、ウィンドウの移動とサイズ変更

に時間を費やしたためである。これは、複数文

書の同時閲覧が必要な作業では、たとえスク

ロールが必要だとしても、カスケード配置より

もタイル配置のほうが効率的なことを示唆する。

同時に、これはDWFにおいてワークスペース内

のウィンドウをタイル配置するアプローチの妥

当性を示唆する。

第3に、DWFではマルチタスキング支援のた

めにさまざまな工夫(ウィンドウのタイル配置、

複数ウィンドウの一括操作、極大化/極小化など)

を施している。これらはいずれも紙では提供され

ない機能である。それでも、DWFでの作業効率

は紙文書での作業効率に及ばなかった。紙はマル

チタスキングを行うための優れたツールであり、

紙に対するインタラクションを詳細に分析する

ことでマルチタスキングを支援するための方法

論を獲得できる可能性があることを示唆する。

5. 実装

DWFの実現においては、「DWFマネージャー」

と呼ばれる常駐型アプリケーションがウィンド

ウの振る舞いを監視し、各ウィンドウの位置や

サイズなどの表示状態を制御している。

ウィンドウで開いているファイルも含めて

ワークスペースの保存と再現を可能にするには、

各ウィンドウでどのファイルを開いているのか

を知る必要がある。しかし、現状のWindows®

OSでは、各ウィンドウで開いているファイルを

外部のアプリケーションから知るための一般的

な手段はない17)。したがって、DWFでは各アプ

リケーションからDWFマネージャーにファイ

ルのオープンとクローズのメッセージを送る方

式を採用している。既存のアプリケーションに

対しては、プラグインを構築することによりこ

の方式を実現している。

DWF上で動作するアプリケーション(「DWF

クライアント」と呼ぶ)の開発コストについて

述べる。DWFクライアントを新規に構築するに

は、DWFが提供するライブラリのクラスを継承

する記述を1行加えるだけである。既存のアプ

リケーションをDWFクライアントとして動作

させるにはプラグインを構築することになるが、

その実装は簡単であり、50行ほどのソースコー

ドで記述できる。これまでに、Microsoft®

Office、Internet Explorer®のプラグインを構

築し、動作確認を行っている。

ただし、この実現方法は、現状のWindows®

の制約のなかでの一実現例にすぎず、これが

適なものだと主張するつもりはない。むしろ、

ウィンドウ環境は汎用のシステムであることか

ら、OSに組み込んで実現する方が、信頼性、高

速性の観点から望ましいと考えている。

図10 タスク切り替え課題での作業時間の比較 Task completion time in window switching tasks

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電子文書の操作負荷を軽減させるドッキング・ウィンドウ環境

富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013 11

6. むすび

ワークスペースの構築を可能にし、コン

ピュータ上でのウィンドウ操作負荷を軽減する

ことを狙いとしたシステムDocking Window

Framework(DWF)を提案した。システムの

大の特徴は、ドッキングという操作をとおし

てウィンドウをつなぎ合わせてワークスペース

を構築することである。これにより、どのよう

なワークスペースを構築して、そこにどのよう

なウィンドウを配置するのかを指定することな

く、ウィンドウを並べる操作をそのままワーク

スペースの構築につなげる簡単で直感的なユー

ザーインターフェイスを提供した。

DWFの効果を検証するため、2つの実験を実

施した。ウィンドウ配置を課題とする実験では、

DWFでは従来システムに比べて20%以上高速

に作業できることがわかった。タスク切り替え

を含んだ作業を課題とする実験では、DWFでは

従来システムに比べて10%以上高速に作業で

きることがわかった。

実験後、多くの参加者が日常的にDWFを利用

したいという意思を表明した。DWFを実業務で

評価するため、現在、システムの信頼性向上に

努めている。さらに、DWFの枠組みは、ウィン

ドウ間でデータをやり取りして、他のウィンド

ウの状態変化に応じて自分のウィンドウの振る

舞いを変えるように拡張できる。今後、ウィン

ドウの基本コンポーネントを組み合わせて、ア

プリケーションを作る枠組みへと発展させるこ

とも視野に入れている。

7. 商標について

Adobe® Reader®は、アドビジステムズ社の

登録商標または商標です。

Windows® 、 Internet Explorer® は 、

Microsoft Corporationの米国およびその

他の国における登録商標または商標です。 その他、掲載されている会社名、製品名は、

各社の登録商標または商標です。

8. 参考文献

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電子文書の操作負荷を軽減させるドッキング・ウィンドウ環境

12 富士ゼロックス テクニカルレポート No.22 2013

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筆者紹介

柴田 博仁 研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィスに所属

専門分野:インタラクションデザイン

大村 賢悟 研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィスに所属

専門分野:認知科学

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