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- 91 - 第1章 生涯学習 1 生涯学習と社会教育 (1) 生涯教育の提唱 1965 年(昭和 40 年)12 月、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の第3回成人教育推進国際委員会 において、ポール・ラングラン(フランスの教育思想家)がワーキングペーパーを提出したのが最 初です。日本では、心理学者の波多野完治氏がこの概念を日本に紹介しました。当時、生涯教育 の概念は、我が国の社会教育 ※1 に類すると解されたことから、当時の文部省では社会教育課が所 管することになり、地方教育委員会でも、しばらくの間、多くは社会教育課が所管していました。 そして、1987 年(昭和 62 年)臨時教育審議会第4次答申が「生涯学習体系への移行」を提言し てからは、生涯教育よりも生涯学習の用語が主流とされ、生涯学習は社会教育に代わる概念とし て用いられる傾向が強まりました。 社会教育 ※1 「社会教育」とは、学校教育法(昭和 22 年法律第 26 号)に基き、学校の教育課程として行 われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育 及びレクリエーションの活動を含む。)をいう。 (社会教育法第2条「社会教育の定義」 S24.6) (2) 生涯教育と生涯学習 生涯教育について 生涯教育という考え方は、生涯にわたる学習の継続を要求するだけでなく、家庭教育、学 校教育、社会教育の三者を有機的に統合することを要求しています。 (社会教育審議会答申「急激な社会構造の変化に対処する社会教育の在り方について」 S46.4) ◆ 生涯学習のために、自ら学習する意欲と能力を養い、社会の様々な教育機能を、相互の関 連性を考慮しつつ総合的に整備・充実しようとするのが生涯教育の考え方です。 (中央教育審議会答申「生涯教育について」 S56.6) 生涯学習について ◆ 学習は、各人が自発的意思に基づいて行うことを基本とするものであり、必要に応じ、自 己に適した手段・方法は、これらを自ら選んで、生涯を通じて行うものです。この意味では、 これを生涯学習と呼ぶのがふさわしいのです。 (中央教育審議会答申「生涯教育について」 S56.6) ◆ 「生涯学習」は、生涯教育を学習者の視点から捉え直した考え方・理念であると言われる ことがありますが、これについては、昭和56年の中央教育審議会答申(「生涯教育について」) でも明らかにされているように、「生涯学習」が生涯にわたって行われる「具体的な学習活 動」を指すものであるのに対し、「生涯教育」が「考え方・理念」を表すものであるので、 同質の対照的な概念として両者を捉えることは適切ではありません。生涯教育という「考え 方・理念」に対応する概念としては、改正教育基本法第3条に新たに規定された「生涯学習 の理念」 ※2 が適切です。 (中央教育審議会答申「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について ~知の循環型社会の構築を目指して~」 H20.2) 生涯学習の理念 ※2 国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわ たって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生 かすことのできる社会の実現が図られなければならない。 (教育基本法第3条「生涯学習の理念」 H18.12)

第1章 生涯学習...- 91 - 第1章 生涯学習 1 生涯学習と社会教育 (1) 生涯教育の提唱 1965年(昭和40年)12月、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の第3回成人教育推進国委員会

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第1章 生涯学習

1 生涯学習と社会教育

(1) 生涯教育の提唱

1965年(昭和 40年)12 月、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の第3回成人教育推進国際委員会

において、ポール・ラングラン(フランスの教育思想家)がワーキングペーパーを提出したのが最

初です。日本では、心理学者の波多野完治氏がこの概念を日本に紹介しました。当時、生涯教育

の概念は、我が国の社会教育※1に類すると解されたことから、当時の文部省では社会教育課が所

管することになり、地方教育委員会でも、しばらくの間、多くは社会教育課が所管していました。

そして、1987 年(昭和 62 年)臨時教育審議会第4次答申が「生涯学習体系への移行」を提言し

てからは、生涯教育よりも生涯学習の用語が主流とされ、生涯学習は社会教育に代わる概念とし

て用いられる傾向が強まりました。

社会教育※1

「社会教育」とは、学校教育法(昭和 22年法律第 26号)に基き、学校の教育課程として行

われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育

及びレクリエーションの活動を含む。)をいう。 (社会教育法第2条「社会教育の定義」 S24.6)

(2) 生涯教育と生涯学習

ア 生涯教育について

◆ 生涯教育という考え方は、生涯にわたる学習の継続を要求するだけでなく、家庭教育、学

校教育、社会教育の三者を有機的に統合することを要求しています。

(社会教育審議会答申「急激な社会構造の変化に対処する社会教育の在り方について」 S46.4)

◆ 生涯学習のために、自ら学習する意欲と能力を養い、社会の様々な教育機能を、相互の関

連性を考慮しつつ総合的に整備・充実しようとするのが生涯教育の考え方です。

(中央教育審議会答申「生涯教育について」 S56.6)

イ 生涯学習について

◆ 学習は、各人が自発的意思に基づいて行うことを基本とするものであり、必要に応じ、自

己に適した手段・方法は、これらを自ら選んで、生涯を通じて行うものです。この意味では、

これを生涯学習と呼ぶのがふさわしいのです。(中央教育審議会答申「生涯教育について」 S56.6)

◆ 「生涯学習」は、生涯教育を学習者の視点から捉え直した考え方・理念であると言われる

ことがありますが、これについては、昭和 56年の中央教育審議会答申(「生涯教育について」)

でも明らかにされているように、「生涯学習」が生涯にわたって行われる「具体的な学習活

動」を指すものであるのに対し、「生涯教育」が「考え方・理念」を表すものであるので、

同質の対照的な概念として両者を捉えることは適切ではありません。生涯教育という「考え

方・理念」に対応する概念としては、改正教育基本法第3条に新たに規定された「生涯学習

の理念」※2が適切です。

(中央教育審議会答申「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について

~知の循環型社会の構築を目指して~」 H20.2)

生涯学習の理念※2

国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわ

たって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生

かすことのできる社会の実現が図られなければならない。

(教育基本法第3条「生涯学習の理念」 H18.12)

Page 2: 第1章 生涯学習...- 91 - 第1章 生涯学習 1 生涯学習と社会教育 (1) 生涯教育の提唱 1965年(昭和40年)12月、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の第3回成人教育推進国委員会

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◆ 生涯学習は、生活の向上、職業上の能力や、自己の充実を目指し、各人が自発的意思に基づ

いて行うことを基本とするものです。

◆ 生涯学習は、必要に応じ、可能な限り自己に適した手段及び方法を自ら選びながら生涯を通

じて行うものです。

◆ 生涯学習は、学校や社会の中で意図的、組織的な学習活動として行われるだけでなく、人々

のスポーツ活動、文化活動、趣味、レクリエーション活動、ボランティア活動などの中で行わ

れるものです。 (中央教育審議会答申「生涯学習の基盤整備について」 H2.1)

生涯学習は、社会教育の他、学校教育や個人の自主学習等も含み、社会教育より広い活動を対

象とする概念です。生涯学習と学校教育・社会教育等の関係を示したものが、下図になります。

(3) 栃木県生涯学習推進計画五期計画~とちぎ輝き「あい」育みプラン~の概要

ア 基本目標 ともに学び ともに“とちぎ”の未来をひらく人づくり

イ 生涯学習推進の3つの視点

(ア) 自立につながる生涯学習

学ぶことにより、一人一人が多様な個性や能力を伸ばし、それを発揮しながら、充実した人

生を切り拓いていけるよう生涯学習を推進します。

(イ) 協働を進める生涯学習

多くの人との学び合いをとおして絆を育み、お互いが支え合いながら協働して、地域や社会

の課題に取り組んでいけるよう生涯学習を推進します。

(ウ) 愛着や誇りを育む生涯学習

“とちぎ”や身近な地域の良さや魅力を学ぶことにより、“とちぎ”

への愛着や誇りが育まれるよう生涯学習を推進します。

ウ 4つの重点施策

(ア) 生涯学習の基盤づくり

(イ) 県民の学習機会の充実

(ウ) 県民同士の交流の促進

(エ) 学んだ成果を生かす取組の推進

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2 ふれあい学習の推進

(1) ふれあい学習とは

栃木県では、子ども同士、大人同士、子どもと大人、そして幅広い年代の人々との交流活動や

体験活動、学習活動を「ふれあい学習」として推進しています。

ふれあい学習は、これらの活動を通して、学校・家庭・地域社会が連携・協力し、子どもの「生

きる力」を育成しながら、「家庭と地域の教育力の向上」を目指すための地域づくりを目的とし

た取組です。

ア 取組の推進

(ア) 公民館や関係機関等への情報提

供、活動事例等の提供を行う。

(イ) 学校、公民館、関係機関・団体、

高等教育機関、企業等と連携し、

推進体制の充実を図る。

(ウ) 地域活動実践者や活動団体、各

市町行政担当者とのネットワーク

づくりをふれあい学習ネットワー

ク※3等により支援し、地域住民に

よる主体的な地域教育活動の取組

を促す。

ふれあい学習ネットワーク※3

学校教育関係者、社会教育関係者及び地域で活動する団体・グループ等の関係者が、ふれ

あい学習の推進への共通理解を図り、実践に向けた情報交換や様々な教育課題の解決等を目

指したネットワークづくりのための会議や研修

イ 人材の育成と活動の支援

(ア)・地域連携教員や地域連携に関心をもつ教員のための研修を実施し、地域連携活動に関する

情報の提供、校内研修の企画・立案等の支援を行う。

(イ) 地域づくりの要となる地域教育コーディネーター※4や地域学校協働活動推進員※5の養成

に努め、その資質向上のための研修機会の充実を図ったり効果的な活動のための情報提供等

を行ったりする。

(ウ) 社会教育主事の資格をもつ教員を計画的に養成するとともに、活動支援のための研修機

会や情報提供の充実を図る。

地域教育コーディネーター※4 (地域コーディネーターと同義)

学校支援ボランティア等地域教育活動において、ボランティアと受入れ側との仲立ちとな

り、活動日程、内容等を連絡調整したり、地域や学校で大人と子どもが交流しながら学びあ

う機会をつくったりする人

(栃木県教育振興基本計画 2020-教育ビジョンとちぎ-H28.2)

地域学校協働活動推進員※5

地域学校協働本部において、教育委員会の施策に協力して地域住民等と学校との情報共有

を図るとともに、地域住民等に対する助言を行うといった、地域と学校をつなぐコーディネ

ーターの役割を果たす人

(地域学校協働活動の推進に向けたガイドライン 参考の手引 文部科学省 H29.4)

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(2) ふれあい学習推進のための様々な取組

本県では、次のような様々な取組を行い、ふれあい学習の推進に大きな効果を上げています。

ア ふれあい学習出前講座

ふれあい学習推進の一環として、学校の教職員を対象とした現職教育や保護者を対象とした

家庭教育学級、公民館等で以下のような講座を実施しています。依頼内容に応じて様々な講座

に対応します。各講座には、那須教育事務所ふれあい学習課職員を派遣します。

分 野 講 座 内 容 の 例

人権教育 ○よりよいコミュニケーションをとるため ○LGBT等の理解

家庭教育 ○子供の良いところを伸ばそう ○思春期の子供との向き合い方

地域連携 ○学校と地域の連携・協働について ○地域学校協働活動って何?

イ とちぎ子どもの未来創造大学事業

(ア) とちぎ未来大使「夢」講座

とちぎ未来大使による講話を通して、目標をもち、その

目標を達成した過程を中学生に伝え、中学生に「夢」につ

いて考える機会を提供します。

(イ) 出前講座

県内の高等教育機関や民間企業等と連携し、公民館等を

会場として、子供たちに本物に触れる機会を提供します。

※「夢」講座、出前講座ともに原則費用負担はありません。

事業名 対 象 講話・講座の例

「夢」講座 中学生 ○夢と目標に向かって ○後輩たちに伝えたいこと

出前講座 小学4年生~中学3年生 ○飛行機はなぜ飛ぶの?○とちぎの化石

ウ 巡回公演事業

本事業は、小・中学校及び義務教育学校の児童生徒を対象

に、本物の芸術に触れる機会を提供し、豊かな情操や芸術活

動への参加機運を醸成します。

本地区の実施例(2019年度)

児童劇:劇団風の子

演劇「風の子バザール」

合 唱:二期会合唱団

オペラ「カルメン」のダイジェスト上演

オーケストラ:日本フィルハーモニー交響楽団

交響曲第5番「運命」より《第1楽章》

エ その他

・ふれあい学習ネットワーク ・とちぎの高校生「じぶん未来学」 ・家読推進事業

・ホットほっと電話相談、メール相談 ・不登校児童生徒支援事業(ふれあいキャンプ)等

「夢」講座

二期会合唱団の演奏の様子

人権教育指導者一般研修 地域連携教員研修 PTA指導者研修Ⅰ 親学習プログラム

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3 生涯学習の推進に向けた地域との連携・協働

(1) 各市町の取組

ア 大田原市【地域の子供の学びを支える地区公民館】

平成 27年度より、本市では「スクールアシストプラン」を基に、学校・地区公民館・地区生

涯学習推進協議会の3者の連携体制を構築し、「地域とともにある学校」、「学校を核とした

地域づくり」を目指しているところです。

それらの活動の中で、地域の子供の学びを支える地区公民館の活動について紹介します。

(ア) 大田原西地区公民館の取組【公民館講座の受講生をコーディネート】

「スクールアシストプラン」においては、地区公民館の館長及び社会教育指導員が地域コ

ーディネーターと同様の役割も担っています。大田原西地区で、学校・地区公民館・地区生

涯学習推進協議会の3者が集まり情報交換を行う中で、小学校から家庭科での「ミシン指導

者」が不足しているという相談を受け、地区公民館の社会教育指導員が「ミシン指導者」の

コーディネートを行っています。コーディネートの流れは、下のとおりです。

各学校での指導後は、「ミシン指導」の協力者に「パッチワーク」の自主サークルを紹介

して、「女性セミナー」受講後も受講生自身の活動の場を広げられるよう工夫しました。

この取組によって、単に学校側だけではなく、公民館講座受講生の活動の充実等、双方に

とってメリットのある関係が成り立っています。

(イ) 親園地区公民館の取組【指導者養成を兼ねた「しめ縄教室」開催】

親園地区では、地区生涯学習推進協議会が中心となり、

小・中学生に「ミニ門松・しめ縄」づくりを指導すると

いうことが恒例行事となっています。

しかし、これらの指導を行うことのできる地域の人材

が不足していることが長年の課題となっており、地区生

涯学習推進協議会だけでは、これまで十分な手立てが打

てませんでした。

そこで、まず地区公民館が主体となり、地区生涯学習

推進協議会と連携して、指導者養成を兼ねた「しめ縄教室」

を開催しました。その教室に参加した方には、各小・中学校で行う「ミニ門松づくり」や「し

め縄づくり」にも協力してもらう形を整えました。また、材料についても早い時期から地区

公民館で準備をしました。各小・中学校での「ミニ門松づくり」や「しめ縄づくり」の際に

は、地区公民館の館長や社会教育指導員が材料を配ったり、指導の補助をしたりと、これら

の活動を支えています。

「子供たちに昔から伝わるよき風習を伝えたい」という地域の思いと人材不足解消から始

まった取組は、子供たちの体験が充実しただけでなく、指導する側の学ぶ喜びや生きがいに

もつながりました。また、関係機関の連携により持続可能な取組へと発展してきています。

〈コーディネートの流れ〉

① 小学校より、必要な人数、日時等の確認を行う。

② 社会教育指導員が担当している「女性セミナー」受

講生にボランティア協力の要請をする。

③ 協力者に活動内容を通知等で説明する。

④ 地区公民館の社会教育指導員は、各小学校の「ミシ

ン指導」に立ち会い、記録に残すことで以降のコー

ディネートに生かす。 「ミシン指導」の様子

「しめ縄づくり」の様子

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活動コーナーと仕事の内容(一部)

イ 那須町【なすまち子どもフェスティバル】

本町では、平成 15 年から、子どもによる、子どものための事業として『なすまち子ども

フェスティバル(通称「子フェス」)』を開催しています。

本年度は、「みんなで作ろう、子どもが主役の子どものま

ち」というスローガンの下、子どもたちの自治的な活動に焦

点を絞り実施しました。那須町子ども会育成会連合会や観光

協会等の協力を得て、学校や年齢が異なる小・中学生や高校

生が力を合わせて企画から運営までを行いました。

(ア) 本年度の概要

①日 時 令和元年8月4日(日) 午前 10時~午後2時

②場 所 那須町文化センター

③目 的 自治的な活動を通して、子どもたちの主体性や協調性、社会性を育む

(イ) 事前の取組

【大人実行委員会】

地域教育実践者やジュニアリーダースクラブ OB等で構成された、なすまち子ども

フェスティバル実行委員会で、子どもたちが主体的に活動できるよう運営方針の検

討をしたり、子どもたちへのサポートの仕方について共通理解を図ったりしました。

【子ども実行委員会】

地域行事への協力や地域で奉仕活動等を行っている、町内在住の中学生及び高校

生で構成されたジュニアリーダースクラブのメンバーが、子どもの視点から運営全

般について検討したり、「子どものまち」のルールを考えたりしました。

【子ども店長会議】

町内の小学5・6年生と中学生を対象に公募した子ども店長たちが、出店するお

店の内容を考えたり、当日に向けて準備をしたりしました。

(ウ) 自治的な活動の内容

【勤労・消費活動体験】→(下表①)

お店の経営や当日来場した子どもたちによるアルバイト体験、仮想通貨を利用し

た売買活動をしました。

【自治会活動体験】→(下表②)

会場のゴミ拾いをしたり、参加者が安全に活動できるようパトロールをしたりし

ました。

【職業体験】→(下表③④⑤)

専門的な知識や技能をもつ大人が担当しているコーナーで、キャリア教育につな

がる活動をしました。

仮設のラジオ局での収録の様子

職場名 仕事の内容 職場名 仕事の内容

キャロットタピオカドリンク

&お好み焼き

黒田原

だっぱラジオラジオ局収録体験

のれこバナナフルーツ

&パフェバナナ匠の会 木工体験補助

森のくまさんのお店

グミ詰め合わせ&ベビーカステラ

段ボール迷路

ごみゼロ運動 会場内のごみ拾い 昔遊び

会場パトロール迷子や幼児への

声かけ丸太切り 丸太切り体験補助

花いっぱい運動 会場内の飾り付け 空き缶積み 空き缶積み体験補助

体験場所への誘導チケットもぎり対応

大人の出店

わくわく体験コーナー

チャレンジコーナー

コーナー名

①子どもの

まち

②子ども公民館

コーナー名

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ウ 那須塩原市【学びの祭典 なすしおばら まなび博覧会】

本市では、市民の主体的な学習や活動を発表する

機会づくり、新たな学習活動への興味・関心をもつ

きっかけづくりを目的として『なすしおばら まなび

博覧会(通称「なしお博」)』を開催しています。

市内小・中・義務教育学校の児童生徒は、絵画や工

作等の作品を出品したり、県外、海外等で学んだこ

とを発表したりして、なしお博に関わっています。

また、中学生がボランティアとしても参加し、模擬店、体験コーナー、会場案内の手伝い等で

なしお博を盛り上げました。本事業は、「子どもから大人までの学びの祭典」とあるように、

多くの方が日頃の学習成果を発表する場になっています。

(ア) 本年度の概要

①日 時 令和元年 11月9日(土)・10日(日)両日とも午前9時 30分~午後3時

②場 所 宇都宮共和大学那須キャンパス

③内 容 小・中学生の事例発表や作品展示、公民館や博物館の事業紹介、体験コーナー

やコンサートなど

(イ) 体験発表

【洋上北海道学習:木古内町・ニセコ・札幌市】

青少年健全育成事業の一環として、小学6年生を対象に北海道での体験学習を実施し

ています。1 週間の共同生活を通して、子どもたちには大きな成長が見られました。コ

ミュニケーション力が向上したり、主体的に行動できるようになったりした上、地元那

須塩原への愛着も育まれました。発表では、各班の代表者が、「結団式から北海道到着

まで」「札幌市街地見学の思い出」など、研修会や北海道での体験学習で学んだことを

発表しました。

【中学生海外派遣研修事業:オーストリア リンツ】

中学生海外派遣研修事業として、中学2年生を対象

に、国際理解を深め、これからの国際社会に貢献でき

る人材の育成を目的に実施しています。派遣前には事

前研修を行い、ALTとの英会話練習をしました。

現地では、ホストファミリーや学校関係者を招いて

歌の発表や日本の文化体験を行い、交流を図りました。

10日間の生活の中で、自立心の育成やコミュニケー

ション力の向上が図られる事業となっています。なしお博当日は、海外で学んだこと、

感じたことを、多くの方に伝えました。

(ウ) 交流活動

【ALT English Festival】

市内小・中・義務教育学校に勤務するALTが、自分

たちで企画した体験ブースを担当しました。ALTの明

るい雰囲気や異文化を直に感じることができるため、来

場した子どもたちに大人気のコーナーとなっています。

本年度は「しおり体験」「バンブーダンス」「フェイス

ペイント」などを通して、ALTと子どもたちの笑顔あ

ふれる交流が行われました。

なすしおばら まなび博覧会

中学生の発表の様子

ALT English Festival の様子

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(2) 特色ある取組

ア 野崎中学校区(ののさき学園)【コーディネーターズの活躍で広がった地域学校協働活動】

本市では、平成 27 年度よりスクールアシストプランによる地域と学校の連携・協働体制が

整えられ、昨年度からは各中学校区に「学校運営協議会」が設置されました。

本地区においても、3校(薄葉小学校、石上小学校、野崎中学校)を「ののさき学園」と称

して学校運営協議会を設置し、学校運営に地域の声を

積極的に生かすコミュニティ・スクールが始まりまし

た。これまで以上に、地域が一体となって子供たちを

育む体制が整い、より広域的な地域学校協働活動が可

能となり、「地域とともにある学校」の推進を図るこ

とができるようになりました。

ここでは、地域と学校をつなぐキーパーソンとして

活動する“コーディネーターズ”の取組と、そこから

広がった地域学校協働活動について紹介します。

(ア) コーディネーターズ(複数)で活動するようになったきっかけ

本地区では、各小・中学校に1名ずつ合計3名の地域コーディネーターが任命され、“地

域の窓口”として活躍しています。以前より全員が野崎地区活性化協議会に所属しており、

野崎地区の活性化に取り組んできました。そこで、それぞれの地域に関する情報やネットワ

ークを共有することで、地域や学校の多様なニーズに対応することが可能になると考えまし

た。また、地区全体で地域学校協働活動に取り組むことが地域の活性化にもつながることか

ら、“ののさき学園コーディネーターズ”として、「学校を核とした地域づくり」の推進を

図っています。

(イ) コーディネーターズで取り組むメリット

地域コーディネーターが複数で取り組むことで、効果的・効率的にコーディネートをする

ことが可能となり、地域学校協働活動が更に充実したものとなりました。

学校や地域コーディネーターにとってのメリットは、以下のとおりです。

地域の方々と田植えをする児童

【学校のメリット】

・地域についての情報量が豊かであることと、コーディネーターズのネットワークが

広いことから、人材不足の解消や学区を越えた多様な人材・教材を紹介してもらう

ことができる。

・地域コーディネーター全員が学校運営協議会の委員であるので、ののさき学園の教

育方針や各学校の実態を十分に理解した上で、学校のニーズに合わせた効果的な活

動が展開できる。

【コーディネーターズのメリット】

・地域コーディネーターの交代があっても、経験のある他の地域コーディネーターと

協力することにより継続的な支援ができる。

・地域コーディネーター間で情報を共有することで、各学校の様子を把握することが

できる。

・地域コーディネーターそれぞれのネットワークを生かすことで、多様なニーズに対

応することができる。

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(ウ) 地域コーディネーターの主な取組

【学校との連絡調整】

・地域連携教員が都合のよい時間帯で確認できるよう、連絡方法はメールを中心に行い、

必要に応じて電話をしたり、学校に出向いたりして打合せを行う。

【地域コーディネーター間の打合せ(情報交換)】

・各学校との連絡調整後、打合せ(情報交換)を行う。

・各学校の様子や要望等を共有し、必要な手立てを相談する。

【学校支援実施記録の作成】

・各学校へつないだ地域人材は、実施記録に残す。(地域コーディネーターが作成)

・日時や学校名、活動内容、協力者等が分かるように記録する。(下表参照)

・実施記録は、次年度以降の参考資料として各学校に送付する。

(エ) 地域コーディネーターがつないだ地域学校協働活動

【学区を越えた広域的な連携・協働】

小学校において、米づくり(田植え、稲刈り)や菊づ

くりの活動を行う際、指導者不足という課題が続いて

いました。その課題を地域コーディネーターに相談す

ると、すぐに“コーディネーターズ”で共有し、学区に

関係なく呼びかけることで、多くの方々に協力を得るこ

とができました。また、協力してくれた高齢者の方々が活動の様子を口コミで地域に広げ

たことで、更に学校への協力者が増えました。このように地域学校協働活動は、地域住民

のつながりづくりに大きく役立っています。

【地域行事における中学生の参画】

本地区では、野崎地区活性化協議会の主催で、「のざ

き桜まつり」や「野崎地区夏祭り」を開催しています。

活性化協議会に所属する地域コーディネーターが地域

貢献の場を求めていた中学校の思いを受け、中学生がボ

ランティアとして参画できるようコーディネートを行

いました。場内のアナウンスやゲームコーナーの企画・

運営等、中学生の存在は欠かせないものとなっています。この活動を通して中学生は地域

のよさを知り、地域は活性化につながるという Win-winの取組になっています。

(オ) 今後に向けて(地域連携教員の立場から)

本地区の地域学校協働活動は、“コーディネーターズ”との連携により支えられ、充実し

たものとなってきています。

職員の地域学校協働活動への理解をより深めたり、校内体制を整備していったりすること

で、継続的な活動ができるようにしていくとともに、今後も、“コーディネーターズ”を中

心とした地域の方と「地域とともにある学校」づくりを推進していきたいと思います。

稲刈りの様子

ボランティアで活躍する生徒

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イ 那須町立那須中学校【学校運営協議会と連携・協働した教育活動】

本校は、平成 27 年度に高久中学校と統合し、本年度で5年目になります。統合と同時に、

子供たちの学びを地域ぐるみで支援することを目的とした、学校支援協議会が設置され、同時

に地域教育コーディネーターも配置されました。そして、

その3年後に、既存の組織である学校支援協議会を学校運

営協議会に移行したことでコミュニティ・スクールとな

り、学校と地域・保護者が連携・協働して学校運営に取り

組んでいます。

ここでは、「地域とともにある学校」を目指す観点から、

学校運営協議会が中心となって実施している水曜講座(教

育課程外)について紹介します。

(ア) 水曜講座の実施に至るまでの経緯

本校では、学校経営の目指す学校像として「地域に学び、地域と共に歩む学校」を掲げて

います。そこで、部活動のない水曜日に、地域の方には自らのキャリアを生かして生徒と触

れ合う機会を、生徒には学校教育では得られない体験や学校での学びを深化させる体験を提

供することを目的として、平成 29年度から水曜講座を実施することにしました。

この取組は、学校と学校運営協議会が連携・協働して始まった取組でしたが、両者の役割

分担が明確ではなかったため、それぞれの役割を明確にし、当事者意識をもって取り組める

よう連携体制を整えました。

(イ) 学校運営協議会との連携・協働

水曜講座は、学校施設を利用し全校生徒が参加する活動ですが、学校運営協議会が運営を

担当することにしたため、学校の負担が大きく軽減されました。

本校の学校運営協議会は、「事業委員会」「広報・渉外委員会」「評価委員会」で組織さ

れています。事業委員会は、水曜講座の企画運営を担当し、その他の委員会は、水曜講座を

実際に参観し、よりよい講座にするための意見や感想を述べることにより関わりをもってい

ます。

学校と事業委員会は、それ

ぞれ地域連携教員と地域教育

コーディネーター(事業委員

会委員)を窓口として、学校

側の負担が大きくならないよ

う配慮しながら連携を図って

います。

本年度は、よりスムーズな

連携をするために、学校と事

業委員会の役割を明確にし

ました。(表1)

事業委員会では、委員全員

で役割を分担したので、一人

の負担が軽減されたり、それぞれのペースに合わせて仕事を進めたりすることができるよう

になりました。また、事業委員会には、地域教育コーディネーターだけでなく学区内の地区

公民館職員も加わっています。これらの方々は、地域をよく知り地域住民との信頼関係が既

に構築されているため、講師の選定や依頼、連絡調整等をスムーズに行うことができました。

学 校 事業委員会

担 当 教頭 地域連携教員

学校運営協議会会長 事業委員会委員

地域へ ・講師募集について 回覧板を活用して周知

・講師の選定

家庭へ ・開催通知の配布

生徒へ ・希望調査 ・希望調整と割り振り

講師へ ・派遣依頼文書作成 ・講座開講に向けての 連絡調整 ・派遣依頼文書の発送

当 日 ・運営全般

役割分担(表1)

クラシックギター講座の様子

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(ウ) 具体的な取組(表2)

本年度の水曜講座はⅠ期とⅡ期に分け、各期 12講座を実施できるよう調整しました。

①対象

当初は希望者のみを対象にしてい

ましたが、生徒たちに豊かな体験を

させたいという思いから、全校生徒

が受講しています。

②講座の選択

Ⅰ期・Ⅱ期ごとに生徒は1つずつ

希望の講座を選択します。

講師は、2期とも同じ内容の講座

を実施すればよいので、負担軽減

につながりました。

③活動日の設定

活動時間を十分に確保するため

に、元々特別日課で放課後の時間が

長く、部活動のない水曜日に設定し

ました。

④費用

原則無料ですが、材料費がかかる講座については事前に費用を周知しました。材料費

については、講師と調整し、できるだけ生徒の負担にならないよう配慮しています。

⑤開設講座

生徒が興味関心のある内容を中心に、地域人材の学びや特技を生かせる講座を設けま

した。また、全校生徒が参加することから、偏りが出ないよう各講座の定員を 20名程度

に調整しました。

(エ) 学校と学校運営協議会が連携・協働することのメリット

・学校や事業委員会の役割を明確に分担したことで、それぞれ当事者意識をもって運営

に関わることができるようになった。

・水曜講座について共通理解を図ることができたので、

教職員の異動や委員の交代があっても、継続して実施し

ていけるシステムが整った。

・事業委員会が当日の運営全般を担うことで、学校は、水

曜講座を開設している時間を利用して、職員会議や研修

を行うことができた。

(オ) 今後に向けて(地域連携教員の立場から)

学校側の担当として水曜講座の立ち上げ当初から関わっていますが、この取組も3年目に

なり、事業委員会の主導で講師の選定や当日の運営等を順調に実施することができるように

なりました。これは、学校と学校運営協議会が共に、PDCAサイクルを意識して取り組んでき

た成果だと感じています。

今後は、より生徒のニーズに応じた講座を開設していきたいと考えています。そのために

は更に地域の協力が必要になります。そこで、学校運営協議会との連携・協働の視点から、

広報・渉外委員会とも連携し、地域への周知を図っていきたいと思います。

対 象 全校生徒

開設Ⅰ期 11/13 11/20

Ⅱ期 11/27 12/ 4

活動時間 放課後(15:00~16:30)

費 用 原則無料

(材料費がかかる場合あり)

講座名

プログラミング ヨガを楽しむ

手芸 クラシックギター入門

ハングル講座 菓子作り

大工さん 自然と絵画

バドミントン 将棋

書道

文字遊び

百人一首

競技かるた

水曜講座の開設について(表2)

手芸講座の様子

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ウ 那須塩原市立大原間小学校【クラブ活動がつなぐ地域の伝統芸能】

本年度、東那須野中学校区(大原間小学校、波立小学校、東那須野中学校)では、地域学校

協働本部を立ち上げました。これまでも地域と学校が連携して教育活動を実践してきましたが、

本部立ち上げを機に、地域と学校のパートナーシップに基づく「連携・協働」の機運がますま

す高まってきています。

ここでは、那須塩原市の無形民俗文化財に指定されている「三本木地区の獅子舞」をクラブ

活動に取り入れ、実践している活動について紹介します。

(ア) 獅子舞クラブ立ち上げのきっかけ

三本木地区の獅子舞は、江戸時代から地区の農家により

継承されてきたお祭りです。毎年3月には、疫病退散祈願

として獅子舞を奉納することで、地域の人が交流を深める

大切な行事でした。時代とともに農家数が減少し、農家に

限らず地区全体で継続するようになりましたが、担い手が

不足している状況が続き、存続が危ぶまれていました。獅

子舞保存会(以下保存会)の会長は、地域の貴重な財産が

なくなることを危惧していました。そのような折、地域学

校協働活動推進員と雑談する機会があり、三本木の獅子舞のことも話題に上がりました。

(イ) 獅子舞クラブ設置までの経緯

地域学校協働本部事業を開始するに当たり、地域連携教員と地域学校協働活動推進員は、

昨年度から密に連絡を取り合ってきました。その中で、三本木地区の獅子舞の現状や本校の

児童が、地域の行事等にもっと関心をもつにはどうしたらよいかなどの話題になりました。

児童が地域に目を向けるよい機会となり、地域の伝統行事の保存や地域の文化を後世に伝え

るための一助ともなるのではないかと考え、クラブ活動で取り組むことを検討しました。児

童にクラブ活動希望調査を取ると、獅子舞に興味をもち、活動を希望する児童がいることが

確認できました。伝統芸能を残していきたいという地域のニーズ、児童に地域を知ってほし

いという学校の思いとも重なり、本年度、クラブ活動として設置することを決定しました。

(ウ) 保存会と学校の主な取組

「獅子舞クラブ」の立ち上げに当たり、地域学校協働活動推進員から保存会の会長に連絡

をとり、三者で話合いをもちました。そこで打合せをもち、児童にどのような力を付けたい

のかを共有してクラブ活動年間指導計画を立てました。また、クラブ担当者と保存会の方が

直接連絡を取り、活動中に感じた課題について改善でき

る体制をつくりました。

5月から始まった獅子舞クラブには、15名の児童が希

望しました。保存会の方は児童の指導経験がなく、活動

は手探りでした。実際の獅子舞の演舞を見たことがない

児童もおり、保存会の方の演舞を見て練り歩く練習から

始まりました。回を重ねる度に指導の仕方を改善、工夫

することで、児童は少しずつ獅子舞の動きを覚えていき

ました。優しく丁寧に獅子舞の動きを伝える指導者、一

生懸命に学び取ろうとする児童の姿は、子供と大人が共にふれあい学び合う活動であり、ま

さに地域学校協働活動となっています。

外部指導者である保存会と共にクラブ運営をするに当たり、保存会と学校は、次の取組を

中心に行いました。

三本木地区の獅子舞

獅子舞練習の様子

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【保存会の取組】

専門的知識のある保存会の方が、クラブ活動の指導者として演舞指導を行いました。保

存会の方はいつも優しく声掛けをしてくださり、練習する児童も意欲的に取り組むことが

できました。また、発表会に向けて、演舞時間を短くしたバージョンへの編集、演目毎に

変わる児童一人一人の立ち位置、踊る位置を示した図の作成等、専門的知識を生かし細や

かなところまで配慮しながら準備を進めました。児童の気持ちを高めるために、獅子舞道

具一式を持参していただいたり、足りない道具を作製してくれたりと、児童の活動を真摯

に支援してくださいました。

【学校の取組】

保存会の方がクラブ指導をするに当たり、学校側では、指導者との連絡調整やクラブ活

動における安全面への配慮、指導者が指導に専念するための環境づくりなどを担当してい

ます。また、三本木地区の自治会長を通して、「三本木地区の獅子舞を残していきたい」

という住民の思いを確かめる機会をつくりました。学習成果の発表の機会である大原間オ

リンピックでは、児童や保護者に披露する場を設けました。

(エ) 取組の成果

11 月 23 日に行われた大原間オリンピックでは、三本

木地区の獅子舞の紹介とともに、「獅子舞クラブ」の児

童が練習の成果を十分に発揮し、堂々と演舞を披露しま

した。本番に向けて昼休みも練習をしてきた子供たちと、

その活動を支えた保存会の方の熱意が実を結びました。

地域の課題であった三本木地区の獅子舞は、「獅子舞

クラブ」として、地域の課題解決にとどまらず、地域連

携の有効な手段となり、地域と学校を結んでいます。

それぞれのメリットは次のとおりです。

(オ) 今後に向けて(地域連携教員の立場から)

クラブ活動として設置した「獅子舞クラブ」は、多くの方に地域の伝統芸能を知ってもら

うきっかけとなりました。児童には、地域に素晴らしい伝統文化があること、お手本となる

大人がいることに気付き、地域に目を向けるようになってほしいと願っています。

今後は、本年度の活動をしっかり整理し、担当が替わっても地域学校協働活動が続いてい

くような体制を整えていきたいです。また、地域連携教員として、地域学校協働活動推進員

との連携を深め、地域の声に耳を傾ける意識をもち続けていたいと思います。

大原間オリンピックでの発表の様子

【地域のメリット】

・地域の人が学校に関わることで、学校理解につながった。

・保護者、地域の人が、地域の伝統芸能を知るきっかけとなった。

・指導者という立場になることで、より密接に学校と関われるようになった。

・三本木地区の獅子舞を、若い世代に受け継ぐ仕組みが整ってきた。

【学校のメリット】

・児童に、地域の伝統芸能を体験させることができた。

・専門的知識をもつ保存会の方が指導することで、児童の技術習得が進んだ。

・獅子舞クラブの活動を見て、他の児童の伝統芸能に関する関心が高まった。

・地域の人に褒められる経験から、児童の自己肯定感が高まった。

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A2 「社会に開かれた教育課程」を実現するためには、組織的かつ計画的に教育活動の質の向上を図

っていくカリキュラム・マネジメントの確立が求められます。

取組例は、以下のとおりです。

【学校全体で】

Q1 「社会に開かれた教育課程」とは、どのようなことですか?

A1 よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創っていくこと、そしてそれを学校と社会とが

連携しながら実現していくことが「社会に開かれた教育課程」という理論です。

学校での教育課程の実現状況を評価・改善し、次年度の計画を行うというPDCAサイクルの

もと、社会のニーズに応じた教育課程編成を行い、その目標を社会と共有し、連携・協働によっ

てその実現を図りましょう。

〈社会に開かれた教育課程〉

① 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創

るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。

② これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自

分の人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程におい

て明確化し育んでいくこと。

③ 教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等

を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指

すところを社会と共有・連携しながら実現させること。

Q2 「社会に開かれた教育課程」を実現するためには、どのようなことをすればよいですか?

〈これからのカリキュラム・マネジメントの3つの側面〉

①教科横断的な視点 【教育活動の改善】 ②PDCAサイクルの確立 【教育内容の質の向上】 ③学校内外の人的・物的な資源の活用 【資源の効果的な活用】

●熟議やそれに相当する機会を設け、育てたい資質・能力等を、教育課程を介して社会と共有

する。

●子供たちを育てていくために、社会と連携・協働する。

●校長のリーダーシップの下、学校全体で取り組んでいく。

(校内組織や地域との関係の構築・地域教育力の活用等)

【地域連携教員として】

●地域連携活動を精選し、地域連携年計活動計画や地域連携協働リスト(地域人材や教育資源

をまとめたもの)を整える。

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Q3 「地域とともにある学校」への転換とは、どのようなことですか?

A3 これまでの「開かれた学校」は、その主体が学校であったことに対して、「地域とともにある

学校」の主体は、学校と地域となります。その推進に向けては、地域住民や保護者が学校運営に

積極的に参画できる体制づくりが求められます。

学校が抱える様々な課題に対応するには、学校と地域がパートナーとして、相互補完的に連

携・協働していくことが必要となります。

「開かれた学校」の取組

・地域に対して、積極的に情報を発信する。

(学校公開、学校だより、ホームページ 等)

・地域の教育力を生かしたり、家庭や地域社会の支援を受けたりする。

(学校支援ボランティア、読み聞かせ 等)

・学校施設の開放や学習機会の提供を積極的に行う。

(生涯スポーツにおける体育館や校庭の貸出 等)

今後は 更に

「地域とともにある学校」の取組

・地域の声を積極的に学校運営に取り入れていく。

(学校運営協議会の設置、地域学校協働本部の取組 等)

・家庭・地域と「協働」していくことで、サポーターからパートナーとしての連携・協働に

よる双方向の関係を目指す。

(合同避難訓練の実施、公民館と合同文化祭の実施 等)

・地域の教育資源を積極的に活用することで、地域へ活動の場を広げる。

(奉仕活動の取組、地域行事への参画 等)

教育計画の中の文言を「開かれた学校」から「地域とともにある学校」に見直しましょう。

〈参考〉

社会総掛かりでの教育の実現を図る上で、学校は、地域社会の中でその役割を果たし、地

域と共に発展していくことが重要であり、とりわけ、これからの公立学校は、「開かれた学

校」から更に一歩踏み出し、地域でどのような子供たちを育てるのか、何を実現していくの

かという目標やビジョンを地域住民等と共有し、地域と一体となって子供たちを育む「地域

とともにある学校」へと転換していくことを目指して、取組を推進していくことが必要であ

る。すなわち、学校運営に地域住民や保護者等が参画することを通じて、学校・家庭・地域

の関係者が目標や課題を共有し、学校の教育方針の決定や教育活動の実践に、地域のニーズ

を的確かつ機動的に反映させるとともに、地域ならではの創意工夫を生かした特色ある学校

づくりを進めていくことが求められる。

「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について(答申)より」H27.12