1
形態素解析を用いた小学生向け語彙学習教材生成システム開発の構想 A Concept of Developing a Vocabulary Learning Material Generation System for Primary School Children using Morphological Analysis 藤川 大祐 1) ,大木 2) ,安部 朋世 1) ,高木 1) ,小山 義徳 1) Daisuke FUJIKAWA 1) , Kiyoshi OOKI 2) , Tomoyo ABE 1) , Akira TAKAKI 1) , Yoshinori OYAMA 1) 千葉大学 1) ,千葉大学教育学部附属小学校 2) Chiba University 1) , Elementary School Attached to Faculty of Education, Chiba University 2) 日本教育工学会2019年秋季全国大会 P1-1F-06 一般研究1 ポスター(P1) 2019年9月7日(土)9:30-10:40 1.はじめに 近年、自然言語の形態素解析 の技術が発達しており、教育工学研究において活用されることが多くなってい る。形態素解析は従来は質問紙調査における学習者の自由記述の分析に使われることが中心であったが、発表 者らは学習者が書いた意見に対して形態素解析を行ってワードクラウドを利用して表示し、キーワードから学 習者の意見をたどれる意見分析ツールAIAIモンキー」を開発し、道徳授業における議論において、このツー ルによって学習者が他の学習者の意見をよく読み自らの考えを再検討することが促されることの示唆を得るに 至っている(藤川 2017、図1、開発は株式会社アクティブブレインズに依頼)。 平成29年告示の小学校学習指導要領では「語彙指導」 の充実が挙げられており、小学校学習指導要領解説国 語編においては語彙の「質と量の両面」からの充実が求められている。語彙指導とはそもそも「学習者自身の 既有のことばの体系を活用して、その学習者固有の意味のネットワークに新たな変容をもたらすこと」(塚 田・池上、1998)だと考えられ、「語彙の質と量を高めるためには、ことばを使う場面こそが大事であり、個 人の語彙のネットワークに位置付けながら言葉を増やさなければならない」(鈴木、2018)とされるように、 学習者自身が有する語彙体系の構築や変容が目指されなければならない。 本研究における研究課題をなす学術的「問い」は、形態素解析の技術をいかに語彙指導に活用できるか とい うことである。すなわち、本研究は、形態素解析の技術を活用した語彙学習教材生成ツールを活用することに より、子どもが質量ともに充実した語彙学習を進めることがいかにして可能になるかを問うている。 2.本研究の目的 本研究の目的は、形態素解析の技術を活用し、任意の文章から小学生に対する語彙学習教材を自動的に生成するシ ステムを開発し、このシステムを活用した語彙学習の授業 を小学校で行って このシステムの有用性について評価を行 こととなる。 本研究において開発するシステムは、任意の現代文日本語文章を読み込み、当該文章について形態素解析を行って、 類義語のある語をマークアップし、マークアップされた語をクリックまたはタップすると類義語を表示することを基 本機能とする(「類義語比べ読み」モード )(図2、開発は株式会社アクティブブレインズに依頼)。さらに、類義語 の例文を表示する機能や、マークアップされた語を一定の割合で類義語に置き換えて表示しどの語が類義語に置き換 えられているのかを学習者が推定する「間違い探し読み」モード の実装を検討する。 このシステムを活用することにより、教師がさまざまな文章を取り上げて類義語との比較を中心とした語彙指導を 行えることはもちろん、学習者が自ら多様な文章を用いて語彙学習ができるという点で、「主体的・対話的で深い学 び」が促されると考えられる。 教育工学研究としては、形態素解析を語彙指導に活用するという点で本研究は独自性をもち、形態素解析の新たな 可能性を拓くという点で創造的であると言える。 語彙指導の研究としては、従来の語彙指導で活用されてきた「意味マップ」と比較して、形態素解析による教材作 成システムの活用によって質量ともに充実した語彙指導がなされることが期待されるという点で、独創的である。 2 開発する語彙学習教材作成システムの構成 3.本研究の計画と進捗状況 本研究は2019年度から2021年度の3年計画で実施する。 (2019年度) 語彙学習教材生成システムの開発を中心に行う。具体的には、学習者として小学校高学年 を想定し、品詞を一部に限定して、 任意の文章から語彙学習教材を生成するコンピュータシ ステムの開発 を行う。(この段階では基本機能のみを実装する。) 語彙学習教材生成システムは将来的には小学校・中学校全学年を対象とし、主な品詞すべ てに対応したものとする予定である。しかしながら、本研究においては工数を限定すること とし、ある程度の語彙を学ぶことに無理がないと考えられる小学校高学年を対象として設定 し、文脈における用法が問題になりやすい一部品詞のみを対象とすることとしたい。 (2020〜2021年度) 研究2〜3年目は1年目に開発した システムを活用した授業を実施し、このシステムの評価 を行う こととする。具体的には、本システムを使用し、小学校5年生のクラスにおいて、学 習者が自らが好む文章について、類義語と比較しながら読む「類義語比べ読み」を行ったり、 システムが類義語に置き換えた箇所を探しながら読む「間違い探し読み」を行ったりする授 業を実施し、授業観察、システムのログ、質問紙調査等によって本システムの使いやすさ、 学習者の理解度等について評価を行う。2年目に行った検証に基づきシステムを改修し(可 能であれば機能を拡充)、3年目に再び検証を行った上で成果をまとめ発表することとする。 (現状) 現在、小学校国語教育に関係する語彙の検討 を行っている。具体的には、小学校国語教科 書の教材や小学生が書いた作文について、形態素解析を行い、使用されている語彙の品詞別 一覧と登場頻度を明らかにする。 この後、類義語辞書第 1バージョンの作成画面インターフェイスの検討 を行い、ソフト ウェア第1バージョン(図3はデモ画面)を作成して、小学生対象の授業で試用する予定であ る。授業では、大木(2014)が提案している「じゃなくて読み」 (文章の中で、ある表現 でなく別の表現が使われたのはなぜかと問う読み方)を扱うことを予定している。 現状での課題としては、類義語のデータベースの構築方法 文脈に合わない類義語の扱い 授業で扱う際の発問のあり方 等がある。 本研究は、JSPS科研費JP19K03078の助成を受けたものです。 (参考文献) 藤川大祐(2017)、動画教材と意見分析ツールを活用した道徳授業プログラムの開発、千 葉大学教育学部研究紀要、66(1)、275-282 大木圭(2014)、語彙・語句を探す 学習体験ネタ、教育科学国語教育、770、10 鈴木一史(2018)、語彙学習の二側面、月刊国語教育研究、554、4-9 塚田泰彦・池上幸治(1998)、語彙指導の核心と実践的課題、明治図書 連絡先 藤川大祐 メール:[email protected] Twitter @daisukef 3 システム「ひろがれ言の葉」(仮)デモ画面 類義語リストの例(上記デモ画面に対応) 寒い:冷たい、冷淡な、冷ややかな、無情な、冷感な 棲む:住む、住まう、生息する、居住する ころげる:転ぶ、転倒する、コケる、足を滑らせる、すってんころりんする、足を滑らす、倒れる、転がる びっくりする:驚く、気が動転する、あわてる、うろたえる、取り乱す、あたふたする、泡を食う、落ち着きを失う、 てんやわんやになる、まごつく あわてふためく:大慌てになる、狼狽する、おたおたする 恐る恐る:おじおじと、こわごわと、おずおずと、おじおじと、こわごわ、おっかなびっくり とりのける:押しのける、どける、のける、外す、避ける、避難する、退ける、逃れる わけが解る:了解する、わかる、のみこむ、理解する、会得する、認識する、みとる、気づく、察知する どっさり:たっぷりと、豊富に、たくさん、多くの、いっぱい、多量に、たっぷりと、わんさか、ごまんと キラキラと:きらめいて、ぴかぴか、輝いて、ひらめいて、光り輝いて 照らす:光を当てる、照射する、スポットライトを当てる、照らし出す 眩しい:輝かしい、まばゆい 反射する:照り返す、ぴかつく、光る、照らす 柔かい:たおやかな、ふかふかした、ふにゃふにゃした、ソフトな、やさしい 駈け廻る:かけめぐる、疾走する、走って回る、かけずりまわる、走り回る、飛び回る 飛び散る:あふれ出る、噴出する、あふれ返る、ほとばしり出る すっと:つと、つうっと、とっとと、たちまち、ぱっぱと、見る間に、早く、素早く、さっと、きびきびと 物凄い:驚くべき、すさまじい、驚異的な、おどろおどろしい、どえらい、巨大な、すごい、恐ろしい、絶大な ふわーっと:そっと、ふわりと、やんわりと、ふわふわと、やさしく、ふかふかと、軽く、はらりと おっかぶさる:かぶさる、かぶる、乗っかる、見舞われる びっくりする:(上と同じ) ころがる:転ぶ、転倒する、コケる、足を滑らせる、すってんころりんする、足を滑らす、倒れる、ころげる なだれ落ちる:崩れる、壊れる、崩れゆく、崩壊する、崩落する、ぶっこわれる、砕ける こぼれる:こぼれ落ちる、ポロンと出る、滑り落ちる、ポロリと落ちる

形態素解析を用いた小学生向け語彙学習 ... · すなわち、本研究は、形態素解析の技術を活用した語彙学習教材生成ツールを活用する

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 形態素解析を用いた小学生向け語彙学習 ... · すなわち、本研究は、形態素解析の技術を活用した語彙学習教材生成ツールを活用する

形態素解析を用いた小学生向け語彙学習教材生成システム開発の構想A Concept of Developing a Vocabulary Learning Material Generation System

for Primary School Children using Morphological Analysis

藤川 大祐1),大木 圭2),安部 朋世1),高木 啓1),小山 義徳1)

Daisuke FUJIKAWA1), Kiyoshi OOKI2), Tomoyo ABE1), Akira TAKAKI1), Yoshinori OYAMA1)

千葉大学1),千葉大学教育学部附属小学校2)

Chiba University1), Elementary School Attached to Faculty of Education, Chiba University2)

日本教育工学会2019年秋季全国大会 P1-1F-06 一般研究1 ポスター(P1) 2019年9月7日(土)9:30-10:40

1.はじめに近年、自然言語の形態素解析の技術が発達しており、教育工学研究において活用されることが多くなってい

る。形態素解析は従来は質問紙調査における学習者の自由記述の分析に使われることが中心であったが、発表者らは学習者が書いた意見に対して形態素解析を行ってワードクラウドを利用して表示し、キーワードから学習者の意見をたどれる意見分析ツール「AIAIモンキー」を開発し、道徳授業における議論において、このツールによって学習者が他の学習者の意見をよく読み自らの考えを再検討することが促されることの示唆を得るに至っている(藤川 2017、図1、開発は株式会社アクティブブレインズに依頼)。平成29年告示の小学校学習指導要領では「語彙指導」の充実が挙げられており、小学校学習指導要領解説国

語編においては語彙の「質と量の両面」からの充実が求められている。語彙指導とはそもそも「学習者自身の既有のことばの体系を活用して、その学習者固有の意味のネットワークに新たな変容をもたらすこと」(塚田・池上、1998)だと考えられ、「語彙の質と量を高めるためには、ことばを使う場面こそが大事であり、個人の語彙のネットワークに位置付けながら言葉を増やさなければならない」(鈴木、2018)とされるように、学習者自身が有する語彙体系の構築や変容が目指されなければならない。本研究における研究課題をなす学術的「問い」は、形態素解析の技術をいかに語彙指導に活用できるかとい

うことである。すなわち、本研究は、形態素解析の技術を活用した語彙学習教材生成ツールを活用することにより、子どもが質量ともに充実した語彙学習を進めることがいかにして可能になるかを問うている。

2.本研究の目的本研究の目的は、形態素解析の技術を活用し、任意の文章から小学生に対する語彙学習教材を自動的に生成するシステムを開発し、このシステムを活用した語彙学習の授業を小学校で行ってこのシステムの有用性について評価を行うこととなる。本研究において開発するシステムは、任意の現代文日本語文章を読み込み、当該文章について形態素解析を行って、

類義語のある語をマークアップし、マークアップされた語をクリックまたはタップすると類義語を表示することを基本機能とする(「類義語比べ読み」モード)(図2、開発は株式会社アクティブブレインズに依頼)。さらに、類義語の例文を表示する機能や、マークアップされた語を一定の割合で類義語に置き換えて表示しどの語が類義語に置き換えられているのかを学習者が推定する「間違い探し読み」モードの実装を検討する。このシステムを活用することにより、教師がさまざまな文章を取り上げて類義語との比較を中心とした語彙指導を

行えることはもちろん、学習者が自ら多様な文章を用いて語彙学習ができるという点で、「主体的・対話的で深い学び」が促されると考えられる。教育工学研究としては、形態素解析を語彙指導に活用するという点で本研究は独自性をもち、形態素解析の新たな

可能性を拓くという点で創造的であると言える。語彙指導の研究としては、従来の語彙指導で活用されてきた「意味マップ」と比較して、形態素解析による教材作

成システムの活用によって質量ともに充実した語彙指導がなされることが期待されるという点で、独創的である。図2 開発する語彙学習教材作成システムの構成

3.本研究の計画と進捗状況本研究は2019年度から2021年度の3年計画で実施する。

(2019年度)語彙学習教材生成システムの開発を中心に行う。具体的には、学習者として小学校高学年

を想定し、品詞を一部に限定して、任意の文章から語彙学習教材を生成するコンピュータシステムの開発を行う。(この段階では基本機能のみを実装する。)語彙学習教材生成システムは将来的には小学校・中学校全学年を対象とし、主な品詞すべ

てに対応したものとする予定である。しかしながら、本研究においては工数を限定することとし、ある程度の語彙を学ぶことに無理がないと考えられる小学校高学年を対象として設定し、文脈における用法が問題になりやすい一部品詞のみを対象とすることとしたい。

(2020〜2021年度)研究2〜3年目は1年目に開発したシステムを活用した授業を実施し、このシステムの評価

を行うこととする。具体的には、本システムを使用し、小学校5年生のクラスにおいて、学習者が自らが好む文章について、類義語と比較しながら読む「類義語比べ読み」を行ったり、システムが類義語に置き換えた箇所を探しながら読む「間違い探し読み」を行ったりする授業を実施し、授業観察、システムのログ、質問紙調査等によって本システムの使いやすさ、学習者の理解度等について評価を行う。2年目に行った検証に基づきシステムを改修し(可能であれば機能を拡充)、3年目に再び検証を行った上で成果をまとめ発表することとする。

(現状)現在、小学校国語教育に関係する語彙の検討を行っている。具体的には、小学校国語教科

書の教材や小学生が書いた作文について、形態素解析を行い、使用されている語彙の品詞別一覧と登場頻度を明らかにする。この後、類義語辞書第1バージョンの作成と画面インターフェイスの検討を行い、ソフト

ウェア第1バージョン(図3はデモ画面)を作成して、小学生対象の授業で試用する予定である。授業では、大木(2014)が提案している「じゃなくて読み」(文章の中で、ある表現でなく別の表現が使われたのはなぜかと問う読み方)を扱うことを予定している。現状での課題としては、類義語のデータベースの構築方法、文脈に合わない類義語の扱い、

授業で扱う際の発問のあり方等がある。

本研究は、JSPS科研費JP19K03078の助成を受けたものです。

(参考文献)藤川大祐(2017)、動画教材と意見分析ツールを活用した道徳授業プログラムの開発、千

葉大学教育学部研究紀要、66(1)、275-282大木圭(2014)、語彙・語句を探す 学習体験ネタ、教育科学国語教育、770、10鈴木一史(2018)、語彙学習の二側面、月刊国語教育研究、554、4-9塚田泰彦・池上幸治(1998)、語彙指導の核心と実践的課題、明治図書

連絡先 藤川大祐 メール:[email protected] Twitter @daisukef

図3 システム「ひろがれ言の葉」(仮)デモ画面

類義語リストの例(上記デモ画面に対応)寒い:冷たい、冷淡な、冷ややかな、無情な、冷感な棲む:住む、住まう、生息する、居住するころげる:転ぶ、転倒する、コケる、足を滑らせる、すってんころりんする、足を滑らす、倒れる、転がるびっくりする:驚く、気が動転する、あわてる、うろたえる、取り乱す、あたふたする、泡を食う、落ち着きを失う、てんやわんやになる、まごつくあわてふためく:大慌てになる、狼狽する、おたおたする恐る恐る:おじおじと、こわごわと、おずおずと、おじおじと、こわごわ、おっかなびっくりとりのける:押しのける、どける、のける、外す、避ける、避難する、退ける、逃れるわけが解る:了解する、わかる、のみこむ、理解する、会得する、認識する、みとる、気づく、察知するどっさり:たっぷりと、豊富に、たくさん、多くの、いっぱい、多量に、たっぷりと、わんさか、ごまんとキラキラと:きらめいて、ぴかぴか、輝いて、ひらめいて、光り輝いて照らす:光を当てる、照射する、スポットライトを当てる、照らし出す眩しい:輝かしい、まばゆい反射する:照り返す、ぴかつく、光る、照らす柔かい:たおやかな、ふかふかした、ふにゃふにゃした、ソフトな、やさしい駈け廻る:かけめぐる、疾走する、走って回る、かけずりまわる、走り回る、飛び回る飛び散る:あふれ出る、噴出する、あふれ返る、ほとばしり出るすっと:つと、つうっと、とっとと、たちまち、ぱっぱと、見る間に、早く、素早く、さっと、きびきびと物凄い:驚くべき、すさまじい、驚異的な、おどろおどろしい、どえらい、巨大な、すごい、恐ろしい、絶大なふわーっと:そっと、ふわりと、やんわりと、ふわふわと、やさしく、ふかふかと、軽く、はらりとおっかぶさる:かぶさる、かぶる、乗っかる、見舞われるびっくりする:(上と同じ)ころがる:転ぶ、転倒する、コケる、足を滑らせる、すってんころりんする、足を滑らす、倒れる、ころげるなだれ落ちる:崩れる、壊れる、崩れゆく、崩壊する、崩落する、ぶっこわれる、砕けるこぼれる:こぼれ落ちる、ポロンと出る、滑り落ちる、ポロリと落ちる