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002 CM 通信 No.4864 / 2014 . 10 . 13 MON. “現実に起こりうる介護の物語をアニメーションで紡ぐ” ベストケア、企業理念やサービス内容を伝えるショートムービーを Web 配信 企画制作は ADK +ロボット/ CD・企画・コピーの田中淳一氏(ADK)に聞く 愛媛県松山市を拠点に、四国・関東・関西・九州エリアで介護サービスを 展開するベストケアは、 YouTube において同社の企業理念やサービス姿勢 などを描写したアニメーションムービーを配信している。 2012 年から 1 年に 1 本のペースで制作され、 9 月にはその最新作となる「夢のつづき篇」の公開 がスタート。企業プロモーションを目的としたコンテンツ制作は同社にとって初の試みとなる。 介護の現場で働く人の声をもとにストーリー化 シリーズを通じて企画制作はアサツー ディ・ケイ(ADK)+ロボットが担当。クリエイティブディレク ションおよび企画・コピーを手掛ける田中淳一氏(ADK)は、 〈クライアントは「規模の拡大に伴い、会社 立ち上げ時と比べて企業理念や介護サービスに対する思いなどが社員で共有しにくくなっている」という 課題を抱えていました。その解決に向けて、「もう一度、社員が介護に対する思いを新たにするキッカケ となるような動画コンテンツをつくって欲しい」というオーダーが起点となりました〉と振り返る。 以後、現在までに 3 本のアニメーションムービーを制作。田中氏は〈アニメーションにしたのは、 実写だと嘘っぽくなってしまう、と感じたからです。介護という職業は、いろいろな意味でデリケート な現実問題を有しています。メインターゲットである介護サービスに日々従事している現場の人たち、 そして、介護の利用を検討している高齢者とその家族に向けたコンテンツであることを考えたとき、 その現実を実写でなぞっても、どこか他人事・絵空事に見えてしまう気がしました。「介護にまつわる リアル」と「表現手法としてのリアル」。実写は見る人の共感素地を阻害すると判断し、アニメーション を選択しました〉と話す。 企画に着手する際、毎回クライアントのトップと直に顔を合わせてテーマの共有を図るとともに、 実際に介護の現場で働く人たちにヒアリングを行い、物語としてストーリーラインを再構築している という。〈リアリティを大事にしつつも、コンテンツとしての共感力をキープするため、あまりそこ に引っ張られ過ぎないように気を付けています〉(田中氏) 気鋭の若手アニメーション作家を起用 2012 年に第 1 弾となる「同じ月を見ていた篇」、翌 2013 年には第 2 弾の「笑顔のゆくえ篇」、そ して今年、第 3 弾「夢のつづき篇」を公開。3 作品ともに 3 分を越える尺を使い、介護サービスの

“現実に起こりうる介護の物語をアニメーションで紡ぐ ...これからは、僕ら のつくるモノも、コンテンツとしてますます消費されるということを…。もちろん、「広告」という

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“現実に起こりうる介護の物語をアニメーションで紡ぐ”

ベストケア、企業理念やサービス内容を伝えるショートムービーをWeb配信

企画制作は ADK+ロボット/ CD・企画・コピーの田中淳一氏(ADK)に聞く

 愛媛県松山市を拠点に、四国・関東・関西・九州エリアで介護サービスを

展開するベストケアは、YouTubeにおいて同社の企業理念やサービス姿勢

などを描写したアニメーションムービーを配信している。2012年から1年に

1 本のペースで制作され、9 月にはその最新作となる「夢のつづき篇」の公開

がスタート。企業プロモーションを目的としたコンテンツ制作は同社にとって初の試みとなる。

介護の現場で働く人の声をもとにストーリー化

 シリーズを通じて企画制作はアサツー ディ・ケイ(ADK)+ロボットが担当。クリエイティブディレク

ションおよび企画・コピーを手掛ける田中淳一氏(ADK)は、〈クライアントは「規模の拡大に伴い、会社

立ち上げ時と比べて企業理念や介護サービスに対する思いなどが社員で共有しにくくなっている」という

課題を抱えていました。その解決に向けて、「もう一度、社員が介護に対する思いを新たにするキッカケ

となるような動画コンテンツをつくって欲しい」というオーダーが起点となりました〉と振り返る。

 以後、現在までに 3 本のアニメーションムービーを制作。田中氏は〈アニメーションにしたのは、

実写だと嘘っぽくなってしまう、と感じたからです。介護という職業は、いろいろな意味でデリケート

な現実問題を有しています。メインターゲットである介護サービスに日々従事している現場の人たち、

そして、介護の利用を検討している高齢者とその家族に向けたコンテンツであることを考えたとき、

その現実を実写でなぞっても、どこか他人事・絵空事に見えてしまう気がしました。「介護にまつわる

リアル」と「表現手法としてのリアル」。実写は見る人の共感素地を阻害すると判断し、アニメーション

を選択しました〉と話す。

 企画に着手する際、毎回クライアントのトップと直に顔を合わせてテーマの共有を図るとともに、

実際に介護の現場で働く人たちにヒアリングを行い、物語としてストーリーラインを再構築している

という。〈リアリティを大事にしつつも、コンテンツとしての共感力をキープするため、あまりそこ

に引っ張られ過ぎないように気を付けています〉(田中氏)

気鋭の若手アニメーション作家を起用

 2012 年に第 1 弾となる「同じ月を見ていた篇」、翌 2013 年には第 2 弾の「笑顔のゆくえ篇」、そ

して今年、第 3 弾「夢のつづき篇」を公開。3 作品ともに 3 分を越える尺を使い、介護サービスの

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利用者と従事者による交流を丁寧に描写している。田中氏は〈3 分超という長さにしたのは、そこに

一定の真実味が描けなければウワベだけのものになってしまうと思ったから。企画の初期段階から

ある程度の尺は必須と考えていました。その時間の中で、現実に起こりうる介護の物語を紡いでいく

ことを目指しました〉とする。

 作品の世界観を左右するディレクターには、「同じ月を見ていた篇」は朝倉真愛氏、「笑顔のゆくえ篇」

は今林由佳氏、「夢のつづき篇」はアダチマサヒコ氏-と気鋭の若手アニメーション作家を起用している

のがポイント。〈プロットが出来た段階で、伝えたいイメージをロボットの制作陣に話し、数人の候補を

提案してもらった後、ベストなアニメーション作家を決めるカタチを採っています〉(田中氏)

 なお、いずれも音声による台詞を一切排し、全編を通して音楽と効果音をバックに、絵の動きだけで

ストーリーやメッセージを伝える手法が採られている。〈やはりリアリティを感じてもらうため、という

のが大きな理由です。このシリーズでは、具体的な声は「自分事化」を邪魔してしまうと考えました。

それと、このコンテンツを介護の現場で視聴する場合、音声を聞き取りにくい人たちが触れる機会や、

音を出せない状況も少なくないと想定し、基本的に絵だけで伝達する方法を選択しました〉という。

「夢のつづき篇」(213sec.) http://www.youtube.com/watch?v=pJLphgcaGOEAg+Pr:アサツー ディ・ケイ+ロボット/CD&Pl&CW:田中淳一/CR-P:根津勉/AE:徳増香織、安藤 芳樹/ P:涌井剛/PM:大嶋美穂/Dir&Anime&Edit:アダチマサヒコ/M:烏田晴奈/Anime:中根 有梨沙、今林由佳

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リアリティのある物語として印象を残すために

 9 月から配信を開始した最新作の「夢のつづき篇」は、ホテル支配人経験者、美容師、エステティ

シャン、理学療法士などが常駐するケア施設を通じて、高齢者の要望にオーダーメイドでサービス

提供を行うベストケアの新しい事業「コンシェリナ」が題材。劇中、「コンシェリナ」スタッフの

サポートによって、高齢者が “自分らしさ” を取り戻し、“実現したかった夢” にチャレンジしていく

姿が描かれる。〈新しいケアのカタチを知ってもらうことがミッションでした。主にインナー向け

を主眼としていた前2作と異なり、「夢のつづき篇」は利用見込みの人たちも意識した話となって

います。表現コンセプトは「人はいくつになっても夢を見る」。高齢になって、多少カラダが不自由に

なっても人は叶えたい夢を見る一方、その思いを家族や周囲に気を遣って自分自身の中に閉じ込めて

しまっている-という実話をベースにストーリー化しました〉(田中氏)

 ディレクター(アニメーション作家)のアダチマサヒコ氏とは〈現実味のない成長物語では、ズレ

てしまうので、主人公の気持ちや態度の変化を自然に表現することを共通認識に臨みました〉とし、

〈アダチさんに演出を依頼した決め手の 1 つが、豊かな色彩づかい。3 分超という中で、始まりから

ラストに向かって主人公の心境が変わっていく様子を、表情だけではなく周囲の色調でも表現して

欲しい、とお願いしました。全体の読後感として、また、リアリティのある成長物語として印象を

残すことを大切にしたかった〉と続ける。

より作家性が求められる時代になってくる

 ベストケアの企業理念は「利用者を幸せに、職員も幸せに!」。田中氏は〈この言葉に込められた

↑「笑顔のゆくえ篇」(233sec.) http://youtu.be/n3XiWGxOjPM  Ag+Pr:アサツー ディ・ケイ+ロボット/Dir&Anime:今林由佳/M:松田幹

↓「同じ月を見ていた篇」(190sec.) http://youtu.be/a4ZVKugdESY Ag+Pr:アサツー ディ・ケイ+ロボット/Dir&Anime:朝倉真愛/M:鶴田美音

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思い。それがシリーズ全体の根幹。実際に働く人たちへの取材を経て、

この言葉は決して綺麗事ではなく、介護で働く意味・本質だということ

が自分なりに理解できました。それをコンテンツとして昇華させるとき、

介護する側が一方的に“お世話をしているだけの存在”に見えないように

心掛けています。そして、リアリティ。アニメーションで描くからこそ、

お伽話ではなく、現実に起きていること、それを踏まえていることを

感じてもらえるようにする。そこは大事にしている部分〉とする。なお、

クライアントからは「なるべく、介護の現場で起きている現実から目

をそらさないで描いて欲しい」という要望があり、〈そこはとても共感

できました。ある意味、タブー的なことはほぼ無い状態で取り組めています〉とのこと。

 今回、広告クリエイター×アニメーション作家によるコラボレーションも、制作プロセスにおける

大きな特徴の 1 つとなっている。〈今後、クリエイティブディレクターをはじめとする広告の作り手

にも、より作家性が求められる時代になってくる、と捉えています。特に、動画コンテンツの場合

は、能動的に見てもらうチカラを備えてないと存在していないのと同じになります。その観点からも、

これまで以上に作家としての素養や技術などを身につけていかないと、需要そのものが無くなって

しまうのでは、という危機感がある。自戒を込めて、ものすごく意識しています。これからは、僕ら

のつくるモノも、コンテンツとしてますます消費されるということを…。もちろん、「広告」という

フィールドで培った企業や商品、サービスが語りたい本質を見抜き、それを主題として織り込んで

いくスキルやノウハウがあってこその作家性だとは思いますが-〉と田中氏は語る。

◇ベストケア   http://www.best-care.jp/