19
液化天然ガス(LNG)は、クリー ンで環境に優しく、安全で安定して入 手できるエネルギーとして広く知られ るようになった。クリーンというのは、 天然ガスを液化する前処理段階で硫黄 などの不純物が除去されるためであ る。これらの不純物は液化プラントを 腐食させたり、配管などを閉塞させた りする。環境に優しい、というのは、 地球環境問題の観点から二酸化炭素排 出量が石炭と比較して4割減、石油と 比較して3割減という燃焼特性からく るものである。これらの特性は、地球 環境問題への関心の高まりを背景とし て、大きく評価されている点である。 また、LNGが安全というのは、天然 ガスの主成分メタンが空気より約半分 の軽さのため、地表面に滞留すること なく大気へ逃げていくためである。安 定して入手できるというのは、石油並 みの豊富な埋蔵量を有する一方で、世 界に広く分布しており、中東に埋蔵量 が集中している石油と比較して地政学 的なリスクが小さいためである(表1)。 このような特徴は、一般の新聞紙面 1.はじめに 13 石油・天然ガスレビュー アナリシス u 信一 JOGMEC石油・天然ガス調査グループ [email protected] いやあ、これまではみんなこってり豚骨風味好みなのにさあ、 最近はあっさり醤油味が好きって人が増えちゃって。しょうが ないから、あっさり味を出していこうと思うんだけど、味を変 えるのって結構費用がかかるんだよねえ。やっぱり、昔からの こってり通の人を大切にしていかないといけないかなあ。 ラーメンの話?いやいや、これはLNGの話。LNGもラーメン のように様々な味があるのです。そしてマーケットには好みの 味があって、この好みにうまく調整しないとみんな食べてくれません。 LNGマーケットってグルメなんですね。今日はこんなLNGの味についてお話ししていきます。 要旨: ・LNGは、単一製品でなく、生産地域ごとに組成が異なる。 ・ガスを正常に燃焼させるには、ガス燃焼機器に適応したガス組成が必要となる。 ・米国/英国のガスマーケットは低発熱量のガスを求めている。 ・米国内では、ガス品質の規定化に関し、ガスマーケットの全セクターを巻き込んだ大論争に発 展している。 ・中国も低発熱量ガスマーケットとなれば、アジア太平洋地域が巨大低発熱量ガスマーケットに 変貌することになる。 ・天然ガスを液化する際、発熱量の高低による技術的制約はなく、買主の都合に対応が可能であ る。 ・中東では、石油化学の発展によりエタン需要が増大し、低発熱量LNG生産の土壌が形成される。 ・アジア太平洋地域の高発熱量LNGプロジェクトは、高発熱量LNGマーケットを目指すのが経済 的である。 ・ただし、アジア太平洋マーケットの中で今後低発熱量LNG需要家が増加する可能性があり、低 発熱量LNGは供給不足となって、高発熱量LNGプロジェクトの一部は低発熱量LNGへ切り替え を余儀なくされるであろう。 ・LNG発熱量を調整する技術(重質分抽出、希釈、異種LNG混合貯蔵、熱量調整)の重要性は高 まっていく。 “熱”能く、LNG市場を制す ~グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題~

“熱”能く、LNG市場を制す · ラーメンの話?いやいや、これはlngの話。lngもラーメン のように様々な味があるのです。そしてマーケットには好みの

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Page 1: “熱”能く、LNG市場を制す · ラーメンの話?いやいや、これはlngの話。lngもラーメン のように様々な味があるのです。そしてマーケットには好みの

液化天然ガス(LNG)は、クリー

ンで環境に優しく、安全で安定して入

手できるエネルギーとして広く知られ

るようになった。クリーンというのは、

天然ガスを液化する前処理段階で硫黄

などの不純物が除去されるためであ

る。これらの不純物は液化プラントを

腐食させたり、配管などを閉塞させた

りする。環境に優しい、というのは、

地球環境問題の観点から二酸化炭素排

出量が石炭と比較して4割減、石油と

比較して3割減という燃焼特性からく

るものである。これらの特性は、地球

環境問題への関心の高まりを背景とし

て、大きく評価されている点である。

また、LNGが安全というのは、天然

ガスの主成分メタンが空気より約半分

の軽さのため、地表面に滞留すること

なく大気へ逃げていくためである。安

定して入手できるというのは、石油並

みの豊富な埋蔵量を有する一方で、世

界に広く分布しており、中東に埋蔵量

が集中している石油と比較して地政学

的なリスクが小さいためである(表1)。

このような特徴は、一般の新聞紙面

1.はじめに

13 石油・天然ガスレビュー

アナリシス

宮u 信一JOGMEC石油・天然ガス調査グループ[email protected]

いやあ、これまではみんなこってり豚骨風味好みなのにさあ、

最近はあっさり醤油味が好きって人が増えちゃって。しょうが

ないから、あっさり味を出していこうと思うんだけど、味を変

えるのって結構費用がかかるんだよねえ。やっぱり、昔からの

こってり通の人を大切にしていかないといけないかなあ。

ラーメンの話?いやいや、これはLNGの話。LNGもラーメン

のように様々な味があるのです。そしてマーケットには好みの

味があって、この好みにうまく調整しないとみんな食べてくれません。

LNGマーケットってグルメなんですね。今日はこんなLNGの味についてお話ししていきます。

要旨:

・LNGは、単一製品でなく、生産地域ごとに組成が異なる。

・ガスを正常に燃焼させるには、ガス燃焼機器に適応したガス組成が必要となる。

・米国/英国のガスマーケットは低発熱量のガスを求めている。

・米国内では、ガス品質の規定化に関し、ガスマーケットの全セクターを巻き込んだ大論争に発

展している。

・中国も低発熱量ガスマーケットとなれば、アジア太平洋地域が巨大低発熱量ガスマーケットに

変貌することになる。

・天然ガスを液化する際、発熱量の高低による技術的制約はなく、買主の都合に対応が可能であ

る。

・中東では、石油化学の発展によりエタン需要が増大し、低発熱量LNG生産の土壌が形成される。

・アジア太平洋地域の高発熱量LNGプロジェクトは、高発熱量LNGマーケットを目指すのが経済

的である。

・ただし、アジア太平洋マーケットの中で今後低発熱量LNG需要家が増加する可能性があり、低

発熱量LNGは供給不足となって、高発熱量LNGプロジェクトの一部は低発熱量LNGへ切り替え

を余儀なくされるであろう。

・LNG発熱量を調整する技術(重質分抽出、希釈、異種LNG混合貯蔵、熱量調整)の重要性は高

まっていく。

“熱”能く、LNG市場を制す~グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題~

Page 2: “熱”能く、LNG市場を制す · ラーメンの話?いやいや、これはlngの話。lngもラーメン のように様々な味があるのです。そしてマーケットには好みの

でも頻繁に紹介されるようになり、昨

今では周知の事実となったといってよ

い。それだけに、LNGというと、単一

の製品のようにとらえられがちである。

しかし、考えてみれば当然のことであ

るのだが、天然ガスの組成はガス田ご

とに異なり、メタンを主成分とはして

いるものの、エタン、プロパン、ブタ

ンなどの含有量もまちまちである。そ

の結果、液化した後もこの性状をひき

ずり、生産地域ごとに異なる組成の

LNGとなる。このことが、LNGの互換

性という問題を引き起こしている。こ

れは、日本国内の電気の周波数に50Hz

と60Hzがあり、それぞれに適した電気

製品があるようなものである。

ガス産業は、その地域、地域で入手

可能なガスの組成に適する形で、ガス

の燃焼機器が製造され、広く普及して

いくものである。日本では国内産天然

ガスの生産量が少なく、高度経済成長

を支えることができなかった。こうし

た状況を打開するために1969年に

LNGを輸入開始したが、その際全需

要家の全燃焼機器の調整作業を決行す

るという大プロジェクトが実施され、

LNGの組成に合わせた燃焼機器に変

更された。米国では自国で生産される

天然ガスの組成に合わせて、ガスの燃

焼機器が広まっていった。日本と米国

ではそれぞれ燃焼機器が異なり、両者

共通の、すなわち、ユニバーサルな燃

焼機器というものは存在し得ず、地域

ごとに適するガス組成が供給されなけ

ればならない。

現在、LNGは、関連設備のコスト

ダウンから石油など他燃料に対する価

格競合力が強化され、かつ、環境へも

優しい燃料として、世界的に需要が拡

大している。米国・中国・インド・英

国などは新たな巨大LNG輸入国とな

り、アジア太平洋マーケットと大西洋

マーケットがリンクし始めるととも

に、技術進歩によるフレートコストの

低減や両マーケットにアクセス可能な

巨大供給力を有する中東LNG輸出諸

国の存在により、世界中のマーケット

へ様々な産地のLNGが出荷できるよ

うになってきている。一方、自由化の

中で輸入者たちが、LNG取引の柔軟

性を求め続けた結果、長期契約に縛ら

れないスポットLNGがマーケットの

約12%を占めるようになった。このよ

うに、これまで生産地の点と消費地の

点を結ぶ一直線の集合体だったLNG

取引が、グローバル規模でのネットワ

ークとして活発になろうとしている。

この流れの中で、LNG組成のばらつ

きによってこれまで発生することのな

かったLNGの互換性という新たな課

題が生じている。

では、どの地域がどのようなLNG

を求めているのだろうか。

2004年のLNGの世界貿易量は1.32億

トン。その2/3は日本・韓国・台湾で

消費された。これらのアジアマーケッ

トは、自国のガス自給率が極端に低く、

輸入に大きく依存している。3国のう

ち一番早くLNG導入を決定した日本

では、当時導入の決定していたLNG

(アラスカとブルネイ)の中で、発熱

量の高いLNG(ブルネイ)、すなわち、

メタン成分のほかに高発熱量成分であ

るエタン、プロパン、ブタンなどの割

合が比較的高いもの、ラーメンに例え

れば、こってり豚骨風味のLNGに統

一した(文献1)。そして、韓国・台湾

もこれに続いた。

一方米国では、自国で天然ガスが生

産され、高発熱量成分は自国の石油化

学原料として抽出されてきた。そのた

め、発熱量の低い、組成が純メタンに

近い天然ガスが流通している。近年の

自国ガス田の生産低迷とガス需要の増

大により、LNGの輸入拡大が進んで

いるが、依然として供給の大部分は自

国で流通している天然ガスであり、こ

れと互換性のある発熱量の低いLNG

が求められている。

このように、地域ごとに異なる

LNGが要求されている中で、今後の

新規のLNGプロジェクトはどのよう

な発熱量のLNGの生産を目指してい

くのだろうか。

本稿では、

(2章)ガスの品質項目

(3章)マーケットごとに異なる

ガスの発熱量

(4章)米国のガス品質論争

(5章)LNG液化プラント側が要

求するガス品質

(6章)発熱量の観点からみた現

在のLNG取引状況

(7章)発熱量の調整方法と経済性

(8章)発熱量の差異が与える今

後のマーケットへの影響

について論じていきたい。

アナリシス

2005.9. Vol.39 No.5 14

1

2

3

4

クリーン

環境に優しい

安全

安定調達

天然ガスを液化する前段階で硫黄などの不純物が除去される。これらの不純物は液化の段階でプラントを腐食させたり、液化の際に配管などを閉塞させたりする。地球環境問題の観点から二酸化炭素排出量が石炭と比較して四割減、石油と比較して三割減という燃焼特性を有する。天然ガスの主成分メタンが空気より約半分の軽さのため、地表面に滞留することなく大気へ逃げていく。石油並みの豊富な埋蔵量を有する一方で、世界に広く分布しており、中東に埋蔵量が集中している石油と比較して地政学的なリスクが小さい。

天然ガスの特性 理  由

表1 天然ガスの優れた特徴

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ガスの燃焼機器は、どんなガスでも

燃焼させることができるのであろう

か。結論からいうと、答えはノーであ

る。まず、ガス組成に応じたガスノズ

ル形状が必要になる。なぜなら、ガス

が綺麗に青い炎で燃えるためには、ノ

ズルから噴出するガス量と、ガスが燃

焼するスピードのバランスが取れてい

る必要があるからである。バランスが

悪く、噴出量が上回ると炎がノズル上

方へ移動していき、消えてしまう(こ

れを「リフト」現象という)。燃焼ス

ピードが上回ると、ノズルの中に炎は

引っ込んでしまう(これを「バック

(逆火)」現象*1という)(図1)。

ガスの噴出量は、下式①に示すよう

に、ガスの供給圧力P・ガス比重dが

一定であれば、燃焼機器のノズル口径

φの2乗に比例する。ガスは種類ごとに

それぞれ固有の燃焼速度を持つため、

混合ガスの燃焼速度はガス組成によっ

てのみ決定される。したがって、噴出

量Qと燃焼速度のバランスを取るため

には、ガス組成に対応したノズル口径

φを持つガス燃焼機器が必要となるわ

けだ。

Q=0.011・φ2・K ………式①

Q:ガスの噴出量(Nm3/h)

φ:ノズル口径(mm)

K:流量係数(約0.8)

P:ガスの供給圧力

(mmH2O、ゲージ圧)

d:ガスの比重(空気=1)

家庭にあるガス器具のラベルをみる

と、13A用などと書かれている(図2)。

これは、燃焼に適合するガス組成を規

定しているもので、「13A」とは、ガス

グループの一種で、都市ガスを示す。

この「13」とは、Wobbe指数(kcal/

Nm3)(後述)を1,000で除した数字で、

このWobbe指数とは単位時間にある圧

力とノズル口径のもとで供給されるガ

スの発熱量すなわち、ガスのノズル噴

出量にガス単位体積当たりの発熱量を

乗じたもの(インプット)に比例する。

「A」は、燃焼速度指数*2(A(遅い)、B

(中間)、C(速い))を示す。

この発熱量、Wobbe指数というファ

クターは、今LNG業界で非常に注目

を浴びている。

■発熱量

発熱量とは、ガスの完全燃焼反応によ

って発生する燃焼熱量である。例えば

都市ガスの主成分、メタンであれば、

P d

2.ガスの品質項目

“熱”能く、LNG市場を制す ~グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題~

15 石油・天然ガスレビュー

燃焼速度

混合ガスの 噴出速度

安定した炎

混合ガスの噴出速度が 逆火の起こる限界速度 より小さい。炎はバー ナーの中へ侵入する 。

バック(逆火) リフト

不安定な炎

混合ガスの噴出速度が リフトの起こる限界速 度より大きい。リフト する。

混合ガスの噴出速度は 燃焼速度とあまり違わ ない。炎は安定。

図1 燃焼のリフト現象とバック現象(出所:文献2)

NH-G50A6 ・・・・・・・・・・・・・・・・型式 都市ガス用 13A ・・・・・・・・・・・・・・・・適合するガスの種類 ○○○kW(○○○kcal/h) ・・・・・ガス消費量 ○○○○株式会社 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・メーカー名

図2 家庭用ガス器具(ガス衣類乾燥機)のラベル例(出所:松下電器産業ホームページ)

*1:バック(逆火)には、3種類あり、火が消えない場合もある。1)パチン逆火点火した火口を消火するときなど、火口先より火炎が吹管内に少し入り込み“パチン”と音がして消えることが多々ある。このように火が消えてしまう程度の逆火を、パチン逆火と呼んでいる。2)連続逆火逆火した火炎が消えずにそのまま器具内(ホース等も含まれる)で、燃焼を続ける状態をいう。この逆火が発生した場合は、機器類の破損が発生したり、3)のフラッシュバックを引き起こすこともある。3)フラッシュバック火炎が一瞬にして、ホ-ス、調整器、配管、容器等の供給側に戻り、爆発を引き起こす現象をいう。(出所:株式会社群馬コイケホームページ)

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CH4+2O2=CO2+2H2O+9,537kcal/Nm3

という反応をする。この9,537kcal/Nm3

が、標準状態(0℃、1気圧)でメタン

1m3の完全燃焼によって発生する燃焼熱

量(総発熱量*3)である。エタン(C2H6)

であれば、16,830 kcal/Nm3、プロパン

(C3H8)であれば、24,230 kcal/Nm3、

n-ブタン(C4H10)であれば、32,020

kcal/Nm3となる(表2)。

混合ガスの場合でも、ガス組成から

簡単に発熱量が計算できる。例えば、

メタン91.7%、プロパン8.3%からでき

ている混合ガスを仮定し、その発熱量

を計算してみると、左記※の式となる。

なお、この熱量は、現在大都市部へ供

給されている都市ガスの標準的な熱量

である。

■Wobbe指数(WI)

前述のガスグループの説明で取り上

げた、Wobbe指数(WI)について紹

介する。

WI= ……… 式②

H:ガスの発熱量

(kcal/Nm3、MJ/Nm3、Btu/scfなど)

d:ガスの比重(空気=1)

Wobbe指数は、発熱量をガス比重の

平方根で除したもので、熱量の単位を

持つ。前述の通りノズルからの単位時

間での噴出量はガス比重の平方根で除

したものに比例する(式①)ことから、

Hd

アナリシス

2005.9. Vol.39 No.5 16

一次空気率(理論空気量に対する一次空気量の% )

(cm/sec)

(cm/sec)

300

250

200

150

100

50

0140 160120100806040200

120

100

80

60

40

20

0

水素

エチレン

ブタン

エタン

メタン プロパン

一酸化炭素

図3 各種ガスの燃焼速度と一次空気率の関係(出所:文献2)

発熱量総発熱量

真発熱量

kcal/Nm3

MJ/Nm3

kcal/Nm3

MJ/Nm3

9,53739.98,57435.9

CH4 C2H6 C3H8 C4H10 C4H10 C5H12 C5H1216,83070.4

15,37964.4

24,230101.422,26793.2

32,020134.029,520123.6

31,780133.029,289122.6

405,5201,697.337,432156.7

40,110167.937,042155.0

化学式

メタン エタン プロパン n-ブタン i-ペンタン n-ブタン i-ペンタン

表2 炭化水素の発熱量

*2:燃焼速度指数MCP(Maximum Combustion Speed)1mの中空ガラス管の端部にガスの混合気を入れ、もう一方の端部に炎をかざしたとき、このガラス管の中を走る炎の伝播速度をいう。図3からわか

るとおり、ある一次空気率のときに最大燃焼速度を示す。この最大燃焼速度のことを慣用で燃焼速度と呼んでいる。混合ガスでは、一次空気率、不活性ガスおよび混合ガス成分相互の影響により単体ガスの最大燃焼速度が変化するため、これを補正する。こうして求められる混合ガスの燃焼速度指数MCPを用いて、ガスグループは、A=遅い、B=中位、C=速いの3段階に定性的な分類をしている。MCPはWobbe指数WIとともにガスの品質を特徴づける要素となっている。

*3:総発熱量、真発熱量ガスの燃焼は発熱反応であり、混合ガスではその組成に応じた燃焼熱が発生する。このとき、炭化水素の水素分の燃焼により水蒸気が生じるが、そ

の水蒸気の持っている熱量(潜熱)を考慮するか否かで発熱量は2タイプに種別される。1つは、水蒸気の有している熱量(蒸発潜熱)を無視して算出する熱量で、真発熱量(net heating value)という。もう1つは、水蒸気の有している熱量(蒸発潜熱)は、凝縮して水に戻るが、使い方次第では熱エネルギーとして活用できることを考慮し、加えたもので、総発熱量(gross heating value)という。したがって、総発熱量が水蒸気潜熱の分大きくなる。

総発熱量 = 真発熱量 + 水蒸気潜熱

前者の例としては国内産業用ボイラーや内燃機関が、後者の例としては国内の「総合エネルギー統計」のエネルギーバランス表をはじめ家庭用のガス器具や発電所の効率があげられる。また、真発熱量を低位発熱量(low heating value, LHV)、総発熱量を高位発熱量(high heating value, HHV)という場合もある。総発熱量は、石炭、石油で約5%、天然ガスで約10%、真発熱量より高くなる。また、国や設備によって、真発熱量か総発熱量かというベースが異なるだけでなく、温度・圧力条件も異なることがある。例えば、米国のエネルギ

ー統計でも熱量は総発熱量ベースであるが、華氏60度(=15.56℃)、14.73psiA(1.016気圧)をベースとしている。日本では0℃、1気圧を標準状態としているため、米国ベースでは、温度が高い分、ガスの体積が増加して、単位体積あたりの熱量は低下することになる。総発熱量ベースで比較して約5%程度、米国の総発熱量値は小さくなる。したがって、国、あるいは設備に関する熱量データを比較評価する場合には注意が必要である。

※9,537kcal/Nm3×91.7%+24,230kcal/Nm3×8.3%=10,750kcal/Nm3=45 MJ/Nm3

(メタン発熱量)×(メタン比率)+(プロパン発熱量)×(プロパン比率)

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Wobbe指数はノズルから単位時間に供

給されるガスの発熱量の大小を示すフ

ァクターと解釈できる(ある2つのガ

スが同じ発熱量であっても、比重が大

きい方のガスはノズルから単位時間に

供給されるガスの発熱量(インプット)

は小さくなり、それに比例するWobbe

指数も小さくなる)。したがって、ガ

スの燃焼機器との相性に注目する場合

は、発熱量よりもWobbe指数の方が適

している。

現在、日本ではWobbe指数と前述の

燃焼速度指数の組み合わせにより、都

市ガスは7グループに分類(図4、表3)

されており、高発熱量ガスの13Aに全

国的に統一する方向で供給ガスの転換

(IGF21計画*4)が鋭意進められている。

ところで、このガスグループから外

れた品質のガスが供給されるとどうな

るであろうか。供給ガスは、その組成

によりWobbe指数WIと燃焼速度指数

MCPが一意的に定まる。一方、ガス

の燃焼機器は、機器固有の互換域(良

好燃焼範囲、図5)を持つ。この範囲

から外れたガスが供給されると、図5

の①~⑤に示すような燃焼不良を引き

起こしてしまう。したがって、適切な

ガス供給が重要なことがわかる。

60

50

40

30

20

1020 30 40 50 60 70 80

燃焼速度(MCP)

Wobbe 指数指数(WI)

13A 13A 13A

12A 12A 12A

L1 L1 L1 5C 5C 5C

L2 L2 L2

6A 6A 6A

L3 L3 L3

下流側のガスマーケットでは、どの

ようなガスの品質管理がされるのであ

ろうか。ガスが正しく燃焼するために

は、空気との適切な混合割合が重要で

あるが、同様に、ガス組成も厳しく管

理される。ガス組成が変わると、ガス

の発熱量、比重、必要空気量(燃焼限

界)が変化し、正しく燃焼するための

バーナーのノズル形状を変更する必要

が生じるためである。また、二酸化炭

素・窒素・水分などの非燃焼性ガスの

混入量により、燃焼限界は狭くなる。

日本だけで考えてみても、都市ガス

の需要家は2,700万件に及び、ガス燃

焼機器の数はこの数倍という、おびた

だしい数になる。前述のとおり、ガス

燃焼機器は、ガスの組成に応じて調整

してあり、逆にいうと、調整されたガ

ス燃焼機器で燃焼できるように、ガス

の品質基準が定められている。

■日本・韓国・台湾

日本ではもともと、低発熱量の石炭

ガスをベースにガス利用が普及してい

た。ところが、1969年にLNGが都市

ガス原料として導入されるのに際し

て、純メタンに近い低発熱量のアラス

カLNGプロジェクト(9,500 kcal/Nm3)

と、エタン以上の成分を含む高発熱量

のブルネイLNGプロジェクト(10,700

3.マーケットごとに異なるガスの発熱量

“熱”能く、LNG市場を制す ~グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題~

17 石油・天然ガスレビュー

図4 日本で使用されているガスグループのWIとMCP

13A12A6B6C7C

6A5C5AN5A5B4A4B4C

合計

24,313,000961,000190,000428,000130,000235,000258,00024,000155,000158,000

68,000130,000

27,050,000

L1

L2

L3

ガスグループ 需要家件数(件)

89.9%3.6%0.7%1.6%0.5%0.9%1.0%0.1%0.6%0.6%-

0.3%0.5%

100.0%

割合現在 平成5年3月以前

表3 日本におけるガスグループごとの需要家件数

図5 ガスの互換域(出所:文献2)

(出所:文献4)

互  換  域 (良好燃焼範囲)

① ⑤

①不完全燃焼限界 ②リフト限界 ③バック限界 ④赤外線バーナー赤熱不足 ⑤赤外線バーナーバック限界

WI

MCP

*4: IGF 21計画(Integrated Gas Family 21 計画)経済産業省主導によるIGF21計画は、2010年を目標にガス事業者やガス器具メーカーが協力し、主に天然ガスを原料とする高発熱量ガスへのガス種

の統合を推進していくための計画である。 現在、90%以上の需要家が12A、13Aという高発熱量ガスを使用しており、本計画はかなり進捗しているといえる。最終的にガス種が高発熱量ガスに統合されれば、他都市においてもガス燃焼機器の器具調整が不要になり、消費者の利便性が向上する。■その他のガス品質項目として、露点がある。露点とは、水蒸気を含んでいるガスを、圧力一定のまま冷却していくと、物体の表面に露が発生する。このときの温度を露点という。これは、ガス

中に含むことができる水分の限界量が、ガスの冷却により減少するためであり、ガスはこれ以上水分を含めないという飽和状態に達していることになる。したがって、ガス中に含まれている水分が多ければ、わずかの温度低下で露が発生し、逆に水分が少なければ、かなり温度を低下させても露が発生しない、つまり、露点はガス中に含まれる水分量に応じて変化することになる。露点に達したガスは、パイプライン内部に水分を発生させるため、閉塞、メーターなどの凍結、水和物生成による閉塞、腐食、などの障害の可能性

が生じる。したがって、脱水処理によりガスの露点を低く維持することが重要であり、露点はパイプラインネットワークの健全性を保つために重要なファクターである。米国においても、ガスの発熱量とともに大きなテーマとして議論されている。

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kcal/Nm3)の2つの導入が決定されて

いた。高い発熱量にそろえるほうが低

コストであること、そして、パイプラ

インネットワークの輸送能力の有効活

用が可能なことから、高発熱量にそろ

え、11,000 kcal/Nm3(46.05MJ/Nm3)

という発熱量を決定した。以来、

「13A」というガス品質に国内マーケ

ットを統一する動き(IGF21計画)が

進められてきた。しかし、最近、価格

変動の激しいLPG使用量(図6)を低

減すべく、標準熱量を引き下げる事業

者*5が増えている。

日本に続いてLNGの導入をした韓

国では、1986年にインドネシアから輸

入を開始して以来、91年にマレーシア、

94年にブルネイ、99年にカタール、そ

して2000年にはオマーンが供給元に加

わった。台湾では1990年にインドネシ

アから輸入を開始し、1995年にマレー

シア、1998年にインドネシアと供給元

を広げた。この2カ国は日本と同じ

LNG供給源を持つことからわかるよ

うに、日本と同様の高発熱量のLNG

を導入しており、高発熱量ガス対応の

ガス燃焼機器で構成されるマーケット

となっている。

■米国(天然ガスパイプライン)

米国では、主にメキシコ湾岸の国内

ガス田を出発点として、北東部の需要

地へ輸送するInterstateパイプライン(Texas

Eastern、Tennessee Gas Transmissionな

ど)が発達してきた(図7)。現在では、

ANR( El Paso 子 会 社 )、 NGPL

( Natural Gas Pipeline Company of

America)、Transcontinental パイプライ

ンなどが加わり、北東部への輸送能力

が増強されている(図8、9)。

米国の石油化学業界は、エタン、プ

ロパンなどの重質成分を天然ガスから

抽出し、それらの液体成分を販売でき

るようにするための設備を設置してき

た。その結果、残った低発熱量の国産

ガスが天然ガスマーケットを発展させ

アナリシス

2005.9. Vol.39 No.5 18

1993 1994 1995199619971998 19992000 2001 2002 2003 FY

300

250

200

150

100

CIF $/ton 各年度平均価格 LPG換算

LPガス

LNG

原油

図6 LPGの価格推移(出所:日本LPガス協会)

= Bi-directional

3,0006,0009,00012,00015,000

0

Capacity(in Mil lion Cub ic Feet per Day)

as of December 2002

= Direction of Flow

Into Southern California5,752 MMcf/d (+7% *)

Into Northern California2,391 MMcf/d (+15% *)

From Canada to Midwest6,971 MMcf/d (0% *)

From Canada to Northwest4,643 MMcf/d (+5% *)

From Canada to New England1,158 MMcf/d (+1% *)

Into the New York Metro Area3,568 MMcf/d (+9% *)

From Gulf Coast Production 25,127 MMcf/d (+5% *)From West Texas/Kansas/Oklahoma to Midwest

7,045 MMcf/d (+3% *)

Into the Boston Metro Area2,247 MMcf/d (+2% *)

From Expanding Coalbed Production5,490 MMcf/d (+19% *)

Into the Chicago Area Hub11,867 MMcf/d (0% *)

* Percent change since 2000.Source:Energy Information Administration, GasTran Gas Transportation Information System, Natural Gas Pipeline State Border Capacity Database.

= Bi-directional

3,0006,0009,00012,00015,000

0

Capacity(in Mil lion Cub ic Feet per Day)

as of December 2002

= Direction of Flow

Into Southern California5,752 MMcf/d (+7% *)

Into Northern California2,391 MMcf/d (+15% *)

From Canada to Midwest6,971 MMcf/d (0% *)

From Canada to Northwest4,643 MMcf/d (+5% *)

From Canada to New England1,158 MMcf/d (+1% *)

Into the New York Metro Area3,568 MMcf/d (+9% *)

From Gulf Coast Production 25,127 MMcf/d (+5% *)From West Texas/Kansas/Oklahoma to Midwest

7,045 MMcf/d (+3% *)

Into the Boston Metro Area2,247 MMcf/d (+2% *)

From Expanding Coalbed Production5,490 MMcf/d (+19% *)

Into the Chicago Area Hub11,867 MMcf/d (0% *)

* Percent change since 2000.Source:Energy Information Administration, GasTran Gas Transportation Information System, Natural Gas Pipeline State Border Capacity Database.

図8 米国の現在のパイプラインネットワークによる地域間ガスのフロー(出所:EIA)

*5:大阪ガスが2003年2月より、供給ガスの標準熱量を(46.05MJ/Nm3)から(45MJ/Nm3)に引き下げており、東京ガス、京葉ガス、静岡ガスは2005年度に、東邦ガスは2006年度に引下げを計画している。仮に、日本の輸入LNGの平均熱量を44 MJ/Nm3とすれば、46.05MJ/Nm3から45MJ/Nm3に引き下げることによって、増熱に使用しているLPG使用量を半減することが可能となる。

図7 米国の第二次世界大戦当時の天然ガスパイプライン(出所:UH IELE)

⑤ ⑥

Page 7: “熱”能く、LNG市場を制す · ラーメンの話?いやいや、これはlngの話。lngもラーメン のように様々な味があるのです。そしてマーケットには好みの

てきた。しかし、これまで統一的なガ

ス品質基準が作られることはなかった。

1990 年代のガスマーケット自由化

以前にInterstateパイプラインが販売機

能を有していた時代には、ガス品質基

準は生産者と契約していた。それが自

由化以降はInterstateパイプラインのタ

リフ(託送約款)の中で規定されるよ

うになった(表4)。実際、州際パイプ

ラインから配給会社(Local Distributing

Company, LDC)への引き渡し地点で

あるシティー・ゲート(City Gate)

では、州際パイプライン事業者がガス

の圧力・温度を制御して流量等をモニ

ターしているが、ガス品質上の調整は

行っていない(文献5)。

このパイプラインのガス品質基準

は、ガス業界におけるガス互換性に関

して20年以上にわたり問題を引き起こ

すことはなかったのである。

■カリフォルニア州大気資源評議会:

California Air Resources Borad

(CARB)

カリフォルニア州大気資源評議会で

は、天然ガス自動車用燃料のガス品質

として、エタン含有率上限6%という

基準(“CARB 基準”、表5)を設けて

いる。この基準は、カリフォルニア州

で主に採用されている2つのガス品質

基準(北部ではPG&E Rule21、南部

ではSoCalGas Rule 30)よりも厳しい

基準になっている。これまで、この

“CARB 基準”に基づき天然ガス自動

車のガスエンジンが設計されてきた。

しかし、カリフォルニア州の旧型天然

ガス自動車は3万台程度*6であり、同

州でのガス消費量の1%以下でしかな

い。そのため、この基準に引きずられ

てガスが流通しているカリフォルニア

州では “tail wigging the dog”(主客転

倒)と揶揄されてきた(文献11)。

現在、カリフォルニア州で産出され

る随伴ガスは、SCCパイプライン、

SSJVパイプラインによって輸送されて

いる。これらのガスはエタン、プロパ

ン成分を含む一方で、この付近ではエ

タンに関しては販路がわずかしか存在

しないこと、プロパンに関しては販路

は存在するが季節的であることから、

“熱”能く、LNG市場を制す ~グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題~

19 石油・天然ガスレビュー

表4 米国の主要なパイプラインでのガス品質仕様(出所:Northbaja Pipelineホームページ)

発熱量

Btu/ft3

硫化水素

mg/m3

全硫黄

mg/m3

二酸化炭素

酸素

窒素

962

23

仕様 AllianceUSA

900Min.967 Max.1069

950 970 967 985Min.967 Max.1100

Min.970 Max.1150

Min.967 Max.1100

Min.967 Max.1100

115

2%

0.40%

23

460

2%

5.75

460

2%

1.00%

3.00%

23

460

3%

0.20%

4%(CO2含む)

5.75

17.25(6.9メルカプタン)

3%N2含む

0.20%

4%(O2、N2、CO2、他不活性ガス含む)

6.90

46(0.3メルカプタン)

2%

0.40%

5.75

460

2%

0.20%

3%(O2、CO2含む)

5.75

460

3%

0.20%

4%(O2、CO2含む)

5.75

46(0.3メルカプタン)

3%

0.20%

4%(O2、andCO2含む)

5.75

460

3%

0.20%

4%(CO2含む)

5.75

460

3%

0.20%

4%(CO2含む)

Central PLMinnesota GLGT Iroquois Kern River

TransmissionNorthernBorder NWP PNGTS SOCAL Tennessee

GP Viking

TransCanada TransmissionMainline

TQ&M

Westcoast

KernRiver

Northwest NorthernBorder

TransCanadaAlberta(NGTL)

NGPL

ANR

ANREl Paso

PG&E

Socal

PGT

TexasEastern

Panhandle

Algonquin

Transcontinental

ANG/Foothills

NGPL

NorthwestFoothills

El Paso

Transwestern

TrailblazerCNG

IroquoisPNGTS

Alliance

LakesGreat

M&NE

図9 米国の主要なガスパイプラインネットワーク(出所:CAPP)

*6:世界全体の天然ガス自動車普及台数は411万台。アメリカ全体では、13万台(世界第6位)となっている。(出所:日本ガス協会ホームページ)

Page 8: “熱”能く、LNG市場を制す · ラーメンの話?いやいや、これはlngの話。lngもラーメン のように様々な味があるのです。そしてマーケットには好みの

アナリシス

2005.9. Vol.39 No.5 20

重質分が抽出されることはなく、表5の

ように、CARB基準を満たさないものに

なっている。そのため、SoCalGas社が他

のパイプラインガスによる希釈を行っ

ているのが現状である。

ガスエンジン業界はこのガス品質基

準改定に後ろ向きであるが、LNG輸

入者はもちろんのこと、管理側の

CARB自身を含め、利害関係者たちは

この基準緩和の必要性を感じている。

今後は、メタン価MN*7が65~73のガ

スであっても問題のないガスエンジン

へ移行するといわれており、まずは

MNを80として規格化し、将来的には

そのような低MNの基準への変換を主

張する団体も出ている。

カリフォルニア州のLNG輸入者た

ちにとって、CARB基準の中で最も頭

の痛い問題は、エタン6%という上限

基準である。北米西海岸のカリフォル

ニア州に供給可能な地域のLNGの中

では、アラスカ、タングーなどの一部

の低発熱量LNGを除くと、主に日

本・韓国・台湾向けに生産されている

アジア太平洋地域の高発熱量のLNG

が主流である。これをCARB基準に適

合させるには、単に窒素などの不活性

ガスによって希釈するだけでは不十分

で、エタンそのものを抜き取ることが

必要になってくる。これは、抽出設備

のコスト増加の問題を引き起こすだけ

でなく、カリフォルニア州では、抽出

したエタンの需要が少なく処理に困る

ため、大きな問題となっている。

この問題に対し、LNG輸入者にと

っての1つの解決方法を提示してくれ

たのは、三菱商事が展開しているロン

グビーチLNG受入基地である。三菱

商事は2004年7月に、ConocoPhillipsと

の共同開発に合意した。これは、

ConocoPhillipsが所有する近隣の精製

設備でエタンを石油化学原料として引

き取ることで、CARB基準をクリアす

るだけでなく、LNG受入基地からは

エタンタンクの設置が不要となるメリ

ットを享受できるものである。しかし、

西海岸全般で展開されているLNG受

入基地建設反対の住民運動に加え、カ

リフォルニア州公益事業委員会CPUC

と、連邦エネルギー規制委員会FERC

の間でLNG受入基地の許認可管轄権

を巡る法廷闘争が継続されており、こ

の基地の実現性は予断を許さない状況

が続いている。

■メキシコ

メキシコ連邦規制機関(Comision

Reguladora de Energia, CRE)は、2004

年に天然ガスの生産・輸送に関する新

規則を導入した(表6)。発熱量に関し

てはSoCalGas基準よりやや低い値が規

定された。メキシコ太平洋岸のLNG

受入基地に地理的に導入可能なLNG

供給源の多くは、従来、主にアジアを

ターゲットとした高発熱量LNGを生

産しており、そのまま輸入することは

困難になるであろう。選択肢は、受入

基地側で窒素注入により希釈するか、

表6 メキシコ・カリフォルニア州 主要ガス互換性基準

圧力 bar

温度: ℃

総発熱量: MJ/m3

Wobbe指数: MJ/m3

窒素 上限値

二酸化炭素 上限値

酸素 上限値

不活性ガス 上限値

エタン 上限値

0.9867

20

36.03~41.53

45.08~50.6

5.00%

3.00%

0.20%

5.00%

項  目 CRE (Mexico)

1.01325

15.15

36.12~42.82

3.00%

0.20%

4.00%

SoCalGas

1.00%

1.5%~4.5%

6.00%

CARB

*7:メタン価とは、ガソリンエンジンのオクタン価に対応するノッキングに対する抵抗性を示す指数で、両者は相関関係がある。オクタン価とはガソリン中で最もノッキングしにくいイソオクタンを100、最もノッキングしやすいn-ヘプタンを0として評価した指標。アンチノック剤によりオクタン価が100以上のガソリンも存在しうる。メタンのオクタン価は130、CNG燃料のオクタン価は概ね115~130である。これに対して、メタン価は、メタンを100、水素を0としたものである。メタン価80はオクタン価122.6に該当する。メタン価の算出方法は、CARB基準ではMN=1.624×(-406.14+508.04×RHCR-173.55*×RHCR2+20.17×RHCR3)-119.1ここで、RHCR= (CH4×4+C2H6×6+C3H8×8+(iso-C4H10+n-C4H10)×10+(iso-C5H12+n-C5H12)×12+(C6H14以上)×14)/(CH4×1+C2H6×2+C3H8×3+(iso-C4H10+n-C4H10)×4+(iso-C5H12+n-C5H12)×5+(C6H14以上)×6)

表5 カリフォルニア州産出の随伴ガスとCARB基準(出所:CARB)

メタン(CH2)

エタン(C2H6)

プロパン以上(C3H8)

不活性ガス

CO2

N2

Btu/scf

88.2

4.9

3.7

3.2

2.3

0.9

1,086

成  分 SCC

86.2

8.8

2.5

2.5

1.9

0.6

1,100

SSJV

88.0以上

6.0以下

3.0以下

4.5以下

970~1,150*

CARB

SCC:California South Central Coast パイプラインの平均値SSJV:southern San Joaquin Valley パイプラインの平均値*SoCalGas基準

Page 9: “熱”能く、LNG市場を制す · ラーメンの話?いやいや、これはlngの話。lngもラーメン のように様々な味があるのです。そしてマーケットには好みの

重質成分を抽出するかである。

しかし、メキシコは、石油化学事業

基盤が不足しているため、抽出した液

体成分の販路が制限されることにな

り、追加した抽出設備はコスト回収が

できない状況に陥る可能性がある。ま

た、当規則にはエタン成分の上限値が

なく、パイプラインネットワークへの

エタン注入を認めている。その結果、

エタン含有量は10~12%に上昇するこ

とになり、カリフォルニア州へガスを

輸出する場合には、CARB基準との不

整合という問題が生じることになる。

一方、窒素基準は5%と緩やかに見え

る。これは、国内のCampeche湾東部に

あるCampeche油田からの随伴ガス生産

において油井に注入される窒素によっ

て、窒素濃度が上昇することを考慮し

て決定したものである。したがって、こ

のCampeche湾パイプラインに接続される、

Altamira、Lazaro Cardenas、Manzanilloの3

つのLNG基地で窒素を注入することは

できず、LPG抽出を実施しなければな

らない(図10)。

なお、メキシコ湾側のAltamira基地

では、重質分抽出設備を設け、低い発

熱量のLNGを生産する予定のナイジ

ェリアの第6系列からLNGを受け入れ

る模様である。

■イギリス

現行のガス品質基準は、1970年代に

Dutton(現BG)によって制定された

業界基準が、1996 年に国内ガス品質

基準GSMR(Gas Safety Management

Regulation)として規格化されたもの

である。

この中では、Wobbe指数、すす発生

や不完全燃焼に関する指数、硫化水素

分、炭化水素露点(Hy d r o c a r b o n

Dewpoint)、水素分、酸素分、不純物

などのガス組成に関するスペックが規

定されている。このGSMRでは、36.9

~42.3MJ/Nm3という低い発熱量を規

0 200 400 km

Tijuana

Costa AzulGNL Mar Adentro

Puerto Libertad

Topolobampo

Manzanillo

Lazaro Cardenas

Altamira

建設中

計画

中止

Campeche湾

図10 メキシコのLNG受入基地計画

図11 中国のLNG受入基地計画

“熱”能く、LNG市場を制す ~グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題~

21 石油・天然ガスレビュー

表7 中国が輸入するLNG供給元

北西大陸棚

(NWS)

タングー

ゴーゴン

オーストラリア

インドネシア

オーストラリア

420

760

1,000

生産量万トン/年

Woodside(16.67%)

Shell(16.67%)

BP(16.67%)

Chevron(16.67%)

MIMI(16.67%)

BHP Billiton(16.67%)

BP(37.16%)

CNOOC(16.96%)

MIベラウ(16.30%)

日石ベラウ(12.23%)

KGベラウ・KGウィリアガール

(10.00%)

LNGジャパン(7.35%)

Chevron(50%)

Shell(25%)

Exxon(25%)

事業主体

2007

2008

2008

運転開始

■フランス国内ガスのネットワークは高発熱量ガスと低発熱量ガスに分離されており、それぞれに対応してガス品質基準が定められているため、今後発熱量に関して大きな問題は生じないといわれている(文献5)。現状においても、アルジェリアやナイジェリアの高発熱量LNGが導入されている。

建設中

海南・八所港(計画中) CNOOC

広西(計画中) PetroChina

浙江Ⅱ・温州(計画中) CNOOC

浙江Ⅰ・寧波(計画中) CNOOC

江蘇Ⅱ・塩城(計画中) CNOOC

天津市(計画中) CNOOC

河北・唐山市(計画中) PetroChina

河北Ⅱ・秦皇島(計画中) CNOOC

広東Ⅰ・大鵬湾(建設中) CNOOC

広東Ⅱ・汕頭(計画中) CNOOC

福建・眉州湾(建設中) CNOOC

上海・小洋山(計画中) CNOOC

江蘇Ⅰ・如東(計画中) PetroChina

山東・青島(計画中) Sinopec

遼寧Ⅰ・大連(計画中) PetroChina

遼寧Ⅱ・営口(計画中) PetroChina

西 気 東 輸   Pet roChina

計画中

政府承認

Page 10: “熱”能く、LNG市場を制す · ラーメンの話?いやいや、これはlngの話。lngもラーメン のように様々な味があるのです。そしてマーケットには好みの

米国の石油化学業界は、エタン、プ

ロパンなどを天然ガスから抽出し、液

体成分として販売する設備を設置して

きた。ガス生産者たちは、液体成分を

抽出し、ガスと液を別々に販売するこ

とで利益の極大化を図ってきた。その

結果、米国では、天然ガスは低発熱量

の国産ガスマーケットが育成されてき

たことは前述の通りである*8。米国パ

イプラインのガス品質基準に関して、

ガス業界が互換性の問題に直面するこ

とは20年以上にわたりなかった。

しかし、2002年の初頭から天然ガス

価格が石油価格に対して相対的に上昇*9

したため、国産ガスを分離販売するよ

り、液体成分を抽出しないまま高発熱

量の天然ガスとして販売するほうが、

利益が大きくなるように逆転してしま

った。このことにより、パイプライン

事業者たちは、特に低温気象の時に、

高発熱量のガスから液体成分が析出

し、パイプラインコンプレッサーその

他の機器を損傷する可能性が高まると

いう問題に直面することになった。

また、今後は国内ガス需要の増大に

対応してLNGの輸入が必要となるが、

このとき、高発熱量のLNGが導入さ

れると、ガス燃焼機器の不完全燃焼、

NOX排出量の増加、ガスエンジンのノ

ッキング、計量設備の精度影響などの

問題が顕在化する。このため、LDCや

工業用需要家は、操業上の問題が生じ

て改善投資が必要になる、と懸念され

ている*10。

しかし、米国が幅広い発熱量の

LNGを受け入れる能力を持てば、調

達先の多様化により、調達価格の低減

を図ることができる可能性が高い。

こうして、天然ガスの発熱量問題へ

の関心が高まり、全米石油審議会

(National Petroleum Council, NPC)は

FERCと米国エネルギー省(Department

of Energy, DOE)に対して、天然ガス

の品質に関する基準を構築するように

進言した。

2004年2月、FERCは天然ガス評議会

4.米国のガス品質論争

アナリシス

2005.9. Vol.39 No.5 22

*8:1992 年、 Gas Research Institute (GRI)は、米国のガス供給は平均Wobbe指数 1,345 Btu/scf、発熱量1,035 Btu/scf という調査結果を発表している。*9:2000年はガスが平均 3.88ドル/百万Btu・液体成分 は 5.40ドル/百万Btuだったが、2003 年ガスは5.38ドル/百万Btuで、液体成分は 5.26ドル/百万Btu

と、12セント/百万Btu高くなった。*10:これまでのLNG発熱量に関するLNG基地事業者とパイプライン事業者の衝突事例

1)1980年から操業停止中であったCove Point基地が2003年に運転再開される際、発熱量の問題が生じた。LNGを輸入するCove Point LNGは、発熱量を1,050Btu/scfから1,100 Btu/scfへ高くすることを提案。配給会社Washington Gas Lightの反対にあう。FERCの裁定では、WGLの要求が通り、改定はならなかった。

2)同時期のElba Island基地の再開においても同様、1,075Btuを高めようと試みた。Southern LNGはAtlanta Gas Lightの反対に会い、改定できなかった。3)AES Ocean Expressがバハマに基地の建設を計画し、既存のパイプラインネットワークとの接続を計画したとき、Florida Gasにより反対を受けた。

定している。

今後イギリスは、北海のガス生産の

停滞と国内需要増加とのギャップから

天然ガス輸入国に転じる見込みである

が、イギリス西岸におけるLNG基地、

インターコネクターパイプラインの整

備、ノルウェー産ガスなどによってそ

のギャップを埋めようとしている。

こうした背景から高発熱量のガスが

輸入される可能性は高く、当面窒素に

よる希釈を検討している(文献5、14)。

■中国のガス基準

中国のガスマーケットは、国内産ガ

スとLNG輸入基地の配給網ごとに形

成されるローカルマーケットの集合体

である。

国内産ガスについては、中国で建設

された西気東輸パイプラインの主要供

給源であるオルドス盆地で生産される

天然ガスは総発熱量39 MJ/m3と報じ

られている(文献15)。

四川省では、化学肥料用途として

50%、化学工業原料として20%、真発

熱量基準でいうと8,200kcal/Nm3(文

献16)というマーケットが形成されて

いる。また、広東LNG基地は、比較

的低発熱量のオーストラリア・北西大

陸棚(NWS) LNGを、福建LNG基地

は低発熱量のインドネシア・Tangguh

LNGの導入を決定している。浙江省

でも、低発熱量のオーストラリア・

Gorgon LNGを導入しようとしている

(図11、表7)。

このように、低発熱量LNGが主体

のマーケットが広まっており、今後、

それぞれのマーケットがネットワーク

化されることを考えば、中国が高発熱

量LNGを受け入れるようになるとは

考えにくい。

しかし、他のLNG基地計画におい

て、LNG受入基地事業者側からLNG

発熱量に関する要望が出されていない

模様であるため、高発熱量LNGの導

入可能性については不透明であると言

わざるを得ない。

■インド

国内需要の約7割を賄う主要パイプ

ラインの供給源は、西海岸・ムンバイ

沖の石油随伴ガスで43MJ/m3という高

い熱量を持つ。しかし、この高発熱量

成分は石油化学原料として途中で抽出

され、末端到達時には37 MJ/m3とな

る(文献15)。

現在、Daheji基地ではカタールの

LNGが導入されており、このLNGは

高い発熱量のLNGに分類される。今

後のLNG基地でどのようなLNGが導

入され、マーケットが形成されていく

のか、最近の国内大規模ガス田発見に

よって、さらに不透明性が増大したと

いえるだろう。

Page 11: “熱”能く、LNG市場を制す · ラーメンの話?いやいや、これはlngの話。lngもラーメン のように様々な味があるのです。そしてマーケットには好みの

(Natural Gas Council, NGC)主導のも

と利害関係者たちの努力をヒアリング

した。NGCは、業界のコンセンサス

を得るため、Natural Gas Council Plus

(NGC+)という作業部会を組織し、

発熱量に関する白書の作成に着手し

た。

この検討グループには、 米国州際

天然ガスパイプライン協会(INGAA)、

米国ガス器具製造者協会(GAMA)、

米国エジソン電気協会(EEI)、天然

ガス供給協会(NGSA)、独立系石油

類協会(IPAA)、米国石油協会(API)、

米ガス協会(AGA)、 International

LNG Alliance、 Process Gas Consumers

Group、米国公共ガス協会(APGA)、

電力供給協会( EPSA)、 North

America Energy Standards Board、ヒュ

ーストン大学が参加している。

そして2004年12月17日、NGCはま

ずパイプラインにおける炭化水素露点

に関する白書を発行した(文献17)。

これに続いて、2005年3月2日、

NGCは「互換性に関する白書」を発

行した*11。この指針は、米国各地域に

おいて最大Wobbe指数は1,400 Btu/scf、

熱量は 1,110 Btu/scf 未満のガスを用

いることを求めている*12。

しかし、この上限を超えている事業

区域については、本基準の適用除外と

して、従来通り操業を継続することを

認めている。この除外区域には、メキ

シコ湾岸地域が含まれる。

Southern Union所有のルイジアナ州

Lake Charles基地は、長年広範な供給

源から LNGを持ち込み、送出熱量仕

様1,200Btu/scfと新規指針を大幅に上

回って操業しているが、生産地域の広

範なパイプラインネットワークで標準

に合致するため、国産ガスと混合して

いる。

業界では、NGCが提出した白書を

FERCが暫定的な業界標準とするもの

と予想しており、これが公式な仕様と

して採用されれば、アジアや中東産の

既存LNGのすべてを除外することと

なる。そうなれば、高発熱量LNGの

輸出事業者は、窒素注入による希釈、

液体成分の抽出、低発熱量ガスとの混

合など、下流でのガス処理に追加投資

が必要となる。

しかしまた、将来の発熱量に関する

基準を考える上では、さらに多様化し

た供給源を考慮しなくてはならないこ

とから、各地域がどのような種類のガ

スを受け入れ可能なのか、状況を把握

するための調査が必要であり、この白

書で示された基準は3年間の暫定業界

基準とされている。

FERCが、この基準に対して広くコ

メントを求めたところ、40近いコメン

トが各業界から寄せられた。それらの

主なテーマは、ガス品質のモニタリン

グ方法とこの基準を機能させるための

追加的なコストを、LNG生産者、輸

入者、パイプライン事業者、最終消費

者の誰が負担するか、というものであ

った。これらについては、さらなる調

査が必要とされた。

そして、コメントの受け付けが締め

切られた後も、各業界から様々な意見

が飛び交うようになっていく。2005年

5月、NGSAはFERCに対して、この白

書に基づきガスの品質基準を制定する

よう働きかけを強めた。NGSAの意図

は、ガス品質と互換性に関する方針を

確立して、それをパイプラインガスの

仕様として制定することにより、事業

リスクを許容可能なレベルまで低減さ

せ、天然ガスマーケットでの不確実性

を低減させることにある。

全米ガス精製協会(Gas Processors

Association, GPA)も、FERCに関連す

る団体と、ガス品質と互換性に関する

問題解決の場を2005年~2006年の冬場

までに設けるよう求めた。

FERCはこのように、上流から下流

までの各団体から、ガス品質と互換性

に関して、既存パイプラインと比較し

つつ、パイプラインのガス仕様に反映

させることを要請されており、今後の

動きが注目されるところである。

一方、2005年6月、AGAおよび

APGAが、NGSAの提案に反対を表明

した。安全性のため、さらなる調査研

究が必要とのスタンスである。ある配

給会社は「6フィートの深さの川を5フ

ィートの身長の人が渡るようなもの」

とその危険性について表現した。やは

りコストをだれが負担するのかが大き

な焦点となっている(文献18、19、20)。

さらに問題を複雑にする出来事が起

きた。Cove Point基地とWashington

Gas Light(WGL)のガス漏洩に関す

るやりとりである。現在、漏洩原因は、

輸入LNGにあるとするWGLと、パイ

プラインの老朽化であるとするCove

Poin tで意見が割れている。両者は

1036Btu/scfで合意していた。この問

題が、ガスの品質規格化に新たな波紋

を引き起こしている。

今後の米国マーケットはどのような

LNGを要求するのだろうか。現状の

白書が成立したとしても、極端に高い

発熱量(Libia)を除けば、メキシコ

湾岸のLake Charls基地ではある程度ま

では受け入れが可能かもしれない。し

かし、その白書が現状通りの発熱量

(Wobbe指数)を規定するのか、その

行方とともに、LNG受入基地の建設

状況、天然ガスの需要・価格動向、液

体成分の需要・価格動向、石油化学製

品の需要・価格動向、など様々な要因

によって変化する米国のLNGマーケ

ットの要求発熱量に注目していく必要

がある。

“熱”能く、LNG市場を制す ~グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題~

23 石油・天然ガスレビュー

*11:天然ガス評議会作業部会(NGC+)は、現在米国パイプラインガス仕様に組み込まれている熱量よりも、Wobbe指数がガスの互換性に関してより良好な指標であることに合意した。

*12:主としてアジア顧客向け販売のため熱量 1,130 Btu/scf の LNGを生産するカタールは、既にその方向へと動いている。米国、欧州向けに販売するQatargas(蠡)、(蠱)、(蠶)プロジェクトは、1,075 Btu/scf 程度で生産する可能性が高い。

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アナリシス

2005.9. Vol.39 No.5 24

天然ガスの多くが、油井の随伴ガス

または石油と起源を同一とするガス田

から産出している構造性ガスである。

随伴ガスはエタン、プロパン、ブタン

などの比率が高い場合が多く、それら

は冷却するか加圧することで容易に液

化を開始することから、湿性ガス

(Wet Gas)といわれる。石油の埋蔵量

は大きいので、随伴ガスも天然ガスの

重要な供給源であるが、天然ガスの全

埋蔵量中の比率を見ると、構造性ガス

の埋蔵量が80%と圧倒的に多い(文献

21)。構造性ガスは、メタン以外の炭

化水素をほとんど含まないことから乾

性ガス(Dry Gas)といわれている。

乾性ガスは、同一産地であっても、

産出時期や産出層の深さ等によって炭

化水素の構成割合に差が生じる。

このように、原料天然ガスは地域な

どによってガス組成のばらつきがある

(表8)ものの、液化プラント側の都合

(液化時のプラント閉塞回避や冷媒製

造・補給の目的)で重質分が除去され

ることはあるが、それ以外の理由によ

る発熱量調整という作業には経済合理

性がない*13,14。

したがって、発熱量の低いガスが産

出される地域では、発熱量の低いマー

ケットの買主と売買契約が締結されて

低発熱量LNGの取引が行われ、一方、

発熱量の高いガスが産出されるエリア

では、発熱量の高いマーケットへ向け

てLNGが生産・出荷されることに経

済合理性があり、それが通例であった。

日本をマーケットとする供給源は、前

述のようにアジア・太平洋地域が中心

であり、これらのLNG液化プラント

では発熱量の高いLNGが生産されて

きた(インドネシア、マレーシア、ブ

ルネイなど)。

■中東でのエチレン需要とエタン需要

増加

現在、中東地域のLNG生産国は、

カタール、オマーン、UAE(アブダ

ビ)の3カ国で、オマーンの一部を除

き、ほぼ東アジアの日本・韓国・台湾

に出荷されている。しかし最近、状況

が変化している。中東諸国は、大西洋

マーケットとアジア太平洋マーケット

の双方にアクセス可能な地理的位置に

あること、LNG船の大型化、技術革

新によりフレートコストが低下してき

たこと、そして、スエズ運河は現在計

画されているQmax級(250,000m3クラ

ス)LNG船であっても通行可能*15なこ

5. LNG液化プラント側が要求するガス品質

*13:しかし、炭化水素の構成割合が液化方式選定に影響を与える場合がある。アメリカのケナイ(アラスカ)の天然ガスは、主成分のメタンが99%以上を占めているため、それ以外の炭化水素はほとんど含まれておらず、液化プロセスには、メタン、エタン、プロパンを必要とする混合冷媒方式ではなく、エタンが不要なカスケード方式が選定されている。トリニダード・トバゴの天然ガスも同様にメタンが95%程度含有されているため、やはりカスケード方式が選定されている。原料天然ガスの組成が液化プロセスの選定に影響した一例といえる。

*14:原料天然ガスには、炭酸ガスや硫化水素等の酸性ガスや窒素、水分等が多く含まれる場合もあり、また、中にはヘリウム等の不活性ガスや水銀等の重金属を含むものもある。これら炭化水素以外の不純物に関しては、液化プラント保護の観点あるいはLNGユーザーの引取品質基準から管理されなければならない。(図12)

図12 液化プラントのプロセスフロー

表8 湿性ガスと乾性ガスの例

メタン (CH4)

エタン (C2H6)

プロパン(C3H8)

ブタン (C4H10)

ペンタン(C5H12)

ヘキサン(C6H14)

ヘプタン(C7H16)以上

86.67

7.77

2.95

1.73

0.88

成  分 随伴ガス

95.85

2.67

0.34

0.52

0.08

0.12

0.42

乾性ガス

出所:「オイルフィールド゙・エンジニアリング入門」(海文堂)

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となどから、アジア太平洋と大西洋の

2大LNGマーケットに経済的にアクセ

スできるようになってきており、スウ

ィングサプライヤー(Swing Supplier)

と呼ばれるようになった。

そして、米国・英国を中心とした大

西洋マーケットが拡大するとともに、

中国・インドなどの新興LNG輸入国

の台頭により、低発熱量のLNGのニ

ーズが高まりつつあることから、中東

諸国も低発熱量LNGを生産する必要

性が生じてきた。加えて、石油化学産

業の発展が、中東のLNG発熱量に変

化を与え始めている。

石油化学工業の基幹原料の中で、エ

チレンは最も需要が大きく、40%以上

の石油化学製品がエチレンを原料とし

て製造される。主なものは、需要の

60%近くを占める汎用樹脂のポリエチ

レンのほか、工業製品などに使われる

塩化ビニルモノマー(VCM)、スチレ

ンモノマー(SM)、エチレンオキサイ

ド(EO)、エタノール、アセトアルデ

ヒド、トリクロロエチレン、パークロ

ロエチレンなどさまざまな製品が生み

出されている(文献23)。世界のエチ

レン需要は、アジア、中東を中心とし

て、年率4.9%で増加し、2010年には1

億4,000万トン/年まで需要拡大する

ことが予測されている(図13)。

エチレンの製造は、ナフサを原料と

した流動接触分解(Fluid Catalytic

Cracking:FCC)が全体の2/3を占め

てきた(ナフサクラッカー方式)。こ

の方法では、エチレン(生成率28%)

のほか、副生するプロピレン(20%)、

C4留分(11%)、分解ガソリン(21%)、

オフガス、重油などが分離生成される。

このエチレンのスポット価格が1,400

ドル/トンと高価であり、また、副生

するポリプロピレンは耐熱温度が高

く、高機能の化学製品素材として電子

材料などに利用されており、ITブーム

の中で旺盛な需要がある。

しかし、昨今の原油の価格高騰によ

り、原料のナフサも価格が高騰してい

ることからエタンを原料としたエタン

クラッカーが台頭してきている。この

製造方法では、エチレンが80%生成さ

れる。

ナフサクラッカー方式では原料とな

るナフサ価格が450ドル/トン(=

13.9ドル/百万Btu)に対して、エタ

ンクラッカー方式での原料となるエタ

ン価格は0.75ドル/百万Btuにすぎな

い。

このように原料価格が1/10以下であ

ることから、今後は安価に天然ガスが

入手できる中東では年率6.6%での増

加が見込まれており、エタンベースの

エチレン製品がマーケットで台頭して

いくと見られている。

その1つの現われが、住友化学のラ

ービグ計画であろう。これはサウジア

ラビアの紅海沿岸においてサウジアラ

ムコと合弁で、43億ドル(炭材高の影

響により2005年8月、85億ドルに修正)

を投資して、石油精製から石油化学製

品製造までを一貫して実施する統合コ

ンプレックスを建設するものである。

サウジアラムコが保有する既存のラ

ービグ製油所(原油処理能力40万バレ

ル/日)を合弁のプロジェクト会社に

移管するとともに、世界最大級のエタ

ンクラッカー、流動接触分解装置

(FCC)を建設するほか、エチレン

(能力130万トン/年)およびプロピレ

ン(能力90万トン/年)からの誘導品

生産プラントを建設する計画である。

こうした旺盛なエタン需要を背景と

して、中東では、天然ガスからエタン

分が抜き取られ、メタンリッチの

LNGが生産されていくことが考えら

れる。

“熱”能く、LNG市場を制す ~グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題~

25 石油・天然ガスレビュー

図13 世界のエチレン需要(出所:住友化学)

*15:Qmax級LNG船の喫水は12m程度であり、スエズ運河の水深が62フィート(約19m)であることから、通行に支障はない。ただし、通行料が高く、エジプトとカタールの政府間で議論になっている。

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LNGの発熱量を変更するには、ど

のようにすればよいのか。ラーメンの

あっさり味をこってり味に変えるには

こってり味のスープを加えればよいよ

うに、熱量を高める増熱の場合は比較

的単純であり、LNGよりも高発熱量

であるLPGなどを受入基地で混合させ

ることで可能となる。これまで熱量調

整方式は、再ガス化したLNGとLPGを

気体同士で混合させるガス・ガス熱調

という方式が採用されていたが、これ

にはLPGを再ガス化させるための気化

設備が必要となっていた。これに対し

て、近年は液・ガス熱調方式(LNG

を再ガス化したところへLPGを液体の

ままスプレーして直接LPGを気化させ

る方式)や、液・液熱調方式が主流に

なっている。これらは、LPGの再ガス

化設備が不要となるため、ランニング

コストが低い。

これに対して、こってり味をあっさ

り味に変えることは難しい。熱量を低

くする希釈の場合は、以下の方法があ

るが、それぞれ問題点がある。

①液化プラント側で液体成分を抽出す

る(ラーメン店がこってり味の味覚成

分を取り除くようなもの)

抽出設備の初期設備費用(Capital

Expenditure, CAPEX)が追加となる。

一液化トレイン当たりの液体成分抜き

取り追加コストは、受入基地側での液

体成分抽出設備と同等程度(4,000万

ドル超)と考えられる。しかし、巨大

な液化プラントの投資から考えると、

この追加コストがプロジェクト全体の

内部収益率IRRへ与える影響はそれほ

ど大きくない。むしろ、オペレーショ

ンが複雑となる上、運転コスト

(Operating Expenditure, OPEX)も増加

することに加えて、同一フィードガス

量でのLNG生産量が減少し、さらに

液体成分の販路がない場合には分離設

備にて分離した重質分を廃棄すること

になる。これらによってプロジェクト

の採算性が悪化する。また、液体成分

の販路が確保されていたとしても、価

格次第では、分離生産の方がかえって

利益が小さくなる場合が生じる(マー

ケットへ販売する際のデメリットにつ

いては次項の「経済性」に示す)。

この種のプロセスは、カタール、ア

ブダビなどを例にした研究が国際会議

で発表されている*16。

②受入基地側で液体成分を抽出する

(運ばれてきたラーメンから、お客さ

まがこってり成分を取り除くようなも

の)

抽出設備のCAPEXが追加となる。

液体成分抜き取り追加コストは、330

万トン/年の取扱量の米国Elba基地の

場合で4,000万ドルを超えるとの推定

がある(文献26)。受入基地建設のコ

ストは、液化プラントの投資に比較す

ると一桁小さいため、追加コストが

IRRへ与える影響は無視できない。ま

た、液体成分分離のためにOPEXも増

加し、オペレーションが複雑となる。

7.発熱量の調整方法と経済性

アナリシス

2005.9. Vol.39 No.5 26

現在のLNGの取引を表9に示す。高

発熱量のLNGを生産しているプロジ

ェクトは、おおむねアジアに輸出され

ており、低発熱量のLNGを生産して

いるプロジェクトは、米国に輸出され

ていることがわかる。欧州の一部には

高発熱量のLNGを受け入れていると

ころ(フランス・スペイン)もあるが、

契約量も考慮に入れると、おおむね低

発熱量といえる。

6.発熱量の観点から見た現在のLNG取引状況

表9 LNGの取引状況

リビアオマーン

アブダビブルネイ 

オーストラリア 

マレーシア

インドネシア 

アルジェリア (Arzew)

カタール

ナイジェリア

アルジェリア (Skikda)

トリンダード・トバゴ

アラスカ

1,375

1,160

1,141

1,134

1,132

1,122

1,118

1,116

1,114

1,110

1,082

1,041

1,011

輸出国(地域) 発熱量 Btu/scf

スペイン日本韓国スペインフランス日本日本韓国日本韓国日本台湾韓国日本台湾韓国フランススペインベルギーイタリア米国トルコ日本韓国インドイタリアスペイントルコフランスポルトガルフランススペインギリシア米国スペインプエルトリコ日本

輸入国(地域)

18166406607043060170

1,08350

1,3162254001,81734153751039134413815637860048075026432589371012703915437840250130

長期契約量

Skikda含む

Arzew含む

備  考

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さらに、LNGからの気化ガス量が減

少することに加え、液体成分の販路が

ない場合には、プロジェクトの採算性

はさらに悪化する。また、液体成分の

販路が確保されていたとしても、価格

次第で分離生産の方が利益が小さくな

る場合が生じる。

③受入基地側で窒素または空気を注入

する(お客さまがラーメンにお湯をい

れて薄めるようなもの)

窒素または空気の注入設備のコスト

が追加となる。窒素成分が増加するた

め、ガス品質基準との適合に配慮しな

ければならない。空気注入設備1,850

万ドル、窒素設備追加2,800万ドルと

いう推定値が米国エネルギー情報局

(Energy Information Administration,

EIA)より発表されている。

④受入基地側で低発熱量のLNGまた

は天然ガスと混合する(運ばれてきた

こってり味ラーメンにお客さまが別の

あっさり味ラーメンを加え調整するよ

うなもの)

現在、米国のLake Charles基地で実

施されている方法である。しかし、

LNGと国産天然ガスとでは、LNGと

LPGのような発熱量の大きな差はな

く、大幅な発熱量の低減は困難である

と思われる。

現段階では米国のガスの互換性に関

する白書の行方は不透明なままであ

り、低発熱量LNGに対応するための

液体成分抽出設備に巨額の投資を望む

者はいない。さらにこの不透明な基準

は、大西洋地域のスポットマーケット

発達を妨げる可能性が高い。ある

LNGトレーダーは、「1,500万ドルのナ

イジェリアからの(高発熱量)LNG

カーゴが Cove Point 基地事業者により

受け入れられるか否かに疑問があれ

ば、そのようなリスクをとることはな

いだろう」と述べている。

■経済性

高発熱量LNGプロジェクトにおい

て、低発熱量LNGをマーケットへ届

けるための熱量調整方法として、基本

的に4つの方法があることを述べた。

ここでは、高発熱量LNGプロジェ

クトにおいて、液体成分を抽出して低

発熱量LNGを生産したものの、高発

熱量LNGマーケットへ販売せざるを

得なくなったときの影響を考えてみ

る。高発熱量LNGマーケットとして、

日本へ販売する場合を仮定する。

日本の都市ガスマーケットでは、標

準熱量45MJ/Nm3に増熱することにな

る。このとき、LPG価格を330ドル/ト

ンとして、高発熱量LNG(44.0MJ/Nm3)

と低発熱量LNG(41.5MJ/Nm3)の増熱

後の仕上がり価格を同じにするために

は、低発熱量LNGは百万Btu当たりの価

格をいくらにしなければならないだろ

うか。

表10にその解を示す。低発熱量

LNGは、同一熱量ベースでLNGより

高価なLPGを増熱用として多く必要と

するため、▲0.34ドル/百万Btu(対

高発熱量LNG価格比▲9%)値引きし

なければ、マーケット価格が同じにな

らない。つまり、マーケットは百万

Btu当たり9%低いLNG価格を売主に要

求する。売主となる上流開発事業者は、

このようなマーケットの事情を意識し

なければならない。このLNG販売価

格下落により、ガス生産・液化プロジ

ェクト全体に与えるIRRは数%前後低

下することが考えられる。

フレートコストに関しては、低発熱

量LNGの場合、LNG単位体積当たり

の熱量が低いため、同熱量のLNGを

輸送するためには、輸送体積を増加さ

せなければならず、百万Btu当たりの

フレートコストが4%程度上昇する。

仮にフレートコストが0.7ドル/百万

Btuであれば、0.03ドル/百万Btu上昇

する。

以上、上流側で高発熱量から低発熱

量へ変換する場合のデメリットを表11

に示す。もし極端に開発コストが安い

高発熱量LNGプロジェクトであれば、

このようなデメリットを跳ね返すこと

も可能であろうが、複数のプロジェク

トが競争環境にある中では、ターゲッ

“熱”能く、LNG市場を制す ~グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題~

27 石油・天然ガスレビュー

表10 高発熱量LNGと低発熱量LNGの販売価格の比較

高発熱量LNG44.0MJ/Nm3

低発熱量LNG41.5MJ/Nm3

45MJ/Nm3

増熱後熱量

3.97ドル/百万Btu

揚地価格LNG

LPG

LNG

LPG

98.2%

1.8%

94.0%

6.0%

混合割合3.84

330ドル/トン

3.5(▲0.34)

330ドル/トン

価格ドル/百万Btu

*16:LNG液化トレイン別に高発熱量LNGと低発熱量LNGを生産することは可能であるが、両者を同時期に同一トレインで生産するには工夫が必要である。1トレイン780万トン/年のQatargas(蠡)では、Ortloff Engineers社のNGL回収プロセス、SCORE(Single Column Overhead Recycle)プロセスを採用しており、通常C5+の回収を行うが、調整によりエタン除去も可能となっている。また、貯蔵タンク入りのラインにLPGが接続されており、混合増熱により最大で生産量の1/3まで高発熱量LNGの生産が可能となっている。Qatargas(蠡)は、2系列で1,560万トン/年と規模が大きく、貯蔵タンクを3基有することから、英国向け低発熱量LNGの生産を基本としながらも、プロセスの調整により、アジアマーケット向けの高発熱量LNGの同時生産・貯蔵にも対応が可能となっている。ただし、綿密な出荷計画の調整が必要になるものと考えられる。■発熱量を調整する第5の方法として、熱量変換作業があるしかし、マーケットの全需要家、全燃焼機器の改造を行い、低熱量ガスに変換させる(いわゆる熱量変換作業)は非経済的である。天然ガス火力発電所のような大規模需要家だけで構成される特殊なマーケットであれば問題は少ないが、家庭用のような小口需要家が数百万件もあるマーケットでは、機器改造という膨大な作業と取り組まなければならない。日本では、低発熱量の石炭ガスで構成されていたガスマーケットであったが、1969年にLNGを導入して以来、天然ガスに対応できるよう、全需要家のガス燃焼機器の改造に取り組んだ。東京ガスの熱量変換作業は1972年~1988年まで17年間かけて実施された一大イベントであった。

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現在計画されているLNGプロジェ

クトを図14に示す。ここでは、米国で

の現行のパイプラインにおける発熱量

の上限値、1,085B t u/ s c f(HHV、

14.73psiA(1.016気圧)、華氏60度(=

15.56℃))を境界値として、高発熱量

LNG(赤色)、低発熱量LNG(青色)

とする。

アジア太平洋マーケットを考えてみ

ると、今後拡大するマーケットとして

考えられている北米西海岸および中国

が低発熱量LNG(青色)を求める場

8.発熱量の差異が与える今後のマーケットへの影響

アナリシス

2005.9. Vol.39 No.5 28

トとしたマーケットに狂いが生じな

いように、あらかじめ低発熱量に切

り替えるLNGがほぼ全量、低発熱量

LNGのマーケットに引き取られる確固

とした保証をとりつけたいのが上流事

業者の本音である。

現在、世界的なガスマーケットの

自由化の進展・競争激化に伴い、買

い主が不確実性を上流側へ転嫁し始

めている。つまり、取引の柔軟性に

よるリスクは売主側へ転嫁されつつ

ある。そのため、高発熱量LNGプロ

ジェクトは、低発熱量LNGマーケッ

トの買主が確実になる以前に、低発

熱量LNGを生産しようとして液体成

分抽出設備を追加しCAPEXを増大さ

せてしまうと、高発熱量LNGマーケ

ットへ販売せざるを得なくなったと

き、他の高発熱量LNGプロジェクト

と価格競合を引き起こして、価格値

引きのリスクにさらされるばかりか、

同じフィードガス量でのLNG生産量

が減退し、収益率を低減させてしま

う。

したがって、アジア太平洋地域の

高発熱量LNGプロジェクトは、北米

マーケットで高価格が続くような局

面を除けば素直に高発熱量LNGのマ

ーケットを目指すのが経済的である。

しかし、現況を見ると、アジア太

平洋地域では、新規の案件について、

低発熱量LNGプロジェクトと高発熱

量LNGプロジェクトが混在している。

一方で今後、増大が期待されるマー

ケットは、北米西海岸、中国となる

ことから、低発熱量LNGへのニーズ

が高いと考えられる。この様子をも

う少し詳しく見てみよう。

0

5

0

5

Sakhalin

BontangDonggiGreater SunriseDarwin

Oman LNGNIOC LNG

Qata

NLNG

Angola

MurmanskSnohvit

SakhalinⅡ

BontangDonggiGreater SunriseDarwin

Oman LNGNIOC LNG

Qatargas

NLNG

Angola

MurmanskSnohvit

SakhalinⅡ

BontangDonggiGreater SunriseDarwin

Oman LNGNIOC LNG

Qatargas

Gassi Touill Gassi Touill

NLNG

Angola

MurmanskSnohvit

Atlantic LNGMariscal Sucre

Eq. Guinea

Brass River

ELNGSEGas

NWS

Alaska North Slope

Peru LNG (Camisea)

Pacific LNG

Atlantic LNGMariscal Sucre

Eq. Guinea

Brass River

ELNGSEGas

NWS

Alaska North Slope

Peru LNG (Camisea)

Pacific LNG

Atlantic LNGMariscal Sucre

Eq. Guinea

Brass River

ELNGSEGas

NWSGorgonGorgon

TangguhTangguh

Alaska North Slope

Peru LNG (Camisea)

Pacific LNG

図14 世界の高発熱量LNGプロジェクトと低発熱量LNGプロジェクト

表11 上流側で高発熱量から低発熱量へ変換する場合のデメリット

123

4

5

6

デメリット液体成分抽出設備のコスト(4,000万ドルを超える)が追加となる。液体成分分離のためにオペレーションが複雑となり、OPEXが増加する。液体成分の販路がない場合、同一フィードガス量でのLNG生産量が減少する。液体成分の販路が確保されていたとしても価格次第で、分離生産の方が、かえって利益が小さくなる場合が生じる。低発熱量LNGを生産したものの、販売先が高発熱量LNGマーケットとなってしまった場合、もともと高発熱量LNGを生産するプロジェクトと競合することになり、同熱量あたりの販売価格を約1割低減しなければならなくなる。低発熱量LNGの場合、LNG単位体積あたりの熱量が低いため、同熱量のLNGを輸送するためには、輸送体積を増加させなければならず、百万Btu当たりのフレートコストが4%程度上昇する。

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合、2015年時点で何万トン/年の低発

熱量LNGが必要になるのだろうか。

北米西海岸では、供給源を既に決定

しているメキシコ太平洋岸のCosta

Azul基地を除き、3基地が成立すると

して1,500万トン/年と仮定する。中

国は2015年時点で6,370万トン/年と

なる基地計画が浮上(表12)しており、

供給源を決定している広東と福建

LNG基地を除き、残りの約半数2,900

万トン/年が成立すると仮定する。

これらの約4,400万トン/年が、低

発熱量LNGマーケットとして出現す

ることが予想される。

これに対して新規の低発熱量LNG

供給源は限られており、NWS第5トレ

イン、Gorgon、Camiseaの3プロジェク

ト(合計1,870万トン/年)しかない。

そのため、中東において石油化学産業

用として液体成分を抽出して低発熱量

LNGを生産するなど、高発熱量LNG

プロジェクトの一部は低発熱量LNG

として、アジア太平洋マーケットへ供

給される必要が生じる。しかし、日本、

韓国、台湾の高発熱量LNG輸入国へ

の影響は小さいと考えられる。

これに対して、北米、中国マーケッ

トがやや発熱量の高いLNGも許容し

受け入れるようになると、高発熱量

LNGプロジェクトは、日本、韓国、

台湾以外への供給ルートができ、マー

ケティングが容易になると考えられ

る。したがって、これらの国々のガス

要求品質の動向が、需要想定、価格動

向、液体成分価格、液体成分需要など

とともに重要な要素になってくる。

一方、大西洋マーケットでは、約

7,000万トン/年ほどの低発熱量LNG

プロジェクトが計画されており、全体

の2/3ほどを占めている。中東地域も

含めれば、高発熱量LNGプロジェク

トが同程度計画されており、これらは

欧州のフランス、スペイン、ポルトガ

ルなどを目指すことになるが、米国、

メキシコ、英国などの低発熱量LNG

マーケットの拡大を考慮すると、やは

り、低発熱量LNGプロジェクトが不

足気味の感がある。

したがって、西アフリカの高発熱量

LNGプロジェクト、ナイジェリア、

アンゴラなどは、低発熱量への転換を

迫られる可能性がある。実際に転換を

しなければならないか否かは、売主側

と買主側間の交渉によるが、既にナイ

ジェリアの第6系列では、液体成分を

抜き取る装置を設ける予定である。し

たがって、売主側は抜き取られた液体

成分のマーケティングが必要となって

くることも起きるであろう。同様に、

中東のカタールも、低発熱量への転換

設備を備えるようであるが、こちらは

液体成分の販路は確保されており、問

題は少ないであろう。ただし、低発熱

量LNGの巨大消費国と目されている

米国では、発熱量基準に取り組むガス

の互換性に関する白書の行方という不

確実性とともに、住民反対運動を背負

いながらどの程度のLNG受入能力を

拡大できるのかという不確実性が控え

ており、売主たちはこれらの動きを見

ながら、最適な発熱量の設定をしてい

くことになるであろう。

“熱”能く、LNG市場を制す ~グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題~

29 石油・天然ガスレビュー

表12 中国のLNG受入基地計画一覧(出所:石油・天然ガスレビュー2005年1月号、中国:LNG受入計画ラッシュ続く)

遼寧Ⅰ(大連新港)遼寧Ⅱ(営口市)

河北(唐山市、曹妃甸)

河北Ⅱ(秦皇島港)

天津(天津市)

山東(青島市)

江蘇Ⅱ(塩城)

江蘇Ⅰ(如東、洋口港)

上海(小洋山)

浙江Ⅰ(寧波市)

浙江Ⅱ(温州市)

福建( 州湾)

広東Ⅱ(汕頭市)

広東Ⅰ(深 ・大鵬湾)

海南(海口市、八所港)

広西(3候補地)

合計

20082012

2010

2010

2010

2008

未定

2008

2008

2009

2015

2007

2010

2006

2012

未定

PetroChinaCNOOC

PetroChina

CNOOC

CNOOC

Sinopec

CNOOC

PetroChina

CNOOC

CNOOC

CNOOC

CNOOC

CNOOC

CNOOC

CNOOC

CNPC

建設地 稼働開始事業主体

200300

600

200

300

300

300

350

300

300

300~500

260

250

370

200

未定

4,730

400

300

500

600

600

500

あり

620

300

6,370

未定未定

未定(イラン)

未定

未定

(イランorSakhalinⅡ)

未定

未定

(豪州・Gorgon)

(豪州・Gorgon)

未定

インドネシア・Tangguh(SPA/FOB)

未定

豪州・北西大陸棚(NWS)(SPA/FOB)

未定

未定

受入能力(万t/y)供給源(候補)

当初 増強後

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アナリシス

2005.9. Vol.39 No.5 30

米国のガスの互換性に関する白書に

端を発した、低発熱量LNG規格の制

定への動きが、グローバルLNGマー

ケットの形成時期と重なって、全

LNGプロジェクトが低発熱量へ向か

うべきであるかのようなメッセージに

受け取る人も多い。

しかし、上述のように、高発熱量

LNGプロジェクトから低発熱量への

スイッチングコストは大きく、高発熱

量LNGプロジェクトの事業者は高発

熱量のマーケットを目指すことが経済

原則にのっとっており、全世界の

LNGプロジェクトの事業者が低発熱

量LNGの生産を目指すという可能性

は低いといえるだろう。

ただ、米国内の低発熱量ガス基準の

規格化の行方、米国LNG基地の成立

数、中国マーケットの要求熱量と

LNG基地成立数、今後の米国・中東

での液体成分を原料とした石油化学製

品の需要と価格、LNG価格動向、液

化プロジェクトでの仕上がりコスト、

今後のLNGフレート価格など、様々

な不確定要因があり、LNG上流開発

事業者たちは最適発熱量の決定に際し

てはこれら複数のファクターに注目し

ていかなければならない。

同時に、今後は発熱量を安価に下方

調整する技術、すなわち、上流側/下

流側での液体成分の抽出技術、窒素/

空気注入によるガス発熱量の希釈技

術、LNG貯蔵内混合による熱量調整

のための複数ソースのLNGを同一タ

ンクに貯蔵する異種LNG混合貯蔵技

術*17の重要性はますます高まり、さら

なる性能向上へ向けた技術革新や設備

コストの低減が求められていくものと

考えられる。

というのも、マーケットの不確実性

を反映して、各買主は、必要数量全量

を長期契約で確保しないため、スポッ

トLNG量が増大していく傾向にあり、

またLNG船の大型化によるフレート

コストの低減からグローバルマーケッ

トの形成へ向けて動いている中で、

様々な生産地のLNGが様々なマーケ

ットへ届けられるケースが増加してい

くからである。このような状況の中で、

発熱量を安価に下方調整する技術の重

要性は、加速されるものと考えられる。

したがって、アジア太平洋地域の上

流開発事業者にとっては、これらの発

熱量に関連する不確定要因・切替技術

の動向にもたえず注意を払うととも

に、それらを折り込んだ高度なフレキ

シビリティを確保しマーケティングを

進めていくことが、勝者となる道にな

るはずである。

9.まとめ

*17:発熱量の高いLNGと低いLNGを同一のタンクに貯蔵する場合、発熱量の低いLNGは比重が小さいため上方へ、高いLNGは下方へ移動して、異種LNGによる層状化が生じてしまう。そして、ある瞬間に急激に層が反転し、大量のBOGが発生するロールオーバー現象が起きる。これを防ぐための操業・運転監視技術は、長期間LNGをハンドリングしてきた下流の企業(特に東京ガス、GdFなど)が世界トップレベルのノウハウを有している。

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“熱”能く、LNG市場を制す ~グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題~

31 石油・天然ガスレビュー

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2005

著者紹介

東京都出身。東京大学工学部卒。技術士(総合技術監理部門および建設部門)。

専門はLNG技術。これまで国内外のLNG基地のFS、FEED、設計・建設・コンサルティングおよびLNG関連技術開発に従事。2004年4月よ

り現職。海外駐在は、韓国。