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全微分の定義と計算
黒田紘敏
理学研究院数学部門
2020年 7月 13日
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 1 / 28
目次
目的全微分の定義と意味を理解し,具体的な関数の全微分が計算できる.1変数関数の微分と多変数関数の全微分の関係を把握し,全微分を利用した 1次近似計算ができる.
Contents1 全微分可能性
1 定義,連続性との関係2 偏微分係数との関係3 全微分と接平面
2 全微分を用いた計算例1 全微分可能性の判定例2 全微分可能であるための便利な十分条件3 全微分や接平面の計算例4 1次近似計算
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 2 / 28
微分法の気持ち
関数 y = f (x)のグラフは曲線で,その 1次近似は直線(接線)である.
Figure:接線 Figure:接平面
2変数関数 z = f (x, y)のグラフは曲面であり,その “まっすぐなものによる近似”は平面になるだろう.例えば地球は丸いが,地面に立って周りを見回しても地球の大きさに対してごく局所的な範囲しか見えないため平面に感じる.これを数学的に定式化したい. 平面の方程式は 1次方程式で表されていたから,確かに 1次近似と呼ぶにふさわしそうに感じる.この平面が後で定義する接平面である.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 3 / 28
(Section 1-1)全微分可能性
前回の講義で述べたように,偏微分は 1変数関数の微分の多変数関数版に相当する概念ではない.1変数関数 f (x)の x = aでの微分係数 f ′(a)の定義を思い出すと,平均変化率の極限
f ′(a) = limh→0
f (a + h) − f (a)h
であった.しかし,この式のままでは 2変数の式にすることは難しい.
そこで,上の式を
limh→0
f (a + h) − f (a) − f ′(a)hh
= 0
とみれば,微分係数 f ′(a)とは f (a + h) − f (a) − mhが h → 0のとき hよりも速く 0に収束するような実数 mのことであり,このときの直線y = f (a) + f ′(a)(x − a)を曲線 y = f (x)の点 (a, f (a))における接線というのであった.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 4 / 28
(Section 1-1)全微分可能性
このことから,2変数関数 f (x, y)が点 (a, b)で “微分可能である”とは,曲面 z = f (x, y)が点 (a, b)の十分近くではある平面で近似できるという定義が微分法の目的からも妥当である.また,点 (a, b, f (a, b))を通る平面の方程式は αと βを実数として
z = f (a, b) + α(x − a) + β(y − b)
と x, yの 1次式で表される.
さらに,点 (a, b)からの変位を h⃗ = (x − a, y − b) = (h, k)とおくときの『h⃗ → 0⃗のとき h⃗よりも速く 0に収束する』とは,長さを考えて h⃗を|h⃗| =
√h2 + k2 と置き換えれば,分母にもってきても問題がない.そこで
f (a + h, b + k) − f (a, b) − αh − βk
が (h, k) → (0, 0)のとき√
h2 + k2 よりも速く 0に収束するという条件をみたす実数 αと βが存在するとき,微分可能であると定義する.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 5 / 28
(Section 1-1)全微分可能性
Definition (全微分可能)点 (a, b)の近傍で定義された関数 f (x, y)に対して
lim(h,k)→(0,0)
f (a + h, b + k) − f (a, b) − αh − βk√
h2 + k2= 0
となる実数 αと βが存在するとき, f (x, y)は点 (a, b)で全微分可能であるという.
f (x, y)が点 (a, b)で全微分可能とは,1次式 f (a, b) + α(x − a) + β(y − b)とのずれ
ε(h, k) = f (a + h, b + k) − f (a, b) − αh − βk
が,(h, k) → (0, 0)のとき√
h2 + k2 よりも速く 0に収束するような実数α, βが存在することである.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 6 / 28
(Section 1-1)全微分可能性と連続性
Theorem (全微分可能な関数の連続性)関数 f (x, y)が点 (a, b)で全微分可能ならば連続である.
証明f (x, y)は点 (a, b)で全微分可能なので,その定義での実数 α, βに対して
ε(h, k) = f (a + h, b + k) − f (a, b) − αh − βk, lim(h,k)→(0,0)
ε(h, k)√
h2 + k2= 0
とおけば, lim(h,k)→(0,0)
ε(h, k) = 0である.よって
lim(h,k)→(0,0)
f (a + h, b + k) = lim(h,k)→(0,0)
{ f (a, b) + αh + βk + ε(h, k)} = f (a, b)となる.これは lim
(x,y)→(a,b)f (x, y) = f (a, b)を意味するから, f (x, y)は点
(a, b)で連続である.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 7 / 28
(Section 1-2)全微分可能性と偏微分係数
疑問f (x, y)が点 (a, b)で全微分可能であるためには,適切な αと βを選べば
lim(h,k)→(0,0)
f (a + h, b + k) − f (a, b) − αh − βk√
h2 + k2= 0
となることを示す必要がある.αと βはどのように見つければよいか?
上の αは曲面 z = f (x, y)を近似する平面の方程式
z = f (a, b) + α(x − a) + β(y − b)
における xの係数である.つまり,αは “平面の x方向の傾き”である.
この x方向の傾きとは,曲面を平面 y = bで切って xに関する変化を調べた際の曲線 z = f (x, b)の x = aでの接線の傾きのことだから,α = fx(a, b)と予想される.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 8 / 28
(Section 1-2)全微分可能性と偏微分係数
Theorem (全微分可能性と偏微分係数)関数 f (x, y)が点 (a, b)で全微分可能ならば偏微分可能である.さらに,定義に現れる α, βについて,α = fx(a, b), β = fy(a, b)が成り立つ.
証明f (x, y)は点 (a, b)で全微分可能なので,その定義での実数 α, βに対して
lim(h,k)→(0,0)
∣∣∣∣∣∣∣ f (a + h, b + k) − f (a, b) − αh − βk√h2 + k2∣∣∣∣∣∣∣ = 0
が成り立つ.特に h(t) = t, k(t) = 0として t → 0とすれば
limt→0
∣∣∣∣∣∣ f (a + t, b) − f (a, b) − αtt∣∣∣∣∣∣ = limt→0
∣∣∣∣∣∣ f (a + t, b) − f (a, b)t − α∣∣∣∣∣∣ = 0
が成り立つ.ゆえに, f (x, y)は点 (a, b)で xに関して偏微分可能で,α = fx(a, b)が成り立つ.β = fy(a, b)についても同様である.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 9 / 28
(Section 1-2)全微分可能性のまとめ
関数 f (x, y)が点 (a, b)で全微分可能であるかどうか判断するには,まず点 (a, b)で偏微分可能であることを確認し,次に
lim(h,k)→(0,0)
f (a + h, b + k) − f (a, b) − fx(a, b)h − fy(a, b)k√
h2 + k2= 0
が成り立つかどうかを調べればよい.
これは, f (x, y)が点 (a, b)で全微分可能ならば,|h|と |k|が十分小さければ
f (a + h, b + k) ≒ f (a, b) + fx(a, b)h + fy(a, b)kと 1次近似できることを表している.気分としては hと kの 2次以上の項(h2, hk, k2, h3, h2 k, . . .)を無視している(一般には誤差が |h|3/2 のようにべき乗関数の可能性はある).
もし正確な誤差評価が必要ならば,多変数関数での Taylorの定理を適用すればよい(次週以降の内容).
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 10 / 28
(Section 1-3)全微分
関数 f (x, y)が点 (a, b)で全微分可能であるとはその点の周りで 1次近似できることとわかった.つまり,|∆x|と |∆y|が十分小さければ, f の微小変化量 ∆ f は
∆ f = f (a + ∆x, b + ∆y) − f (a, b) ≒ fx(a, b)∆x + fy(a, b)∆y
と表せる.これをもとに(ある意味では極限をとって ≒を =にした)全微分を以下のように定義する.
Definition (全微分)領域 D上で定義された関数 f (x, y)が Dのすべての点で全微分可能であるとき, f は Dで全微分可能であるといい
d f = fx(x, y) dx + fy(x, y) dy
を f (x, y)の全微分という.
全微分の式は “ f の微小変化量は xの微小変化量と yの微小変化量の 1次式で近似できて,それぞれの係数は偏微分がくる”と読めばよい.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 11 / 28
(Section 1-3)接平面
関数 f (x, y)が点 (a, b)で全微分可能であるとはその点の周りで 1次近似できること,言い換えれば曲面 z = f (x, y)が点 (a, b, f (a, b))の周りで平面で近似できることであった.その平面の方程式もすでにわかっているから,接平面を以下のように定義する.
Definition (接平面)関数 f (x, y)は点 (a, b)で全微分可能とする.このとき,平面
z = f (a, b) + fx(a, b)(x − a) + fy(a, b)(y − b)
を曲面 z = f (x, y)の点 (a, b, f (a, b))における接平面という.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 12 / 28
(Section 2-1)全微分可能性の判定例
例題次の関数は原点 (0, 0)で全微分可能かどうか調べよ.
f (x, y) =
(x2 − x + y + 1)x2 − (y2 + x − y − 1)y2
x2 + y2((x, y) , (0, 0))
1 ((x, y) = (0, 0))
解答 (Part 1)まず偏微分可能か調べると
limh→0
f (0 + h, 0) − f (0, 0)h
= limh→0
(h2 − h + 1) − 1h
= limh→0
(h − 1) = −1
limk→0
f (0, 0 + k) − f (0, 0)k
= limk→0
−(k2 − k − 1) − 1k
= limk→0
(−k + 1) = 1
である.よって,(0, 0)で偏微分可能で fx(0, 0) = −1, fy(0, 0) = 1となる.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 13 / 28
(Section 2-1)全微分可能性の判定例
解答 (Part 2) f (x, y)が (0, 0)で全微分可能であるか調べるには
ε(h, k) = f (0 + h, 0 + k) − f (0, 0) − fx(0, 0)h − fy(0, 0)k =h4 − k4
h2 + k2
とおくとき, lim(h,k)→(0,0)
ε(h, k)√
h2 + k2= 0であるかどうかを計算すればよい.
r =√
h2 + k2 とおけば,|h| ≦ r, |k| ≦ rなので,(h, k) , (0, 0)のとき∣∣∣∣∣∣∣ ε(h, k)√h2 + k2∣∣∣∣∣∣∣ =
∣∣∣∣∣∣ h4 − k4(h2 + k2)3/2∣∣∣∣∣∣ ≦ |h|4 + |k|4r3 ≦ r
4 + r4
r3= 2r
r→+0−−−−−→ 0
より, lim(h,k)→(0,0)
ε(h, k)√
h2 + k2= 0であるから,(0, 0)で全微分可能である.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 14 / 28
(Section 2-2)全微分可能であることの十分条件
一般に定義から全微分可能性を判定するのは大変である.そこで,多くの場合に有用である簡単な判定法を紹介する.
Theorem (C1級関数の全微分可能性)関数 f (x, y)が領域 Dで C1級ならば全微分可能である.
証明 (Part 1)
f (x, y)は C1級だから偏微分可能である.よって,任意の (x, y) ∈ Dに対して
ε(h, k) = f (x + h, y + k) − f (x, y) − fx(x, y)h − fy(x, y)k
とおくとき
lim(h,k)→(0,0)
ε(h, k)√
h2 + k2= 0
が成り立つことを示せばよい.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 15 / 28
(Section 2-2)全微分可能であることの十分条件
証明 (Part 2) そこで,ε(h, k)に平均値の定理を 2回適用すると,ある 0 < θ1 < 1と0 < θ2 < 1が存在して
ε(h, k) = { f (x + h, y + k) − f (x, y + k)} + { f (x, y + k) − f (x, y)}− fx(x, y)h − fy(x, y)k
= fx(x + θ1h, y + k)h + fy(x, y + θ2 k)k − fx(x, y)h − fy(x, y)k= { fx(x + θ1h, y + k) − fx(x, y)}h + { fy(x, y + θ2 k) − fy(x, y)}k= ε1(h, k)h + ε2(h, k)k
と変形できる.ここで,0 < θ j < 1と fx(x, y), fy(x, y)の連続性より
lim(h,k)→(0,0)
ε1(h, k) = 0, lim(h,k)→(0,0)
ε2(h, k) = 0
が成り立つ.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 16 / 28
(Section 2-2)全微分可能であることの十分条件
証明 (Part 3)
(h, k) , (0, 0)のとき,r =√
h2 + k2 とおけば,|h| ≦ r, |k| ≦ rより∣∣∣∣∣∣∣ ε(h, k)√h2 + k2∣∣∣∣∣∣∣ = |ε1(h, k)h + ε2(h, k)|r≦ |ε1(h, k)| ·
|h|r+ |ε2(h, k)| ·
|k|r
≦ |ε1(h, k)| + |ε2(h, k)| −→ 0((h, k) → (0, 0))
となる.ゆえに,はさみうち法より lim(h,k)→(0,0)
ε(h, k)√
h2 + k2= 0が成り立つ
から, f (x, y)は点 (x, y)で全微分可能である.
点 (x, y) ∈ Dは任意だったので, f (x, y)は D上で全微分可能である.
偏導関数が連続ならば全微分可能であることがこれで証明できた.黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 17 / 28
(Section 2-2)関数の性質まとめ
ここまでの定理から次がわかる.
Theorem (C1級関数の連続性)関数 f (x, y)が領域 Dで C1級ならば連続関数である.
証明
f (x, y)は C1級だから全微分可能なので,連続関数である.
多変数関数の性質として,領域 D上で連続
偏微分可能
全微分可能
C1級を説明した.これらの関係について整理しておくこと.理論をきちんと確認しておけば,応用の際に確認しなければならない条件を簡略化できる.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 18 / 28
(Section 2-3)全微分の計算例
例題
関数 f (x, y) = log√
x2 + y2 の全微分を求めよ.
解答
f (x, y)は定義域において C1級だから全微分可能である(普通は省略).偏導関数は
fx(x, y) =x
x2 + y2, fy(x, y) =
y
x2 + y2
なので,全微分は
d f =x
x2 + y2dx +
y
x2 + y2dy
答えは d f =x dx + y dy
x2 + y2の形でもよい.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 19 / 28
(Section 2-3)接平面の計算例
例題
曲面 z = x2 − xy + y3 の点 A(2, 1, 3)における接平面の方程式を求めよ.
解答
f (x, y)は R2 でC1級だから全微分可能である(普通は省略).偏導関数は
zx = 2x − y, zy = −x + 3y2
より,(x, y) = (2, 1)のとき zx = 3, zy = 1である.よって,求める接平面の方程式は
z = 3 + 3(x − 2) + 1(y − 1) = 3x + y − 4
答えは 3x + y − z = 4や 3x + y − z − 4 = 0などの形でもよい.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 20 / 28
(Section 2-4-1)全微分による近似計算
例題C = 90◦ の直角三角形 ABCがある.簡易計測では 2辺 ACと BCの長さがそれぞれ 3mと 4mであったので AB = 5mと判断した.しかし,実際に精密な計測を行ったところそれぞれの辺の長さは 3.02mと 3.99mであった.このとき,ABの長さと 5mとの誤差はどの程度か?
つまり √(3.02)2 + (3.99)2 − 5
はおよそいくらかを調べたい.電卓などを使わずに手計算で概算するにはどうすればよいか?
x = AC, y = BC, z = ABとおけば
z = z(x, y) =√
x2 + y2
であるから,この全微分を利用して 1次近似計算をしてみる.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 21 / 28
(Section 2-4-1)全微分による近似計算
z = z(x, y) =√
x2 + y2 の全微分は
dz = zx dx + zy dy =x√
x2 + y2dx +
y√x2 + y2
dy
である.よって,|∆x|と |∆y|が十分小さければ
z(x + ∆x, y + ∆y) − z(x, y) ≒ x√x2 + y2
∆x +y√
x2 + y2∆y
と 1次近似できる.x = 3, ∆x = 0.02, y = 4, ∆y = −0.01とすれば
z(3 + 0.02, 4 + (−0.01)) − z(3, 4) ≒ 35· 0.02 + 4
5· (−0.01) = 0.004
より,誤差はおよそ 0.004mである.参考までに電卓で計算すると√(3.02)2 + (3.99)2 − 5 = 0.004048361077259 · · · となる.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 22 / 28
(Section 2-4-2)全微分による相対誤差評価
例題直円柱の高さ hと底面の半径 rを実測し体積 V を計算したいが,測定機器の精度として高さ hは 0.2%以内,半径 rは 0.1%以内の相対誤差が出るとする.このとき,体積 V の相対誤差はどの程度か?
つまりV = πr2h
において,rや hの誤差が V にどのように影響するかを調べたい.
用語
絶対誤差 = 測定値 −理論値 =⇒ ∆V
相対誤差 =測定値 −理論値
理論値=⇒ ∆V
V
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 23 / 28
(Section 2-4-2)全微分による相対誤差評価
V = πr2hであるから,全微分は
dV =∂V∂r
dr +∂V∂h
dh = 2πrh dr + πr2 dh
よりdVV=
2πrhV
dr +πr2
Vdh = 2
drr+
dhh
となる.よって,|∆r|と |∆h|が十分小さければ
∆VV≒ 2∆rr+∆hh
と 1次近似できるので∣∣∣∣∣∆VV∣∣∣∣∣ ≒ ∣∣∣∣∣2 ∆rr + ∆hh
∣∣∣∣∣ ≦ 2 ∣∣∣∣∣∆rr∣∣∣∣∣ + ∣∣∣∣∣∆hh
∣∣∣∣∣ ≦ 2 · 0.001 + 0.002 = 0.004となり,V の相対誤差はおよそ 0.4%以内であると見積もれる.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 24 / 28
(Section 2-4-3)全微分による相対誤差評価
例題単振り子の糸の長さを Lとし,振り子の周期を T とすれば,振れ角が小さいならば
T = 2π
√Lg
であることが知られている.これを用いて重力加速度 gの近似値を求めたい.Lと T の測定値の相対誤差がそれぞれ p%以内,q%以内であるならば,gの相対誤差はどれほどか調べよ.ただし,p, qは十分小さいとする.
与えられた公式より
g =4π2L
T2
となる.gは物理定数だが,測定誤差を含む変数だとみなして 1次近似することにより,Lと T の誤差の影響を調べる.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 25 / 28
(Section 2-4-3)全微分による相対誤差評価
g =4π2L
T2であるから,全微分は
dg =∂g∂L
dL +∂g∂T
dT =4π2
T2dL − 8π
2LT3
dT
よりdgg=
4π2
gT2dL − 8π
2LgT3
dT =dLL− 2 dT
T
となる.よって,|∆L|と |∆T|が十分小さければ∆gg≒∆LL− 2 ∆T
T
と 1次近似できるので∣∣∣∣∣∣∆gg∣∣∣∣∣∣ ≒ ∣∣∣∣∣∆LL − 2 ∆TT
∣∣∣∣∣ ≦ ∣∣∣∣∣∆LL∣∣∣∣∣ + 2 ∣∣∣∣∣∆TT
∣∣∣∣∣ ≦ p + 2q100となり,gの相対誤差はおよそ p + 2q%以内であると見積もれる.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 26 / 28
ヤコビ行列(今日は簡単な紹介だけ)
x > 0, r > 0, −π/2 < θ < π/2とすると,極座標変換は x = r cos θy = r sin θ ⇐⇒
r =√
x2 + y2
θ = Tan−1yx
と対応する.偏導関数を行列の形に並べると∂x∂r
∂x∂θ
∂y∂r
∂y∂θ
=(cos θ −r sin θsin θ r cos θ
),
∂r∂x
∂r∂y
∂θ
∂x∂θ
∂y
=
cos θ sin θ
−sin θr
cos θr
これらは互いに逆行列の関係になっている!
偏導関数を上のように並べたものをヤコビ行列という.ヤコビ行列やその行列式(ヤコビアン)は多変数関数の解析において重要な役割を果たす.具体的な計算やこれらの概念の意味の理解に線形代数学「逆行列」「行列式」の知識を用いるので,次回以降に時期を見て講義する.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 27 / 28
まとめ
今日の目標全微分の定義と意味を理解する.
具体的な関数の全微分や接平面が計算できる.
全微分の性質を理解し,1次近似計算ができる.
次回: 第 9章「3. 高階偏導関数」「4. 合成関数の微分法」「5. Taylorの定理」
今回は全微分の定義と意味を理解することが重要です.講義内で説明したように C1級関数は全微分可能なので,多くの関数は見た目で全微分可能とわかります.まずは定義を確認してからいろいろな計算例に取り組み,最後は全微分可能性の判定までできれば理想的です.
今日のメインテーマは 1変数関数の微分の概念を多変数関数へ拡張したものは全微分であることです.来週は全微分を利用して合成関数の微分法を説明し(前回説明したように,合成関数の微分法の公式は形式的に偏微分を “約分する”形ではない),高階偏導関数を説明します.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 7 月 13 日 28 / 28