Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
2006
第3回クッキーテスト研究会 <研究報告集>
2006年 5月 27日(土) 於:八重洲富士屋ホテル
3階 赤松の間
1
目 次 Ⅰ.ご講演要旨 …………………………………………………… 2
Cookie Testは抗精神病薬による 代謝障害の早期発見に有用である ……………………………… 3
肥満患者におけるクッキーテストでの食後高脂血症の評価 ……… 5
クッキーテスト負荷前後のRLP-Cへの Acarbose の急性・慢性効果に関する検討 ……………………… 8
非糖尿病患者のPCI後再狭窄におけるインスリン抵抗性の意義 -クッキーテストによる検討- ……………………………… 9
Ⅱ.基調講演要旨 ………………………………………………… 12 クッキーテストの臨床的意義
-2型糖尿病第1期、食後高脂血症、インスリン抵抗性の検出と 改善目標としての有用性-
Ⅲ.特別講演要旨 ………………………………………………… 17 感染症と生活習慣病 Ⅳ.クッキーテスト概要 ………………………………………… 19
2
Ⅰ.ご 講 演 要 旨
3
Cookie Testは抗精神病薬による代謝障害の早期発見に有用である 清和会吉南病院内科部長 長嶺 敬彦 (〒747-1221山口市鋳銭司 3381 電話 083-986-2111) ■はじめに 精神科薬物療法はここ数年著しく変化している。従来の定型抗精神病薬の多剤併用療
法から、非定型抗精神病薬の単剤による治療が推奨されるようになった。それに伴い、
定型抗精神病薬での重大な副作用である錐体外路症状は軽減したが、非定型抗精神病薬
による副作用として糖尿病、高脂血症が問題となった 1)。近頃発表された統合失調症治
療の大規模臨床試験である CATIE試験(Clinical Antipsychotic Trials of Intervention Effectiveness)のベースラインデータでも、実に統合失調症患者の約 40%がMetabolic Syndromeの診断基準を満たすという 2)。 そこで今回 Metabolic Syndrome を発症する前に非定型抗精神病薬による代謝障害を早期発見するために、非肥満、非糖尿病の統合失調症患者を対象として Cookie Testを施行した。空腹時のデータでは異常を認めないが、負荷をかけると代謝障害が検出さ
れる抗精神病薬があり、Cookie Testが抗精神病薬による代謝障害の早期発見に有用であると考えられたので報告する。 ■抗精神病薬内服中の患者での Cookie Test
BMI<25、空腹時血糖<110mg/dL で、非定型抗精神病薬である olanzapine かrisperidone のいずれか単剤で治療中の統合失調症患者 8 名づつ計 16 名で、110g、553Kcalのクッキー(アビリット社)を用いて Cookie Test 3)を施行した。 両群とも性、年齢、罹病期間に有意差を認めなかった。またクッキー負荷前の採血で
は、血糖、インスリン、HOMA-IR、総コレステロール、中性脂肪、HDL コレステロールはいずれも正常範囲内で、両群に有意差を認めなかった(表 1)。 クッキー負荷 2 時間後の値は、olanzapine 群の中性脂肪が 165±31.7mg/dL、
risperidone 群が 134±19.7mg/dL で、olanzapine 群が有意に高かった(p
4
3. 非定型抗精神病薬による代謝のリスクは、大きく分けて肥満と肥満を伴なわない中性脂肪の増加がある。前者がMetabolic Syndromeで、後者が Beyond Metabolic Syndromeである。
4. Beyond Metabolic Syndromeの早期発見に Cookie Testが有用である。 ■文献 1. 長嶺敬彦:新規抗精神病薬の副作用と注意点 新規抗精神病薬にみられる身体合併症-The Third Disease-.薬局 56(10):2721-2730,2005
2. McEvoy JP, Meyer JM, Goff DC et al: Prevalence of the metabolic syndrome in patients with schizophrenia. Schizophrenia Research 80:19-32,2005
3. 原納 優、足立友美、名引順子ほか:生活習慣病代謝諸因子の早期検出と病態解析のためのクッキーテストの開発とその意義.臨床病理 52:55-60,2004
4. Lieberman JA, Stroup TS, McEvoy JP et al : Effectiveness of antipsychotic drugs in patients with chronic schizophrenia. N Engl J Med 353: 1209-1223,2005
表 1.各群の臨床的特徴とクッキー負荷前のデータ
図 1. クッキー負荷後の代謝ダイアグラム
RIS OLZn=8 n=8
年齢 31.2±6.4 28.3±5.9性 男性(人) 6 6 女性(人) 2 2
統合失調症発症年齢
23.6±5.3 22.4±4.6
罹病期間(年) 6.4±3.9 5.1±3.7BMI 22.4±2.5 22.7±2.2
抗精神病薬の用量(mg)
4.6±2.5 14.3±5.7
BPRSスコア 14.9±8.8 20.1±10.4
各群の臨床的特徴RIS OLZn=8 n=8
空腹時血糖70~110mg/dl
インスリン3~10μu/ml
HOMA-IR2.0以下
総コレステロール130~220mg/dl
中性脂肪50~150mg/dl
HDLコレステロール40~75mg/dl
1.17±0.80
192±46
129±34
43±16
0.99±0.71
174±39
120±41
44±12
空腹時の血糖、インスリン、HOMA-IR
87.1±9.7
4.6±2.6
93.4±11.4
5.1±3.6
0
0.5
1
1.5血糖
中性脂肪
レムナント総コレステロール
インスリン
RIS OLZ
5
肥満患者におけるクッキーテストでの食後高脂血症の評価
1)りんくう総合医療センター市立泉佐野病院 2)不二製油 3)大阪大学分子制御内科 小松良哉1)、瀧有可里1)、岡嶋哲彦2)、福井健介2)、 宮崎千晶2)、広塚元彦2)、山下静也3)
はじめに 近年、食後高血糖、食後高脂血症と虚血性心疾患など動脈硬化疾患との関連性が注目さ
れてきている。これに伴い、日常診療で使用可能な食後の高血糖、高脂血症の診断法の
確立の必要性が唱えられている。そこで、糖尿病、IGTなどをていする肥満患者での食後の高血糖、高脂血症を評価するためクッキーテストを行い、食後の血糖、血清脂質の
変化を検討した。 対象および方法 対象は BMI25以上の肥満者で、糖尿病(DM)4名、耐糖能異常(IGT)2名、正常者(非糖尿病)3名で小麦澱粉多糖質 75g、バター脂肪 24gを含むクッキー負荷を行い1時間ごとに負荷後6時間まで採血を行い、血糖、IRI、総コレステロール、中性脂肪、レムナント・コレステロール(RLP-C)、Apo-B 、Apo-B48などの変化を検討した。 結果 対象の背景を表―1に示した。全例腹囲は85cm以上で、メタボリックシンドローム
の診断基準をみたす肥満患者であった。9例の平均では、血糖、血中 IRIは負荷後2時間が最大値を示した(図―1)。しかし、血清の中性脂肪、RLP-Cは負荷後3時間に最大値を示した(図―2)。腸管由来のアポ Bであるアポ B48も負荷後3時間に最大値を示した(図―3)。DM、IGT、非糖尿病では上記の傾向に差はなかった。 考察 従来行われていた脂肪負荷テストに比較し、原納らが提唱したクッキーテストは負荷後
2時間で中性脂肪66mg/dl、RLP-C は 3.3mg/dl 以上の増加にて食後高脂血症をより簡便に診断できる。しかし、食事、運動療法などにより改善したかどうかの判定などに
ついては負荷後3時間の最大値も測定する必要があると思われ、メタボリックシンドロ
ームなど食後高脂血症をていする患者では、負荷後3時間の中性脂肪、RLP-C の測定が有用と思われた。 まとめ 1)クッキーテストは日常臨床で外来においても簡便に可能な検査であり、食後の糖代
謝、脂質代謝を効果的に検討、評価できると思われた。 2)今回の検討でメタボリックシンドロームをていする肥満患者では負荷後3時間に中
性脂肪、RLP-Cは最高値を認め、食後高脂血症の推移の評価には負荷後3時間値の測定が有用と思われた。
6
表―1 図―1
81 139 9629.0 77.7 16456 mean
921429027.956.2142709
881389027.574164738
9214011138.498.4160627
881838625.166162726
851499525.980.1176415
701229626.380.4175504
631149830.586168443
641299330.181.9165462
831329529.176.3162481
最低血圧
最高血圧
腹囲
BMI体重身長年齢case
患 者 背 景
クッキーテストの血糖、インスリンの変化クッキーテストの血糖、インスリンの変化
0
50
100
150
200
250
0hr 1hr 2hr 3hr 4hr 5hr 6hr
mg/dl
0
20
40
60
80
100
0hr 1hr 2hr 3hr 4hr 5hr 6hr
μg/dl
血 糖 インスリン
7
図―2 図―3
100
150
200
250
300
350
0hr 1hr 2hr 3hr 4hr 5hr 6hr
mg/dl
4
6
8
10
12
14
16
0hr 1hr 2hr 3hr 4hr 5hr 6hr
中性脂肪 レムナントコレステロール
クッキーテストの中性脂肪、クッキーテストの中性脂肪、レムナントコレステロールレムナントコレステロールの変化の変化
50
70
90
110
130
150
0hr 1hr 2hr 3hr 4hr 5hr 6hr
mg/dl
アポ蛋白B
0
4
8
12
16
0hr 1hr 2hr 3hr 4hr 5hr 6hr
μg/mL
アポ蛋白B48
8
クッキーテスト負荷前後のRLP-Cへの Acarbose の急性・慢性効果に関する検討 秋田赤十字病院 内科 後藤 尚 【背景と目的】 Acarbose は食後高脂血症に対して、インスリン抵抗性への慢性効果を介する影響のほか近年急性効果を呈する可能性も指摘されている。今回、食後高脂血症の評価に
RLP-C(remnant like particle cholesterol)をとりあげ Acarbose の慢性効果及びVoglibose, Placeboとの三相の crossover試験による急性効果についての検討を行った。 【対象,方法,結果】 慢性効果については 2型糖尿病 6例(男性 4例),平均 63歳,BMI 22 kg/㎡, 罹病 11年,抗糖尿病薬(BG+TZD)内服 3例へ,六ヶ月の Acarbose 300 mg/day投与後, HbA1C 7.3→6.7(%; p=.009), Apo B/A1 1.38→1.52 (p=.049)と有意に改善。LDLC/HDLC, ApoBは低下傾向を示したが,BMI, ApoC2/C3などに変化はなく,クッキーテスト(六ヶ月後の検討では Acarbose は服用 ; 0,30,120,180 分 )時の血糖は 159-206-279-249 から146-170-207-202 へと負荷後各点で有意に低下し,IRI も 5-13-31-27 から 4.3-14-14-14と 120,180分時で有意に低下した。負荷前 RLP-Cは 4.6→4.3と不変だったが負荷 120分後のは 9.5→7.2(p=0.020)へ,またΔRLP-C も 4.9→3.5(p=.038)へと有意に低下した。また TG に有意な変化はなかった。急性効果については 6 例の健常対象へ placebo(P), Acarbose 100mg(A), Voglibose 0.3 mg(V)投与時のクッキーテスト(0,45,120,180,240分 )を double blind crossover design で実施した。 P,A,V の順に血糖は , 100-124-102-97-83, 99-115-103-96-93, 100-121-116-104-93 (mg/dl)とほぼ同等であったが IRI は 7-38-32-20-8, 6-29-17-11-8, 7-43-43-28-14(uU/ml)と A で P,V と比べて45,120,180分時に有意に低下していた。ΔRLP-Cは 5.2,1.5,1.8(mg/dl); p=.10)と各 GI投与の際に低下傾向を認めた。また TGには有意な変化はなかった。 【結語】 RLP-Cは(血糖,IRI の低下しなかった)Voglibose 投与の際も低下傾向を呈したため。GI製剤は血糖 IRI反応とは無関係にRLP-C低下への効果を有する可能性が示唆された。
9
非糖尿病患者のPCI後再狭窄におけるインスリン抵抗性の意義 -クッキーテストによる検討- 虎の門病院 循環器センター内科 矢崎義直、増田純、藤本肇、藤本陽、三谷治夫、前原晶子、大野実、石綿清雄 目的 複数の冠危険因子を有する虚血性心疾患患者において、食後高脂血症や食後高血糖、付
随する高インスリン血症などの糖脂質代謝異常と凝固線溶系の変化、炎症反応などが
PCI後再狭窄にいかに関与するかを検討する。 対象 非糖尿病症例で待機的 PCI に成功し、再狭窄の確認造影を終了した連続65例のステント挿入症例を対象とした。薬物溶出性ステント、慢性腎不全による透析例、静脈グラ
フト、感染症、家族性高脂血症は除外した。 方法 負荷試験食は小麦澱粉 75g(マルトース 15%)、脂肪 24g を含有する 560kcalのクッキー(アビリット社)。 耐糖能のみならず脂肪の処理能の評価と食後高脂血症の検出が可能である。PCI施行翌日の朝食として摂取し、負荷前、1、2、6時間後に採血を施行。再狭窄は狭心症再発時もしくは 6ヶ月後の再造影で評価した。 採血項目として、脂質:TC, TG, HDL, RLP-c, ApoB、血糖関連:血糖、IRI、凝固線溶関連:TT, PIC,TM, PAI-1, fibrinogen,plasminogenその他、アディポネクチン、レプチン、hs-CRP酸化LDL、 尿中 8-ISOプラスタンを測定した。 結果 非糖尿病患者における再狭窄率は34%であった。 食後高中性脂肪血症とその高値の遷延が再狭窄群において認められた。(図1) 再狭窄群では空腹時と6時間後のIRIが非再狭窄群に比して有意に高値であった
( 12.5 ± 4.9 vs.8.6 ±4.4, 15.1 ±11.9 vs. 8.9 ± 7.5: p < 0.05)。(図2) HOMA-IRが再狭窄群で非再狭窄群に比して有意に高値であった(2.81 vs. 2.11; p
10
図1
0
100
200
300
400
TriglycerideTriglyceride
fasting fasting 1hour 1hour 2hour 2hour 6hour6hour
Restenosis 150.4±71.9 160.3±76.5 198.5±91.1 207.1±124.4No-Restenosis 120.7±48.5 128.5±46.6 157.4±52.0 139.0±62.0P-value ns
11
図3
HOMAHOMA--IRIR
Restenosis No-Restenosis0
1
3
2
4
5
HOMA-IR2.5: insulin resistance
2.81 2.11
P
12
Ⅱ.基調講演要旨
13
クッキーテストの臨床的意義 -2型糖尿病第1期、食後高脂血症、インスリン抵抗性の 検出と改善目標としての有用性-
児成会生活習慣病センター 所長 原納 優 1.クッキーテストの概要 耐糖能精密検査は、75g糖質或いは食事時の血糖とインスリン反応より、IGT
或いは高又は低インスリン反応を判定し、耐糖能異常の病態を把握する意義を有する。
通常使用される液状ブドウ糖は37%ブドウ糖などを含み、日常の食習慣を反映せず、
反応性低血糖やそれに伴う不快感、交感神経緊張状態などが惹起される。かかる欠点
を補い、更に最近注目されている食後高脂血症も判定可能である。 クッキーテストは75g小麦粉澱粉(15%マルトースを含む)と28gバター脂
肪(酸分解法による、従来のエーテル抽出法によると25g)からなり甘味料などを
含まず自然的食品であり(585kcal)、膵外分泌障害が無い場合、2時間の血
糖値が140,200mg/dlを越える場合、WHO基準と同じく、それぞれIG
T、糖尿病の診断が可能である。0,1,2時間の血中インスリンが12,80,5
9μU/ml以上は高インスリン血症、AUCinsulin×AUCglucos
e或いはAUCinsulinは感度が不十分であるが、高い特異性でインスリン抵
抗性を示す。 複数の施設で施行したトレーランGとクッキーテストでの反応性低血糖(80mg/
dl以下)は前者で262/4946(5.3%)に比し、後者で7/600(1.
2%)、50mg/dl以下は、前者0.55%に対し後者では皆無であり、症状も
みられなかった。BMIの変化が1以内で、1年以内に施行した両テストでの正常、
糖尿病の診断の一致率は93%以上、IGTを含めた総一致率は104例中89%と
良好であった。 2. クッキーテストの特徴 1.反応性低血糖の副作用が少なく、日常食事の代謝状態を反映する。 2.食後高脂血症が判定出来る(ΔTG 66以上、ΔRLP 3.3以上)。 3.高インスリン血症、インスリン抵抗性が判定可能(AUCinsulin、AU
Cinsulin × AUCglucose)。 4.Normal、IGT、DMの判定基準はトレーランGと同じである。 5.血糖とインスリン測定に関しては、トレーランGや食事時の日内変動と同じ耐糖
能精密検査の健保適用となる。但しクッキーは食品であるので、トレーランGと
異なり、将来は患者或いは診療側負担となる。また、肥満、高血圧、循環器疾患、
耐糖能異常、糖尿病疑い例など医師の指示に従い施行する。 6.食する場所が必要であるが食堂でも可。管理栄養士の観察・管理下に施行すると、
摂食前後、途中の空腹及び満腹感、うま味など味覚の変化のアンケート記入体験
が食事指導と同療法に役立つ(表2)。肥満例などでは、栄養食事指導を同時に
行うと食欲中枢を含めた指導が意義深い。検査部では、紅茶・コーヒー、お茶な
どで食するスペースの配慮を御願いする。
14
3.肥満例に対するクッキーテストによる耐糖能の評価成績 早期(第1期)糖尿病は、血糖正常でインスリン抵抗性ありの時期である。 高インスリン血症は 90%以上の確率でインスリン抵抗性を示し、一方AUCgl
ucose×AUCinsulinはインスリン抵抗性を示す。 従って、血糖正常で高インスリン血症又はインスリン抵抗性ありの群は14例(3
3%)あり、IGT10例(23%)、DM15例(35%)、異常なし4例(9%)
であった(図1)。FBS126以下で2hBS200以上は1/3に見られ、FB
SからIFGと見られた4例はDMかIGTと判定された。空腹時の血糖、インスリ
ン値からの判定に比し、クッキーテストを施行することにより、IGTおよび早期(第
1期)の糖尿病を検出することにより約5割の新たな早期診断が可能であった。 これらの症例に対し、食事・運動療法により改善及び更なる進展予防により、最も効
果的な糖尿病対策が可能である。 4.肥満例における従来の基準によるmetabolic syndrome頻度とクッキーテスト成績を加味した新基準による頻度の比較 クッキーテスト成績を加味した新基準を表に示す(表1)。耐糖能異常に関しては、
FBS110以上に加えて、2hBS140以上も基準に追加した。高脂血症に関し
ては、新たに1又は2hでのΔTGが66以上を基準に加えた。血圧値が一部の症例
で未測定であったので、MSの頻度がやや低率となったが従来の基準では、39.5%
がMSであったが、クッキーテスト成績を加味すると53.5%に増加した(表1)。 5.クッキーテスト時の満腹度・味の変化など食欲中枢に関連するアンケート調査と食
事指導への活用 クッキーテストは、耐糖能精密検査の対象例に対し医師の指示により施行される。
体型が正常、活動度も良好で、血圧、血中糖・脂質などに異常の無い例は対象外とな
る。ドックや企業健診などでは、BMI25以上、ウエストが男性85cm、女性8
0cm以上、FBS110mg/dl以上、HbA1c5.5%以上、血圧135/
85以上など一次健診異常者が対象として適応であろう。 実施は、通常臨床検査部で施行されるが、従来の液状ブドウ糖と異なり、摂食スペ
ースを要し、お茶、紅茶、コーヒーなどの飲料も必要である。食堂での摂食も可能で
あるが、臨床検査技師、看護師、管理栄養士の観察下に、検査部又は管理栄養士の指
導室での施行が望ましい。クッキーは味わいながら10-15分をかけて摂食し、そ
の間空腹感、満腹感、旨み、甘み、膨満感 などの変動を体験し、アンケート調査用
紙に記入する。50%摂食時をスタートとし、前,1,2hで検査部に於いて採血す
る。 満腹度8-9分目、種々の食品に関し、旨みや甘みの減弱時点で、摂食を止める食
習慣の確立を目指し、クッキーを摂食し、アンケート調査用紙に記入する。終了まで
2時間を要するので、その間に栄養・運動療法の指導を行うことも有用である。 クッキー摂食前の空腹感が腹何分目にあたるか、摂食後満腹度、腹部膨満感、旨み、
甘さの変化と減弱が何割摂取で観察されるかを体験する。 食前は当然空腹感が存在するが、インスリンが最も低い時点であり、脂肪分解が促進
される。空腹感が少ない症例では、前日の夕食が多いか、睡眠前の間食が有るかなどア
ンケートを用いて問診する(図2A)。旨みなどの味の変化(図2B)は、満腹中枢の満
腹度を示すと考えられ日常の食習慣では、その食品に関してはそれ以上食べないように
指導する。肥満例がクッキーテストを施行する頻度が多いと想定されるが、かかる例で
は食事指導を同時に施行すると2時間の有効利用にもなり効率的である。
15
図1
表1
肥満例におけるクッキーテストによる耐糖能異常の分類
N=43
血糖正常
高インスリン血症又はインスリン抵抗性あり
第1期糖尿病
IGT23%
IFG0%
DM35%
第1期糖尿病33%
NORMAL9%
クッキーテスト成績を加えたメタボリックシンドロームの判定と従来基準との比較
◎ BMI≧25 必須
○ 脂質代謝異常TG≧150、HDL<40のいずれか1項目以上
○ 空腹時血糖≧110○ 血圧 130/85 以上 (但し、拡張期、収縮期のいずれかが該当すれば含む)
※◎を満たした上で、○を2項目以上該当
メタボリックシンドロームの基準 17/43 39.50%
◎ BMI≧25 必須
○ 脂質代謝異常TG≧150、HDL<40、⊿TG≧66のいずれか1項目以上
○ 空腹時血糖≧110、2h血糖値≧140 のうちいずれか1項目以上満たすもの○ 血圧 130/85 以上 (但し、拡張期、収縮期のいずれかが該当すれば含む)
※◎を満たした上で、○を2項目以上該当
従来基準との比較①脂質代謝異常は、TG 0h≧150 及び HDL 0h<40 に加えて、⊿TG ≧66 を追加 ②糖代謝異常は、血糖 0h <110 に加えて、血糖 2h ≧140以上を追加
新メタボリック基準(クッキーテスト加味) 23/43 53.50%
16
図2 クッキーテスト施行時の食欲中枢関連アンケート結果
A 現在の空腹感はどれくらいですか?
0
2
4
6
8
10
A
.や
や空
腹
感
(8分
目
)
B
.か
な
り
空
腹
(6〜
7分
)
C
.強
い空
腹
(4〜
5分
)
D
.脱
力
感
・
フ
ラ
フ
ラ感
(2〜
3分
)
E
.動
けな
い
・冷
や
汗
・手
足
の
ふ
る
え
(0〜
1分
)
n
B 何個以上から味が変わりましたか?(クッキー1袋:約15個中)
0
1
2
3
4
5
6
7
1個 1.5個 2.5個 3個 3.5個 4個 6個 7個 8個 9個 10個 11個 12個 13個 14個
n
表2 クッキー摂食時の食欲中枢関連アンケート
年 月 日
氏名 年齢 歳 身長 cm 体重 kg
①現在の空腹感はどれぐらいですか? かなり空腹 ・ やや空腹 ・ あまり空腹なし ・ 空腹なし (腹 七分目) (腹 八分目) (腹 九分目) (腹 十分目)
②おいしさ(うま味)が減ってきた時点はどこですか? 1/4食べた時 半分食べた時 3/4食べた時 全部食べた時 どのようにうま味が減ってきましたか? ややうま味が減った・ややうま味がある・ほとんどうま味なし・全くうま味なし (その他 )
③味が落ちてきた時点はどこですか?(甘味など) 1/4食べた時 半分食べた時 3/4食べた時 全部食べた時 どのように甘味が落ちましたか?(例:甘いと感じない) やや甘味が減った・やや甘味がある・ほとんど甘味なし・全く甘味なし (その他 )
④満腹感が出てきた時点はどこですか? 1/4食べた時 半分食べた時 3/4食べた時 全部食べた時
⑤食べ終わった時点での満腹感はどうですか? 強いぼうまん感のある満腹・少しぼうまん感のある満腹・お腹のはらない満腹 空腹の消失 ・ まだ少し空腹 ・ 食べ初めの時とあまり変化なし
今回の580kcalクッキー摂食の体験から日頃の食事摂取について感想。 (例:腹8-9分目で止める、味や旨みが落ちたら止める、膨満する前に止める 等)
満腹度、味の変化などの体験を今後の食習慣の改善に役立てるように、食欲中枢に 対する食事指導の一助として管理栄養士の方に活用していただけたら幸いです。 (うまみが落ちたり、味気が無くなった時点、腹8-9分目で食べ止め)。
17
Ⅲ.特別講演要旨
18
感染症と生活習慣病
九州大学大学院感染環境医学、九州大学病院総合診療部 林 純 はじめに わが国では高血圧症、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病が国民病と言われ、メタボ
リック・シンドローム(内臓脂肪症候群)との深い関連が指摘されている。生活習慣病
から引き起こされる血管の炎症および障害により動脈硬化を促進し、最終的には脳血管
障害や心血管障害を引き起こす。また、Loss は動脈硬化症は炎症であることを指摘しているが、著者らは炎症の原因として感染症に注目し、生活習慣病と持続感染症との関
連およびクッキーテストの有用性を報告する。 対象と方法 対象は福岡県の粕屋町と星野村、長崎県壱岐市、および沖縄県石垣市の一般住民および
九州大学病院総合診療部および関連病院の外来・入院患者である。動脈硬化症の診断に
は頚動脈超音波装置(頚動脈の内膜中膜肥厚)を用い、感染マーカーとしては、肺炎ク
ラミジア抗体、ヘリコバクタ・ピロリ(HP)抗体、C 型肝炎ウイルス(HCV)RNAを用いた。また、食事負荷試験としてクッキー(115g、560Kcal: 糖質 75g、脂肪 24g、蛋白質 7g、アビリット社製、大阪 )テストを用いて、インスリン抵抗性を高分子量アディポネクチンとともに検討した。 成績 大規模な動脈硬化症の疫学的研究から、その危険因子は脂質代謝異常、糖尿病であり、
肺炎クラミジアは危険因子ではなかったが、心筋梗塞では危険因子の一つである可能性
が考えられた。脂質低下剤であるプロブコールやプラバスタチンは動脈硬化の進展抑制
効果がみられるが、肺炎クラミジア抗体陽性例ではその効果がみられず、レボフロキサ
シンの併用投与ではみられた。また、プラバスタチン投与前後のクッキーテストおよび
アディポネクチンの推移により、プラバスタチンはインスリン抵抗性を改善することが
判明した。HP感染は急性期脳梗塞、特にラクナ梗塞および閉塞性動脈硬化症の独立した危険因子であった。その機序として、HP感染者では血清の総コレステロールおよびLDLが高値であること考えられた。HCV感染者は総コレステロールおよび LDLが低値であるが、脂質低下剤の動脈硬化進展抑制作用を阻害していた。また、クッキーテス
トにより HCV感染者はインスリン抵抗性が高く、HCVRNA量はアディポネクチンに逆相関していた。 結語 肺炎クラミジアおよびHP感染は動脈硬化症の initiatorではないが、promoterである可能性が示唆され、また、HCV 感染はウイルスが直接的にインスリン抵抗性を惹起している可能性が考えられた。インスリン抵抗性の検討にクッキーテストは有用であった。
19
Ⅳ.クッキーテスト概要
20
1)クッキーテストについて
肥満に代表される生活習慣病の主要代謝性因子として、耐糖能異常、高脂血症、高
血圧そしてインスリン抵抗性が注目されています。高血圧以外の因子を同時にかつ
簡易に検出することを目的としてクッキーテストが開発されました。早期に上記要
因を検出し、これを指標に食事、運動習慣などの改善により、生活習慣病予防と対
策に役立つことを目指しています。
クッキーテストは経口糖負荷試験での負荷糖として、75gブドウ糖に相当するクッ
キーを使用するものです。このクッキーには、小麦粉澱粉を主とする糖質 75g(マ
ルトース 15%を含む)とバターを主とする脂質 28.5gが含まれています。
澱粉は膵外分泌障害(慢性膵炎など)がない場合は良く消化吸収されるため、摂取後
2時間の血糖には液状ブドウ糖(トレーランG)との差がありません。またクッキー
テストの特徴は、液状ブドウ糖と異なり日常の食品であり、反応性低血糖やそれに
伴う胃部不快感などが少なく、糖質と脂質に対するインスリンの処理能を同時に評
価可能なことです。
そのため、採血時に実施する様々な検査を組み合わせることによって、
○耐糖能異常
糖尿病
IGT
IFG
食後高血糖
○高インスリン血症
インスリン抵抗性
○食後高脂血症
以上の生活習慣病代謝性要因の早期検出が可能です。
*液状ブドウ糖又は日内変動の食事負荷と同じ扱いで、医師の判断で耐糖能異常疑い
例では、「耐糖能精密検査」として、検査(血糖とインスリンなど)について保険適
用が可能です。クッキー自体は食品ですので、保険適用ではありません。
2)クッキーテストの実施概要
1.一袋(内容量 115g)をテストに使用します。一袋分で一般的な朝食のエネル
ギー相当となります。(585kcal)。
2.クッキー一袋分の摂食時間は 10~15 分程度を目安にします。
*食べにくい方でも 50%を少なくとも 10分以内に食して頂き、残りはその後 20 分以内に食していただくと負荷試験としての基準が達成されます。
3.クッキーはお水またはお茶、紅茶 1~2杯で摂食します。
(砂糖・ミルクは使用しないで下さい)
4.空腹時の採血とクッキーを半分程度摂食した時間を 0 として、1 時間後、2 時
間後の採血を実施します。
21
クッキーの摂食後、澱粉と脂肪は血液中に血糖、脂肪として現れますのでインスリン作
用下の代謝、処理される過程を調べることができます。(精密耐糖能、高インスリン血
症、インスリン抵抗性、食後高脂血症の評価ができます。)
生活習慣病に関連する、血糖、高脂血症(特に食後高脂血症)、高インスリン血症や低
値、インスリンの効き方を観察することができます。日常の食習慣に即した代謝の流れ
を観察できるよう考案いたしました。なお、慢性膵炎などのある方は、消化の遅れ、下
痢等の影響もありますので医師とご相談の上、判定に際してはご考慮ください。
IFG、耐糖能異常、IGT
糖尿病
高インスリン血症
低インスリン血症
TG (mg/dl) 高TG血症、食後高脂血症
RLP-C (mg/dl) 高RLP血症、食後高脂血症
HDL-C (mg/dl) 低HDL血症
LDL-C (mg/dl) 高LDL血症
Apo-B (mg/dl) 高アポB血症
インスリン (μU/ml)
①測定値の判定
採血項目判定の為の基準値
判定空腹時 1時間 2時間
血糖 (mg/dl)110以上~126未満 160以上 140以上~200未満
126以上 - 200以上12以上 82以上 59以上
150以上 ⊿66以上(1時間値-空腹時)
⊿66以上(2時間値-空腹時)
3未満 18未満 25未満
7.5以上 ⊿3.3以上(1時間値-空腹時)
⊿3.3以上(2時間値-空腹時)
40以下 - -120以上 - -110以上 - -
②インスリン抵抗性の評価*2
計算式 基準値 判定 備考
インスリン抵抗性 (インスリン面積)×{(空腹時血糖値+ 1時間血糖値+1時間血糖値+2時間血糖値)÷2}
インスリン面積 (μU/ml・hr)*1 110以上 インスリン抵抗性 (空腹時インスリン値+1時間インスリン値+ 1時間インスリン値+2時間インスリン値)÷2
Control 26例のMean+2SDを基準に算定
*2 低インスリン血症はインスリン抵抗性評価より除外
*1 Takeuchi, Harano, et al : Endocrine Journal 47(5),535-542(2000) にてインスリン抵抗性(SSPG)との有意相関を報告
●生活習慣病代謝性危険因子の早期検出 -クッキーテストによる総合的検出の判定表-
HOMA-R (mg/dl・μU/ml) 2.1以上 インスリン抵抗性 空腹時血糖値×空腹時インスリン値÷405
インスリン面積×グルコース面積
(mg/dl・μU/ml・hr2 )*1 22800以上
空腹時 食後1時間 食後2時間 判定または診断
血糖 ● ● ●
インスリン ● ● ●
TG ● ●
追加オプション1 RLP-C ▲ ● 7.5mg/dl以上でレムナント高値、3.3mg/dl以上の増加で食後高脂血症
追加オプション2 PAGE ● ● VLDL増加、ミッドバンド出現、LDL小粒子化
TC ● ●
HDL-C ● ●
追加オプション4 Apo-B ● ● ● アポ蛋白B 増加 (110mg/dl ↑) 、高アポB血症
● 耐糖能精密検査(900点) ▲ 精密検討用
●クッキーテストで測定する血液検査項目
基本セット
耐糖能:正常、IFG 、IGT、糖尿病 高インスリン血症、インスリン抵抗性(AUCI、AUCI×AUCG) 食後高脂血症(TG ⊿66mg/dl ↑)
追加オプション3 コレステロール変動(LDL-C 120mg/dl ↑) HDL-C変動(40mg/dl ↓)
22
3)研究会について
クッキーテスト研究会は、
○近年注目されている生活習慣病の代謝性因子の早期検出と経過観察の指標とし
てのクッキーテストの意義と有用性を明らかにすること。
○生活習慣病の成因、機序、病態に深い理解が得られる手助けをすること。
○生活習慣病の対策に貢献すること。
を目的としています。
(組織 -平成18年9月現在-) ●代表世話人
原納 優 (児成会生活習慣病センター所長)
●世話人
林 純 (九州大学病院総合診療部教授) 伏見 尚子(住友生命保険相互会社診療所所長)
泉 寛治(株式会社ニチダン栄養研究所所長)
●幹事 石綿 清雄(虎の門病院循環器センター内科部長)
後藤 尚 (秋田赤十字病院内科副部長) 池淵 元祥(池渕クリニック院長) 藤田 誠一(国立病院機構姫路医療センター
研究検査科副技師長) 伊藤 芳晴(市立伊丹病院院長)
久保田 稔(関西学院大学社会学部教授・保健館長)
植田 福裕(市立貝塚病院栄養管理室副室長)
小松 良哉(リョーヤコマツクリニック院長) 萬屋 穣 (関東労災病院循環器科副部長) 倉知 美幸(NTT西日本東海病院健康管理科部長) 中島 譲 (大阪府済生会千里病院内科部長)
◆クッキーテストに関するお問合せ先 クッキーテスト研究会事務局 アビメディカル(株)営業部 担当 芝地、竹内 TEL: 06-7650-6518 E-mail: [email protected]
平成18年9月発行