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Symbiotic Housing no.40 Symbiotic Housing no.40 Symbiotic Housing no.40 平成24 年度第2 回見学会は、東京ガスの『集合住宅版スマー トハウス実証試験棟(東京ガス社宅エスペランサ磯子A棟)』 (以下、「磯子スマートハウス」)を見学した。磯子スマート ハウスは、経済産業省が全国 4 地域で推進する「次世代エ ネルギー・社会システム実証事業」の一つである「横浜市 スマートシティプロジェクト」の一環として、集合住宅版 スマートハウス実証試験を目的として建設された集合住宅。 (開催日:平成 24 年 7 月 13 日(金) (1回目)、10月29日(月) (2回目) 参加者数:33名) 磯子スマートハウスの概要 戸建住宅についてはスマートハウスが既に販売され拡がりをみせ ているが、集合住宅においては幅広い普及までには至っていない。 このため東京ガスでは、横浜市磯子区に集合住宅版スマートハウ ス「磯子スマートハウス」を建設。 磯子スマートハウスでは、高断熱仕様の建物への再生可能エネル ギー設備の最大限設置と分散型エネルギーシステムの導入による 棟全体でのエネルギー融通、統合制御システム導入による高効率 な運用の実施、HEMS による住まい手の省エネ行動促進、という 3 つの取り組みが行われている。 これにより、一次エネルギー削減量の合計を現段階では最大で約 40%が期待されている。今後はさらに 0 エネルギーに近づけるた めの検討を進めていくということである。 省エネと快適性の両立を目指すパッシブ設計 建物の配置は、既存の丘陵地を利用し、南面15 度に建物を配置し、 自然の風や光を積極的に取り入れるようになっている。南北には 大きな緑地を配置。また階段を住戸間に設置することにより、風 の通り道としている。このような緑化や通風への配慮により、夏 場の温度上昇を抑え空調エネルギー負荷を削減している。この緑 地への散水は雨水を利用している。 ①風が吹き抜ける階段室。外壁 には一部、孔開きレンガによる 日よけがあり、日射と通風を促 す。②室内にも風が通るよう間取 りや建具へ工夫が施されている。 ③太陽熱利用ガス温水システム SOLAMO( バルコニー)④家族の 成長に合わせた可変性の高い室内 空間の提案も行われている。⑤前 庭にはビオトープ池の他にも積極 的な緑化が行われている。⑥屋上 からの眺め。周辺には丘陵地の緑 豊かな環境が残されている。 磯子スマートハウス 平成 24 年度第2回 環境共生住宅見学会レポート ISOGO Smart House 基本データ 用途:共同住宅(社宅) 敷地面積:3,345.32㎡ 建築面積:1,136.00㎡ 延床面積:約 3,400㎡ 竣工年:2012 年 3 月 設計:(株)NTTファシ リティーズ 施工: (株)銭高組 構造・規模:RC 造 地下 1 階地上 4 階、塔屋 1 階 磯子スマートハウスに関するお問合せ 東京ガス(株)  http://www.tokyo-gas.co.jp/Press/20120314-02.html 建物の断熱は外断熱を採用。窓の Low ‐ E ペアガラスの採用と合 わせ、断熱性能は省エネルギー対策等級 4 超となっている。 1、2 階はメゾネットプランとし、採光と通風に配慮している。各 住戸の南北面には通風専用窓を設置し、夜間等の通風にも配慮し ている。 こうしたパッシブ設計については、小玉祐一郎教授(神戸芸工大) にアドバイスをいただいたということである。見学会当日は比較 的暑い日であったが、これらの工夫により、室内外とも風が吹き 抜け心地よさを感じることができた。 再生可能エネルギー設備の最大限設置 建物の屋上には太陽光発電パネルと太陽熱利用ガス温水システム SOLAMO(シェアルーフ)10㎡が設置されている。太陽光発電パ ネルは、当該地区が風致地区で 15m の高さ制限を受けるため、傾 斜角が 20 度に押さえられ、パラペットの高さ以内に納められてい た。 一部の住戸にはバルコニーに収まるタイプのSOLAMO(バルコ ニー)が設置されている。また家庭用燃料電池エネファーム(戸 建用を活用)が 4 住戸に対して 2 台、合計 10 台設置されている。 エネルギー融通と統合制御 エネルギーの融通 電気については、エネファーム(7.5kW)と屋上の太陽光発電パネ ル(25kW)で作られた電気を合わせ、共用部、各住戸の棟全体で 融通されている。余った電機は地下に設置した蓄電池や電気自動 車の急速充電器に充電される。3.11 東日本大震災発生以降、2011 年夏の電力不足に対する 15%削減目標に対し、磯子スマートハウ スでは、蓄電池とエネファームが連携することにより、15%以上 の電気のピークカットが可能ということである。 熱(お湯)については、エネファームが発電する際に発生する排 熱を利用。2 台のエネファームで作られるお湯は 4 住戸で分け合い、 計 20 戸に供給される。残り 4 住戸のうち 3 住戸には、屋上に設置 した SOLAMO(シェアルーフ)で作られるお湯が融通される。残 り 1 住戸にはバルコニーに設置した SOLAMO(バルコニー)のお 湯が供給される。 統合制御システムの導入 これらの設備を効率よく運用させるために、磯子スマートハウス では統合制御システムが導入され、集合住宅全体のエネルギー需 要と供給のバランスを見ながら効率よくエネファームを運転させ、 無駄の無いエネルギー利用ができるように管理されている。また、 地域のエネルギー供給安定化に貢献するため、地域エネルギーマ ネジメントシステム(SEMS)との連携も行うとのこと。さらには、 災害時に停電が発生した際、蓄電池とエネファームを利用して共 用部と各住戸に電気を供給するようになっている。 HEMS による住まい手の省エネ行動促進 エネルギー使用量の削減を効果的に行うためには住まい手の協力 も不可欠となる。そのため、iPad 等のタブレット端末で現在や過 去の集合住宅全体や各住戸の総エネルギー量、エネルギー消費量 や棟内のエネルギー使用ランキング等の “ 見える化 ” を実施。 またお湯や電気の使い時をお知らせし、余裕のある時間帯にお風 呂のお湯張りや家事の予約をした住まい手にポイントを付与する などのインセンティブも設定されている。 さらにタブレット端末には部屋の照明や電気製品の ONOFF ができ る便利な機能も搭載されており、省エネ行動が手軽に実行できる ようになっている。 東京ガスでは磯子スマートハウスで実用的なゼロエネルギー住宅 の費用対効果を検証し、さらに今後取り組みが必要な課題の整理 を行い、国や行政の動向を見据えながらゼロエネルギー住宅を目 指し検討を進めていく予定とのことである。 戸建住宅で先行しがちな「スマート」であるが、磯子スマートハ ウスは、創った電気エネルギー・熱エネルギーをどのように融通 するかという集合住宅ならではの課題に取り組みながら、さらに パッシブ的な配慮がなされた建物やその周辺環境、室内の空間提 案など質の高い快適性の確保にも取り組んだ、これからの集合住 宅の一つのあり方を提示していることを実感することができた。 環境共生住宅的技術要素 • 省エネルギー    資源の高度有効利用: • 地域適合・環境親和: • 健康快適・安全安心: 太陽光発電と家庭用燃料電池エネファー ムによるダブル発電、太陽熱利用ガス温 水システム、蓄電池、HEMS、高断熱・ 高気密仕様(外断熱 Low‐Eペアガラス) クリックストップ感のあるエコシングル 水栓 丘陵地を活かした建物配置(南面 15 度 配置)風の通り道の確保(メゾネット プラン(1、2 階)、( 通気専用窓)、フル ハイト建具・フルフラット天井による熱 だまり防止、周辺緑化(わたしの森プロ ジェクト) 非常時における電力供給システム 16 15

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Symbiotic Housing no.40 Symbiotic Housing no.40Symbiotic Housing no.40 Symbiotic Housing no.40

平成 24 年度第 2 回見学会は、東京ガスの『集合住宅版スマー

トハウス実証試験棟(東京ガス社宅エスペランサ磯子A棟)』

(以下、「磯子スマートハウス」)を見学した。磯子スマート

ハウスは、経済産業省が全国 4 地域で推進する「次世代エ

ネルギー・社会システム実証事業」の一つである「横浜市

スマートシティプロジェクト」の一環として、集合住宅版

スマートハウス実証試験を目的として建設された集合住宅。

(開催日:平成 24 年 7 月 13 日(金)(1 回目)、10 月 29 日(月)

(2 回目) 参加者数:33 名)

磯子スマートハウスの概要戸建住宅についてはスマートハウスが既に販売され拡がりをみせているが、集合住宅においては幅広い普及までには至っていない。このため東京ガスでは、横浜市磯子区に集合住宅版スマートハウス「磯子スマートハウス」を建設。磯子スマートハウスでは、高断熱仕様の建物への再生可能エネルギー設備の最大限設置と分散型エネルギーシステムの導入による棟全体でのエネルギー融通、統合制御システム導入による高効率な運用の実施、HEMS による住まい手の省エネ行動促進、という 3つの取り組みが行われている。これにより、一次エネルギー削減量の合計を現段階では最大で約40%が期待されている。今後はさらに 0 エネルギーに近づけるための検討を進めていくということである。

省エネと快適性の両立を目指すパッシブ設計建物の配置は、既存の丘陵地を利用し、南面 15 度に建物を配置し、自然の風や光を積極的に取り入れるようになっている。南北には大きな緑地を配置。また階段を住戸間に設置することにより、風の通り道としている。このような緑化や通風への配慮により、夏場の温度上昇を抑え空調エネルギー負荷を削減している。この緑地への散水は雨水を利用している。

①風が吹き抜ける階段室。外壁

には一部、孔開きレンガによる

日よけがあり、日射と通風を促

す。②室内にも風が通るよう間取

りや建具へ工夫が施されている。

③太陽熱利用ガス温水システム

SOLAMO( バルコニー)④家族の

成長に合わせた可変性の高い室内

空間の提案も行われている。⑤前

庭にはビオトープ池の他にも積極

的な緑化が行われている。⑥屋上

からの眺め。周辺には丘陵地の緑

豊かな環境が残されている。

磯子スマートハウス平成 24 年度第2回 環境共生住宅見学会レポート

ISOGO Smart House

■ 基本データ用途:共同住宅(社宅)敷地面積:3,345.32㎡建築面積:1,136.00㎡延床面積:約 3,400㎡竣工年:2012 年 3 月設計:(株)NTT ファシリティーズ施工: (株)銭高組構造・規模:RC 造 地下 1 階地上 4 階、塔屋 1 階

■磯子スマートハウスに関するお問合せ東京ガス(株) http://www.tokyo-gas.co.jp/Press/20120314-02.html① ② ③ ④ ⑤

建物の断熱は外断熱を採用。窓の Low ‐ E ペアガラスの採用と合わせ、断熱性能は省エネルギー対策等級 4 超となっている。1、2 階はメゾネットプランとし、採光と通風に配慮している。各住戸の南北面には通風専用窓を設置し、夜間等の通風にも配慮している。こうしたパッシブ設計については、小玉祐一郎教授(神戸芸工大)にアドバイスをいただいたということである。見学会当日は比較的暑い日であったが、これらの工夫により、室内外とも風が吹き抜け心地よさを感じることができた。

再生可能エネルギー設備の最大限設置建物の屋上には太陽光発電パネルと太陽熱利用ガス温水システムSOLAMO(シェアルーフ)10㎡が設置されている。太陽光発電パネルは、当該地区が風致地区で 15m の高さ制限を受けるため、傾斜角が 20 度に押さえられ、パラペットの高さ以内に納められていた。一部の住戸にはバルコニーに収まるタイプの SOLAMO(バルコニー)が設置されている。また家庭用燃料電池エネファーム(戸建用を活用)が 4 住戸に対して 2 台、合計 10 台設置されている。

エネルギー融通と統合制御

■エネルギーの融通電気については、エネファーム(7.5kW)と屋上の太陽光発電パネル(25kW)で作られた電気を合わせ、共用部、各住戸の棟全体で融通されている。余った電機は地下に設置した蓄電池や電気自動車の急速充電器に充電される。3.11 東日本大震災発生以降、2011年夏の電力不足に対する 15%削減目標に対し、磯子スマートハウスでは、蓄電池とエネファームが連携することにより、15%以上の電気のピークカットが可能ということである。熱(お湯)については、エネファームが発電する際に発生する排熱を利用。2 台のエネファームで作られるお湯は 4 住戸で分け合い、計 20 戸に供給される。残り 4 住戸のうち 3 住戸には、屋上に設置した SOLAMO(シェアルーフ)で作られるお湯が融通される。残り 1 住戸にはバルコニーに設置した SOLAMO(バルコニー)のお湯が供給される。

■統合制御システムの導入これらの設備を効率よく運用させるために、磯子スマートハウスでは統合制御システムが導入され、集合住宅全体のエネルギー需要と供給のバランスを見ながら効率よくエネファームを運転させ、無駄の無いエネルギー利用ができるように管理されている。また、地域のエネルギー供給安定化に貢献するため、地域エネルギーマネジメントシステム(SEMS)との連携も行うとのこと。さらには、災害時に停電が発生した際、蓄電池とエネファームを利用して共用部と各住戸に電気を供給するようになっている。

HEMS による住まい手の省エネ行動促進エネルギー使用量の削減を効果的に行うためには住まい手の協力も不可欠となる。そのため、iPad 等のタブレット端末で現在や過去の集合住宅全体や各住戸の総エネルギー量、エネルギー消費量や棟内のエネルギー使用ランキング等の “ 見える化 ” を実施。またお湯や電気の使い時をお知らせし、余裕のある時間帯にお風

呂のお湯張りや家事の予約をした住まい手にポイントを付与するなどのインセンティブも設定されている。さらにタブレット端末には部屋の照明や電気製品の ONOFF ができる便利な機能も搭載されており、省エネ行動が手軽に実行できるようになっている。東京ガスでは磯子スマートハウスで実用的なゼロエネルギー住宅の費用対効果を検証し、さらに今後取り組みが必要な課題の整理を行い、国や行政の動向を見据えながらゼロエネルギー住宅を目指し検討を進めていく予定とのことである。戸建住宅で先行しがちな「スマート」であるが、磯子スマートハウスは、創った電気エネルギー・熱エネルギーをどのように融通するかという集合住宅ならではの課題に取り組みながら、さらにパッシブ的な配慮がなされた建物やその周辺環境、室内の空間提案など質の高い快適性の確保にも取り組んだ、これからの集合住宅の一つのあり方を提示していることを実感することができた。

■ 環境共生住宅的技術要素• 省エネルギー    :

• 資源の高度有効利用 :

• 地域適合・環境親和:

• 健康快適・安全安心:

太陽光発電と家庭用燃料電池エネファームによるダブル発電、太陽熱利用ガス温水システム、蓄電池、HEMS、高断熱・高気密仕様(外断熱 Low‐E ペアガラス)クリックストップ感のあるエコシングル水栓丘陵地を活かした建物配置(南面 15 度に 配置)風の通り道の確保(メゾネットプラン(1、2 階)、( 通気専用窓)、フルハイト建具・フルフラット天井による熱だまり防止、周辺緑化(わたしの森プロジェクト)非常時における電力供給システム

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