Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
X線分析の進歩 第38集(2007)抜刷
Copyright ©The Discussion Group of X-Ray Analysis,The Japan Society for Analytical Chemistry
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線 Lα:Lβ強度比の変化要因
塩井亮介,佐々木宣治,衣川吾郎,河合 潤
Changing Factors of Fluorescence X-Ray Lα:LβIntensity Ratios of Bismuth, Lead, and Tin
Ryosuke SHIOI, Nobuharu SASAKI, Goro KINUGAWA and Jun KAWAI
X線分析の進歩 38 205
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線Lα:Lβ強度比の変化要因
Adv. X-Ray. Chem. Anal., Japan 38, pp.205-214 (2007)
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線 Lα:Lβ強度比の変化要因
塩井亮介,佐々木宣治,衣川吾郎,河合 潤
Changing Factors of Fluorescence X-Ray Lα:Lβ IntensityRatios of Bismuth, Lead, and Tin
Ryosuke SHIOI, Nobuharu SASAKI, Goro KINUGAWA and Jun KAWAI
Department of Materials Science and Engineering
Kyoto University, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan
(Received 1 December 2006, Accepted 15 December 2006)
Dependencies of Lα:Lβ intensity ratios of bismuth, lead, and tin on accelerationvoltage, materials of primary X-ray filter, compounds, and concentration wereexamined with an energy dispersive X-ray spectrometer (EDX). Changing theacceleration voltage, Lα:Lβ intensity ratio of Bi changed from about 3:1 at 15 kV to1:1 at 50 kV. The rate of change became smaller, as acceleration voltage becamehigher. Similar result was obtained for Pb. The Lα:Lβ intensity ratio variation of Snwas smaller than those of Bi or Pb, and changed from 5:4 at 15 kV to 1:1 at 50 kV.Using a primary X-ray filter, the Lα:Lβ intensity ratio of Bi also changed. The valueof Lβ/Lα of Bi of solution sample (low concentration) was larger than that of powdersample (high concentration). As the acceleration voltage increased, variationbecame smaller and within the statistical error of the measurement when theacceleration voltage reached 50 kV. The Lα:Lβ intensity ratios of Bi, Pb, and Sn werechanged due to chemical state, but a rule of change was not clear, and the deviationwas within the statistical error of measurement.
[Key words] X-ray fluorescence, Intensity ratio, Acceleration voltage, PrimaryX-ray filter, Concentration
エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いてBi,Pb,SnのLα:Lβ強度比の加速電圧,
1次X線フィルターの材質,結合元素,化学状態,濃度に対する依存性を調べた.加速電圧を変
化させることによりBiのLα:Lβ強度比がおよそ 3:1(15 kV)から 1:1(50 kV)へと変化し,そ
の変化率は加速電圧が高くなるほど小さかった.PbについてもBiと同様の結果が得られた.Sn
京都大学大学院工学研究科材料工学専攻 京都市左京区吉田本町 〒606-8501
206 X線分析の進歩 38
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線Lα:Lβ強度比の変化要因
の Lα:Lβ強度比の加速電圧による変化量はBi,Pbと比べると小さく,およそ 5:4(15 kV)か
ら1:1(50 kV)へと変化した.1次X線フィルターを使用するとBiのLα:Lβ強度比が変化した.
また,水溶液の試料(低濃度)のBiのLβ/Lαの値は粉末試料(高濃度)のものよりも大きくなっ
たが,加速電圧が高くなるにつれ,その変化量は小さくなり,加速電圧 50 kVでは測定誤差の
範囲内に収まるほど小さかった.結合元素や化学状態によりBi,Pb,SnのLα:Lβ強度比が変化
することがあったが,その傾向に規則性は見出せなかった.また,その変化量は,測定誤差の
範囲内に収まるほど小さかった.
[キーワード] 蛍光X線,強度比,加速電圧,1次X線フィルター,濃度
1. 緒 言
蛍光X線分析は様々な状態の試料を前処理無し,非破壊で簡便に定量分析ができる
分析方法として盛んに利用されている.蛍光X線分析による定量分析は構成元素の蛍
光X線ピークの強度を基にして行うが,定量分析に用いる蛍光X線ピークが他の元素
の蛍光X線ピークと重なることがある.例えば,ビスマスのLα線ピーク(10.84 keV)
とクロムのKα + Kαサムピーク(10.83 keV),鉛の Lα線ピーク(10.55 keV)とヒ素
のKα線ピーク(10.54 keV),鉛のLβ線ピーク(12.61 keV)と鉄のKα + Kαサムピー
ク(12.81 keV)といった,環境分析に重要な元素とありふれた元素の蛍光X線ピー
クとが重なる.このような場合,重なりのなさそうな別の蛍光X線ピークとの相対強
度を用いてピーク分離することでそれぞれの強度を求める.よってこれらの元素が共
存するような試料の定量分析を行うためには蛍光X線ピークの強度比およびその変化
要因を正確に知る必要がある.
一方,蛍光X線ピークの強度比は加速電圧などの諸条件によって変化する.酸化数
や濃度によって変わることは知られている1-4)が,本研究では市販のエネルギー分散型
蛍光X線装置(島津製作所 EDX-800)を用いてBi,Pb,Snの Lα:Lβ強度比の加速電
圧,1次X線フィルターの材質,結合元素,化学状態,濃度に対する依存性を調べた.
2. 実 験
エネルギー分散型蛍光X線装置(島津製作所 EDX-800)を用いて市販の
(1)Bi(粒状), Bi(NO3)3・5H2O,BiNaO3(以上,粉末状)とBi(NO3)3水溶液(Bi濃度
1000 ppm),
(2)Pb,Pb(NO3)2,PbO2(以上,粉末状),
(3)Sn,SnO,SnO2(以上,粉末状),
X線分析の進歩 38 207
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線Lα:Lβ強度比の変化要因
の蛍光X線スペクトルを測定した.X線管のターゲットはRh,検出器はSi(Li)半導体
検出器(SSD)で,検出面積は 10 mm2である.試料は内径 25 mmの粉体・液体試料
分析用セル(6 µm厚マイラー膜)に入れて大気中で測定した.管電流は 20 µA,測
定時間は 100秒に固定し,加速電圧と 1次X線フィルターの材質を変えて測定した.
測定回数はBiのフィルター無しでは5回,その他は各条件3回ずつとし,平均と標準
偏差を求めた.ピークの強度は面積強度ではなく最高点のカウントを用いた.
3. 結果と考察
3.1 ビスマス
3.1.1 加速電圧
金属Bi及びBi化合物についてはX線管の加速電圧 15,20,25,30,40,50 kVで
測定した.
Fig.1はX線管の加速電圧を変化させて測定した金属Biの蛍光X線スペクトルであ
る.縦軸は Lα(Lα1 + Lα2)線ピークの最大値で規格化してある.加速電圧が大き
くなるにつれて,Lα線ピークに対する Lβ(Lβ1 + Lβ2)線ピークの大きさが大きく
なってくる.Lα線ピーク強度に対する Lβ線ピーク強度の比 Lβ/Lαの値を加速電圧
に対してプロットするとFig.2のようになる.エラー・バーは標準偏差の大きさを表
す.Lβ/Lαの値は 0.32(加速電圧 15 kV)から 0.97(同 50 kV)まで変化し,加速電
圧の小さい領域ほどその変化率が大きくなっていることがわかる.
Lα1線,Lα2線,Lβ1線,Lβ2線はそれぞれL3-M5,L3-M4,L2-M4,L3-N5の空孔遷移
によって発生する.すなわち,Lα1線,Lα2線,Lβ2線の発生にはL3殻電子,Lβ1線の
発生にはL2殻電子の励起が必要となる.電子の励起に関与するのは,吸収端以上のエ
10 11 12 13 14
Inte
nsity
Energy / keV
15 kV
25 kV
Bi Lβ
50 kV
Bi Lα
Fig.1 XRF spectra of Bi (normalized with respect to the Bi Lα peak maximum).
208 X線分析の進歩 38
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線Lα:Lβ強度比の変化要因
ネルギーを持つX線であり,Biの L3吸収端と L2吸収端は Table 1に示すとおりであ
る.X線管から入射する連続X線のスペクトルの概形は Fig.3のようになり,L3殻電
子の励起には領域 IのX線,L2殻電子の励起には領域 IIのX線だけが関与する.この
ようにL3殻電子と L2殻電子の励起効率の加速電圧依存性が異なることによって Fig.2
のような結果になると考えられる.また,X線管のターゲットであるRhのK吸収端が
10 20 30 40 500.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Inte
nsity
ratio
(Lβ
/ Lα
)
Acceleration voltage / kVFig.2 Intensity ratio (Lβ/Lα) of Bi vs. acceleration voltage.
Ⅰ
Ⅱ
L2ab
L3ab
0
Inte
nsity
EnergyE
max
Fig.3 Profile of incident continuous X-ray spectrum (Emax coinsides with acceleration voltage).
Element L3 absorption edge L2 absorption edge
Bi 13.42 keV 15.71 keV
Pb 13.04 15.20
Sn 3.93 4.16
Table 1 Absorption edges of Bi, Pb, and Sn 5).
X線分析の進歩 38 209
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線Lα:Lβ強度比の変化要因
23.22 keVであるので,加速電圧が23.22 kVを超えると入射X線にRhの特性Kα線(20.17
keV)が加わり,全体的な電子の励起効率が高くなることも影響していると思われる.
3.1.2 1次X線フィルター
1次X線フィルター(以下,フィルター)の有無,材質を変えて金属Biの蛍光X線
スペクトルを測定し,Lα:Lβ強度比に及ぼす影響を調べた.使用したフィルターは装
置の規定のもので,材質はポリマー(成分元素:C,H,O),Al,Ti,Ni,Zrである.
フィルター元素のK吸収端をTable 2に示す.Fig.4にフィルターを変えたときのLα:Lβ
強度比の加速電圧依存性をフィルター無しの場合と比較して示す.ポリマー,Al,Ti
フィルターではフィルター無しの場合とほぼ一致する結果が得られたが,Ni,Zrフィ
ルターを使用した場合は Lα:Lβ強度比の加速電圧依存性に変化が見られる.
フィルター元素の吸収端の高エネルギー側ではX線のエネルギーが吸収端に近いほ
Element K absorption edge
C
H
O
Al
Ti
Ni
Zr
0.28 keV
0.01
0.53
1.56
4.97
8.33
18.00
Table 2 K absorption edges of filter elements 5).
Fig.4 Intensity ratios (Lβ/Lα) of Bi with filters vs. acceleration voltage.
20 400.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Without filter Al filter Polymer filter
Ti filter
Zr filter
Inte
nsity
ratio
(Lβ/
L α)
Acceleration voltage / kV
Ni filter
210 X線分析の進歩 38
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線Lα:Lβ強度比の変化要因
ど吸収係数が大きい.Niフィルターの使用によってLβ/Lαの値が大きくなるのは,Ni
のK吸収端(8.33 keV)の影響によってBiの L2殻電子(L2吸収端:15.71 keV)より
も L3殻電子(L3吸収端:13.42 keV)の励起効率の下がり方がより大きくなるためだ
と考えられる.Zrフィルターによる加速電圧依存性の変化は,X線管から発生するRh
のKα特性X線(20.17 keV)が Zrフィルター(K吸収端:18.00 keV)によって吸収
され,入射X線のスペクトルが大きく変わることが影響していると思われる.
3.1.3 結合元素,化学状態
種々のBi化合物の蛍光X線スペクトルを測定することにより,結合元素や化学状
態がLα:Lβ強度比に及ぼす影響を調べた.Fig.5はBi(NO3)3・5H2O,BiNaO3のLα:Lβ強
度比の加速電圧依存性の金属 Biとの比較である.Biの酸化数は金属 Bi,Bi(NO3)3・
5H2O,BiNaO3でそれぞれ 0,+3,+5である.元素の吸収端は酸化数によって変化す
るが,今回の実験ではLβ/Lαの値の変化は測定誤差内で一致するほど小さく,Lα:Lβ
強度比への影響に規則性は見出せなかった.
3.1.4 濃度
Bi(NO3)3・5H2O(粉末状)とBi(NO3)3を成分とするBiの1000 ppm水溶液とについて
Lα:Lβ強度比を比較することで濃度による影響を調べた.Fig.6がその結果である(水
溶液については加速電圧15 kVではLα線とLβ線のピークの検出はできなかった).加
速電圧が高くなるにつれてLβ/Lαの値が大きくなっていく点は粉末試料の場合と同じ
であるが,水溶液では粉末試料に比べてLβ/Lαの値が大きくなる傾向がある.原因と
20 400.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Bi Bi(NO
3)
3・5H
2O
BiNaO3
Inte
nsity
ratio
(Lβ
/ Lα
)
Acceleration voltage / kVFig.5 Intensity ratios (Lβ/Lα) of Bi compounds vs. acceleration voltage.
X線分析の進歩 38 211
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線Lα:Lβ強度比の変化要因
しては濃度の変化によって自己吸収の起こる確率が変化したことが考えられるが確認
はできていない.ほかに,管電流と測定時間を固定しているため,水溶液の試料では
粉末試料に比べて蛍光X線の絶対強度が小さく,バックグラウンドの影響がより大き
く出た可能性が考えられる.また,加速電圧 50 kVでは粉末試料と液体試料のLβ/Lα
の値の差は測定誤差内に収まった.
3.2 鉛
金属 Pb及び Pb化合物についてはX線管の加速電圧 15,20,25,30,35,40,45,
50 kVで測定した.Fig.7はX線管の加速電圧を変化させて測定した金属 Pbの蛍光X
線スペクトルである.Biと同様に加速電圧が大きくなるにつれて,Lα線ピークに対
20 400.2
0.4
0.6
0.8
1.0Bi(NO
3)
3 (Bi 1000 ppm)
Inte
nsity
ratio
(Lβ
/ Lα
)
Acceleration voltage / kV
Bi(NO3)
3・5H
2O (powder)
Fig.6 Intensity ratios (Lβ/Lα) of powder sample and solution sample vs. acceleration voltage.
10 11 12 13 14 Energy / keV
Inte
nsity
50 kV
25 kV
15 kV
Pb Lα Pb Lβ
Fig.7 XRF spectra of Pb (normalized with respect to the Pb Lα peak maximum).
212 X線分析の進歩 38
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線Lα:Lβ強度比の変化要因
するLβ線ピークの大きさが大きくなっている.Fig.8のLβ/Lαの値の加速電圧依存性
もBiのものとよく似ている.これはTable 1に示すようにPbとBiのL3吸収端とL2吸
収端のエネルギーが近いためだと考えられる.また,Fig.9のように結合元素や化学状
態が変わってもLα:Lβ強度比の加速電圧依存性はほぼ一致した.Pbにおいては全体的
にBiと同様の挙動を示した.
3.3 スズ
金属 Sn及び Sn化合物についてはX線管の加速電圧 15,20,25,30,35,40,45,
50 kVで測定した.Fig.10はX線管の加速電圧を変化させて測定した金属Snの蛍光X
10 20 30 40 500.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Pb Bi
Inte
nsity
ratio
(Lβ
/ Lα
)
Acceleration voltage / kVFig.8 Intensity ratios (Lβ/Lα) of Pb and Bi vs. acceleration voltage.
10 20 30 40 500.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Pb Pb(NO
3)
2
PbO2
Inte
nsity
ratio
(Lβ
/ Lα
)
Acceleration voltage / kVFig.9 Intensity ratios (Lβ/Lα) of Pb compounds vs. acceleration voltage.
X線分析の進歩 38 213
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線Lα:Lβ強度比の変化要因
線スペクトルである.Snの蛍光X線スペクトルではLβ1ピークとLβ2ピークが別々に
検出できたが,Bi,Pbと条件をそろえるためLβ1ピーク強度とLβ2ピーク強度を足し
合わせたものをLβピーク強度とした.Bi,Pbとは違い,加速電圧が変わってもLα:Lβ
強度比はあまり変化していない.Fig.11に示すように Lβ/Lαの値は約 0.8から 1の間
で推移し,加速電圧依存性はBi,Pbのものと比べると変化に乏しい.これは SnのL3
吸収端(3.93 keV)と L2吸収端(4.16 keV)がBiや Pbのものに比べて低く,測定し
た加速電圧領域ではL3殻電子とL2殻電子の励起効率があまり変化しないためだと思
われる.また,結合元素,化学状態による変化はBiやPbと同様に測定誤差内に収まっ
た.金属 Sn及び Sn化合物では加速電圧 25 kVから 30 kVの間に極小が見られるが,
10 20 30 40 500.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Sn SnO SnO
2
Bi
Inte
nsity
ratio
(Lβ
/ Lα
)
Acceleration voltage / kVFig.11 Intensity ratios (Lβ /Lα) of Sn compounds and Bi vs. acceleration voltage.
3.2 3.4 3.6 3.8 4.0 4.2 Energy / keV
Sn Lβ1
Inte
nsity
Sn LαSn Lβ
2
50 kV
25 kV
15 kV
Fig.10 XRF spectra of Sn (normalized with respect to the Sn Lα peak maximum).
214 X線分析の進歩 38
ビスマス,鉛,スズの蛍光X線Lα:Lβ強度比の変化要因
この理由は分からない.
4. 結 言
エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いてBi,Pb,Snの Lα:Lβ強度比
の加速電圧,1次X線フィルターの材質,結合元素,化学状態,濃度に対する依存性
を調べた.加速電圧を変化させることによりBiのLα:Lβ強度比がおよそ 3:1(15 kV)
から 1:1(50 kV)へと変化し,その変化率は加速電圧が低いほど大きかった.L3殻電
子とL2殻電子の励起確率の加速電圧依存性が異なることが原因であると思われる.Pb
についてもBiと同様の結果が得られた.Snの Lα:Lβ強度比の加速電圧による変化量
はBi,Pbと比べると小さく,およそ 5:4(15 kV)から 1:1(50 kV)へと変化した.1
次X線フィルターを使用するとBiのLα:Lβ強度比が変化した.入射X線スペクトル
の変化によって電子の励起効率が変化したためだと考えられる.また,水溶液の試料
(低濃度)のBiのLβ/Lαの値は粉末試料(高濃度)のものよりも大きくなったが,加
速電圧が高くなるにつれ,その変化量は小さくなり,加速電圧50 kVでは測定誤差の
範囲内に収まるほど小さかった.結合元素や化学状態によりBi,Pb,Snの Lα:Lβ強
度比が変化することがあったが,その傾向に規則性は見出せなかった.またその変化
量は,測定誤差の範囲内に収まるほど小さかった.
BiやPbと蛍光X線ピークが重なる元素との混合物を定量分析する際は,加速電圧
50 kVで測定を行うと,濃度や化学状態の変化の影響が無視出来るほど小さくなり,安
定した結果が得られることがわかった.
参考文献
1) J.Kawai, K.Nakajima, K.Maeda, Y.Gohshi: ‘L X-ray line shape of copper(II) compounds and their
covalency’, Adv. X-Ray Anal., 35, 1107-1114 (1992).
2) J.Kawai, K.Nakajima, Y.Gohshi:‘Copper Lβ/Lα X-ray emission intensity ratio of copper
compounds and alloys’, Spectrochim. Acta, 48B, 1281-1290 (1993).
3) 河合 潤:‘遷移金属の Lα,Lβスペクトルの化学結合効果’,X線分析の進歩,32,1-24
(2001).
4) J.Kawai:‘Intensity ratio of transition-metal Lα and Lβ lines’, The RIGAKU Journal, 18 (1), 31-
37 (2001).
5) 日本分析化学会編: 「改訂五版 , 分析化学便覧」, pp.737-742 (2001), (丸善).