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− 27 − B 級グルメによる地域活性化 〜津山ホルモンうどんを中心に〜 目 次 第1章 はじめに ………………………………………………… 28 第1節 研究の目的 …………………………………………… 28 第2節 B 級グルメとは何か? ……………………………… 29 第2章 B 級グルメの現状と分析 ……………………………… 30 第1節 主な行事 ……………………………………………… 30 (1)グルメフェスタ ……………………………………… 30 (2)B − 1 グランプリ …………………………………… 32 第2節 全国のB級グルメ …………………………………… 35 第3章 津山ホルモンうどん …………………………………… 37 第1節 歴史 …………………………………………………… 37 第2節 B 級グルメの大会に出るにあたって ……………… 39 第3節 津山ホルモンうどんの現状 ………………………… 40 第4節 各加盟店の紹介 ……………………………………… 43 第4章 B 級グルメを使った町おこしの成功例 ……………… 47 第1節 成功した町の紹介 …………………………………… 47 (1)富士宮やきそば ……………………………………… 47 (2)佐世保バーガー ……………………………………… 49 第2節 成功した町の共通点 ………………………………… 51 第5章 津山ホルモンうどんと地域活性化の関係 …………… 54 第1節 地域活性化への貢献 ………………………………… 54 (1)津山ホルモンうどん飲食店関係者の立場から ………………………………………… 54 (2)一般地元住民の立場から …………………………… 55 (3)行政の立場から ……………………………………… 57 (4)観光業者の立場から ………………………………… 58 (5)観光客の立場から …………………………………… 60 第2節 PR活動 ……………………………………………… 62 (1)オリジナル商品 ……………………………………… 62 (2)映画 …………………………………………………… 64 第3節 これからの津山市の観光の課題 …………………… 66 第6章 結論 ……………………………………………………… 67 芦田 沙織・早川 知佳 間島 彩菜・宮㟢 美希

B級グルメによる地域活性化 - arskiu.net · が「津山ホルモンうどん」という料理についてプレゼンテーショ ンした。そのプレゼンテーションがきっかけで

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B 級グルメによる地域活性化〜津山ホルモンうどんを中心に〜

目 次第1章 はじめに ………………………………………………… 28 第1節 研究の目的 …………………………………………… 28 第2節 B 級グルメとは何か? ……………………………… 29第2章 B 級グルメの現状と分析 ……………………………… 30 第1節 主な行事 ……………………………………………… 30  (1)グルメフェスタ ……………………………………… 30  (2)B − 1 グランプリ …………………………………… 32 第2節 全国のB級グルメ …………………………………… 35第3章 津山ホルモンうどん …………………………………… 37 第1節 歴史 …………………………………………………… 37 第2節 B 級グルメの大会に出るにあたって ……………… 39 第3節 津山ホルモンうどんの現状 ………………………… 40 第4節 各加盟店の紹介 ……………………………………… 43第4章 B 級グルメを使った町おこしの成功例 ……………… 47 第1節 成功した町の紹介 …………………………………… 47  (1)富士宮やきそば ……………………………………… 47  (2)佐世保バーガー ……………………………………… 49 第2節 成功した町の共通点 ………………………………… 51第5章 津山ホルモンうどんと地域活性化の関係 …………… 54 第1節 地域活性化への貢献 ………………………………… 54  (1)津山ホルモンうどん飲食店関係者の立場から            ………………………………………… 54  (2)一般地元住民の立場から …………………………… 55  (3)行政の立場から ……………………………………… 57  (4)観光業者の立場から ………………………………… 58  (5)観光客の立場から …………………………………… 60 第2節 PR活動 ……………………………………………… 62  (1)オリジナル商品 ……………………………………… 62  (2)映画 …………………………………………………… 64 第3節 これからの津山市の観光の課題 …………………… 66第6章 結論 ……………………………………………………… 67

芦田 沙織・早川 知佳間島 彩菜・宮㟢 美希

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第1章 はじめに

第1節 研究の目的

 大学3回生の講義で、「私の街のお宝」をプレゼンテーションする機会があった。その中で、岡山県出身の筆者の一人(芦田)が「津山ホルモンうどん」という料理についてプレゼンテーションした。そのプレゼンテーションがきっかけで “そんな変わった食べ物があるの?”と、その料理の存在を初めて知った。その津山ホルモンうどんが日本一の B 級グルメを決める大会である B−1グランプリで全国第3位に入賞し、津山市の観光の活性に大きく貢献しているということを聞いた。私たちが思っているホルモンという食べ物は、焼肉のメニューの一部でしかないというイメージだったが、うどんの中にホルモンを入れるという斬新な料理があることに驚いたと同時に本当に美味しいのかどうか分からないという半信半疑な気持ちがあった。 また、津山ホルモンうどん以外で、全国各地にはどのような変わった料理があるのかということにも興味を持ち、調べてみようと思った。 実際に、岡山県津山市へ津山ホルモンうどんを食べに行く計画

写真 1:橋野食堂 筆者撮影

を立て、去年の 11月末にゼミの友人たちとの日帰り旅行で

「元祖・津山ホルモンうどん」で有名になった橋野食堂を訪れた。 B −1グランプリの影響により、店の

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外は長蛇の列で、津山ホルモンうどんを食べるために1時間半ほど並んだ。食べてみると、ピリ辛味噌味でホルモンもたくさん入っており、とても美味しかった。 これを機に、ここまでの成長を遂げた津山ホルモンうどんがどのように津山市の活性化に繋がり、どのように発展していくのか、そのルーツとビジョンを調べようと考えた。

第2節 B 級グルメとは何か?

 B 級グルメとは1)、それぞれの土地の地域食材を活用した安くて美味しいと言われ、日常的に食べられている料理のことである。高級な食材や一流のサービスによる A 級グルメとは違うが、味や質が劣っているという意味ではない。誰でも気軽に食べられる料理という意味として B 級グルメと呼ばれるようになった。B級グルメと郷土料理は同じものだと勘違いしている人が多いが、それは全く異なるものである。郷土料理は、その地域特有の食材と地域独自の調理方法で作られた地域固有の料理のことで歴史も深いが、B 級グルメのような町おこしのために存在しているものではない。B 級グルメは、郷土料理に比べて農山漁村との繋がりが薄く、売り出しが安易な町おこしの材料として用いられた。その点では、農山漁村の郷土料理百選とは由来が異なっている。 B 級グルメという言葉については、1985 年の「東京グルメ通信 B 級グルメの逆襲」と 1986 年の「B 級グルメシリーズ」が刊行されたことから、B 級グルメという用語と概念が広まったと言われている。 地元の人々の文化に浸透している料理である B 級グルメだが、

1)以下「B 級グルメとは〜特徴である」については Web サイトコトバンク、  http://kotobank.jp/word/B%E7%B4%9A%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%A1  Web サイトエムペ http://m-pe.tv/u/page.php?uid=bkyu&id=3 を参考にしてまと

めている。

B 級グルメによる地域活性化

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地元では当たり前の料理だったものが、実は、地元を PR する有効な資源ということに気付き、地元地域の昔ながらの料理が見直され始めている。B 級グルメを通じて、その地域の歴史や暮らしに触れられることが特徴である。 そんな B 級グルメがここまでの成長を遂げた根底には、日本の経済が大きく関わっている。不景気な状況が続き、贅沢な食材や調理ではなく、みんなが“安くて美味しい料理”に自然と関心を持ち始めつつある。B 級グルメを利用した町おこしは全国各地で行われており、食による地域ブランドの確立を目指して活動する団体やグループが年々着実に増えてきていると言える。

第2章 B 級グルメの現状と分析

 第1節 主な行事

(1)グルメフェスタ 全国各地で、地元の“食”が集結する食博覧会が行われている。その中でも、大阪府で大阪食博覧会や兵庫県で姫路食博覧会などが開催されている。 ①大阪食博覧会  大阪食博覧会は2)、「食を知り、食を楽しむ」というキャッチフレーズから 1985 年に始まり、4年に1度のペースで開催されている。老若男女問わず、多くの来訪客が集まり、食の大切さを発見するために行われている。出店店舗は、日本国内だけでなく、世界 22 ヶ国にも及び、様々な食材や料理が販売される。日本からは、全国のご当地グルメや普段食べることのできない地域独特の料理など、高級食材から身近な庶民の味まで楽しむことができ

2) 以下「大阪食博覧会」については Web サイト宴 http://www.shokuhaku.gr.jp/ を参考にしてまとめている。

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る。毎年 10 日間ほどで行われ、約6万人もの入場客が訪れる。2009 年に行われた大阪食博覧会の経済効果として、約 203 億円という数字が出されている。 ②姫路食博覧会 姫路食博覧会は3)、毎年 11 月中旬〜下旬の3日間ほどで開催される姫路市のご当地グルメが集まる食のイベントである。2010年は、翌年に B −1グランプリという B 級グルメの大会を控えていることもあり、過去最多の 73 店舗が出店した。地元播磨のご当地グルメは 37 店舗、姫路市の B 級グルメを代表する姫路おでんは 12 店舗、兵庫近隣のご当地グルメは 10 店舗、そして、B−1グランプリの常連の 14 店舗が参加した。全国各地から多くの人が姫路市を訪れ、どこのブースも1時間待ちは当たり前だという状況。人気店は、午前中で完売するほどの人気ぶりであった。 2011 年 11 月には、姫路市で B −1グランプリと姫路食博覧会が同時開催されるため、姫路市に及ぼす経済効果は大きいものになるだろう。 ③ B 級グルメフェスタ in 津山(2010 年3月 20・21 日)4)

 今回、研究のテーマに挙げている津山ホルモンうどんの町である岡山県津山市でも B 級グルメフェスタを開催し、全国各地から様々な B 級グルメが集結した。上記の大阪食博覧会や姫路食博覧会のように定期的に行われるものではないが、開催された3月 20・21 日の2日間で、津山市の人口の約 10 万人とほぼ同じくらいの来訪客が訪れ、大いに盛り上がった。

B 級グルメによる地域活性化

3)以下「姫路食博覧会」については Web サイトひめまち  http://www.geocities.jp/himemachi/event/himeji-syokuhaku.html を参考にしてま

とめている。4)以下「B 級グルメ in 津山」については Web サイト朝日新聞社  http://www.asahi.com/food/news/OSK201003190057.html を参考にしてまとめて

いる。

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 主に出店している B 級グルメの店舗は、地元の津山ホルモンうどんの他に青森県八戸市の八戸せんべい汁、秋田県横手市の横手やきそば、神奈川県厚木市の厚木シロコロホルモン、山梨県甲府市の甲府もつ煮、静岡県富士宮市の富士宮やきそばなど、B −1グランプリで一躍有名になったグルメなどが多数出店し、どのお店も行列ができるほどであった。 津山市の年間観光客数は約 60 万人で、その中で最も観光客が訪れるイベントである「津山さくらまつり」でさえ2週間で約10 万人であるため、B 級グルメが津山市にもたらした影響はかなり大きいと言える。 このようなイベントを行うことにより、主催会場の活性化や出店店舗の知名度などに絶大な影響やメリットがある。

(2)B −1グランプリ 「B −1グランプリ」の正式名称は5)、「B 級ご当地グルメの祭典! B −1グランプリ」という。安くて美味しく、地元で愛されている地域の名物料理の日本一を決めようとする趣旨の大会であり、事業元は愛Bリーグ(B級ご当地グルメで町おこし団体連絡協議会)である。多くの人は、日本最大のグルメフェスタととらえがちであるが、“料理を売ること”ではなく“料理を通じて町を売ること”が目的である。自分たちの町を大いに PR することによって、活性化に繋げていくことを理念としており、一人でも多くの観光客に現地に足を運んでもらおうという町おこし活動の日本一を競うイベントとして誕生した。 毎年、この日のために、北は北海道から南は九州まで、全国各

5)以下「B −1グランプリ」については Web サイト Wikipedia  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A

%E3%83%BC%E3%82%B8 を参考にしてまとめている。

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地から B 級グルメを出店する団体が集まる。これに対し、来場客はイベントチケットを購入し、興味のある料理を食べ、味や地域のパフォーマンス、対応などで総合評価して投票する。投票方法としては、気に入った店舗の投票箱に使用済みの割り箸(1人1膳の全2票)を入れるというオリジナルの投票である。最も気に入った料理には、2票投票してもいい。来場客が投票した箸の総重量により各グランプリを決定する。 今まで行われてきた大会と内容を追いかけてみる。 第1回目は6)、2006 年2月に青森県八戸市で開催された。当初、八戸せんべい汁の普及を目指す市民団体が、ご当地グルメで町おこしをしようと発案した。同様の発想を持って活動している全国の団体に参加を呼び掛けたことがきっかけで、八戸市で大会が行われた。この大会では、10 団体が出店し、2日間で約1万7千人の来場客が訪れた。この大会の開催を通じ、B −1グランプリがメジャーなご当地グルメへの道を拓く日が来ることを願い、東京ドームでの開催を目指している。 第2回目は、2007 年6月に静岡県富士宮市で開催された。第1回目の投票の結果、富士宮市の富士宮やきそばがゴールドグランプリを獲得し、第2回目のB−1グランプリの開催地権を得た。全国各地から 21 団体(前回の八戸大会の約2倍)、県内から 5 団体が参戦した。“食と健康”をキーワードに、富士宮市も積極的に観光の施策に取り組んだ。2日間で約 25 万人が来場し、どのブースも長蛇の列ができるほどの大イベントとなった。 第3回目は、2008年11月に福岡県久留米市で開催された。今回、

「久留米市の街中を元気にする」という中心市街地の活性化を目標に掲げた。全国各地から 24 団体が出店し、くるめ食の祭典と

6)以下「B −1グランプリの第1回〜第6回の開催内容」については Web サイト B−1グランプリ公式サイト http://b-1grandprix.com/ を参考にしてまとめている。

B 級グルメによる地域活性化

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合わせて開催された。第2回目の大会での商品提供の時間を反省し、今回の大会では、食券制を導入してスムーズに商品を受け取れるように配慮した。また、使われる竹割り箸は、独自に開発された安全な化合物で抗菌と防カビ処理がされており、自然な竹の色と香りが保たれたものが使用された。約 20 万3千人が来場した。 第4回目は、2009 年9月に秋田県横手市で開催された。26 団体が出店し、人口 10 万人の町に2日間で 26 万7千人もの来場客が訪れ、大変注目された。掛け声と共に開店し、数分後には行列ができた。人気の団体の待ち時間は、2時間も並ばなければいけないほどであった。みごと、開催地である横手市の横手やきそばがゴールドグランプリに輝いた。 第5回目は、2010 年9月に神奈川県厚木市で開催された。首都圏で初めての開催地となった。全国各地から 46 団体が出店し、2日間で 43 万5千人(横手大会の約2倍)の来場客が訪れた。料理を購入することに並ぶのはもちろんのこと、チケットを購入することですら困難な状況であった。ご当地グルメの頂点を代表するかのようなイベントとなり、大いに盛り上がった。この大会がきっかけで、B −1グランプリの知名度が更に高まった。そして、ゴールドグランプリに初出場の山梨県甲府市の甲府鳥もつ煮、シルバーグランプリには初出場の岡山県市真庭市の蒜山やきそばが輝いた。 第6回目は、2011 年 11 月に兵庫県姫路市で開催された。関西では初めての開催で、史上最多の 63 団体(3ブースに分かれ)が出店した。同時に姫路食博覧会(45 団体)も開催され、過去最高の約 51 万5千人もの来場客が訪れ、姫路市が大いに盛り上がった。そして我らが「津山ホルモンうどん」がシルバーグランプリの栄光を手に入れた。 実際に、卒業論文メンバーの芦田と間島も B −1グランプリを訪れたが、どこのブースも魅力的なパフォーマンスをしており、

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待ち時間も短く感じ、とても有意義な1日となった。来年は 10月に北九州で行われる予定となっている。 何年にも渡って B −1グランプリを開催することで、B 級グルメの知名度が広まり、今では巨大な食のイベントとして成長するまでになった。これからも多くの観光客に全国 B 級グルメを楽しんでもらうことや現地に足を運んでもらうことを期待している。みんなの力で各地域を盛り上げることによって、日本全体を元気にするという効果に繋がる。その集大成が、年に1回行われる B −1グランプリの開催の意味である。

第2節 全国の B 級グルメ

 最新の B −1グランプリの例として、2010 年度の B −1グランプリ厚木大会7)を紹介しておく。(2010 年9月 18・19 日 B−1グランプリ in 厚木大会より) 1位:甲府鳥もつ煮 山梨県甲府市    少量のタレと砂糖を使い、強火で照り煮し、鶏のもつを

コーティングする料理。 2位:蒜山やきそば 岡山県真庭市    味噌ダレで焼き上げる、かしわ肉を使用した幻のタレ焼

きそば。 3位:八戸せんべい汁 青森県八戸市    ダシに小麦粉と塩で作る鍋用のおつゆせんべいを割り、

鍋に入れて煮込んだ料理。 4位:津山ホルモンうどん 岡山県津山市    醤油・味噌ダレで味付けした、牛のホルモンとうどんを

7)以下「B −1厚木大会結果」については Web サイト B 級ご当地グルメの祭典!「B−1グランプリ in 厚木」公式サイト http://atsugi.b-1gp.jp/info/menu/index.htmlを参考にしてまとめている。

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混ぜた料理。 5位:三崎マグロラーメン 神奈川県三浦市    スープにマグロの兜ダシを入れ、トッピングにマグロを

使った料理。 大会後、1位の甲府鳥もつ煮の経済効果は 28 億円、2位の蒜山やきそばは 16 億 5300 万円、3位の八戸せんべい汁は 536 億円、と B −1グランプリの経済効果で各地域の活性化に大きく貢献している。

 次に、卒業論文メンバーの出身地の B 級グルメを挙げてみる。 早川:たこやき 大阪府大阪市     小麦粉の生地にたこを入れて円球状に焼いたもの。世

界的にも広く知られており、非常に知名度の高い B 級グルメである。

 間島:姫路おでん 8) 兵庫県姫路市     しょうが醤油で食べるおでん。ほとんどの飲食店やコ

ンビニに置いてあるほど、姫路市の代表的な食べ物として存在している。

 宮崎:今治焼豚卵飯 愛媛県今治市     今治市で賄い飯として発祥した焼豚と目玉焼きが乗っ

たシンプルな料理。

 次に、卒論メンバーの気になった B 級グルメを挙げてみる。 ・大湊海軍コロッケ9) 青森県むつ市

8)以下「姫路おでんと今治焼豚卵飯」については『B 級ご当地グルメの祭典! B −1グランプリ in 姫路公式ガイドブック』を参考にしてまとめている。

9)以下「大湊海軍カレー〜薬師馬カレー」までについては Wikipedia  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A

%E3%83%BC%E3%82%B8 を参考にしてまとめている。

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   明治時代に旧海軍が食べていたコロッケをモチーフにしている。牛脂の香ばしい香りと肉あんの中から溶け出すチーズが特徴のコロッケ。

・行田ゼリーフライ 埼玉県行田市   おからとじゃがいものコロッケのようなもの。・つけナポリタン 静岡県富士市   トマトと鳥ガラスープがベース。濃厚な味かと思いきや

さっぱりとした味で、太麺との絡み具合が抜群の料理。・豆腐ちくわ 鳥取県鳥取市   豆腐7:すり身3の割合で作られたもの。・シシリアンライス 佐賀県佐賀市   ご飯の上に炒めた肉と生野菜を乗せ、マヨネーズやドレッ

シングをかけたもの。・薬師馬カレー 熊本県山鹿市   山鹿市の有名な馬肉を使用して開発されたカレー。

 これらの B 級グルメも、ここでは紹介されなかった B 級グルメも、それぞれ地元ならではの風土や食材を活かしたものばかりである。B 級グルメは、気軽に食べられるご当地グルメとして多くの人々に愛されている。

第3章 津山ホルモンうどん

第1節 歴史

 中国地方は10)、良質なブランド和牛の放牧に適した気候であり、

10)以下「中国地方は、〜定着するようになった」については Web サイト津山ホルモンうどん研究会公式サイト http://tsuyama-horumonudon.com/ を参考にしてまとめている。

B 級グルメによる地域活性化

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津山地域も昔から和牛の飼育が盛んだった。食肉牛としての需要が高まる中、副産物のホルモンなどは余る傾向にあった。しかし、ホルモンは比較的安く手に入れることができるため、鉄板焼きのお店を中心にうどんなどの食材に使われるようになった。 「津山ホルモンうどん」は戦後間もなく、牛ホルモン焼を食べたあとの締めとして、うどんを入れて食べたことがはじまりだと言われている。現在のように 「ホルモンうどん」 というメニューで示されておらず、裏メニューとして提供していた。 ホルモンは脂の甘みが特徴であり、鉄板で調理する方が美味しく食べられるため、網焼きの焼肉が主流になった今でも、津山市内には鉄板焼肉店が少なからず残っている。 正直なところ、津山市民は牛肉にこだわる市民性であるが、ホルモンうどんは酒のつまみとしての扱いであったため、意外と知られていなかった。しかし、平成 17 年の岡山国体で、このホルモンうどんを選手や関係者の方々におもてなし料理として紹介しようと、国体職員と市民有志によって「津山ホルモンうどんマップ作製委員会」(後に「津山ホルモンうどん研究会」に改称)が結成され、津山ホルモンうどんの PR 活動を始めた。そして、その活動がきっかけで津山ホルモンうどんの存在は世間に大きく知られるようになり、津山市内外のイベントにも積極的に出向くようになった。 岡山県外でも PR 活動を行い、マスコミやインターネットを通じた情報発信により全国各地からの来訪客が増加し、平成 21 年の B −1グランプリ in 横手大会で3位入賞、翌年 22 年の厚木大会で4位入賞を果たし、津山ホルモンうどんは津山市の定番メニューとして定着するようになった。そして、同年の県内の経済効果が8億円のデータが11)出されるなど、津山市内はホルモンうどんで非常に盛り上がりを見せるようになった。11)データについては『津山ホルモンうどん地図』を参考にした。

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第2節 B 級グルメの大会に出るにあたって

 ことの始まりは、第1節にも述べたように、平成 17 年の12)岡山国体で選手や関係者の方々へのおもてなし料理として「津山ホルモンうどん」を紹介することを目的に国体職員と有志の津山市民を中心に「津山ホルモンうどんマップ作製委員会」が結成されたことであった。しかし、実際に国体では国体業務が多忙であったため、マップ作成までには至らなかった。 翌年 18 年、津山ホルモンうどんマップ作成委員会はマップを作成するために津山市内の店舗の食べ歩き調査を行い、手作りマップを作成した。そのマップを津山市出身の B’z の稲葉浩志氏にちなんだイベント「B’z コピーバンドコンテスト」で出場者や来場者に配布し、地元のマスコミにも取り上げられ、一定の盛り上がりを得た。そして、各種イベントで津山ホルモンうどんを出店し、PR 活動を行うようになった。 平成 19 年 10 月から翌年の3月にかけて、合併により広がった津山市内全域で再び食べ歩き調査を行った。調査した津山市内の店舗の中から 25 店舗を厳選し、改訂版の「津山ホルモンうどんマップ」を作成し、会の名称も「津山ホルモンうどん研究会」と改称して活動するようになった。 その後も各地のイベントで津山ホルモンうどんを PR し、平成20 年、ついに愛 B リーグ(B −1グランプリ主催の団体)に入会し、ホルモンうどんマップも1万5千部増刷して知名度を高める取り組みにもいっそう力が入るようになった。岡山県内だけでなく、東京や大阪、長崎など県外のイベントにも参加し、PR 販売を行った。全国各地を飛び回り、PR 販売を積み重ねることに

B 級グルメによる地域活性化

12)以下「平成 17 年の〜 PR 活動を行っている」については Web サイト津山ホルモンうどん研究会公式サイト http://www.asahi.com/food/news/OSK201003190057.html を参考にしてまとめている。

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よって、全国に津山ホルモンうどんの存在が知られるようになった。 平成 21 年には、津山ホルモンうどんによる経済効果が8億円というデータが出され、来訪客も前年(平成 20 年)より約2割増となった。そして、同年の9月に行われた第4回目の B −1グランプリ in 横手大会に参加し、3位入賞に輝き、更に津山ホルモンうどんの知名度が高まるきっかけとなった。この大会に入賞してからイベントや講演、視察依頼が増えていき、ますます盛り上がりを見せている。 あらゆる B 級グルメの大会に出場するにあたって、全国各地のイベントに積極的に参加し、PR 活動を行っている。少しでも多くの来場客に津山ホルモンうどんを提供するために13)大会前には予行練習として、本番と同じようにテントを立てて鉄板の配置を確認したり、実際に調理をして焼き方の確認や点検をして大会に備えるなど、日々努力をし続けている。

第3節 津山ホルモンうどんの現状

 現在14)、津山市内には 32 店舗の鉄板焼店、焼肉店が下記の条件を満たした上で、研究会協力店として津山ホルモンうどんを提供している。

(津山ホルモンうどんマップより)① 津山のまちづくりに資するため、来店客に観光案内がで

き、おもてなしの気持ちで接する店であること。② 津山ホルモンうどん研究会の活動に協力し、研究会主催

の研修会には積極的に参加すること。

13)以下「津山ホルモンうどんを提供するために〜点検をして大会に備える」については Web サイト津山瓦版 http://www.e-tsuyama.com/ を参考にまとめている。

14)「現在、〜見やすいように記されている」については『ホルモンうどん地図』を参考にしてまとめている。

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B 級グルメによる地域活性化

③ ホルモンうどんの調理にあたっては、次の基準に即し提供する店であること。

 Ⅰ.津山食肉処理センターで加工または作州域内の精肉店・業者などから仕入れた国産牛のミックスホルモン(小腸、大腸、ミノ、ハツ、センマイなどの混合)を使用し、1人前に概ね 80 g以上入れること。

 Ⅱ.基本的に味噌味、醤油味のタレで味付けすること。(補助的にソースなどを使うことは可。)

 Ⅲ.大型鉄板で調理し、焼うどんとして提供すること。(煮る場合は「煮込みうどん」または「ホルモンうどん鍋」などと表記すること。)

 ④ 1食あたり、1,000 円未満で提供すること。 その 32 店舗が記されたホルモンうどんマップは津山市内の観光案内所や Web からなど気軽に入手することができる。「市内中心部」、「中心部北部」、「津山市東部」、「高野地区周辺」、「東津山駅周辺」、「津山駅周辺」、「津山市西部」と7地区に分けて見やすいように記されている。これは、来訪客が「今度はこの地区のお店に行ってみよう」「帰りはこの観光地に行きたいから 1 番近いこの地区のお店に行ってみよう」など、リピーターを増やす効果や、どの店に行くかを選ぶ楽しさを感じてもらえる効果があると言える。B − 1 グランプリで入賞して1年、2年経っても週末には各店舗に行列ができるほどの人気ぶりである。 山陽新聞(2011 年 10 月1日)によると15)、津山市が津山ホルモンうどんの「2010 年度の B 級ご当地グルメの経済波及効果」26 億 8700 万円に広告宣伝効果と菓子などのホルモンうどん関連商品の売り上げ計約3億2千万円を加算した結果、約 30 億円に

15)以下「山陽新聞(2011 年 10 月1日)によると〜大変大きなものとなった」については山陽新聞 2011 年 10 月1日分を参考にしてまとめている。

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上る経済波及効果が出たということを発表したと述べた。 津山ホルモンうどんの来客数は 33 万人。飲食代や宿泊費、原材料購入費などで、津山市内で 12 億 700 万円、市外で 14 億8000 万円という波及効果を招いた。そして、津山ホルモンうどん関連商品の売り上げも加算され、津山ホルモンうどんによる地域経済の影響は大変大きなものとなった。  津山ホルモンうどん研究会の活動もますます盛んになり、今後の活動も注目されるであろう。PR活動(講演会、視察、イベントなど)の件数を集計し、まとめたものが図表1である。

図表1:津山ホルモンうどん研究会の主な活動件数の推移(津山ホルモンうどん研究会HP参考)

グラフ:筆者作成

01020304050607080

件数

 津山ホルモンうどん研究会が結成されて活動を始めた当初(平成 18 年〜 19 年)と B −1グランプリで入賞した平成 21 年の主な活動の件数を比べると、約 10 倍伸び、翌年 22 年は更に活動の件数は増えて約 15 倍と伸び上がっている。活動件数が増えるということは、知名度も高くなるということで、B 級グルメ人気が及ぼす影響がどれほど大きいかということがよく分かる。

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第4節 各加盟店の紹介

 橋野食堂は、津山市川崎にある創業 120 年目の店である。 津山にあるホルモンうどん店の知名度 No.1 と言われ、先祖代々続いており歴史ある昔ながらの店である。その名の通り、橋野食堂では土日は必ずといって良いほど行列ができ、ブームピーク時では2時間以上待ちであった。平日でも常に満席で曜日を問わず全国各地からホルモンうどんを食べに観光客が訪れる人気ぶりだ。

B 級グルメによる地域活性化

写真 2:橋野食堂外観 2011 年 10 月筆者撮影

 お店のこだわりとして、ホルモンうどんのタレは自家製の味噌だれである。タレの中身として、14 種類の食材を使い味噌と醤油をベースにりんご、ゆず、にんにくなどを入れ一から作られている。老若男女に食べてもらえるように辛さが、普通・ピリ辛・激辛の3つから選べ、味に飽きられないようにしている。中でもピリ辛が人気 No.1 である。うどんの具材は、もやし、ねぎ、ホルモンと、いたってシンプルである。ホルモンのサイズは大きめに切ってあり、小腸を多めに入れている。もやしをシャキシャキにする為、最

写真 3:ホルモンうどん 2011 年 10 月筆者撮影

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写真 4:調理風景 2011 年 10 月筆者撮影

後に入れる工夫をしている。 実際に食べたところ、ホルモンの旨味を引き立たせるためにシンプルに作られており、ホルモン本来の味を楽しめた。素朴な味だからこそ、多くの人に受け入れられる橋野食堂が代表店だと実感した。 お好み焼 三枝は、津山市中心部北部(城西通りより北部)にある創業27 年目の店である。 上記の橋野食堂と並んで、ホルモン

写真 5:お好み焼三枝外観 2011 年 10 月筆者撮影

写真 6:調理風景 2011 年 10 月筆者撮影

うどん店の2トップと言われている有名店である。味の特徴として、塩ダレと醤油ベースの味噌ダレの2種類がある。塩ホルモンうどんと普通のホルモンうどんに入っている材料は、玉ねぎ、ねぎ、ホルモンとシンプルで塩ホルモンうどんにはトッピングとして、カイワレと海苔が乗っている。 実際に食べてみると、塩ホルモンうどんは普通のホルモンうどんとは違い重たくなく、いくらでも食べられそうだった。あっさりと食べられ、ホルモンの臭みが気にならな

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いため、特に女性に人気である。映画やテレビなどに多く取り上げられており、その結果、リピーターも増えている。 たかくらは、津山市東部

(高倉・加茂・勝北地区)にある創業 37 年目の店である。 材料はママ(店主)こだわりの自家栽培の野菜や地元から仕入れた新鮮なホルモンを使用。タレにもこだわりがあり、20 種類の香草野菜・果物・食材をバランスよく配合しじっくり熟成させた、手作りのタレで 37 年間、味付けを変えず提供している。ホルモンの脂でギトギトしないようになすを入れることによって、ホルモンの脂を吸い取り、ホルモン本来の旨味を引き出してくれる効果があり、店主が色々な野菜で試して作った結果、なすが最も効果があったとのこと。その他にも、ホルモンが苦

B 級グルメによる地域活性化

写真 9:ホルモン饅頭2011 年 10 月筆者撮影

写真 8:たかくら外観2011 年 10 月筆者撮影

写真 7:塩ホルモンうどん2011 年 10 月筆者撮影

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手な人でも食べやすいように作られた「ホルモンまんじゅう」や「ホルモン焼飯」もたかくらオリジナルメニューとして提供している。これらの料理にも店主のこだわりがあり、ホルモンまんじゅうは、あんの旨味(かつおとこんぶの和風だし)を引き立たせるために、皮(手作り)を甘めにしたり、具の野菜はホルモンうどん同様、自家栽培の野菜を使用している。ホルモン焼飯も、自家栽培の新鮮なお米、ホルモ

写真 11:ナス入りホルモンうどん2011 年 10 月筆者撮影

写真 10:調理風景2011 年 10 月筆者撮影

ン、野菜を使用し、とても食べやすい料理である。 実際に食べたところ、本当に脂によるギトギト感がなく、あっさりとして食べやすかった。オリジナルメニューのホルモンまんじゅうやホルモン焼飯も、ホルモンが苦手であっても、抵抗なく食べることができ美味しかった。 店主と従業員の方は気さくな人柄であり、忙しくてもお客一人一人に丁寧な接客をしているのも印象的だった。

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B 級グルメによる地域活性化

第4章 B 級グルメを使った町おこしの成功例

第 1 節 成功した町の紹介

(1)富士宮やきそば B 級グルメの代表格であるやきそばの中で、最も有名なのが静岡県富士宮市の「富士宮やきそば」である。昔から16)ある富士宮流独特のコシの強いやきそば蒸し麺と隠し味の肉かす、イワシの削り粉の風味が特徴のやきそばで、“一度食べたらまた食べたくなる”と言われ、多くの人に親しまれている。B 級グルメの先駆けとなった富士宮やきそばは、日本一の B 級グルメを決める大会の B −1グランプリで2年連続ゴールドグランプリを受賞した。

写真 12:(Web サイト「富士宮やきそばの作り方」より引用)

 日本の象徴である富士山はもちろん、田貫湖や朝霧高原などの観光資源に恵まれている富士宮市が富士宮やきそばを PR し始めたのは、1999年のことである。富士宮市の中心市街地が衰退化していたため、現在の17)やきそば学会の会長である渡邊秀彦氏をリーダーとし、食による町おこしを始めた。そこ

16)以下「昔から〜受賞した」については Web サイト Wikipedia  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A

%E3%83%BC%E3%82%B8 を参考してまとめている。17)以下「現在の〜スタートした」については Web サイト富士宮やきそば学会  http://www.umya-yakisoba.com/contents/siru/ を参考にしてまとめている。

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で、富士宮市のご当地グルメとして着目されたのが富士宮やきそばである。「他地域や他県のやきそばは、私たちがいつも食べているやきそばとは違う」という地元住民の何気ない一言がきっかけとなり、自分たちが普段食べているやきそばが変わっているということに気付いた。2000 年に富士宮やきそば学会(市民団体)を設立し、やきそば関連業者ではない地元住民 13 人からスタートした。 富士宮やきそば学会は、富士宮やきそばの知名度を上げるためには“一度食べてもらうに至る仕掛け”と“興味を持ってもらう”ということが必要であると考えた。その答えとして、メディアへの露出が効果的であると同時に広告宣伝費の抑制にも繋がるため、積極的な活動を続けた。その活動の内容として、2002 年18)に焼きうどんで町おこしをしている福岡県小倉市の名店と勝負する「天下分け麺の戦い」がメディアを通じて全国に放送され、注目を浴びた。その他にも、富士宮市と同じやきそばというジャンルで町おこしをしている秋田県横手市と群馬県太田市とやきそばの食べ比べを行う「三者麺談」、全国の麺を集めた「やぶさめ麺まつり」などのユニークなイベントを開催し、富士宮やきそばの知名度を上げていった。こうした富士宮やきそば学会の戦略的なメディアへの露出により、2006 年2月に青森県八戸市で開催された B級グルメの祭典である B −1グランプリ第1回のイベントでは、初代ゴールドグランプリに輝いた。そして、翌年 2007 年6月に静岡県富士宮市で開催された B −1グランプリ第2回のイベントでもゴールドグランプリを獲得し、見事な二連覇を飾った。これらのことが大きく影響し、県内はもとより県外からの観光客が増加し、また、富士宮市内のやきそば店の売り上げ、麺の製造量

18)以下「2002 年〜上げていった」については Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8を参考にしてまとめている。

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や肉かすなどの関連食材の使用量も増加した。富士宮やきそば学会と富士宮商工会議所の調査で、2001 年から 2006 年19)までの6年間で 217 億円の経済効果があると算定された。現在では、年間60 万人を越える観光客が富士宮やきそばを食べる目的のために富士宮市を訪れている。 富士宮市は、食による町おこしのために富士宮やきそばをPRし、それによって見事な中心市街地の活性化に成功した。今後の目標として、富士宮市のご当地グルメの代表となった富士宮やきそば以外でも素晴らしい観光資源を新たに探し出し、富士宮市全体の活性化に取り組むことを考えている。

(2)佐世保バーガー

B 級グルメによる地域活性化

写真 13:(Web サイト「Shop-iジョブ」より引用)

 B 級グルメの火付け役として大きく脚光を浴びたのが長崎県佐世保市の「佐世保バーガー」である。佐世保バーガーという名前でありながら、使う食材20)や味付け、調理の手順などに基準はなく、そんな“食べている味は違うのに佐世保バーガー”という自由なスタイルと独自性を持つ佐世保バーガーが、佐世保市のご当地グルメとして多くの人に愛されるようになった。「手作り」「作り置きをし

19)以下「2001 年から 2006 年〜訪れている」については Web サイト富士宮やきそば学会 http://www.umya-yakisoba.com/contents/siru/ を参考にしてまとめている。

20) 以 下「 使 う 食 材 〜 食 べ ら れ る 」 に つ い て は Web サ イ ト Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8 を参考にしてまとめている。

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ない」という2点の条件に徹底的にこだわった佐世保バーガーは、値段も安く気軽に食べられ、佐世保市民の味として定着している。 佐世保バーガーが誕生したのは、佐世保市が21)朝鮮特需による好景気に沸いた 1950 年頃の戦後である。進駐軍としてアメリカ海軍が展開していた佐世保市では、米海軍関係者を相手にした飲食店やバーも多く存在していた。そんな中で、米海軍関係者からハンバーガーのレシピを直接教わったことがきっかけとなり、佐世保市におけるハンバーガーの歴史が始まったと言われている。実戦に備え、いかに短時間でエネルギー補給ができるかに重点を置いていた軍隊の食事では、ハンバーガーの登場が多く、慣れ親しんだ味を日本でも提供するようになった。しかし、初めて佐世保市で手作りハンバーガーを作った店がどこなのかは今も不明のままである。 1999 年22)、神奈川県横須賀市で旧軍港4市(神奈川県横須賀市、長崎県佐世保市、広島県呉市、京都府舞鶴市)による交流物産会が開催された。各都市から様々な名物料理の店が出店され、佐世保市からは、佐世保バーガー店が出店された。横須賀市民には、佐世保市での勤務経験を持った海上自衛隊員が多かったため、「懐かしい味だ!」と海上自衛隊員たちから予想以上の人気を集めた。このことが佐世保市の町おこし関係者の間で話題になり、佐世保市の町おこしの材料として見直しが進んでいった。 そんな佐世保バーガーがブームを巻き起こしたのは、2001 年のことである。佐世保市で訓練を受けていた自衛隊員の多くが郷土の味に佐世保市のご当地バーガーを挙げたことを佐世保市が聞き、市政 100 周年のプレ事業の一環として佐世保バーガーを PR

21)以下「佐世保市が〜不明のままである」については同上。22)以下「1999 年〜設立された」については Web サイト佐世保バーガーネット  http://sasebo-burger.jp/whats-burger/index.html を参考にしてまとめている。

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した。他にも、バーガーマップの作成やアンパンマンの作者のやなせたかし氏による佐世保バーガーのイメージキャラクター、テーマソング、グッズなどが誕生した。佐世保市の活性化のための土台作りとして、地道な活動を続けた結果、マスコミから注目され、バラエティ番組や雑誌、NHK のテレビドラマ「てるてる家族」で取り上げられるまでになった。佐世保バーガーは、「日本で最初に生まれたハンバーガー」として徐々に他県への知名度を上げていった。しかし、佐世保バーガーの類似品が増加し、2010 年に佐世保バーガーのブランド保護と地域団体商標、佐世保市の観光振興を目的に佐世保市内の佐世保バーガー店 33 店が集まり、佐世保バーガー事業協同組合が設立された。 佐世保市は、佐世保バーガーによる中心市街地の活性化に成功した。その結果として、ハンバーガーの店舗数が8年間で約3倍の増加、佐世保バーガーの売上数が3年間で6倍の増加、県外来客数も増加し、商業の活性化が図られた。今後の予定として、一時的なブームで終わらないように、佐世保バーガー事業協同組合と佐世保観光コンベンション協会が連携し、更なる PR 活動と地域ブランド化の推進に取り組んでいく。

第2節 成功した町の共通点

 B 級グルメで町おこしをしている地域は、全国各地に数多く存在している。それは、今も昔も「食」というジャンルが観光資源の大きなキーワードとして、その地域の活性化に貢献しているからである。では、そんな食のジャンルである B 級グルメで成功した町には、どのような共通点があるのだろうか。その成功の重要なポイントとして、5つの項目を挙げてみた。 ①地域・地元住民に根付いている本物のご当地グルメであると

いうこと

B 級グルメによる地域活性化

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 B 級グルメで町おこしをするにあたって、どのようなご当地グルメで町を PR するのかが一番大切なことである。しかし、その肝心の PR するものが地域や地元住民に全く浸透していなければ、その地域のご当地グルメとしては成立しない。昔から地元住民に親しまれて食されているものだからこそ、その町の魅力的なPR になるのであり、そうでなければ、一時的なブームのために作り上げられたただの偽物ということになる。 地元住民に愛されていないものが、他地域や他県の人々に愛されるご当地グルメに成長するとは考えにくい。やはり、その地域の地元住民と料理がどれほどの密接な関係に置かれているのかということが地域のブランド力に繋がるのではないだろうか。地元住民の生活に馴染みのある料理だということが、町おこしを成功に導くことのできる最大の要因である。 ②地場産の食材を使っているということ 各地域によって、B 級グルメのジャンルや歴史は様々である。その土地の気候や風土、文化に合った地元の地域食材を生かした料理には、その地元地域独特の雰囲気がある。例えば、兵庫県篠山市では黒豆、島根県松江市ではしじみ、愛媛県八幡浜市ではじゃこ、といったように、その地域を代表する馴染みのある食材を使った料理が町おこしの資源として活躍すると考えられる。 地産地消が地元地域の農産物だけを消費するという概念であると誤解し、保護主義や小地域ブロック経済に繋がるのではないかということを心配する人もいるようだが、決してそうではない。地元の地域食材が観光資源となって、地域経済を活性化し、地元住民の更なる地域への愛着心を生みだす。地域食材の活用は地元地域の町おこしに貢献しているのである。 ③メディアを利用しているということ せっかく地元の B 級グルメで町おこしをしようと思っていて

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も、他地域や他県の人に知られていなければ食べてもらうという段階まで進むことはできない。その土地と食の知名度を一気に上げ、直接足を運んで食べてもらうためには、メディアへの露出が大変効果的であると言える。テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどを利用することによって、全国各地の人々の心に印象を残し、また、良い意味での疑問を与えることができる。そして、“一度、食べてみたいな〜”と興味を持ってもらえるきっかけになる。 このように、メディアを利用した PR 活動を成功させるためには、その地域の町おこし団体のアイデア力が必要不可欠である。どのようなユニークなイベントを企画し、また、メディアが取り上げやすい形でのイベント活動になっているのか。その地域の町おこし団体の積極性や努力、独自性が問われると言える。 ④市民団体が中心的に活動しているということ B 級グルメによる町おこしで成功した町は、その土地の一般市民が団体を設立し、市民団体が町おこしの中心となって活動している。一般市民が積極的に町おこしの活動に参加し、「私たちの町の魅力を全国に PR する」という目標を持つことが大切である。また、経営目線になりやすい飲食店関係者ではなく一般市民が中心に活動することによって、地域活性化という目的を冷静かつ的確に把握することができる。 一般市民が中心となって活動を続けていくことで地元地域の一体感が生まれる。自分たちの地域の良さを知り、心から愛しているからこそ一般市民が活発的になり、そして、地域活性化へと結びつくのではないだろうか。 ⑤行政及び経済団体が協力しているということ 上記の④で挙げたように、市民団体が中心となって活動を行っている。しかし、その市民団体の活動だけでは、町おこしの活動範囲や規模に限界がある。そこで、成功する町おこしには、行政

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や経済団体の協力が必要不可欠である。行政や経済団体の後押しで、役所のホームページに掲載してもらう、チラシやポスターを置いてもらう、企画や立案したものを広めてもらう、イベントのバックアップをしてもらう、そういった様々な宣伝でメディア関係者に注目されるきっかけを数多く幅広く作る。 地元住民が地域経済のためにお互いに関わり合うことで、町と人が元気と笑顔で溢れるようになる。そして、そのことが相乗効果を呼び、当初の地域活性化という目的が達成される。 以上が、私たちが思う成功した町の共通点である。

第5章 津山ホルモンうどんと地域活性化の関係

第1節 地域活性化への貢献

 津山ホルモンうどんによる地域活性化を調べるため、私たちは実際に津山市に行き、津山ホルモンうどんに関係する様々な立場の人からヒアリング調査を中心とするフィールドワークを行った。また、津山ホルモンうどんが旅行会社によってどのように取り扱われているのかを調べるため、一部の旅行会社にヒアリング調査を行った。第5章の第1節では、それらの結果を集約して、津山ホルモンうどんに関係するそれぞれの立場からの考察を進めていきたい。

(1)津山ホルモンうどん飲食店関係者の立場から 実際にお店に伺った3店舗(橋野食堂・三枝・たかくら)の店主に、いくつかの質問をしてみた。 まず初めに、津山ホルモンうどんを PR しようと思い、活動し始めたころの気持ちは?という質問に対し、「元々、地域にあった料理であっただけに、知名度も低く、失敗するかもしれないという不安があった。」という回答だった。

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 次に、他の B 級グルメが人気になった時、どう思ったか?という質問に対し、「良いことだと思う。ただ、津山ホルモンうどんはまだ B −1グランプリで優勝していないので優勝したい。ホルモンうどんは、まだメジャーではないため、まず優勝して知名度をあげたい。」という回答だった。 次に、今後の展望は?という質問に対し、「味を変えずに、さらに美味しく、向上心を持って味にもお客様にもこだわりを持ったお店であり続けたい。そして、代々変わらぬ味を提供し続けたい。」という回答だった。 最後に、津山ホルモンうどんが地域活性化に貢献していると思うか?という質問に対し、「貢献していると思う。B −1グランプリに入賞したことによって、新聞やテレビ、雑誌などに多く取り上げられるようになり、知名度が確実に上がった。その結果、遠方からも観光客が訪れてくれるようになり、津山ホルモンうどんによって津山市全体が活気ある町になった。これからも、それぞれの店の特徴を活かしつつ、現場を盛り上げ、更に津山市に来てもらうにはどのようにすればよいかを考えながら、地元住民の協力のもと、楽しくやっていきたい。」という回答だった。やはり、地元住民の協力は必要不可欠だということを感じた。

(2)一般地元住民の立場から 一般地元住民に対して、津山ホルモンうどんと地域活性化の関係についていくつかの質問をしてみた。 まず初めに、津山ホルモンうどんが有名になってどう思うか?という質問に対し、「津山ホルモンうどん店の前を車で通った時に、たくさんの客が行列しているのを見て嬉しく思う。特に県外ナンバーの車を見た時は、津山市の知名度が上がってきたのだと感じる。正直、以前は B − 1 グランプリや津山ホルモンうどん

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の存在はあまり知らなかったが、メディアで多く取り上げられているのを見ていると本当に凄いことだったのだなと思う。津山ホルモンうどん人気が津山を活気づける源となるので、一時的なブームで終わるのではなく、これからもずっとこの人気が続いてほしい。」という回答だった。 次に、津山ホルモンうどんを食べる理由は?という質問に対し、

「B −1グランプリで津山ホルモンうどんが上位に入賞して、どのような料理であるか気になったから。」「仕事の昼休みに食べに行ったり、飲み会で鉄板焼き店に行った時によく利用する。」という回答だった。他の回答として、「正直、お店が自宅から近くにあるということもあり、いつでも食べられると思いがちのため、逆にあまり食べに行っていない。」という回答もあった。 次に、有名になる前となった後の違いをどう感じるか?という質問に対し、「有名になる前はホルモンうどんが津山の定番メニューであることも知らなかったし、お店に客が並んでいる光景も見たことがなかった。B −1グランプリで上位入賞した次の日に同じお店の前を通ったら、びっくりする程の行列で本当に驚いたと同時にこのような光景を見たことがなかったので嬉しかった。大会後の1、2年経っても週末には多くの客がお店の外に並んでいるので、津山ホルモンうどん人気はまだ衰えていないと感じる。しかし、ブームが過ぎ去ってまた前の状況に戻って欲しくない。今後行われる B −1グランプリ等の大会で良い成績を獲得して、津山ホルモンうどん人気の継続に繋げて欲しい。津山市民の一人として期待するとともに、応援していきたい。」という回答であり、津山住民も驚いている様子であることが窺えた。 最後に、津山ホルモンうどんが地域活性化に貢献していると思うか?という質問に対し、「貢献していると思う。メディアや旅行雑誌等でよく見かけるようになり、ホルモンうどん店に行列が

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出来ている光景も見られるようになった。津山ホルモンうどんと共に地域を盛り上げるご当地アイドルもデビューしたりなど、ますます津山の事が広く知れ渡って地域の活性化に繋がっているのではと思う。やはり、より多くの人に知ってもらうことが活性化に繋げるために大切なことであると感じた。津山は伝統的な行事や、自然を活かしたレジャー施設、鶴山公園、衆楽園等の観光地がたくさんあるので、ホルモンうどん等を通じて色々な観光地に来て欲しい。」と、津山市の発展に期待する回答が得られた。

(3)行政の立場から まず初めに、津山ホルモンうどんが有名になり、どのように状況が変わったか?という質問に対し、「津山ホルモンうどんの全国への発信によって知名度が向上したことにより、全国のメディアからの取材が殺到し、津山ホルモンうどんに関する商品の開発依頼が急増した。また、全国からの出展依頼も殺到している。そして、県内外からの来店客が急増し、津山市内を訪れる観光客が急増した。その結果、津山ホルモンうどんによる広告宣伝効果が3年で3億円以上となり、行列が増える店も増えていった。観光客も増えて平成 20 年から平成 21 年にかけ 12.5% 増加し、津山の街は元気になりつつある。」という回答だった。 次に、今後の課題点は何か?という質問に対して、「現在の組織は主に市民有志のボランティアで成り立っているが、ボランティア活動にも限界があるため、津山ホルモンうどん研究会の事務所を観光協会へ移すか、NPO 法人化にするか等の組織体制を考えなければならない。」という研究会の体制についての課題点や、「有名になると、お客様のホルモンうどんに対する期待値が高くなる。少しの見落としがクレームになり、イメージの悪化に繋がってしまう。そのため、協力店のレベルアップやコンプライ

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アンス意識の向上に努めなければならない。」というホルモンうどん各店舗の危機管理における課題点、「津山ホルモンうどんを食べに来る来店客は日帰りの割合が多いのが現状なので、もっと宿泊施設を利用して津山市の観光地をゆっくり巡ってもらいたい。そのため、観光施設との連携をしていかなければならない。」という来客者の周遊化についての課題点があるという回答が出た。 最後に、津山ホルモンうどんが地域活性化に貢献していると思うか?という質問に対しては、「貢献している。B −1グランプリ等の大会で津山ホルモンうどんの知名度が高まり、メディアに出る機会が増え、出展も多くなったため、津山市の知名度も向上していった。平成 22 年の岡山県内の経済効果が 27 億円で、そのうち津山市内の経済効果は 12 億円と、津山ホルモンうどんによる経済の影響は大きいものとなった。今後は、映画『ホルモン女』にも起用されたハートの石垣も新たな観光資源として売り出していきたいと考えている。津山ホルモンうどんを通じてよりたくさんの来訪客が津山市内の観光地に訪れることで、地域活性化の貢献に繋げられたらと強く思う。」と、今後の津山市の発展への取り組みに強い意欲を見せていた。

(4)観光業者の立場から 津山ホルモンうどんは、B −1グランプリでの入賞やテレビでの放送をきっかけに有名になったが、観光業者からはどのように映っているのか調べてみた。 まず初めに、津山ホルモンうどんがメインの観光プランは取り扱っているか?という質問に対し、JTB では、「香川県の讃岐うどんのように完全に地元地域に定着した料理であれば、観光プランを企画することは可能であるが、津山ホルモンうどんがメイン

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の観光プランは取り扱っていない。」H.I.S.は、「過去にB級グルメが集まるイベントのツアーを企画したことはあったが、津山ホルモンうどんがメインの観光プランは取り扱っていない。岡山県のツアー自体もあまり取り扱っていない。」日本旅行では、「目立った温泉地や観光地がなく企画しにくいため、津山ホルモンうどんがメインの観光プランは取り扱っていない。」近畿日本ツーリストでは、「過去に期間限定で企画したことはあったが、今は津山ホルモンうどんがメインの観光プランは取り扱っていない。」両備バスでは、「過去にB級グルメのツアーを行ったことはあったが、今は津山ホルモンうどんがメインの観光プランは取り扱っていない。」という回答だった。 次に、津山ホルモンうどんに関係する旅行プランは取り扱っているか?という質問に対し、JTB では、「旅行のパンフレットに津山ホルモンうどん特典マークが付いている旅館やホテルに宿泊すれば、津山ホルモンうどん店(一部の飲食店)で値引きをしてもらえるというサービスを行っている。」H.I.S.、日本旅行、近畿日本ツーリスト、両備バスでは、「津山ホルモンうどんに関係する旅行プランは取り扱っていない。」という回答だった。 最後に、これから津山ホルモンうどんのプランを企画する予定はあるか?という質問に対し、JTB では、「津山ホルモンうどんの成長によって企画するかどうかを決める。」両備バスでは、「今年の 11 月にある姫路での B −1グランプリの上位に入賞しなければ、ツアーの内容に組み込まれない可能性があり、今のところ断言はできないが、これから津山ホルモンうどんのプランを企画する予定はある。」H.I.S.、日本旅行、近畿日本ツーリストでは、

「これから津山ホルモンうどんのプランを企画する予定はない。」という回答だった。 ここまで盛り上がっている津山ホルモンうどんだが、実際には

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旅行会社やバス会社からの注目度が低く持続的に企画されていないことが分かった。B −1グランプリでの入賞やメディアへの露出で、旅行会社やバス会社への影響があると思ったが、やはり、津山ホルモンうどんの更なる知名度の向上と、魅力ある津山市内の観光地の紹介が必要だということだろうか。

(5)観光客の立場から 現地フィールドワークの際、津山ホルモンうどんを食べに来た観光客にインタビューを試みた。 「なぜ津山ホルモンうどんを食べにきたのか?」という質問に対しての回答を示しておく。・B−1グランプリで津山ホルモンうどんのことを知った。(兵

庫県 20代女性)・大学の友人に話を聞いた。(愛媛県 20代女性)・友人に会いに来た際に、おすすめのご当地グルメとして紹介さ

れた。(鳥取県 30代女性)・どうしても食べたくて、忙しい土日を外した平日に食べにき

た。(大阪府 30代女性)・地元の集まりの定番のお店だから。(岡山県 40代男性)・食べ歩きができ、色々な味を楽しめるから。(高知県 40代女

性)・NHKでの放送を見て知り、興味を持った。(京都府 50代女

性)・仕事の合間の休み時間に来た。(岡山県 50代男性)・一度食べに来て美味しかったので、また食べにきた。(大阪府

 60代男性)・有名になる前から美味しいという噂を聞いていた。(大阪府 

70代男性)

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B 級グルメによる地域活性化

 また、年代別に見ても幅広く食べられているが、特に女性の割合が多いことが分かった。今回の調査は平日の昼間に行ったが、近郊の観光客がほとんどを占めていた。お店の話によると、土日は全国各地から津山ホルモンうどんを求めた観光客で後を絶たないほどの人気ぶりだそうだ。 「津山ホルモンうどんが地域活性化に貢献していると思うか?」という質問に対しての回答を示しておく。・友人に津山市へ遊びに行くと言ったところ、「お土産に、津山

ホルモンうどんのタレを買ってきて〜」と頼まれた。お土産に選ばれるほど有名なのだから地域活性化や地域経済に貢献していると思う。(兵庫県 20代女性)

・過去に津山市に遊びにきた時よりも中心市街地や人が賑わっている。(大阪府 20代女性)

・B−1グランプリで賞を取ったから、津山市への新たな興味になったと思う。(岡山県 40代女性)

・津山にホルモンうどんをきっかけに、津山の食と観光を知ってもらい、経済効果があると感じる。もっと盛り上がってくれれば嬉しい。(岡山県 60代男性)

・津山ホルモンうどんが有名になり、観光地の見直しが行われている。町を盛り上げ、町への貢献に繋がる立派な行動だと思う。(岡山県 70代男性)

 このように、ほとんどの人が地域活性化に貢献していると答えた。津山ホルモンうどん以外は何もないと思われていた津山市だが、津山市内の魅力的な食や観光地を楽しめたので、また来たいと思っている人が増えてきている。これらのことから、ホルモンうどんは大きく地域活性化に貢献していると確信した。

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第2節 PR活動

(1)オリジナル商品 PR 活動の一つとして、津山ホルモンうどんに関連したオリジナル商品が数多く販売されている。これらは、期間限定の商品でもう売られていないものもあるが、地元スーパーや高速道路のサービスエリア、道の駅などで気軽に購入することができる。その中で、一部の商品を挙げてみる。 ①ホルモンうどんのたれ23)

写真 14:(Web サイト「津山瓦版」より引用)

 津山市内の津山ホルモンうどんの各店舗が独自で開発している醤油や味噌をベースにした自家製タレはホルモンうどんを作るポイントである。その美味しいホルモンうどんの元となる自家製タレを家庭でも楽しめるように、石井食品が「元祖懐かしのホルモンうどんたれ!!」を開発した。 お好み焼 三枝 24)オリジナルのホルモンうどんのタレも販売されている。特徴としては、味噌、醤油、

23)以下「ホルモンうどんのたれ」については Web サイト Yahoo ショッピングhttp://shopping.yahoo.co.jp/ を参考にしてまとめている。

24)以下「お好み焼 三枝」については Web サイト名産品・特産品の“岡山堂” http://special-product.com/ を参考にまとめている。

韓国風自家製タレをブレンドしており、辛さは控えめである。それなので、子供にも美味しく食べられる商品である。 ②ベビースター 津山ホルモンうどん味 25)

 この商品は、B −1グランプリで 2009 年に優勝した横手やきそば味と共に「B 級グルメ麺シリーズ」の第一弾として、2010

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B 級グルメによる地域活性化

年2月8日から全国のサークル K(約6,300 店舗)にて 24 万食限定で販売された。 津山ホルモンうどん研究会の監修の元、ホルモンの旨味と甘辛い味噌ダレ風味が調和した味わいを野菜パウダーなどで表現した商品である。 商品の売り上げの1%をホルモンうどんによる地域活性化のための「協力費」として津山市に寄付をした。  ③津山ホルモンうどん風味スナック 津山ホルモンうどんとイメージキャラクターのハチノス大将とはっちゃん、せんまい君が描かれたインパクトのあるパッケージが特徴である。味はホルモンうどん独特な風味が表現されているが、食べやすい味になっている。 また、この商品も売上げの一部をまちづくり協力費として役立てているという。 これらの商品が、市場に多く出回ることにより、消費者の関心が高くなり、ホルモンうどんの知名度の向上に繋

写真 15:(Web サイト「津山ホルモン研究会」より引用)

がっている。

写真 16:2011 年 10 月筆者撮影

25)以下「ベビースター 津山ホルモンうどん味」については Web サイト岡山県津山名物『ホルモンうどん』いっぺん食べてみんちゃい http://horumon.sblo.jp/ を参考にしてまとめている。

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(2)映画 平成 23 年3月 18 日〜 27 日に開催された26)、吉本興業主催の「第3回 沖縄国際映画祭の地域発信型プロジェクト・地域発信型映画の部」で、津山ホルモンうどんを題材にした『ホルモン女』が上映され、映画界も津山ホルモンうどんを盛り上げた。この映画では津山市民のエキストラもロケに参加し、鶴山公園(津山城跡)のロケでは 330 名が参加、津山勤労者総合福祉センターのロケでは約 200 名が参加し、積極的に撮影に協力した。簡単にあらすじを紹介する。 あらすじ 27):平成 17 年、岡山国体が開催されるため津山市役所では、選手や関係者達をもてなす名物料理の試食会が行われていた。しかし、どの料理も幹部の反応はイマイチで、選定してきた観光課の刑部(河本準一)と坂井ひろこは非難を浴びてしまう。悔しい思いでいっぱいのひろこは、お好み焼屋で酒を飲みながら愚痴を漏らしていた。そこで、男たちが変わった焼うどんを食べているのに気付く。それはホルモンを具材に作られた焼うどんであった。津山では昔から食べられていると言われているが、初めて見るひろこには信じ難く、油でギトギトしたホルモンの見た目が気持ち悪くて食べる気にはなれなかった。 しかし、この時の出会いがのちに“津山ホルモンうどん”が全国的に有名になる運命の第一歩となる・・・。という津山ホルモンうどんが有名になるまでの軌跡がストーリーで描かれている。 30 分ほどの短時間の物語であるが、その裏側では 2 月中旬にロケが行われたため、雪が降るなどの悪天候に降り回されたこと

26)以下「平成 23 年3月 18 日〜 27 日に開催された〜」については津山ホルモンうどん研究会公式サイト http://www.asahi.com/food/news/OSK201003190057.html、沖縄国際映画祭公式サイト http://www.oimf.jp/jp/ を参考にしてまとめている。

27)あらすじについては Web サイト津山瓦版 http://www.e-tsuyama.com/ を参考にまとめている。

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B 級グルメによる地域活性化

もあったという。しかし、地元の人達と映画スタッフとの連携により、ホルモンうどんや津山の街の魅力がたくさん詰まった作品となった。 このような媒体を通じての PR は一気にたくさんの人達の目に入るので、効果はとても大きいといえる。そして、実際にホルモンうどんを食べに行ってみようと、初めて津山を訪れる人が増え、町と人々の繋がりは広がっていくのである。

写真 17:(Web サイト「津山瓦版」より引用 )

キャスト: 山下 リオ 増田修一郎 坂本純一  (GAG 少年楽団) 河本準一  (次長課長) 他監督:遠藤光貴脚本:楠本ひろみプロデューサー: 岡田恒明 角田正子協力:津山市の皆さん    津山市近隣市町村   の皆さん

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・ロケ地の一部            

(津山城のハート型の石垣) 主人公がハートの石垣を触って願いを込めているシーンに使用された。今後、新しい観光資源として売り出そうとしている。

写真 18:(Web サイト「津山瓦版」より引用)

第 3 節 これからの津山市の観光の課題

 津山市といえば、津山ホルモンうどんと言われるまでの知名度となった今、津山ホルモンうどん以外の観光資源が見直されている。その中で、いくつかの問題点が浮上し、それがどのような課題なのかを調べてみた。 ①観光客の周遊化 津山市には、代表とする観光地があまり知られておらず、津山市の観光人口は他の市に比べて少ないことが分かった。観光客のほとんどが津山ホルモンうどんを食べる目的でしか訪れないというのが今の現状である。そのため、津山市に宿泊してゆっくり観光を楽しもうという観光客が少ない。その理由として挙げられるのは、津山市の魅力ある観光地の良さを PR できていないことである。津山市はホルモンうどんの PR に力を入れている半面、他の観光地の情報が追いついていないと感じる。実際、津山市に訪れたときに観光地の案内の詳細があまり伝わっていないためか、行き方すら把握できていない観光客がいた。そのことから、津山ホルモンうどんのブームを利用し、各店舗に、来店客の目に入り

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やすいよう、観光地のチラシやポスターを置き、観光面の宣伝を強化する必要があると感じた。 ②津山市の地盤のレベルアップ 津山市の観光を大きく支えている津山ホルモンうどんだが、B−1グランプリで入賞したことにより、観光客の津山ホルモンうどんに対する期待値が高まっている。津山ホルモンうどんが有名になる前までは、地元住民の間で食べられる身近な料理だったが、今では津山ホルモンうどんのブランドが完全に確立したため、ハードルが上がっている。有名になった半面、観光客側の目も厳しくなり、欠点を指摘されやすくなっている。おもてなしの心で接客するなど、基本的な対応が求められる。今までの津山ホルモンうどんのクオリティーでは、他県の観光客の満足に応えることが難しくなってきているため、津山市内の観光地も同じように向上心を持ってアピールする必要がある。 津山市には、まだ知名度の低い観光地が多く存在している。津山ホルモンうどんを武器にしつつ、観光地と共に町全体を盛り上げていくことに力を注ぐべきである。

第6章 結論

 私たちが津山ホルモンうどんによる中心市街地の活性化について卒業論文を進めて行った結果、食が地域活性化に繋がる効果があるということが分かった。B 級グルメという食のジャンルがイベントや大会を通じて、全国各地に知れ渡った。全国各地には、様々な変わった料理が存在し、“安くておいしく手軽に食べられる料理”に多くの人が注目するようになっている。このようなB級グルメを通して見た、地域活性化の問題を2つの結論にまとめたい。

B 級グルメによる地域活性化

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 結論①:食ではなく町を売り出す B −1グランプリやグルメフェスタなどの影響で「食」が売られていると思われがちだが、そうではない。過去に行われてきた食の大会の本来の目的は、食を通じて町を売るということである。津山市=津山ホルモンうどんという発想になりがちだが、実際は、ホルモンうどんは津山市を楽しむための観光資源の一つに過ぎない。また、町全体を元気にしようという津山市民の熱い思いも必要不可欠である。 津山市を盛り上げるために主体となって活動しているのは、津山ホルモンうどん研究会である。この団体は、あくまで協力店であり、利益のためではなく、津山市の活性化をめざしている。また、売上の一部を津山市内だけではなく、被災地に寄付するなど支援活動を行い、助け合うことで、他の地域の町おこしにも繋げている。津山ホルモンうどんを通じて、津山市の伝統的なイベントや自然を活かした施設などをもっと多くの人に利用してもらえるように、対策を考えるべきだと思う。

 結論②:開発型ではなく発掘型の食  B −1グランプリやグルメフェスタで様々なご当地B級グルメが話題となっているが、そのほとんどが昔から食されている食べ物ばかりである。食による地域の活性化が話題となる一方、このブームに便乗し、利益の為に作りだされる商品を開発型と定義する。 津山ホルモンうどんは、昔から地元に根付いている食べ物であるが、ブームが起こるまでは、あまり知られていなかった。しかし、津山ホルモンうどんを提供した事がきっかけで、地元住民でさえ驚くほどの大ブームを巻き起こした。このように、地域に眠っていたご当地グルメを掘り起こす事を発掘型と定義する。昔から

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なじみのある発掘型の食こそが、町おこしの成功のカギとなっている。

 卒業論文の調査を通じて、津山市の魅力ある部分と改善すべき部分を多方面から深く知ることができた。これからの津山市が、今よりも更なる発展を遂げるように、様々な問題と向き合いながら津山市の活性化に貢献したい。

B 級グルメによる地域活性化

参考文献 『平成 22 年度ご当地グルメ経済効果調査事業 事業報告書』 2011 年3月 『津山ホルモンうどん地図』 つやま NPO 支援センター内津山ホルモンうどん研究会

 2011 年3月