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JBICI DISCUSSION PAPER No.14 台湾の援助政策 近藤 久洋 2008 7 国際協力銀行 開発金融研究所

台湾の援助政策 - JICA · 1 第一章 はじめに 1.1 調査の背景 本調査1は近年台頭するドナー(以降「新興ドナー」)2として、台湾を対象として行った調査結果に

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JBICI DISCUSSION PAPER

No.14

台湾の援助政策

近藤 久洋

2008年 7月

国際協力銀行 開発金融研究所

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本 Discussion Paperは、国際協力銀行における調査研究の成果を内部の執務参考に供するとともに

一般の方々に紹介するために刊行するもので、内容は当行の公式見解ではありません。

発行 国際協力銀行 開発金融研究所 〒100-8144 東京都千代田区大手町1丁目4番1号 TEL: +81-3-5218-9720 FAX: +81-3-5218-9846 E-mail: [email protected] ©2006 by JBIC Institute. All rights reserved.

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目 次

第 1章 はじめに 1–2

1.1 調査の背景 1

1.2 調査対象・調査方法 2

第 2章 援助の沿革 3–6

2.1 受領国としての歴史 3

2.2 ドナーとしての歴史 5

第 3章 援助の内容 7–16

3.1 援助の規模 7

3.2 援助の重点分野 7

3.3 援助の重点地域 16

第 4章 実施体制・スキーム 17–28

4.1 政策機関 17

4.2 実施機関 19

4.3 援助の調整 22

4.4 その他のプレイヤー 24

第 5章 援助の動機・理念・目的・戦略 29–36

5.1 ODA基本法・中長期的戦略 29

5.2 外交目的と開発援助のリンケージ 30

5.3 ドナー特有の援助:台湾経験と援助モデルの構築 33

5.4 台湾援助の比較優位と問題点 34

第 6章 今後の展望と可能性 37–39

6.1 台湾援助の改善 37

6.2 日台援助協力 38

6.3 東アジア・ドナー・コミュニティ形成への示唆 39

第 7章 結論 40–41

参考文献 42

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第一章

はじめに

1.1 調査の背景

本調査1は近年台頭するドナー(以降「新興ドナー」)2として、台湾を対象として行った調査結果に

基づくものである。

台湾を含む NIEs 諸国は、1960 年代から急激な経済発展を遂げ、近年では発展途上国というよりも

先進国のイメージに近づきつつある。かつての発展途上国が先進国化するにつれ、国際社会からの援

助を受けるレシピエントの立場から、国際社会に援助を供与するドナーとしての立場に変化する現象

も発生している。

他方、DACを中心とするドナー・コミュニティでは近年、援助の効率性向上のため、ドナー間で援

助手続きの調和化を推進しつつある。しかし、一般に新興ドナーは独自の援助に関与することが多い。

その結果、2つの相反するシナリオが予想される。

一部新興ドナーによる過度に国益を重視した援助によって、DAC が推進するグッド・ガバナン

ス・環境評価・貧困への各種要求項目の効果が低下する(Manning 2006: 1)3。

新興ドナーの参入により、各新興ドナーの得意分野への支援が行われることで、質的な多様化が

期待されると共に、援助資金の量的な拡大によってミレニアム開発目標(Millennium

Development Goals:MDGs)の達成に貢献する。

つまり、新興ドナーが援助に関与することによって、既存ドナーの援助にどのようなインパクトが

あるかは、現段階ではコンセンサスが得られていないのである。日本の周辺に位置する新興ドナーに

ついては、調査者(近藤 2007)が既に韓国の援助政策について『開発金融研究所報』第 35号において

調査結果の報告を行っている。しかし、台湾の援助政策について、体系的な分析がなされた報告はこ

1 本調査の企画・実施に当たっては、現地調査訪問先の聞き取り調査への協力や、各方面からの有意義なコメント、

国際協力銀行(JBIC)、特に開発金融研究所からの様々なご支援を受けている。また、現地調査のアレンジについては、台北駐日経済文化代表處と台湾外交部日本事務会のご支援を賜っている。ここに厚くお礼申し上げたい。

2 近年では「non-DAC donors」という呼ばれることもある。 3 non-DAC ドナーによる援助のリスクとして、(1) 旧重債務国に対し、non-DAC ドナーからの低利融資にアクセスするインセンティブを与えることになり、一層債務が累積する可能性がある、(2)ガバナンス・アカウンタビリティに問題のある改革必要国に DAC諸国が援助を見合わせている間に、non-DACドナーが援助に着手することで、結果的に開発途上国の改革を阻害しかねない、の 2点がある(Manning 2006: 10)。

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れまでなかった。韓国と台湾は、(1) 発展の時期・プロセスにある程度の共通点を有し、(2) 日本に

隣接する新興ドナーであり、(3) 開発戦略・援助戦略に日本の影響があると予想される、(4) 援助規

模が比較的同等である、という共通点を持っており、援助政策についての分析を行う必要性は高い。

1.2 調査対象・調査方法

先述の通り、本調査では、新興ドナー国として台湾を調査対象とした。

新興ドナーに関する先行調査・研究は極めて少なく、日本語による資料を入手することはほぼ不可

能であった。加えて、台湾援助に関する先行研究は皆無であり、更に新聞記事等による報道も見られ

ない4。従って、本調査では、まず台湾の援助実施機関が公表する一次資料を収集した。次に、その一

次資料等の文献調査に基づき、質問票を作成のうえ、現地関連機関へのインタビューを実施した。

インタビューは 2007年 3月 24日から 4月 4日までの第一次現地調査及び 2007年 5月 1日から 5月

5日の第二次現地調査において面談形式で実施した。面談先は台北駐日経済文化代表處及び外交部・亜

東関係協会の協力のもと選定し、台湾政府機関(外交部、経済部、農業委員会、亜東関係協会)、実

施機関(ICDF)、研究機関・大学(国策研究院・東呉大学)、援助経験者(蘇比克湾開発管理中心)、

財界団体(中華民国工商協進会)、NGO(財團法人羅慧夫顱顏基金會)、援助対象機関(台灣私立醫

療院所協會)の合計 12回の面談を実施した。更に、補完調査として、メールによる照会も随時行った。

但し、後述するように、台湾の援助は分権的・分散的な実施体制を特徴とし、援助実施機関の改組を

繰り返してきているのであるが、本調査では外交部・ICDFを中心とした情報収集を行ったため、包括

的調査には至っていないことを認めざるを得ない。

4 実際、台湾での現地調査時に、今回の調査のように台湾援助のことを詳細に調べた質問をなされたのが初めてで

あるとの説明を受けた(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。なお、台湾援助に関する資料が少ないのは、実施機関の改組と所管省庁の変更により、資料自体が分散していることに加え、台湾政府にとって外交摩擦を招

きかねない援助に関してはあまり資料に残さない方がよいという判断があるものと考えられる。また、後述する

ように、台湾の援助実施体制は、政府の各部署によっても並行して実施されているため、全体的なデータの把握

が困難であることも影響している。更に、ICDFの援助規模・セクター分配・地域配分の推移に関するデータも得られなかった。そのため、研究者にとっては困難な調査対象となっているのである(亜東関係協会へのインタビ

ュー:2007年 3月 28日)。

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第 2章

援助の沿革

2.1 受領国としての歴史

台湾と援助の関わりは、韓国と同様に、援助受入の歴史から始まる。

台湾は 1948年の経済合作法を起源に、アメリカ援助を受けて経済復興を進めた。台湾へのアメリカ

援助は、1950年から 1965年 6月まで、年平均 1億ドルの援助規模で推移し、援助形態は、防衛物資援

助・開発借款・技術協力・軍事協力・余剰農産物援助となっていた(ICDF 2006b: 215, 28)。台湾への

アメリカ援助には 3段階あり、第一段階では、1949年の国民党の台湾遷都以降、アメリカ国務省は国

民党政府に軍事・経済援助の停止を説明していたが、1950年の朝鮮戦争により、1950年 8月から台湾

への援助を再開している(ICDF 2006b: 216)。この時のアメリカ援助は、軍事的・経済的考慮が重視

され、台湾の安定化のため、民生物資調達とインフレ抑制に活用されている(ICDF 2006b: 216)。第

二段階でも、軍事目的が重視され、1951年の相互防衛援助法(Mutual Security Act)により、アメリ

カ同盟国に軍事・経済援助を提供し、共産勢力の侵入に抵抗するため、西太平洋盆地の軸にある台湾

に対し、直接的な軍事物資援助、防衛援助(経済開発による防衛能力向上を含む)、技術協力をする

こととなった(ICDF 2006b: 216–7)。第三段階では、1950年代末のデタントと第三世界の台頭を受け、

台湾向け援助は対象・規模ともに大幅削減された。アメリカは援助の削減だけでなく、台湾経済の自

立化を要求し、1959年の 19点財経済改革(貯蓄奨励、消費節約、民間投資環境改善、国防費拡張抑制、

予算制度の改革、輸出促進等)の実施や、1960 年の投資奨励条例による経済開発促進に関心を寄せる

ことになる(ICDF 2006b: 218–9)。そして、1964年にはアメリカ国務省が台湾援助の停止を宣言し、

新規貸付終了の後、1970 年の返済完了を以ってアメリカからの援助は完全に終了した(ICDF 2006b:

219–21)5。

5 1951年から 1965年までのアメリカ援助 14億 8,200万ドルのうち、経済援助(経済部門に関連した物資・機材、技術、役務に関する支援を指す)が最多の 10億 2,900万ドルを占め、農産物支援が 3億 8,700万ドル、借款は 6,580万ドル(借款はダム、セメント、鉄道、工業、火力発電等に供与)のみとなっている(ICDF 2006b: 226–32)。軍事援助も 1949年から 22億ドル供与されている(ICDF 2006b: 219–20)。なお、台湾へのアメリカ援助は、(1) 物資供与・財政赤字補填による悪性インフレ抑制を達成することで経済安定に貢献し、(2) 農業改革・土地改革支

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アメリカ援助と並行して、国際機関による台湾援助も行われていた。例えば、世界保健機関(World

Health Organisation : WHO ) の 支 持 の 下 、 衛 生 所 等 の 再 整 備 が 行 わ れ て 、 DDT

(Dichloro-diphenyl-trichloroethane)の普及に対しても支援が行われていた(ICDF 2006b: 233–4)。

世界銀行からも、1961年に借款を受け、14案件、3億 2,890万ドルの借款受入の実績がある(ICDF 2006b:

234–6)。1966 年設立のアジア開発銀行については、台湾は設立発起国の一つであり、1967 年に借款

申請し、1984年までに 12案件に対して 9,600万ドルの融資を受けている(ICDF 2006b: 236–7)6。

日本の援助も 1960 年代から始まっている7。第一に、1965 年から、ダム・道路・インフラ等の建設

に円借款が供与されている8。第二に、技術協力も行われている。行政機関の中級・下級官僚向けに研

修プログラムが実施され、経済開発関連のテーマで、研修生の派遣、専門家派遣、機材供与が行われ

た。第三に、これは「台日技術合作計画」と呼ばれ、1960 年からの政府間協力として、日本への技術

者短期研修派遣や、日本人専門家の台湾招請、機材設備の贈与、科学技術セミナーの開催を行うもの

であった(ICDF 2006b: 240–1)9。同時に、日本の労働省(当時)が職業訓練センターを 3カ所に建設

し、特に台湾中部での人材育成重要な役割を担っていた(亜東関係協会へのインタビュー:2007 年 3

月 28日)10。つまり、総じて、日本の援助は経済開発関連の援助を行ってきたといえる。

また、1980 年代の民主化改革には、海外の直接・間接の支援が重要な役割を果たしたと認識されて

いる。そのため、政治的には民主化を達成し、経済的にはアジア地域の有力プレイヤーとなった今、

政治経済両面で受けた支援を国際社会に還元する責任があると認識されている(ICDF 2006a: 6)。

援により「農業で工業を養い、工業で農業を発展させる」ことを可能にし、(3) 生産物資の供与により復興を促進し、機械設備・原材料の供与により輸入代替工業化を推進し、原材料供与により輸出志向工業化を推進し、(4) 第二次世界大戦で破壊された経済インフラの復旧に大きな貢献をしたとされている(ICDF 2006b: 244–50)。

6 但し、1971年に国連を脱退して以降、台湾向け国際金融機関の新規借款計画は中止となった(ICDF 2006b: 237)。

7 なお、日本と並んで、サウジアラビアからの援助もなされていた。1974 年のサウジアラビア開発基金設置に伴い、台湾は借款を申請し、1975 年の中山高速公路、1977 年の鉄道電化事業計画、1978 年の電信開発計画、1980年の電力配電計画、1984年の台北市地下鉄計画等の基幹インフラ整備で援助を受けている(ICDF 2006b: 239)。サウジアラビア借款は、規模こそ大きくないものの、金利 4–5%、返済期間 20 年と比較的良好な条件のため有効活用されていた(ICDF 2006b: 239–40)。

8 日本の借款は、ダム、電力開発、一貫作業鋼鉄工場、肥料工場、台糖設備更新、公営事業投資を対象とし、ダム

建設に対する OECF 案件の条件は、金利 3.5%、返済期間 20 年、据え置き期間 5 年となっていた。その他案件については、日本輸出入銀行が実施し、金利 5.75%、返済期間 12–15 年、据え置き期間 3 年という条件で援助を行った(ICDF 2006b: 238)。

9 この技術協力スキームの実績について見ると、1960 年から 2004 年 12 月までに、台湾から派遣された研修生が6,333人、日本から招請された専門家が 2,494人、日本から送られた設備が 1,673万ドルとなっている(ICDF 2006b: 241)。

10 また、台湾政府の官僚を日本に派遣して研修させる事業もあった。このスキームは、従来日本の ODA事業として受け入れがなされていたが、「台湾は既に ODAから卒業した」という日本政府の認識により、2000年からは台湾政府が費用負担し日本への派遣を続けている。研修期間は 2 週間で、研修内容は、経済開発、災害対策、地震対策、エネルギー、ICT デザイン等、日本が先進技術を持つ分野となっている(外交部へのインタビュー:2007年 3 月 28 日)。なお、日台の政府間交流は、外交関係がないため公式にはできないが、実際は台湾側の亜東関係協会と日本側の交流協会を通じて接触を図っている。両機関は、ともに民間人をトップに据えているが、職員は

外務官僚である。両協会は「貿易経済会議」と称される年頭会議を開催しており、その年頭会議では、日本への

人材派遣の内容を 2000年まで毎年協議していた(亜東関係協会へのインタビュー:2007年 3月 28日)。

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2.2 ドナーとしての歴史

ドナーとしての歴史を振り返ると、台湾は 1959年にベトナムの農業開発のためにアメリカ援助を活用

した技術協力ミッションを派遣したことが起点となっている11。以来、約 50 年間にわたって援助供与

に関与してきている(ICDF 2006a: 4)。1960年には農耕隊タスクフォース(Operation Vanguard Task

Force)を発足し、1961 年に「農耕隊」(Operation Vanguard)の下で、農業技術協力ミッションが

新興独立のアフリカ諸国に派遣され、野菜・果物生産改善の事業に活用された12。1962 年に、技術協

力ミッションは「中非技術合作委員会」(ROC-Africa Technical Cooperation Committee:台湾・アフ

リカ技術協力委員会)に拡大され、1971年の国連脱退を受け、1972年に中非技術合作委員会は「海外

技術合作委員会」(Committee of International Technical Cooperation:CITC)に統合され、農業開発

支援を中心とする技術協力を拡大してきた(ICDF 2006a: 6, 12–3)13。

但し、本格的な援助に関与するのは、台湾が国際経済においてプレゼンスを高める 1980年代以降で

ある。1980年代に、台湾は次のような課題を抱えていた14。

急速な経済成長・貿易収支大幅黒字を記録したことに対し、国際社会からの批判が増加した:1984

年度から 1988年度に、GNPは 2.05倍増加し、貿易収支は 1.29倍増加し、外貨準備は 740億ドル

を超過した。

為替レート切り上げ・人件費上昇等により、台湾の労働集約産業の競争力が低下した:1984 年 1

月の為替レートは 1 ドル 40.21 元であったが、1989 年 1 月には 27.77 元にまで変化し、台湾の企

業は海外進出することが求められた。

「一つの中国」の解釈を台湾に有利に進めるため、周辺国の華僑を支援する必要が発生した15。

国際政治における台湾のイメージを向上する必要が求められていた。

11 援助対象にベトナムが選定された理由として、(1) ベトナムの織物工場を支援することで、台湾・ベトナムの両国関係を増進すること、(2) アメリカが台湾にベトナム援助を要請したこと、(3) 台湾とベトナムの農業が類似していたことがあった(ICDF 2006b: 251–2)。

12 アフリカ援助の背景には、冷戦対立・米中対立の国際情勢がうかがえる。当時、アメリカと同盟関係にあった

台湾は、アフリカ大陸における共産主義の前身基地を封じ込めつつ中国と競争するため、アフリカ諸国を取り囲

むことを狙っていた(ICDF 2006b: 252)。

13 CITC は、農水畜産業・手工業の技術者の派遣や、研修員受入を担当していた。1961 年から実施し、1988 年の段階で、24カ国に 292名を派遣していた。

14 出典は、ある内部資料による。これらは、韓国 EDCF の設置時に韓国が抱えていた背景と類似する。韓国は、当時、(1) 韓国が国際収支を改善したことで、国際社会でのプレゼンスが向上していた、(2) 開発途上国からの援助要請が増大した、(3) 輸出振興策の一環として援助が求められた、という背景を抱えていた。中進国が援助供与に本格参入する場合は、こうした背景が共通することが多いと考えられる。

15 例えば、フィリピンの華僑に対する教育支援が行われていた。フィリピンには福建系華僑が多く、台湾と同じ

繁体字を使っている。また華僑出身のフィリピン財界人も多い。それらの華僑は中正学院というフィリピンの中

華学校で、台湾援助による台湾の教科書・台湾人の教師のもとで学んでいた。しかし、近年は援助もできず、教

科書供与も教師派遣もできず、最近は中国からの派遣をフィリピン華僑が求めている。なお、台湾からの援助が

できなくなったのは、戒厳令後に「一つの中国」に関連する政策としての華僑支援が困難になったためである。

なお、フィリピンは台湾と近い関係にあり、フィリピン貿易産業省(Department of Trade and Industry:DTI)が頻繁に非公式ながらも訪台しており、協力関係もある(亜東関係協会へのインタビュー:2007年 3月 30日)。

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こうした背景の下、台湾の経済発展経験を開発途上国と共有するため、「海外経済合作発展基金」

(International Economic Cooperation Development Fund:IECDF)を 1989年 10月に経済部の管轄

下に設置した16。この IECDF は、友好国・外交関係発展のために、経済社会開発案件を供与する権限

が与えられた。IECDF は開発途上国の貿易・経済援助に関与するようになり、台湾援助は従来からの

技術協力に加え、借款・投資を行うことが可能になる(ICDF 2006a: 12–3)。同時に、援助案件が多様

になり、かつ技術協力ミッションの数が増加し、台湾外交における援助の重要性が高まるにつれ、1996

年に借款中心の IECDFを技術協力中心の CITCと統合し、米国国際開発庁(United States Agency for

International Development: USAID)と当時の国際協力事業団(Japan International Cooperation

Agency: JICA)を参考にしつつ、財団法人国際合作発展基金会(International Cooperation and

Development Fund:ICDF)が設置された(ICDF 2006a: 6;ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30

日)17。この ICDFは、援助に関する公的・民間セクターの力を結集し、「All Taiwan」で援助を行う

ために設置されたものである(ICDF 2006a: 13)18。こうして、ドナーとしての台湾の援助体制は構築

されるに至っている。

16 IECDFは 1991年までは「Overseas Economic Cooperation Development Fund」が正式な英文名称であった。

17 但し、後述するように、台湾政府機関の各部署による援助は継続しており、分権的・分散的な実施体制となっ

ている。

18 「All Taiwan」という用語は台湾援助界で使われている訳ではないが、後出の「全民外交」(People’s Diplomacy)というフレーズが類似しているものと考えられる。

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第 3章

援助の内容

3.1 援助の規模

台湾援助の規模については、後述するように多

数の省庁によって援助が行われているため、総額

を把握することは容易ではないが、ICDF の資金

規模は現在 124億 7,000万台湾元となっている。

その財源は投資及び金利収入による。内訳につ

いて見ると、長期金利収入が 34.2%、非運営費

65.8%(金利 30.5%、為替レート差益 2%、投資収

入 6.4%、その他 26.8%)となっている(ICDF 2006a:

23)。他方、支出は、案件コストが 79.5%、運営

費 20%(運営費に占める各内訳は、事務管理 8.6%、

政策計画 1.2%、金融(借款)2.9%、技術協力 3.6%、

国際人的資源開発 4.1%)となっている(ICDF

2006a: 25)19。2005年度の事業予算の配分を見る

と、図 1 のように、事務・企画費が 47%、国際人的資源開発が 20%、技術協力が 17%、金融が 14%、

その他が 2%となっている(ICDF 2006a: 54)。

3.2 援助の重点分野

○援助の形態

台湾援助にも、二国間援助と多国間援助の 2形態が見られる20。

19 バランスシート・キャッシュフローのデータ、各種プロジェクト金額等の詳細データは、ICDF年報を参照(ICDF 2006a: 68–77)。

20 但し、二国間支援と多国間支援の規模及びその推移に関する統計データは得られていない。

図1:ICDFの事業予算

事務・企画費

47%

その他2%

国際人的資源開発

20%

技術協力17%

金融14%

出典:ICDF (2006a: 23–5)。

注:事務・企画費の取扱については、報告者が一部加工している。

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まず、二国間援助については、次の援助の種類がある(ICDF 2006b: 256–7)。

駐外技術団サービス:ICDFは農漁業・手工業・工業・貿易投資等の技術団・医療団の業務を取り

扱う。

インフラ建設支援:友好国の国家インフラ整備のため、農業・経済・社会・文化・教育・科学技

術・人権・医療・衛生・環境保護・労働事務等の建設計画を提供する。

国際救助:国際間で発生した戦争・災害に対し、被災国に金銭支援・援助を行い、食糧・衣料・

医薬・医療器材を供与する。

教育訓練:友好国に農漁業・経済貿易・技術等の専門人材の訓練や奨学金を提供する。

投資・融資・保証:友好国の政府や官営・民間企業に対し、投資借款や投資借款保証を供与、ま

たは台湾企業による友好国向け投資に対し与信保証、台湾の商業銀行を通じて商業借款方式で受

入国に融資する21。

他方、多国間援助については、次の 2形態の関与がある(ICDF 2006b: 257)。

捐贈:国際組織本体もしくは国際組織のプロジェクトに対して拠出を行う;

出資:国際組織の計画に協力するため、基金を出資する。

では、個別の援助形態についてはどのような特徴があるのであろうか。

先述の通り、台湾の援助は、農業開発ミッションをベトナムに派遣した 1959年が起源となっている。

2005年の段階で、70カ国で協力プロジェクトを実施し、14,500人を 111の技術協力ミッションに派遣

してきている(ICDF 2006a: 12)。更に、2005年末現在で、農業・漁業・畜産・医療・経済・貿易、

産業の各分野に対して 35 の技術協力ミッションで 249 人の技術者を 29 カ国に派遣中である(ICDF

2006a: 12)。

IECDF 当時は、(1) 直接借款、(2) 間接借款、(3) 直接出資、(4) 間接出資、(5) 保証、(6) 技

術協力、(7) 国際機関との協力があった。当時の援助案件は、借款と技術協力で構成され、借款は 4

億ドルから 4億 5,000万ドルの規模であった。借款は道路建設、電気・ガス・水道等の公益事業、工業

団地、中小企業への融資に供与されていた。他方、技術協力は農業を除き、経済発展に関連した内容

の援助に特化していた(蘇比克湾開発管理中心へのインタビュー:2007年 3月 20日)22。

1996年設立の ICDFは、農業、漁業、畜産、健康、商工、貿易、IT等の各セクターについて、(1) 金

融、(2) 技術協力、(3) 国際人的資源開発、(4) 人道支援、の 4つの援助形態により援助供与を行っ

ている(ICDF 2006a: 4, 6)。うち、金融部門は貸付に関わるものであり、技術協力・国際人的資源開

発・人道支援は贈与に関わるものである。ICDFは有償協力と無償協力の双方を担当しているのである。

21 商業借款方式でも、優遇金利のため金利差額を台湾外交部が負担し、実施的には譲許性の高い借款である。

22 IECDF時代の援助活動については、Chan(1997)を参照。

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○金融支援

第一に、金融について説明をする23。金融への支援は、台湾の全体的な外交戦略と歩調を合わせ、台

湾と外交関係を有する諸国が投資・金融・信用保証によって経済発展に向かうよう支援することを目

的としており(ICDF 2006a: 16)、外交手段としての色彩が強いものの、スキーム内容はほぼ借款のイ

メージに類似する。24。具体的には、経済インフラ案件への融資業務と、信用保証等による投資業務に

より台湾企業の途上国投資を促進し、技術・経営の専門能力が台湾企業から移転し、開発途上国の産

業競争力向上・雇用創出・国民所得増加・貧困削減に貢献することを期待したものと言える(ICDF

2006a: 16)。

融資業務について見ると、次のようなプログラムに沿って実施されている(ICDF 2006b: 273–4)。

民間セクター借款プログラム:民間セクターの経済活動を活性化し、途上国のの中小零細企業に

資金が供与されるべく、途上国の政府・銀行・NGOに対して融資を行い、雇用機会創出・現地の

商工業発展に役立てるもの。

インフラ建設借款プログラム:インフラ建設用途の借款。

社会・教育プログラム:途上国の職業教育体制の強化を支援することで、途上国の専門人材を育

成し、国際競争力を向上するもの。

小農借款専案プログラム:小農に技術・資金を供与することで農村経済を刺激し、農民所得向上

するもの。

また、投資業務は、中南米を中心として実施されている。投資業務の詳細については、次の通りで

ある(ICDF 2006b: 274–5)。

間接投資:海外投資公司等への投資。

直接投資:国際機関・海外の銀行と協力し、小額借款組織を設立するもの25。

信用保証業務:台湾の国交国に台湾企業が投資する際に信用保証するもの。

2005年度までの実績を見ると、75案件が承諾され、5億 197万ドルのうち、3億 8,276万ドルがディ 23 ICDFの金融業務には、単独で行うものと国際機関と共同で行うものとがある。後者の国際機関との協力案件は、ICDFと国際機関が共同で資金提供を行い、途上国に貸与するものであり、これまで、米州開発銀行(Inter-American Development Bank:IDB)・欧州復興開発銀行(European Bank for Reconstruction and Development:EBRD)・アジア開発銀行(Asian Development Bank:ADB)・中米経済統合銀行(Central American Bank for Economic Integration:CABEI)・欧州投資銀行(European Investment Bank:EIB)・アフリカ開発銀行(African Development Bank:AfDB)等との実績がある(ICDF 2006b: 275–6)。なお、「借款」ではなく、「金融支援」という一般的名称としているのは、政府・公的機関による国際的資金貸与である「借款」という名称を用いた場合に生じる、対中

関係を考慮する受入国の潜在的懸念を念頭に入れてのことであると考えられる。

24 これはバイ・マルチ双方で関与している(ICDF 2006a: 16)。

25 台湾の援助活動は、直接投資とも若干重なる部分があるようである。第五章で指摘するように、台湾の援助で

は、民間セクター中心による経済開発が指向されている。そのため、援助で開発途上国のインフラ整備を進める

一方で、小額ながらも呼び水となりうる台湾企業による民間投資の供与も調整することで、受入国にとっても魅

力を感じるようにしていると考えられる。

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スバースされている。また、地域別配分を見ると、台湾と外交関係を有する国の地域配分を反映し、

中南米が 55%、アジア太平洋が 26%、アフリカが 12%、欧州が 7%となっている(図 2 を参照)。セ

クター別配分については、図 3 にあるように、民間セクター開発が 41%、公共インフラ開発(例:道

路建設・高速道路建設・灌漑事業への融資)が 38%、社会開発が 10%、緊急救援が 6%、農業が 5%を

占めている(ICDF 2006a: 16–7)26。

2005年末の段階での融資条件の平均値を見ると、融資期間 17.06年、金利 3.56%、据え置き期間 4.48

年、平均コミットメント額は 763万 3,000ドルとなっている(ICDF 2006a: 53)。

○技術協力

第二に、技術協力は、次の項目で構成されている(ICDF 2006a: 17;ICDFへのインタビュー:2007

年 3月 30日)。

外交部委託の「駐外技術団」(技術協力ミッション)。

ICDF独自の技術協力案件:中小企業コンサルティング、産業コンサルティング、制度能力構築の

短期研修・専門調査。

ボランティア事業:「海外志工業務」(Taiwan Overseas Volunteers:海外ボランティア)、「外

交替代役」(Taiwan Youth Overseas Service:外交代替サービス)27等のボランティア派遣。

第一の項目である外交部委託の駐外技術団業務について見ると、外交政策・受入国ニーズを考慮す

ることが基本原則とされ、農業技術団、手工芸技術団、漁業団、医療団、工服団(工業サービス団)

等を、受入国の特徴・計画・ニーズに合わせて派遣することとなっている(ICDF 2006b: 276–7)。2005

年度の技術協力は、技術・医療ミッションが 13 億 2,000 万元で委託され、29カ国で 35ミッション、

26 2005年度の実績に着いてみると、9案件を承諾しており、うち 7案件は民間セクター開発、1案件は公共インフラ案件、1 案件は社会開発案件となっている。地域別に見ると、6 案件は中南米、2 案件はアジア案件、1 案件はアフリカ案件となっている(ICDF 2006a: 16)。

27 「外交替代役」とは、後述の通り、兵役の代替措置として、国際協力のボランティア活動を充てることを指す。

図2:金融支援の地域別シェア

中南米55%

アジア太平洋

26%

アフリカ12%

ヨーロッパ7%

出典:ICDF (2006a: 16–7)。

図3:金融支援のセクター別シェア

民間セクター開発

41%

社会開発10%

農業5%

公共インフラ開発38%

緊急救援6%

出典:ICDF (2006a: 16–7)。

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249人が 76案件に関与している28。案件の内訳は、農業経営が 14案件、園芸 28案件、水産養殖 10案

件、畜産 9案件、医療 5案件、食品加工 3案件、職業訓練 3案件、その他 4案件、という構成になっ

ている(図 4 を参照)29。地域別の配分は、図 5 にあるように、アフリカが 42%、中東 21%、アジア

太平洋 17%、カリブ海諸国 16%、南米 4%、中米 3%となっている(ICDF 2006a: 17–8)。

第二の項目の ICDF 独自の技術協力は、台湾の経済発展経験を世界に推進し、国交国の産業発展・

貧困削減を目指すことを目的に実施されている。この ICDF 独自の技術協力は、中小企業指導団のコ

ンサルティング業務・産業指導計画等を行うため、次の 5つのプログラムを展開している(ICDF 2006b:

278–80)。

「中小企業輔導計画」(中小企業指導計画):政策研究セミナー、制度構築能力強化、工業諮詢

サービス等。

「産業輔導計画」(産業指導計画):デジタル・デバイド削減のため、友好国に科学技術協力を

実施。

制度能力向上:職業訓練と政府部門の効率向上。

「専案研究」(特別専門調査):経済貿易投資・農漁業部門に、台湾人専門家を派遣・研究させ、

研究結果を途上国政府・台湾政府に派遣。

国際組織との協力:EBRD等の国際機関の資金を運用30。

技術協力の 2005年度実績については、17案件あり、8案件は産業コンサルティング(コンサルタン

ト派遣等)、6案件はキャパシティ・ビルディング、3案件は特別専門調査となっている(図 6参照)。

これらの支援は、ICT・中小企業開発・農業・医療保健分野に多く、特に ICTは政府が国際的なデジタ

ル・デバイドを削減することを求めた台湾政府の「挑戦 2008:国家発展重点計画」(Challenge 2008:

National Development Plan)を補完するためにも実施されている(ICDF 2006a: 18)。地域配分は、

図 7にあるように、ラテンアメリカが 53%を占め、アフリカが 28%、カリブ海諸国 17%、アジア太平

洋・中東が 2%となっている(ICDF 2006a: 18)。

28 1959年からの実績を整理すると、109団、1万 3,000人を 29カ国に派遣している(ICDF 2006b: 276–7)。

29 また、地域国際金融機関・他国ドナー実施機関・国際NGOとの共同案件もある(ICDF 2006a: 17)。また、2006年から巡回式の「行動医療団」(移動式医療団:Mobile Medical Teams)を導入した。

30 例えば、ユーゴスラビアでの国際セミナー実施、中央アジアからの ICT 見学訪問のプロジェクトが実施された(ICDF 2006b: 278–80)。

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第三のボランティア派遣については、1997年から実施し、2005年には 157人を 22カ国に 2年任期

で派遣している。派遣分野は、「海外志工業務」(海外ボランティア業務)と呼ばれるものと「外交

替代役」(外交代替サービス)と呼ばれるものがある。海外志工業務は、2 年の任期制であり、1997

年に 5名のボランティアをスワジランドに派遣して以来、友好国 22カ国に 157名を派遣している。対

象は、中小企業コンサルティング、コンピューター、教育(中国語・英語・数学・手工芸・民族舞踊)、

農業生産販売指導、病虫害防止、医療看護、ペスト防止等、多岐にわたっている(ICDF 2006a: 19–20;

2006b: 280)31。他方、外交替代役は、兵役の代替として考案されたもので、外交部が主導し、ICDF

が訓練・管理を担当している。2001年の第一回派遣では 36人、2005年には 67名が派遣され、増加傾

向にある。対象業務として、農漁業改良、経済貿易発展・企業指導、医療サービス、ICT、教育をカバ

ーしている(ICDF 2006b: 280–1)。

○国際人的資源開発

第三に、国際人的資源開発(「国際人力資源培訓業務」)は、経済社会開発向けの人材研修を目的

としている。その研修内容は、大きく分けて 2つの形態に分類されている32(ICDF 2006a: 21–3;ICDF

へのインタビュー:2007年 3月 30日)。

専門ワークショップ(短期):開発途上国の政府官僚を招き、経済貿易分野(WTO、中小企業発

展の経験、科学技術政策と管理、マイクロ・クレジット、貿易拡大、紡績工業管理)、中小企業

開発、台湾経験、食品加工、技術産業政策、農業政策・農村開発(食品加工技術、農業政策と農

31 「外交替代役」(Taiwan Youth Overseas Service:外交代替サービス)というボランティア・プログラムは、外交部の後援により実施され、ICDFが研修・管理を担当している。このサービスでは、3ヶ月の言語・スキル研修の後、農業、水産、貿易、産業コンサルティング・教育・行政分野にボランティアが派遣される。2005年度は 67人が派遣されている(ICDF 2006a: 20–1)。また、別途、行動医療団も派遣されている。なお、ボランティアには、「外交替代役」という兵役免除としてのボランティア派遣制度もある。

32 なお、研修参加者は、「国合之友会」(ICDF友の会)に組織されている。これは、外交的効果を期待してのことであり、各国の台湾の駐外単位(現在、世界に 37支部あり)に設置されている(ICDF 2006b: 281–3)。

図6:技術協力案件のカテゴリー別シェア

産業コンサルティング

47%

キャパシティ・ビルディング

35%

専門調査18%

出典:ICDF (2006a: 18)。

図7:技術協力案件支出の地域別シェア

ラテンアメリカ

53%

カリブ海諸国

17%

アフリカ28%

アジア太平洋・中東

2%

出典:ICDF (2006a: 18)。

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村発展、水産養殖)、熱帯医療、南米でのハイレベル経済計画立案者向け研修といった 16のワー

クショップを提供する33。

奨学金・教育協力(長期):高等教育を受けた開発途上国の専門人材を育成するため、1998年に

創設されたスキームである。研修終了後は出身国に帰国し、台湾大使館や途上国で協力計画に携

わることを期待するものである。2005年度には 71人の留学生を台湾の 13大学に招聘し、農業・

台湾研究・教育・コンピューター・保健等の課程を修了させる学位プログラムを提供した34。

○人道支援

第四に、人道支援は主に緊急支援のためのスキームであり、MDGs等の国際援助潮流を受け、ICDF

も 2001年に人道援助経費の予算計上したのが起源とされている。自然災害・難民への対処を行うため、

途上国に医療・公衆衛生を提供することが主目的になっている。2005 年度はインド洋津波被害国やフ

ィリピン、タイ、パナマ等、災害の被害を受けた諸国を支援している(ICDF 2006a: 22–4)。その際、

国際 NGOとも協調している(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。人道支援の実施に当た

っては、台湾の NGO の協力を得ることが重視されており、チベット難民自助センター、台湾チベッ

ト交流基金会、美慈組織、パナマ共同援助発展基金会、財団法人中華キリスト教路加伝導会との協力

関係がある(ICDF 2006b: 283–4)35。

○援助の重点分野

ICDFの重点協力分野には、農業支援、民間セクター開発支援、ICT支援、医療支援の合計 4つがあ

る。

第一に、農業を重視するのは、台湾の発展経験では小農が重要であったためである。つまり、小農

の技術向上により農作物生産が増加し、農作物輸出により外貨獲得し、商工業部門への資金となった。

これは途上国にも現実的・有用な経験であると考えられている(ICDF 2006a: 13–4)。

農業支援の戦略と方法として、貧困削減・栄養改善・経済成長促進・環境持続性確保だけでなく、

受入国の地理的・気候的・農業状況・資源・食習慣・文化を考慮したプログラムを個別に作製するこ

とが特徴として挙げられている(ICDF 2006a: 30)。その結果、地域別に差別化された農業支援が提供

されている36。農業支援にあたっては、次の形態が採用されている。

33 2005年には 16回の研修を実施し、67カ国から 378名の政府官僚が参加している(ICDF 2006b: 281–3)。

34 これまで 21カ国から 145名が来台し、10の協力大学で修士・博士課程に在籍し、英語による授業を実施している(ICDF 2006b: 281–3)。参加者は、ラテンアメリカが 43%を占め、アジアが 31%、アフリカが 15%、欧州が 6%、国際機関からの派遣が 5%となっている(ICDF 2006a: 21)。

35 緊急支援を想定した人道支援のスキームに、NGO の協力を得ることが重視されているのは、NGO の機動力・柔軟性を評価しているだけでなく、外交上の理由で援助に障害が生じないように配慮したものと考えられる。

36 例えば、アフリカに対する農業支援戦略は、主食の自給が不可欠なため、ICDFは自給構造と栄養源の改善を重視し、具体的には食品加工技術・農民意識改革・灌漑・脱穀を支援することとなっている。ラテンアメリカ・カ

リブ海諸国に対しては、農業は比較的安定しているため、農作物の品質改善を重視し、具体的には市場向け生産・

販売プロジェクト・農業企業設置・農民組織設置・食品加工等を行うことが提示されている。アジア太平洋州に

対しては、比較的強力な経済状況のため、ICDFは品種多様化・生産技術改善・販売ネットワーク・観光型農業・有機栽培の改善を支援することとなっている(ICDF 2006a: 31–2)。

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人材育成:(1) 専門家派遣により、農業開発案件を計画・実施し、現地専門家の研修も実施、(2)

ワークショップ実施と学位プログラムの提供(政策立案、生産技術、マーケティング、国際商業)

(ICDF 2006a: 33)。

技術支援:新品種導入、優良品種の選定、耕作栽培、農地管理技術、農作物の選別、市場拡大、

農民組織構築を支援(ICDF 2006a: 33)。

資本供与:(1) 灌漑システム導入への融資等による生産性向上・競争力向上支援、(2) 現地の金

融機関と協調し、農民への小規模金融供与、(3) 農民への生産設備調達融資(ICDF 2006a: 33–4)37。

第二に、民間セクター開発は、自由市場経済の活力源を創出し、経済開発と貧困削減に同時に貢献

するものと考えられている(ICDF 2006a: 14)。そのため、民間セクター開発の戦略と方法として、次

のアプローチが採られている38(ICDF 2006a: 35–8)。

国際機関と協力しながら、所得向上と雇用創出をもたらす39。

現地政府と民間セクターと協力する。

技術支援を通じて、制度能力・人材の強化を行う40。

また、民間セクター開発は、今後次のように展開することとなっている(ICDF 2006a: 38–9)。

戦略的提携の構築:ICDFと行政院は「合資基金」(Consolidation Investment in LA:中南米合

弁資本基金)(75万元)により、台湾企業と合同で投資を行う予定である。

投資活性化のメカニズム改善:「中南美洲経貿投資専案弁公室」(Central and South America

Trade and Investment Project Office:中南米貿易投資プロジェクト室)を設置することで、台湾

企業の投資を奨励し、農業企業・中小企業向けに関連情報と技術支援を提供する。

雇用創出のための人材研修:中南米諸国の経済政策立案者向けの案件として、「中南美洲研究中

心」(Central and South America Study Centre:中南米研究センター)により、地域のマクロ経

済・投資環境・産業競争力分析を行う。

37 ICDFは農業実験、農民組織、農作物加工、輸送、農業金融等を 29カ国で実施している(ICDF 2006a: 13–4)。

38 台湾では政府政策、経営・技術人材、投資環境等で民間セクターが活性化したと考え、ICDFは民間企業活動を促進するための法的枠組みづくり支援、産業競争力向上のための投資・技術昇級・人材育成を行うこととしてい

る(ICDF 2006a: 14)。

39 例えば、IDBと CABEIへの中小企業向けツー・ステップ・ローンや、EBRDを通じた中小企業向け中東欧援助がある。

40 例えば、(1) 産業コンサルティング制度・ワークショップ等を活用する;(2) 現地の職業訓練機関と協調し人材を育成する;(3) セミナー・会議等を通じて現地政府に民間セクターの需要を認識させる;(4) 現地産業アドバイザー人材を研修し、競争力を向上させる;(5) 現地企業家を台湾に招きワークショップに参加させる;(6) 2005年から途上国の経済計画担当官僚を招き、経済戦略・政治や規制に関する台湾経験を共有する;(7) 管理・技術・高度人材養成に関する学位プログラム提供する、の各援助方法がある。

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第三に、ICT支援は、社会開発のための ICT活用という意味で提供される41。台湾政府は 2000年の

APECでデジタル・デバイドを「デジタル機会」(digital opportunities)に変えることを提案し、2003

年の APECでも「APEC数位機会中心」(APEC Digital Opportunities Centre:APECデジタル機会セ

ンター)の設置を提案している。行政院発表の「挑戦 2008:国家発展重点計画」で国際的なデジタル・

デバイドの削減のため、台湾の ICTを活用することを提言している(ICDF 2006a: 40)。ICT活用と社

会経済開発を進めるための戦略には、次の 2つのレベルがある(ICDF 2006a: 40–1)。

ICDFは必要な ICT機材・研修を供与し、将来的には R&D・刷新能力に関わる受入国の組織能力

を改善し、経済活性化に貢献する。

ICDFは法的枠組み・システムの構築を支援し、政府情報の透明性向上と行政の効率性を向上する42。

ICT 活用と社会経済開発は、具体的プロジェクトとして次のように展開されている(ICDF 2006a:

41–2)43。:

国際組織、受入国、現地NGO、教育機関、台湾 ICT企業とのパートナーシップ

デジタル学習プロジェクトの促進

清華大学のデジタル技術の修士・博士プログラムを提供。

第四に、医療保健の改善が重点分野に挙げられている。台湾は、他の先進国ドナーが持ち得ない熱

帯伝染病防止の実績があり、比較優位となっている。医療保健の改善にあたっては、MDGs に従うこ

とを基調とし、医療ミッションの駐在、医療サービス案件の実施、「行動医療団」(移動式医療団:

Mobile Medical Teams)の派遣、健康教育キャンペーンの実施、国際人道支援に当たっては国際・現

地 NGOや医療機関との協調を行うこととしている(ICDF 2006a: 45)。

なお、こうした援助の重点分野は、対象地域によって重点の置き方が当然異なる。実際、ICDFが援

助計画を策定する場合、受入国の政治・経済・社会等の発展状況を考慮し、各地域の発展需要に合致

した援助戦略を策定することになっている。その結果、例えば、最貧国が集中するアフリカでは食糧

増産、低技術工業、医療技術支援が重点に置かれ、中進国に近い諸国が比較的多い中南米では中小企

業発展と民間投資促進が重視され、カリブ海諸国には農業の多様化、社会サービス供与が多く、最貧

41 韓国も台湾も ICTを重点援助分野に指定しているが、ICDFによると、台湾経験の ICT支援は、韓国の ICT支援と次元が異なるという。台湾 ICT 支援は機材を供与するだけでなく、(1) 専門家の派遣、(2) e-learning(自動車修理のシミュレーション)のための融資供与、(3) ICT政策立案者のための修士プログラム、がある(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。つまり、ICDFは ICTに関するソフト・ハード双方の援助を供与している。但し、韓国による ICT 支援もソフト・ハード両面の援助が確認されており、今後同一分野での競合が発生しうる。

42 また、ICDFは ICTによって雇用創出・経済成長を促進可能であると考えている(ICDF 2006a: 14–5)。

43 ICT支援は、今後、e-government・e-commerce・e-educationに導入が予定されている(ICDF 2006a: 44)。

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国の多いアジア太平洋地域では、農業協力、技術協力が優先され、中東欧では民間セクター開発が重

視されることが多い(ICDF 2006b: 270–1)。

3.3 援助の重点地域

IECDF 時代には、重点地域・重点セクターともに明確な規定はなかった44。現在も、重点国を特定

することはせず、むしろ外交的な生存空間の拡大のために、国交のない国にも援助がほとんどのスキ

ームで可能であり、台湾援助の柔軟性がうかがえる45。

44 但し、台湾企業の進出に役立つ案件(工業団地案件)が採用されやすいと指摘されている。

45 なお、国ごとの案件一覧表については、ICDF年報を参照(ICDF 2006a: 78–96)。

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第 4章

実施体制

4.1 政策機関

台湾の行政院(政府)のうち、国際業務に関連する部署は 31部46110司處47あるとされている(ICDF

2006b: 289)。但し、それらの部署の大半は、国際会議・学術セミナーへの参加・視察程度の関与であ

り、援助供与に関連するのは、19の部署であるという(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

特に、国際協力と関連の深い部署は、外交部、経済部、農業委員会、衛生署、経済部、教育部、国家

科学委員会等に限られる(ICDF 2006b: 289)48。

第一に、外交部49は ICDFの所管機関として、援助の監督を行っている。1996年の ICDF設置以前は、

援助を所管する組織が、外交部・経済部・半官組織の IECDF等に分散していた。例えば、外交部がベ

トナム等への技術協力を行い、経済部が借款を行うなどしていた。しかし、よりシンプルかつ調整し、

また援助資源の統合を図るため、1996 年に ICDF が設置されたのである(外交部へのインタビュー:

2007年 4月 2日;ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

第二に、経済部50も国際合作處が援助活動に関与している。この国際合作處は、スタッフ約 30 人程

度で構成され、労工委員会51と協議を行ったうえで、「産業技術講師育成」と呼ばれる職業訓練の技術

協力を行っている。実績についてみると、フィリピン、タイ、インドネシア、ベトナム、マレーシア、

ヨルダン、パラグアイ等の国交国・友好国から年間約 40人の職業訓練生を招き、電子・情報管理や加

工訓練を 2ヶ月間受講することとなっている(外交部へのインタビュー:2007年 3月 28日;ICDF 2006b:

46 台湾の政府組織における「部」は日本の省に該当し、「部長」は大臣に相当する。

47 台湾の政府組織における「司處」は日本の「局」に相当する。

48 台湾援助に関与するその他の政府系機関とその業務内容は、次のとおりである。中央銀行は、ADB、EBRD との協力関係を有し、行政院労工委員会職業訓練所は、職業訓練国際協力計画を担当し、行政院青年輔導委員会は

ボランティア事業を推進している(ICDF 2006b: 302–3)。

49 日本の外務省に相当する。

50 日本の経済産業省に相当する。経済部は、世界の 64カ所に駐外商務機構を設置している(ICDF 2006b: 294)。

51 日本の厚生労働省に相当する。

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296–7)52。

第三に、行政院農業委員会53は、農業支援の側面から援助に関与している。元来、台湾の援助は 1959

年のベトナム農業セクター支援として技術者派遣をしたのを起源としており、その後、東南アジアや

中南米に派遣するようになっているなど、農業支援に対する農業委員会の関与の歴史は古いといえる

(農業委員会へのインタビュー:2007年 4月 3日)。

ICDFが設立された現在、農業委員会による援助関与は 5つのルートがあるようである。

ICDFの「董事会」(Board of Directors Meeting:理事会)への参加:農業委員会も参加している

が、参加に過ぎず、農業委員会が積極的に意思決定を行っている訳ではない(農業委員会へのイ

ンタビュー:2007年 4月 3日)。

技術協力の供与:途上国の農業状況を評価し、専門家・技術者を派遣している。但し、案件形成

は ICDFが行っている。ICDFは農業案件形成についての経験を有する職員がいる(農業委員会へ

のインタビュー:2007年 4月 3日)。

ICDF研修プログラムの実施:農業委員会は農業研修所と農業研究機関を所有している。ICDFが

要請を受けた農業案件について、一部を農業委員会がこれら研修所等を活用しながら実施してい

る。また、小農向けの農業金融を提供している(農業委員会へのインタビュー:2007年 4月 3日)。

農業委員会独自案件の提供:農業委員会が自己の予算で実施するプロジェクトもある。例えば、

フィリピンではトウモロコシ・ソルガムの増殖案件・台湾大学でのバイオテクノロジー案件が 2005

年から実施されているが、これは両国の二カ国間合意に基づく。タイ北部(チェンマイ)でも案

件が実施されている。これら独自案件は、台湾農業委員会と受入国の農林水産担当部局間の関係

を活用して結ばれる G-to-Gの ODAである。ICDF案件も政府間要請に基づくが、農林水産担当

部局間の要請には基づいていない(農業委員会へのインタビュー:2007年 4月 3日)。

農業関連の国際機関への関与:アジア・アフリカ農村開発機構(Afro-Asian Rural Development

Organization:AARDO)・アジア生産性機構(Asian Productivity Organization:APO)等の政

府間国際組織との協力を行う(ICDF 2006b: 290)。

つまり、農業委員会は、ICDFに対して、評価や案件について助言を行い、農業技術ミッションにも

協力し、案件に職員派遣を行っている。但し、ICDFの農業支援全てに関与しているのではなく、一部

に協力しているに過ぎず、独自案件の実施も継続している(農業委員会へのインタビュー:2007 年 4

月 3日)。

第四に、衛生署54は、保健衛生分野での国際協力と歩調を合わせる活動をしている。これは、台湾政

府がWHOへの加盟を重視しているためでもある(ICDF 2006b: 292)。元来、衛生署は、1970年代か

52 職業訓練には産業電子工学と機械加工コースがある。なお、現在の経済部には借款事業はないとのことである

(外交部へのインタビュー:2007年 3月 28日)。

53 日本の農林水産省に相当する。

54 日本の厚生労働省に相当する。

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ら 1980年代にサウジアラビアの医療支援を行い、1980年代以降にはアフリカ友好国に医療援助を供与

してきているなど、援助活動の経験を重ねてきた(ICDF 2006b: 291)。近年の衛生署の国際協力活動

としては、次の分野における活動がある(ICDF 2006b: 292–3)。

医療援助:薬品・医療器材から病院機材の建設まで贈与で行っている。1995 年から 2001 年の実

績を見ると、26 カ所に 6,600 万元以上の医療物資を供与し、55 カ国に 92 の救急車を贈与してい

る。

技術訓練:学術研究の協力、外国の医療スタッフ訓練、国際学術セミナーの開催による技術移転

を図っている。1995年から 2001年までに、21か国の医療スタッフ 131名が来台し、台湾の私立

病院で 1 年以内の短期研修を受けている。または、台湾の各医療系の協会と協力のうえ、途上国

の医療スタッフ向け研修を実施している。

人道援助:医療スタッフを派遣し、衛生教育・伝染病防止・医療サービスを供与し、災害発生時

には医薬品と民生物資を供与している。

第五に、教育部55は国際文教交流事業を展開し、2005 年 1 月策定の「台湾奨学金作業要点」によっ

て、外国人留学生向けの奨学金を制度化している(ICDF 2006b: 300)。

第六に、国家科学委員会56は、ICDFの ICT支援プロジェクトに協力する一方、国家科学委員会国際

合作處が途上国との共同研究計画・交流を通じて、研究成果の共有・科学分野 R&Dの向上を狙うこと

としている(ICDF 2006b: 300–2)。具体的には:

「研究団隊」(研究団体)を組織し、グローバルな研究計画に積極参与し、防災等で人類福祉の

国際協力を行う。

新興工業国と科学技術分野での協力関係を樹立する。

国際社会での責任のため、途上国の科学技術を支援し、台湾の対途上国への影響力を増強する。

このように、台湾の援助関連政策機関は、分権的にそれぞれが援助活動をしている。では、こうし

たやや分権的な政策機関の元で、援助実施機関はどのような役割を果たしているのであろうか。

4.2 実施機関

台湾の援助実施機関は、援助受入機関から発展して形成されているが、第二章で見たように、実施

機関は複雑に組織・改組されてきた。

台湾の援助受入機関は、アメリカ援助の運用のために 1948 年に組織された「美援運用委員会」

(Council on U.S. Aid:CUSA;アメリカ援助運用委員会)の他、1948年設立の「中国農村復興連合

委員会」(Joint Commission on Rural Reconstruction:JCRR)、1951年設立の「経済安定委員会」

55 日本の文部科学省に相当する。

56 日本の文部科学省の一部機能に相当する。

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(Economic Stabilisation Board)があった。まず、美援運用委員会は、行政院長が主任委員となり、

行政院の経済担当で構成され、援助の選定、アメリカ物資調達・分配を決定していた。次に、中国農

村復興連合委員会は、アメリカ援助で全経費を支出し、主に土地改革を業務としていた(ICDF 2006b:

221–4)。また、経済安定委員会は、台湾の財政経済政策の主要デザイン・審議・協力を図るために組

織され、1958 年に美援運用委員会に編入されている。アメリカ援助が削減傾向となると、自主的な経

済発展を促進するため、「国際経済合作発展委員会」(Council for International Economic Cooperation

and Development:CIECD)が 1963年に設置される。この委員会の業務は、経済建設計画の設計、海

外資金・技術協力にあった(ICDF 2006b: 224–5)。1965年のアメリカ援助停止は、台湾政府の経済開

発機関の役割を、援助による台湾の経済復興から、台湾自身による経済的自立を促進するものへ再定

義することとなった。実際、アメリカと台湾は 1965年に「中美経済社会発展基金」(Sino-American Fund

for Economic and Social Development:中華民国・アメリカ経済社会開発基金)を設置し、台湾経済・

社会開発のため資金を運用している(ICDF 2006b: 227)57。1970年代になると、台湾の経済開発関連

政府機関は、台湾自身による経済的自立だけでなく、台湾にとって重要性が高い諸国への援助供与の

役割も求められるようになる。まず、1973年には外交部に海外技術合作委員会(CITC)が中非技術合

作委員会を吸収のうえ設置される。この CITC は、外交部・経済部・国際経済合作発展委員会・中国

農村復興連合委員会・台湾省政府等の職員で構成され、アフリカ・中南米への農漁業技術隊派遣を実

施していた(ICDF 2006b: 263–4)。

1988年 10月に経済部の下に成立した海外経済合作発展基金管理委員会(IECDF)は、経済援助によ

って途上国の経済発展を支援し、友好国との経済交流を促進することを目的としていた(ICDF 2006b:

265)。具体的には、中小企業支援借款と経済関連人材育成の技術協力が実施されていた。IECDFの実

施体制を見ると、援助の所管は外交部ではなく経済部が一括して計画・立案し、他部局と協議する体

制となっていた58。IECDF事業の最終決定にあたっては、大臣クラス 7名(経済部部長、外交部部長、

財政部部長、交通部部長、中央銀行総裁、経済建設委員会主任委員、行政院官房長官)で構成される

管理委員会(Management Council)を 2ヶ月に 1度開催し、決定が行われていたが、主任委員を務め

る経済部長59が最終決定権限を有していた。

しかし、台湾援助については、監督官庁が不統一という問題があり、援助効果の改善には、1つの専

門的な援助機関を設置することが必要と認識されるようになる。そこで、1992 年に外交部は国際合作

発展基金会設置条例草案を策定し、行政院で審議の後、1995年 12月に国際合作発展基金設置条例が立

法院通過を通過する60。ここに、1996 年、従来の外交部による国際人道救援、経済部の海外経済合作

発展基金による借款、海外技術合作委員会による技術協力を、外交部が管轄する新設の財団法人国際

合作発展基金会(International Cooperation and Development Fund:ICDF)に統合することとなった

57 実績を見ると、鉱工業開発に 55億 4,770万元(29%シェア)、農業開発 46億 3,790万元(24%)、交通・運輸建設 18億 6,720万元(10%)となっており、その他、教育・衛生・都市開発等への投資も行われた(ICDF 2006b: 227)。

58 IECDFの資金規模は、約 300億元であった(ICDF 2006b: 265)。

59 日本の経済産業大臣に相当する。

60 国際経済合作発展基金条例の策定に当たっては、1990 年から日本・韓国の援助組織を参考とし、立法委員・政府関係部署・産業界・学界代表と多数協議のうえ、形成されている(ICDF 2006b: 262)。

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(ICDF 2006b: 266–7)61。

以下では、ICDF の組織を紹介する。ICDF の組織は、ICDF 董事長(総裁)を外交部長62が兼任し、

その下に、行政管理處・会計室・資訊室(情報室)・法務室・稽核室(会計監査室)の 5 管理部局の

他、業務企画處(Policy and Planning Department:業務企画部)・金融業務處(Banking and Finance

Department:金融業務部)・技術合作處(Technical Cooperation Department:技術協力部)・国際

人力発展處(International Human Resource Development Department:国際人的資源開発部)の 4部

局が設置されている(ICDF 2006a: 8–9;図 8を参照)。

業務企画處:ICDF の国際開発協力の戦略を形成・調整、人道支援を計画実施、国際機関・NGO

との連絡、PR活動。

金融業務處:経済開発案件への融資・投資供与、海外信用保証、ICDFの資金管理、国際機関との

共同融資監督。

技術合作處:技術協力案件の計画、研究、評価、交渉、実施、監督。

国際人力発展處:経済・貿易・産業・技術・農業に関する研修の実施、留学生への奨学金供与、

国際機関との人材開発研修の実施。

2005年度現在、ICDFは、台北の本部に 76人の正規職員と、フィールドに 249人の専門家、83人の

61 但し、分権的・分散的な援助実施体制の問題は残っている。

62 日本の外務大臣に相当する。

董監事会 董事長

図 8:ICDFの組織図

稽核室(会計監査室)

業務 企画處

顧問 秘書長

副秘書長

助理秘書長

技術 合作處

金融 業務處

国際 人力発展

行政 管理處

会計室 資訊室

(情報

室)

法務室

出典:ICDF(2006b: 268)。

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海外ボランティア(「海外志工業務」:Taiwan Overseas Volunteers)、107人の外交代替サービス(「外

交替代役」:Taiwan Youth Overseas Service)で構成されている(ICDF 2006a: 8)。正規職員のうち

90%が修士号以上を所有している。専門は部署によって異なり、一般には国際関係学を学んだものが多

いが、農業、農業経済、経済学、金融等を学んでいる。これら職員は、競争率の高い採用試験を経て

採用されている。職員の平均年齢は 35歳と若い。なお、外交替代役のボランティアは 2007年に 75名

派遣されている(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

ICDF は活動資金の大半を当初の基金と事業収入から拠出している。当初の基金は、1997 年の 124

億7,000万元でスタートし、2005年度のnet valueは148億9,000万元に拡大している(ICDF 2006a: 55)。

他方、事業収入については、金利、投資、外交部等の政府委託事業収入から得られるもので、2005 年

度の政府委託プロジェクト収入は 14億 4,000万元となっている(ICDF 2006a: 52–5)。

なお、ICDF が基金という形式を採っているのは、政府外組織とすることで、(1) 効率性を上げる、

(2) 台湾の借款が商業融資形式をとっている、(3) 台湾の外交上の難しさもあり、政府機関ではなく

プラクティカルな見地から基金という形式にした、という理由に基づく(ICDFへのインタビュー:2007

年 3月 30日)。

なお、台湾援助案件を贈与と借款のいずれかで支援するかについては、次の手順で審査する。まず、

外交関係を有する国が要請し、外交部が外交的見地から評価を行う63。但し、ここでの審査は厳格な基

準はなく、状況を鑑みて柔軟に判断することが多い。通常、小規模案件であれば贈与とし、大規模で

あれば借款とすることが多い。借款は商業銀行経由で商業融資の形態で融資されるが、金利を外交部

が負担することで、ソフト・ローンとしての性格を出している。これは一般的な商業融資とすること

で、外交関係を確保・拡大するための戦略とすると同時に、返済が滞った場合に融資の回収が困難に

なることを防止するための措置となっている(外交部へのインタビュー:2007年 4月 2日)。

4.3 援助の調整

○ICDFの「董事会」(Board of Directors Meeting:理事会)

台湾援助政策の調整は、ICDFの「董事会」(理事会)で行われている。董事会は、11人から 15人

で構成されており、外交部長が董事会の長にあたる董事長64を務め、構成は経済部長・中央銀行総裁・

農業委員会主任委員・行政院政務委員・交通部長・衛生署署長といった 6名の政府高官、国策研究院・

中央研究員から 3 名、財界団体(中華民国工商協進会)から 1 名、企業から 1 名、銀行(台湾企業銀

行)から 1 名、法律事務所から 1 名で構成されている。これらの人選は行政院が指名することとなっ

ている(ICDF 2006a: 7)。董事会の活動は、年 3回から 4回開催される会議で、次のような援助に関

連する事項を討議・決定することにある。

中期国際協力戦略の承認

ICDFの予算の承認

63 ICDFは外交的見地からの審査はできない。

64 理事長に相当する。

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ICDFの重要案件の承認

ICDF職員の早期退職プログラムの承認

ICDFの年度活動実績の承認

ICDFの「諮詢委員会」(Consultative Committee:諮問委員会)の委員就任・役員就任承認

案件進捗のモニタリングと調整策の検討

インタビューによると、董事会での議論は、予算よりも人事に関することが多いことが判明した。

例えば、政府官僚の間で、プロジェクトの団長職への就任希望が寄せられることが多いが、適任者の

決定にあたって議論が起こることがある(外交部へのインタビュー:2007年 4月 2日)。董事会では、

案件審査で役割分担が結果的に形成されており、中央銀行出身の委員が受入国の債務状況を審査・監

視する役割を期待されている。財界団体出身の委員は借款が民間セクターの発展に貢献するかどうか

を、ビジネスの観点から審査することが多い。研究者の委員は代替案を提案することが多い(ICDFへ

のインタビュー:2007年 3月 30日)。なお、董事会での議論内容について委員間で見解が分かれるこ

ともあるが、最終的には投票や議長である外交部長が「強力な要請」をすることで解決する。これま

で見解が分かれた事項を紹介すると、下記の通りである。

借款返済期限の延期の可否:期限までに返済されない借款の延期を認めるかどうか、につき、委

員間で見解が分かれた。

投資のリスクへの懸念:近年は台湾国内での金利が低いため、余剰資金を開発途上国で活用する

意見が提示されるが、財界・学界の代表よりも、政府官僚がより慎重なスタンスをとる(羅教授

へのインタビュー:2007年 5月 2日)。

農業案件への長期的視点:外交部は農業支援案件の長期的効果よりも外交的考慮を重視すること

があるのに対し、農業委員会としては農業開発には長期的見地を重視すべきと感じている(農業

委員会へのインタビュー:2007年 4月 3日)。

個別案件へのテクニカルな見解:ツバルへの援助で、ICDF はサバヒー(Milk Fish)の養殖案件

を推進していたが(海洋資源保護だけでなく輸出促進にもなると判断)、外交部は骨の多いサバ

ヒーは輸出に向かないとして反対した(外交部へのインタビュー:2007年 4月 2日)。

但し、委員間での見解の相違はあっても、董事会での合意形成は難しくないとされる。その理由は

次の通りである(外交部へのインタビュー:2007年 3月 28日)。

ICDFは外交部の傘下機関である。

資金規模が限られている。

各案件の規模が小さい。

メディアが攻撃的であるため議論が監視され、各省庁の主張も透明性を高めざるをえない。

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また、「諮詢委員会」が ICDF規定により、7人から 11人で構成されることになっている。諮詢委

員会は、基金運用に関する協議と情報供与を行うことを任務としている。人選は、行政院農業委員会

技監、元経済部投資業務處處長、金融セクター代表、財政部、研修機関、教育部の代表で構成されて

いる(ICDF 2006a: 7)。この諮詢委員会は税務等の専門事項で不明なことがあった場合に顧問として

尋ねるに過ぎず、意思決定は行わない(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

○ICDFと政府の人事交流

援助政策の調整には、政策決定機関と実施機関の間の人事交流にも注目する必要がある。

ICDFと政府の人事交流は活発ではないが、そもそも ICDFのトップは外交部長である。加えて、副

秘書長(Deputy Secretary General)の一名のみが外交部から派遣されている。但し、副秘書長は非常

勤であり、給与は外交部から支給されている。外交部との交渉はこの派遣された副秘書長を通して行

うとスムーズになると言われている(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)65。

○総統・行政院長・立法院の役割

援助政策の政策過程においては、行政院長の役割もある。確かに、援助政策(受入国のニーズ評価

等)は外交部が主導しているし、援助計画のスキームを ICDF と議論しながら調整している。但し、

外交部は、行政院長が毎週主催する会合で援助計画について報告し、そこで議論の結果、微修正を行

なっている。通常、その会合では借款の規模等がコメントを受け、修正の上承認されることが多い(外

交部へのインタビュー:2007年 4月 2日)66。

他方、総統は外交・国防・大陸関係の権限を有しているものの、実際に援助政策についてコメント

することはない(外交部へのインタビュー:2007年 4月 2日)。

また、議会に当たる立法院については、国際合作発展基金会設置条例に基づき、ICDFが活動を定期

的に立法院に報告することが義務づけられているため、援助政策の実施をモニタリングすることとな

っている(ICDF 2006b: 267–8)。

4.4 その他のプレイヤー

○研究機関・大学・大学院

一般的に、台湾では研究機関・学術研究者が政府の政策過程に関与することが比較的多い。援助政

策にも同様の傾向がうかがえ、ICDF の董事会の一委員に就任している大学教授は、2000 年から 2002

年に外交部の Policy Planning Department67へ入り、国際合作発展法案を立案した(羅教授へのインタ

ビュー:2007年 5月 2日)。 65 但し、ICDFへのインタビュー時の印象では、この人事交流による調整効果はあまりないという印象を得た。外交部は ICDFを管理し、外交目的に機能させる立場にあるため、援助専門の集団の ICDF側としては方向性に不一致がある様子を感じた(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

66 他の例を挙げると、マラウイへのミッションが高価であり、当該年度の予算では難しいため、次年度の実施と

するようコメントされている(外交部へのインタビュー:2007年 4月 2日)。

67 この名称の部署は外交部に存在せず、「研究設計委員会」(Research and Planning Committee:研究計画委員会)

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但し、台湾援助は規模が小さいことに加え、1990 年代に外交部予算の情報開示が限られ、機密とし

て位置づけられていたこともあり、台湾では援助研究がほぼなされていない(羅教授へのインタビュ

ー:2007年 5月 2日)。

○企業

現段階では、援助に対して、企業は次のような関与をしている。

友好国への建設案件等、政府が投資を必要とするときに、実際に投資を行う。

信用保証と ICTで台湾民間企業の投資・関与を促進している(ICDF へのインタビュー:2007年

3月 30日)。

案件のプロポーザル・計画の立案について関与する(中華民国工商協進会へのインタビュー:2007

年 3月 28日)68。

但し、企業は援助の拡大やタイド案件を要求することはなく、もしろ、援助に関与することに対し

て総じて消極的である。その理由としては、次の要因が考えられる。

台湾援助の規模が小さいため、財界にとっての経済的利益が少ない(外交部へのインタビュー:

2007年 3月 28日)69。

ICDF資金への企業献金はなく、政府からの支出に拠っているため、企業の影響力は小さい。

援助により投資先を中国以外に分散することを進めているが、インセンティブが弱い(中華民国

工商協進会へのインタビュー:2007年 3月 28日)。

援助対象国が中南米・アフリカ等の対象国が遠隔地であることが多い(中華民国工商協進会への

インタビュー:2007年 3月 28日)。

○NGO・ボランティア

台湾には、2001年の基金会に関する調査で、1,690に及ぶNGO団体がある。その内訳は、教育学術

機関 38.3%、災害救助 20%、文化芸術 12.8%、国際協力 4.9%となっている。しかし、国際協力関連の

NGO(4.9%)には、国際交流関連のNGO(4.5%)が含まれており、残りの 0.4%が国際救援に関与す

るのみである(ICDF 2006b: 304–5)70。

のことを指すと考えられる。

68 例えば、「どの産業分野が投資として適切か」、「政府規制のあり方」、「政府はどのように援助関連の計画を立

案すべきか」等を調査し、必要に応じて財界も援助国を訪問することもある(中華民国工商協進会へのインタビ

ュー:2007年 3月 28日)。但し、財界は援助政策過程に参加できても、協議のみであり、政策決定に参加できないとされる(中華民国工商協進会へのインタビュー:2007年 3月 28日)。

69 但し、今後、援助の規模が拡大するようなことがあれば、企業界も関心を持つこともあるだろうが、その傾向

は現段階では見られない(外交部へのインタビュー:2007年 3月 28日)。

70 また、台湾の国際的なNGOの特徴として、アドボカシー型ではなく、著しくサービス型の活動をしていることがある。ICDF(2006b: 306)は、この要因として、台湾の国際的NGOであっても、国際的なイシューに必ずしも

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台湾の開発関連のNGOとして、具体的な組織を挙げると、台湾世界展望会(World Vision)等の国

際 NGOが台湾に支部を設置している。更に、台湾系の開発関連 NGOも宗教法人を含めると 20から

30 ほどの団体があると考えられている。そのうち、国際協力に関与する台湾 NGO としては、台湾児

童・家庭扶助基金会、中華民国紅十字会、台湾世界展望会、天主教台湾明愛会、中華救助総会、台北

海外和平服務団、伊甸社会福利基金会、財團法人羅慧夫顱顏基金會(NCF)、中華民国文化教育交流

協会、中華至善社会服務協会、台湾路竹会、中華民国知風草文教協会、台湾国際医療行動協会、台湾

国際奥比斯防盲救盲基金会、法鼓山慈善基金会、台湾仏教慈済慈善事業基金会(慈済基金会)等があ

り(ICDF 2006b: 306–7)、人道的考慮や宗教的道義から、医療・緊急支援等の人道支援を行うことが

多い71。

今回の調査では、財團法人羅慧夫顱顏基金會(Norrdhoff Craniofacial Foundation:NCF)に訪問し

面談調査をしている。NCFは、台北の本部と台中・高雄に 2つの支部があり、職員数は合計 25人で、

ソーシャル・ワーカー出身者で構成される NGOである72。このNGOは、国民からの献金・募金によ

ってほとんどの財源を得ており、この NGO が中国で活動をする際には、中国に投資する台湾企業か

ら小額の献金を得ている。また、政府からも小額であるが財政支援を受けている。この NGO が抱え

る問題としては、第一に資金であり、第二に専門能力と外国語能力を備えた専門人材の確保である。

職員のリクルートは、医療系の学校の先生に派遣を相談することもあれば、インターネットで公募す

ることもある。応募者は多くはないものの、ある程度の競争率がある73。第三に援助を行うチャンネル

である。外交関係がない国に援助をするため、援助のルート・方法が難しい。例えば、ラオス援助を

検討していたが、親中国のラオスでの援助は難しかったと指摘されている(NCFへのインタビュー:

2007年 5月 2日)。

NGO・ボランティアとの連携は、第五章で指摘するとおり、近年、台湾援助のフォーカル・ポイン

トの一つになってきている。

NGOとの連携については、第一に、案件のアウト・ソーシングがある。例えば、World Visionは人

道支援の資金を ODAから得ている。

第二に、NGOは ODAのプロジェクトに参加することがある。例えば、インド洋津波被害国への援

精通していないという要因を挙げている。

71 これら団体の活動例を挙げると、(1) 台湾世界展望会(World Vision)は宗教性の NGO であり、これまでに76の救援活動を展開し、United Nations Children's Fund(UNICEF)・WHO・国際通貨基金(International Monetary Fund:IMF)・世界銀行等と密接に連携している;(2) 台湾路竹会は非宗教性のNPOで、途上国の遠隔地での医療サービスを供与している;(3) 台湾仏教慈済慈善事業基金会(慈済基金会)は世界 38カ所に分会を設置し、グローバルな人道援助(慈善、教育、文化、教育等)を供与している(ICDF 2006b: 307–8)。

72 NCFは 1959年に来台し医療活動を開始したNoordhoff氏によって 1990年に設立された。来台当初の台湾は発展途上国の段階であったため、NCF設置後は台湾での医療支援の経験が開発途上国支援に役立っている。NCFは医療ケアを台湾人に提供するだけでなく、ドミニカ共和国、ベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インド

ネシア等の開発途上国でも行っている。援助活動としては、開発途上国から医者を招き研修を行っていることも

ある。NCFの国際プログラム(international programme)については、協力病院と医者を選定し、この病気のための現地診療所の確立のため研修を提供し、現地の能力向上を図ることを目標としている。そのため、長庚医院

から専門家ボランティアを構成し、患者に無料手術を行い、現地専門家を選定しコンサルティングを提供し、協

力医院増加のプロモーションを行っている(NCFへのインタビュー:2007年 5月 2日)。

73 援助人材については、台湾人も少しずつ国際問題に関心が出てきており、特に十代の若年層が最も熱心に関心

を寄せているという(NCFへのインタビュー:2007年 5月 2日)。

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助時には、政府がNGOによる募金を組織するために、NGOを集めた会合を開催した。つまり政府が

NGO の活動を集約しているのである。但し、政府・ICDF と NGO の関係は、個々に案件に参加する

程度の協調関係があるに過ぎない(NCFへのインタビュー:2007年 5月 2日)74。また、共同案件と

して、台灣私立醫療院所協會(Nongovernmental Hospitals and Clinics Association:NHCA)75と ICDF

が共同の案件を実施している。共同案件には 2 種類あり、第一に、短期間の医療専門人材(医者、看

護師、医療技術者)を対象にした研修を 3ヶ月間実施している。この研修は 2006年度の実績で言えば、

15カ国の途上国から 30人くらいを招いて実施している76。第二に、行動医療団を外交締結国に 1ヶ月

派遣している。2006年度は計 15隊を、2007年度は計 30隊を派遣する予定である。各隊は 2人から 3

人の医師と 2人から 3人の看護師、薬剤師、医療技術者、アドミニストレーターで構成されている77。

2つのプロジェクトともに良好な成果を収めているようである78。というのも、台湾が外交関係を持つ

諸国は最貧国が多いため、こうした衛生関連の草の根支援が特に有効であると考えられるからである。

案件での役割分担については、ICDFが対象国・対象地域の選定を行い、全スケジュールの統括を行い、

NHCAが必要人材を確保できない場合に ICDF登録のボランティアを活用し(数百人が登録されてい

る)、資金(航空券・生活費の提供)を提供している。他方、NHCAはチームの編成を行い、報告書

の作成を担当している。この役割分担は良好に機能している模様である。案件効果の持続可能性につ

いても、行動医療団の派遣中に、協業によって現地医師・看護師の技術向上も図っているため、良好

という回答を得ている。加えて、更に技術力を向上させる必要がある場合は、第一の案件で 3 ヶ月研

修に招聘することが可能となっている(NHCAへのインタビュー:2007年 5月 3日)。

第三に、NGO は ICDF の案件のモニタリングを担当することもある。これは、JICA の事業に倣っ

て、NGOが ODAのモニタリングのためサイト訪問を行うようにしたものである(羅教授へのインタ

ビュー:2007年 5月 2日)。

このように、研究機関・大学、企業、NGOともに何らかの形態で ODAに関与してきているが、深

い関与にまで発達してはいない。それは民間アクターに必ずしも援助人材が形成されてきていないと

74 NCF へのインタビューによると、ICDF からの委託プロジェクトがあれば、受注してみたいと考えているようである。但し、「NCFは人道支援を行うのに対し、ICDFは政治的である」との認識を示し、全ての案件で協力できるわけではないことを示唆している(NCFへのインタビュー:2007年 5月 2日)。

75 台湾には大規模・中規模の病院を併せると 150以上存在する(小規模の病院を含めれば 400以上)。そのうちの70%が私立病院である。NHCA は私立病院を組織している。活動内容には 3 つあり、第一に政府との交渉力(bargaining power)獲得によって、保健政策の充実を求めている。第二に、NHCAの代表を行政院衛生署との医療政策の交渉に派遣している。第三に、シンポジウムを開催し、経営の優れた病院からの情報提供を得て、会

員病院の経営能力向上を図っている(NHCAへのインタビュー:2007年 5月 3日)。

76 この研修では、ICDF は航空券を支給し、手当として月に 3 万元(医師)、2 万元(看護師)を支給し、NHCA側は無料で研修費・教材費を提供している。予算があれば 6ヶ月の研修としたいとのことであった(NHCAへのインタビュー:2007年 5月 3日)。

77 基本的に 1カ国に 1ヶ月滞在するが、中南米は旅費が嵩むため、1ヶ月で 2カ国を対象とする(NHCAへのインタビュー:2007年 5月 3日)。

78 案件資金は直接 NHCA に支給されるのではなく、航空券・宿泊費分が ICDF から提供され、NHCA 側はほとんどボランティア・ベースで医師を派遣している(わずかに報酬もあるが、負担感がより強い)。これら案件は ICDFとNHCAの双方から発案された。背景には、第一に、財政的制約が厳しいこと、第二に、3年前に導入した病院認定(hospital accreditation)でこの種のサービスを提供することが病院に義務づけられたこと、第三に、資金の献金だけでなく技術協力をすることが義務づけられたことがある。

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いう事実を示しているとも言える。実際、援助の実施を請け負う開発コンサルタントは台湾には存在

しないといってもよいだろう。

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第 5章

援助の動機・理念・目的・戦略

5.1 ODA基本法・中長期的戦略

現在、台湾援助に関する基本法や中長期戦略は策定されていない。但し、援助の基本法となるべき

「国際合作発展法案」を政府が 2002 年に準備していたが、立法院79が承認しないためペンディング状

態にある。法案が成立しない背景は、次の通りである。

法案についてのコンセンサス形成に失敗:援助対象国の選定にあたっては、台湾が人道的に問題

のある国と国交を維持していることが多いため、そうした国に援助を供与すべきか議論が別れた。

ODAは国政でのプライオリティが低い:政党別に態度が明確になっていたのではなく、外交委員

会に属する個々人の立法委員が異なる見解を持っていた程度である(羅教授へのインタビュー:

2007年 5月 2日)。

更に、台湾には ODA白書のように援助戦略を公表したものがなく、外交部の年報に援助政策が簡潔

に記載されている程度である。主要な援助戦略は、第一に外交関係の強化(アフリカ、中南米、南太

平洋の集中)、第二に台湾と友好な関係を有する近隣国(タイ、ベトナム、モンゴル)への援助、第

三に国際組織・外国との協調(EBRD、東欧、地方政府)、第四に国際救援事業への関与、がある(羅

教授へのインタビュー:2007年 5月 2日)。

このように、台湾には議会で制定される ODA基本法や行政が策定する ODA大綱のような体系はな

い。その結果、台湾援助は法ではなく政策で対処している。また、援助実施機関レベルには、下記の

項目が援助の基本的位置づけとして確認されているようである(ICDF 2006b: 255, 71)。

人道主義:人類は相互扶助し、貧困国を援助すべきである。

79 立法院は日本の国会に相当し、立法委員は国会議員に相当する。

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台湾自身の利益の考慮:援助は国民の税金で成り立つため、ドナー国の利益を発揮することを考

慮すべきである。特に、台湾にとっては経済利益・軍事利益・外交利益等を重視する。

受入国の経済発展:援助は途上国のボトルネックを打開するためにあり、受入国は経済的飛躍に

より自立することが重要である。

こうした基本理念に基づき、台湾援助は次の方式により展開することになっている(ICDF 2006b:

255–6)。

経済発展計画を主とする:国民所得の上昇を援助の重点とする。

制度構築の重視:経済発展は制度構築の影響を受ける。

競争的な援助市場の構築:援助は専門的事業であるため、質・成否等を受入国は重視する。国際

間での援助の市場競争で援助の効果を向上することが必要である。

ドナー国間の協調の重視:国際開発機構・ドナーとの協調は国際的趨勢である。

中小企業発展の重視:大企業重視の計画では所得分配の不平等と民間セクター不振を招くため、

中小企業の発展を重視する。

評価・執行計画能力の改善:慎重な評価は援助計画の成功率向上に必要である。

経済内部報酬率・財政内部報酬率を借款の主要原則とする。

5.2 外交目的と開発援助のリンケージ

○外交政策としての援助

台湾の援助は、外交政策の一手段として明確に位置づけられている。1989年に IECDFが設立された

理由も、1980年代の台湾が中国に対する比較優位として強力な経済力を有し、この経済力を後ろ盾に、

実務外交の一環として経済援助を強化したことにあった(ICDF 2006b: 254)。1990年代になり、中国

の経済的躍進が顕著になる一方、中国による途上国援助が注目されるようになると、台湾の比較優位

は大きな影響を受け、従来の経済力を背景とした経済援助重視の方針では、外交的効果は期待困難な

状況になる。こうして、台湾援助の立て直しを行う必要性が認識され、台湾が有する全援助資源を整

合的に運用するため、1996年 7月 1日に ICDFが発足するのである(ICDF 2006b: 254)。ICDF(2006b:

257)も、台湾の国際的孤立の状況下では、「援助の重点の相当部分は友好国との連帯を継続すること

に置かざるを得」ず、「台湾援助は、台湾の境遇と外交政策との調整を余儀なくされる」と指摘して

いる。こうして、ICDFは冷戦後の新局面で重要な外交任務を持たざるを得ず、故に、援助は外交部管

轄となるのである。

このように、ICDF は発足の背景から外交的考慮が重視されていた。では、ICDF の援助は、どのよ

うな理念を持ち、それはどう外交目的に関与しているのであろうか。

ICDFは援助の基本理念を、「全体的な外交戦略に位置づけ、台湾発展経験を共有し、友好国の経済

発展を支援し、貧困を削減し、途上国の人々の豊かさに貢献する」ことと規定している(ICDF 2006b:

268)。台湾の特殊な国際的地位を考慮し、ICDF は、自身の使命が、「国際協力を通じて国際社会で

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の台湾のプレゼンスを拡大するため、国際協力活動が外交の有力な道具」であることを明言しており、

新たな国交樹立や災害・戦争後の復興に迅速に対応することを重視している(ICDF 2006a: 4; 2006b:

268–9)。

しかしながら、援助実施機関が経済部から外交部の主管に変更され80、外交のツールとして援助が明

確に位置づけられたことが、皮肉にも外交目的で援助を実施することを困難にしている。援助が経済

部管轄となっていた当時、援助による外交問題は比較的発生しにくく、その結果、外交関係樹立国よ

りも、ほとんどがインドネシア・ベトナム等の外交関係非樹立国に供与されていたとする指摘もあっ

た81。では、台湾援助を巡る現在の外交的困難に対して、台湾援助はどのような対応をしているのであ

ろうか。

○外交的困難への対応

台湾援助を取り巻く外交的障害を軽減するため、幾つかのアプローチが見られる。

第一に、国際的潮流へのコンプライアンスの表明や、国際機関との協調重視の姿勢がある。台湾援

助の目標はナショナリスティックな独自性のある援助モデルの追求に基づくよりも、国際基準に合致

していることをアピールすることで、台湾の外交的生存空間を拡大する傾向を感じることができる

(ICDF 2006a: 4)。例えば、ICDFの活動は、援助の国際的潮流に合わせた活動であることをアピール

するため、ICDFの活動がMDGsに合致していることを強調している(ICDF 2006a: 13)。そもそも、

現在の陳水扁民進党政権では、李登輝国民党政権時代の実務外交に加えて、人権外交・民主外交とい

うソフト・パワーを加味した外交政策を構想している(佐藤 2007: 131)82。経済力という実利に加え

て、人権・民主主義という国際社会が目指す理想主義的「普遍的価値」を共有することで、現実主義

的ハード・パワーを指向すると見られる中国外交との差別化を図り、台湾の国際活動空間の手段とし

て位置づけている(佐藤 2007: 131, 4)83。

貧困問題への国際協力も国際的潮流へのコンプライアンス表明として考えられ、台湾が自国の経済

的利益のみを優先させるのではなく、責任ある国際社会の一員であることをアピールする効果を持つ。

80 この主管庁の変更は、外交部と経済部等の協議により進められた。当時、立法院での審議を予想し、「ODA=外交」という認識から、外交部管轄となることが比較的スムーズに決定したとされている(亜東関係協会へのイン

タビュー:2007年 3月 30日)。

81 また、台湾援助では借款が 4,000万ドル程度を占めているが、案件も結果的に台湾企業が関与することはあっても、タイドを要求することはなかったとされる。タイドとしなかったのは、韓国のような国際化した建設業とは

異なり、台湾の建設業は国内向けであり、国際的展開をしてこなかったこともあるだろう(蘇比克湾開発管理中

心へのインタビュー:2007年 3月 20日;2007年 3月 30日)。

82 人権・民主主義を外交の柱とすることについては、1990 年代から台湾の国際活動空間拡張・対中外交カードとして既に提唱されていた。1993年の民進党中央党部は、1989年の天安門事件による中国人権侵害状況と台湾の政治改革・民主化を比較対照し、成熟した人権保障社会としての台湾イメージが米台関係強化に貢献すると指摘し

ている(佐藤 2007: 131–2)。

83 2000 年に陳水扁総統は、中華民国(台湾)と中国の決定的な相違点は民主政治であり、中国が台湾に及ばぬ所であると強調している(佐藤 2007: 135)。民進党政権にとって、人権・民主主義の重視は、外交戦略的意義だけでなく、対中戦略及び国内政治上の重要性も持つ。すなわち、国連人権規約に規定されている「民族自決権」は、

中国からの政治的独立を正当化する手段としても機能する(佐藤 2007: 144–5)。但し、佐藤(2007: 148)は、人権外交だけでは、アメリカの台湾海峡政策を変化させるに十分ではなく、更に、アメリカ以外の国においては、中

国の前に、ソフト・パワー外交は大きな制約があると指摘している。

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その国際的潮流へのコンプライアンス表明のため、台湾外交では、国際機関との協調関係の実績の積

み上げが重視されている。というのも、国際機関との協力は、台湾にとって、(1) 国際機関の資金を

活用し、台湾援助のコストを最小化し、レバレッジ効果を引き出すことができる、(2) 国際機関の計

画・執行・監督のノウハウを学習が可能になる、(3) 国際社会・外交上の視認性(visibility)向上、

といった複合的利益が期待されている(ICDF 2006b: 269)。ICDFの年報(ICDF 2006a: 5)には、ICDF

は、国際機関との協調により、台湾の外交アジェンダを促進する手段(instrument)でもあることが

明記されているし、ICDFが過去に CABEI・ADB・EBRD・IDB等の開発案件を共同実施してきたこと

を指摘し、台湾は国際社会での視認性を獲得したと評価している(ICDF 2006a: 5)84。また、個別の案

件についても、例えば、医療保健分野支援の重視には、台湾が WHO でのオブザーバー資格を獲得す

るための戦略が込められている(ICDF 2006a: 14)。

第二に、台湾援助では経済的利益も考慮すると年報等に記載はあるものの、現実には台湾経済の利

益は必ずしも重視されていない85。台湾の外交的孤立への懸念から、台湾の援助は、経済利益のためで

はなく、むしろ公的な外交関係の強化を目的とする傾向が強い。更に、国交がなくても友好国に対し

ては技術協力ミッションを派遣しており、公式・非公式を問わず、外交関係を維持することに重点が

置かれていると見るべきであろう(外交部へのインタビュー:2007年 4月 2日)。

第三に、公的セクター以外に、NGO・ボランティア等の民間セクターを巻き込んだ「全民外交」

(People’s Diplomacy)の展開も重視されている。陳水扁総統は 2000年総統就任演説で、台湾のNGO

が各種の国際協力・国際活動をすることを求め、グローバル化時代には、民主外交・多元外交の推進

により、国際生存活動のための全民外交を展開すべきと述べている(ICDF 2006b: 305)。国際協力・

援助に NGO 等の参加を求める多元主義の立場を表明する背景には、(1) 公的セクターのみでは国際

的孤立の打開は困難であることと、(2) 民間セクターによる国際(民際的)協力によって、台湾の国

際的地位が向上すること86、への期待がある(ICDF 2006b: 306)。台湾NGOが援助に参加するため、

ICDFは、(1) NGOのネットワーク化・専門化・視野のグローバル化を求め、同時に、(2) NGOの

連携と資源浪費の防止のため、ICDF が援助のプラットフォームになることを構想している(ICDF

2006b: 309)87。つまり、公的な援助実施機関が、民間 NGOによる援助参加の舞台・機会を提供し、

援助機会の拡大と、官民それぞれの利点・資源を活用した援助を展開することを企画している。これ

は、外交的問題のために、ODAに民間色を取り込まざるを得ない台湾援助の特徴と言えよう。同様に、 84 但し、多国間援助の実績について、規模を示すような統計データは得られなかった。また、その他の国際機関

との協力実績としては、米州農業協力機構(Inter-American Institute for Cooperation on Agriculture:IICA)のような国際専門機関との協調実績や、ドイツ技術協力公社(Deutsche Gesellschaft für Technische Zusammenarbeit GmbH:GTZ)・スペイン国際協力庁(Spanish Agency for International Cooperation:AECI)等の二国間援助機関との協力実績、World Vision等の国際NGOとの協力実績が指摘されている(ICDF 2006b: 284)。

85 外交部へのインタビューによると、援助に台湾企業の経済利益の確保を盛り込むべきという意見は、政府内・

世論ともになく、援助に経済利益を盛り込むことはしていないとのことである(外交部へのインタビュー:2007年 4月 2日)。

86 台湾の NGOが 1990年代中期以降に非国交国で行った国際人道救援業務が好評であったことを、外交部は把握している(ICDF 2006b: 309)。

87 ICDFは、政府と民間のリソースだけでなく、国際機関・地域機構のリソースをも組織する国際開発協力のプラットフォームとして機能することも期待している(ICDF 2006a: 6, 15)。なお、国際機関との協調案件及びNGO等との協調案件については、ICDFの一覧表を参照(ICDF 2006a: 97–100)。

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ICDF 派遣の海外ボランティア・外交代替サービスも、「全民外交」の実施のために活用されている

(ICDF 2006a: 5)。

第四に、やや現実主義的対応とも言えるが、アフリカにおける台湾国交国の維持がある。台湾の援

助では、確かに援助戦略上重要となる地域は、明らかにされていない。但し、台湾との国交樹立国が

比較的多く、かつ外交戦略上重要性が増しているのは、中国のプレゼンスが増大するアフリカ大陸で

あろう。中国は「中国・アフリカ協力フォーラム」を 2006年 11月 4日にアフリカ 48カ国からの代表

を招聘し、開催している。うち 41カ国から国家元首・首相が参加しており、中国のアフリカへの影響

力拡大を示すものとなっている88。このフォーラムでは、(1) 2009年の対アフリカ援助規模を 2006年

から倍増させること;(2) 中国企業のアフリカ投資支援のため 50億ドルの基金を設立することが宣言

された(『読売新聞』:2006 年 11 月 4 日)。中国の意図は、(1) 石油等のエネルギー資源の安定確

保;(2) 国際社会での発言力拡大;(3) アフリカでの台湾外交空間を封じ込め、にあったとされ、台

湾及び台湾援助にとって中国のプレゼンスの拡大は、台湾の外交的生存空間と援助の対象国に強い影

響を及ぼしうる(『毎日新聞』:2006年 11月 4日)。こうした状況に対処するため、台湾は 2007年

9月 9日に台湾と外交関係を持つアフリカ 5カ国の首脳を集めた初の首脳会議を台北で開催した89。首

脳会議では、ICT・保健医療分野への支援を盛り込むこととなった(『読売新聞』、2007年 9月 5日)90。

5.3 ドナー特有の援助:台湾経験と援助モデルの構築

台湾援助は「台湾経験」を重視している。では、台湾経験とは何を指すのか。台湾経験とは、台湾

の民主化・民主的発展、法治、経済発展の経験を指すものとされ、台湾の援助戦略の主軸に位置づけ

られているものである(ICDF 2006b: 257)。更に、インタビューによると、下記の内容が具体的な台

湾の経験として有益であると示唆されている。

援助受入国から援助供与国となった経験:開発のために援助をどのように活用すればよいかを経

験的に理解している(羅教授へのインタビュー:2007年 5月 2日)。

88 アフリカ諸国に接近するに当たって、中国は経済力・内政不干渉の原則を武器にした経済協力を通じて、影響

力の拡大を行っている。胡錦涛総書記は、「我々は発展途上国に対し、条件を付けない公的援助を増やし、多様な

形式の経済技術協力を強めなくてはならない」、中国は「より広い分野、より高いレベルで国際的な経済協力に参

加し、地域経済協力、自由貿易協定協議を推進し続ける」ことを宣言し、国際基準に則るのではなく、自国との

経済関係の発展に重点を置いた関与をすることを明言している(『読売新聞』:2006年 11月 17日)。

89 台湾のアフリカ外交は、1997年末に南アフリカ共和国が中国と国交樹立し、2006年 8月には、産油国のチャドと断交したことで劣勢にある。アフリカ 53カ国中、台湾と外交関係を持つのは、ブルキナファソ、マラウイ、サントメ・プリンシペ、スワジランド、ガンビアの 5 カ国に限られている。但し、台湾と外交関係があるのは世界で 24カ国であり、アフリカは、南太平洋、中米と並び重要な地域とされている。なお、台湾は国交関係を有する中米・南太平洋諸国とのサミットを既に定例化している(『読売新聞』、2007年 9月 5日)。

90 陳水扁政権がアフリカ注視の外交を展開している背景には、中国がスーダンのダルフール問題で批判されてい

ることを受けているものと考えられる。対照的に、台湾は首脳会談を通じてアフリカ和平の問題に建設的に関与

する意思を持ちうることをアピールすれば、台湾外交の正統性を強化可能と見る戦略がそこにうかがえる(2007年 9月 5日)。但し、こうした中国の動向を見据えた台湾外交政策の形成は、台湾援助が自主的に自身の理念を打ち出すよりも、中国援助に受動的(passive/reactive)に対処せざるをえないという制約ももたらしている。

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熱帯医療を中心とする医療ケアの経験(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

農業の経験:援助受入国は農業国であることが多いうえ、台湾と同じ熱帯の国が多いため有用と

考えられる(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

農業中心経済からハイテク産業に移行した経験(羅教授へのインタビュー:2007年 5月 2日);

ICT の経験:開発途上国はメディア・アクセスにおいても格差があり、ICT で格差緩和が可能と

考えられている(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

中小企業の柔軟な企業間ネットワークによる輸出振興(羅教授へのインタビュー:2007 年 5 月 2

日;蘇比克湾開発管理中心へのインタビュー:2007年 3月 20日)。

政府の経済計画により経済発展させた経験:経済発展の初期段階で民間セクターが弱い際に有効

と考えられる(外交部へのインタビュー:2007年 3月 28日)91。

十大建設のような大規模インフラ建設を行った経験:インフラを開発し、経済発展を達成するこ

とを通じて、貧困が削減可能になると考えられている(外交部へのインタビュー:2007年 3月 28

日)92。

発展結果として経済発展・平等社会の双方を実現した経験(蘇比克湾開発管理中心へのインタビ

ュー:2007年 3月 20日)93。

これら台湾経験のうち、台湾独自の経験(熱帯医療での蓄積)もあれば、日本・韓国とも共通する

経験(農業社会からハイテク工業社会への移行、インフラ重視)も見られる。そのため、「台湾経験」

が必ずしも台湾独自の援助モデルとはなっていないようである(外交部へのインタビュー:2007 年 3

月 28日)。また、援助の供与に当たっても、台湾経験・台湾援助モデルを強く薦めることもないと感

じられた。ICDFの見解でも、台湾は国際機関の規範を遵守し、調和化を推進しているので、台湾経験

を強調したとしても、DAC等と摩擦を起こすことはないと考えられている(ICDFへのインタビュー:

2007年 3月 30日)94。

5.4 台湾援助の比較優位と問題点

台湾援助の比較優位は、前節で見た台湾経験に基づく援助であろう。特に、熱帯医療・熱帯農業に

関する蓄積と援助での実践は、他の「北」の援助供与国にはないものと考えられる。更に、外交的困

難が生んだ皮肉とも考えられるが、民間形式を取り入れた援助や、NGO・民間セクターの参加に柔軟

であることも、新興ドナーの援助としては独自性を有していると言える。 91 政府の経済計画の重要性については、意見が分かれることも指摘されている。

92 但し、外交部へのインタビューでは、(ハード)インフラが重要だとしても、ソフトインフラ(例:勤労態度と

いった精神面に関するもの)も重要だと指摘されている(外交部へのインタビュー:2007年 3月 28日)。

93 台湾の経済発展は、韓国財閥のように大企業によらずとも成長したというのが、開発途上国にとっては比較的

現実的な選択肢として魅力に映ることがある。なお、1994 年のベトナム向け中小企業向け再貸付案件(SMEs Relending Project:1,500万ドル)は Vietcom Bankへのツー・ステップ・ローンであり、地場企業が成長するなど成功した案件と指摘されている。民間活力を重視した台湾経験に基づいた案件であるが、国交がないためベト

ナムは成功をアピールできない(蘇比克湾開発管理中心へのインタビュー:2007年 3月 20日)

94 ICDFは、IDBの年次会合に参加し、政策対話にも参加している。PCM(Project Cycle Management)等のフォ

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他方、問題点については、下記の通りである。

援助政策・戦略:上記外交的孤立と関連する側面もあるが、外交関係が不安定なため、援助の長

期的一貫性のある戦略・基本法が欠如している(蘇比克湾開発管理中心へのインタビュー:2007

年 3月 20日)。

外交的孤立と外交部管轄の援助:ICDFは 1996年に外交部管轄となったのには、援助の外交的見

地を重視してのことであると理解できるが、外交的孤立の状況では、むしろ経済部のような民間

援助形態の外観を伴う方が、援助の対象を拡大しやすい。そのため、外交部が援助を管轄する現

状では、援助が外交問題化する可能性が高い(蘇比克湾開発管理中心へのインタビュー:2007年

3月 20日)95。

分権的実施:台湾の政府機関には、多くの省庁に「国際協力處」が組織されており、未だに 19の

組織が援助を供与しているという(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。その結果、(1)

元々小規模の援助資源が分散し、台湾の全援助予算に占める ICDF 予算のシェアは 13%に留まる

(ICDFへの照会:2007年 11月 2日)、(2) ICDFや外交部であっても、援助の全体像や統計を

把握していないため、体系的・整合的な企画の障害となり、結果的には台湾援助の有効性に影響

する(ICDF 2006b: 285;ICDFへの照会:2007年 11月 2日)。

援助予算の制約:台湾の ODA・GNP比は 0.14%であり、DAC平均の半分以下である。更に、近

年、全政府予算が削減されているため、ICDF予算も削減されている。その傾向の中で外交部が援

助予算を増加させようとしても、立法院は承認しない可能性が強い(羅教授へのインタビュー:

2007年 5月 2日;ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)96。

援助人材の制約:援助に必要な人材は、台湾では大きな制約である。世論が援助に関心を持って

いないうえに、大学・大学院教育機関には開発・援助を教育する科目はあっても専攻がない(国

際関係学のみ)。これは、韓国では北朝鮮問題に関心が集中しやすいのと同様に、台湾でも開発

途上国問題よりも、中国に関心が向きがちなことと関係している可能性がある(羅教授へのイン

タビュー:2007年 5月 2日;ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

対象国の制約:現在、ICDFは南太平洋諸国に援助を供与しているが、これら諸国は台北市よりも

小さい国も多く、農業開発からハイテクまでの移行を特徴とする台湾経験を実践するには妥当性

が低い国も多い(亜東関係協会へのインタビュー:2007年 3月 30日)。

非 DAC加盟によるデメリット:台湾は DACに参加できないので、同じテーブルで議論ができな

い(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

ーマットも活用している(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

95 この台湾援助の問題は、中国との競争に晒されざるを得ないという理由に基づく。アフガニスタンへの台湾援

助を希望したものの、台湾の進出を懸念する中国に阻止されたとされている。その結果、ODAではなく、非政府支援(non-official assistance)の形式を採らざるを得なくなる(羅教授へのインタビュー:2007年 5月 2日)。

96 政府予算は立法院を通過しなければならないが、野党議員の一部は援助の「真の目的」(外交目的の援助利用)

を批判し、経済不況のため、援助の拡充に消極的である。民進党議員にも批判的な意見もあるが、基本的に援助

拡充を支持しているとのことである(羅教授へのインタビュー:2007年 5月 2日;外交部へのインタビュー:2007年 4月 2日)。

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援助への世論:援助の概念自体は国民に広く支持されている模様であるが、援助規模の小ささも

影響して、基本的に援助に対する関心は低い。一部の国民が援助の経費支出を「小切手外交」

(chequebook diplomacy)・「金銭外交」(money diplomacy)であるとして批判している97。

また、1999年 9月の台湾集集大地震後は、援助予算を災害復興の国内使途に用いるべきだという

世論もあった。但し、こうした批判にもかかわらず、外交部は援助政策過程をコントロール可能

なので、批判意見に注意を払っていない。つまり、台湾の援助政策過程において、世論はインパ

クトに欠ける(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日;羅教授へのインタビュー:2007年 5

月 2日)。

97 これら批判は、IECDF 時代のグラント支援・経済協力に向けられることが多かったと思われる。現在の台湾援助の、グラント支援については、資料が得られていない。

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第 6章

今後の展望と可能性

6.1 台湾援助の改善

第五章では、台湾援助のデメリット・問題が指摘された。もちろん、台湾では、援助に関する改善

策も検討されている。外交上発生する問題についての対策は本調査の対象外とするが、少なくとも援

助の実務レベルでは、下記の改善目標が設定されている(ICDF 2006a: 64–5)。

協調関係の拡大:ADB・IDB・EBRD・CABEI等の国際機関及び国内外のNGOとの関係を維持し

てきたが、今後も一層強化し、援助のチャンネルを可能な限り拡大すると共に、援助の実施拡大

によって外交的生存空間の確保を図る。

台湾の民間部門の役割強化:公的セクターだけの役割から拡大し、成功した台湾の中小企業が現

地企業と経験を共有することで、台湾企業向けのビジネス環境の創出だけでなく、台湾の外交目

標に貢献する。

市民の ODA 対話・支持・参加の拡大:開発案件は一層の専門性を必要とし、市民社会の各集団

が持つ専門能力をボランティア・専門家等のスキームを通じて貢献を求める98。同時に、市民参加

型の援助とすることで、台湾援助の正統性を強化する99。

国際協力の知識基盤確立:援助は評価・計画・実施・監視を伴う高度かつ専門的なプロセスのた

め、ICDFは専門知識の蓄積に努め、実施機関のキャパシティ・ビルディングを図る。

援助資源を統合するプラットフォームの形成:政府機関の類似案件の重複を防ぎ、資源を適切に

98 台湾援助に関する世論の無関心と将来的な援助人材の発掘を考慮すると、積極的な PR活動は台湾援助に極めて重要であろう。現在、援助の広報事業として、(1) ICDFの活動を芸能人が紹介する 30秒のプロモーション番組を制作し、テレビ・映画館で放映、(2) 若者向けの講義・セミナーの開催、(3) ICDFのウェブサイトを活用し、一般向け情報提供ニュースレター(「e-paper」)を発行・活用(購読者は 50,000人から 80,000人であり、コンテンツは専門的な記事を含んでいる、(4) JICA事業を参考にした市民による ICDFモニタリング・ミッションを派遣、という 4事業を展開している(ICDF 2006a: 56–8;ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

99 第五章で指摘したように、ICDF(2006b: 285)も参加型援助による多元的外交の意義を認識している。そのため、台湾の国際協力は「全民外交」活動と位置づけられ、技術協力・ボランティア等による市民参加と民間活力

の投入によって、台湾は台湾と国交を有する友好国を、より多く、より遠くに、より長く確保できると指摘して

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分配・調整することで、予算の制約を克服する。

6.2 日台援助協力

台湾の援助を改善するためには、より援助の経験を蓄積したパートナーとの連携も一案として考え

られる100。本稿では、日本と台湾による援助協力の可能性も模索する。

日本と台湾の援助協力は、必ずしも活発ではなかったが、皆無ではないようである。例えば、職業

訓練・貿易研修等のための第三国研修が、1997年から 2002年の間に日台共同の援助事業として実施さ

れている。この第三国研修事業は、亜東交流協会と交流協会が出資し、職業訓練センターに実施委託

していた。なお、第三国研修は台湾の国交がある国のみに実施していた(亜東関係協会へのインタビ

ュー:2007年 3月 28日)101。

私見では、今後の日台援助協力の可能性として、次の分野での協力が候補に挙げられると考えられ

る102。

第一に、日本・台湾双方の得意分野を生かした日台の共同プロジェクトによる補完があるだろう。

例えば、台湾は亜熱帯の果物・野菜栽培に関する技術的蓄積と、熱帯医療に関する高度な技術・知識

を有している。反面、財政面の制約を受け、その他の ODA分野では日本に学んでいる段階にある。従

って、日台それぞれの比較優位を生かした援助協力が行われれば双方にとって有益であろう103。なお

台湾側関係者は援助協力のメリットとして、(1) 台湾援助の限られた資金を節約できる、(2) 日本単

独では容易でなかった分野への援助を実施できる、(3) 案件を比較的大規模に展開できる、(4) コス

トの節約により受入国に裨益する、といった点を認識している104。

第二に、情報の共有に基づく援助の調整があるだろう。例えば、プロジェクトレベルでは、日台援

助の案件重複を防止し、援助を効率的・効果的に実施できるようになると考えられる(羅教授へのイ

ンタビュー:2007年 5月 2日)。また、ICDFは南太平洋州での援助実績もあるので、特に JICAと協

調できれば、台湾だけにとってではなく、日本にとっても有益と考えられる(羅教授へのインタビュ

いる。

100 もちろん、パートナー関係には、役割やノウハウ・資金等を反映し、非対称なパートナーシップとなる可能性

は否定できない。

101 第三国研修は 2002年に終了している。近年、台湾の亜東関係協会から同様の援助事業の再開を日本側に打診しているが、積極的な反応は現段階では見られないという(亜東関係協会へのインタビュー:2007年 3月 28日)。

102 加えて、新興ドナーである台湾は、援助の実施体制・政策・スキーム等の形成にあたって、日本の事例を参考

にしているケースが多く見られている。その意味では、日本が台湾に「ドナー化支援」を行うことのニーズはあ

ると考えられる。なお、「ドナー化支援」とは、一定程度発展した中進国が援助の受入国からドナー国の役割に転

じるように、先発ドナーが中進国に必要な支援を行うことを指す。「ドナー化支援」と今後のあり方については、

石川他(2007)を参照。 103 農業委員会へのインタビューによると、台湾は果物・野菜の栽培に長けており、技術的蓄積もある。しかし、

アフリカで米輸入を国内生産で代替するために稲作を導入しようとすれば、大規模な灌漑設備の導入が必要であ

り、大規模な投資が必要になる。日台援助はこの分野で補完するような協力ができればよいと示唆していた(農

業委員会へのインタビュー:2007年 4月 3日)。また、ICDFは、2002年まで日台共同で実施していた先述の人材研修事業の再開を希望していた(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

104 日本も台湾も自国に研修生を招聘し医療研修をしているが、日本では台湾よりも 10倍のコストがかかるとの指摘がある。つまり、日本が台湾援助への類似スキームに資金面で協力し、台湾で研修を行うことができれば、開

発途上国から 10倍の研修生を招聘できることを意味する(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

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ー:2007年 5月 2日)。

6.3 東アジア・ドナー・コミュニティ形成への示唆

このように、日台援助は協調の可能性が無いとはいえないと考える。韓国と同様に、インフラへの

借款を重視し、経済発展が貧困削減をもたらした経験が、援助の方向性にも若干反映している。従っ

て、援助理念については、日本と台湾の間で充分共有が可能と考えられる。そして、日韓援助協力だ

けでなく、日台援助協力をも東アジア・ドナー・コミュニティの柱として組み込むことについては、

実務レベルでは検討に値すると考えられる。実際に、台湾の実施機関・研究者は、東アジア・ドナー・

コミュニティの必要性を肯定している(羅教授へのインタビュー:2007年 5月 2日)。

但し、日韓援助協力と比較して、日台援助協力を東アジア・ドナー・コミュニティに組み込むには、

政治的課題を無視できない。しかしながら、ICDFが既に IDB・CABEI・ADB・EBRD等の国際開発金

融機関との協調実績を多数有していること、更に、国交断絶後の日本と台湾の間で既に援助の実績が

あったことを考慮すると、日台援助協力の可能性を模索する意義はあろう。

また、中国が東アジア・ドナー・コミュニティの一員になることは潜在的にありうるが、現段階に

おいて中国が独自路線による国益重視の援助を追求し、援助での国際協調・調和化に消極的な状況に

ある。他方、台湾は台湾経験に基づきつつも、国際基準を遵守する援助を指向している。こうした状

況を考慮すると、同ドナー・コミュニティの形成に当たって、台湾を何らかの形でドナー・コミュニ

ティの一員に組み込むことは、少なくとも援助の実務者にとっては、東アジア・ドナー・コミュニテ

ィの価値・有用性を増すものと考えられる105。

105 もちろん、政治的・外交的見地から見ても、東アジア・ドナー・コミュニティに台湾を組み込むことは、「自由

と繁栄の弧」を構築しようとする日本外交の方針に合致する(ICDFへのインタビュー:2007年 3月 30日)。

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第 7章

結 論

これまで台湾援助についての調査結果を述べてきた。

台湾援助はほぼ 1960年代の農業技術支援を契機に、1980年代以降に台湾の国際経済におけるプレゼ

ンスの高まりに呼応して援助が本格強化されてきた。特に、1996年には ICDFが設置され、農業支援、

民間セクター開発支援、ICT 支援、医療支援を重点援助分野とし、貸与(金融)、贈与(技術協力、

国際人的資源開発、人道支援)の双方で活動を行うようになっている。台湾が外交関係を維持してい

る諸国を見れば、農業支援・医療支援を重視していることは極めて妥当と言えよう。なお、台湾は外

交的生存空間の拡大のため、特に重点国は特定せずに、柔軟に援助供与を行っている。加えて、台湾

援助も台湾経験に基づく独自の援助形態を模索しており、熱帯医療での蓄積については台湾の独自性

を強く感じるが、段階を踏んだ産業構造の高度化やインフラ重視といった点については、独自の経験

というよりも、日韓にも共通する要素であろう。

台湾援助は、外交部が実施機関の ICDF を管轄するが、経済部・農業委員会等の他の部署も援助に

関与している。ICDFには意思決定機関として董事会が設置されており、外交部長が董事長を務めてい

る。メンバーは政府高官、研究機関、財界団体、企業、銀行、法律事務所となっている。この董事会

では予算や重要案件の承認等を行い、委員間で若干の見解の相違が見られるものの、外交部の卓越し

た位置づけのため、調整が図られているようである。但し、援助政策機関と実施機関の外には、援助

人材は皆無である。台湾の人材不足は韓国よりも深刻な状況にあり、今後の台湾援助の発展に制約条

件となる可能性が考えられる。

台湾の援助戦略は策定段階に至っておらず、ODA 基本法に当たる国際合作発展法案は 2002 年にペ

ンディングとなったまま放置されている。そのため、外交政策の中で柔軟に手段として用いられる傾

向が強い。その結果、新興ドナーによく見られるようなドナー国の経済利益(タイド・ローンや商業

主義)はほとんど重要性を持たず、代わりに台湾の外交的生存空間の拡大という外交目的が極めて重

視される。但し、この外交目的の重視のため、外交部が ICDF の主管省庁となったことが、皮肉にも

台湾援助の対象を狭めてしまっていることは事実のようである。経済協力・民間援助といった形式が、

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特殊な状況にある台湾援助の対象拡大には貢献するものと考えられる。また、予算・人材の制約もあ

り、世論も必ずしも援助の拡大には肯定的ではないため、韓国のようには援助の大胆な拡充には今後

も踏み切れないものと考えられる。

今後の台湾援助は、国際機関や他国ドナーとの協調を図ることで、台湾援助へのアクセス促進を図

り、同時に ODAへの民間企業・NGOの関与を促進することで、援助の対象を拡大できると期待され

る。幸い、日台間には、過去にも援助での協力実績があり、しかも共有できる援助の理念が存在する。

東アジア・ドナー・コミュニティには、日本と韓国が主要なメンバーとして考え得るが、台湾も重要

なメンバーとなる条件は備えていると考えられる106。

106 なお、この調査では、台湾側カウンターパートから日台の協力を是非促進したいとの回答が得られたが、同時

に、日本はどこまで本気で日台援助協力を検討しているのかという点につき、関心を寄せていることを感じた。

また、本調査が、日台援助の将来を考える上で、非常に重要であり、今後共に継続する価値があることを強調さ

れることが多かった。

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参考文献

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Fund.

Chan, Gerald (1997), ‘Taiwan as an Emerging Foreign Aid Donor: Developments, Problems and

Prospects’, Pacific Affairs, vol. 70, no. 1, pp. 37–56.

Manning, Richard (2006), ‘Will “Emerging Donors” Change the Face of International Cooperation?’,

ODI Lunchtime Meeting, 9 March 2006.

2. 日本語文献

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『国際開発ジャーナル』、第 613号、52–53頁。

近藤久洋(2007)、「韓国の援助政策」、『開発金融研究所報』、第 35号、72–108頁。

佐藤和美(2007)、「民進党政権の『人権外交』―逆境の中でのソフトパワー外交の試み―」、『日

本台湾学会報』、第 9号、131–53頁。

『毎日新聞』、2006年 11月 4日。

『読売新聞』、2006年 11月 4日。

『読売新聞』、2006年 11月 17日。

『読売新聞』、2007年 9月 5日。

3. 中国語文献

ICDF (2006b)、『國際發展合作的概念與實務』(国際開発協力の概念と実務)、台北:財團法人國際發

展合作基金會。

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ISSN 1347-9148