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32 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2018(アジア新興5市場編) 第  章 1 経済・政治・社会情勢と国民の志向 外国旅行に影響を与える情勢 1-1 1. 経済情勢 ベトナム経済は、2010 年代に入ってベトナム政府 が不動産バブルとインフレ対策に取り組んだ結果、 2012 年~ 2014 年にかけて成長率が一時的に 5%台に 鈍化したものの、2015年以降は再び6%台の成長率 を記録している。国民一人当たりの GDP(国内総生 産)は、2010年には1,297米ドル、2014年には2,047 米ドル、2016 年には 2,176 米ドルと拡大している。 日本のODA(政府開発援助)により、ハノイで は2014年にノイバイ国際空港第2ターミナル、2015 年にはニャッタン橋およびノイバイ空港とニャッタ ン橋をつなぐボーグエンザップ道路などの大規模プ ロジェクトが相次いで完成した。また、ホーチミン と周辺地域の経済発展のために、物流の大動脈サイ ゴン東西ハイウェイをはじめとする高速道路網や都 市鉄道網の建設が進められており、2014 年に工事が 始まったホーチミン地下鉄は2020年に完成が予定 されている。イオンモールやマクドナルド、スター バックスコーヒーの進出などグローバル資本の流入 も続いている。 東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも人件費 が低いことが、経済成長の要因の一つとして挙げら れていたが、最近は賃金上昇が加速しつつある。ベ トナム国民の賃金水準は、2014 年には製造業で月額 107米ドル~ 148米ドルであったが、2016年には月 額158米ドル~ 193米ドルに上昇しており、進出日 系企業の 6 割が投資環境上のリスクとして人件費の 高騰を挙げている *1 所得の上昇に伴って注目されているのが、消費市 場の拡大である。ベトナムは ASEAN 第 3 位の人口大 国である。その中でアッパーミドル層(年間の可処 分所得が 1 万 5,000 米ドル~ 3 万 5,000 米ドル)が急増 中で、2020年には全人口の13%に上るという予測も あり、訪日旅行の潜在層の拡大が期待される *2 *1:日本貿易振興機構(JETRO)「第26 回アジア・オセアニア主 要都市・地域の投資関連コスト比較」2016 https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/42952c ecddce53c3/20160032.pdf *2:JETRO 調査レポート ベトナム所得水準別の人口構成 2. 政治・社会情勢 近年、内政面においてテロやデモといった大きな 出来事は起こっておらず安定している。5年に一度 の共産党大会が2016年に開催され、ドイモイ(刷新) 路線の継続と国際経済への積極的な参入が掲げられ た。党中央指導部の人事が一新され、国家主席や首 相、国会議長並びに一部の副首相および閣僚などが 交代した。外交面では領土問題を巡り中国との緊張 が高まっている。 ベトナムは、2016 年時点の人口が約 9,270 万人(ベ トナム統計総局)、平均年齢が30歳と若い国ではあ るが、2015 年の合計特殊出生率は 2.10 まで低下して おり、全人口に占める65歳以上の割合は2000年の 6.5%から 2016 年には 7%へと上昇した。今後、ベト ナムでは高齢化が急速に進展していくと国際連合人 口基金(United Nations Population Fund)は予測し ている。 1992 年の日本の対ベトナム経済協力再開以降、ベ トナムにとって日本は最大の援助国となっている。 日越外交関係樹立40周年を迎えた2013年には、日 越友好年として様々なイベントが開催された。また、 2017年6月の日越首脳会談では、2018年を日越外交 関係樹立 45 周年として記念し、関連行事を成功させ るために緊密に協力することで合意した。 外国旅行に関する国民の志向 1-2 1. 気候・風土が外国旅行に与える影響 ベトナムは、気候が一年を通じて温暖で、農業が 盛んな国である。北部は温帯性の気候であり、1月 の平均気温は17度、4月~ 10月までが雨期になる。 7 月は平均気温が 29 度となり雨も多い。南部は熱帯 性気候で、気温は年間通じて27度~ 30度である。 北部地域を除き冬はなく、雪も降らないことから、 雪やスキーなどウィンタースポーツに憧れるベトナ ム人も多い。ただし、南部の人々は寒さに慣れてい ないため、冬期の旅行時の気温差対策、注意喚起も 必要となる。 南北に細長いベトナムは、北部と南部で言葉や気 候、文化、習慣などに違いがある。四季があり政府

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32 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2018(アジア新興5市場編)

第  章1 経済・政治・社会情勢と国民の志向

外国旅行に影響を与える情勢1-1

1. 経済情勢

ベトナム経済は、2010年代に入ってベトナム政府が不動産バブルとインフレ対策に取り組んだ結果、2012年~ 2014年にかけて成長率が一時的に5%台に鈍化したものの、2015年以降は再び6%台の成長率を記録している。国民一人当たりのGDP(国内総生産)は、2010年には1,297米ドル、2014年には2,047米ドル、2016年には2,176米ドルと拡大している。

日本のODA(政府開発援助)により、ハノイでは2014年にノイバイ国際空港第2ターミナル、2015年にはニャッタン橋およびノイバイ空港とニャッタン橋をつなぐボーグエンザップ道路などの大規模プロジェクトが相次いで完成した。また、ホーチミンと周辺地域の経済発展のために、物流の大動脈サイゴン東西ハイウェイをはじめとする高速道路網や都市鉄道網の建設が進められており、2014年に工事が始まったホーチミン地下鉄は2020年に完成が予定されている。イオンモールやマクドナルド、スターバックスコーヒーの進出などグローバル資本の流入も続いている。

東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも人件費が低いことが、経済成長の要因の一つとして挙げられていたが、最近は賃金上昇が加速しつつある。ベトナム国民の賃金水準は、2014年には製造業で月額107米ドル~ 148米ドルであったが、2016年には月額158米ドル~ 193米ドルに上昇しており、進出日系企業の6割が投資環境上のリスクとして人件費の高騰を挙げている*1。

所得の上昇に伴って注目されているのが、消費市場の拡大である。ベトナムはASEAN第3位の人口大国である。その中でアッパーミドル層(年間の可処分所得が1万5,000米ドル~ 3万5,000米ドル)が急増中で、2020年には全人口の13%に上るという予測もあり、訪日旅行の潜在層の拡大が期待される*2。

*1:日本貿易振興機構(JETRO)「第26回アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較」2016年https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/42952cecddce53c3/20160032.pdf

*2:JETRO調査レポート ベトナム所得水準別の人口構成

2. 政治・社会情勢

近年、内政面においてテロやデモといった大きな出来事は起こっておらず安定している。5年に一度の共産党大会が2016年に開催され、ドイモイ(刷新)路線の継続と国際経済への積極的な参入が掲げられた。党中央指導部の人事が一新され、国家主席や首相、国会議長並びに一部の副首相および閣僚などが交代した。外交面では領土問題を巡り中国との緊張が高まっている。

ベトナムは、2016年時点の人口が約9,270万人(ベトナム統計総局)、平均年齢が30歳と若い国ではあるが、2015年の合計特殊出生率は2.10まで低下しており、全人口に占める65歳以上の割合は2000年の6.5%から2016年には7%へと上昇した。今後、ベトナムでは高齢化が急速に進展していくと国際連合人口基金(United Nations Population Fund)は予測している。

1992年の日本の対ベトナム経済協力再開以降、ベトナムにとって日本は最大の援助国となっている。日越外交関係樹立40周年を迎えた2013年には、日越友好年として様々なイベントが開催された。また、2017年6月の日越首脳会談では、2018年を日越外交関係樹立45周年として記念し、関連行事を成功させるために緊密に協力することで合意した。

外国旅行に関する国民の志向1-2

1. 気候・風土が外国旅行に与える影響

ベトナムは、気候が一年を通じて温暖で、農業が盛んな国である。北部は温帯性の気候であり、1月の平均気温は17度、4月~ 10月までが雨期になる。7月は平均気温が29度となり雨も多い。南部は熱帯性気候で、気温は年間通じて27度~ 30度である。北部地域を除き冬はなく、雪も降らないことから、雪やスキーなどウィンタースポーツに憧れるベトナム人も多い。ただし、南部の人々は寒さに慣れていないため、冬期の旅行時の気温差対策、注意喚起も必要となる。

南北に細長いベトナムは、北部と南部で言葉や気候、文化、習慣などに違いがある。四季があり政府

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機関が集まるハノイの人々は、真面目で几帳面であるが、雨期と乾期の二期しかない南部のホーチミンの人々は、おおらかで明るく人懐っこい。北部と南部は気候や文化が大きく異なることから、全く別の市場と認識して、異なった誘致活動を展開する必要がある。

2. 休暇制度と旅行動向

ベトナム人の一般的な旅行シーズンは、テト休暇(旧正月)の時期にあたる1月下旬~ 2月上旬と、学校休暇の5月~ 8月、そして建国記念日のある9月である。テト休暇の時期にベトナムの人々は里帰りをし、家族・親族と過ごすのが一般的である。外国旅行のピークは夏で、冬は寒いために旅行需要が減る。ただし、訪日旅行のシーズンは、桜ツアーのある4月と、紅葉ツアーのある10月である。寒い12月~ 2月は訪日旅行需要も少ない。外国旅行の日数は、ASEAN近隣諸国を旅行する場合3泊4日~ 1週間程度、ヨーロッパや日本などの場合1週間程が一般的である。

①学校休暇ベトナムの学校制度は初等教育(小学校)5年、

前期中等教育(中学校)4年、後期中等教育(高等学校)3年の5-4-3制となっている。初等教育の5年間が義務教育期間である。教育年度は9月から始まり、翌年の5月下旬頃に終了する。1学期が9月第1週~ 1月中旬、2学期が1月中旬~ 5月下旬という2学期制であるが、学期の期間は年・学校によって変動がある。夏休みは5月末~ 8月末となっている。大学は前期と後期の2期制で、前期は通常毎年8月~ 1月、後期は2月~ 6月となっている。休みは原則としてテト休暇(旧正月前後の約2週間で、2018年の旧正月は2月16日)と、長期の夏休み(後期終了後、次年度の前期に至る期間)である。観光目的の外国旅行に関して言えば、ベトナムでは家族旅行が一般的である。家族で外国旅行に行く時期は、やはりテト休暇期間か夏休みが多い。

②企業における休暇制度年次有給休暇は、試用期間終了後、正式な雇用契

約をしてから与える企業が多い。同一の雇用者の下で12カ月勤務した場合、12日付与される。ただし、危険・有害業務、過酷な生活環境で働く人や未成年者の場合は日数が異なる。勤続年数5年ごとに付与日数が1日増加する。会社に勤める人の場合、週休

1日に加え、法定の祝日がある。10日間ある法定の祝日のうち半分の5日間が旧正月であるテトの祝日となっているため、この時期に旅行を検討する人が増える。

3. 余暇に対する考え方

北部のハノイと南部のホーチミンでは、人々の価値観が異なる。ハノイでは集団主義・家族主義の意識が強いのに対し、ホーチミンではより個人主義的である。この価値観の違いにより、人々の生活様式も異なる。ハノイでは余暇を「家族」と過ごす人が多いのに対して、ホーチミンでは「友達や同僚」と過ごす人と「家族」と過ごす人が同じくらいの割合となっている。具体的には、市場やスーパーマーケット、ショッピングモールを覗いたり、公園やカフェでおしゃべりや食事をしたり、映画館へ行ったりすることなどが挙げられる。

ハノイでは、休日には基本的に家族全員がそろって食事をするが、たまに外食することもある。堅実な気質を反映し、家族で近所の公園に出かけ、身体を動かしたり子どもを遊ばせたりするなど、あまり贅沢をせずに過ごしているのが特徴である。1月~2月のテト休暇は家族と故郷で過ごす人が大半であるが、4月末~ 5月上旬の連休には、国内旅行を楽しむ人が多く、最近は外国旅行も人気となっている。近くて物価が安い東南アジア諸国の人気は健在であるが、さらに日本をはじめとした東アジアや欧米へ行く人も増えている*3。

ホーチミンでも家族そろって過ごすことが多いが、若者たちはカフェでおしゃべりや食事を楽しむことも多く、話題の新店舗には行列ができる。また、映画館へ行ったり公園に出かけたり、さらには深夜のカラオケ店も賑わいを見せる。

旅行については、国内ではファンティエット、ダラットなど、手頃な料金で行けて都会にはない豊かな自然に恵まれた観光地が人気である。外国旅行は未だにお金持ちというイメージはあるが、近年では5人~ 6人のグループで外国に行く若者が増えており、タイやシンガポールなど入国査証が不要でベトナムより発展している国が好まれる。これらの近隣諸国へは、格安航空券サイトで安く手配し、ブログなどを見ながら旅程を考える個人旅行の需要も高まっている。行ってみたい国のナンバーワンは日本という結果も出ている*4。

スポーツでは、サッカーが他の追随を許さないほどの人気で、公園などで世代を問わず楽しまれて

第1章 経済・政治・社会情勢と国民の志向

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いる。国内リーグだけでなく、ヨーロッパをはじめとした他国リーグの動向にも関心が高い。また、国内リーグであるVリーグが日本のJリーグと提携するなど、日本との交流が盛んであり、日本代表選手などの知名度も高い。代表チームの試合が行われるときには飲食店やカフェなどに集まって応援し、街の至る所で応援用のベトナム国旗が売られ、ビッグマッチの際には街中に交通渋滞が発生することも珍しくない。

*3:JETRO「ハノイスタイル」2016年版2016年10月*4:JETRO「ホーチミンスタイル」2016年版2016年10月

4. 社会における志向の変化

①食事ベトナム料理は中国やフランスの食文化の影響を

受けて発達した。主食としては、米やフランスパン、麺がある。炒める、蒸す、煮るなど中国料理と共通する手法で、野菜や肉類、魚介類など多彩な素材が調理され、魚醤などの発酵調味料やコリアンダーなどの香草類がふんだんに用いられるのが特徴である。主食の米は日本のものとは種類が異なり水分含有量が少ないため、汁物を米にかけて食べることもある。また、旧暦の1日と15日にコムチャイ(Com Chay)という肉類を使わない精進料理を食べる習慣を守っている人々もいる。その他ベトナムらしい特徴としては、フランス植民地時代の影響もありカフェが非常に多く、コーヒーは生産量世界2位を誇ることが挙げられる。従来の路上店や個人経営のカフェに加えて、最近ではチェーン店が増加しており、内装や雰囲気にこだわった店も多い。地場の最大手Trung Nguyen coffeeは1998年にホーチミンでカフェ事業を開始し、現在は50店舗のフランチャイズ店を展開している。同ブランドのコーヒーを提供しているカフェも約1,200店舗ある。Highlands coffeeは2002年にホーチミン1号店を開店。広々とした落ち着いた空間が当時は珍しく*5、2017年12月時点ではベトナム国内で216店舗を営業している。外資系では2013年に進出したスターバックスコーヒーとダンキンドーナツが、それぞれ店舗数を23店舗、16店舗と拡大している。コーヒー以外の嗜好品として、蓮の葉茶などのお茶を飲む習慣もある。近年、都市部ではタピオカなどの入った甘いミルクティーが人気であり、数多くの店舗がしのぎを削っている。

生活習慣として、夕食は家で作って食べることが多いが、男女共に結婚後も働く家庭が多いため、朝食は家で作ることはほとんどない。早朝から開いて

いるカフェなどでフォーやパン、コーヒーなどを買い、昼食も職場の同僚と外食というパターンが一般的である。このように、ベトナムではもともと日常的に外食する機会が多いが、経済発展と所得上昇に伴い、外食産業が拡大している。ハノイには様々な各国料理店が出店しており、韓国料理や中国料理、日本料理など東アジアの料理が人気を誇るほか、イタリア料理、タイ料理などのレストランもある。一大商業都市であるホーチミンでは、外国からのフードチェーンやファーストフードも続々と参入している。

日本料理店も増えており、日本語ベトナム総合情報サイトVIET JOによると、ベトナム全国で1,000店舗を超えている。日本料理店が最も多い都市はホーチミンで、在ホーチミン日本国総領事館によると、その数は659店舗に上り、3年前から倍増しているという。

今後は日本料理店の地方都市への進出も予想される。従来は日本人が経営に関わっている店舗が多かったが、近年は日本食がベトナム国内に広く知れ渡るようになり、地場の企業・個人が経営する日本料理店も増加している*6。

*5・6:JETRO「ベトナムにおける外食産業進出の現状・可能性調査」 2016年3月

②美容・健康ベトナム人は元来、体を動かすことが好きな国民

であると言われている。公園にはトレーニング器具が設置され、早朝から運動する人で溢れている。生活水準の向上に伴って健康志向が高まっており、市民の2割近くがフィットネスに通い、現在は通っていないがフィットネスに興味があるという人も含めると7割近くに上るという調査結果もある*7。

ハノイやホーチミンなどの都市部には近代的な設備を備えた大病院もあるが、医療水準はタイ、シンガポールのレベルに達しているとは言い難い。そこで富裕層を中心に、シンガポール、タイ・バンコク、台湾・台北、韓国への医療観光が注目されている。

他のASEAN諸国に比べると小さいものの、ベトナムの化粧品市場規模は約650億円で、2014年には前年比約11.0%増の高い伸率を記録した*8。ベトナムで売れている化粧品の約9割は外国ブランドで、中でも韓国や日本の化粧品は高品質な上にベトナム人の肌にも合うと言われている。日本の化粧品としては、資生堂などの高級ブランドが富裕層から支持されている一方、ロート製薬の「肌ラボ」や花王の

「ビオレ」などもお手頃なスキンケア商品として人

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第1章 経済・政治・社会情勢と国民の志向

気が高い。ハノイやホーチミンでは、美意識の高い女性たちは全身を磨くために出費を惜しまない。また、ネイルサロン、スパ、エステへは中間層も気軽に訪れるようになっている。韓国の影響を受けて、美容整形などにも抵抗がなくなりつつある。大都市を中心にサプリメントへの関心があり、イオンモールで手に入るようになった日本製のサプリメントは、訪日旅行の際の土産品の一つとして、化粧品と並んで人気が高い。

*7:株式会社Asia PlusマーケットリサーチサービスQ&Me「ベトナム人の健康意識と運動需要」2017年3月 https://qandme.net/ja/report/the-Health-Consciousness-and-Activities-jp.html

*8:JETRO「ベトナムにおける化粧品・パーソナルケア商品市場調査」2017年1月file:///C:/Users/PCUser/Downloads/1445%20(1).pdf

③ショッピングベトナム人は従来、街の市場や個人経営の雑貨店

でショッピングをすることが一般的であったが、家電量販店やスーパーマーケットのチェーン店、巨大ショッピングモールの出現により、近年はショッピングの嗜好が変化しつつある。中国系百貨店チェーンのパークソン、韓国系高級百貨店のダイヤモンドプラザ、ベトナム不動産業ビングループが経営するショッピングモールのビンコムメガモール・ロイヤルシティなどが出現している。また、ホーチミンのサイゴンスクエアは、若者のカップルや家族連れに人気がある。日本のイオンは、2014年にホーチミンでベトナム1号店となるイオンモール・タンフーセラドンをオープンして以来、モールを次々と開店し、ハノイ、ホーチミンを中心に4施設を営業、2019年にはハノイに5号店が開店予定である。2016年7月には、サイゴンセンターの中核テナントとしてホーチミン髙島屋が誕生、連日多くのベトナム人が訪れ、地下2階のデパ地下は賑わいを見せている。

ベトナム南部を中心に24時間営業のコンビニエンスストアが店舗数を拡大しており、主要なコンビニ企業の店舗数は2015年の519店から、2017年には1,561店と3倍以上に増加している。日系では既に進出しているファミリーマート、ミニストップに加え、2017年6月にホーチミンのサイゴントレードセンターに、セブンイレブンのベトナム1号店がオープンした。

日本製品は「高価ではあるが品質が良い」というイメージが広く浸透しており、冷蔵庫やエアコンなどの家庭電化製品、カメラ、バイクに人気がある。ベトナム人は、買い物をする際に偽物やコピー商品

ではないか丹念に確認する傾向がある。特に高額商品を買う際は顕著である。そのため、日本を訪れるベトナム人は、「日本での買い物は偽物を掴まされる心配が無い」とコメントしている。

値段の手頃なファッションブランドが人気で、ベトナム国内ブランドも世界の流行をうまく取り入れつつ、ベトナムの気候や好みに合わせてアレンジを加えて健闘している。外資系では、先発のマンゴ

(MANGO)やトップショップ(TOPSHOP)などが既に進出している。ザラ(ZARA)は、2016年9月にホーチミンでベトナム1号店をオープンさせたのに続き、2017年10月にはハノイに2号店をオープンした。エイチアンドエム(H&M)も2017年9月にホーチミンでベトナム1号店をオープンした。

④カルチャーベトナムは米国や韓国の音楽に影響を受けてい

る。若い女性の間ではK-popが大人気である。韓国系音楽専門チャンネルMnetの主催によるアジア最大級の音楽授賞式「Mnet Asian Music Awards2017

(MAMA)」が、2017年にはベトナム、日本、香港の3カ国・地域で共同開催された。なお、J-popは、五輪真弓の「恋人よ」や中島美嘉の「桜色舞うころ」

(ベトナム語タイトルは、自転車という意味のXe Đa·p)など、ベトナム人歌手にカバーされるなどの形で親しまれている歌が多い。

日本文化の中で、ベトナムの若者の間で関心が高い分野の一つはアニメである。『美少女戦士セーラームーン』、『ドラえもん』、『ドラゴンボール』、『名探偵コナン』、『NARUTO-ナルト-』、『犬夜叉』などの人気が高く、DVDが販売されているほか、ベトナム語に翻訳されたマンガが書店に所狭しと陳列されている。「日本のアニメが好きだから」というきっかけで日本語の勉強を始める人も決して少数派ではない。コスプレも大都市を中心に愛好家が出現しており、イベントが開催されたりしている。

⑤インターネットベトナムのインターネット普及率は46.5%*9。

1%以下であった2000年以降インフラ整備が進み、端末が普及したことで大きく伸びている。今では街中であれば、カフェやレストラン、ホテルなどの施設でWi-Fiを気軽に利用できる。通信環境が整っていることから、フェイスブックやユーチューブなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や動画共有サービスが広く利用されている。スマー

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トフォンが普及し、第4世代(4G)のモバイル・インターネット・サービスを利用する携帯電話契約件数も急増するにつれ、モバイル端末向けの広告や、モバイルを使って生活者に商品やサービスの認知・理解を促進する「モバイル・マーケティング」が活性化している。また、モバイル端末上で利用できるオンラインショッピングや電子新聞などのサービスも定着している。また、eコマース(ネット通販)が急速に普及している。2015年のベトナムにおける企業と個人間のeコマース取引額は約40億7,000万米ドルで、前年比37%増となった。この金額はベトナムの小売市場全体の2.8%に相当する*10。フェイスブックを利用した取引や日本製品に特化したウェブサイトなど、サービス内容や消費者の取り込み方法が多様化している。

無料通話・チャットアプリが広く使われており、ベトナム企業が開発した「Zalo」のシェアが急速に伸びている。これらを利用して、国外にいる親族や友人と連絡を取ったり、日常や旅行先で撮った写真を共有したりしている。 

*9:ITU推計2016年*10:JETRO「アジアのEC」2017年3月

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/fb62cc2ca58764b0/20170022.pdf

5. 日本のイメージ

5-1 一般的な日本のイメージ

ベトナム人は、概して日本好きの人が多い。アンケート調査を行うと、日本を「好き」と答える人がほとんどである。対日関係は極めて良好で、お互いにとって重要な関係と考えている。電通「ジャパンブランド調査2017年」では、ベトナムはタイやフィリピンと並んで世界一位の親日国*11となっている。

2016年に外務省が行った「ASEANにおける対日世論調査」によると、ベトナムでは、友好国として日本が「信頼できる」、「どちらかと言えば信頼できる」と答えた人の合計が88%に上っている。信頼できる理由としては、「日本の投資・良好な貿易関係」(75%)、「国際社会における開発協力」(66%)、

「世界経済の安定と発展への貢献、友好関係、価値を共有する関係」(65%)が挙げられている。日本に対する印象としては、「経済力・技術力の高い国」

(80%)、「豊かな伝統と文化を持つ国」(67%)、「生活水準の高い国」(57%)が上位3つであった。

日本について関心のある分野は、「観光」が63%

と最も高く、「文化」(61%)、「経済」(56%)が続いた。日本文化の中で関心のある分野は、「生活様式・考え方」(67%)、「日本食」(59%)、「茶道」(58%)が挙げられている。習得したい言語としては、英語、中国語を抜いて日本語がトップとなっている。その理由としては、「日本の文化や生活様式を理解したい」(62%)、「日本を訪問したい」(60%)、「将来役に立ちそう」(58%)が挙げられている。国際交流基金が2015年度に実施した「日本語教育機関調査結果」によると、ベトナムにおける日本語学習者数は世界8位の6万4,863人で、年々日本への留学生も急増している。

日本とベトナムの外交関係樹立35周年を記念し、両国の国家プロジェクトとして2008年から東京の代々木公園で始まった「ベトナムフェスティバル」は、今では毎年2日間で参加者が10万人を超える日越交流最大の祭典として定着している。ベトナムでも、ハノイ、ホーチミンのほか、古都ホイアンで2003年以来毎年夏に日本祭が開催されており、様々な分野での交流が活発化している。2018年には外交関係樹立45周年を迎え、観光、文化、人的交流および地方間交流の一層の強化が図られる予定である。

*11:電通「ジャパンブランド調査2017年」

5-2 旅行地としての日本のイメージ

Asia Plusが行った調査では、ベトナム人が「行ったことがある国」は、第1位のシンガポールをはじめ、アジアの国々が大半を占めている。一方、「行ってみたい国」の1位は日本という結果が出ている。訪日したい目的・理由としては、「日本食を食べる」

(69%)、「美しい景色を観る」(68%)、「日本文化を体験する」(59%)が上位を占めた。訪問先としては、東京が圧倒的な人気であるほか、大阪、京都、広島、北海道の人気も高いという結果になった*12。また、同じAsia Plusの調査「Japanese culture」によると、日本食の中で認知度が高いメニューは、「寿司」(52%)、「やきとり」(27%)、「刺身」(14%)、「ラーメン」(13%)、「たこやき」(12%)*13であった。これらのメニューを中心に日本食を楽しみにしている旅行者が多いと思われる。

一方、マイナスのイメージとしては、訪日旅行の際に言葉の壁を心配している人が多いことが挙げられる。そのため、訪日旅行は団体ツアーでの参加が主流を占めている。ベトナムの都市部では、日常的に英語を使う仕事に就いている人も多く、英語の言

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第1章 経済・政治・社会情勢と国民の志向

葉の壁は低いが、「日本では英語が通じない」というイメージが持たれており、不安感から行動が制約されるようである。また、ベトナム国内では都市部でもバイクで移動する機会が多いため、「電車などの交通機関の使い方が分からない」という不安もある。さらに、「日本では、アルファベットで書かれたものが必ずしも英語表記ではなく、日本語によるローマ字表記のものもあるため分かりにくい」という声も聞かれる。その他、「物価が高い」、「交通規則やトイレ、飲食店などのマナーや常識」など、習慣の違いを心配する人が多い。これらの不安は情報不足によるものなので、訪日旅行前に情報を入手できるよう、日本に関する情報をベトナム語でベトナム人に伝えていく必要がある。

*12:株式会社Asia PlusマーケットリサーチサービスQ&Me「ベトナム人の日本旅行に関する調査」2015年2月

*13:株式会社Asia PlusマーケットリサーチサービスQ&Me「Japanese culture」2017年3月