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外国籍児童の教育問題 国際学部国際学科 学籍番号 20427208 菱谷 幸平

外国籍児童の教育問題 - obirin.ac.jp · それらの問題の中でも筆者は外国人の子どもたちの教育問題について考えていく。外 国人が抱える多くの問題の中で、なぜこのテーマを選んだかというと、筆者のボランティ

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外国籍児童の教育問題

国際学部国際学科

学籍番号 20427208

菱谷 幸平

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目次 序章 論文を書くにあたっての動機 P2 第1章 外国人移住者とその子ども達 P3

第1節 公立学校に通っている外国籍児童 P3 第2節 教育制度 P4 第3節 外国籍児童の教育 P5

第2章 外国籍児童・生徒に対する全国の学校の対応と語学教育の問題 P7

第1節 学校の対応 P7

第2節 日本語指導と適応指導 P8

第3節 母語教育 P9

第3章 相模原市の取り組み P10

第1節 相模原市教育委員会の対応 P10

第2節 相模原国際交流ラウンジの取り組み P12

第3節 相模原市の外国籍児童の実態 P13

第4節 編入の問題 P14

終章 現在の外国籍児童教育に対する筆者の考え P15

参考文献リスト P18

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序章

論文を書くにあたっての動機

近年、通信技術や交通手段の発展に伴い、地球がますます小さく感じられるようにな

っている。商品、資本、情報、サービスなどが地球上を移動し、「ヒト」もまた国境という

枠組を超えて移動するようになった。 「ヒト」の移動が激しくなった現在、日本にも多くの外国人が生活している。日本の入

国管理局の 2005 年の統計によると、外国人登録者数は約 201 万人にも及ぶとされ、これは

外国人登録者数がはじめて 200 万人を突破し、過去最高記録を更新している。このように

外国人の往来が世界でも激しくなっている一方で、労働問題や定住における問題、教育問

題、法的平等の問題などといった様々な問題が生じているのも事実である。これらの問題

を解決し、様々な文化を持った人々が安心して暮らしていける世界をみんなが協力してつ

くっていかなければいけないと筆者は考えた。 それらの問題の中でも筆者は外国人の子どもたちの教育問題について考えていく。外

国人が抱える多くの問題の中で、なぜこのテーマを選んだかというと、筆者のボランティ

ア経験が大きな理由である。 筆者は大学 2 年生のころから外国人の子どもたちに対して、日本語を教えたり、勉強

のサポートをしている。筆者はこのようなことをする前まで、日本に住む外国人に対して

どのような問題があるかなど全く知らなかった。外国の子ども達は日本の子ども達のよう

にとても元気で勉強もがんばる子ども達が多くいた。そのようなことを感じていたが、ボ

ランティアをしていく中で筆者は外国の子ども達が抱える学習面での問題や就学の問題な

どの問題があることを知った。 外国で生まれた子どもは、それぞれに異なった地域や文化のなかで育ち、自分たちの

意志とは無関係に親の都合により日本に連れて来られ、突然異文化を体験することになる。

そのため日本に行くために最低限必要な日本語の勉強などが不十分のまま入国している子

ども達が多い。日本在住の外国人の子どもには、外国で生まれたケース、日本で生まれた

ケース、国際結婚により日本もしくは外国で生まれたケースなど様々な背景がある。様々

な背景を持つ子ども達は日本語が理解できないために学年を下げて勉強をさせられたり、

成績が悪くなってしまったりする。進学をする場合にも外国人に対する対応はまだまだ不

十分である。このような問題が出てきてしまうのは、日本の教育が日本人に対する教育で

あって、外国の子どもたちに上手く適応した教育ではないのではないかということが考え

られる。そして、学習面以外の生活面での問題もある。日本語が出来ないために周りの子

ども達と上手くコミュニケーションがとれずに悩んでしまうことや、外国人だからという

差別を受けてしまうことも現在も残っている。生活面における問題は地域住民がお互いを

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もっと理解することが重要である。そのためにも、理解し合える場を地域で考え、それを

実行に移さなければいけないのではないか。 このように外国から日本に来た子ども達は多くの問題を抱え生活を送っている。その

中でも外国人の子どもたちは、日常生活の中で大きな割合を占める学校生活において、よ

り多くの問題に直面していると考え、とくに学校生活の中心となる教育問題について考察

する。

第 1 章 外国人移住者とその子ども達

1. 公立学校に通っている外国籍児童 近年、日本国内の外国人の増加に伴い、学校では日本語が理解できない外国人の子どもが

増加している。日本に多くの外国人が増加するようになったのは、1970 年代後半のことからである。

フィリピンやタイからの、主に風俗・サービス関係の仕事につく女性外国人労働者を皮切りに、ベト

ナム・カンボジア・ラオスからのインドシナ難民や中国北部からの帰国者、欧米諸国からのビジネス

マンなどが日本にやってきた。そして 80 年年代後半になると南アジアやアラブ諸国からの外国人

労働者やラテンアメリカ諸国からの日系人出稼ぎ労働者、そして日本人との国際結婚によって日

本に移住するようになった外国人が増えてきた。そしてこういった外国人の増加によりニューカマー

の子どもたちも増えていった。 初に注目されたのは、1970 年代から受け入れが始まった中国帰

国者の子どもたちである。そして、1980 年代に入るとインドシナ難民の子どもたちが加わることにな

る。さらに、1980 年代後半からは、外国人労働者の急増に伴い、主に南米からの子どもたちの増

加が著しいと報告されている。[志水 2001:11-13]。

文部科学省は子ども達に対する日本語指導などの現状把握のため、調査を行っている1。こ

の調査の目的は日本語指導が必要な外国人児童生徒の受入状況等を調査・分析することにより、

受入体制の充実に資すると文部科学省2005年度の調査でで述べている。

文部科学省 2005 年度の調査によると、公立小・中・高等学校、中等教育学校及び盲・聾・養

護学校に在籍する日本語指導が必要な外国人児童生徒数は 19,678 人で前年から 3.3%増加して

いる。

学校種別では、小学校 13,307 人(12,523 人)、中学校 5,097 人(5,317 人)、高等学校 1,204 人

(1,143 人)、盲・聾・養護学校 55 人(49 人)、中等教育学校 15 人(10 人)となっている。

1この調査は、平成 2 年 6 月に「出入国管理及び難民認定法」の改正が施行されたことなど

により日系人を含む外国人の滞日が増加し、これらの外国人に同伴される子どもが増加し

たことを契機に平成 3 年度から調査を開始したものである。(平成 3 年度~平成 11 年度ま

で隔年で実施し、平成 12 年度から毎年実施しており、今回の調査で第 11 回目となる。)

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この調査は日本語指導が必要な児童・生徒に限定しているために、ある程度の滞在期間を過

ぎて、日本語指導が必要でないと判断された子どもたちは含まれていない。そのため、外国人の子

どもたちの総数を把握することはできない。公立学校における外国人の子どもの総数に関する調

査は実施されていない。

また母語別では、ポルトガル語 7,562 人(7,033 人)、中国語 4,460 人(4,628 人)、スペイン語

3,156 人(2,926 人)、その他の母語 5,514 人(5,091 人)となっている。外国人児童・生徒の母語(第

一言語)は 54 言語に及び、多様化している一方で、母語別に見ると、ポルトガル語、中国語、スペ

イン語の 3 言語で全体の 7 割以上となり、在籍者の言語には偏りが出てきている。

さらに、外国人の子どもたちの居住地は、特定の地域に集中する傾向がある。文部科学省

(2005)の調査によると、外国人児童・生徒の都道府県別の在籍状況は、在籍数順に、1位愛知

(3,620 人)、2位神奈川(2,219 人)、3位静岡(2,044 人)、4位東京(1,647 人)、5位大阪(1,180 人)

となっている。これらの地域に外国人の子どもたちが集中する傾向にあるものの、外国人の児童・

生徒の在籍校は全国的に拡大しており、分散と集中の2極化にある。

2. 教育制度

外国人の子どもを受け入れなければいけない理由は、1979 年に批准した「経済的、社会的及

び文化的権利に関する条約」、いわゆる「国際人権規約2」である。

「国際人権規約」の第 13 条には、「初等教育は義務的なものとし、すべての者について無償の

ものとする」と規定されており、外国人の子どもに対しても教育を受ける権利を保障している。中西

と佐藤はこの条約について「この条約が規定されているのは小学校のみだが、義務教育である中

学校も同様に扱われるべきである[中西、佐藤 1995:4-5]」と述べている。

また、1994 年に日本は「児童の権利に関する条約」を批准した。この第 2 条では「人種、皮膚の

色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身」な

どによる差別を禁止し、同条約上のあらゆる権利が全ての子どもに保障されることを規定

している。したがって、教育の権利を明記した第 28 条3と教育の目標を明記した第 29 条4

に関する規定においても差別が禁止されることになり、外国人の子どもにも教育を受ける

権利を保障している。こうした国際法が受け入れの理由である。

実際に、就学の希望があった場合に学校は受け入れる必要があり、受け入れ後は日本

2 国際人権規約は、世界人権宣言の内容を基礎として、これを条約化したものであり、人

権諸条約の中で最も基本的かつ包括的なもの。社会権規約と自由権規約は、1966 年の第 21回国連総会において採択され、1976 年に発効した。日本は 1979 年に批准した。なお、社

会権規約を国際人権 A 規約、自由権規約を国際人権 B 規約と呼ぶこともある。 3 締約国は、教育についての児童の権利をみとめるものとし、この権利を漸進的にかつ機

会の平等を基礎として達成するため、特に、(a)初等教育を義務的なものとし、すべての者

に対して無償のものとする。(以下省略) 4 締約国は、児童の教育が児童の人格、才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な

最大限度まで発達させることなど(以下省略)指向すべきことに同意する。

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人の子どもと同様に、義務教育費無料や教科書無償、就学援助などの措置を講ずることに

なっている。しかし、外国人の子どもの場合は就学義務がないため、市町村の教育委員会

では、「就学通知」を出すことはせず、外国人登録をもとにして「就学案内」(1991 年の文

部省初中教育局長通知による)を出している[中西、佐藤 1995:5]。 公立学校での外国人児童・生徒に対する文部省の主な施策としては、まず、1989 年に

「外国人子女研究協力校制度」がスタートしている。つづいて、日本語の指導教材『日本

語を学ぼう』を開発したのは 1992 年、外国人子女等指導資料を作成したのが 1995 年であ

る〔文部省教育助成局海外子女教育課、2000〕。このような現状は「外国人児童・生徒の数

が急増して初めて、政府は対策を立てだした」[塘 1999:15]」と指摘されている。 国レベルで対策に取り組んでいるとはいえ、その歴史は浅く、未だ模索中の段階であ

り、十分な施策が講じられてないと考えられる。 3. 外国籍児童の教育

志水と清水(2001)によると、外国人の子ども達をめぐる問題群を「適応の問題」「言

語の問題」「学力の問題」「アイデンティティの問題」という 4 つに分けられると述べてい

る。 ・ 適応の問題

学校では、外国人児童・生徒が持っている学校についてのイメージや期待、態度・価

値観を知るために、異文化交流・理解という授業などを行っている。しかし、そこでは相

互性が実現されることはまれである。圧倒的な日本の学校文化の圧力の前に、ニューカマ

ーの子ども達がなんとか適応を遂げようとしているのが、おおよその実態である。 日本の学校側の対応は「日本語をいかに上手く習得させ、いかに早く教室に適応させ

るか」という点に偏っており、「外国人が外国人として日本の学校で教育を受けられる」と

いう視点を日本の学校に見出すことは困難である。「国際理解教育」の名のもとに、一部「多

文化教育」的視点にもとづく実践が試みられてはいるものの、現状では、日本の学校文化

のあり様自体が問題にされることはまれであり、外国人の子ども達の「適応」がクローズ

アップされる構造が依然として維持されている[志水、清水 2001:17]。 ・ 言語の問題

志水と清水(2001)によると言語には「生活言語」と「学習言語」の 2 種類がある。

生活言語とは、言葉のとおり生活の中で身につけ活用する言語である。そして、学習言語

とは、「文脈の支えが少なく認知的な負担が大きい場面で発動される」言語である。授業中に求め

られるような抽象的な思考活動に必要なもので、文字を媒介に新しい知識を仕入れたり、内容を整

理・分析したりといった活動に要求される能力である。「生活言語」から「学習言語」に至るには、と

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ても時間がかかると言われている。

また、母語での「学習言語」が確立されているかどうかも、重要な決め手となっている。なぜなら、

「学習言語」領域は母語(第一言語)と第二言語の間で相互作用を及ぼすと言われているからであ

る。 欧米の言語教育研究によって、母語による識字能力とその保持が第 2 言語の習得と認知的

発達に不可欠の要因であることが、かなりの程度明確にされている。すなわち、学習言語を発達さ

せるためには、母語の支えが非常に大事だということである。

母語能力の衰えないしは未発達は、決して日本語能力の向上につながらないのみならず、そ

れを阻害するという問題をもちうるのである。

・ 学力の問題

日本では、マイノリティの学力問題に関する研究が驚くほど少ない。その理由を志水と清水は

「差別をめぐるある種のタブーが存在した」と述べている。このことを具体的に言うと、「能力や学力

によって子ども達を区別して扱うことを不当な差別だと見る差別観」が存在してきたというのである

「志水,清水 2001:20」。

そのため、ニューカマーの学力問題を扱う際に、参考にできるような研究の系譜は存在しない

というのが現状である。

この問題はまだ始まったばかりのものであり、子ども達の生活状況や学力の実態についての

現状把握が出来る段階にまだ達していないのである。もし、なんらかの方法でその実態が把握され

るのなら、間違いなく外国人の子ども達の学力が深刻な問題として認識されるであろう。

・ アイデンティティの問題

後の問題としてアイデンティティの問題がある。これはしっかりと形成されていなければなら

ないものである。アイデンティティの形成に必要とされるものは、学校内での活動や経験のすべて

がこれに関わってくるのだが、外国から来る人はアイデンティティを重複して持っている場合があ

る。

たとえば、ブラジルからの出稼ぎ労働者の子どもはブラジル人としてのアイデンティティと日本

(日系)人としてのアイデンティティの 2 つを有することがある。また在日韓国・朝鮮人もブラジル人と

同じようなアイデンティティを形成している。

このように、2 つあるいはそれ以上の文化なり生活環境なりを経験する子ども達のアイデンティテ

ィのあり様は、決して「あれか、これか」という性質のものではなく、もっと複合的かつ流動的なものと

して捉えなければならないことである[志水,清水 2001:21-23]。

また、アイデンティティを喪失してしまう場合もある。外国人の多い地域では、自治体により外

国人の母語が話せる教員を採用するなど、母語教室を開く試みがなされている。しかしな

がら、地域が限られており、時間的にも限定されているため、子どもが母語を十分に使用

できる環境の維持は難しい。こうした現実では、外国人の子どもたちの日常会話は日本語

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へと移行してゆき、アイデンティティ形成の根拠となり家庭内での共通言語でもある母語

を喪失してしまう可能性がある。

上記の 4 つの問題が多く存在する中で、外国人の子どもたちに対する施策の歴史が浅い

日本では、その子供たちの母語や母文化の喪失という問題まで対策を講じられないのが現

状である。しかし、外国人の子どもの教育問題を考える上でこのような問題を改善してい

くことが重要な課題である。

第 2 章 外国籍児童・生徒に対する全国の学校の対応と語学教育の問題

第 1 章の 3 節でも述べたように、外国人の子どもたちへの教育はまだ不十分なものばかりであ

る。第 2 章ではその中でも、筆者が重要だと考えた問題を述べていく。その問題とは、外国人の子

どもたちへの学校の対応と日本語教育と母語教育である。なぜこの 3 つを挙げたかというと、筆者

のボランティア体験を通して子どもたちの会話や勉強の進み具合に疑問を感じたからである。子ど

もたちの会話はとても流暢に日本語を話していて何も問題はないかのように感じていた。しかし、子

ども同士の会話を通して、日本語と母語が混同して使用されている事に気づき、また学習言語が

十分ではないため勉強になると理解できていないことが多くあるということもこのボランティアを通し

て感じたことだ。やはり勉強が理解できていないことは学校の対応に問題があるのではないかと考

え、学校の対応と日本語教育と母語教育というものについてこの章で述べていく。

1. 学校の対応

外国人の子どもが日本の学校に編入学をする場合に、まず 初に考えなければならないの

が、どの学年に編入させるかである。通常は、年齢に応じた学年へ編入させることが原則になって

いるため、日本人の子どもと同様に年相応の学年に編入させるというのが一般的である。外国人の

子どもの日本語指導に関する調査研究協力者会議(1998)によると、日本語指導が必要な外国人

の子どもの学年配置は、全体の 8 割以上が年齢通りに行われている。しかしながら、日本と教育シ

ステムが違う外国で教育を受けてきた子どもの場合、進級には一定の到達基準が設けられている

国も多く、必ずしも同年齢の子どもが同学年に在籍するとは限らない。つまり、到達基準をクリアす

ることにより進級が決まるシステムのもとでは、飛び級も落第もあり得るのである。したがって、外国

人編入学者を一律に年相応の学年に編入させると「空白学年」が生じる恐れがあると指摘されてい

る。さらに、同学年の子ども達がそれぞれの国において日本と同じ内容を学習しているとは限らな

いため、より細かな教育環境の調査が必要である。

学校が子ども達を受け入れるときに配慮しなければいけないこと言語だけに限られない。それ

以外にも、ものの考え方や見方、生活習慣、価値観などの違いにおいても考えなければいけない。

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このように環境が違うことによって差別やいじめが起きてしまう場合もある。そのためにも、学校側は

国際理解などをしてどのようにして外国人の子どもが学校に溶け込めるかを考えなければいけない。

現在外国人の子どもを受け入れている学校で 初に行われるのが日本語指導と適応指導である。

2. 日本語指導と適応指導

外国人の子どもは、日本の学校に編入学した段階で日本語の理解力が不十分であると判断

されると、多くの場合日本語指導を受けることになる。指導の仕方については地域によって違うが、

日本語指導の定義として、子ども達が「学校や学級での生活に支障をきたさない程度に日常会話

ができ、ひらがなが書けることということがある。いくつかの学校では、日本語の指導はこれまでは

日本語指導と適応指導(生活適応指導)とカタカナ、そして簡単な漢字の読み書きができるように

彼らを指導するものである[太田 2000:170]。

日本語指導のほかにも適応指導がある。外国から来た子どもが日本の学校に通い始めると、

多くの場面で自国の学校との相違に遭遇することがある。集団での行動や協調性を大事にする日

本の学校では多くの規則の遵守が子どもに求められる。そのために、適応指導というものが作られ

日本語指導と同じように適応指導も行われている。現在でもこれらの指導が日本の学校で行われ

ているが、この2つの指導の方向とその範囲をどのように設定するのか、また公立学校の中の日本

語学級で何をどこまで為し得るのかという事が、今後の日本語学級の存在意義をも含めた問題に

なっている。

日本語の指導はこれまでは日本語指導と適応指導に分けられると言われていたが、ここで言

う適応指導とは生活適応指導の事を指していて、日本語指導も言い換えれば学習適応指導であ

ると筆者は考えた。

日本の学校に子どもが適応するとき、日常会話がある程度成立していれば大抵の問題

は解決する。実際に日本の学校に 1 年以上在籍すれば、ほとんどの子どもは担任から次の

ような評価を得るようになる。「日常会話に不自由することはないし、学校生活にも慣れ親

しんでおり、日本の子どもと何ら異なることもなく、とくに問題となることはない[太田

2000:171]。」 しかし、多くの子どもがこれに当てはまるものではない。このように評価されるのは日常会話が

ある程度成立しているということが重要で、意思の疎通がとれなければいけないことではないのかと

筆者は考えた。

筆者がボランティアしている子どもとの会話を通してわかったことは、自分の意思を思うように

伝えられないという事は非常につらい事で、しかもその事を訴える相手も限られているため、内にた

まっているものはかなりたくさんある。その中でも、学級の友人関係でトラブルが生じた時など、かな

りストレスがたまるということもわかった。

特に内向的な性格で、自己表出がうまく出来ずに学級の中で孤立しているような子ど

もには、常に教員の側から声をかけてやり自己表出をさせながら、会話する機会を多くと

ってやるような配慮も必要ではないのか。

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学習適応の場合は問題も少し深刻になってくる。なぜなら、日常会話で使う言葉と学

習で使う言葉はかなり違うからである。単語の羅列だけでもなんとか意味の通じる会話と

違い、学習で使う言葉はかなり複雑で、量も多い。更に漢字の理解力も必要となると、文

法や日本語の言語としての知識が必要である。かなり会話能力をもった子も該当学年の内

容を理解するのは困難で、学年を下げて指導しなければならないような状態になっている。

特に社会などは、異なる文化・異なる歴史をもった社会の成り立ちや仕組みを学習する訳

である。そして理科のような用語自体が普段あまり使われなく、専門的知識が必要なもの

については理解がかなり困難になってしまう。 ただし、子ども達は知識が全く無いという訳ではなく、日本語としての知識を持って

いないだけで、母語における知識はそれぞれの年齢・学年に応じたものを持っているため、

言語の障壁が彼等の知識の習得と保持を疎外しているという事は、日本語指導をしていく

うえで考えていかなければならない。 外国人の子どもの知識習得のためどこまで指導できるのか、そのための可能な手段や

方法をどう追及するのか。それとも会話が出来て学級での友人関係がうまく作れるかどう

かという程度で良いとするのか。公立学校の中の日本語学級で何が出来て、どこまで出来

るのか。こういった事がこれからの大きな課題となるのではないか。 3. 母語教育

日常生活の大半を占める学校内で、外国人の子どもが母語を使用する機会は極めて限られ

ている。学校には、彼らの母語を話せることができる教員や友達がほとんどいないのが現状である。

同じ言語圏の外国人の子どもが多くいる地域でも、学校側では日本語に少しでも早く慣れるように

という教育上の配慮から、外国人の子ども達を別々の学級に入れる方針をとる学校もある。外国人

が多い地域では、自治体により外国人の母語が話せる教員を採用させたり、母語教室を開く試み

がなされている。しかし、地域が限定されており、時間的にも限定されているため、子どもが母語を

十分に使用できる環境の維持は難しい。こうした現状では、外国人の子ども達の日常会話は日本

語へと移行していき、家庭内での共通言語でもある母語を喪失してしまう可能性がある。日本語が

発達するのでいいのではないかという考えもあるが、母語の発達は外国人の子ども達の学習を支

える上でも重要な役割を果たすものである。Cummins によれば子どもの第2言語の習得は、母語が

どの程度発達しているかに著しく影響を受け、そして、子どもの第2言語における言語能力は、す

でに母語で獲得した言語能力のレベルに依存しており、母語の言語能力のレベルが高いほど第2

言語でも高い言語能力のレベルを獲得しやすくなるが、一方で母語での言語能力のレベルが充

分に達していないと、第2言語での言語能力の発達も難しくなるということが述べられている

〔Cummins 2002〕。

外国人の子どもが日本の学校で学ぶためには、日本語の習得が不可欠であることは先述した

とおりである。しかしながら、教科学習をするための十分な日本語能力を獲得するには長期間かか

るため、多くの子どもたちは、日本語能力が未熟のまま授業に参加することになる。Cummins の考

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えから、第1言語の言語能力を考慮して、第2言語である日本語指導をおこなっていかなければい

けないと筆者は考えた。

もともとなぜ日本語指導が必要とされているのかを考えてみたい。その理由は「日本語がわか

らなければ授業についていけないし学校生活にもなじめないので、何よりもまず日本語を教える必

要が[太田 2000:178]あるからである。この理由で、現在も日本語教育が続けられているのだが、

そこから問題が出てくる。

初に、学校では生活上必要な日本語を教えているので、適応指導でも述べたように、授業

を理解するために必要な学習や思考を伴う言語能力に関してはほとんど手付かずの状態となって

いる。この現状から、教科の授業についていくことができない。

次に、第 1 言語の習得が不十分な子ども(特に低年齢の子ども)の場合、日本語習得の過程

が母語喪失の過程になってしまうことである。低年齢のうちは母語が習得されていないことが多い。

母語の習得が不十分なまま、日本語を習うことによって母語を忘れてしまう。さらに、日本語におけ

る学習能力も日本語教室だけでは習得できない。この結果から第 1 言語と第 2 言語ともうまく習得

できないということになってしまうという問題も出てきてしまう。

日本語指導や適応指導のような日本語に対する指導は問題を多く抱えながらでも行われてい

る。しかし、第 1 言語に対する指導はほとんどされていないというのが現状である。第 1 言語は第 2

言語に大きく影響され、そのことが理由で学習も遅れてしまう。この問題を解決するためにも第 1 言

語の習得にも力をいれなければいけないのではないか。

外国人の子どもたちに対する施策の歴史が浅い日本では、その子どもたちの母語や母

文化の喪失という問題まで対策が出来ていないのが現状である。しかし、母語教育は外国

人の子どもの教育問題を考える上で重要な課題である。

このように母語教育と日本語教育両方がとも十分に行わなければいけないということがこの節

で論じてきたことである。

その中でも、第 1 言語である母語で会話のできる場所は家庭か自治体のボランティアで行わ

れている日本語教室というのは外国人のこどもの学習面でどのような効果があるのか。子ども達に

とっては、同じ境遇にある子どもと自分のペースで自分の思うことを自分の言葉で自由に表現でき

る貴重な存在でもあり、学習面や精神面においても良い働きをしているのではないか。学校とどの

ような関わりがあるのか、第 1 言語で話せる場所としてある自治体で運営されている日本語教室の

活動などについて第 3 章で論じていく。

3 章

相模原市の取り組み

2 章では学校の対応、日本語指導と適応指導、母語教育についての問題点などを挙げて

きたが本章では教育委員会の対応と相模原国際交流ラウンジの取り組みから、これらの問

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題についてどのような対応をしているのかを論じていく。 1. 相模原市教育委員会の対応

相模原市では、昭和 62 年から外国籍児童・生徒教育を推進し、受け入れや指導体制の

整備、個別指導の充実を図り、国際教育という視点から学校教育全体の中で指導に当たっ

ている。このねらいは相模原市の学校に通う外国籍児童・生徒に学校生活を送るうえで日

本語を習得させ、学校生活の適応を図っている。指導方法として相模原市では日本語巡回

指導や適応指導を行なっている。本節では教育委員会がどのような取り組みを行い、生徒

への配慮の仕方について述べる。

編入までのながれ まず、日本に来日し、住所を決定してから戸籍住民課窓口において外国人登録を行なう。児

童に就学の意思があるとき、学務窓口において就学手続きを行なう。そこでは、外国人就学申請

書の記入と学校教育課での面接がある。

平成 18 年度第 1 回国際教育担当者研修会の資料によると、面接では日本語の習得状況の

把握、強化の学力の把握、学校長の連絡などが行なわれる。その後、学年学級の決定がされる。

そのときには、給食費や PTA 会費、教材費等の納入方法の説明、学校生活に必要な用具の説明

がされる。

日本語巡回指導者と日本語指導協力者について

平成 18 年度第 1 回国際教育担当者研修会の資料によると相模原市では、外国籍児童・生徒

数の増加に伴い、昭和 62 年度に非常勤講師を日本語巡回指導講師として、日本語指導を要する

児童・生徒が在籍する小・中学校へ派遣することを開始した。当初、2 名の講師で開始し、その後、

順次増員を図り、平成 14 年度から 17 名で対応している。

Ⅰ)日本語巡回指導者 日本語巡回指導者は教育職員免許法を有する者の中から教育委員会が委嘱する。

委嘱期間は 1 年間(4 月 1 日~3 月 31 日)としているが、必要と認めた場合は更新す

ることができる。 勤務日及び勤務時間は、1 回の勤務につき 3 時間を越えない範囲内で、学校教

育課長が割り振るものとする。この場合において、1 日にやり振ることが出来る勤

務は 2 回程度とする。 日本語巡回指導者が指導する場合、指導課長が定めた日本語巡回指導計画によ

り、指導対象児童の学級担任と連携を図りながら日本語指導計画を作成し、学校長

の定める指導場所において学級から児童を取り出して個別指導を行なう。しかし、

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休み時間は教室に戻すことを原則としている。 学校での指導は、2 単位時間(2・3 校時)を基本とし、学校長の意向を受け学校

教育長が定めている。また、特別時間を設定しなければいけない場合は、別途時間

を定めている。 そして、毎回指導後には、指導内容を報告用紙に記入し、教頭に提出する。ま

た出校時と退校時には、教頭あるいは教務担当の先生にあいさつをする。

Ⅱ)日本語指導協力者 日本語が理解できない児童に対して学校生活に早く適応できるよう、児童の

母語が話せる協力者を学校に派遣することを平成 2 年度から開始している。日本語

巡回指導者と一緒に日本語を教えることもしている。平成 18 年度日本語指導協力

者の登録者の言語別内訳人数として、中国語 10 人、スペイン語 4 人、タガログ語 6人、ポルトガル語 3 人、韓国・朝鮮語 8 人、ラオス語 2 人、タイ語 1 人、カンボジ

ア語 1 人、ベトナム語 1 人となっている。

国際教室について

平成 18 年度第 1 回国際教育担当者研修会の資料によると外国籍児童が速やかに日本の

小・中学校の学習や生活に適応し、さらにその特性を十分に生かせるよう受け入れ指導、

適応指導の充実に努め、あわせて国際理解の充実を図る。位置づけとして、日本語指導を

要する児童が学校に 5 名以上いる場合は外国籍児童・生徒教育推薦研究校として県に申請

し、国際教室が配置され、担当教員(日本語巡回指導者)が加配される。対象児童・生徒が 20名以上在籍する場合は、加配教員が 2 名となる。 相模原市のある学校の計画例として、外国籍児童が計 9 人いる学校では、加配教員が週

22 時間授業を行なっている。指導の仕方として、グループで取り出して指導したり個人で

指導するときもある。さらに、学級の中に入り込んで指導する場合もある。 相模原市では日本語指導や適応指導を行い、国際教室を開くなどして、外国籍児童への対

応を進めていった。しかし、日本語指導などを行なっていくうちに生徒が抱える悩みなどにも指摘さ

れるようになった。筆者もいくつかの生徒と接することによって感じたことがあったので、つぎに生徒

の悩みや学校の対応の問題について論じていく。

外国籍児童の多くは、生活習慣の相違や言語の問題、日本での生活基盤や家庭環境の問題

などの課題も多く、心理的な面で不安や悩みを抱えている。また、学校生活に支障をきたしている

のもすくなくない。それまで生活してきた母国と日本の生活様式や行動様式、文化や伝統、考え方

や価値観などの違いから、日本の生活になじめず、ほかの生徒から誤解されたりするばかりか、トラ

ブルに発展するケースもある。教科の学力の保障や中学校卒業後の進路問題も重要な課題であ

る。 近では、日本語を身につけた子どもと日本語をほとんど話せない保護者との間でのコミュニ

ケーションの不足からくる親子関係の問題も指摘されている。

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このような状況のなかで、相模原市の学校においては外国籍児童が日本の生活に慣れ、速

やかに学校生活や学習に適応できるよう、指導体制の設備や充実を図るなかで支援していくこと

が不可欠である。同時に彼らが海外の生活で見につけた特性や経験を保持していかなければなら

ない。また、外国籍児童が海外で身につけた言語や文化・国際性・母語での生活経験などを広く

学校教育のなかで活用し、異文化の理解をしてもらえるよう努力していかなければならない。

2. 相模原国際交流ラウンジの取り組み

相模原市では教育委員会のほかにも、相模原国際交流ラウンジという施設でボランティア組

織による外国籍の人に対する支援を行なっている。この施設の目的は、外国人と共に生きる住み

良い環境づくりを進めるために、相模原市に在住する外国人市民への情報提供の場、外国人市

民及び外国人市民を支援する団体の活動の場、国際交流の場として活用するために設置された。

この団体が設置された背景として、相模原市の外国人登録者数が、1996 年 8 月末当時

5,762 人で、相模原市の総人口 579,103 人(1996 年 9 月 1 日現在)の 0.99%を占めるようになって

いた。登録の状況についてみると、当時は数年の内に急激な増加を示しており、特に平成に入っ

てからはその増加も著しく、登録者数は 5 年間で 2 倍を超えていた。 そのため相模原市では、

1993 年度に「さがみはら国際プラン」を策定し、1994 年度には「国際交流基金」を創設し、1995 年

度には「外国人相談窓口」を開設するなど、プランに従って順次施策を進めてきた。 また、外国人

への情報提供が一元化されていないことや、外国人及び外国人を支援するボランティア団体の活

動の拠点が確立していないことなどの問題があったことから、外国人、市民、ボランティア団体が集

えるラウンジが設置された。

国際交流ラウンジでの主な仕事は支援・交流・情報の 3 つに分けられる。支援とは外国籍市

民への日本語支援や相談支援、災害時における救済支援である。そして、外国籍市民との行事な

どを通しての積極的な多文化交流、外国籍市民への生活に必要な情報、災害時の緊急情報など

の提供の2つである。

ほかにも、国際交流ラウンジでは日常の管理等を行うために、専任スタッフが1日3交替で勤

務し、それ以外にネイティブスピーカーからなる言語スタッフが原則1言語ずつ交替で、1日5時間

勤務している。(言語スタッフは、英語、中国語、朝鮮・韓国語、スペイン語、ポルトガル語、タイ語、

カンボジア語、タガログ語の8言語のスタッフを配置し、対応している。)

母語教育にも交流ラウンジでは力を入れている。2 章でも述べたように、第 2 言語を習

得するには母語が身についていなければ第 2 言語の習得もできないと考えられている。 実際、交流ラウンジで日本語を習っている児童には、母語が身につく前に連れられてきた

児童が多いため、言語スタッフによる母語教育をするようになった。 筆者もこのラウンジでボランティアを行なっている。そのなかで、1人の外国籍児童にインタビュ

ーを取り、その児童を担当している先生からも授業をどのように進めてきたかなどの話を聞くことが

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出来たので、そのことを論じていく。

3. 相模原市の外国籍児童の実態

今回インタビューを行なった相模原市に住む外国籍児童は、今年度7月に来日し、相模原市

の学校に編入した。編入当初、日本語は全く話せない状態であり、土曜日毎にボランティアで行わ

れている日本語教室に通ったり、親戚の人に教わったりで、ひらがなを或る程度読み書きする事は

出来た。しかしそれは、文字を読めるというだけで、言語として理解しているというようなものではな

かった。したがって、日本語学級での授業は、日本語ゼロの状態から始めなくてはならなかった。

第一に教えた事は、学校生活で必要な緊急避難的な用語、たとえば「トイレに行きたい」、「水を飲

みたい」、「わかる」、「わからない」等々、すぐにでも必要な用語。そして次に、簡単な日常会話、ひ

らがなと簡単な漢字、というような具合に順々に少しずつ進んでいくというような学習をやってきた。

また、在籍学級からの取り出しも可能な限り多く組む事で、ある程度の言語習得が出来るまで

の時間短縮を図った。日本語学級での集中指導を行うと同時に、図工、音楽、家庭、体育などを

在籍学級で受け、児童同士の交流の中からの日本語習得も進めていった。さらに、日本語指導に

あたってはスペイン語を使用し、言語の置き換えをしてやることで、理解・習得の手助けとなるように

していた。

また、6年生後半の編入という事で、中学までの時間もあまり残されていないので、言語習得の

ための学習を進めながら算数の授業も行っている。もちろんこの場合は知識の習得が目的である

ので、日本語にこだわらず、スペイン語を使って行うようにした。このような形で指導することにより、

彼が現在持っている知識を保持するとともに、新しい知識を母語により習得する事が出来る訳であ

ると先生は言っていた。しかし、今後は日本語による授業の中での知識習得を要求されるようにな

る訳であるから、知識習得のために使ったスペイン語も一つ一つ日本語に置き換える事により、算

数用語の習得と、教科書等で使われる質問や問題のパタ-ンを日本語で覚えていく事を指導して

いく。

その児童を担当していた先生いわく、そのような実践を続けていく中で、彼の持つ知識が日本

人の6年生のそれと大差ない事がわかってくる。つまり問題は、言語を理解しているかという事なの

である。現在持っている知識にしても、言語が理解出来なければ、全く意味の無いものになってし

まう訳であるから、外国籍児童が抱えている問題というのは想像を越えたものである。また、外国籍

児童に対し日本語だけで授業をするという事は、言語理解の面だけでも相当の時間をかける事に

なるし、それに費やす時間が新たな知識の習得を疎外する事にもなるので、この知識の空白期間

の問題というのは、外国人児童の指導にあたっては、 も重要な課題である。

筆者も国際交流ラウンジで外国籍児童に算数など教えていくうちに、学力の問題よりも、日本

語をどの程度理解しているかが重要だと感じた。言語の問題が進学などに関わってきているのであ

る。

4. 編入の問題

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次に児童が通っている学校での問題を論じていく。学校で通う場合同年齢の集団に入った場

合、インタビューを行なった児童から精神的につらいということを聞いたのでそのことについて論じ

ていく。

外国籍児童・生徒が日本の学校に編入される時、多くの場合が同年齢集団の学級へ編入され

るのだが、実際に学校への適応という事を考えた時、果たして同年齢集団に編入することが、適応

を進める上でいい方法なのか。筆者も同年齢の集団への編入が、適応を進める上で効果的である

と考えていた。特に思春期を迎えた児童・生徒にとっては同年齢の集団の方が精神的に落ち着く

し、問題が起こりにくいはずとも考えた。異年齢の集団に編入することは、児童のプライドを傷つけ

たり、学級内でのコミュニケーションを疎外するはずで、同じ年齢の子どもたちは同じ集団でみてい

った方が問題が起こりにくいだろうという考えが筆者にあった。しかし、インタビューを行なった児童

は母国で習ったことよりも先に授業が進んでいたため、精神的につらかったと言っていた。

外国籍児童が日本に来た際、その日本語力というものは殆どの場合ゼロの状態できている訳

であり、そのままの状態で同年齢集団に編入する事は非常に乱暴なやり方になってしまう。その児

童・生徒の言語力に合わせて、学年を下げて編入するのが も効果的な指導がすべきではないの

か。それでも、適応指導の時期には、ゼロからの出発という事で、日常会話、その中でも学校生活

で差し当たって必要となるような言葉から教えていくので、落とした学年の授業についていけるよう

になるまでにも、かなりの時間が掛かる。そしてその中で彼らは学校への適応を図らなければなら

ない。年齢の問題ではなく、異言語話者集団に対しどのような対応を図っていくかという事が、 も

重要なことである。

言語の問題など児童のおかれている状況を改善していくには、学校での対応や国際交流ラウ

ンジでの取り組みも重要であるが、外国籍児童が学習に対して意欲を出していかなければいけな

いし、そのために言語というものが障害にならないよう、先生などの教え方が重要になってくる。ひ

とりひとりに合った学習の仕方などを考え先生やボランティアのスタッフなど児童の回りにいる人が

サポートをしていかなければならない。

終章

現在の外国籍児童教育に対する筆者の考え

近年、日本では外国人の増加に伴い、日本語指導が必要な外国人の子どもが増加してきてい

る。こうした子どもたちを受け入れる公立小学校および中学校では、これまでにない対応が迫られ

ている。日本の学校では、日本語が話せず日本の生活に馴染みのない子どもたちが、日本の学校

で学んでいくために、「日本語教育」が行われる。学校生活を送るうえで重要な日本語教育である

が、日本の学校で学ぶことを目的とするのであれば、教科の習得を考慮に入れた日本語指導が行

われなければならない。

Cummins(1984)によれば、教科学習を理解するためには「学習言語」が必要であり、その習得

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には 5 年以上かかる。したがって、長期間の指導体制が必要となるが、現状では日常会話ができる

ようになると日本語には問題が無くなったと判断され、日本語指導が打ち切られてしまう場合があ

る。

日本語指導が「取り出し指導」として、編入時から半年ほどの期間で設けられている場合、その

目的が日常会話の習得に留まる可能性が高い。適応指導の一環としての日本語指導であれば、

日常会話が身についてくることで、学校内で問題行動をとることが減るために、外国人を「特別」に

指導する必要はなくなるのである。また、その期間で、「学習言語」の習得を含めた教科学習を理

解できるまでの日本語力を身につけるのは困難である。今回のインタビューなどで、日本語指導者

の日本語指導の目的に日常会話の習得と教科学習の習得という2つに差があると感じたのも、日

本語指導の期限が決められているためだと考えられる。教科学習の習得を目的とした場合でも、限

られた時間内での指導では、その目的をクリアすることはできない。したがって、半年程度の日本

語指導で外国人の子どもに対する配慮が終了してしまうということは、教科学習が理解できないま

まに授業参加を強いることである。また、現在日本語指導は必要ないと判断された児童・生徒の中

にも、実際のところ、教科学習のための日本語は身についていないという児童・生徒が多くいると筆

者はボランティアを通して感じた。今後は、日本語指導の目的が、教科理解のための日本語指導

であることを明確化し、その目的に合った指導を行い、長期にわたるサポートを行うべきである。

また、日本語の習得は、単に学習者と指導者の2つの関係で成り立っているものではなく、学

校、担任教師、日本語指導者、クラスメート、学習者のやる気といった全ての環境が整わないと上

手く機能しない。しかし、日本語指導を学校の外部の指導者に任せているような場合には、教科学

習と日本語指導が独立した状態で行われている傾向がある。今回先生へのインタビューから、日

本語指導者が担任との連絡を密にとりたいと考えているものの、双方向の連絡体制が整わず、担

任の考え方によっては学級での様子が日本語指導者に伝わらない問題があることが分った。担任

教師と日本語指導者の連絡や連携ができない状況では、効率的な日本語指導が行えず、在籍学

級での授業理解の妨げとなる。子どもの日本語教育には、一貫性を求めなければ無意味なものに

なりかねない。したがって担任教師は、日本語指導をしないまでも、言語はどのようにして学ばれる

かなどの日本語学習の知識が必要である。

外国人の子どもといっても国、民族、文化、母語、母語の言語能力、教育歴、性別、年齢など

様々な要因を持った子どもたちである。これらの特徴を把握しなければ的確な対応ができないのは

当然である。しかしながら、そのような日本語指導体制は完全に確立されておらず、日本語指導に

おける今後の課題である。

母語教育に対しても、もっと積極的に勉強ができるよう自治体が取り組んでいくべきである。相

模原市では、日本語協力者として外国籍児童に何人かつくが、それは日本語でわからないことが

あった場合のサポートなので、母語による教育はされていない。さらには、外国籍児童と同じ母語

が話せないという場合もある。そういった状況にたいして、母語による教育を行なう工夫やそれに当

てる時間も必要なのではないか。

母語の学習機会が、多様な言語背景を持つ児童のメンタル面での成長を促進し、情緒的な安

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定とアイデンティティ確立を支援する役割を果たしているということがボランティアを通して確認でき

た。また母語教育の言語教育としての目的は、幼い子どもや定住型の子どもには親子のコミュニケ

ーションを円滑なものにするため、母語の確立している子どもには母語のスキルアップや母語を使

った学力保障のため、また非定住型の子どもには帰国後の準備のためと、子どもの年齢や環境に

よって多岐に渡って設定されなければいけない。それ以外にも、母語教室の場が友達づくりの場

であったり、情報収集の場であったりする意義もでてくるはずである。母語教育と一口に言っても、

それぞれの環境とニーズによってさまざまな目的があり、それに応じた多様な役割と柔軟な対応が

求められる。

そして、日本の生活習慣への適応も考慮しなければいけないことがわかった。生活習慣の違

いについても認識と理解を心掛けなければならない。生活習慣については国によってかなり異なり、

単なる生活上のものから宗教上のものまで様々である。それぞれについて出来るだけ多くの情報

を収集し、児童が日本の生活習慣とのギャップで悩んだりする事がないように配慮してやる事が必

要である。食生活の違いのため食べられないものがあったり、体育着に着替える事を嫌がる子ども、

ピアスをしている子ども、学校でおやつを食べていた子ども、具体例を挙げれば様々なものが出て

くるが、全て日本の学校ではこうだからといった押し付けはすべきではない。その違いを日本人の

児童が素直に認めてやれるような環境を作っていく事が必要なのではないか。違うことをすると外

国人のわがままという把え方をしがちだが、文化の違いを認識理解するという事は、そういう事なの

ではないだろうか。

生活習慣の違いを認めると同時に、歩み寄るという視点で生活指導をしても構わない。外国籍

児童と日本の児童に相違が見えた場合、十分に話し合い、納得・理解を得た上で、みんなと同じよ

うにさせる事が必要である。また、場合によっては親との話も必要になる事もあるが、その際も事情

については十分に説明をし、納得してもらう事が必要である。いずれの場合でも、日本の児童につ

いては、違う生活習慣、違う文化というものを理解させた上で、みんなと同じだからという観点では

なく、日本の学校に少しでも早く慣れる事が出来るようにという観点で話をすべきである。

今回の児童のインタビューや国際交流ラウンジのスタッフの方や教育委員会の方の話しを聞く

ことによって、学校の教師が多忙であることが、外国人の子どもに対する望ましい教育の体制づくり

を阻害しているという見方もあったが、基本的な連絡事項も行えないほど多忙であるとすれば、基

本的な教育制度そのものに問題があると考えられる。こうした制度の改善と共に、今後は外国籍児

童への総合的な教育システム作りが必要である。

日本語指導の目的が教科の理解であるということを明確化し、「取り出し指導」としての集中的

な日本語指導終了後も、教科指導を目的とした長期に渡るサポート体制を整える。

学校、担任、日本語指導者、家族の連携を図る仕組みを整える。

これまでの指導方法や教材を外国籍児童のニーズに合わせて適切に活用していけるように

するのと同時に、多様化する外国人の子どもに対応できるように改良や開発を進める。

多様化する外国人の子どもに対応するために子どものバックグラウンド(母国、母語、母国で

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の教育歴、学習状況、家庭環境など)を十分に把握するための調査を行う。

母語を考慮した日本語指導を行い、将来的には、母語発達のサポートを行う。

このような個人個人に対応した教育システムを構築していかなければ、多様化した外国人の子

どもに対する十分な教育は不可能である。日本の子どもたちでさえそれぞれ違った個性を持って

いるのであるから、個性重視の教育が求められる現代では、外国人だからといって「特別視」するの

ではなく、どの子どもにおいても特徴的な個性があるということを認識して教育方法を考えていかな

くてはならない。

最後に、本論文にあたり日本語指導者をご紹介頂いた相模原市の職員の方やご協力いた

だいた相模原教育委員会、国際交流ラウンジのスタッフ、インタビューにご協力いただい

た方、そして、日本語巡回指導者の方や公立学校の先生に厚く御礼申し上げたい。また論

文作成過程において暖かい励ましと多岐にわたるご支援をいただいた多くの方々に心より

感謝申し上げたい。

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参考文献

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参考 HP

相模原市教育委員会HP(2006,10,25) http://www.sagamihara-kng.ed.jp/kyouiku/

相模原市教育委員会HP(2006,10,25) http://www.sagamihara-kng.ed.jp/kyouiku/

文部科学省HP(2006,11,25) http://www.mext.go.jp/

参考資料

平成 18 年度 第 1 回国際教育担当者研修会

~国際教室の運営及び日本語の指導について~