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39 Vol. 66 No.9 近年の電力需供状況を見てみると,昼夜間の需要格差 また季節間の需要格差が大きくなってきている。こうし た状況の中,火力発電所(特にコンバインドプラント) には,電力需要の昼夜間格差に対応するピークユニット として,“負荷調整的運用”が求められている。 このため,起動特性に優れるコンバインドサイクルプ ラントを利用した週末停止起動(Weekly Stop and Start)や深夜停止起動(Daily Stop and Start)の運 用が必要になっている。さらに大容量コンバインドサイ クルプラントでは,ガスタービンを複数台組み合わせた 構成となっているため,ガスタービンの運転台数を増減 させることにより広い出力範囲(ベースロード~部分負 荷)にわたり,高い熱効率を維持でき,部分負荷におい て,従来汽力プラントにみられる大幅な効率低下を避け ることが可能である。このようにコンバインドサイクル プラントは“実運用熱効率”に優れている面においても, “負荷調整的運用”に適した特徴を持っている。さらには, 最新 MACC(Most Advanced Combined Cycle)で は,1600℃級のガスタービンの採用により,60%(LHV ベース)を超える熱効率であるため,その高い熱効率を 利用しベースロード一定運転をするコンバインドサイク ルプラントもある。本章では,様々なコンバインドプラ ントの中から,再熱三重圧の1軸型,多軸型の運用面で の特徴を以下,2カ月に渡り, 1.発電方式の種類 2.1軸型コンバインド設備の運用 3.多軸型コンバインド設備の運用 4.ガスタービン 5.HRSG(Heat Recovery Steam Generator) として紹介していく。 ここではコンバインドサイクルプラントの発電方式に ついて紹介する。 1.発電方式の種類と特徴 コンバインドサイクルプラントには, (1)排熱回収式, (2)排気再燃式,(3)排気助燃式などがある。 (1)排熱回収式(図1ガスタービンで仕事をした後の排ガスを排熱回収ボイ ラ(HRSG)に導き,その排熱を回収し蒸気を発生させ 蒸気タービンを駆動する方式。最も一般的なコンバイン ドサイクル発電である。 (2)排気再燃式(図2ガスタービンの排ガスを,汽力発電プラントのボイラ へ導き,ボイラ燃料の燃焼用空気として,排ガスの熱を 回収する方式。 通常の汽力発電プラントのボイラで設置される空気予 熱器が不要となる。 (3)排気助燃式(図3[火力発電所の運転(改定版)] Ⅲ.コンバインドサイクル設備 1.発電方式の種類 529 入門講座 図1 排熱回収式のモデル図 図2 排気再燃式のモデル図 図3 排気助燃式のモデル図

[火力発電所の運転(改定版)] Ⅲ.コンバインドサイクル設備 1 ... · 2015-09-16 · 水再循環流量は,ポンプ過熱防止とグランド蒸気復水器

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Ⅲ.コンバインドサイクル設備

39

Vol. 66 No.9

 近年の電力需供状況を見てみると,昼夜間の需要格差

また季節間の需要格差が大きくなってきている。こうし

た状況の中,火力発電所(特にコンバインドプラント)

には,電力需要の昼夜間格差に対応するピークユニット

として,“負荷調整的運用”が求められている。

 このため,起動特性に優れるコンバインドサイクルプ

ラントを利用した週末停止起動(Weekly Stop and

Start)や深夜停止起動(Daily Stop and Start)の運

用が必要になっている。さらに大容量コンバインドサイ

クルプラントでは,ガスタービンを複数台組み合わせた

構成となっているため,ガスタービンの運転台数を増減

させることにより広い出力範囲(ベースロード~部分負

荷)にわたり,高い熱効率を維持でき,部分負荷におい

て,従来汽力プラントにみられる大幅な効率低下を避け

ることが可能である。このようにコンバインドサイクル

プラントは“実運用熱効率”に優れている面においても,

“負荷調整的運用”に適した特徴を持っている。さらには,

最新MACC(Most Advanced Combined Cycle)で

は,1600℃級のガスタービンの採用により,60%(LHV

ベース)を超える熱効率であるため,その高い熱効率を

利用しベースロード一定運転をするコンバインドサイク

ルプラントもある。本章では,様々なコンバインドプラ

ントの中から,再熱三重圧の1軸型,多軸型の運用面で

の特徴を以下,2カ月に渡り,

 1.発電方式の種類

 2.1軸型コンバインド設備の運用

 3.多軸型コンバインド設備の運用

 4.ガスタービン

 5.HRSG(Heat Recovery Steam Generator)

として紹介していく。

 ここではコンバインドサイクルプラントの発電方式に

ついて紹介する。

1.発電方式の種類と特徴

 コンバインドサイクルプラントには,(1)排熱回収式,

(2)排気再燃式,(3)排気助燃式などがある。

 (1)排熱回収式(図1)

 ガスタービンで仕事をした後の排ガスを排熱回収ボイ

ラ(HRSG)に導き,その排熱を回収し蒸気を発生させ

蒸気タービンを駆動する方式。最も一般的なコンバイン

ドサイクル発電である。

 (2)排気再燃式(図2)

 ガスタービンの排ガスを,汽力発電プラントのボイラ

へ導き,ボイラ燃料の燃焼用空気として,排ガスの熱を

回収する方式。

 通常の汽力発電プラントのボイラで設置される空気予

熱器が不要となる。

 (3)排気助燃式(図3)

[火力発電所の運転(改定版)]

Ⅲ.コンバインドサイクル設備1.発電方式の種類

529入門講座

図1 排熱回収式のモデル図

図2 排気再燃式のモデル図

図3 排気助燃式のモデル図

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 ガスタービンの排ガスに燃料を投入し,排ガスの温度

を高めて排熱回収ボイラに導くもの。本方式に限ったこ

とではないが,HRSGには排ガス側の温度制限がある

ため,ガスタービン燃焼温度が低く排ガス温度が低いガ

スタービンを採用している場合には助燃量を大きく採れ

るため有効。また夏場のピーク電力対応においても有効

である。

 本章では,国内外で発電プラントとして最も一般的に

用いられている(1)「排熱回収式コンバインドサイク

ルプラント」に焦点を当て取り扱っていく。

2.1軸型と多軸型とその特徴

 排熱回収式コンバインドサイクルプラントは,ガス

タービンと蒸気タービンの機器構成の違いにより,1軸

型コンバインドプラントと多軸型コンバインドプラント

の2つに分類される。

 1軸型コンバインドプラントは,ガスタービン,

HRSGと蒸気タービン,発電機を各1台同軸上に結合

し,1軸(1ユニット)とするものである。この1軸を

複数組設置することにより大容量(1系列)とする。多

軸型コンバインドプラントでは,ガスタービンおよび

530

図4 1軸型コンバインドプラントのモデル 図5 多軸型コンバインドプラントのモデル

図6 再熱三重圧コンバインドサイクルプラント(例)

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Ⅲ.コンバインドサイクル設備

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Vol. 66 No.9

HRSG複数台に対し,大型蒸気タービン1台を設置す

る。発電機は各ガスタービン,蒸気タービン毎に設置さ

れる。

 多軸型の特徴は蒸気タービンが大型化されるため,ス

ケールメリットとして定格負荷時の効率が良い。また部

分負荷においてもガスタービンの運転台数を増減するこ

とにより汽力プラントを大きく上回る効率を達成するこ

とができる。

 多軸型では,ある軸のガスタービンの運転・停止によ

るHRSG運転状態の変化が,他のHRSG蒸気系統に影

響を与えないよう配慮が必要となる。

 一方,1軸型では,運転軸台数を増減することにより

負荷調整できることは多軸と同様であるが,多軸ではガ

スタービン運転台数を減らすと,蒸気タービンにとって

は部分負荷運転となっていたのに対し,1軸型では,運

転軸のガスタービンを定格負荷とすれば,蒸気タービン

も定格運転となるため,プラントとしては部分負荷であ

りながら,定格負荷と同じ熱効率を維持できる。

 したがって,プラント定格負荷においては多軸型コン

バインドサイクルにメリットが,プラント部分負荷運転

においては1軸型コンバインドサイクルにメリットがあ

る。

531

図7 1軸型と多軸型の熱効率比較(例)

60

50

40

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 ここでは,最新コンバインドサイクルプラントとして

最も一般的な再熱三重圧プラントの起動停止手順を概略

説明する。

 事業用の1軸型コンバイント設備の運転操作では,

各々の機器毎の定例的な起動・停止操作を実施する事は

稀であり,近年のプラントにおいては,各系統毎の定例

的な一連の起動停止操作は,シーケンスマスタとして制

御装置に組み込まれ,またそのシーケンスマスタに対す

るキック指令は計算機の自動化機能として持ち,中央操

作室からのCRT操作で起動・停止操作を可能としてい

る。一般的に計算機による自動化操作による軸起動は,

下記5つの工程に分けられる。

 ①海水系統起動

 ②復水系統起動

 ③HRSG起動

 ④GT起動

 ⑤並列・負荷上昇

 また,軸停止はその逆の工程となる。計算機の自動化

はこれら工程毎にブレークポイントを持ち,運転員は,

各ブレークポイントにおいて,次のブレークポイント進

行許可条件を確認して,次の工程にCRT操作で進ませ

る事ができる。計算機自動化と下位制御装置の関係を図

9,図10に示す。

1.起動手順

 (1)循環水系統,海水系統,軸受冷却水ポンプ起動

 プラント構成機器を運転する際に必要な冷却水(復水

器冷却水,タービン軸受冷却水,ポンプ軸受冷却水)を

確保するため循環水ポンプ,海水ポンプ(または海水昇

圧ポンプ),軸受冷却水ポンプを起動する。

 また,各ポンプの起動に当たっては,系統の水張り,

ポンプ吐出弁全閉でのポンプ起動によりポンプのランア

ウトを防ぐことが重要である。

 (2)低圧給水ポンプ起動・復水再循環運転

 復水器真空上昇のための蒸気タービングランド部の蒸

気シールを行う前に,グランド蒸気復水器に冷却水(低

圧給水ポンプ給水)を通し,グランド蒸気復水器を運転

させる。低圧給水ポンプは,復水再循環運転を行う。復

水再循環流量は,ポンプ過熱防止とグランド蒸気復水器

最低流量を確保する流量とする。

 (3)復水器真空上昇(真空ポンプ起動)

 グランド蒸気排風機を起動し,タービングランドシー

532

Ⅲ.コンバインドサイクル設備2.1軸型コンバインド設備の運用

図8 脱気復水器のモデル図

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Vol. 66 No.9 533

図9 1軸型コンバインドサイクル設備の起動のタイムチャート(例)

-100

-80

-60

-40

-20

100

80

60

40

20

海水系統起動(循環水/海水/軸受冷却水ポンプ起動)

真空上昇・復水再循環運転(低圧給水ポンプ起動)

脱気蒸気導入・脱気再循環運転

HRSG起動(蒸気ドラム水位調整)

ガスタービン起動

ガスタービン点火

ガスタービン並入

低圧タービンクーリング蒸気導入

蒸気タービン通気

冷却水系統起動マスタ

低圧給水ポンプ起動

真空上昇マスタ

脱気開始

-96.3kPa(g)

kPa(g) %

復水器真空

負荷・回転数

復水器真空

-66.6kPag

80%回転数

回転数

HRSGパージ

ターニング

ガスタービン出力

蒸気タービン出力

時間

計算機自動化

ブレークポイント起動前準備

海水系統起動

復水系統起動

HRSG起動

GT起動 並列・負荷上昇

制御装置

海水系統起動マスタ

薬注マスタ

GT起動

HRSG起動マスタ

自動同期装置自動

発電機断路器閉

界磁遮断器閉

ウォービュレーション

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ル蒸気を導入,タービングランド部のシールを行い,外

界との隔離を図る。その後復水器真空ポンプを起動し,

復水器真空上昇を行う。

 (4)脱気再循環運転(脱気復水器)

 コンバインドプラントでは起動用脱気器による脱気の

ほかに,補助蒸気を復水器ホットウェルに導入する脱気

復水器を採用する場合がある。排熱回収ボイラに送水す

るには,溶存酸素濃度を規定以下(約10~80ppb程度)

に脱気する必要があるため,復水再循環運転を行い,ホッ

トウェル水を5~7回循環させることにより,復水器

ホットウェル内水の脱気を行う。

 脱気蒸気導入は,蒸気タービンから十分な蒸気が導入

されるまで続けられるのが一般的である。なお,近年で

は脱気蒸気導入のない設備もある。

 (5)HRSG起動

 排熱回収ボイラへ送水し,蒸気ドラム水位を規定値に

調整するため,高圧給水ポンプ,中圧給水ポンプを起動

する。高圧・中圧給水ポンプ起動時はポンプミニマムフ

ロー運転で過熱防止を図ることになる。プラント起動前,

復水器真空破壊していた場合には,高圧・中圧給水ポン

プミニマムフロー管内の溶存酸素濃度が上昇し,その高

溶存酸素給水が復水器ホットウェルに回収され一時的に

ホットウェル水の溶存酸素が上昇することがあるため,

高圧・中圧給水ポンプ起動後,水質が安定しているのを

確認,蒸気ドラムへの送水・水位調整を行う。また,

HRSGへの送水により,復水器ホットウェル水位が下

がるため復水器へ補給水が流入することとなる。脱気復

水器の脱気性能が十分発揮できるようにするため,ドラ

ムへの急速な水張り,多量の補給水流入を避ける。

 また,ガスタービン点火後,ドラム缶水の比体積増加

により,ドラム水位が上昇することも考慮にいれ,蒸気

ドラム水位の調整は低めに設定する。

 (6)ガスタービン始動

 ガスタービン始動はガスタービンの自立運転(60~

80%回転数)が行えるまでは,始動モータによる補助

動力により昇速を行う。なお近年のガスタービンの大型

化により,サイリスタ変換器により発電機に電力を送り

込み電動機として使用するサイリスタ始動方式が主流と

なっている。始動装置の容量を小さくするために,蒸気

タービンに蒸気を導入し蒸気タービン昇速の補助を行う

場合もある。

 (7)排熱回収ボイラ(HRSG)パージ(置換)運転

 ガスタービン点火するにあたり,ガスタービン始動装

置によりパージ回転数(約20~30%)でガスタービン

を回転させガスタービン吸気をHRSGに送風しHRSG

内空気の置換を行う(可燃性気体による爆発を防ぐた

め)。

 パージ時間を長くとれば安全性の面からは望ましい

が,パージ時にHRSGが冷却され,ドラム残圧が低下

してしまうというデメリットがある。JIS B8042では

パージ時間の規定は,「気体燃料を使用するプラントで

は-途中省略-ガスタービン点火前に,煙突を含む排気

装置の全容量を最小3回置換するのに十分な時間,自動

的にパージできるものでなくてはいけない。これに代わ

る予防策がある場合にはこの限りではない」とある。こ

れに代わる予防策とは,ガス検知器などによるパージ完

了の確認である。また,ウォービュレーション(パージ

回転数を小刻みに変化)を行い,空気の流れの淀み点を

無くすパージ運転をする場合もある。

 (8)ガスタービン点火

 ガスタービン点火を確実にするため,パージ回転数

(20~30%)から減速し,ガスタービン点火を行う。ガ

スタービンは点火されるが,自立速度には達していない

ため,昇速には始動装置による補助が必要となる。

 (9)ガスタービン昇速

 ガスタービン自立運転可能な回転数で,始動装置の補

助動力を停止する。なお1軸型コンバインドサイクルプ

ラントではガスタービン,蒸気タービンが同一軸で連結

されているため,蒸気タービンもガスタービン同様昇速

されることになる。したがって,低圧タービン翼の風損

を防止するため,約50~80%回転数で低圧タービンへ

クーリング蒸気を導入する。クーリング蒸気は,ホット

起動の場合などは,低圧ドラムからの自缶蒸気をクーリ

534

図11 1軸型コンバインドプラント大気温度特性(例)

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Vol. 66 No.9

ング蒸気とし,補助ボイラや,他の軸から送気される補

助蒸気を使わない場合もある。

 また,点火後のガスタービン昇速を補助するために,

低圧タービンへのクーリング蒸気よりも多くの蒸気を導

入するスチームアシストという方法もある。アシスト蒸

気については流量が少なければ,ガスタービンの昇速が

計画どおりとならず,流量が多すぎれば,ガスタービン

の燃料を絞る事になるが,過度の燃料の絞りは燃焼を不

安定にする。

 (10)並列

 ガスタービン定格速度到達後,発電機並列し負荷上昇

を行う。負荷上昇レートは,ロータの寿命消費検討によ

り予め設定されたレートにて上昇する。

 (11)蒸気タービン通気

 ガスタービン点火後,蒸気ドラムから発生した蒸気は,

タービンバイパス弁により起動時の圧力に一定制御され

る。高圧蒸気タービンメタル温度に対し高圧主蒸気温度

が許容値内に入った時点で,高圧加減弁を介して高圧

タービンへ通気する。高圧加減弁は通気後一定レートで

開する。高圧加減弁の開度レートは蒸気圧力の急激な上

昇,低下を招かぬようガスタービンと協調を図り決定す

る。

 高圧加減弁が一定開度以上になれば,高圧主蒸気が再

熱器,中圧タービンを介し低圧タービンへ十分な蒸気が

流入するため,クーリング蒸気は不要となる。

 低圧,中圧系の蒸気導入については,高圧加減弁規定

開度以上で,低圧主蒸気加減弁が全開され,中圧主蒸気

圧力が,低温再熱蒸気圧力以上で中圧主蒸気が低温再熱

へ導入される。ただし,低圧主蒸気,中圧主蒸気を前圧

制御するプラントもあり,運転,制御方法は様々である。

 (12)負荷上昇・起動完了

 蒸気タービン通気後,さらに負荷を上昇させ目標負荷

到達で起動完了とする。ただし,起動完了の定義は,ガ

スタービン排ガス温度制御到達とする場合,その後の蒸

気タービン加減弁全開で起動完了とする場合もある。起

動完了後は,負荷制御に移行し,中給からの負荷要求指

令に沿った負荷運転となる。

2.停止手順

 基本的な手順は,起動時の手順の裏返しとなる。ただ

し,次回の起動に関しては,停止(解列)してからの時

間により,起動パターン(起動時間)が替わるため,次

回起動時まで含めた停止タイミングの検討が重要とな

る。

 (1)負荷降下・解列

 規定のレートに従い負荷降下を行い,解列を行った後,

ガスタービンを降速する。ガスタービン消火の回転数は

50%回転数から定格回転数と様々である。ガスタービ

ン消火に伴いHRSGドラム缶水のボイドが急縮し,ド

ラム水位が低下する。その低下を防ぐため,復水器へ補

給水が流入することになる。この時点で復水器への蒸気

流入は無く,復水器へ流入する補給水の加温脱気は期待

できないため復水器ホットウェルの溶存酸素は上昇する

場合があるので注意が必要である。

 (2)HRSG停止・高中圧給水ポンプ停止

 HRSGの停止にあたり,ドラム水位の調整が必要と

なる。HRSGドラムの水位については,停止中のドラ

ム缶水温度低下による比体積減少,水位低下を考慮し,

高めに設定される。ただし,起動時ガスタービン点火に

よる水位上昇(スウェリング)も考慮し調整する必要が

ある。

 (3)復水器真空破壊

 HRSG停止後,復水系統の停止を実施する。まず復

水真空ポンプを停止し,真空破壊弁を開することにより,

復水器内部の真空破壊を行う。その後,グランド蒸気の

供給およびグランド蒸気排風機を停止し,外界との隔離

を解く。最後に低圧給水ポンプを停止し,グランド蒸気

復水器への冷却を停止する。

 一度真空破壊を行うと,復水器ホットウェル水中の溶

存酸素量が増加するため,次回起動時に再度復水脱気運

転から行わなくてはならない。したがって,次回起動ま

時間が短い場合(ホット起動,ウォーム起動の場合)に

は,復水器真空破壊は実施せず,蒸気タービングランド

シールをかけ,真空保持停止を行う。低圧給水ポンプも

ミニマムフロー運転状態で運転継続する。

 (4)海水系停止

 循環水ポンプ,海水ポンプ(もしくは海水昇圧ポンプ),

軸受冷却水ポンプを停止する。また,復水器や冷却器に

サイフォンブレーク弁が設置されている場合には,本弁

を開し,海水を落水させる。

 ただし,復水器真空保持する場合には,復水器へグラ

ンドシール蒸気が流入すること,復水器真空ポンプの封

水冷却が必要なため,海水系統は停止せずに,循環水ポ

ンプ,海水冷却水ポンプ,軸受冷却水ポンプとも運転継

535

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Sep. 2015536

図10 1軸型コンバインドサイクル設備の停止のタイムチャート(例)

-100

-80

-60

-40

-20

100

80

60

40

20

負荷降下開始

蒸気タービン通気停止

解列

低圧タービンクーリング蒸気停止

HRSG停止(蒸気ドラム水位調整終了)

復水器真空破壊

海水系統停止

GT保守停止

kPa(g) %

復水器真空

負荷・回転数

復水器真空回転数

ガスタービン出力

蒸気タービン出力

時間

計算機自動化

ブレークポイント

通常運転フェーズ GT停止

HRSG停止

海水系統停止

制御装置

GT通常停止

薬注停止マスタ

真空破壊マスタ

HRSG停止マスタ発電機断路器開

冷却水系統停止マスタ

海水系統停止マスタ

復水系統停止

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Ⅲ.コンバインドサイクル設備

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Vol. 66 No.9

続しなければならない。

 なお,真空破壊後であっても,各軸の共通設備(所内

用・制御用空気圧縮機)などが運転中の場合には,軸冷

水を確保するため,軸冷水ポンプおよび海水系統の停止

は行わない。

3.系列運用

 プラントとしての負荷調整能力としては,1軸当たり

の負荷を下げた状態での全軸運転が好ましいが,プラン

ト熱効率を高く維持するためには,軸あたりの負荷を極

力高くするため,停止できる軸は停止し,運転軸台数を

最小化することも考慮にいれなければならない。具体的

には,計4軸で構成される1軸型コンバインドサイクル

プラントでは,1軸を停止することで,プラント負荷

75%,2軸を停止することで50%の部分負荷となるが,

運転軸はベース負荷で運転される限り,定格運転状態で

の熱効率を満足することができる。

 また負荷制御は,ガスタービン燃料流量制御のみで行

う完全変圧方式(起動停止過程以外では加減弁全開)を

採用している。完全変圧を採用した場合には,部分負荷

での効率が改善されるが,ガスタービン低負荷運転する

場合に排気ガス温度が低下し結果として,高圧系統での

熱回収が減り,低圧系等での熱回収が増え低圧主蒸気管

内流速が速くなることもある。したがって,低圧主蒸気

に関してのみ,定圧制御を行うプラントもある。特に

IGV(Inlet Guide Vane)制御により低負荷での排ガス

温度特性の向上を行っていないガスタービンを採用する

場合には,低圧系統の圧力制御は必須である。また,ガ

スタービンは大気温度により,最大出力(ベースロード)

が大きく変化する特徴があるため,コンバインドサイク

ルプラントにおいても気温による最大出力の変化を考慮

した運転が必要である。

 1軸型コンバインドサイクルプラントでは,一般的に

複数軸から構成されるため,系列が中給から見た場合の

発電単位として位置づけられる場合がある。この場合,

系列の負荷運用および中給との信号送受を系列負荷制御

装置により実現する方法がある。系列負荷制御装置は,

中給からの負荷指令を自動負荷運転軸毎に按分し,各軸

のガスタービン制御装置に対し,負荷増減指令を出力し,

系列全体の負荷を制御する。一方で,近年のガスタービ

ンの大型化高温度化に伴う,軸単位出力の増大に伴い,

軸自体の出力を発電単位と考え,従来の系列負荷制御装

置の機能を各軸のガスタービン制御装置に持たせ,中給

からの負荷指令による負荷制御を軸毎のガスタービン制

御装置にて実施する場合もある。

4.通常運転

 通常負荷運転では,中給負荷指令に対し追従した負荷

運転となるが,コンバインドサイクルプラントでは,前

述の様に大気温度により最大出力が変化するため,最大

出力・最低出力負荷変化率に留意する必要がある。プラ

ントの最低出力は,低NOx燃焼器を採用したガスター

ビンの場合,予混合燃焼モード範囲内として決定され,

燃焼モード切替領域での連続運転は,燃焼不安定性およ

びNOx濃度の上昇面より,避けるのが一般的である。

負荷変化率は,プラント機器の寿命消費,プラントの負

荷追従性を考慮し決定され,一般的に蒸気タービンの追

従遅れを考慮し,蒸気タービンが負荷指令に全く追従し

ない場合でもガスタービンだけで追従出来る負荷変化率

をプラントとしての負荷変化率と定めている。最大負荷

運転へ移行する場合は,ガスタービンが先行してベース

負荷に到達すると,ガスタービンは,それ以上出力増加

ができなくなり,蒸気タービンが追従するまでの間,負

荷変化率は頭打ちになる傾向がある。

 また,コンバインドサイクルプラントでは,負荷の増

減はガスタービンの燃料量の増減により制御され,高温・

高圧の燃焼ガスを直接タービンに噴射することから,高

温ガスが通過する部品の損傷を防止するために,排ガス

温度が許容値を超えない様に制御する事が重要となる。

 図12に燃料流量制御概念を示す様に,通常負荷運転

中は,系列負荷制御装置からの負荷制御指令により燃料

制御されるが,万一排ガス温度が許容値を超えるような

場合には,排ガス温度制御が優先されるため,負荷制御

指令に反し,排ガス温度を降下させるために,負荷ホー

ルドもしくは負荷降下動作に至る事もある。

5.特殊運転

 通常負荷運転中に発電所内部異常あるいは外部異常が

発生した場合,その異常の緊急性および重大度によって,

対応が異なる。これらの異常発生の特殊運転方法として

各運転方法を以下に説明する。

 (1)負荷遮断

 負荷遮断とは,軸負荷運転中に発電機遮断器を解列し,

定格無負荷運転に移行する事を言う。負荷遮断の移行要

537

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火 力 原 子 力 発 電

48

Sep. 2015

因としては以下が挙げられる。

 ①運転員の手動による発電機遮断器解列

 ② 発電電力とタービンの機械エネルギーの不均衡検知

による発電機遮断器解列

 負荷遮断発生時には,所内単独運転と同様に蒸気ター

ビン加減弁全閉となるためHRSGから発生する余剰蒸

気は高圧,中圧,低圧タービンバイパスを介して復水器

へダンプされる。復水器へダンプされる蒸気は,蒸気ター

ビンで仕事を取り出されず復水器へ流入することになる

ため,復水器での熱負荷は上昇し復水器冷却水(海水)

出入口温度差は,設計値を越える運転となる。

 (2)ランバック運転

 ランバック運転とは,プラントとして定格負荷運転の

継続が困難である場合に,負荷を下げた運転に移行する

事を言う。ランバック運転は,異常要因が復旧されるま

で,低負荷で運転継続させる負荷ランバック運転と,異

常要因が復旧される迄,通常停止操作と同様の負荷降下

および停止操作を行う停止ランバック運転の2通りあ

る。各ランバック移行要因例は以下に挙げられる。

 ①GT排気フレーム冷却空気圧力低(停止ランバック)

 ②GT IGV開度過小(停止ランバック)

 ③STクーリング蒸気異常(停止ランバック)

 ④GT2次燃焼(F2)失火(負荷ランバック)

 ⑤発電機固定子冷却水喪失(負荷ランバック)

 (3)所内単独運転

 電力系統事故時に,所内負荷のみを持って運転を継続

し,電力系統の復旧後,迅速に系統への並列,負荷上昇

を行う。送電系統に何らかの事故が発生し,系統遮断ま

たは過負荷状態となり運転継続ができなくなった場合,

送電を直ちに遮断する必要がある。その手段としてユ

ニットトリップを用いると系統回復後送電できるまでに

長い時間がかかる(トリップ後再並列迄2時間程度)。

これに対し,送電系統との連系を断ち発電所内の負荷の

みに供給する形で定格速度を保ち運転継続する所内単独

運転があり,この運転に正常に移行した場合,系統回復

後直ちに送電する事ができる。

 複数軸より構成される1軸型コンバインドサイクルプ

ラントでは,所内単独運転移行時は1軸が所内負荷を担

い,他の軸は系統への再並列に備え無負荷運転となるの

が一般的である。

 1軸型コンバインドサイクルプラントにおいては,軸

出力の約3分の2をガスタービンで賄い,ガバナ機能も

燃料制御側で持っている事から,所内単独運転時の所内

負荷はガスタービンが担う事になる。所内単独運転時の

負荷は全負荷に対して,数%の負荷であるため,ガバナ

設定値を当該所内負荷に見合った値に切り替える。この

ガバナ設定値の切替とガバナ制御動作(速度上昇に伴い

燃料制御信号を減ずる)により燃料流量調節弁が絞り込

まれると共に所内単独運転時の燃焼モードへの切替が行

われ,過速度の抑制と安定燃焼状態への移行が図れる。

 蒸気タービン加減弁は,所内単独運転に移行した時点

で各蒸気加減弁が急閉動作し,その動作により生じる主

蒸気管の蒸気圧力上昇を抑えるために,タービンバイパ

ス弁を急開する。また低圧蒸気加減弁は,タービン低圧

段の風損による過熱を抑えるため,過速度の時期が過ぎ,

タービン回転数が定格速度に整定した後,所定の開度迄

開し,クーリング蒸気を導入する。なお,長時間の所内

単独運転は許容されない場合もあるため,注意が必要で

ある。

 (4)保護

 発電プラントにおいて,主機に事故が発生した場合,

事故拡大防止のため,当該発生エネルギー源を遮断する

と共に,事故波及防止のために,関連するエネルギー源

を遮断しなければならない。1軸型コンバインドサイク

538

図12 燃料流量制御概念

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Ⅲ.コンバインドサイクル設備

49

Vol. 66 No.9

ルプラントの場合は,ガスタービン,蒸気タービンが軸

一体として結合しているため,発電機,ガスタービン,

排熱回収ボイラ,蒸気タービンのいずれの事故によって

も軸停止となる。1軸型コンバインドサイルプラントの

保護は以下の考え方に沿い保護方式が組まれている。

 ① 熱エネルギーを遮断するために,熱源であるガス

タービンの燃料を遮断する。また事故によっては回

転のアンバランスを生じ事故が波及拡大する可能性

があるため,回転エネルギー源である蒸気を遮断す

る。

 ② 回転エネルギーを遮断するために,ガスタービン,

蒸気タービンへのエネルギー流入を遮断して過速防

止を図り,続いて発電機を解列する。

 ③ 発電機,変圧器等電気事故の場合は直ちに電気エネ

ルギーを遮断すると共に回転力による事故拡大を防

止するために,回転エネルギーを遮断する。

 以上より,1軸型コンバインドサイクルプラントにお

けるガスタービン,蒸気タービン,排熱回収ボイラ発電

機変圧器・所内系統相互間の保護インターロック基本方

式を図13に示す。

6.�SSSクラッチ式1軸型コンバインドサイクル設備

 1軸型コンバインドサイクル発電設備では,発電機の

両端にガスタービンと蒸気タービンを接続し,発電機と

蒸気タービン間のカップリングにSSS(Synchro-Self-

Shifting)クラッチを採用した軸系の採用が近年進んで

いる。起動昇速時にSSSクラッチで蒸気タービンを切

り離すことにより,起動時の蒸気タービン冷却蒸気が不

要となり,サイリスタ等の起動装置容量を低減すること

が可能となる。また,蒸気タービンに軸流排気方式を採

用した場合,もしくは,サイド排気の蒸気タービンを採

用した場合には建屋高さ低減も可能となる。

 (1)起動手順起動手順は,SSSクラッチに関連する

運用を除いて,通常の1軸型コンバインドサイクル発電

設備と同じである。通常の1軸型コンバインドサイクル

設備は,ガスタービンと蒸気タービンが同軸上に結合し

ているため,ガスタービン昇速とともに蒸気タービンも

昇速するが,SSSクラッチを採用した1軸型コンバイン

ドサイクル設備の場合は,軸系がSSSクラッチにより

切り離されているため,最初にガスタービン+クラッチ

発電機が昇速する。(SSSクラッチの構造上若干トルク

が伝わるため,300rpm程度のST連れ廻りは発生する。)

 ガスタービン定格速度到達後,発電機並列し負荷上昇

を行った後,蒸気タービンの通気条件成立を待ち,通気

条件が成立後,蒸気タービンが昇速し,定格回転に到達

した時点でSSSクラッチが嵌合し,その後は,ガスター

ビンとともに負荷上昇する(図14参照)。

 (2)停止手順

 停止手順についても,SSSクラッチに関連する運用

を除いて,通常の1軸型コンバインドサイクル発電設備

と同じである。通常の1軸型コンバインドサイクル発電

設備の場合は,蒸気タービンの通気を停止した後も,ガ

スタービンが停止するまで軸系の回転を保持したまま運

転を継続する,SSSクラッチを採用した1軸型コンバ

インドサイクル設備の場合は,蒸気タービン通気停止と

ともに,蒸気タービンの回転は降下する。ガスタービン

停止によりガスタービン回転数が低下し,蒸気タービン

の回転数と同期した際に再度SSSクラッチが嵌合し,

同軸上に接続されたガスタービンおよび蒸気タービン

は,そのまま回転数を降下させ,ターニング状態に移行

する(図15参照)。

539

図13 1軸型コンバインドプラント相互保護インターロック方式

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火 力 原 子 力 発 電

50

Sep. 2015540

図14 SSSクラッチを採用した1軸型コンバインドサイクル設備の起動のタイムチャート(例)

-100

-80

-60

-40

-20

100

80

60

40

20

海水系統起動(循環水/海水/軸受冷却水ポンプ起動)

真空上昇・復水再循環運転(低圧給水ポンプ起動)

脱気蒸気導入・脱気再循環運転

HRSG起動(蒸気ドラム水位調整)

ガスタービン起動

ガスタービン点火

ガスタービン並入

蒸気タービン起動

低圧タービンクーリング蒸気導入

蒸気タービン並入

冷却水系統起動マスタ

低圧給水ポンプ起動

真空上昇マスタ

脱気開始

-96.3kPa(g)

kPa(g) %

復水器真空

負荷・回転数

復水器真空

-66.6kPag

GT回転数

HRSGパージ

ウォービュレーション

ターニング

ST回転数

ガスタービン出力

蒸気タービン出力

時間

計算機自動化

ブレークポイント起動前準備

海水系統起動

復水系統起動

HRSG起動

GT起動 並列・負荷上昇

制御装置

海水系統起動マスタ

薬注マスタ

GT起動

HRSG起動マスタ

自動同期装置自動

発電機断路器閉

界磁遮断器閉

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Ⅲ.コンバインドサイクル設備

51

Vol. 66 No.9 541

図15 SSSクラッチを採用した1軸型コンバインドサイクル設備の停止のタイムチャート(例)

-100

-80

-60

-40

-20

100

80

60

40

20

負荷降下開始

蒸気タービン通気停止

解列

HRSG停止(蒸気ドラム水位調整終了)

復水器真空破壊

海水系統停止

GT保守停止

kPa(g) %

復水器真空

負荷・回転数

復水器真空GT回転数ST回転数

ガスタービン出力

蒸気タービン出力

時間

計算機自動化

ブレークポイント

通常運転フェーズ GT停止

HRSG停止

海水系統停止

制御装置

GT通常停止

薬注停止マスタ

真空破壊マスタ

HRSG停止マスタ発電機断路器開

冷却水系統停止マスタ

海水系統停止マスタ

復水系統停止

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火 力 原 子 力 発 電

52

Sep. 2015

 ここでは,複数台のガスタービン(GT)および排熱

回収ボイラ(HRSG)と1台の蒸気タービン(ST)か

ら構成される多軸型コンバインドサイクル設備につい

て,最新コンバインドサイクルプラントとして最も一般

的な再熱三重圧プラントの起動停止手順,系統運用,特

殊運転手順を概略説明する。

 多軸型コンバインド設備の運転操作においても,1軸

型コンバインド設備と同様に,自動化が進められている。

自動化の範囲は発電所毎に異なるが,一般的に計算機に

よる自動化操作による起動は,下記6つの工程に分けら

れる。

 ①復水系統起動

 ②HRSG起動

 ③GT起動

 ④GT並列・負荷上昇

 ⑤ST起動

 ⑥ST並列・負荷上昇

 また,停止はその逆の工程となる。多軸型コンバイン

ドサイクル設備の起動過程においては,複数台のガス

タービンを同時に起動する同時起動モードと1台ずつ

順々に起動する順次起動モードがあり,一般に蒸気ター

ビンのロータ温度が低い長期間停止後のコールド起動等

においては,蒸気タービンの暖気運転による起動損失を

最小とするよう順次起動モードが選択され,DSS等の

短期間停止後の起動においては,起動時間を最短とする

ため,同時起動モードが用いられる。

1.同時起動モード

 同時起動モードは複数のガスタービンを同時に起動す

る起動モードである。

 (1)低圧給水ポンプ起動・復水再循環運転

 復水器真空上昇のための蒸気タービングランド部の蒸

気シールを行う前に,グランド蒸気復水器に冷却水(低

圧給水ポンプ吐出水)を通し,グランド蒸気復水器を運

転する。低圧給水ポンプは,ポンプ過熱防止とグランド

蒸気復水器最低流量を確保する流量において,復水再循

環運転を行う。

 (2)復水器真空上昇(真空ポンプ起動)

 グランド蒸気排風機を起動し,タービングランドシー

ル蒸気を導入,タービングランド部のシールを行い,外

界との隔離を図る。その後復水器真空ポンプを起動し,

復水器真空上昇を行う。

 (3)復水脱気

 排熱回収ボイラに送水するには,溶存酸素濃度を規定

以下(約10~80ppb程度)に脱気する必要がある。一

般のコンバインドプラントでは運転中の漏れ込み空気量

が少ないため,常用の脱気器を持たず,補助蒸気を復水

再循環系統に設置した起動用脱気器あるいは脱気復水器

に導入し,復水再循環運転により脱気する方式を採用し

ている。1軸型コンバインドサイクル設備同様,近年で

542

Ⅲ.コンバインドサイクル設備3.多軸型コンバインドサイクル設備の運用

図16 復水再循環系統

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Ⅲ.コンバインドサイクル設備

53

Vol. 66 No.9

は脱気蒸気導入のない設備もある。

 (4)排熱回収ボイラ(HRSG)起動

 多軸型コンバインドプラント設備においては,複数の

HRSGの発生蒸気を1台の蒸気タービンに導入する構

成であることから,各HRSGは個別に切り離せるよう

給水側,各蒸気側にそれぞれ止弁を設けている。プラン

ト起動時には,各HRSGの蒸気ドラム水位を規定値に

調整するため,個別のHRSG給水入口止弁を開け,高

圧給水ポンプ,中圧給水ポンプを起動する。

 (5)ガスタービン起動

 ガスタービン起動はガスタービンの自立運転(60~

80%回転数)が行えるまでは,起動モータあるいはサ

イリスタ起動装置により昇速を行う。多軸型コンバイン

ドプラント設備においては,1軸型に比べ,起動トルク

が小さいため,起動電力は小さくなる。

 なお,起動モータによる起動の場合にはモータの突入

電流による制限から各ガスタービンの起動時間は約30

秒の間隔を与える。

 (6)排熱回収ボイラ(HRSG)パージ(置換)運転

 ガスタービン点火するにあたり,ガスタービン始動装

置によりパージ回転数(約20~30%)でガスタービン

を回転させガスタービン吸気をHRSGに送風し1軸型

と同様にHRSG内空気の置換を行う。

 (7)ガスタービン点火

 ガスタービン点火を確実にするため,パージ回転数

(20~30%)から減速し,各ガタービンの点火を行う。

ガスタービンは点火されるが,自立速度には達していな

いため,昇速には起動装置による補助が必要となる。

 (8)ガスタービン昇速

 ガスタービン自立運転可能な回転数で,起動装置の補

助動力を停止する。なお,多軸型コンバインドサイクル

プラントでは蒸気タービンのクーリング蒸気は不要であ

る。

 (9)ガスタービン並列・負荷上昇

 ガスタービン定格速度到達後,各発電機を順次並列し,

蒸気タービン起動負荷(約20~40%)まで負荷上昇を

行う。

 (10)蒸気タービン起動

 ガスタービン点火後,蒸気ドラムから発生した蒸気は,

各HRSGのタービンバイパス弁により起動時の圧力に

一定制御される。ガスタービンを蒸気タービン起動負荷

(約20~40%)で保持し,高圧蒸気圧力,中圧蒸気圧力,

低圧蒸気圧力が規定値まで上昇した時点で,一台目

HRSGの高圧蒸気止弁,高温再熱蒸気止弁,低温再熱

蒸気止弁,低圧蒸気止弁を開け,蒸気管のウォーミング

を行う。

 高圧蒸気タービンメタル温度に対し高圧主蒸気温度が

許容値内に入った時点で,高圧蒸気止弁(あるいは高圧

蒸気加減弁)および再熱蒸気加減弁を介して蒸気タービ

ンへ通気し起動し,ラブチェック回転数まで回転上昇す

る。タービン全弁閉し,ラブチェックを実施したのち,

高圧蒸気止弁(あるいは高圧蒸気加減弁)および再熱蒸

気加減弁により予め設定された昇速により定格回転数ま

で昇速する。高圧蒸気止弁昇速の場合には,蒸気タービ

ン定格速度到達後,高圧蒸気止弁制御から高圧蒸気加減

弁制御へ切り替える。

 (11)蒸気タービン並列・負荷上昇・起動完了

 蒸気タービン定格速度到達後,発電機並列し,初負荷

(約5%)をとる。高圧蒸気加減弁,再熱蒸気加減弁お

よび低圧蒸気加減弁を前圧制御に投入した後,1台目

HRSGのタービンバイパス弁をバックアップ圧力制御

に投入し,閉止する。ガスタービンおよび蒸気タービン

の負荷上昇を行いながら,2台目以降のHRSGの高圧

蒸気止弁,高温再熱蒸気止弁,低温再熱蒸気止弁,低圧

蒸気止弁を開け,各蒸気管への追加供給を開始する。

 タービンバイパス弁はバックアップ圧力制御に投入

し,閉止する。各蒸気管への追加供給開始においては,

配管の熱応力による寿命消費を考慮し,温度差が規定値

(約80℃)以内であることを条件とする。目標負荷到達

で起動完了とする。起動完了後は,負荷制御に移行し,

中給からの負荷要求指令に沿った負荷運転となる。

2.起動手順-順次起動モード

 順次起動モードはガスタービンを順々に起動していく

起動モードである。

 起動方法は1台目のガスタービンを起動し,そのガス

タービンに対応するHRSGの発生蒸気により,蒸気ター

ビンを起動する。その後,2台目以降のガスタービンを

順次起動し,それぞれのHRSGより追加通気していく。

個々の起動手順は同時起動の場合と同様である。

3.停止手順

 停止手順には蒸気タービンのロータ温度をなるべく高

い状態で停止する暖気停止モードとロータ温度を低い状

543

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火 力 原 子 力 発 電

54

Sep. 2015544

図17 多軸型コンバインドサイクル設備の起動タイムチャート(GT同時起動)(例)

(低圧給水ポンプ起動・

低圧給水ポンプ起動

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Ⅲ.コンバインドサイクル設備

55

Vol. 66 No.9 545

図18 多軸型コンバインドサイクル設備の停止タイムチャート(暖気停止)(例)

低圧給水ポンプ停止

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火 力 原 子 力 発 電

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Sep. 2015

態で停止する冷却停止モードがある。通常停止において

は,次回起動時間を最小とするため,暖気停止モードが

用いられ,保守点検前の停止には冷却停止が用いられる。

ここでは通常停止である暖気停止モードについて説明す

る。

 (1)負荷降下

 ガスタービンを規定のレートに従い,負荷降下を行う。

次回起動に備え,蒸気温度を高く保つため,各ガスター

ビン負荷を蒸気温度が500℃以上を保てる最低負荷(約

50%)まで減負荷し,維持する。

 (2)蒸気タービン解列・停止

 低圧蒸気系統を蒸気タービンから隔離し,タービンバ

イパス運転とする。最後の一系列を残し,順次各HRSG

の高圧蒸気,高温再熱蒸気を蒸気タービンから切り離し,

タービンバイパス運転に切り替え,高圧蒸気,高温再熱

蒸気系統を隔離する。最終HRSGにおいて,高圧,中

圧タービンバイパス弁を圧力制御に投入したのち,蒸気

タービンの高圧蒸気加減弁および再熱蒸気加減弁を閉め

ていくことにより,蒸気タービン解列負荷まで減負荷す

る。蒸気タービン解列負荷(約10%)まで減負荷した

時点で,蒸気タービンを解列・停止し,降速開始する。

 (3)ガスタービン解列・停止

 HRSG発生蒸気を隔離したガスタービンから順次,

ガスタービン解列負荷(約5%)まで減負荷し,解列・

停止し,降速開始する。

 (4)HRSG停止

 ガスタービン回転数が降下したら各HRSG給水入口

止弁を閉し,高圧・中圧給水ポンプを停止する。

 次回起動までの時間を考慮し,必要に応じ復水器真空

を破壊する。

4.系列運用

 プラントとしての負荷調整能力としては,各ガスター

ビンの負荷を同時に下げた状態でのガスタービン全台運

転が好ましいが,プラント熱効率を高く維持するために

は,ガスタービン1台当たりの負荷を極力高くするため,

停止できるガスタービンは停止し,運転ガスタービン台

数を最小化することも考慮にいれなければならない。具

体的には,ガスタービン3台,排熱回収ボイラ3台およ

び蒸気タービン1台で構成される多軸型コンバインドサ

イクルプラントでは,プラント負荷約67%以下ではガ

スタービンを1台停止することで,プラント負荷約

33%以下ではガスタービンをさらに1台停止すること

で,図19に矢印で示すように系列部分負荷時のプラン

ト熱効率を改善することができる。ただし,運転台数切

替に伴う損失があるため,頻繁に運転台数を変更するこ

とがないよう,予め運用負荷帯を予測して運用すること

が重要である。

 また,プラント負荷制御は,ガスタービン燃料流量制

御のみでコンバインドサイクルプラントの負荷を制御

し,蒸気タービンは部分負荷でも高効率運用が可能なよ

うに完全変圧方式(起動停止過程以外では加減弁全開)

を採用している。

5.通常運転

 通常負荷運転では,中給負荷指令に対し追従した負荷

運転となる。多軸型コンバインドサイクル設備では,ユ

ニット総括制御装置が,中給指令に対し,運転中のガス

タービン台数を判断し,運用条件に合わせた負荷運用を

実現する。プラント負荷は蒸気タービンの追従遅れを考

慮し,ガスタービンが主として追従するような運転制御

となっている。通常運転中は各ガスタービン負荷は次の

理由から同一負荷で運転することが一般的である。

 ① 各HRSGの熱負荷を均等にすることにより,各

HRSGから発生する蒸気の温度・圧力を同一にし,

混合部での温度差を微小とし,混合部の寿命消費を

避ける。

 ②負荷変化率を高くする。

 ③ 運転が容易でわかりやすい。また,1軸コンバイン

ドサイクル設備と同様,コンバインドサイクルプラ

ントでは,負荷の増減はガスタービンの燃料量の増

減により制御され,高温・高圧の燃焼ガスを直接ター

ビンに噴射することから,高温ガスが通過する部品

546

図19 多軸型コンバインドサイクル設備の部分負荷特性(例)

60

50

40

〔LHVベース〕

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Ⅲ.コンバインドサイクル設備

57

Vol. 66 No.9

の損傷を防止するために,排ガス温度が許容値を超

えない様に制御する事が重要となる。図21に燃料

流量制御概念を示す様に,通常負荷運転中は,負荷

制御指令により燃料制御されるが,万一排ガス温度

が許容値を超えるような場合には,温度リミット制

御が優先されるため,負荷制御指令に反し,排ガス

温度を降下させるために,負荷ホールドもしくは負

荷降下動作に至る事もある。

6.特殊運転

 多軸コンバインドプラント設備での特殊運転方法を以

下に説明する。

 (1)所内単独運転

 送電系統事故により,運転継続ができなくなった場合,

送電を直ちに遮断する必要がある。この際,送電系統と

の連系を断ち発電所内の負荷のみに電力を供給する形で

運転継続することを所内単独運転という。これにより,

系統回復後迅速に系統への並列,送電する事ができる。

 所内単独運転に移行する場合,多軸型コンバインドサ

イクルプラントにおいては,1台のガスタービンで所内

負荷をとり,残りのガスタービンは系統への再並列に備

え無負荷運転とし,蒸気タービンはトリップする。

 (2)ランバック運転

 燃料ガスの供給圧力が低下するような異常が発生し,

プラントとして定格負荷運転の継続が困難である場合

に,負荷を下げた運転に移行する場合がある。この運転

をランバック運転と言う。燃料ガスの供給圧力低下によ

るランバックにおいては,燃料ガス供給側設備の容量と

コンバインドプラントでの燃料消費量との関係から,ラ

ンバックにより消費量が減少されると供給圧力が回復さ

れる可能性もあるため,各ガスタービンの負荷を一定負

荷まで下げた後,1台ずつガスタービンを解列する。な

お,ランバック運転移行に関してはガスタービン仕様お

よびシステム構成等により異なる場合もある。

 (3)保護

 多軸型コンバインドサイクルプラントの保護は以下の

考え方に沿い保護方式が組まれている。

 ① 熱エネルギーを遮断するために,熱源であるガス

タービンの燃料を遮断する。

 ② 回転エネルギーを遮断するために,ガスタービン,

蒸気タービンを遮断して過速防止を図り,続いて発

電機を解列する。

 ③ 発電機,変圧器等電気事故の場合は直ちに電気エネ

ルギーを遮断すると共に回転力による事故拡大を防

止するため,回転エネルギーを遮断する。

 多軸型コンバインドサイクルプラントにおけるガス

タービン,蒸気タービン,排熱回収ボイラ,発電機

 相互間の保護インターロック基本方式を図22に示す。

おわりに

 本章においては,起動/停止運転および異常時の特殊

運転に重点を置き作成したため,起動・停止と直接関与

しないプロセス制御系の説明は紙面の構成上割愛致しま

した。

 しかしながら,近年の動向を踏まえ,1軸型と多軸型

547

図20 多軸型コンバインドサイクル設備の大気温度特性(例)

図21 燃料流量制御概念

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火 力 原 子 力 発 電

58

Sep. 2015

コンバインドサイクルプラントにおける起動/停止運転

の相違を可能な限り解りやすく記載致しましたので,コ

ンバインドサイクルプラントの運転に関する新人教育資

料として,本講座をお役に立てて頂ければ,幸甚に存じ

ます。

参 考 文 献

(1)「計測制御と自動化(火原協会講座21)」火力原子

力発電技術協会

(2)「複合発電(火原協会講座25)」火力原子力発電技

術協会

548

図22 多軸型コンバインドサイクル設備の相互保護インターロック方式(例)