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学校教育学研究,2007,第19巻,pp.39-52 39 社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分析(V皿) 一メタ認知・メタ評価の視点を手がかりにして(5)一 (兵庫教育大学) (兵庫教育大学附属小学校) (兵庫教育大学附属中学校) (三木市立三樹小学校) 本稿は,社会科授業の開発と分析を通して,「社会科固有の学び」とは何かを解明しようとするものである。われわれは, 本継続研究を始めるにあたり,「社会科固有の学び」について以下の3っの仮説を立てた。 1)社会科に固有な「認識の枠組み」とは,個々人の先入見ではなく,対象に即した理論仮説である。 2)社会科に固有な「認識の方法」とは,専心的な体験・表現活動ではなく,分析的な探求活動である。 3)社会科に固有な「認識の結果」とは,主観的知識の増殖ではなく,客観的知識の成長である。 本稿では,上記の仮説に基づき,第6学年の授業「私たちの生活と政治」を開発し実践した。今回は特に社会認識メタ 認知と社会的判断の成長過程を,ふり返りカード,イメージマップ,トゥールミン図式という3っの方法で評価することに 力点を置いた。実践分析の結果,評価方法(道具)の有効性が検証された。 キーワード:小学校社会科,メタ認知,メタ評価,イメージマップ,政治学習,選挙 原田 智仁・岩田 一彦:兵庫教育大学・社会・言語教育学系・教授,〒673-1494兵庫県加東市下久米9424 原田(toharada@hyogo-u.acjp),岩田(ywata@hyogo-u.acjp) 高岡 昌司・高山 宗寛:兵庫教育大学・附属小学校・教諭,〒673-1421兵庫県加東市山国2013-4 高松 昭彦:兵庫教育大学・附属中学校・教諭,〒673-1421兵庫県加東市山国2007-109 吉岡 順子:三木市立三樹小学校・教諭,〒673-0403兵庫県三木市末広1-10-8

社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分析(V …repository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/2044/1/...社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分析(皿)

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学校教育学研究,2007,第19巻,pp.39-52 39

社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分析(V皿)        一メタ認知・メタ評価の視点を手がかりにして(5)一

田 智 仁  岩 田 一

   (兵庫教育大学)

岡 昌 司  高 山 宗

(兵庫教育大学附属小学校)

   高 松 昭 彦

(兵庫教育大学附属中学校)

   吉 岡 順 子

  (三木市立三樹小学校)

 本稿は,社会科授業の開発と分析を通して,「社会科固有の学び」とは何かを解明しようとするものである。われわれは,

本継続研究を始めるにあたり,「社会科固有の学び」について以下の3っの仮説を立てた。

 1)社会科に固有な「認識の枠組み」とは,個々人の先入見ではなく,対象に即した理論仮説である。

 2)社会科に固有な「認識の方法」とは,専心的な体験・表現活動ではなく,分析的な探求活動である。

 3)社会科に固有な「認識の結果」とは,主観的知識の増殖ではなく,客観的知識の成長である。

 本稿では,上記の仮説に基づき,第6学年の授業「私たちの生活と政治」を開発し実践した。今回は特に社会認識メタ

認知と社会的判断の成長過程を,ふり返りカード,イメージマップ,トゥールミン図式という3っの方法で評価することに

力点を置いた。実践分析の結果,評価方法(道具)の有効性が検証された。

キーワード:小学校社会科,メタ認知,メタ評価,イメージマップ,政治学習,選挙

原田 智仁・岩田 一彦:兵庫教育大学・社会・言語教育学系・教授,〒673-1494兵庫県加東市下久米9424

           原田(toharada@hyogo-u.acjp),岩田(ywata@hyogo-u.acjp)

高岡 昌司・高山 宗寛:兵庫教育大学・附属小学校・教諭,〒673-1421兵庫県加東市山国2013-4

高松 昭彦:兵庫教育大学・附属中学校・教諭,〒673-1421兵庫県加東市山国2007-109

吉岡 順子:三木市立三樹小学校・教諭,〒673-0403兵庫県三木市末広1-10-8

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40 学校教育学研究,2007,第19巻

Development and Analysis of Social Studies Lesson. for Promoting                 the Leaming Peρuliar tb Social.Studies(W):

丘・卑yie甲P・ints・f Meta-c・gnitive Skills and Selfevaluati・n.(5)

                                   Tomohito Harada and Kazuhiko Iwata

                                   (砂ogoし勉ゴyθ附め・σ距αo乃θγEぬω”o刀)

                                  Sh(オi Takaoka and Munehiro Takayama

                      伽磁4E1…鰐鋤・・乙伽9・伽・・ゆσ艶・吻E・劾磁・・)

                                            A.kihiko Takamatsu

                       伽α・乃・4超耐ε踊・・肩か・9・翫’Vε摺.砂σ距α・勧.肋Cα伽)

                                              Junko Yoshioka

                                          (&z吻E1ε耀η’αワ5励oo1)

    This. article explores the leaming peculiar to social studies through the development and analysis of social studies lesson.

    The hypothese串童n this researqh are as fbllows,

     1) The倉ame of refbrence peculiar to social studies is not personal but theoret重caL

    2)Th・m・th・d・f i・q・i脚eculi・・t・.…i・1・加di・・i…t・y曲・ti・b・t・血・助ica1.

    3)The acquired㎞owledge. peculiar to social studies is not su切ective but o切ective.

    B・・ed・n出・・e hyp・th、・e・, w・d・v・1・か、d・1ess・n pl・n・f・0・・li鉛and p・liti・・一thi面・g・b・・t the electi…li・th・6th

  grade, then prac㌻iced and analyzed children,s reflective cards and concept maps, As a result of this research,.it has been made

  ・lea・th・t th・釧・wth・f・n・,・s・・i・1・・9・iti・n・・e.・・nnect・d面ith m・ta-c・9・iti…kill・and・elf・v・1・・ti・・.

  Key Words:social studies class, meta-bognitive skills, reflective card, concept map, election

  ↑omohito Harada, Kazuhiko Iwata:Profbssors, Department of Social Science, Hyogo University of Teacher Education,9424, ShimQkume,

Kato-city, Hyogo,6ラ3-1494, Japan

  Sh(ガi Takaoka, Munehi士。.Takayama:Teachers, Attached ElementaッSchool, Hyogo University of Teacher Educat1on,2013-4, Yamakuni,

Kato-city, Hyogo,673-1421, Japan

  Akihiko Takamatsu;Teacher, A“ached Middle SchQol, Hyogo University of Teacher Education,2007-109, Yamakuni, Kato-city, Hyogo,

673-1421,J即an

  Junko Yoshioka:Teacher, Sa卿ElementaΨSchoo1,1-10-8, Suehiro, Miki-city, Hyogo,673-0403, Japan

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社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分析(皿) 41

1.問題の所在1.1 継続研究の成果と課題

 本継続研究では,これまで6年にわたり社会科固有の

学びを育てる授業構成のあり方を,具体的な授業開発と

実践分析を通して明らかにしてきた。その結果,第一に

メタ認知のできる子どもほど,社会認識に広がりと深ま

りが生まれることが判明した。また,第二にメタ認知は

確かな追究があってこそ効力を発揮するものであること

も明らかになった。つまり,社会認識の深まりの中で,

自己の学習を振り返ることがメタ認知と社会認識の双方

に有効に作用するということである。それゆえ,まずは社

会認識を段階的に深める学習過程を組織し,段階ごとに自

己反省(リフレクション)を迫る授業を構成することが必

要であり,次にそれを適切に評価することが重要になる。

 本研究では,これまでさまざまな評価方法(道具)を

実験的に試行してきたが,特にふり返りカードとイメー

ジマップ(概念マップないしウェッブ図)の併用が効果

的なことが明らかになった。また,事実認識を踏まえた

価値判断=意思決定場面では,トゥールミン図式を用い

たワークシートの活用が,学習者たる子どもにとっても,

また子どもの社会的判断の成長を分析・評価する教師に

とっても有意義なことが検証された。

 そこで今年度は,継続研究も7年目を迎えるというこ

とで,これまでの研究を集大成し,メタ認知・メタ評価

研究に一区切りをつけて次への跳躍台にしたい。まず,

これまでの研究を評価手法の視点で整理すると,右記の

表1のようになる。研究1・Hを通して社会認識におけ

るメタ認知の重要性が自覚されるとともに,われわれの

関心はメタ認知の評価へと移っていった。折から,教育

界では観点別評価やそのための評価規準作りが迫られて

いたこともあり,客観性を担保しっっ子どもの個性的な

認識を評価するにはどうすればよいかに議論は集中した。

しかし,その結果として,肝腎の教育内容に関する研究

に深まりを欠くことも少なくなかった。

 今回の研究皿では,こうした継続研究の成果と課題を

踏まえ,改めて初心に立ち返ることをにした。つまり,

「社会科固有の学び」の追究である。そこで,主題に関

する教育内容の吟味を従来以上に重視し,追究の形式面

よりも内容を充実することに努めた。また,メタ認知の

評価に関しては,目新しさを追うのではなく,これまで

の研究で有効性が検証された手法によって,適切な時期

に確実に評価することを心がけた。それは表1のWに示

した評価内容と評価方法に現れている。

 なお,今回も研究VIに引き続き,社会的判断の構造を

評価することにした。現代社会の問題の大半は価値対立

を伴うところがら,確かな社会認識を踏まえた合理的な

意思決定は市民の責務であり,したがって社会科固有の

学びといえると考えたからである。

〈表1 本継続研究の概要〉

研究 評価内容 評価方法

社会認識の成長 ①イラスト,②説明文,

1 社会認識の方法

①アンケート(a何を調べたか,b何

ェわかったか,c今後何を調べるか, d

ヌんなことを考えたいか)

科学的知識内容 ①ペーパーテスト

歴史認識の成長 ①イメージ画,②説明文

∬ 歴史認識の方法

①アンケート(a何を調べたか,b何

ェわかったか,c今後何を調べるか, d

ヌんなことを考えたいか)

歴史知識の内容 ①ペーパーテスト

社会認識の成長 ①イメージマップ,②説明文皿 フ’

^認知の成長 ①ふりかえりカード

IV社会認識の成長

①イメージマップ

A自分を見つめようカード

メタ認知の成長 ①ふりかえりカード

V社会認識の成長

①イメージマップ

Aふりかえりカード

メタ認知の成長 ①自分を見つめようカード

社会認識の成長①イメージマップ,②説明文               .   .   一   幽   .   一   .   一

VI <^認知の成長①新・ふり返りカード(自分を見つめ

謔、カードと統合)

社会的判断 ①トゥールミン図式

社会認識とメタ

F知の成長

①イメージマップ(説明文付き)

A新・ふり返りカードw

社会的判断の成

キ①トゥールミン図式

A新・ふりかえりカード

1.2 本研究の特質と意義

 本研究の特質と意義は,次の3点にまとめられる。

 第一に,小学校6年の単元「私たちの生活と政治」を

対象に,子どもの追究を促し,社会認識をより一層深め

るために,「なぜ投票率が低いのか。投票率の低いこと

の何が問題なのか。どうずれば投票率を上げられるのか。

投票の義務制は是か非か。」という一連の問いを設定し,

社会的判断を迫る授業構成を行った点である。

 第二に,社会認識,メタ認知,社会的判断を個々バラ

バラにではなく,相互に関連づけて分析評価したことで

ある。また,学級全体の成長と個性的な認識の成長に関

しても,できるだけ関連づけて分析した点である。

 第三に,事実認識から価値判断へと至る学習過程に加

え,これまでにほぼ有効性が検証された評価の手法を採

用することで,メタ認知・メタ評価の視点から「社会科

固有の学び」を深める授業構成と評価に関して,一つの

基本形を確立した点である。今後の社会科におけるメタ

認知・評価研究は,この基本形を継承ないし批判すると

ころがら始まると言えるだろう。   (原田 智仁)

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42 学校教育学研究,2007,第19巻

2.授業構成の実際とねらい

 一二6学年「私たちの生活と政治

   ~選挙から見える政治の問題~」一

2.1教材解釈

 本学級の子どもたちは,本単元までの社会科学習の中

で,合意をめざした議論を通して社会認識を広げたり深

めたりしてきた。ここで言う合意をめざした議論とは,

子どもたちに学級全体の考えとして何らかの意思決定を

迫らせる必然性をもった議論のことである。子どもたち

に合意の必然性をもたせて議論を進めさせることで,議

論に主体的に向き合わせるとともに,より妥当な考えを

導き出させようとしたのである。例えば,明治維新の学

習では,子どもたちの問題意識をもとに「明治維新新聞

のトップ記事を決めよう」という議題を設定した。その

結果,トップ記事に値する条件について,子どもたちは

人物や歴史的事象を比較したり関係づけたりしながら議

論を進め,明治維新の歴史的な意味を問い直していった。

このように,子どもたちは相互交流や社会とのかかわり

を通して社会的事象を関連づけ,その意味や価値を問い

直そうとする態度を身につけてきている。

 また,テレビなどで政治の情報にふれている子は多い

が,政治とのつながりを感じている子や自分が政治の参

加者になることを実感している子は少ない。有権者の政

治離れが選挙のたびに報道されるが,子どもの意識にも

そのことが少なからず反映していると考えられる。一方,

住民投票を求める動きは,近年急増しているが,このこ

とは,政治家に政治を任せきりにすることに対する人々

の危機感の表れだとも考えられる。また,それとともに,

政治に巻き込まれる可能性が誰にでもあることをも示し

ている。このような子どもや社会の状況を鑑みると,政

治学習の中で,自分や家族の生活と政治とのつながりに

気づかせること,さらにどのように私たちが政治参加し

ていくべきかを考えさせることが必要であろう。そうす

ることで,子どもたちが国民主権の意味を実感し,主権

者としての自分たちのあり方を考えることにつながるの

ではないか。

 そこで,選挙を題材として政治の仕組みや民主政治の

あり方,国民主権の意味について考えていく単元を構想

した。政治学習で選挙を取り上げる理由の一つとして,

人々の政治参加の様子が比較的見えやすいことが挙げら

れる。間接民主制を基本とする我が国の政治形態では,

人々が政治に参加している様子が見えにくい。しかし,

選挙の時には政見放送が流れ,それをもとに投票する人々

の姿を,子どももテレビや親の姿などで見ていることが

多い。つまり,選挙を取り上げることで,子どもが政治

とのつながりを感じることができるのである。また,間

接民主制の考えを具現化したものである選挙の仕組みや

意義,歴史などを調べることで,人々のために政治が行

われていることに気づかせられるであろう。

 理由の二つ目としては,選挙に関する問題にふれるこ

とで民主政治のあり方や国民主権の意味を問い直す機会

になることが挙げられる。選挙に関わる問題には,一票

の格差や死票の増大,投票率低下や無党派層の増大など,

さまざまなものがある。これらは,民意が反映する政治

の仕組づくり,有権者のあるべき政治参加の仕方といっ

た問題を表している。子どもたちが,これらの問題を自

分たちとの関わりで捉えることで,民主政治のあり方や

国民主権の意味を問い直す機会になると考える。

 単元を進めるにあたっては,「選挙改革案レポート」

作成を活動の軸とする。このレポートは,自分の考えを

綴り,最後に学びを振り返る再構成ポートフォリオでも

ある。単元のテーマは,子どもの学びの文脈に即して,

「選挙の様子を探ろう」「私たちの選挙改革案レポートを

作成しよう」「選挙改革案レポートを提出しよう」と設

定した。

 第一次では,なぜ選挙をするのかをロールプレイや資

料から考えさせることで,選挙の意義や民主政治の考え

方を捉えさせたい。さらに,選挙の現状と前時に学習し

た選挙の意義を比較することで,必ずしも現在行われて

いる選挙が民主主義の理想通りではないことに気づかせ

る。そして,そのズレを学習問題とし,自分の考えをレ

ポートにまとめさせていく。

 第二次では,近隣の選挙管理委員会に「私たちの選挙

改革案レポート」を提出するという課題のもと,合意を

めざした議論を行う。まず,聞き取り調査やデータ,資

料などから,投票率低下の要因や投票率低下の意味,現

在行われている選挙管理委員会の投票率向上のたあの対

策について分析させる。次に,投票率低下の対策の効果

を検討させた上で,投票率向上のための方法として選挙

の義務制の是非について価値判断させていく。価値判断

場面においては,義務制の是非を議論することから,

「投票率が向上すればそれでよいのか」という投票率の

意味について考えさせていきたい。これらのことを通し

て,民主主義の考え方や国民主権の意味について問い直

させることができるのではないか。

 第三次では,議論したことをもとに作成したレポート

について学級内での一定の合意を形成し,6年1組の

「選挙管理委員会レポート」を近隣の選挙管理委員会に

提出する。そのねらいは,選挙管理委員会の人の評価を

受けることで,社会とのかかわりの中で自分たちの選挙

に対する考えを評価することにある。次に,子ども同士

の相互評価や選挙管理委員会の人々のレポートに対する

評価も考慮させ,自分のレポートを作り直させる。民主

主義の考えや社会とのかかわりを含ませた上で,自分な

りの選挙改革案’レポートを構築させ,民主政治を支える

日本国憲法の学習へとつなげていきたい。

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社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分析(W) 43

2.2 単元の指導計画

2.2.1 目 標

 ○自分とのかかわりで選挙を捉え,その大切さに気づき,今後の選挙のあり方を現実に即して考えていこうとする。

 ○選挙の意義や現状,外国の選挙制度,選挙に対する人々の意識などを関連づけながら,投票率低下の意味や対策に

  ついて考えることで,自分とのかかわりで国民主権の意味を捉えることができる。

 ○選挙の仕組みや問題点,選挙の意義などから,民主政治の考え方(国民主権)の大切さやそれを達成することの難

  しさを理解することができる。

2.Z.Z 学習の流れ(全12時間)

教師の働きかけ 評価の視点・方法

○選挙についてのイメージマップを描 ・交流の中でわかっていることわからな ・これから調べていく観

き,選挙について知っていることを いことを整理し,今後調べる観点を共 点を把握できたか。

第 話し合う。 有させる。 (振り返り)

一○「なぜ選挙をするのか」について話 ・選挙の必要性を考えさせることで政治 ・選挙の意義,仕組,民

選 次 し合う。 と生活とのつながりや民主政治の考え 主政治の考えを理解で

挙 ・議会の働き・民主政治の考え方 方にふれさせる。 きたか。(振り返り,の様

○選挙の仕組みについて調べる。 ・選挙の機関や流れ,決まりを図示した 発言)

子 ・選挙管理委員会・投票の流れ 資料を準備することで,仕組を捉えやを探

・選挙権,被選挙権 すくさせる。 ・資料から選挙の問題点

ろ ○選挙の現状について話し合い,疑問 ・グラフ「投票率の推移」から投票率の を理解できたか。(振う

4 に思う点を整理する。 低下に気づかせ,選挙の意義とのズレ り返り,イメージマッ時 【予想される問題】 に気づかせる。 プ)

間 ・なぜ投票率が低いのか? ・板書で疑問を整理して問題意識を焦点 ・問題解決の見通しをも

・投票率が低いと困るのか? 化させ,学習問題を作る。 っことができたか。

・投票率低下の対策はないのか? (振り返り)

○問題に対する調べ学習を行い,レポー ・目的に応じた調べ学習ができているか ・見通しもって調べられ

トを作る。 確認し,適宜指導する。 たたか。(活動,振り私たち

第○「なぜ投票率が低いのか」について

@話し合う。

・聞き取り調査から有権者や選挙管理委

�?フ思いに触れさせる。

返り)

E投票率低下の原因を事

の二

・世代問,地域別投票率,住民投票の投 実に即して理解できた選挙 次

票率等のデータから投票率低下の原因 か。(レポート)

改 を分析させる。 。投票率低下を民主主義草案

○「投票率が低いと困ることがあるの ・選挙管理委員会へのインタビュー結果 の観点から問題だと捉レ か」について話し合う。 やロールプレイにより,民主政治の考 えられたか。(レポー

ボー

え方と関連づけて投票率低下の問題を ト)

ト 考えさせる。 ・投票率低下の対策につを作

5 ○「投票率低下の対策はないのか」に ・不在者投票,電子投票,広報活動に触 いて理解できたか。成しよ

時間 ついて話し合う。 れさせるとともに,対策の効果を検討

ウせ,代案としての外国の対策につい

(レポート)

B事実を関連づけて,投う て知らせる。 票率向上の方法を考え

○「投票率を上げるにはどうすればよ ・「投票率増加の意味」を話し合うこと られたか。(発言,振

いのか」について話し合う。 で,国民主権の意味を考えさせる。 り返り)

提選 ○議論をもとに,「私たちの選挙改革案 ・選挙改革案レポートを作り直し,相互 ・民主主義の考え方や現出挙し改

レポート」をまとめる。 評価させる。 実の社会の意識を理解よ革.

、案○選挙管理委員会に「選挙改革案レポー ・実際の話から社会における自分たちの することができたか。

某 ト」を報告する。 考えを評価させる。 (レポート,振り返り,轟

○単元の学習を振り返り,選挙改革案 ・イメージマップとレポートから認識や イメージマップ)

を レポートをまとめる。 学び方を振り返らせる。

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44                        学校教育学研究,2007,第19巻

2.3 本時の学習(第二次 5時)

2.3.1 目 標

 ・選挙の意義や問題点,対応策などを関連づけながら選挙の投票率を上げる方法について議論することで,民主主義

  の考え方や国民主権の意味について考えることができる。

2.3.2 展 開

学 習 活 動 教 師 の 働 き か け 評価の視点となる子どものあらわれ

1. 本時のめあてを確認す ○日本とオーストラリアの投票率の変化のグラ ・日本の投票率が低い理由について考える子

る。 フを提示し,選挙の義務捌を日本に取り入れ ・日本とオーストラリアの投票率を比較し, 違

るべきかについて考えていくことを確認する。 いの原因を考える子

私たちの選挙改革案レポートを作成しよう

~選挙の投票率を上げるためにはどうすればよいのか~

2. 「選挙の投票率上げる ○「賛成」「反対」の数の少ない方から根拠を述 ・自分だけの思いにこだわって発言している子

にはどうすればよいの べさせるようにする。議論の最初は,発表者 【予想される考え】

か。」について議論す への賛成意見で話をつながせる。また,でき ・外国の事例から,罰金制度を取り入れるこ

る。 るだけ,発言の根拠となる資料を示しながら . とで,選挙に行く人が必ず増える。

● 「義務制」を取り入れ 発表させるようにする。 ・義務制にすることで投票率は上がるが, 政

るべきかどうかについ ○一通りの根拠が出されたら,立場の異なる意 治離れが進んでいる現状から,いい加減な

て議論する。 見への反論を適宜始めさせる。 政治参加がなされないかが心配だ。

○出された意見の論拠となる資料を随時提示す ・投票率を向上させることで,市民全体の政

ることで,事実に即して話し合いを進められ 治参加が促され,政治への関心も高まるの

るようにする。 ではないか。

● 「選挙の投票率が上が .○板書で共通点や相違点を関連づけ,納得でき ・投票率が上がればそれでよいのではなく,

ればそれでよいのか」 る点と納得できない点を整理することで,「選 政治に対する市民の意識を向上させること

について考える。 挙で大切にすべきことは何か」に論点を絞っ が大切ではないか。

ていく。

○なぜ投票率が上がるだけではいけないのかを, ’・投票に行かない人の理由を振り返り, その対

これまでの学習の資料などを振り返りながら 策と難しさについて考える子

考えさせる。 ・民主主義の理念をこれまでの学習から振り返

○現状の投票に行かない理由や民主主義の理念 り,その大切さと実現の難しさについて考え

に即した方法を考えさせるとともに,実現の る子

難しさについても考えさせるようにする。 ・議論やこれまでの学習を関連づけながら, 自

分の考えをまとめようとする子

3.          .w習のまとめをする。 ○議論したことをもとに,最終的な自分の考え ・相互交流の中で,自分の判断を友だちの判断

を振り返りカードに書かせる。 と比較する子

○振り返りカードの記述を交流させることで,

自分の判断の自覚化を促す。

(高山 宗寛)

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社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分析(W) 45

3.社会認識とメタ認知の成長過程

3.1ふり返りカードによる分析と評価

 ふり返りカードの項目は,下記の通りである。

①今日の学習でわかったことはどのようなことです

 か。また新しくわかったことは,どのような学習

 を進めたから見つかったのですか。

②今日の学習で疑問に思うことやもっと調べたいと

 思うことを書きましょう。

③それは,どのようにすればわかりますか。また,

 何について学習すればわかりますか。

 今年度は,認識内容と学習方法を関連させて見ること

により子どものメタ認知の成長過程を分析することとし

た。項目①の中での認識と学習方法との関連,項目①②

③を通しての学習ぶりの両面から考察を進めていく。さ

らに,それ以外にも記述内容からメタ認知していると見

られる.ものもあるので,適宜紹介しながら分析する。

3.1.1 学級全体のメタ認知の成長

 学級の子どもが学習過程でどのような活動をし,いか

なるメタ認知を形成したか。また,それは学習の進行に

つれてどのように変化したのかを探るために,ふり返り

カードの記述から代表的なものを三次ごとに抜き出して

下記の表2にまとめてみた。また,自分の認識内容と学

習方法を関連させて考えていこうとしていると思われる

子どもの表れを,併せて考察した。

 第1次では,選挙の仕組みや議会の働き,民主政治の

〈表2●「ふり奉りカード」の代裏的な記述内容〉 注 人数は,全28人に対して()人

①本塁で「わかったこと」「思ったこ ②学習での疑問やもっと調べたいと ③それはどのようにすればわかりま ①②③にと」①の中で認識内容と学習方法 思うこと。 すか?また,何について学習すれ つながりを関連させている児童数( 人) ばわかりますか? ( )人

【わかったこと】 ・投票率は,なぜ減っているのか。 ・○○の人にたずねる。

・選挙しない人はほとんど若者であ ・投票率が低いとなぜ困るのか ・インターネット・取材・選管のHPることとその理由 ・投票率を上げる対策は? ・若者だけでなく,いろんな年代の

・投票率が低い現実,義務制の国 ・投票に行かないのは若者だけでは 人にインタビューする。

第1次I了後

・選挙の決まりと歴史,工夫,問題

_ないのではないか。

Eハガキをもらっても投票に行かな・選挙に行かない人に,その理由をCンタビューする。

(20)人

【学習方法】 い人がいるのはなぜか。 ・直接インタビューしたら,その人・みんなで進めてみんなで意見を言 ・投票する側の人達と投票される側 の本当の気持ちがわかる。

い合ったから。みんなの意見を聞 の人たちの意見を知りたい。 ・家の人にきく。マスコミの人にき

いて。        (9)人 く。

【わかったこと】 【思ったこと】 ・投票率があがればそれで良いのか? ・国のHPを調べる

・義務制に反対している人たちの意 ・国が義務化を進めようとしている ・インターネット見。 のか? ・投票率のしくみ

・投票率ばかりでなく,国のことを ・国は何%ぐらい投票率がほしいの ・投票率をあげることが目的なのか考えている人がこれる選挙にした か。 いろんな人に聞けばいい。い。 ・投票率をあげることが選挙の目的 ・選管の人にきく。

・本当に政治への意識が高まるのか か,本当に考えて投票することが ・うまくいっているオーストラリア

第2次I了後

が問題。投票者の願いが大切。・賛成,反対でなく選挙で大切なこ

ニはなんなのか。

 目的か。選挙のねらい。・両方の良さを生かす改革案はある

ゥ。

の選挙についてもっと詳しく知りスい。

Eみんなの意見をもう一度聞く。話(15)人

【学習方法】 ・国のことを考えてくれる人がこれ し合う。

・次に提案するので,どちらでもな る工夫をしているのか。 ・私の選挙改革案

いという考えはやめておく。 ・政治の意識が本当に高まるのか。 ・今まで学習したことをいっぱい考・賛成の人と反対の人とで意見の交 ・意見・思いのある人は投票に行く える。

流をするという学習をしたから のではないか。

・たくさんの人が発言した。 ・選挙改革案を考える時の注意点。

(5)人

【わかったこと.】 【思ったこと】 ・どうしても行けない人はどうした 【含 終了時感想】

第3次I了後y びP 元I了後

・義務制にする前に問題がある。・できることとできないこと,やっ

トいいことと悪いこと。・投票方法を広げることで不正がで

@る。

y学習方法】

 らいいのだろう。Eもし義務制にしたらどうなるのか。・投票時間を長くすると困ること。・義務制にしなくて投票率があがっ

ス国は?E. ンんなは本当に選挙について知っ

・本当に国に関わることに触れた。・選挙について知っているかアンケー

@トしたい。

E調べるのは難しいと思うから,話オ合いの中で出てくるのを待つ(?)。・可能かどうかを考えたり聞いたり

(23)人

・意見をつなげていったから。 ているのか。 する。

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46 学校教育学研究,2007,第19巻

考え方などについて知った子どもが,それらと投票率の

低下との矛盾に気づき,学習を進めていこうとする姿が

見える。課題が明確であるので,子どもの意識の流れも

はっきりしており,自分がわかったこと,そこから生じ

る疑問,そして解決方法まで一貫性のある姿が多い。こ

れは自分の学習状況が自覚できていると共に,これから

先の学習について見通しがもてている証である。なお,

この後も単位時間の中の自分の学びと学習方法の関連に

ついて記述している子どもは三分の一に過ぎない。これ

は,子どもにとって,「みんなの意見を聞いて考える」

「みんなで話し合う」ことが,特別ではなく,日常化し

た当たり前として受け止められているからであろう。

 第2次では,わかったことだけでなく,それらを基に

した自分の思いや考えの記述が増えてきている。「選挙

に行くことに慣れさせればよいのではないか」や「賛成,

反対ではなく選挙で大切なことは何なのか考えたい」な

どの意見が見られ,それまでの学習活動で得た社会認識

を基に,わかりを高め合う姿が窺える。つまり子どもた

ちは,獲i得した知識の量的拡大と情報を再構成する認識

の質的変化をうみだしている。これは,価値判断①「義

務制を取り入れるべきかどうか」を議論していた子ども

が,それに飽きたらず一歩進んで,価値判断②「選挙の

投票率が上がればそれでよいのか」について議論したこ

とによる。その結果,投票率だけを問題にするのではな

く,「選挙のもつねらいは何か」や「投票することで本

当に政治への意識は変わるのか」といった,民主政治の

本質にまで思考を深めていくことができたと思われる。

 第3次では,現実の選挙を見つめ,自分達の議論の限

界に触れる記述が見られるようになる。すなわち,自分

達の考える選挙改革案に「できることとできないこと」

「やるとかえって不正につながること」「すでに様々な方

法がとられていること」に改めて気づき,困っている子

どもたちの姿が見える。

 単元全体を通しての感想の中に「本当に国に関わるこ

とに触れた」満足感や「自分が20歳になったら投票に行

きたい」という社会参加の意識の高まりが感じられる。

社会を変えていく難しさを感じながらも,現実に触れる

学習過程が子どもたちを本気にさせ,何とかよりよい方

法を協同で思考していく姿勢が合理的意思決定力を高め

ていくことが,ふり返りカードの記述からわかる。

 また,ふり返りカードを通して,「自分のわかったこ

とや考え」→「疑問や知りたいこと」→「そのための方

法」という一貫した子どもの学びの文脈が伝わってきた。

ウエッブ図との併用と共に,記述項目①を認識内容と学

習方法に分けた軌項目③をより具体的に記述させる事

で,多くの子どもが自分の学びを自覚して学習を展開で

きるのではないかと感じた。     (吉岡 順子)

3.1.2 個性的なメタ認知と社会認識

 メタ認知のあり方と社会認識の形成過程を把握するた

めに,9こ口わたって,前記のふり返りカードを書かせ

た。その中で,特に問①「今日の学習でわかったことは

どのようなことですか。また,新しくわかったことは,

どのような学習を進あたから見つかったのですか。」の

記述内容を分析し,子供のメタ認知の様子,社会認識の

進化の有様を検討していく。そして,メタ認知がしっか

り行われ,社会認識もよく育っている事例を取り上げ,

検討する。

〈分析対象児童:SM児(下線部:メタ認知箇所)〉

【① 1月12日】

 今日のA国・B国・C国の話を聞いて,自分の中では

全部あまりよくなかったんだけど,どれかというとC国

で,A国は1人目いいという人はいなかったけど, B国

には,いいという人がいてなぜかわからなかった。けど,

みんなの意見を聞いて「なるほど!」ってとこもあった

し,「そうだね」というのもあって,まとめでは日本は

C国だなと思い,B国の託けんも入れてもいいんじゃな

いかと,交流したからこそわかった。

【② 1月17日】

 今日の学習でみんなが選挙の歴史のことを調べ紙にま

とめていったので,最初の歴史とかわからなかったけど,

まるうっしじゃあなく自分たちの言葉でまとめて書けて,

だいたいの歴史は「ああこんなにも変わっているのか。」

とわかりました。そして,グラフを書いても,一目見て

も,選挙に出る人が多くなったのがよくわかった。

【③ 1月18日】

 今日の学習で自分は歴史なんだけど,もう一つの班の

発表を聞いて自分たちにはない所もわかったし,選挙の

仕方と決まりの発表を聞いて,仕方だったら,投票する

だけじゃなく,なくした時の事も書いていたし,決まり

だったら,何々が30才以上じゃないといけないとか,25

才以上じゃないといけないとか,自分の知らない事をし

れて,とても学べました。

【④ 1月20日】

 今日と前の学習で,グラフや意見などを出したら,知っ

ている事,知らない事など自分の意見もくわえて投票率

もわかったし,またあたらしい疑問とかもでてきていろ

いろわかりました。みんなの意見とか聞いていたら,一

部の人はぜったい選挙に行った方がいい!なぜ行かない

のかという意見も出てきて,また一部の人は,べつに行

かなくても(投票率がひくいとこまるのか!)っていう

のも出てきて,いろいろ考えることができた。

【⑤ 1月27日】

 今日の授業で若い人の意識が低いから投票率が下がっ

ているのではないかなと思っていたけど,意見を聞いて

いたら,高れい化社会が問題ではないのか!とか,議員

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社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分析(孤) 47

の受かったらこういうことをします!っていうのがうた

がいぶかい,信用できないってのも出てきて,自分だけ

じゃわからないグラフ・表などもよくわかった。

【⑥ 2月3日置

 今日の学習で,義務づけるかづけないか,賛成か反対

の意見でやって,やっぱり,発表・意見を聞いてまとめ

たら,けっきょくどちらも,政治の意識(選挙に行くの

がめんどうくさい→投票の習慣をつけていくという),

選挙の事を考えていて,休んでいたけど,だいぶわかっ

た。

【⑦ 2月8日】

 やっぱり今日の学習で,今まで自分達は選挙の事をイ

ンターネットや交流でどういうのかってことをわかって

いて,もう20干すぎのひともわかっているんだと思いこ

んでいたんだけど,今日の学習で,行かない人は選挙の

投票の恥じたいをどういう事かわかってないんじゃない

かってわかって,そういう事も考えて,投票所を増やし

ても,わからなかったらいけないんじゃないかとも思い

ました。

 SM児の場合には,次の3点が思考を深めたことをメ

タ認知している。

 第1は,他の人や他の班の意見と交流することの重要

性を,「交流したからこそわかった(①),もう一つの班

の発表を聞いて自分達にはないところもわかったし(③),

意見を聞いていたら(⑤)」といった表現をしている。

意見交換を振り返る,交流したことを振りかえって,自

分の社会認識の成長をとらえている。

 特に,⑤では,投票率の低下の原因を「若者の意識低

下」においていた自分を振り返り,「高齢化社会の問題

公約が守られないこと」などへも原因を広げている自分

をメタ認知している。

 第2には,まとめることが重要であるとの認識を,

「調べ紙にまとめていったので(②),まるうっしじゃあ

なく自分たちの言葉でまとめて書けて(②),発表・意

見を聞いてまとめたら(⑥)」といった表現をしている。

意見の言い放しではなく,まとめ活動をすることが自分

の認識を深めていることをメタ認知している。学習の成

果を自分の言葉でまとめることの重要性をよく認識して

いる児童として希有である。

 第3には,グラフや表の有効性を,「グラフを書いて

も一目見ても(②),グラフや意見などを出したら(④),

自分だけじゃあわからないグラフ・表(⑤)」といった

表現をして示している。

 この児童の社会認識の形成・成長過程を概観すると次

のようになっている。

①A国,B国, C国の選挙制度の比較

②選挙の歴史と変遷の認識

③選挙方法,選挙の決まり

④投票率,新しい疑問の発見

⑤若者の政治的無関心と低投票率から,高齢化社会

 や政治不信への原因の拡大

⑥投票の義務づけの可否問題から政治意識へ

⑦選挙の意味がわからない若者という考えへの発展

 ①②③においては,選挙に関する事実的情報を習得し

ている。続いて,④において,新しい疑問が生まれるよ

うになり,⑤⑥⑦で,自分の意識を発展させて社会認識

を深めている実態がよくわかる事例である。メタ認知の

よくできる児童は,社会認識もよく育っていると判断で

きる。

〈分析対象児童:MH児, CS児〉

 この授業の最終段階では,投票の義務制をめぐって,

意見交換をしている。この過程で,自分の意見をメタ認

知して考えを述べている児童は,社会認識の面において

も他の児童よりも一段と深まりを見せている。その事例

の児童の記述を見ていこう。

(MH児)まず,義務制について前の授業では私は

反対だったけど,少しは必要な現状もあるというこ

とです。これは賛成のSさん,Kさんの意見を聞い

て今までの資料とかを合わせて考えたからわかりま

した。でも義務制はいい所もあるけど悪い所もある

ので,義務制にしなくても投票率が上がる方法があ

るといいなと思いました。

(CS児)今日の学習で義務制にするまえに問題が

あると思うというのが分かりました。そのために,

本当にみんなが選挙について分かっているのか?,

分かっていないから来ていないのかもしれない!と

いう最初の方にもどって考えて新しい発見が出てき

ました。

 MH児は自分の考えが他の児童の考えを聞いたり資料

を見たりすることによって変わっていったことを,明瞭

にメタ認知している。CS児は,学習した結果,はじめ

の原点に返って考えることの重要性についてメタ認知し

ている。こういつたメタ認知がより深いレベルの問題意

識を生じさせていることがよく分かる。

 メタ認知がしっかり出来ていて,社会認識も育ってい

る児童を取り上げて,メタ認知と社会認識形成には,強

い相関があることを示した。こういつた状況から判断す

ると,社会科授業において,有効なメタ認知の指導が社

会認識形成に欠かせないことが分る。研究の蓄積が必要

な分野である。           (岩田 一彦)

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48 学校教育学研究,2007,第19巻

3.2 イメージマップによる分析と評価

3.2.1 学級全体から見たメタ認知と社会認識

 本項では,イメージマップを分析することで,学級全

体から見たメタ認知と社会認識について探る。イメージ

マップは,. P元開始前,第1次終了時,単元終了後の計

三回書かせた。また,イメージマップの内容や前回から

の変容を,イメージマップの説明文として書かせた。

 まず,イメージマップの説明文か.ら,学級全体のメタ

認知の傾向を捉えることを試みた。説明文には,自分の

学習の理解度や前回のイメージマップとの違いの原因な

どが書かれている。そのため,イメージマップの説明文

からメ.タ認知を捉えることができると考えた。分析に際

しては,「理解度に関するメタ認知」「認識方法に関する

メタ認知」「認識内容に関するメタ認知」に説明文を分

類し,三回のイメージマップのメタ認知の傾向を探った。

それを整理したものが,表3である。

 一回目のイメージマップは学習前に書かせた。そのた

め,「理解度」については,「あいまい」「おもいっかな

い」と感じていることがわかる。また,書いている言葉

もニュースやTVで見たことが中心である。認識内容に

ついては,完全普通選挙については歴史で学習している

ためはっきりと理解しているが,その他は表面的な認識

に留まっている。これらより,選挙についての予備知識

をほとんどもっておらず,曖昧なイメージマップを書い

ているとメタ認知していることがうかがえる。

 二回目のメタ認知表現を見ると,イメージマップの言

葉の数が増えたこと,’そして,それが調べたり交流した

りすることで言葉の数が増えたことを読みとることがで

きる。. ワた,「数だけではなくっながりも増えた」「選挙

権をもつ人の気持ちになった」とあるように,認識の関

係づけや自分と異なる立場の視点についても言及してい

る。さらに,詳しく書けたと捉えている内容については,

「代理投票」や「点字投票」などの投票制度,「歴史」

「選挙権や被選挙権」「選挙の基本原則」とある。疑問を

もとに調べたり交流したりすることで,社会認識の広が

りや関係づけがなされていると考えられる。それととも

に,「前は意味のわからない言葉を書いていた」とある

ように,確信をもってイメージマップを書いていること

がわかる。換言すると,曖昧なイメージマップから,確

信のあるイメージマップへと変化していることを,子ど

も自身がメタ認知していると言えよう。

 三回目になると,子どもたちは,「つながりが増え」

たり「詳しくなった」りしたと,自分のイメージマップ

を説明している。二次から三次の学習は,投票率の意味

を吟味することで民主政治のあり方を探っていった。そ

のため,一次で広がった認識を関係づけ,自分なり選挙

〈表3 イメージマップから見たメタ認知表現の事例〉

1

2

3

イメージマップの説明文における主な記述内容

理解度に関するメタ認知 認識方法に関するメタ認知 認識内容に関するメタ認知

・国会等の仕組みが,描いてみ…・ニュースに出ていることを書いた。

てあいまいだと分かった。

・選挙だったからそんなに思い

つかなかった。

i・選挙後,選挙前,人物,疑問に思うこと,方法のこと,その他。…・全然わからない。TVで聞いたことのあるi・選挙は国や県,市などに役立つから国民や市や町につながった。

i言葉を並べた。i

i・投票と信頼できる人がつながっているのは投票で信頼できる人を選iぶから。

i・選挙に出る人,選ぶ人につながって,国会の人,税金,お金につなiがる。

i・1番はっきりしているのは選挙権のところ。20才以上の男女は,昔1は○円以上納めていた人や25才以上の男子などがあった。

・前のイメージマップは意味の…・調べてわかったことが描かれている。  …・前は選挙から政治につなげていたが,投票のことと有権i者の人,議

わからない言葉を書いていた。…・話し合った意見や,調べた意見を書けた。…員について詳しく書けた

前のイメージマップより多くi・交流をしたから,選挙の歴史,方法,仕…・前は衆議院や選挙権のことを詳しく描けなかった。選挙から代理投

なった。        i方についての記述が増えた。     …票や点字投票につながった・前回は全然書けなかったど,i・前は自分が知っていることや見たことだi・歴史のことが増えている。前より書けるようになった。iけ。今回は選挙権をもつ人の気持ちになつi・点字,決まり。前より国のこと,投票者が多い

・前は宣伝のことしか知らなかっiたり,調べた歴史のことを描けた。   i・例えば選挙権や被選挙権のこと,歴史も描けた。たけど,1っ1つが増えて詳i・特に歴史めことが増えた。数だけでなくi・歴史や選挙の基本原則などを多く描いた。

しくなった。       …つながりも増えた。関係なさそうに見えi・「選挙権」「条件」「投票」に分けられていると思う。            …たところも実は関係あったり,他のキーi

            …ワードからっながつたりした。     i

・今回はつながりが増えて,言i・どんな方法なら人に選挙に来てもらえるi・国のこととか宣伝のこと,党のことを描いた。

葉の数はあまり変わらないけiかなどを学習して少し増えた。

れどたくさんつながった。           iた。

i・返事が返ってきて,つながりが詳しくなつ…

1・前は選挙から法律,憲法とつながらなかっ.た。今回は法律のことに

 ついてつけ足した。

…・前より選挙制度について詳しく描けた。広告についてが,とても面…白い

…・前と比べて増えたのは選挙管理委員会。

…・投票についての考えや法律へのつながりが詳しくなった。

…・選挙の原則,選挙に行かない人の考えが増えた。

i・憲法のところを特に詳しく描いた。

i・前と変わった所は,対策からっながる言葉が増え.た。i・国会議員,被選挙権,投票,その他に分けている。

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社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分析(粗) 49

に対する考えをつくる必要があった。従って,イメージ

マップのつながりが増えたり詳しくなったりしたとメタ

認知していると考えられる。

 このような説明文は,イメージマップの分析の視点を

示している。つまり,子どもは,イメージマップを書き

ながら認識内容だけでなく,理解度や認識方法について

もメタ認知している。これらを考慮しながらイメージマッ

プに出てきた表現を探ることで,子どもがイメージマッ

プに書いた言葉の背景となる考え方をより正確に捉える

ことができる。そのためにも,イメージマップの説明文

を書かせることは,有効な手立てになると考えられる。

 次に,イメージマップから見る学級全体の社会認識に

ついて探るために,’ qどもに認識させたい社会認識を整

理してカテゴリーを作成し,イメージマップの中に表現

された言葉をカテゴリーごとに分類した。その結果を示

したものが,表4である。

〈表4 イメージマップへの社会認識の出現率〉

1回目 2回目 3回目

①選挙の歴史 9.1 36 33.3

②選挙の意義 22.7 24 29.2

③選挙権・被選挙権 22.7 64 54.2

④選挙の種類 9.1 36 33.3

⑤選挙の方法 545 52 542

⑥選挙の決まり 0 44 37.5

⑦選挙の問題点 0 60 58.3

⑧投票制度 0 52 62.5

⑨民主政治の考え方 0 4 45.8

単位(%)

 表4を見ると,一回目では,半数以上が「選挙の方法」

について書いているが,その他の言葉はあまり書いてい

ない。また,「選挙の方法」についても,「投票所」「ポ

スター」「宣伝」など,目に見える程度の言葉が多い。

これらは,イメージマップの説明文にもあったように,

イメージマップの曖昧さを示しているものと言えよう。

 二回目になると,「選挙権・被選挙権」「選挙の方法」

「選挙の問題点」「投票制度」については,半数以上の子

どもがイメージマップに言葉を表現している。また「選

挙の歴史」「選挙の歴史」「選挙の種類」についても,一

回目と比較すると大幅に上昇している。これは,説明文

にもあったように,調べたり交流したことで認識内容が

増えたことを示している。第一次の学習を経て,社会認

識が広がったことを示すものだと考られる。

 三回目では,「民主政治の考え方」の出現率が大幅に

上昇している。投票率の意味や選挙改革案の吟味を行う

ことを通して,「政治に関心をもって投票する大切さ」

「本来の選挙の目的」といった「民主政治の考え方」に

ついての認識を形成するに至ったのだろう。

 これらより,一次の学習によって社会認識が広がり,

二次や三次の議論を通して「民主政治の考え方」を獲得

する子どもが増えていったと考えられる。

                  (高山 宗寛)

3.2.2 個性的なメタ認知の抽出

 昨年度の研究より①社会認識形成とメタ認知との間に

は高い相関関係があること,②社会認識とメタ認知に関

して,イメージマップを学習段階毎に書かせることの有

効性が報告された。そこで,学習過程に即した個性的な

社会認識形成に着目し,メタ認知を行っている子どもの

事例を分析することとした。以下,3事例は,「歴史」,

「選挙=人」,「選挙権」という視点を明確にして認識を

深めている点に注目した。

【歴史の視点から選挙のイメージを再構成したHM児】

1/20 (2回目のイメージマップから)

国会一投票  参加の工夫一人一信頼 i   \政党一選挙一騨権一投票率

    /大日本帝国憲法一制限選挙一時代の変化

      \自由民権運動/

日本国憲法 一 国民主権 一 有権者

3/9 (3回目のイメージマップから)

〈昔の選挙〉

大日本帝国憲法一制限選挙  税金一国民主権

〈現在の選挙〉

投票率低下一原因一忙しい一めんどう一意見の反映  1

多くの人が参加する工夫一義務制一罰金  /’\      /不在者一電子投票一選挙の意味一中身のある選挙

〈これからの選挙〉

 新しい制度一コンビニー携帯一雰囲気作り 広報活動(お店・ティシュ)一音楽/\植物

 1回目は,憲法と選挙の関係を意識しながらも「テレ

ビで見たものや聞いたことを並べただけ」と漠然とした

イメージであることに納得できていない様子であった。

2回目では選挙の仕組みを調べ,選挙の問題点の話し合

いを通して,歴史の中で選挙権は勝ち取ったものである

ことを認識した。そして,「大日本帝国憲法一制限選挙一

時代の変化一隅由民権運動一普通選挙法一国民主権一男

女平等」と歴史にそって,選挙の基本的な関係認識の枠

組みを形成している。HM児自身も「関係がなさそうに

見えた事柄が実は関係があったり,つながったりしてい

ることがイメージマップからわかった」とメタ認知して

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50 学校教育学研究,2007,第lg巻

いる。

 3回目では,昔・現在・近未来の選挙というカテゴリー

を自ら設定し,選挙について再構成して捉えている。こ

れは,第2次での投票義務制の是非に関する価値判断や

「投票率をあげるためにはどうすればよいのか」という

議論において時代の変化に着目して考えたことや,第3

次での改革案提案で考えた未来予測の見方や考え方が影

響したものと思われる。「言葉の数は変わらないが,そ

のつながりが広がっている」と自分の学びを対象化し,

構造的な認識形成にいたっている。〈これからの選挙〉

では「新しい制度」の必要性を主張し,パソコンや携帯

などの情報機器の活用や,コンビニの活用,投票所の雰

囲気づくりなど,社会全体から選挙に対する総合的な見

方へと認識の成長がうかがえる。

【選挙二人に着目し,社会認識を成長させた納S児】

1/11 (1回目のイメージマップから)

  税金一お金一国のために使う   \選挙一人一小泉さん

1/20‘ i2回目のイメージマップから)

大日本帝国憲法一男子だけ一選挙権一税金

立候補一選挙一投票一人一小泉さん    /\選挙の基本原則一普通選挙一秘密一平等

3/9 (3回目のイメージマップから)

擁者一選挙一投票一期小泉さん\/投票場一投票率 三日『知ら鮒

カラオケボックス  ウァーストフードー法律

 MS児の1回目のイメージマップでは,「選挙は人が中

心」として,立候補者や有権者,税金とのつながりにこ

だわってまとめた。2回目は歴史や選挙の基本原則など

を調べ,「1回目と税金や選挙権などとつながりがあっ

た」と認識を広げている。3回目では,選挙のしくみや

立候補者・有権者,国会と分類し,認識の構造的な深ま

りが見られる。また,「カラオケボックスーファースト

フードー芸能人」などを選挙と結んでいる。このことは

第2次の価値判断である「投票率をあげるにはどうすれ

ばよいか」という議論の中で,若者の投票率の低さに目

を向け,若者への広報活動の必要性が意識されたことを

受けている。身近な生活と選挙とのつながりの視点を持

とうとしている。

 MS児は「改革案レポートでは,投票率をあげるため

にできることや法律で決められたことをもとに未来のこ

とも考えて書くことができた」と振り返っている。はじ

めは大衆をイメージした人の視点が学習の中で若者へと

ターゲット絞り,選管へ改革案を提出したことが自らの

周辺的参加の意識へとつながつたと捉えることができる

だろう。

【選挙権にこだわり,認識を広げていったTK児】

1/{1 (1回目のイメージマップから)

 うるさい一選挙カー一宣伝       1    1騨権一選挙一ポスター一いりぽい

       !

  20歳以上の男女一わいろ一卑怯

1/20 (2回目のイメージマップから)

       投票率一下がる一国つぶれる        1

有繋譜挙一投票20歳以上の男女

日本国憲法一大日本帝国憲法一男子のみ一歴史

3/9 (3回目のイメージマップから)

  国家議員一衆議院・参議院    \  1

騨鞍選挙殼票一点三二蚤芸能擁鞠,一誠黙立.

 大日本帝国憲法一日本国憲法

 TK児は終始一貫して選挙権にこだわってイメージマッ

プをまとめている。1回目では,「今は20歳以上の男女

だけど,昔は○円以上税を納めていた人や25歳以上の男

子などの制限があったことがわかった」と今と昔の選挙

のしくみの違いを認識した。2回目では,選挙の現状

(投票率の低さ)について話し合う中で,選挙の意義や

有権者の意識が議題の中心となったことから「今回は選

挙権を持っている人の気持ちになったり,自分たちが調

べた選挙権の歴史とのつながりが詳しく書けた」と歴史

と選挙権との関係性を捉えている。民主政治の考え方に

ついて歴史を踏まえた議論に仕立てていったことが,有

権者への共感的理解へっながつたと思われる。

 3回目は,国政選挙や,芸能人を活用した宣伝活動,

点字・電子・代理といった投票方法のあり方へと視点が

広がっている。「改革案を提案して選挙の実情や選管の

人たちの想いがわかった」と振り返っている。しかしな

がら,本事例は,第2次の価値判断場面で培ったであろ

う認識や思考・判断力が表出されていない。これは,イ

メージマップ作成の時期が影響していると考えられる。

イメージマップ作成の適時性や学習活動との関連,活用

のあり方が課題である。       (高岡 昌司)

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社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分析(W) 51

4 社会的判断の成長過程 選挙の投票率を上げるためにオーストラリアなどが取

り入れている投票の義務化,罰則規定の導入に賛成か反

対かを議論させた。ここでは,賛成・反対の理由の根拠

を検討し,①その根拠が単に投票率の高低から選挙のも

つ多様な意味に広がり,相互関係(選挙当事者・授業に

取組む児童)の中での「社会的判断」になること,②さ

らにいくつかの留保によって当面の課題を解決しようと

している,ということを述べたい。

 第2次の授業ののち,賛成・反対の価値判断を児童に

おこなわせた(トゥールミン図式を活用)結果が,表5

である。左の数字は単に賛成・反対の結果記入のみから

の分類であるが,( )内の数字は文章記述や理由か

らの分類である。

〈表5 投票義務制をめぐる判断〉 (N=24)人

賛成 反対 留保分からない

ヌちらでもない

判断 10(9) 9(9) 2(4) 3(2)

 さて,表5から,投票率を上げるための方法として,

罰則をふくむ投票の義務化の価値判断は拮抗していると

いえよう。トゥールミン図式の記述を補うため,授業ご

とのふり返りカード(全10枚)をもとに児童の考えの変

化を検討したところ,賛成・反対の結果と,その理由の

記述から,次のように賛否の理由が分類できた。

 まず,賛成の理由である。

 投票率が上がることによって多くの民意を反映させる

ことになるので,投票率のアップが必要であること。さ

らに,民意の反映には高い投票率が必要で,これによっ

て政治参加を達成できるというものである。

 一方,反対の理由は,義務化で投票率が高まったとし

ても,いやいやの投票や関心もないのに形式だけの投票

になると,選挙の本来の意味がなくなるので,投票率が

高いだけで正しく民意が反映されているとは言いがたい,

というものである。

 具体的記述をもう少し詳しくみよう。

 選挙の投票の義務化に賛成の児童は,携帯や電子機器

による投票など,主に投票手段の多様化によって民意を

吸い上げる工夫や,投票場所や投票時間・投票時期の延

長など,どうずれば選挙にいってもらえるか,選挙民に

とって投票行動がしゃすい状況はなにか,といった投票

の利便性の向上が必要であるという考えを示している。

一方,義務化に反対の児童は,投票の意味について考え

ているのが特徴であろう。Nα9のふり返りカードの記述

では「義務制にする前に問題があり,みんなが選挙につ

いてわかっているのかQわかってないからきてないかも

しれない」(A児),「投票率より自分から投票できるよ

うにしないとダメだ」(B児),と選挙そのもののもつ意

義や役割について考えるようになっている。

 また賛成の児童のなかにも,授業で賛成・反対の討議

を聞いた結果,「いい加減な投票になることがわかった」

(C児)と書いた児童もいた。

 ところで,こうした,賛否の討議において一般論では

なく具体論,すなわち個々の具体的な状況にある人々を

想定し,さらに社会的な階層差(老人・障害者・若者)

に注目したそれぞれの投票のあり方になると,必ずしも

問題の二者択一で判断できるわけではないことは,自明

であろう。そこで,こうした点から保留や条件をつけた

児童の考えを見てみる。

 留保つきで賛否をきあかねている生徒が2円いた。

「賛成だけど(チョット)反対」と書いた児童は「強制

的に選挙にいかせる」ことに疑問をもち,「義務制で

(投票率が)上がっても,(選挙の)関心」がなくなるの

ではないか,と指摘している(D児)。また,条件付賛

成では「立候補者がキチンと」その公約を主張すること

や,義務制によって有権者の「自由」が制限されやすい

危険を回避することを述べている(E児ほか)。ここで

は単に有権者の問題だけでなく,選挙の争点の曖昧さや

わかりにくさ,争点となる公約を訴える候補者の考えに

ついて思考している。つまり義務制に賛成・反対の理由

が,投票率のアップのみを根拠にした議論は,次の4つ

の社会的判断の視点に変化してる。その視点とは①有権

者個々の具体的立場,②争点となる公約の内容,③候補

者の公約と,有権者の個々の具体的立場の関係という3

っの立場からと,④選挙そのものの意義(A児・B児)

である。こうした討議の経過から保留をうみだした可能

性も考えられる。

 ちなみに,選挙に関するイメージマップ(ウェブ図)

での平均記入単語数を検討すると,賛成が25,反対が23

であるが,保留だが賛成では38である。記述を読むと,

保留は,選挙の条件や制度の現実適応性などさまざまな

点を考慮している。反対だが「義務制でもなくても欠点

があり,どちらものよいところが生かされる改革案」の

必要性を述べている児童がいる。この児童は時系列で見

ると,クラスの議論に注目しており,賛成・反対の相互

の考えをとりいれた上で自分の考えを述べている。

 方法論だけで投票行動を促進することの限界を踏まえ,

立場の違いや選挙の意味を公的な立場から判断しようと

いう傾向が読み取れる。判断理由にもう1っ高い視点を

獲得し,投票率向上の効果と限界に留保をつけようとい

うのが社会的判断の思考方法であろう。したがって,そ

れを促す学習過程を構成することが社会的判断の成長に

は必要だと思われる。         (高松 昭彦)

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52 学校教育学研究,2007,第19巻

5 結 本研究では,「社会認識とメタ認知は相互に関連し合

いながら成長する」という従前の研究で明らかになった

理論を,6学年の政治単元の事例に応用して検証すると

ともに,社会認識とメタ認知,社会的判断の成長を一層

精緻に分析するための方法の確立を目指した。その結果,

以下のことが改めて検証された。

 ①社会認識とメタ認知は,基本的に以下の3段階を基

本型とする学習過程(授業構成)により成長する。

1.問題把握(豊かな情報とイメージ形成の意義)

H.追究(仮説に基づく調べ活動と議論の意義)

皿.意思決定(自己の立場ないし視点の意義)

し,研究VIでも指摘したように,学年段階によっては充

分にくデータ〉〈理由付け〉〈主張〉の意味が理解され

ない場合もあり,具体的な活用には配慮も必要である。

 はじめに述べたように,本継続研究は今年で7年を経

過したことになり,ここで一区切りをつけたい。当初は

いまだ新奇な目で見られがちであったメタ認知,リフレ

クション,自己モニタリングといった概念も,この間に

かなり一般化してきた。それだけ社会科教育の世界でも,

認知研究への関心が高まってきたといえるだろう。本研

究の成果は必ずしも充分ではなく課題も多いが,そのた

めの再出発に向けてしばし充電二二としたい。とはいえ,

これまでの研究に関して大方のご批判を期待する次第で

ある。               (原田 智仁)

 ②社会認識とメタ認知はイメージマップ(概念マップ)

とふり返りカードの併用により,確実に評価できる。イ

メージマップは小乱心乱に,ふり返りカードは可能な限

り毎時間書かせると,成長過程が評価できる。

 a.ふり返りカードには次の二つの問いが必要である。

〈社会認識〉今日の学習でわかったことは何か。

〈メタ認知〉どんな学習を進めたからわかったのか。

 b.イメージマップには同じ用紙に上書きさせる(鉛

  筆の色を換えるなど)方法と,新たな用紙に書かせ

  る方法がある。また,簡単な説明文を付けさせると,

  教師の読み解きに役立っ。

 ③メタ認知は,〈認識内容〉〈理解度〉〈認識方法〉

の三つの視点で評価することができる。つまり,何が,

どの程度,どう学習した結果わかったのか(わからなかっ

たのか)というふり返りの視点である。

 ④メタ認知の成長には以下の授業刺激ないし学習活動

が有効である。

a,子ども同士の意見の発表・交流や議論

b.自ら調べ考えたことを絵や文章にまとめる

。.グラフや表などの客観的データに触れる

<参考文献>

1 草原和博他「社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分

 析(1)一第5学年『自動車工業と私たちのくらし』を事

 例として」「学校教育学研究』13巻,2001

2 原田智仁他「社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分

 析(H)一第6学年『現代とはいつのこと?』を事例とし

 て」『学校教育学研究』14巻,2002

3 原田智仁他「社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分

 析(皿)一メタ認知・メタ評価の視点を手がかりにして」

 「学校教育学研究』15巻,2003

 *事例:第3学年「私たちのくらしと商店」

4 橋本康弘他「社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分

 析(IV)一メタ認知・メタ評価の視点を手がかりにして

 (2)」「学校教育学研究』16巻,2004

 *事例:第4学年「私たちのくらしとごみ」

5 原田智仁他「社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分

 析(V)一メタ認知・メタ評価の視点を手がかりにして

 (3)」『学校教育学研究』17巻,2005

 *事例:第3学年「工場のしごと」

6 原田智仁他「社会科固有の学びを育てる授業構成と実践分

 析(VI)一メタ認知・メタ評価の視点を手がかりにして

 (4)」『学校教育学研究』18巻,2006

 *事例:第3学年「火事からくらしを守る」

           (2006.9,1二二,2006.10.17受理)

 これは,仲間との対話(学習の協同性),自己との対

話(学習の主体性),学問との対話(認識の科学性)と

言い換えてもよい。社会科にはどれも欠かせない。

 ⑤社会的判断にはトゥールミン図式の活用が効果的で

ある。ただし本研究のように,授業構成上,何度も判断

をさせられない場合には,その成長過程の評価は難しい。

ふり返りカード等の記述分析で補うことが必要になる。

しかし,トゥールミン図式は教師による評価の道具とし

てだけでなく,子ども自身に判断の根拠を明確に自覚さ

せる上でも意義があり,今後の普及が期待される。ただ