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管球式プリアンプ製作
Ayumi's Lab.
2002年 12月 5日Updated 2003年 12月 16日
目次
1 コンセプト 1
2 イコライザー 2
3 ラインアンプ 4
4 電源 8
5 製作 9
6 測定 106.1 フォノイコライザー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 106.2 ラインアンプ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
1 コンセプト
2001年 12月に衝動買いしてしまったオーディオ専科 Professor 4を活用するためにプリアンプが必要になったが,市場には廉価なプリアンプがほとんどない状態であったため,始めはパッシブプ
リでよいかとも考えた.LPの再生を考えると,フォノイコライザーも必要だし,小型スピーカーを使用しているためトーンコントロールも付けたいしということで,これらを単体製品でまかなう
ことも検討したが,いっそのこと,真空管で作ってしまえということになった.
現代の低インピーダンスにマッチした管球式プリアンプの製作例を探したが,手持ちの文献では
長 真弓氏のものしか見つからなかったため,それをベースに構成を検討する.イコライザーは,
S/N比を稼げるよう NF型とする.トーンコントロールは特殊なボリュームを必要としない CR型とし,デフィートスイッチを付ける.Rec. outは,オフにすることができるようにし,ダビングも可能とする.また,ここに接続される機器の入力インピーダンスは,10 kΩ程度までを十分にドラ
イブできるようにする.Line outには,主に管球式のメインアンプを接続する予定のため,47 kΩ
程度をドライブできるようにする.
1
2 イコライザー
長氏は,最近 3例の NF型イコライザーを発表している.「真空管アンプ製作自由自在」に 6267-12AU7によるもの [2, p. 28]と,12AX7-1/2 12AU7によるもの [2, p. 39]の 2例,MJ 2002年 6月号のプリメインアンプの 12AX7-1/2 12AU7によるもの [4]がある.ロシア製の 6267の評判がよくないので,入手性にすぐれた 12AX7を使うことにする.12AX7はギターアンプには必須のデバイスなので,今後も十分な供給が見込めるだろう.
8
7
6
Phono
R147 kΩ
R22 kΩ
R3220 kΩ
120.6 V(120.6 V)[114.2 V]
C10.047 µF
250 V3
2
1
V1, V2 12AX7
R4470 kΩ
R52 kΩ
C2220 µF16 V
1.067 V(1.015 V)[1.072 V]
113.4 V(118.0 V)[113.7 V]
(8)3
(7)2
(6)1
V3 12AU7
R6 180 kΩ
R747 kΩ
118.9 V(123.0 V)[118.0 V]
R8 100 kΩR9 1.6 MΩ
C4 750 pF500 V
C5 2530 pF500 V
1.043 V(1.061 V)[1.114 V]
C3 2.2 µF250 V R10
470 kΩ
C1347 µF350 V
R2210 kΩ 2 W
223.1 V(222.9 V)[222.1 V] B+
(258 V)
to Input selector
図 1: イコライザー回路図
図 1にイコライザーの回路図を示す.図中の電圧は,L ch.のもので,R ch.は丸カッコで,SPICEによるシミュレーションのものは,角カッコで囲んである.C5は 2200 pFと 330 pFの並列とし,R9には入手可能な値として 1.6 MΩを選んだ.その他の定数は,一般に入手可能な値としている.
C1はデカップリングコンデンサの容量不足で超低域が不安定にならないように,小さ目の値を選んでいる.Marantz 7などは,さらに小さな 0.015 µFを使用している.ゲインの目標を 36 dB (63倍)とするため,V1aのカソード抵抗 R2を低くし,低域の NFBが不
足しないよう裸ゲインを稼ぐため,R6を高めの 180 kΩとしているが,イコライザー素子のイン
ピーダンスが低いため,思ったような効果が得られないかも知れない.
初段の動作点は,Ep0 = 113 V, Eg0 = −1.11 V, Ip0 = 0.49 mAで,三定数は,µ = 97, rp = 81 kΩ,gm = 1200 µSであるから,ゲイン A1 は,
A1 = 97 15081 + (1 + 97) × 2 + 150 ≈ 34 (1)
となる.図 2にイコライザー初段のロードラインを示す.2段目の動作点は,Ep0 = 113 V, Eg0 = −1.07 V, Ip0 = 0.54 mAで,三定数は,µ = 97, rp = 78 kΩ,
gm = 1240 µSであり,1 kHzにおける交流負荷抵抗は (算出過程を省略するが) 73 − 41 j kΩである
ので,ゲイン A2 は,
A2 = 97 73 − 41 j78 + 73 − 41 j ≈ 50.3 − 12.7 j (2)
となる.図 3にイコライザー 2段目のロードラインを示す.実際の交流負荷は容量性を含むので,ロードラインは楕円になる.
これより,オープンゲイン Aは
A = A1A2 = 34 · (50.3 − 12.7 j) ≈ 1710 − 432 j (3)
2
Ep (V)
Ip (m
A)
0 50 100 150 200 250 300
00.
51
1.5
Eg=0V −0.25 −0.5−0.75
−1−1.25
−1.5−1.75
−2−2.25
−2.5−2.75
−3
−3.25
−3.5DC load line (220k)
AC load line (150k)
図 2: イコライザー初段のロードライン
1 kHzにおける帰還率 βは,
β =2
2 + 84.3 − 101 j = 0.00978 + 0.01145 j (4)
より,クローズドループゲイン A f は,
A f =
∣∣∣∣∣∣A
1 + Aβ
∣∣∣∣∣∣ = |42.9 − 48.1 j| = 64.4 (5)
となる.
Ep (V)
Ip (m
A)
0 50 100 150 200 250 300
00.
51
1.5
Eg=0V −0.25 −0.5−0.75
−1−1.25
−1.5−1.75
−2−2.25
−2.5−2.75
−3
−3.25
−3.5DC load line (163k)
AC load line (83.8k)
図 3: イコライザー 2段目のロードライン
カソードフォロワ段の動作点は,Ep0 = 104.1 V, Eg0 = −4.26 V, Ip0 = 2.51 mA で,三定数は,µ = 16.7, rp = 12.5 kΩ, gm = 1340 µSであり,イコライザーの負荷抵抗を 47 kΩとすると,交流負
3
荷抵抗は 22.4 kΩであるので,ゲイン Aは,
A = 16.7 22.4(1 + 16.7)22.4 + 12.5 = 0.915 (6)
出力インピーダンスは,
Zo =12.5
1 + 16.7//47//470 = 0.695 [kΩ] (7)
となる.図 4にカソードフォロワのロードラインを示す.
Ep (V)
Ip (m
A)
0 50 100 150 200 250 300
02
46
810 Eg=0V −2
−4
−6
−8
−10
−12
−14
−16
−18
−20DC load line (47k)
AC load line (22.4k)
図 4: カソードフォロワのロードライン
図 5はシミュレーションによるイコライザーの周波数特性であり,図 6は RIAA偏差である.ゲインは,RL = 47 kΩ時に 58.4倍 (35.3 dB),RL = 10 kΩ時に 55.4倍 (34.9 dB)で,目標の 36 dBをわずかであるが下回った.C3に 2.2 µFという大きな値を使用したことにより,10 kΩという重い
負荷を与えても,20 Hzで −0.5 dBの偏差に収まることが期待される.図 7は,デカップリングコンデンサから電源を供給した場合の RIAA偏差である.超低域の電源インピーダンスが高くなったことにより位相が進み,正帰還がかかりはじめていることがわかる.
これ以上 C1を増やすと,超低域にピークを生じてしまう.
3 ラインアンプ
長氏のプリメイン [4]では,CR型のトーンコントロールを採用している.CR型では,一般に挿入損失が 20 dBほどあるので,ラインアンプのゲインを 20 dBとすると,トータルで 40 dBのゲインが必要である.
当初,CR型トーンコントロールの前後に 12AU7による SRPP回路を持ってくるつもりであったが,球数が多くなる割には出力インピーダンスがそれほど低くならない (数 kΩ程度)こと,周波数特性がなかなか素直にならないこと,デフィートするよい方法がないことなどから,検討の対象を
NF型に切り替えた.オリジナルの Bax型は,高音用に中点タップ付きの VRが必要である.[1]によれば,中点タッ
プ付きの VRを使わなくても,3番端子 (ブースト側)を高抵抗でアースしてグリッドの浮きを押さえればよいとのことである.それならばいっそうのこと LUX型にすれば,CRが減るし,デフィー
4
010
2030
4050
60
Frequency (Hz)
Gai
n (d
B)
10 100 1k 10k 100k
010
2030
4050
60
RL=47k
RL=10k
図 5: イコライザーの周波数特性 (シミュレーション)
−3−2
−10
12
3
Frequency (Hz)
RIA
A d
iffer
ence
(dB
)
10 100 1k 10k 100k
−3−2
−10
12
3
RL=47k
RL=10k
図 6: イコライザーの RIAA偏差 (シミュレーション)
−6−4
−20
2
Frequency (Hz)
RIA
A d
iffer
ence
(dB
)
0.1 1 10 100 1k
−6−4
−20
2
RL=47k
RL=10k
With Decoupling
With Decoupling
図 7: イコライザーの RIAA偏差 (シミュレーション,デカップリングあり)
5
ト用のスイッチが簡単になるのでは,ということで,手持ちの資料を探したが,[3]の 12AX7のところに参考回路が出ていたのみである.Web上では,ぺるけさんの LUX SQ38FDの解析のページ (http://home.highway.ne.jp/teddy/tubes/ana/ana2.htm)に回路図が載っている.これらを参考にして,低域の可変範囲を多少狭め,高域が上昇しっぱなしにならないように制限を加えて
みた.
NF型の場合,高 gm 高 µ 管を使えば,出力インピーダンスを 1 kΩ 以下にできる.負帰還がか
かっており,インピーダンスが低いため,クロストークの心配もそれほどないことから,12AT7を左右共通で使うことにする.
前段は,SRPPも検討したが,出力インピーダンスを低くするため,12AU7による電流帰還 +カ
ソードフォロワで行くことにした.ここに 2段アンプ +負帰還を使うとラインアンプ全体では位
相が反転するし,大掛かりになりすぎるため,採用を見送った.ゲインはあまり大きくなり過ぎな
いよう 6倍程度とした.
Line 2
Line 1
Play 2
Play 1
S1 Input
9
7
5
4
2
1
18
16
14
13
11
10
to Eq.
S2 Rec. Out
6
5
4
2
1
12
11
10
8
7
Source
Off
1→ 22→ 1
Rec. 1 Rec. 2
VR1100 kΩA
Volume
32
1 VR2250 kΩMN
Balance
(3)1
(1)3
2
8
7
6
R114.7 kΩ
6.44 V()[6.25 V]
3
2
1
V4, V5 12AU7121.0 V
(120.3 V)[125.1 V] R12 100 kΩ
R13100 kΩ
128.8 V(128.5 V)[131.9 V]
C6 0.47 µF250 V
R14 100 kΩ
BassVR3 500 kΩB
3 2 1R15 100 kΩ
C7 5600 pF 50 V
S3Tone Defeat
C8470 pF
50 V R16 20 kΩ
VR4 500 kΩBTreble
3 2 1
(8)3
(7)2
(6)1
V6 12AT7
R17820 Ω
C9220 µF16 V
R1847 kΩ
C10 0.47 µF400 V
[161.8 V]
2.24 V(2.13 V)[2.16 V]
R19470 kΩ
Line Out
C1147 µF350 V
C1247 µF350 V
R214.7 kΩ 2 W
R204.7 kΩ 2 W B+
(327 V)
287.7 V(287.7 V)[287.5 V]
to Eq.
258.5 V(258.7 V)[258.1 V]
図 8: ラインアンプ回路図
フラットアンプの初段の動作点は,Ep0 = 118.9 V, Eg0 = −6.24 V, Ip0 = 1.33 mAで,三定数は,µ = 15.5, rp = 17.6 kΩ, gm = 880 µSで,負荷抵抗は 100 kΩであるので,ゲイン Aは,
A = 15.5 10017.6 + (1 + 15.5)4.7 + 100 = 7.93 (8)
となる.図 9にフラットアンプ初段のロードラインを示す.カソードフォロワの動作点は,Ep0 = 126.2 V, Eg0 = −6.74 V, Ip0 = 1.32 mA で,三定数は,
µ = 15.4, rp = 17.9 kΩ, gm = 860 µSで,負荷抵抗は 100 kΩであるので,ゲイン Aは,
A = 15.4 100(1 + 15.4)100 + 17.9 = 0.929 (9)
出力インピーダンスは,
Zo =17.9
1 + 15.4//100 = 1.08 [kΩ] (10)
となる.図 10にカソードフォロワのロードラインを示す.また,図 11にシミュレーションによるフラットアンプの周波数特性を示す.
6
Ep (V)
Ip (m
A)
0 50 100 150 200 250 300
01
23
45
Eg=0V −2 −4
−6
−8
−10
−12
−14
−16
−18
−20DC load line (100k)
図 9: フラットアンプ初段のロードライン
Ep (V)
Ip (m
A)
0 50 100 150 200 250 300
01
23
45
Eg=0V −2 −4
−6
−8
−10
−12
−14
−16
−18
−20DC load line (100k)
図 10: カソードフォロワのロードライン
05
1015
20
Frequency (Hz)
Gai
n (d
B)
1 10 100 1k 10k 100k 1M
05
1015
20 V4a Plate
V4b Cathode
図 11: フラットアンプの周波数特性 (シミュレーション)
7
トーンコントロールの動作点は,Ep0 = 159.7 V, Eg0 = −2.16 V, Ip0 = 2.63 mA で,三定数は,µ = 55.9, rp = 19.4 kΩ, gm = 2890 µS で,交流負荷抵抗は (プリアンプの負荷が 47 kΩ のとき)22.4 kΩであるので,オープンゲイン Aは,
A = 55.9 22.419.4 + 22.4 ≈ 30 (11)
となる.図 12にトーンコントロールのロードラインを示す.
Ep (V)
Ip (m
A)
0 50 100 150 200 250 300
02
46
8
Eg=0V −0.5−1
−1.5
−2
−2.5
−3−3.5
−4−4.5
−5
−5.5
−6−6.5−7
DC load line (47k)
AC load line (23.5k)
図 12: トーンコントロールのロードライン
図 13にシミュレーションによるトーンコントロールの周波数特性を示す.ゲインは,出力開放で 0.904倍 (−0.875 dB)である.
−15
−10
−50
510
15
Frequency (Hz)
Res
pons
e (d
B)
10 100 1k 10k 100k
−15
−10
−50
510
15
図 13: トーンコントロールの周波数特性 (シミュレーション)
4 電源
電源投入時にアンプ部に急激に電圧が掛からないようにするため,B電源は 6X4による両波整流とした.リップルが十分小さくなるよう,チョークコイルによるフィルターを入れ,その後は,
クロストーク対策のため,左右別々のデカップリングを施す.
8
TANGO ST-30
6.3 V
260 V
260 V
0 V
D1 RBV402L∼
∼
+
−
15 VC20110000 µF25 V
C2021.5 µF25 V
U1 LM350TIN OUT
ADJR201200 Ω
R20347 kΩ
Q1 2SA1015
R2021.8 kΩ
C20322 µF25 V
D21N4002
C2041.5 µF25 V
R2066.8 kΩ
D3青色 LEDE1L33-3B
18.8 + 63.6 V 12.5 + 63.6 V
3 4, 7
6 1
V7 6X4
C20547 µF450 V
L1 30H 30mA
C20647 µF350 V
341.3 V 327.1 V B+
R204330 kΩ
1 W
R20582 kΩ
1 W
C20747 µF100 V
63.6 V
ヒーター4 ピン
ヒーター5 ピン
AC100 V
0.7 A Power
100V
0V
スパークキラー
図 14: 電源部回路図
ヒーター電源は,LM350T (LM317Tでも可)を使ったスロースタート型の定電圧電源とした.この定数で,電源投入時であっても定格の 1.2倍程度の電流しか流れない.これで,一部メーカーの真空管に見られるヒーターが一瞬ピカッと光るのを防げるだろう.カソードフォロワーがあるこ
とから,60 V程度のヒーターバイアスを掛けている.カソードフォロワーに使用している 12AU7の定格では,200 Vの耐圧があるため,ヒーターバイアスは必ずしも必要ではないが,初段のヒーターエミッションを防ぐためもあり採用している.
図 15にシミュレーションによる電源投入時のヒーター電圧上昇特性と,スロースタート回路の有無によるヒーター電流の違いを示す.ヒーターのモデルとしては,Duncan's Amp Pages(http://www.duncanamps.com/)の 12AX7のものを 12.6 Vに修正して使っている.スロースタート回路がない場合は,電源投入時に 1 Aを超える電流が流れるが,スロースタート回路により,電源投入時からほぼ一定の電流に抑えることができる.
0 2 4 6 8 10 12
02
46
810
1214
Time (sec.)
Vh
(V)
0 2 4 6 8 10 12
02
46
810
1214
0 2 4 6 8 10 12
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
Time (sec.)
Ih (A
) Constant Voltage
Slow Start
0 2 4 6 8 10 12
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
図 15: ヒーターの電圧と電流 (シミュレーション)
5 製作
ケースはタカチの FU88-320にしたが,ケースの内部有効高が 80 mmしかないため,真空管は横向きにマウントすることになる.
ツマミは,秋葉原で購入してもかなり高額なため,三栄無線 (http://www2.ocn.ne.jp/˜san-ei/)の通版を利用した.送料の差額を切手で返してくれたりと,たいへん好感の持てる会社である.
9
プリアンプは外観も大切であるが,市販の白色のインスタントレタリングは字体に限りがあり,
これまでも苦労してきた.また,プリアンプは文字数が多く,文字の配置に気を遣うので,クロマ
テックを作成してもらうことにした.
原稿は PCで作成するが,今回は字体としてOptimaを使用したかったため,Linotype社製のフォントをMyFonts.com (http://www.myfonts.com/)からオンラインで購入した.即座に手に入るが,1種類 $21とそれなりの価格である.1回しか使用しないと思うと,かなり割高に感じる (その後,会社で購入したプリンタには Optimaが入っていたことが判明).クロマテックの作成は,(有)エイドクラフト (http://www3.ocn.ne.jp/˜aidcraft/)にお願い
した.中 2日ほどで,送料着払いで届いた.200 mm×150 mmの Bサイズで,3,300円だった.Webサイトには詳しい記述がないが,この価格に D3加工 (文字だけに接着剤が付く)も含まれているので,市販のインスタントレタリングとまったく同じ仕上がりになる.
イコライザーの抵抗は DALEの金属被膜抵抗 1/2 Wを,ラインアンプには Philipsの金属被膜抵抗 1/2 Wを使用した.イコライザー初段の負荷抵抗や消費電力が大きいところには,1 Wの金属被膜抵抗を用いている.カソードバイパスコンデンサには,ニチコンのMuseを使用した.真空管は,手持ちの関係で,V3と V7に Philips EGCの物を使用した.それ以外はすべて東芝製
である.
6 測定
各部の電圧は,回路図に記したとおりで,シミュレーションによる値とは,ほぼ 5%以内の差となっている.なお,測定時の電灯線電圧は 102.2 Vであり,シミュレーションは,その時の B電圧に合わせてある.
6.1 フォノイコライザー
図 16はイコライザーの周波数特性である.赤い線は L ch.,青い線は R ch.である.実線は 10 kΩ
を負荷とした場合で,破線はオーディオアナライザー (Zin = 100 kΩ)のみを負荷とした場合である.測定は,1 kHzの出力が 0.1 Vとなるような入力 (1.89 mV)を全周波数に与えて行なった.負荷が重いと,全体のゲインが下がり,さらに 50 Hz以下の低域のゲインが下がるが,半導体機器を接続しても実用上問題はないと思われるレベルである.1 kHzのゲインは 10 kΩ負荷時 52.4倍 (34.4 dB),100 kΩ負荷時 55.6倍 (34.9 dB)であった.
RIAA偏差 (図 17)は,100 kΩ負荷時,20 Hzから 20 kHzの範囲で ±0.5 dB以内に収まっている.図 18はイコライザーのクロストーク特性である.赤い線は左→右,青い線は右→左である.
測定は,出力が 5 V一定となる入力を加えて行なった.低域ではクロストークが十分に抑えられているが,高域では悪化している.ストレー容量によるものと思われる.いずれにしても,可聴帯域
では −70 dB以下なのでまったく問題ない.図 19はイコライザーの入出力・歪率特性である.定格出力時,10 kΩ 負荷時で 0.05%程度と予
想され,十分な値といえる.100 kΩ負荷時では,さらに 1/10になると見込まれる.100 kΩ負荷時
は,最大出力も伸びているので,歪みはカソードフォロワー段によるものと推測される.
図 20はイコライザーの出力インピーダンス特性である.カソードフォロワのおかげで,700 Ωか
ら 800 Ωの範囲になっている.低域の上昇は,出力のカップリングコンデンサによるものと思わ
れる.
10
Frequency (Hz)
Gai
n (d
B)
10 100 1k 10k 100k
010
2030
4050
60
図 16: イコライザーの周波数特性
RIAA difference (Hz)
RIA
A d
iffer
ence
(dB
)
10 100 1k 10k 100k
−3−2
−10
12
3
図 17: イコライザーの RIAA偏差
−100
−90
−80
−70
−60
Frequency (Hz)
Cro
ssta
lk (d
B)
10 100 1k 10k 100k
−100
−90
−80
−70
−60
図 18: イコライザーのクロストーク特性
11
Vi (V)
Vo
(V),
Dis
torti
on (%
)
0.002 0.01 0.1 1 2
0.02
0.1
110
50
1kHz100Hz 10kHz
1kHz, ZL=100kohm
図 19: イコライザーの入出力・歪率特性
Frequency (Hz)
Zo (o
hm)
10 100 1k 10k 100k 1M
500
1k5k
図 20: イコライザーの出力インピーダンス
6.2 ラインアンプ
図 21は,Tone defeat時のラインアンプの周波数特性である.測定は,出力 1 Vで行なった.帯域幅は 6.3 Hz ∼ 140 kHzである.オレンジ色の線は,ボリュームを半分にした時の特性であるが,それほど高域が落ちていないことがわかる.
Frequency (Hz)
Res
pons
e (d
B)
5 10 100 1k 10k 100k 200k
−10
−50
510
図 21: ラインアンプの周波数特性 (Tone defeat)
12
図 22はイコライザーのクロストーク特性である.赤い線は左→右,青い線は右→左である.測定は,出力が 5 V一定となる入力を加えて行なった.周波数と共にクロストークが直線的に増えている.トーンコントロール周りの配線に問題があるのだろうか.
−100
−80
−60
−40
−20
Frequency (Hz)
Cro
ssta
lk (d
B)
10 100 1k 10k 100k
−100
−80
−60
−40
−20
L to R
R to L
図 22: ラインアンプのクロストーク特性
図 23は,ラインアンプの入出力・歪率特性である.1 kHzのゲインは 10 kΩ負荷時 5.5倍 (14.8 dB),100 kΩ負荷時 5.88倍 (15.4 dB)であった.R ch.は L ch.より 0.1 dBほどゲインが高かった.
Vi (V)
Vo
(V),
Dis
torti
on (%
)
0.1 1 5
0.02
0.1
110
20
1kHz
1kHz, ZL=100kohm
図 23: ラインアンプの入出力・歪率特性
図 24はラインアンプの出力インピーダンス特性である.Lux型トーンコントロールの強力なNFB
13
のおかげで,870 Ω程度になっている.
Frequency (Hz)
Zo (o
hm)
10 100 1k 10k 100k 1M
500
1k5k
図 24: ラインアンプの出力インピーダンス
図 25は,トーンコントロールの周波数特性である.最大可変範囲は ±13 dBで,ほぼ予定通りの可変範囲であった.
Frequency (Hz)
Res
pons
e (d
B)
10 100 1k 10k 100k
−15
−10
−50
510
15
図 25: トーンコントロールの周波数特性
残留雑音はホワイトノイズのみで,ハムは認められなかった.
L ch. R ch.イコライザー残留雑音 (補正なし) 0.20 mV 0.28 mVイコライザー残留雑音 (A補正) 0.032 mV 0.035 mVラインアンプ残留雑音 (補正なし) 0.12 mV 0.14 mVラインアンプ残留雑音 (A補正) 0.020 mV 0.018 mV
定格出力をイコライザー 200 mV, ラインアンプ 1 V とすると,補正ありの S/N 比は,それぞれ75 dB, 94 dBとなる.
参考文献
[1] 加銅鉄平,長真弓,森川忠勇監修. 真空管オーディオハンドブック. 誠文堂新光社, 2000.
[2] 長真弓. 真空管アンプ製作自由自在. 誠文堂新光社, 2000.
[3] 初歩のラジオ編集部(編). 実用真空管ハンドブック. 誠文堂新光社,復刻版, 1999.
[4] 無線と実験編集部(編). MJ無線と実験. 誠文堂新光社, June 2002.
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