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生物地理学とその関連分野における地理情報システム技術 の基礎と応用 誌名 誌名 日本生態學會誌 ISSN ISSN 00215007 巻/号 巻/号 643 掲載ページ 掲載ページ p. 183-199 発行年月 発行年月 2014年11月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

生物地理学とその関連分野における地理情報システム技術 の基礎 … · 日本生態学会誌64・183ぺ99 (2014) 運習河建動車 総説 生物地理学とその関連分野における地理情報システム技術の基礎と応用

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生物地理学とその関連分野における地理情報システム技術の基礎と応用

誌名誌名 日本生態學會誌

ISSNISSN 00215007

巻/号巻/号 643

掲載ページ掲載ページ p. 183-199

発行年月発行年月 2014年11月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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日本生態学会誌 64・183ぺ99(2014) 河建動車

運習総説

生物地理学とその関連分野における地理情報システム技術の基礎と応用

岩崎貴也1,2,*,t .阪口湖太以1".横山良太4・高見泰興5

大 津 剛 士6・池田紘士7・陶山佐久8

1京都大学生態学研究センター.2日本学術振興会特別研究員.3東京大学大学院総合文化研究科

4株式会社建設環境研究所・ 5神戸大学大学院人開発達環境学研究科・ 6農業環境技術研究所

7弘前大学農学生命科学部・ 8東北大学大学院農学研究科

Fundamentals and applications of geographic information system in biogeography and its related fields

Takaya Iwasaki1・2・*・t, Shota Sakaguchi2'3.t, Ryota Yokoyama4ラYasuokiTakami5, Takeshi Osawa6, Hiroshi Ikeda7, Yoshihisa Suyama8

1Center for Ecological Research, Kyoto University, 2Postdoctoral Research Fellow of Japan Society for the Promotion of Science,

3Graduate School of Arts and Sciences, the University of Tokyo, 4Civil Engineering and Eco-Technology Consultants Co. Ltd,,

5Graduate School of Human Development and Environment, Kobe University, 6National Institute for Agro-Environmental Sciences,

7Faculty of Agricultural and Life Science, Hirosaki University, 8Graduate School of Agricultural Science, Tohoku University

要旨:生物地理学は、歴史的側面や生態的側面などの観点から、生物の分布パターンや分布形成プロセスの解明を目指

す学問であり、進化生態学や群集生態学、保全生物学などの分野とも強い関連をもっ学際的領域である。 1990年代以降、

遺伝解析技術の,恩恵を受けた系統地理学の隆盛によって、生物地理学は大きな発展を遂げてきた。さらに近年では「地

理情報システム(GIS)」や、それを利用した「気候シミュレーション」、「生態ニッチモデリング」といった新たな解析

ツールが、生物地理学分野に新しい流れを生み出しつつある。その基礎的な活用例として、現在の生物種の分布情報と

気候要因から生態ニッチモデルを構築し、気候シミュレーションから得られた異なる時代の気候レイヤに投影するとい

うアプローチが挙げられる。これにより、過去や現在、未来における生物の分布を予測することが可能となり、時間的

な分布変化を推定することができる。さらに、 GISを活用して、モデル化された生態ニッチや系統地理学的データを複

合的に解析することで、近縁種間でのニッチ分化や、分布変遷史を考慮に入れた種分化要因の検証、群集レベルでの分

布変遷史の検証なども可能となる。本総説では、最初に基礎的な解析ツールについて解説した後、実際にこれらのツー

ルを活用した生物地理学とその関連分野における研究例を紹介する。最後に、次世代シークエンシングによって得られ

る膨大な遺伝情報や古DNAデータの有用性について紹介した後、それらの情報を用いた生物地理学や関連分野におけ

る今後の展望について議論し、 GIS技術がその中で重要な役割を果たしうることを示す。

キーワード:生態生物地理学、歴史生物地理学、系統地理学、地理情報システム、生態ニッチモデリング

Abstract: Biogeography, an interdisciplinary field drawing on evolutionary ecology, community ecology, and conservation

biology, aims to elucidate the processes shaping species distributions丘omboth ecological and historical perspectives. Since

the 1990s, biogeography has been advanced by the growth of phylogeography, with its basis in genetic analysis. New analytical

tools, including geographic information systems (GIS), climate simulations, and ecological niche modeling (ENM), have brought

further innovations. Combining simulations of past or future climates with ENM has allowed the estimation of past or future

species distributions. Furthermore, combined analyses using GIS-related tools can reveal the processes of niche differentiation

and speciation, and be used to reconstruct the migration histories of biological communities. In this review, we highlight useful

20日年 1月8日受付、 2014年6月 19日受理

*責任著者 e-mail:takaya.iwasakil [email protected] l本論文に対して同等の貢献がある

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岩崎貴也ほか

analytical tools and data sources and explor巴theirpractical applications in biog巴ographyand related fields. Next, we discuss the

prospects of biogeography as a more integrated field, combining various data sources such as ancient DNA and the unprecedented

amount of genetic data now available仕omnext-generation sequencers.

Keywords: ecological biogeography, historical biogeography, phylogeography, geographic information system, ecological

niche modeling

はじめに

生物の分布は、種の環境要求性(生態ニッチ)に代表

される生態的側面と、地理的障壁による分断や長距離分

散などの歴史的側面が、複雑に関係することで形成され

ている。生物地理学biogeographyは、こうした生物の分

布パターンや分布形成プロセスの解明を目指す学問とし

て確立されてきた(Coxand Moor巴 2010など)。主に前者

の生態的側面に着目する学問分野は生態生物地理学

ecological biogeographyと呼ばれ、対象種の現在の分布情

報と、温度や降水量、土壊などの様々な環境情報や、対

象種と関係する他の生物の分布情報などとの関係につい

て研究がなされてきた(Fanget al. 1996 ; Kira 1991 ;

Monge・Najera2008など)。一方、主に後者の歴史的側面

に着目する学問分野は歴史生物地理学 historical

biogeographyと呼ばれ、大陸移動と関係する数億~数

千万年のスケール(Haddrathand Baker 2001 ; Vences et al.

2001など)や、第四紀後期の気候変動に関係する数十万

~数万年のスケール(Harrisonet al. 2001 ; Tsukada 1983

など)を対象とし、どのような歴史を経て現在の分布が

形成されたのかについて研究がなされてきた。歴史生物

地理学において、生物の過去の分布に関する直接的な証

拠が得られる古生物学や地質学の知見は有用であり、特

に動物の骨や樹木の材のような大型化石は、「その時代の

その場所にその種が存在していた」という強力な証拠と

なる。しかしなカfら、そういったf育幸Rが利用できるのは

化石が残りやすい生物種に限定されており、それ以外の

種では現在の分布などから古分布を推測することしかで

きなかった。 1990年代に入ると、遺伝解析技術の進歩に

よって、種内の空間遺伝構造や種聞の系統関係を調べて

その歴史的背景を解釈する系統地理学phylogeographyが

隆盛し(Avise2000 ; Hewitt 2000など)、現在では古生物

学分野と共に生物地理学、特に歴史生物地理学を牽引す

る存在となっている。

更に近年では、「地理情報システム GIS(Geographic

Information System)」と呼ばれる技術を用いた生物地理学

184

的研究が登場してきた(Kiddand Ritchie 2006 ; Kozak et

al. 2008など)。 GISとは、地理情報(緯度経度などの位

置に関連付けられたあらゆる情報)を作成・分析・可視

化するための情報技術の総称であり、複雑な時空間デー

タを取り扱う生物地理学において強力なツールとなる。

GISはデータの可視化や単純な空間解析に用いられるだ

けでなく、最近では「気候シミュレーシヨン climate

simulation」ゃ「生態ニッチモデリング ecologicalniche

modeling」といった新たな領域にも応用されている

(Franklin and Miller 2009; Hijmans et al. 2005など)。例えば、

現在の生物種の分布情報と環境要因から構築された生態

ニッチモデルを、気候シミュレーションから得られた古

気候レイヤ(レイヤ:データが付加された重ね合わせ可

能な GISデータの層)に投影することによって、過去の

ある時間断面における対象種の分布好適地を推定できる。

こうした生態ニッチモデルに基づく古分布復元アプロー

チは、化石記録や遺伝データとは全く独立した情報に基

づいている点が特筆される。このアプローチは、事実上

どのような生物種に対しでも適用が可能で、あり、化石記

録に乏しい生物種の古分布を推定する上で特に大きな助

けとなる。生態ニッチモデリングは、生物の分布情報と

環境情報の聞の関係性を調べる生態生物地理学の考え方

に基づいており、この古分布復元のアプローチはそれを

歴史生物地理学の目的へと応用したものといえる。最近

の研究では、このような歴史生物地理学における生態的

側面、そして逆の生態生物地理学における歴史的側面に

ついて、どちらかを無視するのではなく、相互に影響し

合っているものとして扱うようになってきている(Wines

and Donoghue 2004など)。

生物地理学は、進化生態学や群集生態学などの基礎科

学、及び保全生物学を含む応用科学など、様々な分野の

研究と密接な関係を結んでいる。例えば、近縁種聞の種

分化や生態ニッチ分化は、分布変選に伴う地理的隔離な

どが引き金となって異所的に起こることが多い(Futuyma

2005など)。また、近縁な種群が同所的・側所的に分布

した場合には、形質置換などによって更なる分化が引き

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生物地理学とその関連分野における GISの利用

起こされることもある。このような地理的空聞が絡んだ

事象を扱うのは生物地理学の得意とするところであり、

生物地理学的解析で対象種の分布変遷史や生態ニッチを

明らかにすることにより、これらの分野でも更に議論を

深めることができる。また近年では、生物の保全を考え

る際、個体数や生育地の保全だけでなく、種内の遺伝的

分化や進化的重要単位ESU(Evolutionary Significant Unit)

といった遺伝的側面までを考慮した保全計画の策定が求

められるようになっている(Balintet al. 2011)。この遺伝

的側面については、オルガネラや核の遺伝マーカーを用

いて解析されることが多く、その際のデータ解析の手法

は、系統地理学で用いられる手法と多くの共通点がある。

そのため、 GISを用いた生物地理学の発展が保全生物学

に寄与することも期待される。このように近年の生物地

理学は、従来の生態生物地理学や歴史生物地理学といっ

た枠を超え、関連する研究分野と連携しながら、生物の

分布を鍵として生物多様性を総合的に理解する学際的分

野となりつつある。

本総説では、 GISの導入が、生物の分布パターンや分

布形成プロセスを説明する純粋な生物地理学を発展させ

るだけでなく、学際的分野としての生物地理学と密接に

関連した群集生態学や進化生態学、保全生物学などの諸

分野の議論に深みを持たすことができる点にも注目する。

まず最初に、 GISを用いた生物地理学的アプローチの代

表的な基礎ツールとして、生態ニッチモデリングと気候

シミュレーション、そしてそれらに関連するデータベー

スについて解説する。次に、実際に生物地理学でそれら

の基礎ツールを用い、過去から現在に至る生物の分布変

遷史を復元した基礎的な適用例を紹介する。更に、生物

地理学やその関連分野における GIS技術の発展的応用例

として、生態ニッチモデリングや気候シミュレーション、

GISによる地理学的解析を複合的に組み合わせた(1)保

全生物学的研究、(2)近縁種間で、のニッチ分化の検証を

行った群集生態学的研究、(3)種分化要因の解明を行っ

た進化生態学的研究、そして(4)群集レベルでの分布変

遷史の推定を行った比較生物地理学的研究の例を紹介し、

最後に生物地理学を中心としたこれらの分野を統合的に

発展させるための技術として GISの有効性を述べる。

生態ニッチモデルと気候シミュレーション

生態ニッチモデル ecologicalniche model (もしくは分布

予測モデル speciesdistribution model)では、「種の生態ニ

ッチ空間は環境等の要因によって制限されているjとい

185

う概念に基づき、種の分布データと分布に影響する要因

を統計的に関係付ける。生態学的な空間スケールでは、

種の在・不在データや個体数といったデータを利用して

モデリングが行われることが多く、多くの生態学者にと

って馴染みの深い一般化加法モデルや樹木モデルなどの

多くの手法が適用されている(Guisan and Thuiller 2005な

どの総説)。生物地理学が扱う分布域全体のようなマクロ

スケールでのモデリングでもその考え方は同じであるが、

そうしたスケールで種の精密な在・不在データを得るこ

とは難しく、在データのみに基づくことが多い。在デー

タしか利用できない場合に問題になるのは、「その種の分

布が対象地域をどの程度占めているのかjという情報が

得られない点(Elithet al. 2011)と、分布調査の際に生じ

る地理的な偏りの影響が、在・不在データの両方を使え

る場合よりも大きくなりやすい点である(Phillipset al.

2009)。こうした不利な点はあるものの、マクロスケール

で得られた在データには種の分布に関する重要な情報が

含まれている。これまでに、 MaxEnt(Phillips et al. 2006、

表 1)や DesktopGARP(Stockwell and Nobl巴 1992、表 1)

など、在データのみから生態ニッチモデルを構築するた

めの解析手法が開発されてきた(Elithet al. 2006)。ここ

では、その予測力の高さから広く適用されている MaxEnt

について簡単に紹介したい。

最大エントロピー理論に基づく MaxEntは、不在デー

タの代わりに背景環境backgroundと呼ばれる対象地域内

にランダム点を発生させ、そのランダム点と実際の分布

地点における環境変数の確率密度関数から対象種の分布

好適地を推定する(Elith et al. 2011 , Phillips et al. 2006)。

環境変数を変換する際に複雑な関数をすばやく選択して

適用することで、在データのみを扱う他のソフトウェア

よりも高い予測力を持つ(Elithet al. 2006)。加えて、計

算時間も短く、関連したソフトウェアを用いることでモ

デル選択や生態ニッチの類似度に関する検定も行える(後

章で詳述)。この他にも、交差確認法や複数の統計量によ

ってモデルの予測力を評価できるほか、モデルを新規環

境に投影した際にモデル構築時に経験していない環境変

数の値を持つ地域を抽出できる機能が備わっている。こ

うした機能は、異なる環境にモデルを投影することを目

的にしている生物地理学の研究者にとって、大変に有用

なものである。

次に、構築したニッチモデルを投影する際に用いる気

候シミュレーションと気候レイヤについて紹介する。人

為的地球温暖化などの気候変動を予測するために世界各

国の気候研究所において全球気候モデルが構築され、地

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表 I. 本総説で紹介したソフトウェアとデータベースのまとめ。 URLは、全て 2014年 6月 15日に確認。 ArcGISとメッシュ気候値 2000が有償で、他は全て無償で利用可能。

名称 文献用途 URL

ソフトウェア

Phillips et al. 2006 http://www.cs.princeton.edu/~schapire/maxent/ 生態ニッチモデリングMaxEnt

Stockwell and Noble 1992 h悦:p://www.nhm.ku.edu/desktopgarp/生態ニッチモデリングDesktopGARP

http://www.esrij.com/products/arcgis/ GIS解析ArcGIS

h仕p://qgis.org/GIS解析QuantumGIS

http://grass.fbk.eu/ GIS解析GRASS GIS

McRae et al. 2008 http://www.circuitscape.org/ Landscape resistanceの推定circuitscape

http://enmtools.blogspot.jp/ 生態ニッチモデリングで作成したモデルの比較ENMTools

Manni et al 2004 http://ecoanthropologie.mnhn.fr/so武ware/barrier.html地理情報を考慮して遺伝的境界を推定BARRIER

時事坤岱5uoν

Dupanloup et al. 2002 hは:p://cmpg.unibe.ch/so丘ware/samova/地理情報を考慮して遺伝的まとまりを推定SAMO VA

Chen et al. 2007 http://membres-timc.imag.企/Olivier.Francois/tess.html地理情報を考慮して遺伝的クラスターを推定TESS

Pritchard et al. 2000 http://pritchardlab.stanford.edu/structure.html 遺伝的クラスターを推定STRUCTURE

-∞A山

データベース

http://pmip2.lsce.ipsl.fr/ 過去の気候データPMIP2

h仕p://www.worldclim.org/現在の気候データWorldChm

h口:p://www.ccafs-climate.org/未来の気候データCCAFS

hはp://habucollection.dc.a妊rc.go.jp/オサムシ科昆虫の標本データオサムシ科標本情報開覧システム

h抗p://science-net.kahaku.go.jp/全国の自然史系博物館が収蔵する標本データサイエンスミュージアムネット

気象庁 2002http://www.jmbsc.or.jp/hp/offline/cd0470.html 日本の気候データメッシュ気候値 2000

Watanabe et al. 20 I 0 http://gedimap.zool.kyoto-u.ac.jp/ 日本産淡水魚類の遺伝的多様性とその分布情報GEDIMAP

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生物地理学とその関連分野における GISの利用

球環境(大気・海洋・雪氷など)とその変化を予測する

試みがなされてきたo Paleoclimate Modelling

Intercomparison Project (PMIP)では、多くの古環境記録

が残っている最終氷期最盛期[LastGlacial Maximum

(LGM);約 2.1万年前]や縄文海進期(約 6千年前)を

ターゲットとして、全球気候モデルの予測と古環境記録

から推定された当時の気候を比較することで、モデルの

予測力を検証している(Otto-Bliesnerand Brady 2008)。

PMIP2のウェブサイト(表 1)では、各モデルの予測が

全球スケールで掲載されているほか、無償でシミュレー

ションデータが提供されている。こうした全球気候モデ

ルの予測は、例えば米国の CCSM3.0モデル(Collinset al.

2006)では 2.8度という解像度のグリッドデータとして

提供されている。ただし、この空間解像度では生物の古

分布を予測するためには粗すぎる。そのため、コントロ

ールランと呼ばれる現在の気候シミュレーションデータ

との差比を算出し、それを内挿法によって解像度を高め

た後に、現在の高解像度気候レイヤに適用する。このよ

うにして推定された古気候レイヤは、 LGM期に関して 2.5

分解像度のものが CCSM3.0とMIROC3.2(K”l model

developers 2004)について、そして最終間氷期(約 12-14

万年前)に関して 30秒解像度のものがWorldclimのウエ

ブサイト(表 1)から入手できる。それ以外のモデルや

縄文海進期のデータに関しては、 PMIP2ウェブページで

提供されているデータを独自に加工して、古気候レイヤ

を作成する必要がある。こうした気候シミュレーション

は空間的に不均一な気候変化を復元するという意味で大

変有用なものではあるものの、地域スケールでの気候変

化量を過小評価する傾向があるほか、予測された気温や

降水量の変化にはモデル聞でかなりの違いが存在するの

も事実である(Braconnotet al. 2012)。例えば、植物にお

ける古分布推定の結果を化石記録と照らし合わせた場合、

日本列島の LGM期における気候に関しては CCSM3.0に

おける予測結果との整合性が比較的高いようである

(Sakaguchi et al. 2010)。従って、実際に生物の古分布を推

定する際には、できる限り多くのモデルのシミュレーシ

ヨン結果を導入して、対象地域の古環境記録から推定さ

れた気候変化との菰離をチェックすることが重要である。

同様に、保全生物学的研究で、研究対象種における未来

の分布変化を予測したい場合にも、全球気候モデルのシ

ミュレーション結果が利用されている。地球温暖化など

の気候変動の影響予測は社会的な要請が大きいため、

IPCCの提案した各シナリオに応じて、多数の全球気候モ

デルに基づいて 10年おきのシミュレーシヨン結果が、

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CCAFSのウェブサイト(表 1)で公開されている。ただし、

こちらも全球気候モデルやそこで採用されたシナリオに

よってシミュレーション結果にかなりのばらつきがある

ので、実際の解析の際には複数のシミュレーションに基

づいて解析を行い、それらの結果を比較することが重要

であろう。

次に、モデルを異なる環境に投影する際に気をつけな

ければならない点について述べる。過去の分布を復元し

たり、未来の分布を予測する際には、対象種の生態ニツ

チが時間的に変化していないこと(ニッチの時間的保守

性)を第一前提にしている。これは、最終氷期や縄文海

進期のような比較的最近の時代の古分布を復元するとき

には大きな問題ではなさそうだが、急速なニッチシフト

や種間相互作用の変化が起こったような場合には、投影

結果の解釈には慎重にならねばならない。ニッチの時間

的保守性の検証は、例えば、ある時間断面における化石

データと当時の環境要因から分布予測モデルを構築し

(「古生態ニッチモデリング」)、現在の分布データから作

ったモデルと比較することで可能になるだろう。 LGM期

に多くの化石記録が残されているような種に関しては、

こうしたアプローチが有効であると考えられる

(Rodriguez-Sanchez and Arroyo 2008など)。また、地域絶

滅や分散制限、種間相互作用などによって、種が潜在的

に占めることのできるニッチ空間が埋められていない場

合がある。そうした例は実際に数多く報告されており、

ヨーロツノfの多くの樹木や日本のブナFaguscrenataなど

では、氷期中の逃避地の位置や後氷期の分散速度という

歴史的要因が現在の分布北限を制限していることが指摘

されている(Matsuiet al. 2004 . Svenning and Skov 2005)。

そうした系では潜在的なニッチ空間の中で、十分にサン

プルされない空聞が生じてしまうことになるため、構築

されたモデルの予測力が低下してしまう可能性がある

(Nogues-Bravo 2009)。このような問題は、ある時間断面

における分布データ数が限られる絶滅種において、特に

深刻になりやすい。しかしNogues-Bravoet al. (2008)は、

後氷期に絶滅したケナガマンモス Mammuthusprimigenius

の古分布を復元する過程で、過去の異なる時間断面で得

られたケナガマンモスの分布データを統合することによ

り、本種のニッチ空間をできるだけ広く網羅したモデル

を構築することに成功している。こうしたアプローチを

用いれば、現在の分布状況では種のニッチ空間が十分に

埋められていない種に関して、生態ニッチをより適切に

モデル化できる可能性がある。

先に述べた通り、生態生物地理学に依拠する生態ニツ

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岩崎貴也ほか

チモデリングでは、「種のニッチが時間的にも空間的にも

不変であるjとか、「種の分布は少数の無機的な環境要因

で説明できる」といった単純な前提をおいて解析がなさ

れる。しかし、野外で実際に生きている生物を観察すると、

種間競争や寄生関係などの生物間相互作用が種の分布形

成に影響している例は多い。そうした場合、地域適応や

生物問相互作用の影響を適切に考慮、しなければ、一見う

まく分布を予測できているように見えたとしても、モデ

ルを新規環境に投影した際の分布変化と実際の生物集団

の応答にずれが生じる可能性がある。実際、労働寄生の

関係にあるイギリスのマルハナパチ類の分布を予測する

際に、重要な宿主の分布情報をモデルに考慮することで、

寄生者の分布の予測力が向上し、かつ地球温暖化後の分

布予測結果に顕著な違いが表れたという報告がある

(Giannini et al. 2012)。こうした研究例のように、生態学

で蓄積されてきた知見を反映させた生態ニッチモデルが、

生物地理学はもちろん、群集生態学・進化生態学・保全

生物学など、より大きな時空間スケールを扱う関連分野

に適用されることが望ましい。

生物地理学における GIS技術の基礎的な適用例

気候シミュレーションと生態ニッチモデリングという

2つの基礎ツールを組み合わせることで、異なる時間断

面での種の分布好適地を予測することができる。そして

それらの結果は、「どのような地域で集団が絶滅し、どこ

で生き残り、そしてどのような分布パターンの変化が起

こったのか」を推測する材料になるだろう。また GISを

用いれば、より定量的に過去と現在における生態ニッチ

モデルの予測図を解析することもできる。例えば、過去

から現在までの分布好適度を足しあわせ、ある闘値以上

のスコアを示す地域を抜き出すことで、「その種にとって

安定した環境が続いた地域」を認識できるにhanet al.

2011)。また過去と現在の分布予測図を統合する際、予測

の信頼度に応じて分布好適度を重み付けし、それらを足

し合わせる手法も提案されている(compositemethod ;

Knowles and Alvarado”Serrano 2010)。例えば、(歴史的分

布好適度) = 0.75×(現在の分布好適度) + 0.25×(LGM

の分布好適度)などのように、信頼度の低い過去の好適

度に対する重み付けを低めに設定する。こうした演算自

体は ArcGIS(ESRI、表 1)やその他の GISソフト[Quan旬m

GIS (表 1)や GRASSGIS (表 1)Jのラスター演算機能

で容易に行うことができる。このような複数の予測図を

合成する手法は、適用が容易であるとともに、多数の時

188

間断面を考慮しなければならない場合には特に有効で、あ

ると考えられる。しかしながら、合成過程における重み

付けは任意であるため、過去の影響をどのくらい強く見

積もるべきなのかなど、不明確な点もある。これに関し

ては今後、各地域においてシミュレーション及び実証デ

ータによる検討が進むものと考えられる。

このようにして生態ニッチモデルから予測された過去

の分布好適地に関する情報は、分子情報や化石記録とは

独立したデータに基づいている点が特筆される。こうし

た複合的な情報源を取り入れて生物の分布変遷史を探求

する研究は、今日の生物地理学では典型となりつつある

(Svenning et al. 2011など)。ここでは、日本列島に古固有

の針葉樹コウヤマキ SciadopiかSverticillataについて生態

ニッチモデリングと分子系統解析を適用した研究例があ

るので紹介したい(Worthet al. 2013)。コウヤマキは、ス

ギCηptomeriaj中 onicaなどの他の温帯性針葉樹と同様に、

LGM期には日本列島南部の沿岸部にのみ逃避地を形成し

ており、現在の主要な分布域である中部地方内陸部には

氷期後の分布拡大によって到達したものと考えられてい

た。この仮説を検証するために、現在の分布情報と気候

変数からコウヤマキの生態ニッチモデルを構築し、それ

をLGM期の気候レイヤに投影したところ、中部地方内

陸部にもコウヤマキの分布好適地が検出された。さらに

葉緑体における遺伝的変異を調査した結果からも、中部

地方の集団には日本列島の中で最も高い遺伝的多様性が

検出されたほか、地域固有のハプロタイプも見つかった。

この結果は、中部地方のコウヤマキ集団のサイズが他地

域と比較しでも安定的に維持されてきたことを示すもの

であり、生態ニッチモデルから予測されたような中部地

方内陸部の分布好適地に集団が残存していた可能性を示

唆している。この例のように、系統地理学的解析と生態

ニッチモデリングを適用することにより、古典的な生物

地理学的仮説を 2つの独立した情報源に基づいて検証す

ることが可能になる。

更に、近年では非モデル生物においても比較的容易に

ゲノムの多数の領域から遺伝データを取得できるように

なってきている。その結果、個々の遺伝子系統樹 gene

treeのランダムなばらつきを考慮しながら、コアレセン

トシミュレーションによって集団の分岐年代や移住率と

いった集団遺伝学的なパラメータを推定できるようにな

った(山道・印南 2009;池田・小泉 2013など)。この思

恵を受けて、近年急速に発展している方法論が、統計的

系統地理学 statisticalphylogeographyである(Knowles

2009)。統計的系統地理学では、生物地理学的仮説を代表

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生物地理学とその関連分野における GISの利用

する複数の集団動態モデルを定義した上で、コアレセン

トシミュレーションなどの手法によってこれらの対立モ

デルを統計的に比較する。生物地理学におけるこうした

新しい方法論は、十分な遺伝情報が容易に得られるよう

になった状況で、生物地理学的仮説を統計学的に検証す

るための強力なアプローチとなることが期待される

(Knowles 2009 ; Richards et al. 2007)。そのような統計的

系統地理学の枠組みの中で、統計的検証の対象となる複

数の集団動態モデルを構築する際に、生態ニッチモデリ

ングと古気候シミュレーションを活用した研究もある

(Richards et al. 2007)。この研究では、生態ニッチモデリ

ングに基づく LGM期と現在の分布予測図から集団動態

モデルを作成し、それを独立した遺伝情報から統計的に

比較・検証している。ただし、既に述べたように、生態

ニッチモデリングや古気候シミュレーションの結果には

かなりの不確実性が含まれており、それだけで作成した

集団動態モデルに頼りすぎると、たとえ統計的に「尤も

らしい」モデルが選択されたとしても、真の歴史とは異

なるものである可能性がある。よって、統計的系統地理

学の中で用いる集団動態モデルを構築する際には、でき

る限り多様な情報源(例えば、化石や古環境記録、生態

ニッチモデルの予測、および他種の動態モデルなど)を

複合的に考慮することが重要になる。その際、同じ座標

系で多様な生物地理学的情報を比較・解析することがで

きる GISは、集団動態モデルの構築においても大きく貢

献できるであろう。

生物地理学やその関連分野における

GIS技術の発展的応用例

現在・未来の分布好適地予測と保全生物学への応用:応用例1

保全生物学では、現在の生物の分布や集団構造だけで

なく、将来の危機についても考慮し、最適な保全戦略を

考えることが重要である。生態ニッチモデルと遺伝デー

タを統合した生物地理学的アプローチは未来の環境へと

拡張できるため、保全生物学分野でも有効なアプローチ

となりうる(Sorkand Waits 2010)。特に、地球温暖化な

どの環境変動の影響を受けた未来の環境における分布好

適地の予測は、将来の保全計画の策定などにおいて極め

て有効な手段である。ここでは、系統地理学的解析と生

態ニッチモデリング、 GISによる景観構造解析を組み合わ

せたアプローチによる保全生物学的研究の例を紹介する。

生態ニッチモデルを未来の気候レイヤに投影し、未来

の分布好適地を可視化することができれば、現在と比べ

189

て分布好適地がどのように変動するのかを定量化できる。

例えば、北海道の河川全体で普通にみられる冷水性淡水

魚のフクドジョウ Barbatulatoni (コイ日)の潜在的な分

布好適地面積は、 IPCCのAlBシナリオのもとでは、

2080年には現在の 15%程度になると予測された。更にそ

の分布好適地の減少の程度は分布域全体で均一ではなく、

地域的な偏りがみられた(Yokoyamaet al. unpublished

data)。このように、生態ニッチモデリングの結果を GIS

を用いて解析することで、地域集団の絶滅や分布好適地

の滅少の可能性が高い地域の検出など、保全生物学にお

いて重要な情報を得ることができる。

また、未来の分布好適地の減少は、その地域の収容力

や遺伝的多様性にも影響を与えると考えられる。上述の

フクドジョウでは、生態ニッチモデルに基づく現在の分

布好適地面積と遺伝的多様性の聞に正の相闘がみられた

(Yokoyama et al. unpublished data)。これは、連続した分布

好適地がある(分布好適地の面積が大きい)地域では収

容力が大きく、遺伝的多様性が高く保たれていることを

反映していると考えられる。更に、遺伝マーカーによる

系統地理学的研究の成果(種内系統の地理的分布)を組

み合わせることで、より踏み込んだ論議が可能になる。

先のフクドジョウの場合、その系統地理学的研究から、

分布好適地の減少が著しい地域には複数の固有種内系統

が分布していることが分かっている(Yokoyamaet al.

unpublished data)。そのため、未来の分布好適地が減少す

ると予測される本種では、当該地域からの集団数の減少

や絶滅だけでなく、地域ごとの遺伝的多様性の低下や、

種内の遺伝的多様性を担う複数の固有系統の存続が危慎

される。近年では、生態ニッチモデリングによる分布好

適地マップと系統地理学的データを組み合わせ、気候変

動による種内の遺伝的多様性の喪失の可能性について解

析・予測する試みもなされており(例えばPfenningeret

al. 2012、Blanco・Pastoret al. 2013など)、研究成果が実践

的な保全施策へシームレスに反映される枠組みができつ

つあるといえるだろう。

一方、種内の集団構造や集団関の個体移動は生物の保

全を考える上で基礎となる情報を与えるが、多くの場合、

実際の移動やその経路を標識採捕法などで推定すること

は困難である。それに対して、生態ニッチモデリングに

よって予測した分布好適地マップは、集団聞の結び付き

あるいは移動経路など、生物の集団構造の重要な情報を

提供することができる。具体的には、分布好適地マップ

を用いることで、集団関の結びつきの程度や移動経路(集

団構造)を地理的距離や経路上の景観の異質性(好適度

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岩崎貴也ほか

のばらつき)を考慮して表現する landscaperesistance (ま

たは surfaceresistance、McRae2006 ; Spear et al. 2010)を

求めることができる。例えば、好適度が極めて低い地域

によって分布好適地が隔てられている場合、地理的に近

くても移動は困難であろう。逆に、分布好適地が連続し

ている場合、地理的距離が大きくても移動は可能だ、ろう。

具体的には、分布好適地聞を移動する際のコスト(地理

的距離と経路上の景観の不適度)が最小になる経路を推

定する LCP(least cost path)や、電子回路理論circuit

theoryとランダムウオーク理論を用いた方法がよく用い

られる。これらは ArcGISのエクステンションや

circuitscape (McRae et al. 2008、表 1)などのソフトウェ

アで求めることができる。 Landscaperesistanceによる生

息地聞の隔離(isolationby landscape resistance)は、サン

プリング地点聞の遺伝的距離と landscaperesistanceとの相

闘を Mantel検定して確かめられる。多くの研究で

isolation by landscape resistanceは、集団の空間構造を表現

するために一般的に用いられる「距離による隔離モデル

(isolation by distance)」よりも、実際の遺伝構造によく対

応した結果を与えることが示されている(例えば、

Garroway et al. 2011 ; Shirk et al. 2010)。上述したように、

現在の環境要因から推定した landscaperesistanceが実際の

遺伝子流動と相関する場合、生態ニッチモデリングに基

づく集団構造の推定結果は実際の遺伝子流動パターンを

よく近似しているといえる。その場合、未来の環境要因

から推定した landscaperesistanceによって将来の遺伝子流

動を予測することができる。更にその予測からは、現在

は他の集団との遺伝的交流があるが、今後孤立すると予

測される地域集団や、重要な(保全すべき)移動経路の

推定などが可能になるだろう(Braunischet al. 2010 , Sork

and Waits 2010)。

このように、複数の時間断面での分布好適地予測と遺

伝データを統合することで、未来の遺伝構造や遺伝的多

様性など、保全生物学で重要な集団の遺伝的特性の変化

を予測できるようになると期待される(Sorkand Waits

2010)。なお、 Mantel’stestは対象集団に、遺伝的境界で

隔てられている集団などが含まれている場合は大きな影

響を受ける(例えば、 Koizumiet al. 2006)。これは、

isolation by landscape resistanceにおいても同様であると考

えられるため、これらの解析は系統地理学的研究で明ら

かになった地域グループ内など、大きな遺伝的境界を含

まないようなスケールで適用することが重要で、あること

をイ寸け加えておく。

190

近縁種間での生態ニッチ分化の検証:応用例2

ニッチ分化(生態的分化)は近縁種の共存を可能にし

うる点で生物の多様化における重要なプロセスであり、

その解明は群集生態学における大きな課題の一つである。

特定の資源に大きく依存している生物(例えば植食性見

虫など)では、利用する資源の違いを捉えやすいため、

これまで様々なニッチ分化の例が実証されてきた。一方、

種聞の利用環境の違いが不明瞭な場合、もしくは生殖干

渉のような環境以外の要因が種間相互作用に関わってい

る場合、それらの種聞にはニッチ分化が生じていないの

か、それともニッチ分化に関わる環境要因を未だ検出で

きていないのかを判断することは難しい。生物の分布と

それをとりまく環境との関係に基づき、その生物の環境

要求性を推定する生態ニッチモデリングは、これまで不

明確だったニッチ分化の検出においても有望なツールと

なりうる。この節では、いわば「隠れたニッチ分化」と

でも言うべき近縁種聞の不明確な相互関係の検出に対し

て、生態ニッチモデリングによる生態生物地理学的アプ

ローチで取り組む応用研究例を紹介する。

ニッチ分化の検出には、ニッチモデルに依存しない方

法(分布地点の環境指標を直接比較する単純な方法)も

あるが、ここでは Warrenet al. (2008)で提案されている

ニッチモデルに基づく方法について解説する。この方法

では、基本的には近縁種でそれぞれニッチモデルを構築

し、その違いを統計的に比較検討する。ニッチモデル聞

の違いを定量する方法としては、「分布域の各地点におけ

る2種の分布確率の違いを、全地点で総和したもの」に

基づく「ニッチ類似度」の指標が考案されている。この

ニッチ類似度の測定値が、ある帰無仮説の元でどのよう

な確率で観察されるかを計算できれば、いわゆる仮説検

定が可能になるというのが基本的な考え方である(Warren

et al. 2008)。

帰無仮説とその検定には少なくとも 2つの考え方があ

る。 lつ目はニッチ同一性の検定(nicheidentity test)で

あり、「2種のニッチに違いはない」という帰無仮説に対

して 2種聞のニッチ類似度を計算した上で、以下のよう

に求めた帰無分布に照らしてその有意性を判定する: 1)

2種の分布データを-J=Lプールして無作為に分け直す, 2)

無作為に分けた 2群の分布データそれぞれについて仮想

のニッチモデルを構築し、そこから予測される分布確率

の値を基に 2群聞のニッチ類似度を求める; 3)これを多

数回くり返し、ニッチ類似度の帰無分布を構築する。 2

種のニッチ類似度が、帰無分布よりも十分に小さい(類

似度が低い)場合、 2種は共通の背景環境の中で異なる

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生物地理学とその関連分野における GISの利用

環境を選好していると解釈できる。ただし、これは 2種

が分布する背景となる環境が共通している場合であるこ

とに注意する必要がある。背景環境が異なれば、同じニ

ツチを持つ種でも実現する分布は必ずしも同じにはなら

ない。そのため、異所的に分布する 2種間でニッチ同一

性が棄却されても、必ずしもニッチ分化を検出したこと

にはならない。例えば、一方の種の分布域には最適な環

境条件が含まれているのに、他方ではそうでない場合、

後者の種の分布は「次善の策」となり、そこから推定さ

れるニッチモデルは前者のそれとは異なることになるだ

ろう。

2つ自の方法は背景類似度の検定(backgroundsimilarity

test)であり、ニッチ同一性の検定とは帰無分布の作り方

が異なる。すなわち、 I)B種の分布域内から A種の分布

データと同じ数の地点を無作為に選んで、ニツチモデルを

構築し、 2)そのモデルと B種のニッチモデルから予測さ

れる分布確率の値を基に、 2モデルの聞のニッチ類似度

を求め、 3)これを多数回くり返し、ニッチ類似度の帰無

分布を構築する。これは、 A種がB種の背景環境に導入

された時、偶然から期待されるよりも、より B種と類似

した(もしくは異なる)環境を選好するか否かを問うも

のである。この結果、 B種の分布域内で、の両種のニッチ

類似度が帰無分布よりも十分に大きい(小さい)場合、

両種は似た(異なる)環境を選好していることが示唆さ

れる。

これらの手法を用いることで、ニッチモデル聞の定量

的な比較は可能になる。しかし、得られた結果が生物学

的に妥当であるか否かについては、慎重に検討する必要

がある。生態ニッチモデリングによって生物の環境選好

性を推定しようとする時は、ある生物がその場所にいる

(いない)ということが、その場所の環境がその生物にと

って好ましい(好ましくない)ということを仮定してい

る(Waπen2012)。しかし、移動力の乏しい生物では、近

くに好ましい環境があってもそこに侵入できないことも

あるし、逆に移動力の高い生物では、好適で、ない環境で

も短期的には存在することができる(Godsoe2012)。また、

背景類似度の検定では、どちらの種にとっても明らかに

不適な環境(平地性の生物にとっての高山など)が含ま

れると、ニッチ類似度の帰無分布は過小評価され、 2種

のニッチが類似しているという結果が得られやすくなる

(Wa町enet al. 2008)。これは一般的な統計学的検定が内包

するのと同じ問題であろう。このような問題に対処する

には、対象生物の移動力に見合った地理的スケールを設

定し、その生物が環境を「選好」した結果を検出できる

191

ょう配慮する必要がある(Godsoe2012)。

上述のようなニッチモデルの比較は、ソフトウェア

ENMTools (表 1)を用いて実行することができる。 ENM

Toolsを用いれば、プログラミング等の手間なく、直観的

な操作によって、現在最も広く使われている生態ニッチ

モデリングツールの一つである MaxEnt(Phillips et al.

2006)で構築したニッチモデルを定量的に比較できる。

また最近のパージョンには、 2種の分布境界の検出(Glor

and Warren 2010)など、ニッチモデルの比較に関する新

たな機能も加わっている。 ENMToolsはMac、Linux、

Windowsのいずれの OSでも動作し、本体および実行環

境は全て無償で入手できる。分かりやすいマニュアルも

公開されているので、興味がある方は上述のウェブサイ

トを参照されたい。

我々はこれらの枠組みを用いて、 2種のオサムシ(マ

ヤサンオサムシ Carabusmaiyasanusとイワワキオサムシ

Carabus iwawakianus)における側所的な分布域の形成に

おいてニッチ分化が果たした役割を検出しようとしてい

る(Takamiand Osawa unpublished data)。これまで、オサ

ムシの分布境界における側所性は、生殖干渉による競争

排除によって説明されてきた(Okuzakiet al. 2010 ; Sota

and Kubota 1998)。しかし、野外で観察される境界はモザ

イク状であり、環境の異質性に対応して決まっている可

能性も考えられる。我々が進めている境界域でのニッチ

モデルの比較は、両種の環境選好性が分化していること

を示唆している(Takamiand Osawa unpublished data)。生

殖干渉を検出するような微視的なアプローチと、ニッチ

分化を検出するような生態生物地理学による巨視的アプ

ローチを組み合わせることで、生物の多様化プロセスの

理解は更に進むと期待される。

分布変遷史を考慮に入れた種分化要因の解明:応用例3

生物の種多様性には多くの研究者が興味を持ち、種分

化要因を探求する研究が多く行われてきた。種分化と生

態的要因の関係を調べた研究例も多く、そのような研究

では、分子系統樹を構築することや系統地理学的解析を

行うことで種分化過程を推定し、それを様々な生態的要

因と照らして合わせて考えることで、それらの要因が種

分化において重要であったかどうかを調べるという手法

が広く行われている(例えばFarrell1998 ; Hunt et al.

2007 ; Kawakita et al. 2004 . Sota and Nagata 2008 ;

Yamamoto and Sota 2009)。我々も、甲虫における飛淘能

力の退化が地域集団聞の遺伝的分化、更には種分化を促

進するという仮説の検証を目的として、甲虫目シデムシ

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岩崎貴也ほか

図l オオヒラタシデムシ Necrophilajaponica。ヒラタシデムシ

亜科の中では日本で最も普通にみられる種であり、この種は

飛刻筋2型を有する。

科ヒラタシデムシ亜科に属する種(以下シデムシ;図 l)

を対象として、分子系統樹を用いた解析や系統地理学的

解析を行ってきた (Ikedaet al. 2012など)。 この節では、

古気候シミュレーションと生態ニッチモデリングを応用

した進化生態学的な研究例として、生物種の分布変選パ

ターン (生息地の持続性と不連続性)が、種分化に与え

る影響を解析した研究を紹介する。

飛湖能力の退化が集団聞の遺伝的分化や種分化に与え

る影響を考えるには、飛朔能力以外に生息地の分布パタ

ーンの影響についても考慮する必要がある。生息地の空

間的な不連続性が集団聞の遺伝的分化をもたらすことは

様々な研究で報告されている (Brouatet al. 2003 ; Hastings

and Harrison 1994)。また、持続的に安定して存在する生

息地では分散能力の低い生物が優占する傾向があり

(Southwood 1977)、そのような環境に生息する生物ほど

集団間で分化 しやすいことで種分化速度が速いという仮

説もあげられていた(生息地タイプ仮説, Papadopoulou

et al. 2009 ; Ribera et al. 200 I)。

そこで、これらの生息地分布の影響を飛朔能力の影響

と分けて検証するため、現在及びLGM期の分布好適地(こ

れを生息地とみなす)を生態ニッチモデリングによって

推定し、その不連続性や持続性を調べることを試みた (図

2)。各シデムシ種の分布好適地を推定するために、我々

の採集記録に加えて文献情報も集めた。更に、博物館の

収蔵標本のラベルに記された採集地点のデータも集めた。

博物館に標本が残されている生物を対象とする場合には、

標本ラベルというのは非常に有益なデータである。シデ

ムシに限らずこのような標本のデータを有効活用しよう

という動きは農業環境技術研究所 (オサムシ科標本情報

閲覧システム、 表 1)などで進められており、これらは

今後、更に利用されるべきだろう 。他に、本研究では利

用していないが、国立科学博物館が提供しているサイエ

ンスミュージアムネット (表 1)では、全国の自然、史系

博物館が収蔵している標本情報を緯度経度情報付きで取

得することができる。また、環境データとしては、気象

庁より出されているメッシュ気候値 2000のデータを用い

た (気象庁 2002、表 I)。 これらのデータをもとに、

Max Entを用いて分布好適地の推定を行った。更に、推定

された結果をもとに、GISを用いて各シデムシ種におけ

る分布好適地の不連続性と持続性を算出した。

長い時間 f 一一噌~~→常F→皇室~~ t崎 沖分イめ

生息地の持続性

生息地の不連続性

生態二ツチモデリングによって推定

図2 甲虫における飛湖能力のill化と、生息地の分布パターンが極分化に及ぼす影響を解析する研究の概念図。

192

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生物地理学とその関連分野における GISの利用

その結果、飛朔能力の有無と現在の分布好適地の不連

続性は両方とも有意に集団関の遺伝的分化に影響を与え

ていたが、過去の分布好適地の不連続性による影響は認

められなかった。これは、気候変動に伴う分布変遷の中

で集団聞の交流が生じるために、分布好適地の不連続性

の影響は最近のものに限られるからであろう。したがっ

て、分布変遷にも影響されない長期スケールでの集団の

分化は、飛期能力の退化によってもたらされると考えら

れる。また、分布好適地の持続性と種分化の関係につい

ても調べたところ、飛期能力の退化は種分化速度を有意

に増加させるが、分布好適地の持続性は種分化には影響

を与えていないという結果が得られた。これら一連の解

析の結果、シデムシにおいては、分布好適地の不連続性

や持続性ではなく、飛朔能力の退化こそが、集団聞の遺

伝的分化及び種分化の速度を促進させるという結論が得

られたのである(研究の詳細は Ikedaet al. 2012を参照)。

分布変遷に伴う分布の分断は異所的種分化を引き起こ

し得る主要な種分化メカニズムの中の lつであるが、そ

の重要性を他の進化要因と同じ枠組みで比較・検証する

ことは困難であった。この節で紹介したような GISを用

いた歴史生物地理学的アプローチの導入により、進化生

態学の枠組みの中で、分布変遺を進化要因のーっとして

評価できるようになったといえる。

複数種臓による群集レベルでの分布変遷史の推定:応用例4

類似した環境に生育し、分布域が似ている生物群集の

構成種は、気候変動に対する応答も共通していたと考え

られる。従って、その影響は複数の種に共通する地理的

な遺伝構造のパターンとして、現在も残っていることが

期待される。この共通パターンを検出できれば、そこか

ら生物群集レベルの分布変遷史を明らかにすることがで

きる(Arbogastand Kenagy 2001 , Iwasaki et al. 2010,

2012 , Schneider et al. 1998など)。一方、共通しないパタ

ーンからは、生活史や生育環境などの種間で異なる要因

による影響(Rossettoet al. 2009など)や、その種独自の

歴史や進化イベントの存在などを考えることができる。

このように、複数種のデータを比較・解析して共通性を

見つけ出すことは、生物地理学に対して大きな知見をも

たらす。また、生物群集レベルでの分布変遷史は、その

生物群集に属している多くの生物種の進化・保全研究で

考慮すべき重要な示唆をもたらすだろう(Bermingham

and Moritz 1998; Drew and Barber 2012など)。このように、

群集レベルを対象として分布変遷史を明らかにする生物

地理学的研究には大きな期待が持たれるが、サンプリン

193

グ戦略や遺伝解析の手法が種によって異なるため、複数

種のデータを比較して共通パターンを検出することは容

易ではない。以前にも複数の系統地理学的研究のデータ

をレビューした研究はあったが、その多くは人間の目に

よる比較に留まっていた(Qiuet al. 2011 ; Taberlet et al.

1998など)。しかし、系統地理学的研究で得られる空間

遺伝構造の情報は地理情報であるため、 GISを用いて客

観的に扱うことができる。そこで本節では、この共通性を

検出するための GISを用いたアプローチについて述べる。

まず本総説の最初に述べたように、 GISは「地理情報」

を作成・分析・可視化するための情報技術の総称である。

従って、系統地理学的研究で得られる「この地点にこの

系統が分布していた」といった空間遺伝構造や、生態ニ

ッチモデリングで得られる生物の分布好適地の予測結果

なども地理情報であり、 GISを用いて直接的に扱うこと

ができる。系統地理学的研究のデータを GISを用いて直

感的に分かりやすいように地図化する方法は、 Aoidhet

al. (2013)などにまとめられているので参照されたい。

GISによる地理学的解析では、単純な地点聞の地理的距

離の計算に始まり、単位面積当たりの点や線の密度の計

算や、複数レイヤ聞の相関解析などが、生物地理学的研

究に関係の深い解析方法として挙げられるだろう。この

後で紹介するように、環境情報などを利用するだけでな

く、系統地理学的研究のデータなど、各研究者がそれぞ、

れの生物地理学的なデータを GISで扱える形式のデータ

に変換し、それを GISで地理学的に解析することの利点

は大きい。

こうしたアプローチの先駆的な研究として、 Soltiset

al. (2006)がある。彼らの研究では、北アメリカ北西部

に分布する様々な動植物で調べられた系統地理学的研究

のデータを GISで扱える形式に変換し、実際に GIS上で

の重ね合わせによる比較・解析を行うことによって、こ

の地域の生物群集の構成種に共通するパターンの検出が

試みられている(手法の概要は図 3)。まず彼らは、それ

ぞれの種内でみられた遺伝的境界が地図上のどこに分布

しているかを調べ、それらを地図上にライン(線)のデ

ータ形式で作成している。続いて、複数種で得られたラ

インのデータを GIS上で重ね合わせ、その重なり具合を

単位面積内での線密度として解析することにより、系統

地理学的な分断についての共通パターンの有無を解析し

た。当時は同じ生物群集に属する生物種についての系統

地理学的なデータが不足していたこともあって、彼らの

解析では明瞭なパターンは検出されなかった。しかし、

たとえサンプリング戦略や遺伝解析手法が異なるデータ

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岩崎貴也ほか

複数種の空間遺伝構造(線は各種における系統的分断の位置を示す)

遺伝的境界を重ね合わせ

地理学的解析(数字が大きいほど境界が強い)

l'i!:I 3. GISを用いた複数種比E絞アプローチの例 (Soltiset al. 2006で用いられた手法の概要)。

であっても、複雑な遺伝構造を単純なライン形式へと変

換することによって GIS上での解析を可能にしたことは、

この研究の特筆すべき点である。

我々は上述の Soltiset al. (2006)の手法を改変し、日

本の温帯林に同所的に生育する複数樹種の系統地理デー

タを対象として比較解析を行った。その結果、複数の種

で地理的に共通してみられる遺伝的境界や遺伝的まとま

りについての共通パターンが検出された(Iwasakiet al.

unpublished data)。 その中で検出された共通の遺伝的境界

の位置は、現在の日本列島に存在する主要な山地や低地、

海などの地理的障壁の一部と一致しており、それらの地

理的障壁が温帯林の分布変遷史に大きな影響を与えたこ

とが示唆されている。一方、共通の遺伝的まとまりは日

本列島全体に散在しており 、日本の温帯林が氷期の寒冷

化の際に北方地域で完全に絶滅したのではなく、氷期中

も各地に独立した集団として生き残り続けたことを示唆

する結果が得られている (Iwasakiet al. unpublished data)。

更に我々は、系統地理学的データの比較だけに留まらず、

それぞれの樹種について生態ニッチモデリングによる氷

期の分布好適地推定も行い、その結果を GISで合成する

ことで、それらの樹種が群集レベルで安定して存在した

「温帯林の逃避地」の推定も行った。その結果、遺伝構造

の比較解析から推測された分布変遷史と一致するような

氷期逃避地の分布パターンが得られ、両方の結果に基づ

くことで温帯林群集レベルでの分布変遷シナリオを構築

することができた (Iwasakiet al. unpublished data)。 なお、

基礎編でも少し触れたように、遺伝解析や生態ニッチモ

デリング以外の化石データなども解析に用いることで、

より信頼性の高い生物群集レベルでの分布変選史の推定

ができると考えられる。

近年の系統地理学的解析で、は、 BARRIER (Manni et al.

194

2004、表 I)や SAMOVA (Dupanloup et al. 2002、表 I)、

TESS (Chen et al. 2007、表 I)による解析など、集団聞の

地理的関係性も考慮した集団遺伝学的解析が広く用いら

れている。それらで得られた結果は、 GISで扱えるデー

タへと容易に変換することができる。例えば、 BARRIER

解析で得られる遺伝的境界は上で述べたようなラインの

形式へ簡単に変換可能で、ある。また、 SAMOVAによるグ

ルーピングの結果はボロノイ分割で作成した多角形にス

コアを与える、あるいはグルーピングされた集団聞をラ

インデータで繋ぐとい った方法などが考えられる。

TESS、あるいは STRUCTURE (Pritchard et al. 2000、表 I)

などのクラスタリング解析の結果は、各地点における遺

伝的クラスターの割合の値を元にして内挿法による推定

を行うことで、連続的なクラスターの分布データを作成

することができる。この内挿j去による推定は、遺伝的多

様性や有効集団サイズなど、様々な点のデータに対しで

も有効で、ある。例えば、 Eidesenet al. (2013)は、 北極圏

に生育する 17の植物種を対象に遺伝解析を行い、

STRUCTUREによるクラスタリング解析の結果を GISで

解析することで北極周辺に存在する共通の遺伝的境界の

位置を検出している。また同時に、彼らは北極周辺にお

ける植物の遺伝的多様性における共通の地理的パターン

についても GISを用いて地図化している。このように複

数種の遺伝構造を GISで比較解析した例はまだ少ないが

({也には、 Jaramillo-Correaet al. 20 I 0 ; Moritz et al. 2009な

ど)、近年は世界中の様々な生物について盛んに系統地理

学的研究が進められており、比較解析に利用できる遺伝

構造のデータは飛躍的に増大しつつある。実際、それら

の遺伝構造データのデータベース化も一部で進められて

いる。例えば、国内では日本産淡水魚類の遺伝的多様性

とその分布に関するデータベース GEDIMAP(Genetic

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生物地理学とその関連分野における GISの利用

境.語、-霊翠Ill!・ 置覇軍曹翻E

分布変遷の再現 、、”J u 近縁種聞での生態ニツチ

分化の検証 時応用例2@一ぺ圏 摘レイヤ潤 現在の環境レイヤ司 未来の環境川

過去 一d戸、 _,,_y~

ヤ宗広;,(~』

現在怖ぜも;来来 さ潟三,J

保全生物学への応用暗応用例1

種分化要因の検証嘩応用伊U3逃避地はどこ?分布の分断化は?

品t"-DNA 一一一+ 分子系統地理 一一一 片刊回群集レベルでの生物地理の検証 時応用伊U4

図4 本研究で紹介したアプローチの概念図。

Diversity and its Distribution Map; Watanabe et al. 20 I 0、表 I) だけでなく(Corander et al. 20日 ,Emersonet al. 20 I 0)、今

が挙げられる。今後、このようなデータベース上の多種 までは困難であった非モデル生物における適応遺伝子の

の遺伝構造の情報を活用して比較解析を行えば、l種ご 特定までもが現実的なものになってきている(Ellegren

とに行われてきた系統地理学的研究を生物群集のレベル 2014 ; Hohenlohe et al. 2010)。更に、特定された適応遺伝

にまで拡張する ことも容易になるであろう。 子自体の野外での分布パターンという地理情報に着目し、

本総説で紹介したよう なGlSを用いた生物地理学的解析

を応用すれば、その適応遺伝子が担っているであろう局

所適応の地理的パターンの推定も行う こと ができる

(Eckert et al. 2012)。 適応遺伝子の特定を介したこの拡張

は、「生物の分布」そのものを対象としてきた生物地理学

からの一つの新たな発展形といえるであろう。

加えて、次世代シークエンシングは、生物の遺体や化

石などから得られる古 DNAの遺伝情報についても解読す

ることカfできる(Greenet al. 2010, Parducci et al. 2012)。

すなわち、今までは現在あるいはごく 近い年代の時空間

断面からしか得られなかった遺伝情報を、古い過去の時

空間断面からも同校に得られるようになりつつある。こ

れによって過去の情報を用いれば、これまでに提唱され

てきた分布変選シナリオや進化仮説についての直接的な

検証が可能となる。こうした過去の情報も GISに取 り込

み、現生試料などから得られる他の生物地理情報と合わ

せて統合的に解析することは、本記念説で、沼介したよう な

生物地理学とその関連分野における歴史的な側面の解明

おわりに

本稿で例示したように、GIS技術を活用すれば、生物

の分布パタ ーンや分布形成プロセスの解明を目指す純粋

な生物地理学はもちろん、それに関連する群集生態学や

進化生態学などの基礎科学、保全生物学などの応用科学

分野も大きく発展し得る(図4)。導入部でも述べたよ うに、

現代の生物地理学は、様々な分野と密接に連携しながら、

生物の分布を鍵として生物多様性を考える学際的分野と

なりつつある。本稿では、生物地理学、群集生態学、進

化生態学、保全生物学といった枠組みにある様々な研究

を紹介したが、その中で用いられている GISによる解析

手法の多くは分野間で共通していることを分かつて頂け

ただろう。GISを用いた生物地理学的解析は、様々な分

野間の連携を促進し、より大きなスケールでの研究を生

み出す可能性がある。

今後の生物地理学やその関連分野において、特に注目

すべきなのは、次世代シークエンシングで得られる遺伝

情報の活用であろう 。次世代シークエンシングでは、ゲ

ノム情報が知られていない生物についても、従来の方法

(サンガ一法)の数万から数百万倍にも及ぶ膨大な遺伝情

報を得ることができる(Mardis2008などを参照)。これ

により、分子系統地理学的解析の精度が大幅に上昇する

に大きく貢献するだろう 。

一般的な生態学者にとって、ここで紹介した GISのよ

うな情報技術は、ともするとハードルが高いものに感じ

られるかもしれない。しかし、 これらの技術によって得

られる成果は、遺伝解析や分布調査などで得られる局所

的な個々のデータを、大局的に統合して解析した別視点

195

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岩崎貴也ほか

のものであり、これまで気付かなかった新たな発見をも

たらしてくれる可能性がある。本稿をきっかけとして、

少しでも多くの研究者がこの技術を利用して研究を発展

させていくことを心から願っている。

謝辞

本稿は、 JSPS科研費 22568046、22570082、22770019、

23405009、24248025、25840139、13106059、14100456、

グローパル COEプログラム(A06)、および環境省の環

境研究総合推進費(Sθ)の支援を受けて行った研究の成

果あるいはアイデアの一部を利用して執筆したものです。

本稿で紹介した研究に際して、井鷺裕司・伊藤元己・浦

西来耶・桑原禎知・後藤晃・白川北斗・曽田貞滋・西川

正明の各氏をはじめとする多くの方々にご協力頂きまし

た。 JamesR. P. Worth氏には英文要旨の校聞を、斎藤昌幸

氏には原稿全体に対する有益なコメントを頂きました。

ここに記して感謝の意を表します。また、本稿執筆は、

2012年3月に滋賀県大津市で開催された日本生態学会第

59回大会の企画集会「新しい歴史生物地理学へ~分子系

統地理、 GIS、生態ニッチモデリングの融合を目指して~」

で行われた議論をきっかけとしています。集会に参加し

てくださった多くの方々にも感謝しミたします。最後に、

本稿に対して有益なコメントをくださいました 2人の査

読者と編集者に心よりお礼申し上げます。

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