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複数拠点を有する大学情報システムの構築と運用 林 治尚,馬越 健次,太田 勲 兵庫県立大学 [email protected] 県内に拠点が複数かつ広く点在する兵庫県立大学では,教育・研究のインフラとなる各種情報シス テム (ネットワークシステム,情報処理教育システム,全学統合認証システム,遠隔授業システム, 学生情報システム,図書システムなど) を統一的に導入し運用している.これら情報システムの経緯 を,構築・運用および課題点などについて,特に拠点が複数であるという観点から報告する. 1. はじめに 兵庫県立大学は,2004 4 月に神戸商科大学 (神戸市西区),姫路工業大学 (姫路市書写,赤 穂郡上郡町,姫路市新在家),兵庫県立看護大 (明石市北王子町) 3 つの県立大学を母体 とし,新たに大学本部と大学院応用情報科学研 究科を神戸ハーバーランド (神戸市中央区) 設けて発足した総合大学である.新設や移転な どもあり,2011 年度現在では, 神戸学園都市 (“学園都市,神戸市西区) …大学本部,経済学部・経営学部など 姫路書写 (“書写,姫路市書写) …工学部など 播磨光都 (“光都,赤穂郡上郡町) …理学部など 姫路新在家 (“新在家,姫路市新在家) …環境人間学部など 明石 (明石市北王子町) …看護学部など 神戸ポートアイランド (神戸市中央区) …応用情報科学研究科,シミュレーショ ン学研究科 淡路 (淡路市) …緑環境景観マネジメント研究科 7 拠点を中心に,政策科学研究所 (“学園都 ”),高度産業科学技術研究所 (“光都”),自然・ 学術総合情報センター 671–2280 兵庫県姫路市書写 2167 1 兵庫県立大学キャンパスマップ (2011 4 月現在) 環境科学研究所 (三田市・淡路市・豊岡市・佐 用町・丹波市),地域ケア開発研究所 (“明石”) 4 つの附属研究所や各種の附属センター・附 置研究施設,加えて附属高等学校・附属中学校 (“光都”) などから構成されている (1)この様に兵庫県内にキャンパス・研究所など の拠点が広く点在する形であるが,拠点間の通 信基盤を確保し,その上で教務電算処理システ ムである 学生情報システム,図書蔵書管理 の電子化とユーザ管理の統合システムである 図書システム,学内共通認証システムを中心 とした各種サーバとクライアント PC などの情 報機器の利用環境の統一システムである 情報 B11-16 589 大学ICT推進協議会 2011年度年次大会 論文集

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複数拠点を有する大学情報システムの構築と運用林 治尚,馬越 健次,太田 勲

兵庫県立大学∗

[email protected]

 県内に拠点が複数かつ広く点在する兵庫県立大学では,教育・研究のインフラとなる各種情報システム (ネットワークシステム,情報処理教育システム,全学統合認証システム,遠隔授業システム,学生情報システム,図書システムなど) を統一的に導入し運用している.これら情報システムの経緯を,構築・運用および課題点などについて,特に拠点が複数であるという観点から報告する.

1. はじめに兵庫県立大学は,2004年 4月に神戸商科大学

(神戸市西区),姫路工業大学 (姫路市書写,赤穂郡上郡町,姫路市新在家),兵庫県立看護大学 (明石市北王子町) の 3つの県立大学を母体とし,新たに大学本部と大学院応用情報科学研究科を神戸ハーバーランド (神戸市中央区) に設けて発足した総合大学である.新設や移転などもあり,2011年度現在では,

• 神戸学園都市 (“学園都市”,神戸市西区)

…大学本部,経済学部・経営学部など

• 姫路書写 (“書写”,姫路市書写)

…工学部など

• 播磨光都 (“光都”,赤穂郡上郡町)

…理学部など

• 姫路新在家 (“新在家”,姫路市新在家)

…環境人間学部など

• 明石 (明石市北王子町) …看護学部など

• 神戸ポートアイランド (神戸市中央区)

…応用情報科学研究科,シミュレーション学研究科

• 淡路 (淡路市)

…緑環境景観マネジメント研究科

の 7拠点を中心に,政策科学研究所 (“学園都市”),高度産業科学技術研究所 (“光都”),自然・

∗学術総合情報センター〒 671–2280 兵庫県姫路市書写 2167

図 1 兵庫県立大学キャンパスマップ (2011年 4

月現在)

環境科学研究所 (三田市・淡路市・豊岡市・佐用町・丹波市),地域ケア開発研究所 (“明石”)

の 4つの附属研究所や各種の附属センター・附置研究施設,加えて附属高等学校・附属中学校(“光都”)などから構成されている (図 1).この様に兵庫県内にキャンパス・研究所など

の拠点が広く点在する形であるが,拠点間の通信基盤を確保し,その上で教務電算処理システムである “学生情報システム”,図書蔵書管理の電子化とユーザ管理の統合システムである “

図書システム”,学内共通認証システムを中心とした各種サーバとクライアント PCなどの情報機器の利用環境の統一システムである “情報

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処理教育システム”,それぞれの拠点で行う授業を他拠点で受講するための双方向配信システムである “遠隔授業システム”などの,教育・研究のインフラとなる各種情報システムを,統一的に導入・構築し,運用している.本稿では,大学統合まで (~2004年春)を第

0期,2009 年春の情報システムのリプレイスまで (2004年春~2009年春)を第 I期,それ以後 (2009年春~現在)を第 II期とに大きく分け,拠点が複数であるという観点を中心に,情報システムの構築方針や運用体制などを簡単に紹介し,課題点や改善策とをともに論ずる.

2. 第0期 (~2004春)

統合以前は,各旧大学ともに個別の組織であり,情報システムの運用・利用形態,組織体制・管理手法だけでなく,対外接続方法までもそれぞれ異なっていた.このうち旧姫路工業大学だけは既に,書写,光都,新在家という,3~15km位離れた 3拠点を有する形であった.この時点では,学内に統一的な情報システムが運用されておらず,情報センターの様な管理組織も技術を持った職員も配置されていないため,同じ学内ではあるが,地区の各部局が独自システムをそれぞれ運用・管理していた.そのため,拠点間での高速な通信基盤が必須という状況ではなかった.これら拠点間接続や学外への対外接続については,当初は拠点間の専用線を借り上げていたが,限られた予算内で出来るだけ高速な回線を利用できるかという点から,回線速度の増強や ISP の変更を状況に応じて行い,最終的には同じ ISP

ではあるものの,3拠点並列にそれぞれ最寄りのアクセスポイントに接続する形としていた.

3. 第 I期 (2004春~2009春)

2004年春に発足した県立大学は,1万人近い規模の総合大学になったが,大規模な拠点の統廃合などが行われず,旧来組織の拠点のまま新大学となったため,拠点が県内に点在する形と

なった.そこで,拠点間の学生や教員の移動面,共通教育の充実や会議面などを考慮し,遠隔授業システムを導入することとなった.また「良好なサービスをどの拠点でも同じ様に」という方針で,学生情報の共有かつ一元化,情報機器利用や図書館での認証の統一などを計ることとなった.2002年からの検討の結果,

a. “学生情報システム”

学生の履修や成績を統一的に管理する

b. “図書システム”

各拠点の学術情報館などをネットワークの活用によって利用や管理の統合を図る

c. “情報処理教育システム”

全学統合認証システムを導入し,ユーザの一元的管理,情報機器の利用環境の統一・利便性の向上を図る

d. “遠隔授業システム”

双方向授業配信システム (DV系)及び遠隔会議システム (H.323系)の 2系統

e. “ネットワークシステム”

基幹部分及びコアスイッチ,ファイアウォール,ウィルスチェックサーバなど

を導入することとなった.

3.1 情報システム構成と運用体制

まず,情報システムのインフラとして,各拠点間をいかに安定かつ高速で結べるかが不可欠であることから,2002年 4月から兵庫県が県域の情報化推進のために基幹的な情報基盤として運用している “兵庫情報ハイウェイ”1),2) (以下,HJHW) の民間系を学内 LANとして利用することとなった.

HJHW 上に,情報処理教育システムなどの「インターネット接続する拠点間接続広域ネットワーク」(通称 “学内 LAN”)用と,通信帯域確保が必要な遠隔授業システムとセキュリティ確保が必要な学生情報システムの「インターネット接続しない拠点間接続広域ネットワーク」(通称 “イントラネット”) 用の目的別に 2

つの 本学用 VLANを用意して貰い,足回りと

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表 1 各種情報システム (第 I期)

システム名 契約業者 導入システム (中心となる製品名など)

学生情報システム 東芝 (株)学務システムは “REVOLUTION”, 学生サービスは“UNIVERSAL PASSPORT”(ともに JAST(株))

図書システム リコー (株) “LIMEDIO”(リコー (株))情報処理教育システム NTT西日本 (株) 認証システムは “DEVIAS”(NEC(株))遠隔授業システム 富士通 (株) DV方式.IP-8000 (富士通 (株))ネットワークシステム NTT西日本 (株) ルータなどは CISCO(株)製品

して各拠点から最寄りの HJHWのアクセスポイント (AP)まで,目的別の 2回線ずつ (当初100Mbps,のち1Gbps)を通信事業者と契約し,物理的に分離して利用する形とした3).また地理的制約から,HJHWの APから直接,インターネット (SINET)への接続を行うこととなったため,全学統合のファイアウォール (FW)などは設けずに,各拠点個別に FWとDMZを設ける設計とした.各システムのワーキンググループ (以下“WG”)

で検討し,仕様書を策定,入札により業者と契約して導入を行った.管理運用は学内のそれぞれの担当部署である.契約業者,導入システムの中心となる製品名などを表 1に示す4).尚,大学統合と同時に,従来個々にあった大学附属図書館や情報処理室・情報処理教育センターなどの組織に代わり,全拠点に跨る図書システムと情報処理教育システムを有する,全学としての「学術総合情報センター」が組織され,拠点毎に実務担当とサービス提供窓口として「学術情報館」が設置された.

3.2 運用と課題点

導入後,システム全体としては大きなトラブルなしに運用出来たが,複数拠点を結んだ統合的な情報システムの導入は本学としては初めてであり,細かい点での様々な課題が出てきた.システム面では,運用開始後にも細かいチ

ューニングや修正を施し,改善を加えた.例えば拠点間の遠隔授業で常時使用された遠隔授業システム (DV系)では,実際に運用を開始後,ユーザからいくつかの細かい要望や意見があっ

た.教室の大きさによって教員を捉えるカメラ位置が異なるなどの要望や,制御用タッチパネルは誰にでも簡単に操作出来る様に作り込んだが,実際に運用してみると,さらに改善の余地が生じた5).また運用面では,例えば同じく遠隔授業システムで顕著だったが,利用者向けの講習会を実施したり,教員用マニュアルを用意したりしたものの,利用方法自体に戸惑う教員が多かったり,トラブルが起きた際の対応や連絡体制に課題を残した.さてこの第 I期の導入方針は「旧大学でそれ

ぞれが行っていたサービスを,できる限り同レベルで維持し,新大学へ移行する」ことを主眼としていた.これは新大学発足までの限られた期間で,運用体制も明確でないまま,各種情報システムの導入を行う必要に迫られたためである.それまで,運用体系も利用方法も,さらには予算品目やリースか買い取りかなども各旧大学個々で異なっていた.そこで新大学発足後に改めて,提供すべきサービスをどこまでとするのか,運用管理体制と情報共有体制などの確立を計った.まずは学術総合情報センターの事務体制の確立や,新大学としての規定やセキュリティポリシーの策定を行った.

4. 第 II期 (2009春~)

5年のリース期間にて導入された第 I期の各種システムは,2009年春までにリース契約が順次終了した.第 II期として,引き続き全学統合認証システムを基盤とし,ネットワークシステム上に,学生情報システム,図書システム,情報処理教育システム,遠隔授業システムを構

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築することになった.2007年春から次期システム仕様策定のための WGを立ち上げ,旧システムへの反省点・改良点を調査した上に,新システムへの希望・要望の取り込みや新技術の検討を行った.予算確保,仕様検討・策定などの作業を経て,2008年春から順次一般競争入札,同年秋に構築・導入し,2009年 3月 1日に新システムの稼働開始とした.

4.1 情報システム構成と運用体制

拠点間の通信基盤は,引き続き HJHW を用いる形で構築することとなった.HJHW もシステム更新があり,状況が大きく変化した.特に本学にとっては,マルチキャスト通信も利用可能となった点と,利用者側で用意したタグVLAN を HJHW 越しに利用することが可能となった点が大きい.そこで新システムは VLAN を中心とした構成とし,情報処理教育システム用,学生情報システム用,図書システム用,遠隔授業システム用など,利用目的別の VLAN を本学で設定し,これらを各拠点出入口のスイッチにて束ね,HJHW を通して拠点間を結ぶ構成とした.これにより,各拠点から HJHWの APへの足回りを 1回線 (1Gbps)に削減でき,費用面でも軽減できた6).

4.2 変更・改善点

今回も同様に 5年リースとなったが,景気低迷と財政事情悪化による影響で,本学の予算自体が大きく削減されており,各システムともに,教育・研究のインフラであり必須のものではあるものの,大幅な予算削減を求められた.そのため今回のリプレイスでは,教育用として必要なものや提供するべきサービスは一体何でどの程度か,利用率や教育効果と費用対効果までも考慮し,聖域なく全て見直すこととなった.また本学各拠点の規模や利用状況,拠点間の通信基盤などを考慮し,冗長性や保守対応などにある程度の割り切りを持った設計とした.

例えば,全学統合認証システムでは,第I期はDEVIAS (NEC(株)) を中心としたシステムを導入していたが,部局や拠点の新設など,組織改変のつどにモジュールの追加が必要となることが多かった.そのため,新システムでは費用面や拡張性を重視し,Microsoft ActiveDirectory

と NIS を組合せた方式を採用した.遠隔授業システムでは,従来の DV 方式か

ら,費用面や互換性に加え,拠点間通信帯域の状況も考慮し,HDTV(720p)規格の H.264方式とした.特に操作面での要望が多かったため,実際の利用者を中心に検討し,ユーザ I/F部を作り込む作業に時間を費やした.学生授業システムでは学務部を中心に検討

し,部局 (旧大学)別に未だ異なっていた帳票の形式をできる限り統合する事で,EUC (End

User Computing)のカスタマイズを減らし,費用の軽減を計った.契約業者,導入システムの中心となる製品名

などを表 2に示す.

4.3 システム移行作業と課題点

全学統合認証システムをはじめとし,各システムは他システムと相互に影響し合っているが,新旧それぞれのシステム納入業者が様々で,かつ各システムの契約開始日に微妙なずれがあるため,旧システムの未更新部分を引き続き動作させたまま,移行作業は段階を踏んで行った.移行時の問題点としてはいくつか挙げられる

が,まずはシステム別に同時並行かつ順次更新する形となった点である.加えて拠点別に学務スケジュールなどによる,搬入・工事日程もそれぞれ異なるため,各システム間での事前に充分な連携調整が必須であった.必要に応じて既存機器の設定の変更,また,各拠点でのネットワーク設計の大幅な変更に伴い,仮設配線などの一時的措置も必要となった7).運用開始後に発覚した問題として,全学統合

認証システムでのパスワード変更時の伝播時間問題がある.各拠点に,全学統合認証マスターサーバの配下としてのスレーブサーバを設置し

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表 2 各種情報システム (第 II期)

システム名 契約業者 導入システム (中心となる製品名など)

学生情報システム NTT西日本 (株)学務システムは “REVOLUTION”, 学生サービスは“UNIVERSAL PASSPORT”(ともに JAST(株))

図書システム リコー (株) “LIMEDIO”(リコー (株))情報処理教育システム 富士通 (株) 認証システムは “ICAssist”(富士通 (株))遠隔授業システム NTT西日本 (株) H.264方式.“Lifesize Room”(Lifesize社)ネットワークシステム NTT西日本 (株) ルータなどは CISCO(株)製品

てあり,ユーザがパスワードを変更すると,まずそこの拠点のスレーブサーバが更新され,マスターサーバ経由で他拠点のスレーブサーバへと変更が伝播される.仕様の「概ね 5分以内に反映すること」に対し,当初,一ユーザが変更を行う度に同期スクリプトによって全拠点へと反映される逐次処理型で構築していたが,しかし初回の授業などで数十名規模で同時複数的にパスワードが変更されると NIS周りで競合が発生し,反映に数十分から数時間かかる現象が生じた.これに対し,パスワード変更要求をまとめて一定時間単位で処理するバッチ処理型に構築し直し,当初の計画に準じた処理性能を確保した.綿密な連携調整と事前テストにより,これを除いて他にさほど大きなトラブルなどは生じなかった.

5. 複数拠点であることでの課題点大学統合後,各種情報システムを導入・運用してきたが,これらに大きく影響する様な,それ以外のシステムの追加導入や組織体制自体の改変などを表 3に示す.この様な追加・改変は大学組織としては起こり得ることではあるが,ここでは拠点が複数であることから生じる問題点を中心に述べる.まず,拠点間に高速通信を安定的に確保する必要がある.例えば専用線を借り上げるにも,県域に幅広く点在する多くの拠点を全て結ぶことは予算的に大変困難である.これに関しては,現状ではHJHWを無償で利用出来るために大きな問題とはなっていないが,県の方針如

何であり,今後どうなるかは不明である.各種情報システムを全学的に統合し,サーバ

なども可能な限り集約を計っているが,拠点が離れていることで様々な問題がある.例えば,利用者がどの拠点からも同じ環境で利用出来る様にするために,ファイルサーバを全学で統合することを検討したが,遠隔による遅延などの問題により現実的には難しい.さらに,工事や停電などは拠点別で行われており,その際に他拠点に出来る限り影響を及ぼさない様にしておく必要がある.技術面の問題解決だけでなく,運用面や連絡体制も確立しておかねばならない.また運用技術を持つ職員らが各拠点単位には配置されていないため,トラブルが生じた際,遠隔から作業可能なものであればよいが,現場に行く必要が生じた場合は,移動に時間がかかり,復旧が遅くなる.そのため,当該拠点の職員が不慣れであったとしても,出来る限り対応可能な様に,作業手順の教育やマニュアル作成などが必要となった.導入・運用してきた各種情報システム以外に,特に事務処理系のシステムが,学務課等を中心としていくつか新規導入された.これらのシステム導入にあたり,セキュリティ面での指導,学内LANへの接続や必要に応じて全学統合認証のデータ参照を許可を行った.この際,利用方法によってはセキュリティ確保のために,別ネットワークとすることで,拠点間 VLANの追加の作業が生じる可能性もあり,導入の初期段階からのネットワーク設計を含めた充分な協議が必要であった.表 3にも示す様に,新大学として発足後,部

局などが増えるだけでなく,本学の情報シス

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表 3 拠点・部局などの新設・移転,別途導入されたシステム (主なもの)

2004 開設 地域ケア開発研究所 (明石) 2011 新拠点 神戸ポートアイランド2006 導入 薬品管理システム [工] 開設 シミュレーション学研究科2007 開設 会計研究科 (学園都市) (ポーアイ)

開設 附属中学校 (播磨光都) 移転 応用情報学研究科2008 導入 入試業務システム [学務] (ハーバーランド→ポーアイ)2009 開設 緑環境景観マネジメント 移転 大学本部

研究科 (淡路) (ハーバーランド→学園都市)接続 自然・環境科学研究所 (丹波) 新拠点 HAT神戸導入 緊急連絡メールシステム [学務] 開設 防災教育センター (HAT神戸)

2010 開設 経営研究科 (学園都市) 導入 キャリア支援システム [学務]新拠点 産学連携センター (姫路駅前)

テムに接続すべき拠点自体がいくつか新設されてきた.その際,まずは最寄りのHJHWのアクセスポイントまでの回線を新規に契約し,通信基盤を確保する.その上で,必要なネットワークを利用出来る様にする必要がある.これには,拠点の規模次第であるが,第 I期ではVPN ルータを用いて行っていた.第 II期では拠点出入口に VLAN 対応 L2スイッチを設置することで,必要な VLANをポート単位で用意し,実現している.さらに,拠点の新設と同時に部局の移転というケースもあった.2011年春,神戸ポートアイランドに拠点が新設され,シミュレーション学研究科が開設された.これと同時に神戸ハーバーランドにあった大学本部と応用情報学研究科がそれぞれ,神戸学園都市と神戸ポートアイランドへと移転した.この場合,上記の作業でネットワークを準備した上に,新部局での教育用情報システム機器の追加導入の作業,さらには神戸ハーバーランドにあった部局 (大学本部と応用情報)が,分離して別拠点へ移行することで,全学統合認証システム側に部局別フラグの拡張など,大きな変更が必要となった.また,特に大学本部には,遠隔授業システムの制御コントローラや学生情報システムの主要機器類があるため,移設にあたり,全学としての業務に差し支えのない日時の調整と作業工程の綿密な摺り合わせ,また各拠点にあるクライアント機器の一部設定変更などの作業も必要となった.

6. まとめ本学の各種情報システムは,2004年春の大

学統合以後,県内に点在した複数拠点を結んで現在までの 7年半の運用している.これらについて,大学統合時点と 2009年春の 2度にわたる情報システムの入れ換えの際の設計と構築,移行作業などについてと,複数拠点であるが故に生じる課題点などについて報告した.システム面では,各種情報システムを全学的

に統合し,サーバなども可能な限りの集約を計っている.完全独立の第 0期から,第 I期システムは旧大学の拠点間を結びつけ,拠点単位での言わば “半独立型”となり,第 II期システムでは VLANを駆使して “資源の相互利用型”

により近付いたと言えるであろう.しかし拠点が離れていることから来る技術面での種々の問題から,現時点では全てのサーバ類を一箇所で統合することは果たせていない.また,ネットワーク越しに遠隔キャンパスの資源を利用し合う,相互利用型であるがために,あるキャンパスでの障害が,思わぬところに影響したり,全キャンパスに影響してしまうなどの想定外の障害も発生した.運用面では,予算面や利用方法,ネットワー

クに対する意識などについて,各拠点別の旧来組織時代の手法や認識を完全に解消して全学均一になっている,とまでは言えないのが現状であり,これはやはり拠点が離れていることが大きい要因であろう.規定やセキュリティポリ

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シーなどを策定し,運用体制や事務体制はようやく確立出来つつあるが,人員面や技術面,セキュリティに対する意識差の解消など,サービスの均一化だけでなく,全学的としての体制作りや,さらなる意識の改革・技術の向上を計る必要がある.現在の第 II期システムも 2014年春までには

順次リース契約が終了するため,2012年度からは第 III期の検討に入る予定である.さらに,近々の独立法人化も検討されており,第 II期までで導入してたシステム以外に,事務系各種情報システムの導入が必要となったり,HJHW

の利用手法自体にも大きく変更が必要となるかもしれない.現システムの運用を今後継続的に評価し,生じた課題点などを,次期システムでの検討項目としたい.

参考文献(1) URL http://web.pref.hyogo.jp/

pa11/pa11 000000121.html

(2) 津川誠司: “兵庫県における情報通信基盤の運用と課題”, 情報処理学会研究報告, 2009-

IOT-7, 10, pp. 1 – 6 (2009)

(3) 村上登志男,林 治尚: “複数拠点を結ぶ学校組織内ネットワーク運用事例”, 情報処理学会研究報告, 2007-DSM-46, pp. 37 – 42

(2007)

(4) 林 治尚, 高橋 豐, 馬越健次, 鈴木 胖: “大学統合に伴う学内ネットワークの再構築と遠隔授業システムの構築及び運用”, 大学情報システム環境研究, 9, pp. 59 – 70 (2006)

(5) 林治尚, 高橋豐, 馬越健次, 鈴木胖: “遠隔授業システムの運用とその評価”, 大学情報システム環境研究, 12, pp. 66 – 77 (2009)

(6) 林 治尚, 馬越健次, 鈴木 胖: “兵庫県立大学における情報新システムの構築と設計”,

大学情報システム環境研究, 13, pp. 85 –

93 (2010)

(7) 林治尚, 馬越健次, 鈴木胖, 太田勲: “兵庫県立大学における情報新システムの構築と移行”, 情報処理学会研究報告, 2010-IOT-

10, 3, pp. 1 – 6 (2010)

  

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