25
1 物理化学入門 第2回 2 理想気体 質量は持つ 大きさのない分子 分子間力を無視できる仮想的な分子 現実の気体でも希薄な状態では理想気体と 同じ性質を持つ 理想気体の持つパラメータ 圧力 P (Pressure) 体積 V (Volume) 温度 T (Temperature) モル数 n 圧力 P (Pressure) 圧力は単位面積あたりにかかる力 P = F / S 1Pa(パスカル) = 1N/m 2 体積 V (Volume) S L V (体積)= S(断面積) × L(長さ) 温度 ブラウン運動 ブラウン運動は温度が高くなると激しくなる 温度はこの熱運動の激しさを示す物理量 -273で熱運動はほとんど無くなる 絶対零度 6 モル数 n 分子を重さではなくて分子の数で考えると便利な 場合がある(化学反応など)。 2H 2 + O 2 2H 2 O 質量だと 2g + 16g 18g 数だと 2+ 12モル数 n しかし分子は小さいため数が大きくなってしまう。 なので、12個を1ダースと数えるように 6.02×10 23 個(アボガドロ数, N A )を1モルと決める。 6.02×10 23 個は原子番号12の炭素12gに含ま れる原子数) N (分子の数)= n(モル数) × N A (アボガドロ数) (個数)= (ダース数) × (129 ボイルの法則 一定量の理想気体は,一定温度で体積を変えると, 圧力が体積に反比例する. 「よくわかる物理化学の 基本と仕組み」より

物理化学入門 第2回 質量は持つ P (Pressure) - Yamagata ...1 物理化学入門 第2回 2 理想気体 • 質量は持つ • 大きさのない分子 • 分子間力を無視できる仮想的な分子

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Page 1: 物理化学入門 第2回 質量は持つ P (Pressure) - Yamagata ...1 物理化学入門 第2回 2 理想気体 • 質量は持つ • 大きさのない分子 • 分子間力を無視できる仮想的な分子

1

物理化学入門第2回

2

理想気体

• 質量は持つ

• 大きさのない分子

• 分子間力を無視できる仮想的な分子

• 現実の気体でも希薄な状態では理想気体と同じ性質を持つ

理想気体の持つパラメータ

• 圧力 P (Pressure)• 体積 V (Volume)• 温度 T (Temperature)• モル数 n

圧力 P (Pressure)

圧力は単位面積あたりにかかる力

P = F / S  1Pa(パスカル) = 1N/m2

体積 V (Volume)

S

L

V (体積)= S(断面積)× L(長さ)

温度ブラウン運動

ブラウン運動は温度が高くなると激しくなる温度はこの熱運動の激しさを示す物理量-273℃で熱運動はほとんど無くなる → 絶対零度

6

モル数 n分子を重さではなくて分子の数で考えると便利な場合がある(化学反応など)。

2H2 +   O2 → 2H2O

質量だと 2g       +     16g  → 18g

数だと 2個 +  1個 → 2個

モル数 nしかし分子は小さいため数が大きくなってしまう。なので、12個を1ダースと数えるように6.02×1023個(アボガドロ数, NA)を1モルと決める。

(6.02×1023個は原子番号12の炭素12gに含まれる原子数)

N (分子の数)= n(モル数)× NA(アボガドロ数)

(個数)= (ダース数)× (12)

9

ボイルの法則

• 一定量の理想気体は,一定温度で体積を変えると,圧力が体積に反比例する.

「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より

Page 2: 物理化学入門 第2回 質量は持つ P (Pressure) - Yamagata ...1 物理化学入門 第2回 2 理想気体 • 質量は持つ • 大きさのない分子 • 分子間力を無視できる仮想的な分子

10

シャルルの法則

• 一定量の理想気体は,一定圧力で温度を変えると,体積が絶対温度(T)に比例する.

• 絶対温度T(単位:K)= t + 273.15

「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より

T = t + 273.15 

11

アボガドロの法則

• 一定温度,一定圧力でモル数を変えると,体積はモル数に比例する.

「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より

12

ドルトンの分圧の法則

• 全圧力Pは分圧(p1, p2, p3 …)の和になる.

• 分圧:多種類の気体が容器に入っているとき,注目したい種類の気体だけを容器に残して,他の種類の気体を全部追い出したと仮定したときの圧力.

....321 pppP

混合気体の圧力(8.4atm) = H2の分圧(2.4atm) + N2の分圧(6.0atm)

13

理想気体の状態方程式

• ボイルの法則,シャルルの法則,アボガドロの法則,ドルトンの分圧の法則をまとめた式.

• R = 8.31J mol‐1 K‐1

• n = n1 + n2 + n3 +….. 

「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より

14

ボルツマン定数を用いた理想気体の状態方程式

• 気体のモル数がnの時,分子数をN個とすると,

• N = n x 6.02 x 1023 となる.

• kB = R/(6.02 x 1023)はボルツマン定数と呼ばれる.

「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より 15

理想気体と実在気体の違い

• 理想気体

– 質量は持つが大きさのない分子

– 体積,分子間力を無視

• 実在気体

– 大きさを持つ

– 分子間力も働く

nRTPV

1nRTPV

nRTPV

P

理想気体

17

理想気体と実在気体の違い

• 理想気体の場合,PV/RTは一定になるはず

• 実在気体では一定にならない

• 原因は,分子の大きさと分子間力

「フレンドリー物理化学p94」より

?nRTPV

18

実在気体の状態方程式

• 実在気体には,V’(気体が実際に動ける体積)とP’(分子間相互作用がないときの圧力)を用いて

とすべき.

nRTVP ''

Page 3: 物理化学入門 第2回 質量は持つ P (Pressure) - Yamagata ...1 物理化学入門 第2回 2 理想気体 • 質量は持つ • 大きさのない分子 • 分子間力を無視できる仮想的な分子

19

実在気体の状態方程式

• いくつかの状態方程式が提案

– ファンデルワールス状態方程式

– ビリアル状態方程式

– ベン‐ロビンソン状態方程式

• ファンデルワールス状態方程式

–最も有名

–理想気体の状態方程式をもとに,分子の大きさと分子間力を考慮

20

分子自身の体積を補正した状態方程式

• 分子が動きまわることのできる体積V’は容器の体積Vよりも小さい.

(b:気体1モルの体積)

「理系なら知っておきたい化学の基本ノート」より21

分子自身の体積を補正した状態方程式

• 分子が動きまわることのできる体積V’は容器の体積Vよりも小さい.

• これを考慮すると,状態方程式は

となる.

nbVV ' (b:気体1モルの体積)

22

分子間力を補正した状態方程式

• 分子間力が働くため,壁にはたらく圧力Pは分子間相互作用がないときの圧力P’よりも小さくなる.

• 壁に衝突する分子は内側へ引っ張られる(上図).

• 内側へ引っ張る力は分子の濃度(n/V)に比例する.

• さらに単位時間に壁に衝突する分子の数も濃度(n/V)に比例する.

• 結果的に,圧力の減少分は物質量濃度n/Vの2乗に比例する.23

分子間力を補正した状態方程式

• 分子間力が働くため,壁にはたらく圧力Pは分子間相互作用がないときの圧力P’よりも小さくなる.

• その程度は

1. 分子間力の大きさa2. 気体のモル濃度の2乗

に比例する.

aVnPP 2

2

' (a:分子間力の大きさ)

24

分子間力を補正した状態方程式

• これを考慮すると,状態方程式は

• これをファンデルワールスの状態方程式という.

aVnPP 2

2

'

25

ファンデルワールスの状態方程式

• 実在気体の状態方程式のこと.

nRTnbVaVnP

nRTVP

))((

''

2

2

(a:分子間力の大きさ,b:気体1モルの体積)

Page 4: 物理化学入門 第2回 質量は持つ P (Pressure) - Yamagata ...1 物理化学入門 第2回 2 理想気体 • 質量は持つ • 大きさのない分子 • 分子間力を無視できる仮想的な分子

1

物理化学入門第3回

2「はじめて学ぶ物理[熱力学]」より

臨界点

その温度以上では気体‐液体

の変換が起こらないという温度を臨界温度という。その圧力を臨界圧力、体積を臨界体積という。その状態のP‐V曲線上での点を臨界点という。

ZnRTPV

圧縮因子

圧縮因子Zを定義。理想気体では常に1。

臨界点での圧縮因子

教科書p26

臨界点

教科書p27臨界点での圧縮因子

‐ 臨界点での圧縮因子はすべての気体でほぼ0.3。

‐ つまり臨界点ではすべての気体は近似的に等しく非理想的。

‐ 臨界点での圧力(臨界圧力)、体積(臨界体積)、温度(臨界温度)を基準にすればすべての気体でほぼ同様の振る舞いを表せる。換算変数。

非理想性の尺度としての臨界点

CR P

PP C

R VVV

CR T

TT

換算圧力PR、換算体積VR、換算温度TR臨界圧力PC、臨界体積VC、臨界温度TC

非理想性の尺度としての臨界点

‐その温度以上ではどんな圧力でも液体

にならない温度を臨界温度という。臨界温度での気体‐液体平衡の起こる圧力、

体積を臨界圧力、臨界体積といいそのグラフ上での点を臨界点という。

‐臨界点を用いると非理想性の程度をすべての気体で同様に扱える。

9

ファンデルワールス状態方程式と臨界点

• 変形すると以下のような3次式になる(1モルの場合).

nRTnbVaVnP ))(( 2

2

0)( 23 abaVVRTbPPV

Page 5: 物理化学入門 第2回 質量は持つ P (Pressure) - Yamagata ...1 物理化学入門 第2回 2 理想気体 • 質量は持つ • 大きさのない分子 • 分子間力を無視できる仮想的な分子

10

三次関数(高校の復習)

dcxbxaxxf 23)(f(x)

x

極値

変曲点

0)(' xf

0)('' xf

11

ファンデルワールス状態方程式と臨界点

• 点A:圧力が変化しなくなる(液化が始まる)

• 点B:すべて液体になる

• 点A,Bの圧力:飽和蒸気圧

2Va

bVRTP

実際の圧力変化ファンデルワールス状態方程式

「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より

12

ファンデルワールス状態方程式の温度依存性

• 温度とともに形状が変化

実測値 VDW曲線

2Va

bVRTP

「化学のコンセプト」より「はじめて学ぶ物理[熱力学]」より

13

ファンデルワールス状態方程式と臨界点

• 2つの頂点が重なる点が出現:臨界点

2Va

bVRTP

実測値 VDW曲線

「化学のコンセプト」より

「はじめて学ぶ物理[熱力学]」より

14

ファンデルワールス状態方程式と臨界点

• 臨界点では,

bRaT

baPbV ccc 27

8,27

,3 2

(a:分子間力の補正項,b:体積の補正項)

2Va

bVRTP

15

三次関数(高校の復習)

dcxbxaxxf 23)(f(x)

x

極値

変曲点

0)(' xf

0)('' xf

臨界点=二つの極値と変曲点が一致した点

16bVVbV

Va

bVVa

Va

bVRT

Va

bVRT

dVPd

Va

bVRT

dVdP

PcPVcVTcTVa

bVRTP

c

cc

ccc

cc

c

cc

c

cc

c

3

3)(

2

6)(

4(2)

2)(

1

206)(

2

102)(

),,(

43

32

432

2

32

2

 

に代入してこれを

 )より,(

) ・・・(式

) ・・・(式

では,臨界点

17

22

32

27)3(278

)3(

278

)3(2

)3(

)1(

ba

ba

Rba

bbRP

VDWRbaT

ba

bbRT

c

c

c

状態方程式に代入し,また,

に代入し,これを

bRaT

baPbV ccc 27

8,27

,3 2

18

臨界点がわかると

• 臨界点は実験で求めることができる.

• すると,a(分子間力の補正項), b(体積の補正項)を知ることができる.

bRaT

baPbV ccc 27

8,27

,3 2

「理工系学生のための化学基礎]」より

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1

物理化学入門第4回

気体分子運動論

• 分子の運動と圧力の関係を理解する.

nRTU23

VvNmP

3

2

• 更に,分子の運動エネルギー(内部エネルギー)と温度の関係を理解する.

2

分子運動による圧力

• 気体分子は動く.

• 下図のように気体分子が容器の壁に衝突すると壁に力を及ぼす.

• これが圧力となる.

3「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より

分子の数と圧力

• 一定体積中の分子数が2倍になると,衝突する分子の数は2倍になる.

• その結果,圧力が2倍になる.

4「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より

運動量の変化と力

• 分子が壁に衝突したときに及ぼす力を計算.

• 力学の基本法則:mv = Ft運動量の変化(mv)は力積(Ft)と等しい

• 気体分子1分子の場合

m:分子の質量,v:速度の変化,

Fmol:分子に働く力,t :壁に力が働く時間,

5

• 壁にぶつかり,速度がvxから‐vxに変化した場合

• 壁に働く力F = -Fmolなので

tFvm mol

6「よくわかる物理化学の基本と仕組み」よりx

分子運動による平均の力

• 1分子が1秒間に何回壁に衝突するかを考える.

• 長さLの容器の壁にぶつかり,再びもとの壁にぶつかるまでの時間

分子が2L動く時間,つまり2L/vxとなる.

• 1つの分子が1秒間に一つの壁に衝突する回数

1÷(2L/vx)= vx/2Lとなる.

7

「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より

分子運動による平均の力

• 1分子が1回衝突したときに壁に働く力積(前述)

• 1秒間の衝突回数

• 1分子の1秒あたりの運動量変化

xmvtF 2

回L

vx

2

Lmv

Lv

mv xxx

2

)2

(2)1( 秒間の力積

8

N分子の場合

• 1分子の1秒あたりの運動量変化

• 分子数がN個だとすると

• 壁に働く平均の力=1秒間に壁に働く力は

Nvvvvv xNxxx

x

223

22

212

LvNm x

2

)1( 秒間の総力積

9

Lmv

Lv

mv xxx

2

)2

(2)1( 秒間の力積

ただし分子の平均2乗速度 は,2xv

Page 7: 物理化学入門 第2回 質量は持つ P (Pressure) - Yamagata ...1 物理化学入門 第2回 2 理想気体 • 質量は持つ • 大きさのない分子 • 分子間力を無視できる仮想的な分子

気体分子運動論から計算される圧力

• 圧力=(壁に働く力)÷(面積) なので

SLvNmP x

2

LS は体積 Vと等しい

,かつ

10

2222zyx vvvv

222zyx vvv

なので, 22 3 xvv

LSvNm x

2

VvNm

3

2

VvNm x

2

232

3

22 vmvmTkB

状態方程式との比較

• 温度が高い=分子の運動エネルギーが大きい

3

2vNmPV

運動エネルギー

ここで,気体の状態方程式は

したがって,

TNkPV B

前ページより

11

N分子の気体のエネルギー

N分子(nモル)の場合は

nRTTNkvmNU B 23

23

2

2

ー))ルギー(内部エネルギ(気体全体の運動エネ

TkvmB2

32

12

)分子の運動エネルギー(

12

気体の速度

13

各気体の各温度での速度が算出できる

「理工系学生のための化学基礎」より

今日の内容

1. 気体分子運動論

2. 多原子分子のエネルギー

14

等分配の法則と自由度

• 理想気体:単原子

• 1原子分子の運動エネルギー

• x,y,z方向への運動が可能

• 自由度が3

2222

2222zyx vmvmvmvm

15「はじめて学ぶ物理」より

等分配の法則と自由度

• 等分配の法則

– すべての自由度に均等にエネルギーが配分される

• x,y,zの各方向の運動エネルギー

• 1自由度あたりの平均エネルギーはkBT/2

2222

23

2222222

2222

Tkvmvmvm

Tkvmvmvmvm

Bzyx

Bzyx

16

2原子分子の場合

• 自由度は5–x,y,z方向への運動

–2方向の回転運動

• 緯度方向(),経度方向()

17「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より

2原子分子での等分配の法則• 自由度は5• 各自由度につきkBT/2のエネルギー

– 並進も回転も同じエネルギー

• nモルの場合の内部エネルギーは

222222

22222 Tkvmvmvmvmvm Bzyx

nRTTNkvmNU B 25

25

2

2

18

222222

222222 vmvmvmvmvmvm zyx

Page 8: 物理化学入門 第2回 質量は持つ P (Pressure) - Yamagata ...1 物理化学入門 第2回 2 理想気体 • 質量は持つ • 大きさのない分子 • 分子間力を無視できる仮想的な分子

3原子分子の場合

• 自由度は6• 1分子の運動エネルギー

• nモルの内部エネルギー

nRTTNkvmNU B 326

2

2

TkvmB2

62

2

19「よくわかる物理化学の基本と仕組み」より

今日のまとめ

• 1分子の気体の運動エネルギー

• N分子の気体の内部エネルギー

TkvmB2

32

2

TNknRTU B23

23

20

今日のまとめ

• 等分配の法則

• 自由度

– 単原子分子:自由度 (x, y, z)– 2原子分子:自由度 (x, y, z, X軸Y軸 回転)

– 3原子分子:自由度 ( x, y, z, X軸Y軸Z軸 回転)

TkB21)1( ギー自由度あたりのエネル

21

今日のまとめ

• 単原子分子の特徴

• 2原子分子の特徴

• 3原子分子の特徴

nRTU23

nRTU25

nRTU 3

TkvmB2

32

2

TkvmB2

52

2

TkvmB3

2

2

22

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1

物理化学入門第5回

疑問

先週学習した気体の分子運動論ではニュートン力学(古典力学)を使って分子の運動を記述した。

分子のようなミクロの世界では量子力学が支配すると高校で学習した。

なぜ気体の分子運動論はニュートン力学(古典力学)で表せるのだろうか?

2

二重スリット実験量子力学の精髄(ファインマン)最も美しい実験に選出(2002年)

電子や光子は“粒子”の性質と“波”の性質を両方持つ。

ドブロイの粒子波

電子や光子の波の波長はどうやって決まるのだろう?

hEプランクの関係式

アインシュタインの式 2mcE

2mchc

mch

一般化して

c

周波数と波長の関係 量子力学

量子力学ではある特定のエネルギーしか許容されない。エネルギーはその特殊な値に制限される。これを量子化という。

量子力学の方法を用いて、分子の並進、回転、振動運動を記述してみよう。

並進エネルギー

箱の中の粒子の並進運動。

X軸成分のみを着目して考える。

適合する定在波は整数の節をもつ波。

並進エネルギー

半波長の整数倍が長さ a に等しい。

an 2

mvh

ドブロイの式 を代入 amvnh

2

2

21 mv変形して

,...)3,2,1(82

12

222 n

mahnmvE

運動エネルギーなので

並進エネルギー

許容されるエネルギーと定在波

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例題

N2分子が10cmの長さの線分に閉じ込められた

ときの持つことの出来る並進エネルギーを求めよ。

N2分子一個の重さ=モル質量/アボガドロ数

=0.028kg/(6.02 X 1023)=4.65 x 10‐26kg線分の長さ a = 0.1 mh= 6.63 x 10‐34Js

,...)3,2,1(8 2

22

nma

hnE = n2 x 1.18 x10‐40 J

= 1.18 x10‐40 J, 4.72 x10‐40 J, 10.62 x10‐40 J

並進エネルギーの間隔は平均並進エネルギーより小さい

以前にもとめた平均並進エネルギー

TkB21

2.058 x 10‐21 J

例題で求めた並進エネルギー間隔10‐40 J と比べて1019 倍大きい。

つまり並進エネルギーにおける量子論的な効果は無視できるほどに小さい。

並進エネルギーの間隔は平均並進エネルギーより小さい

並進エネルギー準位が極端に小さいために、分子は任意の並進エネルギーをもてると仮定できる。

並進エネルギー(三次元)

1次元での粒子のエネルギーをx, y, z軸に拡張して

Ex nx2 h2

8ma2

Ey ny2 h2

8ma2

Ez nz2 h2

8ma2

並進エネルギー(三次元)

3次元で許されるエネルギー値は

zyx EEE教科書 p78

並進エネルギー(三次元)

エネルギーの縮退

x, y, z軸に違いが無いため上の三つの状態は

同じエネルギーを持つ。三重縮退。

nx,ny,nz = (2, 1, 1)(1, 2, 1)(1, 1, 2)

量子化された回転運動回転運動の定在波。円周は2πr。

n 2rmvh

ドブロイの式より

12

mv 2 n2h2

8 2mr2

教科書 p81

量子化された回転運動

12

mv 2 n2h2

8 2mr2 約10‐24J オーダー

マイクロ波、遠赤外線の領域

一酸化炭素の赤外吸収スペクトル 教科書 p82

量子化された振動運動

分子中の原子間結合距離は約100pm。その10%くらいで振動しているので、原子が動ける距離はだいたい10pm。

に代入すると、だいたい10‐20 Jのオーダー

E h2

8ma2

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まとめ

並進、回転の量子エネルギーはkBTと比べてずっと

小さい。このため量子力学的な式ではなくて古典的な式が適用できる。

振動の量子エネルギーは大きいため古典的な式は適用できない。

教科書 p83

2

2

8mah

a = 1x10‐1m a = 2πr = 1x10‐9m a = 1x10‐11m

量子化されたエネルギー間隔

閉じ込められる長さが大きいほどエネルギー間隔は狭い

古典力学的な振る舞い

TkvmB2

32

2

(運動エネルギー)

一分子の運動エネルギーは

nRTU23

気体が内部にもつエネルギーを内部エネルギーと呼ぶ

単原子分子では運動エネルギーの総和が内部エネルギーとなる

熱運動によるエネルギー

21

力学的周囲

熱的周囲

教科書 p116

熱力学的世界の構成要素

0 熱力系 UUU

体積変化によるエネルギー変化

= 力 × 距離=(圧力×面積) × 距離=圧力 ×(面積 × 距離)=圧力 × 体積変化= p × (V2 – V1)

熱U 0 熱力系 UUU

熱と仕事でエネルギー変化を表す

力Uw

力Uq

w :外から加えた仕事q :加える熱量

U

熱力学第一法則

w :外から加えた仕事q :加える熱量

25

U

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1

物理化学入門第6回

2

• 対策

W=0にする.つまり一定体積で考える.

定積変化では, Uは加えられた熱量と等しい

2

熱量を決定したい

• ΔUとwの両方を測定する必要があり,難しい.

wΔUq

qv:定積変化における熱量

(熱力学第一法則)

『フレンドリー物理化学』より

3

我々を取り巻く環境

• 地表面での反応

1気圧,常温(25℃前後)

化学反応もこの条件下で行うことが多い

定積変化はめずらしい

• 定圧条件下での移動した熱量を考える

『理工系学生のための化学基礎』より

4

wΔUqp

定圧条件での熱量

VPU

ここで新しい熱力学量エンタルピーを定義する。

ΔHqp

5

エンタルピー

• 以下のようにエンタルピー(H)を定義する.

• すると,定圧条件下では「系の受け取る熱量」が「エンタルピー変化」と等しくなる.

PVUH

pqΔH エンタルピーの増加量 定圧条件下で系が吸収した熱

『化学の基本ノート物理化学編』より

66

エンタルピー

• 定圧条件下において,「系が受け取る熱量」が「エンタルピー変化(H)」となる.

• これなら測定しやすい.

pqΔH エンタルピーの増加量

定圧条件下で系が吸収した熱

『化学の基本ノート物理化学編』より

77

エンタルピーと内部エネルギーの関係

VPUqΔH p

VpUq

VpqwqΔU

p

pp

なので,

• 定圧条件下での反応

エンタルピー変化は,

1. 定圧条件下で系が吸収する熱量

2. 定圧条件下で,「内部エネルギーの増加分」と「外界にした仕事」の和 88

qpとqvの関係

VPUqΔH p

VPqq vp

前頁より

定積変化ではPV=0より

vv qVPqΔU より

RTnVP )(定温条件下での理想気体の反応では,状態方程式より,

9

ここまでのまとめ

9RTnqq

VPUwUqΔH

qU

wqU

vp

p

v

)(

 

理想気体では,

 

定圧条件下では,

 

定積条件下では,

 

熱力学第1法則定積条件 定圧条件

『理工系学生のための化学基礎』より

Page 13: 物理化学入門 第2回 質量は持つ P (Pressure) - Yamagata ...1 物理化学入門 第2回 2 理想気体 • 質量は持つ • 大きさのない分子 • 分子間力を無視できる仮想的な分子

C(グラファイト)→C(ダイヤモンド)

この反応の熱量を直接測るのは難しい

しかし、それぞれの燃焼反応は熱量計で測定できる。

C(グラファイト) + O2 → CO2 H=‐393.51J/molC(ダイヤモンド) + O2 → CO2 H=‐395.40J/mol

1111

ヘスの法則

• 反応熱は反応前後の物質の状態だけで決まり,途中の経路は関係しない

– 反応が1行程で終了しても,数行程かかっても,反応熱は同じ

– 反応熱の加成性

1212

グラファイト(炭素)からダイヤモンド(炭素)に変換するための生成熱を求める.(グラファイトの燃焼熱:393.5kJ/mol,ダイヤモンドの燃焼熱:395.4kJ/mol)

単体

安定酸化物

C(グラファイト)+O2(気体)

CO2(気体)H1°= -393.51 kJ

C(ダイヤモンド)+O2(気体)

H2°= -395.40 kJ

molkJH /89.1)40.395(51.393

1)()( kJmol 89.1CC ダイヤモンドグラファイト

1313

標準生成エンタルピー(Hf°)

• 標準状態(1気圧,25℃)の単体から標準状態の1molの化合物を生じる生成熱

単体のHf°は0とする

1-22 kJmol3.92 HCl(g))(Cl

21)(H

21

gg

1-22 kJmol3.29)( HCl(g))(Cl

21)(H

21

HClHgg f

すべての化学反応のエンタルピー変化を測定して表にするのは実用的ではない。

その代わりにすべての物質のエンタルピーに関する情報をそろえる方が現実的。

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1

物理化学入門第7回

状態量(状態関数)

熱平衡状態を指定すると値が一意に決まる物理量を状態量と言う。

内部エネルギーは状態量

熱量、仕事は状態量ではない。

状態量(示量性)

n(モル数)、V(体積)、

U(内部エネルギー)、H(エンタルピー)

状態量(示強性)

P(圧力)、T(温度)

qwU PVUH

状態量(状態関数)

状態量の関数であるエンタルピーも

* は状態量ではない。

pqΔH (定圧条件)

化学反応は定圧で行うことが多い。

その場合、反応熱は反応のエンタルピー変化と等しくなる。

エンタルピーと化学反応

A → B

H

すべての化学反応のエンタルピー変化を測定して表にするのは実用的ではない。

その代わりにすべての物質のエンタルピーに関する情報をそろえる方が現実的。

66

標準生成エンタルピー(Hf°)

• 標準状態(1気圧,25℃)の単体から標準状態の1molの化合物を生じる生成熱

単体のHf°は とする

1-22 kJmol3.92 HCl(g))(Cl

21)(H

21

gg

1-22 kJmol3.29)( HCl(g))(Cl

21)(H

21

HClHgg f

教科書の一番後ろ付録B物性表にも標準生成エンタルピーのリストがある。

(例)エチレンの水素化

CH2CH2(g) + H2(g) → CH3CH3(g)  反応熱は?

Hf° +52.47          0               ‐84.68(kJ/mol)

H°=  ‐84.68 – (52.47) [kJ/mol] = ‐137.15 [kJ/mol] 

反応に伴うエンタルピー変化は、生成物のエンタルピーから反応物のエンタルピーを引いたもの。

教科書 p132

水溶液中のイオンの標準生成エンタルピー

(aq)Cl(aq)H)(HCl g

気体の塩化水素が、大量の水に溶解する過程。

aq: 水を表すラテン語「aqua」よりイオンが水中に存在することを表す。

(aq)Cl(aq)H)(HCl gHf° ‐92.31        Hf°(H+)    Hf°(Cl‐) (kJ/mol)

反応エンタルピーは H°= ‐74.85 (kJ/mol)

‐74.85 (kJ/mol) = Hf°(H+)  + Hf°(Cl‐) – (‐92.31) (kJ/mol)となり

Hf°(H+)  + Hf°(Cl‐) = ‐167.16 (kJ/mol)

イオン化エンタルピーHf°(H+)  + Hf°(Cl‐) = ‐167.16 (kJ/mol)

イオンの生成は常に陽イオンと陰イオンが共に生成するために、それぞれの生成エンタルピーは実験的に求められない。なので、H+の生成エンタルピーを定義してしまう。

Hf°(H+) = 0 (kJ/mol)

Hf°(Cl‐) = ‐167.16 (kJ/mol)

H+は常に水溶液反応に関与するので、他のイオンの生成エンタルピーを決定できる。

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10

熱容量

• 熱容量:1℃温度を上げるために必要な熱量のこと

• 1モルの物体に熱(Q)を加えて温度がT℃上昇した場合,熱容量Cは

10

C

11

定積熱容量(Cv)

• 体積一定の条件下(定積変化)での熱容量を定積熱容量Cvという.

• 定積変化では,V=0なので

TqCv

UqwqU

v

v

よって.

  熱力学第一法則

12

定圧熱容量(Cp)

• 圧力一定の条件下(定圧変化)での熱容量を定圧熱容量Cpという.

• 定圧では,W=PV

Tq

Cp

HVPUq

p

p

よって.

TVPCvCp

TnRVP

定積熱容量と定圧熱容量

なので

Cp一定圧力の元で気体が膨張するとき、nRに等しい余分なエネルギーを熱的周囲からもらう必要がある。

TVPCv

TVP

TU

TVPU

TH

Tq

Cp p

      

エンタルピー変化の温度依存性

多変数関数の微分: 偏微分

),( yxfz 変数がx, y二つあるのでこの関数の微分は

yf

xf

,

ラウンドエフ‐ラウンドエックス(ワイ)とよび、偏微分という計算は他の変数を定数として微分するだけ。

エンタルピー変化の温度依存性

reactprod HHH

P

react

P

prod

P TH

TH

TH

)(

教科書p145

reactpprodp CC )()(

エンタルピー変化を温度に対してプロットすると傾きが熱容量変化になる。

温度で微分すると

反応のエンタルピーの積分形教科書p145

PP

CTH

)(

定数 dTCH PT

から

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1

物理化学入門第8回

2

理想気体の定積比熱

• 理想気体1モルの内部エネルギー(U)は

• 温度がT上昇したとすると

• したがって,理想気体の定積比熱は

RTU23

TRU 23

TUCv

(前回の講義より)

3

理想気体の定積比熱のまとめ

4

定積比熱と定圧比熱

• CpはCvよりもRだけ大きい.

• 定圧変化の場合は仕事(PV)をするので,その分のエネルギーが必要となる.

RCvTHCp

TUCv

『フレンドリー物理化学』より

55

反応の方向性

例1水を入れたコップを室温で長時間放置する

→蒸発して空になる

例2水の入った洗面器に赤インクをたらす

→インクは全体に広がる

例3熱い物体と冷たい物体を接触させる

→高温側から低温側へと熱移動が起きる

• 逆は決して起こらない

6

エンタルピー変化だけでは方向は決まらない

• 自然と起きる化学反応

122283 2220kJmolΔH O(l)4H(g)3CO5O(g)HC

132 kJmol2.248ΔH (s)OFeO2(g)

232Fe(s)

プロパンの燃焼反応(発熱反応)

鉄の酸化反応(発熱反応)

水の蒸発(吸熱反応)

122 kJmol3.44ΔH O(g)HO(l)H

1810810 kJmol6.72ΔH (g)HC(s)HC

ナフタレンの昇華(吸熱反応)

• 変化の方向は熱の出入り(エンタルピー変化)だけでは判断できない

• 熱力学第一法則だけでは判断できない

7

エントロピーの導入

• 変化の方向を決定するための状態関数として,エントロピー(S)が導入された.1つの系が絶対温度Tにおいて,dqの熱量を可逆的に吸収したとき下記のようにSを定義する.

Tdq

dS eq (可逆条件下)

• エントロピーを考えると,

8

エントロピーの感覚

• Sは「乱雑さ」をあらわし,Sが大きいほど分子の状態が乱雑であることを意味する.

• エントロピーが増加するということは,熱運動を行う範囲が広がることである.

9

熱力学第二法則

• 孤立系で起こる変化は必ず

となる.

• 断熱系で不可逆変化が起きた場合は,系のエントロピーは増加する.

• 一度増大したエントロピー(乱雑さ)は二度と減ることはない.

0S (等号は可逆変化の場合)

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10

可逆変化と不可逆変化

• 熱力学第二法則では不可逆性が鍵となる

• 可逆変化– 1つの系がある状態から別の状態に移り,その系のみならず,外界にもなんらの変化を引き起こすことなしに再び前の状態に戻ることができる過程を可逆変化という.

• 不可逆変化– 完全にもとの状態に戻せず,どこかに変化(影響)が残ってしまう変化を不可逆変化という.

(理工系学生のための科学基礎p119より)

11

可逆変化1. 等温条件下2. ピストン上の無数のおもりを1つずつ取り除く3. おもりを1つずつ戻していく4. 完全にもとの状態に戻る

• 気体の仕事

1

2ln2

1

2

1 VVnRTdV

VnRTdVPW

V

V

V

V 膨張膨張時

2

1ln1

2

1

2 VVnRTdV

VnRTdVPW

V

V

V

V 圧縮圧縮時

0lnln2

1

1

2 VVnRT

VVnRTW合計合計

12

不可逆変化(例1)1. 等温条件下2. ピストン上のおもりを一気に取り去る3. おもりを戻す4. もとの状態に戻るように見えるが,実は完全には戻っていない

• 気体の仕事

VPdVPWV

V 2

2

2

1膨張

膨張時

VPVVPdVPWV

V 11

1)21(1

2圧縮

圧縮時

)( 12 PPVW 合計合計

13

• 不可逆変化では,外界に何らかの変化(今回は仕事を熱に変化させた)を残す.

不可逆変化(例1)

)( 12 PPVW 合計

気体ははじめと同じ状態に戻ったので

0U

だが,気体はW=‐V(P2‐P1)の仕事をしたので,以下の熱量を外部から受け取ったことになる.

WqU 熱力学第一法則より

)( 12 PPVWq

14

不可逆変化(例2)

1. 断熱条件下

2. 隔壁で分離された片方に理想気体

3. もう一方は真空状態

4. 隔壁を除去すると,気体が拡散する

5. 元の状態に戻すことは出来ない

15

世の中は不可逆変化

• 我々の日常生活の中で起こる変化は,全て不可逆変化である.– 熱が冷める

– 水中に滴下したインクが広がる

– 混ざった気体は元に戻らない

– 運動が摩擦熱に変化する

16

熱力学第二法則

• 孤立系で起こる変化

となる.

16

 (不可逆変化)

 (可逆変化)

00

SS

• 世の中は全て不可逆変化なので,

『宇宙(孤立系)のエントロピーは増大し続ける』

17

エントロピーとは

• 自発的変化の方向を決定するための状態量

• 系全体としてS≥0となる方向に自発的に変化する

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1

物理化学入門第10回

2

エントロピーを計算するに当たり

• 不可逆過程で測定した熱量からエントロピーは計算できない.反応前後の系の状態からエントロピーを計算する.

• エントロピーの定義

1つの系が絶対温度Tにおいて,dqの熱量を可逆的に吸収したとき下記のようにSを定義する.

Tdq

dS eq (可逆条件下)

3

エントロピー変化計算の基本式

PdVCvdTPdVdUdqCvdTdU

PdVdqdUWqU

Tdq

dS eq

 

なので,また,

熱力学第一法則より

1

2

1

2 lnlnVVnR

TTCvS

dVVnRdT

TCvS

VnR

TP

dVTPdT

TCv

TdqS

より,ここで,

4

定温条件下でのエントロピー変化の計算

1

2

1

2 lnlnVVnR

TTCvS

S

エントロピー変化計算の基本式より

定温変化なのでT1=T2より,

5

定圧条件下でのエントロピー変化の計算

より,理想気体の場合,

を用いるではなく定圧変化なので

の基本式より,エントロピー変化計算

nRCvCpCpCv

VVnR

TTCvS

1

2

1

2 lnln

なので 

  

1

2

1

2

1

2

1

2

1

2

1

2

1

2

lnlnln

lnln)(

TT

VV

VVnR

TTnR

TTCp

VVnR

TTnRCpS

S

6

定積条件下でのエントロピー変化の計算

S

VVVVnR

TTCvS

より,定積変化なので

の基本式より,エントロピー変化計算

12

1

2

1

2 lnln

7

状態変化でのエントロピー変化の計算

S

Hq  

なので,状態変化では,

8

エントロピー変化の計算式のまとめ

1

2

1

2

1

2

ln

lnln

VVnRS

VVnR

TTCvS

  

定温変化

  

基本式

 

THS

TTCvS

TTCpS

  

状態変化

  

定積変化

  

定圧変化

1

2

1

2

ln

ln

9

熱力学第二法則はほんとに正しいのか?

• 孤立系で起こる変化

となる.

9

(不可逆変化)

 (可逆変化)

00

SS

3つの等温膨張の系で検証

①可逆的膨張

②不可逆的膨張その1

③不可逆的膨張その2

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10

可逆変化の場合のエントロピー変化

• 理想気体nモルが,圧力PでV1からV2に可逆的に等温膨張したときの系と外界の全エントロピーを求める

 (図中灰色の部分)  

は気体のした仕事

  

はエントロピー等温変化なので,系の

1

22

1

1

2

system

lnW

W

ln

S

VVnRTdV

VnRTPdV

VVnRS

V

V

system

V1V2

11

0lnln

ln

ln

0

1

2

1

2

1

2

1

2

VVnR

VVnRSSS

SVVnRTqq

qqVVnRTqW

U

gsurroundinsystemall

all

systemgsurroundin

gsurroundinsystem

systemsystem

  

は全体のエントロピー

  

は等しいので,と外界が吸収した熱量系が吸収した熱量

則よりよって,熱力学第一法

定温変化なので

V1V2

符号に注意

1212

不可逆変化でのエントロピー変化の算出法

• 不可逆過程で測定した熱量からエントロピーは計算できない.反応前後の系の状態からエントロピーを計算する.

• つまり,可逆的に変化したと仮定して,エントロピーの計算式を用いる.

• エントロピーの定義

– 1つの系が絶対温度Tにおいて,dQの熱量を可逆的に吸収したとき下記のようにSを定義する.

Tdq

dS eq (可逆条件下)

13

不可逆変化のエントロピー変化(1)

13

• 理想気体nモルが,圧力PでV1からV2に不可逆的に等温膨張したときの系と外界の全エントロピーを求める

)   (図中灰色部分  

は気体のした仕事

   

はエントロピー等温変化なので,系の

VPW

VVnRSsystem

2

1

2

system

W

ln

S

可逆膨張のPV曲線

14

0ln

0

21

2

2

2

VPVVnRSSS

S

VPqqqq

VPqWU

gsurroundinsystemall

all

systemgsurroundin

gsurroundinsystem

systemsystem

  

は全体のエントロピー

  

は等しいので,と外界が吸収した熱量系が吸収した熱量

 (図中斜線)則よりよって,熱力学第一法

定温変化なので

可逆膨張のPV曲線

1515

• 理想気体nモルが,断熱材で覆われた体積V2の容器内で,隔壁を挟んで分離された左側のV1の中に閉じ込められ,右側は真空になっている.隔壁を空けると,不可逆的にV2まで膨張する.このときの系と外界の全エントロピーを求める

不可逆変化のエントロピー変化(2)

16

000

TS

q

gsurroundin

gsurroundin

よって,

断熱されているので,

不可逆変化のエントロピー変化(2)

等温不可逆膨張

まず,外界のエントロピー変化Ssurroundingについて考える.

系のエントロピー変化Ssystemについて考える.

0

0

0

0

TU

q

W

system

system

system

したがって,

熱力学第一法則より

また,断熱変化なので

しないので,真空に対しては仕事は

17

0

0

0

0

TU

q

W

system

system

system

したがって,

熱力学第一法則より

また,断熱変化なので

しないので,真空に対しては仕事は

不可逆変化のエントロピー変化(2)

等温可逆膨張等温不可逆膨張

系のエントロピー変化Ssystemについて考える.

0ln1

2 VVnRSSS gsurroundinsystemall

全体のエントロピー変化sallは

変化の前後を比較すると等温可逆膨張と同じなので,

1

2lnVVnRS system

18

熱力学第二法則は確かに正しい

• 孤立系で起こる変化

となる.

18

(不可逆変化)

 (可逆変化)

00

SS

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1

物理化学入門第11回

22

例題1 1molの理想気体の酸素ガスを298K,10m3から500K,50m3まで膨張させたときのエントロピー変化を求めよ.ただし,気体定数は8.314Jmol-1K-1定圧比熱は29.4Jmol-1K-1とする.

例題2 350K,1.5atm,76.54dm3の理想気体がある.この気体を温度を元のまま一定にし,6.5atmまで圧縮したときのエントロピー変化を求めよ.R=0.082atm dm3 K-1 mol-1とする.

例題3 一定圧力(1atm)のもとで,-10℃の1molの氷が100℃の

水蒸気に変わるときの,エンタルピーとエントロピーの変化量を求めよ.ただし,氷の定圧比熱は37.2JK-1mol-1,0℃における氷の融解熱は 6.01x103Jmol-1 , 100℃における水の気化熱は4.07x104Jmol-1である.水の定圧比熱は0℃~100℃の範囲で75.3JK-1mol-1で一定とする.

3

エントロピーとは

• 自発的変化の方向を決定するための状態量

• 系全体としてS≥となる方向に自発的に変化する

• 確率の小さい状態から確率の大きい状態に変化する

4

エントロピーと確率

• 6個の分子が存在すると仮定する– 各状態の『場合の数』を計算

– Aの中にn個の分子が存在する組み合わせ:6Cn

• 確率の小さい状態から確率の大きい状態に変化する

5

エントロピーと確率

• 6個の分子が存在– 各状態の『場合の数』を計算

– Aの中にn個の分子が存在する組み合わせ:6Cn

• 確率の小さい状態から確率の大きい状態に変化する

配分 6-0 5-1 4-2 3-3 2-4 1-5 0-6

状態数 1 6 15 20 15 6 1

0

5

10

15

20

25

0 1 2 3 4 5 6

Aの中の分子の割合(%)

状態数

/状態

数m

ax

Aに存在する分子数 6

エントロピーと確率

• 状態数の多い状態,つまり確率の高い状態に変化する

配分 6-0 5-1 4-2 3-3 2-4 1-5 0-6

状態数 1 6 15 20 15 6 1

0

5

10

15

20

25

0 1 2 3 4 5 6

Aの中の分子の割合(%)

状態数

/状態

数m

ax

はじめの状態

終わりの状態

Aに存在する分子数

7

エントロピーと確率

• 分子の数(図中のN)が多ければその変化は顕著になる

00.10.20.30.40.50.60.70.80.9

1

0 20 40 60 80 100

Aの中の分子の割合(%)

状態数

/状態

数m

ax

N=6N=10N=100

はじめの状態

終わりの状態

8

エントロピーを状態数で表す

• ボルツマンのエントロピーの式

S

• ボルツマンはエントロピーを状態数(場合の数)で表現できることを見出した

状態数ボルツマン定数, :: WkB

9

エントロピーと確率

 WkS B ln

1ln20ln BB kkS

0

5

10

15

20

25

0 1 2 3 4 5 6

Aの中の分子の割合(%)

状態

数/状

態数

max

はじめの状態

終わりの状態

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10

ボルツマンの式はほんとに正しいのか?

• 基本式からの導出

   

なので

  

  

定温変化なので

2ln

2

ln

12

1

2

nRS

VVVVnRS

不可逆的等温膨張のエントロピー変化を計算してみる.

1.基本式から計算

2.ボルツマンの式から計算

11

• ボルツマンの式からの導出

1 NNinitial CW 

22 ]!2

[

!

])!2

][(!2

[

!NN

NNNNCW NNfinal

 

Winitial:N分子のうちN分子が箱Aに存在する場合の数

Wfinal:N分子のうちN/2分子が箱Aに存在し,N/2が箱Bに存在する場合の数

12

2ln2ln1ln2ln

lnln

nRNkkk

WkWkSSS

BBN

B

initialBfinalBfinalinitial

   

 

N

NN

NN

NN

NN

final

NN

NNfinal

eN

eN

eN

eNNNW

eNN

NN

NNNNCW

2

22]!

2[

!!

]!2

[

!

])!2

][(!2

[

!

2

222

22

 

を用いると,の公式ここで,スターリング

 

13

つまりエントロピーとは

• エントロピーは,各状態の確率の高さを示しており,化学変化は確率の高い状態(エントロピーの高い状態)へと進む

:状態数) (

 (可逆条件下)

WWkST

dQdS

B

eq

ln

1414

エントロピーの絶対量と熱力学第三法則

• 絶対零度では粒子の熱運動が完全にストップして完全結晶となる.

• この状態の状態数(W0K)は1なので,

となる.

14

01ln0 BK kS

• 熱力学第三法則

• 絶対零度での完全結晶のエントロピーはゼロである.

1515

エントロピーの絶対量と熱力学第三法則

• 熱力学第三法則でエントロピーのゼロ点を定めることができるので,各状態での絶対エントロピー(S)が計算できる.

15

dTTCp

TdQSS K0 )0( 0 KS

cf) エンタルピーは,絶対値は決められない.Hに意味がある.

1616

エントロピーの絶対量と熱力学第三法則

• 1気圧,25℃のエントロピーは標準絶対エントロピー(Sº)という.

– 全体的に,Sº個体<Sº

液体<Sº気体

– エントロピーが「乱雑さ」を表すため

16 1717

化学反応におけるエントロピー変化

• 標準状態での化学反応におけるエントロピー変化は,以下の式で求められる.

)(( 反応物質生成物) SSS

BA 1気圧,298Kでの以下の反応を考える

1818

• 25℃での以下の反応のエントロピー変化を求める

322 NHH23N

21

1

1

)(H)(N)(NH

JK 99.7

JK 130.6)23192.1

21(192.3

S23S

21SΔS 223

  

  

11)(H

11)(N

11)(NH

molJK 6.130SmolJK 1.192SmolJK 3.192S

2

2

3

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1

物理化学入門第12回

22

変化の方向を決める要素

1. エンタルピー(H)

• H<0の方向に進行しやすい

• ただし,絶対ではない

2. エントロピー(S)• 孤立系では必ずS≥0 (熱力学第二法則)

• 地球全体のエントロピーを考えないといけない

• 系だけの性質に基づいた基準があると便利

– 自由エネルギー(今日のテーマ)

以前の講義でエントロピーの性質について学んだ

S(孤立系) ≥ 0エントロピー増大の法則

系 系

物質 物質

エネルギー エネルギー

孤立系(isolated system)

閉鎖系(closed system)

孤立系の指標から閉鎖系の指標へ

孤立系

閉鎖系

等温で熱平衡にある系を考える

dS(孤立系) = dS(閉鎖系) + dS(外部) ≥ 0

= dS(閉鎖系) + dq(外部)/T ≥ 0

= dS(閉鎖系) - dq(閉鎖系)/T ≥ 0

= dS(閉鎖系) - dH(閉鎖系)/T ≥ 0(等圧過程)

dH(閉鎖系) - TdS(閉鎖系) ≤ 0

H(閉鎖系) - TS(閉鎖系) ≤ 0 (等温等圧)

外部

ギブズ自由エネルギー変化

G = H – TS

G ≤ 0 (等温等圧)自発的過程

H(閉鎖系) - TS(閉鎖系) ≤ 0

H2 + ½ O2 H2OH = H298K(H2O) - H298K(H2) - ½ H298K(O2)

= -241.8 – 0 – 0/2= -241.8 (kJ mol-1)

では、もう一度水素の燃焼反応を見てみる

G = H – TS= -241.8 – 298 x (-44.5 x 10-3)= -228.5 (kJ mol-1 )

黒鉛もダイアモンドも炭素の単体では、黒鉛をほうっておいたらダイアモンドになるだろうか?

G = 2.9 kJmol-1予想通りダイアモンドにはならない(15000気圧以上ではGが負になる;人工ダイアモンド) 99

ギブズの自由エネルギーと変化の方向

• 定温定圧変化において,

 

 

 

000

GGG 反応が進行

平衡状態

反応は進行しない

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10

GとH,S,Tの関係

• 100℃以上だとGになるので気化する

• 100℃だとG=0なので平衡

• 100℃以下だとG>0になるので液体のまま

1-1-1-22

K mol kJ 0.11ΔS ,mol kJ 41ΔH

O(gas)HO(liquid)H

1111

標準ギブズ自由エネルギー変化

• 標準状態(25℃,1気圧)にある,1モルの物質が,

標準状態にある単体から生成する場合のギブズ自由エネルギーの変化量

• cf)標準生成エンタルピー

– 標準状態(1気圧,25℃)の単体から標準状態の1molの化合物を生じる生成熱

1212

1. 標準エンタルピー,標準エントロピーから算出

2. 各成分の標準ギブズ自由エネルギーから算出

標準ギブズ自由エネルギー変化の算出

• 標準ギブズ自由エネルギー変化(標準状態でのギブズ自由エネルギー変化)の算出法

STHG

)()( ff GGG 反応系の生成系の

1313

25℃において,以下の反応の標準自由エネルギー変化G°

を求める.

1. 標準エンタルピー,標準エントロピーから算出

標準ギブズ自由エネルギー変化の算出 その1

(g)2NO(g)ON 242

STHG

33.2 9.2 )(kJmolΔH

240.0 304.2 )mol(JK S1-

f

1-1

   

    

kJ 4.8108.1752982.57ΔSG

kJ 57.22.912.332JK 175.8304.21240.02ΔS

3

1

TH

H

1414

2. 標準生成ギブズ自由エネルギーから算出

標準ギブズ自由エネルギー変化の算出 その2

)()( ff GGG 反応系の生成系の

標準生成ギブズ自由エネルギー( Gf°)

標準状態の1molの化合物が,標準状態の単体から生成する場合のギブズ自由エネルギーの変化量.

各分子のGf°から反応の自由エネルギーを計算できる.

1515

25℃において,以下の反応の標準自由エネルギー変化G°

を求める.

2. 標準生成ギブズ自由エネルギーから算出

標準ギブズ自由エネルギー変化の算出 その2

O(l)6H(g)6CO6O(s)OHC 2226126

)()( ff GGG 反応系の生成系の

kJ2877

06)909(1)237(6)394(6G

   

237-394-0909)kJmol(ΔG 1f               

1616

自由エネルギーと仕事

• ギブズ自由エネルギーは『体積変化による仕事を差し引いた,正味の最大仕事』を表す.

1717

ギブズ自由エネルギーと正味の最大仕事

VPQUW net max

正味の最大仕事(Wmax net)とは

• 体積変化による仕事を除いた正味の仕事

• 化学変化に伴う,電気的なエネルギーなど

ギブズの自由エネルギーは『正味の最大仕事』を表す.

熱力学第一法則と,上式より,

Wmax net

VPWW net max

GSTHVPSTUW net max

エントロピーの定義より,

1818

自由エネルギーと仕事のまとめ

STHG

エンタルピー変化により放出されるエネルギーのうち,エントロピー変化により消費されるエネルギー(束縛エネルギー)を除いた部分が自由エネルギー.

自由エネルギーは仕事として利用できるエネルギーである.

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1

物理化学入門第13回

2

可逆反応と化学平衡• 容器にH2とI2各1molを入れて,500℃に保つ

• 次の反応が起こりH2,I2は徐々に減少する

• 完全に消失する前に見かけ上反応が停止した状態になり,HIは1.6molしか出来ない.

• 右向きと左向きの反応が同じ速度で起こっている.

2HIIH 22    はじめ 1.0 1.0 0 (mol)

平衡時 0.2 0.2 1.6 (mol)

3

可逆反応と化学平衡

• 化学平衡の状態

– 左右の反応が同じ速度で起こり,反応が見かけ上停止した状態

2HIIH 22    

4

平衡定数

一般の化学反応において,

ba

dc

C BADCK

][][][][

bBaA dDcC

[X]:平衡時のXの濃度

5

気体分子の平衡定数

• 気体の反応の場合は,モル濃度の代わりに分圧Pを用いて,圧平衡定数KPを用いる.

bB

aA

dD

cC

P PPPPK KP:圧平衡定数

6

平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係

• 結論を先に述べると,

これらの式を導出する

C

P

KRTGKRTG

ln

ln

7

平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係

VdPdGdT

SdTVdPdG

 

なので, 

定温条件下では,

となる.

 

に代入すると,これを

0

(1)

VdPTdSVdPPdVPdVTdSdH

PdVWTdSQ

WQdU

VdPPdVdUdHPVUH

SdTTdSdHdGTSHG

    

 

より,

, 

で,

 

熱力学第一法則より

 

より定義式

 

より定義式

)(

)( ・・・(1)

8

平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係

理想気体を仮定すると

VdPdG

1

2ln2

1

2

1 PPnRTdP

PnRTVdPG

P

P

P

P

上記の偏微分の式から,温度一定のもとで,状態1(P1)から状態2(P2)に変化したときのギブズ自由エネルギー変化(G)を考える.

9

平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係

PnRTGGatmP

PPnRTGGG

PPnRTG

ln1

ln

1

ln1

2

なので,

を標準状態とすると,状態

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10

平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係

PRTPnRTGG

lnln

上式のような,2種以上の物質が混じった化学反応を考える場合は,各物質について,1molあたりのギブズ自由エネルギー(化学ポテンシャルという)を考えないといけない.

bBaA dDcC

化学ポテンシャル()=1molあたりのギブズ自由エネルギー

111111

なぜ化学ポテンシャルが必要か?

11

物理的変化の場合

• 例:気体の体積が変わる,温度が変わる

• 組成変化がないので,ギブズ自由エネルギー変化だけを考えればよい.

化学変化の場合

• 各成分の組成が変化するので,一律のギブズエネルギーを計算できない.各成分について1モル当たりのギ

ブズ自由エネルギー(化学ポテンシャル)を考えて,それらにモル数(化学量論比)をかけて系のギブズエネルギー計算する必要がある.

bBaA dDcC

A A

12

平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係

)lnln()lnln()()(

)ln()ln(

)ln()ln(

((

BADC

BADC

BBAA

DDCC

BADC

PbPaPdPcRTbadc

PbRTbPaRTa

PdRTdPcRTc

badcGGG

        

  

       

  

  

反応系)生成系)

bBaA dDcC

13

平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係

bB

aA

dD

cC

BADC

BADC

BADC

PPPPRTGG

badcG

PbPaPdPcRTbadcG

ln

)()(

)lnln()lnln()()(

  

なので,

ここで,

        

また,平衡状態では,G=0なので,

bB

aA

dD

cC

PPPP

RTG ln

14

平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係

bB

aA

dD

cC

P PPPP

K

PKRTG ln

と定義したので,

15

液体の平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係

]ln[CRT

実在溶液では,化学ポテンシャルは以下のように定義される

[C]:モル濃度

PRT ln

気体の場合は以下の式(前述)

16

ba

dc

BADC

BA

DC

BADC

BADCRTG

BbAaDdCcRTbadc

BbRTbAaRTa

DdRTdCcRTc

badcGGG

][][][][ln

)]ln[]ln[(])ln[]ln[()()(

)]ln[(])ln[(

)]ln[(])ln[(

((

  

        

  

       

  

  

反応系)生成系)

理想気体の場合と同様に,上記の反応のギブズ自由エネルギー変化を考えると,

bBaA dDcC 液体の平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係

17

ba

dc

C BADCK

][][][][

CKRTG ln

ba

dc

BADCRTGG

][][][][ln  

と定義したので,

平衡定数は温度の関数

液体の平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係

また,平衡状態では,G=0なので,

ba

dc

BADCRTG

][][][][ln

18

平衡定数とギブズ自由エネルギーの関係のまとめ

ba

dc

C BADCK

][][][][

C

P

KRTGKRTG

ln

ln

bB

aA

dD

cC

P PPPP

K ただし,

反応の標準ギブズ自由エネルギー変化がわかれば,各温度での平衡定数を算出できる.

(気体の場合)

(液体の場合)