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細菌検査の基礎 ~同定から薬剤感受性、耐性菌検査まで、 微生物検査担当者が知っておくべき基礎的事項~ 27 回日本臨床微生物学会総会・学術集会 共催セミナー4 日:2016 1 29 日(金) 開催場所:江陽グランドホテル(宮城県仙台市)

細菌検査の基礎 - ssl.kyokutoseiyaku.co.jp恒例により佐藤先生のご略歴を紹介させていただ きたいと思います。佐藤先生は現在、東京大学医学

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細菌検査の基礎 ~同定から薬剤感受性、耐性菌検査まで、

微生物検査担当者が知っておくべき基礎的事項~ 第 27 回日本臨床微生物学会総会・学術集会 共催セミナー4

開 催 日:2016 年 1 月 29 日(金)

開催場所:江陽グランドホテル(宮城県仙台市)

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第 27 回日本臨床微生物学会総会・学術集会 共催セミナー4

1

座長:村瀬先生

皆さま、こんばんは。第 27 回の日本臨床微生物

学会総会・学術集会の共催セミナー4 に参加してい

ただきまして、誠にありがとうございます。この共

催セミナーは極東製薬工業株式会社の協賛というこ

とでありまして、講師としては東京大学医学部附属

病院の佐藤智明先生にお願いしてございます。タイ

トルは先ほど述べられましたが、非常にサブタイト

ルが長くて、きっと中身の濃いものが出てくるのだ

ろうと思いますが、端的にいいますと細菌検査の基

礎を学ぶということです。

恒例により佐藤先生のご略歴を紹介させていただ

きたいと思います。佐藤先生は現在、東京大学医学

部附属病院の感染制御部の副技師長という役職でご

ざいます。先生は 1982 年 3 月に名古屋保健衛生大

学衛生学部衛生技術科を卒業されました。その後、

東海大学医学部附属病院中央検査部に入られ、2001

年 10 月から静岡県立静岡がんセンター、これは非

常にいいというか、大変なところですが、その開設

準備ということで赴任されました。その後、感染科

に移られ、2010 年 4 月から山形大学医学部附属病院

検査部技師長に就任されています。その後、2014

年、現職である東京大学医学部附属病院の感染制御

部に移られまして、現在は副技師長という立場でご

活躍です。

資格は認定臨床微生物検査技師、ICMT でござい

ます。所属学会は日本臨床微生物学会の評議員、理

事、さらに会員としては日本感染症学会、日本化学

療法学会、日本臨床衛生検査技師会の会員でござい

ます。

皆さまに直接関係するものとしては、実は先生は

認定臨床微生物検査技師の審議会の委員でもあり、

更新資格審査委員長という立場でございます。

なお、先生は日臨技の班長も長年やられています。

そういう意味で皆さんよくご存じかと思いますが、

今日は微生物の専門家ということから臨床微生物検

査室の役割における我々の意義をくまなく解説して

いただけるものと思います。その中で同定から薬剤

感受性、耐性菌検出まで、この基礎知識をもう一度

勉強しようということですので、ご清聴よろしくお

願いいたします。では、先生よろしくお願いいたし

ます。

「細菌検査の基礎」

~同定から薬剤感受性、耐性菌検査まで、

微生物検査担当者が知っておくべき基礎的事項~

座長:村瀬 光春 先生 (元 愛媛大学医学部附属病院 診療支援部長)

講師:佐藤 智明 先生

(東京大学医学部附属病院 感染制御部 細菌検査室 副技師長)

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細菌検査の基礎

2

講師:佐藤先生

村瀬先生、ご紹介ありがとうございました。東京大学の佐藤です。本日は

よろしくお願いします。

今日のイブニングセミナーのチケット配布で、本セミナーのチケットが最

初に配布完了したとお聞きし、ちょっとびっくりしています。もう少し参加

者が少ないと思っていました。満席の入場、ありがとうございます。と同時

に、ちょっと緊張しています。

本日のサブタイトル~同定から薬剤感受性、耐性菌まで、微生物検査担当

者が知っておくべき基礎的事項~ですが、本日の話の内容は、サブタイトル

の前に「細菌検査を始めて1年目、2年目の技師のための」を入れるべき話

の内容です。経験3年以上のベテランの方は、ゆっくりお弁当を食べていた

だいて、これから始まる仙台の長い夜のためにゆっくりしていてください。

1年目、2年目の方は、どの程度お役に立てる話ができるか分かりませんが、

最後まで聞いていただければと思いますので、よろしくお願いします。

COI、開示するものはございません。

微生物検査室の役割は迅速かつ正確な検査データを臨床に報告すること

だと思います。ただ速いだけではだめで、正確な検査データを臨床に報告す

ることが重要です。具体的には、感染症起因菌を確実に検出・同定する。薬

剤感受性検査を適切に行い、判定をする。また、薬剤耐性菌を確実に検出す

ることも必要です。しかし、すべての薬剤耐性菌を検出できる施設は限られ

ていますので、自施設の検査の限界、どの薬剤耐性菌が検出・判定できるの

か、できないのかを臨床に伝えておくことも重要です。あと、新しい検査法

や新たな耐性菌が登場してきますので、常に臨床微生物検査に関する新しい

情報を入手する努力も必要だと思います。

微生物検査室も大きく変貌してきました。まず、同定検査です。私が微生

物検査を始めたころは、同定検査は試験管培地による同定が主な方法でした。

腸内細菌であればスライドに示したような試験管培地に接種し、翌日に判定

をし、その性状からEscherichia coliであるとかKlebsiella spp.であるとか

を同定します。ですから、試験管培地の判定方法と菌の性状を知らないと同

定ができない時代でした。この時も同定キットはありましたが、自由に使わ

せてもらえない時代でした。

その後、日常検査でも同定キットが自由に使えるようになりました。同定

キットは試験管培地がたくさん並んでいるようなもので、同時に多くの生化

学性状が確認できます。同定キットは色により陽性、陰性を判定し、コード

番号から菌名を決定するもので、菌の性状を知らなくても、同定菌名を得る

ことができ、すごく便利になったと思いました。

薬剤感受性に関しても、トリディスクや昭和1濃度ディスク法からKBデ

ィスク法に代わり、現在では、90%以上の施設で、微量液体法による MIC

測定に移行しています。

スライド 1

スライド 2

スライド 3

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第 27

3

これ

リー変

も検査

今の

代から

査を行

薬剤

I、Rに

でS、

定、カ

そう

思いま

機器に

自動機

り、自

現在

より多

検査が

ットプ

により

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ただ

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となり

せん。

薬剤

カテゴ

ィスク

Staphy場合、

桿菌の

何かお

化かも

が必要

自動

すので

くなり

まと

を総合

回日本臨床

れらを自動機器

変換も全部自動

査結果が得られ

の話を図に示し

ら、便利な同定

行う時代になっ

剤感受性検査に

に変換していた

I、Rに変換す

カテゴリー変換

うしますと、機

ますが、逆に労

による検査では

機器による検査

自動機器を使用

在の微生物検査

多くの生化学的

が容易にできる

プレートに塗る

り、初心者でも

ました。

だ便利にはなり

同定確率が低い

ります。キット

絶対ではない

剤感受性検査も

ゴリーも自動的

ク法と違って

hylococcus aurその結果が本

のコンタミが考

おかしいと疑う

もしれません。

要だと思います

動機器では、デ

で、臨床からの

りました。

とめますと、菌

合したうえで、

スライド 4

スライド 5

スライド 6

床微生物学会総

器で行えば、同

動でやってくれ

れるような、す

してみました。

定キットが使用

ってきました。

に関しても、デ

たものが、微

するようにな

換すべてを行っ

機器の購入費用

労力や知識はあ

は少ない労力

査結果が正しい

用するにあたっ

査ですが、同定

的性状を同時に

るということで

るだけで菌種を

も、何も知らな

りましたが、こ

い場合どうする

トや自動機器で

いと疑う頭を持

も、菌液を調整

的に変換してく

てコンタミに

ureusでバンコ

本当であったら

考えられます。

うことが必要で

このようなこ

す。

ディスク法と違

の追加薬剤の依

菌種の同定はコ

キットや装置

総会・学術集

同定菌名も M

れます。技師は

すごく便利な時

同定検査は、

用されるように

ディスク法で阻

微量液体希釈法

りました。近年

ってくれる時代

用や試薬代等の

あまりなくても

・知識で検査

いかどうか、そ

っての一番の肝

定に関しての利

に確認できます

です。まして、

を同定するこ

ない技師でも菌

これらの方法に

るかです。この

で同定された菌

持たなければい

整するだけで

くれるような時

に気づきにく

コマイシン(以

ら大変ですが、

あり得ないよ

です。コンタミ

ことを常に頭の

違って、プレー

依頼時の対応が

コロニーの特徴

置で得られた菌

集会 共催セ

MIC 値も MIC

は菌液さえ作れ

時代になった

確認培地で検

になり、現在で

阻止円を測っ

法が主流となり

年は、自動機

代になりまし

の検査コストは

もとまでは言い

が可能となり

それを判断する

肝になってく

利点は同定キッ

す。それによっ

質量分析の場

とが可能です。

菌名を得ること

による同定検査

のような場合は

菌名を100%は

いけないと思

自動機器が M

時代になりま

くなりまし

以下:VCM)耐

たいていの場

ような薬剤感受

ミかもしれませ

の中に入れなが

ートの中の薬剤

が少し困難とい

徴、薬剤感受性

菌名が正しいか

セミナー4

C 値からのカ

れば何もしな

たと思います。

検査をしてい

では自動機器

て、そこから

り、MIC値を読

機器がMIC値

した。

は大きくなっ

いませんが、

ました。ただ

る能力が必要

ると思います

ットや自動機器

って、正確な

場合は菌をタ

す。質量分析の登

とが可能な時代

査の注意点と

は確認試験が必

は信じてはい

思います。

MIC 値を測定

した。しかし

た。たとえば

耐性の結果が

場合はグラム

受性結果が出

せんし、試薬

がら検査する

剤が決まって

いうか、面倒

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かどうか、そ

テゴ

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読ん

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登場

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必要

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し、デ

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いま

くさ

など

の菌

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細菌検査の基礎

4

名を報告していいかどうかを考える必要があると思います。

薬剤感受性に関しても、菌種と薬剤感受性のパターンを頭の中に入れてお

いて、自分の頭の中にあるデータと一致するかどうか、それを確認したうえ

で臨床に報告する必要があると思います。これには、同定と薬剤感受性結果

の妥当性を判断するための基礎知識が必要となってくると思います。

先ほど言った質量分析ですが、使われている施設もあると思います。質量

分析装置による同定検査は、このターゲットプレートに爪楊枝で菌を塗って、

マトリックス試薬を添加し、装置にセットしてボタンを押すと 5 分、10 分

で菌名が得られます。だた、この同定菌名が正しいかについてはわれわれ検

査技師が判断して報告することが必要です。

現在の微生物検査ではグラム染色が唯一の迅速検査ですが、このグラム染

色だけでも多くの情報が得られます。報告もただ「グラム陽性球菌」という

よりも「Staphylococcus spp.が疑われます」とか、さらに「貪食された

Staphylococcus spp.」と報告することで臨床にかなり役立つ情報を提供する

ことができます。

そして、翌日になってコロニーが形成されれば、そのコロニーを見て

Staphylococcus spp.、E. coli など、検出頻度の高い菌についてはベテランの

技師であれば菌種を推定することが可能だと思います。そこで、推定菌名と

して中間報告し、キットや自動機器で同定検査を実施する。薬剤感受性検査

を実施する。そして、その結果を翌日確定報告することになります。

しかし、質量分析を使えば、コロニーから 5 分、10 分で同定結果が報告

できるので、同定検査については今よりも1日早く報告できる時代となりま

した。ただ、薬剤感受性は分かりませんので、臨床からは薬剤感受性結果も

早く欲しいという要望が出てくると思います。

ただ、先ほど言ったように質量分析による同定結果は 5 分~10 分かかり

ますが、ベテランの技師ですと、コロニーを見れば3秒で日常検出頻度の高

い菌は推定同定することができると思います。質量分析装置は約3,500万円

します。私に3,500万円くれれば、3秒以内で90%の確率で菌種名を推定し

ます。この会場にいる多くの方は質量分析装置の代役ができると思います。

正確な細菌同定検査を報告するためには、まずグラム染色像、培地所見か

ら菌名を推定することが必要だと思います。多分いろいろな菌種推定のロジ

ックがそれぞれの頭の中にあると思いますが、私が思うのは、キットや自動

機器で同定検査を行うのは、自分が推定した菌種名に同意してほしいからで、

菌種を推定できない菌も一部ありますが、臨床材料から検出される菌ではこ

のような菌はめったにないと思います。キットや機械による同定検査は自分

の推定菌名が正しいかどうかの確認ぐらいに思ったらいいのではないでし

ょうか?

そのためには、鑑別性状もある程度理解しておかなければいけません。同

定キット、自動機器の特徴・限界や、自動機器によって得意な菌、不得意な

スライド 7,8

スライド 9

スライド 10

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菌もありますし、限界を知っておくことも必要だと思います。これらのこと

を総合して得られた同定菌名が正しいかどうか、臨床に報告できるかどうか

を考えることが必要だと思います。

これは自動機器を信じてはいけない一つの例です。1984 年に山根先生ら

が論文にしたものです。K. pneumoniaeを9割、Proteus mirabilisを1割

の割合で混合した菌液をある自動機器で同定すると、Enterobacter aerogenesが同定確率88%の結果が出たそうです。逆に、P. mirabilisを99%、

K. pneumoniae を 1%の割合で混合した場合は、97%の確率で E. cloacaeとなったそうです。これらの菌の場合は運動性や IPA 反応が鑑別点となる

と思います。自分で推定した菌と違った結果が出た場合はコンタミの確認や

ポイントとなる性状を確認することが必要です。

これは当検査室での精度管理株を用いた自験例です。Pseudomonas aeruginosa が9割、E. coliが1割の菌液を自動機器にかけてみると、91%

の確率でSalmonella enterica となりました。また、S. aureusを9割、E. coliを 1 割の菌液をかけると、99%の確率でS. xylosus となりました。99%の

確率ですと自動機器の結果を疑わずに報告したくなりますよね? でも自分

でS. aureusを推定した菌がS. xylosusとなった場合はコアグラーゼ試験で

確認ができますよね。このように何か変だなと思った時は確認をすることが

間違った報告をしないためには必要となります。

これは E. coli です。培地は血液寒天培地、DHL 寒天培地、BTB 寒天培

地です。自施設の培地での E. coli がどんなコロニーに見えるのかは分かり

ますよね?自分がE. coliだと思った菌がキットや自動機器でE. coliという

結果になれば自信をもって報告できると思います。

これはE. coliの試験管培地の結果です。TSIとシモンズクエン酸とLIM

培地です。TSIがA/Aでガス産生、硫化水素陰性。シモンズクエン酸も陰性。

LIM ではリジン、運動性、インドールが陽性と判定できます。この性状で

あればE. coliと同定していいと思います。

このようにキットや自動機器を使用する前には菌の基本的性状を覚える

ために、試験管培地で同定するトレーニングを受けた方がいいと思います。

そのうえで、キットや自動機器を使用すべきだと思います。しかし、少人数

で行っている微生物検査室でこのようなトレーニングを行っている時間が

なく、すぐにキットや自動機器を使っての検査を指導されるわけです。でき

れば主要検出菌の鑑別性状を覚えるためにこのようなトレーニングを行っ

たうえで、キットや機械を使うのがいいのではないかと思います。

スライド 11

スライド 12

スライド 13

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細菌検査の基礎

6

これはK. pneumoniaeです。少しムコイドで乳糖分解菌なのでBTBでは

黄色、DHLではピンク色のコロニーを形成します。試験管培地ではTSIは

A/A、ガス産生、シモンズクエン酸、リジンが陽性。運動性、インドールが

陰性です。これがK. pneumoniaeの性状ですね。

これはK. oxytocaです。K. pneumoniaeに比べてDHLでは少し紫っぽ

く、BTB では少しぼけたような黄色になっています。試験管培地での性状

もほとんどK. pneumoniae と同じですが、こちらはインドールが陽性です。

例えば、自分がK. oxytocaだと思った株を機械がK. pneumoniae だと言

ってきた場合は、インドールを確認すればどちらか区別ができます。機械の

インドール試薬が無くなっていたり、チューブが詰まって試薬が出なかった

場合、インドールは偽陰性となりK. pneumoniae と誤同定されてしまいま

す。このように主要な鑑別性状を理解しておくことは大切だと思います。

スライド 14 , 15

スライド 16 , 17

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この菌はS. marcescensです。培地は今日のセミナーを協賛してくれてい

る極東の培地です。培地によってコロニーの見え方も違ってくると思います

が、この培地でのS. marcescensのコロニーはこんな風なコロニーになりま

す。

これもS. marcescensのコロニーです。最近はこのような赤色色素産生株

の検出は減りましたが、色素産生株では血液寒天培地では赤というよりもオ

レンジ色っぽくて、BTB、DHLではこんな感じのコロニーになります。こ

のような色素産生株ではコロニー所見だけでも S. marcescens が推定でき

ると思います。

スライドではTSIとなっていますが、実際にはクリグラーです。斜面部分

は乳糖非分解なので、赤くなっています。TSIですと白糖分解により斜面も

赤くなります。またガス非産生も特徴です。シモンズクエン酸は陽性、LIM

ではリジン、運動性が陽性、インドールは陰性です。コロニー所見と総合的

に考えれば S. marcescens を推定することは可能と思いますが、さらに

DNA陽性を確認すれば、より確かな推定となります。

スライド 18

スライド 19

スライド 20 , 21

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細菌検査の基礎

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この菌は実際に分離した経験のある人は少ないと思いますが、S. Typhi

です。24時間培養ですとShigella spp.やS. Paratyphi A と同じようなコロ

ニーを形成します。48時間培養すると、Shigella spp.やS. Paratyphi Aと

違って硫化水素産生が確認できます。

TSI培地では高層と斜面の境界点だけに硫化水素産生が確認でき、これだ

けでもS. Typhiを推定できると思います。

このスライドの菌はほとんどの皆さんは分かりますよね? そう、P. aeruginosa です。

スライド 22 , 23

スライド 24

スライド 25

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P. aeruginosaの同定はアセトアミドとキングB培地の2本の試験管培地

でほぼ間違いなく同定できると思います。アセトアミドが陽性になる菌は

P. aeruginosaのほかにBurkholderia cepaciaやP. alcaligenesがあります

が、キング B 培地でピオベルジンの蛍光色素が陽性となるのは P. aeruginosa かP. fluorescensかP. putidaだけです。ですから、アセトアミ

ドとキングB培地の2本が陽性であればP. aeruginosaと同定できます。こ

の方法で同定すればわざわざ同定キットや自動機器を使用しなくても P. aeruginosa は同定できます。日常検査で何かおかしいと思った時にはこの

ような確認できるポイントの性状を頭の中に入れておく必要があると思い

ます。

これはListeria monocytogenesの血液寒天培地のコロニーです。

こちらはGBS、Streptococcus agalactiaeの血液寒天培地のコロニーです。

写真がちょっとピンボケで申し訳ありませんが、両方とも似たようなコロニ

ーですよね。

スライド 26 , 27

スライド 28

スライド 29

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細菌検査の基礎

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GBS とL. monocytogenes の鑑別ですが、SIM 培地で運動性を確認すれ

ば鑑別できます。L. monocytogenesが運動性プラスです。L. monocytogenesの運動性はスライドのように傘のような形に広がった運動性が確認できま

す。しかし、判定までには3,4日かかります。

運動性を確認するには時間がかかりますので、この2菌種を迅速に鑑別す

るためには、グラム染色ではL. monocytogenesはグラム陽性桿菌、カタラ

ーゼ試験はL. monocytogenesが陽性です。グラム染色やカタラーゼ試験な

らすぐに鑑別が可能です。このような最低限の鑑別性状は覚えておきましょ

う。

次は薬剤感受性検査です。正しい薬剤感受性検査を報告するためには、菌

液濃度、培地、培養条件などを規定された正しい方法で検査をすることが必

要です。これは当たり前のことですよね。

現在では菌液濃度はきちんと測られていると思いますが、昔話ですが…、

私が以前東海大学に勤めていたころ、薬剤感受性は昭和一濃度ディスクで行

っていました。昭和一濃度ディスク法の菌液濃度はマックファーランド2の

菌液を一定量培地に塗布するよう規定されていました。神奈川県の精度管理

調査で、昭和一濃度ディスク法の施設の成績がものすごく悪い年がありまし

た。東海大学も昭和一濃度ディスクで検査をしていましたので、このような

精度管理調査の結果が報告されると、昭和一濃度ディスクを使用している施

設のデータすべてがおかしいのではないかという噂が立ってしまいます。そ

れが嫌で、メーカーにお願いして、神奈川県内で昭和一濃度ディスクを使用

している施設を集めていただき、それぞれの施設の検査方法をお聞きしまし

た。菌液濃度はマックファーランド2が正しいのですが、マックファーラン

ド0.5で行っている施設や、逆にものすごく濃かったり、菌液濃度は正しい

のですが、接種菌量が規定よりもかなり多かったり…、このような検査法で

は実際よりも阻止円直径が大きくなったり、小さくなったりして当然で、正

しい結果を報告することはできません。そこで、昭和一濃度ディスクを使用

している施設一つ一つ、メーカーさんに訪問していただき、正しい検査方法

を伝えていただきました。

翌年の神奈川県の精度管理調査でも前年同様に薬剤感受性検査の項目が

あったのですが、昭和一濃度ディスク法の施設はすべて基準範囲内の回答で

した。このように、当たり前ですが、正しい方法で検査を行わないと正しい

結果は得られません。

また、同定検査と薬剤感受性検査を総合的に判断することも重要です。例

えば、Stenotrophomonas maltophiliaであればカルバペネム系薬は耐性で

す。しかし、薬剤感受性検査成績が感受性であれば同定、もしくは薬剤感受

性のどちらかがおかしい事に気づき、確認を行うことが必要だと思います。

もちろん、コンタミが無いことも確認する必要があります。

薬剤感受性試験のコンタミの確認は、接種した菌液を血液寒天培地1/6 で

も、1/8 でもいいので、塗抹しておくことが一番いいと思います。翌日 1 菌

種しか発育していなければコンタミしていないことが確認できます。

スライド 30

スライド 31

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第 27 回日本臨床微生物学会総会・学術集会 共催セミナー4

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あと、ごく稀にしか出ないような薬剤耐性菌は必ず確認をして、間違いの

ないことを確認したうえで報告する必要があると思います。

先ほど言いましたけど、S. maltophilia はカルバペネム耐性のはずですが、

2014年4月、5月のJANISのデータを集計すると、S. maltophiliaが検出

され、カルバペネム系薬の薬剤感受性結果が報告されている223施設中、約

90%ではS(感性)は1株も報告されていませんでした。しかし、Sが1~5%

であった施設は6施設、2.4%存在しており、このようにR(耐性)以外を報告

している施設もスライドのように存在しているのが現実です。

これはJANISのデータなので、もしかすると実際の検査データをJANIS

報告データに変換するときにプログラムエラーがあった可能性も否定でき

ませんので、臨床には正しい結果が報告されているかもしれません。今日、

参加の皆さんの施設でも JANIS に参加されている施設は多いと思います。

JANIS の関連情報その他を見て、自施設のデータの確認をすることも必要

です。JANIS へデータの出しっぱなしはよくありません。システムエラー

がある場合は、コンピュータ屋さんに修正してもらう必要があります。

JANIS にせっかく参加しているのですから、その情報も有効に使うべきだ

と思います。

先ほど、稀な薬剤耐性菌が検出された場合は確認しましょうという話をし

ました。JANIS で特殊な耐性を示す菌、これはスライドに示したカテゴリ

ーA の菌ですが、このような菌を JANIS に報告した場合は事務局から、お

かしな菌が出ていますが本当ですか?という連絡があります。その時に本当

であることが確認できない場合はデータは削除されることになります。

ですから、スライドに示したカテゴリーAの結果が得られた場合は必ず確

認をする必要があります。

JANIS ではこのような菌が報告された場合は、先ほど言ったように各施

設に問い合わせがあり、本当だということが確認されない場合は削除されま

す。したがって、カテゴリーA の菌は JANIS の公開情報では検出されてい

ないことになっています。しかし、生データを見ると少数ですが、このよう

な菌が検出されています。そういった意味では、既に VRSA の報告経験の

ある施設もあると思います。それは、もしかすると検査技師が気付かないう

ちに自動機器のデータが臨床に自動的に報告されてしまっている可能性も

あると思います。しかし、検査室ではきちんと確認を行い、報告データには

責任を持つことが必要です。

スライド 32

スライド 33

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細菌検査の基礎

12

薬剤耐性菌の報告ですが、今問題となっているような薬剤耐性菌、アウト

ブレイクを防止するためには拡散しやすい薬剤耐性菌は早く見つけて、迅速

に報告する必要があると思います。菌によっては、1例でも検出されたらす

ぐに臨床に報告して拡散させないような対策をとることが必要だと思いま

す。

今日の話とはちょっとそれますが、患者さん個人にとってはどんなものが

薬剤耐性菌なのか?これは、患者さんの治療に使われている薬が効かない菌

は、その患者さんにとっては薬剤耐性菌です。これは迅速に報告することも

必要ですが、先ほどから言っていますように正しいデータを報告することが

何よりも必要だと思います。

いろいろなところで言われていますが、現在問題となっている薬剤耐性菌

をスライドに示しました。VRSAをグレーで書いたのは、この耐性菌は日本

ではまだ出ていないので、これからも出ないでほしいという思いでグレーに

しました。スライドに示した薬剤耐性菌に関してはできるだけ検査室で検出

し、臨床に報告することが必要だと思います。

ただ、検査室によっては、AmpC は判定できませんとか、メタロ-β-ラク

タマーゼは検査していませんということもあると思います。臨床側には検査

室で検出できるものとできないもの、検査室の限界を必ず伝えておくことが

必要だと思います。

薬剤耐性菌の判定ですが、薬剤感受性成績から判定できるものとできない

ものがあります。例えば、オキサシリン、セフォキシチン耐性のS. aureusはMRSAですし、VCM耐性の腸球菌はVREと判定されます。薬剤感受性

成績から判定できる耐性菌は正しい薬剤感受性検査を実施、判定基準を知っ

ていれば同定できるわけです。

ただ、MDRP(多剤耐性緑膿菌)はイミペネム(以下:IPM)とアミカ

シン(以下:AMK)、シプロフロキサシン(以下:CPFX)の3薬剤に耐性

の P. aeruginosa と感染症法では定義されています。IPM と CPFX に関し

ては他のカルバペネム系薬、フルオロキノロン系薬が耐性の場合でも基準を

満たすことになっていますが、しかし、AMKはゲンタマイシンなど他のア

ミノ配糖体系薬の耐性で代用はできません。ですから、AMKの薬剤感受性

を測定していない施設ではMDRP、MDRA(多剤耐性アシネトバクター属

菌)は判定できないことになりますので、薬剤耐性菌の判定に用いる薬剤は

測定する必要があると思います。

一方、ESBL 産生菌から CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)まで

の薬剤耐性菌は、薬剤感受性の成績だけでは判定することが困難です。CRE

はできますが、CPE(カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌)はできません。

これらの薬剤耐性菌をいかに検出し報告するかが検査室の重要な役割だと

思います。

スライド 34

スライド 35

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MDRPは感染症法ではIPMが16μg/mL以上、AMKが32μg/mL以上、

CPFXが4μg/mL以上のP. aeruginosaと規定されています。これは、2012

年以前のCLSIのブレークポイントではR、I、Rとなります。しかし、2012

年のCLSIの改訂でP. aeruginosaの IPMは8μg/mL以上がRとなりまし

た。これにより、MDRP の判定は IPM については R というカテゴリーで

はなく、MIC 値から判定することが必要となります。でも、8μg/mL 以上

が耐性となったので、IPMがRと判定され、AMK、CPFX の2薬剤が基準

を満たしたP. aeruginosa は臨床的にはMDRP に準ずるという形で報告さ

れるのがいいのではないかと思います。

あとは、3 薬剤すべてが耐性でなくても、2 薬剤が耐性になったものも 2

剤耐性のP. aeruginosa、Pre-MDRPとして当院では臨床と ICTに報告する

ことにしています。

次に、一昨年の9月19日から5類感染症の全数把握になったCRE(カル

バペネム耐性腸内細菌科細菌)です。CRE の判定基準は腸内細菌でメロペ

ネム(以下:MEPM)が 2μg/mL 以上、もしくは IPM が 2μg/mL 以上、

かつセフメタゾール(以下:CMZ)が 64μg/mL 以上.どちらかの条件に

当てはまったものをCREとして臨床に報告し、行政に報告するのはこれが

感染症の起因菌と判断されたものです。検査室では感染症の起因菌かどうか

は判断できませんので、基準を満たしたものをCREとして報告し、保健所

への届け出はドクターに任せればいいと思います。

ただ、CRE の判定も以前の CLSI の判定基準ではカルバペネム系薬のブ

レークポイントが 4μg/mL 以下がS でしたので、ブレークポイントパネル

で薬剤感受性を測定している場合はS でも 2μg/mL 未満なのか、以上なの

か、判断ができないので、CREの判定もできないことになります。2012年

以降のブレークポイントでは I が 2μg/mL、R が 4μg/mL 以上となってい

ますので、カテゴリーI または R の菌を対象にすればいいことになります。

まだ、昔の判定基準に基づいたパネルを使用している施設では2012年用に

変更することが必要です。

これをJANISの検査部門データ、2013年と2014年のデータで見てみる

と、今言ったような理由で、2013年はE. coliの約25%がCREの判定がで

きないことになります。その他の菌種に関しても同様です。これが2014 年

になると、判定不能の割合がほぼ半減してきています。2015 年はもっと少

なくなっていることが推定できます。ここ 1,2 年の間に今言ったような理

由で、CRE が正しく判定できない施設はほぼなくなるのではないかと思い

ます。

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スライド 38

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CREですが、先ほど言った判定基準ですが、MEPMで判定すると、JANIS

のデータでは E. coli は 0.5%くらいです。E. cloacae は 1.5%くらい、K. pneumoniaeも0.9%くらいです。一方、IPMとCMZで判定しますと、E. coli では CRE はありませんでしたが、E. cloacae では 10%くらい、K. pneumoniaeも0.2%です。Citrobacter freundii、S. marcescensも約2%

です。

このように判定する薬剤によって数が違っているのが現状です。MEPM

と比較し、IPM とCMZ での判定で高い割合の菌種は、おそらくAmpC の

過剰産生菌のために高めに出ているのだと思われます。このようなことが起

きていますので、近い将来判定基準が見直される可能性もあるのではないか

と思われます。

IPMとCMZでCREを判定すると、AmpC 産生菌も含まれることが推定

されますが、感染症法の判定基準に一致した腸内細菌はCREとして報告す

ることが必要です。現在ではこれが検査室の現状、限界です。

次はESBLです。ESBLも現在増加傾向にあると思います。CLSIのスク

リーニング基準は、E. coli、K. pneumoniae、K. oxytocaの場合はセフポド

キシム(以下:CPDX)が8μg/mL以上、またはセフタジジム(以下:CAZ)、

アズトレオナム(以下:AZT)、セフォタキシム(以下:CTX)、セフトリア

キソン(以下:CTRX)のいずれかが 2μg/mL 以上。この場合は確認試験

をすることになっています。

P. mirabilisに関してはCPDX、CAZ、CTXのいずれかが2μg/mL以上

の場合、確認試験をすることとなっています。確認試験はCAZまたはCTX

単剤の MIC 値と比較して、クラブラン酸を配合した MIC 値が 3 管以上低

下した場合。例えば、単剤でのMIC値が8μg/mL、クラブラン酸との合剤

でMIC値が1μg/mL以下の場合、ESBL産生菌と判定します。ディスク法

の基準は示していませんが、単剤の阻止円と比較して合剤の阻止円が 5mm

以上拡大した場合をESBLと判定します。

高名な先生の講演では、ESBL の遺伝子型は CTX-M 型とか、SHV、

CTX-M19が多いとか、少ないとか難しい話も多いと思いますが、私はあま

り得意ではないので…、ESBLはESBLでいいと思っていますが…。

ただ、CTX-M 型は日本で一番多く検出される ESBL だと思いますが、

CTX とCAZ のMIC 値を比較すると、CTX のMIC の方が高い。ディスク

法では CTX の阻止円がだいぶ小さいです。CAZ は見かけ上、MIC 値が低

かったり、阻止円が大きくて、感受性に見えたりするような ESBL 産生菌

はCTX-M型が多いです。

あと、SHVとかTEMの場合、その逆が多いと言われています。

実際の CTX-M 型と推定される ESBL 産生菌のディスク法の結果です。

遺伝子型は疫学的には重要だと思いますが、すべての施設で遺伝子型を判別

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できるわけではないので、臨床的には ESBL 産生菌がわかれば十分ではな

いかと思います。

ESBLはクラブラン酸で阻害されますので、クラブラン酸/アモキシシリ

ンのディスクを真ん中において、周りにスクリーニングのディスクを置き、

その間に阻止帯ができれば、ESBL産生菌ということになります。

現在は、ESBLの判定試薬がいろいろ市販されていますが、どれを選択す

るかは施設ごとに決めればいいと思いますが、スクリーニング基準を明確に

しておくことが重要だと思います。

これは当院で2015年1年間のE. coliのESBLのCAZとCTRXのMIC

分布です。CAZは 16μg/mLが一番多いですが、2~16μg/mLに分布して

います。一方、CTRXの場合は、すべてが8μg/mLでした。CAZでスクリ

ーニングをすると、基準は 2μg/mL 以上ですから、カテゴリーは S、I、R

のすべての可能性があります。CTRX ですと R となった場合確認試験をす

ればいいことになり、見落としが少ないと思います。あくまでも当院のデー

タの場合ということですが…。

K. pneumoniaeでもE. coliと同様の結果でした。

次は AmpC です。AmpC の判定をしている施設は多くないようです。

AmpCはクラスCのβ-ラクタマーゼで、要するにセファロスポリナーゼで、

Enterobacter spp.、Serratia spp.、C. freundiiなどが染色体上に保有して

いるものです。これはボロン酸で阻害されます。

現在問題となっているのは AmpC の過剰産生株です。では、どういうも

のをスクリーニングして確認試験をしたらいいかということです。第3世代

のセファロスポリンにRのもので、なおかつESBLですとCMZ、フルモキ

セフなどのセファマイシン系が感受性ですので、これに関しても耐性の場合

はAmpC 産生菌の確認対象となると思います。

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ESBL と AmpC を判定するのに便利な試薬が関東化学から販売されてい

ます。AmpC/ESBL 鑑別用ディスクです。A、B、C、D のディスクの阻止

円からESBL、AmpC 共に産生あるいは非産生、またはESBL のみ産生、

AmpC のみ産生が判定できます。もちろん、この試薬でなくてもいいので

すが、確認するための試薬は必要です。

薬剤耐性菌を確実に検査するためには、最終的にはPCR 法による耐性遺

伝子の確認が必要ですが、遺伝子検査はすべての施設でできるわけではあり

ませんので、どうしても遺伝子検査が必要な場合にはどこかお願いできる施

設をつくっておけばいいと思います。そのために各地区の大学病院、衛生研

究所がありますので、そこに相談したらどうかと思います。

K1β-ラクタマーゼ。これはK. oxytocaの染色体上に遺伝子が存在するも

のです。これを報告している施設は少ないと思います。これは産生量が増加

した変異株が少し問題です。これは CTX、CTRX、AZT に耐性を示す傾向

があって、クラブラン酸で阻害されますので、ESBLと誤同定されやすいで

すが、ESBL と違いスルバクタムでは阻害されないので、アンピシリン/ス

ルバクタム(以下:ABPC/SBT)やセフォペラゾン/スルバクタム(以下:

CPZ/SBT)には耐性になります。こんなパターンの菌が出てきたら K1β-

ラクタマーゼ産生菌なのかな?と認識すればいいのではないでしょうか。

次はメタロ-β-ラクタマーゼ、KPC の検査です。KPC の検出頻度は少な

いと思います。メタロ-β-ラクタマーゼはカルバペネム系薬または CAZ の

いずれかに耐性を示すP. aeruginosa、Acinetobacter spp.、Enterobacter spp.

などの腸内細菌が検出された場合は確認試験を行った方がいいのではない

かと思います。カルバペネムだけでスクリーニングをすると、カルバペネム

の MIC があまり高くないものもありますので、カルバペネム系薬または

CAZ のどちらかが耐性になった場合に確認試験を行う方が検出漏れは少な

いと思います。

KPC は第三世代セファロスポリンが 1 薬剤以上耐性でかつ、カルバペネ

ム系薬のMIC が 2μg/mL 以上の腸内細菌が検出された場合はHodge テス

トで確認したらいいのではないでしょうか。

メタロ-β-ラクタマーゼは SMA ディスクで阻害されます。スライドでは

IPMに比べ、CAZでより明確に阻害が確認できます。やはり、IPM、CAZ

の両方見る必要があると思います。

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Hodge テストの検査法ですが、E. coli ATCC25922株のマックファーラン

ド 0.5 の菌液を調整し、それを 10 倍希釈したものを薬剤感受性用培地に塗

布します。真ん中にMEPM またはエルタペネムのディスクを置き、被験菌

をエーゼか綿棒で外側に向かって塗布して、一晩培養します。

ATCC25922が無い場合は、臨床材料から分離された薬剤感受性のE. coliで代用できると思います。

結果判定は、陽性の場合は E. coli が塗布した被験菌の中に引っ張られて

発育します。陰性の場合はこのように引っ張られる発育は認められません。

Hodge テスト陽性ですと、何らかのカルバペネマーゼを持っていることがわ

かりますが、この先は遺伝子検査で耐性遺伝子を調べる必要があると思いま

す。

このスライドは実際の Hodge テストの写真です。P はポジコン、N はネ

ガコンです。448、459は被験菌ですが、いずれも陰性でした。

先ほどのメタロ-β-ラクタマーゼですが、IMP-1、IMP-6、VIMなどの遺

伝子型があります。IMP-1型が一番多いと思います。

5,6 年前、広島から新しい耐性菌 ISMRK という報告がありました。こ

れは IPMがSですが、MEPMがRになるK. pneumoniae です。この菌は

カルバペネムを IPM で代表して測定していると IPM が S だと臨床はカル

バペネム感受性菌と判断し、MEPM を治療に使用してしまう可能性がある

が、MEPM は実際には効かない。こんな菌が広島、関西を中心に散見して

いると広島のグループから報告がありました。

2011 年 6 月~8 月の JANIS 検査部データで IPM とMEPM の両薬剤を

測定しているK. pneumoniae、約14,000株を調べてみましたが、IPMがS、

MEPMがRのK. pneumoniaeは28株、全体の0.2%が広島から報告され

た ISMRKで、5年前から全国に散見されていました。

この耐性菌は後に、荒川先生らの研究で IMP-6 であることがわかり、

ISMRKという名前は今ではなくなりました。

スライド 52 , 53

スライド 54

スライド 55

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このスライドは元群馬大学の池先生からお借りしたものです。カルバペネ

ム耐性変異株です。菌は P. aeruginosa ですが、IPM、MEPM の周囲に耐

性変異株が出現しています。

カルバペネムのみ耐性でメタロ-β-ラクタマーゼ陰性であれば耐性遺伝子

ではなく、D2porinの欠損による耐性であることが推定できるということを

お聞きしました。

感受性のパターンなどによってものすごくおおざっぱですが、その菌の耐

性機構や、耐性遺伝子型が推定できます。

薬剤耐性菌を正確に検出するためにはPCR による遺伝子の検出が大事だ

とは思います。特に疫学データとしては重要だと思います。しかし、忙しい

臨床検査室ではある程度の推定ができれば、臨床の先生には“おそらくこん

な耐性菌だと思います”と説明できれば十分ではないかと個人的には思って

います。

今日のまとめです。微生物検査も自動化が進んで、省力化・迅速化が可能

になってきました。しかし、微生物検査にとって自動機器は単なる道具であ

って、釣菌する菌の選択や結果の解釈はまだまだ技師の手作業によります。

臨床化学や血液のような自動化はまだまだ先の話になるのではないかと思

います。そのためには菌種の特徴を熟知しておくことが必要で、そのための

基礎知識が重要になります。

基礎と言っていますが、同時に古いことだけではなく、新しい技術の修得

や、新しい耐性菌などの情報も常にアンテナを張って収集しておくことが重

要です。これにより、より臨床に貢献できるデータを出すことが、我々の存

在感を高めることにもなりますし、臨床にとっても有用な検査室になると思

います。これからもみんなで努力して、いいデータを報告できるようになれ

ばいいなと思います。

以上です。

座長:村瀬先生

ありがとうございました。細菌検査の基礎ということで、同定から薬剤感受

性、そして耐性菌の検出までということで、知っておくべき基礎事項の解説

をしていただきました。特に強調されたのは、正しい成績を出すためにどう

すべきかということをお示ししていただいたのではないか。

スライド 56

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スライド 58

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座長:村瀬先生 せっかくの機会です。少し時間があるようですので、質問を受けてよろしいですか。では、どなたか質問

ある方はございますか。特に経験 1、2 年の方と先生は言っておりましたが。十分分かったでしょうか。 ないようですね。では、私のほうから。 <質問1:村瀬先生>

まず同定のところですが、正しい成績を確認することが大事だということです。大きな東京大学ではいろ

いろな培地、試薬等が準備されると思います。中小病院で、実際にはどういうことが最低正しいという根拠

としたらいいのでしょうかという質問が一つ。 <回答1:佐藤先生> 先生がいわれたように自動機器があって、なおかつキットや培地を準備するのは、検査技師個人としては

準備したいという気持ちは十分あると思いますが、なかなか上が理解してくれない。いい機械があるのに、

なぜそんなものを買うんだといわれる施設もあると思います。ただ、正しいデータを出すためにということ

で、最低限、確認培地の数種類を準備することによってある程度のことは解決できるのではないかと思いま

す。 ただ、確認培地で解決できることは日常よく出てくる菌だと思う。そこから先は、地域連携もありますが、

そこをやってくれる仲間をつくっておくことが一番重要ではないかと思います。 座長:村瀬先生 先生の講演の中にヒントがありました。先生は日臨技で研究班をやられていまして、精度管理をやってお

られました。一つは外部精度管理という他のところではどういうことをしているか。データが出ているかと

いう比較をすることも一つではないか。先生がお示しになったので、これがヒントになるのかなと思いまし

た。 <質問2:村瀬先生> それから、もう一つは CLSI がよく基準を変えます。毎年のように。その根拠はどうなのでしょうか。と

いうか、変わったからといってすぐに臨床に移すのか、どういうふうにしてお知らせしているかお聞きした

い。 <回答2:佐藤先生> まず根拠ですが、今、臨床微生物学会のほうでも国際委員会、三鴨先生、石井先生、舘田先生あたりに CLSIの会議に出席していただいて、いろいろな情報を持ってきてもらって、微生物学会のホームページにも出て

います。やはりいろいろなところから根拠になる膨大なデータを出して、その中で会議をして、これはブレ

ークポイントを変えてもいいのではないかということです。詳細は分かりませんが、きちんとした裏付けと

いうか、膨大なデータがあっての話だと思います。 あと、毎年のように自施設で取り入れるかが一番の問題です。今、日本のほとんどの施設が CLSI で判定

している以上は、本来は変えるべきだと思います。ただ、思うだけで、手作業であれば大変でもそれで判定

すればいいのですが、今はほとんどシステムです。システムを変えるにはお金もいろいろなものが要ります。

そこに追いついていかない。そうであればあまりにも大幅に変わってシステムが追いつかないときには、臨

床のほうに、実は今こう変わっています、うちでは去年の判定基準を使っていますみたいな形で、とにかく

臨床にお知らせを出しておくことは必要だと思います。 座長:村瀬先生 ということで、臨床へ報告することは大事だということですね。ありがとうございます。 司会から二つは質問しましたが、そのほか、それに関してこういう意見があるよというのはございますか。 <質問3:質問者> 一つ私が困っていることですが、当院でAmpC産生過剰タイプと思われるSerratia spp.とかEnterobacter spp.が実はよく検出されています。これ自体問題ですが、うちは IPM を院内で採用していません。メロペ

ンとフィニバックスを使っています。申し訳ないですが、臨床には AmpC 産生過剰タイプと報告していま

すが、チエナム耐性なので、CMZ は当然基準として見ていますが、CMZ が 32μg/mL 以上となっています

が、あえて CRE の報告をしていません。保菌の患者さんがほとんどというのが実例なのであれですが、要

は CPE と CRE で似たような意味で実は全然中身が違う。

Q&A

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細菌検査の基礎

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その辺、特に染色体上にコードされている AmpC 産生過剰株の場合は、今の感染症法では感染が分かった

段階で報告対象になります。そうすると意外と膨大な菌数が出てくると思います。ほかの施設さんはまじめ

にやっているかと思いますが、私は臨床側とやり取りして、うちでは IPM の耐性が結構多いものですから、

IPM の場合はあえてしていない部分があります。そういうところはどのように考えていますか。 <回答3:佐藤先生> 先ほどデータをお示ししたように IPM と CMZ でひっかけますと、ほとんどの場合は言われたように

AmpC の過剰産生にひっかかってくると思います。ただこれは優等生的回答ですが、起因菌であれば、ほと

んどが保菌であれば当然かまいませんが、法律で決まっている以上、最低法律は守る必要はあるかなと。 実際は先生がいわれていることはそのとおりだと思うので、今 CRE で報告になっていますが、すぐにはな

らないと思います。最終的にはどうやって検査をするかは別にして、CPE が基準になるべきではないかと思

います。 質問者 うちの結論は重心(重症心身障害者)の患者さんが多いので、みんな保菌で鼻腔とか、喀痰からもほんの

少数という形なので、起因菌扱いになっていないので報告していない事例がすべてです。今後、CRE と CPEの明確なところが必要なのかなと個人的には思っています。 佐藤先生 法律的にいいか悪いかは別にして、院内でしっかりそういうコンセンサスが得られていれば。日本でどれ

ぐらいあるか疫学も大事ですが、それ以上に院内に広げないことが大事です。臨床側とそれがうまくできて

いれば、大きい声では言えませんが、個人的にはいいのではないかと思います。 質問者 必ず AmpC 産生過剰株というコメントをコミットして報告は返しているので、そこは臨床側とのコンセン

サスをとっているので。 佐藤先生 本来であれば、それが一番いい形なのかもしれません。 質問者 話がずれてしまったかもしれませんが、ありがとうございます。 座長:村瀬先生 よろしいですか。そのほかございますか。 では、ないようですので、今日は佐藤先生に非常に分かりやすく、同定から薬剤感受性、耐性菌の検出ま

でということで、基礎知識を教えていただきました。先生はこれからもまだまだ活躍されると思いますので、

ぜひもう一度といいましょうか、皆さんにこういう機会に宣伝していただければと思います。ますますのご

活躍をお祈りしたいと思います。本当にありがとうございました。

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この印刷物は第 27 回日本臨床微生物学会総会・学術集会(2016 年/仙台)の共催セミナー4 の記

録として、村瀬 光春先生、佐藤 智明先生にご協力をいただき制作致しました。校正その他、

全て制作者の責任において実施しております。不手際がございましたら、ご容赦いただきます

ようお願い申し上げます。 2016 年 5 月 企画・制作/極東製薬工業株式会社

本記録集に掲載されておりますスライド・写真・文章の無断転載、複写を固く禁じます。

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