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確率実験を通して、確率の定義 を考える

確率実験を通して、確率の定義 を考える - Kansai U古典的確率の限界 •標本空間に属する一つ一つの要素が、互いに等 しい確率で起こる保証はない。

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確率実験を通して、確率の定義を考える

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古典的な確率の定義とは、

• コイン、サイコロ、カードの世界の話

▫ コインの場合、表が出るか、裏が出るか、2つに1つだから、確率はそれぞれ2分の1であると仮定できる。

▫ サイコロは、6通りの目がでるので、確率はそれぞれ6分の1であると仮定できる。

• 確率実験を、比較的簡単に、繰り返すことのできる事例に対するものである。

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2回サイコロを振る場合は、

• 全部で、36通りの結果が、すべて同じ確率で生起する。

• 36通りとなると、結構な数なので、一つ一つの結果だけに注目することの意味が小さくなる。

• そこで、36通りの結果を分類することになる。

• どのような分類が考えられるのか、また、その結果どのような集合が得られるのか。

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目の和に注目しよう。

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目の差に注目しよう。

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事象と集合との関係

• 目の合計が10以上になるという事象は、どのような根元事象から成り立っているのか。

• 目の差(大きい目から小さい目を引いたもの)が3以上であるという事象は、どのような根元事象から成り立っているのか。

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標本空間と事象

• 標本空間とは、▫ 起こり得る結果(sample:標本)全てを集めたもの(すべての要素の集合を空間と呼ぶ)。

▫ 「サイコロを2回振る」という試行の標本空間は、36通りの結果すべてを言う。

• 事象とは、

▫ 標本空間の部分集合で、ある性質をもったものの集まりを言う。

▫ 例えば、2つの目の和が5になるもの。

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古典的確率の定義

標本空間の一つ一つの結果(根元事象)は、すべて、同じ程度の確からしさで生起すると考えられるとき、ある事象の確率は、下のように定義される。

標本空間の要素数

事象の要素数の確率事象 A

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サイコロを3回投げるときを考えよう。

• 全部で何通りの結果が考えられるか?

• 3つの目の合計が 11 以下になる確率を求めよう。

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古典的確率の効用

• 古典的確率の考え方とは、▫ 様々な結果が起こり得る状況を考える(サイコロを投げる,試合を行う).

▫ 起こり得る全ての結果について思いを馳せる.▫ 事象(ある特定の側面を満たす結果)を考える.▫ それぞれの事象に対して確率を考える.

• 応用範囲が狭いなりに、確率現象に対する理解を深めることができる。

• この定義をもとに、確率を求めるための計算方法が開発された。

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古典的確率の限界

• 標本空間に属する一つ一つの要素が、互いに等しい確率で起こる保証はない。

▫ 神は存在するのか、しないのか、2つに1つだから確率は2分の1と言えるか?

• 複雑な現象になると、標本空間を定義することすら、困難である。

▫ たとえば、ある試合の展開を考えるとき、そのスポーツに詳しいほど、さまざまなストーリーが想定され、すべてのストーリーを網羅することは、事実上丌可能となる。

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標本空間は、興味が違えば異なる。

• サッカーの試合について考えてみよう。1. 試合の勝ち負けのみに興味がある。

2. 両チームの得点に興味がある。

3. 特定の選手の成績に興味がある。

4. 上記の事柄以外にも、試合の流れ、状況に応じたチームとしての対応、あらゆる局面での選手のプレーに興味がある。

• 標本空間が詳細であればあるほど、さまざまな事象を想定することになる。

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スポーツをコイン投げに譬えること

• スポーツが好きな人ほど、コイン投げに譬えることに抵抗があるだろう。

• しかし、勝敗は単なる事象であると割り切ることはできないか。

• 勝負事は、いくら勝率が高くても、コイン投げのように、予期せぬ結果が起こることもある。

• 勝負事における運・丌運にどう対処すればよいのだろうか(グッドルーザーの考え方)。

• サッカー天皇杯の面白さ。

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統計的確率の定義

• 繰り返し実験のできる状況では、確率は下の式により近似できる。

試行回数

事象の起こった回数

• 世論調査などの統計調査では、この統計的確率が用いられる。

• (ESPカードでも、この方法を用いた。)

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数学の記法

• 標本空間を Ω と書く.

• 標本空間の中の一つ一つの要素を根元事象と呼ぶ.

• 標本空間の部分集合を事象と呼び,A, B, C で表す.

• 事象の起こる確率を,P(A), P(B), P(C) と表す.

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公理論的確率の定義

• 公理1.P(A)≧0

• 公理2.P(Ω)=1

• 公理3.A1, A2, A3, ・・・, An は互いに共通部分を持たないとすれば、

)()()()( 2121 nn APAPAPAAAP

• 公理論的確率の定義は、確率の抽象的な扱いを可能にした。

• 数学の一分野としての確率論が、この定義を基に発展した。

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確率現象に立ち向かうとき、

• どのような事象が起こるか、前もって想定しておくべきである。▫ ギャンブルを行う前▫ チームの監督として、試合を指揮する前

• 何かが事象が起こったとき、ある程度の対応策を考えておくべきである。▫ なにか想定外の事象が起こったから、負けたというのでは、監督としては経験丌足と言える。

▫ 現実の行動様式は、試行錯誤を繰り返すことにより形成される。

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これから始まる試合を確率現象と考えるとき、• 標本空間とは?根元事象とは?

▫ 根元事象は、一つ一つのシナリオであり、標本空間はすべてのシナリオからなる。

• 試合が進むにつれ、シナリオが確定してくる。▫ つまり、(前半を終わって10点差といった)事象が生起する。

• 事象によっては、監督は戦術を変え、勝つ確率を上げようと試みる。

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成功率の高い対応策を採る

• 状況に応じて、適切な対応策は異なる。

▫ ある状況で有効な策が、他の状況では逆効果になることもある。

• 監督は、あらゆる状況を想定し、状況毎に成功率の高い戦略を行使することが求められる。

• アメリカでは、バスケットボール、野球そしてアメリカンフットボールに比べて、サッカーの人気が低いが、これは指揮者の作戦が試合の流れに反映されないのが原因なのだろうか?

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標本空間は構成できなくても・・・

• 試合の流れ、自分の将来などのシナリオを詳細に考えることは事実上丌可能である。

• 私たちは、さまざまな事象を想定し、その確率について思いを巡らすことができる。

• 事象の確率は丌正確でも、起こりうる事象を前もって想定し、その対応策について考えておくことは重要だろう。

• 試行錯誤(trial and error)を繰り返すしかないが、事前の準備が大切である。

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とは言え、主観的な確率は感情の影響を強く受ける• たとえば、知っている人は知っている、モンティ・ホール問題を考えてみよう。

• 理論的な確率計算と、情緒的な確率計算とに食い違いがある。

• 確率が分り難い原因はこのあたりにあるのかもしれない。

• 依田高典著「行動経済学」(中公新書)は理論と感情の乖離を扱った興味深い本である。