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December 25, 2015
・本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。
本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の実
行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や、適法性等について保証するものでもありません。
・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。
・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものではあ
りません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、そ
の他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実際の
適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。
・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部
について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。
・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。
BTMU Global Business Insight Asia & Oceania
Ⅰ.マレーシアで就労ビザ取得が困難になる理由とその解決方法 桜コンサルタント社 社長 諸江 修
Ⅱ.タイ:投資奨励法及び歳入法に基づく追加税制優遇措置について
Bank of Ayudhya PCL. BTMU Holding (Thailand) Co., Ltd.
BANGKOK BTMU LIMITED BTMU Participation (Thailand) Co., Ltd.
Ⅲ.パキスタン:カラコルム・ハイウエー事情
-アッタバード湖に迂回トンネルが開通 西遊旅行 代表取締役社長 澤田真理子
Ⅳ.各国トピックス 【インド】インド初の高速鉄道計画に新幹線方式導入=印首相「歴史的な決断」
【インド】発表相次ぐ車両規制、大気汚染悪化を懸念
【インドネシア】9 月導入の輸入規定を改正する方針、産業界から反発の声多く
【インドネシア】鉱業に外資規制適用か、投資調整庁が各省と検討
【ミャンマー】ダウェー開発に日本・タイが出資、新政権発足後も事業継続
【ミャンマー】主要港などの利用を米が容認=貿易規制を一部緩和
… 2
… 4 … 8 … 11
BTMU Global Business Insight Asia & Oceania
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Ⅰ.マレーシアで就労ビザ取得が困難になる理由とその解決方法
マレーシアで入国管理局の外国人サービス部門(ESD)が導入されてから、就労ビザの取得が困難になっ
たという苦情をよく耳にします。しかし、就労ビザの取得が困難になったといわれるのは、単に ESD が導
入されたからという理由だけではなく、それぞれのケースにおいて相応の理由が存在します。本稿では、ESD
での申請内容および提出書類不備以外の、就労ビザ取得が困難となる典型的な理由とその解決方法を解説し
ます。
1. 払込資本金の不足
ESD の導入によって、これまで入国管理局に直接、就労ビザを申請できた企業(業種:サービス業など)
が ESD への就労ビザ申請を行う際の要件に、国内取引・協同組合・消費者省(MDTCC)の認可が加えら
れました。この結果、外資 100%の企業の場合、小売業・卸売業のライセンスを取得するのと同じ 100 万
リンギが最低払込資本金となりました。以前は、最低払込資本金は 50 万リンギであったので、従来の 2
倍の払込資本金が必要となり、100 万リンギ以上に増資できない企業は、新規の就労ビザを取得すること
ができません。また、現在発給されている就労ビザについては、次の更新までに払込資本金を 100 万リン
ギまで増額しないと就労ビザの更新ができなくなります。
この問題の解決方法として、
① 払込資本金を 100 万リンギ以上に増額する
② 外資 100%をやめ、株式の 51%をマレーシア資本に変更する
のいずれかが必要となります。
2. 会社定款における業務目的の記載に関する不備
マレーシアにおいては、会社定款に何が書かれているかは大きな問題にはならないと誤解をしている方
がいらっしゃいますが、就労ビザを申請する際には、業務目的の最初の項目に記載されている内容がとて
も重要になります。例えば、本来の業務が技術指導であるのに、大きな投資をするので、業務目的の最初
の項目に投資会社であると記載したとします。この場合、入国管理局は、投資会社には投資を管理する数
人の駐在員がいればよく、技術指導のための駐在員は必要ないと判断し、技術指導のための駐在員枠を与
えることはありません。
このような問題を解決するには、会社定款について業務目的の最初の項目を実際の業務に合うように変
更し、これをマレーシア企業委員会に登記して企業情報を更新する必要があります。その後、ESD に会社
定款の変更があった旨を報告し、追加の駐在員枠を申請することになります。
3. 駐在員枠の申請理由
駐在員枠の申請の際には、そのポストがなぜ必要なのかを説明する根拠(ジャスティフィケーション)
が要求されます。ここでの説明の記載の仕方が、駐在員枠の取得にはとても重要になります。そして説明
と同様に大切なのは、駐在員の学歴と実務経験年数です。マレーシアの入国管理局では、基本的には情報
技術(IT)業界以外は大卒、実務経験 5 年以上、27 歳以上という条件を満たした人に就労ビザを発給する
という暗黙の内規があるとみられ、高卒や実務経験 5 年未満の人の場合、駐在員枠の取得はほぼ困難な状
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況です。実際に駐在員として派遣される予定の人が高卒であったり、年齢が若かったりすると、現実的に
はその人のマレーシア駐在は極めて難しいといえます。
この問題を解決するためには、ジャスティフィケーションの記載について専門家に相談し、入国管理局
が受け入れやすい内容・表現で申請することが考えられます。
4. ビジネスライセンスなど各種許認可の不備
外国人がマレーシアでビジネスを行うための環境整備の最終地点が就労ビザです。就労ビザ取得の前に
は、大まかにいうと、以下のような流れで各種許認可が必要になります。
製造業の場合 1
環境ライセンス→消防ライセンス→工場内装許可→ビジネスライセンス→製造業ライセンス→駐在
員枠→就労ビザ
小売業・卸売業・サービス業の場合 2
ビジネスライセンス→小売業・卸売業あるいはサービス業ライセンス→駐在員枠→就労ビザ
上記の許認可の一つでも取得できないと、就労ビザの申請は受理されません。特に小規模のサービス業
などで、自前の事務所を持たない場合には、ビジネスライセンスが取得できず、結果として就労ビザの申
請ができません。また、マレーシアではコンドミニアムなどの住居でのビジネスは認められていないため、
住居ではビジネスライセンスは取得できません。この他、バーチャルオフィスも不可とされており、レン
タルオフィスでのビジネスライセンスの取得も極めて困難です。
この問題の解決方法としては、それぞれの許認可で定められている通りの申請を行い、全て粛々と手続
きを進めてライセンスを取得していくのが現実的といえるでしょう。
********************************************
1 就労ビザ関係の許認可は省略しています。また、業種によっては追加の許認可が必要です。
2 業種によっては追加の許認可が必要です。
記事提供:桜コンサルタント社(Sakura Consultants (M) Sdn. Bhd.)
社長(Managing Director)諸江 修
(2015 年 10 月 15 日作成)
法務及び労務コンサルタントとして訴訟、契約、会社設立及び廃業(リストラを含む)手続き、
就業規則作成、労使関係および労組対応を専門とする。1996 年よりマレーシア高等裁判所および
労使裁判所の公認法定通訳者及び証拠文書翻訳証明認証者となる。
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Ⅱ.タイ:投資奨励法及び歳入法に基づく追加税制優遇措置について
1. はじめに
2015 年 9 月 16 日にタイ投資委員会(The Board of Investment of Thailand, BOI)にて合意されていた「投
資奨励法に基づく追加税制優遇措置(以下、BOI 投資加速化措置)」について、2015 年 11 月 3 日の閣議に
て修正・追加の上、決定された。
また同日、財務省に提出されていた「歳入法に基づく追加税制優遇措置(以下、投資に対する経費倍額
計上措置)」も併せて閣議決定された。
今回は、上記 2 つの追加措置について閣議決定された内容を纏めることとする。
2. 投資奨励法に基づく税制優遇措置(BOI 投資加速化措置)
法人税免税・減免期間の追加特典を受けることができるのは、2014 年 1 月 1 日から 2016 年 6 月 30 日の
期間(BOI 原案では、2015 年 1 月 1 日から 2016 月 6 月 30 日。閣議決定時は原案より 1 年遡及することに
なった)に投資奨励申請したもので、2017 年中に生産・サービス提供開始、かつ売上計上できる事業。
2015 年 1 月より施行された新投資奨励制度における事業グループ B1・B2 の企業は、今回の BOI 投資加
速化措置の対象外(既に法人減免恩典を受けていることが条件)。
【表 1:BOI 投資加速化措置の概要】
条件 優遇内容
①
2016 年 6 月 30 日までに工事建
設・機械購入など投資額の 70%
を執行した場合
法人税免除期間を 4 年追加
+5 年間にわたる法人税 50%減税
※免税期間は既存の恩典と併せて上限 8 年
②
2016 年 6 月 30 日までに工事建
設・機械購入など投資額の 50%
を執行した場合
法人税免除期間を 3 年追加
+5 年間にわたる法人税 50%減税
※免税期間は既存の恩典と併せて上限 8 年
③
2016年 12月 31日までに工事建
設・機械購入など投資額の 50%
を執行した場合
法人税免除期間を 2 年追加
+5 年間にわたる法人税 50%減税
※免税期間は既存の恩典と併せて上限 8 年
④
2016 年中に工事建設・機械購入
など投資額の 50%未満を投資、
かつ 2017 年中に製造・サービ
ス提供を始め同年内に売上を
計上した場合
法人税免除期間を 1 年追加
※投資額から土地代・運転資金除く
(出所)各種報道より弊行にて作成
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BOI のヒランヤ長官代行が 11 月の BOI 会議後に発言した内容によると、2014 年の BOI 承認 2,300 件・
THB875Billion の内 38%、2015 年の BOI 承認 362 件・THB48Billion の内 10%しか実際に投資がされていな
い。今回の閣議決定において、BOI 投資加速化措置対象期間を原案の 2015 年 1 月 1 日から 1 年遡及し、2014
年 1 月 1 日としたのは、まだ多く残っている旧投資奨励制度による 2014 年の承認済未投資分についても、
投資を呼び込みたい意向が伺える。
また、当初のタイ投資委員会(BOI)による合意内容は、経済特区(SEZ)内に事業地をおくプロジェク
トについては、法人税免除期間を 2 年間追加。経済特区(SEZ)以外に事業地をおくプロジェクトについ
ては、法人税免除期間は 1 年間追加のみであった。今回閣議により一部修正した上、閣議決定された内容
からは、既申請済プロジェクトについてより早期に投資を促したい政府の意向が見受けられる。
3. 歳入法に基づく追加税制優遇措置について(投資に対する経費倍額計上措置)
2015 年 11 月 3 日の閣議にて、財務省が提出した国内投資振興のための追加税制優遇措置が決定された。
当該税制優遇措置は、内閣が承認した日から 2016 年 12 月 31 日までの投資に対して、経費倍額計上を可能
とするものであり、この経費倍額計上措置は、タイ投資委員会(BOI)による投資奨励の有無に関わらず
適用することが可能。投資に対する経費倍額計上措置の権利行使は国税局長が定める原則、方法及び要件
に従う。
【表 2:対象投資内容】
① 機械・構成部品・機械工具
② コンピューター・プログラム
③ 輸送機器(レンタル目的の乗用車・10人乗り以下のバスは除く)
④ 建物(土地を除き、居住目的で使用する建物を除く)
対象投資内容
(出所)各種報道より弊行にて作成
【表 3:控除対象となる投資資産の条件】
① 過去に事業の中で使用していないこと
② 車以外はタイで調達すること
③ 2016年12月31日までに使用できる状態にすること
④ 歳入法に基づき減価償却すること
控除対象となる投資資産の条件
(出所)各種報道より弊行にて作成
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タイ投資委員会(BOI)による投資奨励認可を受けているケースでは、既に投資を行なっているプロジェ
クトで、事業者が倍額計上の権利を行使したい場合には、事業者は新規投資について、すでに投資奨励を受
けている既存プロジェクトと分離して処理しなければならない。
タイ投資委員会(BOI)による投資奨励を受けているものの、まだ投資を行っておらず、BOI 投資加速化
措置を受けることができるプロジェクトの場合は、BOI 投資加速化措置か、投資に対する経費倍額計上措置
のどちらを利用するかを選択することができる。尚、投資に対する経費倍額計上措置を選ぶ場合は、2015
年 12 月 31 日までに国税局に通知しなければならない。
新・旧投資奨励制度と BOI 投資加速化措置・投資に対する経費倍額計上措置との関連性は表 4 及び表 5
の通りである。
【表 4:旧投資奨励制度と追加税制優遇措置】
ゾーン BOI 投資加速化措置 投資に対する経費倍額計上措置
第 1 ゾーン
既存の 3 年間法人税免税
+最高 4 年間の免税期間
(合計:7 年間)
+5 年間にわたる法人税 50%減税
投資額に対し、経費倍額計上
第 2 ゾーン
既存の 5 年間法人税免税
+最高 3 年間の免税期間
(合計:8 年間)
+5 年間にわたる法人税 50%減税
第 3 ゾーン
(レムチャバン・ラヨン)
追加税制優遇措置の効果なし
※既に 8 年間法人税及び 5 年間に
わたり法人税 50%減税あり
第 3 ゾーン
(レムチャバン・ラヨン以外)
追加税制優遇措置の効果なし
※既に 8 年間法人税及び 5 年間に
わたり法人税 50%減税あり
※旧投資奨励制度内における法人税の免税期間の追加及び短縮は考慮せず
(出所)各種報道より弊行にて作成
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【表 5:新投資奨励制度と追加税制優遇措置】
事業グループ※1 BOI 投資加速化措置 投資に対する経費倍額計上措置
A1 既存の 8 年間法人税免税
+5 年間にわたる法人税 50%減税
投資に対し、経費倍額計上
A2 既存の 8 年間法人税免税
+5 年間にわたる法人税 50%減税
A3
既存の 5 年間法人税免税
+最高 3 年間の免税期間(合計:8 年間)
+5 年間にわたる法人税 50%減税
A4
既存の 3 年間法人税免税
+最高 4 年間の免税期間(合計:7 年間)
+5 年間にわたる法人税 50%減税
B1 追加税制優遇の対象外
※2 法人税減免の恩典を受けてない
B2 追加税制優遇の対象外
※2 法人税減免の恩典を受けてない
※1 事業グループの詳細については 2015 年 3 月 16 日付 BTMU GLOBAL BUSINESS INSIGHT 臨時増刊号 P5 別表をご参照
下さい。(http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20150316.pdf)
※2 新投資奨励制度におけるメリットベースの恩典は考慮せず
(出所)各種報道より弊行にて作成
4. おわりに
BOI 投資加速化措置と投資に対する経費倍額計上措置とを比較した場合、投資手続の簡便性に鑑みると、
投資に対する経費倍額計上措置の方に利便性の高さが見受けられる。一方で、タイ投資委員会(BOI)の
投資手続を踏まえて尚、追加免税・減税効果が大きいと判断しうる場合には BOI 投資加速化措置を利用す
るものと考えられる。
今回閣議決定された税制優遇措置は外国直接投資の伸び悩みに鑑み、投資執行の加速を期待したもので
ある。今後の制度利用状況及び本施策の効果について注視していきたい。
記事提供:Bank of Ayudhya PCL. BTMU Holding (Thailand) Co., Ltd.
BANGKOK BTMU LIMITED BTMU Participation (Thailand) Co., Ltd.
(2015 年 12 月 15 日作成)
本レポートは、BTMU Thailand Monthly(2015 年 12 月号)掲載の同名レポートの内容を転載し、作成しております。
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Ⅲ.パキスタン:カラコルム・ハイウエー事情
-アッタバード湖に迂回トンネルが開通
概要
2010 年 1 月に起こった大規模な地すべりにより発生した、巨大なダム湖「アッタバード湖」。5 年半もの
間、パキスタンと中国の貿易の要でもあるカラコルム・ハイウエーを分断していましたが、2015 年 9 月、
ついに迂回(うかい)トンネルが開通しました。
古くは 5 世紀。中国の法僧法顕がパミールを越えてギルギット、チラスへと旅した際は、現在 1 日で通過
できる道のりに、約 1 カ月かかったという記録が残っています。20 世紀に入ってからも、この地を訪れた大
谷探検隊が中国のタシュクルガンからミンタカ峠を越えてギルギットまで入るのに 11 日かかりました。現
在、カラコルム・ハイウエーからかつてのシルクロードが見える場所があります。断崖絶壁に張り付くよう
に造られた道。思わず足がすくみます。
中国西部からパキスタンを経てアラビア海をつなぐ道は、中国と湾岸諸国を結ぶ最短ルートでもあること
から、ハイウエーの建設はパキスタンだけでなく中国にとっても必要なことでした。そこで、1959 年に中国
との共同工事として道路工事が始まりました。その後、約 20 年の歳月を費やし、1978 年にハイウエーが完
成。それによって、中国からアラビア海をつなぐ貿易ルートが開拓されただけではなく、今まで閉ざされて
いたフンザをはじめとする「秘境」への旅が一般人にも短期間で可能になりました。
パキスタンと内陸アジアを結ぶ、唯一の自動車通行
可能な舗装道路「カラコルム・ハイウエー」の最新情
報を紹介します。
2010 年 1 月に起こった大規模な地すべりにより巨
大なダム湖が発生し、一部分断された状態が続いてい
たカラコルム・ハイウエーでしたが、5 年半を経て、
ようやく迂回(うかい)トンネルが開通しました。
カラコルム・ハイウエーはいにしえのシルクロード
に沿って造られた全長 1,300キロメートルの幹線道路
です。イスラマバードの北部の街ハヴェリアンから中
国国境を経てカシュガルまでを陸路でつなぎ、人や物
資の行き来を支えてきました。「ハイウエー」とは名
ばかりで、ひやひやするような断崖絶壁や谷あいを通
るスリリングな道ではありますが、この道ができる
前、この地域を通る人々は厳しい山道を何日もかけて
歩いて平野部に出ていました。
カラコルム・ハイウェーを走るデコレーショントラック
(デコトラ)
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厳しい自然の中に造られたカラコルム・ハイウエーは、がけ崩れなどでたびたび通行止めになりました。
しかし、現地の人々は慣れたもので、どこからか重機が運ばれてきて、足止めをされているドライバーたち
も協力し、早ければ数時間で道路が開通します。氷河の雪解けで川が増水する夏には、土砂崩れでせき止め
られた川の水があふれ、道の一部が水没することもありました。そんなときも、周囲の村の人々がどこから
かやってきて即席のポーターとなり、周囲の崖や獣道を迂回する手助けをしてくれました。
ところが、2010 年 1 月に起こった大規模な地すべりによる洪水の規模は想像をはるかに越えていました。
アイエナバード、シシカットなどの村は完全に水没。いつも宿泊していたホテルも水に漬かり、1,700 人が
自宅から避難する大惨事となりました。
2 カ月たち、3 月末のフンザの花の時期になっても湖はできたまま。当時は湖周辺の地盤が悪く、観光客
は近づけなかったので、湖に沈んでしまったゴジャール地区付近の観光をフンザ周辺の散策に変更したのを
覚えています。そしていつしか湖は「アッタバード湖」と名付けられ、遠くカラチからトラックで小舟が運
ばれ、渡し船ビジネスが始められました。このときほどパキスタンの人々のたくましさを感じたことはあり
ません。2010 年の夏「アッタバード湖」は雪解け水によって全長 15 キロメートル、深さ 60 メートルにまで
大きくなりました。
その後、中国との合同出資でカラコルム・ハイウエーの再開発工事が始まりました。パキスタンの道路工
事は、日本のように夜間に行ったり時間を決めて行ったりするということがないので、たびたび通行止めや
渋滞が起こり、ツアーが難航することもありました。しかし、少しずつではありますが、道路は確実に整備
され、工事が完成した部分は今までのおよそ半分の時間で走行することができるようになりました。例えば
北部パキスタンの玄関口ギルギットからフンザまで、以前は車で 5 時間かかっていたのが 2 時間半に短縮さ
れました。
カラコルム・ハイウエーから望む旧シルクロード 2007 年 土砂崩れでカラコルム・ハイウエーが水没した
時の様子。この時は数日で水が引き道路が開通した
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同時に、アッタバード湖を迂回するトンネルも掘られ始めました。このトンネルは 2014 年 9 月に完成予
定だといわれていましたが、何度も予定が変更され、2015 年ついに開通。「Pakistan-China Friendship
Tunnels」と名付けられ、同年 9 月 14 日には開通式が行われました。トンネルの全長は約 7 キロメートル。
2015 年 9 月 23 日現在、トンネル内の工事は終了しておらず、作業員が休憩する午前 11 時半~午後 1 時と午
後 7 時~午前 6 時の 1 日 2 回開通しています。これにより、アッタバード湖の渡し船は廃止になったとのこ
とです。トンネルが開通するのを何年も心待ちにしていましたが、青い湖から見上げるカテドラルの高峰群
の景色を見ることができないかと思うとちょっぴり寂しい気もします。
トンネルの入り口 アッタバード湖から望むカテドラル
トンネルの完成と道路の再開発の結果、これからは以前より活発に中国からの物資がパキスタンに入って
くるでしょう。そしてフンザに、中国からの観光客が増えていくのでしょうか。
フンザの中心地カリマバードで、手織物屋に立ち寄った際、店主とカラコルム・ハイウエーについて話す
機会がありました。2010 年にアッタバード湖ができたことで、湖周辺の地域とカリマバードの交通が非常に
不便になり、一時はヘリコプターを使わなければならないこともあったといいます。店主は、道路が整備さ
れ、トンネルができたことで、外国人観光客が増えるのを期待しているそうです。
一方で、異国情緒あふれるフンザが中国のような雰囲気になってしまうのではないか、と心配する旅人の
声もあります。「桃源郷フンザ」のこれからを、見守っていきたいと思います。
記事提供:株式会社西遊旅行
代表取締役社長 澤田真理子
(2015 年 10 月 9 日作成)
海外の秘境といわれる地域を専門に扱う旅行会社。インド、ネパール、パキスタン
などに現地法人を持ち、独自のツアー企画をはじめ、一般の旅行手配から海外視察・
取材コーディネートなど幅広く手掛ける。
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Ⅳ.各国トピックス
【インド】インド初の高速鉄道計画に新幹線方式導入=印首相「歴史的な決断」
安倍晋三首相は 12 日、インドのモディ首相と 5 度目の首脳会談を行った。両首相はインド国内初の高速
鉄道計画について協議し、日本の新幹線方式の導入に関する覚書を締結した。インドの高速鉄道計画は、西
部マハラシュトラ州ムンバイからグジャラート州アーメダバードを結ぶもので、日本の他にフランスや中国
が自国の車両導入をうかがう中、日本の新幹線方式が採用された。インド政府の公表によると、日本側の財
政支援は総事業費 9,800 億ルピー(約 1 兆 8,000 億円)のうち約 8 割に相当し、最大 120 億米ドル(約 1 兆
4,500 億円)が円借款で賄われる。新幹線方式の採用についてモディ首相は「これ以上の歴史的な判断はな
い」と公式声明を発表。更に声明内で、「日本以上の『パートナー』『フレンド』はいない」と語り、今後両
国の更なる関係強化が期待される。
【インド】発表相次ぐ車両規制、大気汚染悪化を懸念
インドで様々な車両規制の実施や導入の検討がされている。中央政府が、2016 年 4 月から車両登録後 15
年を経過したトラックの公道での走行を禁止する方針を示した他、デリー州政府は 2016 年 1 月 1 日より、
ナンバープレートの末尾が偶数か奇数かによって走行可能日を決定するなどの交通整理を 15 日間試験導入
する予定。また、国家環境裁判所(NGT)は 2016 年 1 月 6 日まで、デリー首都圏(NCR)で新車のディー
ゼル車両登録を禁止。数千台が影響する見込みもあり、自動車業界には波紋が広がっている。
世界保健機構(WHO)によると、世界で大気汚染が進んでいる都市のワースト 1 位はデリー。経済成長
による工場新設や、中間層が増えたことによる自動車保有率の向上などが影響していると見られる。また、
デリー以外にもインドの 12 都市が大気汚染悪化都市として選出されており、大気汚染対策として車両規制
の導入が推進されている。
【インドネシア】9 月導入の輸入規定を改正する方針、産業界から反発の声多く
9 月公布の輸入規定が、産業界などの反発などにより近く改正されることが明らかになった。今回改正の
対象となったのは、輸入業者番号(API)に関する 2015 年第 70 号と、特定 7 分野の輸入規制に関する同第
87 号。これらは、インドネシア政府が景気刺激策として発表を続けている経済政策パッケージの第 1 弾とし
て公布されたものだが、両規定とも産業界から強い反発を受けていた。
第 70 号規定は、これまで製造輸入業者番号(API-P)を付与されていた企業に認めていた完成品の輸入
に関する条項を削除し、原材料と半製品のみしか輸入できなくなるという内容。インドネシアのトマス・レ
ンボン貿易相は改正の理由を「市場テストやアフターサービスなどの目的で完成品の輸入が必要な場合があ
る為」と説明した。
第 87 号規定は特定 7 分野(衣料、電子・電気製品、飲食品、玩具、履物、伝統薬・漢方薬、化粧品)の
うち、化粧品の船積み前検査が免除されるなどというもの。規制緩和により、輸入品が国産品の脅威となる
ことに対する指摘が多く、改正に至った。
両規定とも年内に改正規定が発表される見込み。
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【インドネシア】鉱業に外資規制適用か、投資調整庁が各省と検討
インドネシア投資調整庁(BKPM)は、現在作業を進めているネガティブリスト(投資規制業種リスト)
の改正に関連して、新たな業種の外資規制を検討していることを明らかにした。今回、同庁が外資規制を検
討している業種は鉱業で、外資の出資比率上限を、探査は 75%、生産は 49%とする方針。今後、各省と検
討を進めていく。
【ミャンマー】ダウェー開発に日本・タイが出資、新政権発足後も事業継続
14 日にタイ・バンコクで行われた日本、タイ、ミャンマーの 3 カ国協議でミャンマー南部ダウェー経済特
区の開発に日本が出資することを決めた。出資額は 600 万バーツ(約 2,000 万円)で 3 カ国均等の出資とな
る。ダウェー経済特区はミャンマー南部に位置し、バンコクから約 300km という地理的優位性などから、
東南アジアの新たな生産・物流拠点として期待する日系企業も多い。
7 月に、包括的な開発で協力することで 3 カ国が合意し、意図表明覚書に調印、開発に向けて連携を強化
していた。
ミャンマーは 2016 年 3 月に国民民主連盟(NLD)主導の新政権が発足することになっているが、政権交
代後もダウェー開発事業を継続することを明らかにしている。
【ミャンマー】主要港などの利用を米が容認=貿易規制を一部緩和
米国財務省は 7 日、ミャンマーに対する貿易規制の一部を緩和した。今回の緩和措置では、主要港や高速
道路、空港について、制裁対象の施設であっても利用を容認するとしており、ミャンマーとの貿易に不可欠
なインフラを活用することが可能になった。
米国はミャンマーが民政化した 2011 年以降制裁解除を進めており、両国間の貿易量も増加している。更
に米国の有力団体が、ミャンマー最大の都市ヤンゴン近郊の埠頭利用容認を求めていたこともあり、貿易規
制緩和を決定した。
米国は、ミャンマーの軍事政権と深いつながりを持った人を「制裁対象者(SDN)」としてリスト化し、
米国人に対して SDN との取引を禁止している。
(各国トピックスの出所)各国政府・業界団体発表、各種報道
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(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部 (照会先)橋本 昌太郎 北村 広明
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