12
電磁気学 III 第8講 1 第8講 電磁波の反射および屈折 1. 反射の法則および Snell の法則 1 に示すように、z = 0 xy 面を界面とし て媒質1(z < 0)および媒質2(z > 0)が存在し ているとする。媒質1から媒質2に入射すると、 一部が透過し、残りが反射する。入射波、反射波 および透過波をいずれも平面波として考え、伝 播中の損失はないものとする。各電磁波の波数 ベクトル(進行方向)と振幅(強度の平方根)は どうなるであろうか? 入射波、反射波および透過波の波数ベクトル をそれぞれ ki, kr および kt とし、各波数ベクトル z 軸との角度を図中に示すとおり定義する。こ こで、入射波の波数ベクトルが yz 面に平行にな るように座標系をとった。 電磁波の電場ベクトルおよび磁場ベクトルの向きは波数ベクトルに垂直である。電場ベクト ルは x 軸に平行な成分と yz 面に平行な成分に分けられ、前者を s 偏光、後者を p 偏光と呼ぶ。 そのことを念頭において、あらかじめ s 偏光成分の振幅と p 偏光成分の振幅をもちいて電場を 表しておくと都合がよい。入射波、反射波および透過波の電場ベクトルの s 偏光成分の振幅をそ れぞれ p 偏光成分の振幅を とすると、入射波、反射波および透過波の電 場ベクトルの(x, y, z)成分は以下のように表すことができる。 (8.1) (8.2) (8.3) ここで、x 軸の正の方向を S 成分の正の方向とした。P 成分については、図 2 において小さい矢 印で示す方向を正の向きとした。入射波 Ei、反射波 Er および透過波 Et は以下の式で表される。 (8.4) (8.5) (8.6) z = 0 の界面での電場の接線成分の連続の条件から I S ,R S ,T S I P ,R P ,T P I =(I s ,I p cos i , -I p sin i ) R =(R s , -R p cos r , -R p sin r ) T =(T s ,T p cos t , -T p sin t ) E i =(I s ,I p cos i , -I p sin i )e i(k iy y+k iz z-! i t) E r =(R s , -R p cos r , -R p sin r )e i(k ry y+k rz z-! r t) E t =(T s ,T p cos t , -T p sin t )e i(k ty y+k tz z-! t t) 媒質 1 (ε 1 , μ 1 , n 1 ) 媒質 2 (ε 2 , μ 2 , n 2 ) k t k r θ r θ t θ i k i y x z Ip Is Rs Rp Tp Ts 図1 異なる媒質の界面における電磁波の反射 および屈折。大きい矢印は入射波、反射波 および透過波の波数ベクトルの向きを表 し、小さい矢印は各電磁波の P 偏光成分 の電場ベクトルの向きを表す。S 偏光成 分はいずれも x 軸の正の向きとした。

第8講 電磁波の反射および屈折 - 名古屋大学sirius.imass.nagoya-u.ac.jp/~saitoh/em3/em3_8.pdf(8.17) (8.18) tt (8.19) 2. 透過率および反射率 次に磁場Bも含めて界面での接続条件を考える。磁場Bは電場Eおよび波数ベクトルkに

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電磁気学 III 第8講

1

第8講 電磁波の反射および屈折

1. 反射の法則および Snell の法則

図 1に示すように、z = 0の xy面を界面とし

て媒質1(z < 0)および媒質2(z > 0)が存在し

ているとする。媒質1から媒質2に入射すると、

一部が透過し、残りが反射する。入射波、反射波

および透過波をいずれも平面波として考え、伝

播中の損失はないものとする。各電磁波の波数

ベクトル(進行方向)と振幅(強度の平方根)は

どうなるであろうか?

入射波、反射波および透過波の波数ベクトル

をそれぞれ ki, krおよび ktとし、各波数ベクトル

と z軸との角度を図中に示すとおり定義する。こ

こで、入射波の波数ベクトルが yz 面に平行にな

るように座標系をとった。

電磁波の電場ベクトルおよび磁場ベクトルの向きは波数ベクトルに垂直である。電場ベクト

ルは x軸に平行な成分と yz面に平行な成分に分けられ、前者を s偏光、後者を p偏光と呼ぶ。

そのことを念頭において、あらかじめ s 偏光成分の振幅と p 偏光成分の振幅をもちいて電場を

表しておくと都合がよい。入射波、反射波および透過波の電場ベクトルの s偏光成分の振幅をそ

れぞれ 、p 偏光成分の振幅を とすると、入射波、反射波および透過波の電

場ベクトルの(x, y, z)成分は以下のように表すことができる。

(8.1)

(8.2)

(8.3)

ここで、x軸の正の方向を S成分の正の方向とした。P成分については、図 2において小さい矢

印で示す方向を正の向きとした。入射波 Ei、反射波 Erおよび透過波 Etは以下の式で表される。

(8.4)

(8.5)

(8.6)

z = 0の界面での電場の接線成分の連続の条件から

IS, RS, TS IP, RP, TP

I = (Is, Ip cos ✓i,�Ip sin ✓i)

R = (Rs,�Rp cos ✓r,�Rp sin ✓r)

T = (Ts, Tp cos ✓t,�Tp sin ✓t)

Ei = (Is, Ip cos ✓i,�Ip sin ✓i)ei(kiyy+kizz�!it)

Er = (Rs,�Rp cos ✓r,�Rp sin ✓r)ei(kryy+krzz�!rt)

Et = (Ts, Tp cos ✓t,�Tp sin ✓t)ei(ktyy+ktzz�!tt)

媒質 1(ε1, μ1, n1)

媒質 2(ε2, μ2, n2)

ktkr

θr θt

θi

ki

y

xz

Ip

Is

Rs

Rp

Tp

Ts

図1 異なる媒質の界面における電磁波の反射および屈折。大きい矢印は入射波、反射波および透過波の波数ベクトルの向きを表し、小さい矢印は各電磁波の P 偏光成分の電場ベクトルの向きを表す。S 偏光成分はいずれも x軸の正の向きとした。

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電磁気学 III 第8講

2

(8.7)

(8.8)

が得られる。この式が任意の x, y, tに対して成り立つためには、

(8.9)

(8.10)

(8.11)

(8.12)

(8.13)

とならなければない。ここで 、 、 であるから、

式(8.7)は、

(8.14)

となる。同一媒質中を伝播する平面電磁波の波数(波数ベクトルの長さ)は同じであるため(k

= ω/v であり、位相速度 は同一媒質で等しい)、 である。したがって、式

(8.14)の「左辺」=「中辺」から

(8.15)

すなわち、入射角と反射角は等しいという法則(反射の法則)が得られる。

さらに、波数 k、位相速度 v、角振動数 ωの関係 k = ω/vおよび屈折率 nが真空中の光速 cと

vの比であること(n = c/v)をもちいると、式(8.14)の「左辺」=「右辺」から

(8.16)

すなわち、Snellの法則が得られる。

ここまで入射波、反射波および透過波の波数ベクトルを添字 i, r, tのついた 3つの変数を用い

てきたが、同一の媒質中では波数ベクトルの長さが等しいことから以下では、 を と

表し、 を と表す。したがって、 を以下のように書き表す。

(8.17)

(8.18)

(8.19)

2. 透過率および反射率

次に磁場 Bも含めて界面での接続条件を考える。磁場 B は電場 Eおよび波数ベクトル k に

垂直であり、その大きさは であたえられる(あるいは特性インピーダンス

をもちいて であたえられる)。したがって、電場 E があたえられれば磁場 B は次の

ようにあたえられる。

Ixei(kixx+kiyy�!it) +Rxe

i(krxx+kryy�!rt) = Txei(ktxx+ktyy�!tt)

Iyei(kixx+kiyy�!it) +Rye

i(krxx+kryy�!rt) = Tyei(ktxx+ktyy�!tt)

kix = krx = ktx

kiy = kry = kty

!i = !r = !t

Ix +Rx = Tx

Iy +Ry = Ty

kiy = |ki| sin ✓i kry = |kr| sin ✓r kty = |kt| sin ✓t

|ki| sin ✓i = |kr| sin ✓r = |kt| sin ✓t

v = 1/p"µ |ki| = |kr|

sin ✓i = sin ✓t

sin ✓isin ✓t

=ktki

=!/vt!/vi

=vivt

=!/vt!/vi

|ki|(= |kr|) k

|kt| k0 ki,kr,kt

ki = (0, k sin ✓i, k cos ✓i)

kr = (0, k sin ✓i,�k cos ✓i)

kt = (0, k0 sin ✓t, k0 cos ✓t)

|B| = |E|/c ⌘ =p

µ/"

|H| = |E|/⌘

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電磁気学 III 第8講

3

(8.20)

いま入射波の波数ベクトルの x成分はゼロであり、(8.6)から反射波および透過波の波数ベクトル

の x成分はいずれもゼロだから、

(8.21)

となる。したがって入射波、反射波および透過波の磁場成分は以下のようにあたえられる。

(8.22)

(8.23)

(8.24)

ここで式(8.11)から各平面波の振動数は等しいので、 とした。また はす

べての式に掛かる共通項なので省略した。入射波の磁場成分は以下のように表される。

(8.25)

同様に、反射波および透過波の磁場成分は以下のとおりである。

(8.26)

(8.27)

B =1

c

k

k⇥E =

1

!k⇥E

=1

!(kyEz � kzEy, kzEx � kxEz, kxEy � kyEx)

B =1

!(kyEz � kzEy, kzEx,�kyEx)

Bi =1

!(kiyIz � kizIy, kizIx, �kiyIx)e

i(kiyy+kizz)

Br =1

!(kryRz � krzRy, krzRx, �kryRx)e

i(kryy+krzz)

Bt =1

!(ktyTz � ktzTy, ktzTx, �ktyTx)e

i(ktyy+ktzz)

!(= !i = !r = !t) e�i!t

Bi =1

!(�k sin ✓Ip sin ✓ � k cos ✓Ip cos ✓, k cos ✓Is, �k sin ✓Is)e

i(kiyy+kizz)

=1

!(�kIp sin

2 ✓ � kIp cos2 ✓, kIs cos ✓, �kIs sin ✓)e

i(kiyy+kizz)

=1

!(�kIp, kIs cos ✓, �kIs sin ✓)e

i(kiyy+kizz)

Br =1

!(k sin ✓Rp sin ✓ + k cos ✓Rp cos ✓, �k cos ✓Rs, �k sin ✓Rs)e

i(kryy+krzz)

=1

!(kRp sin

2 ✓ + kRp cos2 ✓, �k cos ✓RS, �k sin ✓Rs)e

i(kryy+krzz)

=1

!(kRp, �kRs cos ✓, �kRs sin ✓)e

i(kryy+krzz)

Bt =1

!(�k0 sin ✓0Tp sin ✓

0 � k0 cos ✓0Tp cos ✓0, k0 cos ✓0Ts, �k0 sin ✓0Ts)e

i(ktyy+ktzz)

=1

!(�k0TP sin2 ✓0 � k0Tp cos

2 ✓0, k0Ts cos ✓0, �k0Ts sin ✓

0)ei(ktyy+ktzz)

=1

!(�k0Tp, k0Ts cos ✓

0, �k0Ts sin ✓0)ei(ktyy+ktzz)

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電磁気学 III 第8講

4

電場および磁場の境界条件をもちいる。 より、

(8.28)

(8.29)

また、 より

(8.30)

より

(8.31)

(8.32)

より、

(8.33)

が得られる。式(8.30)は、Snellの法則( )、 および の関

係式をもちいると、式(8.31)と等価であることが確かめられる。また、式(8.33)は Snellの法

則の関係式から、式(8.28)と等価であることが確かめられる。式(8.28)から(8.33)の振幅の

関係式はいずれも s偏光成分と p偏光成分が混じり合っていないことに留意されたい。これは、

s偏光の入射波から p偏光の反射波および透過波が生じることはなく、p偏光の入射波から s偏

光の反射波および透過波が生じることはないことを意味する。

入射波の振幅に対する反射波および透過波の振幅の比、すなわち および により、そ

れぞれ反射率および透過率を定義する。s偏光と p偏光は互いに混じり合わないことから s、p偏

光成分の反射率、透過率はそれぞれ独立に定義できる。s成分に関する関係式(8.28)および(8.32)

を連立すると

(8.34)

(8.35)

のように s成分の反射率および透過率が得られる。ここで

(8.36)

である。また、p成分に関する関係式(8.29)および(8.31)を連立すると、以下のように p成分の反

射率および透過率が得られる。

E1|| = E2||

Is +Rs = Ts

Ip cos ✓i �Rp cos ✓i = Tp cos ✓t

"1E1? = "2E2?

"1(Ip sin ✓i +Rp sin ✓i) = "2Tp sin ✓t

B1||/µ1 = B2||/µ1

1

µ1(kIp + kRp) =

1

µ2k0Tp

1

µ1(kIs cos ✓i � kRs cos ✓i) =

1

µ2k0Ts cos ✓t

B1? = B2?

k sin ✓(Is +Rs) = k0 sin ✓0Ts

k sin ✓ = k0 sin ✓0 v = !/k v = 1/p"µ

R/I T/I

Rs

Is=

kµ1

cos ✓i � k0

µ2cos ✓t

kµ1

cos ✓i +k0

µ2cos ✓t

=

q"1µ1

cos ✓i �q

"2µ2

cos ✓tq

"1µ1

cos ✓i +q

"2µ2

cos ✓t=

1� E

1 + E

Ts

Is=

2 kµ1

cos ✓ikµ1

cos ✓i +k0

µ2cos ✓t

=2q

"1µ1

cos ✓iq

"1µ1

cos ✓i +q

"2µ2

cos ✓t=

2

1 + E

s =⌘1 cos ✓t⌘2 cos ✓i

✓⌘1 =

rµ1

"1, ⌘2 =

rµ2

"2

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電磁気学 III 第8講

5

(8.37)

(8.38)

ここで

(8.39)

である。

3. Fresnel の公式

屈折率は真空中の光速 cと媒質中の光速 vの比としてあたえられ、 の関係がある

ことから、以下の関係式が得られる。

(8.40)

ここで および は比誘電率および比透磁率を表す。電磁波のうち光の領域では、ほとんどの媒

質で透磁率は µ0と近似できる( )ので、屈折率が比誘電率の平方根であたえらえる。

(8.41)

したがって、反射率および透過率は以下のように書ける。

(8.42)

(8.43)

(8.44)

(8.45)

Snellの法則 をもちいると、以下のように書き替えられる。

(8.46)

Rp

Ip=

k0

µ2cos ✓i � k

µ1cos ✓t

k0

µ2cos ✓i +

kµ1

cos ✓t=

q"2µ2

cos ✓i �q

"1µ1

cos ✓tq

"2µ2

cos ✓i +q

"1µ1

cos ✓t=

1� p

1 + p

Tp

Ip=

2 kµ1

cos ✓ik0

µ2cos ✓i +

kµ1

cos ✓t=

2q

"1µ1

cos ✓iq

"2µ2

cos ✓i +q

"1µ1

cos ✓t=

⌘2⌘1

2

1 + p

p =⌘2 cos ✓t⌘1 cos ✓i

c = 1/p"µ

n = c/v =p"µ/

p"0µ0 =

p"rµr

"r µr

µr ⇡ 1

n =p"r

Rs

Is=

n1 cos ✓i � n2 cos ✓tn1 cos ✓i + n2 cos ✓t

Ts

Is=

2n1 cos ✓in1 cos ✓i + n2 cos ✓t

Rp

Ip=

n1 cos ✓t � n2 cos ✓in1 cos ✓t + n2 cos ✓i

Tp

Ip=

2n1 cos ✓tn1 cos ✓t + n2 cos ✓i

n1 sin ✓i = n2 sin ✓t

Rs

Is=

n2 sin ✓tsin ✓i

cos ✓i � n2 cos ✓tn2 sin ✓tsin ✓i

cos ✓i + n2 cos ✓t=

sin ✓t cos ✓i � sin ✓i cos ✓tsin ✓t cos ✓i + sin ✓i cos ✓t

= � sin(✓i � ✓t)

sin(✓i + ✓t)

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電磁気学 III 第8講

6

(8.47)

(8.48)

(8.49)

式(8.42)から(8.45)および式(8.46)から(8.49)であたえられる反射率および透過率の式は Fresnel の

公式として知られる。

図 2は電場反射率を入射角の関数としてプロットしたものである。反射率は正の値だけでな

く、負の値も取ることに留意されたい。反射率は電場の振幅 Rと Iの比として定義したので、R

と Iが異符号の場合に反射率は負となる。Iと Rが異符号であることの物理的な意味は、入射波

と反射波の振動の位相が πだけ異なるということである。

TS

IS=

2n2 sin ✓tsin ✓i

cos ✓in2 sin ✓tsin ✓i

cos ✓i + n2 cos ✓t=

2 sin ✓t cos ✓isin ✓t cos ✓i + sin ✓i cos ✓t

=2 sin ✓t cos ✓isin(✓i + ✓t)

Rp

Ip=

n2 sin ✓tsin ✓i

cos ✓t � n2 cos ✓in2 sin ✓tsin ✓i

cos ✓t + n2 cos ✓i=

sin ✓t cos ✓t � sin ✓i cos ✓isin ✓t cos ✓t + sin ✓i cos ✓i

=12 sin 2✓t �

12 sin 2✓i

12 sin 2✓t +

12 sin 2✓i

=2 cos(✓i + ✓t) sin(✓i � ✓t)

2 sin(✓i + ✓t) cos(✓i � ✓t)

=tan(✓i � ✓t)

tan(✓i + ✓t)

TP

IP=

2n2 sin ✓tsin ✓i

cos ✓tn2 sin ✓tsin ✓i

cos ✓t + n2 cos ✓i=

2 sin ✓t cos ✓tsin ✓t cos ✓t + sin ✓i cos ✓i

=2 sin ✓t cos ✓t

12 sin 2✓t +

12 sin 2✓i

=2 sin ✓t cos ✓t

2 sin(✓i + ✓t) cos(✓i � ✓t)

-1

-0.5

0

0.5

1

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

���(s)

���(s)

���(p)

���(p)

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

���(s)

���(s)

���(p)

���(p)

反射率・透過率

反射率・透過率

入射角 θi [˚] 入射角 θi [˚]

図 2 反射率および透過率の入射角依存性。(a) n1 = 1, n2 = 1.5の場合。(b) n1 = 1.5, n2 = 1の場合。

(a) (b)

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電磁気学 III 第8講

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4. 強度反射率と強度透過率

反射率は、位相ずれゼロまたはπの自由度があるため、-1から 1までの値をとるが、その絶

対値は 1を超えない。一方、透過率は 1より大きな値を取り得る。これは透過波の電場ベクトル

の長さが入射波の振幅より大きくなることを意味する。入力した電場よりも大きな電場が生じ

ることは、物理の保存則を破っているようにみえるが、問題ないだろうか?

保存則と言えば、電磁波の反射および屈折現象における保存量は、振幅の比 R/Iおよび T/Iの

和ではなく、反射波および透過波のエネルギーの和になることに留意されたい。反射率と透過率

の和は保存されないことは定義式((8.34), (8.35), (8.37), (8.38))からすぐに確認できる。単位時

間に単位面積を通過する電磁波のエネルギー電磁波のエネルギーは Poynting ベクトルの長さ

で あ た え ら れ る 。 お よ び よ り 、

となる。したがって媒質の違いを含めて保存則を組み立てる必要があ

る。

媒質の違いに起因する Poynting ベクトルの長さを考慮するだけでは保存則は成り立たない。

正しい保存則を得るためには、屈折による電磁波の進行方向の変化を考慮に入れる必要がある。

図 3 は入射波が界面で屈折する様子を表す模式図である。入射波中の幅 w の領域に含まれる電

磁波は界面の幅 の領域を照射する。その照射領域を透過する透過波の幅は

となる。 および の重みを考慮に入れて、反射波および透過波の単位時

間単位体積当たりのエネルギーを入射波のエネルギーで規格化した値は強度反射率および強度

透過率とよばれる。強度反射率および強度透過率は偏光によらず以下のようにあたえられる。

強度反射率: (8.50)

強度透過率: (8.51)

図 4に強度反射率および強度透過率の角度依存性を示す。

s偏光の場合、強度反射率および強度透過率の和は、式(8.34)および(8.35)をもちいて

(8.52)

となり、保存則が成り立つことが確認できる。p偏光についても、式(8.37)および(8.38)より

(8.53)

となり、保存則が成り立つことが確かめられる。

|S| = (1/µ)|E⇥B| |B| = |E|/c = p"µ|E| E ? B

|S| =p"/µ|E|2 = |E|2/⌘

w/ cos ✓i

w cos ✓t/ cos ✓i cos ✓t cos ✓i

R2s,p/⌘1

I2s,p/⌘1=

R2s,p

I2s,p

T 2s,p cos ✓t/⌘2

I2s,p cos ✓i/⌘1=

⌘1T 2s,p cos ✓t

⌘2I2s,p cos ✓i

R2s

I2s+

⌘1T 2s cos ✓t

⌘2I2s cos ✓i=

✓1� s

1 + s

◆2

+ s

✓2

1 + s

◆2

= 1

R2p

I2p+

⌘1T 2p cos ✓t

⌘2I2p cos ✓i=

✓1� p

1 + p

◆2

+⌘1⌘2

✓⌘2⌘1

2

1 + p

◆2 cos ✓tcos ✓i

=

✓1� p

1 + p

◆2

+ p

✓2

1 + p

◆2

= 1

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電磁気学 III 第8講

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図 3 屈折による電磁波の幅 wの変化。

5. 無反射

入射波が p 偏光の場合、反射率がゼロとなる入射角がある。図 2(a)に示した条件では、入射

角 55度付近で p偏光の反射率がゼロとなるのがみられる。ここでは、入射角と屈折角の和が π/2

になり、反射率の分母の が無限大となって反射率がゼロになる。物理的には、入射

波がまったく反射しないという現象がおこる。この特別な入射角は Brewster(ブリュースター)

角とよばれる。

θtθi

cosθi

wcosθtcosθi

w

w

媒質1 媒質2

0

0.5

1

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

�����(s)

�����(s)

�����(p)

�����(p)

0

0.5

1

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

�����(s)

�����(s)

�����(p)

�����(p)

tan(✓i + ✓t)

反射率・透過率

反射率・透過率

入射角 θi [˚] 入射角 θi [˚]

図 4 強度反射率および強度透過率の入射角依存性。(a) n1 = 1, n2 = 1.5の場合。(b) n1 = 1.5, n2 = 1の場合。

(a) (b)

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電磁気学 III 第8講

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以下では、Brewster 角で入射した p 偏光の電磁波が反射しない理由について考察する。電磁

波は媒質中の原子や分子を振動させる。振動した原子や分子は電磁波を放射する。放射された電

磁波は互いに重なり合い、強め合いの干渉が生じる方向に伝播する。これが反射や屈折という物

理現象のミクロスケールでの解釈である。すなわち、反射波や透過波は、振動した原子や分子か

ら放射された 2次的な電磁波が干渉して生じた波と考えることができる。

電磁波を放射する原子や分子は、p 偏光という直線偏光の電磁波の電場ベクトルに沿って振

動する。直線偏光なので電場ベクトルの向きが一定であ

ることから、原子や分子はそれぞれ同じ向きの単振動を

する。振動する原子や分子からの放射を双極子放射と近

似すれば、その放射電磁波の振幅は、振動方向とのなす

角を θ として、sinθに比例することが計算からもとめら

れる。したがって、振動に沿う方向(θ = 0, π)への放射

はゼロとなる。

p偏光の電磁波が Brewster角で界面に入射するとき、

反射波が進むべき方向は双極子の振動方向に一致する。

双極子の振動はその方向には電磁波を放射することがで

きないため、反射波は生じないと考えることができる。

屈折率 n1の媒質から屈折率 n2の媒質に電磁波を入射するときの Brewster 角は、入射角と透

過角の和がπ/2であることから、

(8.54)

をみたす θiであり、したがって、

(8.55)

ともとめられる。

4. 全反射 屈折率の大きな媒質から小さな媒質へ光が入射するとき、すなわち のとき、Snell

の法則 から、 が成り立つ。入射角θi を大きくするとある角度で

で が 1を超え、θtが定まらなくなる。この入射角を臨界角(θc)とよぶ。

の場合でも の関係式が成り立つとすると、

sin ✓i =n2

n1sin ✓t =

n2

n1sin

⇣⇡2� ✓i

⌘=

n2

n1cos ✓i

✓B = tan�1 n2

n1

n1/n2 > 1

sin ✓t = (n1/n2) sin ✓i ✓t > ✓i

(n1/n2) sin ✓i

sin ✓ > 1 sin2 ✓ + cos2 ✓ = 1

-40 -32 -24 -16 -8 0 8 16 24 32 40

-24

-16

-8

8

16

24

0.5π

π

1.5π

図5 図の中央に位置する双極子振動からの放射の角度分布。矢印は双極子の振動方向を示す。放射される電磁波の振幅は振動に平行な方向でゼロとなり、振動に垂直な方向には強度が極大となる。

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(8.56)

となり、したがって は以下のように純虚数となる。

(8.57)

このとき、反射率(式(8.34)および(8.37))は複素数になるが、その絶対値は s偏光、p偏光とも

に 1となり、全反射することがわかる。

臨界角を超えて入射した電磁波の透過波を計算する。(8.6)であたえられる透過波の式に(8.57

を代入する。

(8.58)

複合のプラス符号は、z 方向の無限遠方で無限大に発散するので、マイナス符号を選択すると、

この式は、y方向に伝播し、z方向に指数関数的に減衰する電磁波を表す。これは媒質 2のなか

にわずかにしみ出した電磁波で、エバネッセント波とよばれる。しみ出しの深さは であ

り、これは光の波長程度である。

5. Stokes の関係式

空間中の異なる 2点 Aおよび Bがあり、点 Aと点 Bの間で波が伝播する過程を考える。点

A と B の間には散乱体や媒質界面など波の伝播に変化をあたえる相互作用が存在してもよい。

光学における相反定理とは、光の伝播に関する一般法則のひとつで、「A点におかれた点光源が

B点におよぼす効果は、B点におかれた等しい強度の光源が A点におよぼす効果と同じである。」

(Born & Wolf)と表される。この定理は Kirchhoffの定理から導かれるもので、同じ定理にした

がうどんな波動にも適用される。この定理は、系を表す方程式の時間反転対称性、すなわち を

としても方程式が成り立つことから導かれるため、系に吸収などエネルギーの散逸をともな

うものがない場合のみに成り立つ。ちなみに電磁波の波動方程式は時間反転対称性を有する。

電磁波の反射および屈折現象に相反定理を適用すると、Stokes の関係式とよばれる反射率お

よび透過率の間の関係式が導かれる。図 6(a)は媒質 1から媒質 2に入射した電磁波が界面で反射

および屈折して透過する様子を表す模式図である。入射波の振幅を I、反射率および透過率をそ

れぞれ rおよび tとする。系に電磁波の吸収がないとすると、この伝播過程は時間反転可能であ

る。図 6(b)は 6(a)の時間反転過程を示した模式図である。

以下では反射波および透過波の時間反転過程を別々に考える。まず、図 6(a)の反射波のみを

振幅 rIで逆向きに伝播して界面に入射した場合を考える(図 6(c))。反射波は反射の法則にした

cos2 ✓t = 1� sin2 ✓t < 0

cos ✓t

cos ✓t = ±i

s✓n1

n2

◆sin2 ✓i � 1 = ±i�

Et = Tei(k0 sin ✓ty+k0 cos ✓tz�!tt)

= Teink0 n1

n2sin ✓iy±ik0�z�!tt)

o

= Te⌥k0�zeink0 n1

n2sin ✓iy�!t

o

1/(k0�)

t

�t

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がって θiの方向に伝播し、その振幅は r2Iとなる。透過波は Snellの法則にしたがって θtの方向

に伝播し、その振幅は trIである。次に、図 6(a)の透過波のみを振幅 tIで逆向きに伝播して界面

に入射した場合を考える(図 6(d))。さきほどと同様に反射波は θtの方向に伝播し、その振幅は

r'tI となる。透過波は θiの方向に伝播し、その振幅は t'tI となる。これらふたつの時間反転過程

の重ね合わせは、元の過程を時間反転させたもの(図 6(b))と一致するはずである。すなわち、

「図 6 (c)の過程」+「図 6 (d)の過程」=「図 6 (b)の過程」から、

(8.59)

(8.60)

が得られる。式(8.60)は、図 6(c)の透過波(振幅 trI)と図 6(d)の反射波(振幅 r'tI)が干渉して消

滅することを意味している。(8.59)および(8.60)を整理すると以下で示す Stokes の関係式が得ら

れる。

(8.61)

(8.62)

式(8.62)は界面への入射方向が変わると反射率の絶対値は変わらず、位相がπだけ変わる(反転

する)ことが時間反転対称性から導けることは興味深い。

r2I + t0tI = I

trI + r0tI = 0

r2 + t0t = 1

r0 = �r

θr θtθi

y

xz

rItI

I

θr θtθi

y

xz

rItI

I

θrθtθi

y

x z

rI

trIr2I

θtθi

y

xz

tI

t’tI r’tI

(a) (b)

(c) (d)

θt

図 6 媒質界面での入射、反射および屈折の模式図。(a) 順過程。(b) 時間反転過程。(c) (a)の反射波のみの時間反転過程。(d) (a)の透過波のみの時間反転過程。

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演習課題

(1) 次の語句を説明せよ。数式や図を積極的に使うこと。(なるべく自分の言葉で)

(a) Snellの法則 (b) 平面波 (c) 反射率 (d) 透過率

(e) 強度反射率 (f) 強度透過率 (g) Brewster角 (h) 全反射

(i) エバネッセント波

(2) 屈折率の異なる媒質の界面に対して垂直に光が入射し、界面で反射した(すなわち θi = 0の

場合)。屈折率の大きい物質から小さい物質へ入射する際には入射波と反射波の位相にずれ

はなく、逆に屈折率の大きい物質から小さい物質へ入射する際には入射波と反射波の位相

が反転する(πだけずれる)こと確かめよ。ただし、両媒質の透磁率は等しいとする。

(3) Brewster角で p偏光の反射波の振幅がゼロになることを作図により説明せよ。ただし、入射

波、透過波の p偏光の電場の向きおよび誘起される双極子振動の向きを図に示すこと。

(4) 図 2(a)にみられるように、n1 < n2の場合、p偏光の反射率は Brewster角の前後で符号が正か

ら負に変わる。これは、反射波の位相変化が Brewster 角をまたいでゼロからπに変わるこ

とを意味する。Brewster角をまたいで反射波の位相がπだけ変化する理由を考察せよ。

(4) 反射率および透過率の式およびフレネルの公式を自身で導出せよ。

(5) 反射率と透過率の和は保存せず、強度反射率と強度透過率の和が保存することを確かめよ。

(6) 水中から水面に向かって角度 70.0度で波長 500nmの平面波を入射する。この入射波は全反

射するが、このとき空気中へわずかにエバネッセント波がしみ出す。そのエバネッセント波

の厚さをもとめよ。ただし、水および空気の屈折率はそれぞれ 1.33および 1.00とする。

参考文献

M. Born and E. Wolf, "Principles of Optics", Pergamon Press, 1959, p. 380.

髙木佐知夫、「電子光学における相反定理」、電子顕微鏡誌、13巻 2号(1978)p.128.

遠藤雅守、「電磁波の物理」、森北出版(株)