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群論で解き明かす
ルービックキューブの数理 (1)
川辺治之
2010年 9月1日
群の定義
2 / 36
集合Gが次の条件を満たすとき、Gを群という.
(G1) 演算 · : G × G → Gが定義されている.(G2) 結合則 ∀f, g, h ∈ G, (f · g) · h = f · (g · h)が成り立つ.(G3) 単位元 ∃g ∈ G, ∀f ∈ G, gf = fg = f が存在する.
この gを 1と表記する.(G4) 逆元 ∀f ∈ G, ∃g ∈ G, f · g = g · f = 1が存在する.
この gを f−1と表記する.
一人ゲーム
3 / 36
■ それぞれの局面では,有限個の許される手がある.
■ 有限の手の並び (手順)で解に到達できる.■ 偶然に左右されたり,無作為に選ばれる手はない.
■ それぞれの手を行うことの効果はすべてわかっている.
■ それぞれの手が許されるかどうかは,現在のゲームの状態にだけ依存し
ていて,それまでの手がどうであったかに依存しない.
置換パズル
4 / 36
置換パズルとは,小片の有限集合 T を使った次の四つの条件を満たす一人ゲームのこと.
■ パズルのそれぞれの手は, Zn = {1, 2, . . . , n}の元の置換に対応している.(n > 1は,パズルの構成によって決まる整数)
■ 一つの置換に対応する手が複数ある場合,それぞれの手を行った結果の
状態は区別できない.
■ それぞれの手M は「可逆」,つまりM に対して,M を行った結果の状態からM を行う前の状態に戻す手が存在する.
■ T の置換 f1に対応する手をM1とし,T の置換 f2に対応する手をM2とすると,M1 ∗M2 (M1 に引き続いてM2を行う)は次のどちらかとなる.
◆ ゲームの規則では許されない手
◆ 置換 f1 ∗ f2に対応する手
置換パズルの例
5 / 36
■ 15パズル■ ルービックキューブ
■ ライツアウト
■ ...
群の例
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■ Cn : 位数 nの巡回群 {0, 1, . . . , n − 1}■ Sn : n次の対称群 (n個の対象の置換全体からなる群)■ An : n次の交代群 (n個の対象の偶置換全体からなる群)
Anは Snの指数 2の部分群
ルービックキューブの単位操作
7 / 36
■ U : ルービックキューブの上面を (上から見て)時計回りに 90度回転させる操作
■ D : ルービックキューブの下面を (下から見て)時計回りに 90度回転させる操作
■ L : ルービックキューブの左面を時計回りに 90度回転させる操作■ R : ルービックキューブの右面を時計回りに 90度回転させる操作■ F : ルービックキューブの前面を時計回りに 90度回転させる操作■ B : ルービックキューブの後面を時計回りに 90度回転させる操作
この略記法をシングマスター記法という.
部分群
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群Gの部分集合Hで,Gから引き継いだ演算 ∗が群の条件 (G1)-(G4)(のすべての Gを Hで置き換えたもの)を満たすものを,Gの部分群といい,H ⊂ Gと表記する.
群の準同型写像
9 / 36
G1, G2 を群とし,∗1 を G1の群の演算とし,∗2 を G2の群の演算とする.関数 f : G1 → G2 は,任意の a, b ∈ G1に対して
f(a ∗1 b) = f(a) ∗2 f(b)
が成り立つとき,準同型写像という.
群の同型
10 / 36
準同型写像 f : G1 → G2 は,それが (集合の間の関数として)全単射となるとき,同型写像という.
このとき,G1と G2は同型といい,G1 ∼= G2 と表記する.群 G から自分自身への同型写像を自己同型写像という.Gの自己同型写像全体の群を Aut(G)と表記する.
準同型写像の核
11 / 36
f : G1 → G2 を二つの群の間の準同型写像とする.e2を G2の単位元とするとき,集合
ker(f) = {g ∈ G1 | f(g) = e2}
を f の核という.ker(f) は G1 の部分群となる.
ルービックキューブ群
12 / 36
3 × 3 × 3ルービックキューブ群:
G = 〈R, L, U, D, F, B〉
H :ルービックキューブの規則に従ったすべての手順だけでなく,規則に従わない手順もすべて含めた規則を無視したルービックキューブ群.
ルービックキューブをいったん 3面体や 2面体に分解して,組み立て直してもよい.(しかし,小方体に貼られたシールをはがして貼り直すことはできない.)
2面体の向きと辺の番号付け
13 / 36
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��
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��
��
��
��
��
��
��
��
��
F5
9
+
+
U
3
4 +
+
+
R
7
10
+
残りの面については,2面体の dl,db,lf,lu,bl および bu 面に基準参照印 (‘+’ 印)をつける.
3面体の向きと辺の番号付け
14 / 36
3面体の向きについては,下側のすべての小面と,上側のすべての小面に基準参照印 (‘+’ 印)をつける.
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
��
D
8
+
2
+
F
+
7
+
R
3
4
5
キューブ理論の第1基本定理
15 / 36
次の決定過程によって,ルービックキューブの配置は決定される.
(a) どのように 2面体が置換されたか.(b) どのように 3面体が置換されたか.(c) (基準参照印に対して)どの 2面体の印が反転したか.(d) (基準参照印に対して)どの 3面体の印がどれだけ (時計回りに 120度ま
たは 240度)回転したか.
3面体の向き
16 / 36
それぞれの 3面体の 120度単位の捻りを位数 3の巡回群 C3 と同一視する.
v : H → C83
それぞれの手順 g ∈ Hに対してその手順の結果における 3面体の向きを対応付ける関数
捻る角度が時計回りに 120 度の何倍かで向きを表す.X ~v(X)
F (2,0,1,0,1,0,0,2)U (0,0,0,0,0,0,0,0)D (0,0,0,0,0,0,0,0)B (0,1,0,2,0,2,1,0)R (1,2,2,1,0,0,0,0)L (0,0,0,0,1,2,1,2)
2面体の向き
17 / 36
それぞれの 2面体の反転を位数 2の巡回群 C2 と同一視する.
w : H → C122
それぞれの手順 g ∈ Hに対してその手順の結果における 2面体の向きを対応付ける関数
反転させる角度が 180 度の何倍かで向きを表す.X ~w(X)
F (1,0,0,0,0,0,0,0,1,0,0,0)U (1,0,1,0,0,0,0,0,0,0,0,0)
F · U (1,0,1,0,1,0,0,0,1,0,0,0)U · F (1,1,1,0,0,0,0,0,1,0,0,0)
B (0,0,0,0,0,0,1,1,0,0,0,0)D (0,0,0,0,0,0,0,0,0,1,0,1)R (0,1,0,0,0,0,0,0,0,1,0,0)L (0,0,0,0,1,0,0,0,1,0,0,0)
補題:向き付けの合成
18 / 36
~v(h) = ρ(g)(~v(gh) − ~v(g))
より
~v(gh) = ~v(g) + ρ(g)−1(~v(h))
~w(gh)についても同様.
(内部)半直積
19 / 36
群 G の部分群H1および H2が次の条件を満たすとき,G をH1とH2の 半直積といい,
G = H1 ⋊ H2
と表記する.
(a) G = H1 · H2 = {h1 · h2 | h1 ∈ H1, h2 ∈ H2}(b) H1 および H2 に共通の元は G の単位元 1のみ.(c) H1 は G の正規部分群
(外部)半直積
20 / 36
準同型写像
φ : H2 → Aut(H1)
が与えられたとき,集合 H1 × H2 に対する乗法を
(x1, y1) · (x2, y2) = (x1 · φ(y1)(x2), y1 · y2)
と定義すると,この演算によりH1 × H2は群となる.この群を (外部)半直積といい,H1⋊φH2 と表記する.
Hと同型な半直積
21 / 36
SV : 8個の 3面体の置換全体の集合SE : 12個の 2面体の置換全体の集合
H ′ = (C83 ⋊ SV ) × (C122 ⋊ SE)
Hの二つの元 hおよび h′ をh = (v, r, w, s), h′ = (v′, r′, w′, s′) ∈ C83 × SV × C
83 × SV とし,Hの演算を
h · h′ = (v, r, w, s) · (v′, r′, w′, s′) = (v + P (r)(v′), rr′, w + P (s)(w′), ss′) とする.
ι : H → (C83 ⋊ SV ) × (C122 ⋊ SE)
g 7−→ (v(g), ρ(g), w(g), σ(g))
は準同型写像となり,群の同型 H ∼= H ′ を与える.
ルービックキューブの手順の表現
22 / 36
それぞれの g ∈ G を四つ組
(~v(g), ρ(g), ~w(g), σ(g))
と同一視する.ここで
■ ρ(g)は,gによるキューブの 3面体の集合 V の置換■ σ(g)は,gによるキューブの 2面体の集合Eの置換■ v(g)および w(g)は,それぞれ 3面体および 2面体の向き
キューブ理論の第2基本定理
23 / 36
次の条件を満たすとき,そしてそのときに限り,ルービックキューブは,四
つ組 (~v, r, ~w, s) (r ∈ S8, s ∈ S12, ~v ∈ C83 , ~w ∈ C
122 )に対応する配置となるこ
とができる.
(a) sgn(r) = sgn(s) (「置換の奇偶性一致」)(b) v1 + . . . + v8 ≡ 0 (mod 3) (3面体の「総捻り量保存」)(c) w1 + . . . + w12 ≡ 0 (mod 2) (2面体の「総反転量保存」)
証明の概略 (=⇒)
24 / 36
(a) 単位操作が条件を満たすこと、および sgnが準同型であることより.(b) 手順の長さによる帰納法(c) 手順の長さによる帰納法
証明の概略 (⇐=)
25 / 36
■ ((0, 0, 1, 0, 0, 0,−1, 0), 1,~0, 1)の場合g = (R−1D2RB−1U2B)2
■ (~0, 1, (1, 1, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0), 1)の場合g = LFR−1F−1L−1U2RURU−1R2U2R
■ (~0, r,~0, s)の場合次の 3種類の手順が存在すること
◆ 任意の三つの 2面体の巡換だけで,それ以外の小方体の向きおよび位置を変えない手順
◆ 任意の三つの 3面体の巡換だけで,それ以外の向きおよび位置を変えない手順
◆ 任意の二つの 2面体の互換および任意の二つの 3面体の互換だけで,それ以外の向きおよび位置を変えない手順
これらから (a)を満たす SE × SV の指数 2の部分群が生成できる
第 2基本定理からの帰結
26 / 36
G0 = { (~v, r, ~w, s) | r ∈ S8, s ∈ S12,~v = (v1, v2, . . . , v8), vi ∈ {0, 1, 2}, v1 + . . . + v8 ≡ 0 (mod 3),~w = (w1, w2, . . . , w12), wi ∈ {0, 1}, w1 + . . . + w12 ≡ 0 (mod 2)}
とする.G0 には,3面体の総捻り量保存および 2面体の総反転量保存の条件はあるが,置換の奇偶性一致条件はない.2項演算 · : G0 ×G0 → G0 を次のように定義する.
(~v, r, ~w, s) · (~v′, r′, ~w′, s′) = (~v + P (r)(~v′), r · r′, ~w + P (s)(~w′), s · s′)
この 2項演算により,G0は群となる.
[H : G0] = |H|/|G0| = 6
ルービックキューブ群G
27 / 36
次の同型写像が存在する.
G0 ∼= (C73 ⋊ S8) × (C
112 ⋊ S12)
ルービックキューブ群Gは,次の準同型写像の核となる.
φ : G0 → {1,−1}(~v, r, ~w, s) 7−→ sgn(r)sgn(s)
また,Gは G0の指数 2の正規部分群で
|G| = 8! · 12! · 210 · 37
となる.
剰余類
28 / 36
Gを群とし, Hを Gの部分群とする.群の演算を乗法 ∗で表記して,gをGの元とするとき,Gの部分集合 g ∗ H = {g ∗ h|h ∈ H} を GにおけるHの左剰余類といい,Gの部分集合 H ∗ g = {h ∗ g|h ∈ H} を GにおけるHの右剰余類という.
Gが可換群の場合には,左剰余類と右剰余類は一致する.
完全代表系
29 / 36
H を Gの部分群とし, C を GにおけるHの左剰余類とする.Gの元 gに対して,C = g ∗ Hが成り立つとき,gを剰余類 Cの代表という.Gの部分集合 {x1, x2, . . . , xm}で重複なしに (すなわち,すべての xi ∗ H は互いに素となる)
G/H = {x1 ∗ H, . . . , xm ∗ H}
となるものを完全代表系という.
部分群法
30 / 36
G = 〈R, L, F, B, U, D〉 をルービックキューブ群とし,部分群の系列
Gn = {1} ⊂ Gn−1 ⊂ · · · ⊂ G1 ⊂ G0 = G
を用いて次の処理を実行する.
■ 与えられたルービックキューブの配置を元 g0 ∈ G とする.■ すべての 0 ≤ k < nについて,Gk/Gk+1の完全代表系
Gk/Gk+1 =
rk⋃
i=1
gk+1,iGk+1 (rk > 1)
を決めておく.
部分群法
31 / 36
■ (初期処理) (ある i ∈ {1, . . . , r1}について) g0 ∈ g1,iG1 となるとき,g1 = g1,i および g
′
1 = g−11
g0 とする.(g′
1 ∈ G1 となる.)■ (再帰的処理) g′k ∈ Gk がすでに定義されていて,(ある j ∈ {1, . . . , rk}について) g′k ∈ gk+1,jGk+1 となるとき,gk+1 = gk+1,j およびg′k+1 = g
−1
k+1g′
k とする.(g′
k+1 ∈ Gk+1 となる.)
■ 得られた値をすべてまとめると 1 = g−1n g−1n−1g
−1n−2 . . . g
−11
g0 となり,
g0 = g1g2 . . . gn−1gn
がえられる.
コーナー/エッジ法
32 / 36
G4 = {1} ⊂ G3 ⊂ G2 ⊂ G1 ⊂ G0 = G
■ G1 : どの 3面体の位置を変えない部分群■ G2 : どの 3面体および 2面体の位置も変えない部分群■ G3 : どの 3面体および 2面体の位置も変えず,どの 3面体の向きも変えない部分群
■ G4 = {1}
コーナー/エッジ法
33 / 36
1. g0 ∈ Gを与えられたルービックキューブの配置とする.2. g1 を,すべての 3面体を正しい位置に移す (すなわち,捻られていてもよいが,置換によってすべての 3面体を揃った位置にあわせる)手順とする.すると g−1
1g0 ∈ G1 となる.ここで g
′
1 = g−11
g0 とする.3. g2 を,すべての 2面体を正しい位置に移し (すなわち,3面体や 2面体の向きが変わってもよいが,置換によってすべての 2面体を揃った位置にあわせる),3面体の位置は変えない手順とする.すると g−1
2g′1 ∈ G2
となる.ここで g′2 = g−12
g′1 とする.4. g3 を,どの小方体の位置も変えずに,すべての 3面体を「揃える」(すなわち,2面体を反転させてもよいが,3面体を捻って正しい向きにする)手順とする.すると g−1
3g′2 ∈ G3 となる.ここで g
′
3 = g−13
g′2 とする.5. g4 を,すべての 2面体を「揃え」て (すなわち,2面体を反転させて正しい向きにする),それ以外のどの小方体の位置も向きも変えない手順とする.
6. 最終的な解は g0 = g1g2g3g4 となる.
シスルスゥエイト法
34 / 36
G1 = 〈R, L, F, B, U2, D2〉,
G2 = 〈R, L, F2, B2, U2, D2〉,
G3 = 〈R2, L2, F 2, B2, U2, D2〉,
G4 = {1}
G2 は 3 × 3 × 2のルービックドミノの群と同型で,位数は (8!)2 · 12 です.
G3 は,「平方」群で,その位数は 213 · 34 です.
シスルスウェイト法
35 / 36
■ G/G1の完全代表系 {g1,i | 1 ≤ i ≤ n1}で,すべての手順 g1,i が高々 7手となるものがある.(n1 = 2048) この完全代表系に含まれる手順は,2面体の向きを変えるだけ
■ G1/G2の完全代表系 {g2,i | 1 ≤ i ≤ n2}で,すべての手順 g2,i が高々 13手となるものがある.(n2 = 1082565) この完全代表系に含まれる手順は,3面体の向きを変えるだけ
■ G2/G3の完全代表系 {g3,i | 1 ≤ i ≤ n3}で,すべての手順 g3,i が高々 15手となるものがある.(n3 = 29400) この完全代表系に含まれる手順は,すべての 3面体および 2面体を正しい位置に移す.
■ G3/G4の完全代表系 {g4,i | 1 ≤ i ≤ n4}で,すべての手順 g4,i が高々 17手となるものがある.(n4 = 663552)
これより,ルービックキューブのどんな配置も,高々 7 + 13 + 15 + 17 = 52手で解くことができる.
コシエンバ法
36 / 36
「2段階アルゴリズム」部分群の系列の群を二つに減らした.
G0 = 〈L, R, F, B, U, D〉
G1 = 〈L, R, F2, B2, U2, D2〉
G2 = 1
第 1段階 : 撹乱された配置を G1の元に移す手順を探します.G1は,3面体および 2面体の向きに制約を課し,上下方向の中間層にある 2面体を同じ中間層に移す元からなります.この目的の状態を見つけるために,プログラム
は反復深化 A*(IDA*)法と呼ばれる探索アルゴリズムを使用する.(探索する手順の長さを延ばしながら表を引いてすべての手順上を反復する.)第 2段階 : 部分群G1に含まれる配置に対して,この部分群に含まれる手順だけを使って,すべての面が揃った状態にする.この段階では,8個の 3面体の置換,上面および下面にある 8個の 2面体の置換,および上下方向の中間層にある 4個の 2面体の置換を行う.
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