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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか? (分岐する新興国リスクを再考する)
ムーディーズ・アナリティックス
ディレクター
水 野 裕 二
2014年2月21日
ムーディーズのリサーチサービスご紹介シリーズ
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
本資料は米国の量的緩和縮小以降、不安定な状況が続く新興国の状況につい
て、ムーディーズの各種のリサーチレポートに基づき、ご紹介するものです。
A Host of Challenges Drives Emerging Markets Sovereign default Risk Measures Higher (Feb 18, 2014)
Global Macro Outlook 2014-2015: Growing Pains (Feb 18, 2014)
QE Tapering: Impact Differs Amongst Emerging Markets (Feb 6, 2014)
はじめに
本資料はオリジナルのリサーチレポートの内容
の一部をご紹介しているもので、全てを網羅して
いるわけではありません。
リサーチレポートのご購読にはムーディーズ・ア
ナリティックスがご提供する有償リサーチ・サー
ビスのご契約が必要となります。この機会に
ムーディーズ・アナリティックスのリサーチ・サー
ビスのご活用を是非ご検討ください。
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
1.「新興国ソブリンのデフォルトリスクは危機の種類ごとに分岐している」
(新興国ソブリンのEDF分析)
2.「国ごとに分岐する新興国のリスク」
(グローバル・マクロ経済見通し)
3.「米国量的緩和縮小は新興国の間に異なったインパクトをもたらす」
(新興国に関するTapering影響分析)
目次
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
1.「新興国ソブリンのデフォルトリスクは危機の
種類ごとに分岐している」
(新興国ソブリンのEDF分析)
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
新興国が直面している危機の種類は国によって異なる。各国ソブリンのEDF(予想デフォルト率)を分析するに当たり、新興国を以下の通り、危機種類別にグループ分けした。
経常収支赤字: トルコ、南アフリカ、タイ、インドネシア、チリ、ペルー
経済成長の鈍化: 中国、ブラジル、ロシア
通貨危機: アルゼンチン、ウクライナ、ベネズエラ
脆弱な銀行システム: ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア
2013年2月以降のEDF変動を見ると、安い外貨を利用して持続不可能な消費を維持してきた「経常収支赤字」の各国ではソブリンEDFが平均で84%もの悪化を示し、投資家心理の悪化に非常に脆弱であることを示している。
一方、「脆弱な銀行システム」の各国では、銀行システム以外の逆風がなく、ソブリンEDFは平均で20%改善している。
新興国が直面している危機の種類ごとにソブリン・デフォルトリスクに差異が生じている
EDF(Expected Default Frequency)はムーディーズ・アナリティックスが提供している企業やソブリンの予想デフォルト率データ。市場データを活用し、PITデータとして日々数値を更新している。
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
ソブリンEDFに反映される投資家心理は分岐している
経常収支赤字: トルコ、南アフリカ、タイ、インドネシア、チリ、ペルー
経済成長の鈍化: 中国、ブラジル、ロシア
通貨危機: アルゼンチン、ウクライナ、ベネズエラ
脆弱な銀行システム: ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア
【危機の種類ごとにグループ分けした新興国の5年EDF(予想デフォルト率)変化率(2013年2月基準)】
経常収支赤字
経済成長の鈍化
通貨危機
脆弱な銀行システム
悪化
良化
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
新興国のデフォルト確率(EDF)はTaperingのアナウンス以降、ボラティリティが高まっている
Taperingの悪影響を最も大きく受けるトルコや南アフリカなど、海外資本の流入の恩恵を受けてきた国々ではEDFが悪化を示している。
【新興国の1年EDF(予想デフォルト率)の推移(2012年1月以降)】
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
2.「国ごとに分岐する新興国のリスク」
(最新のグローバル・マクロ経済見通し)
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
グローバル経済の見通し
金融危機とそれに続くリセッション後のグローバル経済の回復ペースは過去と比べて弱いものである。2009年に銀行セクターが安定化した際、最初にバトンを受け取って成長をリードしたのは新興国であったが、最近では金融刺激策が失われる見通しになり、逆風に見舞われている。
先進国の一部には今後数年にわたって強い成長を実現するためのターニング・ポイントに差し掛かっているところが出現している。中期的にはそれらに伴って新興国経済も徐々に強くなっていくと思われるが、短期的には投資家がポートフォリオのリバランスを行うことで発生している資本流出がいくつかの新興国を難しい状況に追い込んでいる。このように、先進国でより強い成長が実現することは、いくつかの新興国では痛みを伴う調整を引き起こす見込みである。
G20の先進国の中では、米国と英国では強い成長軌道が見込まれるが、ユーロ圏はより緩やかな回復にとどまる。日本ではデフレ脱却が進み、オーストラリアやカナダなどでは経済拡大が続くなど、今後2年間で世界経済は緩やかに加速していく。全体としてG20先進国での今年の実質GDP成長は2.3%、来年は2.5%程度となると見込まれる。この予測は昨年11月に我々が行った予測よりも少し強いものである。
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
グローバル経済のリスク要因
新興国では民間資本の流出に伴い、短期的な成長予測が悪化したが、最近ではその状況は分岐している。中国やインドなどで比較的強い成長が見込まれる一方、トルコやアルゼンチンなどでは新たな金融混乱が生じている。全体として新興国に関する我々の見通しは昨年11月時点からほとんど変更していない。G-20の新興国では今年は5%、2015年には5.5%の実質GDP成長を予測する。
過去5年間と比較すると、我々のベースケース経済シナリオに関する変動リスクは相対的に低いものと考える。懸念は米国の金融政策正常化のタイミングとインパクトであり、特にそれが大きな経常赤字を抱える新興国の経済に与える波及効果である。
過去18ヶ月でユーロ圏の経済は安定化してきたが、ソブリン危機は解決したとはとても言えない状況である。現時点でユーロ圏の危機が再燃するとは考えにくいが、多くの国の銀行が経済回復のペースに対応する資金調達ができない場合、デフレ・リスクに直面する可能性がある。
中国が不動産市場とクレジット市場をコントロールしながらスローダウンさせることができるかどうか、また、日本が2014年4月に消費増税を実施による潜在的なインパクトも懸念材料である。
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
新興国の一部に見られる金融市場ボラティリティ
FRBが2014年1月から量的緩和縮小を開始したが、先進国の長期金利は昨年5月に初めてTaperingがアナウンスされた直後と比べると、ほぼ無反応である。長期的には長期金利は上昇すると思われるが、そのタイミングは不確実である。コモディティも明確なトレンドを示していない。原油価格は2013年11月以降、わずかに上昇したが、我々は依然として緩やかな下落を予想している。
対照的に一部の新興国の金融市場は最近、非常に高いボラティリティを示している。アルゼンチンやトルコなどでは大幅な通貨下落が見られている。多くの新興国で金利の引き上げが行われ、通貨下落によるインフレ圧力に対抗している。
【10年国債イールド】 【対米ドル為替レート】
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
分岐する新興国/底堅さを示す中国とインド
中国の2013年の経済成長は7.7%と見込まれ、2010-11年よりスローダウンしているが、依然として強い成長を示している。不確実要因は地方政府債務である。昨年末の調査では地方政府債務が2011年と比べて大幅に増加したことが判明し、中央政府による支援が必要となる可能性を示唆している。しかし、中国政府による調達ニーズは名目GDP成長と比べると緩やかである。
インドの経済は2013年Q3に加速したものの、最近の政策金利引き上げが国内成長の重荷となる見通しである。しかし、政府債務の調達環境は他国よりも好ましい環境にある。
【中国GDPの構成】 【名目GDPに対する実効金利】
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
分岐する新興国/困難に直面するトルコ、回復に向かうインドネシア
トルコでは過去8ヶ月で金融タイト化が急速に進み、10年国債イールドは1月に10%を超えた。為替も急激に下落している。中央銀行による政策金利の引き上げは通貨と国際収支の防衛に役立つが、経済見通しを著しく弱めている。
インドネシアでは通貨防衛のために外貨準備を消費したが、金融安定化により輸出が安定化し、成長を後押しすることになる。同国の輸出は世界貿易と強く連動しており、他のアジア諸国よりも早い回復が見込まれている。
【新興国の長期金利イールド】 【インドネシアの輸出と世界貿易】
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
分岐する新興国/経済成長が鈍化するブラジル、ロシア、不安心理が取り巻くアルゼンチン
ブラジルでは短期的な経済見通しは弱気のままである。2013年の経済は、企業の投資意欲が減退し、高いインフレが家計消費を弱めたため、当初予測よりも弱いものになった。中央銀行がインフレ圧力を抑えるために政策金利を引き上げたことも国内需要の重荷になっている。今年のサッカー・ワールドカップが経済活動を緩やかに後押しすると思われるが、成長が金融危機前のレベルに戻る兆候が見られている。今後2年間に渡って経済成長は鈍いものになる見込みである。
アルゼンチンでは2013年を通じてペソが対ドルで1/3に下落したのに続き、先月は政府が通貨管理を弱め、中号銀行が外貨準備維持のために市場介入を制限したため、1週間で17%下落した。行き当たりばったりの政策運営が不確実性を長引かせ、不安心理を悪化あせている。投資家心理が回復するまで経済見通しはネガティブなままである見込みである。
ロシアでは政府が競争を促進し、小企業に支援を提供しているものの、短期的な経済見通しは弱い。ソチオリンピックが経済上の重大な上昇要因になる可能性は低い。
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
グローバル経済のダウンサイドリスク
米国経済に関するリスクはFRBによる金融政策の正常化である。そのプロセスはゆっくりと段階的に進むと見られるが、金融市場はよりフォワードルッキングに反応するため、米国債イールドの上昇はもっと早く実現する可能性がある。長期金利が回復軌道に乗ったばかりの住宅市場に与える影響を考えると、FEDはより慎重に経済回復と量的緩和の縮小のバランスをとる必要がある。一方で、量的緩和の解除に慎重になりすぎると、資産バブルを引き起こす懸念もある。
米国の量的緩和縮小は新興国経済により深刻な影響を与える可能性がある。多くの国で長期金利の上昇や資本逃避が発生している。トルコやアルゼンチンでは金融市場の無秩序な修正が発生した。他の国々では調整は穏やかだが、いくつかの国では更なる通貨下落と長期金利・政策金利の上昇が見込まれる。長期的には為替レート下落は経常収支赤字の抑制に役立つが、短期的には金融安定化の政策が経済成長の重荷となる。
ユーロ圏ではソブリン債務危機に起因するリスクが続いている。また、デフレが発生する懸念もある。
アジアでは2つの経済大国である中国と日本に懸念がある。中国では不動産価格上昇とクレジット市場の膨張ペース、日本では4月の消費税引き上げである。
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
3.「米国量的緩和縮小は新興国の間に
異なったインパクトをもたらす」
(新興国に関するTapering影響分析)
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
「新興国」とはひとくくりにできる均質的なグループではない。対外不均衡や海外資金依存度の高い国々がTaperingに対して脆弱である。
南アフリカとトルコの通貨が今までのところ資本フロー調整によって最もひどいダメージを被っている。これは大きな経常収支赤字、平均より低い準備金、低い金利など、国固有の事情によるところが大きい。
ブラジルはさほど大きな影響を被っていない。他の国よりも早く(FEDがTapering計画を2013年5月に公表する直前に)タイトニングを開始していたからである。
ロシアは経常収支黒字と大きな準備金によって、グローバルな流動性タイトニングから守られている。
米国Taperingの影響は新興国の間で異なっている
EVI(External Vulnerability Indicator)は対外的な調達ニーズと準備金総額に対する短期債務の大きさを計測するもの
【経常収支バランス、外貨準備、EVI、政策金利の比較】
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
Taperingが新興国に及ぼす悪影響の度合いは以下のような個別ファクターによって決まる。
(1)バッファの存在(準備金など)
(2)政策ツール(変動為替レート、政策金利)
(3)既に存在する脆弱さ(経常収支赤字)
前ページの表の通り、南アフリカとトルコには以下のような共通の弱さがある。
相対的に大きい経常収支赤字
平均よりも小さい準備金
他の新興国よりも低い金利
さらに個別要因として、トルコでは中央銀行が正式な政策金利を保有していないため、市場参加者が早期段階でのガイダンス金利上昇を引き締めと理解しづらかったことがある。南アフリカでは中央銀行はインフレ防止という使命しか負っておらず、2014年1月半ばまでインフレ期待が落ち着いていたことから金利引き上げを実施しなかった。
米国Tapering影響を決定づける主要なファクター
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新興国はグローバル経済のダウンサイドリスクか?
Taperingは先進国よりも新興国により大きなインパクトを及ぼす
新興国の4シナリオ
先進国の4シナリオ
【GDP成長に関する4シナリオの比較(先進国vs新興国)】
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