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内容と目的
第3章運動量と力積�基本概念
◦運動量方程式◦力積
�運動量と力積の応用·撃力の問題
�質量が変化する物体の運動: 運動量方程式の応用◦鎖の落下の問題◦常微分方程式としての運動方程式の解法において,独立変数を時間から座標に変換する解法
� 2質点からなる系の運動: 系の運動量の保存◦自由に移動できる斜面上の質点の運動◦適切な座標系の選択
momentum – p. 1/21
運動量方程式
質量mと速度ベクトル vの積,
p = mv
は,運動量と呼ばれ,ベクトルで定義される物理量である.F を力のベクトルとした時,第 2章で示した運動方程式は,
mv = F (2.1)
であった.質量mは一定であることから,微分記号の中へ入れると,d
dt(mv) = F
と表される.この方程式は,運動量を用いて,
p = F (3.1)
と書き換えることができる.これまでは質量mは一定と仮定してきた.mが時間的に変化する場合には,(2.1) の形の運動方程式ではなく,(3.1) の形の運動量方程式が成り立つ.
momentum – p. 2/21
力積
運動量方程式,
p = F (3.1)
を時刻 t0 から t まで積分すれば,
p(t)− p(t0) =
∫
t
t0
F dt (3.2)
となる.ここで,p(t)のような表記は,pが時間 tの関数であることを意味する.又,p(t0)のような表記は,pの t = t0 における値を意味する.(3.2) 右辺の積分を,力 F の力積という.力により与えられた力積の分だけ,運動量は変化する.
momentum – p. 3/21
撃力
簡単のため,運動は x軸上に限られるとし,1 次元の運動量方程式,d
dt(mvx) = Fx (3.3)
を考える.ここで vx は速度である.力 Fx は,時刻 t0 から t0 +∆tまでの無限小の期間∆tの間のみ作用するとする.この期間上で (3.3) を積分する.
∫ t0+∆t
t0
d
dt(mvx)dt =
∫ t0+∆t
t0
Fxdt
∆tが無限小の場合,右辺の被積分関数 Fx は積分区間上では一定とみなすことができるから,上式は,mvx(t0 +∆t)−mvx(t0) = Fx∆t
と積分できる.無限小の期間に有限の大きさの力積が作用した場合,∆t → 0の極限で Fx → ∞であるが,右辺の力積 Fx∆tは有限値に留まる.一方,この極限での左辺第 1 項の値は,左辺第 2 項とは異なる.即ち,∆t → 0の極限での左辺の運動量の変化は 0 ではない.このように,瞬間的に有限の大きさの力積を与えることのできる力のことを撃力という.
momentum – p. 4/21
撃力の例: 問題3.1
問題3.1
速度 vで x軸の正の向きに運動している質量mの質点に,撃力を作用させたところ,質点は,速度の大きさは変えずに,運動の向きを y 軸の正の向きに変えたとする.[1]この場合に質点に作用した力積の x成分と y成分を求めよ.[2]静止している質点に,問 [1]で求めた力積が作用した場合,質点はどのような運動を始めるか.
【解答】[1]
撃力が作用した後と作用する前の運動量の差が,作用した力積となる.作用した力積の x, y成分をそれぞれ Ix, Iy とおくと,
Ix = 0−mv,
Iy = mv − 0,
が成り立つ.
x
mv
y
−mv
momentum – p. 5/21
撃力の例: 問題3.1(続き)
[2]
運動を始めた後の運動量の x, y 成分をそれぞれ px, py とおくと,それは作用した力積に等しいから,
px = −mv,
py = mv,
が成り立つ.運動を始めた後の速度の x, y 成分をそれぞれ x, y とおくと,上式は,
mx = −mv,
my = mv,
と書き換えられる.両辺をmで割り,t = 0で x = y = 0なる初期条件のもとで時間積分すると,
x = −vt,
y = vt,
が得られる.tを消去して軌道の方程式を求める.
y = −x
x
mv
y
−mv
momentum – p. 6/21
撃力の例: 例題3.2
質量m1, m2, m3 の質点 A, B, Cがある.質点 A, B間と質点 B,
C間は糸で結ばれ,ABと BCのなす角が π − α (0 < α < π/2)
となるようにして,滑らかな水平面上におかれている.質点 Cに,BCの延長の方向に,大きさ I の力積を作用させた時,質点 Aの速度と,質点 B の動き出す方向を求めよ.ただし,各糸は一直線上に張っており,伸び縮みしないものとする.
A B
C
α
I
momentum – p. 7/21
撃力の例: 例題3.2解答 1
外力として,質点 C に大きさ I の力積が,ベクトル −→BC方
向に与えられる.その結果,糸の張力を通して,質点 B, Aにも力積が与えられる.C や A には糸の方向に力積が作用するので,C は −→
BC 方向に,Aは−→
AB方向に速度を持つ.Bには,−→BC方向の張力と
−→BAの張力の合力による力積が作用し,その速度の向きは未知である.座標系としては,−→
AB方向に x 軸を,−→ABに垂直で,図の上向きに y 軸をとる.
動き始めた直後の速度として,Aの速度(x成分のみ)を u1,Bの速度の x成分,y成分をそれぞれu2,v2 , Cの速度の x成分,y成分をそれぞれ u3,v3 とおく.糸 ABに作用する力積の大きさを T1,糸 BCに作用する力積の大きさを T2 とおく.作用・反作用の法則により,糸 ABの力積(−→
AB方向を正と定義)のうち,質点 Aに作用する力積は,T1,質点 Bに作用する力積は,反対向きの−T1 となる.糸 BCの力積(−→
BC方向を正と定義)のうち,質点 Bに作用する力積は,T2,質点 Cに作用する力積は,反対向きの−T2 となる.
A B
C
α
I
T1 T1
T2
T2x
y
−→
AB
−→
BC
α
momentum – p. 8/21
撃力の例: 例題3.2解答 2
質点 Aの運動量の変化(x成分のみ),質点 Bの運動量の変化(x, y 成分),質点 C の運動量の変化(−→
BC 方向の成分)に関する方程式は,以下のようになる.
m1u1 = T1, (3.4a)
m2u2 = T2 cosα− T1, (3.4b)
m2v2 = T2 sinα, (3.4c)
m3u3 = (I − T2) cosα, (3.4d)
m3v3 = (I − T2) sinα. (3.4e)
(3.4d)× cosα+ (3.4e)× sinαより,
m3V3 = I − T2. (3.5)
が得られる.ここで,
V3 = u3 cosα+ v3 sinα (3.6)
は,質点 Cの速度の糸 −→BC方向の成分である.(3.5) は,質点 Cの運動量の変化の糸 −→
BC方向の成分に関する方程式になる.
A B
C
α
I
T1 T1
T2
T2x
y
−→
AB
−→
BC
α
momentum – p. 9/21
撃力の例: 例題3.2解答 3
速度に関する未知量が u1, u2, v2, V3 の 4 成分,力積に関する未知量が T1, T2 の 2 成分,合計 6 個の未知量がある.それに対して,運動量の変化の式は,(3.4a), (3.4b), (3.4c), (3.5) の 4 個しかない.問題を解くには,あと 2 つ式が必要となる.それは,糸 AB, BC が伸び縮みしない条件式である.即ち,質点 Aの速度の −→
AB方向の成分と,質点 Bの速度の −→
AB方向の成分が等しくなることと,質点 B の速度の −→
BC
方向の成分と,質点 Cの速度の −→BC方向の
成分が等しくなることの 2 式である.
u1 = u2, (3.7a)
V3 = u2 cosα+ v2 sinα, (3.7b)
(3.4a), (3.4b), (3.4c), (3.5), (3.7a), (3.7b)の 6 個の式を連立させて解くことで,6 個の未知量を求めることができる.質点 B の動き出す方向(角度 α)は,tan θ = v2
u2より求まる.
A B B
C
αu1 u2
u2
v2V2
V3
(a)糸ABが伸び縮みしない条件 (b)糸BCが伸び縮みしない条件
u3
v3
momentum – p. 10/21
質量が変化する物体の運動
物体の質量mが時間的に変化する場合は,その運動は,運動量方程式,
p = F (3.1)
に従う.例として,鎖の運動を取り上げる.常微分方程式としての運動方程式の解法において,独立変数を時間から座標に変換するという解法を新たに勉強する.
momentum – p. 11/21
鎖の落下の問題
例題3.4
単位長さ当たりの質量 ρ0 の鎖が,滑らかな机の上から垂れ下がり,重力の作用を受けて落下している.机の上端を原点Oとして,鎖の下端の座標を xとおく.この場合,鎖の下端が xの時の鎖の落下速度 xを求めよ.更に,x と時刻 t の関係式を求めよ.初期条件は,t = 0 で x = x = 0 とする.
【解答】定式化机から垂れ下がっている部分の鎖の質量は,ρ0xである.鎖の落下とともに,xは増加するので,質量も増加する.鎖に作用する力は重力のみであるから,その運動量方程式は,
d
dt(ρ0xx) = gρ0x
となる.両辺を定数 ρ0 で割り,便宜上,
p = xx (3.13)
とおくと,運動量方程式は,以下のように書き換えられる.dp
dt= gx (3.14)
x
O
momentum – p. 12/21
鎖の落下の問題: 運動量方程式の独立変数の書き換え
変数 pを時間 t ではなく,座標 xの関数とみなして,常微分方程式 (3.14) を dpdxに関する常微分方程
式に書き換える.pは時間 t の関数であるが,座標 x が t の単調な関数なら逆関数が存在し,t は x の関数と見なすことができる.本問の場合,初速度が 0で,加速度は常に正なので,速度 xは常に正となる.常に x > 0なので,x
は tの単調増加関数である.この場合,pは xの関数と見なすことができる.この時,pの時間微分 dp
dtは,合成関数の微分として,
dp
dt=
dp
dx·dx
dt=
dp
dxx
と書き換えることができる.従って,常微分方程式 (3.14) は,dp
dxx = gx
と書き換えられる.ここで,(3.13) より x =px であるから,これは,dp
dxp = gx2 (3.15)
と表される.
momentum – p. 13/21
鎖の落下の問題: 運動量方程式の解
常微分方程式 (3.15) は,変数分離法により,簡単に解くことができる.まず,左辺を変数 p,右辺を変数 xのみを含む,変数分離形に変形する.
pdp = gx2dx
次に,左辺を p,右辺を xについて積分する.∫
pdp = g
∫
x2dx
積分を実行すると,1
2p2 =
1
3gx3 + C
となる.ここでC は任意定数である.これを pについて解く.単調に落下するので,p ≥ 0であるから,
p =
√
2
3gx3 + 2C
となる.x = 0で p = 0となる初期条件を適用すると,C = 0と定まる.従って,初期条件を満足する解は,
p =
√
2
3gx3 (3.16)
である.
momentum – p. 14/21
鎖の落下の問題: 座標 xの解
(3.13) に解 (3.16) を代入して,速度 xと座標 x の関係を表す常微分方程式に変形する.√
2
3gx3 = xx
である.両辺を xで割ると,
x =dx
dt=
√
2g
3x
1
2
となる.この常微分方程式を変数分離法により解く.左辺を変数 x,右辺を変数 tのみを含む,変数分離形に変形する.
x−1
2 dx =
√
2g
3dt
左辺を x,右辺を tについて積分する.∫
x−1
2 dx =
√
2g
3
∫
dt
x1
2 =
√
g
6t+ C′
となる.C′ は任意定数である.t = 0で x = 0なる初期条件を適用すると,C′ = 0と定まる.従って,
x =g
6t2
となる.momentum – p. 15/21
2質点からなる系の運動: 系の運動量の保存
2質点 I, IIからなる系において,内力のみが作用する場合を考える.内力とは,質点 Iから質点 IIに作用する力と,質点 IIから質点 Iに作用する力の間に,作用・反作用の関係がある力のことである.内力のみが作用する場合,系の運動量は保存する.運動量はベクトルなので,運動量の保存は,x成分,y成分の成分別に考える.以下では,そのような運動の例を取り上げる.
momentum – p. 16/21
例題3.6
水平方向に対して角度αをなす,滑らかな斜面からなる質量M の台が,滑らかな水平面の上に置かれている.この斜面に質量mの質点を静かに置くと,質点は斜面上を転がり落ちるとともに,台も水平方向に動く.この時の台の加速度を求めよ.
【解答】水平面上の適当な位置に原点 Oをとり,水平右向きにx軸を,鉛直上向きに y軸をとる.この座標系Oxy系に対する質点の座標を (x, y)とおく.又,台の適当な場所O′に目印を付け,その位置の x座標をX とおく.質点には,鉛直下向きに重力mg,斜面に垂直に大きさRの抗力が作用する.質点の運動方程式は,
mx = R sinα, (3.20a)
my = R cosα−mg, (3.20b)
となる.
α
α
α
R
mg
O O’
x’’
x, x’
y’’y’y
X
momentum – p. 17/21
例題3.6: 台の運動方程式
台には,質点が受ける抗力の反作用が作用するから,台の運動方程式の x成分は,
MX = −R sinα (3.21)
となる.台は,水平面から離れることはないので,その運動の y成分は考える必要は無い.(3.20a) と (3.21) の和をとると,
mx+MX = 0
∴d
dt(mx+MX) = 0
となる.これは,質点と台からなる系の運動量の水平成分mx+MX が保存することを示す.水平方向には,内力である抗力のみが作用するからである.鉛直方向には,外力である重力が作用するので,系の運動量の鉛直成分は保存しない.
α
α
R
mg
O O’
x’’
x, x’
y’’y’y
X
momentum – p. 18/21
例題3.6: 台に固定した座標系から見た質点の運動
台の目印の位置 O′ を原点として,台に固定した座標系O′x′y′ 系を考える.ここで,x軸に平行な座標軸をx′ 軸,y 軸に平行な座標軸を y′ 軸とする.この座標系に対する質点の座標を (x′, y′)とおく.Oxy 系に関する座標 (x, y)と,O′x′y′ 系に関する座標 (x′, y′)の間には,
x = X + x′, (3.22a)
y = y′, (3.22b)
なる関係がある.座標変換 (3.22) を (3.20) に適用すると,O′x′y′ 系に関する質点の運動方程式,
mx′ = R sinα−mX, (3.23a)
my′ = R cosα−mg, (3.23b)
が得られる.
α
α
R
mg
O O’
x’’
x, x’
y’’y’y
X
momentum – p. 19/21
例題3.6: 台に固定した座標系から見た質点の運動(座標変換)
座標系O′x′y′ 系では問題を解きにくい.O′x′y′ 系を,原点 O′ の回りに,時計回りに角度 αだけ回転し,座標軸が斜面に平行・垂直となる座標系O′x′′y′′ 系を新たに考える.2 つの座標系の間の座標の変換則は,
x′′ = x′ cosα− y′ sinα, (3.24a)
y′′ = x′ sinα+ y′ cosα, (3.24b)
と表される.これを時間について 2 回微分する.
x′′ = x′ cosα− y′ sinα, (3.25a)
y′′ = x′ sinα+ y′ cosα. (3.25b)
運動方程式 (3.23) に対して,この座標変換を施すことで,O′x′′y′′ 系に関する運動方程式に書き換える.即ち,(3.23a)× cosα +(3.23b)×(− sinα),及び,(3.23a)× sinα +(3.23b)× cosαより,以下が得られる.
mx′′ = −mX cosα+mg sinα, (3.26a)
my′′ = R−mX sinα−mg cosα. (3.26b)
α
α
R
mg
O O’
x’’
x, x’
y’’y’y
X
momentum – p. 20/21
例題3.6
質点は台から離れないので,台に垂直な方向には運動しない.即ち,y′′ = 0である.これを (3.26b)
に適用すると,抗力が,
R = mX sinα+mg cosα (3.27)
と求まる.これを台の運動方程式 (3.21) に代入すると,台の水平方向の加速度が,
X = −mg sinα cosα
M +m sin2 α(3.28)
と求まる.これを (3.26a) に代入すると,O′x′′y′′ 系に関する質点の運動方程式,
mx′′ =m2g sinα cos2 α
M +m sin2 α+mg sinα
x′′ =g(M +m) sinα
M +m sin2 α
が得られる.これを時間積分すれば,質点の座標 x′′ が求まる.
momentum – p. 21/21