44
Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 19 わが国周辺には多くの海溝型巨大地震等の震源域が分布し、過去に多くの地震・津波の被害 を受けてきました。特に、沿岸域に立地する漁業地域は地震や津波の影響を受けやすい条件下 にあり、災害に対して脆弱な地域であるといえます。 わが国周辺では、今後も大規模な地震・津波の発生が予想されており、大きな被害の発生が 懸念されます。 【解 説】 1-1 地震・津波の被害と想定 我が国における主な地震・津波災害(明治以降)は全国の沿岸域に分布し、多くの漁業地域 において災害が発生している。 近年発生した北海道南西沖地震・津波(平成 5 年 7 月)、兵庫県南部地震(平成 7 年 1 月)、ス マトラ島沖地震・津波(平成 16 年 12 月)、福岡県西方沖地震(平成 17 年 3 月)、そして平成 23 年 3 月に発生した東北地方太平洋沖地震・津波の被害実態から、漁業地域の防災対策に多くの 教訓を得たところである。 図-Ⅱ-1 我が国における過去の地震・津波の発生 ⑩北海道南西沖地震(M7.8) 【平成5(1993)年7月12日】 ○死者・行方不明数 230人 ○最大遡上高さ 30m ⑨日本海中部地震(M7.7) 【昭和58(1983)年5月26日】 ○死者数 104人 ○最大津波高さ 14m ③北丹後地震(M7.3) 【昭和2(1927)年3月7日】 ○死者数 2,925人 ⑪兵庫県南部地震(M7.3) 【平成7(1995)年1月17日】 ○死者・行方不明者数 6,437人 ⑬福岡県西方沖地震(M7.0) 【平成17(2005)年3月20日】 ○死者数 1人 ○負傷者数 1,204人 ④昭和三陸地震(M8.1) 【昭和8(1933)年3月3日】 ○死者・行方不明者数3,064人 ○最大遡上高さ 29m ②関東地震(関東大震災)(M7.9) 【大正12(1923)年9月1日】 ○死者・行方不明者数 10万5千余 人 ⑥三河地震(M6.8) 【昭和20(1945)年1月13日】 ○死者数 2,306人 ⑧チリ地震津波(M9.5) 【昭和35(1960)年5月23日】 ○死者・行方不明者数 142人 ○最大津波高さ 6m ⑤東南海地震(M7.9) 【昭和19(1944)年12月7日】 ○死者数 1,223人 ⑦南海地震(M8.0) 【昭和21(1946)年12月21日】 ○死者・行方不明者数 1,330人 ○最大津波高さ 6m ⑫平成15年十勝沖地震(M8.0) 【平成15(2003)年9月26日】 ○死者・不明・負傷者数 851人 ○最大津波高さ 2.55m ⑭平成19年能登半島地震(M6.9) 【平成19(2007)年3月25日】 ○死者 1人 ○負傷者数 356人 ⑮平成19年新潟県中越沖地震(M6.8) 【平成19(2007)年7月16日】 ○死者 15人 ○負傷者数 2,346人 ⑯駿河湾地震(M6.5) 【平成21(2009)年8月11日】 ○死者・負傷者数 320人 ⑰平成23年東北地方太平洋沖地震 (M9.0) 【平成23(2011)年3月11日】 ○死者・行方不明者数 19,479人 ○負傷者数 6,052人 ○最大津波高さ 9.3m以上 ①明治三陸地震(M8.2) 【明治29(1896)年6月15日】 ○死者数 約22,000人 ○最大遡上高さ 38.2m Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 1.地震・津波防災を巡る情勢 【基本的考え方】 出典:「日本付近で発生した主な被害地震」(気象庁 ホームページ、平成 24 年 1 月末現在)

Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

19

わが国周辺には多くの海溝型巨大地震等の震源域が分布し、過去に多くの地震・津波の被害

を受けてきました。特に、沿岸域に立地する漁業地域は地震や津波の影響を受けやすい条件下

にあり、災害に対して脆弱な地域であるといえます。

わが国周辺では、今後も大規模な地震・津波の発生が予想されており、大きな被害の発生が

懸念されます。

【解 説】

1-1 地震・津波の被害と想定

我が国における主な地震・津波災害(明治以降)は全国の沿岸域に分布し、多くの漁業地域

において災害が発生している。

近年発生した北海道南西沖地震・津波(平成5年7月)、兵庫県南部地震(平成7年1月)、ス

マトラ島沖地震・津波(平成 16年 12 月)、福岡県西方沖地震(平成 17年 3月)、そして平成23

年3月に発生した東北地方太平洋沖地震・津波の被害実態から、漁業地域の防災対策に多くの

教訓を得たところである。

図-Ⅱ-1 我が国における過去の地震・津波の発生

⑦昭和南海地震(南海道)(M8.0)  【昭和21(1946)年12月21日】  ○死者・行方不明者数 1,443人  ○最大津波高さ 6m

⑩北海道南西沖地震(M7.8)  【平成5(1993)年7月12日】  ○死者・行方不明数 230人  ○最大遡上高さ 30m

⑨日本海中部地震(M7.7)  【昭和58(1983)年5月26日】  ○死者数 104人  ○最大津波高さ 14m

③北丹後地震(M7.3)  【昭和2(1927)年3月7日】  ○死者数 2,925人

⑪兵庫県南部地震(M7.3)  【平成7(1995)年1月17日】  ○死者・行方不明者数 6,437人

⑬福岡県西方沖地震(M7.0)  【平成17(2005)年3月20日】  ○死者数 1人  ○負傷者数 1,204人

④昭和三陸地震(M8.1)  【昭和8(1933)年3月3日】  ○死者・行方不明者数3,064人  ○最大遡上高さ 29m

②関東地震(関東大震災)(M7.9)  【大正12(1923)年9月1日】  ○死者・行方不明者数 10万5千余 人

⑥三河地震(M6.8)  【昭和20(1945)年1月13日】  ○死者数 2,306人

⑧チリ地震津波(M9.5)  【昭和35(1960)年5月23日】  ○死者・行方不明者数 142人  ○最大津波高さ 6m

⑤東南海地震(M7.9)  【昭和19(1944)年12月7日】  ○死者数 1,223人

⑦南海地震(M8.0)  【昭和21(1946)年12月21日】  ○死者・行方不明者数 1,330人  ○最大津波高さ 6m

⑪ ⑥

⑫平成15年十勝沖地震(M8.0)  【平成15(2003)年9月26日】  ○死者・不明・負傷者数 851人  ○最大津波高さ 2.55m

⑭平成19年能登半島地震(M6.9)  【平成19(2007)年3月25日】  ○死者 1人  ○負傷者数 356人

⑮平成19年新潟県中越沖地震(M6.8)  【平成19(2007)年7月16日】  ○死者 15人  ○負傷者数 2,346人

⑯駿河湾地震(M6.5)  【平成21(2009)年8月11日】  ○死者・負傷者数 320人

⑰平成23年東北地方太平洋沖地震  (M9.0)  【平成23(2011)年3月11日】  ○死者・行方不明者数 19,479人  ○負傷者数 6,052人  ○最大津波高さ 9.3m以上

⑦⑤

⑯ ②

①明治三陸地震(M8.2)  【明治29(1896)年6月15日】  ○死者数 約22,000人  ○最大遡上高さ 38.2m

Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

1.地震・津波防災を巡る情勢

【基本的考え方】

出典:「日本付近で発生した主な被害地震」(気象庁

ホームページ、平成24年1月末現在)

Page 2: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

1.地震・津波防災を巡る情勢

20

今後30年以内に地震が発生する確率は、下図のとおりであり、太平洋側の地域で高く、特に

三陸沖北部、茨城県沖地震(90%程度)、東海地震(88%)、東南海地震(70%)、南海地震(60%)

などの切迫度は極めて高い。

図-Ⅱ-2 今後30年以内の地震発生確率と規模

日向灘のプレート間地震 M7.6前後 10%程度

根室沖 M7.9程度 50%十勝沖と同時発生の場合

 M8.3程度

その他の南関東のM7程度の地震 M6.7~7.2程度 70%

大正型関東地震 M7.9程度 ほぼ0~2%

東南海地震 M8.1前後 70%程度

南海地震と同時発生の場合

 M8.5前後

想定東海地震 M8.0程度 88%

出典:地震調査研究推進本部の資料を基に作成

十勝沖 M8.1前後 0.5~3%根室沖と同時発生の場合

 M8.3程度

三陸沖北部 M8.0前後 0.7~10%(繰り返し発生する地震以外の地震)

 M7.1~7.6 90%程度

宮城県沖 M7.4前後 発生確率不明

(繰り返し発生する地震以外の地震)

 M7.0~7.3 60%程度

三陸沖南部海溝寄り M7.9程度 ほぼ0%

(繰り返し発生する地震以外の地震)

 M7.2~7.6 50%程度

三陸沖北部から房総沖の海溝寄り

・津波地震 Mt8.6~9.0前後 30%程度・正断層型 M8.2前後 4~7%

福島県沖 M7.4前後 10%程度

茨城県沖 M6.9~7.7 70%程度

(繰り返し発生するプレート間地震)

 M6.7~7.2 90%以上

東北地方太平洋沖型 Mw8.4~9.0 ほぼ0%

南海地震 M8.4前後 60%程度

東南海地震と同時発生の場合

 M8.5前後

安芸灘~伊予灘~豊後水道のプレート内地震 M6.7~7.4 40%程度

佐渡島北方沖 M7.8程度 3~6%

秋田県沖 M7.5程度 3%程度以下

北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1%

出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

震調査研究推進本部ホームページ、平成24年1月)

注1) Mt:津波の高さから求める地震の規模

Mw:モーメントマグニチュード

注2)「繰り返し発生する地震」とは、東北地方太平洋沖

地震の余震のこと

Page 3: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

21

コラム 『発生が近づいている南海地震対策の加速化について』

高知県危機管理部 森部 慎之助

東日本大震災の津波による想像を絶する被害の大きさを、映像や、現地調査で確認を

していくと、津波の圧倒的な破壊力、さらにはその恐怖は、遠く離れている高知県にい

ても強い衝撃を受けるもので、考えていた津波のイメージをはるかに超えるものでした。

高知県では、平成7年の阪神淡路大震災後、南海地震の発生確率の高まりを受け、比較

的早くから厳しい被害想定を行い、南海地震対策に取り組んできました。南海地震対策

のよりどころとなる条例の制定や津波避難対策等への補助制度の創設、自主防災組織へ

の活動の支援など、「高知県南海地震対策行動計画」にもとづき、計画的に進めてきまし

た。

しかしながら、東日本大震災の被災状況を考えますと、これまでの南海地震対策を抜

本的に強化をする、徹底して加速化を図ることが重要であるとの判断にたち、これまで

の南海地震対策を抜本的に見直すこととしました。

まずは、南海地震はいつ発生するかわからない中で、一日一日地域の防災力を高める

ため、今回の地震の検証や新たな想定を待たなくても、今すぐできる対策について、県

庁全体で199項目を洗い出し、全部局を挙げて、即座に取り組み、本年3月にはすべ

ての項目で完了、または引き続き取り組みを進めることでの確認をしたところです。

また、地震・津波対策を抜本的に見直すことについては、新しい想定を待たなければ

ならないものや、インフラ整備のように時間を要するものもあります。これらについて

は、国のシミュレーション結果をもとに、県として地域の特性に応じたより精緻な被害

想定を行い、それに基づき、平成24年度には新しい「高知県南海地震対策行動計画」を

策定し、平成25年度から全速力でこの計画を実現させていくこととしています。

一方、こうした計画を待つまでもなく、「まずは県民の命を守る」という観点から、平

成25年度までには避難困難地域の避難場所の整備を概成させるため起債事業と県の交

付金を活用した制度を創設し命を守るための避難場所の確保にスピード感を持って全力

で取り組むことにしました。

高知県は南海地震などの南海トラフ周辺の海溝型地震が発生すると,非常に厳しい被

害が想定されます。直下が震源域になり激しい揺れ、大津波さらには、大きな地盤変動

と、大規模な液状化など複合的な大災害になると考えています。

さらに、東海地方から九州に至る超広域災害となり、同時に多くの自治体や漁港などの

機能が失われるなどの最悪に事態を想定されます。この被害を最小限にとどめ、いち早

く県民の生活、経済を復活させるよう事前の備えに万全を尽くしていかなければなりま

せん。

こうした中でも、住民の皆様一人ひとりが「確実に命を守る」ことを強く意識し、避

難行動に移すことが最も重要になると考えています。

このため、昨年末に津波からの避難に重点を置いた啓発冊子「南海地震に備えちょき」

を全面改訂し、県内全世帯に配布し、避難への意識の向上をはかるための啓発を進めて

います。

Page 4: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

1.地震・津波防災を巡る情勢

22

1-2 地震・津波防災に関する法体系

沿岸諸国に未曾有の大被害をもたらしたスマトラ沖地震・津波をはじめ、国内で発生した新

潟県中越地震、福岡県西方沖地震等地震・津波による災害が頻発している。こうした中、切迫

する東海、東南海、南海地震や北海道、東北地方の地震・津波等への対策を進めるため、災害対

策基本法の下、各種地震対策関連の法制度が整備されている(資料-1参照)。

さらに、東北地方太平洋沖地震・津波の後には、国土交通省において、「なんとしても人命を

守る」という考え方に基づき、ハード・ソフト施策を総動員し、多重防御による津波防災地域

づくりを推進するための法制度を検討し、同年12月に「津波防災地域づくりに関する法律」が

制定された。

出典:「地震防災に関する法律の体系図」(内閣府中央防災会議、平成24年1月末現在)

図-Ⅱ-3 我が国の地震防災に関する法律体系

Page 5: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

23

沿岸域に分布する漁業地域の多くは、離島、半島などの条件不利地域に立地し、背後に山が

迫る狭隘な地形に密居集落を形成していることから、地震・津波による災害を受けやすいとい

う漁業地域特有の立地条件、社会条件下にあります。

【解 説】

2-1 漁港の現状

(1)漁港数

平成23年7月1日現在の漁港数は2,914漁港である。わが国海岸線総延長は約35,275kmで

あり、海岸線約12.1kmに1つの漁港が立地している。漁港の背後には漁村が立地しており、沿

岸部での地震・津波の発生により漁港漁村が被災する可能性が高いといえる。

表-Ⅱ-1 種類別及び管理者別漁港数

漁港

種類

港別 管理者別 備 考

実数 % 都道 府県 市町村

第1種 2,205 75.7 360 1,845 その利用範囲が地元の漁業を主とするもの。

第2種 496 17.0 306 190その利用範囲が第 1 種よりも広く、第 3 種漁港に属さないもの。

第3種 101 3.5 96 5 その利用範囲が全国的なもの。

特定 第3種 13 0.4 12 1

第 3 種漁港のうち水産業の振興上、特に重要で政令で定めるもの。

第4種 99 3.4 99 -離島、その他辺地にあって漁場の開発又は避難上、特に必要なもの。

計 2,914 100.0 873 2,041

資料:水産庁調べ(平成23年7月1日現在) (注)特定第3種漁港:八戸、気仙沼、塩釜、石巻、銚子、三崎、焼津、境、浜田、下関、博多、

長崎、枕崎

(2)水産物生産・流通拠点としての漁港の役割

漁港種類別の陸揚量では、第3種漁港において半数近くの水産物の陸揚げが行われており、

うち特定第3種漁港では全体の約3割の水産物が取り扱われている。また、陸揚金額からみる

と、第3種漁港で約4割、うち特定第3種漁港が2割強を占めている。

このことから、水産物生産・流通拠点としての役割を担っている漁港が被災した場合には、

国民への水産物供給に支障を来たすことが懸念される。

2.漁業地域における地震・津波防災の現状

【基本的考え方】

Page 6: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

2.漁業地域における地震・津波防災の現状

24

表-Ⅱ-2 漁港における属地陸揚量別陸揚量及び陸揚金額

資料:漁港港勢調査(平成20年)

(3)これまでの防災対策の状況

水産庁では、平成7年度より、地震・津波等災害の被害を受けやすい条件下にある漁港漁村

について総合的な防災対策として「災害に強い漁港漁村づくり事業」を講じてきた。また、平

成8年度より、水産物生産・流通の拠点であり、地震による被災の影響が広範に及ぶ漁港、地

震時に地域緊急輸送拠点として港湾と並んで位置付けられた漁港等を「防災拠点漁港整備事業」

による防災拠点漁港とし、全国的な配置計画の下、緊急避難輸送船のための泊地や耐震強化岸

壁の整備を図ってきた。

資料-2に災害に強い漁港漁村づくり事業、防災拠点漁港整備事業等の詳細を記載している。

耐震強化岸壁整備地区数の推移

0

5

10

15

20

25

30

6 7 8 9 10 11 12 13 14 15年度

地区

耐震強化岸壁延長の推移

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

年度

延長

 (m

資料:水産庁調べ

図-Ⅱ-4 耐震強化岸壁の整備状況

なお、平成18年からは「災害に強い漁港漁村づくり事業」と「防災拠点漁港整備事業」の2

つを「災害に強い漁業地域づくり事業」として再編・統合し、実施している。

種 別 漁港数 陸揚量(t) 陸揚金額(百万円)

計 割合 1港当り 計 割合 1港当り

全漁港 2,914 4,213,621 - 1,446 1,163,105 - 399

第1種漁港 2,205 992,249 23.5% 450 296,980 25.5% 135

第2種漁港 496 1,007,665 23.9% 2,032 313,947 27.0% 633

第3種漁港 101 783,483 18.6% 7,757 219,543 18.9% 2,174

特定第3種漁港 13 1,232,917 29.3% 94,840 271,403 23.3% 20,877

第4種漁港 99 197,308 4.7% 1,993 61,232 5.3% 619

Page 7: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

25

(4)漁港における漂流物の危険性

漁港や海岸等の陸域には、水産関係者や一般来訪者の車両が駐車されており、水域には、漁

船の係留を始め、プレジャーボート等の船舶の利用や養殖施設が設置されている。こうした車

両や船舶、養殖施設は、津波が発生した場合に津波とともに漂流物として漁港背後の市街地や

集落、泊地や航路に流され、家屋の倒壊、避難の妨げ、航路・泊地の閉塞、さらにはその後の

復旧・復興の妨げとなり二次被害を増大させる危険性を抱えている。

写真-Ⅱ-1 係留していた漁船(左)と津波来襲時に漂流物化し陸に乗り上がった漁船(右) (宮城県気仙沼漁港(特定第3種))

2-2 漁村の現状

(1)漁業集落数

漁業センサスの定義に基づく平成20年現在の漁業集落数は6,298集落である。わが国海岸線

総延長は約35,275kmであり、海岸線約5.6㎞に1つの漁業集落が立地している。

(注)漁業センサスで定義された漁業地区とは、全国の沿海市町村及び漁業法の区域内において、

共通の漁業条件の下に漁業が行われていると認められる地区として、共同漁業権を中心とし

た地先漁場の利用関係等、漁業に係る社会経済活動の共通性に基づいて農林水産大臣が設定

したもの。

(2)漁村の立地特性

海洋資源の再生産力に依存する漁業の特質から、漁業集落は資源依存的性格を持つことにな

り、飛び地的で不連続な立地形態を示している。

漁村の立地特性

① 漁業集落の過半は背後に崖が迫る山がちの地形に成立しており、平坦地が少ない狭隘・

高密度な集落を形成。

② 漁業集落は、その地形特性や制約上、集居や密居集落の割合が高い傾向。

漁村は地震・津波による災害を受けやすい立地条件下

Page 8: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

2.漁業地域における地震・津波防災の現状

26

表-Ⅱ-3 漁業集落の立地特性

集落背後の地形 家屋の立地状況

平坦 崖が迫る 平坦地に全戸数が立地

傾斜地に一部又は全戸数が立地

集落数 4,648 2,135 2,513 3,417 1,231

(%) 100.0% 45.9% 54.1% 73.5% 26.5%

(注)漁港漁場整備法に基づき指定された漁港の背後集落(漁港背後集落:当該漁港を日常的に利用する漁家が2戸以上ある集落)のうち集落人口が5,000人未満のもの

資料:水産庁調べ(平成21年度末)

表-Ⅱ-4 漁業集落の形態

集落形態の割合(%)

散居 集居 列密居 塊密居

集落数 507 1,352 1,833 956

割合 10.9% 29.1% 39.4% 20.6%

資料:水産庁調べ(平成21年度末) 【注意】散居:宅地と宅地が離れている集落形態 集居:宅地は連続しているが、家屋間にはゆとりがある集落形態 列密居:道路、海岸線等に沿って列状に家屋と家屋が密集している集落形態 塊密居:面的な広がりを持って、家屋と家屋が密集している集落形態

大分県佐伯市蒲江地区(蒲江漁港) 徳島県牟岐町出羽島地区(出羽島漁港)

(資料:大分県) (資料:徳島県)

写真-Ⅱ-2 高密度な漁業集落

(3)漁村の孤立危険性

① 物理的孤立

漁村は背後に山が迫り用地が少ないなどの地域に位置することが多く、地震や津波、風水害

等の災害時に陸路が寸断されるなど外部から孤立するおそれが多い。

水産庁が平成17年に実施した調査(詳細は資料-7に記載)では、地震・津波が発生した場

合、災害対策の拠点となる場所(例えば、市町村の役場、役場支所、耐震強化岸壁を有する他

の港等のいずれか)と集落を結ぶ陸・海・空の3つのルートすべてが遮断し物理的に孤立する

Page 9: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

27

可能性のある漁港背後集落は全4,696集落(集落人口が5,000人未満であり、当該漁港を日常的

に利用する漁家が2戸以上ある集落)のうち約38%(1,761集落)。さらに1ルートしか確保で

きない可能性のある漁港背後集落も含めると約87%(4,099集落)にも及ぶ。

② 情報孤立

災害時に普通電話(携帯・有線)が不通になった場合に、漁業集落から災害対策の拠点とな

る場所「例えば市町村の役場・役場支所等のいずれか」への情報通信手段の有無について確認

したところ、情報通信手段が無く情報的に孤立する可能性のある漁港背後集落は、全4,696集

落のうち 36.1%(1,696 集落)に上り、複数の情報通信手段を確保している漁港背後集落は

5.8%(272集落)のみである。

(4)避難施設

災害時に即時に避難できる施設が指定されている漁港背後集落は、全 4,696 集落のうち約

28%(1,308 集落)であり、指定されているが現行の耐震基準(建築基準法指定)に対応してい

ない避難施設がある集落は約43%(1,996集落)であり、約72%の漁港背後集落で避難施設が

不十分である。

また、津波発生時の即時の避難のための施設(津波避難ビル・高台にある避難広場等)がな

い漁港背後集落は全4,696集落のうち約69%(3,228集落)であり、即時避難のための施設は

あるが、指定が行われていない漁港背後集落は、約26%(1,209集落)となっており、約94%

の漁港背後集落において津波避難施設の指定が行われていない。

(5)その他の状況

漁業集落の生活環境整備の状況は都市に比べ全般に整備水準が遅れている。特に、自動車交

通不能道路比率では、集落内4割以上の道路で自動車交通が困難な集落が4分の1近くあるこ

とから、災害時の避難や緊急車両の通行に支障が生じるおそれがある。

表-Ⅱ-5 漁業集落の生活環境整備水準と都市部との比較

施 設 名 整備率

漁業集落 都 市

自動車交通不能道路比率 23% 15%

資料:水産庁調べ(平成22年3月現在) (注)漁業集落欄の「自動車交通不能割合比率」は、

集落内を通る道路のうち、4割以上が自動車が 通行できない道路となっている割合。

兵庫県姫路市家島町坊勢地区(坊勢漁港)

写真-Ⅱ-3 自動車が交通不能な集落内道路

Page 10: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

2.漁業地域における地震・津波防災の現状

28

漁村における集落(漁港背後集落)の孤立に関する実態調査 (平成18年3月、水産庁)

○本調査における物理的孤立の定義

○対象とする漁港背後集落:

漁港漁場整備法に基づき指定された漁港の背後集落(漁港背後集落:当該漁港を日常的

に利用する漁家が2戸以上ある集落)のうち集落人口が5,000人未満の集落

○物理的孤立の定義:

(1)陸のルート

問①.当該幹線道路全線又は一部が土石流危険渓流、地すべり危険箇所、急傾斜地崩壊

危険箇所にあるかないか。

問②.当該幹線道路全線又は一部が津波により浸水する恐れがあるかないか。

※津波により浸水する恐れがあるとは、以下のいずれかの場合とする。

・幹線道路が津波ハザードマップの浸水予測区域に属している場合。

・幹線道路(または海岸堤防、護岸)の高さが想定津波高より低い場合。

陸路が寸断する条件:

問①で「ある」または問②で「おそれがある」と回答した集落を、地震・津波等の災

害に伴い道路が寸断されるといった陸路の寸断の可能性があると想定。

(2)海のルート

問①.当該漁港における耐震強化岸壁の有無

問②.当該漁港における係留施設Aの設計基準を満たしている施設の有無

海路が寸断する条件:

問①で「ない」または問②で「ない」と回答した集落を、地震・津波による係留施設

の被災により海路の寸断の可能性があると想定。

(3)空のルート

問①.当該漁港背後集落内にヘリコプターの離発着場(中型用:樹木や建物等の進入に

障害となる物の無い40m×40mの平坦地)の確保が可能か。

空路が寸断する条件:

問①で「不可能」と回答した集落を、空路の寸断の可能性があると想定。

(4)物理的孤立の可能性

物理的孤立の可能性の条件:

以上の(1)~(3)より、陸路・海路・空路がすべて寸断する可能性があるとされる

集落について物理的孤立の可能性がある集落と想定。

幹線道路

耐震強化岸壁を有する他の港

幹線道路

災害対策の拠点となる場所から漁港背後集落までの幹線道路全線

※1

耐震強化岸壁を有する他の港から漁港背後集落までの幹線道路全線

災害時における人・物資等の流れ

背後集落

陸のルート

海のルート

空のルート

 ※1:一部が急傾斜崩壊箇所等にある。 ※2:一部が津波ハザードマップの浸水区域にある。 ※3:係留施設が耐震強化岸壁等でない。

※1 ※2

※3

※2

ヘリコプター離発着が可能な場所がない

漁港背後集落の孤立イメージ図

【参考情報】

Page 11: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

29

○物理的孤立に関わる状況について

1ルート確保

(2,338)

49.8%

確保出来ず

(1,761)

37.5%

2ルート確保

(584)

12.4%

3ルート確保

(13)

0.3%

○情報孤立に関わる状況について

災害時に普通電話(携帯・有線)が不通になった場合に、漁業集落から災害対策の拠点とな

る場所「例えば市町村の役場・役場支所等のいずれか」への情報通信手段の有無

0.4%

7.0%

30.8%

36.1%12.6%

5.8%

7.3%

無(1,696) 消防団無線(1,446)衛星携帯電話(327) 孤立防止用無線電話(18)簡易無線(344) その他(593)複数確保(272)

○避難施設に関わる状況について

漁港背後集落おける津波発生時の即時避難のための施設(津波避難ビル・高台にある避難広

場等)の状況

「中山間地等の集落散在地域における孤立集落発生の可能性に関する状況フォローアップ調査(内

閣府中央防災会議、平成22年1月)」においても同様の傾向が得られている。

※調査結果の詳細は資料-7に記載。東北地方太平洋沖地震・津波での状況については、資料-9を参照。

あり:指定なし

(1,209)25.7%

あり:指定あり(259)

5.5%

なし(3,228)68.7%

(注)あり・なし:漁港背後集落おける津波発生時の即時避難のための施設(津波避難ビル・高台にある避難広場等)の有無

指定:漁港背後集落おける津波発生時の即時避難のための施設(津波避難ビル・高台にある避難広場等)の津波避難ビルとしての指定状況

・地震・津波・土石流・地すべり等が

併発した場合に陸・海・空の3つのル

ートすべてが遮断し物理的に孤立す

る危険可能性のある漁港背後集落は

全4,696集落のうち約38%(1,761集

落)。

・さらに1ルートしか確保できない可

能性のある漁港背後集落も含めると

約87%(4,099集落)にも及ぶ。 全漁港背後集落数 4,696集落

・災害時に普通電話(携帯・有線)が

不通になった場合、情報通信手段が無

い(左記の消防団無線や衛生携帯電話

等のいずれも無い)漁港背後集落を情

報が孤立する可能性がある集落と想

定。

・この場合、情報が孤立する可能性の

ある漁港背後集落は36.1%(1,696集

落)。

・津波発生時の即時の避難のための施

設がない漁港背後集落は 68.7%

(3,228集落)。

Page 12: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

2.漁業地域における地震・津波防災の現状

30

2-3 漁業地域における就労者・来訪者の現状

(1)就労者の現状

全国の漁業就労者数は、平成20年で約22万1,908人であるが、漁業地区にはこの他に多く

の水産関連産業が立地し、水産関連産業に従事する人々が出入りしている。平成15年の漁業セ

ンサスによると、漁業地区では水産関連産業の従業員約56万人が働いている。

表-Ⅱ-6 漁業地区の水産関連産業の従事者数

種 類 水産関連産業箇所数 従業員数

漁業地区の水産物卸売業者数 982業者 11,900人

漁業地区の買受人数 32,567社 163,810人

漁業地区の冷凍・冷蔵工場数 5,757工場 150,216人

漁業地区の水産加工場数 11,465工場 230,185人

計 - 556,111人

資料:漁業センサス(平成15年) (注)ここでの「漁業地区」とは、市区町村の区域内において、共通の漁業条件の下に漁業が行われ

る地区として、共同漁業権を中心とした地先漁場の利用等漁業にかかる社会経済活動の共通性に基づいて農林水産大臣が設定するものをいう。

(2)漁業地域への来訪者の現状

漁村は、豊かな自然環境、優れた景観、新鮮な魚介類等の地域資源を有している。一方、都

市においては、健康志向、環境への意識、ゆとり・やすらぎを求める意識が高まっている。

このような状況の中、漁村は都市住民のいこい・やすらぎの場、体験学習の場、遊漁やダイ

ビングなどの海洋性レクレーション提供の場といった役割を果たしており、積極的に都市漁村

交流を推進する取組も進められてきている。最新の漁業センサス(平成20年調査)によると、

水産物直売所は、全国に218施設(漁協が管理運営する施設のみ)あり、年間延べ利用者数は

1,200万人以上にのぼる。

写真-Ⅱ-4 海岸や海上での都市漁村交流活動の事例

漁業体験を楽しむ来訪者 (徳島県由岐町)

磯遊びを楽しむ来訪者 (石川県)

直販施設 (富山県黒部漁港)

Page 13: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

31

(3)漁船等船舶の現状

漁港の利用漁船は、昭和55年をピークとして減少傾向であり、平成20年において約29万隻

の漁船が利用している。

また、漁港は、漁船だけではなく、プレジャーボートや官公庁船等漁船以外の船舶の利用が

ある。これらは、平成8年まで増加傾向にあったが、以降横ばいを示し、平成15年をピークに

減少傾向にある。平成20年には、漁船以外の船舶数は約6.4万隻となっている。

資料:漁港港勢調査

図-Ⅱ-5 利用動力漁船実隻数及び実総トン数の推移

7,968 7,788 7,483 6,758 6,643 6,273

10,9386,612 6,233 5,875 5,687

24,46625,608 27,050 30,206 31,450

28,533

29,147 27,178 24,106 22,09822,031

5,231

30,563

1,842

1,8282,5292,3741,8611,926

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

平成15年 平成16年 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年

その他

プレジャーボート(その他)

プレジャーボート(遊漁)

遊漁船

貨物・連絡・官公庁船

資料:漁港港勢調査

図-Ⅱ-6 漁港における漁船以外の船舶の利用の推移(H15~20)

※平成15年より区分が変更となっているため分けて整理している

Page 14: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

2.漁業地域における地震・津波防災の現状

32

コラム

気仙沼市 危機管理監 佐藤 健一

2011.03.11 14 時 46 分 東北地方太平洋沖地震が発生、気仙沼市の震度は6弱、

地震発生と同時に市内全てが停電(長期間の停電)。

災害対策本部の設置とともに、職員は夫々が●初動情報の収集作業(気象庁からの発

表、沖合い波浪計データ、津波潮位観測データ、監視モニター画像等)、●住民への情報

伝達(防災行政無線、エリアメール、ツイッター、ホームページ)、入電する情報の記録

及び避難指示の広報や救助体制の確保などに取り掛かりました。その後、間もなく海岸

部から離れた市の庁舎の 1 階が津波に襲われ、初めて私たちは未曾有の大津波が来襲し

たことを知ることになります。

その間、電源や光ファイバー網をはじめとする情報インフラ等が地震直後に喪失した

ことにより、無線系の防災行政無線や携帯電話等が唯一残された情報収集・伝達の手段

となりましたが、この情報ツールもバッテリーの消耗とともに機能を失ってしまいまし

た。

気仙沼市では、この大津波により、死者・行方不明者 1,359 人(2012 年 2 月 21 日

現在)、被災事業所 3,314(被災率 約 81%)、被災従業者 25,236 人(被災率 約

84%)、被災漁船数約 3,000 隻(被災率 約 84%)、被災漁港 第 1 種漁港 31 港、

第 2 種漁港 6 港、特定第 3 種漁港 1 港の全港が被災し、尊い人命はもとより、産業基

盤、ライフラインの殆どが失われた壊滅的な災害となってしまいました。

被害は、津波そのものによるもの、船舶等による漂流物によるもの、そして、火災に

よるものと複合的に拡大しました。津波が襲った翌日に被害を目の当たりにし、自分自

身の無力さを感じるとともに、ハード施設の限界を知ってはいたつもりでいたのですが、

ハードも駄目だった、また、避難を中心としたソフト対策も自分がやってきたことが活

きなかったのではというのがその時の正直な思いでした。

平成 18 年 3 月に発行された「災害に強い漁業地域づくりガイドライン」のコラム欄

「漁業地域の津波防災(減災)考」に記述させていただきましたが、改めて内容を見て

みると、津波による被害のリスクを考える上での漁業地域(集落)の機能やコミュニテ

ィ、産業構造等に触れ、津波による複合的な被害の要素と被害拡大の恐れ、及びソフト

とハード対策との連携のための住民視点での災害のイメージ化、そして、必ずや起こる

であろう地震、津波に対してのガイドラインの活用を述べていました。

地域防災計画や市のBCP上の想定津波では、起こった津波、漂流物、火災、集落の

孤立化、海底送水管の破断、下水道等の被害等の事象がほぼ想定されてはいたものの、

その被害規模との差異は大きく、想定(クライシス)に対する想定外といった観点での

「クライシス」という面も踏まえたBCPの策定を考慮しなければならないと思います。

また、今後は生活する個々人やコミュニティを対象とした継続計画(LCP,CCP)

の普及を併せて行うことにより、漁業も含めた地域全体の防災を作り上げることが必要

ではないかと思慮します。

Page 15: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

33

漁港・漁村は、災害時においても水産物生産・流通機能を確保し、就労者・来訪者や地域

住民の生命・生活を守る役割を有しています。

地震・津波などの災害が発生した場合、漁業地域は緊急避難や救難・救助の拠点、緊急物

資輸送・水産物生産・流通の拠点、災害復旧・復興の拠点として重要な役割を担っています。

【解 説】

3-1 災害時に漁港・漁村が果たす役割

漁村は、漁場に近接し、漁船の出入りや停泊に適した湾、入り江等に位置し、辺地、離島、

半島等の条件不利地域に多く立地し、漁業を核とした地域社会を形成している。また漁業地域

の中核となる漁港は、漁業の生産基盤としてだけでなく、背後住民の生命・財産及び漁船等の

安全確保、狭隘な漁村におけるオープンスペースの確保、離島等における連絡航路の発着等の

機能を有する生活基盤、さらに都市と漁村の交流の場となっているなど、多面的な役割を果た

している。

このように、漁業地域の日常的な役割に加え、地震・津波災害が発生した場合には、災害発

生時、災害応急対策時、災害復旧・復興時において様々な役割を有している。

図-Ⅱ-7 災害時に漁港・漁村が果たす役割

3.災害時に漁港・漁村が果たす役割

【基本的考え方】

災害発生時

災害応急対策時

災害復旧・復興時

・災害の防御、低減、被害拡大防止により生命・財産を守

る役割

・地域住民や就労者・来訪者の緊急避難の場としての役割

・救難、救助活動の場としての役割

・救難、救助活動のための海上交通の基地(海のネットワ

ーク)としての役割

・集落孤立の解消の役割 など

・水産物安定供給の基地としての役割

・陸上交通を代替・補完する海上輸送の基地としての役割

・復旧・復興の拠点(オープンスペース)としての役割

・被災していない地域の支援基地としての役割 など

Page 16: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

3.災害時に漁港・漁村が果たす役割

34

資料:水産庁(平成18年3月)

図-Ⅱ-8 災害応急対策時に漁港・漁村が果たす役割

Page 17: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

35

3-2 過去の被災事例にみる漁港・漁村の役割

(1)施設、用地の役割

兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)や福岡県西方沖地震等の過去の被災事例から、漁港施

設やオープンスペースが緊急避難、緊急救援・救助活動、さらには復旧・復興に重要な役割を

果たしてきた。

東北地方太平洋沖地震・津波は、設計での想定より極めて大規模であり、多くの漁港施設が

被災したことにより、災害応急対策時において所定の役割を必ずしも十分に果たせなかった漁

港施設等が多かった。一方で防波堤等による減災効果が確認されるなど、災害時における漁港

施設等の果たす役割の重要性が再認識された。

表-Ⅱ-7 施設、用地の役割

施設、用地の役割 利用の状況

○漁港・漁村の用地

・被災者の救難・救助活動、緊急物資

輸送のためのヘリポート(空のルート

確保)

・救援活動者の宿営地、緊急物資の一

時保管場所

・被災者の避難場所、仮設住宅用地

・復旧・復興作業用地、瓦礫等の仮置

場 など

ヘリポート 自衛隊宿営地

復旧作業基地 緊急物資置場

瓦礫置場 仮設住宅用地

○臨港道路や集落道

・地域住民の緊急避難道、救援活動の

場、緊急車両の通行

・被災家屋等から発生する瓦礫の仮置

・防火のための空間

・復旧・復興にあたってのコミュニテ

ィ活動の空間 など

緊急・救援活動の場 瓦礫の仮置場・緊急車両の通行

Page 18: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

3.災害時に漁港・漁村が果たす役割

36

○漁港施設や海岸保全施設

・台風等の高波浪時の船舶避難

・漁業地域住民の生命、財産の防護

・係留施設が被災した場合でも船舶の

泊地内係留によって、船舶による被災

者の救難・救助活動が可能 など

生命・財産の防護

○係留施設

・緊急物資の搬入、被災者の救難・救

助のための船舶係留(海のルート確保)

・災害応急対策、災害復旧・復興のた

めの物資搬入

・瓦礫などの廃棄物の搬出

・災害時においても水産物生産・流通

機能の確保 など

緊急物資搬入(左:船舶 右:ホバークラフト)

海上ルートの玄関

緊急救援活動(海のルート)として利用される係留施設

○荷さばき所・水産物倉庫等の水産業

共同施設や漁協・公民館・集会所等

の公共施設

・被災者の避難場所、物資の保管場所

・応急措置、復旧・復興の作業拠点

・津波来襲時の緊急避難場所(屋上)

など

応急措置・復旧・復興の拠点 被災者の避難場所 緊急救援活動の拠点として利用される荷捌場

(2)地域コミュニティの役割

福岡県西方沖地震における玄界島の被災と応急対策の実態及び東北地方太平洋沖地震・津波

における東北地域の被災の実態等から、以下の漁業地域の特性が明らかとなった。

漁村のコミュニティの特徴

・自主的な避難活動、漁業活動の再開、仮設住宅での生活等、被災直後からの自主活動の展開

が可能。

・コミュニティの合意形成による避難、応急対策、復旧・復興への取り組みが可能。

・災害発生から復旧・復興に至る過程で、漁村のコミュニティが有効に作用することで、迅速

な避難行動による被害の最小化が可能。

Page 19: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

37

・自主的に「災害対策本部」を立ち上げることで、避難住民の生活環境の改善に向けた拠点機

能を有することが可能。

・災害時に、集落の代表者が集い、情報の集約と共有、発信を繰り返し行うことで、集落の要

望が効率的に各所へ伝わり、外部との連携や支援を受けやすい環境を整備することが可能。

特に、半島など地理的条件が不利な集落においても、行政に頼るだけでなく、地域自らが考

え、行動するといった体制づくりを構築することで、外部からの支援を受けやすい環境を整

備することが可能。

なお、現在、漁業地域のコミュニティの機能が低下しつつある中において、災害時に有効に

地域コミュニティが作用するためには地域コミュニティの機能維持が重要な課題であることを

認識し、日頃より地域コミュニティの維持に努めることが望まれる。

■対策本部の立ち上げ事例(宮城県石巻市東浜地区)

石巻市牡鹿町東浜地区では、牧浜、

竹浜、狐崎浜、鹿浜並びに福貴浦浜の

5 集落が、被災後の 3 月 14 日、自主

的に「東浜地区災害対策本部」を立ち

上げた。同対策本部は、緊急支援物資

の受け取りと配分、必要物資の集約と

関係機関への依頼、さらには日常の健

康管理に至るまで、避難住民の生活環

境の改善に向けた拠点機能を果たし

た。

各集落単位の地区会議と併せ、5集

落の代表が集まる本部会議が毎日 2

回開催され、情報の集約と共有、発信

が繰り返しなされた。

このことよって、5 集落の要望が逐次とりまとめられ、各所へ伝わり、外部との連携や

支援を受けやすい環境が整えられた。

東浜地区が(牡鹿)半島部のなかの半島部という地理的条件の中で、比較的必要な支援

が行き届いた背景には、このような地域コミュニティの自律的な組織対応が大きく影響し

ている。当時の対策本部長は、「行政に頼るだけでなく、地域自らが考え、行動する、そ

のような体制づくりを目指した。活動の初期は公平性の観点、後半は自助の意識をそれぞ

れ徹底させるべく苦心した。」と述懐している。

資料:水産庁「平成23年度東日本大震災を踏まえた漁業地域の防災対策緊急点検調査」

本 部

副本部長

※5 集落の区長を中心に災害対策本部を構成。

<情報の集約・共有・発信>

生活改善に向けた拠点的機能発揮

狐崎浜竹浜牧浜 鹿 富 貴 浦

【参考情報】

Page 20: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

3.災害時に漁港・漁村が果たす役割

38

(3)海のネットワークの役割

漁村は背後に山が迫り用地が少ないなどの地域に位置することが多く、地震や津波、風水害

等の災害時に陸路が寸断されるなど孤立するおそれが多い。

新潟県中越地震(M6.8)では、多発する土砂災害に伴う交通の寸断や情報通信の途絶により、

山古志村(現:長岡市)を始めとして各地で孤立集落が発生し、救助・救難活動や避難生活に

おいて種々の困難を経験したことなど、中山間の集落散在地域において地震災害に特有の問題

が顕在化した。

このことは、山が海に迫った沿岸部の漁村においても同様の集落の孤立が懸念され、災害時

において集落の孤立を防ぐために陸・海・空の複数のルート確保の必要性を示唆している。

兵庫県南部地震では、大きな被害を受けた神戸市や淡路島の漁港に近隣府県の漁港から漁船

による救援物資輸送が行われた。

また、福岡県西方沖地震により約700名の全島民が島外へ避難するという大規模な被害を受

けた玄界島では、離島ゆえに外部から孤立した島において漁港が海のルート・空のルートの拠

点として緊急救援・救難活動において重要な役割を果たした。

このように、漁港は災害時における集落孤立の解消、海のネットワークの拠点として重要な

役割を有していることが明らかとなった。

しかし、東北地方太平洋沖地震では、津波に起因した大量の瓦礫により航路・泊地・岸壁が

利用できず、陸海空の3ルートいずれも確保できずに孤立した集落が多数発生しており、災害

時における漁港を拠点とした海のネットワークの重要性が再認識された。

Page 21: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

39

漁業地域は、国民への水産物供給の場、産業・交流の場、生活の場としての役割(機能)を

有していますが、地震・津波による災害に対して多くの災害リスクを抱えており、災害対策上

の課題となっています。

【解 説】

全国に数千ある漁業集落及びその生産活動等の基盤である漁港では、背後に山が迫り、狭隘

な土地に漁業関係施設や家屋が密集しており、津波をはじめ地震・高潮等の被害を受けやすい

状況にある。また、津波来襲の際に避難できる高層ビルがほとんどないこと、高齢化の進行に

より災害時要援護者になりやすいこと、釣り客を始め多くのレジャー客が来訪すること、漁船

や漁業・養殖施設が漂流するおそれがあること等、漁業地域特有の様々なリスク要因を抱えて

いる。

ここでは、漁業地域における地震・津波災害の課題について、前述の“3つの観点・2つの

柱”に沿って記載する。なお、漁業地域における地震・津波災害の課題については、以下の流

れに基づいて抽出・整理を行っている(次頁以降参照)。

※地震・津波災害リスクは、漁業地域の特性に応じて異なるものである。次頁以降に掲載している

リスクシナリオは一例であり、実際には各地域において想定されるリスクを検討する必要がある。

4.漁業地域における地震・津波対策の課題

【基本的考え方】

漁業地域の一般的な特性を踏まえて

【漁業地域の特性】

災害時における漁業地域特有の問題点を抽出する

【災害時の課題】 漁業地域の特性に応じた

地震・津波災害リスク※を

想定した上で課題を検討す

【リスクシナリオ】

Page 22: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

4.漁業地域における地震・津波対策の課題

40

①漁業地域の防災力の向上

ⅰ.地域住民や就労者・来訪者の安全確保

【想定されるリスクシナリオ(例)】

想定されるリスクシナリオ (地域住民や就労者・来訪者の安全確保)

・地震による強い揺れ       ・第一波到達・繰り返し津波到達

・津波は徐々に沈静化

・気象庁震度情報伝達

・気象庁津波警報発令  防災行政無線・広報車(行政)での伝達  施設管理者・漁業組合など(民間)からの伝達      (テレビ・ラジオ等での伝達:個人による情報取得)

・気象庁津波警報解除 → 漁業組合などから沖へ避難している漁船等への伝達・被災地の情報が十分に入らない

・木造家屋中心に多数の全壊被害・家屋等の倒壊で避難道路閉塞・同時多発火災発生・漁港の津波堤防が液状化により沈下等の被災

・津波防災施設の越流・家屋浸水・初期消火活動がほとんど行われず火災延焼・漂流物

・路上、漁港にガレキ等が散乱して通行支障・火災延焼の拡大

・消火が困難な規模に延焼

・延焼は継続

・家屋倒壊により自力脱出困難な被災者が多数発生

・地区により避難開始前に津波により被災・住民相互による要救助者の救出を行うが間に合わず被災・避難を開始した人も、家屋倒壊や電柱等の倒れこみによる道路閉塞で逃げ遅れ・付近に高台がなく、適切な避難場所、避難ルートがわからない住民が多数発生・周囲の被災状況を勘案して高齢者や身体障害者等を中心とする車による避難・海水浴客への津波警報伝達の遅れ・車で避難する海水浴客による道路閉塞・ドライバーへの津波予警報の伝達の遅れ・漁港に漁船を見に行く漁業者

・避難意識が十分に高められていれば20~30分程度でほぼ全員が避難完了(津波到達が30分より遅い地区について)

・出漁中の漁船は沖で待機

・沖で待機中の漁船が帰港するが、航路や漁港内に溜まった漂流物により接岸不能.

・行政(地方自治体等)による被災情報の収集・施設管理者・自治組織など(民間)による被災情報の収集・対策本部による被災地の情報の把握

・徐々に自然鎮火

復 旧直  後 応  急

・行政(地方自治体等)による被災者へ支援情報の伝達・自治組織・ボランティアなど(民間)による被災者へ支援情報の伝達

被害の状況

被災者の行動

及び行動支障

地震・津波事象

情報伝達・把握

【漁業地域の特性】

○漁港や海岸には、漁業者や漁業関係者及び多くの来訪者がいる

○漁業地域は高齢化の進行により災害時要援護者となる高齢者が多い

○来訪者は、地理感覚に乏しい

○漁港漁村は、山と海に囲まれているところが多く災害を受けやすい立地条件にある

○平坦部にある漁港漁村では、近隣に安全な高台がない

○都市部と比べ情報伝達基盤の整備が後れている

次 頁 【災害時の課題】

Page 23: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

41

【災害時の課題】

①原則、徒歩避難にもかかわらず、車で避難する人がいる。

②漁業者は漁港へ漁船を見に行きがちである。

③漁船を始めとする船舶は、沖へ避難すべきか帰港すべきか判断に迷う場合がある。

④沖へ避難する漁船が、避難途中に津波に遭遇するケースがある。

⑤背後の山地が急峻なところが多く子供や高齢者等は避難に時間を要する。

⑥漁業集落内の道路は狭いところが多く避難の支障となる。

⑦集落内の老朽家屋やブロック塀等が倒壊し避難の支障となる。

⑧地理感覚に乏しい釣り客や海水浴客等の来訪者、外来漁業関係者が津波の犠牲となる可能

性がある。

⑨沖へ避難する漁船は、地元の無線局が被災した場合に情報孤立となる可能性が高い。

⑩防災無線での災害情報が伝わらない場合がある。

※対策の内容については、Ⅲ.漁業地域における防災対策の考え方 P58参照

【対 策】

○陸上・海上における危険な行動をなくし、迅速な避難を促すための災害時の避難体制の構

築・・【問題点】①~④に対応

○地域の状況(背後山地が急峻、集落内の道路が狭いなど)や地域住民の構成(高齢者が多

い)などに配慮した的確かつ迅速な避難計画の構築・・【問題点】⑤~⑦に対応

○釣り客や海水浴客等の来訪者、外来漁業関係者などへの迅速な避難を促す的確な避難情報

伝達体制の構築・・【問題点】⑧に対応

○地域住民や沖に避難した漁船に対して災害時でも確実に伝わる情報伝達体制の構築・・【問

題点】⑧~⑩に対応

○迅速な避難行動を促す避難知識の周知・徹底・・【問題点】①~⑩に対応

Page 24: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

4.漁業地域における地震・津波対策の課題

42

ⅱ.漁港・漁村の総合的な防災対策

【想定されるリスクシナリオ(例)】

想定されるリスクシナリオ (漁港・漁村の防災対策)

・地震による強い揺れ ・第一波到達 ・繰り返し津波到達 ・津波は徐々に沈静化

・気象庁震度情報伝達

・津波警報解除・被災地の情報が十分に入らない

・津波警報解除

・行政(地方自治体等)による被災情報の収集・自治組織など(民間)による被災情報の収集

・木造家屋中心に多数の全壊被害・急傾斜崩壊による家屋全壊・家屋等の倒壊で避難道路閉塞→孤立化による救助困難な地区発生・同時多発火災発生

・津波防災施設の越流

・家屋浸水・初期消火活動がほとんど行われず火災延焼

・路上、漁港にガレキ等が散乱して通行支障

・火災延焼の拡大・消火が困難な規模に延焼

・延焼は継続

・徐々に自然鎮火

・家屋倒壊により多数の自力脱出困難な被災者が発生

・避難前に津波により被災・住民相互による要救助者の救出を行うが間に合わず被災・避難を開始した人も、家屋倒壊や電柱等の倒れこみによる道路閉塞で逃げ遅れ・避難所までの密が急斜面で高齢者等が逃げ遅れ・避難場所、避難ルートがわからない住民が多数発生・周囲の被災状況を勘案して高齢者や身体障害者等を中心とする車による避難・漁港施設、漁業関連施設への避難

・避難意識が十分に高められていれば20~30分程度でほぼ全員が避難完了(津波到達が30分より遅い地区について)・漁港用地の利用・避難所、被災を逃れた地区に被災者が孤立化

・漁港用地にヘリポート確保・救援者の到着

・仮設住宅の建設・復旧作業基地の設営・支援体制の確立・緊急物資などの搬入・瓦礫等の一時堆積

・行政(地方自治体等)による被災者へ支援情報の伝達・自治組織・ボランティアなど(民間)による被災者へ支援情報の伝達

地震・津波事象

応  急 復  旧直  後

・気象庁津波警報発令  防災行政無線・広報車(行政)での伝達  施設管理者・自治組織など(民間)からの伝達  (テレビ・ラジオ等での伝達:個人による情報取得)

・対策本部による被災情報の把握

被害の状況

被災者の行動

及び行動支障

情報伝達・把握

【漁業地域の特性】

○漁港は、被災地に対する支援根拠地としての役割を持つ

○漁村には、高齢者が多いものの、地域の連帯感が強い

○過疎、離島等の条件不利地域に多く立地し、交通ネットワークが脆弱

○都市部と比べ情報伝達基盤の整備が後れている

○都市部と比べ集落内道路や公園、緑地等のオープンスペース確保など生活基盤の整備が

後れている

○堤防等の開口部である水門や陸閘等が多数存在する

○漁港漁村海岸では、漁船、漁具、プレジャーボート、車両など漂流物となりやすいもの

が多く存在する

次 頁 【災害時の課題】

Page 25: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

43

【災害時の課題】

①山地と海に挟まれた低地に人口が集中しており被害が拡大される危険性がある。

②漁港施設および海岸保全施設の老朽化調査等適切に維持管理が行われているか懸念され

る。

③隣接する漁業地域が広範囲で被災し、漁業地域間ネットワークが機能しない恐れがある。

④漁業集落の多くは交通網が脆弱であり、道路寸断による地域の孤立が懸念される。

⑤津波に起因した大量の瓦礫により航路・泊地・岸壁が利用できず、陸海空の3ルートいず

れも確保できずに孤立するケースがある。

⑥情報伝達基盤の整備の後れ等により停電時に情報通信手段が確保できない恐れがある。

⑦非常用電源が確保されていない施設等がほとんどである。

⑧漁港や集落内にオープンスペースがない場合には迅速な応急対策が十分にできない。

⑨漁港施設が倒壊した場合には復旧活動の拠点としての機能を期待できない。

⑩水門、陸閘等の開閉操作に障害がある施設も存在する。

⑪津波来襲時に円滑な水門や陸閘の操作が実施されるか懸念される。

⑫漁船や漁業関係施設等が津波により漂流し二次的被害を引き起こす危険性がある。

⑬港口、航路、泊地へ瓦礫、漂流物が堆積し、航行・泊地障害等が発生する可能性がある。

⑭給油タンクや燃油類の保管施設により火災等が発生する恐れがあり、密集した集落で多大

な被害を招く恐れがある。

⑮災害によりライフラインがストップすることで地域での生活が不可能となり、地域コミュ

ニティを核とした支援体制の構築が不可能となる。

※対策の内容については、Ⅲ.漁業地域における防災対策の考え方 P59~60参照

【対 策】

○浸水リスクを考慮したまちづくり・・【問題点】①に対応

○支援根拠地として活用が可能な基盤整備・・【問題点】②、⑨に対応

○地域の支援根拠地として機能する漁港のネットワーク体制づくり・・【問題点】③に対応

○孤立しない集落づくりと孤立した場合の支援体制づくり・・【問題点】④~⑦に対応

○漁港を復旧活動の拠点とするために必要なオープンスペースの活用・・【問題点】⑧、⑨

に対応

○作業員の被災を招く可能性がある水門・陸閘の閉鎖作業の改善・・【問題点】⑩、⑪に対

○漂流物や危険物による二次災害の防止及び火災発生防止手法の構築・・【問題点】⑫~⑭

に対応

○災害時でもコミュニティが継続される地域の体制づくり・・【問題点】⑭に対応

Page 26: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

4.漁業地域における地震・津波対策の課題

44

②水産物生産・流通機能の確保

【想定されるリスクシナリオ(例)】

想定されるリスクシナリオ (水産物流通機能の確保)

・地震による強い揺れ ・第一波到達 ・繰り返し津波到達

・気象庁震度情報伝達

・気象庁津波警報解除  卸売業者より入港予定の漁船に水揚の可否の情報伝達

・陸揚岸壁が被災・市場内の物資が散乱・老朽化した市場施設が被害・岸壁と市場の荷捌動線が被災・臨港道路や幹線道路までの搬出道路が被災

・市場への越流・船舶 給油船の座礁や衝突、石油タンクの流出等による火災発生の危険

・泊地、岸壁に漁船や養殖筏等の漂流物が堆積・市場内のタンクや魚箱、活魚水槽 や活魚生

簀、フォークリフト、ベルトコンベアー等が漂流物化・荷受けの大型搬送トラックや保冷車が漂流物化・路上、漁港に漂流物が散乱して通行支障・市場関係者の通勤用車両、自転車等が漂流物化

・市場関係者(市場開設者、卸売業者、買受人等)よりの被害状況の情報収集

・ 翌日の市場開設が可能かどうかの判断のための協議

・市場開設のための応急復旧対策・取引参加可能な買受人の把握

・市場の開設

・市場取扱量の従前への復活

・ 滅菌清浄海水や氷の利用 やによる鮮魚等 活魚出荷 等の再開・衛生管理型市場の再開・ 電子入 札等IT活 用情報機器の再開

・市場での就労者の 高

台避難 (気仙沼の場合 は市場屋上に避難)

・地区により避難開始前に津波が来襲・漁港施設、漁業関連施設への避難( 気

仙沼の場合は市場屋上 にへの避難等)

・避難意識が十分に高められていれば20~30分程度でほぼ全員が避難完了(津波到達が30分より遅い地区について)

・市場開設者及び卸売業者による水産関連業者組合(買受人組合、水産加工業組合、仲卸業者組合等)よりの被災情報の収集・市場開設者及び卸売業者より水産関連団体への魚市場の被災状況と卸売業務の可否についての情報伝達

地震・津波事象

被害の状況

被災者の行動

及び行動支障

情報伝達・把握

・津波は徐々に沈静化

・気象庁津波警報発令  市場開設者及び卸売業者より市場内関係者へ伝達(場内放送)  卸売業者より入港予定の漁船に伝達(漁業無線)

直  後 応  急 復  旧

【漁業地域の特性】

○漁港は、水産物を安定的に供給する生産・流通拠点である。

○漁港は、災害時に応急復旧、復旧・復興に重要な役割を担う。

○漁港は、海の玄関口として海上輸送ネットワークを形成する。

○災害時に水産物の生産・流通を確保する観点からの整備が十分ではない。

次 頁 【災害時の課題】

Page 27: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅱ.漁業地域における地震・津波防災の現状と課題

45

【災害時の課題】

①地震に耐えうる岸壁が少ないため被災しやすく、水産物の陸揚げができない。

②漁港用地の液状化が懸念される。

③陸揚げから出荷に至る一連の施設のうち一部が被災した場合には、水産物の生産・流通機

能が滞り国民へ水産物を供給できない。また、地震に伴う岸壁、道路、用地の沈下により、

水産物の生産・流通が停止するケースがある。

④津波により、漁船、車両、フォークリフト、魚箱、資材などが流出するケースがある。ま

た、漁場への漂流物の堆積が懸念される。

⑤水や氷等が確保できず、水産物の生産・流通が停止するケースがある。

⑥漁港管理者と市場開設者及び漁港・市場利用者間の情報伝達体制を含めた連携が不十分で

ある。

⑦水産物の生産・流通機能等が長期に渡ってストップした場合は地域経済に大きな影響を与

える。

※対策の内容については、Ⅲ.漁業地域における防災対策の考え方 P62参照

【対 策】

○被災時でも水産物の陸揚げから流通が可能な漁港づくり・・【問題点】①~④に対応

○漂流物の発生防止対策の構築・・【問題点】④に対応

○災害時における水産物生産・流通機能の速やかな確保に向けた応急対策の検討・・【問題

点】④、⑤に対応

○円滑な復旧・復興のための漁港管理者と市場開設者及び漁港・市場利用者との連携体制

の構築・・【問題点】⑥に対応

○漁港施設と市場施設・水産関連施設との一体的なリスク管理手法の確立・・【問題点】⑦

に対応

○災害に対する水産物の生産・流通機能の継続計画の策定・・【問題点】①~⑦に対応

Page 28: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

4.漁業地域における地震・津波対策の課題

46

Page 29: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅲ.漁業地域における防災対策の考え方

47

災害に強い漁業地域づくりは、地震・津波災害による被害の 小化を図ること

(減災)を目標とします。

被害の 小化(減災)を図るために、「自助・共助・公助」による

①地震・津波による被害の低減

②地震・津波発生後の被害拡大の防止(二次災害の防止)

③地震・津波発生後の被害継続の防止(円滑な復旧への準備)

が必要です。

【解 説】

地震・津波等の自然災害については、予知・予報技術の向上はあるものの、その発生を未然に

防ぐことは困難である。特に、今後の大規模地震発生確率が高まっている地域(p20 図-Ⅱ-2参

照)においては、早急な対策が必要である。その際、地震・津波に対する漁業地域の安全度を高

めるために、災害が発生した場合を想定し、その被害を 小限に抑えること(減災)が求められ

る。さらに、円滑な復旧により、地域に与える社会的・経済的損失を 小化することが求められ

る。

そのためには、

①地震・津波による被害の低減

②地震・津波発生後の被害拡大の防止(二次災害の防止)

③地震・津波発生後の被害継続の防止(円滑な復旧への準備)

という3つの対策を講じる必要がある。

図-Ⅲ-1 被害の最小化(減災)

1.災害に強い漁業地域づくりの基本的理念

Ⅲ 漁業地域における防災対策の考え方

【基本的考え方】

減  災

①地震・津波による被害の低減

②地震・津波発生後の被害拡大の防止(二次災害の防止)

③地震・津波発生後の被害継続の防止

          (円滑な復旧への準備)

Page 30: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

1.災害に強い漁業地域づくりの基本的理念

48

また、これらの3つの対策を講じる際に、被害の 小化を図るために、個人個人の自覚に根ざ

した取り組み(自助)、地域のコミュニティ等における取り組み(共助)、さらに行政による取り

組み(公助)の連携が不可欠である。

自 助:個人個人の自覚に根ざした取り組み

共 助:地域のコミュニティ等に置ける取り組み

公 助:行政による取り組み

図-Ⅲ-2 自助・共助・公助の連携イメージ

①地震・津波による被害の低減

地震・津波による被害の低減とは、施設の耐震化・耐浪化や防潮堤・水門・陸閘等の整備、避

難施設・漂流防止施設等のハード整備と、ハザードマップや避難計画の策定等のソフト対策によ

る、地震・津波による直接的な被害の低減対策である。

②地震・津波発生後の被害拡大の防止(二次災害の防止)

地震・津波発生後の被害拡大の防止とは、陸・海・空のルートやオープンスペースの確保等に

よる漁村の孤立防止を含め、迅速な緊急救難・救助活動等が行えるよう災害予防対策や災害応急

対策を講じることにより2次災害の拡大を防止するためのハード・ソフト対策である。

③地震・津波発生後の被害継続の防止(円滑な復旧への準備)

地震・津波発生後の被害継続の防止とは、漁業地域において、水産物の生産・流通に係る企業

や機関が、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の策定などを通じて、発災後も生産・

流通機能が維持されるよう、円滑な復旧への準備を行うことである。

また、地域住民等が発災後に速やかに元の生活に戻ることを目的とする LCP(生活継続計画:

Life Continuity Plan)、コミュニティが発災後も継続して応急対策、復旧・復興まで機能する

ことを目的とするCCP(コミュニティ継続計画:Community Continuity Plan)などの概念もある。

公 助

自 助 共 助

避難勧告

防災施設の整備を要望

防災力向上のためのハード・ソフト対策

緊急物資の備蓄等の提案

災害時要援護者への支援

ボランティア活動への参加

Page 31: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅲ.漁業地域における防災対策の考え方

49

防災対策にあたっては、行政だけでなく各組織や地域住民など、地域の防災に

関わる人々が一体となって取り組むことが重要です。

漁村は漁港の背後に位置するという立地条件とともに、漁村特有のコミュニテ

ィを形成し地域の強い連帯感があります。地震・津波災害に対し、コミュニティ

の連帯感を活用するとともに、施設管理者との連携が必要です。

地域と一体となった防災対策のために事前に取り組むべき災害予防として、主

に以下の事項が必要です。

①漁業地域防災協議会の立ち上げ

②高齢化に対応した漁村の自主防災組織等の設置

③海岸・漁港管理者、自主防災組織等の連携

【解 説】

2-1 地域と一体となった取り組み

(1)漁業地域防災協議会の立ち上げ

① 目 的

災害に強い漁業地域づくりの基本理念で掲げた「自助・共助・公助」による被害の 小化(減

災)を図るためには、行政だけでなく地域の防災にかかわる組織や関係者が集まり、正確な災害

情報や防災知識の共有、地震・津波発生時における避難行動や災害支援のあり方などの総合的な

地域の防災対策の検討や防災訓練の実施等の取り組みが必要である。

このため、漁業地域の防災にかかわる多様な主体(行政や様々な組織、地域住民等)が一体と

なって「災害に強い漁業地域づくり」に取り組む「場」として「△△漁業地域防災協議会(仮称)」

以下、漁業地域防災協議会と言う。)を組織する。

なお、既に漁業地域で行政や多様な組織及び地域住民が参画する防災に関する情報交換の場な

どがあれば、それらを活用し、人員や協議内容を拡大する形で地域防災協議会を組織することも

考えられる。

② 構 成

漁業地域の対象範囲(p6 図-Ⅰ-1参照)を考慮すると、漁業地域防災協議会は、漁業地域が

所在する市町村において、漁港担当部局と防災担当部局とが連携をとりつつ主体となり、地域の

防災にかかわる関係機関、組織、住民等により構成されることが望ましい。

また、災害時要援護者等の実情を知る民生委員等の地域の支援者や漁業地域の日常の防災に重

要な役割を果たしている女性が参画することが望ましい。

2.防災体制の構築

【基本的考え方】

Page 32: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

2.防災体制の構築

50

表-Ⅲ-1 漁業地域防災協議会の構成(案)

分 類 構 成(案)

自治体 都道府県、市町村の海岸・漁港管理者、防災担当者

関係機関 消防・警察・医療関係機関、海上保安部、その他関係機関など

就労者 漁協、市場開設者、水産関連業者、遊漁船組合、観光・定期船団体など

来訪者

観光協会、観光・漁業体験施設管理者、海水浴場開設者(海の家)、ライフ

セーバー団体、海洋性レクリエーション団体(釣り・プレジャーボート・サ

ーフィン・ダイビング等)、NPOなど

地域住民 自治会、自主防災組織、消防団など

図-Ⅲ-4 漁業地域防災協議会の体制

③ 取り組み

漁業地域の防災対策のために、災害予防としてハード・ソフト一体的な取り組みを行い、災害

が発生した場合には災害予防時に取り決めた事項に基づいて速やかに行動することが必要であ

る。

そのため、災害・防災に係わる各種情報(現状把握、被害想定、課題の抽出など)の共有、漁

業地域における防災対策の検討(避難行動ルール、避難計画、各種体制、防災力向上のための各

種対策など)、それぞれの役割分担の検討およびそれらの周知、普及、啓発等が、漁業地域防災

協議会で取り組むべき主な事項となる。

(2)高齢化に対応した漁村の自主防災組織等の設置

消防・警察等 関係機関

地域住民自主防災組織等

隣接漁港又は 港湾管理者

加工・流通関係者

連携

連携

連携

連携

海レク関係者

都道府県・市町漁港担当部局(海岸・漁港管理者等)

防災担当部局

連携

連携市場関係者

漁協

外来漁業者(組合等) 来訪者(関係団体) 連携 連携

Page 33: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅲ.漁業地域における防災対策の考え方

51

漁村の多くは、特有のコミュニティ

を形成し強い連帯感を有していること

から、災害発生時においても速やかな

避難・支援が行われることが知られて

いるが、そうした避難や支援について

組織的に対応するために自主防災組織

等を設置する。

漁村は、人口減少・高齢化が進んで

いることから、自主防災組織の設置にあたっては、災害時に対応できる体制とすることが重要で

ある。

また、水産庁の実態調査(平成22年3月)によれば、全4,648集落中、自主防災組織が無い

漁港背後集落は約26.5%(1,234集落)ある。

一方、平成23年度版消防白書によると、東北地方太平洋沖地震・津波において「被災地域の

自主防災組織、町内会婦人(女性)防火クラブ等が、平常時からの備えや地域の結びつきを元に、

津波からの避難時における住民同士の声かけや避難所運営の支援、炊き出しの実施、一人暮らし

高齢者への支援などの各種活動を積極的に行った」とある。

今後、総合的な漁村の防災対策の検討にあたっては、漁村のコミュニティを活かした自主防災

組織の活用が必要である。

(3)海岸・漁港管理者、自主防災組織等の連携

漁業地域は、漁港海岸、漁港その背後に密接して立地する漁村、周辺の海域や陸域から構成さ

れており、災害時には、海岸・漁港管理者による施設の被害状況や利用者の避難状況等の把握、

背後集落においては、漁村のコミュニティや自主防災組織による住民の避難状況等を把握する。

こうした避難状況等の把握を効率的に行うためには、海岸・漁港管理者や地元市町村、自主防

災組織が情報等の共有化・一体化を図るなど、防災にかかわる多様な主体の参画と連携の強化を

図ることが重要である。

なお、災害時には既存の地域内組織が様々な役割を果たすことが考えられ、自主防災組織等の

組織づくりにあたっては、これらの既存組織の活用も有効である。

背後集落

海岸管理者

自主防災組織

海岸 海岸

漁港

漁港管理者

あり(3,414)73.5%

なし(1,234)26.5%

資料:水産庁調べ(平成22年3月)

図-Ⅲ-5 自主防災組織の有無

図-Ⅲ-6 漁業地域の防災対策主体のイメージ

Page 34: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

2.防災体制の構築

52

2-2 一体的な組織の構築

災害が発生したとき、被害の拡大を防ぎ、迅速な緊急救難・救助活動等を進めるためには、被

害低減・拡大防止のための施設整備による対策を講じるとともに、海岸・漁港管理者や市町村な

どの行政と自主防災組織や地域住民、漁協や市場等の漁業関係組織、釣りショップ、サーフショ

ップ、NPO等の海洋レクリエーション関係組織等、防災に関わる多様な主体が参画し、地域が

一体となって災害対策に取り組んでいく必要がある。

そのためには、漁業地域で以下の取り組みが必要である。

(1)地域の実情に応じた計画づくり

・地域住民が連帯共同し、地域の実情に応じた災害に強い漁業地域の計画づくり

・計画を実施するため、地域が一体となった防災点検・評価と災害予防のための情報ネットワ

ークの構築

(2)自主防災組織・漁業地域間ネットワークづくり

・地域住民が連帯共同し、住民の生命・財産を被害から守るための自主的な防災活動を行う組

織づくり(自主防災組織)

・防災対応力の向上を図るため関係機関・団体など地域が一体となった組織づくり(漁業地域

防災協議会)と漁業地域間ネットワーク(p106)の構築・協力体制づくり

(3)住民防災活動の環境整備

・地域住民の防災対策活動にあたって、必要な器材の配置や使用方法の習熟、関係機関等との

連携

・平常時における機器の取り扱い方法、訓練、研修等の実施

また、周到な災害予防を推進するために、行政だけでなく、漁業関係者や関係機関、自主防災

組織、地域住民等、より多くの関係者が連携した体制(漁業地域防災協議会など)を構築するこ

とが必要である。この体制が、前項のソフト対策を推進する重要な役割を担っている。

2-3 地域の防災力のチェック

地震や津波の災害は、漁業地域の社会条件や地形条件、ハード施設の整備状況、ソフト対策の

取り組み状況等により異なるため、それぞれの地域で災害予防対策を講じる必要がある。

そのためには、第Ⅶ章に示す「被害想定」(p201)、「チェックリスト」(p198~200)、「調査・

計画フロー」(p205)を用いて、地域の被害を想定し、地域での取り組み状況をチェックリスト

に記入し、地域の防災診断を行うことが地域の防災力向上に役立つ。

Page 35: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅲ.漁業地域における防災対策の考え方

53

■漁業地域防災協議会の設置状況(平成22年3月時点)

平成22年 3月時点における全国の漁業地域防災協議会の設置状況は、代替手段による対応

も併せて3割程度にとどまり、現在検討中の集落を併せても5割に届かず、今後の更なる普及

が望まれるところである。

また、今後、東海・東南海・南海地震による被害が生じる恐れがあり、防災対策を推進する

必要がある地域(地震防災対策推進地域)における協議会の設置状況についても、全国と同様

の傾向を示している。

なお、東日本大震災後に実施した、地震防災対策推進地域における調査によると、防災組織

の設置に向けた取り組み率が、調査対象集落全体の概ね8割と高く、協議会の設置状況は更な

る普及が望まれる一方で、防災に関する意識が高いことがうかがえる。

4%

35%

59%

2%

協議会あり

代替手段により対応

協議会なし

検討中

8

74

127

5

【参考情報】

5%

28%

65%

2%

協議会あり

代替手段により対応

協議会なし

検討中

210

1,304

3,045

89

・漁業地域防災協議会の設置状況(全国)

資料:水産庁調べ(平成22年) 資料:水産庁調べ(平成22年)

・漁業地域防災協議会の設置状況 (地震防災対策推進地域)

質問2:防災組織の設置に向けた取り組みを行っていますか?

170

7

390

1.行っている

2.行う予定である

3.行っていない

4.該当なし

防災組織の設置に向けた取組率は概ね 8 割

・防災組織の設置に向けた取り組み

H.23 地震防災対策推進地域実態調査 対象集落数:215 資料:水産庁「平成23年度東日本大震災を踏まえた漁業地域の防災対策緊急点検調査」

Page 36: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

2.防災体制の構築

54

■協議会の立ち上げ事例(宮城県気仙沼市)

気仙沼市では、地震・津波災害に対する防災・避難対策の推進を図るため、関係機関・団体

等により「地震津波防災検討会議(6 部会)」を設置し、各部会において具体的な対策につい

て専門家も参加し、検討を行っている。事前対策・災害時の対策及び被災後の復旧・復興に関

する対策についても検討を行い、その中心的役割を果たす事が期待されている。各部会の主な

検討項目は以下の通り。

「気仙沼市 地震・津波 防災検討会議」

・気仙沼海上保安署 ・社会福祉協議会   ・教育委員会 ・気仙沼地方振興事務所 ・自治会長連絡協議会 ・建築士会 気仙沼支部・気仙沼土木事務所 ・民生委員児童委員協議会 ・市内高等学校 ・気仙沼国道維持出張所 ・自主防災組織 等 ・応急危険度判定士・気仙沼海事事務所 ・障害者団体等 ・市小中学校長会 ・気仙沼土木事務所 ・消防本部 ・教育委員会・気仙沼地方振興事務所 ・消防本部 ・自主防災組織 ・気仙沼警察署 水産漁港部 ・消防団 ・市内幼稚園 等 ・NTT-ME気仙沼 ・気仙沼市(関係課) ・気仙沼市(関係課)・気仙沼警察署 ・交通指導隊 ・東北電力㈱    ・都市計画課・気仙沼地区漁業協同組合 ・防犯協会 ・気仙沼市(関係課) ・JR東日本㈱    ・財政課・石油商業協同組合 ・大島汽船㈱・大島汽船㈱ ・気仙沼市(関係課) ・唐桑汽船㈱・唐桑汽船㈱ ・宮城交通㈱・消防本部・気仙沼市(関係課) ・気仙沼市(関係課)・気仙沼市(関係課)

部会の構成及び検討事項の案

自主防災組織育成検討部会

自主防災組織育成の検討について

施設の地震対策検討部会

地震対策に関する検討について

防災教育検討部会

若年齢層からの防災教育について

公共被害検討部会

被災時の情報提供について

海上・港湾避難検討部会

津波等の被害に対する対策について

災害時要援護者等検討部会

災害弱者の避難・ボランティア活動について

なお、東北地方太平洋地震・津波での各部会の効果は以下のとおり。

部会名 事前の検討事項 東北地方太平洋地震・津波での効果

海上・港湾避難検討部会

津波発生時(注意報・警報発表時)における船舶、漁業者及び旅客船の避難対応やルールづくりなどについて、また、漁港・港湾における被害軽減のためのハードを含む対応策について検討。

事前に検討したとおり機能。

災害時要援護者等検討部会

災害時における要援護者の避難支援対策(要避難者等のリスト作成と地域での助け合い)、及び避難所での対応策等について検討。

想定していた規模より大き過ぎたため、事前に検討しいたとおりには機能せず。

防災教育検討部会

地域全体への防災意識高揚の広がりを含めた若年層への防災教育について、また市全体として防災教育への取り組みと、学校教育にあたっての生徒・教員への支援等について検討。

事前に検討したとおり機能。

公共被害検討部会

鉄道・電力・船舶・通信会社等の参加により、災害発生時におけるライフライン・公共機関の情報共有及び連携のあり方について検討。

全電源喪失により情報が寸断したが、情報の多重化によりある程度の情報の共有及び連携が可能。

自主防災組織育成検討部会

自主防災組織としての具体的な取り組み内容、そして結成及び育成のあり方等について検討。

事前に検討したとおり機能。

施設の地震対策検討部会

施設に対する地震対策について関係機関での検討、住民への周知等について検討。

地震ではなく津波により施設の倒壊・流出したため、応急危険度判定はなし。

資料:宮城県気仙沼市

【参考情報】

Page 37: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅲ.漁業地域における防災対策の考え方

55

■地域の女性が避難誘導等に積極的に関与した例

宮城県石巻市新山浜地区では、緊急時には避難所に指定されている新山生活センターに避難することが、地域住民に浸透していた。今回の発災時には、地域内の男性たちは海上にいる等で不在であり、女性が生活センターまでの避難誘導の主役となった。具体的には、高齢者への声掛けや避難の際の支援(手を引いて一緒に逃げる、数人で脇を支えながら逃げる)等が行われた。 このような例はほかにも見られ、避難後も、ライフラインが寸断された状況下で、避難

所での食事の世話や夜の宿直当番、支援物資の管理・分配等、避難生活の様々な局面で女性が担う役割は極めて大きかった。

資料:水産庁「平成23年度東日本大震災を踏まえた漁業地域の防災対策緊急点検調査」

コラム 『女性の視点からとらえる漁村の再生』 東海大学海洋学部海洋文明学科 准教授 関 いずみ

これまで漁村を支えてきた力として忘れてはならないのが、女性の役割だ。漁村における女性

の役割は多岐にわたる。陸揚げされた漁獲物の選別、箱詰め、加工や販売等の陸上作業には多く

の女性が参画している。地域によっては海上作業も担う。

漁村女性たちの も基本的な組織としては、漁協女性部が挙げられる。それぞれの浜における

女性たちの組織化は、当初漁協の信用事業と連携し、漁家経営を計画的に営むための貯蓄推進活

動を中心に進められた。高度経済成長期の日本において全国で公害問題が浮上した際には、開発

から地先の海を守るために、時には実力行使を伴う社会運動を展開した例もある。植樹活動や天

然素材の石鹸を普及させる運動、浜掃除等、環境に関わる地道な活動を続けてきたのも漁村の女

性たちだ。地域のお年寄りの給食サービスや独居老人への声かけ等、それぞれの地域の中で、き

め細やかな福祉活動を行っている女性部もある。近年は、量やサイズがそろわないために市場に

出せなかったいわゆる雑魚を活用し、加工販売を中心に起業活動を開始する動きも活発化してい

る。

しかし、こういった活動を担っている女性たちは、しばしば地域における意思決定の場の外に

置かれている。例えばこれまで様々な地域で、集落の計画についての住民懇談会を行ってきたが、

多くの話し合いの場において、女性の参加がほとんどない、あるいはあっても少人数であったり、

会議のお茶出しの手伝いであったりという状況がある。

阪神淡路大震災においては、避難生活の中で、女性や子供に必要な物資の不足が問題となった

ことから、物資要望時の意思決定者の中に女性が入ることの必要性が認識された。さらに、避難

所における女性への性的暴力防止のためには、洗濯物の干場や着替えスペースの仕切り、トイレ

の鍵等、細かい配慮が必要で、そのためにも避難所や仮設住宅の建設を含むまちづくりの会議の

場に、女性の立場からの意見が反映されることの重要性が求められたという。また、今回の震災

を受けて漁村の防災・減災をテーマに開催された漁村女性たちによる意見交換会では、「海に出

ている男たちは津波警報が出ればそのまま沖に行く。いざという時漁村の避難を支える中心は女

性たちだ。」「漁業作業と家事を担っている漁家の女性は、家と港を一日に何度も往復する。そ

ういう現実の生活形態を集落の復興計画に反映してほしい。」といった意見が出された。

今回の東日本大震災は、漁村における生産と生活の基盤を破壊した。その復興を考える時に

も重要なのは、女性をはじめ地域の人々の生活が、どのような仕組みで成り立ってきたかという

現実の姿を捉えること、日常的に地域を支えてきた女性たちの力を積極的に活かしていくこと、

ではないだろうか。これまで漁村の女性たちが生活や漁業を支えてきた底力と、近年に見られる

起業といった新たな活動に挑戦していく行動力は、必ず今後の地域復興を支える原動力となるは

ずだ。このような女性力を非常事態の時に十分に発揮させるためには、普段から女性たちの声を

公の場にきちんと反映させる、つまり何かを取り決めるような話し合いの場には、常に女性たち

が参加し意見を述べるという意識や仕組みを創っておくことが非常に重要である。

【参考情報】

Page 38: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

3.漁業地域における防災対策の考え方

56

漁業地域の防災対策として3つの観点を踏まえた2つの柱で取り組みます。

1.漁業地域の防災力の向上のために

(1)地域住民や就労者・来訪者の安全性の確保

(2)漁港・漁村の総合的な防災対策

2.水産物生産・流通機能の確保のために

(3)水産物生産・流通機能の確保

【解 説】

3-1 漁業地域で取り組むべき防災の考え方

(1)防災対策としての2つの柱の考え方

漁業地域では、多くの漁業者や水産関係者が就労しているとともに、漁港やその周辺には、直

販施設、海水浴や釣りなど海洋性レクリエーションを楽しむ人々や漁業体験等に参加する多くの

一般来訪者が訪れている。漁業地域においては、地震発生とともに津波への対応が必要となるこ

とから、地域住民はもとより漁港の就労者および一般の来訪者の安全確保が必要となる。

また、漁港背後集落は災害を受けやすい沿岸部に立地するという条件下にあり、津波等により

孤立する危険性があるにもかかわらず、避難路や緊急車両等が通行できる集落内道路や漁港用地、

公園、緑地などのオープンスペースなどの整備の後れなどから災害時の対策が十分とはいえない。

また、漁港周辺の海域には、漁船やプレジャーボート等の船舶および養殖・蓄養施設等があり、

陸域には、水産関係者や来訪者の車両等が多く駐車してあることから、これらが漂流物となり2

次災害を引き起こすことが懸念される。

さらに、漁港は、災害時の救助・救援の場、緊急物資の搬出入、被災者の避難場所等の重要な

役割を担っているばかりでなく、水産物生産・流通の拠点となる漁港では、一般国民に対して安

全・安心な水産物を効率的に安定供給する必要性から、できるだけ速やかな水産物生産・流通機

能の回復が求められる。

このような背景から、漁業地域で取り組むべき対応として、第Ⅰ章で掲げた3つの観点を考慮

した2つの柱で対応する。

図-Ⅲ-7 漁業地域で取り組むべき防災対策

3.漁業地域における防災対策の考え方

【基本的考え方】

漁業地域におけ

る防災対策

漁業地域の防災力の向

上のために

水産物生産・流通機能

の確保のために

地域住民や就労者・来訪者の安全確保

漁港・漁村の総合的な防災対策

Page 39: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅲ.漁業地域における防災対策の考え方

57

(2)2つのレベルの津波を想定した防災対策

津波対策を行うにあたっては、2つのレベルの津波を想定する。

1つは、防潮堤など構造物によって津波の内陸への浸入を防ぐ海岸保全施設等の建設を行うと

きに想定する津波であり、 大クラスの津波に比べて発生頻度は高く、津波高は低いものの漁港

や漁業関係に被害をもたらす津波(レベル1)である。

もう1つは、住民等の避難を柱とした総合的防災対策を行うときに想定する津波であり、発生

頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす 大クラスの津波(レベル2)であ

る。

漁港や漁村で働いている人々や居住者、そして、来訪者にかかわる避難計画、避難施設の計画

に際しては、レベル2相当を想定することを基本とする。また、住宅・荷捌き施設等の水産関連

施設の配置など土地利用の計画に際しては、被害状況(今後想定される被害)、代替施設、代替

土地の有無など、地域の実情に応じて、レベル 1、2について選択し、計画を策定することが望

ましい。

一方、海岸保全施設等の整備に当たっては、住民等の生命・財産の保護や地域の経済活動を安

定化させるため、レベル 1 に対して内陸への浸入を防ぐようにするとともに、設計対象の津波

高を超えた場合でも施設の効果が粘り強く発揮できるような構造物の技術開発を進めることが

必要である。

また、防災上及び水産物の生産・流通上重要な漁港においては、レベル 1 の発生後の波浪等

に対して漁港施設の機能が十分発揮され、災害応急対策が円滑に行われるとともに、漁業活動が

速やかに再開される必要がある。そのため、緊急物資輸送や水産物生産・流通機能の維持・継続

等に資する重要な漁港施設について、優先的に、レベル 1 に対する耐浪性を確保するとともに、

粘り強く施設の機能を維持する構造上の工夫が求められる。

Page 40: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

3.漁業地域における防災対策の考え方

58

3-2 漁業地域の防災力の向上のために

(1)地域住民や就労者・来訪者の安全確保

災害発生時には地域住民や就労者・来訪者の安全確保を第一とし、迅速な避難が行えるよう、

地域協働で避難行動ルールを決め、情報伝達施設や避難路・避難場所等を確保・整備し、避難・

誘導等の防災体制の構築を図る。

避難行動ルール、避難路・避難場所等については、説明会、パンフレットなどにより地域住民

や就労者・来訪者に周知することが重要である。

表-Ⅲ-2 地域住民や就労者・来訪者の安全確保のための取り組み

過程 項 目 内 容

・避難行動のルールづくり ・状況に応じた避難行動の基本ルール(陸上、海上)

・避難計画の策定と避難施

設等の整備

・避難路、避難場所の確保(陸上)

・避難海域の設定(海上)

・避難案内板、誘導灯等の設置(陸上)

・避難誘導体制の構築(陸上、海上)

・避難訓練の実施、検証(陸上、海上)など

・情報伝達体制の構築 ・情報伝達体制の構築

・防災無線、監視カメラ、電子情報板等の設置

・情報伝達手段の確保

・日常的な防災情報の共有 など

・事前周知、普及、啓発 ・ワークショップ、講習会、説明会等の開催

・パンフレット、避難海域マップの作成、配布 など

・迅速な情報収集・伝達 ・迅速な情報伝達

・迅速な情報取得 など

・迅速かつ的確な避難勧告

等・誘導

・冷静かつ的確な避難誘導

・各自による的確な避難行動 など

災害応急対策時

・迅速な状況等の確認 ・施設の被害状況や利用者の避難状況等の把握

・漁村のコミュニティや自主防災組織による住民の避難

状況等の把握 など

(2)漁港・漁村の総合的な防災対策

漁業地域は、複雑な沿岸域に独立した地域を形成していることから、それぞれの地域に応じて

被災の程度・状況が異なるため、漁業地域毎に漁港・漁村の防災力の向上を講じることが必要で

ある。

漁港・漁村の防災力とは、被害を 小限にとどめ、被災直後にいかに迅速かつ円滑な応急対策

が可能かということといえる。

個々の漁港・漁村の防災力の向上を図るためには、集落の孤立への対応、オープンスペースの

Page 41: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅲ.漁業地域における防災対策の考え方

59

確保、水門・陸閘等の適切な管理・運営、漂流物による被害拡大の防止、危険物による被害拡大

の防止、火災による被害の拡大防止、地域の生活・コミュニティの継続への対応等の対策が必要

となる。

また、被害を 小限にとどめる、すなわち、減災の観点から、土地利用の再編・高度化等によ

って、漁港・漁村の防災力向上を図ることも有効である。

一方で、個々の漁港・漁村の防災力を向上させるだけでなく、支援根拠地としての漁港を活か

し、被災の程度に応じて漁業地域間で避難・救援活動、緊急物資輸送、情報伝達、水産物の生産・

流通等を補完できるような「漁業地域間ネットワーク」や、広域的な大規模災害を想定した場合

には我が国全体の水産物供給の観点から、遠方の漁港管理者等を含めた水産物の代替水揚げ等に

関する「広域ネットワーク」を形成することが必要である。

表-Ⅲ-3 漁港・漁村の総合的な防災対策のための取り組み

過 程 項 目 内 容 災 害 予 防

・土地利用の適正化による

被害の防止 ・浸水リスクに応じた地区区分 ・避難施設の設置計画 など

・支援根拠地としての漁港

における対応 ・漁業地域間ネットワークの構築 ・施設整備

・集落の孤立への対応 ・物理的孤立、情報孤立の防止対策の検討 ・備蓄等による孤立に強い集落づくりの検討 など

・オープンスペースの確保 ・災害時に活用できるオープンスペースの把握 ・応急対策として必要なオープンスペースの確保 など

・水門・陸閘等の適切な管

理・運営 ・管理体制の検討 ・他の内水排除関係者との協議

・漂流物による被害の拡大

防止 ・漂流物となる可能性のある漁船・プレジャーボート等の把

握 ・漂流物の発生、拡大防止対策 ・漂流物の早期除去体制の構築 など

・危険物による被害の拡大

防止 ・被害拡大の防止 ・啓発、訓練、点検 など

・火災による被害の拡大防

止 ・集落内の危険物対策 ・防火対策、消化体制 ・啓発、訓練、点検 など

・地域の生活・コミュニテ

ィの継続への対応 ・応急生活物資等の備蓄 ・自主防災組織等を活用した避難・被災後生活の支援 など

・用途地域を超えた被害へ

の対応 ・瓦礫処分地 ・仮設住宅建設地 など

・支援根拠地としての漁港

における対応 ・漁船を用いた救援物資の輸送等の救援・救助活動 ・漁港施設利用に関する情報伝達 など

Page 42: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

3.漁業地域における防災対策の考え方

60

・孤立した場合の応急対策 ・孤立の有無の確認 ・孤立した場合の情報提供 ・孤立した場合の備蓄物資等の提供 ・孤立した場合の緊急医療体制の構築 など

・オープンスペースの確保 ・オープンスペースの被災状況の確認、確保 ・水門・陸閘等の適切な管

理・運営 ・堤外地に人が取り残されることのないよう確認と退避

誘導 ・速やかな操作による内水排除 など

・漂流物対策 ・陸域、港内の漂流物の早期除去 など ・危険物による被害への対

応 ・被害状況の把握、被害の拡大防止対策 など

・火災による被害への対応 ・速やかな消火活動 など

災 害 応 急 対 策 時

・地域の生活・コミュニテ

ィの継続への対応 ・炊き出し、一人暮らしの高齢者等への支援 ・被災者の健康管理、地域住民同士のコミュニケーショ

ンの充実 など

Page 43: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

Ⅲ.漁業地域における防災対策の考え方

61

3-3 水産物生産・流通機能の確保のために

(1)業務継続計画の策定

①水産物の生産・流通拠点における業務継続計画の策定

地震や津波による漁船や養殖施設等の流出・損壊などは生産機能を停止させる。さらに、岸

壁の沈下や倒壊、そして、荷捌き所・市場、製氷・貯氷、冷凍・冷蔵、水産加工等の施設の壊

滅やこれら施設での電力の喪失は、水産物の生産・流通機能を停止させることになる。

このため、地震や津波などが発生した場合に、業務資産(人、物、金、情報等)の損害を

小限にとどめ、業務の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊

急時における業務継続のための方法、手段などを取り決めておく業務継続計画(BCP Business

Continuity Plan)を策定する必要がある。

②漁港の業務継続計画の策定

①で記した水産物の生産・流通拠点における業務継続のためには、まず、漁港の機能が維持

(業務を支える基盤として継続)されていなければならない。

そこで、水産物の生産・流通拠点漁港や防災拠点漁港において、漁港管理者は、これらを支

える水産基盤(漁港)基盤や漁港管理を行う組織の継続や早期復旧も併せた継続計画とする必

要がある。

(2)業務継続計画の策定にあたって考慮すべき事項

①生産・流通関連施設の一体的耐震性・耐浪性の確保

災害後の速やかな水産物生産・流通機能を確保するためには、漁港施設をはじめとして生

産・流通関連施設の一体的な耐震性・耐浪性の確保が必要である。

また、津波に対し生産・流通関連施設は、配置計画を検討するとともに、鉄筋コンクリート

構造やピロティ形式など、耐浪性を有する構造形式とする必要がある。

②漂流物発生防止対策

漁港内には、漁船をはじめとして水産物流通に関わる多くの資材や機器類が使用されている

ため、漂流防止のための対策が必要となる。

③施設の被災状況や利用可能性の速やかな把握・情報伝達のための体制づくり

災害時には、水産物流通の関連施設に関する被災状況や利用の可能性を速やかに把握し、漁

業関係者、水産物流通関係者等に情報伝達することが重要である。

④水産物の生産・流通拠点となっている漁港の優先的対策

災害に備え、水産物の生産・流通拠点となっている漁港では、災害を受けても水産物生産・

流通機能が確保できるよう耐震性・耐浪性の確保に努める。特に、水産物の取扱量の多い漁港

Page 44: Ⅱ 漁業地域における地震・津波防災の現状と課題 - maff.go.jp...M7.5程度 3%程度以下 北海道北西沖 M7.8程度 0.006~0.1% 出典:「主な海溝型地震の発生領域と長期評価結果」(地

3.漁業地域における防災対策の考え方

62

が、災害で陸揚げ用岸壁が利用できなくなり、さらに、近隣に代替施設がない場合には、水産

物の取り扱いが停滞する可能性がある。

一方、沿岸漁業や養殖業等を中心とする生産拠点漁港では、主に小型漁船が係留し、加えて、

養殖業が行われているところでは、水産種苗生産施設や養殖用作業施設などが集中する。地

震・津波により、施設の崩壊や漁船の流出・損壊、種苗生産の停止など、これら生産機能が失

われた場合、流通機能と同様に、漁獲物を提供する漁業者が影響を受けるだけでなく、地域の

経済へ大きな損害を及ぼすこととなる。

これらの漁港については、優先的に耐震性・耐浪性の確保に努める。

表-Ⅲ-4 水産物生産・流通機能の確保のための取り組み

過程 項 目 内 容

災害予防

・業務継続計画の策定

・水産物の生産・流通拠点における業務継続計画の策

・漁港の業務継続計画の策定

※業務継続計画の策定にあたって考慮すべき事項

・生産・流通関連施設の一体的耐震性・耐浪性の確保

・漂流物発生防止対策

・施設の被災状況や利用可能性の速やかな把握・情報

伝達のための体制づくり

・水産物の生産・流通拠点となっている漁港の優先的

対策

・初動対応

・関係する人々への避難通知

・津波注意報・警報が解除された後の関係者の参集

・安否・被災状況の把握

・情報の集約と関係者への速やかな情報伝達

災害応急対策時 ・業務継続のための緊急対応

・関係機関・水産関連企業と連絡

・安否・被害状況の把握整理

・中核事業の継続方針を提示(BCPに基づく)

・実施体制の構築(BCPに基づく)

・業務継続に向けた緊急対応