47
34 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 2008 9 月のリーマン・ショックを契機に欧米 を中心に金融機関の破綻が相次ぎ、主要国の株価 が下落し、日経平均も 2009 3 月にはリーマン・ ショック前に比べて約 4 割下落した 1 。こうした 中、資本市場において信用不安が高まったことな どにより、短期金融市場で資金の枯渇や金利の上 昇が生じた。LIBOR-OIS スプレッド 2 を見ても、 リーマン・ショック直後の 2008 年秋頃には、ド ルを中心にスプレッドが急激に拡大しており、短 期金融市場における緊張度が上昇したことが分か 1-2-1 こうした信用不安の高まりに伴い、A 格以下の 金融機関以外の事業会社では、2008 10 月から 2009 1 月にかけて普通社債の起債がほとんど見 られなくなり 3 、コマーシャルペーパー以下 「CP」というの新規発行高も 2008 10 月から 11 月にかけて前年同月比で約 30%減少するなど、 社債市場及び CP 市場において資金を調達するこ とが困難になり、大企業を中心に金融機関からの 借入にシフトせざるを得ない状況となった1-2-2 図、第 1-2-3 1 株価下落や信用不安等の資本市場を通じた影響 アメリカに端を発する世界的な経済危機は、 我が国の中小企業に深刻な影響を及ぼした。第 1 章で分析したとおり、中小企業の業況は、足 下において持ち直しの動きも見られるが、依然 として厳しい状況が続いている。アメリカで発 生した経済危機は、株価下落や信用不安等の資 本市場と輸出急減等の財市場を通じて、我が国 の中小企業に波及した。この結果、中小企業の 業況は急激に悪化し、資金繰り及び雇用面を中 心に深刻な影響を受けた。以下では、こうした 波及経路に沿って分析を進めていく。 経済危機が中小企業に及ぼした影響 Section 1 1 第1章では、2009年度の中小企業の動向を概観し、中小企業の業況は持ち直しの 動きも見られるが、業種によってその動きが緩やかで、依然として厳しい状況が続い ていることを示した。本章では、リーマン・ショック後の世界的な経済危機が、我が 国の中小企業にどのような影響を及ぼしたのかについて分析を行う。また、今回の経 済危機の中、政府による資金繰りや雇用等の中小企業対策が中小企業にどのような効 果を及ぼしたのかについても併せて見ていく。 2 2 Chapter 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054円98銭であ り、リーマン・ショック後の最安値となった。 2 LIBOR(London Interbank Offered Rate)と OIS(Overnight Index Swap)レートとの差。LIBOR とは、ロンドン市場における銀行間の取引金利。OIS とは、一 定期間の固定金利と変動金利を交換する金利スワップ。LIBOR-OISスプレッドとは、資金の借入に際して、銀行が実際に払わなければならない金利と将来の金 利予想との差を表す。スプレッドの拡大とは、銀行が将来期待される金利よりも高い金利を払わないと短期資金が調達できない状態を表す。 3 詳細は、付注 1-2-1 を参照。

第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

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Page 1: 第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

34 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

2008年9月のリーマン・ショックを契機に欧米を中心に金融機関の破綻が相次ぎ、主要国の株価

が下落し、日経平均も2009年3月にはリーマン・ショック前に比べて約4割下落した 1。こうした

中、資本市場において信用不安が高まったことな

どにより、短期金融市場で資金の枯渇や金利の上

昇が生じた。LIBOR-OISスプレッド 2を見ても、

リーマン・ショック直後の2008年秋頃には、ドルを中心にスプレッドが急激に拡大しており、短

期金融市場における緊張度が上昇したことが分か

る(第1-2-1図)。

こうした信用不安の高まりに伴い、A格以下の金融機関以外の事業会社では、2008年10月から2009年1月にかけて普通社債の起債がほとんど見られなくなり 3、コマーシャルペーパー(以下「CP」という)の新規発行高も2008年10月から11月にかけて前年同月比で約30%減少するなど、社債市場及びCP市場において資金を調達することが困難になり、大企業を中心に金融機関からの

借入にシフトせざるを得ない状況となった(第1-2-2図、第1-2-3図)。

1 株価下落や信用不安等の資本市場を通じた影響

アメリカに端を発する世界的な経済危機は、我が国の中小企業に深刻な影響を及ぼした。第1章で分析したとおり、中小企業の業況は、足下において持ち直しの動きも見られるが、依然として厳しい状況が続いている。アメリカで発生した経済危機は、株価下落や信用不安等の資

本市場と輸出急減等の財市場を通じて、我が国の中小企業に波及した。この結果、中小企業の業況は急激に悪化し、資金繰り及び雇用面を中心に深刻な影響を受けた。以下では、こうした波及経路に沿って分析を進めていく。

経済危機が中小企業に及ぼした影響 Section 1第1節

第1章では、2009年度の中小企業の動向を概観し、中小企業の業況は持ち直しの動きも見られるが、業種によってその動きが緩やかで、依然として厳しい状況が続いていることを示した。本章では、リーマン・ショック後の世界的な経済危機が、我が国の中小企業にどのような影響を及ぼしたのかについて分析を行う。また、今回の経済危機の中、政府による資金繰りや雇用等の中小企業対策が中小企業にどのような効果を及ぼしたのかについても併せて見ていく。

第 2章第 2章Chapter 2

経済危機下の中小企業2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054円98銭であり、リーマン・ショック後の最安値となった。

2 LIBOR(LondonInterbankOfferedRate)とOIS(OvernightIndexSwap)レートとの差。LIBORとは、ロンドン市場における銀行間の取引金利。OISとは、一定期間の固定金利と変動金利を交換する金利スワップ。LIBOR-OISスプレッドとは、資金の借入に際して、銀行が実際に払わなければならない金利と将来の金利予想との差を表す。スプレッドの拡大とは、銀行が将来期待される金利よりも高い金利を払わないと短期資金が調達できない状態を表す。

3 詳細は、付注1-2-1を参照。

Page 2: 第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

35中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

第 1-2-1図主要通貨のLIBOR-OISスプレッド(3か月)

12111098709 1008

654321 121110987654321 321

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0(%)

~ 2008年秋頃には、ドルを中心にスプレッドが急激に拡大~

0.0

0.5

1.0

1.5

(年月)

資料:ブルームバーグより作成(注) LIBOR-OISスプレッドは日次のデータを採用している。

ドル ユーロ 円 ポンド

第 1-2-2図普通社債の起債額

100908(年月)

~ 2008年10月から2009年1月にかけて、A格以下の金融機関以外の事業会社の普通社債の起債がほとんど見られなかった~

02,0004,0006,0008,00010,00012,00014,00016,00018,00020,000(億円)

AAAAAABBB

121110987654321 121110987654321 21

資料:日本証券業協会(注) 1.債券の起債日をもとに集計。    2.複数の格付を取得している場合は、高位の格付で集計。

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36 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

第 1-2-3図CPの新規発行高

0

2

4

6

8

10

12

14

16

100908

▲ 40

▲ 35

▲ 30

▲ 25

▲ 20

▲ 15

▲ 10

▲ 5

0

5

10

発行高(左軸) 前年同月比(右軸)

資料:(株)証券保管振替機構(注) CPの引受日をもとに集計。

(%)

~CPの新規発行高は、2008年10月から11月にかけて前年同月比で約30%減少~

(兆円)

(年月)

121110987654321 21121110987654321

4 売買目的有価証券及び満期保有目的の債券、子会社株式、関連会社以外の有価証券のこと。2006年7月から「その他有価証券評価差額金」に名称が変更されている。

他方、株式市場では、株価が急落する中、国内

銀行の株式等評価差額金 4は減少し、2008年12月には損失超過に転じ、特に都市銀行の損失超過幅

は大きく拡大した(第1-2-4図)。

第 1-2-4図国内銀行の株式等評価差額金

▲10,000

▲5,000

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

02004006008001,0001,2001,4001,6001,8002,000

資料:日本銀行「民間金融機関の資産・負債」、ブルームバーグより作成。(注) 1.評価差額金は6か月移動平均、TOPIXは月末終値を用いた。   2.国内銀行とは、銀行本体の設立根拠が国内法に準拠している銀行(日本銀行及び政府系金融機関等を除く)。   3.信託銀行・長期信用銀行=国内銀行-(都市銀行+地方銀行+第二地方銀行)。   4.有価証券関係損益(実現損益)は含まれていない。

(TOPIX:ポイント)(評価差額金:億円)

(年月)

~ 2008年12月以降、国内銀行全体で損失超過に転じ、特に都市銀行の損失超過幅は大きく拡大~

国内銀行全体(左軸) 都市銀行(左軸) 地方銀行(左軸) 第二地方銀行(左軸)

信託銀行・長期信用銀行(左軸) TOPIX(右軸)

121110987654321 121110987654321 12111098765432 21 1

100807 09

Page 4: 第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

37中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

このようにリーマン・ショック後の株価下落や

信用不安等を通じて、我が国の金融機関は深刻な

影響を受けた。こうした状況下において、我が国

の中小企業に対する金融機関の貸出姿勢はどのよ

うに変化したのであろうか。第1-2-5図は、リーマン・ショック直後の2008年9月末における金融機関群別の中小企業向け貸出残高の割合を示した

ものであるが、今回の経済危機で株価下落の影響

を最も大きく受けたと考えられる都市銀行の中小

企業向け貸出残高の割合が約30%となっており、以下、地方銀行の割合が約25%と続いている。

第 1-2-5図中小企業向け貸出残高に占める割合(2008年9月)

資料:日本銀行「金融経済統計月報」ほか各種資料より作成(注) 1.その他銀行とは、信託銀行、長期信用銀行等をいう。   2.数値は2010年3月の月次データであり、今後遡及改

定の可能性がある。

都市銀行 地方銀行 第二地方銀行

信用金庫 信用組合 政府系金融機関等

その他銀行

~ 2008年9月末には、今回の経済危機で株価下落の影響を最も大きく受けたと考えられる都市銀行の中小企業向け貸出残高の割合は約30%であった~

31.0

25.68.7

16.7

3.7

8.45.9

次に、金融機関群別に中小企業向け貸出残高の

状況を見ていくと、中小企業の業況の悪化 5及び

信用力の低下、設備資金等の資金需要の低迷 6に

より、2008年7-9月期までは各金融機関群とも中小企業向け貸出残高は前年同期比で減少又は増加

幅が減少したことが分かる。

都市銀行による中小企業向け貸出残高は、緊急

保証制度による減少幅の抑制要因があるものの、

2009年1-3月期以降も前年同期比で減少傾向にある 7。これは、第1-2-4図で見たように、株式等評価差額金による損失が拡大したことに伴う貸出余

力の減少や大企業を中心に金融機関からの借入に

シフトせざるを得ない状況となったことも影響し

ている可能性があると考えられる(第1-2-6図①)。

第 1-2-6図①都市銀行の貸出残高

40

50

60

70

80

90

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ090807

▲10.0

▲5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

中小企業向け貸出残高(左軸)

大企業向け貸出残高(左軸)

大企業向け貸出残高(前年同期比、右軸)

中小企業向け貸出残高(前年同期比、右軸)

(%)(兆円)

(年期)

~中小企業向け貸出残高は、2009年1-3月期以降も前年同期比で減少傾向にある~

資料:日本銀行「金融経済統計月報」(注) 1. 各期末の法人向け貸出残高。   2. 大企業=法人向け貸出残高-中小企業(法人)   3. 数値は2010年3月の月次データであり、今後遡及改

定の可能性がある。

一方、地方銀行・第二地方銀行、信用金庫・信

用組合、政府系金融機関等の中小企業向け貸出残

高は、2008年10-12月期以降、緊急保証制度等の政策効果もあって、前年同期比で増加傾向に転じ

た(第1-2-6図②、第1-2-6図③、第1-2-6図④)。

5 第1部第2章第1節第2項を参照。 6 付注1-2-2、付注1-2-3を参照。 7 国際業務に携わる銀行は、国際決済銀行(BIS)の定める銀行等の自己資本比率規制に基づき、自己資本/リスクベース総資産が8%以上を満たすこととされて

いる。また、アメリカにおいて、社債や株式の引受販売を行うためには、FHC(FinancialHoldingCompany)の認可を受けることが必要である。認可を受けると、金融持株会社として総合的な金融サービス業を行うことができる。認可を受ける基準は、①自己資本が母国基準でTier1自己資本/リスクベース総資産が6%以上、かつ、自己資本/リスクベース総資産が10%以上、②経営管理が良好、③CRA(CommunityReinvestmentAct(地域再投資法))に基づく検査結果が「satisfactory」以上である。日本の金融機関でFHCの認可を受けているのは、(株)三菱UFJフィナンシャルグループ、(株)みずほフィナンシャルグループ、農林中央金庫の3機関である(2010年2月)。

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38 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

第 1-2-6図②地方銀行・第二地方銀行の貸出残高

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

090807

▲5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

大企業向け貸出残高(左軸)

中小企業向け貸出残高(左軸)

大企業向け貸出残高(前年同期比、右軸)

中小企業向け貸出残高(前年同期比、右軸)

(%)(兆円)

(年期)

~中小企業向け貸出残高は、2009年4-6月期に前年同期比で増加に転じた~

資料:日本銀行「金融経済統計月報」(注) 1. 各期末の法人向け貸出残高。

2. 大企業=法人向け貸出残高-中小企業(法人)3. 数値は2010年3月の月次データであり、今後遡及改  定の可能性がある。

第 1-2-6図③信用金庫・信用組合の中小企業向け貸出残高

▲5.0▲4.0▲3.0▲2.0▲1.00.01.02.03.04.05.0

40

42

44

46

48

50

52

54

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ07 08 09

~中小企業向け貸出残高は、2008年10-12月期以降、前年同期比で増加傾向~

貸出残高(左軸) 前年同期比(右軸)

(%)(兆円)

(年期)

資料:日本銀行「金融経済統計月報」ほか各種資料より作成(注) 1.各期末の中小企業向け貸出残高。

2.数値は2010年3月の月次データであり、今後遡及改定の可能性がある。

第 1-2-6図④政府系金融機関等の中小企業向け貸出残高

▲8.0

▲6.0

▲4.0

▲2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

17

18

19

20

21

22

23

24

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

07 08 09

貸出残高(左軸) 前年同期比(右軸)

(兆円) (%)

(年期)

~中小企業向け貸出残高は、2009年4-6月期以降、前年同期比で増加傾向~

資料:中小企業庁調べ(注) (株)日本政策金融公庫の国民生活事業及び中小企業事業

並びに(株)商工組合中央金庫の各期末の中小企業向け貸出残高の合計。

次に、リーマン・ショック直後の金融機関の中

小企業への貸出姿勢の変化について、2008年12月に実施されたアンケート調査 8を用いて見てい

く。金融機関の新規貸出姿勢について1年前(2007年12月)と比較して「積極化している」、「やや積極化している」と回答した割合は、中小企業では合計で約2割である一方、金融機関では合計で約6割に上っている。貸出条件の変更に対する姿勢についても「積極化している」、「やや積極化している」と回答した割合は、中小企業では合計で約1割である一方、金融機関では合計で約7割に上っており、両者に認識の違いが存在することが見て取れる(第1-2-7図)。

8 中小企業白書(2009年版)p.27参照。

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39中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

第1-2-8図は、「企業の雇用情勢及び政府の支援施策に関する調査 9」において、中小企業に2009年11月に1期前と直近の決算期の損益を聞いた結果を比較したものであるが、黒字企業の割合は、

57.0%から43.4%に減少し、赤字企業の割合は、

28.6%から42.1%に増加している。これらの結果から中小企業の財務状況が悪化し、金融機関の貸

出基準を満たさず、貸出残高の減少につながった

という要因も考えられる。

第 1-2-7図金融機関の貸出姿勢の変化(2008年12月と2007年12月との比較)

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)、   (株)東京商工リサーチ「金融機関の資金供給実態調査」(2008年12月)

積極化している やや積極化している ほとんど変化していない

やや消極化している 消極化している

~リーマン・ショック直後、新規貸出及び貸出条件の変更に対する金融機関の貸出姿勢について、金融機関と中小企業の認識に相違があった~

3.8

17.0

6.5

23.9

12.5

53.8

14.2

38.6

62.8

28.2

43.4

35.3

10.2

17.6

2.3

10.7

18.4

1.0

0.0

0.0

0% 20% 40% 60% 80% 100%

中小企業の回答

金融機関の回答

中小企業の回答

金融機関の回答

新規貸出

貸出条件の変更

第 1-2-8図1期前と直近の損益

資料:中小企業庁委託「企業の雇用情勢及び政府の支援施策に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))

大幅な黒字 若干の黒字 収支トントン 若干の赤字 大幅な赤字

~中小企業の赤字企業の割合は、28.6%から42.1%に増加~

6.1

4.9

13.6

9.5

49.3

38.5

57.5

47.5

10.3

14.5

9.2

14.5

12.8

16.4

10.7

16.5

21.5

25.7

9.0

12.1

0% 100%

大企業(直近)

中小企業(直近)

大企業(1期前)

中小企業(1期前)

9 中小企業庁の委託によりみずほ総合研究所(株)が実施。2009年11月に企業20,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率29.7%。

Page 7: 第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

40 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

こうした状況を踏まえ、政府は、2008年11月に「中小企業向け融資の貸出条件緩和が円滑に行われるための措置」を講じ、貸出条件の緩和を行っても実現可能性の高い抜本的な経営再建計画

があれば貸出条件緩和債権に該当しないという取

扱を変更し、「抜本的」という要件について、中小企業については、これまでの「概ね3年後に正常先」から、「概ね5年(5年から10年で計画通りに進捗している場合を含む)後に正常先(計画終了後に自助努力により事業の継続性を確保でき

る場合は、要注意先も含む)」とする緩和を行い、これにより金融機関は、より柔軟に条件緩和に応

じることができるという環境が整備された。ま

た、2008年12月には、銀行等の自己資本比率規制10の一部を弾力化する監督上の時限措置を講じ、

特に国内基準行 11においては国債・株式・社債等

の評価損を自己資本に反映しないという取扱に

なった。さらに、2009年3月には、信用保証協会の保証付き融資に係る自己資本比率規制上のリス

ク・ウェイトを10%から緊急保証付き融資であれば0%にするという措置も講じ、中小企業の資金繰り円滑化を後押しした。

以上では、リーマン・ショックを発端とした経

済危機が、株価下落や信用不安等の資本市場を通

じて、我が国の中小企業に及ぼした影響を分析し

た。こうした中、政府は、中小企業の資金調達を

円滑化するため、緊急保証制度を創設するなど、

中小企業対策を講じてきたが、その内容について

は第1部第2章第2節で論じる。

10 国際決済銀行(BIS)のバーゼル銀行監督委員会において、国際銀行システムの健全性と安全性を強化することや、国際業務に携わる銀行間の競争上の不平等の要因を軽減することを目的として定められた合意(バーゼル合意)に基づく国際規制。

11 国外拠点を有さない金融機関であり、主として地方銀行・第二地方銀行を指す。

Column コラム 1-2-1

中小企業の経営上の目標として上場を挙げている経営者も多い。企業の上場の傾向を見ると、リーマン・ショック後の景気後退の中、2009年には、新規株式上場企業数は、直近のピークである2006年の188件の約10分の1である19社と大幅に減少した一方、上場廃止企業数は、2006年の89社の約1.8倍である163社に増加した(コラム1-2-1図①)。

コラム1-2-1図① 新規株式上場企業数及び上場廃止企業数

158

188

121

49

19

9989

114

149163

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

0908070605

新規株式上場社数 上場廃止企業数

(件)

(年)

~直近のピークである2006年の件数に比べ、2009年には新規株式上場企業数は、約10分の1まで減少し、上場廃止企業数は、約1.8倍に増加した~

資料:(財)ベンチャーエンタープライズセンター「2009年ベンチャービジネスの回顧と展望」(2010年1月)、(株)帝国データバンク「上場廃止企業実態調査」(2009年12月)

(注) 2009年の上場廃止企業数は、上場廃止予定分を含む。

大幅に減少した新規株式上場企業数

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41中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

2 輸出急減等の財市場を通じた影響

前項では、株価下落や信用不安等の資本市場を

通じた中小企業への影響を見たが、本項では、

リーマン・ショック後の輸出急減等の財市場を通

じた影響を見ていく。

第1部第1章で示したように、我が国の輸出額は、リーマン・ショック後に急減し、GDP成長率の低下に大きく寄与した。輸出は、足下で改善

傾向にあるが、リーマン・ショック発生前と比較

すると水準自体は依然として低い。我が国におけ

る鉱工業の輸出及び国内の出荷指数を見ても、

リーマン・ショック以降、輸出の出荷指数が急激

に減少し、国内の出荷指数と同水準に落ち込んだ

ことが分かる(第1-2-9図)。

第 1-2-9図輸出及び国内の出荷指数

資料:経済産業省「鉱工業出荷内訳表」

~リーマン・ショック以降、輸出の出荷指数は、国内の出荷指数と同水準まで急減~

70

80

90

100

110

120

130

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1

10090807

(2005年=100)

(年月)

輸出 国内

次に、株式上場を予定・希望していたにもかかわらず、株式上場を中断・延期した理由を見ると、「株式市場の低迷」が71.6%、「収益悪化による上場基準の未達」が51.6%であり、リーマン・ショックは、新規株式上場を目指す中小企業にも大きな影響を及ぼしたことがうかがえる(コラム1-2-1図②)。

コラム1-2-1図② 株式上場の中断・延期の理由

71.6

51.6

33.8

18.28.9 8.4

01020304050607080

~「株式市場の低迷」、「収益悪化による上場基準の未達」と回答する企業が多い~

資料:(株)帝国データバンク「株式上場予定・希望企業の動向調査」(2009年12月)(注) 1.株式上場の意向を持つと見られる企業4,346社を対象に実施したアンケート調査。回収率36.9%。   2.複数回答であるため、必ずしも合計は100にならない。

(%)

株式市場の低迷

内部体制の

整備の困難

その他

収益悪化による

上場基準の未達

コストや手間の

負担が経営を圧迫

作業を手がける

人材の確保の困難

こうした状況の中、政府としては、上場を目指す経営者の政策ニーズに対応すべく、①中小企業投資育成株式会社の株式等の引受による長期安定投資及びコンサルティング(制度創設から2009年3月末までの累計投資先4,222社、累計出資額2,046億円)②(独)中小企業基盤整備機構によるベンチャー企業等(主に設立7年未満の企業)を対象として、資金面、経営面からの支援を実施する「ベンチャーファンド」(制度創設から2010年1月末までの累計投資先2,091社、累計出資額1,440億円)等の各種ファンドによる支援等、中小企業の株式上場に対する支援を実施している。また、株式会社産業革新機構による事業、株式会社企業再生支援機構による再生支援等を通じて、中小企業の株式上場が促進されることも期待される。

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42 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

第 1-2-10図規模別の輸出額

▲20▲100102030

3

4

5

6

7

8

~リーマン・ショック後、中小企業性製品の輸出額は、前年同月比で半減した~

(%)(兆円)

▲60▲50▲40▲30

0

1

2

121110987654321 121110987654321 121110987654321

090807(年月)

資料:中小企業庁「規模別輸出額・輸入額」(注)1.中小企業性製品(大企業性製品)とは、日本標準産業分類細分類で中小事業所(大事業所)の出荷額が70%以上(2005

年基準)を占めるものをいい、共存業種製品とは、この両者に分類されないものをいう。2.ここでいう規模別とは、大企業性、中小企業性、共存業種別をいう。

中小企業性製品(左軸)

中小企業性製品(前年同月比、右軸)

共存業種製品(左軸)

共存業種製品(前年同月比、右軸)

大企業性製品(左軸)

大企業性製品(前年同月比、右軸)

次に、大企業性製品及び中小企業性製品、共存

業種製品の輸出額を見てみると、2008年10月以降、中小企業性製品の輸出額は、前年同月比で半

減した(第1-2-10図)。

こうした輸出急減の影響を受けたのは、輸出を

直接行う企業だけではない。第1-2-11図は、中小企業庁「2005年規模別産業連関表」(以下「規模別産業連関表」という)を用いて、規模別の製造業の直接及び間接の輸出関連生産の割合 12を示し

たものである。直接及び間接の輸出関連生産の割

合は、中小企業については、輸送機械製造業が

53.6%、電気機械製造業が53.0%、非鉄金属製造業が52.5%となっている。このうち輸送機械製造業、非鉄金属製造業において、間接の輸出関連生

産の割合が直接の輸出関連生産の割合より高く

なっており、輸出を直接行わない企業であっても

こうした業種を中心に生産が減少したことが考え

られる。

次に、自動車(新車)の輸出額が、2008年7-9月期と比較して、2009年1-3月期までに約7,000億円減少 13したことを例として、中小企業と大企

業の生産額に与えた間接的影響を規模別産業連関

表を用いて試算してみる。それによると、自動車

(新車)を直接輸出する企業の生産額の減少分の約7,000億円に加えて、製造業においては、大企業で約8,300億円、中小企業で約4,000億円、非製造業においては、大企業で約1,100億円、中小企業で約1,400億円の生産額が減少したと試算され、実際に自動車(新車)をほとんど輸出していない輸送機械製造業の中小企業のみならず、非製造業

にも影響が及んだことがうかがえる(第1-2-12図)。

12 直接の輸出関連生産の割合とは、各産業から輸出した額が当該産業の生産額に占める割合。間接の輸出関連生産の割合とは、全産業の輸出により誘発される各産業の生産額から輸出した額を差し引いた額が当該産業の生産額に占める割合。

13 財務省「貿易統計」によると、自動車(新車)の輸出額は、2008年7-9月期から2008年10-12月期までに2,498.28億円、2008年10-12月期から2009年1-3月期までに4,443.39億円、合計で6,941.67億円の減少となった。

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43中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

第 1-2-12図自動車(新車)の輸出額の減少が生産額に与えた間接的影響

資料:中小企業庁「2005年規模別産業連関表」、総務省「家計調査」、財務省「貿易統計」を用いて中小企業庁委託によりみずほ総合研究所(株)試算。

(注) 1.自動車(新車)の輸出減少額(6,942億円)は、2008年7-9月期から2008年10-12月期及び2008年10-12月期から2009年1-3月期までの減少額を使用(前期比)。

   2.自動車(新車)の輸出減少額は、全額大企業とした。   3.規模別産業連関表において大企業・中小企業の区分のない業種は除いている。

輸送機械製造業 輸送機械製造業以外

~自動車(新車)の輸出額が約7,000億円減少した場合、生産額は製造業において、大企業で約8,300億円、中小企業で約4,000億円減少したと試算される~

▲ 5,310

▲ 2,022

▲ 2,954

▲ 1,984

▲ 1,132 ▲ 1,382

▲ 9,000

▲ 8,000

▲ 7,000

▲ 6,000

▲ 5,000

▲ 4,000

▲ 3,000

▲ 2,000

▲ 1,000

0非製造業(中小企業)非製造業(大企業)製造業(中小企業)製造業(大企業)(億円)

第 1-2-11図規模別の直接及び間接の輸出関連生産の割合(製造業)

資料:中小企業庁「2005年規模別産業連関表」

直接間接

~中小企業については、輸送機械製造業、電気機械製造業、非鉄金属製造業において直接及び間接の輸出関連生産の割合が高く、このうち輸送機械製造業、非鉄金属製造業において、間接の輸出関連生産の割合が直接の輸出関連生産の割合より高い~

0

10

20

30

40

50

60

大企業 中小企業

大企業 中小企業

大企業 中小企業

大企業 中小企業

大企業 中小企業

大企業 中小企業

大企業 中小企業

大企業 中小企業

大企業 中小企業

大企業 中小企業

精密機械輸送機械電気機械一般機械金属製品非鉄金属鉄鋼化学製品印刷製造業計

(%)

22.512.2

0.8 0.7

21.5

9.8 12.15.4

18.4 14.46.7 4.5

32.623.4

37.5 36.732.0

14.9

42.832.4

17.1

14.6

10.9 10.9

17.8

17.6

35.3

36.7

30.8 38.1

11.3 13.7

8.1

9.7

14.5 16.320.3

38.7

2.7

3.5

また、輸出への関与の有無別にリーマン・

ショックが中小企業に及ぼした影響を見てみる

と、リーマン・ショック前の2008年7-9月期までは、輸出への関与ありの企業の業況判断DI(水準)は、輸出への関与なしの企業の業況判断DI

(水準)を上回っていたが、リーマン・ショック後の2008年10-12月期からは、輸出への関与ありの企業の業況判断DI(水準)が、輸出への関与なしの企業の業況判断DI(水準)を下回ったことが分かる(第1-2-13図)。

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44 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

第 1-2-13図輸出への関与の有無別の中小企業の業況判断DI(水準)

▲ 90.0

▲ 80.0

▲ 70.0

▲ 60.0

▲ 50.0

▲ 40.0

▲ 30.0

▲ 20.0

▲ 10.0

0.0

ⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠ10090807

輸出への関与あり 輸出への関与なし

~ 2008年10-12月期以降、輸出への関与ありの企業の業況判断DI(水準)は、輸出への関与なしの企業の業況判断DI(水準)を下回っている~

資料:中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」再編加工(注) 業況判断DI(水準)は、今期の業況が「良い」と答えた企業の割合(%)から、「悪い」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。

(DI)

(年期)

「経済危機下における企業の取引実態調査 14」によって輸出への関与ありの中小企業と輸出への関

与なしの中小企業の売上を確認してみても、リー

マン・ショック後、売上が悪化したと回答した企

業の割合は、2009年1-3月期に輸出への関与ありの中小企業で68.6%、輸出への関与なしの中小企業で54.8%となっており、輸出への関与ありの中小企業で売上が悪化していると回答する企業が多

い(第1-2-14図)。一方、足下で売上が好転したと回答した企業の割合は、輸出への関与ありの中

小企業で21.9%、輸出への関与なしの中小企業で10.2%となっており、輸出を中心とする持ち直しが、輸出への関与ありの中小企業の売上の回復に

寄与したことが考えられる。このように、輸出増

減に対する反応度は輸出への関与ありの中小企業

で高いと考えられる。

14 中小企業庁が実施。2009年11月に企業15,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率42.2%。

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45中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

第 1-2-14図輸出への関与の有無別の売上

資料:中小企業庁「経済危機下における企業の取引実態調査」(2009年11月)(注) 1.中小企業のみを集計している。   2.「輸出取引がある」と回答した中小企業を輸出への関与ありの中小企業とし、それ以外を輸出への関与なしの中小企業とし

ている。

悪化不変好転

~輸出取引がある中小企業の約7割が2009年1-3月期に売上が悪化~

0102030405060708090100

Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ0908

(%)

0102030405060708090100

Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ0908

(%)輸出への関与あり 輸出への関与なし

(年期)(年期)

38.5

56.368.6

55.044.0 39.6 45.2

54.8 57.5 55.0 53.9

8.5 7.1 12.9 21.5 21.9

35.224.3

32.0

7.0 6.3 7.3 10.5 10.2

47.838.9 35.2 34.5 35.9

34.5

3 中小企業の雇用への影響

ここまでは、リーマン・ショック後に我が国の

中小企業が資本市場及び財市場を通じて受けた影

響について分析を行った。次に、リーマン・

ショック後の中小企業が雇用面で受けた影響を見

ていくこととする。

初めに、リーマン・ショック後の我が国の雇用

情勢を概観していく。有効求人倍率は、第1章で分析したようにリーマン・ショック前より低下傾

向であったが、リーマン・ショック後、更に低下

傾向を強め、足下でも依然として低い水準で推移

している。完全失業率は、リーマン・ショック発

生以降、急激に上昇し、2009年7月には過去最悪

の5.6%を記録することとなり、その後やや低下傾向を見せているものの、依然として高い数値を

示している。

次に、規模別の新規求人数を見ていく。第1-2-15図は、新規求人数の伸び率の増減を規模別に要因分解したものであるが、新規求人数は、すべ

ての規模で減少しており、特に小規模な事業所で

は、新規求人数の減少が大きいことが分かる。

こうした傾向は、就職を控えた学生に対しても

及んでいると考えられ、第1-2-16図を見ても、2010年3月卒の大卒求人倍率は、2009年3月卒の大卒求人倍率に比べ低下していることが分かる。

以上、第2項では、輸出急減等の財市場を通じた影響について言及し、今回の経済危機では我が

国の輸出が急減し、輸出関連の製品を製造してい

る業種を中心に中小企業も深刻な影響を受けたこ

とを見た。しかしながら、今後アジアを中心とす

る国外の需要が拡大すると見込まれており、中小

企業はリーマン・ショック後の厳しい経済情勢を

克服して、輸出及び直接投資を行うこと等により

国外の需要を取り込んでいくことも重要となる。

こうした需要の取り込み等のための中小企業の国

際化については第2部第2章で取り上げる。

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46 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

第 1-2-15図規模別の新規求人数の伸び率の要因分解(前年同月比寄与度)

▲ 40

▲ 35

▲ 30

▲ 25

▲ 20

▲ 15

▲ 10

▲ 5

0

5

100908

~新規求人数は、特に小規模な事業所で減少~

資料:厚生労働省「職業安定業務統計」(注) 求人にはパートタイムを含む。

(前年同月比、%)

(年月)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2

30 ~ 99人 100 ~ 299人 300人以上 全規模29人以下

第 1-2-16図規模別の大卒求人倍率

資料:(株)リクルートワークス研究所「第26回ワークス大卒求人倍率調査」(2009年4月)(注) 大卒求人倍率=求人総数/民間企業就業希望者数。

1,000人未満 1,000人以上

~ 2010年3月卒の大卒求人倍率は、2009年3月卒の大卒求人倍率に比べ低下~

2.01

2.733.11

1.881.55

1.78

2.36 2.302.55 2.53

2.77

3.42

4.22 4.26

3.63

0.32 0.36 0.54 0.57 0.49 0.48 0.53 0.52 0.50 0.56 0.68 0.75 0.77 0.770.55

0.096年3月卒

97年3月卒

98年3月卒

99年3月卒

00年3月卒

01年3月卒

02年3月卒

03年3月卒

04年3月卒

05年3月卒

06年3月卒

07年3月卒

08年3月卒

09年3月卒

10年3月卒

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5(倍)

Page 14: 第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

47中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

第 1-2-17図規模別の離職理由

資料:総務省「労働力調査」再編加工(注) 1.仕事を探していた人を集計している。   2.前にしていた仕事の勤め先の全体の従業者数が499人以下(卸売業、小売業、飲食店、サービス業は99人以下)を中小企業、

中小企業以外を大企業とする。   3.前職を過去3年以内に辞めた者を集計している。また、前職の産業が農林水産業、公務、分類不能の産業だった者は除いている。   4.離職理由を「より良い条件の仕事を探すため」及び「結婚・出産・育児のため」、「介護・看護のため」、「家事・通学・結婚

上の理由のため」と回答した者を「自発的な離職」、「会社倒産・事業所閉鎖のため」及び「人員整理・勧奨退職のため」、「事業不振や先行き不安のため」、「定年又は雇用契約満了」と回答した者を「非自発的な離職」とした。

~非自発的な離職者の数は、大企業、中小企業ともにリーマン・ショック後に増加~

0102030405060708090100

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ0908

自発的な離職 大企業 自発的な離職 中小企業

非自発的な離職 大企業 非自発的な離職 中小企業(万人)

(年期)

第 1-2-18図仕事に就けない理由

資料:総務省「労働力調査」(注) 仕事を探していた人を集計している。

~リーマン・ショック以降、「希望する種類・内容の仕事がない」、「条件にこだわらないが仕事がない」とする求職者の数が増加~

0

20

40

60

80

100

120

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ0908

(万人)

(年期)

賃金・給料が希望とあわない求人の年齢と自分の年齢とがあわない希望する種類・内容の仕事がないその他

勤務時間・休日などが希望とあわない自分の技術や技能が求人要件に満たない条件にこだわらないが仕事がない

第1-2-17図は、規模別の離職理由を示したものである。非自発的な離職者の数は、大企業、中小

企業ともにリーマン・ショック後、増加している

ことが分かる。

また、第1-2-18図は、求職者が仕事に就けない理由を示したものであるが、リーマン・ショック

後、「希望する種類・内容の仕事がない」、「条件

にこだわらないが仕事がない」とする求職者の数が増加しており、企業が雇用を絞っている可能性

があることが見て取れる。

Page 15: 第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

48 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

こうした動きの拡大に伴い、新規学卒者の内定

取消しや非正社員の雇止め等の問題が顕在化し、

2008年末から2009年初にかけていわゆる「年越し派遣村」が設置され、社会問題化した。このように、リーマン・ショック後の雇用情勢は、中小

企業で働く労働者にとっても非常に厳しいもので

あった。

以上では、中小企業における雇用情勢が非常に

厳しい状況に置かれていることを見てきた。以下

では、こうした厳しい状況の中、中小企業は自社

の雇用の存り方をどのように考え、どのような行

動を取ったのかを見ていく。

初めに、企業の損益と経済危機の影響による従

業員の削減の有無の関係を見ると、2009年11月時点において「大幅な赤字」と回答した企業で、経済危機の影響による従業員の削減を行っている

割合が高い(第1-2-19図)。

第 1-2-19図経済危機の影響による従業員の削減の有無(損益別)

資料:中小企業庁委託「企業の雇用情勢及び政府の支援施策に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))

(注) 中小企業のみを集計している。

ある ない

~「大幅な赤字」と回答した企業で、経済危機の影響による従業員の削減を行っている割合が高い~

18.9

16.2

21.9

24.3

40.1

81.1

83.8

78.1

75.7

59.9

0% 100%

大幅な黒字

若干の黒字

収支トントン

若干の赤字

大幅な赤字

次に、第1-2-20図は、経済危機の影響による従業員削減の有無を規模別に示したものであるが、

経済危機の影響を受けて従業員の削減を行った企

業の割合は、小規模な企業ほど低いことが見て取

れる。

第 1-2-20図経済危機の影響による従業員の削減の有無(規模別)

資料:中小企業庁委託「企業の雇用情勢及び政府の支援施策に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))

ある ない

24.2

30.1

34.0

40.5

41.3

44.7

75.8

69.9

66.0

59.5

58.7

55.3

0% 100%

5人以下

6~ 20人

21~ 50人

51~ 100人

101 ~ 300人

301人以上

~小規模な企業ほど、経済危機の影響による従業員の削減を行っている割合が低い~

中小企業では、大企業に比べてその従業員数が

少ないこと、従業員の削減の余地が小さいこと等

を勘案する必要があるが、リーマン・ショック後

も雇用維持に努力した中小企業が存在しているこ

とを示しているといえよう。また、第1-2-15図では、規模が小さい事業所で新規求人数が減少して

いることを示したが、これらの結果を踏まえる

と、中小企業は新規求人を控え、その分、現に雇

用している従業員の雇用の維持を優先させていた

可能性があることが推察される。第1-2-21図は、経済危機の影響により従業員を削減していない理

由を示したものであるが、「会社として雇用確保を優先しているため」という回答が5割を超えており、自社の従業員の雇用維持を優先する経営者

の姿勢がうかがわれる。

Page 16: 第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

49中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

第 1-2-21図経済危機の影響により従業員を削減していない理由

資料:中小企業庁委託「企業の雇用情勢及び政府の支援施策に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))(注) 1.中小企業のみを集計している。   2.複数回答であるため、合計は必ずしも100にならない。

~「会社として雇用確保を優先しているため」と回答する中小企業が5割を超える~

14.66.4

56.3

11.918.7

5.6

18.1

その他

ワーク

シェアリングを

導入したため

賃金抑制を

行ったため

不採算部門の

見直し等の無駄を

排除したため

会社として

雇用確保を

優先しているため

新規に進出する

事業分野に

充当するため

既存事業が

拡大しているため

0

10

20

30

40

50

60(%)

第 1-2-22図経済危機において実施した雇用関連の取組

資料:中小企業庁委託「企業の雇用情勢及び政府の支援施策に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))(注) 1.中小企業のみを集計している。   2.複数回答であるため、合計は必ずしも100にならない。

~「役員の給与の削減」と回答する中小企業が49.1%である一方、「従業員の給与の削減」と回答する中小企業が27.4%、「新卒採用活動の停止」、「中途採用活動の停止」、「正社員の削減」、「パート・アルバイトの削減」と回答する中小企業もそれぞれ約20%存在~

21.5 21.1

1.3

18.0 17.212.5

7.63.5

27.4

49.1

8.6

その他

役員の

給与の削減

従業員の

給与の削減

請負契約の

解除

有期契約

社員の

更新中止

派遣労働者の

契約解除

パート・

アルバイトの

削減

正社員の削減

新卒内定の

取り消し

中途採用

活動の停止

新卒採用

活動の停止

0

10

20

30

40

50

60(%)

では、リーマン・ショック後に、中小企業は雇

用を維持するためにどのような取組を行ったので

あろうか。第1-2-22図は、経済危機において中小企業が実施した雇用関連の取組であるが、「役員の給与の削減」と回答する中小企業が49.1%存在しており、役員を中心に給与を削減する努力を

行ったことが見て取れる。

一方、「従業員の給与の削減」と回答する中小企業が27.4%、「新卒採用活動の停止」、「中途採

用活動の停止」、「正社員の削減」、「パート・アルバイトの削減」と回答する中小企業もそれぞれ約20%存在しており、リーマン・ショック後の厳しい経営環境の中、雇用を維持するためには、経営

陣の努力だけでは限界があり、従業員に負担を求

めざるを得ない状況がうかがえる。今回の経済危

機を乗り越えるためには、経営陣と従業員とが一

丸となった努力が必要であるといえよう。

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50 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

こうした中、中小企業は、自らの雇用維持・拡

大について、どのような取組が重要であると考え

るのであろうか。第1-2-23図は、中小企業が雇用維持・拡大する上で重要と考えている事項を示し

たものであるが、中小企業が「特に重要である」、「重要である」と考えている取組は、「賃金調整

(基本給、ボーナスのカット等)」が最も多く、第1-2-22図で見たように、一定程度の企業においても実際に取り組まれている。また、「採用計画の見直し」や「労働時間短縮」についても重要と考えている。

第 1-2-23図雇用維持・拡大する上で重要な取組

資料:中小企業庁委託「企業の雇用情勢及び政府の支援施策に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))(注) 1.中小企業のみを集計している。   2.「特に重要である」、「重要である」と回答のあった中小企業の割合を集計している。   3.複数回答であるため、合計は必ずしも100にならない。

~「賃金調整(基本給・ボーナスのカット等)」と回答する中小企業が最も多く、「採用計画の見直し」、「労働時間短縮」という回答も多い~

56.4

74.9

59.5

22.5

36.7

22.9 23.628.6

34.4

18.4

その他

ワークシェアリングの導入

非正社員を正社員に登用

正社員と非正社員の

処遇均衡化

正社員から非正社員への

切り替え

定年延長の見直し

希望退職者の募集

採用計画の見直し

賃金調整(基本給、

ボーナスのカット等)

労働時間短縮

01020304050607080

(%)

以上では、リーマン・ショック後に中小企業の

雇用情勢が急速に悪化し、中小企業の経営者や従

業員、求職者が非常に厳しい環境に置かれている

ことを見た。こうした状況の下、中小企業では総

じて雇用の過剰感が高まっているが、業種によっ

ては新たな雇用を必要としている中小企業も存在

している。こうした業種間の雇用のミスマッチや

中長期的な視点からの雇用の存り方については第

2部第1章第3節で論じる。

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51中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

4 前回の景気後退との比較

ここまでは、リーマン・ショック後の世界的な

経済危機について、株価下落や信用不安等の資本

市場を通じた影響、輸出急減等の財市場を通じた

影響、中小企業の雇用への影響を見てきた。本項

では、今回の景気後退の特徴をより鮮明にするた

め、前回の景気後退と比較し、分析を行う。

●業況感

まず、業況感を見ていく。第1-2-24図は、日銀短観を用いて業況判断DIを示したものであるが、リーマン・ショック後、大企業の業況判断DIは、2009年1-3月期に▲45、中小企業の業況判断DIは、2009年4-6月期に▲49で底を打った。前回の景気後退では、大企業と中小企業の業況

判断DIは、2002年1-3月期に▲31、▲46でともに底を打っており、今回の景気後退では、大企業

の業況判断DIが前回の景気後退より悪化したこ

とが特徴である。また、中小企業の業況判断DIは、前回の景気後退の底で▲46、今回の景気後退の底で▲49と大きな差が無いように見えるが、各DIの山と谷の差は、2007年1-3月期と2009年4-6月期の間で49ポイント、2000年10-12月期と2002年1-3月期の間で26ポイントであり、今回の景気後退ではその差がより大きかったことが分か

る。さらに、前回の景気後退と今回の景気後退で

は、業況判断DIの低下速度に違いがある。前回の景気後退では、1四半期の間で下落幅が最大の期間は、2001年7-9月期であり、大企業で11ポイント、中小企業で9ポイント下落した。今回の景気後退において下落幅が最大の期間は、2009年1-3月期であり、大企業で29ポイント、中小企業で19ポイント下落した。この結果から今回の景気後退は、前回に比べて、業況感の低下が急激で

あったことが分かる。

第 1-2-24図規模別の業況判断DI

大企業 中堅企業 中小企業

~今回の景気後退では、業況判断DIが急激に悪化した~

(年期)

▲ 60.0

▲ 50.0

▲ 40.0

▲ 30.0

▲ 20.0

▲ 10.0

0.0

10.0

20.0

30.0(DI)

ⅠⅡⅢⅣ ⅠⅡⅢⅣ ⅠⅡⅢⅣ ⅠⅡⅢⅣ ⅠⅡⅢⅣ ⅠⅡⅢⅣ ⅠⅡⅢⅣ ⅠⅡⅢⅣ ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣ ⅠⅡⅢⅣ ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣ Ⅰ

97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

資料:日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」(注) 1.調査対象は約1万社。   2.業況判断DIは、今期の業況が「良い」と答えた企業の割合(%)から、「悪い」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。   3.大企業とは資本金10億円以上、中堅企業とは資本金1億円以上10億円未満、中小企業とは資本金2千万円以上1億円未満

の企業をいう。

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52 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

次に、業種別・規模別の業況判断DIを見ていく。第1-2-25図は、製造業、非製造業別の業況判断DIである。今回の景気後退では、リーマン・ショック後、製造業で大企業の業況判断DIが中

小企業と同程度まで低下しており、大手メーカー

等が輸出減少の影響を大きく受けたことが考えら

れる。

第 1-2-25図業種別・規模別の業況判断DI

資料:日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」(注) 1.調査対象は約1万社。   2.業況判断DIは、今期の業況が「良い」と答えた企業の割合(%)から、「悪い」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。   3.大企業とは資本金10億円以上、中堅企業とは資本金1億円以上10億円未満、中小企業とは資本金2千万円以上1億円未満

の企業をいう。

大企業(製造業)

大企業(非製造業)

中堅企業(製造業)

中堅企業(非製造業)

中小企業(製造業)

中小企業(非製造業)

~今回の景気後退では、製造業で大企業の業況判断DIが中小企業と同程度に低下~

ⅠⅡ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ ⅠⅡ Ⅲ Ⅳ97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(DI)

(年期)

▲ 70.0

▲ 60.0

▲ 50.0

▲ 40.0

▲ 30.0

▲ 20.0

▲ 10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

●資金繰り、借入難易度

次に、資金繰り、借入難易度を見ていく。第

1-2-26図は、資金繰り判断DIを示したものであるが、業況判断DIと同様に、リーマン・ショック後の資金繰り判断DIは、前回の景気後退に比べて急激に低下した。また、2009年1-3月期には、大企業において、製造業の資金繰り判断DIがマイナスになり、非製造業の資金繰り判断DIが0になるなど、前回の景気後退とは異なり、大企業

の資金繰りにも大きな影響が及んだことが特徴で

ある。

また、第1章で示したとおり、中小企業の借入難易度DIは、今回の景気後退では、長期資金借入難易度、短期資金借入難易度ともに、2009年1-3月期で底を打ち、足下では持ち直しの動きが見られる。一方、前回の景気後退では、2002年1-3月期以降もしばらくは借入難易度DIが改善せず、厳しい状況が続いた。今回の景気後退で足下

の借入難易度DIが改善しているのは、政府による中小企業金融対策が一因であると考えられる

が、詳細は第1部第2章第2節で分析する。

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53中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

第 1-2-26図資金繰り判断DI

資料:日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」(注) 1.調査対象は約1万社。   2.資金繰り判断DIは、今期の資金繰りが「楽である」と答えた企業の割合(%)から、「苦しい」と答えた企業の割合(%)を引

いたもの。   3.大企業とは資本金10億円以上、中堅企業とは資本金1億円以上10億円未満、中小企業とは資本金2千万円以上1億円未満

の企業をいう。

大企業(製造業)

大企業(非製造業)

中堅企業(製造業)

中堅企業(非製造業)

中小企業(製造業)

中小企業(非製造業)

~今回の景気後退では、前回の景気後退と異なり、大企業の資金繰りにも大きな影響が及んだことが特徴~

Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ Ⅱ Ⅲ ⅣⅠ ⅠⅡ Ⅲ Ⅳ97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(DI)

▲ 30.0

▲ 20.0

▲ 10.0

0.0

10.0

20.0

(年期)

●輸出

次に、輸出の動向を見ていく。今回の景気後退

では、前回の景気後退に比べ輸出額が急激に減少

した。前回の景気後退においては、貿易収支は黒

字を維持していたが、今回の景気後退では、貿易

収支が赤字に転じたことが大きな特徴である(第1-2-27図)。

第 1-2-27図貿易収支

▲ 8

▲ 6

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

▲ 2.0

▲ 1.5

▲ 1.0

▲ 0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

輸出額(左軸) 輸入額(左軸) 貿易収支(右軸)

~今回の景気後退では、貿易収支が赤字に転じたことが大きな特徴~

資料:日本銀行「国際収支状況」(注) 1.輸入額の値はマイナスで表示。

2.財務省「貿易統計」の輸出額及び輸入額を季節調整したもの。

(兆円)

(年月)

(兆円)

(季節調整済)

97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 101 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 111

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54 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

第 1-2-28図輸出及び国内の出荷指数

70

80

90

100

110

120

130

輸出 国内

~今回の景気後退では、輸出の出荷指数が急激に低下~

資料:経済産業省「鉱工業出荷内訳表」

(2005年=100)

(年月)

98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 101 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1

我が国の鉱工業の輸出及び国内の出荷指数を見

ても、今回の輸出の出荷指数の落ち込みがいかに

急激であったのかが分かる(第1-2-28図)。

また、業種別の輸出の出荷指数を見ると、第1部第1章で分析した輸出比率の高い電子部品・デバイス工業、精密機械工業等の業種は、前回の景

気後退と比較して、今回の景気後退では急激に出

荷指数が低下していることが分かる(第1-2-29図)。

第 1-2-29図業種別の輸出の出荷指数

40

60

80

100

120

140

160

180

200

97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 1

10090807060504030201009998

~今回の景気後退では、輸出比率の高い業種の輸出の出荷指数が急激に低下~

資料:経済産業省「鉱工業出荷内訳表」

(2005年=100)

(年月)

鉱工業全体 電子部品・デバイス工業 精密機械工業 輸送機械工業

Page 22: 第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

55中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

第 1-2-30図輸出関連業種の製造工業生産指数(中小企業)

資料:中小企業庁「規模別製造工業生産指数」(注) 電子部品・デバイス工業は、2000年基準から採用された業種のため、1997年以前のデータは存在しない。

製造工業全体 電子部品・デバイス工業 精密機械工業 輸送機械工業

~中小製造業の生産指数は、今回の景気後退では、前回の景気後退よりも低い水準まで低下~

50

60

70

80

90

100

110

120

130

140

150

1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1

97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(2005年=100)

(年月)

輸出関連業種の中小製造業の生産指数の推移を

見てみても、前回の景気後退よりも低い水準に落

ち込んでいる(第1-2-30図)。

第 1-2-31図完全失業率及び有効求人倍率

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

5.5

6.0

11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 1197531 97531 97531 97531 97531 97531 97531 97531 97531 97531 97531 97531 97531 1

1009080706050403020100999897

完全失業率(左軸) 有効求人倍率(右軸)

~前回の景気後退と比べ、完全失業率、有効求人倍率ともに急激に悪化~

資料:総務省「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」

(%、季節調整値) (倍、季節調整値)

(年月)

以上から、前回の景気後退と比較して今回の景

気後退では、輸出比率の高い業種の企業が大きな

影響を受けたことが分かる。

●雇用

まず、完全失業率及び有効求人倍率を見ると、

今回の景気後退では、前回の景気後退と比べて完

全失業率、有効求人倍率ともに急激に悪化したこ

とが分かる(第1-2-31図)。

Page 23: 第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

56 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

第 1-2-32図規模別の新規求人数の伸び率の要因分解(前年同月比寄与度)

▲ 40

▲ 30

▲ 20

▲ 10

0

10

20

30

40

97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 11 97531 111

1009080706050403020100999897

資料:厚生労働省「職業安定業務統計」(注) 求人にはパートタイムを含む。

(前年同月比、%)

(年月)

~今回の景気後退では、前回の景気後退に比べ新規求人数の減少率が大きいこと、30人以上の規模の事業所でも新規求人数が大きく減少したことが特徴~

29人以下 30~ 99人 100 ~ 299人 300人以上 合計

次に、新規求人数の伸び率の増減を規模別に要

因分解したものを見ていく。前回の景気後退で

は、29人以下の規模の事業所で新規求人数の減少が全体の減少の約半分を占めており、30人以上の規模の事業所の新規求人数は大きく減少して

いない。一方、今回の景気後退では、新規求人数

の減少率が前回の景気後退に比べて大きいこと、

30人以上の規模の事業所でも新規求人数が大きく減少したことが特徴である(第1-2-32図)。

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57中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

Column コラム 1-2-2

リーマン・ショックに端を発した世界的な経済危機は、我が国の中小企業にとって非常に厳しい経営環境をもたらしたことはここまで述べてきたが、こうした厳しい経営環境においても好調を維持し続けている中小企業も少数であるが、存在している。中小企業景況調査を用いて、2008年10-12月期から2009年10-12月期の5四半期連続で前期に比べて業況が好転したと答えた企業を抽出したところ、21社の中小企業が該当した。これは、同期間における調査対象企業14,534社の0.14%にあたる。これらの中小企業の業種の内訳を見てみると、製造業6社、卸売業3社、小売業7社、サービス業5社であった。このように厳しい経済情勢の中、好調を維持する中小企業が業種にかかわらず存在していることが分かる。

不況の中で好調を維持する中小企業

第 1-2-33図雇用人員判断DI

▲ 30.0

▲ 20.0

▲ 10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠ97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(年期)

(DI)

資料:日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」(注) 1. 調査対象は約1万社。

2. 雇用人員判断DIは、今期の雇用人員が「過剰」と答えた企業の割合(%)から、「不足」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。

3. 大企業とは資本金10億円以上、中堅企業とは資本金1億円以上10億円未満、中小企業とは資本金2千万円以上1億円未満の企業をいう。

大企業(製造業)

大企業(非製造業)

中堅企業(製造業) 中小企業(製造業)

中堅企業(非製造業) 中小企業(非製造業)

~前回の景気後退に比べ、雇用の過剰感が製造業を中心に急激に上昇~

これらの結果を総合すると、今回の景気後退が

雇用に与えた影響は、前回の景気後退に比べて急

激で大きいものであったといえる。

以上、業況感、資金繰り、借入難易度、輸出、

雇用の長期時系列を用いて、今回の景気後退と前

回の景気後退との比較を行った。各指標におい

て、今回の景気後退では、前回の景気後退と比べ

て悪化の速度が急激であったことが分かり、特に

生産指数は最低水準を記録するなど、中小企業は

非常に厳しい状況に直面したといえよう。

また、業種別に雇用人員判断DIを見てみると、今回の景気後退では、前回の景気後退と比べて、

雇用の過剰感が製造業を中心に急激に上昇したこ

とが分かる(第1-2-33図)。

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58 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

ITの活用により自社の経営状態を常時把握し、絶え間ない経営改善に取り組む企業

沖縄県糸満市の株式会社JCC(従業員1,000名(正社員100名、パート・アルバイト900名)、資本金2,900万円)は、「沖縄文化の発信、自然回帰、健康志向」をコンセプトに和風、洋風、中華の各レストランの運営、健康食品の宅配、通信販売等を行う企業である。新型インフルエンザや景気後退に伴う観光客減により、沖縄県内のサービス業が軒並み景況を悪化させる中で、同社は利益を上げ続けているが、その秘訣は「スピード経営」にある。同社は、沖縄県内を中心に多くの店舗を保有しているが、ITの活用により全店舗の日次の売上や利益を瞬時に把握し、その状況に応じてきめ細かに対応することを可能にしている。売上が芳しくない店舗は、出店から数か月しか経っていなくても撤退を決めるなど迅速な経営を実現している。各店舗の店長は、これらの情報にアクセスでき、店舗間の競争意識を高めることにも役立っている。また、新規店舗の出店にあたっては、時間的、金銭的費用を抑えつつ飲食目的以外の客を取り込むために、単独路面店ではなく量販店内や商業施設のテナントに多く出店している。同社の渕辺俊一社長は「人が必然的に集まる空間に出店することが最も重要である。」と語る。同社は、2010年中の開業を目処に沖縄県南城市にリゾートホテルを建設するなどホテル事業への参入にも取り組んでおり、今後の更なる成長を目指している。

〔事例1-2-1〕C A S E

地域資源を活用した商品開発で需要を創出する企業

広島県呉市の有限会社瀬戸鉄工(従業員28名、資本金1,000万円)は、食品製造及び樹脂成形を行う企業である。1970年の設立当初は、主として自動車メーカーや弱電メーカーの樹脂の成形加工及びプレス加工を行っていた。同社が食品事業に参入したきっかけは、約20年前に瀬戸敏秀前社長が「地元の小学生がサッカーボールを蹴って骨が折れた。」という新聞記事を目にしたことである。記事を読んだ瀬戸前社長は、骨が丈夫になるカルシウムを子どもに摂取させるために、地元の瀬戸内海のいりこを利用することを思いついた。そこで、同社のプレス加工装置を使っていりこを加熱・加圧すると、サクサク食べられる煎餅ができあがったため、地元の小学校に無償で配布した。当初は商品化する予定はなかったが、小学生及び保護者から大きな反響があったことから、商品化を決断した。同社は、その後技術開発に積極的に取り組み、プレス加工技術を応用した乾燥食品焼成装置を開発し、特許を取得した。同装置で製造された煎餅は、①衛生面が優れている、②水分含有量が少なく長期保存できる、③簡単に食べられる、④加熱による栄養の損失がないという特長がある。同社には、不景気でも、高齢化の進行や高まる健康志向を背景に、地域資源の利用方法に悩んでいたり、未利用な素材を活用して廃棄に困っているものを活かして付加価値を創出したいと考える地元商工会や各地の調味料メーカー、小売店等から提携の依頼が殺到している。同社は、今後も地域資源を活かして販路開拓を行いたいと考えている。同社の瀬戸勝尋社長は、「付加価値を付け、差別化を図れる商品開発のアイディアを販売先にいかに分かりやすくプレゼンテーションするかが、需要創出のきっかけである。」と話す。

〔事例1-2-2〕C A S E

いりこを利用した煎餅

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59中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第1節

経済危機の中で雇用維持に努めている企業

愛知県豊橋市の株式会社樹研工業(従業員60名、資本金7,900万円)は、プラスチック製の小型精密部品を製造する企業である。同社は加工技術に優れており、世界最小規模の100万分の1グラム、直径0.149ミリメートルの歯車等の製造も可能としている。同社の売上は、携帯電話やデジタルカメラ等の精密機械部品が8割、自動車部品が2割を占めるが、自動車部品の一部がゼネラルモーターズのスピードメーターの部品であったため、リーマン・ショック後に受注が減少した。しかし、同社は、強固な財務体質を有しており、雇用調整を行う必要がなかった。こうした強固な財務体質は、同社の松浦元男社長が松下幸之助の「手形は切るな、身の丈にあった経営をしろ。」とい

う話をラジオで聞き、手形取引を止めることを決断したことから始まった。少額の手形取引から徐々に止めていき、現在は、全手形取引を廃止している。この結果、同社の自己資本比率は5割を超え、仮に売上が7〜8割減でも4〜5年、5割減でも10年は経営できる財務体質となった。松浦社長は、「従業員に安心を与え、希望を持って仕事できる職場づくりを行うことが経営者の責任であり、毎月給料

を払うこと、解雇はしないこと、毎年の定期昇給が重要。」と話す。同社に定年は無く、60歳、70歳といった従業員も若手社員と同じように毎年昇給している。こうした従業員が安心感と希望を持って仕事に臨める職場環境が、従業員の意欲を向上させ、より付加価値の高い製品を生み出すことを可能にしている。

〔事例1-2-3〕C A S E

1 中小企業金融対策

第1節で示したとおり、2008年秋以降、中小企業の資金繰りは悪化し、金融機関からの借入の難

易度が増すなど非常に厳しい状況が続いた。こう

した状況を踏まえ、政府は資金繰り対策として、

2008年10月に緊急保証制度の創設とセーフティネット貸付等の強化を行った。

緊急保証制度 15は、2008年10月31日に創設された制度であり、原油・原材料価格の高騰や仕入

価格の高騰の影響を強く受けている545業種の中小企業を対象としてスタートした。その後、指定

業種・事業規模が順次拡大されてきた。さらに、

2010年2月15日には、2009年度第2次補正予算成立を受けて、2010年3月31日で期限切れを迎え

る予定であった緊急保証制度を原則全業種の中小

企業が利用できる「景気対応緊急保証制度」に衣替えし、対象業種の指定業種や利用企業の認定基

準 16を改め、より使い勝手の良い制度とした。取

扱期間についても2011年3月末まで1年間の期間延長を行い、保証枠についても6兆円を追加して総額36兆円に引き上げるなど、より多くの中小企業が活用できるように措置を講じた(第1-2-34図、第1-2-35図)。緊急保証制度に関する実績を見ると、2010年3月31日には、保証承諾件数が103万件、保証承諾金額は19兆円を超えている(第1-2-36図)。

第1節では、リーマン・ショックを発端とした経済危機の影響を受け、我が国の中小企業が非常に厳しい状況にあることを示した。こうした状況を踏まえ、政府は累次の中小企業対策を

講じ、中小企業の支援に努めてきた。本節では、当該中小企業対策のうち資金繰りと雇用の支援を中心に論じていく。

中小企業対策の実施 Section 2第2節

15 「原材料価格高騰対応等緊急保証制度」及び「緊急保証制度」、「景気対応緊急保証制度」をまとめて「緊急保証制度」という。緊急保証制度の概要、予算額等はコラム1-2-3を参照。

16 2010年2月15日には、認定基準を緩和し、新たに売上減少(前々年比▲3%)基準を追加した。

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60 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

第 1-2-34図中小企業の資金繰り対策の事業規模

緊急保証制度 6兆円 20兆円 30兆円 36兆円

セーフティネット貸付等 3兆円 10兆円 17兆円 21兆円

2008年度第1次補正(緊急総合対策)

2008年度第2次補正(生活対策)

2009年度第1次補正(経済危機対策)

※対象業種の推移185業種制度開始前:

618業種(08/11/14)

698業種(08/12/10)

760業種(09/2/27)

781業種(09/6/23)

793業種(09/12/4)

例外除き全業種

(セーフティネット保証)

(株)日本政策金融公庫、(株)商工組合中央金庫による条件変更(内数)

事業規模合計 9兆円 30兆円 47兆円 57兆円

(2008年10月31日~)

(2008年10月1日~)

0.9兆円 3.3兆円 4.2兆円※(株)商工組合中央金庫の危機対応貸付(内数)(2009 年1月31日~)

2009年度第2次補正(緊急経済対策)

1.5兆円 3.3兆円

※景気対応緊急保証 制度の創設

545業種(08/10/31)

第 1-2-35図景気対応緊急保証制度

概要•対象業種を一部の例外業種を除き、原則全業種を指定(業種分類を大括り)•期間は、緊急保証制度の期限を1年延長し、2011年3月31日まで•緊急保証制度の30兆円の利用枠に、新たに6兆円追加(36兆円)

対象•指定業種に属し、売上減少(前年比▲3%)等について市区町村長の認定を受けた中小企業 ※企業認定基準を緩和し、新たに、売上減少(前々年比▲3%)基準を導入

内容•保証限度額8千万円(無担保)、2億円(有担保) ※信用力の高い事業者には8千万円を超える無担保保証ニーズにも柔軟に対応•信用保証協会の100%保証(責任共有制度の対象外)•保証期間は10年以内(据置期間は2年以内)•保証料率は0.8%以下

保証・融資審査•金融審査にあたって中小企業の経営実態を十分勘案するよう信用保証協会に基本方針を提示  例:2期連続の赤字を計上し、繰越損失を抱えている場合であっても、赤字の要因や取引先等からの    経営支援等を幅広く勘案した上で与信を総合的に判断•100%保証の趣旨を踏まえ、応分の貸出金利の引下げを経済産業大臣から金融機関に対して要請

また、第1-2-34図で見たように、セーフティネット貸付 17等 18についても、2008年10月以降、事業規模の拡大、金利の引下げ、資金使途の追加 19等

の措置が順次採られてきたが、「明日の安心と成長のための緊急経済対策」では、取扱期間が2011年

3月末まで1年間延長され、貸出条件の変更を含めた貸出枠も4兆円追加して総額21兆円となった。さらに、特に業況が悪化している中小企業や雇用

維持・拡大に取り組む中小企業に対する金利引下

げ措置についても延長・拡充した(第1-2-37図)。

17 (株)日本政策金融公庫が、社会的・経済的環境の変化の影響により、一時的に売上高や利益が減少しているものの、中長期的には業況が回復することが見込まれる中小企業に対して行う貸付。

18 セーフティネット貸付等には、危機対応貸付も含む。危機対応貸付とは、内外の金融秩序の混乱や大規模な災害等の危機時に(株)日本政策金融公庫の信用供与を受けて、指定金融機関((株)商工組合中央金庫、(株)日本政策投資銀行)が必要な資金を供給するもの。

19 2009年1月30日から、金融環境変化対応資金の資金使途に設備資金を追加した。

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61中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第2節

第 1-2-36図緊急保証制度の保証承諾実績(単月)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

3211211109876543211211100908

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

件数(左軸) 金額(右軸)

(兆円)

~ 2008年10月の制度開始以来、2010年3月31日には、保証承諾件数は103万件、保証承諾金額は19兆円を超えている~

(万件)

(年月)

資料:中小企業庁調べ(注) 緊急保証制度の2008年10月31日分は、2008年11月実績に含む。

2010年3月31日には、1,031,982件、19兆1,064億円の保証承諾実績(累計、速報値)

第 1-2-37図セーフティネット貸付等の延長・拡充等

概要

•社会的・経済的環境の変化の影響により、一時的に売上高や利益が減少しているものの、中長期的には業況が回 復することが見込まれる中小企業。

対象

•貸付限度額:中小企業事業(旧中小企業金融公庫) 7億2,000万円       国民生活事業(旧国民生活金融公庫) 4,800万円•貸付期間:8年以内(据置期間:3年以内)•貸付利率:基準利率(中小企業事業:1.75%(注)、国民生活事業:2.25%(注))。(注)貸付期間5年以内の基準利率(2010年4月14日現在)。利率は、担保の有無、返済期間その他個別の事情により変動。

○金利引下げ措置の延長・拡充特に業況が悪化している中小企業に対する▲0.3%の金利引下げ措置を延長(2011年3月末まで)。雇用維持・拡大に取り組む中小企業に対する▲0.1%の金利引下げを▲0.2%の金利引下げに拡充(2011年3月末まで)。無担保貸付等の円滑な実施のため、以下の金利引下げ措置を延長(2011年3月末まで)。•中小企業事業:上限金利(3%)の適用•国民生活事業:更に▲0.3%の引下げ

(株)日本政策金融公庫のセーフティネット貸付、(株)商工組合中央金庫による危機対応貸付等について、4兆円の事業規模を追加措置(総額21兆円の利用を想定)し、2011年3月末まで延長する。

○貸付条件((株)日本政策金融公庫・運転資金の場合)内容

事業規模の追加措置(株)日本政策金融公庫 (株)商工組合中央金庫

条件変更

3.3兆円→4.2兆円11.8兆円→13.4兆円

1.5兆円→ 3.3兆円

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62 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

第 1-2-38図セーフティネット貸付及び中小企業向け危機対応貸付の実績(単月)

(株)商工組合中央金庫(件数、左軸)(株)日本政策金融公庫(中小企業事業における件数、左軸)(株)日本政策金融公庫(国民生活事業における件数、左軸) (株)日本政策金融公庫(国民生活事業における金額、右軸)

(株)商工組合中央金庫(金額、右軸)(株)日本政策金融公庫(中小企業事業における金額、右軸)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3100908

05001,0001,5002,0002,5003,0003,5004,0004,500

~ 2010年3月31日には、貸付件数は40万件、貸付金額は8兆7千億円を超えている~

資料:中小企業庁調べ(注) 1.(株)日本政策金融公庫の国民生活事業及び中小企業事業におけるセーフティネット貸付並びに(株)商工組合中央金庫の

中小企業向け危機対応貸付の合計。   2.(株)商工組合中央金庫の危機対応貸付は、2009年1月31日取扱開始。

(億円)(件数)

(年月)

2010年3月31日には、貸付件数は 407,562件、貸付金額は8兆7,390億円(累計、速報値)

20 2009年4月27日に「緊急保証制度」に名称変更。

また、セーフティネット貸付及び中小企業向け

危機対応貸付の実績は、2010年3月31日には、貸付件数は40万件、利用金額は8兆7千億円を超えている(第1-2-38図)。

Column コラム 1-2-3

2008年10月31日に創設された緊急保証制度と、2010年2月15日に緊急保証制度の使い勝手を高めて変更された景気対応緊急保証制度は、合計2.7兆円の予算措置が講じられている。2008年8月29日に政府与党で決定された「安心実現のための緊急総合対策」を踏まえ、中小企業庁は「原材料価格高騰対応等緊急保証制度20」の導入を決定し、2008年度第1次補正予算で(株)日本政策金融公庫向けに出資金3,703億円、(社)全国信用保証協会連合会向けに経営安定関連保証等対策費補助金297億円の予算措置を講じた。その後、2008年度第2次補正予算及び2009年度第1次補正予算でも予算措置を講じている。2009年12月8日に閣議決定された「明日の安心と成長のための緊急経済対策」では、2010年3月31日で期限切れを迎える予定であった緊急保証制度について、その対象業種の指定基準や利用企業の認定基準を改め、例外業種を除き原則として全業種の中小企業が利用可能となる信用保証制度に変更(これに合わせて、名称を景気対応緊急保証制度に変更)することを決定した。その後の2009年度第2次補正予算で(株)日本政策金融公庫出資金8,315億円、経営安定関連保証等対策費補助金326億円の予算措置を講じた。

コラム1-2-3図 緊急保証制度実施のための予算措置(単位:億円)

2008年度 2009年度合計

第1次補正 第2次補正 第1次補正 第2次補正(株)日本政策金融公庫出資金 3,703 3,645 10,536 8,315 26,199

経営安定関連保証等対策費補助金 297 246 - 326 869

合計 4,000 3,891 10,536 8,641 27,068

2008年度 2009年度第1次補正 第2次補正 第1次補正 第2次補正

(参考)事業規模 6兆円 20兆円※14兆円追加

30兆円※10兆円追加

36兆円※6兆円追加

緊急保証制度実施のための予算措置

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63中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第2節

Column コラム 1-2-4

2008年10月に創設された緊急保証制度であるが、過去にも中小企業金融対策の措置として1998年10月から2001年3月にかけて特別保証制度21が実施されていた。現在と当時は、経済情勢も金融環境も違うため単純に比較することはできないが、以下では特別保証制度と2008年10月31日以降実施されている緊急保証制度との相違点を見ることとしたい。まず、制度要件であるが、特別保証制度の対象は、金融環境の変化により資金調達に支障をきたしている中小企業であった一方、緊急保証制度の対象は、全国的に業況が悪化している業種に属しており、最近3か月間の平均売上高等が前年同期比で3%以上の減少等の一定の要件を満たす中小企業である。1社当たりの保証額については特別保証制度が2億5千万円(無担保保証5千万円)であった一方、緊急保証制度の保証額は2億8千万円(無担保保証8千万円)である。また、保証期間については、特別保証制度が5年以内(設備資金のみ7年以内)であった一方、緊急保証制度は10年以内である。据置期間は、特別保証制度が1年以内であるのに対し、緊急保証制度が2年以内である22(コラム1-2-4図①)。さらに、特別保証制度の場合は、大幅な債務超過により事業継続が危ぶまれるなど、いわゆるネガティブリストに該当する場合以外は、原則として保証を承諾する方式を採っていたが、緊急保証制度では、個別に金融審査を実施した上で、保証の付与を判断することとしている。

コラム1-2-4図① 特別保証制度と緊急保証制度との相違点特別保証制度 緊急保証制度

対象 金融環境の変化により資金調達に支障をきたしている中小企業

指定業種に属し、売上減少(前年比▲3%(注))などについて市区町村の認定を受けている中小企業

資金使途 運転資金・設備資金 運転資金

1社当たりの保証限度額 2億5千万円(無担保保証5千万円)2億8千万円(無担保保証は原則8千万円。ただし、8千万円を超える無担保保証についても柔軟に対応。)

保証料率 0.75%以下 0.8%以下保証期間 運転資金5年以内、設備資金7年以内 10年以内据置期間 1年以内 2年以内

(注)2010年2月15日には、認定基準を緩和し、新たに売上減少(前々年比▲3%)基準を追加した。

次に、特別保証制度と緊急保証制度の利用状況について見ていく。コラム1-2-4図②は、特別保証制度と緊急保証制度の月次の保証承諾実績を示したものであるが、実施後4か月目からは緊急保証制度の保証承諾実績が特別保証制度の保証承諾実績を上回って推移している23。

コラム1-2-4図② 特別保証制度と緊急保証制度の保証承諾実績(金額)

26,060

46,368

40,879

31,078

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

50,000

特別保証制度 緊急保証制度

(億円)

9,766 9,837 11,314

5,042 4,398 5,508 4,915 4,500 6,040

3,991 5,313 7,795 8,169

14,965 16,829

20,770

8,361 7,832 10,651 9,801

7,561 9,188 5,835 6,303

10,913

4,617

0

5,000

10,000

15,000

20,000

資料:(社)全国信用保証協会連合会、中小企業庁調べ(注) 1.1か月目の起点は、特別保証制度は1998年10月、緊急保証制度は2008年11月。   2.緊急保証制度の2008年10月31日分は、2008年11月実績として1か月目に含む。

~実施後4か月目からは、緊急保証制度の保証承諾実績が特別保証制度の保証承諾実績を上回って推移~

1か月目

2か月目

3か月目

4か月目

5か月目

6か月目

7か月目

8か月目

9か月目

10か月目

11か月目

12か月目

13か月目

14か月目

15か月目

特別保証制度と緊急保証制度との相違

21 「中小企業金融安定化特別保証制度」を「特別保証制度」という。22 緊急保証制度における据置期間は、制度創設当初は1年以内であった。23 緊急保証制度においては、ネガティブリスト方式を採用しなくても、積極的に保証が行われている状況が見て取れる。

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64 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

コラム1-2-4図③は、特別保証制度と緊急保証制度の1件当たりの保証承諾金額を比較したものである。特別保証制度と比較すると緊急保証制度の方がその金額が大きくなっている。これは、緊急保証制度の1社当たりの保証限度額が特別保証制度より引き上げられていることも影響していると考えられる。

コラム1-2-4図③ 特別保証制度と緊急保証制度の1件当たりの保証承諾金額~ 1件当たりの保証承諾金額は、緊急保証制度の方が大きくなっている~

26.8

21.3

17.5 15.8

14.7 12.6 13.1 13.3 13.1 13.3 14.2

12.8 13.5 13.3

24.7 22.6

21.1 19.7 19.2

16.0 16.6 17.2 16.9 16.6 17.5

15.3 16.0 16.2 16.2

10

15

20

25

30

特別保証制度 緊急保証制度

(百万円)

0

5

10

1か月目

2か月目

3か月目

4か月目

5か月目

6か月目

7か月目

8か月目

9か月目

10か月目

11か月目

12か月目

13か月目

14か月目

15か月目

資料:(社)全国信用保証協会連合会、中小企業庁調べ(注) 1.1か月目の起点は、特別保証制度は1998年10月、緊急保証制度は2008年11月。   2.緊急保証制度の2008年10月31日分は、2008年11月実績として1か月目に含む。   3.単月の保証承諾金額/単月の保証承諾件数にて算出した。

14.7

コラム1-2-4図④は、特別保証制度と緊急保証制度について、それぞれの制度を利用しなかった場合の支障を示したものである。これを見ると、「事業からの撤退」と回答した中小企業の割合は、特別保証制度を利用している企業で6.0%、緊急保証制度を利用している企業で24.5%と大きな差があり、今回の経済危機の方が、深刻な打撃を中小企業に与えた可能性が大きかったことを示している。

コラム1-2-4図④ 特別保証制度と緊急保証制度を利用しなかった場合の支障

特別保証制度 緊急保証制度

34.0

25.0

19.0

6.0

15.0

33.4

22.0

5.3

24.5

14.8

0

5

10

15

20

25

30

35

40

事業の縮小

資料:中小企業庁「特別信用保証制度利用企業に対するアンケート調査」(2001年3月)、   中小企業庁「経済危機下における企業の取引実態調査」(2009年11月)(注) 1.上記の2調査において調査対象は異なる。

2.中小企業のみを集計している。

(%)

人員の削減 設備投資計画の縮小 事業からの撤退 その他

~「事業からの撤退」と回答した中小企業の割合は、特別保証制度の利用企業で6.0%、緊急保証制度の利用企業で24.5%と大きな差がある~

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65中小企業白書 2010

第 1部最近の中小企業の動向

第2節

Column コラム 1-2-5

中小企業の有利子負債残高償還年数は、10〜12 年前後で推移していたが、2008 年 10-12月期の 11.9 年から2009 年10-12月期の 13.5 年に大幅に長期化している(コラム1-2-5 図①)。

コラム1-2-5図① 中小企業の有利子負債残高償還年数

Ⅰ090807

(年期)

10.0

10.5

11.0

11.5

12.0

12.5

13.0

13.5

14.0

14.5(年)

~中小企業の有利子負債残高償還年数は、ここ1年で大幅に長期化~

資料:財務省「法人企業統計季報」(注) 1.有利子負債残高償還年数=有利子負債残高/キャッシュフロー

2.有利子負債残高=長期借入金+短期借入金+社債3.有利子負債残高償還年数は後方4期移動平均値。4.キャッシュフロー=経常利益×0.5+減価償却費。5.ここでいう中小企業とは、資本金1千万円以上1億円未満の企業をいう。

Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

また、保証利用企業の債務償還年数を規模別に見てみると、規模が小さい企業ほど債務償還年数が長くなる傾向があることが見て取れる(コラム1-2-5 図②)。

コラム1-2-5図② 規模別の保証利用企業の債務償還年数

0〜5人

6〜20人

21〜50人

51〜100人

101〜300人

301人以上

38.4

23.218.2 16.3 15.7 13.8

051015202530354045

~保証利用企業においては、規模が小さい企業ほど債務償還年数が長期化~

(年)

(従業者規模)資料:(社)全国信用保証協会連合会(注) 1.2008年10月31日から2010年1月31日の保証利用企業(組合を除く法人)で、保証承諾時の財務データが登録さ

れている企業が対象。2.2期分の財務データが登録されている企業は、最新財務データを使用。3.債務償還年数=長期及び短期借入金合計/(経常利益×0.5+減価償却費)。4.上記算式の分母がゼロ以下となる企業は債務償還年数を1万年として集計。5.規模別の保証利用企業の債務償還年数の中央値を採用。

中小企業の債務負担の現状

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66 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

Column コラム 1-2-6

中小企業金融円滑化法24は、最近の厳しい経済金融情勢や雇用環境の下において、中小企業や住宅ローン借入者(以下「住宅資金借入者」という)の債務の負担の状況を考慮し、借り手の金融の円滑化のための必要な臨時の措置を定めており、2009年12月4日に施行された。同法においては、金融機関は、中小企業者又は住宅資金借入者から貸付条件の変更等の申込があった場合、当該中小企業者又は住宅資金借入者の状況を勘案しつつ、できる限り、貸付条件の変更等の措置を採るよう努めなければならないとされている。同法の対象外である政府系金融機関等の(株)日本政策金融公庫、(株)商工組合中央金庫も、2009年度の条件変更目標を1.5兆円と定めるなど、中小企業の金融円滑化に取り組んでいる25。コラム1-2-5図①でも示したとおり、足下の中小企業の有利子負債残高償還年数は長期化している。こうした中、今後中小企業は、膨らんだ借入金をどのように返済していこうと考えているのであろうか。コラム1-2-6図によると、「売上増加等によりキャッシュフローを増加させる」、「合理化等により経費を削減する」という回答がそれぞれ3割弱を占めており、売上増加、合理化の必要性を感じている中小企業が多いことが分かる。金融機関は、中小企業や住宅資金借入者の申込に対して、できる限り柔軟にこれを行う必要がある一方、中小企業も業務の見直しや経営改善計画・返済計画の策定及び実行を行うなど、売上増加、合理化に一層尽力していくことが必要である。

コラム1-2-6図 借入金の返済計画

13.711.6

2.76.0

28.5

5.41.0 2.3

28.7

0

5

10

15

20

25

30

35

売上増加等によりキャッ

シュフローを増加させる

新規の出資者に増資を要請

する

既存の出資者に増資を要請

する

投資額を削減する

合理化等により経費を削減

する

事業用の資産(不動産・株

式等)を売却して借入金を

圧縮する

緊急保証制度融資に間接的

に依存する

手持の預金を取り崩して借

入金を圧縮する

既存の借入について月々の

返済額を減額する

資料:中小企業庁「経済危機下における企業の取引実態調査」(2009年11月)(注) 1.中小企業のみを集計している。

2.第1位を3点、第2位を2点、第3位を1点として計算した。

(%)

~「売上増加等によりキャッシュフローを増加させる」、「合理化等により経費を削減する」という回答がそれぞれ3割弱を占める~

中小企業金融円滑化法

24 正式名称は、中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律。2011年3月までの時限措置であり、対象となる金融機関は、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合、漁業協同組合及びその連合会、農林中央金庫。金融機関の業務の健全かつ適切な運営の確保に配意することも規定されている。

25 2009年度については、2010年1月末で、(株)日本政策金融公庫、(株)商工組合中央金庫の貸付条件の変更実績は、約1兆5,700億円であり、2009年度目標の1.5兆円を既に達成している。さらに、2010年2月22日から2011年3月31日までの13か月強の間の貸付条件の変更目標を2兆円と定め、引き続き取り組んでいる。

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67中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第2節

Column コラム 1-2-7

第1-2-7図では、中小企業と金融機関との間に新規貸出や貸出条件の変更に対する姿勢について、認識の相違が存在することを示したが、本コラムでは、中小企業と金融機関との間のその他の認識の相違について論じる。コラム1-2-7図①は、中小企業が金融機関に対して取組強化を求めている事項と金融機関が中小企業から取組強化を求められていると考えている事項を比較したものである。両者ともに「資金必要時における迅速な貸出」が最も多い回答となっており、金融機関としても中小企業からの迅速な資金供給に対するニーズを認識していることが分かる。次に多い回答は、金融機関では「事業の将来性を評価した貸出」である一方、中小企業では「金利・手数料水準の引下げ」であった。このことから、金融機関は、中小企業向けの貸出に注力しなければならないと認識しており、中小企業は、昨今の厳しい経営状況の中で金利・手数料の負担を少しでも抑えたいと考えていると推察される。また、金融機関で3番目に多かった項目が「経営方針・事業計画の作成サポート」の13.3%であるのに対し、中小企業では3.0%と低く、中小企業と金融機関との間に経営方針・事業計画の作成に係る認識の相違を確認することができる。

コラム1-2-7図① 金融機関に取組強化を求める事項

7.7

1.3

17.113.3

36.6

0.45.6 7.6

0.3

9.1

0.6 0.3

15.9

6.42.0

6.0 6.91.2

21.6

3.5 1.6

8.93.0

23.0

金融機関が求められていると考えること 中小企業が求めていること

~金融機関、中小企業ともに「資金必要時における迅速な貸出」が最も多い回答となっている~

資料:中小企業庁委託「中小企業の資金調達に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))、   中小企業庁委託「企業の雇用情勢及び政府の支援施策に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))(注) 第1位を3点、第2位を2点、第3位を1点として計算した。

0510152025303540

(%)

長期資金の貸出

短期資金の貸出

事業の将来性を評価した貸出

経営方針・事業計画の作成サポート

資金必要時における迅速な貸出

規模の大きな投資への貸出

事業の実績を評価した貸出

仕入・販売先、事業連携先の紹介

人材の紹介・派遣

金利・手数料水準の引下げ

金融機関自身の信用力の強化

その他

次に、金融機関が中小企業に求める経営計画策定の取組内容と中小企業における取組の実態を示したものがコラム1-2-7図②である。金融機関が中小企業に対して求める経営計画策定の水準については、「売上・利益の計画を立てている」が93.8%、「資金繰り・キャッシュフローの計画を立てている」が89.9%、「経営理念、戦略又は目標の明確化をしている」が76.4%と続いている。一方、中小企業が実際に取り組んでいる項目は、「売上・利益の計画を立てている」が78.1%、「資金繰り・キャッシュフローの計画を立てている」が59.1%、「経営理念、戦略又は目標の明確化をしている」が55.6%と続いており、いずれも金融機関の回答と比較して低くなっていることが分かる。今後、売上の回復、金融機関からの資金調達の円滑化という2つの意味で、中小企業は経営計画を一層精緻に立てる必要があると考えられる。

中小企業と金融機関の認識の相違

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68 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

26 中小企業の経営管理の概要については、コラム1-2-8も参照。

コラム1-2-7図② �金融機関が求める経営計画策定の取組内容と中小企業における取組の策定実態

76.4

93.8 89.9

54.668.1

0.2

55.6

78.1

59.146.6 40.7

7.50102030405060708090100

特段の計画を立てる必

要はない

計画をフォローし、随

時修正などを行っている

計画を社員と共有し、

実現に向けて社内で議

論などを行っている

資金繰り・キャッシュ

フローの計画を立てて

いる

売上・利益の計画を立

てている

経営理念、戦略又は目

標の明確化をしている

金融機関 中小企業

~中小企業における経営計画策定の取組実態は、金融機関が求める水準より低い~

資料:中小企業庁「経済危機下における企業の取引実態調査」(2009年11月)、中小企業庁委託「中小企業の資金調達に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))

(注) 複数回答であるため、合計は必ずしも100にならない。

(%)

また、中小企業金融円滑化法の制定に合わせて、「金融機関に関する監督指針」や「金融検査マニュアル」の改訂が行われた。この改訂により、債務者が実現可能性の高い抜本的な経営再建計画を策定していない場合でも、①債務者が中小企業であり、②貸出条件の変更を行った日から最長1年以内に当該経営再建計画を策定する見込みがある場合は、金融機関が条件変更を行った日から最長で1年間、当該債務者に対する貸出金を貸出条件緩和債権に該当しないと判断できることとなった。しかし、先に見たように中小企業で経営計画の策定が進んでいるとはいい難く、実現可能性の高い抜本的な経営再建計画を単独で策定することは難しいと考えられ、中小企業が状況に応じて税理士、会計士、中小企業診断士等にアドバイスを求めながら、経営計画策定を行うことが必要であると考えられる。また、金融機関も、中小企業の状況に応じて経営計画策定に助言等を行うことが望まれる26。上記では、中小企業と金融機関の認識の相違を示したが、こうした認識の相違を解消するためには、どのような取組が必要なのであろうか。コラム1-2-7図③は、中小企業が求める取引先企業・経営者の経営実態把握の取組内容と金融機関における取組実態を示したものであるが、「企業への訪問頻度の増加」、「経営者との接触頻度の増加」という項目に比べて、「業界知識の習得」は中小企業と金融機関の間で認識の相違が大きいことが分かる。金融機関では、こうした取組を中心に、中小企業とのリレーションをより深めていくことが重要であると考えられる。

コラム1-2-7図③ �中小企業が金融機関に求める経営実態把握の取組内容と金融機関における取組の実態

35.6 37.5

14.08.3

3.7 0.7 0.1

23.9 26.3

8.3

25.1

8.5

0.77.3

0510152025303540

金融機関 中小企業

分からない

その他

業界知識の習得

財務知識の習得

企業への訪問

頻度の増加

経営者との接触

頻度の増加

企業の取引先

(仕入先・販売先・

取引金融機関など)

へのヒアリング

~「企業への訪問頻度の増加」、「経営者との接触頻度の増加」に比べて、「業界知識の習得」は中小企業と  金融機関との間での認識の相違が大きい~

資料:中小企業庁委託「中小企業の資金調達に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))、中小企業庁委託「企業の雇用情勢及び政府の支援施策に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))

(注) 第1位を3点、第2位を2点、第3位を1点として計算した。

(%)

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69中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第2節

Column コラム 1-2-8

中小企業が金融機関から資金調達を試みる場合、的確な管理会計等により自社の経営管理をきちんと行っていれば金融機関の融資判断において有利な影響を与え得る。つまり、金融機関は、借り手の過去の実績及び現在の資産に加えて、将来の成長性及び経営の安定性を総合的に判断した償還能力に基づいて、融資の可否を判断する。将来の成長性や経営の安定性を判断するにあたっては、信頼性の高い事業計画や資金繰りの見通しが必要となる。信頼性の高い事業計画や資金繰りの見通しを示すためには、経営者の志の高さや熱意も極めて大切であることはいうまでもないが、これに加えて現在の事業についての客観的な理解とそれに根ざした現実的な経営努力を示すことが不可欠である。これを可能とするためには、経営者自らが可能な限り正確に時宜を得て経営実態を把握している必要がある。このような経営管理の必要性は、以上のような金融機関の審査との関係だけで論じられるものではない。例えば、資金繰りの見通しが不十分であると、売上が順調に伸びている中でも突然資金が不足する場合もあり得るし、売上の急減又は急増等の想定外の事態に対応できなくなることも考えられるからである。しかしながら、金融機関や税理士、会計士等に対するヒアリングによると、「基本的な資金繰りの試算表でさえも審査の際に金融機関から要求されて初めて作成する中小企業も存在する27」という声も聞かれ、中小企業は想定外の事態にも対応できるように日頃から資金繰りを管理する資料を作成しておくことが重要であるといえよう。さらに、発展的な段階としては、売上だけでなく、売上原価及び販売管理費等の費用を正確に把握し、経営者が経営の効率性の程度を明確に理解していると、経営体質を一層向上させられると考えられる。特に、事業ごと、商品ごと、店舗・事業所ごと、顧客ごとに売上や費用を把握することで、より的確に経営効率を高めることが可能となり、資源の選択と集中により成長性を高めることも可能となる。また、場合によっては、早期に不振事業を発見することにより、損失等を最小化することも可能となる。

コラム1-2-8事例 きめ細やかな経営管理を行い成功している企業小売チェーンを展開するA社は、経営不振に陥った地元の同業他社を救済合併することで成長してきた。ライバル会社の倒産を放置するという選択肢もあり得たはずだが、ライバル会社が単純に倒産すれば地元の小規模な卸売業者等も連鎖的に経営困難に陥るおそれがあることから、ライバル会社を救済合併することで地元企業の共存共栄を目指す方針を採ってきた。ただし、合併を行う場合は、価値がある店舗は残すが、そうでない店舗は整理することにしている。こうした方針の下、同業数社を救済合併しつつ、的確な事業再編策を講じることで成長を遂げてきた。同社の成功の秘訣は、極めてきめ細やかな経営管理を行っている点にある。例えば、本社から各店舗の個別部門の仕入・採算の担当者に大幅に権限を移譲している。各担当者は、部門ごとの商品の売行動向・採算性等を踏まえながら、翌月の売上の予測、同予測に基づいた仕入を責任を持って担当している。これらの積み上げが全社の資金繰りにも反映されることになるが、担当者ごとに地域性等を考慮した現場情報に基づいて売上の動向を管理・分析しているため、店舗が抱える在庫は常に低水準であり、かつ店舗ごとに上がってくる資金繰り情報の精度は非常に高く(各担当者における予測と実績の誤差は大体±5%となっている)、結果として、全社ベースで行う資金繰りをより低コストかつ精緻なものとしている。また、こうした工夫は、本部の経理業務を効率化できるという効果も生み出している。さらに、このような経営管理の取組は、副次的な効果も生み出している。パートタイマーも上記の責任担当者に任命される場合があり、任命されたパートタイマーは「これまでこれほど仕事が面白いと思ったことはない。」と、非常に意欲的に仕事に取り組むことになる。こうした仕組みによって、各店舗の雰囲気は非常に良く、従業員の仕事に対する意欲は強くなる。中には、店舗の内装を外注せずに従業員が日曜大工でやってしまうことすらある(この場合、改装費用は約10分の1になる)。こうした従業員の活気は、来店する顧客にも伝わり、「この店に来ると元気が出る。」、「活気がある店で楽しく買い物できる。」などの声も聞かれ、リピーター及び新規顧客の絶えざる獲得にも成功している。

中小企業の資金繰りと経営管理

27 付注1-2-4、付注1-2-5、付注1-2-6を参照。

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70 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

緊急保証制度を利用して資金繰りを改善させた企業

神奈川県川崎市の株式会社タイメックス(従業員48名、資本金2,000万円)は、電子機器や通信機部品を製造・販売する企業である。自動車、電話機、液晶テレビ、工作機械等の電子回路を構成する部品の大半を取り扱い、その数は数千に上る。売上は、コネクタが約6割、ハーネス品28が約3割を占め、主要販売先は、電気機械メーカーや商社等である。同社は、取扱品目が多く小回りも利くことから、1983年の設立以来、販売先から絶大な信頼を得てきたが、リーマン・

ショック後に、売上の減少傾向が続き、資金繰りを改善する必要が生じた。従来から取引銀行と強固な信頼関係を築いていた同社は、複数行から緊急保証制度の利用を打診され、同制度を利用することにより長期かつ低利の資金を調達できた。この結果、同社は資金繰りが大幅に改善され、社内体制の整備に注力できた。具体的には、既存経費等を本格的に見直し、売上が減少しても黒字を維持できる体制を構築した。2009年末には、売上が前年同期と同水準まで回復しており、今後は、リーマン・ショック後に行った体制整備が一層効果を発揮すると考えている。同社の渡辺史郎社長は、「株式会社タイメックスが、従業員が仕事に対する喜びを感じられ、生活を安定させられる場所であることを目指したい。」としており、今後も従業員の雇用維持を最優先したいと考えている。

〔事例1-2-4〕C A S E

28 工業製品の機器配線をまとめて束にしたもの。

緊急保証制度及びセーフティネット貸付を利用して資金繰りを改善させた企業

佐賀県三養基郡の田口電機工業株式会社(従業員50名、資本金3,000万円)は、電気、合金、無電解、複合、電鋳の各種めっき加工やアルマイト処理、化成処理、研磨加工等、表面処理全般を行う企業である。同社は、50種類以上のめっき加工の技術を有することから「めっきのデパート」と呼ばれ、多数の企業と取引している。同社の売上は、半導体関連が4割、自動車関連が2割、その他の弱電やめっき関連が4割を占める。リーマン・ショック前は、九州の半導体産業と自動車産業が好調だったこともあり、同社は売上を順調に伸ばし、2008年6月に第2工場を増設した。しかし、リーマン・ショック後に同社の受注量は減少し、第2工場の増設による資金面の不安が生じたことから、資金繰りを改善するために緊急保証制度を利用して借入を行うこととした。同社は、リーマン・ショック前の業績が好調であったため、金融機関から緊急保証制度の利用の打診があり、同社の田口英信社長は、「好況期に利益を確保したことが、不況期に資金を調達することに役立った。」と語る。さらに、(株)日本政策金融公庫のセーフティネット貸付も利用して、十分な資金を確保した。同社は、原材料費の見直し等の費用削減や業務の効率化にも取り組み、売上が回復すれば利益を確保できる体制づく

りを行っている。また、ナノテクノロジーによる技術開発にも取り組むなど、将来の市場開拓に向けて準備しており、景気回復に向けて万全を尽くしている。

〔事例1-2-5〕C A S E

危機対応貸付を利用して資金繰りを改善させた企業

兵庫県西宮市の金井自動販売株式会社(従業員40名、資本金2,000万円)は、自動販売機による清涼飲料の販売を行う企業である。同社は、1952年に瓶詰ラムネの製造販売業として創業し、現在は飲料の自動販売機営業を事業の根幹としている。缶・ペットボトル式自動販売機と紙カップ式自動販売機の設置台数は数千台となり、長年の経験を活かした正確なオペレーション、顧客から信頼されるサービスを提供している。こうした努力の結果、交通機関、文化施設、教育機関、一般企業、ショッピングモール等に広く自動販売機を設置し、現在の取引先は数百社である。足下の業績は、増収増益基調であり、2009年も春先までは売上が前年同期比で増加していた。しかし、2009年夏頃からは売上が前年同期比で減少し、今後の資金繰りを改善するために、(株)商工組合中央金庫の危機対応貸付を利用した。同社の金井勝一社長は、「中小企業は、取引銀行の対応に気を配りながら経営している。経営環境が変化しても、姿勢を変えない政府系金融機関等の存在は本当にありがたく、安心して事業に打ち込める。」と話す。

〔事例1-2-6〕C A S E

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71中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第2節

以上では、リーマン・ショック後に、政府が講

じた中小企業金融対策を概観するとともに、こう

した政策を多くの中小企業が利用していることを

見てきた。

以下では、中小企業金融対策の中で、最も多く

の中小企業が利用している緊急保証制度について

論じていく。初めに、どのような中小企業が緊急

保証制度を利用しているのかを見ていく。第1-2-

39図は、緊急保証制度の保証承諾を受けた中小企業の業種構成を示したものであるが、緊急保証

制度の保証承諾を受けた件数は、建設業が27.1%、製造業が20.5%と、実際の業種構成より割合が高く、こうした業種で緊急保証制度が積極的に利用

されていることがうかがえるが、この理由は、緊

急保証制度の創設時から建設業、製造業が業種指

定されていたことも関連していると考えられる。

また、第1-2-40図は、緊急保証制度の利用企業の件数を規模別に分割したものである。従業者5人以下の企業の割合が約6割で、そのうち従業者

0~1人の企業の割合が約3割である。このように緊急保証制度は小規模な企業においても利用され

ていることが分かる。

第 1-2-39図緊急保証制度の保証承諾を受けた中小企業の業種構成

資料:(社)全国信用保証協会連合会調べ、総務省「平成18年事業所・企業統計調査」再編加工(注) 1.組合は除いて集計している。

2.2008年10月31日から2010年1月31日までの累計値。

建設業 製造業 運輸業 卸売・小売業

不動産業 飲食店・宿泊業 サービス業 その他

~建設業、製造業等の業種で緊急保証制度が積極的に利用されている~

11.7

27.1

10.9

20.5 4.0

26.4

27.5

6.8

2.8

15.4

5.4

18.1

9.8

8.9

2.9

1.8

0% 100%

全中小企業数

承諾件数

第 1-2-40図規模別の緊急保証制度の利用企業

資料:(社)全国信用保証協会連合会調べ、総務省「平成18年事業所・企業統計調査」再編加工(注) 1.2008年10月31日から2010年1月31日までの累計値。   2.ここでいう従業者数には、家族・役員を含まない。   3.組合は除いて集計している。

~従業者数5人以下の中小企業の割合が約6割で、そのうち従業者数0~ 1人の企業の割合が約3割~

56.9

30.1

17.1

19.1

8.1

12.2

13.1

26.8

3.1

8.4

1.0

2.4

0.6

1.0

0.1

0.1

0 ~ 1人 2~ 3人 4~ 5人 6~ 20人

21~ 50人 51~ 100人 101 ~ 300人 301人以上(従業者数)

0% 100%

全中小企業数

承諾件数

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72 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

では、緊急保証制度を利用している中小企業

は、制度についてどのように感じているのだろう

か。

第1-2-41図は、中小企業が緊急保証制度を利用したことによる最大のメリットを示したものであ

るが、8割を超える中小企業が「当面の運転資金が確保できた」と回答しており、次いで「毎月の支払元金・金利額が減少した」が続いている。これは、緊急保証制度の保証期間が平均8年 29と長

期であることや、100%保証により金融機関のリスクが低減し、金利の引下げを要請された金融機

関が対応を行ったことなどによるものと考えられ

る。

第 1-2-41図緊急保証制度利用の最大のメリット

資料:中小企業庁「経済危機下における企業の取引実態調査」(2009年11月)(注) 中小企業のみを集計している。

当面の運転資金が確保できた

毎月の支払元金・金利額が減少した

結果的に必要な設備の購入ができた

結果的に雇用の維持が図れた

全くメリットはなかった

~8割を超える中小企業が「当面の運転資金を確保できた」と回答~

82.8

10.9

2.21.8 2.3

第1-2-42図は、中小企業が緊急保証制度の利用を申し込んだ際の金融機関の対応を示したもので

あるが、規模が大きくなるほど「保証なしでも金融機関から融資を受けられた」と回答した中小企業の割合が高い一方で、5人以下の規模の中小企業のうち約6割が「保証なしでは金融機関から融資を受けられなかった」と回答しており、緊急保証制度は小規模な企業の信用力を補完し、その資

金繰りを下支えしたと考えられる。

第 1-2-42図緊急保証制度の利用申込時の金融機関の対応

資料:中小企業庁「経済危機下における企業の取引実態調査」(2009年11月)

(注) 中小企業のみを集計している。

保証なしでも金融機関から融資を受けられた保証なしでは金融機関から融資を受けられなかった

~5人以下の中小企業の約6割が「保証なしでは金融機関から融資を受けられなかった」と回答~

59.3

59.2

61.0

54.1

47.6

40.4

40.7

40.8

39.0

45.9

52.4

59.6

0% 100%

301人以上

101人~ 300人

51人~ 100人

21人~ 50人

6人~ 20人

5人以下

一方、金融機関を対象に実施した「中小企業の資金調達に関する調査 30」の結果を見ても、8割を超える金融機関が「貸出取引先を財務面で支えられた」と回答しており、緊急保証制度を通じて中小企業の資金需要に応えられたと感じる金融機関

が多い 31(第1-2-43図)。

29 付注1-2-7を参照。30 中小企業庁の委託によりみずほ総合研究所(株)が実施。2009年11月に普通銀行、信託銀行、信用金庫、信用組合597社を対象に実施したアンケート調査。

回収率83.6%。31 「金融機関自身の資産内容が改善した」と回答する金融機関も約4割に達し、緊急保証制度が信用保証協会の100%保証であることを自行のメリットとして感じ

ている金融機関も多いことが分かる。

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73中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第2節

第 1-2-43図金融機関が緊急保証利用により受けたメリット

資料:中小企業庁委託「中小企業の資金調達に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))

(注) 複数回答であるため、合計は必ずしも100にならない。

~8割を超える金融機関が「貸出取引先を財務面で支えられた」と回答~

38.225.6

34.6

84.8

2.4 4.70102030405060708090

自行(金庫・組合)・

自社自身の資産内容が

改善した

自行(金庫・組合)・

自社自身の貸出余力が

向上した

地域の企業との関わりが

多くなった

貸出取引先を財務面で

支えられた

その他

特にない

(%)

第1-2-44図は、緊急保証制度を利用していなければ、どのような問題が生じたのかを緊急保証制

度を利用したことがある中小企業に尋ねたもので

あるが、「事業の縮小」、「事業からの撤退」と回答する企業の割合が高い。

第 1-2-44図緊急保証制度を利用しなかった場合の支障

資料:中小企業庁「経済危機下における企業の取引実態調査」(2009年11月)

(注) 緊急保証制度を利用したことがあると回答した中小企業のみを集計している。

~「事業の縮小」、「事業からの撤退」と回答する企業の割合が高い~

33.4

22.0

5.3

24.5

14.8

0

5

10

15

20

25

30

35

40

事業の縮小

人員の削減

設備投資

計画の縮小

事業からの

撤退

その他

(%)

実際、「運転資金の欠乏」を原因とする倒産件数の動向について見ても、リーマン・ショック

後、「運転資金の欠乏」を原因とする倒産件数は増加傾向で推移していたが、2009年後半に入り前年同月比で減少に転じており、これらの結果か

ら、緊急保証制度が倒産件数の増加の抑制に一定

程度寄与したと推察される(第1-2-45図)。

第 1-2-45図運転資金欠乏を原因とする倒産件数

資料:(株)東京商工リサーチ「倒産月報」

~運転資金欠乏を原因とする倒産件数は、2009年後半に入り、前年同月比で減少傾向に転じている~

件数(左軸) 前年同月比(右軸)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 1 2 34 5 6 7 8 9 101112

08 09 10

(%)(件数)

(年月)

0

20

40

60

80

100

120

▲ 80

▲ 60

▲ 40

▲ 20

0

20

40

60

80

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74 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

Column コラム 1-2-9

コラム1-2-9図①、コラム1-2-9図②は、2006年度からの3大都市圏32(以下「都市圏」という)と都市圏以外の地方圏33(以下「地方圏」という)の代位弁済34件数を示したものであるが、都市圏、地方圏ともに代位弁済件数が増加している。都市圏では卸売・小売業の代位弁済件数に占める割合が最も高い一方、地方圏では建設業の代位弁済件数に占める割合が最も高い。2009年度には、都市圏と地方圏ともに製造業の代位弁済件数に占める割合が上昇しており、今回の景気後退では製造業を中心に大きな影響を受けたという前述の分析結果と一致している。

コラム1-2-9図① 都市圏における代位弁済件数

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

09080706

建設業 製造業 卸売・小売業 不動産業 飲食店、宿泊業 サービス業 その他

資料:(社)全国信用保証協会連合会(注) 2009年度は2009年4月から2010年1月までの10か月間の実績。

~都市圏の代位弁済件数は、卸売・小売業の占める割合が最も高い~

(件数)

8.0%

14.0%5.7%5.5%

31.3%

16.8%

18.9%

32.8% 34.8%

34.2%

14.1%

(年度)

コラム1-2-9図② 地方圏における代位弁済件数

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

09080706

建設業 製造業 卸売・小売業 不動産業 飲食店、宿泊業 サービス業 その他

資料:(社)全国信用保証協会連合会(注) 2009年度は2009年4月から2010年1月までの10か月間の実績。

~地方圏の代位弁済件数は、建設業の占める割合が最も高い~

(件数)

6.6%8.5%7.1%

26.4%

16.7%

32.6%

2.0%

14.3%

(年度)

都市圏と地方圏の代位弁済件数

32 三大都市圏は東京都、愛知県、名古屋市、大阪府、大阪市の3都府県の5信用保証協会のデータを合計した。33 東京都、愛知県、名古屋市、大阪府、大阪市の3都府県の5信用保証協会を除く、44道府県の47信用保証協会のデータを合計した。神奈川県には、神奈川県、

横浜市、川崎市の3信用保証協会が、岐阜県には、岐阜県、岐阜市の2信用保証協会がある。34 信用保証付の貸付金等が、中小企業の倒産等の事由により金融機関に返済できなくなった場合、信用保証協会が金融機関に貸付残額を支払うことをいう。

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75中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第2節

次に、売上高経常利益率、1人当たり付加価値額から見た保証利用企業と代位弁済先企業の分布を見てみると、保証利用企業で代位弁済を受けた企業は、売上高経常利益率や1人当たり付加価値額の指標が低い傾向にあり、信用保証制度を利用したにもかかわらず、市場からの撤退を迫られる中小企業も一定数存在することが確認できる(コラム1-2-9図③、コラム1-2-9図④)。

コラム1-2-9図③ 売上高経常利益率の企業分布(2004年)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000企業数

保証利用企業 代位弁済先企業

~保証利用企業で代位弁済を受けた企業は、売上高経常利益率が低い企業に多く見られる~

資料:(社)全国信用保証協会連合会(注) 1.2004年の財務データが登録されている保証利用企業(組合を除く法人)を対象に集計。

2.代位弁済先企業とは、保証利用企業のうち2010年1月末までに代位弁済に至った企業。3.売上高経常利益率が2%から▲2%の間の企業を対象としている。

売上高経常利益率(%)1.0 1.5 2.0▲2.0 ▲1.5 ▲1.0 ▲0.5 0 0.5

コラム1-2-9図④ 1人当たり付加価値額の企業分布(2004年)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

1人当たり付加価値額(売上総利益(万円)/従業者数(家族・役員除く、人))

企業数

保証利用企業 代位弁済先企業

▲1,000 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000

資料:(社)全国信用保証協会連合会(注) 1.2004年の財務データが登録されている保証利用企業(組合を除く法人)を対象に集計。

2.代位弁済先企業とは、保証利用企業のうち2010年1月末までに代位弁済に至った企業。3.保証利用企業数が100社以上存在する範囲を対象としている。

~保証利用企業で代位弁済を受けた企業は、1人当たり付加価値額が低い企業に多く見られる~

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76 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

2 雇用対策

次に、雇用対策について見ていく。第1節でも見たように、中小企業の雇用は、売上や資金繰り

と同様、非常に厳しい状態が続いており、2008年10月以降、非正社員の雇用安定対策や中小企業等の雇用維持対策、地域の雇用機会の創出等の

取組の強化等が講じられてきた。ここでは、中小

企業等の雇用維持対策の一つである雇用調整助成

金の実績、効果等を見ていく。

雇用調整助成金は、景気の変動や産業構造の変

化、その他の経済上の理由により事業活動の縮小

を余儀なくされた場合に、その雇用する労働者を

対象に休業・教育訓練又は出向を実施する事業主

に対し、休業手当又は賃金、出向労働者に係る賃

金負担相当額の一部を助成することにより、労働

者の失業の予防や雇用の安定を図ることを目的と

している。この雇用調整助成金は、リーマン・

ショック後の景気後退に伴い雇用情勢が悪化する

中で、数度にわたって見直されてきた。中でも、

2008年8月に取りまとめられた「安心実現のための緊急総合対策」における雇用対策の一環として、従来の雇用調整助成金を見直し、拡充して創

設された「中小企業緊急雇用安定助成金」(2008年12月運用開始)は、中小企業向けの雇用対策として多くの中小企業の雇用を維持することにつ

ながったと考えられる。そこで、まず雇用調整助

成金及び中小企業緊急雇用安定助成金(以下「雇用調整助成金等」という)の申請状況を大企業と中小企業別に見ていく。第1-2-46図は、雇用調整助成金等に係る休業等実施届の受理状況を示した

ものであるが、2009年1月から4月にかけて申請が急増していることが分かる。2009年4月から7月にかけては、横ばいで推移し、その後やや減少

傾向となっているものの、足下でも依然として多

くの中小企業において雇用調整助成金等が申請さ

れていることが見て取れる。

第 1-2-46図雇用調整助成金等に係る休業等実施計画届受理状況(対象者数)

資料:厚生労働省「雇用調整助成金等に係る休業等実施計画届受理状況」(注) 1.中小企業緊急雇用安定助成金に関する届を中小企業、それ以外の雇用調整助成金に関する届を大企業としている。   2.数値は速報値であり今後変動の可能性がある。   3.休業と教育訓練を同じ対象者に実施した場合、休業と教育訓練ごとにそれぞれ1件としてカウントしている。   4.出向に係る件数は含んでいない。

大企業 中小企業

~中小企業の雇用調整助成金等に係る休業等実施計画届は、2009年1月から2009年4月にかけて急増~

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

08 09 10

(万人)

(年月)

115.5

155.9173.3 167.8 174.6 177.4

157.6 152.2 152.9145.1 144.3 140.3

131.0

3.9

29.0

71.182.1 80.2

66.1 63.7 65.953.5 47.2 44.4 40.5 42.2

32.4 29.9

10.0

59.0

12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2

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77中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第2節

次に、雇用調整助成金等を利用している中小企

業はどのような企業であるかを見ていく。第1-2-47図は、業種別に雇用調整助成金等の受給実績の有無を示したものであるが、製造業や情報通信

業等の業種で雇用調整助成金等がより多く利用さ

れており、こうした業種で、雇用の過剰感が強

まったことが背景にあったと考えられる。

第 1-2-47図業種別の雇用調整助成金等の受給実績の有無

資料:中小企業庁委託「企業の雇用情勢及び政府の支援施策に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))(注) 中小企業のみを集計している。

ある ない

~雇用調整助成金等は、製造業、情報通信業等の業種において多く利用されている~

4.5

3.4

5.3

9.5

4.5

16.3

20.3

40.8

7.7

95.5

99.1

98.3

98.0

96.6

94.7

90.5

98.7

98.1

95.5

83.7

79.7

59.2

92.3

0.91.7

2.0

1.3

1.9

0% 100%

サービス業(他に分類されないもの)

医療、福祉

教育、学習支援業

生活関連サービス業、娯楽業

飲食サービス業

宿泊業

専門・技術サービス

不動産業、物品賃貸業

小売業

卸売業

運輸業

情報通信業

製造業

建設業

また、雇用調整助成金等を利用する企業は、資

金繰りも悪化していると考えられ、実際、雇用調

整助成金等の受給実績の有無と中小企業が感じる

金融機関の新規貸出に対する姿勢の関係を見る

と、雇用調整助成金等の受給実績のある中小企業

の方が金融機関の新規貸出姿勢も厳しい状況にあ

ることが確認できる(第1-2-48図)。これは、雇用調整助成金等の目的が景気変動により売上等が

第 1-2-48図雇用調整助成金等の受給の有無と新規貸出姿勢の関係

資料:中小企業庁委託「企業の雇用情勢及び政府の支援施策に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))(注) 中小企業のみを集計している。

ある ない

~雇用調整助成金等の受給実績のある中小企業の方が、金融機関の新規貸出姿勢も厳しい状況にある~

18.3

16.4

20.6

26.6

23.5

81.7

83.6

79.4

73.4

76.5

0% 100%

積極化している

やや積極化している

ほとんど変化していない

やや消極化している

消極化している

Page 45: 第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

78 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

減少した企業の雇用維持を図ることが目的である

ので、当然の結果であるが、売上や資金繰り、雇

用の面で厳しい状況に置かれている中小企業によ

る雇用調整助成金等の利用が多いと考えられる。

また、雇用調整助成金等の主な目的は、雇用の

維持であるが、中小企業にとってはその他の副次

的な効果もある。第1-2-49図は、雇用調整助成金等の受給実績のある企業に雇用調整助成金等を利

用することにより、雇用の維持の他にどのような

副次的な効果があったのかを尋ねた結果を示した

ものであるが、「運転資金を確保できた」と回答する中小企業の割合が最も高く、次いで「休業のマイナスイメージがつかずに済んだ」や「事業計画の見直しを行うことができた」との回答が多い。このように中小企業の資金繰りの観点からも雇用

調整助成金等のメリットは大きかったといえる。

第 1-2-49図雇用調整助成金等を利用することによる副次的な効果

資料:中小企業庁委託「企業の雇用情勢と政府の支援施策に関する調査」(2009年11月、みずほ総合研究所(株))

(注) 1.中小企業のみを集計している。   2.第1位を3点、第2位を2点、第3位を1点として計

算した。

~「運転資金を確保できた」、「休業のマイナスイメージがつかずに済んだ」等を効果として挙げる中小企業の割合が高い~

28.3

7.5

13.117.6

15.1

8.7 7.1

2.40

5

10

15

20

25

30

運転資金を確保できた

労使間の関係が良く

なった

教育訓練等により従業

員の能力が向上した

休業のマイナスイメー

ジがつかずに済んだ

事業計画の見直しを行

うことができた

従業員の就労意欲が低

下した

特に効果はなかった

その他

(%)

以上、雇用調整助成金等についてその実績及び

効果並びに雇用調整助成金等が中小企業の雇用の

維持の他にも様々な効果をもたらしたことを確認

した。現下の雇用状況が引き続き厳しい状況にあ

る中で、こうした政府の雇用対策を活用しつつ、

現状からの脱却を図るべく努力する中小企業も存

在し、政府は引き続き力を入れて雇用対策に取り

組んでいく必要がある。また、(株)日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という)では、2009年5月から雇用調整助成金等の実施計画の届出が受理された企業に向けた低利融資を実施している

など、他の施策と連携した支援策も存在してお

り、雇用の維持のみならず、複合的な支援体制の

構築も進んでおり、こうした施策の一層の活用が

期待される。

本節では、中小企業金融対策及び雇用対策につ

いて分析してきたが、双方とも今回の経済危機の

影響によって非常に厳しい状況に置かれた中小企

業を支援する上で大きな役割を果たしたといえる。

我が国経済の回復は、雇用の約7割を支える中小企業の回復なくしてあり得ない。我が国の中小

企業の業況は依然として厳しい状況にあり、中小

企業がこうした厳しい経済情勢を乗り越えて、

様々な課題に立ち向かっていくために、引き続き

金融面と雇用面を中心に中小企業対策に万全を期

していく必要がある。

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79中小企業白書2010

第 1部最近の中小企業の動向

第2節

中小企業緊急雇用安定助成金を活用し、経済危機に対応した企業

石川県白山市の共和産業株式会社(従業員270名、資本金8,400万円)は、建設機械や農業機械等の運転席の専門メーカーである。同社は、普段から取引先を訪問する際、現場や在庫の様子等を観察しており、リーマン・ショック後も比較的早く出荷量の減少を察知したが、その速度が予想以上に急激であり、工場の稼働を制限せざるを得ない状況に陥った。こうした中、主要取引先の一つである大手建設機械メーカーから、「中小企業緊急雇用安定助成金を活用して教育訓練を実施しないか。」との話があった。同社は、以前から在庫管理や工程管理、従業員教育等の必要性を感じていたこともあり、大手建設機械メーカーの話に応じる形で中小企業緊急雇用安定助成金を申請して教育訓練を実施した。また、中小企業団体中央会等が実施する研修へ社員を派遣するなど、より効果的な教育訓練体系を構築した。こうした取組により従業員の意識が変化し、会社全体の意識の向上につながった。同社は、中小企業緊急雇用安定助成金の利用が「教育訓練による従業員の意識の向上につながる良い契機になった。」

と今回の景気後退を前向きに捉えている。中小企業緊急雇用安定助成金が有効に活用された例であるといえよう。

〔事例1-2-7〕C A S E

地域魅力発見バスツアーから雇用を創出した企業

大阪府八尾市の株式会社レザック(従業員66名、資本金5,000万円)は、抜型業務の自動化・合理化を図るための総合的な抜型製造システムを自社にて開発・製造・販売・保守を行う企業である。同社は、「次世代技術に意欲的に挑戦すること」を理念に掲げ、80件あまりの特許を取得しているが、発明を奨励し研究者の意欲を向上させるために、発明の提案制度と報奨制度を設けている。同社の取扱商品はCADシステムを始めレーザー加工機等の各種自動機35であり、その国内販売シェアは60〜70%を占める。また、欧米・アジアを中心に国外にも広く販売している。同社は、不況期ほど優秀な人材が獲得できる時はないと考え、人材確保を積極的に行っている。2009年8月には、中小企業と求職者をマッチングさせる「人材橋わたし事業」の一環として経済産業省が実施している「地域魅力発見バスツアー」を受け入れ、その参加者から入社希望があり、9月に1名を採用し、同バスツアーの第1号の成果となった。同社は、2009年度に本件も含めて8名を採用し、2010年度の新卒者では6名を採用予定である。同社の柳本忠二社長は、「今のうちに他の費用を削減してでも人材確保に費用を配分したい。」と考えており、今後も優秀な人材の確保に取り組んでいく方針である。

〔事例1-2-8〕C A S E

バスツアーの参加者に社内を案内する柳本社長(左奥)

産学金連携を通じて地元企業の育成に尽力する金融機関

山形県米沢市の米沢信用金庫は、置賜地区36に13店舗を有し、産学金連携に積極的に取り組む信用金庫である。同金庫は、「地域限定型金融機関である信用金庫は、地域と共存共栄・運命共同体にある。地域経済の地盤沈下は、信用金庫の危機でもある。」と考えている。同金庫は、地元企業と向き合う中で、「従属的下請構造・低付加価値構造の悪い循環から脱却することが置賜地区の課題である。」と考えている。地元の企業が利幅減少や資金繰り難、後継者不足、人材流出等の様々な課題を解決するためには、産学金連携が有効であると考え、2003年より山形大学へ職員を派遣し、地域活性化に向けた共同研究を開始した。また、山形大学工学部・地域共同研究センター(現国際事業化研究センター)と三者協力協定を締結し、金融機関の目利き能力育成のための「山形大学認定産学金連携コーディネーター研修制度」の制度設計に携わった。同制度で認定を受けた職員は、企業を継続的に訪問して信頼関係を構築し、企業の利益につながる強みを引き出すため

に、企業とともに考え、企業にアドバイス・フォローを行う。また、地元企業には、大学レベルの技術を理解できない企業もあり、大学のシーズと企業のニーズの産学間のギャップを埋めるために、「知的資産経営37」からのアプローチによる産学金連携手法を提唱し、同金庫・新庄信用金庫・山形大学による地域力連携拠点事業を受託して積極的に活動している。毎月、大学教授陣と信用金庫職員による連携会議を実施しており、直近の1年では約400件の相談案件が持ち込まれている。同金庫は、こうした取組によって、企業に「気付き」の機会を提供し、地元企業の成長や地域の活性化につなげたいと願っ

ている。同金庫には、営業担当者が約60名在籍しているが、各支店に満遍なくコーディネーター認定取得者が配属されるようにし、目利き能力を強化したいと考えている。

〔事例1-2-9〕C A S E

35 各種包装、真空形成品等の箱を製作するための刃型を製作できる自動機。36 米沢市、南陽市、長井市、東置賜郡高畑町・川西町、西置賜郡飯豊町・白鷹町・小国町の3市5町。37 人材、技術、ノウハウ、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産(知的資産)を自社の競争力の源泉として認識し、有効に組み合わせ

て活用していくことを通じて持続的な収益獲得につなげる経営のこと。

Page 47: 第22 - Minister of Economy, Trade and Industry...te 2 経済危機下の中小企業 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 1 リーマン・ショック前の2008年9月12日の日経平均株価の終値は、12,214円76銭であったが、2009年3月10日の日経平均株価の終値は、7,054

80 2010 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

経済危機下の中小企業第2章

38 詳細は厚生労働省のホームページを参照。 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000002q03-img/2r98520000002q1l.pdf

Column コラム 1-2-10

中小企業緊急雇用安定助成金38は、リーマン・ショックを発端とした急速な景気後退に伴う雇用情勢の悪化の中で、従業員の雇用維持に努力する中小企業の経営者を支援するため、政府の講じる雇用対策の一環として、従来の雇用調整助成金を見直し、2008年12月に創設された制度である。本制度は、創設以降も時宜に応じた累次の見直しが実施されており、中小企業の雇用維持に大きな役割を果たしている。現行制度の支給対象と支給内容は、以下のようになっている。

コラム1-2-10図 中小企業緊急雇用安定助成金の概要

○共通・事業主が指定した日から1年以内に実施されるもの・労使間協定によるもの・事前に労働局、ハローワークに計画届を提出したもの・雇用保険の被保険者を対象とするもの○生産量要件・次のいずれかの生産量要件を満たす事業主Ⅰ 売上高又は生産量等の事業活動を示す指標の最近3か月間の月平均値がその直前の3か月又は前年同期に比べ、5%以上減少していること(ただし、直近の決算等の経常損益が赤字であれば5%未満の減少でも可)

Ⅱ 売上高又は生産量等の事業活動を示す指標の最近3か月間の月平均値が前々年同期に比べ、10%以上減少していることに加え、直近の決算等の経常損益が赤字であること(ただし、対象期間の初日が2009年12月2日から2010年12月1日までの間にあるものに限る)

○休業等(休業及び教育訓練)・休業手当の支払が労働基準法第26条に違反していないこと・通常行われる教育訓練ではないこと○出向・出向労働者の同意を得たものであること

○休業等(休業及び教育訓練)・休業手当又は賃金相当額(1人1日)×4/ 5・教育訓練を実施する場合には訓練費として1人1日当たり6千円を加算○出向・出向元事業主が負担した賃金相当額×4/ 5

※1人1日当たり雇用保険基本手当日額の最高額が限度※労働者の解雇等を行わなかった場合は助成率を4/ 5から9/ 10へ上乗せ※雇用する障害者が休養、教育訓練又は出向を実施した場合、当該障害者に係る助成率を4/ 5から9/ 10へ上乗せ※支給限度日数は3年間で300日

①雇用保険の適用事業所の中小企業事業主②生産量要件を満たす事業主③休業、教育訓練又は出向を行う事業主

支給対象

支給内容

支給要件

中小企業緊急雇用安定助成金