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小児看護,40 ⑹:698-705,2017.698
急変予知に向けた院内でのシステムづくり〜 RRS 導入と看護師の気づきが子どもを救う〜
特 集
PEWSS 導入の目的:メンタルモデルの 共有と効率的な業務の変革
簡便な「病態評価」とその結果の「可視化と情報共有」は,医療の質の向上と安全の確立への第一歩となる。当院では入院患者全例に PEWS(Pediatric Early Warn-ing Scores,小児早期警告スコア)を2011(平成23)年に導入し,さらに2013(平成25)年には外来トリアージのスコアリング・システムとしても導入した。小児外来におけるトリアージ・システムと小児病棟における院内急変対応システムという2つのシステムが,PEWSS(Pe-diatric Emergency Warning Scoring System,小児早期警告スコアリング・システム)という共通言語で結ばれ,連続性を保つことを可能にした1)。 元来,病態や疾患ごとに複雑な看護記録や申し送りに陥りがちな看護業務に PEWSS を導入することで,緊急度を重視した全職員の医療安全の意識のメンタルモデルの共有を促し,効率的な業務の変革をももたらす効果
を期待した。来院したすべての子どもの身体評価とバイタルサイン評価が,電子カルテ内にリアルタイムに発信され,院内の全 IT 端末での「可視化と情報共有」を実践している。現在運用している PEWSS 2016 Ver. を図12) に示す。
PEWSS の実際
1.Zero Stage:危急病態の認識(図1) ①緊急気道,②心停止・呼吸停止,③乳幼児突発性危急事態(チアノーゼ・呼吸停止),④病院前意識障害・けいれん,⑤進行する意識障害,⑥アナフィラキシー 上記6項目はトリアージ担当看護師および病棟担当看護師の判断に全権限を与え,該当する場合は,直ちに救急初療室および適切な処置が可能な病室への転送を徹底させた。チェックボックスを電子カルテ内に配置した。
RRS 導入の実際
総合病院における RRS①小児早期警告スコアリング・システム(PEWSS)導入とその実際
梶原多恵 Kajiwara Tae北九州市立八幡病院小児救急センター看護部/小児救急看護認定看護師
Key word PEWSS(Pediatric Emergency Warning Scoring System,小児早期警告スコアリング・システム)
要 旨 医療の質の向上と安全の確立への第一歩として,迅速な「病態評価」とその結果の「可視化と情報共有」が求められる。北九州市八幡病院小児救急センターでは,2011(平成23)年に入院患者全例に小児早期警告スコアリング・システム(PEWSS)を導入し,さらに2013(平成25)年には外来トリアージ・システムとしても導入を開始した。その効果と看護師教育ツールとしての運用を紹介する。
小児看護 第40巻第6号 2017年6月 699
2.First Stage Pediatric Initial Impression;初期評価(図2)
この段階は,詳細な対象患者の状況認識と評価の段階となる。外観評価と体温(A)・呼吸(R)・循環(C)の3つの大項目の下に,小項目3項目を設定し,全9項目の総点をPEWS総点とした。各項目の素点は3・2・1・0の4段階とした。(正常範囲・無症状の場合0点)。
2.1 外観評価と体温(A)2.1.1 AⅠ;表情と筋緊張の評価(図2) 以下の3項目の加点をAⅠの素点とした。 加点4〜6点を PEWS・AⅠ=3,加点2〜3点をPEWS・AⅠ=2,加点1点を PEWS・AⅠ=1,加点0点を PEWS・AⅠ=0
AⅠ - ① Face & Eye;表情・視線 □ ふだんどおり,笑顔,視線が合う(0点)
図1 当院における PEWS のスコアリング・シート
□ 緊急気道 □ 呼吸・心停止 □ 乳幼児突発性危急事態(チアノーゼ・呼吸停止)□ 病院前意識障害・けいれん □ 進行する意識障害 □ アナフィラキシー
評価必須項目は,9項目(AⅠ~Ⅲ,RⅠ~Ⅲ,CⅠ~Ⅲ)をそれぞれ 0~3点で加点し,PEWS総点とする•RⅡ,CⅠに関する算定方法: RⅡは【SAT】【OX】,CⅠは【SK】【CRT】のいずれかを評価し,RⅠ,CⅡの点数する。•RⅠに関する算定方法 : 「陥没呼吸」「喘鳴」「呼気/吸気 時間比」 の3項目いずれかを評価し,素点の高い因子をRⅠの点数とする。
表情・筋緊張活動性【FELT-AI】
スコアリング評価法は図1参照
意識 GCS(E/M)
意識 GCS ( V )
体温(℃)【BT】
言語・機嫌精神的安定【SCC】
皮膚色【SK】
心拍数【HR】
脈拍【PR】
CRT【CRT】
or
努力呼吸【RE】 陥没呼吸 喘鳴(Gradeは図1参照) 呼気/吸気 時間比
心拍数【RR】
酸素投与【OX】
SpO2 (%)【SAT】or
or
or
灰色チアノーゼ
≧ 4 秒微弱
≧180≧170
≧160≧150≧130≧120
重度Grade 4 or 3≧ 2.0
≦ 92%FiO2 ≧50%(※)
≧70≧65
≧50≧40≧35≧35
Face & Eye AⅠ- ①
4~6
痛み刺激で逃避反応・開眼Speech & CryAⅡ- ①
3~ 4
痛み刺激で泣く会話ができない≧ 39.5
FELT-AI (AⅠ)①②③因子 総点加算
現在の外観をそのままスコアリング
SCC (AⅡ)①②因子 総点加算
保護者から状況聴取しスコアリング
AⅢ ≧ 38.5 → SIRS評価
Legs & Tone AⅠ- ②
2~3
ふれると逃避声かけで開眼
2
不機嫌見当識混乱≧ 39.5
1
1
≧ 37.5
0
正常な自発運動自発開眼
ConsolabilityAⅡ- ②
0
機嫌よい見当識良好
37.5~36.5 ≦ 36.5 ≦ 36.50 ≦ 35.0
Activity & InteractivenessAⅠ- ③
中等度Grade 2≧ 1.5
93~94%FiO2 <50%(※)
≧60≧55
≧40≧30≧30≧30
軽度Grade 1
95~96%
≧55≧50
≧35≧25≧25≧20
なしGrade 0< 1.5
≧ 97%Room air
55~30 50~25
35~20 25~18 25~15 20~12
≦30≦25
≦20≦18≦15≦12
≦27≦23
≦18・・・・・・・・・
≦23≦18
≦15≦15≦12≦10
0~5カ月6~11カ月
12~36カ月3~5歳6~12歳13歳~
0~5カ月6~11カ月
12~36カ月3~5歳6~12歳13歳~
蒼白浅黒い
≧ 3 秒減弱
≧170≧160
≧150≧130≧110≧100
ピンク
< 2 秒正常
160~110150~100
140~90 120~80 100~70 90~60
紅潮
≦90≦80
≦70≦60≦50≦40
≧ 2 秒
≧160≧150
≧140≧120≧100≧ 90
≦110≦190
≦80≦70≦60≦50
≦110≦100
≦90≦80≦70≦60
Contents Point 3 2 1 0 1 2 3
AⅠ
CⅠ
RⅠ
CⅡ
RⅡ
CⅢ
RⅢ
AⅡ
AⅢ
危急病態の認識 ただちに気道確保と酸素投与を開始 急変対応チームへ蘇生コール
スコアリング評価法は図1参照
補助換気→ RⅠ = 3points
酸素テント ヘッドボックスリザーバーマスク→ RⅡ= 3 points
マスク ネーザルカニューレ→ RⅡ = 2 points
(神薗淳司:小児救急診療におけるアセスメントと医療安全;教育と可視化・情報共有.小児科 56⑷:419-430,2015.より引用)
小児看護 第40巻第6号 2017年6月700
□ 時にしかめ面,表情に乏しい,無関心,不安げな表情と視線(1点)
□ しばしばあるいは常にしかめ面・口を結んでいる,閉眼している(2点)
AⅠ - ② Legs & Tone;下肢肢位と筋緊張 □ 通常,下肢肢位・動き良好,筋緊張正常(0点) □ 落ち着きなく下肢を動かす,筋のトーヌス亢進・
硬直または低下(1点) □ 下肢の伸展や屈曲,安静時震え,保てない坐位や
立位,筋緊張亢進(2点)
AⅠ - ③ Activity & Interactive-ness;活動性と相互反応
□ 良眠,活発に動く,物音に注意を払う(0点) □ 落ち着きがない,動くことをいやがる,身体の一
部を押さえつけている(1点) □ 動かない,興味を示さない,頭を大きく動かして
暴れる(2点)
* GCS 評価によるスコアリング;開眼(E),運動(M)
→AⅠ □ 正常な自発運動・自発開眼(0点) □ 触れると逃避,声かけで開眼(2点) □ 痛み刺激で逃避反応・開眼(3点) 開眼(E)因子で「開眼せず」(GCS:E1点),運動(M)因子で「異常な四肢屈曲」(GCS:M3点)・「異常な四肢伸展反応」(GCS:M2点)・「動かさない」(GCS:M1点)は Zero Stage(危急病態の認識)に相当するとしてPEWSS からは除外した。
2.1.2 AⅡ 意識;機嫌と精神的安定(図2) 以下の2項目の加点をAⅡの素点とした。 加点3〜4点を PEWS・AⅡ=3,加点2点を PEWS・AⅡ=2,加点1点を PEWS・AⅡ=1,加点0点をPEWS・AⅡ=0
AⅡ - ① Speech & Cry;会話・泣き方 □ 啼泣なし,自発的会話が可能(0点) □ 弱々しい声,うめき声,すすり泣く(1点) □ 会話不能,泣き叫ぶ,かすれ声,声が出ない(2点)
図2 小児早期警告スコアリング・システム 初期評価
外観評価Activity & Consciousness FELT-AI (A Ⅰ)SCC (A Ⅱ)
表情・視線Face & Eye
ふだんどおり,笑顔,視線が合う時にしかめ面,表情に乏しい無関心,不安げな表情と視線しばしばあるいは常にしかめ面口を結んでいる,閉眼している
0
1
2
AⅠ-①
Circulation to skin
末梢冷感蒼白・まだら皮膚
活動性と相互反応Activity & Interactiveness
良眠,活発に動く,物音に注意を払う落ち着きがない,動くことをいやがる身体の一部を押さえつけている動かない,興味を示さない,頭を大きく動かして暴れる
0
1
2
AⅠ-③
会話・泣き方Speech & Cry
啼泣なし,自発的会話が可能弱々しい声,うめき声,すすり泣く会話不能,泣き叫ぶ,かすれ声,声が出ない
0
1
2
AⅡ-① 精神的安定Consolability
機嫌良好,楽しく遊んでいるなだめることが可能(ふれる,抱っこ,話しかけることにより)なだめることが困難
0
1
2
AⅡ-②
下肢肢位・筋緊張Legs & Tone
通常,下肢肢位・動き良好,筋緊張正常落ち着きなく下肢を動かす筋のトーヌス亢進・硬直または低下下肢の進展や屈曲,安静時震え坐位や立位が保てない,筋緊張亢進
0
1
2
AⅠ-②
Work of Breathing RⅠ
喘鳴
努力性呼吸
陥没呼吸
呻吟,鼻翼呼吸
重症陥没呼吸の部位と重症度鼻ピクピク(鼻翼呼吸)胸骨上・肩が上がる鎖骨上肋間胸骨下(みぞおち)
喘鳴の Johnson分類Grade 0:聴取しないGrade 1:強制呼気時のみGrade 2:平静呼吸で呼気のみGrade 3:平静呼吸で呼気・吸気Grade 4:呼吸音減弱
呼吸CⅠ 循環
30秒迅速評価
小児看護 第40巻第6号 2017年6月 701
AⅡ - ② Consolability;精神的安定 □ 機嫌良好,楽しく遊んでいる(0点) □ なだめることが可能(ふれる・抱っこ・話しかけ
ることにより)(1点) □ なだめることが困難(2点)
* GCS 評価によるスコアリング;発語(V)→AⅡ □ 機嫌よい,見当識良好(0点) □ 不機嫌,見当識混乱(2点) □ 痛み刺激で泣く,会話ができない(3点) 発語(V)因子で「痛み刺激でうめき声」(GCS:M2点)・「声を出さない」(GCS:M1点)は同様に Zero Stage(危急病態の認識)に相当するとして除外した。
2.1.3 AⅢ 体温評価 □ 体温 体温測定は,生後3カ月未満児には必ず直腸温での
評価を行い,ほかの小児では腋窩での測定を原則とした。37.5℃以上を異常と認識し,38.5℃以上を2点・39.5度以上を3点とした。
2.2 呼吸(R)2.2.1 RⅠ 努力呼吸の評価 以下の3つの項目のいずれかを用いて評価することとした。 □ 陥没呼吸 陥没している部位とともに陥没の程度を評価し,重
症度を決定する。肋間や胸骨下の陥没呼吸は軽症(点数1点)から中等症(点数2点)で,胸骨上や鼻翼呼吸は重症(点数3点)で観察される。
□ 喘鳴 喘鳴の評価は,Johnson 分類を参考に Grade4・3
を点数3点・Grade2を点数2点・Grade1を点数1点と判定する。
□ 呼気 / 吸気時間比 胸郭の動きにより呼気 / 吸気時間比を観察する。呼
気延長の程度により段階的に重症度を評価する。
2.2.2 RⅡ 経皮酸素飽和度(SpO2濃度) □ 経皮酸素飽和度 動脈血の酸素飽和度を,経皮酸素飽和度モニターに
より非侵襲的に測定する。呼吸機能障害がある場合には,客観的なデータとして重要な役割を果す。酸素飽和度(SpO2)は,ヘモグロビンの何パーセントが酸素と結合しているかを表記したもので,正常値は97%以上である。
2.2.3 RⅢ 呼吸数の評価 □ 呼吸数 年齢段階による呼吸数の基準値を参考に,6段階の
年齢に分類し,それぞれ3段階の基準値を設けた。
2.3 循環(C)2.3.1 CⅠ 皮膚色および毛細血管再充満時間(capillary refill time;CRT)の評価 □ 皮膚色 □ CRT 顔面皮膚色の評価を実施し,口唇周囲の色調にも注
意を払う。乳幼児では,大腿内側や上腕内側の皮膚を5秒間押して,その後離して皮膚色が戻る時間(CRT)を測定する。3秒以上を点数2点・4秒以上を点数3点として加点する。
2.3.2 CⅡ 脈拍(触診) □ 脈拍 触診による脈拍を測定する。触診する部位は上肢(前
腕遠位の橈骨動脈部位や上腕遠位の上腕動脈部位)とする。減弱している場合には必ず血圧の測定を直ちに実施する。
2.3.3 CⅢ 心拍数の評価 □ 心拍数 年齢段階による心拍数の基準値を参考に,6段階の
年齢に分類し,それぞれ3段階の基準値を設けた。
3.Second Stage:目的(総合評価) First Stage により判定された9項目により,以下の
小児看護 第40巻第6号 2017年6月702
Second Stage の総合評価を実施する。
3 .1 PEWSS 総スコアによる緊急度評価Ⅰ 蘇生レベル≧12点,Ⅱ 緊急≧9点,Ⅲ 準緊急≧6点
3 .2 上昇した外観(A)・呼吸(R)・循環(C)因子による病態評価
因子ごとの点数を評価し,患者の状態を以下の6つの病態に分類する。 (上昇:↑・正常:→) 全身性疾患・脳障害 A↑ R→ C→ 呼吸障害 A→ R↑ C→ 呼吸不全 A↑ R↑ C→ 代償性ショック A→ R→ C↑ 非代償性ショック A↑ R→ C↑ 心肺停止 A↑ R↑ C↑
4.Third Stage:評価結果の「可視化」と介入の標準化(図3)
外来トリアージでは,電子カルテ上の来院患者一覧に,評価された9項目の総点数を可視化できるようにした。総合点数と外観(A)・呼吸(R)・循環(C)ごとの総点が表記され,SIRS(systemic inflammatory response syndrome,全身性炎症反応症候群)に該当する患者を自動的に警告表記できるように工夫した。また,トリアージから診療・介入までの目標時間や再評価までの時間を設定した3)。□ PEWS 総点≧12点 → 直ちに救急初療室へ搬送□ PEWS 総点≧9点 → 来院5分以内の診療・介入□ PEWS 総点≧6点 → 来院15分以内の診療・介入
病棟では,バイタル測定の間隔を PEWS 総点により段階的に設定した。とくに入院患者全員の変動するPEWS 総点を電子カルテ上で「見える化」を実現し,認
図3 小児早期警告スコアリング・システム介入プロトコル
医師による診察時にPEWSの再評価 5~15分間隔で再評価を繰り返す
PEWSS;外来における起動と再評価方法
15分以内診療
≧ 6点
Ⅲ 準緊急
通常診療
≦ 5点
0分 救急初療室へ蘇生
ABCDE評価と介入
Ⅰ 蘇生Ⅱ 緊急
5分以内診療持続モニタリング
≧ 9点 ≧ 12点
24時間医師へ緊急コール
PEWSS ; 病棟における起動と介入
Yes
No No No
急変警告リストアップ
上昇≧ 3点
4時間後PEWS記録
Yes
リカバリー移動持続モニタリング
※再評価と介入を検討:24時間継続 かつ 次日勤帯に再評価
※ ※ ※
上昇≧ 3点
3時間後PEWS記録
Yes
≧ 12点
PICU管理蘇生
上昇≧ 3点
2時間後PEWS記録
Yes
≦ 5点
8時間後PEWS記録
q12hr_2
48時間0~1点持続
上昇≧ 3点
≧ 6点 ≧ 9点
PEWS ROUND
小児看護 第40巻第6号 2017年6月 703
識と介入を徹底している3)。□ PEWS 総点≧12点 →直ちに集中治療室への転送・蘇生の準備□ PEWS 総点≧9点 →病棟観察室への移動・連続モニタリング□ PEWS 総点≧6点 →警告症例として PEWS 回診の徹底
PEWS を維持・継続させるための取り組みとして,PEWSS ではスコアリングによるアルゴリズムにより介入と行動を規定し,病棟看護師の急変対応手順を標準化した。病棟看護師は,自ら数量化した PEWS スコアを基にしたバイタルサイン測定回数の変更を行えるように工夫している。終日,医師呼び出し基準は3点以上の上昇として,PEWS スコア6点以上の患者は,毎日PEWS チームが夕方に回診(総合回診は日中に全入院症例を毎日実施)を行い,点数の妥当性と患児の状態の再評価を行って,看護師と協働で患者安全に努めている3)。
PEWSS 導入後の実績
1.PEWS スコア値と ICU 搬入率 2013年度4〜10月までの全小児入院患者1,987名中,ICU に直接入院した症例は41例(2.1%)だった。入院時
PEWS スコアと ICU 搬入率を検討したところ,入院時PEWS スコアが18〜27点・15〜17点・12〜14点で,それぞれ ICU 搬入率は85.7%・28.6%・16.6%だった。入院時 PEWS スコアが高いほど,ICU 搬入が高率であり,とくに12点以上の高値症例でその傾向がより顕著に表れた。
2.下気道感染症例における ICU 搬入症例の特徴
小児において気道感染はもっとも頻度の高い感染症であるが,重篤な呼吸不全に陥り全身状態を脅かすこともまれではない。PEWSS 導入後5年間の下気道感染による ICU 利用症例について検討し,院内急変においてPEWSS が果たす役割について検討した。 2011年4月〜2016年3月までの期間に下気道感染のため当院 ICU に入室した症例について,診療録をもとに後方視的に検討した。対象期間中に下気道感染のため当院 ICU へ入室した小児患者は,小児 ICU 入室患者数356例中132例であった。このうち人工換気を要した症例は20例,死亡例は1例であり,月齢中央値は14,ICU平均在室日数および平均在院日数はそれぞれ5日,16日であった。さらに,救急外来および一般外来から直接ICU に入院した症例は99名であり,残る35名は一般病棟から状態悪化のためICU入室となった症例であった。入院から ICU 入室までに日数が経過した症例ほど ICU在室期間が長期化する傾向があり,人工換気を要する症
図4 小児早期警告システム(ケースシナリオ)
症例1 4カ月女児 RS ウイルス気管支炎【病歴】来院3日前より咳嗽,鼻汁,発熱が出現した。近医にて内服薬の処方を受けていた。症状の改善がないために当院へ紹介受診となった。
【入院時】体温:37.2℃,酸素飽和度97%,呼吸数58bpm,脈拍162bpm,脈触知正常,顔色ピンク,母乳摂取は不良,弱々しく泣いている,機嫌が悪い,陥没呼吸軽度酸素ボックスに収容しており,SpO2モニター管理中である。
【翌日深夜】体温:39.7℃,酸素飽和度92%,呼吸回数60bpm,脈拍180bpm顔色やや不良,哺乳不良,陥没呼吸増悪。開眼はしているがやはり泣き方は弱々しい。末梢の脈はよく触れる。
図5 小児早期警告システム(ケースシナリオ課題)
課題 -1 【入院時】の PEWS スコアをつけてみましょう。 A-1 A-2 A-3 R-1 R-2 R-3 C-1 C-2 C-3 ToTAL
課題 -2 【翌日深夜】の PEWS スコアをつけてみましょう。 A-1 A-2 A-3 R-1 R-2 R-3 C-1 C-2 C-3 ToTAL
課題 -3 この状態の変化をあなたはどのように評価しますか? あなたは【翌日深夜】担当の病棟看護師です。
課題 -4 【翌日深夜】の急変をどのように報告しますか? あなたは救急外来対応中の当直医にどのように報告
しますか?
小児看護 第40巻第6号 2017年6月704
例の割合は高かった。また,ICU 入室の数日前からPEWS が上昇している症例が多くみられた。とくに重症症例では,状態悪化の数日前より PEWS の経時的な上昇が認められ,PEWS 高値は以後の重症化を早期に発見するよい指標になり得る結果が得られた。
院内急変対応に関する 医療安全教育ツールとしての PEWS
病棟のみならず外来においても,申し送りの手段として PEWSS の利用を促している。さらに,PEWSS により判別された病態に応じ,アセスメントを加え,医師・看護師のみならず,双方向性に効率的報告をする院内カンファレンスを目指している1)。図4・5には院内教育や院外教育セミナーで利用しているケース・シナリオと課題を提示した。個々の症例の PEWS スコアの推移から,迅速な病態変化の把握の報告を主眼とした,急変シ
ミュレーション教育のツールである。
医療安全環境の整備;電子カルテを 利用した「可視化と情報共有」
① 入力画面内の PEWS スコア総得点の表記とアラート表記
② 体温補正および体温を考慮した呼吸数・心拍数評価 ③ 呼吸数・心拍数の基準値との視覚的比較 ④ スコアリングとその高値症例一覧(図6) ⑤ リアルタイム・ダッシュボード表記トータル・スコ
アの経時的推移(図6) ⑥ スコア各項目別評価(外観・呼吸・循環の各評価)の
経時的推移と表記 上記の6項目をすべての IT 端末で閲覧可能な状態にしている。リアルタイムに表出される PEWS スコア高値の症例と,その数日間の推移を閲覧できるシステムで
図6 PEWS スコアリングと高値症例の一覧と経時的推移
PEWSスコア順の表記PEWSスコア
72時間前からの表記
小児看護 第40巻第6号 2017年6月 705
ある。図6にその一部を示した。 しかし,バイタルサインの変化とフィジカルアセスメントを数量化し,状況認識する作業にもヒューマンエラーがつきものである。情報を収集し,情報を正しく解釈し,病態変化を予測する医療が理想である。「看護師が複数の患者評価の変化をいかにとらえ,記録し,どう評価したか」といった病棟全体での把握は,個々の変化を経時的に観察するに十分な情報をもつ電子カルテの盲点であった。PEWSS の IT 化による情報共有,すなわち「見える化」はこの点を克服したといえる。 今後は,患者安全を目指した医療サービス・システムとして,わかりやすく保護者へ PEWS スコアの結果と介入の意義を開示し,保護者と協同で子どもの安全に取り組んで行く医療を準備している。
おわりに
日常のバイタルサインとフィジカルアセスメントの記
録を単なる記録にとどめず,的確な状態把握を病態変化の予見と介入に生かすことが求められている。小児救急のユニット単位で醸成された PEWSS の実践とそのメンタルモデルの共有こそ,評価が難しいとされる子どもたちへの「安定した患者安全」の約束となる。この分野の質的看護研究や医学的検証を多施設で検証し,エビデンスを発信していくこと4) も並行して進めていく必要がある。
【文 献】 1) 神薗淳司:子どもの急変予知をバイタルサインとその測定値か
ら紐解く;小児早期警告スコアリング・システム.小児看護 39⑶:258-264,2016.
2) 神薗淳司:小児救急診療におけるアセスメントと医療安全;教育と可視化・情報共有.小児科 56⑷:419-430,2015.
3) 梶原多恵:小児病棟での急変予測と急変対応;当院におけるベッドサイド小児早期警告システムの実際.小児看護 37⑹:668-676,2014.
4) 神薗淳司,有方芳江,富田一郎,他:小児救急トリアージの実践と医学的検証.小児科診療 72⑹:1015-1026,2009.