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版の刊行に際して  i 6 版の刊行に際して 旧著『民事訴訟法』の初版刊行1974年)から、45年が経ちました。その間 1998年に新しい民事訴訟法典が生まれ、本書もこれを祝って『新民事訴訟法』 (初版1998年)と命名して出版し、それからでも、すでに20年が過ぎ、第 5 2011年)まで改訂しました。中身は、継ぎはぎだらけで、張りぼての様相を呈し ています。今回は縦書きから横書きに変えました。そのため当初は100頁程自動 的に減りましたが、加筆・訂正していくうちに、1000頁を超えてしまいました。 今さら、『「新」民事訴訟法』でもないだろうと思いましたが、名案もなく、結局、 『新民事訴訟法 第 6 版』と名付けました。 今回も、改訂を試みたいと思ったのは、これまでと同様、実務、判例および理 論、どの視点でも大きな変化があったことを踏まえ、それらの展開を私自身がど う受け止めるのかを明らかにしておきたいと願ったためです。同時に、次世代の 課題について私の求める方向だけでも示しておきたかったためです。 しかし、新しい判例・文献等を、網羅的に検討することは、はなから、諦めま した。自分なりであれ、完璧を期すことにこだわっていては、改訂作業はとても 終わらないと決断したからです。 (民法の改正については、一応、平成30年法律72(相続法の改正)まで取り入れましたが、)重要でありながらこぼれ落ちた、いや、 わざと次回まわしにした課題も多々あります。本改訂版も、相変わらず未完成品 であることを自覚し、つぎの機会にさらに補充することを約して、ご寛容を乞う ところです。 本改訂の特色としては、裁判所対当事者の対立軸を包摂した社会、市民あるい は納税者の目線10頁〔*〕・66頁( 2 ))からも、より応答性の高い民事訴訟制度の 構築269576頁注 4 )・610頁注 6 )・650頁注 4 ))を目指しつつ、とくに証拠争点 整理手続の活性化という実務面に、一歩、踏み込んでみたことです。その関連で、 要件事実論(抽象的証明責任論)の批判485488頁〔*〕・574、事案解明責 任論の展開482頁以下) 、一般条項などの判断過程における法創造的側面の強調

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第 6 版の刊行に際して  i

第 6版の刊行に際して

 旧著『民事訴訟法』の初版刊行(1974年)から、45年が経ちました。その間1998年に新しい民事訴訟法典が生まれ、本書もこれを祝って『新民事訴訟法』(初版1998年)と命名して出版し、それからでも、すでに20年が過ぎ、第 5版(2011年)まで改訂しました。中身は、継ぎはぎだらけで、張りぼての様相を呈しています。今回は縦書きから横書きに変えました。そのため当初は100頁程自動的に減りましたが、加筆・訂正していくうちに、1000頁を超えてしまいました。今さら、『「新」民事訴訟法』でもないだろうと思いましたが、名案もなく、結局、『新民事訴訟法 第 6版』と名付けました。

 今回も、改訂を試みたいと思ったのは、これまでと同様、実務、判例および理論、どの視点でも大きな変化があったことを踏まえ、それらの展開を私自身がどう受け止めるのかを明らかにしておきたいと願ったためです。同時に、次世代の課題について私の求める方向だけでも示しておきたかったためです。 しかし、新しい判例・文献等を、網羅的に検討することは、はなから、諦めました。自分なりであれ、完璧を期すことにこだわっていては、改訂作業はとても終わらないと決断したからです。(民法の改正については、一応、平成30年法律72号

(相続法の改正)まで取り入れましたが、)重要でありながらこぼれ落ちた、いや、わざと次回まわしにした課題も多々あります。本改訂版も、相変わらず未完成品であることを自覚し、つぎの機会にさらに補充することを約して、ご寛容を乞うところです。

 本改訂の特色としては、裁判所対当事者の対立軸を包摂した社会、市民あるいは納税者の目線(10頁〔*〕・66頁( 2))からも、より応答性の高い民事訴訟制度の構築(269頁⑷・576頁注 4)・610頁注 6)・650頁注 4))を目指しつつ、とくに証拠争点整理手続の活性化という実務面に、一歩、踏み込んでみたことです。その関連で、要件事実論(抽象的証明責任論)の批判(485頁⒟・488頁〔*〕・574頁⒝)、事案解明責任論の展開(482頁以下)、一般条項などの判断過程における法創造的側面の強調

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ii  第 6 版の刊行に際して

(470頁〔*〕・488頁〔*〕・608頁〔*****〕・625頁注17))、医療事故などハードケースにおける因果関係や過失の主張立証・判断方法(575頁〔*〕・623頁〔***〕)、カンファレンス鑑定の社会的意義(650頁注 5))、弁論準備手続の評価と展望(545頁

〔*〕)、情報開示義務、秘匿特権の社会的意義(419頁以下)等を挙げたいと思います。私自身、弁護士登録をしてからも四半世紀を超えました。実務家としてはまだ駆け出しにすぎませんが、今回の改訂版が、実務面でもなにがしかの寄与ができるとすれば、望外の幸せです。

 元号が平成に切り替わった30年前(旧版『民事訴訟法』第 2版補正版の頃)、すでに60歳に近かった自分が、平成の世を生き抜くことは思いもよりませんでした。今回の改訂作業は、息を継いで、また継いでの長旅でした。また多くの方の助けや励ましの後押しで、やっと区切りをつけることができました。とくに、出入りの激しい事務所の中に静謐な空間をずっと用意してくださった大村扶美枝代表弁護士、秘書の石井理絵さんはじめ事務所の皆さん、また原稿を回収するたびに作業の進捗を喜び、励ましてくださった弘文堂の高岡俊英さん、清水千香さんに、厚く御礼を申し上げたい。清水さんには、資料・表の作成や更新をお願いしました。岡庭幹司(横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授)さんには、大局的かつ詳細に、叙述の前後矛盾、重要な判例・文献の見落し、文献の読み間違いなどを、チェックしていただいた。また、長女新堂明子(法政大学法科大学院教授 民法専攻)には、とくに改正民法との関連を見直してもらった。むろん文責は私にありますが、ともに、貴重な意見をたくさんいただき、改訂といえるまでの体裁になりましたこと、そして、息の合った伴走者であったことを振り返り、あらためて感謝します。

 さて、本改訂の質については読者に判断をお任せするとして、私事ですが、令和の初年、米寿を祝いながら本第 6版の上梓に辿り着けたことは、あまりの好運、まこと、「萬壽」で一杯の気分です。

2019年10月 1日新堂・松村法律事務所にて

新 堂 幸 司

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xiv  目  次

目  次

第 6版はしがき i

凡  例    xxx

第 1編 総  論第 1章 民事訴訟 1

第 1節 民事訴訟制度の目的 1

1 学説の対立状況( 1)   2 従来の目的論に対する反省( 4)3 民事訴訟の目的の相対的把握( 7)

第 2節 民事訴訟と他の訴訟制度 10

1 訴訟の意義および種類(10)2 民事訴訟事件と他の訴訟事件との区別(12)

第 3節 民事紛争と民事訴訟 14

1 民事紛争を解決するための諸制度(14)   2 仲裁(17)3 調停(18)   4 非訟事件(25)

第 4節 裁判所による民事紛争処理手続の種類 35

1 民事紛争処理の手続(35)   2 判決手続に関する特別手続(37)3 判決手続に付随する手続(41)

第 2章 民事訴訟法 43

第 1節 民事訴訟法の意義 43

1 実質的意義の民事訴訟法(43)   2 憲法と民事訴訟法(44)3 公法としての民事訴訟法(47)4 民事法としての民事訴訟法(48)   5 訴訟法規の種類(49)

第 2節 日本の民事訴訟法の沿革と将来 51

1 民事訴訟制度の成立(51)   2 ドイツ法の継受(51)3 旧々民事訴訟法制定後の改正(52)4 平成 8年改正民事訴訟法の成立(53)5 司法制度改革審議会意見書に基づく諸改正(55)

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目  次  xv

6 国際的要素を有する民事裁判手続等に関する法整備(60)

第 3節 民事訴訟法理論の基本的特色 61

1 手続現象を規律する法理論としての特色(61)2 集団現象を処理する法理論としての特色(63)3 公益性の強調と利用者の立場(64)4 機能的考察と現象的考察(67)

第 4節 民事訴訟法における判例の役割 71

1 判例法形成の必要(71)   2 判例法形成の限界(72)

第 5節 民事訴訟法の適用範囲 74

1 時的限界(74)   2 地域的限界(74)3 人的または物的限界(75)

第 2編 訴訟の主体第 1章 裁 判 所 78

第 1節 裁判所の組織 78

1 裁判所(78)   2 裁判所の構成(79)3 裁判官(83)   4 裁判所書記官(90)

第 2節 民事裁判権 92

1 意義(92)   2 民事裁判権の限界(93)3 民事裁判権の対物的制約(95)4 民事裁判権欠缺の訴訟上の取扱い(103)

第 3節 管  轄 105

第 1款 総  説 105

1 管轄の意義(105)   2 管轄規定の性質(106)

第 2款 各種の管轄 107

第 1項 法定管轄 107

1 職分管轄(107)   2 事物管轄(109)   3 土地管轄(112)

第 2項 法定管轄以外の管轄 118

1 指定管轄(118)   2 合意管轄(119)   3 応訴管轄(123)

第 3款 管轄の調査手続 124

1 調査の方法および限度(124)   2 管轄決定の時期(124)

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xvi  目  次

第 4款 訴訟の移送 125

1 移送の意義(125)   2 各種の移送(125)3 移送の裁判(128)

第 2章 当 事 者 130

第 1節 当事者の概念および確定 130

1 当事者の概念(130)   2 当事者の確定(133)

第 2節 当事者能力 143

1 当事者能力の意義(143)   2 当事者能力をもつ者(144)3 当事者能力の調査および欠缺の効果(150)

第 3節 訴訟能力    151

1 意義(151)   2 訴訟能力者(154)3 訴訟能力を欠く者および制限訴訟能力者(154)4 訴訟能力がない場合の取扱いおよび効果(157)

第 4節 弁論能力 162

1 概念(162)   2 現行法上の弁論能力(163)

第 5節 訴訟上の代理人 164

第 1款 総  説 164

1 訴訟上の代理の意義(164)   2 訴訟上の代理権(166)

第 2款 法定代理人 170

1 意義(170)   2 実体法上法定代理人の地位にある者(170)3 訴訟法上の特別代理人(171)   4 法定代理権(173)5 法定代理人の訴訟上の地位(176)

第 3款 法人等の代表者 177

1 代表者の意義(177)   2 代表者の訴訟上の地位(178)

第 4款 訴訟代理人 181

第 1項 訴訟委任に基づく訴訟代理人 181

1 概念(181)   2 弁護士代理の原則(181)3 訴訟委任に基づく訴訟代理権(188)4 訴訟代理人の訴訟手続における地位(193)

第 2項 法令上の訴訟代理人 194

1 意義(194)   2 法令上の訴訟代理人たる資格(195)3 代理権(195)   4 法令上の訴訟代理人の手続上の地位(196)

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目  次  xvii

第 5款 補 佐 人 196

1 概念(196)   2 資格および地位(197)

第 3編 第一審手続第 1章 訴訟の開始 199

第 1節 訴えの概念および各種の訴え 199

第 1款 総  説 199

1 訴えの意義(199)   2 訴えの種類(201)

第 2款 給付の訴えと確認の訴え 202

1 給付の訴え(202)   2 確認の訴え(202)3 給付の訴えと確認の訴え(203)

第 3款 形成の訴え 205

1 総説(205)   2 形成の訴えの具体例(206)3 形成判決の効力の及ぶ範囲(212)

第 2節 訴訟開始の手続 214

1 訴え提起の方式(214)   2 訴状の記載事項(215)3 訴状の取扱い(218)

第 3節 訴え提起の効果 221

1 総説(221)   2 二重起訴の禁止(221)3 起訴に結びつけられる他の法規上の効果(227)

第 2章 審判の対象 232

第 1節 訴訟要件 233

第 1款 訴訟要件一般 233

1 訴訟要件の概念(233)   2 訴訟要件の種類(234)3 各個の訴訟要件(234)   4 訴訟要件の調査(235)

第 2款 訴権的利益 239

第 1項 訴 権 論 239

1 訴権論争(239)   2 訴権論争の意義(242)3 訴権論争の限界(244)

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xviii  目  次

第 2項 裁判所の審判権の限界 245

1 裁判所審判権の意義(245)2 司法作用の特質からくる審判権の限界(246)

第 3項 訴えの利益 257

1 総説(257)   2 訴えの利益の判断における利害の対立(257)3 各種の訴えに共通の利益(259)   4 給付の訴えの利益(265)5 確認の(訴えの)利益(269)   6 形成の訴えの利益(281)

第 4項 当事者適格 283

1 概念(283)   2 正当な当事者⑴ (290)3 正当な当事者⑵ (292)   4 正当な当事者⑶ (300)5 正当な当事者⑷ (304)   6 当事者適格の訴訟上の意義(305)

第 2節 本案判決の対象 308

第 1款 訴訟上の請求の意義 308

1 訴訟上の請求(308)   2 訴訟物論争の意義(312)

第 2款 申立事項──処分権主義(その 1) 329

1 処分権主義(329)   2 申立事項と広義の請求(330)3 民訴法246条の機能とその解釈作業(330)4 民訴法246条の解釈の具体例(332)

第 3節 当事者の意思による訴訟の終了──処分権主義(その 2) 346

第 1款 訴えの取下げ 346

1 意義(346)   2 訴え取下げの要件(349)3 訴え取下げの手続(351)   4 訴え取下げの効果(354)5 訴え取下げの有無および効力についての争い(357)6 訴え取下げの擬制(358)

第 2款 請求の放棄および認諾 359

1 放棄・認諾の意義(359)   2 放棄・認諾の要件(360)3 放棄・認諾の手続(363)   4 放棄・認諾の効果(365)

第 3款 訴訟上の和解 367

1 意義(367)   2 訴訟上の和解の要件(369)3 訴訟上の和解の手続(369)   4 訴訟上の和解の効力(372)

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目  次  xix

第 3章 訴訟準備活動とそのサポート・システム 379

第 1節 現行法における訴訟準備活動のためのサポート・システム 380

第 1款 当事者照会制度 380

1 意義(380)   2 訴え提起前における照会(382)3 訴え提起後における当事者照会(384)  4 誠実に回答しなかった場合等の効果(385)

第 2款 公務所等に対する照会、調査・鑑定の嘱託 387

1 弁護士法上の照会制度(387)2 民事訴訟法上の調査・鑑定の嘱託(390)

第 3款 訴え提起前における証拠収集の処分 390

1 訴え提起前における証拠収集処分の意義(391)2 申立要件(391)   3 証拠収集処分の種類(392)4 管轄裁判所(392)   5 証拠収集処分の手続等(393)6 申立人および相手方の事件記録へのアクセス(394)7 費用の負担(394)

第 4款 訴訟係属後の証拠収集処分 394

第 1項 文書提出命令・送付嘱託 394

1 文書の提出命令・送付嘱託の意義(394)2 文書提出義務の範囲(395)   3 文書提出命令手続(409)4 文書提出命令に従わない場合の効果(411)

第 2項 検証物の提示命令または送付の嘱託 412

1 検証物の提示命令または送付の嘱託の申立て(412)2 検証協力義務およびその範囲(413)3 検証協力義務の違反の効果(414)

第 5款 証拠保全手続 415

1 証拠保全の意義(415)   2 証拠保全の手続(416)3 証拠保全の結果(417)

第 2節 情報開示義務の基本理念 417

1 情報開示義務の基本理念(417)   2 情報開示義務の限界(419)3 秘密保持命令制度について(420)

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xx  目  次

第 4章 訴訟審理の進行 421

第 1節 手続の進行と停止 421

第 1款 期  日 422

1 概念(422)   2 期日の指定(422)   3 期日の変更(423)4 期日の呼出し(425)   5 期日の実施(426)

第 2款 期  間 426

1 期間の意義および種類(426)   2 期間の計算(427)3 期間の進行(428)   4 期間の伸縮(428)5 期間の怠り(懈怠)とその救済(429)

第 3款 送  達 432

1 意義(432)   2 送達機関(434)   3 送達用書類(435)4 送達の方法(436)   5 送達場所の届出制度(439)6 送達の瑕疵(440)

第 4款 訴訟手続の停止 441

1 意義(441)   2 訴訟手続の中断の発生および解消(442)3 訴訟手続の中止の発生および解消(447)4 訴訟手続の停止の効果(447)

第 2節 手続進行における訴訟主体の役割 448

1 手続進行に関する当事者主義と職権主義(449)2 裁判所の訴訟指揮権(450)3 手続進行、審理の整理に関する当事者の地位(452)4 責問権(454)

第 5章 当事者の弁論活動と裁判所の役割(審理の第 1段階) 455

第 1節 審理過程における当事者の行為 456

1 訴訟に関する当事者の行為(456)2 裁判取得目的をもつ行為(458)3 口頭弁論における当事者の行為(461)

第 2節 弁論活動を指導する原則 467

第 1款 弁論主義と職権探知主義 467

1 弁論主義と職権探知主義の意義(467)2 弁論主義の内容(469)   3 弁論主義の限界(475)

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目  次  xxi

4 職権探知主義(492)

第 2款 裁判所による協力 495

1 事案解明のための裁判所の活動(495)   2 専門委員制度(503)3 裁判所調査官制度の整備(506)

第 3節 口頭弁論の手続 507

第 1款 審理の方式 507

1 口頭弁論の意義(507)   2 審理の方式に関する諸原則(509)

第 2款 攻撃防御方法の提出時期 523

1 口頭弁論の一体性(523)   2 適時提出主義(524)3 攻撃防御方法提出の怠り(528)

第 3款 弁論の怠り(当事者の欠席等)に対する措置 532

1 当事者双方の欠席(532)   2 当事者の一方の欠席(533)

第 4款 口頭弁論の準備 536

第 1項 準備書面 536

1 意義(536)   2 準備書面の交換(537)3 準備書面の提出・不提出の効果(537)

第 2項 準備手続の沿革と挫折 539

1 準備手続の意義および沿革(539)2 平成 8年改正法の認めた争点および証拠の整理手続(542)

第 3項 準備的口頭弁論 542

1 意義(542)   2 準備的口頭弁論の手続および効果(543)3 制度の評価(544)

第 4項 弁論準備手続 544

1 意義と沿革(544)   2 弁論準備手続の開始(548)3 弁論準備手続の期日(548)   4 電話会議の方法による期日(549)5 当事者の手続保障(550)   6 弁論準備手続調書(550)7 手続の終了とその効果(551)

第 5項 書面による準備手続 552

1 意義(552)   2 手続の実施方法(552)3 手続の終了(553)

第 6項 進行協議期日 553

1 創設の経緯(553)   2 協議の内容(554)3 期日の規律(554)

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xxii  目  次

第 5款 口頭弁論の実施 555

1 口頭弁論の開始から終結・再開(555)2 口頭弁論手続の整理手段(557)   3 口頭弁論調書(559)

第 6章 当事者の立証活動と裁判所の事実認定(審理の第 2段階) 564

第 1節 総  説 564

1 証拠の機能(564)   2 証拠の概念(565)

第 2節 立証活動の目標 567

第 1款 証明とはなにか 567

第 1項 民事訴訟における証明の意義 567

1 証明の定義(567)   2 証明過程の構造(568)

第 2項 その他の証明に関する用語 577

1 疎明(577)   2 厳格な証明と自由な証明(578)3 本証と反証(579)

第 2款 証明の対象 580

1 事実(580)   2 経験則(581)   3 法規(582)

第 3款 証明を要しない事実 583

1 裁判上の自白の意義(584)   2 自白の成立(584)3 自白の効果(587)   4 自白の撤回または取消し(589)5 自白の擬制(589)   6 権利自白(591)7 顕著な事実(593)

第 3節 事実認定の方法 595

第 1款 自由心証主義 595

1 意義(595)   2 自由心証主義の内容(596)3 事実認定に対する不服(599)   4 証拠契約(602)

第 2款 証明責任 603

1 証明責任(挙証責任)の意義(603)   2 証明責任の分配(612)3 証明責任の転換(617)   4 推定と証明責任(618)5 立証命題の変更による立証負担の軽減(624)

第 4節 証拠調手続 626

第 1款 総  説 626

1 証拠調べの開始(626)   2 証拠調べ実施の場所および機関(630)

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目  次  xxiii

3 証拠調べにおける当事者の立会い(631)4 証拠調べへの協力(631)   5 証拠調調書(633)

第 2款 証人尋問 634

1 意義(634)   2 証人義務(634)   3 証言拒絶権(635)4 証人尋問の手続(637)

第 3款 当事者尋問 646

第 4款 鑑  定 647

第 5款 書  証 651

第 6款 検  証 656

第 7章 終局判決 658

第 1節 裁判の意義 658

1 裁判の意義(658)   2 裁判の種類(659)

第 2節 判決の種類 661

第 1款 終局判決 662

1 全部判決と一部判決(662)   2 裁判の脱漏と追加判決(663)3 訴訟判決と本案判決(664)

第 2款 中間判決 665

1 意義(665)   2 中間判決事項(665)3 中間判決の効力(667)

第 3節 判決の成立 667

1 判決内容の確定(668)   2 判決書(669)3 判決の言渡し(672)   4 判決の送達(674)

第 4節 判決の効力 675

第 1款 判決の取消制限    675

1 自縛性(675)   2 判決の更正(676)3 判決の変更(677)   4 判決の確定(679)

第 2款 判決の無効 680

1 判決の不存在(680)   2 瑕疵のある判決(681)3 判決の無効(681)   4 確定判決の騙取(681)

第 3款 覊 束 力 682

第 4款 既 判 力 683

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xxiv  目  次

第 1項 総  説 683

1 概念(683)   2 既判力本質論の意義(684)3 既判力をもつ判決(689)

第 2項 既判力の範囲 690

1 既判力の範囲を決定する諸要因(691)2 既判力の時的限界(693)   3 既判力の物的限界(699)4 既判力の人的限界(704)

第 3項 既判力の作用 714

1 既判力の存在の訴訟法上の意義(714)2 後訴における作用の仕方⑴ (715)3 後訴における作用の仕方⑵ (716)

第 5款 争 点 効 718

1 争点効の概念(718)2 争点効を生じる判断およびその発生の条件(725)3 争点効の訴訟上の取扱い(731)

第 6款 信義則による遮断効の拡張・縮減 732

1 判例(732)   2 遮断効論(734)

第 7款 その他の効力 739

1 執行力(739)   2 形成力(742)   3 法律要件的効力(743)4 反射効(743)   5 参加的効力(749)

第 5節 終局判決に付随する裁判 749

1 仮執行の宣言(749)   2 訴訟費用の裁判(753)

第 8章 複雑な訴訟形態 754

第 1節 複数の請求をもつ訴訟 754

第 1款 請求の併合(固有の訴えの客観的併合) 755

1 請求の併合の意義(755)   2 請求の併合の要件(755)3 請求の併合の態様(756)   4 併合訴訟の審判(759)

第 2款 訴えの変更 762

1 訴えの変更の意義(762)   2 訴えの変更の要件(764)3 訴え変更の手続(768)   4 訴えの変更に対する処置(769)5 新請求についての審判(770)

第 3款 反  訴 772

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目  次  xxv

1 反訴の意義(772)   2 反訴の要件(773)3 反訴の提起および審判手続(775)

第 4款 中間確認の訴え 776

1 中間確認の訴えの意義(776)   2 中間確認の訴えの要件(777)3 中間確認の訴えの手続(777)

第 2節 多数の当事者をもつ訴訟 779

第 1款 共同訴訟形態 779

第 1項 必要的共同訴訟 780

1 必要的共同訴訟の意義(780)2 固有必要的共同訴訟の選定基準(780)3 固有必要的共同訴訟の具体例(782)4 類似必要的共同訴訟とすべき場合(788)5 必要的共同訴訟の審判(790)

第 2項 通常共同訴訟 794

1 意義(794)   2 訴訟上の取扱い⑴ (795)3 訴訟上の取扱い⑵ (797)

第 3項 共同訴訟の発生手続 799

1 訴えの主観的併合(800)   2 訴えの主観的追加的併合(801)3 共同訴訟参加(803)4 その他の事由による共同訴訟の発生(804)

第 4項 選定当事者 805

1 意義(805)   2 選定の要件(805)   3 選定行為(806)4 選定当事者の地位(807)   5 選定者の地位(808)

第 2款 補助参加形態 810

第 1項 補助参加 810

1 補助参加の意義(810)   2 補助参加の要件(811)3 補助参加の手続(815)   4 補助参加人の地位(816)5 判決の補助参加人に対する効力(819)

第 2項 共同訴訟的補助参加 825

1 共同訴訟的補助参加の意義(825)2 共同訴訟的補助参加人の地位(826)

第 3項 訴訟告知 827

1 訴訟告知の意義(827)   2 訴訟告知の要件(828)

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xxvi  目  次

3 訴訟告知の方式(830)   4 訴訟告知の効果(830)

第 3款 三当事者訴訟形態 832

1 独立当事者参加の意義(832)   2 独立当事者参加の要件(835)3 独立当事者参加の手続(844)4 独立当事者参加訴訟の審判(844)5 二当事者訴訟への還元(849)

第 4款 任意的当事者変更 853

1 当事者の変更(853)   2 任意的当事者変更の意義(853)3 任意的当事者変更の手続(855)4 行訴法15条による被告の変更(856)

第 5款 訴訟の承継 856

第 1項 総  説 856

1 訴訟承継の意義(856)   2 訴訟承継の種類(857)3 訴訟承継の効果(857)

第 2項 当然承継 859

1 意義(859)   2 当然承継の原因(859)3 当然承継の取扱い(860)

第 3項 訴訟参加および訴訟引受け 863

1 係争物の譲渡(863)   2 訴訟参加または訴訟引受けの原因(868)3 訴訟参加および訴訟引受けの手続(870)

第 9章 大規模訴訟等に関する特則 873

第 1節 大規模訴訟 873

1 大規模訴訟の定義(873)   2 裁判所の構成(873)3 証人尋問等の負担(873)   4 その他の特則(874)

第 2節 特許権等に関する訴え等 875

1 知的財産高等裁判所の設置(875)2 管轄および移送の特例(876)   3 合議体の特例(878)4 裁判所調査官の活用(878)5 当事者尋問等の公開停止・インカメラ手続・秘密保持命令等(880)

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目  次  xxvii

第10章 簡易裁判所の訴訟手続および略式訴訟手続 881

第 1節 簡易裁判所の訴訟手続に関する特則 882

1 通常訴訟手続に対する特則(883)   2 起訴前の和解(886)3 和解に代わる決定(887)   4 反訴があった場合の移送(888)

第 2節 少額訴訟に関する特則 889

1 総説(889)   2 手続の開始・進行における特色(889)3 通常訴訟への移行(892)   4 判決の言渡し(893)5 少額訴訟判決に対する不服(893)6 少額訴訟判決に関する特色(894)   7 過料(895)

第 3節 督促手続 895

1 意義(895)   2 支払督促の申立て(895)3 支払督促の申立てに対する処分(897)   4 仮執行の宣言(898)5 債務者による督促異議(899)   6 移行後の訴訟手続(901)7 電子情報処理組織による督促手続の特則(902)

第 4節 手形訴訟および小切手訴訟に関する特則 905

1 手形訴訟の意義(905)   2 手形訴訟の提起(906)3 手形訴訟における審理の特則(907)   4 手形判決(907)5 通常訴訟手続への移行(908)

第 4編 上級審手続第 1章 上訴一般 911

1 上訴の概念(911)   2 上訴制度の目的(911)3 上訴の種類(912)   4 上訴審の審判の対象(914)5 上訴要件(914)   6 上訴権濫用に対する金銭納付命令(915)

第 2章 控訴審手続 917

第 1節 控訴の意義 917

1 控訴の概念(917)   2 控訴の利益(918)

第 2節 控訴の提起 921

1 控訴の手続(921)   2 控訴提起の効果(923)3 控訴の取下げ(924)   4 附帯控訴(925)

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xxviii  目  次

第 3節 控訴審の審理 926

1 控訴審の審理の対象(926)2 控訴審の審理と原審との関係(926)3 控訴審の口頭弁論(929)

第 4節 控訴審の終局判決 932

1 控訴却下(932)   2 控訴棄却(932)   3 控訴認容(933)4 控訴審の判決書等(937)   5 訴訟記録の送付(937)

第 3章 上告審手続 938

第 1節 上告の意義 938

1 上告の概念(938)   2 上告制度の目的と機能(940)3 上告の利益(940)   4 上告理由(941)

第 2節 上告の提起 947

1 上告裁判所(947)   2 権利上告の手続(948)3 上告受理申立てによる上告手続(950)4 上告提起の効力(951)5 附帯上告の申立ておよび附帯上告受理の申立て(952)

第 3節 上告審の審理および終局判決 953

1 上告審の審理(953)   2 上告審の終局裁判(955)3 差戻しまたは移送後の手続(957)

第 4章 抗告手続 960

1 抗告の意義(960)   2 抗告の種類(960)3 抗告の許される範囲(962)   4 抗告および抗告審の手続(963)5 再抗告(965)   6 許可抗告(966)

第 5章 特別上訴 969

1 意義(969)   2 特別上告(969)   3 特別抗告(971)

第 5編 再審手続1 再審の意義(973)   2 再審事由(974)3 再審の訴えの要件(977)   4 再審の管轄裁判所(981)

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目  次  xxix

5 再審の訴えの提起(981)   6 再審の訴えの審判(982)7 再審申立て(984) 

第 6編 訴訟費用第 1章 民事訴訟とその費用に関する規律    987

1 民事訴訟にかかる諸費用(987)2 当事者らが負担する費用(987)3 「訴訟費用」の概念の多義性(988)

第 2章 訴訟費用の負担 989

1 裁判で負担を命じられる費用(形式的訴訟費用)の範囲(989)2 訴訟費用の負担者(993)   3 訴訟費用の裁判手続(994)4 訴訟費用額の確定手続(994)   5 訴訟費用の担保(996)

第 3章 訴訟上の救助 997

1 意義(997)   2 救助の内容(997)3 訴訟上の救助の要件(998)   4 訴訟救助の裁判手続(1001)5 救助決定を受けた者が敗訴した場合(1003)

事項索引 1004

判例索引 1021

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  199

第 3編 第一審手続

第 1章 訴訟の開始

第 1節 訴えの概念および各種の訴え

第 1款 総  説

  1 訴えの意義

 訴えは、原告の裁判所に対して審判を求める申立てであるが、その意義は、つぎの諸角度から理解する必要がある。 ( 1) 第一審手続の開始  訴えの提起によって、第一審の判決手続(訴えを第 1回目に審判するための訴訟手

続)が開始される。国家は、民事訴訟制度を設けて私人の利用に供しているが、これを利用するかどうかは私人の意思に委せており(これは「訴えなければ裁判なし」と表現される民事訴訟制度運営の基本的態度である。⇀ p 7( 3))、訴えは、特定の紛争の解決のためにこの制度を利用したい旨の申し出にあたる意味をもつ。すなわち、訴訟手続を開始し、本案の審理を進め、本案判決を求めるものである。 ( 2) 訴訟上の請求の特定表示  訴えの提起は、ふつう、訴状と呼ばれる書面を裁判所に提出する方式によるが(133条。ただし、271条・273条)、この訴状に請求の趣旨、請求の原因を記載することによって、原告の、被告に対する権利主張と、裁判所に対する原告の主張を認容する特定(給付・形成・確認)の勝訴判決の要求とを具体的に表示しなければならない(133条 2項 2号)。この原告の権利主張と勝訴判決の要求とが認められるかどうかが訴えによって開始される審判の対象になるのである。この審判の対象と

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200  第 3編 第一審手続  第 1章 訴訟の開始

して訴状に提示される原告の、被告に対する権利主張と裁判所に対する特定の勝訴判決の要求とをあわせて、訴訟上の請求またはたんに請求という(狭義には、被告に対する権利主張のみを指して訴訟上の請求という。さらに狭義には、主張される権利関係

自体を指す場合にも訴訟上の請求ということがあるが、この場合には訴訟物というほうが紛わ

しくなくて適切である)。したがって、訴えは、訴訟上の請求を特定して表示することによって、審判の対象を指定する行為であるといえる。 ( 3) 原告の、被告に対する権利行使行為と裁判所に対する勝訴判決の要求行為

 訴えは請求を特定表示して審判の対象を指定する意味をもつが、これにとどまらず、訴状に表示された権利を被告に対して行使する行為でもあり、また、裁判所に対して勝訴判決(請求認容判決)を求める行為でもある。この原告の被告に対する権利主張が被告による防御の標的になるのであり(請求の認諾の対象でもある)、裁判所は、その原告の被告に対する権利主張の当否を判断してその勝訴判決の要求に応答することになる。むろん、裁判所は、その求めをつねに認容しなければならないわけではない。 被告に対する権利主張の当否を審判するためには、一定の要件(訴訟要件)が備わっている必要があり、これが欠けているときには、「訴え却下」の訴訟判決をすべきである。裁判所は、訴訟要件の具備を確かめたうえ、原告の被告に対する権利主張の当否を審理する。権利主張が認められないときは「請求棄却」の本案判決をなし、認められるときには「請求認容」の原告勝訴の本案判決をする〔*〕。

〔*〕 本案判決請求権説による訴えの目的  訴えに対する裁判所の応答たる裁判の態様には以上の 3通りがあるが、被告に対する権利主張の当否を判断しそれに応じて原告の要求に応答する裁判(本案判決)がなされると、たとえ請求棄却でも、当事者間の紛争の解決基準が示されることになる。この点に着眼して、「訴え」を民事訴訟制度や裁判所の立場からみると、訴えは、紛争解決のために民事訴訟制度を利用したい旨の申し出にとどまり、請求認容の勝訴判決まで求めるものでなく、本案判決(請求の当否の判決)を求めるものであるともいえる(原告敗訴の請求棄却の判決を受けても、訴えの目的は達せられたとみることになる)。このような説明は、訴権の内容として本案判決請求権(あるいは紛争解決請求権)を認める説によって用いられている(たとえば、兼子・概論 6頁、同・体系141頁。

⇀ p241ウ)。しかし、訴えによって請求棄却判決がもたらされることまで訴えの目的のなかに入れるのは、原告の通常の意思に反する説明といえよう。請求棄却は、訴えに対する

4 4 4 4 4 4

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第 1 節 訴えの概念および各種の訴え  201

裁判所の応答の一態様として理解すればよく、むしろ、この請求棄却判決によって原告の訴えの目的は達せられなかったと説明するほうがわかりやすい。のみならず、訴えはもともと原告の意思に基づく行為であるのに、その行為の目的を原告の通常の意思から離れて紛争の解決という制度目的から設定するのは、制度の設営者の立場を不当に強調するものであり、みずからのイニシアティブで訴訟制度を利用しようとする者(原告)の立場をことさら背景に押しやる見方というべきである(私法秩序の維持とか紛争の解決という民事訴訟の目的も、原告の救済を求める訴えによってはじめて実現の機会をもつ点を見失うおそれがある)。

  2 訴えの種類

 ( 1) 請求の性質・内容による分類  給付の訴え、確認の訴え、形成の訴えの別がある。これは、紛争のタイプ、正確には、請求の主張内容・要求内容の類型的差異に基づく分類である。訴え提起の方式に差異があるわけではないが、請求の同一性を考えるうえで重要であるし、請求認容判決の内容または効力が異なる。 ( 2) 起訴の態様・時期による種類

  ア 単一の訴えと併合の訴え  単一の訴えとは、 1人の原告が 1人の被告を相手に一つの請求をもちだす、もっとも単純な形の訴えである。併合の訴えは、単一の訴えが結合されたもので、 1人の原告が 1人の被告を相手に、数個の請求をもちだす場合(訴えの客観的併合または請求の併合)と、数人の原告が、もしくは数人の被告を相手に、一つの訴えを提起する場合(訴えの主観的併合または共同訴訟)とがある。併合の訴えは、併合の要件(38条・136条)を具備しなければならない。  イ 独立の訴えと訴訟中の訴え  独立の訴えは、他の訴訟手続と無関係に、新しく判決手続を開始させる訴えの提起である。訴訟中の訴えは、すでに他の訴えで開始されている訴訟手続内で、これとの併合審理を求めて起こす訴えである。同じ当事者の間で、すでに開始されている手続に併合するものとして、訴えの変更(143条)・中間確認の訴え(145条)・反訴(146条)、第三者間で始まっている手続に併合するものとして、独立当事者参加(47条)・共同訴訟参加(52条)・任意的当事者変更・訴訟参加(49条・51条)・訴訟引受け(50条・51条)がある。訴訟中の訴えには、すでに始まっている手続を利用する関係から、それぞれ特別の起訴の

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202  第 3編 第一審手続  第 1章 訴訟の開始

方式と併合の要件とがある 1)。なお、本編では、まず、第 1章から第 7章において単純で独立の訴えを中心に叙述し、第 8章で、「複雑な訴訟形態」として、併合の訴え、訴訟中の訴えについて論じる。

第 2款 給付の訴えと確認の訴え

  1 給付の訴え

 原告の被告に対する給付請求権(被告の給付義務)の主張と、これに対応した裁判所に対する給付判決の要求を請求内容とする訴えをいう。その義務が現存する旨を主張するのが現在の給付の訴え、将来(正確には、その訴訟の口頭弁論終結時点後)現実化すべき給付義務をあらかじめ主張するのが将来の給付の訴え(135条)

である。給付とは、金銭の支払、物の引渡しだけでなく、作為または不作為も含まれ、債権に基づくと物権に基づくとを問わない。 給付の訴えに対する請求認容の判決は、被告が原告に給付すべきことを宣言する給付判決である(「被告は、原告に対し、金百万円を支払え」という命令文で表示されるのが慣例である)。給付判決は、給付の訴えに対する応答としてこのように給付すべきことを宣言する形をとるが、請求たる権利主張の当否についての終局判断としては、給付義務が存在することを確認するもので、この判断に既判力が生じる。 給付判決が確定するか仮執行の宣言が付せられると、その判決内容どおりに被告が任意に履行しないときには、原告はその判決を債務名義として強制執行の申立てができる(この債務名義(民執22条 1号・ 2号)になりうることを、判決その他の証書

の効力という面からとらえて執行力と呼ぶ)。 請求を棄却する判決は、給付義務が不存在であることを確認する確認判決である。

  2 確認の訴え

 請求が、特定の権利関係の存在(または不存在)の主張と、その存在(または不存在)を確定する確認判決の要求とを請求内容とする訴えをいう。その存在を主張

1) 鈴木正裕「訴訟内の訴え提起の要件と審理」法教41号~43号(1984)〔新堂編・特講222頁〕。

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第 1 節 訴えの概念および各種の訴え  203

するのが積極的確認の訴え(たとえば、ある物が自分の所有に属することの確認)、その不存在を主張するのが消極的確認の訴え(たとえば、被告の原告に対する特定の債権が不存在であることの確認)と呼ばれる。 権利関係の存否を確認の対象にするのが原則であるが、例外として、法律関係を証する書面(遺言書、定款など)が真正に作成されたものかどうか(文書が主張どおりの特定人の意思に基づいて作成されたものかどうか)の事実を確定するためにも認められる(証書真否確認の訴え、134条)。 確認の訴えに対する本案判決は、確認を求められた権利関係の現在の存否を宣言する確認判決である。その権利関係の存否の判断に既判力が生じる。

  3 給付の訴えと確認の訴え

 ( 1) 係争利益の状況との関係  給付の訴えは、当事者間の係争利益の支配現状に不満な者が相手方に対してその変更を積極的に主張し、強制執行によってその目的を貫徹しようとする訴えである。これに対し、確認の訴えは、利益支配の現状に満足している者が、その現状を変更する必要なしと主張し裁判でその点を確定することによって現状変更を防止しようとする訴えである。 たとえば、甲が現在その土地を占有し使用しているが、相手方乙がその土地は元来自分のものだとして、その土地に侵入して甲の使用を妨害しようとしている場合に、甲が使用している現状を侵害されてから、乙に対して侵害された現状の変更(原状回復や損害賠償)を請求するのが、給付の訴えである。これに対し、甲が、事前に、その土地は甲の所有に属するとか、甲は地上権をもつとか、借地権を有するということを裁判で確定することによって、乙の侵害を予防しようというのが確認の訴えである。 ( 2) 沿革  給付の訴えは、上にみるように、より切迫した状況に追い込まれた者が提起するものであり、裁判によってその救済を図る必要性も確認訴訟にくらべてより高い。そこで、国家権力の確立が十分でなく民事紛争のすべてを取り上げる余力のない時代には、まず給付の訴えが取り上げる必要のある訴えであると考えられた(沿革的に、給付の訴えが、最初の訴訟類型として認められた一因はここにある)。他方、確