12
題目 T o i r o P B L e d u c a t i o n a l & r e s e a r c h p r o g r a m a b o u t a r c h i t e c t u r a l m a n u f a c t u r i n g b a s e d o n r e g i o n a l c o l l a b o r a t i o n a n d d i f f e r e n t f i e l d c o l l a b o r a t i o n - - P r a c t i c e s a n d s t u d i e s o n T o i r o P r o j e c t - - Y u i c h i S H I M O K A W A , Y a s u h i r o S U G I M O T O , M o t o f u m i M A R U I , T a t s u r u S U D A , S a t o s h i T A K E U C H I Toiro プロジェクトは 2012 年度に建築系学生達によってものづくりサークルとして 発足し、各種の地域連携活動を実践してきた。その中で、建設業界における Building Information Modeling(BIM)技術の普及状況に鑑み、その教育や研究のケーススタデ ィの場として Toiro プロジェクトを位置づけてきた。すなわち、3 次元 CAD BIM ソフトの活用、3 次元データによるシミュレーションやコラボレーションを促進しな がら、総合的に考える力を育てることを目的としている。Toiro プロジェクトは学年 毎に個別のプロジェクトが存在するが、学年間の交流が盛んであり、多学科や外部の 人々との連携も多く、豊かなコミュニティが築かれつつある。本報では、Toiro プロ ジェクトの活動や組織運営、およびその成果についての考察を述べる。 キーワード:地域連携、デザイン、ものづくり、ことづくり、BIM Toiro Project have been organized as a design & manufacturing circle by students of department of architecture and practiced some projects with regional collaboration since 2012. In the process, considering spread of Building Information Modeling (BIM) technology, we positioned the Project as a case study platform about education and research of BIM. That is, while cultivating applying 3D-CAD or BIM software, computational simulation and collaboration, the aim is to let students develop their ability of thinking comprehensively. Though Toiro Project have separate projects on each grade, there are active interchange between different grades and lots of collaboration with another department or regional people, which have created abundant community. In this paper, activities and organizational management of Toiro Project and observation on the results are described. Keywords:regional collaboration, design, manufacturing, value creation, BIM Toiro プロジェクトは、実在する地域のニーズに対して企画提案からデザイン、ものづくりまでを総 217 建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム- Toiro プロジェクトの実践と考察- KIT Progress 23

建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

論文 KIT Progress №23

題目

建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり

教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察- PBL educational & research program about architectural manufacturing

based on regional collaboration and different field collaboration -- Practices and studies on Toiro Project --

下川雄一、杉本康弘、円井基史、須田 達、竹内 諭

Yuichi SHIMOKAWA, Yasuhiro SUGIMOTO, Motofumi MARUI, Tatsuru SUDA, Satoshi TAKEUCHI

Toiroプロジェクトは2012年度に建築系学生達によってものづくりサークルとして

発足し、各種の地域連携活動を実践してきた。その中で、建設業界における Building Information Modeling(BIM)技術の普及状況に鑑み、その教育や研究のケーススタデ

ィの場として Toiro プロジェクトを位置づけてきた。すなわち、3 次元 CAD や BIMソフトの活用、3 次元データによるシミュレーションやコラボレーションを促進しな

がら、総合的に考える力を育てることを目的としている。Toiro プロジェクトは学年

毎に個別のプロジェクトが存在するが、学年間の交流が盛んであり、多学科や外部の

人々との連携も多く、豊かなコミュニティが築かれつつある。本報では、Toiro プロ

ジェクトの活動や組織運営、およびその成果についての考察を述べる。 キーワード:地域連携、デザイン、ものづくり、ことづくり、BIM

Toiro Project have been organized as a design & manufacturing circle by students of department of architecture and practiced some projects with regional collaboration since 2012. In the process, considering spread of Building Information Modeling (BIM) technology, we positioned the Project as a case study platform about education and research of BIM. That is, while cultivating applying 3D-CAD or BIM software, computational simulation and collaboration, the aim is to let students develop their ability of thinking comprehensively. Though Toiro Project have separate projects on each grade, there are active interchange between different grades and lots of collaboration with another department or regional people, which have created abundant community. In this paper, activities and organizational management of Toiro Project and observation on the results are described. Keywords:regional collaboration, design, manufacturing, value creation,

BIM

1.はじめに

1.1 背景と目的

Toiroプロジェクトは、実在する地域のニーズに対して企画提案からデザイン、ものづくりまでを総

217建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

KIT Progress №23

Page 2: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

題目

合的に実施することを目的として、2012年度に建築系の学生達(当時 3年生)によって自律的に組織さ

れた。当時の学生達が Toiroの活動を開始した思いとして以下の点が挙げられる。

・授業だけではなく、もっと実践的な活動をしながら建築を学びたい

・他学系には実践的なプロジェクト(夢考房プロジェクト等)があるが、建築にはない

・自らの力で課題を設定し(仕事を作り)、組織づくりも含めて何かを達成する活動をしたい

発足後、工大祭での LC前広場ライトアップ展示やイベント実施、野々市市情報交流館カメリア(以下、

カメリア)との連携による「カメリアまつり」の空間演出、同じくカメリアとの連携による「ライトア

ップ inカメリア」、という3つの空間演出の企画・デザイン・制作・運営を立て続けに実施した。

2013年度には、新たに津幡町や金沢森林組合と連携し、津幡町の公園に建つ木造東屋プロジェクトを

実施した。デザインのみならず、学生自身がマネジメントや構造計算、施工も実践した。

2014年度には、更に新たに、3年生の学生達が設計班と都市班に分かれ、設計班は公共施設内に建つ

木造休憩所の設計プロジェクト、都市班は野々市市の各種行事の活性化や問題解決に取り組んだ。

一方、4年生や大学院生は、地元の建築家や異分野の学生同士の連携によって BIM(Building

Information Modeling)1)技術を活用した新築設計プロジェクトを進めている。

以上のように、Toiroプロジェクトは多様なデザインやものづくり活動を展開している。図1は 2014

年度の活動の全体像をまとめたものである。本報では、1,2年生混合による活動群を第 1フェーズ、3

年生の活動群を第 2フェーズ、4年生と大学院生による活動群を第 3フェーズ、としてそれぞれを位置

づけ、現在の活動内容を整理・考察し、その意義や今後の課題などを確認する。

1.2 既往の特徴的な教育プログラム事例の整理

表1は他大学での特徴的な建築教育の取り組み事例である。①~⑧は日本建築学会教育賞(教育貢献)

を受賞しており、そのうち①~⑥は実在する地域や特定の建築群を対象としたものであり、地域に深く

関わりながら、特性把握や課題分析、具体的な提案を実施している。中には、①、④、⑥のように、比

較的小規模なものではあるが、設計から実際の建設作業まで学生達が実施しているものもある。また、

より工学的なものづくり教育という点では⑦の事例が特徴的である。⑧も同様にものづくり的な視点で

はあるが、建築教育でこれまで弱いとされてきた建築生産分野において、建築プロジェクトの上流から

下流までを疑似体験するユニークな取り組みといえる。

①~⑧の取り組みは、まちづくり、設計、環境、構造、生産など分野は大きく異なるが、「実際に体験

図1 Toiroプロジェクトの 2014年度活動マップ

第1フェーズ

第2フェーズ

第3フェーズ

218 建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

Page 3: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

題目

合的に実施することを目的として、2012年度に建築系の学生達(当時 3年生)によって自律的に組織さ

れた。当時の学生達が Toiroの活動を開始した思いとして以下の点が挙げられる。

・授業だけではなく、もっと実践的な活動をしながら建築を学びたい

・他学系には実践的なプロジェクト(夢考房プロジェクト等)があるが、建築にはない

・自らの力で課題を設定し(仕事を作り)、組織づくりも含めて何かを達成する活動をしたい

発足後、工大祭での LC前広場ライトアップ展示やイベント実施、野々市市情報交流館カメリア(以下、

カメリア)との連携による「カメリアまつり」の空間演出、同じくカメリアとの連携による「ライトア

ップ inカメリア」、という3つの空間演出の企画・デザイン・制作・運営を立て続けに実施した。

2013年度には、新たに津幡町や金沢森林組合と連携し、津幡町の公園に建つ木造東屋プロジェクトを

実施した。デザインのみならず、学生自身がマネジメントや構造計算、施工も実践した。

2014年度には、更に新たに、3年生の学生達が設計班と都市班に分かれ、設計班は公共施設内に建つ

木造休憩所の設計プロジェクト、都市班は野々市市の各種行事の活性化や問題解決に取り組んだ。

一方、4年生や大学院生は、地元の建築家や異分野の学生同士の連携によって BIM(Building

Information Modeling)1)技術を活用した新築設計プロジェクトを進めている。

以上のように、Toiroプロジェクトは多様なデザインやものづくり活動を展開している。図1は 2014

年度の活動の全体像をまとめたものである。本報では、1,2年生混合による活動群を第 1フェーズ、3

年生の活動群を第 2フェーズ、4年生と大学院生による活動群を第 3フェーズ、としてそれぞれを位置

づけ、現在の活動内容を整理・考察し、その意義や今後の課題などを確認する。

1.2 既往の特徴的な教育プログラム事例の整理

表1は他大学での特徴的な建築教育の取り組み事例である。①~⑧は日本建築学会教育賞(教育貢献)

を受賞しており、そのうち①~⑥は実在する地域や特定の建築群を対象としたものであり、地域に深く

関わりながら、特性把握や課題分析、具体的な提案を実施している。中には、①、④、⑥のように、比

較的小規模なものではあるが、設計から実際の建設作業まで学生達が実施しているものもある。また、

より工学的なものづくり教育という点では⑦の事例が特徴的である。⑧も同様にものづくり的な視点で

はあるが、建築教育でこれまで弱いとされてきた建築生産分野において、建築プロジェクトの上流から

下流までを疑似体験するユニークな取り組みといえる。

①~⑧の取り組みは、まちづくり、設計、環境、構造、生産など分野は大きく異なるが、「実際に体験

図1 Toiroプロジェクトの 2014年度活動マップ

第1フェーズ

第2フェーズ

第3フェーズ

題目

する」「目の前のモノや状況とリアルに対峙する」という考え方は共通して存在する。その点で、実際に

地域に出て、現実の課題に取り組む Toiroプロジェクトの活動と類似した性質が見られる。⑨、⑩は BIM

技術に関する取り組みであり、4年生や大学院生が取り組む BIM活用プロジェクトと類似した性質があ

るが、いずれも実際の建設を前提としたものではない。

表1 他大学における建築教育の特徴的な取り組み事例

① 栃尾表町住民と新潟大学工学部建設学科学生との協働によるまちづくり(新潟大学)2)

伝統的なまちなみ景観の継承とその実地教育を目的として、地元固有の雁木空間の継ぎ直しを毎年の建築計画演習授業に組み込ん

だ教育プログラム。参加学生全員が、コンセプト作成、住民との連携、デザインとプレゼンテーション、材料の選択、ディテールの工夫、建設という一連の流れを経験し、建築家や大工、森林組合や工務店等の多くの専門家と連携している点が特徴。

② 大阪長屋の再生 ストック活用力育成プログラム(大阪市立大学)3)

複数の教員が連携し、大阪で戦災を免れた意匠的特徴を持つ木造長屋の調査・分析と再生計画を学部 4年間の授業や研究活動の中に様々な形で取り込む。主に住文化史、まちづくり論、住空間設計という3分野からのアプローチであり、空き家の活用、商業利用活性化、まちなみ景観の向上、耐震性や安全性の解決、住み手や所有者との合意形成などが適材適所で教育・研究に組み込まれる。

③ 岡山県高梁市における「シャレットワークショップ」手法による大学連携まちづくり教育への継続的取り組み(明治大学)4)

小林正美研究室において 20年間続けられてきた、岡山県高梁市を対象としたシャレットワークショップによる町並み景観や居住環境改善に関する教育・研究プログラム。短期間、現地に入り込んで調査・分析・解決策の提案を地域住民や各種の専門家とともに集

中的に実施する。まちづくりの専門家を養成する実践的な教育プログラムとして高梁市以外の多くの都市でも展開される。

④ フィールドワーク・デザインビルドと各種コラボレーションを取り入れた教育活動の実践(日本大学)5、6)

海の家をテーマとして、授業や研究、課外活動を横断しながら、学生達が建築の多様な側面を学ぶ総合的な建築教育プログラム。

初期の段階は設計製図授業での海の家の設計提案、その後、全国の海の家の観察調査や特性研究、海の家の資料のアーカイブ化へと発展。その後、アルミや竹などを使用した海の家の設計・建設を学生自らが実践する、ものづくり指向のプロジェクトへと発展。

⑤ スタジオ教育を核とする高度専門建築家養成プログラム(横浜国立大学大学院)7)

日本の大学院での建築教育が研究者・教育者養成型であることを受け、欧米型の建築家教育に特化したスタジオ制のプログラムを日本で初めて導入。海外の交流を基本とし、グローバルな都市文化の研究教育と横浜という地域性を活かしたローカルな都市文化の研究を併せ持つ。地域リサーチから、産業構造や都市空間構造の理解を経て、新しい都市や産業、住まい等を提案するプログラム。

⑥ キャンパス・エコビレッジの創造のための農・環境・建築創造教育(日本大学)8)

2001年に大学院教育・研究の拠点施設整備の一環として、建築、造園、生物学の研究者が連携し、農業、建築、自然環境創造のための総合的なデザイン実践の場作りが行われた。学生達は土や木によるエコ建築や環境調整装置などを自分達で製作し、植物を育て、

食し、自然素材の持つ環境効果や自然のサイクルなどを実践的に学ぶ。キャンパスを巨大な学び、実験の場としたプログラム。

⑦ 創造性を育む体験的建築教育-空間と構造を結ぶものづくり教育の試み-(日本大学)9、10)

建築構造を専門とする教員群により実践されてきた、構造的(科学的)視点に基づいたセルフビルドでの実物大の建築構造体づく

りの教育プログラム。コンテスト+ワークショップによる体験的な空間デザイン・構造教育と、研究開発+セルフビルドによる先端的空間構造の体験教育の2つ枠組みが実施されている。ものづくりに対する、実体的な認識力、判断力や総合力の養成がねらい。

⑧ ロールプレーイングによる建築プロジェクトマネジメント実習(東洋大学)11)

建設プロジェクトのマネジメント手法の教育プログラム。建設プロジェクトにおける多様な職能を理解してもらうため、簡易な制作物(模型、オブジェ、建築部分の実寸模型等)の設計・制作において、役割分担やその入れ替えを図り、実際の建築プロジェクトの工程(コンペや入札、設計図書、契約、施工図、コスト管理、作業計画、職人技能など)を仮想的に疑似体験させる。

⑨ 3D-CAD及び解析ソフトを活用した包括的建築教育プログラム(熊本大学)12)

3年生の授業における既存建築物の改修を提案する課題では、意匠系、構造系、環境系の教員が連携し、総合的な改修計画案の作成と評価を行う形をとっている。BIM対応 CADソフトでまず設計案を提案し、その後、構造解析グループと光環境シミュレーショングル

ープに分かれ、それぞれで解析と考察を行い、総合的な設計案の検討および提案を行う教育を展開している。

⑩ BuildLiveX(BLX)13)

BLXは、特定の教育プログラムではなく、2009年から実施されている BIM方式での建築設計競技である。金沢工業大学でも 2010

年から 2012年まで計 3回参加。BIMの活用方法は参加者が独自に設定する。金沢工業大学チームでは主に下川研究室、西村研究室、円井研究室に所属する学生達が計画・意匠、環境、構造と分野横断で連携し、4日間の集中的な 3次元設計に取り組んだ。

2.第 1フェーズ(1、2年生)の活動

2.1 概要

第 1フェーズの活動では 1年生と 2年生がペアとなって活動する。その目的は、2年生による 1年生

の指導、及び 2年生の企画力、技術力、マネジメント力の更なる研鑽を図ることにある。3年生、大学

院生、教員も適宜アドバイスをし、地域連携プロジェクトとしての一定の質確保を図っている。ここで

は、継続的に実施している「カメリアまつり」と「ライトアップ inカメリア」を紹介する。

(1)「カメリアまつり」における空間デザイン

219建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

Page 4: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

題目

野々市市情報交流館カメリア、野々市こどもセンターと連携した空間デザインプロジェクトである。

野々市市役所横の公園で実施される「カメリアまつり」において、学生達は、子供達が楽しむための空

間装置をデザイン・制作する。6月から活動を開始し、基本方針を作成後、7月に具体的なデザイン検討、

8月上旬に実施設計と材料発注、8月後半から 9月中旬にかけて制作を行い、9月後半に本番を迎える。

デザイン検討やプレゼンテーションにおいては 3次元 CADを用いた表現を必須としている。空間デザイ

ンは 2年生と 1年生がペアを組んで複数チームに分かれて実施し、絞り込みの段階ではコンペ方式でア

イデアを競い、カメリアのディレクター・教員・上級生で審査し、最終案を決定する。情報系のプロジ

ェクトと連携して子供達の動きに合わせて映像や光が変化するような仕組みを設けたこともあり、異分

野の学生間コラボレーションの実地体験の場にもなっている。図2に 2014年度のデザイン案の CADモデ

ル、現地での制作風景、イベント実施風景を示す。

巨大遊具オブジェの 3Dモデル 模型を見ながらの設営風景 イベントの実施風景

図2 2014年度「カメリアまつり」における空間装置のデザイン・制作風景

(2)「ライトアップ inカメリア」における空間演出

カメリアまつりと同じ連携体制でクリスマスの時期に実施している空間デザインプロジェクトである。

野々市市庁舎内の文化活動棟に学生達がデザイン・制作したオブジェ等を展示し、子供達に楽しんでも

らう。「カメリアまつり」が 2年生主導であるのに対し、ここではできる限り 1年生が中心となってプロ

ジェクトを進める。10月から活

動を開始し、基本方針を作成後、

11月中旬までに具体的なデザ

インを検討し、カメリアまつり

と同様にコンペ方式で最終案を

絞り込む。その後、実施設計と

材料発注、制作を進め、本番を

迎える。図3に 2014年度のオブ

ジェ展示風景を示す。

2.2 成果と分析

以上の 2つの活動について 1,2年生にアンケートを実施した結果を図4に示す。この結果から、全体

的に遣り甲斐を持って取り組んでいる状況や先輩への相談が有効に作用していることが分かる。「ライト

アップ inカメリア」は学生の反応が鈍いが、クリスマスを意識した装飾的なデザイン活動が建築的な学

びからやや外れていることによるものと考えられる。この他、Toiroの活動について関わりが深いと思

う授業科目をアンケートしたところ、「建築設計」(2年次)、「建築 CAD」(2年次後学期)、「建築学概論」

(1年次前学期)、「構造力学」(2年次開講)の順に回答が多かった。「構造力学」の回答は、カメリアま

つりの巨大な空間装置のデザイン・制作を実施したことによるものと考えられる。

図3 2014年度「ライトアップ inカメリア」の展示風景

220 建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

Page 5: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

題目

野々市市情報交流館カメリア、野々市こどもセンターと連携した空間デザインプロジェクトである。

野々市市役所横の公園で実施される「カメリアまつり」において、学生達は、子供達が楽しむための空

間装置をデザイン・制作する。6月から活動を開始し、基本方針を作成後、7月に具体的なデザイン検討、

8月上旬に実施設計と材料発注、8月後半から 9月中旬にかけて制作を行い、9月後半に本番を迎える。

デザイン検討やプレゼンテーションにおいては 3次元 CADを用いた表現を必須としている。空間デザイ

ンは 2年生と 1年生がペアを組んで複数チームに分かれて実施し、絞り込みの段階ではコンペ方式でア

イデアを競い、カメリアのディレクター・教員・上級生で審査し、最終案を決定する。情報系のプロジ

ェクトと連携して子供達の動きに合わせて映像や光が変化するような仕組みを設けたこともあり、異分

野の学生間コラボレーションの実地体験の場にもなっている。図2に 2014年度のデザイン案の CADモデ

ル、現地での制作風景、イベント実施風景を示す。

巨大遊具オブジェの 3Dモデル 模型を見ながらの設営風景 イベントの実施風景

図2 2014年度「カメリアまつり」における空間装置のデザイン・制作風景

(2)「ライトアップ inカメリア」における空間演出

カメリアまつりと同じ連携体制でクリスマスの時期に実施している空間デザインプロジェクトである。

野々市市庁舎内の文化活動棟に学生達がデザイン・制作したオブジェ等を展示し、子供達に楽しんでも

らう。「カメリアまつり」が 2年生主導であるのに対し、ここではできる限り 1年生が中心となってプロ

ジェクトを進める。10月から活

動を開始し、基本方針を作成後、

11月中旬までに具体的なデザ

インを検討し、カメリアまつり

と同様にコンペ方式で最終案を

絞り込む。その後、実施設計と

材料発注、制作を進め、本番を

迎える。図3に 2014年度のオブ

ジェ展示風景を示す。

2.2 成果と分析

以上の 2つの活動について 1,2年生にアンケートを実施した結果を図4に示す。この結果から、全体

的に遣り甲斐を持って取り組んでいる状況や先輩への相談が有効に作用していることが分かる。「ライト

アップ inカメリア」は学生の反応が鈍いが、クリスマスを意識した装飾的なデザイン活動が建築的な学

びからやや外れていることによるものと考えられる。この他、Toiroの活動について関わりが深いと思

う授業科目をアンケートしたところ、「建築設計」(2年次)、「建築 CAD」(2年次後学期)、「建築学概論」

(1年次前学期)、「構造力学」(2年次開講)の順に回答が多かった。「構造力学」の回答は、カメリアま

つりの巨大な空間装置のデザイン・制作を実施したことによるものと考えられる。

図3 2014年度「ライトアップ inカメリア」の展示風景

題目

実際の建築設計・施工の業務では、各種のコミュニケーション、3次元 CADによるアイデア表現やプ

レゼンテーション、異分野・異業種とコラボレーション、プロジェクト管理(スケジューリング、役割

分担、部材調達・管理、コスト管理)、などが重要であるが、それらのエッセンスが簡易的な形で総合的

に経験できることが、全体的な遣り甲斐の向上に繋がっていると考えられる。

図4 2014年度1・2年生へのアンケート結果(N=17)

3.第2フェーズ(3年生)の活動

3.1 概要

2014年度は 3年生に都市デザインを志向する学生が多く、設計班と都市班の2つに分かれて活動する

ことになった。折しも、学内の連携推進室主催による“つぶやきを形にするまちづくり学校”(以下、つ

ぶまち)が実施され、都市班の学生達の参加によって地域のステークホルダーとの交流が活発化した。

以下に、設計班と都市班の各活動内容を紹介する。

(1)設計班による木造休憩所設計

野々市市生涯学習課から富奥防災コミュニティセンターの木造休憩所設計の機会を頂いた。参加者は

設計班の学生 6名。全員が各々の設計案を作成し、生涯学習課職員と地元の設計事務所のスタッフに評

価を受けながら徐々に設計案を絞り込み、最終案を決定した。その後、学生達は設計事務所スタッフか

ら指導を受けながらチームとして詳細設計を進めた。夏季休暇中にはインターシップとして設計事務所

に通い、施工業者も交えた建設方法の検討に参加した。施工現場も見学を重ね、建設工程も学んだ。図

5に設計案のパース、模型、施工見学風景、竣工建物をそれぞれ示す。

採用案の3次元モデルパース 3次元プリンターによる模型 施工現場見学 完成した休憩所

図5 2014年度 3年生設計班の木造休憩所設計プロジェクトの成果

(2)都市班による地域交流と活性化活動

都市班の学生 7名が地域(野々市市)をより深く理解し、その活性化を図るための活動を実施した。

主な活動は①“つぶまち”への参加、②地域の祭礼行事(虫送り、じょんからまつり)への参加、③野々

なかった

あまり感じ

感じた

感じた

かなり

11

6 4

10

3

11

6

8 8

1

16

1

Q1:「カメリアまつり」

では活動の意義を感じましたか?

Q2:「ライトアップ in カ

メリア」では活動の意義を感じましたか?

Q3:活動を進める上で

先輩への相談は有効でしたか?

なかった

あまり感じ

感じた

感じた

かなり

でなかった

あまり有効

有効だった

有効だった

かなり

していない

あまり関係

している

普通に関係

している

かなり関係

Q4:Toiro の活動は専

門分野の学びに関係していると思いますか?

Q5:今後も Toiro プロ

ジェクトの活動を続けたいですか?

いいえ

検討中

はい

221建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

Page 6: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

題目

市シャルソンの企画支援と参加、④「北国街道“野々市の市”」でのアンケート活動と運営支援、である。

“つぶまち”には地域住民も多数参加しており、人脈作りとともに、“まちへの思い”を可視化する基礎

技術を学んだ(図6左)。それらの活動が基盤となり、②~④の活動へと至った。③では学生達がフィー

ルドワーク調査に基づいて提案したルートマップ作成(図6中)やフォトラリーイベントが採用され、

イベントの活性化に貢献した(図6右)。④では、イベント参加者が少ない原因を探るためアンケートを

実施し、その結果を主催者側にフィードバックした。

「つぶやきを形にするまちづくり学校」の風景 野々市シャルソンルートマップ 野々市シャルソンの記念撮影

図6 2014年度 3年生都市班の活動シーンと成果

3.2 成果と分析

図7は 3年生全員へのアンケート結果である。Q1,Q2,Q5の回答から、多くの学生が遣り甲斐を感じ

ており、且つ専門分野との関係性を意識しながら活動できたことが分かる。また、Q3の回答から半数以

上の学生が後輩に助言する機会を持っていること、Q4の回答から後輩への助言を自分のためとして認識

している学生が多いこと等が分かる。更に、Q6の回答から、より高い意識を持って地域連携に取り組み

たいと考えている学生が多いことも明らかになった。

図7 2014年度 3年生へのアンケート結果(N=13)

設計班の活動においては、3年生の学生達が小規模ながらも1つの建物の企画設計から竣工まで一連

の流れを経験できたことが大きな成果である。地域の文脈に基づいたコンセプト作り、企画・基本・実

11

1 1

3 4 4

2

・建築総合演習:12件

・建築 CAD・空間メディア:9件

・都市まちづくり論:5件

・構造力学:3件

・プロジェクトデザイン:1件

・建築法規:1件

計 31件

・後輩達がやりたいことを実践できること:4件

・視野を広げ、多様な活動に取り組む:4件

・より緊密な地域との連携:4件

・プロジェクトの成果物の質向上:4件

・地域の技術者(建築家、職人)との連携:2件

・メンバーのより高い意識の啓発:2件

・CADの更なる活用:2件

・その他:7件 計 27件

7

5

1

・後輩の助けになり成長を確認できる:7件

・自分の力になる・別の意見が聞ける:7件

・自分の成長の評価尺度になる:3件

・単純に楽しい:2件

計 19件

Q1:3年生での活動内容に意義を感じましたか?

Q4:後輩への助言について、どのような意義を感じますか?(自由記入、複数回答可)

Q3:後輩への指導や助言をする機会はありましたか?

Q2:Toiro の活動は専門分野の学びに関係していると思いますか?

Q5:活動と関係していたと思う授業

科目は?(自由記入、複数回答可)

Q6:今後のToiroの活動に期待したいこと、改善し

たいことは?(自由記入、複数回答可)

かなり 感じた あまり 感じた 感じな

かった

かなり 関係し あまり 関係し ている 関係し ている てない

かなり まあ 少し 全く あった あった あった なかった

222 建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

Page 7: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

題目

市シャルソンの企画支援と参加、④「北国街道“野々市の市”」でのアンケート活動と運営支援、である。

“つぶまち”には地域住民も多数参加しており、人脈作りとともに、“まちへの思い”を可視化する基礎

技術を学んだ(図6左)。それらの活動が基盤となり、②~④の活動へと至った。③では学生達がフィー

ルドワーク調査に基づいて提案したルートマップ作成(図6中)やフォトラリーイベントが採用され、

イベントの活性化に貢献した(図6右)。④では、イベント参加者が少ない原因を探るためアンケートを

実施し、その結果を主催者側にフィードバックした。

「つぶやきを形にするまちづくり学校」の風景 野々市シャルソンルートマップ 野々市シャルソンの記念撮影

図6 2014年度 3年生都市班の活動シーンと成果

3.2 成果と分析

図7は 3年生全員へのアンケート結果である。Q1,Q2,Q5の回答から、多くの学生が遣り甲斐を感じ

ており、且つ専門分野との関係性を意識しながら活動できたことが分かる。また、Q3の回答から半数以

上の学生が後輩に助言する機会を持っていること、Q4の回答から後輩への助言を自分のためとして認識

している学生が多いこと等が分かる。更に、Q6の回答から、より高い意識を持って地域連携に取り組み

たいと考えている学生が多いことも明らかになった。

図7 2014年度 3年生へのアンケート結果(N=13)

設計班の活動においては、3年生の学生達が小規模ながらも1つの建物の企画設計から竣工まで一連

の流れを経験できたことが大きな成果である。地域の文脈に基づいたコンセプト作り、企画・基本・実

11

1 1

3 4 4

2

・建築総合演習:12件

・建築 CAD・空間メディア:9件

・都市まちづくり論:5件

・構造力学:3件

・プロジェクトデザイン:1件

・建築法規:1件

計 31件

・後輩達がやりたいことを実践できること:4件

・視野を広げ、多様な活動に取り組む:4件

・より緊密な地域との連携:4件

・プロジェクトの成果物の質向上:4件

・地域の技術者(建築家、職人)との連携:2件

・メンバーのより高い意識の啓発:2件

・CADの更なる活用:2件

・その他:7件 計 27件

7

5

1

・後輩の助けになり成長を確認できる:7件

・自分の力になる・別の意見が聞ける:7件

・自分の成長の評価尺度になる:3件

・単純に楽しい:2件

計 19件

Q1:3年生での活動内容に意義を感じましたか?

Q4:後輩への助言について、どのような意義を感じますか?(自由記入、複数回答可)

Q3:後輩への指導や助言をする機会はありましたか?

Q2:Toiro の活動は専門分野の学びに関係していると思いますか?

Q5:活動と関係していたと思う授業

科目は?(自由記入、複数回答可)

Q6:今後のToiroの活動に期待したいこと、改善し

たいことは?(自由記入、複数回答可)

かなり 感じた あまり 感じた 感じな

かった

かなり 関係し あまり 関係し ている 関係し ている てない

かなり まあ 少し 全く あった あった あった なかった

題目

施設計の各段階の意味や質の違い、3次元設計による設計案の具体化方法、設計と施工の擦り合わせ手

法、等を実践的に学んだ。また、軸組や屋根形状の複雑さから、3Dプリンターや模型切削器等の造形ツ

ールを活用し、多様なデザイン検討技術の習得にも繋がった。

都市班の活動において評価すべき点は、4月の活動開始時点では全く想定されていなかった活動を、

学生達自身が積極的に地域のイベントやその主催者側に働きかけることで具体化していった点である。

いずれのイベントにおいても、自ら参加することで運営側と参加者側の両側面からイベントの特性を把

握し、問題発見から解決に至るプロセス(もしくはその一部)を実践した。また、それらの活動の起点

となった“つぶまち”の存在も極めて重要であった。学生達は計 10回の講義やワークショップを通して

各種のワークショップ手法やファシリテート・スキルを多少なりとも身に付け、同時並行して、それら

を即実践に応用しながら活動していった。

4.第3フェーズ(4年生、院生)の活動

4.1 概要

(1) プロジェクトのねらい

BIMは大手建設会社を中心に徐々に普及しつつあるが、地方ではその変革の動きが弱い。このことか

ら、第 3フェーズの活動として、学生達が実際の設計プロジェクトに携わりながら、BIM活用の実験を

行うプロジェクトを 2014年初頭から開始した。学外の建築家と連携し、木造新築物件(延床面積 150

㎡程度の英会話塾)の設計~施工に大学院生や 4年生が参画し、プロジェクトを実践している。

(2) プロジェクトの体制

学生メンバーは、計画・意匠チームとして計画・意匠系研究室の大学院生と 4年生の計 8名、風環境解

析チームとして杉本研究室の 4年生数名、熱環境解析チームとして円井研究室の 4年生数名、構造設計・

解析チームとして須田研究室の 4年生 1名で構成される。基本的な設計指導は建築家が行い、計画・意匠

面での BIM活用は下川、熱環境解析は円井、風環境解析は杉本、構造設計・解析は須田が指導している。

連携する学外建築家にとっても BIMの技術や知識を得てもらう機会とした。施主にもプロジェクトの主

旨を理解してもらい、ほぼ全ての打ち合わせに計画・意匠チームの学生が参加している。また、BIMや

解析技術に詳しい実務者複数名を招致し、講演や意見交換を実施してきた。

(3)活動内容

本 BIMプロジェクトは大きく、以下の①~③の3つの側面で構成される。

① BIMソフト活用による設計案検討

計画・意匠チームで BIMソフトを活用した設計案検討を進めてきた(図8)。基本的には、学生達が BIM

ソフトを用いて設計案を作成し、建築家が講評を行うというサイクルを重ねた。打ち合わせを重ねるに

つれ、学生のソフト習熟度も上がり、3次元モデルを閲覧しながら設計案を検討したり、打ち合わせの

3Dモデルによる計画・意匠チームの打合せ 学生が BIMソフトで作成した設計案の例 施主へのプレゼンテーション風景

図8 計画・意匠チームと建築家による設計案検討

223建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

Page 8: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

題目

中で 3次元モデルを編集したりする頻度が増えていった。施主との打ち合わせでも、毎回、図面・3Dモ

デル(ウォークスルー表示)・模型の 3種類の表現媒体を学生達が準備し、各表現の参照のされ方を観察

することで、プレゼンテーション効果を高める工夫を重ねていった。

② 建築家の BIM導入支援

建築家は BIMソフトの初心者であったため、学生達が建築家への BIMソフトの講習会を数回に渡って

実施し、オリジナルマニュアルも作成した(図9左、中)。設計案の打ち合わせの際にも BIMソフトの機

能性について議論する機会が度々あったため、10時間程度の講習のみで建築家は基本設計レベルの BIM

ソフト活用ができるようになった。外部講師招致による BIMソフト活用の講演も実施し、関係者の知識

向上を図るとともに、地域の若手設計者にも参加してもらい、BIMコミュニティ形成の一助とした。

学生による建築家の BIMソフト講習 学生作成の BIMソフトのオリジナルマニュアル 外部講師による実施設計向け BIM講習会

図9 BIMソフト活用に関するスキルアップ活動

③ 環境シミュレーション交流会

環境シミュレーションチーム、建築家、計画・意匠チームの三者間で、情報交換やコラボレーション

を継続的に実施した。2014年 5月の第 1回で、杉本研究室の学生から流体解析ソフトによる風環境の解

析方法が提示されたことを機に、計画・意匠チームとのコラボレーションを開始した。その後、定期的

に環境シミュレーション交流会を実施する中で、外部講師招致による先進的な環境設計技術の講演や意

見交換も実施した(図10左)。コラボレーションの進展に伴い、建物周囲や開口部を通した室内外での

風の流れが可視化され、設計案検討の材料としていった(図10中)。また、円井研究室の学生による、

緑地がもたらす冷気流の特性や暑熱緩和に関する解析結果に基づいて、外溝計画における樹木や芝生の

設置検討を進めた(図10右)。

環境シミュレーション交流会 杉本研による建物内外の流速分布解析 円井研による冷気流の気温分布の解析

図10 BIMプロジェクトにおける環境シミュレーション系の活動

224 建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

Page 9: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

題目

中で 3次元モデルを編集したりする頻度が増えていった。施主との打ち合わせでも、毎回、図面・3Dモ

デル(ウォークスルー表示)・模型の 3種類の表現媒体を学生達が準備し、各表現の参照のされ方を観察

することで、プレゼンテーション効果を高める工夫を重ねていった。

② 建築家の BIM導入支援

建築家は BIMソフトの初心者であったため、学生達が建築家への BIMソフトの講習会を数回に渡って

実施し、オリジナルマニュアルも作成した(図9左、中)。設計案の打ち合わせの際にも BIMソフトの機

能性について議論する機会が度々あったため、10時間程度の講習のみで建築家は基本設計レベルの BIM

ソフト活用ができるようになった。外部講師招致による BIMソフト活用の講演も実施し、関係者の知識

向上を図るとともに、地域の若手設計者にも参加してもらい、BIMコミュニティ形成の一助とした。

学生による建築家の BIMソフト講習 学生作成の BIMソフトのオリジナルマニュアル 外部講師による実施設計向け BIM講習会

図9 BIMソフト活用に関するスキルアップ活動

③ 環境シミュレーション交流会

環境シミュレーションチーム、建築家、計画・意匠チームの三者間で、情報交換やコラボレーション

を継続的に実施した。2014年 5月の第 1回で、杉本研究室の学生から流体解析ソフトによる風環境の解

析方法が提示されたことを機に、計画・意匠チームとのコラボレーションを開始した。その後、定期的

に環境シミュレーション交流会を実施する中で、外部講師招致による先進的な環境設計技術の講演や意

見交換も実施した(図10左)。コラボレーションの進展に伴い、建物周囲や開口部を通した室内外での

風の流れが可視化され、設計案検討の材料としていった(図10中)。また、円井研究室の学生による、

緑地がもたらす冷気流の特性や暑熱緩和に関する解析結果に基づいて、外溝計画における樹木や芝生の

設置検討を進めた(図10右)。

環境シミュレーション交流会 杉本研による建物内外の流速分布解析 円井研による冷気流の気温分布の解析

図10 BIMプロジェクトにおける環境シミュレーション系の活動

題目

4.2 成果と分析

BIMソフトを活用して設計案検討を重ねていった結果、学生達や建築家の BIMソフト活用レベルは大

きく向上した。学生にとっては、建築家の指導による実物件の設計体験が BIMソフト活用を加速させ、

建築家にとっては、学生とのコラボレーションが BIMソフトの習得を比較的容易なものとした。また、

外部講師の講演と併せて地域の若手実務者とも交流することで、徐々に BIMに対する認知度も高まり、

今後の北陸地域での BIMコミュニティの形成が期待できる状況になりつつある。一方、風や熱などの環

境解析技術の活用により、デザイン系学生とエンジニアリング系学生がお互いの知識・技術を補完し合う

とともに、異分野間でのコラボレーションスキルを高める上で有効に作用した。また、建築家も交えな

がら各種の環境配慮技術や材料の扱いについて議論することで、ソフト上での解析に留まらない総合的

な計画検討のアプローチを学ぶことができた。

金沢工業大学大学院の建築学専攻では “計画・意匠分野、構造分野、環境分野の知識・技術の総合化”

を学習目標とする授業科目(建築計画設計統合特論Ⅰ・Ⅱ)が存在しており、本プロジェクトで得られ

た知見を応用することで、より客観性の高い環境配慮型建築の提案が可能になることも確認できた。

5.Toiroプロジェクト全体の状況と考察

(1)活動の独立性と組織としての一体性について

ここまで、学部 1年生から大学院生までの各フェーズの活動を紹介してきた。これらを概観すると、

各フェーズの活動内容が概ね独立していることが認められる。しかし、第 1フェーズの紹介でも述べた

通り、下級生は適宜先輩に相談して助言を受ける習慣が定常化しており、先輩側でも後輩の指導を有意

義な活動として認識している割合が高い(図7 Q4)。元来、建築系は先輩と後輩の縦の繋がりが強いが、

それ以上に、Toiroプロジェクトを立ち上げた学生達は縦の繋がりを重視してきた。また、本報では紹

介できなかった他のプロジェクトでは、フェーズの垣根を超え、2年生から大学院生までが共同で実施

しているものもある。そして、そこには必ず地域のステークホルダーとの有機的な関係性が築かれてい

る。このような特性は Toiroプロジェクトの大きな特徴であり、且つ教育資源(教員の数や指導時間)

の限界を補い、より豊かなラーニングコモンズの形成に寄与し得る1つのアプローチと考えられる(図

11)。

図11 Toiroプロジェクトの活動の枠組み

225建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

Page 10: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

題目

(2)活動の方向性について

Toiroプロジェクトの活動は、オブジェのデザイン、まちの調査と活性化、リノベーション、新築と

いった風に、活動のフィールドや作るものの性質・規模が様々である。とりわけ、都市班の活動内容は

“ものづくり”を前提とするプロジェクトにおいてはやや異色にも見える。しかし、その活動は、学生

達が作ったものや場所の利用を活性化したり、過去に作られた場所に再び活気を与えたり、新たなもの

を必要に応じて生み出すための状況作りをしたりするような、”ことづくり”活動であり、“ものづくり”

とは表裏一体のものと言える。2015年度の 3年生は、前年度の 3年生の活動を振り返った結果、設計班

と都市班という括りを取り払い、両者を融合したより総合的な活動形態へとシフトした。これにより、

“ものづくり”と“ことづくり”を適材適所で使い分け、プロジェクトの性質に応じた弾力的な活動が

可能になると考えられる。

(3)デジタルツール活用テーマの位置づけについて

近年、3次元プリンターやロボット制御など、各種 NC系ツール活用が建築のものづくりの世界にも新

たな変革をもたらしつつある。これまで Toiro プロジェクトでは CAD/BIM の活用を推奨する中で、3 次

元プリンターや 3次元切削機の活用も一部実施したものの、全体としては CAD/BIMとものづくり活動の

連携は不十分であった。このような状況の中、2014 年度末に 15 号館のプロジェクトスペースにレーザ

ーカッターが導入された。レーザーカッターは米国の建築教育現場では日常的な材料加工ツールとして

浸透しつつあり、さほど新しいツールとは言えないが、ものづくり技術の選択の幅を拡げ、CAD/BIM と

ものづくりの関係性を考えるきっかけとしては有用である。今後はレーザーカッターの活用は勿論、他

プロジェクトや地域との連携も含めた新しい加工技術の活用やそれに応じた材料利用等も視野に入れ、

付加価値の高いものづくり活動に取り組んでいきたい。

6.おわりに

本報では、Toiroプロジェクトの活動内容や特徴を整理し、その成果や意義、今後の課題等について

分析した。Toiroプロジェクトは活動を開始して 3年強が経過した段階であり、地域連携の教育研究プ

ログラムとして未発達な面が多い。一方で、学生のものづくりやことづくりに対するモチベーションは

かなり高く、先輩と後輩の関係、また、学生達と地域のステークホルダーとの関係も極めて良好な状態

である。この状況を維持しつつ、今後、より明確な教育研究プログラムとしての方向性を検討し、地域

にとって、学生にとって、また教職員にとって付加価値の高いものとしていきたい。

謝辞

Toiroプロジェクトの各種活動においては下記の方々に多大なご支援を頂きました。この場をお借り

して厚く御礼を申し上げます。松田尚子氏(野々市市情報交流館カメリア)、桝谷泰裕氏・押田克夫氏(野々

市市生涯学習課)、山岸敬広氏・村梶直人氏(山岸建築設計事務所)、吉村寿博氏(吉村寿博建築設計事

務所)、向田誠市氏・小松靖典氏・樫田彰久氏・岩井繁樹氏(野々市市地域住民)

参考文献

1)中川達心、下川雄一、「Build Liveコンペにおける実務クラスの BIM取り組み状況の分析」、第 35 回

情報・システム・利用・技術シンポジウム、pp.85-90、日本建築学会、2012.12

2)長谷川千紘、西村伸也、ほか 12名、「栃尾表町における住民と大学の協働による雁木づくり-地域

と大学の協働によるものづくりを介した持続的住環境形成の研究(その 1 )-」、日本建築学会大

会(北陸)学術講演梗概集、pp.1217-1218、2010.9

3)谷直樹、竹原義二、「いきている長屋 大阪市大モデルの構築」、大阪公立大学共同出版会、2013

226 建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

Page 11: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

題目

(2)活動の方向性について

Toiroプロジェクトの活動は、オブジェのデザイン、まちの調査と活性化、リノベーション、新築と

いった風に、活動のフィールドや作るものの性質・規模が様々である。とりわけ、都市班の活動内容は

“ものづくり”を前提とするプロジェクトにおいてはやや異色にも見える。しかし、その活動は、学生

達が作ったものや場所の利用を活性化したり、過去に作られた場所に再び活気を与えたり、新たなもの

を必要に応じて生み出すための状況作りをしたりするような、”ことづくり”活動であり、“ものづくり”

とは表裏一体のものと言える。2015年度の 3年生は、前年度の 3年生の活動を振り返った結果、設計班

と都市班という括りを取り払い、両者を融合したより総合的な活動形態へとシフトした。これにより、

“ものづくり”と“ことづくり”を適材適所で使い分け、プロジェクトの性質に応じた弾力的な活動が

可能になると考えられる。

(3)デジタルツール活用テーマの位置づけについて

近年、3次元プリンターやロボット制御など、各種 NC系ツール活用が建築のものづくりの世界にも新

たな変革をもたらしつつある。これまで Toiro プロジェクトでは CAD/BIM の活用を推奨する中で、3 次

元プリンターや 3次元切削機の活用も一部実施したものの、全体としては CAD/BIMとものづくり活動の

連携は不十分であった。このような状況の中、2014 年度末に 15 号館のプロジェクトスペースにレーザ

ーカッターが導入された。レーザーカッターは米国の建築教育現場では日常的な材料加工ツールとして

浸透しつつあり、さほど新しいツールとは言えないが、ものづくり技術の選択の幅を拡げ、CAD/BIM と

ものづくりの関係性を考えるきっかけとしては有用である。今後はレーザーカッターの活用は勿論、他

プロジェクトや地域との連携も含めた新しい加工技術の活用やそれに応じた材料利用等も視野に入れ、

付加価値の高いものづくり活動に取り組んでいきたい。

6.おわりに

本報では、Toiroプロジェクトの活動内容や特徴を整理し、その成果や意義、今後の課題等について

分析した。Toiroプロジェクトは活動を開始して 3年強が経過した段階であり、地域連携の教育研究プ

ログラムとして未発達な面が多い。一方で、学生のものづくりやことづくりに対するモチベーションは

かなり高く、先輩と後輩の関係、また、学生達と地域のステークホルダーとの関係も極めて良好な状態

である。この状況を維持しつつ、今後、より明確な教育研究プログラムとしての方向性を検討し、地域

にとって、学生にとって、また教職員にとって付加価値の高いものとしていきたい。

謝辞

Toiroプロジェクトの各種活動においては下記の方々に多大なご支援を頂きました。この場をお借り

して厚く御礼を申し上げます。松田尚子氏(野々市市情報交流館カメリア)、桝谷泰裕氏・押田克夫氏(野々

市市生涯学習課)、山岸敬広氏・村梶直人氏(山岸建築設計事務所)、吉村寿博氏(吉村寿博建築設計事

務所)、向田誠市氏・小松靖典氏・樫田彰久氏・岩井繁樹氏(野々市市地域住民)

参考文献

1)中川達心、下川雄一、「Build Liveコンペにおける実務クラスの BIM取り組み状況の分析」、第 35 回

情報・システム・利用・技術シンポジウム、pp.85-90、日本建築学会、2012.12

2)長谷川千紘、西村伸也、ほか 12名、「栃尾表町における住民と大学の協働による雁木づくり-地域

と大学の協働によるものづくりを介した持続的住環境形成の研究(その 1 )-」、日本建築学会大

会(北陸)学術講演梗概集、pp.1217-1218、2010.9

3)谷直樹、竹原義二、「いきている長屋 大阪市大モデルの構築」、大阪公立大学共同出版会、2013

題目

4)高橋潤、小林剛士、小林正美、「実践教育としてのまちづくりシャレットワークショップの研究 −

学生参加のシャレットワークショップを事例として−」、日本建築学会技術報告集第 16巻・第 33号、

pp.711-716、2010.6

5)畔柳昭雄、三木誠、「機能・用途から捉えた海の家の建築形態に関する研究 : 神奈川県の海水浴場

に設置された海の家を対象として」、日本建築学会計画系論文集(第73巻、第632号)、pp.2049-2055、

2008.10

6)畔柳昭雄、日本大学CST畔柳研究室、「アルミの海の家 2 ラ・プラージュ」、『新建築』2005年 11

月号(80(13))、pp.175-179

7)田村明弘、山本理顕、ほか 4名、「2010年日本建築学会教育賞(教育貢献) スタジオ教育を核とする

高度専門建築家養成プログラム」、『建築雑誌』2010 年 8 月号(Vol.125,No.1607)、日本建築学会、

p.73

8)糸長浩司、栗原伸治、藤沢直樹、「農・環境・建築融合によるキャンパス・エコビレッジのDIY 創

造実験」、日本建築学会大会(東北)学術講演梗概集、pp.425-426、2009.8

9)藤木瑛子、斎藤公男、岡田章、宮里直也、「創造性を育む体験的建築教育-空間と構造を結ぶものづ

くり教育の試み-」、日本建築学会大会(九州)学術講演梗概集、pp.609-610、2007.8

10)斎藤公男、岡田章、「習志野ドーム-手作り建築による空間デザインと構造技術の体験的教育-」 、

工学教育 Vol.50 no3、pp.57-63、日本工学教育協会、2002.5

11)浦江真人、「2008 年日本建築学会教育賞(教育貢献)ロールプレーイングによる建築プロジェク

トマネジメント実習」、『建築雑誌』2008年 8月号(Vol.123,No.1579)、日本建築学会、p.75

12)大西康伸、両角光男、「3DCAD及び解析ソフトを活用した包括的建築教育プログラムの開発と評価」、

日本建築学会計画系論文集(第 76巻、第 665号)、pp.1337-1345、2011.7

13)「BUILD LIVE TOKYO 2009 Collection」および、それ以降の各年の BUILD LIVE作品集

[受理 平成 27 年 3 月 28 日]

下川雄一 准教授・博士(工学) 環境・建築学部 建築系 建築デザイン学科 建築計画、建築情報システム

杉本康弘 准教授・博士(工学) 工学部 機械系 機械工学科 流体工学,混相流

227建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

Page 12: 建築を軸としたPBL型地域連携・異分野連携ものづくり 教育 …kitir.kanazawa-it.ac.jp/infolib/cont/01/G0000002repository/000/000/000000083.pdf教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-

題目

円井基史 准教授・博士(工学) 環境・建築学部 建築系 建築学科 建築環境工学 都市熱環境

須田達 講師・博士(工学) 環境・建築学部 建築系 建築学科 建築構法 耐震工学

竹内諭 職員 産学連携機構 産学連携推進部 連携推進室

228 建築を軸とした PBL 型地域連携・異分野連携ものづくり教育研究プログラム-Toiroプロジェクトの実践と考察-