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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
(シティグループ等の資本計画が却下された背景)
ムーディーズ・アナリティックス
ディレクター
水 野 裕 二
2014年4月2日
2
米国CCARに基づく資本計画検査の結果
1.DFAST及びCCARの結果について
2.バーゼル委員会による「健全な資本計画プロセス:根本的な要素」の要旨
(却下された4社では資本計画プロセスの何が問題視されたのか?)
3.今回のDFAST・CCARが示唆するリスク管理のベスト・プラクティス
目次
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
本資料は3/26に米国FRBが公表した資本計画の検査結果について、ムーディー
ズのリサーチレポート、FRBの公表資料及びバーゼル委員会の公表資料に基づ
き、ご紹介するものです。
“Capital Plan Review is Credit Positive for US Banks”(Mar 24 2014, Moody’s Investors Service)
“Comprehensive Capital Analysis and Review 2014: Assessment Framework and Results”(Mar 24 2014,
Board of Governors of the Federal Reserve System)
“A Sound Capital Planning Process: Fundamental Elements”(Jan 2014, Basel Committee on Banking
Supervision)
はじめに
本資料はオリジナルのレポートの内容の一部をご紹介しているもので、全てを網羅しているわけではありません。
リサーチレポートのご購読にはムーディーズ・アナリティックスがご提供する有償リサーチ・サービスのご契約が必要となります。
この機会にムーディーズ・アナリティックスのリサーチ・サービスのご活用を是非ご検討ください。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
FRBが実施した米銀に対するストレステスト(DFAST)では資本の適正さに関す
る定量的な検査が行われ、Zions1社のみが「不合格」となった。続いて結果が公
表された米銀の資本計画検査(CCAR)では、資本計画プロセスに関する定量・定
性両面からの検査が行われ、Zionsを含む5社の資本計画が却下された。
資本計画を却下された理由は定量的な検査結果の悪さというよりも、資本計画プ
ロセスに関する定性的な原因によるところが大きい。いまや米銀は、諸規制を数
値面でクリアすることのみならず、資本計画のプロセスの適正さを証明することを
求められ、それができなければ資本配当などの認可を得られない状況にある。
却下された数社の資本計画プロセスの弱さについて詳細な情報は公表されてい
ないが、資本計画の適正さについては、2014年1月にバーゼル委員会が公表し
た「健全な資本計画プロセス:根本的な要素」というレポートが参考になる。
エグゼクティブ・サマリー
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
(ご参考)対象30社の略称
AXP = American Express Company
Ally = Ally Financial Inc
BAC = Bank of America Corporation
BBT = BB&T Corporation
BBVA Compass = BBVA Compass Bancshares, Inc
BK = Bank of New York Mellon Corporation
BMO Fin. = BMO Financial Corp
C = Citigroup, Inc
CMA = Comerica Incorporated
COF = Capital One Financial Corporation
DFS = Discover Financial Services
FITB = Fifth Third Bancorp
GS = Goldman Sachs Group, Inc
HBAN = Huntington Bancshares Incorporated
HSBC N.A. = HSBC North America Inc
JPM = JPMorgan Chase & Co
KEY = Keycorp
MS = Morgan Stanley
MTB = M&T Bank Corporation
NTRS = Northern Trust Corporation
PNC = PNC Financial Services Group; Inc
RBS Citizens = RBS Citizens Financial Group, Inc
RF = Regions Financial Corporation
SHUSA = Santander Holdings USA, Inc
STI = SunTrust Banks; Inc
STT = State Street Corporation
UB = UnionBanCal Corporation
USB = U.S. Bancorp
WFC = Wells Fargo & Company
ZION = Zions Bancorporation.
本資料の多くのチャートで銀行の略称が用いられているため、このページにまとめて記載します。なお、本資料では各銀行の名前を省略して表現していることがあります。たとえばSantanderという場合、スペイン本社を示しているのではなく、Santander Holdings USAを指すものとして使用していますので、ご了承下さい。
赤字は資本計画を却下された5社、青字は再提出した2社
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
1.DFAST及びCCARの結果について
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
DFASTとCCARの銀行規制上の位置付けと状況
DFASTはドッド・フランク法(12USC 5365(i))に基づいて、FRB及び米国銀行に実施が義務付けられているストレステスト。この中にはFRB主導で行われるストレステストと各銀行が独自に行うストレステストの両方が含まれる。
CCAR(Comprehensive Capital Analysis and Review)(12CFR 225・8)はFRBが米国銀行の資本計画を承認する手続きを示す。その中にはストレステストによる将来予測も含まれているが、2013年よりストレステストはDFASTによってカバーされることになったため、現在はCCARは主に資本計画の検査プロセスを指す。(注:「CCAR2014の結果」と言う場合、資本計画を反映させた後のストレステスト結果を指すこともあります。)
米国FRBは3/20にDFASTに基づく米銀等のストレステスト結果を公表し、3/26にCCARに基づく米銀等の資本計画の承認状況を公表した。DFASTのストレステストではZionsだけがストレス後のTier1比率が規制最低要件の5%を下回った。CCARの資本計画検査ではZionsを含む5社について、申請した資本計画がFRBによって却下された。CCARの資本計画検査はDFASTストレステストの結果を踏まえて実施されている。
DFAST(ドッド・フランク法に基づくストレステスト)
2014年のDFASTではZionsが「不合格」となった。 (ストレス後のTier1比率(注)の最低値が規制最低要件の5%に達しなかった。)
CCAR(FRBによる資本計画検査)
2014年のCCARではZions、Citigroup、HSBC North America、Santander、RBS Citizensの5社が申請を却下され、Bank of AmericaとGoldman Sachsの2社が再提出した。
注:Tier1比率とはTier1 Common Ratioでバーゼル1ベースの自己資本比率を指す。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
CCAR2014の結果/5社の資本計画が却下された
3/26に米FRBは大手銀行持株会社30社に関する、CCARに基づく資本計画の検証結果を公表した。これにより、銀行経営層はエクイティ投資家へのリターン支払いに関してより慎重になると思われ、米銀のクレジットにとってポジティブである。
DFASTと異なり、CCARは銀行自身による資本計画(配当や株式買戻し)を対象とする。今回の結果では30社の資本計画のうち、FEDは5社の計画を却下した。この却下が示唆するのは銀行が資本計画プロセスを改善し、株主への利益還元についてより慎重にならざるを得ない、ということである。
Zionsの資本計画が却下されたのは、非常に厳しいシナリオにおけるTier1比率の最低値が最低基準5%を満たさなかったためである。Citigroup 、HSBC North
America、RBS Citizens、Santander USAの4社の資本計画は定性的な根拠に
基づき却下された。これら4社は資本計画を見直して再提出しない限り、配当増加や株式買戻しを認められない。
Bank of AmericaとGoldman Sachsは当初計画が定量的基準(レバレッジ比率)
を満たさなかったため、計画を再提出した上で受理された。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
CCAR2014の結果/自己資本は改善が進んでいる
全体として、DFASTの結果は米銀が資本増強を継続している事実を明らかにした。以前よりCCARに参加している18社のうち11社において自己資本比率を向上していた。18社のTier1比率の最低値のメディアンは6.7%から7.1%に改善した。全30社のメディアンは7.7%と更に高かったが、これは今回初めて参加した金融機関の自己資本比率が相対的に高かったためである。
従来からCCARに参加している18社の中では唯一、シティだけが資本計画を却下された。
【米銀18行のTier1比率の最低値の推移(非常に厳しいシナリオ下+資本計画勘案後)】
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
DFASTとCCARの差異は資本配分計画の大きさを示す
DFASTとCCARの枠組みでは、銀行が配当や株式買戻しを通じて株主へ利益還元することに制約がかかることになり、デットのクレジット評価上はポジティブである。以下の図はTier1比率の最低値に関するDFASTとCCARでの結果の差異である。マイナスの差異は資本配分計画の大きさを示し、プラスの差異は資本調達の予定があることを示す。
Discover Financial Services (Ba1 stable) と American Express Company (A3 stable) の2社の差異が最も大きく、資本配分計画がアグレッシブであることを示している。
【DFASTとCCARの下でのTier1比率の最低値の差異(非常に厳しいシナリオ下)】
* * * * *
*は資本計画が却下された5社を示す。上記数値はFRB資料の通り、却下された資本計画に基づく。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
(ご参考)日本のメガ銀行の配当との比較
三井住友FG 三菱UFJFG みずほFG
RWA(リスクウェイト資産) (2013年12月末) 65,658,055 99,479,467 60,593,655
普通株式等Tier1資本 (2013年12月末) 6,555,569 11,109,810 5,304,229
連結普通株式等Tier1比率 (2013年12月末) 9.98% 11.16 8.75%
配当金総額 (2013年度) 176,269 216,194 152,263
配当金の対RWA比率 0.27% 0.22% 0.25%
以下は日本のメガ銀行3行の直近の自己資本比率情報に基づき、配当総額(年間)の対RWA比率を試算したもの。今回、米銀が提出した資本計画が自己資本比率に与える影響は、メガ銀行よりも非常に大きなものであることが分かる。
ただし、米銀の資本計画の中には配当以外の資本関連行動も含むため、以下の数値は直接比較できるものではない。また、以下の自己資本比率情報はバーゼルⅢ基準のものであり、本資料で紹介している米銀の「Tier1比率」はバーゼル1基準である。FRB資料にはバーゼルⅢ基準の普通株式等Tier1比率も記載されている。
(百万円)
(各社の公表資料に基づく)
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
DFASTとCCARの差異(FRB資料より抜粋) DFASTでのTier1比率の最低値 CCAR資本計画を反映した後のTier1比率の最低値
再提出した計画
却下された5社
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
シティグループの資本計画の却下に関するムーディーズのコメント
シティグループは配当増加や株式買戻しを認められず、FEDが反対した原因となった問題を是正した後、資本計画を再提出するよう命じられた。シティグループの計画却下は大規模で複雑な銀行のリスク管理上の難しさを浮き彫りにした。FEDはシティグループが様々なシナリオ下における全グローバル業務に関する強固で整合的な予測を準備できるとは思っていないようだ。ムーディーズではシティグループの業務の複雑さはクレジット上の弱さであると見ている。
FEDがシティグループの資本計画を却下したことは市場を驚かせた。最も厳しいストレスシナリオ下でも同行の自己資本比率は最低基準を上回っていた。しかも、FEDによれば、シティグループは「過去数年にわたって、リスク管理全般と管理実務において著しい改善が見られる」とされていたからである。このような改善にも関わらず、FEDによる却下は「グローバル業務の重要部分に関する収益と損失の将来予測を行う能力」と「全面展開している業務活動とエクスポージャーを適切に反映するような、内部的なストレステストのシナリオを開発する能力」に関して、FEDが懸念を抱いていることを示した。
シティグループは多くの国で多様な業務を行っているがゆえに、他の米銀には見られない広範かつ深い足跡を世界に残している。同行の複雑さと範囲の広さのため、FEDの高い要求に応えることは他の大銀行と比べても困難な作業である。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
その他の4社の資本計画の却下に関するムーディーズのコメント
資本計画を却下されたZions、HSBC、RBS、Santanderの4社はいずれも今回のCCAR2014で初めて対象に加わった銀行である。新たに加わった12社のうち3分の1に当たる4社の資本計画が却下された。Zionsを除く3社は外国銀行である。
FEDは明確に「新たにCCARに加わった銀行には異なる水準の期待をしている」と述べたものの、HSBC、RBS、Santanderの3社の定性的な面での弱さは非常に重大で、資本計画プロセスの信頼性に疑問を抱かせるのに十分であった。
FEDの開示資料によれば、 Santanderの資本計画プロセスは最も弱く、「広範囲かつ重大な問題」が見られ、「ガバナンス、内部コントロール、リスク特定、リスク管理、MIS(経営情報システム)、資本計画を支える前提と分析」に問題が見られた。 HSBCとRBSの弱さは「広範囲」との指摘はなかったが、「重大な問題」が見られたとされている。両社については「ストレス下における収益と損失の予測実務に欠陥が見られた」としている。
資本計画の却下は、その理由が定量面・定性面であれ、リスク管理の弱さを示す。Zionsは最も厳しいストレス後にTier1比率の最低基準である5%を達成できなかった唯一の銀行である。しかし、FEDは同行の資本計画プロセスについて、定性面での深刻な欠陥を指摘していない。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
バンク・オブ・アメリカとゴールドマン・サックスに関するムーディーズのコメント
バンク・オブ・アメリカとゴールドマン・サックスの2社は、Tier1レバレッジ比率が非常に厳しいシナリオ下で最低要件を下回ったため、当初の計画を減少させざるを得なかった。これにはFEDがTier1レバレッジ比率の最低要件を3%から4%へ引き上げたことも関連している。
FEDは今回行った当局独自の分析でこれら2社の将来予測に関して、非常に厳しいシナリオ下でもバランスシート残高とRWA額が昨年のCCARでの前提以上に高い伸びを示すとの結果に至った。大半の銀行では逆にバランスシートは縮小するとの前提を置いていた。この相違が2社のレバレッジ比率の不足につながった。
<FRB資料の一部抜粋>
←当初計画の3.9%から4.1%へ改善
←当初計画の3.9%から4.2%へ改善
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
計画却下はストレステスト結果だけに依存して行われたものではない
今回の結果では、地域銀行のパフォーマンスは大銀行よりも優れていたが、地域銀行から4行の却下が生じた。定性面に基づく資本計画の却下はDFASTでの定量的なパフォーマンスとは独立して判断されたことを示している。HSBCのTier1比率の最低値は6.6%、RBSの同値は9%で、いずれも最低基準の5%を十分に上回っていた。
* * * * *
*は資本計画が却下された5社を示す。上記数値はFRB資料の通り、却下された資本計画に基づく。
【銀行種類別のTier1比率の最低値の比較(非常に厳しいシナリオ下+資本計画勘案後)】
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
しかし、却下・再提出の4社では自社分析とFRB分析の結果の間に大きな乖離が見られていた
【Tier1比率の最低値(非常に厳しいシナリオ)に関するFRBと個別銀行の算出結果の差異】
(マイナスはFRBストレステストの方が銀行の結果よりも厳しいことを示す。)
*
*は資本計画が却下もしくは再提出をした金融機関を示す。
* * * *
以下はCompany-runによるストレステスト結果とFRBによる分析結果の差異を主要18社について比較したもの。計画却下もしくは再提出を余儀なくされた4社で、大きな差異が見られている。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
資本計画が却下された主な理由のまとめ
Zions :ストレステスト未達成(Tier1比率)
Citigroup :資本計画プロセスの弱さ
(グローバル業務の重要部分に関する収益と損失の将来予測能力、業務活動やエクスポージャーを適切に反映する内部的なストレステストのシナリオを開発する能力に問題)
HSBC :資本計画プロセスの弱さ
(ストレス下における収益と損失の予測実務に問題)
RBS :資本計画プロセスの弱さ
(ストレス下における収益と損失の予測実務に問題)
Santander :資本計画プロセスの弱さ
(資本計画プロセスに関するガバナンス、内部コントロール、リスク特定、リスク管理、MIS、資本計画を支える前提と分析等、広範囲かつ重大な問題)
Bank of America :ストレステスト未達成(レバレッジ比率) →再提出
Goldman Sachs :ストレステスト未達成(レバレッジ比率) →再提出
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
2.バーゼル委員会による「健全な資本計画プロセス: 根本的な要素」の要旨
(却下された4社では資本計画プロセスの何が問題視されたのか?)
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
健全な資本計画プロセスの4つの柱
2014年1月にバーゼル銀行監督委員会は、金融危機時の反省に基づき、銀行の健全な資本計画プロセスのあり方に関するレポートを公表した。その中で以下の4つの柱を指摘している。
(1) 内部コントロールとガバナンス
(2) 資本政策とリスク捕捉
(3) フォワードルッキングな視点
(4) 資本維持のためのマネジメント・フレームワーク
“A Sound Capital Planning Process: Fundamental Elements”(Jan 2014, Basel Committee on Banking Supervision)
「健全な資本計画プロセス:根本的な要素」(2014年1月、バーゼル銀行監督委員会)
本レポートは健全な資本計画プロセスの実務を実例に即して記載したもので、プロセスに必要な絶対的な諸原則を断定的に述べたものではありません。以降のページでは本レポートで健全な実務の事例として列挙されている事項をご紹介します。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
(1)内部コントロールとガバナンス
(1) 内部コントロールとガバナンスのポイント
様々な部門の専門担当者のインプットが資本計画に反映されていること。
資本計画、予算策定、戦略立案、戦略に伴うリスク等の各プロセスが緊密に結びついていること
戦略立案や資本配分に関する部門間の見解相違が、シニア経営層に報告され、議論されること(例:前提となるローン伸び率に関する見解の相違など)
資本計画プロセスが定期的に独立した部門による検証を受けていること
シニア経営層と取締役会メンバーが資本計画プロセスに参画すること
取締役会が資本計画プロセスの原則を設定すること (「原則」には将来戦略、リスクアペタイト、資本再投資と株式配当のバランスなどを含む)
取締役会や担当の委員会が少なくとも年に1回は資本計画を見直すこと
「ガバナンス」と「内部コントロール」に問題ありとされたSantanderでは、この(1)が期待水準に達していなかったものと推測されます。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
(2)資本政策とリスク捕捉
(2) 資本政策とリスク捕捉のポイント
資本政策の目的と役割が明確にし、文書化していること (この点はバーゼル委員会による調査で最も銀行間に差異の見られた分野であった。)
経営チームを組成し、想定内もしくは想定外の資本不足に対処するための資本戦略のレンジを検討すること
経営層が銀行の状況をモニターできるような、資本及び業績のパフォーマンスを示す計測手法を持つべきである。(規制資本、普通株式等Tier1比率、収益にフォーカスする指標としてROE、RORAC、RAROC)
また、多くの異なる観点から資本をモニターすること(ECによってリスク分散効果やモデルリスクに対する資本クッションを分析するなど)
モニターする指標にはトリガーやリミットを設定し、数値が接近したときのプロセスを決定しておくこと
リスク許容度を設定すること
定量化できないリスクを発見するためのプロセスを確立すること
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
(3)フォワードルッキングな視点
(3) フォワードルッキングな視点のポイント
ストレステストとシナリオ分析により、フォワードルッキングな観点を得ること
ストレステストを資本計画プロセスの中核的な要素に位置付けること
通常のストレステスト手続とは別に、アドホックなシナリオ分析を行う能力を確保すること
リスクプロファイルや資本ニーズが今後24-36ヶ月の間にどのように変化しうるかを推定すること
シナリオは銀行の収益、損失、バランスシート、エクスポージャー、RWAの変化を反映するものであること
多くの銀行では資本計画ではリスク分散効果を勘案せず、むしろEC管理の方法で勘案している。リスクが追加的に取り扱われ、保守的な計算が行われる点で、より賢明な判断につながる。
分析に経営アクションを取り込む場合には、シニア経営層がそれを認識し、精査していること
「ストレス下における収益と損失の予測実務に問題」とされた銀行では、この(3)が期待水準に達していなかったものと推測されます。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
(4)資本維持のためのマネジメント・フレームワーク
(4) 資本維持のためのマネジメント・フレームワークのポイント
シニア経営層と取締役会によって、資本政策とモニタリングルールが適切なリスク報告とストレステストと共に確立されること
シニア経営層と取締役会が、予期せぬ事態に対処するための資本政策の優先順位付けと定量化に責任を負うこと
異なるシナリオ下で適切とされるアクションを決定するための指針となる原則を開発すること
資本を維持するためのアクションが明確に定義され、マネジメント・プロセスによって計画がアップデートされること
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
3.今回のDFAST・CCARが示唆するリスク管理のベスト・プラクティス
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
DFASTとCCARの内容を通じて参考になること (MA水野コメント)
米国でのストレステストは資本計画検査の1プロセスとして定着している
資本計画を認められるためには、定量評価としてのストレステストと定性評価としての資本計画プロセス評価の2つをクリアしなければならない。
資本計画検査においては定性評価(プロセス評価)の比重が高い。数値をクリアしてもプロセスが評価されないと資本計画が認められない。
資本計画に求められている内容は、リスク管理体制やリスクアペタイト・フレームワークに求められる姿との共通部分が多い。
資本計画検査が重視されている背景には米銀の資本配当の大きさもある。
米国では当局主導のストレステスト結果の意義が重くなっている
当局主導で分析された結果が資本計画検査の定量評価として重視されている。Company-runによる銀行独自の結果が当局の結果よりも甘い結果となり、かつ差異が大きかった4社で却下もしくは再提出となった。この現象は偶然とは考えにくい。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
DFASTとCCARの内容を通じて参考になること (MA水野コメント)
ストレステストでは破綻の可能性を調べることより、将来予測力が重視されている
「非常に厳しいシナリオ」の下で破綻する銀行は皆無であり、もはや破綻可能性の分析はフォーカスとなっていない。ストレステストの主眼は「非常に厳しいシナリオ」での資本水準や自己資本比率の将来予測を行うことにあり、かつ、その結果だけでなく銀行内部のプロセスが重視される。
諸規制の最低基準値はストレステストのメルクマールとして活用されている
ストレステストでのメルクマールとして、諸規制の最低基準値(自己資本比率8%、レバレッジ比率4%など)が使用されている。諸規制の最低基準は足下の状況でクリアするのが当たり前の状況になりつつあるが、米国では「非常に厳しいシナリオ」の下で将来にわたって継続的に達成すべき目標としての位置付けになっている。
ストレステストによって諸規制のバッファ(どれだけ余裕をもって達成しておくべきか)を見積もることがベストプラクティスになる可能性が高い。
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
DFASTとCCARの内容を通じて参考になること (MA水野コメント)
米銀は非常に厳しいディスクロージャーの洗礼を受けている
グローバルな金融市場を見渡しても、米国のようなレベルでストレステスト結果が世の中に公表される国はない。資本計画を却下された銀行は資本計画プロセスの不備についてあからさまに公表された。逆に、計画を受理された米銀への市場の信任度が高まる可能性があるのではないか。
ストレステストの結果によって、従来は分からなかった米銀のリスク・プロファイルが見えてくる。表面的な自己資本比率は同じ水準でもストレス時にどれだけ数値が悪化するかによって、資産のクォリティ(=どれだけのリスクを取っているか)が外部からも分かるようになる。
外国銀行が米国銀行市場に参入する障壁は高くなった
資本計画を却下された5行のうち、3行が外国銀行であったことは象徴的。もはや本店からの指示や方針を言い訳にできず、米国で銀行業務を行うためには米国スタンダードを完全に満たす必要がある。(外国銀行向けのプルデンシャル規制も導入が予定されている。)
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米国CCARに基づく資本計画検査の結果
DFASTとCCARの内容を通じて参考になること (MA水野コメント)
配当政策にはストレステストが必須となっている
自己資本比率等の諸規制と同様、配当政策の判断にもストレステスト結果が使用され、資本計画プロセスの一部とすることが求められている。 「非常に厳しいシナリオ」の下で将来的に継続して自己資本不足に陥ることのない配当金額を設定し、そのプロセスがあることを証明する必要がある。
次はCLARがやってくる?
CCARの次のステップとして、FRBは流動性リスクを対象としたCLAR(Comprehensive Liquidity Analysis and Review)を導入すると予想されている。これが導入されると、 「非常に厳しいシナリオ」の下で将来にわたって継続的にLCR(やNSFR)>100%を達成できるかどうかを証明しなくてはならない。
自己資本比率の最低基準と同様に、LCR最低基準(100%)も足下の状況でクリアするのが当たり前の状況になりつつあるが、CLARが導入されると「非常に厳しいシナリオ」 の下で将来にわたって継続的に100%を達成する必要がある。すなわち、ストレステストによってLCRやNSFRのバッファ(どれだけ余裕をもって達成しておくべきか)を見積もることがベストプラクティスになる可能性が高い。
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