43
臨床血圧脈波研究会   14PWV/ABI と中心血圧・ AI 基礎から臨床・予防への応用まで 山科 章 (東京医科大学 循環器内科 教授) 当番世話人 プログラム・抄録集

第14回臨床血圧脈波研究会 PWV/ABI AI · 第14回臨床血圧脈波研究会 pwv/abiと中心血圧・ai 基礎から臨床・予防への応用まで 山科 章 (東京医科大学

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臨床血圧脈波研究会   第14回PWV/ABIと中心血圧・AI基礎から臨床・予防への応用まで

山科 章 (東京医科大学 循環器内科 教授)

当番世話人

プログラム・抄録集

演題発表プログラム

09:30〜 開会挨拶 山科 章東京医科大学循環器内科

09:35〜 高得点演題

【座長】今井 潤東北大学大学院薬学研究科医薬開発構想講座

河盛 隆造順天堂大学大学院スポートロジーセンター

09:35〜09:47 H-1 男性高血圧患者における脈波伝播速度とサルコペニア前状態との密接な関連 佐藤 友則

東北労災病院治療就労両立支援センター 4

09:47〜09:59 H-2 正常高値足関節上腕血圧比(ABI)は脳内微小出血(CMBs)と関連がある:The Okinawa Peripheral Arterial Disease Study (OPADS) 金城 よしの

琉球大学医学部附属病院医学研究科循環器・腎臓・神経内科学 5

09:59〜10:11 H-3 軽度骨量減少者における動脈壁硬化度の評価とその意義 ―骨粗鬆症前段階からの骨・血管連関の危険性― 栗山 長門

京都府立医科大学医学部地域保健医療疫学 6

10:11〜10:23 H-4 高血圧における血管機能と圧受容体反射感受性の関連 木村 一貴東京医科大学茨城医療センター循環器内科

7

10:23〜10:35 H-5 健診データとの関連の解析による血圧脈波検査指標の意義の検証 宮下 洋自治医科大学健診センター

8

10:35〜10:47 H-6 糖負荷が虚血性心疾患患者のAugmentation Indexに与える影響 檜垣 忠直広島大学大学院医歯薬保健学研究科循環器内科学

9

10:50〜 フィーチャリングセッション1 高血圧/心血管病予防のポピュレーションアプローチへの提言

【座長】河野 雄平独立行政法人国立循環器病研究センター生活習慣病部門高血圧・腎臓科

島田 和幸新小山市民病院

10:50〜11:10 キーノート 高血圧/心血管病予防のポピュレーション戦略 三浦 克之滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門教授/アジア疫学研究センターセンター長

12

11:10〜11:25 F-1 高血圧・心血管疾患予防のポピュレーションアプローチ企業健診からの経験 冨山 博史

東京医科大学第二内科13

11:25〜11:40 F-2 上腕足首間脈波伝搬速度(baPWV)の10年間の縦断研究から ~動脈硬化危険因子重積による検討からの解析~ 福井 敏樹

NTT西日本髙松診療所予防医療センタ15

11:40〜11:55 F-3 市民啓発イベントからのアプローチ 重松 宏国際医療福祉大学臨床医学研究センター

16

11:55〜 ランチョンセミナー 共催:第一三共株式会社【座長】市原 淳弘

東京女子医科大学高血圧内分泌内科

11:55〜12:45 高血圧臨床における血圧変動性 星出 聡自治医科大学循環器内科

20

12:45〜 休 憩

13:00〜 フィーチャリングセッション2 血圧変動と臓器障害(血管障害)

【座長】鈴木 洋通埼玉医科大学内科学腎臓内科

苅尾 七臣自治医科大学循環器内科

13:00〜13:15 F-4 心血管リスクを加速するSHATS-夜間高血圧を中心に 苅尾 七臣自治医科大学循環器内科

24

13:15〜13:30 F-5 高血圧患者における臓器障害リスクとしての血圧変動性 大石 充鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学

25

13:30〜13:45 F-6 2型糖尿病患者において血圧変動は臓器障害のリスクになる 福井 道明京都府立医科大学内分泌代謝内科

26

13:45〜14:00 F-7 慢性腎臓病(CKD)での血圧管理において求められる降圧の質の改善とは? 田村 功一

横浜市立大学医学部循環器・腎臓内科学27

14:00〜 特別講演 山科 章東京医科大学循環器内科

同時通訳 14:00〜14:50 Arterial ageing assessed by pulse wave velocity Charalambos VlachopoulosAthens Medical School, Hippokration Hospital, Atens, Greece.

30

14:50〜15:00 クロージングリマークス(baPWV診断基準値に関するガイドラインの紹介) 山科 章

東京医科大学循環器内科

15:00〜 休 憩

15:15〜 特別報告 高沢 謙二東京医科大学八王子医療センター循環器内科

15:15〜15:35 ABC-J研究報告 島田 和幸新小山市民病院

33

ページ▼

15:35〜 口頭演題1【座長】冨山 博史

東京医科大学循環器内科

15:35〜15:43 O-1 副甲状腺ホルモンと動脈stiffnessおよびNT-proBNPの関係について 櫻木 悟

国立病院機構岩国医療センター循環器内科35

15:43〜15:51 O-2 持久系アスリートにおける短期間の高強度持久性トレーニングが中心動脈伸展性に及ぼす影響 東本 翼

筑波大学人間総合科学研究科/独立行政法人産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門36

15:51〜15:59 O-3 中心動脈圧に対する中等強度の有酸素性運動の急性効果とその機序 菅原 順独立行政法人産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門

37

15:59〜 口頭演題2【座長】宗像 正徳

東北労災病院勤労者医療センター

15:59〜16:07 O-4 若年男性における足湯が動脈スティフネスに及ぼす影響:大動脈スティフネスと下肢動脈スティフネスの検討 小崎 恵生

筑波大学38

16:07〜16:15 O-5 本態性高血圧患者に対するシルニジピンの心・腎・血管保護効果 東條 秀明福岡大学筑紫病院循環器内科

39

16:15〜16:23 O-6 閉塞性睡眠時無呼吸患者の無呼吸低呼吸評価法とbaPWVの関係 伊東 範尚大阪大学大学院老年・腎臓内科学

40

16:23〜 口頭演題3【座長】橋本 潤一郎

東北大学大学院医学系研究科中心血圧研究寄附講座

16:23〜16:31 O-7 アンジオテンシン受容体拮抗薬への直接的レニン阻害薬もしくは利尿薬の追加投与によるaugmentation indexならびに中心血圧の変化 三好 亨

岡山大学循環器内科41

16:31〜16:39 O-8 圧脈波のaugmentation indexを指標とした温泉水による足浴の血行改善効果 勝田 新一郎

福島県立医科大学医学部細胞統合生理学講座42

16:39〜16:47 O-9 なぜ糖尿病患者では橈骨動脈AIが低値となるのか -J-HOP研究の解析より- 江口 和男

自治医科大学内科学講座循環器内科学部門43

16:50〜 高得点演題表彰 山科 章東京医科大学循環器内科

閉会挨拶 山科 章東京医科大学循環器内科

※「特別講演」は英語の講演にて、同時通訳が入ります。

高得点演題

4

■ 目 的

脈波伝播速度(baPWV)の高値は血管疾患や臓器障害のリスクを高める。一方、筋量の減少とそれに伴う運動機能の低下(サルコペニア)は、転倒、骨折、寝たきりなどの虚弱の要因である。近年、サルコペニアと動脈硬化の関連を示唆する報告がなされている。サルコペニアは50 ~60歳以降に顕在化するが、筋量の減少、筋力低下はそれより以前から始まっている。我々は男性高血圧患者においてサルコペニア前状態と動脈硬化の進行が有意に関係することを報告した。しかし、サルコぺニアの評価に推定式を用いたため、握力情報が必要となる女性で検討できなかった。最近、生体インピーダンス(BIA)法による日本人のサルコペニアの診断基準が報告された。本研究ではBIA法により骨格筋量測定を行い、サルコぺニア予備群が動脈壁硬化と関連するか否かを男女で横断的に検討した。

■ 方 法

対象は、東北労災病院勤労者予防医療センターにて生活指導を受けた高血圧患者1164例(男性506例、平均年齢60±13歳)。測定項目として動脈壁硬化度の指標であるbaPWVおよび血圧、脈拍(formPWV/ABI: オムロンコーリン社)、BIA法(In body 720: Biospace社)によるBMI、骨格筋量、体脂肪率、空腹時採血を行った。運動機能は、下肢筋力の指標である10回立ち上がり時間と運動耐容能の指標である最大酸素摂取量を測定した。身体活動量はエクササイズガイド2006を用い、週あたりの活動量を算出した。サルコペニアの評価は、骨格筋指数(四肢の骨格筋量×身長の2乗:kg/m2)を用い、生体インピーダンス(BIA)法によるclass1サルコペニアの基準値である男性7.9 ~ 7.0、女性6.3 ~ 5.8をサルコペニア前状態、class2サルコペニアの基準値の男性7.0未満、女性5.8未満をサルコペニアとした。サルコペニアは男性70例(18.5%)、女性154例(34.5%)で、サルコペニア前状態は男性177例(46.8%)、女性115例(25.8%)であった。本研究はサルコペニア前状態が動脈硬化と関連するか否かを検討するため、サルコペニアに該当したものは解析から除外した。最終的に男性308例(年齢57±13歳)、女性292例(年齢61±12歳)が解析対象になった。baPWV1800cm/sec以上を動脈壁硬化進行群、未満を非進行群として群間の比較を行い、有意のものを説明変数とし、baPWV1800cm/sec以上を目的変数とした多重ロジスティック回帰分析を男女それぞれに行った。

■ 結 果

男性では推定式を用いた検討と同様、年齢、脈拍、収縮期血圧とは独立して、サルコペニア前状態がbaPWVの説明変数であった(OR: 2.793, P<0.05)。女性では年齢、脈拍、収縮期血圧、BMIは有意であったが、サルコぺニア前状態は有意な説明変数とはならなかった。

■ 結 語

男性高血圧患者ではサルコぺニア前状態と動脈壁硬化の進行が有意に関連したが、女性では関連しなかった。

○佐藤友則1,3)、金野 敏2)、根本 友紀1)、内海 貴子1)、佐藤 克巳1)、上月 正博3)、宗像正徳1,2)

1) 東北労災病院 治療就労両立支援センター、2) 東北労災病院 高血圧内科3) 東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野

男性高血圧患者における脈波伝播速度とサルコペニア前状態との密接な関連

H-1

5

高得点演題

■ 目 的

ABI低値または異常高値は、下肢動脈狭窄の可能性を示唆し、冠動脈疾患や脳卒中発症の高リスクである。我々は人間ドック受診者において、ABIは40歳未満で最も低く、60歳代までは加齢に伴い上昇し、その後低下することを報告した。また、ABI≥1.0では上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV)とABIは正相関、ABI<1.0では負の相関を示した。そこで、ABIは加齢および動脈スティフネスの増加に伴って上昇し、粥状動脈硬化による下肢動脈狭窄により低下すると考えた。脳小血管障害の一つである脳内微小出血(CMBs)と動脈スティフネスの関連が報告されている。そこでABIとCMBsの関連を調べた。

■ 方 法

本研究は症例対照横断研究である。2003年から2010年に人間ドックで頭部MRIとABI検査を受け、心疾患および脳卒中の既往がない990名(中央値53[24-86]歳, 女性531人)を対象とした。ABI≤0.9(4名)とABI≥1.4(1名)は除外した。対象群をCMBs保有群と非保有群に分けて解析した。CMBsに関連する独立因子の分析は、年齢、性、高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、喫煙歴、血圧値、血糖値、脂質プロフィール、収縮期血圧、拡張期血圧、頸動脈プラークスコア、白質病変、無症候性脳梗塞、baPWV、ABIを交絡因子として補正し、多変量解析を行った。

■ 結 果

CMBsは41名(4%)に 認 め た。ABIはbaPWVと 正 の 相 関 を 認 め た(r=0.07、P<0.01)。CMBs保有群ではCMBs非保有群に比べABI、baPWV、頸動脈プラークスコアが有意に高値で、降圧薬服用、白質病変、無症候性脳梗塞、高血圧の頻度が多かった。CMBs保有に対するカットオフ値は、ABI=1.12、baPWV=16.07m/sだった。多変量解析では、ABI≥1.12(オッズ比[OR] 2.67; 95%信 頼 区 間[CI]1.34-5.63, P=0.005)、 と 白 質 病 変(OR 3.06, 95%CI 1.45-6.95, P=0.003)がCMBs保有の独立した関連因子であった。また、ABIは55歳未満ではCMBs保有群が高値だが、55歳以上では両群間に有意差はなかった。

■ 結 論

ABI≥1.12は交絡因子で補正した後も、独立してCMBsと関連を認めた。中年期までの対象者では、ABI正常高値は動脈スティフネスを反映し、CMBsと関連がある可能性がある。

○金城 よしの、石田 明夫、大屋 祐輔琉球大学医学部附属病院 医学研究科循環器・腎臓・神経内科学

正常高値足関節上腕血圧比 (ABI) は脳内微小出血 (CMBs) と関連がある:The Okinawa Peripheral Arterial Disease Study (OPADS)

H-2

高得点演題

6

■ 目 的

近年の高齢化社会においては、動脈硬化症と骨粗鬆症を予防し、早期発見により治療介入することが、健康長寿、すなわち高齢者における生活の質を保つために重要であり、骨・血管連関が存在することが報告されている。(Kado DM et al. J Bone Miner Res. 2000, Suga T et al. J Atheroscler Thromb. 2011)。今回、これらの報告をもとに、自覚症状を有さない骨粗鬆症前段階の軽度骨量減少者について、動脈硬化がどのように関連しているか検討を行った。

■ 対象および方法

対象は、35歳から69歳の一般壮年検診受診者。全例、超音波パルス透過法による海面骨骨密度・骨弾性定数、および血圧脈波検査(フォルム上腕―足首baPWV/ABI)ならびに橈骨動脈AI

(Augmentation Index)(radial AI : rAI)検査(HEM-9000AI)の測定を実施し、関連を検討した。骨量・骨質検査の結果にもとづいて、若年成人平均値(YAM:Young Adult Mean)値が、ガイドラインにて骨粗鬆症前段階とされる80%以下の軽度低骨密度群(hypo bone density: HBD)と低骨弾性群(hypo elastic modulus: HEM) の2群に対して、上記動脈壁硬化度の検査結果を比較検討した。

■ 結 果

①研究協力者は574名(男性372名、女性202名、47.2±7.9歳)であった。②HBD群は154名(26.8 %)、HEM群 は97名(16.9 %) で あ っ た。 ③ 全 例 に お け る 平 均 値 は、baPWV:1328cm/sec、大動脈起始部の反射波を反映するrAI:69.8%であった。④海綿骨骨密度とrAIは、負の有意な相関を示した(r=-0.598)が、baPWV/ABIは相関を認めなかった。骨弾性に関しては、baPWV/ABIならびにrAIとは明らかな相関を認めなかった。⑤HBD群において、rAIは74.5%であり、 非HBD群(66.8%)に比して、有意に高値であった。

■ 結 論

海綿骨骨密度とrAIに相関を認めたこと、HBD群ではrAIが高かったことから、骨密度が低下する病態では、早期から大動脈レベルからの動脈硬化が惹起される骨・血管連関の危険性が示唆された。以上より、軽度骨量減少者における動脈壁硬化度の臨床的な測定は、病初期からの骨血管相関を考える上で有用であると思われる。

○栗山 長門、尾﨑 悦子、松井 大輔、渡邉 功、渡邊 能行京都府立医科大学医学部 地域保健医療疫学

軽度骨量減少者における動脈壁硬化度の評価とその意義―骨粗鬆症前段階からの骨・血管連関の危険性―

H-3

7

高得点演題

■ 目 的

自律神経機能障害は高血圧発症・進展に重要な役割を果たし、さらに予後にも関連すると考えられている。一方、血管機能障害も高血圧発症・進展に関与し、予後に関与することが報告されている。しかし、これらの両病態の関連性は十分には明らかにされていない。本研究は血管機能と自律神経機能指標のひとつである圧受容体反射感受性(BRS)の関連を検討した。

■ 方 法

329例の高血圧症例(年齢:60±10歳)(降圧治療:269例,新規治療群:61例)に対し血管機能として上腕―足首間脈波速度(baPWV)、増大係数(AI)、中心血圧(SP2)、血流介在上腕動脈拡張反応(FMD)を測定し、BRSは橈骨動脈にtonometry sensorを装着し血圧・心拍数を連続記録し算出した。降圧治療継続症例(216例)では2年の経過で上記指標を測定した。新規降圧治療開始例(61例)では治療開始前および開始一年後に計測した。

■ 結 果

329例の断面評価ではBRSはbaPWVと有意に関連性を認めたが(r= -0.202、 p<0.001)、rAI、SP2、FMD、収縮期血圧、拡張期血圧に関しては有意な関連を認めなかった。新規降圧治療群61例では、 BRS (開始時 7.1±3.7 msec/mmHg 、終了時9.4±4.4 msec/mmHg、 p<0.001)、baPWV (開始時 17.2±2.6 、終了時14.8±1.8 m/sec、p<0.001)、 SP2、 FMDは治療開始後1年ごとの評価で有意に改善していた。また、降圧療法前後のBRSの変化率とbaPWVの変化率は有意に関連していた(r=-0.254、p<0.001)。

■ 結 論

高血圧症に合併する自律神経調節障害は中心血行動態異常や内皮機能異常よりも大・中動脈のスティフネスの増加と密接に関連していると考えられた。また、これらの異常は降圧療法により改善すると考えられた。

○木村 一貴1)、冨山 博文2)、松本 知沙2)、小平 真理2)、椎名 一紀2)、山科 章2)

1) 東京医科大学茨城医療センター 循環器内科、2) 東京医科大学病院 循環器内科

高血圧における血管機能と圧受容体反射感受性の関連H-4

高得点演題

8

■ 背景・目的

血圧脈波検査は動脈スティッフネス・血管年齢あるいは高血圧性の血管機能障害や心血管リスク等の評価を目的として行われている。しかし、脈波解析により得られる各指標の特性・意義の相違に関して、実証的データに基づく理解は十分とはいえない。一方、動脈石灰化は動脈の病理学的・器質的硬化の所見と考えられ、CTによる大動脈石灰化スコアが脈波速度と関連することが報告されている(McEniery et al. Hypertension 2009;53:524-531)。本研究は、CTによる大動脈石灰化の評価を含む総合健診データとの関連から血圧脈波関連指標の特性や検査の意義を明らかにすることを目的とした。

■ 方 法

総合健診のオプション検査として、血圧脈波検査および胸腹部CT検査を同日施行した総合健診受診者532名(M:F=346:186;平均年齢 57.7才)を対象とした。血圧脈波検査指標としてform®

による脈波速度測定からのbrachio-ankle pulse wave velocity (baPWV)、HEM-9000AI®

による橈骨動脈波解析からの橈骨動脈augmentation index (rAI)およびsystolic pressure amplification (SPA=rSBP-rSBP2;末梢-中心SBP較差推定値)を得た。各指標を従属変数とし、CT画像で検出された大動脈石灰化(AoC)の有無や病歴・生活習慣・メタボリスクを含む総合健診データを独立変数として投入し、ステップワイズ法で重回帰モデルを構築した。

■ 結果・考察

BMI、心拍数、拡張期血圧は全指標に共通した関連因子(交絡要因)となった。rAI・SPAに共通して身長と喫煙本数および降圧薬内服が有意な関連を示し、SPAには年齢依存性がみられなかっ た。 喫 煙 以 外 の メ タ ボ リ ス ク 重 積 数(M_Risk)はSPA(p=0.013)お よ びbaPWV(p=0.019)と有意に関連した。尿タンパク(定性)はbaPWVとのみ特徴的に関連を示した(p=0.010)。AoCは年齢に強く依存し(石灰化検出率の年齢相関r=0.97)、年齢と同時にモデルに投入するといずれの血圧脈波検査指標とも有意な関連がみられなかったが、多重共線性のためと考えられた。年齢を投入独立変数から除いた場合、AoCはbaPWVのモデルにおいてのみ有意な関連因子となった(p<0.001)。

■ 結 論

baPWVが臓器障害の存在を示すタンパク尿やAoCを反映するのに対し、rAI・SPAは降圧薬服用や喫煙による機能的血管緊張をよく反映する。同じ橈骨動脈圧波形指標でも、SPAの特性はrAIと異なり、年齢依存がなくM_Riskと関連することが示唆された。このような血圧脈波検査指標のモデル化による特徴付けは、適切な結果の解釈や評価指標の選択、評価の特異性を高めるために有効な交絡要因補正法の開発に繋がることが期待される。

○宮下 洋1,2)、苅尾 七臣2)

1) 自治医科大学 健診センター、2) 自治医科大学 医学部 循環器内科学部門

健診データとの関連の解析による血圧脈波検査指標の意義の検証

H-5

9

高得点演題

■ 目 的

Augmentation Index (AIx)は、非侵襲的に測定できるarterial stiffnessの有用な指標である。虚血性心疾患患者において、経口糖負荷によるAIxの急性変化について検討した。

■ 方 法

虚血性心疾患で入院した患者の内、糖尿病未治療かつ、空腹時血糖<126mg/dlを満たした計61名に、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を施行した。開始前、60分後、120分後に、オムロンコーリン社のHEM 9000-AIを用い橈骨動脈のAIx (radial AIx)を測定した。また、15名で糖負荷の代わりに飲水を行った状態で同様にradial AIxを測定しWater群とした。

■ 結 果

Water群では血圧、脈拍とともにAIxに変化を認めなかった(AIx, 93.7 ± 14.1 to 92.8 ± 13.3 to 92.9 ± 13.9%, p=ns)。糖負荷では、上腕動脈の収縮期・拡張期血圧に変化は認めなかったが、60分時点で脈拍の上昇、AIx、脈拍75bpmで補正したAIx@75の低下を認め(脈拍, 59.4 ± 10.0 to 63.3 ± 12.0 bpm, p<0.01 ; AIx, 90.7 ± 14.3 to 82.3 ± 16.4 %, p<0.01 ; AIx@75, 84.1 ± 13.6 to 77.3 ± 14.8 %, p<0.01)、その変化は120分時点でも持続していた。正常耐糖能(NGT) 29名、耐糖能異常(IGT) 32名における比較では、IGT群においてNGT群に比べ、AIx、AIx@75の低下幅が60分後(⊿AIx, 6.5 ± 6.7 vs 10.5 ± 6.9 %, p<0.05 ; ⊿AIx@75, 5.2 ± 5.0 vs 8.6 ± 5.9 %, p<0.05)、120分後(⊿AIx, 7.8 ± 6.3 vs 11.9 ± 7.3 %, p<0.05 ; ⊿AIx@75, 5.9 ± 4.7 vs 9.6 ± 6.5 %, p<0.05)共に有意に減少していた。

■ 結 論

脈波反射は糖負荷により低下することが示された。また、IGT群では、NGT群に比し、糖負荷による脈波反射の反応性が有意に低下していた。耐糖能異常が、動脈コンプライアンスの低下を引き起こしていることが示唆された。

○檜垣 忠直、栗栖 智、渡邊 紀晶、下永 貴司、池永 寛樹、岩崎 年高、石橋 堅、 福田 幸弘、木原 康樹広島大学大学院医歯薬保健学研究科 循環器内科学

糖負荷が虚血性心疾患患者のAugmentation Indexに与える影響

H-6

MEMO

11

《フィーチャリングセッション 1》

高血圧/心血管病予防のポピュレーション アプローチへの提言

【座長】河野 雄平 独立行政法人 国立循環器病研究センター生活習慣病部門 高血圧・腎臓科

    島田 和幸 新小山市民病院

12

フィーチャリングセッション

 人間集団の血圧値はほぼ正規分布することが知られている。しかし、血圧が分布する範囲は世界各国の集団によって大きく異なり、また、時代によっても集団全体として大きく変動することも歴史的に明らかになっている。この現象を遺伝要因で説明することは困難であり、ライフスタイルを含む環境要因によるものが大きい。中でも食塩摂取、肥満などの栄養要因が大きく関与することが指摘されており、血圧値は広い意味での集団の栄養状態の指標の1つとも捉えられる。したがってあるカットオフ値をもって規定する「高血圧」の定義は人為的なものである。 心血管病予防対策はすなわち血圧等、確立した心血管病危険因子を改善させる対策になるが、大きくハイリスク戦略とポピュレーション戦略の2つに分けられる。ハイリスク戦略は危険因子を有するハイリスク者を早期に発見し、介入・治療する対策であり、従来大きな成果を上げてきたが、一方で、集団全体が病んでいる場合は根本的な解決法にならない。ロンドン大学のRoseが提唱したポピュレーション戦略は、集団全体に働きかけて危険因子の分布全体を良好な方向に動かす対策である。集団全体が病んでいる場合の根本的解決法であり、環境が変化するため個人の努力が少なくて済む、などの利点がある。 血圧に対するポピュレーション戦略は集団全体の血圧値の分布をより低い方へシフトさせることを目指している。CookらはFramingham Heart Studyのデータから集団全体での拡張期血圧平均値の2mmHg低下により高血圧有病率が17%低下し、これによって脳卒中発症が15%低下すること、また、この効果は高血圧者全員に対して投薬したとした場合に予防される患者数にほぼ匹敵することを示した。わが国のNIPPON DATA80では集団全体の収縮期血圧平均値4mmHg低下により、男性で17%、女性で9%脳卒中死亡が減少すると試算しており、集団全体の血圧平均値のわずかの低下でもその効果は著明である。 一方、血圧値と心血管病リスクの間には段階的、連続的な正の関連があり、至適血圧を越えて正常血圧以上になるとはっきりとリスク上昇が見られる。近年のコホート研究においては心血管病死亡者・罹患者うちの何%が至適血圧を超える血圧高値による過剰死亡・罹患かを示す集団寄与危険割合が示されているが、国内コホート統合プロジェクトEPOCH-JAPANでは、全心血管病死亡の50%、脳卒中死亡の52%が至適血圧を超える血圧高値に起因する死亡と評価され、Ⅰ度高血圧からの過剰死亡数が最も多かった。また、CIRCS研究では、重症高血圧者の減少により、脳卒中の過剰罹患数の中心が重症高血圧者から軽症高血圧者に移りつつあることを明らかにしており、正常高値やⅠ度高血圧における生活習慣修正による血圧低下対策も重要であることが明確である。 わが国の収縮期血圧平均値は男女ともいずれの年齢階級においても過去50年間で大きく低下した。これは国民の血圧値の分布が低い方へ大きくシフトしたことを示しており、わが国の脳卒中死亡率の急激な低下の最大の要因と考えられる。2012年に厚労省が示した「健康日本21(第2次)」では、2022年(平成34年)までの10年間に国民の収縮期血圧の平均値を4mmHg低下させることを目標に掲げた。国民全体での減塩、肥満対策など生活習慣の修正と社会環境改善、さらに至適血圧を超える軽度血圧高値の人々への対策強化が大きな鍵となるだろう。

○三浦 克之滋賀医科大学 社会医学講座公衆衛生学部門 教授/アジア疫学研究センター センター長

高血圧/心血管病予防のポピュレーション戦略キーノート

13

フィーチャリングセッション

弾性に富む大動脈はクッション作用を有し、左室駆出に伴う圧エネルギーの末梢への伝搬を減弱させる。しかし、動脈の硬さが亢進すると動脈の機能であるクッション作用が低下し、心後負荷増大、圧エネルギーが末梢に直接伝搬し、腎臓など血流の豊富な臓器の微小血管障害を惹起する。我々は以下のごとく血管機能障害が心負荷増大、腎機能障害進展や高血圧発症に関与することを報告している。

■ 血管機能障害と心負荷

男性2654例を対象に、上腕―足首間脈波伝播速度(baPWV)、橈骨収縮圧波形の第1および第2ピーク(SBP1;上腕収縮期圧の指標とSBP2;中心収縮期圧の指標)と、その比である

(SBP2-DBP)/(SBP1-DBP)×100(%) = radial augmentation index; rAI(DBP;拡張期血圧)、PP1(SBP1-DBP)、中心脈圧の指標であるPP2(SBP2-DBP)を測定し、血液検査では総コレステロール(TC)、 中性脂肪(TG)、HDLコレステロール(HDL)、血清クレアチニン(Crnn)、空腹時血糖(FPG)、心負荷の指標である血清NT-pro BNP濃度を測定した。各交絡因子で補正後のロジスティック解析にて、NT-pro BNP上昇に対してPP2は有意なオッズ比を認めた(NT-pro BNPを4分位に分けて検討したところ、第1分位のオッズ比(95%信頼区間)は1.24 [1.15 - 1.33], p<0.01)。一方、NT-pro BNP上昇に対してbaPWV、rAI、SBP2は有意な関連は認めなかった。このように中心血行動態異常進展に伴い心負荷も増悪することを確認した。

■ 血管機能と腎機能障害進展

断面研究:職域健診受診中年男性1873例において糸球体ろ過率(GFR)は、動脈の硬さの指標である脈波速度(PWV)と有意な相関を示した。さらに、軽度腎機能障害例(GFR:60-90 ml/min/1.73m2)では正常例(GFR:90以上)に比べてPWVは有意に高値を示したが、炎症の指標である血中高感度CRP、および酸化ストレスの指標であるLipid peroxideの有意な変化は認めなかった。追跡研究:1901例の職域健診症例の6年の経過観察において観察開始時PWV 3分位最高値群

(659例)ではGFRが78→75 ml/min/1.73m2へ有意に低下したが、PWV 3分位中間・最低値の2群ではGFRの有意な低下は認めなかった。

■ 血管機能と高血圧発症

高血圧発症進展への血管因子の関与は重要であり、いくつもの追跡研究で動脈の硬さ亢進(動脈機能低下)が高血圧発症に関与することが報告されている。血管機能障害は、腎機能障害・末梢血管抵抗上昇を介して血圧上昇に作用する。また、動脈の硬さ亢進は中心動脈血行動態異常(末梢動脈の血管抵抗上昇に伴う反射圧脈波が収縮期に大動脈に返達し、中心動脈での収縮期血圧の上昇が生じる)を招き、中心血圧上昇はさらに腎機能障害増悪に作用し、血圧上昇を進展させる。非高血圧日本人中年男性777例の3年間追跡研究にて脈波速度亢進は高血圧発症のリスクであ

○冨山 博史東京医大第二内科

高血圧・心血管疾患予防のポピュレーションアプローチ 企業健診からの経験

F-1

14

ることを報告した。すなわち、肥満、飲酒、喫煙、全身炎症などの高血圧発症危険因子で調節しても上腕―足首間脈波速度(baPWV)>13.5m/secが有意な高血圧発症予測指標であった。さらに、中心血圧指標SP2とbaPWVを対比するとSP2>109mmHg以上がより強力な高血圧発症予測指標であることを確認している。

■ 血管機能増悪の因子とその改善

上述のごとく、血管機能を評価することから心血管疾患発症リスク病態の増悪を早期から評価可能となる。今後、基準値の確立が望まれるが、上腕―足首間脈波速度に関しては14m/secがひとつの目安となる。中心血圧についても同様の確立が望まれる。我々は、これまでの追跡研究でメタボリック症候群、過度の体重増加などが血管機能障害増悪の因子であることを報告している。企業健診であり、こうした因子への積極的介入が困難であるのが現状である。しかし、平均5年の経過観察2054例中181例が禁煙に成功し、こうした症例では喫煙例に比べて血管障害の増悪が有意に少ないことを確認している。

15

フィーチャリングセッション

我々はこれまで人間ドックや健診受診者を対象とした横断研究を中心として、上腕足首間脈波伝搬速度(baPWV)の有用性について論文等による数多くの報告を続けてきた(Ningen Dock 19: 29-32, 2005 人間ドック 21: 58-61, 2006 人間ドック 23: 52-58, 2008など)。そのなかで、動脈硬化の危険因子の重積とbaPWV値の強い相関についても報告してきた。我々の施設でbaPWV値の測定が10年以上経過したため、改めて測定データの解析を行った。今回は動脈硬化の危険因子の重積とbaPWV値の関係についての10年間の経時的変化について検討した。対象は当施設人間ドック健診を受診し、baPWV値をフォルムABI/PWVにて測定した延べ22377名(男性19299名、女性3078名)のうち測定初年度と9年後の追跡検査を実施できた715名(男性628名および女性87名(測定初年度平均年齢男性46.7歳、女性47.6歳)。 測定初年度に対する9年後のbaPWV値の変化量と初年度の動脈硬化危険因子(肥満、高血圧症、糖尿病、脂質異常症)の重積との関連について検討した。対象者のほとんどが同一企業に勤務していて、経年的に毎年人間ドックレベルの健診を受け続けている集団で、ハイリスク者であっても脳・心血管イベント発症などにより脱落している者はほとんどない。また薬物治療介入の有無については考慮せず検討した。男女ともに、測定初年度のbaPWV値と動脈硬化危険因子の重積には有意な正の相関が認められ、以前の我々の報告結果と同じであった。男性におけるbaPWV値の変化量は初年度の動脈硬化危険因子数が多いほど小さくなる傾向を示した(リスク数0:126 cm/sec, リスク数1:117cm/sec, リスク数2:89 cm/sec, リスク数3:48 cm/sec, リスク数4:23 cm/sec)。すなわち10年間のbaPWV値の変化量は、動脈硬化の危険因子数が多いほど少なくなった。ただし、9年後のbaPWV値そのものはリスク数が多いほど大きいことには変化がなかった。大血管のスティフネスの指標であるbaPWV値の10年の経年変化から、動脈硬化の危険因子が多いほど動脈硬化が進展しやすいが、40歳代半ばにはかなり進展していて、その後はむしろ加齢性変化の方が大きくなり、baPWV値の差が小さくなっていくことが見出された。動脈硬化対策は40歳以前に介入しなければならないことが初めて明らかになった。尚、今回の報告の主な趣旨は、2013年の第54回日本人間ドック学会学術大会におけるプレナリーセッションおよびランチョンセミナー、並びに第36回日本高血圧学会総会臨床部門高得点演題で講演した内容を中心に講演させて頂くつもりです。

○福井 敏樹NTT西日本高松診療所 予防医療センタ

上腕足首間脈波伝搬速度(baPWV)の10年間の縦断研究から~動脈硬化危険因子重積による検討からの解析~

F-2

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フィーチャリングセッション

 わが国では、超高齢化社会の出現に加えて、食生活を含めた生活様式の変化などを原因として、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満が増加し、動脈硬化性血管疾患が急増して来た。その傾向は四肢末梢閉塞性動脈疾患でも例外ではなく、わが国において特徴的に多くを占めていたBuerger病は急減し、閉塞性動脈硬化症がそのほとんどを占めるに至った。従って現在では、PAD

(peripheral arterial disease)は、動脈硬化を原因とした四肢末梢の閉塞性動脈疾患である閉塞性動脈硬化症と同義語として用いられている。大規模観察研究が行われたREACH registryでは、PADの2/3に脳や心の虚血性病変を併存しているのみではなく、脳や心の虚血性疾患においても、他臓器の虚血性病変を併存している例が少なくないことが明らかになった。そのため、これらの脳や心臓、下肢の虚血性病変は個別臓器の疾患として考えるよりも、全身的な動脈硬化性病変を有するPolyvascular disease と捉え、アテローム血栓症として包括的に理解されるようになってきた。さらにPADそのものの多くに脳や心の虚血性病変を有しているため心血管イベントの発症率が高く、生命予後が不良であるのみではなく、他臓器病変にPADを併存した場合でも同様に予後が不良となることから、PADの存在診断が重要となっている。PADの診断に重要な肢虚血の客観的評価法は多彩であるが、超音波ドプラ血流計が世界的に広く用いられ、肢虚血重症度は足関節部上腕血圧比、ABI:ankle brachial indexとして標準化されている。近年Diehmらは、無症候性PAD836名、症候性PAD593名を含む6800名余を対象に観察研究を行った。心筋梗塞や冠動脈再建、脳卒中や頸動脈再建、末梢動脈再建や肢切断などの心血管イベントに全死亡を加えたevent-free survival は、観察開始時のABIにより規定されており、ABIが低下するに従ってsurvival rate は低下していた。さらに65歳以上の高齢者について、無症候性PADと症候性PADを比較すると、全死亡や脳血管イベントによる死亡、心血管イベントによる死亡、心筋梗塞や脳卒中のいずれの事象においても、両者に有意差が無いことも明らかになった。従って、無症候性PADであっても、虚血性心血管イベントの発生は、症候性PADと同様に高く、医療機関を受診することが希な無症候性PADの早期発見と何らかの介入的治療の必要性が示唆されている。そこで日本心・血管病予防会が中心となって、2011年の敬老の日に、一般市民を対象とした「ABI測定イベント “Take ABI”」を全国8カ所で開催し、ABI測定を行った。主な対象は、70歳以上の高齢者及び50 ~ 69歳で喫煙または糖尿病歴のあるものとし、2,520人にABI測定を実施した。被検者の平均年齢は69.9歳、女性が55.9%であった。生活習慣病の罹患率は高血圧が41.8%、脂質異常症が47.7%、糖尿病が16.9%であった。喫煙歴のあるものは34.6%で、心血管病(狭心症、心筋梗塞、脳梗塞のいずれか)の既往は21.1%であった。ABI測定の結果、2.9%がABI値0.9以下で、PADを罹患していた。また、0.91-0.99の境界域が6.2%にみられ、一般市民の約9.1%でPADが疑われた。さらに生活習慣病とABI測定結果の関連について検討した。生活習慣病のうち、糖尿病を合併している場合にABI低値(≦0.9)の率が高く、危険因子のないものでは1.6%であったのに対して、糖尿病歴のあるものでは 3.7%、(p<0.05)であった。また、生活習慣病の合併数が多いほどABI低値の率が高く、リスクファクター 3項目では 4.8%(p<0.05)であった。

○重松 宏国際医療福祉大学臨床医学研究センター

市民啓発イベントからのアプローチF-3

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 さらに2012年には参加施設を18カ所に増やして同様に行った。これら2011年から2012年の測定結果の中から、再来者を除く4099名について検討を行った。男性は40.5%、女性は59.5%で、平均年齢は70歳であった。ABIが0.9以下のPAD有病者は2.8%、0.91 ~ 0.99の境界域のものは6.3%で、PADの危険を有するものは9%強に及ぶことが明らかになった。またABI低値(≦0.9)の率も加齢とともにその頻度は高く、75歳以上では4.7%、0.91-0.99の境界域を含むと12%にPADリスクを有していた。これらの結果から、我が国の一般市民においてもPADはまれではなく、PADは脳や心疾患を併存している頻度の高い代表的polyvascular diseaseであり、ABIが生命予後を規定していることから、足は血管を診る窓windowと考えて、積極的にABI測定を行うべきであることが明らかになった。

MEMO

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《ランチョンセミナー》 【座長】市原 淳弘

東京女子医科大学高血圧内分泌内科

高血圧臨床における血圧変動性【講師】星出 聡

自治医科大学循環器内科

【共催】第一三共株式会社

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ランチョンセミナー 

高血圧臨床における血圧変動性

【講師】星出 聡

自治医科大学循環器内科

■ 略歴1995 年 3 月 31 日 山形大学医学部医学科卒業1995 年 6 月 1 日 東京大学医学部附属病院内科研修医1996 年 6 月 1 日 公立学校共済組合関東中央病院内科研修医1997 年 6 月 1 日 自治医科大学循環器内科シニアレジデント

■ 以降芳賀赤十字病院内科(栃木県真岡市)、小山市民病院循環器科(栃木県小山市)、自治医科大学救命救急センター                にて勤務

2009 年 10 月~ 2010 年 9 月  イタリア ミラノ・ビコッカ大学 San Luca 病院 留学2011 年 4 月~  自治医科大学 睡眠・サーカディアン循環器医学講座  内科学講座 循環器内科学部門 講師2013 年 10 月~ 自治医科大学 睡眠・サーカディアン循環器医学講座  内科学講座 循環器内科学部門 准教授

■ 所属学会日本循環器学会、日本内科学会、日本高血圧学会、日本心臓リハビリテーション学会

21

 血圧は常に変動する。心拍 1 拍ごとに変動するが、その変動も 1 拍ごとの変動から、1 日、あるいは週、月単位の変動、または、なんらかの負荷に伴う変動と様々である。すべての高血圧ガイドラインや大部分の臨床研究は診察室血圧、それも平均の血圧レベルに基づいたものである。家庭血圧や 24 時間自由行動下血圧計(ABPM) が普及するにつれ、白衣高血圧や仮面高血圧といった診察室血圧と診察室外血圧との乖離がみられることがわかり、さらには診察室外血圧の方が、診察室血圧よりも臓器障害との関連がみられ、心血管イベントの予後予測能に優れることがわかった。そして、ABPM が行われることによって、診察室血圧で決してわからなかったもう一つのことが、血圧日内変動である。以後、この ABPM で評価される血圧日内変動を来す原因、患者背景あるいは、臓器障害や心血管イベントとの関連が数多く報告された。ABPM でとらえられる血圧変動性については、日中よりも夜間、あるいは就寝中から早朝にかけて血圧が上昇するモーニングサージが心血管イベントのリスクであるとされている。ABPM より遅れ家庭血圧が、本邦をはじめ、高血圧診療の中心の役割をするようになり、家庭血圧も短期間に複数回の血圧値の情報が得られることから、家庭血圧による日間変動といった血圧変動性と臓器障害や心血管イベントに関しても多数の報告がみられるようになった。最近では、外来血圧を用いた血圧変動性がより重要であるという報告もされるようになってきた。その一方で、上記に述べてきたような血圧変動性が心血管リスクにはならないという報告も散見されており、本領域はいまだ混沌とし、議論の余地が多いところでもある。本セッションでは、血圧変動性について、臨床面、研究面から総括できればと考えている。

MEMO

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《フィーチャリングセッション 2》

血圧変動と臓器障害(血管障害)

【座長】鈴木 洋通 埼玉医科大学内科学腎臓内科

    苅尾 七臣 自治医科大学循環器内科

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フィーチャリングセッション

心血管疾患の最大のリスク因子は高血圧である。その関連は血圧平均値の上昇だけでは説明できない。血圧変動性の増大が重要である。これまで高血圧は、糖尿病、脂質代謝異常など動脈硬化を進展させる重要な心血管リスク因子の1つとしてとらえられ、高血圧の診断は安静時に複数回測定した血圧の平均によりなされてきた。しかし、血圧は絶えず一心拍毎に変動し、どれといって同じ値はない物理学的なリスク因子である。血圧変動性には、循環生理で規定される一心拍毎の変動性や、精神心理状態や身体活動、体位などによる修飾を受けたサーカディアンリズム、日によって異なる日間変動、さらに気温など環境因子の影響を強く受ける季節変動などのより長期の変動や加齢に関連した経年的変化など、実に様々な変動がある。この血圧変動と心血管疾患との関連を考える上で、血圧変動リスクを他の心血管リスク因子と切り分けるsystemic hemodynamic atherothrombotic syndrome (SHATS)という病態概念を提示したい。血圧変動の増大には、内皮細胞障害、細動脈リモデリング、大血管スティフネスの亢進などの血管障害が関与する。また、中心血圧ならびに局所血管・臓器にかかる血圧・血流の変動性の増大自体が、大血管・小血管障害を進展させる悪循環を形成し、異なる部位の多血管疾患(polyvascular disease)と臓器障害を相乗的に加速するという病態概念がSHATSである(Kario. Nat Rev Nephrol 2013; 9: 726-738)。つまり、SHATSは早期からの高血圧発症リスクから、後の脳・心血管・腎臓イベントの発症に至る一連の連鎖を加速する。SHATSの血圧関連3指標は、血圧変動、中心血圧、さらに圧受容体感受性である。SHATSの詳細な評価と管理には、情報技術(IT)を用いた血圧管理システムが不可欠である。睡眠時無呼吸症候群では、夜間高血圧に加えて、著明な夜間血圧サージがみられる。我々は、睡眠時無呼吸発作による低酸素が引き起こす夜間血圧サージをとらえる夜間家庭血圧モニタリングの開発を進めている。本シンポジウムでは、夜間高血圧を中心に自治医科大学高血圧研究の一端を紹介し、SHATSの概念を議論したい。

○苅尾 七臣自治医科大学循環器内科

心血管リスクを加速するSHATS-夜間高血圧を中心に

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Time (hours)

100

120

140

160

180

200

220

19 20 21 22 23 24 1 2 3 4 5 6

Systolic BP (mmHg) SpO2 (%)

7

1 h

Hypoxia- peak SBP

Mean SBP

Systolic BP

Basal SBP

Sleep SBP surge

100

20

60

40

80

0

Severe hypoxia

SpO2

Kario, Kuwabara, Hoshide, Nagai, Shimpo. J Clin Hypertens 2014, in press.

Definition of Sleep BP Parameters

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フィーチャリングセッション

2010年のRothwellらの報告により来院毎血圧変動(受診間変動)が心血管イベントのリスクとなること、特にカルシウム拮抗薬が来院毎血圧変動を抑制することが出来ることなどが報告されて、来院毎血圧変動に大変注目が集まっている。彼らは来院毎の診察室血圧の標準偏差が脳卒中や心血管疾患の大きなリスクとなることを脳卒中のハイリスク集団を対象とした疫学調査で明らかにした。さらにASCOT-BPLAと呼ばれるCa拮抗薬(CCB)アムロジピンおよびβ遮断薬アテノロールをそれぞれベース降圧薬として用いた大規模臨床試験ではCCB群が22%脳卒中を抑制したことが報告されたが、このサブ解析として来院毎血圧変動がCCB群で有意に抑制されており、脳卒中抑制に大きな意味を持っていることが報告された。さらに彼らはメタ解析を用いてCCBが最も有意に来院毎血圧変動を抑制し、交感神経抑制作用のあるRA系阻害薬やβ遮断薬は抑制できないことを報告した。来院毎血圧変動に関する数多くの報告がなされたものの、動物実験などでこの現象を忠実に再現することが出来ないことから、来院毎血圧変動の発生機序や心血管イベント抑制のメカニズムなどに不明な点が多いのも事実である。我々は大阪大学医学部附属病院通院中の高血圧患者を対象としたコホート研究であるNOAH研究(Non-invasive Atherosclerotic Evaluation in Hypertension)を行っている。この対象で受診間血圧変動を解析し得た患者群で解析を行った。これによると頸動脈エコーによる動脈硬化や腎区域動脈の血管抵抗など、比較的細い動脈の動脈硬化が受診間血圧変動と非常に高い関連性が認められた。まだまだ詰めた研究が必要ではあるが、受診間血圧変動性は抵抗血管レベルの動脈硬化の指標である可能性が考えられた。このセッションでは我々の知見も含めて最新のデータを紹介したい。

○大石 充鹿児島大学大学院 心臓血管・高血圧内科学

高血圧患者における臓器障害リスクとしての血圧変動性

F-5

26

フィーチャリングセッション

糖尿病患者において糖尿病合併症の発症・進展を防ぐためには血糖管理のみならず血圧管理も非常に重要である。近年、平均血圧のみならず血圧変動と心血管合併症との関連について報告されているが、糖尿病患者における血圧変動と臓器障害との関係を評価した研究は少ない。本研究会では、血圧変動(外来・家庭血圧)と臓器障害(脈脈波伝播速度 (PWV)、尿中アルブミン排泄量(UAE))との関連につき報告する。外来血圧はHEM-906 (OMRON)、家庭血圧はHEM-70801C (OMRON)、PWVはColin Waveform Analyzer(form PWV/ABI)にて測定。血圧変動は、変動係数(coefficient of variation:CV)で評価。外来血圧変動は診察毎 (visit-to-visit) の血圧変動、家庭血圧変動は14日間、朝と就寝前、各3回測定し各平均値の日差変動 (day-by-day) にて評価した。外来血圧に関しては、外来患者422名(男性258名、女性164名)において(1年間の平均受診回数は7.15 ± 2.0回)平均CVは8.1 ± 4.0%。重回帰分析で、収縮期血圧変動は、PWV (ß = 0.337, P < 0.0001)、log UAE (ß = 0.149, P = 0.0072)の有意な独立規定因子であり、収縮期血圧変動は平均収縮期血圧や脂質代謝パラメーターなどとは独立して動脈硬化や糖尿病腎症と関連していることが示唆された (Atherosclerosis 220; 155-159, 2012)。さらに2型糖尿病患者354名(男性218名、女性136名)を対象とした後ろ向きコホート研究により、収縮期血圧変動が腎症の発症や進展の新たな危険因子になり得ることを報告した(1年間で1人当たりの血圧測定回数は平均7.19 ± 2.02回、血圧測定の間隔は平均1.67 ± 0.47か月、収縮期血圧のCVは平均8.0 ± 4.0%であった。フォローアップ期間は平均3.76 ± 0.71年、1年当たりのUAEの変化量は平均16.1 ± 28.7mg/g Crの増加。ベースライン時に正常アルブミン尿であった症例は218例、そのうちフォローアップ期間中に28例がアルブミン尿(UAE≧30mg/g Cr)に進展)。重回帰分析でUAEの変化量に対する独立した関連因子は、平均収縮期血圧(ß = 0.2167, P = 0.0023)と収縮期血圧変動(ß = 0.1758, P = 0.0108)であった。Cox回帰分析の結果でも収縮期血圧変動は、正常アルブミン尿症例がアルブミン尿に進展する有意な独立危険因子であり、ハザード比は1.143 (1.008 – 1.302, P = 0.0370) であった

(Diabetes Care 36; 1908-1912, 2013)。 家庭血圧に関しては、外来患者858名(男性464名、女性394名)のうち、73名が顕性腎症(UAE ≧ 300 mg/g Cr)を有していた。朝の収縮期血圧変動は顕性腎症群において、有意に高値であった (8.08 ± 3.35 vs. 7.19 ± 2.25 %, P < 0.05)。重回帰分析で収縮期血圧変動はLog UAE (ß = 0.106, P < 0.05)、顕性腎症 (OR: 1.35 (1.117 – 1.643), P < 0.05) を規定する有意な独立因子であった。2型糖尿病患者において、家庭血圧の血圧変動が顕性腎症に対し、既知の危険因子に独立して関連があることが示された(Hypertens Res 34; 1271-1275, 2011)。さらに、1114名(男性608名、女性506名)の2型糖尿病患者の家庭血圧における血圧変動に影響を与えた因子を調査したところ、年齢 (ß = 0.149, P < 0.001)、性別 (ß = -0.125, P = 0.010)、糖尿病罹病歴 (ß = 0.103, P = 0.005)に加え、心拍数 (ß = 0.136, P < 0.001)、喫煙 (ß = 0.118, P = 0.005)、白衣高血圧(ß = 0.136, P = 0.002)、CCB使用の有無 (ß = -0.094, P = 0.024)であった (J Hum Hypertens in press)。今後の課題は、外来・家庭血圧の変動がどの程度であれば、心血管イベントや糖尿病腎症に至るリスクとなるのかを明らかにし、臨床の指標とすることである。その上で、外来・家庭血圧の変動を直接あるいは間接的に抑制することにより臓器障害を予防する方法を模索したいと考えている。

○福井 道明京都府立医科大学内分泌代謝内科

2型糖尿病患者において血圧変動は臓器障害のリスクになる

F-6

27

フィーチャリングセッション

 慢性腎臓病(CKD)における血圧管理に関しては、日本腎臓学会から2013年10月に『(エビデンスに基づく)CKD診療ガイドライン 2013』が刊行され、2014年4月には日本高血圧学会による『高血圧治療ガイドライン 2014(JSH2014)』が発表された。CKDでの血圧管理の意義はCKD進行の抑制、および心血管病(CVD)合併の予防である。最近のエビデンスからは、CKD合併高血圧などの高リスク高血圧に対する血圧管理においては、厳格な降圧一辺倒ではなく、病態に応じて降圧の質の改善を念頭においた “適切な降圧療法” をおこなうことが、CKD進行・CVD合併に対する効率的な抑制戦略のために重要ではないかと考えられる。このためCKD診療ガイドライン 2013、JSH2014においては、降圧目標および降圧薬選択における病態に応じた個別化を図っていることが特徴のひとつである。また、日本高血圧学会と日本腎臓学会との間で入念なエビデンスの検証と検討が行われた結果、CKD診療ガイドライン 2013、JSH2014との間ではCKDにおける血圧管理に関して推奨内容の整合性が重要視されたことも特筆すべきである。 そして、CKD合併高血圧などの高リスク高血圧治療においては、診察室血圧の降圧のみならず診察室外血圧 (家庭血圧、ABPM)の改善、すなわち夜間血圧や血圧変動性などの血圧日内変動関連指標の改善をもたらす降圧療法の重要性が指摘されている。それを受けて、CKD診療ガイド 2012、CKD診療ガイドライン 2013、JSH2014においても、血圧管理に関して、診察室血圧のみならず血圧日内変動関連指標の改善を考慮した降圧療法を推奨している。今後、CKD合併高血圧などの高リスク高血圧においては、従来の診察室血圧を指標にした降圧療法以上に、診察室外血圧測定(家庭血圧、ABPM)による血圧値・血圧変動指標をガイドにした降圧療法の重要性が増していくと考えられる。さらに、血圧日内変動の評価に加えて、季節性血圧変動にも留意した血圧管理を行うことも重要である。血圧の季節による変動にも注意し、夏季の過剰降圧、冬季の降圧不良がないように、降圧薬の調整を行うことも必要であるが、この際にも診察室外血圧測定(家庭血圧、ABPM)が有用である。

○田村 功一横浜市立大学医学部循環器・腎臓内科学

慢性腎臓病(CKD)での血圧管理において求められる降圧の質の改善とは?

F-7

MEMO

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《特別講演》【座長】山科 章東京医科大学 循環器内科

Arterial ageing assessed by pulse wave velocity【講師】Charalambos Vlachopoulos

Associate Professor of CardiologyAthens Medical School

Chairman, WG Peripheral Circulation, European Society of CardiologyPresident-Elect, ARTERY

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特別講演

Arterial ageing assessed by pulse wave velocity

【講師】Charalambos Vlachopoulos

Associate Professor of CardiologyAthens Medical School

Chairman, WG Peripheral Circulation, European Society of CardiologyPresident-Elect, ARTERY

Professor Charalambos Vlachopoulos 1st Department of CardiologyUniversity of Athens Medical SchoolProfiti Elia 24Athens 14575GreeceE-mail: [email protected]

Charalambos Vlachopoulos is an Associate Professor of Cardiology at the 1st Department of Cardiology, Hippokration Hospital, University of Athens Medical School with clinical interests in hypertension and interventional cardiology.

Professor Vlachopoulos is currently President of the European Society of Cardiology Working Group "Peripheral Circulation” and Vice-President of the Artery Society.

He researches arterial function and structure with special interests on the predictive role of arterial stiffness and central pressures for cardiovascular events, on the effect of lifestyle and inflammation on arterial function, and on the relation between arterial function and sexual dysfunction. His research interests extend to pathophysiology of hypertension, novel vascular coronary stents and the identification vulnerable plaque.

Professor Vlachopoulos has published more than 180 peer-review articles and has been cited in over 7000 referenced publications in international peer-reviewed journals and medical textbooks of leading international publishers. His H-index is 40. Together with Wilmer Nichols and Michael O’Rourke he has authored the 6th Edition of “McDonald’ s Blood Flow in Arteries” .

He is a member of the Board of Artery Research, Hypertension, and Hellenic Journal of Cardiology and a Reviewer for numerous Medical Journals.

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 Vascular changes begin early in life as a silent, asymptomatic disease process, they are associated with cardiovascular risk factors and they can define prognosis of cardiovascular disease. Vascular biomarkers have a unique advantage: they reflect the vascular age of the individual. According to this concept, a vascular biomarker serves as a cumulative measure of the impact of known or unknown cardiovascular risk factors on the arterial wall (that may fluctuate at the time of measurement and thus may not reveal their true effect on the arterial wall). In addition, a vascular biomarker integrates the impact of the individual genetic background and thus, it has the potential to accurately gauge a person’ s overall cardiovascular risk. A surrogate endpoint is a biomarker that is intended to substitute for a clinical endpoint. Changes in surrogate endpoints are detected earlier and at a lower cost than clinical endpoints (morbidity and mortality). Thus, diagnosis and clinical trials are facilitated. In order to be considered as a “surrogate endpoint” of cardiovascular events, a biomarker should complete several steps. According to the American Heart Association, the six phases of evaluation of a novel risk marker include: 1. Proof of concept, 2. Prospective validation, 3. Incremental value, 4. Clinical utility, 5. Clinical outcomes and 6. Cost-effectiveness. Arterial stiffness indices are the best candidates for reflecting the vascular age of an individual. Arterial stiffening results primarily from arteriosclerosis (principally a disease of the media, where the determinants of the elastic properties reside, related to normal or accelerated aging) rather than from atherosclerosis (principally a disease of the intima affecting the vessel in a patchy and not uniform manner). Because waves travel faster in a rigid tube, loss of compliance results in increased velocity of pulse waves; in other words, a high pulse wave velocity is a hallmark of arteriosclerosis. Carotid-femoral pulse wave velocity (cfPWV), i.e. the velocity of the pulse as it travels from the heart to the carotid and the femoral artery, is the most commonly used non-invasive method and is considered as the “gold standard” . Brachial-ankle PWV (baPWV) is a method for assessing arterial stiffness that shares the same theoretical background with cfPWV, but capitalizes on the concept that measurements over a longer arterial length may provide additional information. Furthermore, it is easier, as it only involves wrapping of a pressure cuff in the extremities. cfPWV meets most of the criteria to qualify as a surrogate endpoint for cardiovascular disease. At present, the European guidelines (European Society of Cardiology – European Society of Hypertension) for individuals at intermediate risk acknowledge the added value of cfPWV for the stratification of patients. Moreover, cfPWV should be considered for hypertensive patients (class IIa/level of evidence B), and it can add predictive value to the usual risk estimate of diabetics. baPWV currently meets some of the criteria in order to be considered a clinical surrogate endpoint; as data are accumulating it shows significant potential to be included in the recommendations for management of individuals at intermediate risk.

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《特別報告》【座長】高沢 謙二

東京医科大学八王子医療センター 循環器内科

ABC-J 研究報告島田 和幸新小山市民病院

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ABC-J 研究報告島田 和幸新小山市民病院

 中心血圧は上腕血圧より心血管イベントや臓器障害との関連がより強いという報告がなされている。ASCOT-CAFE Study1やStrong Heart Study2などで中心血圧と予後の関係が調べられ、中心血圧の予後予測能が優れていることが示された。またアジア(台湾)からも一般住民データの予後解析に基づいて、中心血圧カットオフ値が提案された3。しかしながら、中心血圧が臨床で十分に活用されるためには、上腕血圧に中心血圧を追加することにより、患者により適した個別の治療がどのように可能になるかが今後の重要な課題になると思われる。 日本においても大規模な中心血圧データベースが構築されており、その一つとして治療中高血圧患者を対象としたABC-J研究(Anti-hypertensives and Blood pressure of Central artery study in Japan)がある。多くの医師の助力によって、ベースラインデータを約4000まで登録し、フォローアップデータが集められ、2014年3月でデータ収集を終了した。ベースラインデータでは、中心血圧の他に投薬情報・主要な臨床検査結果が集められ、薬効や臓器障害との関連を研究するためのデータが揃った。ベースラインデータの一部を使って、降圧薬のなかで血管拡張薬が非拡張薬よりも中心血圧に対する降圧効果がより大きいことが、SBP2(中心血圧)-SBP(上腕血圧)という指標を用いて示され、上腕血圧とは独立した指標として薬効評価に使える可能性があることが示唆された4。また、中心血圧を用いてどのような病態や心血管リスクを新たに抽出していけるかという課題に関してもABC-J研究から結果が報告された。上腕血圧と中心血圧を2軸とした4象限で患者を分類して心負荷を比べると、中心血圧高値かつ上腕血圧正常値のグループは、中心血圧正常値かつ上腕高値(および正常値)のグループに比べてBNPが高くなっており、中心血圧と心負荷がより強く関連することが示された5。フォローアップデータについては脳血管・心・腎イベント約400例が集まっており、今後予後に関する解析が待たれる。 本講演では、中心血圧の臨床への応用という視点で、ABC-J研究について総括的に報告する予定である。

文献1.Williams B et al, Circulation 2006; 7;113(9):1213-25.2.Roman et al: Hypertension 2007; 50(1):197-203.3.Cheng HM et al. J Am Coll Cardiol. 2013; 62(19): 1780-7.4.Miyashita et al. Am J Hypertens. 2010: 23: 260-268.5.Eguchi K et al. 2014年3月日本循環器学会 口頭発表 OE-167.

MEMO

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口頭演題

副甲状腺ホルモンは骨代謝において重要な役割を担っているが、副甲状腺機能の過度な上昇は動脈硬化の原因となることが指摘されている。今回は副甲状腺機能と動脈stiffnessおよび血清NT-proBNP値との関係について検討した。

■ 方 法

対象は、2012年9月から2013年4月にかけて、検診目的にて当院を受診した心血管疾患の既往のない174症例(男性84例、平均68歳)。全症例においてintact PTH (IPTH) を測定し、IPTHの値により症例を3分位に分類した。臨床的特徴を3群間で比較した。IPTHと心不全・虚血性心疾患など心血管疾患発症の関係についても検討した。

■ 結 果

平均IPTHは50+/-24pg/mlで、143症例 (82%) が正常範囲内だった (65pg/ml)。PTH高値群においては、女性の割合が高く、年齢が高かった。冠危険因子において、高血圧の頻度も高かったが、糖尿病および脂質異常症の割合は同等であった。血液検査においては、腎機能の指標(Cr, EGFR, Cys C)はいずれもPTH高値群で有意に悪かった。アルブミン尿は同等であった。PWVおよびNT-proBNPはPTHの値に伴い段階的に上昇した。単変量解析において、IPTHはPWVと相関し (r=0.283, p<0.001)、この関係は年齢、性別、高血圧、糖尿病、EGFRで補正後も有意であった (p<0.05)。IPTHはNT-proBNPとも関係し(r=0.429, p<0.0001)、この関係は年齢、性別、高血圧、糖尿病、EGFR、左室重量係数および左室駆出率で補正後も有意であった。

■ 結 語

副甲状腺機能は動脈stiffnessおよびNT-proBNP値と関係していた。

○櫻木 悟国立病院機構岩国医療センター循環器内科

副甲状腺ホルモンと動脈 stiffness およびNT-proBNPの関係について

O-1

口頭演題

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■ 目 的

中心動脈は心臓から断続的に駆出される血流の拍動性成分を緩衝し左心室後負荷を軽減する役割を持つ。したがって、中心動脈スティフネスの増大は緩衝機能を低下させ、脆弱な脳や腎臓などの末梢臓器の血管での拍動性成分の増大をもたらす。中心動脈スティフネスは持久性運動トレーニングによって低下することが知られているが、一方で、急性の伸張性筋収縮運動(eccentric exercise)により増大するという報告がある。しかし、短期間の高強度持久性トレーニングが中心動脈スティフネスに与える影響は明らかではない。本研究では、若年男子持久系アスリートにおける短期間の高強度持久性トレーニングが中心動脈スティフネスに及ぼす影響を検討した。

■ 方 法

対象は33名の大学駅伝部に所属する若年男子持久系アスリート(19±1歳)とした。測定は1週間の夏合宿の前後に行った。中心動脈スティフネスの指標として上腕-足首間動脈脈波伝播速度(baPWV)と心臓—足関節間動脈脈波伝播速度(haPWV)を測定した。また、心機能の評価として、左室駆出時間(LVET)と前駆出時間(PEP)の比であるLVET/PEPを算出した。

■ 結 果

合宿に伴うLVET/PEPの変化量で三分位に群分けしたところ、LVET/PEPの変化量の平均値はそれぞれ-0.5±0.2、0.1±0.1、0.3±0.2であった。3群とも心拍数、血圧、およびbaPWVに合宿前後での有意な変化は認められなかった。合宿後、LVET/PEPの低下が最も大きかった群ではhaPWVが有意に増大した。一方、他の2群のhaPWVには有意な変化は認められなかった。さらに、LVET/PEPの変化量とhaPWVの変化量の間には有意な負の相関関係が認められた(r=-0.51, P<0.01)。

■ 結 論

1週間の高強度持久性トレーニングによりLVET/PEPの低下が著明だったアスリートでは、中心動脈スティフネスが増大した。このことから、短期間の高強度運動トレーニングに伴う心機能と中心動脈スティフネスの変化との間には関連があると考えられる。

○東本 翼1,2)、菅原 順2)、平澤 愛3)、今井 智子1)、前田 清司1)、小河 繁彦3)

1) 筑波大学人間総合科学研究科、2) 独立行政法人産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門、3) 東洋大学理工学部

持久系アスリートにおける短期間の高強度持久性トレーニングが中心動脈伸展性に及ぼす影響

O-2

37

口頭演題

■ 目 的

中心動脈における収縮期血圧(SBP)や脈圧(PP)は、左室後負荷や冠循環と密接に関連し、末梢血圧よりも優れた心疾患発症の予測因子として注目されている。ここで重要な事は、これらの中心血圧指標は、投薬治療の効果や一過性運動中の応答に関して、末梢血圧と乖離した応答を示すという点である。有酸素性運動は、継続的な実施によって生じる降圧効果と運動後に見られる一過性の血圧低下(post-exercise hypotension)の両者によって、良好な血圧コントロールを実現し得るとされる。ただし、ここで言う「血圧」とは上腕などの末梢動脈で測定された血圧であり、中心血圧に対する有酸素性運動に対する急性および慢性の影響については十分明らかにされていない。本研究では、中心動脈波が左室からの駆出波に末梢から心臓へと戻ってくる反射波が重畳された「合成波」であることを踏まえ、運動後の「大動脈脈波伝播速度(PWV)の低下」、ならびに「下肢血管拡張による反射波の低減」によって、中心動脈圧が減弱される、という仮説を設定し、検証を行った。

■ 方 法

若年健常男性23名に、年齢予測最高心拍数の75%相当の負荷の自転車エルゴメータ運動を60分間施行してもらい、運動前および終了20分後に、末梢および中心血圧、心拍数、一回拍出量、大動脈動脈脈波伝播速度(PWV)を測定した。また、運動終了90分後に下肢虚血運動を2分間実施させ、運動後の駆血開放に伴う充血応答を静脈閉塞プレチスモグラフィ法にて測定し、下肢最大血管拡張能を評価した。

■ 結 果

末梢および中心動脈SBPに運動後の有意な変化は認められなかった。また、末梢平均動脈圧(MAP)および一回拍出量(SV)も有意な変化を生じなかったが、中心動脈における反射波圧(reflection wave amplitude: RWA)とPPは有意に減弱した(それぞれ-8.8%、-10.0%)。さらに、大動脈PWVも運動後有意に低下し、その変化量は運動に伴う中心動脈PPの変化量と有意に相関した(r=0.541, P<0.05)。一方、下肢最大血管拡張能は運動に伴う中心動脈PPの変化と有意な相関関係を示さなかった。

■ 結 論

中等強度の有酸素性運動が、中心動脈PPを一過性に減弱させることが明らかとなった。この機序として、大動脈PWVの低下による反射波の中心への戻りの遅れが、「駆出波に対する反射波の重畳」を抑え、中心動脈PPを低下させた可能性が示唆された。

○菅原 順1)、小峰 秀彦1)、宮澤 太機1,2)、今井 智子3)、小河 繁彦2)

1) 独立行政法人産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門、2) 東洋大学理工学部、3) 筑波大学人間総合科学研究科

中心動脈圧に対する中等強度の有酸素性運動の急性効果とその機序

O-3

口頭演題

38

■ 背 景

動脈スティフネスの増大は、心血管疾患の独立した危険因子である。一方、温熱療法には、動脈機能を改善させる効果がある。特に、近年では、脱衣の必要がなく、簡便に実施できる足湯が注目されている。最近、足湯には全身の動脈スティフネス(cardio-ankle vascular index : CAVI)を低下させる効果があることが報告された。しかし、この足湯の効果が大動脈スティフネスおよび下肢動脈スティフネスの両者に有効であるかは明らかでない。本研究では、若年男性における足湯が大動脈スティフネスと下肢動脈スティフネスに及ぼす影響を検討した。

■ 方 法

対象は健康な若年男性8名(21±1歳)とした。座位安静(コントロール)および水温43℃での足湯をそれぞれ30分間実施し、その前、終了30分後、終了60分後に、上腕血圧、心拍数、および動脈スティフネスの指標として頸動脈-大腿動脈間脈波伝播速度(cfPWV)および大腿動脈-足首動脈間脈波伝播速度(faPWV)を測定した。

■ 結 果

若年男性における30分間の足湯は、上腕血圧、心拍数、および大動脈スティフネスの指標であるcfPWVを変化させなかった。下肢動脈スティフネスの指標であるfaPWVは、足湯30分後に有意に低下し(P < 0.05)、60分後にはベースラインに戻った。なお、コントロール条件では、上腕血圧、心拍数、cfPWV、およびfaPWVの変化はいずれも認められなかった。

■ 結 論

若年男性における30分間の足湯により、大動脈スティフネスは変化しなかったが、下肢動脈スティフネスは低下することが示された。このことから、30分間の足湯の効果は、下肢動脈における局所的な効果である可能性が高いことが示唆された。

○小崎 恵生1)、赤澤 暢彦1)、及川 哲志1)、棚橋 嵩一郎1)、熊谷 仁1)、菅原 順2)、鰺坂 隆一1 3)、  前田 清司1)

1) 筑波大学、2) 産業技術総合研究所、3) 厚生労働省

若年男性における足湯が動脈スティフネスに及ぼす影響:大動脈スティフネスと下肢動脈スティフネスの検討

O-4

39

口頭演題

■ 背景・目的

長時間作用型N型Caチャネル遮断薬であるシルニジピンは、脈拍数には変動を与えず、尿中微量アルブミン排出抑制に関しては優位性が示され、心・腎臓器保護効果の可能性が示唆されているが、長期的な血管保護作用については不明である。そこで、福岡大学筑紫病院(以下、当院)に外来通院中の本態性高血圧(EHT)患者を対象として、シルニジピンの降圧効果、脈拍の変化、腎機能、尿中微量アルブミンの変化およびbaPWVについて調査した。

■ 方 法

対象は2009年1月から2012年6月まで、当院外来通院中のEHT患者でシルニジピンを投与された26例(すでに降圧治療を開始している患者を含む)。内訳は、追加群13例(50%)、切替群10例(38%)、新規群3例(50%)。観察期間は、シルニジピンの投与が開始されてから主に1年間のデータをカルテより後ろ向きに調査。ただし観察期間中にRAS系阻害薬の用量・種類の変更があった患者は対象から除外した。投薬開始前、開始から6 ヶ月、12 ヶ月の3時点について評価した後ろ向きコホート研究である。なお、baPWVのみは開始から12 ヶ月、平均24ヶ月の3時点について評価した。

■ 結 果

患者背景は、男性13人、平均年齢67歳であり、併存疾患として、脂質代謝異常を58%、心疾患を35%、糖尿病を31%、脳疾患を8%に認めた。開始時収縮期血圧(SBP)は144±23mmHg、拡張期血圧(DBP)は79±15、心拍数(HR)は75±13/min、Crは0.88±0.28mg/dl、尿中微量アルブミンは69±159mg/gCr、baPWVは右1824±355cm/s、左1967±634cm/sであり、12 ヶ月後の変化量はSBPが-11±24mmHg(ns)、DBPが-5±16(p<0.05)、HRが-2±10/min(ns)、Crが0.05±0.15mg/dl(ns)、尿中微量アルブ ミ ン が-53±159mg/gCr(p<0.05)、baPWVが 右-96±243cm/s(p<0.01)、 左-184±657cm/s (ns)であった。次に、切替群ではそれまでのシルニジピン以外のCCBの影響を受けてしまう可能性もあるため、新規群と追加群のみの16例で評価では、男性4人、平均年齢66歳であり、脂質代謝異常を44%、心疾患を31%、糖尿病を19%、脳疾患を6%に認めた。開始時SBPは156±19mmHg、DBPは84±16、HRは74±11/min、Crは0.83±0.3mg/dl、尿中微量アルブミンは17±16mg/gCr、baPWVは右1971±361cm/s、左1998±391cm/sで あ り、12 ヶ 月 後 の 変 化 量 はSBPが-20±16mmHg(p<0.05)、DBPが-9±16(p<0.05)、HRが-2±10/min(ns)、Crが0.04±0.15mg/dl(ns)、尿中微量アルブミンが-6±12mg/gCr(ns)、baPWVが右-175±163cm/s(p<0.01)、左-116±162cm/s (ns)であった。

■ 結 語

シルニジピンは有効な降圧降下を示し、それに伴う腎機能低下は確認されたが、それ以上の尿中アルブミンの排出抑制を認めた。さらに動脈硬化の進展抑制の可能性も示したことから、心・腎・血管保護作用があることが示唆された。

○東條 秀明、松尾 邦浩、浦田 秀則福岡大学筑紫病院 循環器内科

本態性高血圧患者に対するシルニジピンの 心・腎・血管保護効果

O-5

口頭演題

40

■ 目 的

閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea: OSA)を有する患者においては心血管病変の有病率が高く、動脈硬化性病変が進行していることが知られている。重症のOSA患者においてはarterial stiffnessの指標であるbaPWVが軽症~中等症のOSA患者に比し高値であることが報告されている。これらの研究においてはOSAの判定のもととなる無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index: AHI)の計測は睡眠ポリグラフ検査によって行われている。近年の臨床の場において、簡易無呼吸検査による呼吸障害指数(Respiratory Disturbance Index: RDI)がOSAの評価に多く用いられるようになっている。今回、AHIとRDIそれぞれとbaPWVの関係を評価した。

■ 方 法

睡眠ポリグラフ検査(脳波、がん電図、頤筋筋電図、心電図、気流、呼吸努力、酸素飽和度を測定)と、簡易無呼吸検査(気流、いびき音、脈拍、酸素飽和度を計測)を、日中の眠気の自覚やいびき・無呼吸の指摘を受けたことがある22人(男/女: 17/5)に施行した。睡眠ポリグラフ検査では脳波の判定から睡眠時間を計測し、簡易無呼吸検査では自己申告の睡眠時間を用いた。5≦AHI<30を軽症~中等症OSA、AHI≧30を重症OSA、5≦RDI<30を軽症~中等症OSA(簡易)、AHI≧30を重症OSA(簡易)と群分けした。左右の平均baPWVを各検査法の軽症~中等症群と重症群で比較した。

■ 結 果

軽症~中等症OSAに比し重症OSAの平均baPWVは有意に高値(p<0.05)であったが、軽症~中等症OSA(簡易)と重症OSA(簡易)の間に有意差はなかった。

■ 結 論

睡眠ポリグラフで評価された重症OSA患者のbaPWVは軽症~中等症と評価されたOSA患者より高値であったが、簡易無呼吸検査でのOSAの評価とbaPWVは有意な相関を認めなかった。簡易無呼吸検査にてRDI低値と測定された患者の中にAHI高値の患者が含まれていることから、RDI低値であってもbaPWVが高値の場合は睡眠ポリグラフを施行して正確なAHIを測定する必要があるのではないかと考えられた。

○伊東 範尚、武田 昌生、小黒 亮輔、前川 佳敬、鷹見 洋一、竹屋 泰、山本 浩一、杉本 研、 樂木 宏実大阪大学大学院 老年・腎臓内科学

閉塞性睡眠時無呼吸患者の無呼吸低呼吸評価法とbaPWVの関係

O-6

41

口頭演題

■ 目 的

レニンアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は本態性高血圧に対する降圧において第一選択薬として広く使用されている。しかし、降圧薬単剤での降圧目標達成は困難なことが多い。一方、近年上腕血圧よりも中心血圧が予後により関連するという報告がされている。本研究では、ARBに直接的レニン阻害薬であるアリスキレンもしくは利尿剤を追加併用した際の中心血圧およびAIの変化について検討した。

■ 方 法

本研究は前向き、オープンラベルの多施設共同研究である。対象は、バルサルタン80mg/日の降圧治療にも関わらず外来血圧が140/90mmHg以上の本態性高血圧患者。2012年6月から2013年3月までに15施設から103人が登録された(平均年齢68歳、男性43%、アリスキレン群52人、利尿剤群51人)。アリスキレン(150mg-300mg)もしくはトリクロルメチアジド(1-2mg)を追加して6 ヶ月間加療し、augmentation index (AI)ならびに中心血圧の変化を橈骨動脈トノメトリー(HEM9000AI, Omron)にて記録した。主要評価項目はAIならびに中心血圧の変化、副次評価項目は、尿中微量アルブミンならびに酸化ストレスマーカーである尿中8-OHdGの変化とした。

■ 結 果

上腕血圧は両群において6か月後に有意に低下し、その変化は同等であった。主要評価項目であるAIの変化はアリスキレン群で-5.6±13.7%(追加前後でのAIの比較ではp<0.01)、利尿剤群で-3.1±11.3%(追加前後でのAIの比較ではp=0.06)であったが、2群間の変化値に有意な差は認められなかった(p=0.34)。中心血圧は両群において6か月後に有意に低下(追加前後での中心血圧の比較ではp<0.01)し、その変化値はアリスキレン群で-17.2±26.3mmHg、利尿剤群で-15.3±25.8mmHgであったが、2群間の変化値に有意な差は認められなかった(p=0.72)。しかし、副次評価項目である尿中微量アルブミンならびに尿中8-OHdGはアリスキレン群で利尿剤群に比較して有意に低下した。

■ 結 語

ARBへのアリスキレンの追加は、利尿剤の追加と比較してAIならびに中心血圧の低下について優位性を示すことはできなかった。

○三好 亨1)、上杉 忠久2)、櫻木 悟3)、岡 岳文4)、土井 正行5)、難波 靖治6)、村上 充7)、伊藤 浩1)

1) 岡山大学 循環器内科、2) 住友別子病院、3) 岩国医療センター、4) 津山中央病院、5) 香川県立中央病院、6) 岡山労災病院、7 岡山ハートクリニック

アンジオテンシン受容体拮抗薬への直接的レニン阻害薬もしくは利尿薬の追加投与による augmentation index ならびに中心血圧の変化

O-7

口頭演題

42

■ 目 的

足浴は身体を温め、全身の血行を改善するといわれている。しかしながら、血行改善効果は主観的要素が強く、客観的な評価はほとんどなされていない。本研究では、非侵襲的に計測した橈骨動脈の圧脈波から算出したaugmentation index (AI)を指標として、温泉水を用いた足浴による血行改善効果について検討した。

■ 方 法

インフォームド・コンセントが得られた20 ~ 25歳の女性27名を対象とした。室温約19℃、湿度約43%の室内でゆったり椅子に腰掛けた状態で、約41℃の温泉水(名目津温泉、福島県二本松市)で両脚を踝より上15cm程度まで15分間浸した。左橈骨動脈圧脈波はトノメトリー法により、右上腕動脈血圧はオシロメトリック法によりHEM-9000AI(オムロンコーリン(株))を用いて足浴前、足浴終了直後、足浴終了15分後の3回計測した。皮膚温(手首、膝、頸部)はサーミスターおよび非接触型体温計を用いて測定した。

■ 結 果

収縮期血圧は足浴終了直後(p<0.001)および終了15分後(p<0.001)において、足浴前より有意な低下を示した。拡張期血圧は足浴直後においてのみ有意な低下を示した(p<0.01)。AIは足浴直後(p<0.01)に有意に低下し、15分後(p<0.05)においても有意に低い値を示した。また、心拍数75回/分で補正したAIの値についても同様に、足浴直後(p<0.001)および15分後(p<0.01)ともに有意に低下した。頸部皮膚温は足浴直後(p<0.05)および15分後(p<0.05)には僅かに上昇したが、手首および膝部の皮膚温は、足浴直後および15分後には開始前と比較してごく僅かではあるが低下していた。

■ 結 論

温泉水を用いた足浴は末梢循環の改善に有効であるといえる。

○勝田 新一郎1)、谷 茉莉菜2)、長嶋 千織2)、横田 季2)、佐藤 順紀3)、森川 奈美3)、挾間 章博1)

1) 福島県立医科大学医学部細胞統合生理学講座、2) 福島県立医科大学医学部6年次学生、3) 福島県立医科大学医学部5年次学生

圧脈波の augmentation index を指標とした温泉水による足浴の血行改善効果

O-8

43

口頭演題

■ 背 景

橈骨動脈のaugmentation index (以下radial AI)は大動脈反射波のマーカーであるが、糖尿病患者では動脈硬化性変化が進んでいるにも関わらず非糖尿病患者よりも低いという報告が多い。

■ 目 的

DM患者では、なぜradial AIが非DM患者より低いかということを検討した。

■ 方 法

少なくとも1つの危険因子を有する患者を対象としたJ-HOP研究の参加者のうち、トノメトリー検査を行った1788名の患者で解析した。インスリン抵抗性の指標としてHOMA指数を用いた。Radial AI は [late systolic shoulder pressure amplitude (PP2)]/[radial pulse pressure (rPP)]と定義した。 中心動脈SBPはlate systolic shoulder pressure (SBP2)、中心動脈PP (cPP) は 橈骨動脈波形のamplitude (PP2)から定義した。PP amplification はrPP/cPPと定義した。

■ 結 果

対象者の平均年齢は 65.7±11.6 歳; 男性47.4%、糖尿病436名 (25.9%)、高血圧87.7%であった。年齢と平均上腕血圧(141 vs. 141mmHg)はDM群とnon-DM群で同等であった。Radial AIはDM群で低かったが、外来PPや中心PPはDM群で高かった (図)。年齢、性別、BMI、外来血圧、血管拡張薬、β遮断薬、空腹時インスリン値で補正した多変量解析では、radial AIの有意な関連因子はDM群ではeGFR (beta=0.17, P<0.001)で、非DM群ではLogHOMA-R (beta=-0.15, P<0.001)であった。同様な傾向はHR75で補正したradial AI、中心SBP、中心PPでもそれぞれ認められた。eGFR とradial AIの関係は非DM群では負の相関関係 (r=-0.06; P=0.03)であったが、DM群では正の相関関係であった (r=0.13; P=0.006)。

■ 結 論

DMにおける低いradial AIは非DMに比べて高い中心脈圧が原因と思われた。これは、導管の近位部優位の動脈硬化性変化によるもので、全身の反射部位における反射成分が低下していることが原因と思われる。またDMにおいては腎機能の低 下 に 伴 い、 中 心 脈 圧 の 増 加 がaugmentation pressureの増加に打ち勝つことも原因と思われた。

○江口 和男1)、星出 聡1)、宮下 洋1)、長坂 昌一郎2)、苅尾 七臣1)

1) 自治医科大学 内科学講座循環器内科学部門、2) 自治医科大学 内科学講座内分泌代謝学部門

なぜ糖尿病患者では橈骨動脈AI が低値となるのか -J-HOP研究の解析より-

O-9