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雇用促進と婚姻率について ~回帰分析による検証~ 名古屋市立大学経済学部経済学科 033124 黒葛原未紗

名古屋市立大学経済学部経済学科 033124 黒葛原未紗y_yamamoto/02/2006paper/... · 2015. 10. 20. · また、若者の結婚する時期が遅いことにより、子どもを産む時期が遅くなり、

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雇用促進と婚姻率について ~回帰分析による検証~

名古屋市立大学経済学部経済学科

033124 黒葛原未紗

雇用促進と婚姻率について 033124 黒葛原未紗

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目 次

第 1 章:少子化の現状と政府の取り組み……………………………2

第 2 章:就労と婚姻行動との関係……………………………………5

第 1 節:仮説の検証① 婚姻率と様々な指標との関係性の検証 第 2 節:仮説の検証② 婚姻率に対する影響度の検証

第 3 章:分析結果に対する考察………………………………………13

第 1 節:婚姻率に対する説明変数の影響度 第 2 節:婚姻率に対するダミー変数の影響度

第4章:雇用促進と婚姻率について…………………………………21

雇用促進と婚姻率について 033124 黒葛原未紗

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雇用促進と婚姻率について ~回帰分析による検証~

経済学部経済学科 033124 黒葛原未紗

第 1 章:少子化の現状と政府の取り組み 日本で少子化が問題として認識されるきっかけとなったものは、1989 年の「1.57 ショッ

ク」である。これは、「ひのえうま」という特殊な要因により合計特殊出生率が 1.58 と極端

に減少した 1966 年の記録を、1989 年の合計特殊出生率が下回ったことである。1.57 ショ

ックを契機に、厚生労働省が中心となって、少子化に対する対策の検討がはじまった。し

かしながら、その後も図 1 のとおり、合計特殊出生率、出生数ともに、右肩下がりとなり、

少子化が進行していることが分かる。

図 1:出生数及び合計特殊出生率の推移

「少子化」ホームページから引用

このため、政府は、1994 年、少子化に対する最初の具体的な計画として、「今後の子育て

支援のための施策の基本的方向について」(エンゼルプラン)を策定した。これは、社会全体

で子育てを支援していくことをねらいとし、保育所の量的拡大や低年齢児保育などの保育

サービスの充実を中心としたものだった。 その後、1999 年「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について」(新エンゼ

雇用促進と婚姻率について 033124 黒葛原未紗

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ルプラン)が策定された。これは、従来のエンゼルプランで重視されていた保育サービス関

係だけではなく、雇用、母子保健・相談、教育等の事業を加えられた幅広い内容のもので

あった。 2002 年には、厚生労働省により「少子化対策プラスワン」がまとめられた。これまでの、

取り組みが仕事と子育ての両立支援をもとに行われていたのに対し、「少子化対策プラスワ

ン」は、男性を含めた働き方の見直しや、地域における子育て支援などの、社会全体が一

体となって総合的な取り組みを進めていこうと提言するものであった。 2004 年は、新エンゼルプランの実施計画の最終年であった。保育サービスを中心に計画

的な整備が行われて、目標とされた事業はほぼ達成されたが、結果として、少子化の進展

に歯止めはかからなかった。1994 年の合計特殊出生率 1.50、出生数 1238 千人と比べて、

途中、若干増加したこともあったが、結局 2000 年以後合計特殊出生率、出生数ともに下げ

止まることなく、減少した。(図1参照) このような現実の中、国民の意識にも変化が起こっている。政府は、1967 年以来、毎年

「国民生活に関する世論調査」を行い、政府に対して力を入れてほしいと思う事項を調査

している。この調査の項目の中に、「少子化対策」が入ったのは、1998 年からであるが、図

2 を見ると、2001 年以後国民の少子化対策に対する要望が急速に高まっていることが分か

る。この国民の要望の急速な高まりは、少子化による問題が、国民に実感として負の影響

を与え始めた、また、切実な問題として感じられるようになってき始めたためだと考えら

れる。 図 2:政府に対する要望

「少子化」ホームページから引用

雇用促進と婚姻率について 033124 黒葛原未紗

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これまで行われたエンゼルプランや新エンゼルプランでは、少子化の流れを変えるには

不十分であった。「平成 17 年度版 少子化社会白書」(内閣府)により、この理由が示され

ている。 ① 子育て期にある 30 歳代男性の 4 人に 1 には週 60 時間以上就業しているなど、

育児期に子供に向き合う十分な時間を持つことができない働き方となっており、依

然として子育ての負担が女性に集中する結果となっていること。また、育児休業制

度など子育てと就業の両立を目指した諸制度も十分な活用が進んでいないこと。 ② 地域によっては保健所待機児童がいまだ存在しており、また地域共同体の機能が

薄れつつある中で、一時保育や地域子育て支援センターなどの地域の子育てを支え

るサービスが地域において十分に行渡った状況にはなっておらず、孤立した状態で

子育てをしている場合があること。 ③ 無職や雇用の不安定な若者が増加するなど、若年が社会的に自立し、家庭を築き、

子供を産み育てることが難しい社会経済状態となっていること。 これを踏まえて少子化社会対策大綱の具体的実施計画(子ども・子育て応援プラン)が策

定された。ここで注目したいのは、前述の③に対する施策として、若者の自立とたくまし

い子どもの育ちを掲げ、若者が意欲を持って就業し、経済的にも自立することが目標とさ

れたことである。この施策は、今までにない新しいものである。 これまでの少子化支援に対する考え方は、子育て支援を中心としてきた。雇用状態に関

する支援であっても、その根底には、仕事と子育てとの両立の負担を軽減が目的であった。

しかし、③に対する新たな施策は、実際に子どもを育てている人に対する支援ではなく、

これから子どもを育てることになるだろう若者に対する自立支援という、直接的な子育て

支援ではないという点で新たなものであると考えられる。本稿では、ここに注目していき

たい。 少子化の原因の 1 つに、若者の未婚化・晩婚化があるといわれている。日本は結婚をせ

ずに子どもを産む人が少ないため、若者が結婚をしないことにより少子化が進んでいると

考えられる。また、若者の結婚する時期が遅いことにより、子どもを産む時期が遅くなり、

女性1当たりが生む子どもの人数が少なくなることにより少子化が進んでいると考えら

れる。 ③に対する新たな施策は、若者の就労を促進することにより、若者の雇用や所得の安定

を目的としたものである。そのため、③に対する施策は、この意味で、若者の未婚化・晩

婚化に歯止めをかけるものだと考えられる。雇用、所得の安定は、結婚行動にプラスの影

響を与えると考えられる。そして、結婚行動は、出生行動にプラスの影響を与えると考え

られる。つまり、雇用を促進することが、結婚行動に対してプラスの影響を持ち、さらに

は、出生行動につながると考えられる。 本稿では、雇用を促進することが、婚姻率増加につながり、出生行動につながることに

なるかを検証していく。

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第 2 章:就労と婚姻行動との関係 第 1 節:仮説の検証① 婚姻率と様々な指標との関係性の検証 雇用促進が、婚姻率増加につながることになるかを検証するために、この章では、各種

指標が、婚姻行動とどれほど関係があるかどうかを検証していく。 そのために、有業率、初任給、大卒就職率と婚姻率との相関関係をそれぞれ見ていくこ

ととした。婚姻行動の高低を示す指標として婚姻率をつかう。また、社会全体での職を持

つことと、婚姻行動との関係性を調べるために有業率を、若年の就職状況と婚姻行動との

関係を調べるために大卒就職率を、所得水準を示す指標として初任給をつかう。 ここでは、都道府県別、男女別のデータを使い、都道府県ごとのデータをプロットして

いくことにより、相関関係をみていく。 婚姻率は、都道府県別に婚姻件数/人口総数により計算されたものである。婚姻件数は、

夫婦の双方またはいずれか一方が日本人であるものについて、日本において当該年次中に

届出られたものを対象とされている。これは、厚生労働省の「人口動態統計」を利用した。 大卒就職率は、都道府県別に、大学卒業者のうち就職者数/大学卒業者数で計算されたも

のである。これは、文部科学省の「学校基本調査」を利用した。 有業率は、都道府県別に有業者/人口総数により計算されたものである。有業者とは、普

段収入を得ることを目的として仕事をしており、調査日(当該年 10 月 1 日)以降もして

いくことになっている者及び仕事は持っているが、現在は休んでいる者である。なお、家

族従業者は、収入を得ていなくても、普段の状態として仕事をしていれば含まれる。これ

は、総務省の「就業構造基本調査報告」を利用した。 初任給は、都道府県別の平均初任給の額である。ただし、女子の大卒の人数が少ない都

道府県が多く、データの誤差が大きくなってしまう。そのため、男子は大卒初任給、女子

は高卒・高専卒の初任給を使った。これは、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」を利

用した。 ここでは、婚姻率と有業率は 2002 年、大卒就職率と大卒初任給・高卒初任給は 2000

年のデータを使った。大卒就職率と大卒初任給、高卒・高専卒初任給は、大卒時や就職1

年目でのデータであるため、その年のうちに結婚をする事例は少ないと考えた。よって、

すぐに婚姻率に反映されるものではないため、ここでは、2 年の時間差を設けることにし

た。有業率に該当する人は、その時点で働いているすべての年代の人が含まれるため、婚

姻率と同じ年のデータを使うことにした。 図 3~図 9 は、婚姻率と就職率、初任給、有業率との相関関係を示したグラフである。

表 1 は、相関の強さを示す相関係数である。 図 3、5、7、8 の散布図を見てみると、相関関係があるように見える。相関係数を算出

すると、大卒就職率男、大卒就職率女、有業率男、有業率女、大卒初任給男、高卒・高専

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卒初任給女ともに少ないながらも、それぞれに婚姻率との相関関係があることが分かる。

図3:婚姻率2002と大卒就職率(男)2000の関係

y = 0.0183x + 4.5402

4.00

4.50

5.00

5.50

6.00

6.50

7.00

7.50

38 43 48 53 58 63 68

大卒就職率(%)

(

)

図4:婚姻率2002と大卒就職率(女)2000の関係

y = 0.0043x + 5.2983

4.00

4.50

5.00

5.50

6.00

6.50

7.00

7.50

30 40 50 60 70 80高卒就職率(%)

婚姻率

(%

)

図5:婚姻率2002と有業率(男)2002との関係

y = 0.1018x - 1.6748

4.00

4.50

5.00

5.50

6.00

6.50

7.00

66.0 68.0 70.0 72.0 74.0 76.0有業率(%)

婚姻率

(

)

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図6:婚姻率2002と有業率(女)2002との関係

y = 0.0033x + 5.3996

4.00

4.50

5.00

5.50

6.00

6.50

7.00

40.0 45.0 50.0 55.0有業率(%)

婚姻率

(

)

図7:婚姻率2002と大卒初任給(男)2000との関係

y = 0.0353x - 1.097

4.00

4.50

5.00

5.50

6.00

6.50

7.00

160 170 180 190 200 210大卒初任給(千円)

婚姻率

(

)

図8:婚姻率2002と高卒初任給(女)2000との関係

y = 0.0265x + 1.3836

4.00

4.50

5.00

5.50

6.00

6.50

7.00

130 140 150 160 170 180

高卒初任給(千円)

婚姻率

(

)

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表 1:婚姻率との相関係数

大卒就職率男 大卒就職率女 有業率男 有業率女 大卒初任給男 高卒初任給女

相関係数 0.19711 0.05124 0.47632 0.01668 0.58505 0.43604

大卒就職率、高校・高専就職率:「学校基本調査報告」より

有業率:「就業構造基本調査報告」より

大卒初任給、高卒初任給:「賃金センサス」より

表 1 の相関係数を見ると、大卒初任給男 0.58505、高卒初任給女 0.43604 と婚姻率との

関係性が高いこと分かる。所得水準が高いほど、婚姻率が高まることが分かる。 また。有業率と大卒就職率を比べてみると、男女ともに、有業率の方が婚姻率に対する

関係が強いことが分かる。また、男女別に比べてみると、婚姻に対する関係は、すべて男

子の指標のほうが高いことが分かる。これは、現在の日本が、男性が働き、女性が育児を

するという家庭の状況になっている場合が多いからだと考えられる。 しかし、これは、1 時点でのデータであり、婚姻率との 1 対 1 との関係でしかない。そ

れぞれの影響がどれほどあるかをより詳しく調べるために、次節では重回帰分析をするこ

ととした。

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第 2 節:仮説の検証② 婚姻率に対する影響度の検証 前述のデータを利用し、重回帰分析をおこなう。 婚姻率=a+b大卒就職率男+c大卒就職率女+d実質初任給男+e実質初任給女+f有業

率男+g 有業率女+h 沖縄ダミー+i 都市部ダミー+j1997 ダミー+k1992 ダミー+u ここでは、より精度をあげるために、データの年次を増やすことにした。 婚姻率には、2002 年、1997 年、1992 年の 3 時点のデータを用いた。そして、有業率、

大卒就職率、初任給は婚姻率に与える影響の時間的ラグを考慮し、婚姻率が 2002 年に対

し、有業率 2002 年、大卒就職率 2000 年、初任給 2000 年のデータを用い、婚姻率 1997年に対し、有業率 1997 年、大卒就職率 1995 年、初任給 1995 年のデータを用い、婚姻率

1992 年に対し、有業率 1992 年、大卒就職率 1990 年、初任給 1990 年のデータを用いて

分析した。 また、年次による差異があるかどうか調べるために、婚姻率 1997 年に対応するデータ

を 1、その他を 0 とする「1997 年ダミー変数」、婚姻率 1992 年に対応するデータを 1、その他を 0 とする「1992 年ダミー変数」を加えて分析することとした。

さらに、都道府県による影響をみるために、ダミー変数をつくることにした。沖縄は、

図 3~8 の散布図を描いたときに、明らかに他都道府県と違う動きを見せていいたため、

沖縄に対応するデータを 1、その他を 0 とする「沖縄ダミー変数」をつくった。 また、東京、名古屋、大阪といった都市は人口の流入が他都道府県よりも高いため、固

有の婚姻関係に対する影響があると考えた。それを検証するために、東京、名古屋、大阪

に対応するデータを 1、その他を 0 とする「都市部ダミー変数」をつくった。 それらも加えて分析することにした。 初任給のデータは、年次による物価の差を考慮するために、GDP デフレーターを使っ

て、実質化することにした。「国民経済白書」(内閣府)により発表されている 1995 年基準

のデータを使った。GDP デフレーターは、1990 年が 95.2、1995 年は 100、2000 年は 96.1であった。

この分析では最小二乗法を用いている。婚姻率は 0 から 1 の範囲の値であるため、以下

の変換をおこなった。婚姻率を a とした場合、変換後婚姻率=α/(1-α)と計算した。 分析に使用した統計資料は、以下のとおりである。 ・ 婚姻率:「人口動態統計」(厚生労働省) ・ 大卒就職率:「学校基本調査」(文部科学省) ・ 大卒初任給男、高卒・高専卒初任給女:「賃金構造基本統計調査」(厚生労働省) ・ 有業率:「就業構造基本調査報告」(総務省) これをエクセルの分析ツール、回帰分析を利用して、分析した。 分析結果は表 2~4 のとおりである。

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表 2:表回帰統計

重相関 R 0.880977

重決定 R2 0.776121

補正 R2 0.758900

標準誤差 0.003329

観測数 141

表 3:分散分析表

自由度 変動 分散 観測された分散比 有意 F

回帰 10 0.004993 0.000499 45.067137 0.000000

残差 130 0.001440 0.000011

合計 140 0.006434

表 2 の「重決定 R2」をみると、0.776121 である。これは、1 に近いほど、重回帰分析

の説明力が高いといわれている。このため、この重回帰分析の精度が高いことが分かる。 次に、各種指標について、細かく見ていく。表 4 の P-値を見る。この値は、0.1 以下で

有意といわれている。赤字がその条件を満たしたものである。これを見ると、大卒就職率

女 1.514173 以外は条件満たしていることが分かる。

表 4:各種指標と婚姻率との関係

係数 標準誤差 t P-値 下限 95% 上限 95%

切片 -0.060805 0.009857 -6.168553 0.000000 -0.080306 -0.041303

大卒就職率男 0.000060 0.000034 1.747095 0.082982 -0.000008 0.000128

大卒就職率女 0.000081 0.000054 1.514173 0.132409 -0.000025 0.000188

実質初任給男 0.000223 0.000060 3.708244 0.000308 0.000104 0.000342

実質初任給女 0.000197 0.000059 3.335271 0.001111 0.000080 0.000313

有業率男 0.000828 0.000204 4.066099 0.000082 0.000425 0.001231

有業率女 -0.000505 0.000129 -3.925843 0.000139 -0.000760 -0.000251

沖縄ダミー 0.021602 0.002510 8.607281 0.000000 0.016637 0.026567

都市部ダミー 0.006271 0.001287 4.873160 0.000003 0.003725 0.008817

1997 ダミー 0.004062 0.001475 2.754705 0.006717 0.001145 0.006980

1992 ダミー 0.007749 0.002698 2.872109 0.004763 0.002411 0.013086

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また、表 4 の t 値を見てみる。この値は、絶対値が 2.5 以上で有意であるといわれている。

つまり、係数が 0 であるという仮説を棄却する。赤字がその条件を満たしたものである。

大学就職率男 1.747095、大卒就職率女 1.514173 以外は条件を満たしていることが分かる。 このことを考慮に入れて、表 4 の係数をみる。これは、前述した変換後婚姻率に対する

各種指標の影響度がわかる値である。しかし、これは、あくまで変換後の婚姻率に対する

影響度であるため、婚姻率自体に対する影響度ではない。 そこで、この値を婚姻率自体に対する影響度に計算しなおす。変換後婚姻率に対する影

響度をxとしたとき、婚姻率に対する影響度=x/(1+x)により算出する。算出結果が、表

5~7 である。また、視覚的に比較できるように、グラフ化したものが図 9~11 である。

表 5:婚姻率に対する説明変数の影響度 1

係数

大卒就職率男 0.006016301

大卒就職率女 0.008137957

有業率男 0.082740634

有業率女 -0.050562521

図9:婚姻率に対する説明変数の影響度

-0.06

-0.04

-0.02

0

0.02

0.04

0.06

0.08

大卒就職率男

大卒就職率女

有業率男

有業率女

項目

影響度

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表 6:婚姻率に対する説明変数の影響度 2

係数

実質初任給男 0.022305832

実質初任給女 0.019657167

表 7:婚姻率に対するダミー変数の影響度

係数

沖縄ダミー 2.11453689

都市部ダミー 0.623189173

1997 ダミー 0.40457392

1992 ダミー 0.768907122

図11:婚姻率に対するダミー変数の影響度

0

0.5

1

1.5

2

2.5

沖縄ダミー 都市部ダミー 1997ダミー 1992ダミー

項目

影響度

図10:婚姻率に対する説明変数の影響度

0

0.005

0.01

0.015

0.02

実質初任給男 実質初任給女項目

影響度

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第 3 章:分析結果に対する考察 第 1 節:婚姻率に対する説明変数の影響度 まず、婚姻率に対する説明変数の影響度から、見ていく。 ここで、最も影響度が高いものは有業率男 0.082740634 である。前述したとおり、有

業率は、都道府県別に有業者/人口総数により計算されたものである。有業者とは、普段収

入を得ることを目的として仕事をしている者及び仕事は持っているが、現在は休んでいる

者のことである。つまり、有業率男は、男性の人口総数の中で、職を持っている男性の割

合のことである。職を持ち、賃金を得ることが、婚姻に対し強く正の影響を与えることが

分かる。 ただし、有業率女を見てみると、婚姻率に対し、-0.050562521 と強い負の影響を持っ

ていることが分かる。この男女間の差は、男性が仕事をし、家計を支え、女性が育児や家

事、介護を行うという、日本の家庭状況を反映しているものであると考えられるのではな

いだろうか。 図 12 は、配属関係の有無別に見た、女性の就業機会である。これをみると、有業率、

フルタイム就業率ともに、配属関係の有無により大きな開きがあることが分かる。配属関

係がある、つまり夫がいる女性の方が働く率が低くなっている。特に、25 歳~39 歳の間

で差は大きくなっている。これは、女性が結婚や出産をする時期と重なっている。フルタ

イム就労者が少ないことは、女性が家計全体を支える場合が少ないことが分かる。 有業率は、雇用や所得の安定を示す指標である。男性が家計を支える場合が多いことか

ら、男性の有業率は、家計の安定を示すと考えられる。そのため、安定した家計を保てる

ほど、婚姻率があがることが分かる。 また、女性の有業率が高いことが婚姻率に影響するルートとしては 2 つ考えられる。1 つめ

は、女性の有業率が高いということは、結婚して仕事を辞めなければいけないことが多い

ような社会環境の下では、婚姻の機会費用が高いということになり、婚姻率に負の影響を

与えると考えられる。2 つめは、特に夫婦の場合、女性の就業は、男性(夫)の所得補助的

な意味合いが強い場合がある。つまり、女性の有業率が高いということは、男性の雇用や

所得の状況がよくないということで、このため、婚姻率と負の関係が観察されると考えら

れる。 また、図 13 を見てみる。これは、結婚している夫婦の男女別の家事時間を示したもの

である。女性は、勤めているかどうかに関わらず、男性よりも家事をすることが多いこと

が分かる。図 12 は、1987 年と 1997 年を比較したものであり、図 13 は、1990 年と 2000年を比較したものである。両者とも、10 年の時間差がある。値にずれはあるものの、男

女間の差が、同様に存在していることが分かる。女性が家計を支える場合が少なく、家事

をする場合が多いため、女性が働くためには、家事を他に依存する必要が出てくる。例え

ば、託児所などである。このため、そのような費用がかけられない場合、仕事を辞めるか、

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自分で家事をする必要が出てくる。どちらにしても、費用がかかる。

図 12:配属関係により格差のある女性のフルタイム就業機会

「平成 13 年度国民生活白書」より

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図 13:夫婦間の家事時間の差

「平成 13 年度国民生活白書」より

次に初任給についてみていく。表 5 をみると、婚姻率に対する影響度は、実質大卒初任

給男 0.022305832、実質高卒・高専卒初任給女 0.019657167 となっている。初任給は、所

得水準を示す指標であるため、所得水準が高いほど、婚姻率が高くなることが分かる。た

だし、初任給の額の単位は千円であるため、ここで出された値は、千円に対する変化の影

響度である。所得水準は、景気によっても左右される。そのため、景気がよい時に、就職

した人のほうが結婚をしやすいことを示しているとも考えられる。この点は、年次ダミー

の考察の際に詳しく見ていく。 大卒就職率との関係をみる。表 5 を見て分かるとおり、婚姻率に対する影響度は低いこ

とが分かる。しかし、正の影響はある。 図 14 を見ると、新卒時の雇用形態がその後も影響することが分かる。新卒時に、正社員

として雇用されたものは、半数以上が、その後も正社員として雇用され、新卒時にフリー

ターだったものは、その後も半数以上がフリーターであることが分かる。重回帰分析で用

いた大卒就職率の中には、アルバイトやフリーターとして雇用された人は含まれていない。

そのために、新卒時の就職率、つまり、大学卒業者の正社員として雇用される就職率が、

婚姻率へ影響していると考えられる。以下では、大学卒業者の正社員として雇用される就

職率を大卒の就職率と呼ぶ。

雇用促進と婚姻率について 033124 黒葛原未紗

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さらに、転職がしにくいことも大卒の就職率が婚姻率に対して影響をもつ理由だと考え

られる。特に、アルバイトから正社員への転職は難しい。図 15 を見ると、正社員から正社

員への転職や、パート・アルバイトからパート・アルバイトへの転職は比較的しやすいが、

雇用形態を越えるような正社員からパート・アルバイトや、パート・アルバイトから正社

員への転職が少ないことが分かる。正社員の転職は、転職先への希望が高く、パート・ア

ルバイトへの転職を希望しないことが多いため、この形の転職は少ないが、パート・アル

バイトから正社員への転職は難しいといわれている。これは、パート・アルバイトつまり、

フリーターの雇用に消極的である企業があるためである。これは、図 16 を見ると明らかで

ある。企業が雇用するかどうかを決める際に、フリーターであったことをマイナス評価す

る企業が 30 パーセントを超えている。マイナス評価の理由を見ても、精神面を理由とされ

ているため、フリーターの就職が、いかに困難かが分かる。 そのため、大学卒業後の雇用形態が正社員ではなく、パートやアルバイトとして働く場

合、その後正社員になりたくても、難しいという状況があるのである。前述の婚姻率に対

する有業率の影響のとおり、職を持つことは、婚姻率へ影響する。そのため、大学卒業時

に、フリーターやアルバイトではなく、正社員として就職することが、その後の雇用体系

に影響し、さらには婚姻率へ影響すると考えられる。 つまり、フリーターとして就職すると、所得水準も低く、雇用も不安定、また、正社員

への転職も難しく、所得水準が低いまま、雇用も不安定のままであるため、これがますま

す結婚できない状況を生んでいると考えられる。

図 14:新卒時の雇用形態とその後の雇用形態

「平成 15 年国民生活白」

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図 15:雇用形態別の転職割合

「平成 15 年国民生活白書」より

図 16:企業のフリーターに対する評価とマイナス評価の理由

「平成 15 年度国民生活白書」より

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第 2 節:婚姻率に対するダミー変数の影響度 ここでは、婚姻率に対するダミー変数の影響度について見ていく。 まずは、沖縄ダミー変数についてみる。沖縄ダミー変数 2.11453689 は、沖縄が、他の県

と比べて、沖縄固有の理由で婚姻率が 2.11453689 高いことを示したものである。 表 8~9 は、沖縄の特性を示したものである。沖縄が都道府県別順位の 1 位である指標と

47 位である指標を並べたものである。 これをみると、出生率や合計特殊出生率など、人口増加に関わる指標が全国と比べてか

なり高いことが分かる。しかしながら、無業率や完全失業率など、生活の安定に関わるも

のに対する数値はかなり悪いことも分かる。これは、他の都道府県と比較しても、特異な

ことである。なぜ、所得が少ないにもかかわらず、人口増加に対する指標は高い数値なの

だろうか。 表 8 を見てみると、進学率(高等学校)、進学率(大学)が低いことが分かる。また、物価水

準や、金融機関預貯蓄残高(一人当り)も低い。収入が少ない分、支出が他の都道府県と

比べて、抑えられていることが分かる。 これらの、沖縄特有の環境が、婚姻率に対する影響を大きくした理由だと考えられる。

表 8:沖縄の全国 1 位の指標 指 標 数 値 全国値

人口増加率 0.76% 0.14%

自然増加人数(千人当) 6.00 人 0.91 人

出生率(千人当) 12.15 人 8.91 人

合計特殊出生率 1.72 1.29

年少人口割合(0~14 歳/総人口) 18.98% 14.03%

無業者率(高校卒) 28.11% 10.32%

無業者率(大学卒) 42.66% 22.51%

転職率(対有業者比) 6.07% 5.12%

完全失業率 7.80% 5.30%

0歳時平均余命(女) 86.01 年 84.62 年

100歳以上人口割合 42.50 人 16.13 人

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表 9:沖縄の全国 47 位の指標 指 標 数 値 全国値

死亡率(千人当たり) 6.29 人 8.05 人

県民所得(一人当たり県民所得) 2,057 千円 2,971 千円

金融機関預貯蓄残高(一人当り) 385 万円 786 万円

新規学卒者就職率(高校卒) 60.80% 86.70%

新規卒業者初任給(高卒・男子) 128.0 千円 153.6 千円

新規卒業者初任給(高卒・女子) 118.0 千円 143.5 千円

新規卒業者初任給(大卒・男子) 165.3 千円 190.1 千円

新規卒業者初任給(高専短大卒・女子) 136.4 千円 159.2 千円

物価水準 97 100

可処分所得(1世帯当) 336,421 円 454,186 円

進学率(高等学校) 94.90% 97.30%

進学率(大学) 30.20% 44.60%

老年化指数 81.64 135.78

高齢者就業者割合 16.54% 22.01%

平均年齢 37.5 歳 41.4 歳

「100 の指標からみた沖縄の姿 平成 16 年 7 月」より抜粋(沖縄統計課HP)

次に、都市部ダミー変数について見ていく。都市部ダミー変数 0.623189173 は、東京・

大阪・名古屋が他の県と比べて、固有の理由で婚姻率が 0.623189173 高いということであ

る。日本の 3 大都市であるため、人口が多いだけではなく、人口の流入が多い場所である。

そのため、婚姻率が高くなっていると考えられる。 年次ダミー変数について見ていく。年次ダミーは 2002 年を基準として、1997 年と 1992

年に婚姻率への固有の影響があるかどうかを示したものである。2002 年に比べて、1997

年は 0.40457392、1992 年は 0.768907122 婚姻率に対する影響が高いことが分かる。前節

でも述べ通り、景気と婚姻率との間には関係性があると考えられる。 図 17 を見てみる。これは、表 10 のデータをグラフ化したものである。日経平均株価は

1992 年、1997 年、2002 年と年次が進むにしたがって、低くなっている。年次ダミー変数

は、2002 年を基準としている。そのため、表 7 と、このことを考慮して考えると、年次ダ

ミー変数による婚姻率に対する影響も 1992 年 1997 年、2002 年へと年次が進むにつれて低

くなっている。 よって、景気動向と婚姻率との影響があることが分かる。

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表 10:日経平均株価

年 始値 高値 安値 終値

1991 24,069.18 27,146.91 21,456.76 22,983.77

1992 23,801.18 23,801.18 14,309.41 16,924.95

1993 16,994.08 21,148.11 16,078.71 17,417.24

1994 17,369.74 21,552.81 17,369.74 19,723.06

1995 19,684.04 20,011.76 14,485.41 19,868.15

1996 20,618.00 22,666.80 19,161.71 19,361.35

1997 19,446.00 20,681.07 14,775.22 15,258.74

1998 14,956.84 17,264.34 12,879.97 13,842.17

1999 13,415.89 18,934.34 13,232.74 18,934.34

2000 19,002.86 20,833.21 13,423.21 13,785.69

2001 13,691.49 14,529.41 9,504.41 10,542.62

2002 10,871.49 11,979.85 8,303.39 8,578.95

2003 8,713.33 11,161.71 7,607.88 10,676.64

2004 10,825.17 12,163.89 10,365.40 11,488.76

2005 11,517.75 16,344.20 10,825.39 16,111.43

2006 16,361.54 17,563.37 14,218.60 17,011.04

日本経済新聞HPより引用

図17:日経平均株価の推移

0.00

5,000.00

10,000.00

15,000.00

20,000.00

25,000.00

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

終値

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第4章:雇用促進と婚姻率について これまでの検証により、各種指標と婚姻率とに関係があることが分かった。 つまり、婚姻率が上がるためには、所得水準が高く、新卒就職率、有業率が高い必要が

ある。したがって、婚姻率の上昇には、景気を安定させ、雇用や所得を保障することが非

常に重要である。 本稿の目的は、職を持つことが、本当に婚姻行動につながることになるかを検証してい

くことであった。就職率や有業率が婚姻行動に正の影響を示しているため、この仮説は正

しいと考えられる。 第 1 章により述べたとおり、少子化社会対策大綱の具体的実施計画(子ども・子育て応援

プラン)により、新たな少子化対策に対する支援として、若年者に対する自立支援をするこ

とが目標とされた施策が掲げられた。 その具体的な内容は、「平成 17 年度版 少子化社会白書」によると、若者が意欲をもっ

て就業し、経済的にも自立できるよう、「職業体験を通じた初等中等教育段階におけるキャ

リア教育の推進」、「若年者のためのワンストップサービスセンター(ジョブカフェ)にお

ける支援の推進」等の施策である。また、中でも、「若年者試行雇用の活用」については、

常用雇用移行率を 80%にするという目標(2006(平成 18)年度までの目標)を掲げている。

これらの施策を総合的に実施することで、フリーターや若年失業者、無業者それぞれにつ

いて、低下を示すような状況を目指すとしている。 これまでの検証により、この施策が成功し、フリーターや若年失業者、無業者が低下し、

有業者や新規就職者が増えたのなら、婚姻率の増加につながることが考えられる。 ただし、女性の有業率と婚姻率とが負の関係であることから、今後も女性が働くことを

希望する社会であるのなら、家事や子育てなど、女性の就業の壁となるものに対する支援

をすることにより、結婚がしやすい環境づくりをする必要があると考えられる。 本稿は、平成 18 年度の 12 月に書いたものである。3 ヵ月後の婚姻率が、増加している

ことを期待したい。

雇用促進と婚姻率について 033124 黒葛原未紗

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参考文献・資料 厚生労働省 (2002、1997、1992)「人口動態統計」 厚生労働省 (2001、1998、1991)「賃金構造基本統計調査」

文部科学省 (2000、1997、1992)「学校基本調査」 総務省統計局 (2002、1997、1992)「就業構造基本調査報告」 参考ホームページ 日本経済新聞社 NIKKEI NET 「日経平均プロフィル」 http://www.nikkei.co.jp/nkave/ 厚生労働省 「平成 17 年度版 少子化社会白書」 http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2005/17WebHonpen/index.html 内閣府 「平成 13 年度国民生活白書」 http://www5.cao.go.jp/j-j/wp-pl/wp-pl01/index.html 内閣府 「平成 15 年度国民生活白書」 http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h15/honbun/index.html

沖縄統計課 「100 の指標から見た沖縄の姿」 http://www.pref.okinawa.jp/toukeika/100/2004/100.html