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微分方程式の解を見る 齊藤 宣一 (さいとう のりかず) 数理科学研究科 norikazu[AT]ms.u-tokyo.ac.jp 数理科学概論(統合自然科学科) http://www.infsup.jp/saito/materials/181219gairon.pdf 2018 12 19 NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 12 19 1 / 50

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微分方程式の解を見る齊藤 宣一 (さいとう のりかず)

数理科学研究科norikazu[AT]ms.u-tokyo.ac.jp

数理科学概論(統合自然科学科)http://www.infsup.jp/saito/materials/181219gairon.pdf

2018年 12月 19日

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 1 / 50

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1 Newton法と反復法の数理

2 微分方程式と数値解法

3 応用例:Navier-Stokes方程式と臨床医学への応用

4 現象と数理モデル

5 汎用的な数値解法—有限要素法

6 まとめ

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いろいろな方程式

• 2次方程式 x2 + bx + c = 0 → x =−b ±

√b2 − 4c

2

• 3次元方程式 x3 + px + q = 0 → カルダーノの公式

x =3

√−q

2+

√q2

4+

p3

27+

3

√−q

2−√

q2

4+

p3

27

• 方程式 ex − 2x − 1 = 0 → 解の公式?

関数 f (x) = ex − 2x − 1の概形を考えると,x = 0の他に,1 < x < 2にもう一つ解があることがわかる.

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Newton法

Ox

yy = f(x)

xk

a

y − f(xk) = f ′(xk)(x − xk)

xk+1xk+2

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Newton法

• 初期値 x0 から出発して,反復的に近似列 x1, x2, . . .を生成する.

• 具体的には,y = f (x)の x = xk における接線 y − f (xk) = f ′(xk)(x − xk)とx 軸との交点を xk+1 とする.すなわち,

xk+1 = xk −f (xk)

f ′(xk)

• f (x) = ex − 2x − 1について適用してみると,

x0 2. 1. +0.5x1 1.55668375777258827 1.3922111911773332 −0.5x2 1.32712367104743989 1.27395717022139854 −0.06473340160641616x3 1.26162981267170093 1.25677778597777179 −0.00188856404050952x4 1.2564623176323908 1.25643134800056444 −0.00000177773915361x5 1.25643120974969169 1.25643120862619218 −0.00000000000158022x6 1.25643120862616975 1.25643120862616953 +0.00000000000000007

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反復法

• このように,方程式 f (x) = 0の解を求める際に,反復列

xk+1 = φ(xk) (Newton法では φ(x) = x − f (x)/f ′(x))

を作る方法を反復法と呼ぶ.

• このような方法は,連立方程式に対しても有効であり,良く応用される. a11x1 + a12x2 + a13x3 = b1,a21x1 + a22x2 + a23x3 = b2,a31x1 + a32x2 + a33x3 = b3

x21 + e2x2 + x3 = b1,x1 + x2 + x43 = b2,

x31 + sin x2 + x3 = b3

• このように,数学的問題の解の具体的な数値を求める方法を研究する分野を,数値解析と言う.

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目次

改めて次の話をする.

1 Newton法と反復法の数理

2 微分方程式と数値解法

3 応用例:Navier-Stokes方程式と臨床医学への応用

4 現象と数理モデル

5 汎用的な数値解法—有限要素法

6 まとめ

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1 Newton法と反復法の数理

2 微分方程式と数値解法

3 応用例:Navier-Stokes方程式と臨床医学への応用

4 現象と数理モデル

5 汎用的な数値解法—有限要素法

6 まとめ

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例題 1:熱方程式長さ Lの針金の熱伝導現象を記述する偏微分方程式熱方程式,熱伝導方程式,熱拡散方程式

∂u

∂t(x , t) = α

∂2u

∂x2(x , t) (0 < x < L, t > 0)

零熱流束境界条件 (Neumann境界条件)

∂u

∂x(0, t) =

∂u

∂x(L, t) = 0 (t > 0)

• u = u(x , t): 針金の位置 x,時刻 t における温度• α > 0: 熱伝導係数• 初期条件 u(x , 0) = a(x)

• この方程式 (+境界条件)は線形 (線型, linear)である;

v(x , t),w(x , t): 解 ⇒ C1v(x , t) + C2w(x , t): 解

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Fourierの変数分離法 (1/2)

• u(x , t) = φ(x)η(t)と仮定して方程式

∂u

∂t(x , t) = α

∂2u

∂x2(x , t)

へ代入すると,

η′(t)φ(x) = αφ′′(x)η(t) ⇔ η′(t)

αη(t)=

φ′′(x)

φ(x)=定数 = −λ

• 境界条件も考慮すると,

(∗) η′(t) = −αλη(t)

と(∗∗) φ′′(x) = −λφ(x), φ′(0) = φ′(L) = 0

が得られる.

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Fourierの変数分離法 (2/5)

• まず,(∗∗)を解く.φ′′(x) + λφ(x) = 0の特性方程式を解くと,

s2 + λ = 0 ⇔ s = ±√−λ.

1 λ < 0のとき,一般解は φ(x) = C1e√−λx + C2e

−√

−λx .2 λ = 0のとき,一般解は φ(x) = C1 + C2x .3 λ > 0のとき,一般解は φ(x) = C1 cos

√λx + C2 sin

√λx .

このうち,境界条件 φ′(0) = φ′(L) = 0を満たし φ ≡ 0でないものは,

λ = λn =(nπ

L

)2

(n = 0, 1, . . .)

とおいて,

φ(x) = φn(x) = cos(√

λnx)= cos

(nπLx)

(n = 0, 1, . . .)

としたもの.すなわち,(∗∗)の解は無数に存在する.

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Fourierの変数分離法 (3/5)

• 一方,各 λn に対して,(∗)の解は,η(t) = e−αλnt = exp(−αλnt).

• したがって,次の形の解は,熱方程式と境界条件を満たす:

un(x , t) = (定数) · e−αλnt cos(nπx

L

)• そこで,

u(x , t) =∞∑n=0

cnun(x , t) =∞∑n=0

cne−αλnt cos

(nπxL

)とおいて,初期条件を満たすように c0, c1, c2, . . .を求める.

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Fourierの変数分離法 (4/5)

• t = 0とする:a(x) =∞∑n=0

cn cos(nπx

L

)• 三角関数の直交性

∫ L

0

cos(mπx

L

)cos

(nπxL

)dx =

0 (m = n)

L/2 (m = n = 0)

L (m = n = 0).

• 両辺に,cos(mπx/L)をかけて,0→ Lで積分∫ L

0

a(x) cos(mπx

L

)dx =

∞∑n=0

cn

∫ L

0

cos(nπx

L

)cos

(mπx

L

)dx

= cm ·L

2(m = 0のとき)

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Fourierの変数分離法 (5/5)

• 結果をまとめると,

u(x , t) = c0 +∞∑n=1

cne−α

√λnt cos

(nπxL

).

ただし,

c0 =1

L, cn =

2

L

∫ L

0

a(x) cos(nπx

L

)dx (n = 1, 2, . . .).

• 変形すると,

u(x , t) =

∫ L

0

a(y)1

L

[1 + 2

∞∑n=1

exp

(−αn2π2

L2t

)cos

(nπxL

)cos

(nπyL

)]dy .

• 以上は,発見的な考察である.数学的な正当性は,別途議論する必要がある.

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例題 2:Gray-Scottモデル化学 (化学反応論)に現れる偏微分方程式の一例

ut = αuuxx + u2v − (β + γ)u

vt = αvvxx − u2v + β(1− v)

ux(0, t) = ux(L, t) = vx(L, t) = vx(L, t) = 0

• u = u(x , t), v = v(x , t)はある 2つの化学物質の濃度• 三村昌泰 (編): パターン形成とダイナミクス,東大出版,2006

• αu, αv > 0: (u, v の)拡散係数, ut = ∂u/∂t,uxx = ∂2u/∂x2

• β, γ > 0(定数): 反応における原料化学物質の供給や中間生成物質の除去の割合を表現

• これは,非線形であり,Fourierの変数分離法は適用できない.• ただし,抽象的な解析理論から,時間局所的な (古典)解の一意存在はわかる · · · ← 数値 (近似)解法の出番!!

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数値 (近似)解法のヒント—差分商前進差分商 k > 0が十分小さければ,

dg

dt(t) ≈ g(t + k)− g(t)

k.

2階中心差分商 h > 0が十分小さければ,

d2f

dx2(x) ≈ f (x + h)− 2f (x) + f (x − h)

h2.

復習 (Taylorの定理)

g(t + k) = g(t) + g ′(t)k +1

2g ′′(s)k2, s = t + θk, 0 < θ < 1,

f (x + h) = f (x) + f ′(x)h +1

2f ′′(x)h2 +

1

3!f (3)(x)h3 +

1

4!f (4)(y)h4,

f (x − h) = f (x)− f ′(x)h +1

2f ′′(x)h2 − 1

3!f (3)(x)h3 +

1

4!f (4)(z)h4

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差分格子• h = L/N (N は自然数)として,

xi =

(i − 1

2

)h (i = 0, 1, · · · ,N + 1)

• k > 0をとり,tn = nk (n = 0, 1, · · · )

x

t

L

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差分格子• h = L/N (N は自然数)として,

xi =

(i − 1

2

)h (i = 0, 1, · · · ,N + 1)

• k > 0をとり,tn = nk (n = 0, 1, · · · )

x

t

Lx1

x2

x3

x4

x0

xN+1

xN

h

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差分格子• h = L/N (N は自然数)として,

xi =

(i − 1

2

)h (i = 0, 1, · · · ,N + 1)

• k > 0をとり,tn = nk (n = 0, 1, · · · )

x

t

Lx1

x2

x3

x4

x0

xN+1

xN

t1

t2

t3

t4

t5

h

k

Uni ≈ u(xi , tn) 近似値

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熱方程式の差分近似熱方程式

∂u

∂t(xi , tn) = α

∂2u

∂x2(xi , tn) →

Un+1i − Un

i

k= α

Uni+1 − 2Un

i + Uni−1

h2

境界条件

∂u

∂x(0, tn) =

∂u

∂x(L, tn) → Un

1 − Un0

h=

UnN+1 − Un

N

h= 0

x

t

Lx1

x2

x3

x4

x0

xN+1

xN

t1

t2

t3

t4

t5

h

k

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熱方程式の差分近似 (つづき)まとめると,λ = αk/h2 と置いて,

Un+11 = (1− λ)Un

1 + λUn2 ,

Un+1i = (1− 2λ)Un

i + λ(Uni+1 + Un

i−1) (i = 2, · · · ,N − 1),

Un+1N = (1− λ)Un

N + λUnN−1

x

t

Lx1

x2

x3

x4

x0

xN+1

xN

t1

t2

t3

t4

t5

h

k

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熱方程式の差分近似 (つづき)まとめると,λ = αk/h2 と置いて,

Un+11 = (1− λ)Un

1 + λUn2 ,

Un+1i = (1− 2λ)Un

i + λ(Uni+1 + Un

i−1) (i = 2, · · · ,N − 1),

Un+1N = (1− λ)Un

N + λUnN−1

x

t

Lx1

x2

x3

x4

x0

xN+1

xN

t1

t2

t3

t4

t5

h

k

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 19 / 50

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熱方程式の差分近似 (つづき)まとめると,λ = αk/h2 と置いて,

Un+11 = (1− λ)Un

1 + λUn2 ,

Un+1i = (1− 2λ)Un

i + λ(Uni+1 + Un

i−1) (i = 2, · · · ,N − 1),

Un+1N = (1− λ)Un

N + λUnN−1

x

t

Lx1

x2

x3

x4

x0

xN+1

xN

t1

t2

t3

t4

t5

h

k

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熱方程式の差分近似 (つづき)まとめると,λ = αk/h2 と置いて,

Un+11 = (1− λ)Un

1 + λUn2 ,

Un+1i = (1− 2λ)Un

i + λ(Uni+1 + Un

i−1) (i = 2, · · · ,N − 1),

Un+1N = (1− λ)Un

N + λUnN−1

x

t

Lx1

x2

x3

x4

x0

xN+1

xN

t1

t2

t3

t4

t5

h

k

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GSモデルの差分近似

Un+1i − Un

i

k= αu

Uni+1 − 2Un

i + Uni−1

h2+ (Un

i )2V n

i − (β + γ)Uni

V n+1i − V n

i

k= αv

V ni+1 − 2V n

i + V ni−1

h2− (Un

i )2V n

i + β(1− V ni )

Un1 − Un

0

h=

UnN+1 − Un

N

h=

V n1 − V n

0

h=

V nN+1 − V n

N

h= 0

• αu = 10−5, αv = 2 · 10−5

• h = L128 , k = 1

6 ·h2

αv

• 0 ≤ t = T ≡ 1200

• L = 0.5

x

t

Lx1

x2

x3

x4

x0

xN+1

xN

t1

t2

t3

t4

t5

h

k

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GSモデルの解の挙動 (1/3)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1 0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500 0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

xtime

(a) (β, γ) = (0.1504, 0.1400)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1 0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500 0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

xtime

(b) (β, γ) = (0.1504, 0.0392)

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 21 / 50

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GSモデルの解の挙動 (2/3)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1 0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500 0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

xtime

(c) (β, γ) = (0.1504, 0.0308)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1 0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500 0

0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9

xtime

(d) (β, γ) = (0.1504, 0.0056)

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 22 / 50

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GSモデルの解の挙動 (3/3)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1 0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500 0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

xtime

(e) (β, γ) = (0.0192, 0.0448)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1 0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500 0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

xtime

(f) (β, γ) = (0.0096, 0.0308)

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 23 / 50

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GSモデルの研究

• 数学的蓄積 (=論文)は豊富: 自己複製パターン,進行波解,· · ·• 数値シミュレーション → 数学的事実の予想 → 証明 → · · ·

• 空間次元 n = 2, 3の場合 ← 今日的な研究課題• 数値解法は,(現象を記述する)微分方程式を解く為の,唯一の現実的な方法

(と言いたい)

• 数学 (数理科学)における微分方程式の数値解法とは?• コンピュータが使えれば,使いこなせるか?→ NO

• 近似の対象が方程式 (の解)である限り,方程式そのものや解の性質を熟知していなければならない

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 24 / 50

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1 Newton法と反復法の数理

2 微分方程式と数値解法

3 応用例:Navier-Stokes方程式と臨床医学への応用

4 現象と数理モデル

5 汎用的な数値解法—有限要素法

6 まとめ

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 25 / 50

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Navier-Stokes方程式

Navier–Stokes equations: L. M. H. Navier (1827), G. G. Stokes (1845)

∂ui∂t

+3∑

j=1

uj∂ui∂xj

= ν∆ui −1

ρ

∂p

∂xi+ fi , (i = 1, 2, 3)

3∑j=1

∂uj∂xj

= 0.

• 粘性非圧縮性流体の運動を記述• u(x1, x2, x3, t) = (u1, u2, u3): 速度ベクトル場• p(x1, x2, x3, t): 圧力スカラー場• f (x1, x2, x3, t) = (f1, f2, f3): 外から流体に働く力の総和• ρ: 質量密度 (正定数); ν: 動粘性係数 (正定数)

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 26 / 50

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Navier-Stokes方程式Navier–Stokes equations: L. M. H. Navier (1827), G. G. Stokes (1845)

∂ui∂t

+3∑

j=1

uj∂ui∂xj

= ν∆ui −1

ρ

∂p

∂xi+ fi , (i = 1, 2, 3)

3∑j=1

∂uj∂xj

= 0.

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 26 / 50

Page 33: 微分方程式の解を見る · 2018-12-17 · 関数f(x) = ex 2x 1 の概形を考えると,x = 0 の他に,1 < x < 2 にも う一つ解があることがわかる. NS (数理科学概論)

数学におけるNavier-Stokes方程式数学的にとても重要• 近代的な解析学の toolの多くが,NSを起源としている (弱解,Sobolev空間,軟化子,不動点定理...)

• 多くの「有名人」の足跡:Leray, Hopf, Ladyzhenskaya, Kato, ...

• 未解決問題:時間大域的な古典解の存在.

ミレニアム懸賞問題 (100万ドル問題)

NSを R3 で考え,f = 0とする.このとき,「任意」の初期値に対して,∫∫∫R3

|u(x , t)|2 dx <∞

を満たす時間大域的古典解の存在・非存在??

• 膨大な研究結果MathSciNet (AMSによる数学論文データベース) において,Title: NavierStokesで検索すると,6403本 (2014年)→9065本 (2016年) →9467本(2017年) →10063本 (2018年 12月) の論文がヒットする

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 27 / 50

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理工医学分野におけるNavier-Stokes方程式あらゆる分野で重要• コンピュータによる数値的方法が現実的な解法• どんな小さなアイデアでも重要である ←今日的な研究課題

難しさ• 非線形性,解の正則性 (特に t → 0の)

• 幾何形状,自由度の大きさ• 未知関数が流速と圧力• 定式化の問題

応用例• http://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/suito_labo/CREST/index.html

http://www.jp.tafsm.org/ja/projects/biotechnology

• 多くの問題点:• 数学における標準的な状況設定 (境界条件など)では不十分......• 評価すべき量にについての理論が欠如......

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 28 / 50

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1 Newton法と反復法の数理

2 微分方程式と数値解法

3 応用例:Navier-Stokes方程式と臨床医学への応用

4 現象と数理モデル

5 汎用的な数値解法—有限要素法

6 まとめ

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 29 / 50

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現象と数理モデル

-現象

ビルの間の風の流れ血流解析金融派生商品の価格etc.

数理モデル(方程式・不等式)

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 30 / 50

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現象と数理モデル

-

?

6

現象

ビルの間の風の流れ血流解析金融派生商品の価格etc.

数理モデル(方程式・不等式)

可視化・数値化

解く

@@

@@

@@

@@I

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 30 / 50

Page 38: 微分方程式の解を見る · 2018-12-17 · 関数f(x) = ex 2x 1 の概形を考えると,x = 0 の他に,1 < x < 2 にも う一つ解があることがわかる. NS (数理科学概論)

現象と数理モデル

-

?

6

現象

ビルの間の風の流れ血流解析金融派生商品の価格etc.

数理モデル(微分方程式)

連続的な変数・値

可視化・数値化

解く (?)

@@

@@

@@

@@I

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 30 / 50

Page 39: 微分方程式の解を見る · 2018-12-17 · 関数f(x) = ex 2x 1 の概形を考えると,x = 0 の他に,1 < x < 2 にも う一つ解があることがわかる. NS (数理科学概論)

現象と数理モデル

-

?

6

?

6

近似

コンピュータ

現象

ビルの間の風の流れ血流解析金融派生商品の価格etc.

数理モデル(微分方程式)

連続的な変数・値

可視化・数値化

離散化

@@

@@

@@

@@I

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 30 / 50

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数値解析の立場と視線

• 数学者の研究する(伝統的な)偏微分方程式論は,• 解の存在や,一意性,解の漸近挙動,などを議論する,• また,“応用”関数解析 (functional analysis,無限次元線形代数)の趣がある.

• これらと,応用家(数理モデルを使って現実現象を研究する人達)の知りたい情報との間には,大きな溝がある.応用家は,偏微分方程式論の詳細はさておき,数値計算によって,自分たちの知りたい情報を得る.

• しかし,数学的な正当性の確立されていない方法で数値計算を行うことは,妥当性の確認されていない実験方法で実験を行うのと同じである.

• 数値計算方法の数学的研究を行う分野を,数値解析と言う.数値解析の目的は,両者の溝を,数学的な理論によって埋めることにある.(成り行き上,偏微分方程式の数値解析の話をしたが,それ以外の分野でも状況は同じ.)

• 数値解析は,数学的な真理の探究と数学を通じた社会貢献を両立する分野である.

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 31 / 50

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1 Newton法と反復法の数理

2 微分方程式と数値解法

3 応用例:Navier-Stokes方程式と臨床医学への応用

4 現象と数理モデル

5 汎用的な数値解法—有限要素法

6 まとめ

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 32 / 50

Page 42: 微分方程式の解を見る · 2018-12-17 · 関数f(x) = ex 2x 1 の概形を考えると,x = 0 の他に,1 < x < 2 にも う一つ解があることがわかる. NS (数理科学概論)

例: Poisson方程式問題xy 平面上に置かれた枠 Γに薄い膜が張ってある.膜に力 F = F (x , y)を加えた時,膜はどう変形するか?

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

-1-0.5

0 0.5

1 1.5

2 2.5

3 3.5-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

答次を満たす u = u(x , y)を求める:

∂2u

∂x2+

∂2u

∂y2= −F (x , y)

[∆u = −F ∆ ラプラシアン

]• u = u(x , y) 膜の変位(高さ),F (x , y) 膜に加える力• Simeon Denis Poisson (1781–1840)

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 33 / 50

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それでは,どうやって解くか?

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

[1] 枠内(領域)を重なりのない三角形に分割する.各三角形の頂点に P1,P2, . . . ,PN と番号をつけ

る.(図の例では N = 76)

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

[2] 各三角形の頂点でのみ値(近似値)u1, u2, . . . , uN を求め,それを “繋ぐ”

u4

u13

u32

P4

P13

P32

[3] 一つの三角形のみ拡大したもの.三角形の頂点は P4,P13,P32.

[4] u1, u2, . . . , uN を求める式は,連立一次方程式a11 · · · a1N...

. . ....

aN1 · · · aNN

u1...uN

=

F1

.

.

.FN

になる (???).あとは,これを解けば良い.

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 34 / 50

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それでは,どうやって解くか?

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

[1] 枠内(領域)を重なりのない三角形に分割する.各三角形の頂点に P1,P2, . . . ,PN と番号をつけ

る.(図の例では N = 76)

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

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1

[2] 各三角形の頂点でのみ値(近似値)u1, u2, . . . , uN を求め,それを “繋ぐ”

u4

u13

u32

P4

P13

P32

[3] 一つの三角形のみ拡大したもの.三角形の頂点は P4,P13,P32.

[4] u1, u2, . . . , uN を求める式は,連立一次方程式a11 · · · a1N...

. . ....

aN1 · · · aNN

u1...uN

=

F1

.

.

.FN

になる (???).あとは,これを解けば良い.

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 34 / 50

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それでは,どうやって解くか?

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

[1] 枠内(領域)を重なりのない三角形に分割する.各三角形の頂点に P1,P2, . . . ,PN と番号をつけ

る.(図の例では N = 76)

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

[2] 各三角形の頂点でのみ値(近似値)u1, u2, . . . , uN を求め,それを “繋ぐ”

u4

u13

u32

P4

P13

P32

[3] 一つの三角形のみ拡大したもの.三角形の頂点は P4,P13,P32.

[4] u1, u2, . . . , uN を求める式は,連立一次方程式a11 · · · a1N...

. . ....

aN1 · · · aNN

u1...uN

=

F1

.

.

.FN

になる (???).あとは,これを解けば良い.

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 34 / 50

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それでは,どうやって解くか?

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

[1] 枠内(領域)を重なりのない三角形に分割する.各三角形の頂点に P1,P2, . . . ,PN と番号をつけ

る.(図の例では N = 76)

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

[2] 各三角形の頂点でのみ値(近似値)u1, u2, . . . , uN を求め,それを “繋ぐ”

u4

u13

u32

P4

P13

P32

[3] 一つの三角形のみ拡大したもの.三角形の頂点は P4,P13,P32.

[4] u1, u2, . . . , uN を求める式は,連立一次方程式a11 · · · a1N...

. . ....

aN1 · · · aNN

u1...uN

=

F1

.

.

.FN

になる (???).あとは,これを解けば良い.

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 34 / 50

Page 47: 微分方程式の解を見る · 2018-12-17 · 関数f(x) = ex 2x 1 の概形を考えると,x = 0 の他に,1 < x < 2 にも う一つ解があることがわかる. NS (数理科学概論)

それでは,どうやって解くか?

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

[1] 枠内(領域)を重なりのない三角形に分割する.各三角形の頂点に P1,P2, . . . ,PN と番号をつけ

る.(図の例では N = 76)

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

[2] 各三角形の頂点でのみ値(近似値)u1, u2, . . . , uN を求め,それを “繋ぐ”

u4

u13

u32

P4

P13

P32

[3] 一つの三角形のみ拡大したもの.三角形の頂点は P4,P13,P32.

[4] u1, u2, . . . , uN を求める式は,連立一次方程式a11 · · · a1N...

. . ....

aN1 · · · aNN

u1...uN

=

F1

.

.

.FN

になる (???).あとは,これを解けば良い.

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 34 / 50

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有限要素法このような方法を有限要素法 (finite element method, FEM) という.

• 計算対象は,Poisson方程式に留まらない.空間 3次元・時間 1次元の問題でも活躍する

• 計算対象を,三角形・四面体に分割し,各四面体上で,近似方程式をたてて,それを統合し,近似解(数値解)を得る

• 普通,連立一次方程式を解くことに帰着される.未知数の数は,1010 程度になることも.

NS (数理科学概論) 微分方程式の解を見る 2018 年 12 月 19 日 35 / 50

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計算された膜の形

F (x1, x2) = 5という一様な力を加える.

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

-1-0.5

0 0.5

1 1.5

2 2.5

3 3.5-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0

0.5

1

1.5

2 0

0.5

1

1.5

2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

-1-0.5

0 0.5

1 1.5

2 2.5

3 3.5-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

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計算に使った三角形分割

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変分原理次の3つの問題は同値である.このことは,変分原理と呼ばれる.

Poisson方程式

−∆u = F (x , y) ∈ Ω, u = 0 (x , y) ∈ Γ.

汎関数最小化問題(変分問題)

J(u) = minv∈V

J(u)

J(v) =1

2

∫∫Ω

|∇v |2 dxdy −∫∫

Ω

Fv dxdy , V = v ∈ C(Ω) | v : 区分的 C 1 級, v |Γ = 0

停留問題,Poisson方程式の弱形式

u ∈ V ,

∫∫Ω

(uxϕx + uyϕy ) dxdy =

∫∫Ω

Fϕ dxdy (∀ϕ ∈ V )

有限要素法は,変分原理に基づいて,弱形式を計算することで,Poisson方程式の近似解を計算する.

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有限要素法の導出V の関数 ϕ1, ϕ2, . . . , ϕn をとり,

u(x , y) =n∑

k=1

ukϕk(x , y), ϕ(x , y) =n∑

k=1

ckϕk(x , y)

の形を仮定し(これは近似である),∫∫Ω

(uxϕx + uyϕy ) dxdy =

∫∫Ω

Fϕ dxdy (∀ϕ = ϕ1, . . . , ϕn)

へ代入すると,u = (ui )1≤i≤n に対する連立一次方程式

Au = f

が得られる.ただし,

f =

(∫∫Ω

Fϕi dxdy

)1≤i≤n

, A =

(∫∫Ω

(ϕi,xϕj,x + ϕi,yϕj,y ) dxdy

)1≤i,j≤n

.

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有限要素法の導出

有限要素法 (finite element method, FEM)では,• Ωを三角形(=要素,element)に分割し,• U の基底関数 ϕi (x , y)を右図のように選ぶ.

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有限要素法の導出

有限要素法 (finite element method, FEM)では,• Ωを三角形(=要素,element)に分割し,• U の基底関数 ϕi (x , y)を右図のように選ぶ.

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有限要素法の導出

有限要素法 (finite element method, FEM)では,• Ωを三角形(=要素,element)に分割し,• U の基底関数 ϕi (x , y)を右図のように選ぶ.

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計算例

−∆u = (2− x)4 + (10− y)2, (x , y) ∈ Ω

u = 0, (x , y) ∈ ∂Ω.

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0

2

4

6

8

10

12

14

"elliptic1.plt"

0

2

4

6

8

10

12

14

n = 673

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0

2

4

6

8

10

12

14

"elliptic1.plt"

0

2

4

6

8

10

12

14

n = 6707

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有限要素法

• 現在,最も強力な微分方程式の数値解法 (の内の一つ)• 流体力学,電磁気学,構造力学,生命科学,臨床医学,· · ·• 汎用コード,商用ソフト,フリーソフト,· · ·• 端正な数学理論,,· · ·

• 航空工学の急速な発展 (1940年代後半 ∼)· · · 固体力学・構造力学の分野• Turner, Clough, Martin and Topp (1956)

• Clough (1960) finite-element, · · ·

• 数学的研究の黎明期 (1960後 ∼1970前)• 有限要素法は Galerkin法 (Ritz法)の特殊な場合,· · ·• 微分方程式の弱解を近似している,· · ·

• すべてを見通していた? R. Courant

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R. Courant

Richard Courant (1888–1972)

• 師匠は D. Hilbert

• ニューヨーク大学教授 (1936–)

• Courant Institute of MathematicalSciences

• Methoden der Mathematischen Physik数理物理学の方法, クーラン & ヒルベルト

• What is Mathematics? (数学とは何か)ロビンズと共著

• 「彼の著名な組織的才能とは別に、クーラントは数学の業績でも名高い」(Wikipedia)

• C. リード:クーラント—数学界の不死鳥,(加藤瑞枝 訳),岩波書店,1978年

(From Wikipedia)

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有限要素法の元祖

R. Courant: Variational methods for the solution of problems of equilibrium andvibrations, Bull. Amer. Math. Soc. 49 (1943) 1–23.

As Henri Poincare once remarked, solution of a mathematical problem is a phrase ofindefinite meaning. Pure mathematicians sometimes are satisfied with showing that thenon-existence of a solution implies a logical contradiction, while engineers might considera numerical result as the only reasonable goal. Such one sided views seem to reflecthuman limitations rather than objective values. In itself mathematics is an indivisibleorganism uniting theoretical contemplation and active application.This address will deal with a topic in which such a synthesis of theoretical and appliedmathematics has become particularly convincing. · · ·· · · Usually the solution of a difficult problem in analysis proceeds according to a general

scheme: The given problem P with the solution is replaced by a related problem Pn so

simple that its solution Sn can be found with comparative ease. Then by improving the

approximation Pn to P we may expect, or we may assume, or we may prove, that Sn

tends to the desired solution S of P. The essential point in an individual case is to

choose the sequence Pn in a suitable manner. · · ·

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有限要素法の元祖 (つづき)

[Chap. II, §1] · · ·Suppose we seek the minimum d of an integral expression or any other variationalexpression I (ϕ) (for example, our quadratic functionals of the preceding section). Wethen start with a minimizing sequence

ϕ1, ϕ2, ϕ3, · · · , ϕn, · · · , (11)

that is, a sequence of functions, admissible in our variational problem, for which

limn→∞

I (ϕn) = d (12)

being the lower bound of the functional I (ϕ). The existence of the lower bound d is

obvious or may be easily proved in all relevant problems and the existence of the

minimizing sequence (11) is then a logical consequence. However, the problem in

applications is one, not of the existence, but of the practical construction of such a

minimizing sequence. Ritz’s method is nothing but a recipe for such a construction. A

minimizing sequence immediately furnishes an approximation to d (sometimes this is all

we wish to know, for example, if we are interested in the natural frequencies of a

vibrating system).

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有限要素法の誕生

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1 Newton法と反復法の数理

2 微分方程式と数値解法

3 応用例:Navier-Stokes方程式と臨床医学への応用

4 現象と数理モデル

5 汎用的な数値解法—有限要素法

6 まとめ

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まとめ数値解法は,偏微分方程式を解くための,唯一の現実的な方法であり.それを研究する数値解析は,数学的な真理の探究と数学を通じた社会貢献を両立する分野である

-

?

6

?

6

近似

コンピュータ

現象

ビルの間の風の流れ天気予報金融派生商品の価格etc.

数理モデル(微分方程式)

連続的な変数・値

可視化・数値化

離散化

@@

@@

@@

@@I

1

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参考書

菊地文雄,齊藤宣一:数値解析の原理―現象の解明をめざして(岩波数学叢書) [書誌データ] 岩波書店,2016年 8月,6,800円

齊藤宣一:第 8講 数値解析—偏微分方程式の解を “見る”

斎藤毅,河東泰之,小林俊行(編)『数学の現在 e』東京大学出版会,2016年 5月,3,240円

齊藤宣一:数値解析 (共立講座数学探求)共立出版,2017年 3月,2,500円

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レポート問題

R. Courant: Variational methods for the solution of problems of equilibrium andvibrations, Bull. Amer. Math. Soc. 49 (1943) 1–23

を読んで,まえがき部分を要約せよ.• 探すのもレポートのうち(AMSのホームページ,など)• 提出期限: 2019年 1月 18日• 提出場所: 教務事務室(15号館 107A室)のレポートボックス

数理科学概論(12月 19日) 「微分方程式の解を見る」齊藤宣一(数理科学研究科)質問・問合せ norikazu[AT]ms.u-tokyo.ac.jp

このスライド http://www.infsup.jp/saito/materials/181219gairon.pdf

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