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先端数学 分子と化学反応の数理 冨樫 祐一 (Yuichi TOGASHI) 数理計算理学講座 非線形数理学分野 http://www.togashi.tv/lab/

先端数学 分子と化学反応の数理cbbc.hiroshima-u.ac.jp/lectures/AdvMath-20190509-togashi.pdf · 簡単に、自己紹介と背景説明. . 研究内容: . もともとは、理論物理・計算物理が専門

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先端数学

分子と化学反応の数理

冨樫 祐一 (Yuichi TOGASHI) 数理計算理学講座 非線形数理学分野

http://www.togashi.tv/lab/

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簡単に、自己紹介と背景説明 冨樫 祐一(とがし ゆういち) 2014年から広大、2017年から数学科担当。 もともとは、理論物理・計算物理が専門。

複雑系の解析、統計物理、化学物理・生物物理 博士課程修了後は、 化学系の研究所(Max Planck協会 Fritz Haber研究所)、 生物物理の研究室(阪大・生命機能研究科)、 情報・通信の研究室(阪大・サイバーメディアセンター)、 ロボットの研究室(神戸大・システム情報学研究科)、 生物系のプロジェクト(広大・クロマチン動態数理研究拠点) を経て、数学科(非線形数理学分野)の担当になりました。 視野を広げておくと吉。何が役に立つか分からないものです。 研究以外の趣味は、写真、旅行、マンガを読む、舞台を見る、etc.

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簡単に、自己紹介と背景説明 計算生物学研究チーム 今年の集合写真がまだないので、昨年度のですが。 まだ3年目。現在、D3・D2・研究生・M1・B4・B4。

短期留学生が来ることもあります。 昨年度2名。

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簡単に、自己紹介と背景説明 冨樫 祐一(とがし ゆういち) 大学院では統合生命科学研究科

数理生命科学&生命医科学プログラム 理化学研究所生命機能科学研究センター

にも所属しています。 サイエンスパークの

池の近くにあります。 こういう絵が撮れる

3次元電子顕微鏡も あります。 →

画像解析も数学の応用。 参加者求む。

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簡単に、自己紹介と背景説明 研究内容: もともとは、理論物理・計算物理が専門

複雑系の解析、統計物理、化学物理・生物物理

生物の情報処理機構に興味があります。 基本的には化学反応のはずですが、では、細胞の中で起きて

いる反応は、試験管や化学工場とどんな違いが? 御存知のように、生物の細胞の中には、例えば分子モーターや

酵素など、様々な「分子機械」が。 それがどうやって動いているのか、特に、沢山集まった

「システム」としての振舞いには未解明の問題が多々。

こういった問題に対し、シミュレーションを通じた 理論的・計算科学的研究を進めています。

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シミュレーション 語源は、ラテン語の「まねる」 英語で、Simulation: 【1】振りをすること,偽ること(feigning). 【2】模擬実験,シミュレーション. 【3】模造品,偽物(counterfeit). 【4】(精神医学)「詐病,仮病,佯狂(ようきょう):罪を免れる

などの目的で精神的または肉体的病気を装うこと. 【5】(コンピュータ)「シミュレーション,模擬:あるシス

テムの動作を,それに似せたモデルで代用して行うこと; 特にこの目的のためコンピュータプログラムを利用する. (ランダムハウス英語辞典より)

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シミュレーション 科学技術の文脈では

「ある現象を数量的に研究するために,その現象の中で成り立つ要素的関係と正確にまたは近似的に同じ要素的関係(法則)が成り立つような,観

測に便利な他の現象を実現して,それに対する観測を行ない,問題の現象を解析する研究方法をいう.電子計算機によって要素的関係を1つ1つ計算して現象を追跡する方法も含められる.物理現象を用いる例としては,音声の発生について知るために,声道の音響系と相似の電気的な伝送線路をつくり,これに声帯の振動に相当するパルス波を送りこんで各部の電圧波形を測定すること,2次元の電場を求めるのにゴム膜を枠に

張って等高線を測定することなどがある.電子計算機を用いる場合は,ふつうは物理現象を表わす微分方程式を数値的に解くことなどは除外し,もっと複雑な要素過程たとえば確率過程,条件によって変わる法則を含む場合などに,現象の素過程をできるだけそのまま(解析的な処理を施さないで)追跡する手法をさす.モンテカルロ法はその一例である.物理,

化学ばかりでなく,経済,生物,そのほか待ち行列,交通問題などのいわゆるオペレーションズリサーチの分野など広範囲で使われている.」(理化学辞典第5版より)

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シミュレーション あることを、

本当に起こす(実験する)わけではないが、 何らかのモデルを用いて仮想的に起こしてみる。 実験・観測と、純粋な理論的予想との中間 今はほとんどの場合、コンピュータを用いる。 実験に対して、コンピュータシミュレーションを

「計算機実験」と呼ぶことも。

つまり、はじめにモデルが必要。 良いモデルを作ることが最大の問題であることも。

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化学反応系としての生物 ~生物・細胞のモデル化

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(数理)モデル化 何の(どんな問題を考える)ためのモデルか? 何を考慮するか? 何を(本当はもっとあるかも知れない要素から)選び、

何を(時に分かっていて)捨てるか。 シミュレーションに使う場合、計算量の都合もある。 考える問題にもよるが、生物の場合、そもそも要素が全部

分かっていない(未発見のものが影響しているかも知れない) ことが事態を複雑にしがち。

どう表現するか? 手順(アルゴリズム)であったり微分方程式であったり

ネットワーク(グラフ)であったり。 これを基にシミュレーションのプログラムを書いて実行。

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生物・細胞のモデリング

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何のために? 生物・細胞を理解するといってもあまりにも様々。 人それぞれ。丸ごとシミュレーションするだけではない。

そもそも非常に難しい。

個人的には…… 生命現象の理解(医学などへの応用含む)はもちろん 人工システムへの応用、そのために 例えば、生物の重要な(しかしあまり研究が進んでいない)特徴:

高い“安定性”(頑健性) 適度な“不安定性”(可塑性・適応性)

を両立するメカニズム これを持つシステムを設計できるか? 設計原理を知りたい。

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反応系・反応拡散系としての 生物のモデリング 何を考慮するか? 生物の活動の多くは、化学反応が基盤 →化学成分の濃度とその変化で表現 反応速度方程式:(容器内がよく混ざっている時に)

濃度を変数として、その変化を表す微分方程式。 量・濃度の時間微分(変化率)

=(反応で単位時間当たりに生成される量・濃度) -(反応で単位時間当たりに消費される量・濃度)

例えば 自発的な分解、放射性物質の崩壊 etc. A → φ(消滅) Michaelis-Menten 型の反応

(酵素反応のモデル)

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PEESSE +→←→

+

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反応速度方程式

𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑

[𝐴𝐴] = −𝑘𝑘 𝐴𝐴

𝐴𝐴 → ∅ (消滅) 𝑘𝑘 (反応速度定数)

濃度(量)は単位時間当たり 𝑘𝑘 𝐴𝐴 だけ減少

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反応速度方程式

PEESSE +→←→

+1k ]][[1 SEk

「濃度」

𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑

[𝑆𝑆] = −𝑘𝑘1 𝐸𝐸 𝑆𝑆 + 𝑘𝑘−1[𝐸𝐸𝑆𝑆]

1−k ][1 ESk−

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反応系・反応拡散系としての 生物のモデリング 生物の活動の多くは、化学反応が基盤 →化学成分の濃度とその変化で表現 反応速度方程式:(容器内がよく混ざっている時に)

濃度を変数として、その変化を表す微分方程式。 量・濃度の時間微分(変化率)に注目した。

反応拡散方程式:(よく混ざっていない時に)各点での 濃度を変数として、その変化を表す偏微分方程式。 拡散項を加えて

𝜕𝜕𝑐𝑐𝑖𝑖𝜕𝜕𝑡𝑡

= 𝐷𝐷𝑖𝑖𝜕𝜕2𝑐𝑐𝑖𝑖𝜕𝜕𝑥𝑥2

+ 𝑅𝑅𝑖𝑖(𝑐𝑐1, 𝑐𝑐2,⋯ , 𝑐𝑐𝑁𝑁) の形。

Ri は反応項(反応速度方程式と同様) ci: 濃度, Di: 拡散係数

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反応拡散系のパターン形成 生物の形態形成のモデルとして

不安定性のある(振幅が増大する)波長の発生 簡単に言えば、拡散の遅い活性因子 + 拡散の速い抑制因子、が条件

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チューリングパターン

A. M. Turing, Phil. Trans. Roy. Soc. B 237, 37 (1952).

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Angelfishの縞 近藤滋さん(大阪大学)らの研究。

大きくなっても、縞の間隔は広がらない。なぜか?

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生物の形態形成 ~シミュレーションと実験

S. Kondo and R. Asai, Nature 376, 765 (1995).

ある決まった 波長がある ↑ チューリング パターン?

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Angelfishの縞 パターンの変化を、シミュレーションと比較

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生物の形態形成 ~シミュレーションと実験

S. Kondo and R. Asai, Nature 376, 765 (1995).

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実験結果と比較し、モデルを検証 Zebrafishの場合

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生物の形態形成 ~シミュレーションと実験

M. Yamaguchi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA104, 4790 (2007).

パルスレーザで 色素細胞を除去 →どう治るか?

[Movie]

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生物 = 反応拡散系 → 反応拡散方程式 でOK? 実際、かなりよく表現できている。 新しいことはもう残っていない?

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意外に忘れられがちなのは、 モデル化のかなりの部分が、 「捨てる」こと、であること。 捨てたものは、何ですか? 実は、何を捨てたか忘れて いませんか?

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とくに注意が必要なケース

美しいモデル(数学的に, 振舞いが) ○○をわずか2変数の微分方程式で表現し……

何十年も使われているモデル 19xx年の○○論文は1000回以上引用され…… 10年前の自分は他人!

エラい先生が作ったモデル ○○でノーベル賞を受賞された○○先生の……

つい機械的に使ってしまいがち。 22

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みんな忘れていると、実はチャンス。

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モデル化で「捨てた」ものは 何か? いったん捨てたものの影響を 考えることで、新しい研究の 展開につながることも。

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化学反応系としての細胞 ~「少数性生物学」へ

異常な

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(数理)モデル化 何の(どんな問題を考える)ためのモデルか? 何を考慮するか? 何を(本当はもっとあるかも知れない要素から)選び、

何を(時に分かっていて)捨てるか。

どう表現するか? 手順(アルゴリズム)であったり微分方程式であったり

ネットワーク(グラフ)であったり。

何を選び、何を捨てたか、が、とても重要。 よく使われているモデルほど、前提を忘れて無意識に

使ってしまいがち。

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反応拡散系としての 細胞のモデリング 反応拡散モデルは、マクロな形態形成だけでなく、

1個1個の細胞のモデル化にもよく使われる。 多くの場合、先ほどのような反応拡散方程式

(濃度を変数とした偏微分方程式)を利用

𝜕𝜕𝑐𝑐𝑖𝑖𝜕𝜕𝑡𝑡

= 𝐷𝐷𝑖𝑖𝜕𝜕2𝑐𝑐𝑖𝑖𝜕𝜕𝑥𝑥2

+ 𝑅𝑅𝑖𝑖(𝑐𝑐1, 𝑐𝑐2,⋯ , 𝑐𝑐𝑁𝑁)

チューリング以来、基本的に変わっていない

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古典的な反応拡散モデル 反応拡散方程式(濃度を変数とした偏微分方程式) 実は、前提として、分子は

1. 記憶しない (内部状態がない) 1回1回の反応は瞬時に終結。後に影響が残らない。

2. 小さい (排除体積がない、点とみなせる) 自由にすり抜ける。一様な溶媒中の、通常拡散。

3. 数が多い (有限性によるゆらぎがない) 量・濃度を連続な変数(実数)で表現できる。

暗黙の了解のようなものだが、忘れられがち。

では、細胞ではこの前提は成り立っているか? モデルが「捨てた」ことが悪さをしていないか?

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細胞の中の分子 1. 記憶しない? 細胞の中には様々な

「分子機械」がある 酵素、分子モーター、… 機能(例えば反応)と

分子の動きに密接な関係 マクロな機械と同様

分子が大きく構造変化 → 瞬時には終結しない → 状態・記憶

Acetyl-CoA Synthase

Ca2+-ATPase, an ion pump. Movies by molmovdb. 28

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細胞の中の分子 2. 小さい? 細胞内はタンパク・

核酸などの高分子で 非常に混雑

小さな点とはとても 見なせない

細胞骨格や膜などの 構造もある こういうところでの

反応? 相互作用?

Bacterial cytoplasm model by S. R. McGuffee and A. H. Elcock, PLoS Comput. Biol. 6, e1000694 (2010). (consisting of 275g/l macromolecules)

(Photo by Chris73, Wikipedia)

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細胞の中の分子 3. 数が多い? 真核細胞でも通常

~10um程度 タンパクなど、成分の

種類は非常に多い → 少量しかない成分も

細胞内小器官・ 原核細胞は ~1um あったり

なかったり…

Quantification of protein copy numbers in e-coli. From Y. Taniguchi et al., Science 329, 533 (2010).

細胞当たり平均 1分子もない!

証拠が出てきた by 谷口さん(理研BDR)

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古典的な反応拡散モデル 反応拡散方程式(濃度を変数とした偏微分方程式) 実は、前提として、分子は

1. 記憶しない (内部状態がない) 1回1回の反応は瞬時に終結。後に影響が残らない。

2. 小さい (排除体積がない、点とみなせる) 自由にすり抜ける。一様な溶媒中の、通常拡散。

3. 数が多い (有限性によるゆらぎがない) 量・濃度を連続な変数(実数)で表現できる。

暗黙の了解のようなものだが、忘れられがち。

では、細胞ではこの前提は成り立っているか? モデルが「捨てた」ことが悪さをしていないか?

),,,( 212

2

Nii

ii cccR

xcD

tc

+∂∂

=∂∂

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反応拡散系としての 細胞のモデリング 細胞内環境では無視できない

1. 分子の記憶・ダイナミクス 2. 分子の大きさ・排除体積 3. 少数個しかない分子

モデル化で「捨てた」ものが問題になる。 反応拡散方程式で、なかったことにされていたもの。

今日の話は 3.が主題。但し、1と2も密接な関係。 しかし、これらを考慮するのは、

理論的にもシミュレーションでも難しい まじめに考えると計算量が爆発的に増大 マルチスケールモデル? 次世代スパコン? 別の方針: 簡単なモデルで何が言えるか? が今日の話。

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モデル化で「捨てた」ものは 何か? いったん捨てたものの影響を 考えることで、新しい研究の 展開につながることも。

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細胞の中の分子 3. 少数個? 分子の数が非常に少ない成分がある 端的にはDNA, mRNAなど

…… 細胞・種類当たりのコピーが少ない タンパクでも、谷口氏の実験のように、

細胞当たり1個のオーダーのものも

何が問題になるか? cf. 従来の(反応系としての)細胞モデル

「濃度」の議論

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何が問題になるか?

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現実をできる限り正確に再現・ 予測するのも大切ですが。 何か考えた(願わくは単純な) 仮定の帰結として起こることを 具現化してみせるのもまた シミュレーションの役割。

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とりあえず 超簡単なモデルで考える。

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2種類の触媒A, B

A

++A

+B

B B*

2種類の触媒A, B2種類の触媒A, B

A*

A* B*

A*

B* 自発的に 活性化

活性型 A*とB*が

反応

どちらかが 不活性化

A→A*, B→B* A*+B*→A*+B, A*+B*→A+B* r r s s

簡単な触媒反応モデル

r, s は定数で、定常状態でA, B各々の5%が活性型になるように定めた。 ([A]+[A*] = [B]+[B*] = 1, r = 0.0025, s = 0.95). 38

++

A*A*

自発的に活性化

反応反応

どちらかが不活性化B*B*

A*A*A*B*B*B*B*

A*A*

自発的に活性化活性化

反応反応

どちらかが不活性化

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古典的な反応速度方程式では 系がよく混ざっていると見なせれば、反応速度は、

濃度 [A], [A*], [B], [B*] だけで決まる。 濃度の変化する速度が濃度だけで決まる → 反応速度方程式

振舞いは系の大きさ(体積)によらない。 大きくても小さくても、濃度は同じように変化する。 今回の場合、活性型 [A*] と [B*] は全体の5%に収束。

本当?

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シミュレーションしてみる

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10等分

10等分

もし古典的手法が正しければ どれも活性型5%になるはず V=1000

V=100

V=10

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系が比較的大きい時

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体積 V = 1000(AとBは1000分子ずつ)

5.4% active

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10等分する

42

体積 V = 100, 同じ濃度(AとBは100分子ずつ)

7.8% active

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さらに10等分する

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体積 V = 10, 同じ濃度(AとBは10分子ずつ)

18.3% active

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こんな単純なモデルでも、変なことが 5% 活性型(反応速度方程式、つまり V→∞) 5.4%(V=1000)~ 18.3%(V=10)活性型 小さく分割すると、ゆらぎが大きくなるだけでなく、

平均値(定常状態)まで変化してしまう。 単純に100等分しただけで、活性型が3倍以上に。 そんなばかな……

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システムにおける少数要素の反乱

「濃度」概念に基づく古典的 反応拡散モデルの破綻 実はこれ、 長時間・多数回で平均した 振舞いも変えてしまうので、 ただのノイズとみなせない。

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どうしてこうなった?

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どうしてこうなった

B

A*

BB

A*A*A

B* AAA

B*

隔離すると

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どうしてこうなった? A*かB*のどちらかが全くない状態になると、

反応が止まる。 すなわち、反応のダイナミクスが遅くなって、

そこから抜け出すのに時間がかかることになる。 結果的に、その状態でいる確率が上がるために、

多くサンプルされてしまうことに。

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ところが 細胞にとってはこれは本質的かも知れない。

何かメリットがあるのかも。

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膜構造

足場タンパク 細胞骨格

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数の離散性 ~少数分子反応系の理論 個数は整数でしかあり得ない。

0, 1, 2, … というデジタルな変化。

顕著なのは、1個と0個、すなわち、 「有」と「無」の間の不連続な変化。

1個でも、多数のものの振舞いに影響を及ぼせる? → Yes 特に触媒(酵素)や鋳型(遺伝子)として働く場合、

1個の分子であっても、自身は消費されずに、 何度も反応を繰り返すことができる。

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こうした簡単な触媒反応系のシミュレーションでの 少数性効果の議論は、2000年頃から。 よく使われる確率シミュレーションのGillespie法は1976, 77年。 1980年代にBlumenfeldらが質量作用の法則の破綻を議論。

ただ、個別のシミュレーションによらずに、 ある条件を満たす反応系一般の振舞いを予測する 理論は未整備だった。 簡単なモデルで、各成分の濃度の平均や分散だけでも。 離散的な個数を扱う難しさ。 かといって遺伝子制御の議論などにありがちな、

On/Offだけのネットワークにもできない。 X染色体不活性化、ダウン症…… 1と2、2と3の違いが顕著に。

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数の離散性 ~少数分子反応系の理論

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最近の成果:道具がなかったら作る。 ある条件を満たす触媒反応ネットワーク一般に対し、

各成分の濃度の平均、分散、……を 計算(予言)できる理論。

平均が「何番目に多いか」は変わらない(順位保存則)なども

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数の離散性 ~少数分子反応系の理論

N: 総分子数 λi: N→∞での濃度 平均

分散

Nの式で表される

(少数性効果)

M. Nakagawa & Y. Togashi, Front. Physiol. 7, 89 (2016).

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数の離散性 ~少数分子反応系の理論 数学科なので、どう考えたか少し言うと。 ある瞬間の(よく混ざっている)反応系の状態は、

成分𝑖𝑖の分子数𝑁𝑁𝑖𝑖の組𝒏𝒏 = 𝑛𝑛1,𝑛𝑛2,⋯ ,𝑛𝑛𝑀𝑀 で書ける。 時刻𝑑𝑑に状態𝒏𝒏である確率𝑝𝑝(𝒏𝒏, 𝑑𝑑)を考えると、状態が

遷移する(=化学反応が起こる)頻度は𝒏𝒏で決まるので、𝑝𝑝(𝒏𝒏, 𝑑𝑑)の従うべき微分方程式が書ける。 これをマスター方程式という。 この式からは、およそあらゆることが分かるはず。

しかし、総分子数𝑁𝑁・成分数𝑀𝑀に対して状態の数は 𝑀𝑀𝐻𝐻𝑁𝑁 = 𝑁𝑁+𝑀𝑀−1 !

𝑀𝑀−1 !𝑁𝑁! で𝑁𝑁,𝑀𝑀が少し増えると爆発的増加。 理論的にも数値計算でもどうにもならない。

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M. Nakagawa & Y. Togashi, Front. Physiol. 7, 89 (2016).

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数の離散性 ~少数分子反応系の理論 確率母関数を使う。

𝜙𝜙 𝒛𝒛, 𝑑𝑑 ≔ � 𝑃𝑃 𝒏𝒏, 𝑑𝑑 𝑧𝑧1𝑛𝑛1𝑧𝑧2𝑛𝑛2 ⋯𝑧𝑧𝑀𝑀𝑛𝑛𝑀𝑀

𝑁𝑁

𝑛𝑛1,⋯,𝑛𝑛𝑀𝑀=0(𝑛𝑛1+⋯+𝑛𝑛𝑀𝑀=𝑁𝑁)

これは便利なことに

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𝑃𝑃 𝒏𝒏, 𝑑𝑑 ⟼ 𝜙𝜙 𝒛𝒛, 𝑑𝑑 𝑛𝑛𝑖𝑖𝑃𝑃 𝒏𝒏, 𝑑𝑑 ⟼ 𝑧𝑧𝑖𝑖𝜕𝜕𝑧𝑧𝑖𝑖𝜙𝜙 𝒛𝒛, 𝑑𝑑

𝑛𝑛𝑖𝑖𝑛𝑛𝑗𝑗𝑃𝑃 𝒏𝒏, 𝑑𝑑 ⟼ 𝑧𝑧𝑖𝑖𝑧𝑧𝑗𝑗𝜕𝜕𝑧𝑧𝑖𝑖𝜕𝜕𝑧𝑧𝑗𝑗𝜙𝜙 𝒛𝒛, 𝑑𝑑 𝑖𝑖 ≠ 𝑗𝑗 𝐸𝐸𝑖𝑖+1𝐸𝐸𝑗𝑗−1𝑛𝑛𝑖𝑖𝑃𝑃 𝒏𝒏, 𝑑𝑑 ⟼ 𝑧𝑧𝑗𝑗𝜕𝜕𝑧𝑧𝑖𝑖𝜙𝜙 𝒛𝒛, 𝑑𝑑 𝑖𝑖 ≠ 𝑗𝑗

𝐸𝐸𝑖𝑖+1𝐸𝐸𝑘𝑘−1𝑛𝑛𝑖𝑖𝑛𝑛𝑗𝑗𝑃𝑃 𝒏𝒏, 𝑑𝑑 ⟼ 𝑧𝑧𝑗𝑗𝑧𝑧𝑘𝑘𝜕𝜕𝑧𝑧𝑖𝑖𝜕𝜕𝑧𝑧𝑗𝑗𝜙𝜙 𝒛𝒛, 𝑑𝑑 𝑖𝑖 ≠ 𝑗𝑗 ≠ 𝑘𝑘

M. Nakagawa & Y. Togashi, Front. Physiol. 7, 89 (2016).

中川正基氏 (現・阪大)

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数の離散性 ~少数分子反応系の理論 ここから、

などとして、平均・分散などを求められた。 ただ、まだ仮定が非常に多く、適用範囲が狭いので、

続きを考えています……

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M. Nakagawa & Y. Togashi, Front. Physiol. 7, 89 (2016).

𝑛𝑛𝑖𝑖 =𝜕𝜕𝜙𝜙 𝒛𝒛, 𝑑𝑑𝜕𝜕𝑧𝑧𝑖𝑖

�𝒛𝒛=𝟏𝟏

, 𝑛𝑛𝑖𝑖𝑛𝑛𝑗𝑗 =𝜕𝜕2𝜙𝜙 𝒛𝒛, 𝑑𝑑𝜕𝜕𝑧𝑧𝑖𝑖𝜕𝜕𝑧𝑧𝑗𝑗

�𝒛𝒛=𝟏𝟏

𝑖𝑖 ≠ 𝑗𝑗 , etc.

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細胞における「少数」 ~きわめて少ないものがここに

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From Molecular Biology of the Cell (Alberts et al.)

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遺伝子発現と少数 遺伝子発現は少数同士の相互作用の極端な例 DNA: 1~数コピー/細胞 転写因子など、DNAに結合して働くタンパク分子:

原核細胞で1~数個、真核細胞でも数百以下のものも 特定の因子の組合せが必要な場合、

それらを同時に揃えるのはさらに難しく。 混雑、局在、…… → プロセスに参加できる実効的な分子数は限られる。

一般にシステムの振舞いを不安定にするはず ~なぜこんなことをわざわざ? 不安定になるのを防ぐメカニズムがある? 逆に何かメリットがある?

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生命システムにおける「少数」 さらに、遺伝子発現に限らず、

生命システムにとって「少ない」ことの意義? 普通に考えたら、

ただノイズまみれで不安定な動作になるだけ。 ある種の不安定性は確かにあって重要:

可塑性・適応性 一方で、システムとしては非常に頑健。

……これをどう両立するか。

実験・計算・理論の力を合わせて、我々は……

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Project “Spying Minority in Biological Phenomena”, to Understand Design Principles of Biological Systems.

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続編: シンギュラリティ生物学

少数細胞・少数個体は何をしている? 59

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Acknowledgements 共同研究者のみなさま V. Casagrande, M. Düttmann, A. S. Mikhailov (FHI-Berlin) A. Cressman, C. Echeverria, R. Kapral (Toronto) R. Erban, E. Rolls (Oxford) M. Morimatsu, M. Ishibashi, Y. Miyanaga, S. Matsuoka,

J. Kozuka, T. Watanabe, M. Ueda, T. Yanagida, M. Nakagawa (Osaka)

K. Kaneko (Tokyo) T. Nozaki, K. Maeshima (NIG-Mishima) C. B. Li, H. Teramoto, T. Komatsuzaki (Hokkaido) K. Higashikubo, S. Ohnaka, K. Fujimoto, J. Gu, Z. Luo (Kobe) H. Flechsig (Kanazawa) S. Shinkai, A. H. Iwane (RIKEN BDR) S. Tate, A. Awazu, R. Amyot, T. Kameda (Hiroshima) ...

実験・計算・理論、非常に多くの方との共同研究で 成り立っています。

いつでも新規参入を歓迎します!

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レポート課題 生物・化学や、広い意味でこれらと関わる系(人間

社会などでも良い)について、物事の数、あるいは個体性・個別性が重要と思われる現象を1つ挙げ、 1. 数・個体性・個別性が果たしている役割 2. その現象を数学的にどう考えることができそうか のいずれか(両方でも良い)を、数式もしくは何らかの数学的表現を用いて論じてください。 上の条件を満たしていれば短くても問題ありません。 講義で出てきた例でも構いませんが、考えたことを自分

の言葉で書いてください(正解は1つではありません)。 提出方法は掲示などの指示に従ってください。

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