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科学的素養 論理的思考力 総合的に分析す る力科学的素養 論理的思考力 総合的に分析す る力 農学部の使命 食糧・生物資源の生産、生物資源の利用、生物機能の活用、生物共生環境を広く見つめ、そして深く

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名古屋大学農学部

環 境

健 康 食

生物環境科学科

応用生命科学科

資源生物科学科

生命農学の3つのテーマと、名古屋大学農学部の3学科の関係

総合的に分析する力科学的素養 論理的思考力

農 学 部 の 使 命食糧・生物資源の生産、生物資源の利用、生物機能の活用、生物共生環境を広く見つめ、そして深く研究し、私たちが生きる 21 世紀の食・環境・健康に関するさまざまな課題の解決を通して人類の生活の向上と充実を図ります。

一般選抜においては、理科にやや重点を置き、基礎知識・理解力・論理的思考力・応用力などを総合的に評価し「課題探究力と問題解決力」に優れた人を選抜します。また、推薦入学者選抜においては、志望学科に対して明瞭な志向を持ち、充分な基礎知識と勉学への熱意を持つ人を選抜します。

C O N T E N T S 農学部の使命教育環境と教育プログラム学科紹介-1 [生物環境科学科]学科紹介-2 [資源生物科学科]

学科紹介-3 [応用生命科学科]在学生からのメッセージOG・OB からのメッセージ

01030509

131718

教育目標

アドミッションポリシー

農学の創造的な研究活動によって得られた、歴史的成果と教訓、知的資産および基礎的技術を身につけ、論理的思考力に裏付けられた総合的判断力を持ち、勇気をもって将来を切り拓いていく教養豊かな知識人を養成します。

教育目的農学の知識と素養を身につけ、生き物に対する愛に根ざした豊かな人間性と総合的判断力と自ら課題を掘り起こし創造的に解決する力を持ち、将来、指導力を発揮し、社会に貢献する人材を養成します。

名古屋大学農学部案内2015

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 21 世紀は生命科学の時代といわれています。農学部・

生命農学研究科は、基礎生命科学に寄与しつつ、広く

深い生物系および化学系の学問大系を基軸として、食・

環境・健康の3つの柱にかかわる学問の進展、そして将来

の日本と世界を担う人材の育成を目標としています。安

全・ 安 心 か つ 十 分 な 食 糧 の 持 続 的 確 保、 複 雑 化 し

高齢化する社会の中での健康の維持と増進、活発化

する人間の活動・温暖化・自然災害の中での地球環境

と生態系の保全など、世界に広がる課題があります。

その課題解決のための基盤的学問を進めるところに

農学部・生命農学研究科の使命があると考えています。

専門書に記載された学問大系をていねいに学ぶことに

加えて、新たな課題の中で何が問題であり、何を目標

として設定し、どうすれば乗り越えられるのかを提示し、

検証する能力が求められます。自然を探求することは、

何が分かって、何が分からないかを明確にすることで

あり、解き明かされていない問題に科学の光を照射で

き た と き の 喜 び は、 過 去 を 学 ぶ だ け で は 味 わ え

ない充実した 達成感にも繫がります。学ぶことはゴール

ではなく、その先にある学問の進展、社会的世界的な

課題解決のための基盤と位置づけ、学びの先にある

ことを意識しつつ、教育を進めています。

 1951 年の農学部設置以来、農学部・生命農学研究科は、

8,000 名の学士、4,000 名の修士、1,600 名の博士学位

取得者(論文博士含む)を送り出しています。多くの

卒業生が国内外での生産、教育、研究、行政等の領域

で指導的役割を果たしています。農学部・生命農学

研究科は、真理の探究をとおして世界屈指の知的資産

の形成と継承に貢献すること、自発性を尊重する教育実

践によって論理的思考力と創造性に富み国内外で指導

的役割を果たしうる、勇気ある知識人を育成すること

を研究・教育の目標としています。国際的な研究交流、

共同研究はもとより、アジアを中心とする海外からの

留学生も多く受け入れています。その結果として、優れた

研究水準と教育プログラムが認められ、今世紀に入って

から 21 世紀 COE、グローバル COE、そしてリーディング

大学院プログラムが連続して採択されています。専門教

育に加えて、学問と社会への俯瞰力、基礎から応用への

展開力、地球規模で活躍できる国際性、社会性、リーダー

シップ力の養成にも力を注いでいます。

 幅広い視点を持ちつつ具体的な研究を進める中で、

応用展開そして普遍的な基礎生命科学に通ずる成果が

得られています。このパンフレットには、そうした研究

の方向性と成果の一端も示されています。大学は若い

人の夢を叶える基盤づくりの場でもあります。高い

志と情熱を持つ若い方が集まってくださることを心から

期待しています。

学びの先にあること

名古屋大学大学院生命農学研究科長・農学部長

前 島 正 義

学生室にて

名古屋大学農学部案内2015

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恵まれた教育環境と先進の教育プログラム

教 育 環 境 と 教 育 プ ロ グ ラ ム

国際交流の一環として、農学部では海外の協定校において「海外実地研修」を実施しています。また、海外からの大学生を農学部に受け入れてともに学びます。

名古屋大学農学部には、理論と実 践 を 結 び つ け る 恵 ま れ た教育環境が整っています。

国際交流・海外実地研修農学部サテライトラボとマルチメディア教室では、情報化時代をリードする人材を育てる情報メディア教育がおこなわれています。

情報メディア教育

28ha のフィールド内には畑、水田、果樹園や、家畜が飼育されている草地が広がり、研究や実験実習に用いられます。

フィールド科学教育研究センター東郷フィールド

標高1, 000m の地域に広がる200ha の林地は、「森を科学する」人々が集う大学の森です。

フィールド科学教育研究センター稲武・設楽フィールド 農学部の学生は 4 年次になると担当研究分

野の研究室に所属し、学生が主体となって卒業研究に取り組み、大学院生とともに最先端研究の一端を担います。

研究室

農学部では、専門科目の学習と理解に必要な基礎的な実験や実習を通じて、さらに高度な研究に必要なスキルを身につけていきます。

実験実習

学生はインターネットでどこからでも大学が所蔵している図書・雑誌を探し出すことができるばかりでなく、3, 000冊余のe-Book( 電子ブック ) や12, 000タイトルの電子ジャーナルをオンラインで読むことができます。

生命農学図書室

日本におけるニワトリとウズラ遺伝資源の中核拠点として、世界的にも類を見ない数多くのニワトリ、ウズラの系統を保存しています。

鳥類バイオサイエンス研究センター

名古屋大学農学部案内2015

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学 部 共 通 教 育 プ ロ グ ラ ム全学教育科目として、あらゆる学問分野の基礎となる科目や教養科目が全学規模で配置されて

います。 また、3学科に共通して必要な生物系・化学系の基礎科目や、食・環境・健康に

関わる課題認識の基礎科目、情報教育科目などを配置し、基礎知識を習得します。1 年次

学科教育の導入として8群からなる基礎的な専門科目群*を設け、その中の3〜4群を学科

ごとに必修とし、他の群の科目も選択します。学科で指定された群に加えて、各自が希望

する科目を選択して履修することにより、学科専門教育に向けた学習の流れが形成されると

同時に、各自が多様な基盤形成をめざします。

2 年次

さまざまな学問領域につながる専門科目の講義と実験実習、また専門横断的科目や各種資格の取得に

必要な科目が学科ごとに配置され、生物の持つ機能の多面的な利用と技術開発に関する方法論や専門

知識を学びます。特に実験実習では、充実した設備・機器を使った実地教育を通して、教員と大学院生の

熱心な指導のもと、専門性を体得します。

3 年次

担当研究分野の研究室に所属し、学生が主体となって卒業研究に取り組み、最先端研究の

一端を担います。あわせて専門セミナーを通じて、学問分野の最先端の研究を理解する能力を

養います。また、3年次の専門科目を発展させた科目を学ぶ機会もあります。4 年次

大 学 院 進 学 の す す め農学部4年間で、社会で活躍するために十分な内容を

学べるようカリキュラムを組み立てていることは言う

までもありませんが、急速に進歩する生命農学分野を

さらに深く学び、みずから積極的に研究にかかわり、

専門家になりたいと考える学生には、大学院への進学

の途があります。 141人進学(大学院)

男:96人 女:45人

36人就職

男:17人 女:19人

3人その他

男:2人 女:1人

卒業後の進路

(計180人)

「生命農学」の研究、食糧・生物資源の生産、生物産業で活躍する意欲と能力を育む教育カリキュラムを充実し、探究心と行動力を養う多様な教育システムを取り入れて、人格が触れあう活力ある教育体制を整えています。

植 物 科 学 群動 物 科 学 群細 胞 生 物 学 群生 物 化 学 群有 機 化 学 群生 物 圏 科 学 群資 源 循 環 科 学 群社 会 科 学 群

植物生理学 1 植物生理学 2 資源微生物学 生体防御学動物生理学 1 動物生理学 2 動物組織・形態学 昆虫科学植物機能学 1 微生物学 1 細胞生物学 2生物化学 2 生物化学 3 分子生物学 1有機化学 1 有機化学 2 生体分子化学 生命物理化学 1 生態学 生物圏環境学 1 土壌学 植物分類・植生学生物材料組織学 生物材料力学 バイオマス科学 1 生物情報計測学食と農の経済学 生命と技術の倫理

* 専門科目群

2014年3月

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たとえば、生態系における有機物や無機物の循環を解明し、環境変動や人間活動が与える影響を評価します。

また、森林の多面的な機能を明らかにし、その適切な管理と利用を考えます。木質資源の多様な特性と機能を

解明し、新たな利用方法・技術、新素材の開発を行います。

生物環境科学科では、生態学、土壌学、水文学など、生態系の構造と機能を理解するために必要な学問を体系的

に身に付けます。また、森林科学、バイオマス科学、社会科学関連の学問を学び、森林をはじめとして、草地、

農地、都市緑地などから生み出される生物資源の特性や機能を理解し、これらの持続的・循環的利用や、生物生

産活動と環境保全の調和を考えます。森林・林業、バイオマス、環境全般に関連する官公庁や企業などの技術職・

総合職として必要とされる能力を習得します。

生物と環境をみつめ、社会に活かす。〜生態系のしくみとはたらきを探り、

 環境保全と生物資源の賢明な利用をめざす〜

地球に広がる生物圏環境は、人類の生存・健康な

生活のためには必要不可欠です。生物環境科学科

では、最新のフィールドサイエンスやバイオマス科学

などを学び、森林をはじめとする生物圏環境と人との

共 生 を め ざ し ま す。 人 類 が 直 面 す る 環 境 問 題 や、

生物資源の持続的生産・利用に関する諸問題の解決に

いどむ人材を育成します。

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自然環境に与える負荷を減らしつつ、現在そして将来の世代にわたって豊かな環境を維持すること。そのためには、環境との調和を考えた活動を行うことが必要です。私たち一人ひとりができることから始めるだけでなく、社会のしくみを変えるための技術についても学びます。

環境保全生物体を構成する物質や元素が、土や大気や水を通して、再び生物に取り込まれるサイクル。太古の昔から自然界はこのように循環させながら健全な繁栄を営んできました。私たち人類の生産・消費活動をこのようなサイクルの中に組み込む方策について考え、「自然との共生」をめざします。

物質循環生物種内、生物種間、さらには生態系といったさまざまな生物学的階層における多様性や変異性のこと。進化の過程で多様に分化し、生息場所に応じた相互の関係を築きながら、個々の生態系や種、個体を形づくってきた生物について学ぶことは、人間の未来を見通すための重要な足がかりとなります。

生物多様性

石油などの化石資源の対極にあり、再生可能な生物由来の有機性資源。木質バイオマスが全体の9 割を占め、その有効利用が新たな産業育成の大きな鍵になると期待されています。この利用は二酸化炭素を増加させないこと、膨大な賦存量があることなどから「21 世紀はバイオマスの時代」ともいわれています。

バイオマス私たち人間も含め、あらゆる生物(動物・植物・微生物など)の生存の場である生物圏に広がる環境のこと。生物圏は、水圏・大気圏・土壌圏といったさまざまな地球環境にまたがって存在し、その中で生物と生物、生物と環境が相互に関係する生態系がつくられています。

生物圏環境

4 年次には、下記の担当研究分野の研究室に所属し、学生が主体となって卒業研究に取り組みます。土壌圏物質循環学

循環資源利用学

森林環境資源学

森林生態生理学

森林資源利用学

森林気象水文学

生物材料工学

生物材料物理学

生物システム工学

森林化学

森林保護学

土壌圏を中心とした環境中における炭素、窒素、微量元素の動態に関する研究、腐植物質の化学。

樹木抽出成分の単離・構造決定、生合成、分布および利用。

環境変化が森林生態系に与える影響に関して、個体レベルの樹木生理学的メカニズムの解明から地理情報システムおよびリモートセンシング技術を用いた広域的な資源評価まで、幅広い視点で追求する。

森林の構造・動態、多様性、樹木集団の遺伝的多様性・構造、繁殖システム、機能特性(光合成、呼吸など)、物質生産特性に関する森林生態学、集団遺伝学、分子生態学、生態生理学。

木材収穫技術、森林作業の人間工学的解明、人工林の生物多様性評価、および持続可能な森林管理技術に関する研究。

生物圏における水・エネルギー・炭素循環の解明、森林構造と気象環境の関係および生物群集と自然災害に関する研究。

木材・木質材料の構造利用における力学的耐久性、木質構造の力学挙動解析、森林資源の材質分布と需給計画、木質による都市環境デザインなどに関する研究。

樹木の成長過程と成長応力および材質発現機構、熱帯造林樹種の成長と木部成熟特性、木質形成の分子生物学、生物材料の水分・熱および力学特性。

生物資源を対象とした計測システムおよび精密機械プロセスに関する研究。

木質化の生化学、抽出成分の化学、リグニンの化学、リグニン機能性物質の調製、パルプ化機構に関する研究。

森林や里山など緑域環境における生物群集の存在様式や生物間相互作用、生態系保全に関する研究。

再利用可能な資源を必要なだけ用いて、それを再利用する循環型の社会。たとえば、物を廃棄する前に、その一部もしくは全部をリサイクルしたり、資源やエネルギーとして再生したりする取り組みが行われている社会が「持続型社会」であるといえます。

持続型社会

学びのキーワード

1 17 世紀後半につくられた錦帯橋は、その後数十回に及ぶ大小の修理・架け替えのたびに木材を再利用し創建当時の姿を伝えています。資源の循環利用の観点から、今日の環境保全を先取りしているといえます。 2 生物はその生存のために最適な適応形態を発展させ、それぞれの種は特徴的な生存戦略を持っています。 3 森林からは、さまざまな物質が水の流れにのって運び出されていきます。それらは川に流れ込み、海に到達して、海の生物生産に関わっています。 4 森林の恵みである木材と木質バイオマスを、安全で効率よく、そして環境にもやさしく収穫する技術を考えます。 5 生物の生存する多様な環境を計測することから、自然生態系の理解が始まります。 6 脱石油社会に向けたバイオマス利用の研究を通じ、二酸化炭素の排出削減および持続型社会の実現をめざします。

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1983 年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了、京都大学農学部付属演習林助手、森林総合研究所生産技術部研究員、同主任研究員を経て、2000 年、 名古屋大学大学院生命農学研究科助教授(現准教授)

2001 年、名古屋大学大学院生命農学研究科林産学専攻博士後期課程修了、2007 年、名古屋工業大学大学院工学研究科社会工学専攻博士後期課程修了、大阪大学大学院基礎工学研究科助手等を経て、2009 年、名古屋大学大学院生命農学研究科准教授

築 300 年の寺院本堂小屋組材をリユース前に非破壊調査した

実際に木材を使うためには欠かせ

ない力学試験

資源として、多様な生態系の宝庫として、大きな価値がある森林と人間との、理想的な共生のあり方を追求しています。

 私たちは、森林の利用、山で働く人の人間工学、森林と人間との関係を考える環境倫理について研究し、森林・自然と、人間との理想の共生の姿を追求しています。 森林の利用といっても、木を伐採して終わる話ではありません。伐採後の森林の機能を考えたり、生態系を維持するための森林管理のあり方を考えたり、実際のモデル林で実証研究を進めています。また、山で働く人の作業環境と労働安全を人間工学の視点で向上させるための研究も重要です。さらに、森林全体を大きな価値あるものとして考え、森林の恵みを国民皆で享受し、森林を支えるしくみづくりに貢献するために、山で働く人、森林を利用する人を対象とした

「環境ガイドライン」の策定にも取り組んでいます。 今、日本の大きな問題は、間伐材が切られたままで放置されていること。これを有効に使う方法を開発することは、森林を健康にし、地球温暖化抑制にも貢献できます。私たちは、機械を使わないローテク技術で間伐材を運び出し、石油に代わる燃料としてエネルギー利用するモデル事業を検討しています。自然や森林とかけ離れた暮らしや産業を、木の利用を通じてつないでいきたいですね。

森林資源利用学 山田 容三 准教授 農学博士

教員、大学院生、学部生のチーム

ワークが活きる研究室間伐後の光環境の変化の継続調査の様子。光環境は全天空写真による開空度から求める。

自然本来のリズムにふさわしい木質資源の利用を実現するために、木に隠された性能や機能を解明しています

 人類は有史以来、木を利用して文明・文化を築いてきましたが、木について、いまだに解明できていないことが多いことを知っていますか。たとえば木の性能は測れても将来の寿命はわかりません。私たちは、長い年月を経て育った木に秘められた力をいかに引き出し、活かすかを研究しています。 たとえば歴史ある社寺や古民家の中の古い木材。長く使い続けるためには、長い年月の間に受けた熱や力、水分移動などによる材質の変化を研究し、力学的な性能を評価することが大切です。また木はCO2を吸収し炭素として貯蔵します。木材をずっと使っていくことは、炭素をずっと貯蔵し続けることになります。でも、今使われている木材を破壊せずに調査することは困難です。そこで私たちは木材の膨大な強度データを収集し、独自のシミュレーション法により強度特性を求めることに成功。伝統的な木造建築の調査や修復に大きく貢献しています。 私たちがめざすのは、社会の中を動く木質資源の循環を今よりゆっくりとしたものにすること。生態系、水の流れ、土壌などを含む環境のリズムの中で、木材を生み出す森林を本来のリズムに戻すために、また、人間社会の木材利用が自然の環境リズムとハーモニーを奏でられるように研究を推進していきたいと思います。

生物材料工学 山﨑 真理子 准教授 博士(農学) 博士(工学)

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シベリアの森林のなかにそびえ立つ

観測タワー 学生も観測に参加する

1992 年、名古屋大学大学院農学研究科林産学博士課程修了、日本学術振興会特別研究員、名古屋大学農学部助手、同助教授、フランス国立植物高分子成分研究センター研究員等を経て、2007 年名古屋大学准教授

1982 年、京都大学大学院農学研究科林学専攻博士課程中退、岩手大学農学部助手、同講師、同助教授、地球観測フロンティア研究システム併任研究員(兼任)等を経て、2001 年、名古屋大学大学院生命農学研究科教授

木材の個性や特性を決定づける固有の成分を化学の力で解明し、木材の価値を高め、生物資源の利用を促進しようとしています。

 私たちにとって身近な木材、樹木は、化石資源に替わる有用な生物資源です。この木材を社会の中でさらに有効に利用するためには、美しい色や香り、腐りにくさといった良い性質を最大限に引き出すとともに、利用価値を下げるような悪い性質を抑えこむ必要があります。木材が持つこのような固有の性質とは、実はそのわずか 5%ほどの成分に起因することが知られています。樹木には多くの種類があっても、そのほとんどの成分(主成分)には差が少なく、わずかな成分

(副成分)の違いが木材の個性を決めてしまうのです。 私たちは、この副成分がなぜ、そしていかに生成されるかを化学の力で明らかにしています。たとえばスギの心材には赤いものと市場価値が低い黒いものがありますが、研究室において黒い色に関わる化合物の生合成のしくみの一部を定めることができたのは大きな成果です。心材の色に関わる化学物質がわかれば、化学の力でスギの価値を高めることができるわけです。 大切な木質資源の究極の有効利用とは樹木・木材の特性を最大限に発揮させることによって達成されるものです。今後とも、木材の抽出成分に関する基礎的な研究を発展させ、その利用をはかるとともに、社会貢献にもつながる研究をさらに推進していきます。

循環資源利用学 今井 貴規 准教授 博士(農学)

木材の価値を高める基礎研究に取

り組む研究室のメンバー

ロータリーエバポレーターを使いカラマツの抽出液を濃縮し、副成分を取り出す

シベリアでの観測データの解析結果を太田教授とともに検討する

広大な森林とともに、水圏・地圏・気圏、生物圏を巡る壮大な水循環のドラマを科学することで、地球環境への貢献をめざしています。

 日本から遠く離れたシベリアの森林地帯。凍土におおわれたこの地の森林が1 日単位、月単位、あるいは年単位で蒸発させたり流出させたりしている水を調べることで、日本や東アジアの気候変化の一因を知ることができます。水と土、大気、そして生物を、水圏、地圏、気圏、生物圏といいますが、これらは人間が活動を維持していくための基盤であり、この 3 つの圏+生物圏でつねに水や熱などが大きく循環しています。これら 4 圏がどのような相互作用を行っているのか?森林がこれらの相互作用にどのような影響を与えているのか?をフィールドワークを中心に探求するのが森林気象水文学です。 私たちは、シベリアのヤクーツクや瀬戸国有林内の森林に高さ 30m もある観測タワーを設け、森林の蒸発散量や光合成量の様子を日々観測するとともに、文献を調査したり、数値モデルを構築したり、観測データを解析したりと、さまざまな方法を駆使して基礎的な現象を理解します。そのうえで、健全な水環境、土砂環境、地球上の大気の環境などを維持する手法を学会で提言したり、社会に対して研究成果を還元できるよう取り組んでいます。 水圏、地圏、気圏と、生物圏をつなぐ場としての森林と、そのつながりの中で絶え間なく巡り流れる水。この壮大な循環を体感し、真正面から取り組むダイナミックな研究分野において、大学で学ぶ楽しさを体験してみませんか。

森林気象水文学 太田 岳史 教授 農学博士

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たとえば、植物ホルモンやその情報伝達機構を分子、個体レベルで研究し、穀物や野菜の収量を飛躍的に増大させる方法を

開発します。また、実験動物を使って神経系や内分泌系、発生などを研究し、動物生産へと応用します。あるいは、植物、

昆虫、微生物の間の寄生や共生といった複雑な生命現象を個体、集団レベルで研究します。いずれも、生物の能力を資源と

して捉え、それを最大限に活かして食料を安全に生産し、人類の幸福に貢献することが目標です。

本学科では、生物学、化学を基礎として、遺伝学、生理学、形態学など、生物を多面的に解析し、理解するための知識を

身につけます。また、食料生産や品質の向上につながる最新の知識や技術、生産や流通に関する社会科学、地球規模で

起こっている食と環境にかかわる課題などを学びます。生物・薬品・食品関連産業や国家・地方公務員の技術職と総合職と

して必要とされる能力を習得します。

生物のしくみを知り、食の未来を切り拓く。〜 生 物 の 巧 み な 生 存 戦 略 を 解 明 し 、

  人 類 の 食 を グ ロ ー バ ル に 支 え る 〜

資源生物科学科は革新的な食料生産と遺伝資源の開発・

保存を可能とする最新のライフサイエンスを学び、食料

生産や地球環境の保全などにまつわるグローバルな問題

の解決をめざす学科です。生物が長い進化の歴史の中で

培ってきた生体機構や生存戦略を学び、専門性と国際的

視野をもって食料・環境などの諸問題解決にいどむ人材

を育成します。

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名古屋大学農学部案内2015

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安全な食料の効率的な生産は、21 世紀の人類の食をグローバルに支えるうえで極めて重要です。ラボではモデル動物やモデル植物を用いて、動植物の繁殖や成長発達のメカニズムを研究し、食料生産につながる知識と技術を身につけます。そして、フィールドにおいて、実際の食料生産の基盤となる応用研究を展開します。

ラボからフィールドへ食料生産の歴史は、品種改良の歴史です。人類は動植物を交配、改良して食料を増産してきました。人口増加の続く未来の食料危機に備え、さらなる多収化をめざす研究開発を続けています。また、食料生産を拡大するためには、これまで農地として適さないとされてきた環境にも対応した新品種の研究開発がますます重要となっています。ラボとフィールドでの研究を通じて、食料生産や環境保全などにまつわるグローバルな問題の解決について考える力を養います。

品種改良生物の持つ機能を最大限に引き出して、食料生産の効率化や品質の向上を図ります。そのためには、動植物の生理機能を明らかにしなければなりません。遺伝子にコードされたタンパク質はどのような機能を持っているのかを遺伝子工学や細胞工学を利用して解き明し、バイオテクノロジーと農業を融合した革新的な食料生産を可能にします。

アグリバイオ

ひとつひとつの生物種を、遺伝資源と捉えるのはなぜでしょうか?それは生物が持つ遺伝子の多様性が食料生産の基盤となっているから。人類は近縁種の交配などによる品種改良を通して、バラエティあふれる食料生産を可能としてきました。動植物のゲノム解読の進む中、遺伝子情報をもとにした生物資源の開発・保全に必要な知識を幅広く学びます。

遺伝資源動植物に病害を引き起す微生物やウイルスがいる一方、根粒菌など生物の生存に役立つ微生物やウイルスも存在しています。動植物が持っている病害抵抗性や生体防御機構、寄生・共生といった複雑な生命現象を解析し、食料生産へと応用するための知識と技術を身につけます。

生物の相互関係

4 年次には、下記の担当研究分野の研究室に所属し、学生が主体となって卒業研究に取り組みます。循環資源学

作物科学

資源植物環境学

生物相関防御学

害虫制御学

資源昆虫学

水圏動物学

動物形態情報学

園芸科学

植物病理学

植物遺伝育種学

動物行動統御学

動物機能制御学

動物栄養情報学

動物遺伝制御学

生殖科学

食糧生産管理学

植物生産科学第1

植物生産科学第2

動物生産科学第1

植物分子育種

有用農業形質保存

水ストレス、塩ストレス耐性などに関わる生理・分子機構の解明、緑化による環境制御。

作物生産の生理・生態・遺伝学的解析、とくに環境応答・資源獲得・共生・成長に関する研究。

資源植物の構造と機能、環境適応に関する超微形態学的・分子生物学的研究。

植物-病原菌相関で誘導される植物免疫の分子機構に関する研究。

生理学・分子生物学的アプローチを使った農業作物に害をおよぼす昆虫類の制御機構に関する研究。

昆虫の発生、変態、休眠などに見られる高次機能の発現および昆虫ウイルスの増殖に関する研究。

水産動物の神経系、感覚器、運動器、ペプチドニューロンに関する形態学的、生理・生態学的、進化行動学的研究。

哺乳類および鳥類の神経統御と生殖制御に関する器官を中心とした生体構造の機能形態学的研究。

園芸作物の生産性向上のためのバイオテクノロジーおよび生理学・生化学・分子生物学的研究。特に、花器官の形成、開花、花色に関する生理、また、果実の結実生理および糖や二次代謝産物などの物質蓄積の解明とその制御。

植物病原菌の感染に対する作物の生体防御の機構と機能に関する生理学、生化学および分子生物学的研究。

栽培植物の系統分化、形態形成、遺伝子発現および新機能開発に関する発育遺伝育種学的並びに生物工学的研究。

マウスの行動に関する遺伝学的および生理学的研究。概日リズムに関する分子・細胞機構。精神疾患モデルマウスの解析。

動物の光周性(季節性測時機構)、水分代謝および発生・分化に関する分子内分泌学・生理学的研究。

代謝性疾患(2型糖尿病など)の原因遺伝子と栄養学的制御因子の解明。ビタミンCの新たな生理機能の探求。鳥類卵胞における物質輸送機構の解明。穀物飼料資源の生理的機能性の探求。

動物のさまざまな遺伝現象の分子基盤とゲノム・染色体進化の研究、動物遺伝資源の評価と保全・利用、ヒト疾患および生物機能研究用モデル実験動物の開発・育成、量的形質の遺伝子支配の解明に関する研究。

生殖機能の制御メカニズムに関する神経内分泌学的基礎研究とそのメカニズムを利用した畜産や創薬への応用研究。

食料・農業問題に関する理論的・実証的研究および地域資源管理、農業の多面的機能に関する学際的研究。

植物生産に関わる微生物の機能とその制御に関する研究。

生物多様性を植物生産に活用するための基礎研究。

反芻家畜の生理機能の調節機序に関する基礎研究とその機能を利用した動物生産に関わる応用研究。

高等植物の形態形成、器官形成および植物ホルモンの信号伝達に関する生理学的・分子生物学的研究。

有用農業形質についての資源保存および形態形質に関する分子遺伝学的研究。

学びのキーワード

1 たとえば、モデル動物であるマウスから得た受精卵(右図)から、発生工学の手法により特定の細胞で緑色蛍光タンパクを発現するトランスジェニック動物を作出し、その機能を解析します。2 たとえば、病原菌が感染すると、免疫機能を発揮してこれを排除しようとします。生理学的、生化学的および分子生物学的手法を用いて解析し、生物が持つ巧みな生体機構や生存戦略に迫ります。 3 たとえば、染色体

(右図)やゲノム情報を解析して、鳥類の進化の謎に迫る研究や、数多くのニワトリ品種を保存するプロジェクトを展開しています。 4 ガの幼虫に寄生するハチが卵を産み付けるとき、ハチに共生しているウイルスが一緒に入り卵の発育を助けます。このような生物の相互作用の理解は、環境に大きな負荷のかからない害虫制御を可能にします。 5 植物ホルモンのひとつジベレリンは植物の草丈を制御しています。主要穀物であるイネを材料に、植物体内でのジベレリン合成量や情報伝達の変異を明らかにし、より多くの収穫が得られるイネの作出に成功しています。

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1991 年、名古屋大学大学院農学研究科博士課程後期課程修了、日本学術振興会特別研究員、名古屋大学農学部助手、米国ミシガン州立大学昆虫学部留学、名古屋大学大学院生命農学研究科助教授等を経て、2014 年、名古屋大学大学院生命農学研究科教授

昆虫培養細胞の健康状態を観察慎重におこなわれる実験用試料の

作製

1990 年、名古屋大学農学部卒業、1995 年、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了、同助手、米国アイオワ州立大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科助教授、同准教授を経て、2010 年、名古屋大学大学院生命農学研究科教授

レーザーマイクロダイセクションによる細胞単離 イネの根の断面観察

昆虫と昆虫ウイルスの未知なる生命機能をさぐり、生物資源としての昆虫と昆虫ウイルスの活用をめざしています。

 地球上の生物でもっとも種が多く、繁栄している昆虫。私たちの研究室では、昆虫と昆虫ウイルスが持つさまざまな未知の生命機能を研究し、その成果をもとに、昆虫と昆虫ウイルスを有効に活用するための理論を築くことをめざしています。これまでに昆虫の発生、変態、休眠の仕組みや、昆虫ウイルスが増殖する仕組みを、遺伝子レベルで解明してきました。 現在、私たちのグループでは、特定の昆虫を宿主とするウイルスの構造や増殖の仕組みを、分子や細胞レベルで研究し、昆虫ウイルスの新たな利用法を探求しています。ウイルスが好みとする昆虫の種類や昆虫体内の組織はどのように決定されるのか。ウイルスは昆虫にどのように病気を起こし死に至らしめるのか。昆虫はウイルスの攻撃をどのような技を使ってかわしているのか・・・。 この壮大で巧妙なドラマを繰り広げているウイルスと昆虫の遺伝子を見つけ、その機能と役割を明らかにし、昆虫とウイルスによる生命の駆け引きの仕組みを解明しつつあります。そしてこれらの研究を通して、昆虫と昆虫ウイルスの特異な生物機能を開発し、有用物質の生産や害虫防除のための技術開発などに貢献したいと考えています。

資源昆虫学 池田 素子 教授 農学博士

世界の食料問題の解決をめざして、植物がどのように環境ストレスを感じて、適応するのかを解明しています。

 地球温暖化・気候変動や世界人口の増加などの問題と相まって、世界の食料問題はますます深刻化すると予想されています。この問題を解決するために、農学の果たすべき役割は極めて大きいと言えます。 作物の生産量を増やすためには、主に二つの方法が考えられます。一つめは作物の食べる部分(コメなど)の量を増やすための方法で、二つめは病気、害虫、環境ストレスなどによる作物生産量の損失を防ぐための方法です。特に環境ストレスによる作物生産量の損失は甚大で、さまざまな環境ストレスに強い作物をつくることは食料問題を解決するための重要な戦略です。 地球規模の気候変動によって、世界各地で干ばつや洪水が頻発すると危惧されています。私たちは、環境ストレスの中でも大雨が降ったときの作物の湿害・冠水害の問題を解決するための研究をおこなっています。イネを除く世界の主要作物のほとんどが、土壌が過湿状態になると根が酸素不足になり生育不良を起こします。これらの作物に耐湿性・冠水抵抗性を与えるには、作物の低酸素ストレスに対する応答機構について理解を深める必要があります。これらの研究によって得られる知見は、作物の耐湿性・冠水抵抗性を高め、作物の増産に貢献できると考えています。

植物遺伝育種学 中園 幹生 教授 博士(農学)

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1996 年、名古屋大学大学院農学研究科畜産学博士後期課程中退、日本学術振興会特別研究員、名古屋大学大学院生命農学研究科助手、同准教授等を経て、2008 年、名古屋大学大学院生命農学研究科教授、2008 年〜 2011 年、鳥類バイオサイエンス研究センターセンター長、2013 年、高等研究院トランスフォーマティブ生命分子科学研究所教授

1976 年、東京大学農学部農業経済学科卒業、農林水産省農事試験場研究員、北海道農業試験場研究員、東京大学農学部助教授、同教授を経て、2011 年、名古屋大学大学院生命農学研究科教授。東京大学大学院農学生命科学研究科長・農学部長、日本フードシステム学会会長、農村計画学会会長、食料・農業・農村政策審議会委員、国土審議会委員などを務める。日本学術会議会員、公益財団法人生協総合研究所理事長

フィールド調査で長野県飯山市において稲刈りを体験

ゼミ室でおこなわれるレポートの検討会

鳥類、哺乳類の光周性を制御する遺伝子を世界で初めて発見。その瞬間に立ち会えた時の興奮は、研究者だけに与えられた特権かもしれません。

 自然界の動物は、冬眠や渡り、毛の生え変わりなど、季節の変化にみごとに対応した正確な生体リズムを刻んでいます。アリストテレスもこの変化に気づいていましたが、日照時間(日長)の変化との関係が報告されたのは 1920 年。以来、さまざまな動植物の日長の変化に応じた生理機能の変化(光周性)の研究が進むようになりました。 しかし光周性のメカニズムが遺伝子レベルで明らかにされたのはごく最近のことです。とくに私たちの研究室がウズラやマウスを研究モデルとして光周性を制御する遺伝子を世界で初めて特定してからは、動物が視覚を司る光受容器とは別の新規な光受容器で光を感じ取り脳に春を告げるホルモン合成を指示していることが明らかになってきました。光周性を制御する遺伝子がわかったので、日長の違いをどう認識しているのかを遺伝子レベルで明らかにする研究をさらに進めています。 ニワトリ、ウズラは牛や豚に比べて少ない餌で短期間に成長し、宗教的な禁忌もないので、私たちの研究成果は世界の食糧問題の解決に貢献できます。さらに季節性感情障害という人の病気にも貢献することが期待され、その応用の世界が広がりつつあります。

動物機能制御学 吉村 崇 教授 博士(農学)

マウスの活動リズムを調べるウズラの光周反応を観察する

世界の食料、日本の農業、毎日の食卓をつなぐ複雑な関係を読み解くことで、人類共通の課題に立ち向かう道筋が見えてきます。

 私たちの研究室では、世界の食料問題と日本の農業・農村問題について、農業経済学という学問をベースに研究しています。世界には 9 億人が栄養不良に苦しむ現実があります。日本では 40%に低下した食料自給率が懸念される一方、環境にも配慮した新しい農業が成長しています。私たちの食卓には、こうした世界の食料や国内の農業の動向が複雑に影響しているのです。農業経済学を学ぶことで、問題相互の関係を深く読み解く力が養われます。 私自身は、酪農や稲作など、日本農業の経済分析に貢献するとともに、農村の水利組織の調査やヨーロッパの農業政策の研究などを手掛けてきました。これらの一連の研究で大切にしてきたのは、広い視野から問題を考え抜く姿勢です。日本の農政を考える上で国益を重視することは当然ですが、途上国の言い分にも耳を傾けたいものです。消費者や納税者の観点からの検討や、将来世代の利害への配慮も不可欠です。 最近、農業に関心を寄せ、農村を訪れる学生が増えています。自分の足で現場に接しながら、世界の食料問題や日本農業の将来に貢献したいとの熱い思いを感じます。農業と社会の関係、そして日本と世界の食のつながりについて、多くの若い人々とともに考えてみたいものです。

食糧生産管理学 生源寺 眞一 教授 農学博士

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たとえば、応用生命科学科では、生物が食物を分解し活動のエネルギーを得るとともに、体をつくるさまざまな分子に変換

する過程を分子レベルで研究し学びます。これは、私たちが病気を予防し、健康な生活を維持していく上で極めて大切です。

また物質を変換するという生物の力は、環境にやさしい新しい生産方法や新素材の開発へ応用できます。これも私たちの

重要なテーマの一つです。

応用生命科学科では、有機化学、生物化学、分子生物学などを基盤として、生命現象とそのしくみを分子、細胞、組織レベル

で理解するための体系的な知識を身につけます。生物が持つ機能の多面的な利用と技術開発に関する専門的な知識や技術を

体得し、化学・生物系産業や食品関連産業などにおける技術職や総合職として必要とされる能力を習得します。

生命現象を分子のレベルで化学する。〜 バ イ オ の 力 を 駆 使 し て 、

  人 類 の 食 と 健 康 に 貢 献 す る 〜

応用生命科学科では、最新のバイオサイエンス(生命科

学)やバイオテクノロジー(生命工学)についての専門

知識と技術を学びます。そして、微生物、植物、動物

細胞などを対象として、遺伝子、タンパク質、生理活性

物質など生命を支える分子の構造、機能について研究し、

食と健康など人類が直面する諸問題の解決に貢献できる

人材の育成をめざします。

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遺伝形質を規定する因子で、塩基、糖、リン酸が連なっている核酸と呼ばれる分子です。4種類の塩基の並び方や長さで表される設計図をもとに、細胞の中でタンパク質がつくられ、細胞は機能を発揮します。設計図を改変して自在に生物の持つ機能を変えたり、特定のタンパク質を細胞につくらせる物質生産を行ったりする「遺伝子工学」について学び、遺伝子のレベルで生命現象について考えます。

遺伝子(DNA)食品は人間が活動するためのエネルギー源ですが、細胞にさまざまな影響を与える微量成分や潜在的な機能も有しています。摂取した食品が体内に取り込まれて利用される道筋や、食品中にある未知の生理活性物質の実体を明らかにすることは、人々の健康維持や病気の予防にとても重要であることがわかってきました。これらについての基礎知識から最新の知見までを広く学びます。

機能性食品タンパク質は、細胞が機能を発揮するときに働く最小単位としての分子で、構成されるアミノ酸の長さと種類によってその構造と役割が決まっています。細胞や組織の中で、タンパク質の構造や役割がどのように対応・変化しながら生命活動を支配しているのかを学びます。

タンパク質

生物や酵素の持つ力を利用して、有用な働きをする物質をつくりだすことです。この場合、本来つくりだすことができない生物の機能を遺伝子操作で可能にしたり、生物機能の一部である酵素反応を有効利用したりして、効率良く有用物質をつくりだすことができます。このような技術とその背景になる基礎知識を習得します。

物質生産生命機能に影響を与えるさまざまな化合物のこと。遺伝子やタンパク質の機能を活性化または阻害することにより、細胞の働きを制御します。また医薬や農薬の開発にも役立っています。このような生理活性物質の機能解明や探査、設計、合成などに必要な知識や技術を身につけます。

生理活性物質

4 年次には、下記の担当研究分野の研究室に所属し、学生が主体となって卒業研究に取り組みます。細胞ダイナミクス

応用微生物学

ゲノム情報機能学

生物化学

植物分子生理学

植物環境応答

土壌生物化学

分子機能モデリング

細胞シグナル

生物有機化学

生理活性物質化学

膜輸送システムと生体膜情報変換システムの分子構造・作動機構・細胞特異性および生理機能の研究。

真核生物の情報伝達と遺伝子発現制御機構について、主としてカビを材料としてDNA、RNA、タンパク質の面から解析している。

環境応答に関わる情報伝達や遺伝子発現を中心に高等植物を対象にした分子細胞生物学的・分子遺伝学的研究を行っている(キーワード:生物時計、植物ホルモン)。

植物の生長や環境応答における機能発現と器官形成に関わる遺伝子の発現制御機構、ならびに制御タンパク質の作用機構の研究。

光合成生物における CO2・NO3̄ の同化とクロロフィル生合成の制御機構を遺伝子・タンパク質レベルで研究している。

高等植物における環境変化の感知と応答の分子機構について、重力屈性を中心に分子遺伝学・細胞生物学・生理学的研究を行っている。

水田生態系各部位に生息する生物群集の構造・特性と機能および生物間の相互作用に関する研究。

海洋生物・希少微生物の生産する有用機能分子(抗生物質等)や糸状菌の性ホルモンなどの発見と天然物化学的研究。生物発光・生物毒など生物種を越えて広範に見られる現象に関わる機能分子の起源・作用機構・生合成機構。

高等動物の細胞内シグナル伝達と物流システムに関する生化学、分子生物学および細胞生物学的研究。

特異な化学構造と生物活性を示す天然有機化合物の生物有機化学的研究:新しい有機合成反応・合成方法論の開発、天然有機化合物の全合成研究と生物機能の解析・制御に関する研究。

植物・微生物などが生産する生理活性物質の単離・構造解析・作用機構・生合成・受容体に関する研究。

学びのキーワード

1 図は、モデル植物であるシロイヌナズナのすべての遺伝子がスポットされたマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析の結果です。 2 図はタンパク質のサイズや存在量を調べることができる「電気泳動法」により、タンパク質の時間的な変動を調べているところです。 3 図はいくつかの野菜から分離した成分の生物活性について検査しているところです。 4 図は葉緑素を持つ微生物であるラン藻を人工的に育てているところです。生物は、糖、アミノ酸、タンパク質などの物質を作成する工場として使うことができます。 5 図は、イカの発光物質やウツボやフグなどが持つ毒を示します。生物がその生存のために保有する化合物は、ときに医薬品や農薬開発のヒントになります。

食品機能化学

高分子生物材料化学

生体高分子学

分子細胞制御学

分子生体制御学

栄養生化学

産業生命工学

分化情報制御

分子生物工学

動物細胞機能

高次生体分子機能

植物細胞機能

食と健康をキーワードとした基礎研究、特に生活習慣病に関連した内因性因子としての酸化ストレス、および外因性環境因子としての機能性食品に関する研究。

糖鎖高分子、生物機能高分子、生分解性高分子、植物由来高分子およびこれらを活用した医用高分子の設計、精密合成、機能発現に関する研究。生物的機能を有するバイオマテリアルの創出。

ピリドキサル酵素やフラビン酵素の構造機能相関。D-アミノ酸の生理作用と代謝関連酵素に関する研究。古細菌の脂質合成に関する研究。環境微生物からの有用遺伝子スクリーニング技術の開発。

動物細胞機能調節や細胞内輸送、細胞外分泌に関わるアダプター蛋白質、酵素の構造やタンパク質間相互作用ネットワーク解析を中心にした生化学的・分子細胞生物学的および構造生物学的研究。

高等動植物における蛋白質、核酸や複合糖質の生合成と生体内での動態、および免疫、受精・発生、細胞増殖・分化などにおける作用機構の生化学・分子細胞生物学的研究。

栄養素(主にタンパク質・アミノ酸)による酵素および遺伝子発現の制御機構。3次元培養による肝臓特異的遺伝子発現の制御機構に関する研究。肝臓の概日リズムのメカニズムと時間栄養学。分岐鎖アミノ酸の代謝と生理機能。

哺乳類、酵母における細胞シグナル伝達機構の分子細胞生物学的解析に基づく医薬品を含む有用物質の開発を目的とする研究。

高等植物の生長、分化における形質発現に関する生化学的・分子生物学的研究。

新規な生物機能分子、生物反応プロセス、解析システムを創成することを目的とした生物工学的研究。

受精、発生、神経機能、免疫現象における細胞表面糖鎖が関与する細胞間相互作用と情報伝達に関する研究。

高等植物における環境適応と生存戦略に関する分子生物学的研究。

高等植物における環境応答の分子機構と遺伝子発現・機能解析に関する研究。

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1984 年、東京大学大学院理学系研究科生物化学博士課程修了、日本学術振興会 奨励研究員、理化学研究所研究員、同先任研究員、名古屋大学農学部助教授等を経て、1997 年、名古屋大学大学院生命農学研究科教授

1987 年、名古屋大学農学部食品工業化学科博士課程前期課程修了、サッポロビール(株)(応用開発研究所)、名古屋大学農学部助手、ドイツ Stuttgart 大学客員研究員、JST「さきがけ」領域研究者(兼任)、名古屋大学大学院生命農学研究科助教授等を経て、2008 年、名古屋大学大学院生命農学研究科教授

十数億年前に完成した植物や微生物の光合成の仕組みを解明すれば、21世紀のエネルギー問題を解く鍵が見つかります。

 私たちの研究テーマである光合成は地球上で最大規模の化学反応です。植物や微生物は光合成を簡単に行っていると思いがちですが、綱渡りのようなメカニズムによって成り立つシステムです。まず光合成に必要な太陽光線はあふれているようですが、利用する側からすれば限られています。二酸化炭素の大気中濃度はわずか 0.04%、窒素も限られています。光合成のメカニズムは解明されていますが、限られた材料を用い、変化する環境の中で確実な成果をあげる光合成の調節メカニズムの解明は不十分です。 私たちは、植物や微生物の光合成が環境にどう適応してきたかを研究しています。たとえば現在の二酸化炭素濃度は太古の時代よりずいぶんと薄くなっています。微生物はこの変化に適応して体内に炭素の濃縮機能を備えてきました。私たちの研究室ではこの仕組みを解明し、さらに窒素の濃縮機構も解明しましたが、 これらの成果を応用すれば微細藻類に効率的にバイオ燃料を生産させることが可能になります。 光合成のような農学と理学が融合した分野の研究は刺激的で、未知の領域は広大です。ここには「未知の領域への目立たない扉」がたくさんあります。ぜひ見逃さずに覗いてほしいですね。

植物分子生理学 小俣 達男 教授 理学博士

わずかな遺伝子配列の違いをサー

チするさまざまな藻類を培養

安全に留意しておこなわれる化合物の精製

研究室では個々の学生が独自の

テーマに打ち込む

生物がつくる有機化合物や生物でもつくれない有機化合物を、化学の力で合成することは、究極のものづくりだと思います。

 生物は生きるために多様な有機化合物を当たり前のようにつくっています。しかし、意外かもしれませんが、それらを人の手で人工的につくることは容易ではありません。特に構造が複雑な低分子有機化合物の化学合成はたいへん困難で、それを化学の力で合成したいというチャレンジ精神が有機化学という分野を発展させてきたのです。 たとえばフグ毒(テトロドトキシン)は、とりわけ化学合成が困難と言われる分子ですが、私たちはこの化学合成に成功した世界でも数少ないグループの一つです。フグ毒の人工合成からは、さまざまな研究が発展します。食の安全への貢献はもちろん、なぜフグ毒は中毒を引き起こすのかという分子機構の研究からは、痛み止めなどの創薬にも貢献できると考えています。 フグ毒には、いくつかの謎があります。面白いことに、フグ毒はフグ自身ではなく海の微生物がつくっていますが、何のために微生物がこの毒をつくっているかは全くの謎です。フグはこの毒を含む餌から体内に毒をため込みますが、フグがどのようにこの毒を取り込むのかも謎の一つです。フグ毒に限らず生物がつくりだす有機化合物には、不思議な世界が広がっていることをぜひ知っていただきたいですね。

生物有機化学 西川 俊夫 教授 博士(農学)

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1983 年、名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了、同医学部助手、筑波大学体育科学系講師、名古屋工業大学工学研究科教授等を経て、2008 年、名古屋大学大学院生命農学研究科教授、2009 年名古屋工業大学名誉教授

タンパク質の分析結果を確認する

1993 年、名古屋大学大学院農学研究科食品工業化学修士課程修了、同農学部助手、同大学院生命農学研究科講師、アメリカ農務省リサーチケミスト等を経て、2005 年、名古屋大学大学院生命農学研究科助教授(現准教授)

大学院生と学部生がともに研究を進める

実験結果を検討する

ありふれたアミノ酸の生理機能を解明することで、これからの「食」と「健康」の向上に大きく貢献することをめざしています。

 タンパク質は 20 種のアミノ酸で構成されています。タンパク質を食べるということは、体内で合成できないアミノ酸を摂ることです。私たちはその中の分岐鎖アミノ酸(BCAA)という 3 種のアミノ酸に注目し研究を進めています。 BCAA は珍しいものではなく、毎日食べるタンパク質に多く含まれていますが、特別な生理機能があることがわかってきました。タンパク質の材料でしかないと考えられていたのが、実は BCAA の血中濃度の上昇は、タンパク質を合成するためのシグナルにもなるのです。その結果、BCAA は肝硬変の患者さんのタンパク質合成能力を改善する薬となったのです。それだけではありません。肝硬変の患者さんはこむら返り(足の筋肉の痙攣)がよく発生するのですが、BCAA はその発生を劇的に抑えます。私たちの研究室でも、足のつる人が BCAAを摂れば症状を改善できることを経験し、スポーツをする前に飲めば筋肉痛の発生が抑えられることを実証しました。また BCAA はタンパク質の代謝だけではなく、血糖の代謝にも関わっていることが明らかにされつつありますので、国民病といわれる糖尿病を改善する食成分としても期待されています。 今、日本は世界に例のない速度で高齢化が進んでいますが、BCAA は加齢による筋肉の衰えを抑え、元気に老いるという夢のような話を実現できる可能性すらあるのです。

栄養生化学 下村 吉治 教授 医学博士

大学院生が学部生に実験方法を

アドバイス

発酵工学の伝統を活かしつつ、分子レベルでの生物工学を駆使して酵素の可能性を解き明かしています。

 いきものが行うほとんど全ての化学反応は、酵素が担っています。酵素は非常に穏和な条件で作用します。また酵素は、特定の物質の特定の部位で、特定の反応を起こすことができます。私たちは、このような酵素の優れた性質を利用した

「ものづくり」を研究しています。具体的には酵素を利用して有用な油脂や脂質を効率よく生産する研究を行っています。これらの油脂や脂質は食品、化粧品、医薬品などとして、私たちの暮らしの中で利用されていくと期待されます。 また、自然界に存在する酵素をもとに新たな機能を持つ酵素を創製する研究も進めています。遺伝子工学技術を利用して、酵素のかたちや性質を分子のレベルで人工的に変化させ、より安定な酵素、反応性が高い酵素、従来は不可能な反応を起こせる酵素など、自然を超えたスーパー酵素の創出にチャレンジしています。 私たちが開発した新しい酵素や油脂・脂質が研究室を飛び出して、社会のニーズに応え、人々の暮らしを豊かにしていく。そんな確かな手応えを実感できる研究室です。

分子生物工学 岩崎 雄吾 准教授 農学博士

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生物の謎から未来をひらく農学部! 生物の謎から未来をひらく農学部!

学生からのメッセージ

 大学では生き物を扱いたい、というシンプルな動機で私は農学部に

入学しました。入学してから勉強が進んでいくうちに、高校で学んだ

生物学、物理学、化学、数学などといった学問分野の区分は曖昧にな

り、それらのさまざまな知識が融合して、広い視野で物事を捉えるこ

との楽しさを知りました。机や椅子、建築物、また楽器や紙などの

材料として広く用いられる木材ですが、当然のことながら木は生物

由来であり、そのためたくさんの不思議な特徴を持っています。木材

の細胞の形や構成する成分といった生物的特徴を捉えつつ、その上で

物理的性質を解析していく視点を大変興味深く感じ、現在学んでいる

分野にとてもやりがいを感じています。

 森林と人間の共生を考えたとき、その実現にはたくさんの問題があ

ります。危ぶまれる地球環境に対し、私たちが学ぶべきこと、考える

べきことがあります。身近な一本の木から地球の将来を見据えて、自然

環境に目を向けてみませんか。

地球の未来と農学部

遺伝子レベルの研究で食糧問題に貢献

 食糧問題を解決したいという気持ちから、農学部に入学しました。

しかし、学部時代には思い描いていたような「農業」について学ぶと

いうよりも、むしろ、遺伝子やタンパク質など分子生物学を中心に勉強

しました。初めはイメージとのギャップを感じていましたが、日々の学習の

中で植物は動くことができないため周囲の環境に適応すべくさまざま

な戦略をとっていること、またそれが個々の持つ塩基配列の違いにより

あたえられていることを知り、植物が持つ環境適応力を遺伝子レベルで

解明し、育種へと発展させることが食糧問題の解決につながるのでは

ないかと考えるようになりました。

 現在所属している研究室ではイネの野生種が持っているユニークな

形態や耐性に注目し、これらの原因となる遺伝子を栽培イネに導入する

ことで、どんな環境にも適応できるイネのテーラーメード育種を推進

しています。現在の研究でつくられたお米が世界の人々に届けられる日を

夢見て日々研究に取り組んでいます。

大学院生命農学研究科博士後期 1 年生命技術科学専攻高次生体分子機能研究分野

上原 奏子

 農学部では細胞生物学から微生物学、生化学、有機化学など、生命を

支える分子機構に関するさまざまな研究分野を広く学ぶことができます。

 私は現在、「食品の機能性」や「酸化ストレス」の解明を課題とする

研究室に所属し、日々研究を進めています。これまでに、ある種の野菜

に含まれる成分が炎症を抑制することや、生活習慣病などの病気に酸化

ストレスが関与していることが明らかとなってきました。しかし、

いまだ明らかにされていない部分が多く、非常に興味深い分野です。

 また、学生同士でお互いのテーマについてディスカッションをしたり、

学会などの学外でも自分の研究を発表したりなど、非常に充実した毎日

を過ごしています。

 科学技術が発達し、多くのことがわかってきましたが、生命現象には

解明されていない謎がたくさんあります。生物学に興味のあるみなさん、

農学部で夢中になれる分野を見つけ、新たな生命現象の第一発見者に

なりませんか!

めざすは新たな生命現象の第一発見者

大学院生命農学研究科博士前期 2 年 応用分子生命科学専攻食品機能化学研究分野

中島 史恵

農学部から世界を見る

 私が農学部に入ったのは、過疎地域である故郷を農業の力で活性化

したいと考えたからでした。ここでは自分が想像していた以上に多くの

発見と出会いにあふれていました。基礎となる生命現象や最先端の

農業技術のメカニズムを学ぶことができたのはもちろん、日本の農業

関係施設や農家を訪問し、現場と大学の研究のつながりを知り農学部で

学ぶ意義を感じています。また、カンボジアとタイの農家での実習で

は現地の大学生と一緒に調査し、世界の農業を肌で感じることができ

ました。さらに、目標や興味は異なりますが共に刺激し合える良い

仲間ができ、楽しい学生生活を送っています。

 現在、私の故郷の農業において重要な黒大豆の栽培法に関する研究を

実際のフィールドで行っています。これから自分の研究を通して、未知

の問題に取り組み、自ら答えを見つける力をつけ、過疎地域での農業

だけでなく、日本や世界の食料生産などさまざまな問題の解決を手助け

できるような人になりたいと思います。

中田 裕也

大学院生命農学研究科博士前期 2 年生物圏資源学専攻生物材料物理学研究分野

稲継 実栗

大学院生命農学研究科博士前期1年生物圏資源学専攻循環資源学研究分野

名古屋大学農学部案内2015

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Page 19: 科学的素養 論理的思考力 総合的に分析す る力科学的素養 論理的思考力 総合的に分析す る力 農学部の使命 食糧・生物資源の生産、生物資源の利用、生物機能の活用、生物共生環境を広く見つめ、そして深く

生物の謎から未来をひらく農学部!

OG・OBからのメッセージ

 私は生物学に興味があり、農学部応用生命科学科に入学しました。化学

や物理、生物学など応用生命科学の幅広い内容を学習する中で、食事に

よって引き起こされる体内での反応やその制御の巧妙さに驚き、さらに

深く学びたいと思い4年次に栄養生化学研究室に所属しました。そこで

は、運動と高脂肪食摂取に関した生体内での反応を探るべく、試行錯誤し

ながら実験に取り組みました。この1年間は失敗も多かったですが、それ

以上に多くのことを学びました。知識だけでなく、問題に取り組む力や

論理的に考える力が養われました。

 卒業後は食品メーカーに入社し、パスタの新商品の開発をおこなってい

ます。農学部で身につけた知識や経験を生かし、さらに大学で出会った

互いに刺激し合い成長できる友人に支えられながら、人々の生活を豊かに

する食品を作り出す目標に向かって日々頑張っています。農学は、食事を

はじめ人々の日々の生活に密着している分野だと思います。自分自身の

体内で起こっているまだ知らない世界に目を向けてみませんか。

食品メーカーで生かす農学部で身につけた力 大学で鍛えた考え抜く力を活かして

昭和産業株式会社 食品開発センター 2012 年、農学部 応用生命科学科卒業

池村 桃佳 皆さんが普段目にしている植物。日光を利用し、光合成をして生長する

ことはご存知だと思います。しかし、あまりに強い光は植物にとって

害となります。私は、そのような光による害から身を守る植物の機構の

研究を行いました。学べば学ぶほど、植物というのは非常に複雑で、

理にかなった構成をしていることが分かります。そのような中で、自分

で考え、新しいことを発見する研究は非常に難しくもやりがいのある

ものでした。

 私は、今、農学から少し離れた分野の仕事をしています。しかし農学

部で培った自ら考え抜く力は、社会人になった今も大きな財産となって

います。また、将来は今の会社でも環境に関わる仕事をしたいと考えて

います。私は植物を選択しましたが、農学部で学べることは非常に多岐

にわたります。そのため農学部は、自分の力を自分のやりたいことに

費やし、なおかつ地球環境という大きな課題に挑戦できる場所だと思い

ます。皆さんも農学部で自分の可能性を試してみませんか?

キリンビジネスシステム株式会社(キリンビール株式会社 2009 年入社)2009 年、大学院生命農学研究科博士課程前期課程 生物圏資源学専攻修了

木下 浩武

世界の「食」に貢献するため、新品種の育成に取り組んでいます

 普段、皆さんの食卓にある野菜や花は、もとは一粒の種子からはじま

ります。種苗会社とはその農産物のもととなる種子をつくり、販売する

会社です。私は現在、種苗会社でネギの育種を担当しています。生産者、

市場、消費者のニーズに応えるネギの品種をつくることは、日本や世界

の「食」に貢献することになり、非常にやりがいがあります。フィール

ドワークが多いため、のびのびと仕事ができるのも特徴です。毎日の

ように汗をかき、時には泥まみれになりながら、日々新品種の育成に

取り組んでいます。

 私は、植物に関わる仕事がしたいと思い農学部を選び、大学の研究で

はイネを材料にして遺伝学を学びました。イネの突然変異体をスクリー

ニングするなかで、「ものをよく観察すること」の大切さを先生に教え

ていただきました。遺伝学の講義や教科書で学んだことが、今では、実際

の植物相手にみることができ、新たな発見も多くあります。皆さんも農学

部で生物に触れ、学び、日本や世界の農業に関わる仕事をしませんか。

株式会社サカタのタネ掛川総合研究センター 2001 年、大学院生命農学研究科博士課程前期課程 生物機構・機能科学専攻修了

久保田 辰也 

森林を守り、県民を守る仕事に誇りを感じて

 近年、台風や集中豪雨による山地災害のニュースを耳にすることが

多くあるかと思います。森林の維持造成を通じて、山地災害から県民の

生活を守る治山事業。私は、現在、その治山事業に係る工事の設計・監督

業務などに携わっており、県民の生活を守るという大きなやりがいを

感じながら毎日仕事に励んでいます。

 私が農学部を選んだのは、自然が大好きという単純な理由からです。

研究室では、樹木の生長や繁殖といった生態的特性について、野外調査

を中心とした研究を行いました。私の場合、学生時代の研究が現在の

仕事と直接結び付くものではありませんでしたが、日々変化する森林

の姿を目にしながら野外調査を行っていくうちに、森林の魅力に取り

つかれ、それが現在の仕事を選ぶ大きな動機になりました。森林は、

水源の涵養、国土保全、地球温暖化防止などの機能を持ち、私たちの

生活には欠かせない存在です。そんな森林の世界に、あなたも一歩

踏み込んでみませんか。

愛知県 新城設楽農林水産事務所新城林務課2012 年、大学院生命農学研究科博士課程前期課程生物圏資源学専攻修了

五十君 友宏

名古屋大学農学部案内2015

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www.agr.nagoya-u.ac. jp詳しくはWEBで

Page 20: 科学的素養 論理的思考力 総合的に分析す る力科学的素養 論理的思考力 総合的に分析す る力 農学部の使命 食糧・生物資源の生産、生物資源の利用、生物機能の活用、生物共生環境を広く見つめ、そして深く